IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日本電工株式会社の特許一覧 ▶ 富山県の特許一覧

特開2023-131661ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末
<>
  • 特開-ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末 図1
  • 特開-ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末 図2
  • 特開-ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末 図3
  • 特開-ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末 図4
  • 特開-ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末 図5
  • 特開-ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131661
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末
(51)【国際特許分類】
   C22C 33/02 20060101AFI20230914BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230914BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20230914BHJP
   B22F 10/366 20210101ALI20230914BHJP
   B22F 10/36 20210101ALI20230914BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230914BHJP
【FI】
C22C33/02 103B
B22F1/00 S
B22F10/28
B22F10/366
B22F10/36
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036549
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】菊池 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亮
(72)【発明者】
【氏名】片山 真吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴文
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA33
4K018AB04
4K018BA17
4K018BB04
(57)【要約】
【課題】3D造形によるホウ化チタン分散鋼であって、ホウ化チタン分散強化を効果的に発現できるホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末を提供することを課題とする。
【解決手段】ホウ化チタン分散鋼であって、平均粒径が投影面積円相当直径で3.0μm以下のホウ化チタン粒子が含まれており、前記ホウ化チタン粒子が集合体で存在し、前記集合体のサイズが5μm以上20μm以下であり、前記集合体が鋼中に点在しているホウ化チタン分散強化鋼である。パウダーベッド溶融造形法でホウ化チタン分散鋼を製造する方法であって、ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料とし、前記ホウ化チタンを溶融しないエネルギー密度となるレーザー出力と走査速度の組み合わせ条件で造形するホウ化チタン分散強化鋼の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ化チタン分散鋼であって、
平均粒径が投影面積円相当直径で3.0μm以下のホウ化チタン粒子が含まれており、
前記ホウ化チタン粒子が集合体で存在し、
前記集合体の平均サイズが5μm以上20μm以下であり、
前記集合体が鋼中に点在している
ことを特徴とするホウ化チタン分散強化鋼。
【請求項2】
前記ホウ化チタン分散強化鋼のBとTiの含有量(モル)が、モル比で1.6以上2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のホウ化チタン分散強化鋼。
【請求項3】
前記ホウ化チタン分散強化鋼のBとTiの含有量(モル)が、モル比で1.7以上2.0未満であることを特徴とする請求項1に記載のホウ化チタン分散強化鋼。
【請求項4】
前記鋼が、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS630の中から選ばれる1種、又は2種以上を混合した鋼であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のホウ化チタン分散強化鋼。
【請求項5】
パウダーベッド溶融造形法でホウ化チタン分散強化鋼を製造する方法であって、
ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料とし、
前記ホウ化チタンの粒成長を抑制するエネルギー密度となるレーザー出力と走査速度の組み合わせ条件で造形する
ことを特徴とするホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項6】
パウダーベッド溶融造形法でホウ化チタン分散強化鋼を製造する方法であって、
ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料とし、
前記ホウ化チタンを溶融しないエネルギー密度となるレーザー出力と走査速度の組み合わせ条件で造形する
ことを特徴とするホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項7】
前記エネルギー密度が、50J/mm3以上200J/mm3以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載のホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項8】
前記レーザー出力が50W以上100W以下であり、前記走査速度が50mm/s以上500mm/s以下であることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載のホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末が、粉砕紛であって流動度が20秒/50g以下であることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項10】
