IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ツール株式会社の特許一覧

特開2023-131644切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具
<>
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図1
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図2
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図3
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図4
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図5
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図6
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図7
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図8
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図9
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図10
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図11
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図12
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図13
  • 特開-切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131644
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20230914BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036522
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】永渕 憲二
(72)【発明者】
【氏名】小林 由幸
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK02
3C022KK26
3C022LL01
3C022LL02
(57)【要約】
【課題】本発明は、切削インサートのずれ動きを抑制するとともに強度不足を改善することができる、切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具を提供する。
【解決手段】本発明の切削インサートは、着座面と、すくい面と、逃げ面と、を備え、すくい面には、上記切刃に達して上記逃げ面に開口する凹溝状のニックが複数形成されるとともに、上記着座面には、上記逃げ面に開口するとともに上記逃げ面に対して向かい側となる側面に貫通する嵌合部が2つ形成されており、上記ニックの逃げ面側の開口部は、上記すくい面側からの透視図において、上記嵌合部の上記逃げ面側の開口部とは異なる位置に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付ねじによって工具本体の先端部に取り付けられる切削インサートであって、
上記切削インサートは、着座面と、すくい面と、逃げ面と、を備え、
上記取付ねじ用の取付孔が上記すくい面から上記逃げ面に貫通するように設けられ、
上記すくい面と逃げ面との交差稜線部には、上記すくい面に対向する方向から見た平面視において円弧状に延びる円弧状切刃部と、この円弧状切刃部に接するように延びる直線状切刃部と、をそれぞれ備えた2つの切刃が、上記円弧状切刃部と上記直線状切刃部とを上記すくい面の周方向に交互に位置させて形成されており、
上記すくい面には、上記切刃に達して上記逃げ面に開口する凹溝状のニックが複数形成されるとともに、
上記着座面には、上記逃げ面に開口するとともに上記逃げ面に対して向かい側となる側面に貫通する嵌合部が2つ形成されており、
上記ニックの逃げ面側の開口部は、上記すくい面側からの透視図において、上記嵌合部の上記逃げ面側の開口部とは異なる位置に配置されていることを特徴とする、
切削インサート。
【請求項2】
上記嵌合部は、上記嵌合部に研削面を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
上記切刃のうち一方は主切刃とされるとともに他方は副切刃とされ、
上記主切刃の上記円弧状切刃部は、上記副切刃の上記円弧状切刃部に対して等しい半径で周方向の長さが長く形成されていることを特徴とする、
請求項1または2に記載の切削インサート。
【請求項4】
上記ニックで分断された上記円弧状切刃部の長さは、全て異なることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項5】
工具回転軸の軸回りに回転する工具本体であって、
上記工具本体の先端部には、請求項1から3のいずれかに記載の上記切削インサートを取り付けるための取付座が設けられ、
上記取付座には、上記切削インサートの上記嵌合部と協働する凹部または凸部を2つ有することを特徴とする、
工具本体。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の切削インサートと、
請求項5に記載の工具本体と、を備え、
上記工具本体のインサート取付座に上記切削インサートの上記着座面を接触させて、上記工具本体に対して上記切削インサートが取り付けられていることを特徴とする、
刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート、工具本体、及び刃先交換式回転切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような刃先交換式ボールエンドミルについて、例えば特許文献1では切削インサートの着座面に溝部が形成され、切れ刃部にはニックが形成されている。さらに、逃げ面視において、逃げ面に開口したニックと、溝部の開口部との位置が、切削インサートの厚さ方向に重ならないことで、肉厚の確保と切削インサートのずれ動きを防止することが開示されている。
【0003】
また、特許文献2においても、切れ刃部にニックを備え、かつ底面に溝が形成された形状が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-127990公報
【特許文献2】特許第4771547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のボールエンドミルは、着座面に2つ設けられた溝部のうち一方の溝部のみを貫通溝とし、他方の溝部は非貫通溝とされている。
また、特許文献2に記載のボールエンドミルは、ニックの逃げ面への開口部と底面溝の逃げ面への開口部との位置が、逃げ面視において切削インサート厚さ方向に重なる箇所が存在する。つまり切削インサートの厚さ方向において、すくい面側の凹部(ニック)と着座面側の凹部(溝部)が重なってしまうことで肉厚が非常に薄い箇所が形成されている。
【0006】
本発明者の検討によると、特許文献1および特許文献2において、金型肉盛り材のような形状が大きく起伏する被削材を高能率加工する場合、軸方向への切込み量の変動と、走査線加工で軸方向に進む加工パスの影響によって、ニックの切削抵抗削減効果を超える負荷がかかることがわかった。その結果、切削インサートのずれ動きや切削インサートの強度が不足するおそれが生じる。
【0007】
したがって本発明は、このような背景の下になされたもので、工具本体に対するずれ動きの抑制と、強度不足改善を両立することができる切削インサートを提供する。加えて、このような切削インサートが着脱可能に取り付けられる工具本体、上記切削インサート及び上記工具本体を備える刃先交換式回転切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の切削インサートは、ねじによって工具本体の先端部に取り付けられる切削インサートであって、上記切削インサートは、着座面と、すくい面と、逃げ面と、を備え、上記取付ねじ用の取付孔が上記すくい面から上記逃げ面に貫通するように設けられ、上記すくい面と逃げ面との交差稜線部には、上記すくい面に対向する方向から見た平面視において円弧状に延びる円弧状切刃部と、この円弧状切刃部に接するように延びる直線状切刃部と、をそれぞれ備えた2つの切刃が、上記円弧状切刃部と上記直線状切刃部とを上記すくい面の周方向に交互に位置させて形成されており、上記すくい面には、上記切刃に達して上記逃げ面に開口する凹溝状のニックが複数形成されるとともに、上記着座面には、上記逃げ面に開口するとともに上記逃げ面に対して向かい側となる側面に貫通する嵌合部が2つ形成されており、上記ニックの逃げ面側の開口部は、上記すくい面側からの透視図において、上記嵌合部の上記逃げ面側の開口部とは異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0009】