前記ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末が、粉砕紛であって、篩目5μm以上50μm以下の篩で篩った篩上紛であることを特徴とする請求項5~9のいずれか1項に記載のホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項11】
ホウ化チタン含有量を5質量%以下とすることを特徴とする請求項5~10のいずれか1項に記載のホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【請求項12】
ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末であって、該複合粉末が粉砕紛であり、その流動度が20秒/50gであることを特徴とするホウ化チタン分散用の原料粉末。
【請求項13】
BとTiの含有量(モル)が、モル比で1.7以上2.0未満であることを特徴とする請求項12に記載のホウ化チタン分散用の原料粉末。
【請求項14】
ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末であって、該複合粉末が粉砕紛であり、篩目5μm以上50μm以下の篩で篩った篩上紛であることを特徴とする請求項12又は13に記載のホウ化チタン分散用の原料粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンター(三次元造形装置、3D造形装置)による積層造形技術 (Additive manufacturing)はここ数年で目覚ましい進歩を遂げ、欧米では航空機部品、自動車部品、人体の義肢等において実用化が進んでいる。使用される材料は樹脂、金属、セラミックス等多種類にわたるが、近年強度を必要とする部品の需要増に伴い、金属粉末の割合が次第に増加してきている。金属粉末にはステンレス系、チタン系、アルミ系、コバルトクロム系、ニッケル系、銅などがあり、3Dプリンターの機種や用途に応じて組成や粒度を調整している。
【0003】
3Dプリンターの積層造形技術は、粉末の供給方法、粉末の平滑化方法、溶融の熱源(レーザービーム、電子ビーム)等の違い、さらには造形後に研削して形状を整えるいわゆるハイブリッド方式のものまでありその種類は多いが、粉末の供給方法で大別するとPBF法(粉末床溶融法、Powder bed fusion)とDED(指向性エネルギー堆積法、Directed energy deposition)に分けられる。
【0004】
前者は、粉末をテーブルに供給した後、リコーター又はローラーによって層厚を一定に調整後にレーザーを照射して溶融し、これを繰り返して積層造形するものである。積層造形においてはレーザー照射条件、いわゆるパラメーターは非常に重要なものであり、その水準と組み合わせにより造形品の状態が大きく変化する。主なパラメーターとして下記の項目が挙げられる。
【0005】
[1]レーザー出力(W)
[2]走査速度(mm/s)
[3]走査ピッチ(mm)
[4]積層厚さ(mm)
【0006】
これらのパラメーターによりエネルギー密度(J/mm3)が決まるが、それにより金属の溶融状態が大きく影響されるので、これを適正水準に保つことはきわめて重要である。
【0007】
後者は、粉末をアルゴンAr等の気流によって造形ノズルまで空送し、ベースプレートに落下させると同時にレーザーを照射して溶融、積層するものであり、パラメーターとして下記の項目が挙げられる。
【0008】
[1]レーザー出力(W)
[2]ヘッド送り速度(mm/s)
[3]粉末供給速度(g/min)
【0009】
一般に、PBF法の方が造形精度が高く寸法誤差は少ないのに対して、DED法はPBF法より精度は劣るが、大型のものにも適応できる、複数の材料を同時に用いて部分的に異なる材料を積層させる複層造形ができるなどの特徴を有しているので、これらは造形の用途や目的により使い分けられている。ただDED法は粉末をAr気流で造形ノズルまで送るところまでは問題ないが、ノズル周辺は空気雰囲気なので空気の巻き込みを完全に避けることはできず、金属粉末は造形時に多少なりとも酸化される。それに対してPBF方は造形室内をN2又はArで置換し、酸素濃度をおおむね0.1%以下とすることができるので、酸化されやすい金属の場合はこの方式の方が適している。
【0010】
上述の3D造形装置で作製する3D造形物、例えば、3D造形鋼は、3Dプリンターの提供する鋼粉末を使用するものに限られている(特許文献1、特許文献2)。すなわち、従来からある鋼、例えば、ステンレス系鋼、マルエージング鋼、インコネル、機械構造用炭素鋼、等がある。
【0011】
非特許文献1では、SUS316L粉末だけなくTiB2粉末を混合して3D造形している例が開示されている。非特許文献1では、純度99.0%、粒径2-12μmのTiB2粉末を平均粒径45μmのSUS316L粉末とボールミルを用いて8時間混合し、これをPBF法の3Dプリンターを用いて8mm×6mmの円筒を造形している。
【0012】
また、特許文献3には、粒内にFe及びTiB2を含むホウ化チタン含有粉末が開示され、前記粉末を用いて合金等に分散して使用される場合、母合金等の分散媒にホウ化チタン粒が凝集することなく微細分散しやすいとされている。
【0013】
また、特許文献4には、セラミックスとFeからなる複合粉末の粉砕紛と、ステンレス系粉末との混合粉末からなる造形用粉末が開示され、前記セラミックスにTiB2が含まれることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2019/124296号
【特許文献2】特開2017-186653号公報
【特許文献3】特開2017-88972号公報
【特許文献4】特開2020-164916号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】B.AlMangour, D.Grzesiak, J.M.Yang, “Rapid fabrication of bulk-form TiB2/316L stainless steel nanocomposites with novel Reinforcement architecture and improve performance by selective laser melting” Journal of Alloys and Compounds 680 (2016)480-493.
【非特許文献2】B.AlMangour, D.Grzesiak, J.M.Yang, ”Selective laser melting of TiB2/316L stainless steel composites: The roles of powder preparation and hot isostatic pressing post-treatment” Powder Technology 309 (2017)37-48.
【非特許文献3】Bandar AlMangoura, Young-Kyun Kimb, Dariusz Grzesiakc, Kee-Ahn Leeb, “Novel TiB2-reinforced 316L stainless steel nanocomposites with excellent room- and high-temperature yield strength developed by additive manufacturing” Composites Part B 156 (2019)51-63.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非特許文献1~3には、造形時のパラメーターも示されているが、これは純粋なTiB2粉末を用いたものなので、SUS316L粉末と混合するだけではTiB2が十分分散された造形品とするのが難しい。よって、TiB2添加量の割には、硬度の向上が小さくなっている。
【0017】
一方、特許文献3には、TiB2/Fe複合粉末が開示されており、これを焼結金属に添加するとTiB2が均質の分散できるとしている。焼結金属においては、TiB2粉末をそのまま添加するよりは前記TiB2/Fe複合粉末を用いする方が効果てきであるが、焼結金属プロセスにおける熱履歴ではTiB2が幾分粒成長する。
【0018】
特許文献4では、TiB2/Fe複合粉末を用いて3Dプリンターによる造形するとTiB2が前述のような焼結金属よりは微細分散できて硬度が向上することが開示されている。
【0019】
以上のことから、TiB2を分散すると硬度が向上すること、TiB2/Fe複合粉末を用いるとより均質にTiB2を分散できること、3Dプリンターによる造形においてもTiB2分散による硬度向上が認められることが分かる。
【0020】
しかしながら、特に、3D造形鋼ではホウ化チタン分散強化をさらに効率よく行うことが望まれる。すなわち、できるだけ少ないホウ化チタンで十分な強化を発現することが望まれる。
【0021】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、3D造形によるホウ化チタン分散鋼であって、ホウ化チタン分散強化を効果的に発現できるホウ化チタン分散強化鋼、ホウ化チタン分散強化鋼の製造方法、及びホウ化チタン分散用の原料粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、ホウ化チタンの分散強化を飛躍的に発揮するためには、鋼中に、微細なホウ化チタン粒子が集合して形成される集合体が分散した組織である方がよいということを見出し、本発明に至った。また、本発明者らは、前記組織を形成する方法の一つとして、パウダーベッド溶融造形方法において、ホウ化チタン(TiB2)と鉄を含む複合粉末を用いること、前記ホウ化チタンの粒成長を抑制できる小さなエネルギー密度で造形すると(例えば、前記ホウ化チタンを溶融しない小さなエネルギー密度で造形すると)、ホウ化チタンの粒成長が抑えられ、ホウ化チタンが微細分散した望ましいホウ化チタン分散強化3D造形鋼を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0023】
すなわち本発明は以下を要旨とするものである。
【0024】
(1)ホウ化チタン分散鋼であって、平均粒径が投影面積円相当直径で3.0μm以下のホウ化チタン粒子が含まれており、前記ホウ化チタン粒子が集合体で存在し、前記集合体の平均サイズが5μm以上20μm以下であり、前記集合体が鋼中に点在していることを特徴とするホウ化チタン分散強化鋼。
【0025】
(2)前記ホウ化チタン分散強化鋼のBとTiの含有量(モル)が、モル比で1.6以上2.0以下であることを特徴とする前記(1)のホウ化チタン分散強化鋼。
【0026】
(3)前記ホウ化チタン分散強化鋼のBとTiの含有量(モル)が、モル比で1.7以上2.0未満であることを特徴とする前記(1)のホウ化チタン分散強化鋼。
【0027】