このような構成の切削インサートおよび刃先交換式ボールエンドミルでは、切削インサートにおいて、すくい面に形成されたニックの逃げ面側の開口部における着座面側に最も凹んだ位置が、すくい面側からの透視図において、着座面に形成された嵌合部の逃げ面側の開口部とは異なる位置に配置されており、切刃が延びる方向において、この嵌合部の逃げ面側の開口部と重なることがない。
【0010】
このため、上記構成の切削インサートは特許文献2とは異なり、肉厚が薄くなりすぎることを防ぐことができる。従って、ニックによる切削抵抗の低減と嵌合部(貫通溝)とによる切削インサートと工具本体の位置精度を向上させながら、切削インサートの肉厚を確保することで、切削インサート自体の強度維持を達成できる。
また、ニックの最も凹んだ位置と着座面との間においても十分な肉厚を確保できるため、ニックの近傍部分における切刃に大きな切削抵抗が作用して、この切削抵抗による応力がニックの最も凹んだ位置に集中したとしても、嵌合部との間で切削インサートに欠損等の損傷が生じるのを防止することが可能となる。
【0011】
さらに、上記構成の切削インサートの、着座面に形成された2つの嵌合部が貫通形状となっている。特許文献1は底面に溝部が形成されているものの、片方が非貫通溝形状のため、上述した金型の肉盛り材の高能率加工といったような過酷な切削条件下では、取付位置精度が十分に確保できるとは言えない。その結果、要求される加工面精度とするのが困難な場合があるが、上記構成の切削インサートは、2つの嵌合部を貫通溝形状とすることで工具本体に対する位置精度が担保される。
【0012】
ここで、上記構成の切削インサートにおいて、上記嵌合部は、該嵌合部が延びる方向の一端側から他端側に向かうに従い溝幅が狭くなる幅狭部を有していることが望ましい。これにより、幅狭部の溝幅が狭くなる他端側においては切削インサートの肉厚を確保して応力を分散し、強度の向上を図ることができる。
【0013】
一方、逆に幅狭部の一端側では溝幅が広くなるので、刃先交換式ボールエンドミルにおいて、上記凸部を、上記嵌合部の上記幅狭部が当接する部分で、該嵌合部が延びる方向の上記他端側から上記一端側に向かうに従い幅広となるように形成することにより、切削加工時の負荷に対する取付剛性を高めて切削インサートのずれ動きを確実に防止することが可能となる。
【0014】
また、本発明の一形態の切削インサートは、上記嵌合部に研削面を含んでいてもよい。
【0015】
ここで、本発明の切削インサートは、粉末冶金技術の基本的な工程に沿って製造される。すなわち、切削インサートが超硬合金製の場合は、炭化タングステン粉末とコバルト粉末を主成分として、必要に応じてクロムやタンタル等を副成分とする顆粒状の造粒粉末を用いて、金型を用いた粉末プレス成形を行う。
こうして得られたプレス成形体は、適切な雰囲気と温度に制御された焼結炉内で所定の時間焼結することにより、切削インサートとなる焼結体を製造することができる。その後、必要に応じて研削砥石を用いた研削加工を施すこともある。
【0016】
本発明の切削インサートは、嵌合部に研削砥石によって研削加工された研削面を含む。つまり、焼結体(焼結肌)では得られなかった表面粗さRaが1.6μm以下の箇所を含む。ここで、嵌合部は上記着座面に垂直な2つの平面と、その間に延びる着座面に平行な底面で構成されるが、着座面に垂直な2つの壁面の内、上記取付孔に近い壁面が研削面であることが望ましい。研削面を含むことで、工具本体に取り付けられた際にがたつき等が生じにくくなることに加え、切削加工時に切削抵抗を受けて工具本体に対する切削インサートのずれ動きをより抑制することが可能である。その結果、加工面の精度が確保される。
【0017】
なお、研削面の表面粗さは、好ましくは表面粗さRaが0.8μm以下、より好ましくは表面粗さRaが0.2μm以下とすることで、切削インサートの取付位置精度がより向上する。
【0018】
また、本発明の一形態の切削インサートは、上記刃先交換式ボールエンドミルの円弧状切刃部のうち一方は主切刃とされるとともに他方は副切刃とされ、上記主切刃の円弧状切刃部は、上記副切刃の円弧状切刃部に対して周方向の長さが長く形成されている構成としてもよい。
【0019】
上述の構成とすることで、1つの工具本体に取り付く切削インサートの種類を1種類とすることができ、作業者の切削インサートの管理負担を減らすことができる。
【0020】
また、本発明の一形態の切削インサートは、上記ニックで分断された上記円弧状切刃部の長さは、全て異なる構成としてもよい。
【0021】
上述の構成とすることで、切削時に切削インサートの被削材への食いつき間隔をずらし、ビビり振動を抑制することが可能となる。
また、ニックは切りくずを分断し切削抵抗を低減させる作用効果があるが、その反面、ニックが形成された部分は切れ刃として作用しない。そこで上述の構成とすることで、ニックによる削り残しをなくすことができる。加えて、ニックによって分断された切れ刃長さを全て異なる構成とすることで、ニックの大きさや長さといった形状の自由度を広げることができる。
【0022】
本発明の工具本体は、上記切削インサートを取り付けるための取付座が設けられ、上記取付座には、上記切削インサートの上記嵌合部と協働する凹部または凸部を2つ有することを特徴とする。
【0023】
本発明の刃先交換式回転切削工具は、請求項1から4のいずれかに記載の切削インサートと、請求項5に記載の工具本体と、を備え、上記工具本体のインサート取付座に上記切削インサートの上記着座面を接触させて、上記工具本体に対して上記切削インサートが取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明は、切刃にニックを備えるとともに着座面に貫通する嵌合部を2つ備えることで、ニックによる切りくず分断効果と嵌合部(貫通溝)による位置精度の向上ができるだけでなく、ニックの逃げ面側の開口部がすくい面側からの透視図において嵌合部の逃げ面側の開口部とは異なる位置に配置されていることで、肉厚を確保して切削インサートの強度を確保することが可能となる。
また、嵌合部は研削面の箇所を含むため、工具本体に対するずれ動きをより抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の切削インサートの一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示す実施形態のすくい面に対向する方向から見た平面図である。
図3図1に示す実施形態の着座面に対向する方向から見た底面図である。
図4図2における矢線A方向視の側面図である。
図5図2における矢線B方向視の側面図である。
図6図2における矢線C方向視の側面図である。
図7図2における矢線D方向視の側面図である。
図8図2における矢線E方向視の側面図である。
図9図1図8に示した実施形態の切削インサートを2つのインサート取付座にそれぞれ取り付けた本発明の刃先交換式ボールエンドミルおよびエンドミル本体の一実施形態を示すエンドミル本体先端部の斜視図である。
図10図9に示す実施形態の正面図である。
図11図10における矢線A方向視の底面図である。
図12図10における矢線B方向視の側面図である。
図13図9に示した実施形態の刃先交換式ボールエンドミルにおける2つの切削インサートの位置関係を示す斜視図である。
図14図13に位置関係を示した2つの切削インサートを、主切刃が切削に使用される第1の切削インサートのすくい面に対向する方向から見た透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1図8は、本発明の切削インサートの一実施形態を示すものであり、図9図11は、エンドミル本体のインサート取付座に本実施形態の切削インサートを2つ取り付けた本発明の刃先交換式ボールエンドミル(刃先交換式回転切削工具)の一実施形態を示すものであり、図12および図13は、この実施形態の刃先交換式ボールエンドミルにおける2つの切削インサートの位置関係を示すものである。
【0027】
本実施形態の切削インサート1は、超硬合金等の硬質材料により形成されて、図2に示すように平面視において木の葉形の板状に形成されている。この切削インサート1の上面が上述のような木の葉形のすくい面2とされる。また、このすくい面2とは反対側を向く下面はすくい面2と略相似形に形成された木の葉形で上記インサート取付座の底面に着座される平坦な着座面3とされ、これらすくい面2と着座面3との間において周囲に延びる側面は逃げ面4とされている。
【0028】