(4)前記鋼が、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS630の中から選ばれる1種、又は2種以上を混合した鋼であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかのホウ化チタン分散強化鋼。
【0028】
(5)パウダーベッド溶融造形法でホウ化チタン分散強化鋼を製造する方法であって、ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料とし、前記ホウ化チタンの粒成長を抑制するエネルギー密度となるレーザー出力と走査速度の組み合わせ条件で造形することを特徴とするホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0029】
(6)パウダーベッド溶融造形法でホウ化チタン分散強化鋼を製造する方法であって、ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料とし、前記ホウ化チタンを溶融しないエネルギー密度となるレーザー出力と走査速度の組み合わせ条件で造形することを特徴とするホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0030】
(7)前記エネルギー密度が、50J/mm3以上200J/mm3以下であることを特徴とする前記(5)又は(6)のホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0031】
(8)前記レーザー出力が50W以上100W以下であり、前記走査速度が50mm/s以上500mm/s以下であることを特徴とする前記(5)~(7)のいずれかのホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0032】
(9)前記ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末が、粉砕紛であって流動度が20秒/50g以下であることを特徴とする前記(5)~(8)のいずれかのホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0033】
(10)前記ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末が、粉砕紛であって、篩目5μm以上50μm以の篩で篩った篩上紛であることを特徴とする前記(5)~(9)のいずれかのホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0034】
(11)ホウ化チタン含有量を5質量%以下とすることを特徴とする前記(5)~(10)のいずれかのホウ化チタン分散強化鋼の製造方法。
【0035】
(12)ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末であって、該複合粉末が粉砕紛であり、その流動度が20秒/50gであることを特徴とするホウ化チタン分散用の原料粉末。
【0036】
(13)BとTiの含有量(モル)が、モル比で1.7以上2.0未満であることを特徴とする前記(12)のホウ化チタン分散用の原料粉末。
【0037】
(14)ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末であって、該複合粉末が粉砕紛であり、篩目5μm以上50μm以下の篩で篩った篩上紛であることを特徴とする前記(12)又は(13)のホウ化チタン分散用の原料粉末。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、大きな強度向上や硬度向上させたホウ化チタン分散強化3D造形鋼が得られるという作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、本発明のホウ化チタン分散組織の典型的例を示す電子顕微鏡写真である。
図2図2は、本発明の製造方法で使用するホウ化チタン/鉄複合粉末の粒子内部構造を示す代表例(電子顕微鏡写真)である。
図3図3は、本発明のホウ化チタン分散強化3D造形鋼の造形品の例である。
図4図4は、引張試験に用いたホウ化チタン分散強化3D造形鋼の造形品の例である。
図5図5は、ホウ化チタン分散強化SUS316Lの3D造形鋼における強度向上率及び硬度向上率に対するホウ化チタンTiB2の含有量の影響を示す図である。
図6図6は、ホウ化チタン分散強化3D造形鋼(MS1、SUS304、SUS603)における強度向上率及び硬度向上率の比較例と実施例の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0041】
本発明のホウ化チタン分散強化鋼は、3D造形により製造されるホウ化チタン分散強化3D造形鋼であって、平均粒径が投影面積円相当直径で3.0μm以下のホウ化チタン粒子が含まれる。そして、前記ホウ化チタン粒子は、サイズが5μm以上20μm以下の集合体として鋼中に点在している。図1は、典型的な本発明のホウ化チタン分散鋼の組織の電子顕微鏡写真である。
【0042】
このような構成にすることによって、大きな強度向上や硬度向上させたホウ化チタン分散強化鋼が得られるという従来とは飛躍的に異なる作用効果が得られるものである。
【0043】
硬度の大きいホウ化チタン粒子を鋼に分散することで分散強化できる。3D造形(Additive Manufacturing、AM)によって作製する鋼においてホウ化チタン粒子分散強化の効果を飛躍的向上させるためにはどのような組織構造にすべきかを発明者らが詳細に研究した結果、前述の組織構造にするという結論に至った。
【0044】
鋼の中に分散しているホウ化チタン粒子の平均粒径は、分散強化の効果を効率よく得るために、投影面積円相当直径で3.0μm以下とする。より微細なホウ化チタン粒子を分散すれば本発明の作用効果を得やすくなる。ただし、0.1μm未満のホウ化チタン粒子を形成させるのは容易ではないので、0.1μmを下限としてもよい。
【0045】
そして、ホウ化チタン粒子は、投影面積円相当直径が5μm以上20μm以下の集合体で存在する、すなわち、分散の階層構造を有する。このような2つの階層で組織構造を形成することによって、従来になく効率的に分散強化できる。集合体の平均サイズを投影面積円相当直径で5μm以上20μmとすることにより、大きな強度向上の効果を得ることができる。
【0046】
ホウ化チタンの集合体間の距離や点在の程度はとくに限定されない。例えば、面積率で1~10%程度で集合体を分布させることができる。
【0047】
本発明において鋼の中に分散しているホウ化チタン粒子の平均粒径は、図1のように電子顕微鏡でホウ化チタン粒子を観察し、投影面積円相当直径を求めたものであり、5視野を観察して50個の平均値とする。
【0048】
本発明でいうホウ化チタン粒子の集合体の平均サイズは、図1の電子顕微鏡で観察される集合体(粒子群)の投影面積円相当直径を求めたものであり、5視野を観察して50個の平均値とする。
【0049】
本発明のホウ化チタン分散強化鋼では、BとTiの含有量(モル)の比(以下「B/Tiモル比」という)が1.6以上2.0以下であることが好ましい。
【0050】
Ti-B状態図から、B/Tiモル比が2.0を超えるとTiB2相とB相の2相領域に入るので低融点のFe-B(フェロボロン)が形成されて分散強化の効果が十分得られなかったり、高温安定性が得られなかったりする場合がある。よって、B/Tiモル比が2.0以下であるのがより好ましい。一方、B/Tiモル比が1.6未満になると、TiB2相よりも低融点のTi34相も形成されてTiB2相の割合が少なくなるので好ましくない場合がある。前記B/Tiモル比で2.0未満1.7以上であるのがより好ましい。
【0051】
なお、上述のように、TiB2相は、TiB2-x(0≦x≦1.6)の固溶体を形成するので、厳密には「TiB2-x」という表記になるが、ここでは特に断りが無い限り「TiB2」と表記して固溶体組成も含むことにする。
【0052】
本発明のホウ化チタン分散強化鋼の鋼は、鉄(Fe)を含む合金であればよい。SUS304、SUS316、SUS316L、SUS630の中から選ばれる1種、又は2種以上を混合した鋼であるのがより好ましい。ホウ化チタン分散強化の効果が得られやすいからである。
【0053】
本発明のホウ化チタン分散強化鋼は、上述の組織構造にできる3D造形方法であれば、どのような方式で作製しても構わない。例えば、パウダーベッド溶融造形法(以下「PBF法」という)、指向性エネルギー堆積法(以下「DED法」という)、熱溶解積層方式(FDM、Fused Deposition Modeling法)、アーク溶接方式、バインダージェット方式、超音速堆積法、液体金属堆積法、等が挙げられる。
【0054】
以下に、PBF法によるホウ化チタン分散強化鋼の本発明の製造方法を説明する。
【0055】
本発明のPBF法によるホウ化チタン分散鋼の製造方法においては、ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料とし、ホウ化チタンの粒成長を抑制できるエネルギー密度となるレーザー出力と走査速度の組み合わせ条件で造形することでホウ化チタン分散強化鋼を製造する。ホウ化チタンの粒成長を抑制し3D造形を行うことによって、上述したように、微細なホウ化チタン粒子を鋼中に、集合体として分散させることができ、ホウ化チタンによる分散強化が効果的に発現できる。また、3D造形物に発生するクラックを低減することもできる。