すくい面2と逃げ面4との交差稜線部には、すくい面2に対向する方向から見た平面視において図2に示すように円弧状に延びる円弧状切刃部5a、6aと、この円弧状切刃部5a、6aに接するように延びる直線状切刃部5b、6bとをそれぞれ備えた2つの切刃が、これら円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bをすくい面2の周方向に交互に位置させて形成されている。これら2つの切刃のうち一方の第1の切刃は主切刃5とされ、他方の第2の切刃は副切刃6とされる。
【0029】
また、逃げ面4は、すくい面2から着座面3側に向かうに従い切削インサート1の内周側に向かうように傾斜しており、本実施形態の切削インサート1はポジティブタイプの切削インサートとされている。さらに、すくい面2と着座面3の中央部には、切削インサート1を貫通するように形成された断面円形の取付孔7が開口しており、この取付孔7のすくい面2側は着座面3側に向かうに従い縮径するように形成されている。
【0030】
ここで、すくい面2に対向する上記平面視において、主切刃5の円弧状切刃部5aは略1/4円弧状をなしている。これに対して、副切刃6の円弧状切刃部6aは、主切刃5の円弧状切刃部5aと等しい半径で、ただし周方向の長さは主切刃5の円弧状切刃部5aよりも短くされており、すなわち1/4円弧よりも短い円弧状に形成されている。また、これに伴って、主切刃5の直線状切刃部5bは、逆に副切刃6の直線状切刃部6bよりも短くされている。すなわち、本実施形態の切削インサート1は、取付孔7の中心線回りに180°回転対称とはされておらず、非対称とされている。
【0031】
なお、これら主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bは、上記平面視において主切刃5の円弧状切刃部5aと副切刃6の直線状切刃部6bとが交差するすくい面2の第1の端部2aから主切刃5の直線状切刃部5bと副切刃6の円弧状切刃部6aとが交差するすくい面2の第2の端部2bに向かうに従い互いに近づくように延びている。また、これら第1、第2の端部2a、2bは、主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bとに鈍角に交差する面取り状に形成されている。なお、第1の端部2aは、第2の端部2bよりも着座面3の近くに位置している。
【0032】
さらに、これら主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aは、後述するニックを除いて、それぞれの直線状切刃部5b、6bから離れるに従い上記着座面3側から離れた後に該着座面3側に近づく凸曲線状の基本形状を有するように形成されており、これらの円弧状切刃部5a、6aがなす凸曲線が着座面3に対して最も離れて凸となる点(着座面3から最も突出した最突点)が、それぞれ主切刃最凸点S5および副切刃最凸点S6となる。なお、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bは、逃げ面4に対向する方向から見た側面視においても、図4および図6に示すように円弧状切刃部5a、6aがなす凸曲線に接して、円弧状切刃部5a、6aから離れるに従い着座面3側に近づく略直線状に延びている。
【0033】
ここで、上記主切刃5においては、上記平面視に円弧状切刃部5aの中心Pを通り、直線状切刃部5bに平行な工具回転軸(後述するエンドミル本体11の軸線O)回りの主切刃5の回転軌跡の上記回転軸に沿った断面において、図14の右側に示すように、上記回転軸のうち円弧状切刃部5aの中心Pから円弧状切刃部5aにおける直線状切刃部5bとの接点Q5とは反対の端部側(第1の端部2a側。刃先交換式ボールエンドミルにおいては、後述するエンドミル本体11の先端側)に延びる部分と、中心Pと主切刃最凸点S5とを結ぶ直線L5とが、43°~47°の範囲内の角度θ5で交差している。本実施形態では、この角度θ5は45°とされている。
【0034】
また、上記副切刃6においても、図14の左側に示すように(ただし、図4の左側の図は着座面3側から見た底面図である。)、上記平面視に主切刃5の円弧状切刃部5aの中心Pと一致する円弧状切刃部6aの中心Pを通り、直線状切刃部6bに平行な工具回転軸(同じく、後述するエンドミル本体11の軸線O)回りの副切刃6の回転軌跡の上記回転軸に沿った断面において、上記回転軸のうち円弧状切刃部6aの中心Pから円弧状切刃部6aにおける直線状切刃部6bとの接点Q6とは反対の端部側(第2の端部2b側。同じく、刃先交換式ボールエンドミルにおいては、後述するエンドミル本体11の先端側)に延びる部分と、中心Pと副切刃最凸点S6とを結ぶ直線L6とが、43°~47°の範囲内の角度θ6で交差している。本実施形態では、この角度θ6も45°とされている。
【0035】
また、すくい面2の中央部における上記取付孔7の開口部の周辺には、主切刃5や副切刃6よりも着座面3から離れる方向に突出した上記平面視に略楕円状をなす突部2cが形成されている。この突部2cの上端面は着座面3と平行な平坦面とされていて、取付孔7はこの突部2cの上端面に開口している。さらに、この突部2cの外周面は上記上端面側に向かうに従いすくい面2の内側に向かうように傾斜している。また、すくい面2は、主切刃5および副切刃6から離れて該すくい面2の内側に向かうに従い着座面3側に延びた後に凹曲面状をなして突部2cの上記外周面に連なっている。
【0036】
さらにまた、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bに連なる逃げ面4は、上述のように傾斜する平面状に形成されている。一方、主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aに連なる逃げ面4は、すくい面2側ではこれら円弧状切刃部5a、6aに沿って切削インサート1の周方向に湾曲しており、ただし主切刃5の円弧状切刃部5aの逃げ面4の着座面3側には、図3および図5図6に示すように平面状に傾斜した平面部4aが形成されている。
【0037】
図3に示すように、上記着座面3には溝部(嵌合部)8が形成されている。ここで、本実施形態では、着座面3に垂直に対向する方向から見た底面視において、図3に示すように、第1、第2の2つの溝部(嵌合部)8A、8Bが、着座面3における取付孔7の開口部と間隔をあけて、この開口部を間にして互いに反対側に形成されている。第1の溝部(嵌合部)8Aは取付孔7の開口部よりもすくい面2の第1の端部2a側に形成され、第2の溝部(嵌合部)8Bはすくい面2の第2の端部2b側に形成されている。
【0038】
これらの溝部8は、該溝部8が延びる方向に直交する断面が、取付孔7が延びる方向に偏平した略長方形状に形成されている。
すなわち溝部8Aは、着座面3に略垂直な方向に延びて互いに対向する第1、第2の2つの壁面8a、8bと、これら第1、第2の壁面8a、8bの間に延びる着座面3に平行な底面8cと、を備えている。
同様に、溝部8Bは、着座面3に略垂直な方向に延びて互いに対抗する第1、第2の2つの壁面8d、8eと、これら第1、第2の壁面8d、8eの間に延びる着座面3に平行な底面8cと、を備えている。
【0039】
溝部8Aの第1の壁面8aは、取付孔7側、すなわち、すくい面2の第1の端部2a側を向いており、第2の壁面8bは、取付孔7とは反対方向、すなわち、すくい面2の第2の端部2b側を向いている。
同様に、溝部8Bの第1の壁面8dは、取付孔7側、すなわち、すくい面2の第2の端部2b側を向いており、第2の壁面8eは、取付孔7とは反対方向、すなわち、すくい面2の第1の端部2a側を向いている。
なお、着座面3よりも底面8cはすくい面2側に位置する。また、各溝部8A、8Bの各隅部は面取りされていてもよく、その場合はR面取りが望ましい。
【0040】
本実施形態の溝部8A,8Bは、おおよその形状をプレス成型によって形成後に焼結し、その後、部分的に砥石によって研削加工を施すことで研削面を含むこととなる。この時、研削面は表面粗さRaが1.6μm以下であり、好ましくは表面粗さRaが0.8μm以下、より好ましくは表面粗さRaが0.2μm以下である。また、溝部8A、8Bを形成する壁面および底面(8a、8b、8c、8d、8e)の内、取付孔7を向く壁面である第1の壁面8a、8dが研削面であることが望ましい。これにより、切削インサート1を工具本体に取り付ける際の位置ずれおよび、切削加工時の切削抵抗に起因する位置ずれを抑制することが可能となる。
【0041】
また、上記第1の溝部8Aは、副切刃6の直線状切刃部6bに連なる逃げ面4に開口するとともに、主切刃5の円弧状切刃部5aに連なる逃げ面4との双方に開口する貫通溝状に形成されている。この第1の溝部8Aにおける主切刃5の円弧状切刃部5a側の端部は、上記底面8cから凹曲面をなすようにして着座面3に連なっている。さらに、この第1の溝部8Aは、第2の溝部8Bが延びる方向の一端側から他端側に向けて溝幅が狭くなる幅狭部9を有している。ここで、実施形態では、副切刃6の直線状切刃部6bに連なる逃げ面4側が第1の溝部8Aの一端側とされるとともに、主切刃5の円弧状切刃部5aに連なる逃げ面4側が他端側とされている。
【0042】