【0056】
また、PBF法のホウ化チタン源として、ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末を使用するのも上記効果を得るのに有効な方法であり、両方を組み合わせることで本発明の作用効果を得ることができる。
【0057】
本発明で用いるホウ化チタンと鉄を含む複合粉末は、図2のように、平均粒径が投影面積円相当直径で3.0μm以下のホウ化チタン粒子が含まれている鉄マトリックスの複合構造を有するのが好ましい。
【0058】
本発明のホウ化チタン分散強化鋼の原料となるホウ化チタンと鉄を含む複合粉末の製造方法の1つの例を以下に述べる。
【0059】
フェロチタン粉末とフェロボロン粉末を混合後に不活性ガス雰囲気で焼成し、それを粉砕、分級する。これにより、マトリックスである鉄Fe粒子中にホウ化チタンTiB2が均一に分散した複合粉末が得られる(図2)。適正な粒度に調整されているので凝集性はほとんどなく、3Dプリンター用原料粉末にする時は鋼粉末、例えばSUS316L粉末と容易に均一に混合することができる。
【0060】
一方、非特許文献1に記載されているような純粋なホウ化チタン(複合でない)は、その製造方法に起因して微細な粒子はできず、10μm以上の粒径を有する粒子がほとんどである。粒子を粉砕して微細な粒子にすることもできるが、ホウ化チタンは硬いので粉砕しづらく、粉砕したとしても粉塵爆発等を避けるような措置が必要になる。このような問題があるにも関わらず、数μmの微粒子にしたとしても凝集性が強く、鋼粒子、例えば、SUS316L粉末と混合するのに長時間を要するだけではなく、混合後も一部凝集した粒子が残る。本発明におけるホウ化チタンと鉄を含む複合粉末は、ホウ化チタンの存在形態、粒径が非特許文献1に記載の混合粉末とは全く異なるため、レーザー照射時の溶融、凝固の挙動は当然異なる。
【0061】
本発明のホウ化チタン分散強化鋼を製造するには、本発明の必須要件を満たしていればどのような方法でもよい。例えば、ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末と鋼粉末との混合粉末を原料にして3D造形して製造する方法が挙げられる。前記3D造形において、ホウ化チタンの粒成長を抑制できるような急加熱・吸冷却して製造するのが好ましい。これは、ホウ化チタンを微細分散した鋼が得られやすいからである。さらに、前記ホウ化チタンの粒成長を抑制できるような3D造形の1つに、3D造形において供給するエネルギーをホウ化チタンが溶融しない条件とする方法が挙げられる。
【0062】
PBF法によるホウ化チタン分散鋼の製造方法においては、エネルギー密度が、80J/mm2以上200J/mm3以下であるのがより好ましい。この範囲にすると、3D造形物の密度が上がりやすくなりかつクラックが発生ししにくくなる。特に、鋼粒子がSUS316Lの場合にはより好適である。
【0063】
また、レーザー出力が50W以上100W以下であり、前記走査速度が50mm/s以上500mm/s以下であるのがより好ましい。この範囲にすると、より、3D造形物の密度が上がりやすくなりかつクラックが発生しし難くなる。
【0064】
PBF法による造形では、一般に、100W超300W以下の出力でレーザーを照射し、また、生産性を上げるために500mm/s超2000mm/s以下の高速の走査速度で運転する場合が多い。これにより部材はきわめて急激な加熱と冷却を受け、それに伴い急激な溶融・熱膨張と収縮・凝固が起きて部材内に残留応力を生じる。一旦凝固した後も上層積層時の熱の影響も繰り返し受けるので、残留応力はさらに増加する。その結果、造形物が反ったり大きく割れたり、あるいは微小クラックを生じる現象が発生する。残留応力は造形物の大きさや形状にも影響されるので、大きさの制約や形状への工夫が必要となり、実生産上の制約となっている。製造は可能であるがある確率でクラックが生じる場合は、製品合格率が低下してコスト上昇となる。微小クラックが表面に生じて外観で検知できる場合はよいが、内部に微小クラックが生じて検知されず、そのまま工程を通過した場合は最終製品に部品として組み込まれることになり、この場合は用途によっては故障発生の原因ともなりかねない。
【0065】
ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末は、粉砕紛であって流動度が20秒/50g以下であるのがより好ましい。3D造形では、原料粉末の供給等でその流動性に優れる方が好ましく、JISZ2502:2020(金属粉―流動度測定方法)に基づいて測定される流動度が上記のように20秒/50g以下がより好ましく、16秒/50g以下であるのがさらに好ましい。流動度が小さければ小さい方が良いので下限値はないが、原理的には0秒/50gはあり得ないので、0秒/50g超となる。
【0066】
ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末は、粉砕紛であって、篩目(目開き)50μm以下5μm以上の篩で篩った篩上紛であるのがより好ましい。すなわち、前記ホウ化チタンと鉄を含む複合粉末が、粉砕紛である場合には微粉をカットする方が流動性に優れる場合があるのでより好ましく、篩目50μm以下5μm以上の篩で篩った篩上紛であるのがより好ましい。さらに好ましくは篩目25μmの篩で篩った篩上紛とする。
【0067】
ホウ化チタン分散強化鋼中のホウ化チタン含有量は、3D造形物におけるクラック発生の観点からは、10質量%以下とするのが好ましく、5質量%以下とするのがさらに好ましい。一方、強度、硬度、ヤング率向上の観点からは、ホウ化チタンの含有量が少量であっても効果は得られるが、5質量%を超えると、分散強化による強度、硬度、ヤング率向上の効果が顕著になる。ホウ化チタン含有量は、クラック発生と分散強化とのバランスを考え、用途に応じて、適宜設定すればよい。
【0068】
SUS316L、マルエージング鋼をはじめとして多くの種類の鋼で3Dプリンターによる実生産が行われている。単一の金属材料、あるいはチタン系合金やコバルトクロム系鋼のような複数の金属のみからなる材料を用いた場合、パラメーターを適正に調整すれば、比較的容易に制御できるようになる。これらに対して、セラミックスであるホウ化チタンを金属である、例えばSUS316Lのような鋼に添加したものでは状況が大きく異なり、3D造形の難易度ははるかに高くなる。難易度が高くなる原因の1つは、3D造形にクラックが生じやすくなることである。
【0069】
このようなクラックが生成する一つの可能性として、ホウ化チタンと鋼(例えば、SUS316L)との界面に最初に微小クラックが生じた後、それが周囲に伝播してクラックが大きくなり、ついには大きな亀裂になるということが考えられる。しかしながら、3D造形品のクラックを顕微鏡で観察すると、造形体の外表面から内部へ向かってクラックが伝搬しており、ホウ化チタンとの界面を介しての亀裂伝播のようには見えない。3D造形品のクラックは、ホウ化チタンの添加により、硬度が増す反面、母材鋼の伸びすなわち延性が低下して脆くなるため、レーザー照射時の熱応力により外表面にクラックが生じた場合、内部へ向かって脆性破壊がいっきに進行した結果と思われる。
【0070】
このように急激な加熱、冷却時の熱応力がクラックの主要原因と考えられるが、一般にセラミックスと金属とは熱膨張率が大きく異なるため、金属にセラミックスを添加した場合は、金属単独の場合と比べて残留応力がはるかに大きくなり、クラックをより生じやすくなると考えられる。例に挙げれば、鋼母材SUS316Lとホウ化チタンの線膨張率は約3倍も異なっており、これが積層造形時のひずみや変形、あるいはクラックの生成を助長しているものと考えられる。
【0071】
例えば、SUS316L単独の造形の場合はすでに造形時のパラメーターは確立されており、種々の部品が製造され実用化されている。パラメーターはメーカー及び機種により異なるが、LMD法の場合はおおむねレーザー出力100W超300W以下、走査速度500mm/s超2,500mm/s以下、走査ピッチ30μm以上90μm未満、積層厚さ20μm超60μm以下の条件で行われることが多い。これらのパラメーターは、外観に特に問題なく、造形品の寸法精度を保ちつつ、造形品の相対密度が一般に99.0%以上、さらには99.5%以上になるように調整されている。一方、同じSUS316Lの粉末であってもメーカーによって製造設備や製造条件が異なり、得られた粉末の粒度幅や粒度分布、形状や表面状態に微妙に差があるので、その粉末ごとに改めてパラメーターの調整を行うことも必要である。
【0072】
このようなパラメーターの調整により、SUS316L粉末を用いた3Dプリンターによる造形ではある程度の大きさの部品までなら実用化されているが、ここにホウ化チタンと鉄の複合粉末を添加すると、金属であるSUS316Lの中にセラミックスの一種であるホウ化チタンが含有されることになるので、パラメーターの大幅な調整が必要となる。本発明者らが見出した方法としては、SUS316Lのパラメーターをベースとし、ホウ化チタンと鉄の含有量を徐々に増加させながらパラメーターを調整することである。以下、具体的に説明する。