また、図3に示すように、本実施形態では、第1の溝部8Aの全体が、幅狭部9とされている。この幅狭部9は、本実施形態では溝幅が狭くなる割合が第1の溝部8Aの一端側から他端側に向けて一定とされている。すなわち、第1の溝部8Aの第1の壁面8a、第2の壁面8bは、上記底面視において一端側(副切刃6側)から他端側(主切刃5側)に向かうに従い直線状をなして互いに接近するように形成されている。
【0043】
併せて、図3に示すように、本実施形態では、溝部8Aの第1の壁面8aと、溝部8Bの第1の壁面8dが平行かつ等距離となるよう形成されている。
【0044】
さらに、上記主切刃5の円弧状切刃部5aに連なる逃げ面4への第1の溝部8Aの開口部は、上記主切刃最凸点S5よりも主切刃5の直線状切刃部5b側に位置している。具体的には、図14に示す底面視において、上記主切刃最凸点S5と主切刃5の円弧状切刃部5aがなす円弧の中心Pとを結ぶ上記直線L5と、主切刃5の直線状切刃部5b側を向く第1の溝部8Aの第1の壁面8aと逃げ面4との交差稜線部(面取り部分を除く)の着座面3側への端部と上記中心Pとを結ぶ直線(図示略)とがなす第1の交差角が5°~60°の範囲とされている。
【0045】
第2の溝部8Bは、本実施形態では主切刃5の直線状切刃部5bに連なる逃げ面4と副切刃6の円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4との双方に開口する貫通溝状に形成されている。本実施形態では、この第2の溝部8Bは、第2の溝部8Bが延びる方向の一端側から他端側に向けて溝幅が狭くなる幅狭部9を有している。ここで、本実施形態では、主切刃5の直線状切刃部5bに連なる逃げ面4側が第2の溝部8Bの一端側とされるとともに、副切刃6の円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4側が他端側とされている。
【0046】
また、図3に示すように、本実施形態では、第2の溝部8Bの全体が、幅狭部9とされている。この幅狭部9は、本実施形態では溝幅が狭くなる割合が第2の溝部8Bの一端側から他端側に向けて一定とされている。すなわち、第2の溝部8Bの第1、第2の壁面8d、8eは、上記底面視において一端側(主切刃5側:幅広側)から他端側(副切刃6側:幅狭側)に向かうに従い直線状をなして互いに接近するように形成されている。
【0047】
さらに、上記副切刃6の円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4への第2の溝部8Bの開口部は、上記副切刃最凸点S6よりも副切刃6の直線状切刃部6b側に位置している。具体的には、図14に示す底面視において、上記副切刃最凸点S6と副切刃6の円弧状切刃部6aがなす円弧の中心Pとを結ぶ上記直線L6と、副切刃6の直線状切刃部6b側を向く第2の溝部8Bの第2の壁面8eと逃げ面4との交差稜線部(面取り部分を除く)の着座面3側への端部と上記中心Pとを結ぶ直線(図示略)とがなす第1の交差角が5°~60°の範囲とされている。
【0048】
なお、第1、第2の溝部8A,8Bにおける幅狭部9の他端(本実施形態では第1、第2の溝部8A,8Bのうちの幅狭側)における溝幅W1は、この幅狭部9を有する第1、第2の溝部8A,8B)の他端側に位置する円弧状切刃部(主切刃5の円弧状切刃部5a、副切刃6の円弧状切刃部6a)の着座面3側から見た半径r(図示略)に対して0.05×r~0.18×rの範囲とされ、例えば1mm~7mmの範囲とされている。ただし、円弧状切刃部5a、6aの着座面3側から見た形状が円弧からずれた形状になっている場合は、そのずれた形状に対して最も近接した円弧を仮想的に描いて、この仮想の円弧から半径rを求めることにする。
【0049】
これに対して、幅狭部9の一端(本実施形態では第1、第2の溝部8A,8Bのうちの幅広側)における溝幅W2は、W2>W1の関係を満たす。
また、溝幅W2は、幅狭部9を有する第1、第2の溝部8A、8Bの他端(幅狭)側に位置する円弧状切刃部5a、6aの着座面3側から見た底面視、またはすくい面2側から見た平面視の半径rに対して0.10×r~0.30×rの範囲で、副切刃6の円弧状切刃部6aの上記平面視または底面視における長さR(図示略)に対しては0.10×R~0.32×Rの範囲とされている。
【0050】
なお、これらの溝幅W1、W2は、溝部8Aの第1、第2の壁面8a、8b、および溝部8Bの第1、第2の壁面8d、8eが着座面3に対向する方向から見た底面視において直線状に延びている場合は、これら第1、第2の壁面8a、8bまたは、第1、第2の壁面8d、8eがなす直線の二等分線に垂直な方向の幅であり、一方の溝壁面(例えば、第1の壁面8a,8d)が曲線状であって、他方の溝壁面(例えば、第2の壁面8b,8e)が直線状である場合は、直線状の溝壁面に垂直な方向の幅である。
【0051】
そして、このような切削インサート1において、上記すくい面2には、上記切刃に達して逃げ面4に開口する凹溝状のニック10が形成されており、このニック10は、逃げ面4への開口部において上記着座面3側に最も凹んだ位置Mが、すくい面2側からの透視図において図14に示すように、上記溝部8の逃げ面4への開口部とは異なる位置に配置されている。
【0052】
本実施形態おいてニック10は、逃げ面4に対向する方向から見てすくい面2を凹円弧等の凹曲線状に切り欠くようにして凹溝状に形成されたものであり、着座面3との間隔はすくい面2の内側に向かうに従い漸次大きくなるようにされて、突部2cの上端面に至る手前ですくい面2から切れ上がるように形成されている。このニック10の着座面3側に最も凹んだ上記位置Mを通り、すくい面2の内側に向けて着座面3との間隔が小さい部分を繋いだ谷底線は、すくい面2に対向する平面視において切刃に略直交するように延びている。なお、ニック10とすくい面2との境界部は、逃げ面4への開口部に亙って凸曲面状に丸められている。
【0053】
また、本実施形態では、1つの切刃(主切刃5および副切刃6)について複数(2つ)ずつのニック10が間隔をあけて形成されている。このうち、主切刃5の2つのニック10は、いずれも円弧状切刃部5aに達するように形成されており、副切刃6のニック10は、1つが円弧状切刃部6aに達するとともに、残りの1つは直線状切刃部6bに達するように形成されている。
【0054】
これらのニック10は、2つの切削インサート1を、互いの主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aの中心Pを一致させるとともに、これらの円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bを重ね合わせて見た場合に、重ね合わされた一方の切削インサート1の主切刃5に達するニック10と他方の切削インサート1の副切刃6に達するニック10とが、互いに重なり合わずに、ニック10の間に延びる切刃と重なり合うように形成されている。
【0055】
さらに、これらのニック10は、本実施形態では、着座面3側に最も凹んだ上記位置Mだけではなく、逃げ面4への開口部全体が、すくい面2側からの透視図において図14に示したように、溝部8の逃げ面4への開口部と重なり合わないように形成されている。ただし、副切刃6に達するニック10は、着座面3側に最も凹んだ位置Mから離れた縁部がすくい面2側からの透視図において溝部8の逃げ面4への開口部と僅かに重なり合っていてもよい。
【0056】
さらにまた、本実施形態では、主切刃5においては、すくい面2側からの透視図において、ニック10は、逃げ面4への開口部における着座面3側に最も凹んだ位置Mが、溝部8の開口部よりも、円弧状切刃部5aにおける直線状切刃部5bとの接点Q5とは反対の上記第1の端部2a側に配置されている。
【0057】
また、主切刃5の円弧状切刃部5aは、上述のようにニック10を除いて主切刃5の直線状切刃部5bから離れるに従い着座面3側から離れた後に着座面3側に近づく凸曲線状に形成された基本形状を有しているが、主切刃5のニック10は、この主切刃5の基本形状における円弧状切刃部5aが着座面3に対して最も凸となる主切刃最凸点S5とは異なる位置に形成されている。
【0058】
特に、本実施形態では、主切刃5の少なくとも1つのニック10(105)は、主切刃最凸点S5よりも、円弧状切刃部5aと直線状切刃部5bとの接点Q5とは反対の第1の端部2a側に配置されている。具体的には、本実施形態における2つのニック105は、主切刃最凸点S5を間にして接点Q5側と第1の端部2a側とに配置されている。
【0059】
また、本実施形態では、上述のように副切刃6の円弧状切刃部6aも、ニック10(106)を除いて副切刃6の直線状切刃部6bから離れるに従い着座面3側から離れた後に着座面3側に近づく凸曲線状に形成された基本形状を有しており、副切刃6のニック106も、逃げ面4への開口部において着座面3側に最も凹んだ位置Mが、副切刃6の基本形状における円弧状切刃部6aが着座面3に対して最も凸となる副切刃最凸点S6とは異なる位置に配置されている。
【0060】
特に、本実施形態では、副切刃6の2つのニック106は、逃げ面4への開口部において着座面3側に最も凹んだ位置Mが、副切刃最凸点S6よりも、副切刃6の円弧状切刃部6aと直線状切刃部6bとの接点Q6(図14)側に配置されている。また、副切刃6の逃げ面4に開口する第1、第2の溝部8A、8Bは、副切刃最凸点S6よりも、副切刃6の円弧状切刃部6aと直線状切刃部6bとの接点Q6側に開口しており、第1の溝部8Aは接点Q6を越えて、すくい面2の第1の端部2a側に開口している。
【0061】
さらに、副切刃6の少なくとも1つのニック10は、逃げ面4への開口部において着座面3側に最も凹んだ位置Mが、副切刃最凸点S6と、副切刃6の逃げ面4に開口する溝部8との間に配置されている。ここで、本実施形態では、副切刃6の2つのニック10のうち1つのニック10は、副切刃最凸点S6と第2の溝部8Bの副切刃6の逃げ面4への開口部との間に配置され、他の1つのニック10は上記接点Q6を越えて直線状切刃部6bに位置し、副切刃最凸点S6と第1の溝部8Aの副切刃6の逃げ面4への開口部との間に配置されている。
【0062】
ここで、このような超硬合金等の硬質材料により形成された切削インサート1は、粉末冶金技術の基本的な工程に沿って製造される。すなわち、切削インサート1が超硬合金製の場合は、炭化タングステン粉末とコバルト粉末を主成分として、必要に応じてクロムやタンタル等を副成分とする顆粒状の造粒粉末を用いて、金型を用いた粉末プレス成形を行う。
【0063】
こうして得られたプレス成形体は、適切な雰囲気と温度に制御された焼結炉内で所定の時間焼結することにより、切削インサート1となる焼結体を製造することができる。切削インサート1の基本的形状は上記金型の設計により反映され、切削インサート1の詳細形状は金型成形によって得られる。さらに、切削インサート1の刃先形状の高精度化を図るために、必要に応じて研削砥石を用いた研削加工を施すこともある。
【0064】
このように構成された切削インサート1は、図9図12に示すようにエンドミル本体(工具本体)11の先端部に形成されたインサート取付座(取付座)12に着脱可能に取り付けられて本発明の刃先交換式ボールエンドミル(刃先交換式回転切削工具)100の一実施形態を構成する。このエンドミル本体11は鋼材等の金属材料により形成され、その先端部は、基端側が軸線(工具回転軸)Oを中心とした円柱状とされるとともに、先端側は軸線O上に中心を有する基端側の円柱と等しい半径の凸半球状とされている。本実施形態の刃先交換式ボールエンドミルは、このエンドミル本体11が軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転させられつつ該軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、インサート取付座12に取り付けられた切削インサート1によって被削材に切削加工を施す。
【0065】
ここで、本実施形態では、エンドミル本体11の先端部外周を切り欠くようにして2つのチップポケット13が形成されており、これらのチップポケット13のエンドミル回転方向Tを向く底面に、それぞれインサート取付座12が周方向に間隔をあけて互いに反対側に形成されている。そして、これら2つのインサート取付座12には、上記実施形態に基づく同形同大の1種の第1、第2の切削インサート1A、1Bがそれぞれ取り付けられる。
【0066】
これらのインサート取付座12は、エンドミル回転方向Tを向く平坦な底面12aと、この底面12aからエンドミル回転方向Tに延びてエンドミル本体11の外周側を向く先端内周側の壁面12bおよび先端外周側を向く後端外周側の壁面12cとを備えている。壁面12b、12cは、底面12aから離れるに従いインサート取付座12の外側に傾斜する平面状に形成され、底面12aに切削インサート1の着座面3を着座させた状態で、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bに連なる平面状の逃げ面4と円弧状切刃部5a、6aに連なる逃げ面4の着座面3側の平面部4aに当接可能とされている。
【0067】
また、これらの壁面12b、12cの間には、切削インサート1の湾曲した逃げ面4との接触を避けるために凹んだ凹部12dが形成されている。さらに、底面12aには、切削インサート1の取付孔7に挿通されるクランプネジ(取付ねじ)15がねじ込まれる図示されないネジ孔が形成されている。なお、このネジ孔の中心線は、上述のように切削インサート1の着座面3を底面12aに着座させて、主切刃5と副切刃6の直線状切刃部5b、6bに連なる平面状の逃げ面4と円弧状切刃部5a、6aに連なる逃げ面4の着座面3側の平面部4aを壁面12b、12cに当接させた状態で、切削インサート1の取付孔7の中心線よりも凹部12d側に僅かに偏心するようにされている。
【0068】
これら2つのインサート取付座12のうち第1のインサート取付座12Aは、図9および図10に示すようにエンドミル本体11の先端部を、先端側で軸線Oを含む範囲まで切り欠くように形成されている。この第1のインサート取付座12Aには、第1の切削インサート1Aが、主切刃5の円弧状切刃部5aを軸線O近傍から延びて該軸線O上に中心を有する凸半球上に位置させるとともに、主切刃5の直線状切刃部5bをこの凸半球に接する軸線Oを中心とした円筒面上に位置させるようにして取り付けられる。
【0069】
従って、第1のインサート取付座12Aの壁面12bには第1の切削インサート1Aにおける副切刃6の直線状切刃部6bに連なる平面状の逃げ面4が当接させられ、壁面12cには第1の切削インサート1Aにおける副切刃6の円弧状切刃部6aの逃げ面4の平面部4aが当接させられる。
【0070】
そして図12に示すように、この第1のインサート取付座12Aの底面12aには、第1の切削インサート1Aの着座面3に形成された2つの溝部8A,8Bの各壁面8a、8b、8d、8eがそれぞれ当接可能な2つの凸部14A,14Bが形成されている。第1の凸部14Aはエンドミル本体11の後端側に形成され、第2の凸部14Bはエンドミル本体11の先端側に形成されている。
【0071】
第1の凸部14Aは、上記ネジ孔と壁面12cとの間に突出するとともに、エンドミル本体11の先端部の外周面から上記凹部12dに向けて該凹部12dの手前にまで凹部12dと間隔をあけて延びるように形成されている。この第1の凸部14Aには、第1の切削インサート1Aの着座面3に形成された2つの溝部8のうち第2の溝部8Bが当接することになる。
【0072】
第2の凸部14Bは、上記ネジ孔とエンドミル本体11の先端部との間に突出するとともに、エンドミル本体11の先端部の外周面から軸線Oに向けて延びるように形成されている。この第2の凸部14Bには、上記2つの溝部8のうち第1の溝部8Aが当接することになる。
【0073】
ここで、これら第1の凸部14Aおよび第2の凸部14Bは、該第1の凸部14A及び第2の凸部14Bが延びる方向に直交する断面がエンドミル回転方向Tに偏平した略長方形状をなしている。
【0074】
第1の凸部14Aは、全体が幅狭部9Bとされた第2の溝部8Bに対して、この第2の溝部8Bが延びる方向の上記他端(副切刃6)側から上記一端(主切刃5)側、すなわちエンドミル本体11の内周側から外周側に向かうに従い全体的に幅広となるように形成されている。
【0075】
第2の凸部14Bは、全体が幅狭部9Aとされた第1の溝部8Aに対して、この第1の溝部8Aが延びる方向の上記他端(主切刃5)側から上記一端(副切刃6)側、すなわちエンドミル本体11の外周側から内周側に向かうに従い全体的に幅広となるように形成されている。
【0076】
ただし、第1、第2の凸部14A,14Bの幅(第1、第2の凸部14A、14Bが延びる方向に直交する方向の幅)は、第1、第2の溝部8A,8Bが延びる方向において第1、第2の凸部14A、14Bに当接する位置での幅(第1、第2の溝部8A、8Bが延びる方向に直交する方向での幅)よりも僅かに小さくされており、第1、第2の凸部14A、14Bの底面12aからの突出高さも第1の切削インサート1Aの着座面3からの第1、第2の溝部8A、8Bの深さよりも僅かに小さくされている。
【0077】
一方、2つのインサート取付座12のうち第2のインサート取付座12Bは、図10および図11に示すようにエンドミル本体11の先端側で軸線Oから外周側に僅かに離れた位置から形成されている。この第2のインサート取付座12Bには第2の切削インサート1Bが、その副切刃6の円弧状切刃部6aを軸線Oから離れた位置から第1の切削インサート1Aの主切刃5の円弧状切刃部5aが位置する上記凸半球上に位置させるとともに、この副切刃6の直線状切刃部6bを第1の切削インサート1Aの主切刃5の直線状切刃部5bが位置する上記円筒面上に位置させるようにして取り付けられる。
【0078】
従って、第2のインサート取付座12Bの壁面12bには第2の切削インサート1Bの主切刃5の直線状切刃部5bに連なる平面状の逃げ面4が当接させられ、壁面12cには第2の切削インサート1Bの主切刃5の円弧状切刃部5aの逃げ面4の平面部4aが当接させられる。
【0079】
そして、この第2のインサート取付座12Bの底面12aには、上記ネジ孔よりも先端側に第1の凸部14Aが形成されるとともに、ネジ孔と壁面12cとの間には第2の凸部14Bが形成されている。これら第1の凸部14Aおよび第2の凸部14Bも、エンドミル本体11の先端部の外周面から内周側に向かって延びて、第1の凸部14Aは第2のインサート取付座12Bの壁面12bの手前にまで該壁面12bと間隔をあけ、また第2の凸部14Bは第2のインサート取付座12Bの凹部12dの手前にまで該凹部12dと間隔をあけて形成されている。従って、第1の凸部14Aには第2の切削インサート1Bの第2の溝部8Bが当接し、第2の凸部14Bには第2の切削インサート1Bの第1の溝部8Aが当接する。
【0080】
また、第2のインサート取付座12Bの底面12aにおいても、第1の凸部14Aおよび第2の凸部14Bが延びる方向に直交する断面がエンドミル回転方向Tに偏平した略長方形状をなしている。第1,第2の凸部14A,14Bは、当接する第2の切削インサート1Bの第1,第2の溝部8A,8Bの全体が幅狭部9A,9Bとされているのに対して、これら第1,第2の溝部8A,8Bが延びる方向であって互いに相反する方向に全体的に幅広となるように形成されている。
【0081】
さらに、第2のインサート取付座12Bの底面12aにおいても、これら第1,第2の凸部14A,14Bは、第2、第1の溝部8B、8Aが延びる方向において第1,第2の凸部14A,14Bに当接する位置での幅(第2、第1の溝部8B、8Aが延びる方向に直交する方向での幅)よりも僅かに小さくされている。また、第2のインサート取付座12Bの底面12aからの第1,第2の凸部14A,14Bの突出高さも第2の切削インサート1Bの着座面3からの第2、第1の溝部8B、8Aの深さよりも僅かに小さくされている。
【0082】
このような第1、第2のインサート取付座12A、12Bに第1の切削インサート1Aおよび第2の切削インサート1Bが上述のように着座させられて、倒立した円錐台状の頭部を有するクランプネジ15を取付孔7に挿通して上記ネジ孔にねじ込んでゆくと、このネジ孔の中心線が切削インサート1の取付孔7の中心線よりも凹部12d側に僅かに偏心していることから、切削インサート1は凹部12d側に押し付けられる。
【0083】
このとき、第1のインサート取付座12Aにおいては、第1の切削インサート1Aの副切刃6の直線状切刃部6bに連なる逃げ面4と円弧状切刃部6aに連なる逃げ面4の平面部4aが壁面12b、12cにそれぞれ押圧される。また、第2のインサート取付座12Bにおいては、第2の切削インサート1Bの主切刃5の直線状切刃部5bに連なる逃げ面4が壁面12bに押圧され、主切刃5の円弧状切刃部5aに連なる逃げ面4の平面部4aが壁面12cに押圧される。
【0084】
そして、これとともに、第1のインサート取付座12Aにおいては、第1の凸部14Aに第1の切削インサート1Aの第2の溝部8Bが、第2の凸部14Bに第1の切削インサート1Bの第1の溝部8Aが、それぞれエンドミル本体11の先端側から当接する。
従って、これら第1、第2の凸部14A、14Bには、これらのエンドミル本体11の先端側を向く各側面14aに、第1の切削インサート1Aの第1,第2の溝部8A,8Bにおける第2の壁面8bがそれぞれ当接し、第1,第2の溝部8A,8Bにおける第1の壁面8a、8dと第1,第2の凸部14A,14Bとの間には僅かな間隔があけられることになる。
【0085】
また、第2のインサート取付座12Bにおいては、第1の凸部14Aに第2の切削インサート1Bの第2の溝部8Bが、第2の凸部14Bに第2の切削インサート1Bの第1の溝部8Aが、それぞれエンドミル本体11の先端側から当接する。
従って、第1,第2の凸部14A,14Bには、そのエンドミル本体11の先端側を向く側面14aに第2、第1の溝部8B、8Aの各第1の壁面8aがそれぞれ当接し、第2、第1の溝部8B、8Aの各第2の壁面8bと、第1,第2の凸部14A,14Bの間には僅かな間隔があけられる。
【0086】
このように、エンドミル本体11の各インサート取付座12A,12Bに設けられた第1,第2の凸部14A,14Bに対して、切削インサート1A,1Bにおける第2、第1の溝部8B、8Aがそれぞれ当接することにより、切削加工時の負荷による切削インサート1のずれ動きを防止することができる。
【0087】
このように構成される刃先交換式ボールエンドミルにおいては、上述のように第2の切削インサート1Bが、その副切刃6の円弧状切刃部6aを第1の切削インサート1Aの主切刃5の円弧状切刃部5aが位置する凸半球上に位置させるとともに、直線状切刃部6bを第1の切削インサート1Aの主切刃5の直線状切刃部5bが位置する円筒面上に位置させるようにして取り付けられる。
【0088】
そして、これら第1の切削インサート1Aおよび第2の切削インサート1Bは、互いの主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aの中心Pを一致させるとともに、これらの円弧状切刃部5a、6aと直線状切刃部5b、6bを重ね合わせて見た場合に、重ね合わされた一方の切削インサート1の主切刃5に達するニック10(105)と他方の切削インサート1の副切刃6に達するニック10(106)とが、互いに重なり合わずに、ニック10の間に延びる切刃と重なり合うようにされている。
【0089】
このため、エンドミル本体11の1刃当たりの送り量を、すくい面2に対向する平面視におけるニック10の切刃からの後退量よりも小さくすることにより、ニック10の着座面3側に最も凹んだ位置Mが被削材に切り込まれることがなくなり、切屑を分断して生成することができるとともに、切削抵抗の低減を図ることができる。なお、被削材の加工面にはニック10によって削り残された部分に突条が残されるが、この突条は、エンドミル本体が1/2回転して反対側の切削インサート1の切刃が切り込まれることにより、切削されて除去される。
【0090】
そして、上記構成の切削インサート1および刃先交換式ボールエンドミルでは、切削インサート1において、すくい面2に形成されたニック10の逃げ面4への開口部における着座面3側に最も凹んだ位置Mが、すくい面2側からの透視図において、図14に示したように着座面3に形成された溝部8の逃げ面4への開口部とは異なる位置に配置されている。すなわち、切刃が延びる方向において、ニック10の着座面3側に最も凹んだ位置Mが溝部8の逃げ面4への開口部と重なることがない。
【0091】
このため、ニック10の最も凹んだ位置Mと着座面3との間において、切削インサート1の肉厚を確保して強度を維持することができるので、これにより、ニック10の近傍部分における切刃に大きな切削抵抗が作用して、この切削抵抗による応力がニック10の最も凹んだ位置Mに集中したとしても、溝部8との間で切削インサート1に欠損等の損傷が生じるのを防ぐことができる。従って、上記構成の切削インサート1および刃先交換式ボールエンドミルによれば、このような大きな切削抵抗が作用する切削条件下でも、長期に亙って安定した切削加工を行うことができる。
【0092】
特に、本実施形態では、これらのニック10は、着座面3側に最も凹んだ上記位置Mだけではなく、逃げ面4への開口部全体が、すくい面2側からの透視図において、溝部8の逃げ面4への開口部と重なり合わないように形成されている。このため、ニック10と溝部8とが部分的にでも重なり合うことによって切削インサート1に肉厚が薄い部分が形成されるのを防ぐことができ、欠損等の損傷の発生を一層確実に防ぐことができる。
【0093】
ただし、特に円弧状切刃部6aの周方向の長さが短くて作用する切削抵抗も小さくなる副切刃6においては、ニック10の着座面3側に最も凹んだ位置Mが溝部8と重なり合っていなければ、上述のようにニック10の着座面3側に最も凹んだ位置Mから離れた縁部や端部がすくい面2側からの透視図において溝部8の逃げ面4への開口部と僅かに重なり合っていてもよい。
【0094】
また、本実施形態の切削インサートにおいては、第1の溝部8Aが、この第1の溝部8Aが延びる方向の他端(副切刃6)側から一端(主切刃5)側に向かうに従い溝幅が狭くなる幅狭部9を有している。第2の溝部8Bは、この第2の溝部8Bが延びる方向の一端(主切刃5)側から他端(副切刃6)側に向かうに従い溝幅が狭くなる幅狭部9Bを有している。これにより、この幅狭部9の溝幅が狭くなる他端側においては切削インサート1の肉厚を確保して応力を分散し、強度の向上を図ることができる。
【0095】
一方、逆に幅狭部9のいずれか一方の端部側では溝幅が広くなるので、刃先交換式ボールエンドミルのエンドミル本体11において、上記第1の凸部14Aを、第2の溝部8Bの幅狭部9が当接する部分で、第2の溝部8Bが延びる方向の他端(副切刃6)側から上記一端(主切刃5)側に向かうに従い幅広となるように形成することにより、切削加工時の負荷に対する取付剛性を高めて切削インサート1のずれ動きを確実に防止することが可能となる。
【0096】
さらに、本実施形態では、切削インサート1の2つの切刃のうち一方は主切刃5とされるとともに他方は副切刃6とされており、主切刃5の円弧状切刃部5aは、副切刃6の円弧状切刃部6aに対して等しい半径で周方向の長さが長く形成されていて、主切刃5においては、図14に示すすくい面2側からの透視図において、ニック10は、逃げ面4への開口部における着座面3側に最も凹んだ位置Mが、第2の溝部8Bの開口部よりも、円弧状切刃部5aにおける直線状切刃部5bとの接点Q5とは反対の第1の端部2a側に配置されている。
【0097】
このため、主切刃5のニック105の着座面側に最も凹んだ位置Mは、第2の溝部8Bの開口部よりも主切刃5における円弧状切刃部5a側において、第2の溝部8Bの逃げ面4への開口部とは異なる位置に配置されることになる。従って、副切刃6よりも周方向の長さが長くなる主切刃5の円弧状切刃部5aにニック105が形成されていても、このような周方向の長さの長い主切刃5の円弧状切刃部5aに作用する大きな切削抵抗による切削インサート1の損傷を確実に防止することが可能となる。
【0098】
特に、本実施形態では、このように構成されている場合に、主切刃5において、直線状切刃部5bの逃げ面4に第1、第2の溝部8A,8Bが開口しているとともに、円弧状切刃部5aのすくい面2だけにニック105が形成されている。このため、副切刃6よりも周方向の長さが長い主切刃5の円弧状切刃部5aによって生成される伸延した切屑や、幅広の切屑を確実に分断することが可能となるとともに、この主切刃5の円弧状切刃部5aの逃げ面4には溝部8が開口することがなくなるので、切削インサート1の損傷も一層確実に防止することができる。
【0099】
また、本実施形態では、主切刃5の円弧状切刃部5aは、ニック105を除いて主切刃5の直線状切刃部5bから離れるに従い着座面3側から離れた後に着座面3側に近づく凸曲線状に形成された基本形状を有しており、この基本形状において円弧状切刃部5aが着座面3に対して最も凸となる主切刃最凸点S5から徐々に被削材に切り込まれるので、切削抵抗の低減を図ることができる。
【0100】
そして、こうして主切刃5の円弧状切刃部5aが主切刃最凸点S5から被削材に切り込まれる場合に、本実施形態では、主切刃5のニック105が、この主切刃最凸点S5とは異なる位置に形成されている。このため、このニック105の端部から主切刃5の円弧状切刃部5aが被削材に切り込まれるような事態を防ぐことができるので、このようなニック105の端部から主切刃5が欠損等を生じるのも防止することができる。
【0101】
さらに、このように主切刃5のニック105を主切刃最凸点S5とは異なる位置に形成するのに、本実施形態では、主切刃5の少なくとも1つのニック105が、主切刃最凸点S5よりも、円弧状切刃部5aと直線状切刃部5bとの接点Q5とは反対の第1の端部2a側に配置されている。このため、主切刃5の円弧状切刃部5aにおける主切刃最凸点S5から被削材に切り込まれて生成される切屑が伸延したり、幅広となったりしないように分断することができ、確実な切削抵抗の低減を図ることができる。
【0102】
また、本実施形態では、主切刃5においては、上記平面視に円弧状切刃部5aの中心Pを通り直線状切刃部5bに平行な回転軸回りの回転軌跡の上記回転軸に沿った断面、すなわちエンドミル本体11の軸線O回りの主切刃5の回転軌跡の軸線Oに沿った断面において、上記回転軸のうち円弧状切刃部5aの中心Pから円弧状切刃部5aにおける直線状切刃部5bとの接点Q5とは反対の第1の端部2a側に延びる部分、すなわちエンドミル本体11の先端側に延びる部分と、上記中心Pと主切刃最凸点S5とを結ぶ直線L5とが、43°~47°の範囲内の角度θ5で交差している。このため、主切刃5を円弧状切刃部5aの略中央から被削材に切り込ませることができ、切削抵抗を確実に低減することができる。
【0103】
すなわち、この角度θ5が47°を上回る範囲にあったり、43°を下回る範囲にあったりすると、主切刃最凸点S5が円弧状切刃部5aにおける直線状切刃部5bとの接点Q5側、あるいはこの接点Q5とは反対の第1の端部2a側に位置しすぎてしまう。このため、主切刃5の円弧状切刃部5aが刃先交換式ボールエンドミルの後端外周側や先端内周側から被削材に切り込まれることになり、切削抵抗を十分に低減することができなくなるおそれがある。
【0104】
一方、本実施形態では、副切刃6の円弧状切刃部6aも、ニック106を除いて副切刃6の直線状切刃部6bから離れるに従い着座面3側から離れた後に着座面3側に近づく凸曲線状に形成された基本形状を有しており、主切刃5と同様に副切刃6の円弧状切刃部6aも、この基本形状において着座面3に対して最も凸となる副切刃最凸点S6から被削材に切り込まれることになるので、切削抵抗の低減を図ることができる。
【0105】
さらに、副切刃6のニック106は、逃げ面4への開口部において着座面3側に最も凹んだ位置Mが、この副切刃6の基本形状における副切刃最凸点S6とは異なる位置に配置さられているので、ニック106の端部から副切刃6の円弧状切刃部6aが被削材に切り込まれるのを避けることができ、このようなニック106の端部からの副切刃6の欠損等も容易に防止することができる。
【0106】
また、本実施形態では、この副切刃6のニック106は、逃げ面4への開口部において着座面3側に最も凹んだ位置Mが、副切刃最凸点S6よりも副切刃6の円弧状切刃部6aと直線状切刃部6bとの接点Q6側に配置されている。この副切刃6の円弧状切刃部6aは主切刃5の円弧状切刃部5aよりも周方向の長さが短いので、こうして副切刃6のニック106の着座面3側に最も凹んだ位置Mを、主切刃の円弧状切刃部5aとは逆に、副切刃6の円弧状切刃部6aと直線状切刃部6bとの接点Q6側に配置することにより、この副切刃6の円弧状切刃部6aによって生成される切屑を略等しい幅に分断することが可能となる。
【0107】
さらに、本実施形態では、副切刃6の逃げ面4に開口する溝部8(第1、第2の溝部8A、8B)は、副切刃最凸点S6よりも、副切刃6の円弧状切刃部6aと直線状切刃部6bとの接点Q6側に開口している。このため、上述のように副切刃最凸点S6から副切刃6が被削材に切り込まれる際に、この副切刃最凸点S6とは反対側の着座面3が、副切刃6の逃げ面4に開口する溝部8によって第2のインサート取付座12Bの底面12aに支持されなくなるのを防ぐことができ、副切刃6の円弧状切刃部6aにおける副切刃最凸点S6の支持剛性の向上を図ることができる。
【0108】
さらにまた、副切刃6の少なくとも1つのニック106は、本実施形態では、逃げ面4への開口部において着座面3側に最も凹んだ位置Mが、副切刃最凸点S6と、副切刃6の逃げ面4に開口する溝部8(第2の溝部8B)との間に配置されている。これにより、副切刃最凸点S6から被削材に切り込まれて生成された切屑を、溝部8(第2の溝部8B)との間のニック10によって直ぐに分断することができ、溝部8が開口していることによって第2のインサート取付座12Bの底面12aに支持されていない部分の副切刃6に作用する切削抵抗の軽減を図ることができる。
【0109】
また、本実施形態では、この副切刃6においても、平面視に副切刃6の円弧状切刃部6aの中心Pを通り直線状切刃部6bに平行な回転軸回りの副切刃6の回転軌跡の上記回転軸に沿った断面、すなわちエンドミル本体11の軸線O回りの副切刃6の回転軌跡の軸線Oに沿った断面において、上記回転軸のうち副切刃6の円弧状切刃部6aの中心Pから円弧状切刃部6aにおける直線状切刃部6bとの接点Q6とは反対の端部側に延びる部分、すなわちエンドミル本体11の先端側に延びる部分と、上記中心Pと副切刃最凸点S6とを結ぶ直線L6とが、43°~47°の範囲内の角度θ6で交差している。このため、主切刃5と同様に副切刃6の円弧状切刃部6aを、その略中央から被削材に切り込ませることができるので、切削抵抗を確実に低減することができる。
【0110】
すなわち、主切刃5の場合と同様に、この角度θ6が47°を上回る範囲にあったり、43°を下回る範囲にあったりすると、副切刃最凸点S6が円弧状切刃部6aにおける直線状切刃部6bとの接点Q6側や、この接点Q6とは反対の第2の端部2b側に位置しすぎてしまい、副切刃6の円弧状切刃部6aが刃先交換式ボールエンドミルの後端外周側や先端内周側から被削材に切り込まれることになって、切削抵抗を十分に低減することができなくなるおそれがある。
【0111】
上述したように、本実施形態の切削インサートは、着座面3と、すくい面2と、逃げ面4と、を備え、上記取付ねじ用の取付孔7が上記すくい面2から上記逃げ面4に貫通するように設けられ、上記すくい面2と逃げ面4との交差稜線部には、上記すくい面2に対向する方向から見た平面視において円弧状に延びる円弧状切刃部5aと、この円弧状切刃部5a,6aに接するように延びる直線状切刃部5b、6bと、をそれぞれ備えた2つの切刃5,6が、上記円弧状切刃部5a,6aと上記直線状切刃部5b,6bとを上記すくい面2の周方向に交互に位置させて形成されている。上記すくい面2には、上記切刃5,6に達して上記逃げ面4に開口する凹溝状のニック10が複数形成されるとともに、上記着座面3には、上記逃げ面4に開口するとともに上記逃げ面4に対して向かい側となる側面に貫通する溝部8が2つ形成されている。そして、上記ニック10の逃げ面4側の開口部は、上記すくい面2側からの透視図において、上記溝部8の上記逃げ面4側の開口部とは異なる位置に配置されている。
【0112】
このように、本実施形態の切削インサート1は、貫通溝からなる一対の溝部8(8A,8B)と、周方向で溝部8A,8Bと異なる位置に形成された一対のニック10(105,106)と、を有している。すなわち、切削インサート1において、すくい面2に形成されたニック10の逃げ面4側の開口部における着座面3側に最も凹んだ位置が、すくい面2側からの透視図において、着座面3に形成された溝部8の逃げ面4側の開口部とは異なる位置に配置されており、切刃5,6が延びる方向において、この溝部8の逃げ面4への開口部と重なることがない。従って、ニック10による切削抵抗の低減と溝部8とによる切削インサート1とエンドミル本体11の位置精度を向上させながら、切削インサート1の肉厚を確保することで、切削インサート1自体の強度維持を達成できる。
また、ニック10の最も凹んだ位置と着座面3との間においても十分な肉厚を確保できるため、ニック10の近傍部分における切刃に大きな切削抵抗が作用して、この切削抵抗による応力がニック10の最も凹んだ位置に集中したとしても、溝部8との間で切削インサート1に欠損等の損傷が生じるのを防止することが可能となる。
【0113】
さらに、上記構成の切削インサート1は、着座面3に形成された2つの溝部8A,8Bは貫通形状となっている。従来の構成では、底面に溝部が形成されているものの、片方が非貫通溝形状のため、上述した金型の肉盛り材の高能率加工といったような過酷な切削条件下では、取付位置精度が十分に確保できるとは言えない。その結果、要求される加工面精度とするのが困難な場合がある。これに対して、本実施形態の切削インサート1は、2つの溝部8A,8Bを貫通溝形状とすることでエンドミル本体11に対する位置精度が担保される。また、エンドミル本体11側の凸部14に対する嵌合面積が増加し、エンドミル本体11に対する切削インサート1のずれ動きを抑制できるとともに、肉厚を確保して切削インサート1の強度不足を改善することが可能である。
【0114】
ここで、本実施形態の切削インサート1において、上記溝部8は、溝部8が延びる方向の一端側から他端側に向かうに従い溝幅が狭くなる幅狭部9を有していることが望ましい。これにより、幅狭部9の溝幅が狭くなる他端側においては切削インサート1の肉厚を確保して応力を分散し、強度の向上を図ることができる。
【0115】
一方、逆に幅狭部9の一端側では溝幅が広くなるので、刃先交換式ボールエンドミルにおいて、上記凸部14を、上記溝部8の上記幅狭部9が当接する部分で、該溝部8が延びる方向の上記他端側から上記一端側に向かうに従い幅広となるように形成することにより、切削加工時の負荷に対する取付剛性を高めて切削インサート1のずれ動きを確実に防止することが可能となる。
【0116】
また、本実施形態の切削インサート1は、溝部8に研削面を含んでいてもよい。ここで、本実施形態の切削インサート1は、粉末冶金技術の基本的な工程に沿って製造される。すなわち、切削インサート1が超硬合金製の場合は、炭化タングステン粉末とコバルト粉末を主成分として、必要に応じてクロムやタンタル等を副成分とする顆粒状の造粒粉末を用いて、金型を用いた粉末プレス成形を行う。
こうして得られたプレス成形体は、適切な雰囲気と温度に制御された焼結炉内で所定の時間焼結することにより、切削インサート1となる焼結体を製造することができる。その後、必要に応じて研削砥石を用いた研削加工を施すこともある。
【0117】
本実施形態の切削インサート1は、溝部8に研削砥石によって研削加工された研削面を含む。つまり、焼結体(焼結肌)では得られなかった表面粗さRaが1.6μm以下の箇所を含む。ここで、溝部8は着座面3に垂直な2つの平面と、その間に延びる着座面3に平行な底面で構成されるが、着座面3に垂直な2つの壁面8a、8bもしくは8d、8eのうち、取付孔7に近い壁面8a、8dが研削面であることが望ましい。研削面を含むことで、エンドミル本体11に取り付けられた際にがたつき等が生じにくくなることに加え、切削加工時に切削抵抗を受けてエンドミル本体11に対する切削インサート1のずれ動きをより抑制することが可能である。その結果、加工面の精度が確保される。
【0118】
溝部8A,8Bは、研削加工によって作製されるため表面粗さが小さく、エンドミル本体11側の凸部14に対するずれ動きを抑制する効果が高い。また、本実施形態の溝部8A,8Bは、各壁面8a、8bの表面粗さRaが1.6μm以下の箇所を含むため、エンドミル本体11に取り付けられた際にがたつき等が生じにくく、エンドミル本体11に対する切削インサート1のずれ動きをより抑制することが可能である。
【0119】
このような切削インサート1がエンドミル本体11に取り付けられた刃先交換式回転切削工具によれば、金型肉盛り材の様な形状が大きく起伏する被削材を高効率加工する場合であっても、軸方向への切り込み量の変動や、走査線加工で軸方向に進む加工パスの高効率化に関わらず、ニック10に切削抵抗削減効果を超える負担がかかるのを防ぐことが可能である。
【0120】
なお、研削面の表面粗さは、好ましくは表面粗さRaが0.8μm以下、より好ましくは表面粗さRaが0.2μm以下とすることで、切削インサート1の取付位置精度がより向上する。
【0121】
また、本実施形態の切削インサート1は、上記刃先交換式ボールエンドミルの切刃5、6のうち、一方は主切刃とされるとともに他方は副切刃とされ、上記主切刃5の円弧状切刃部5aは、上記副切刃6の円弧状切刃部6aに対して周方向の長さが長く形成されている構成とされている。
【0122】
上述の構成とすることで、1つのエンドミル本体11に取り付く切削インサート1の種類を1種類とすることができ、作業者の切削インサート1の管理負担を減らすことができる。
【0123】
また、本実施形態の切削インサート1は、上記ニック10で分断された円弧状切刃部5a、6aの長さは、全て異なる構成としてもよい。
【0124】
上述の構成とすることで、切削時に切削インサート1の被削材への食いつき間隔をずらし、ビビり振動を抑制することが可能となる。
また、ニック10は切りくずを分断し切削抵抗を低減させる作用効果があるが、その反面、ニック10が形成された部分は切れ刃として作用しない。そこで上述の構成とすることで、ニック10による削り残しをなくすことができる。加えて、ニック10によって分断された切れ刃長さを全て異なる構成とすることで、ニック10の大きさや長さといった形状の自由度を広げることができる。
【0125】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例、参考例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0126】
本発明の切削インサートは、切刃にニックを備えるとともに着座面に貫通する嵌合部を2つ備えることで、ニックによる切りくず分断効果と嵌合部(貫通溝)による位置精度の向上ができるだけでなく、ニックの逃げ面側の開口部がすくい面側からの透視図において嵌合部の逃げ面側の開口部とは異なる位置に配置されていることで、肉厚を確保して切削インサートの強度を確保することが可能となる。また、嵌合部は研削面の箇所を含むため、工具本体に対するずれ動きをより抑制することが可能である。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0127】
1(1A、1B) 切削インサート
2 すくい面
3 着座面
4 逃げ面
5 主切刃
5a 主切刃5の円弧状切刃部
5b 主切刃5の直線状切刃部
6 副切刃
6a 副切刃6の円弧状切刃部
6b 副切刃6の直線状切刃部
7 取付孔
8、8A、8B 溝部(嵌合部)
8a 第1の壁面
8b 第2の壁面
8c 底面
8d 第1の壁面
8e 第2の壁面
9,9A,9B 幅狭部
10(105,106) ニック
11 エンドミル本体(工具本体)
12(12A、12B) インサート取付座(取付座)
14A、14B、14C 凸部
15 クランプネジ(取付ねじ)
100 刃先交換式ボールエンドミル(刃先交換式回転切削工具)
M ニック10の着座面3側に最も凹んだ位置
P 主切刃5と副切刃6の円弧状切刃部5a、6aがなす円弧の中心
Q5 主切刃5の円弧状切刃部5aと直線状切刃部5bとの接点
Q6 副切刃6の円弧状切刃部6aと直線状切刃部6bとの接点
S5 主切刃最凸点
S6 副切刃最凸点
L5 中心Pと主切刃最凸点S5とを結ぶ直線
L6 中心Pと副切刃最凸点S6とを結ぶ直線
θ5 主切刃5の円弧状切刃部5aの中心Pを通り、直線状切刃部5bに平行な回転軸回りの主切刃5の回転軌跡の回転軸に沿った断面における中心Pから接点Q5とは反対の端部側に延びる部分と直線L5とが交差する角度
θ6 副切刃6の円弧状切刃部6aの中心Pを通り、直線状切刃部6bに平行な回転軸回りの副切刃6の回転軌跡の回転軸に沿った断面における中心Pから接点Q6とは反対の端部側に延びる部分と直線L6とが交差する角度
O 工具回転軸(エンドミル本体11の軸線)
T エンドミル回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14