【0073】
ホウ化チタンと鉄の複合粉末とSUS316L粉末を混合後のホウ化チタンの含有量が2質量%以下の場合は添加量が少ないため、パラメーターは通常の条件であってもほとんど問題はなく、クラックや反りのなく相対密度99.0%以上の造形品を得ることができる。しかし、ホウ化チタンの含有量が4質量%となると、70J/mm3以下の低エネルギー密度ではクラックは生じないが、鉄とSUS316Lの溶融不十分で相対密度が上がらず、エネルギー密度を上げて相対密度が99.0%以上でるようにすると、クラックや反りを生じて不良な造形品となる。ホウ化チタン含有量が5質量%になるとその傾向がより顕著となり、クラックがひどくなり造形品は大きく割れる現象もみられるようになる。
【0074】
SUS316L単独でも大きい部品の場合はクラックを生じやすくなる。これは急激な加熱による熱膨張と急激な冷却による収縮に起因する残留応力が原因と考えられている。ホウ化チタン含有SUS316Lでも同様であるが、この場合は比較的小さなサイズの部品でも、上述したようにホウ化チタン含有量4質量%からクラックを生じるようになる。この原因は残留応力に加えて、金属であるSUS316Lとセラミックスであるホウ化チタンの熱膨張率の大幅な違いに起因しているものと考えられる。すなわち線膨張率3倍も異なるため、急激な加熱と急激な冷却に対してより敏感となり、残留応力が大幅に増加するためと考えられる。
【0075】
SUS316Lは耐食性を最大の特徴としているが、一般に強度や耐摩耗性が不足しており、その用途には制約があった。本発明の製造方法によってホウ化チタン分散強化すると、SUS316Lの本来の特性を維持しつつ、ビッカース硬度の大幅な向上により強度や耐摩耗性が増加するので、SUS316Lを用いた3Dプリンター部品の用途が大きく広がることが期待できる。例えばホウ化チタン含有量3.5質量%ではビッカース硬度がSUS316L単独の場合と比べて約2倍となり、強度や耐摩耗性もおおむね2倍となるので、新規用途への期待が大きく広がる。
【実施例0076】
以下、本発明の実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものはない。
【0077】
(ホウ化チタン/鉄複合粉末の作製)
【0078】
フェロチタン粉末(粒度150μm以下、Ti含有量70質量%)とフェロボロン粉末(粒度63μm以下、B含有量18質量%)をV型混合機で30分混合後、マグネシアルツボに充填して真空炉に装入した。アルゴン置換して10-5MPa以下まで真空引き後昇温を開始し、所定(表1、反応温度)の温度で2hr保持加熱した。冷却後取り出し、ジョークラッシャーにかけて数cmの塊に粗割後、2段目粉砕としてボールミル粉砕を5hr、3段目粉砕として振動ミル粉砕を10hr行った。
【0079】
このようにして得られたホウ化チタン/鉄複合粉末は、篩目75μmの篩で篩った篩下紛を所定(表1)の篩目の篩で篩った篩上紛として分級した。
【0080】
ホウ化チタン/鉄複合粉末の流動度はJIS Z-2502に規定された金属粉の流動度測定方法に準じた方法で測定した。すなわち、乾燥した粉末50gを出口が塞がれた所定の形状の漏斗に供給し、出口を開放して粉末が落下し始めてから全量が落下するまでの時間を測定した。
【0081】
(ホウ化チタン/鉄複合粉末と鋼粉末の3D造形)
【0082】
上記ホウ化チタン/鉄複合粉末を用いて、混合粉末に占めるホウ化チタンの含有割合が表1に示したようになるように表1に示した各鋼(ステンレス鋼SUS316L、SUS304、SUS630、マルエージング鋼MS1)のアトマイズ粉と混合し造形用粉末を作製した。
【0083】
次に、これらの造形用粉末の流動度測定を行った。前記ホウ化チタン/鉄複合粉末と混合しても3Dプリンター用あるいは肉盛加工用粉末としては全く問題のない良好な流動性であった。
【0084】
ついで、これら造形用粉末を用いてPBF法で立方体の積層造形を行ったところ、粉末の供給とリコーターによる層厚の調整は問題なく、連続運転も可能で、図3に示すように、所定の形状の造形品を得ることができた。ここで、PBF法のレーザースポット径0.1mm、層厚0.02mmとし、走査速度、レーザー出力、エネルギー密度は表1に記載のとおりとした。
【0085】
ホウ化チタン粒子の粒子径は、エネルギー分散型X 線分光器を併設した電子顕微鏡像を用いて、観察されるホウ化チタン粒子の面積を求めた後、円の面積として置き換えた投影面積円相当直径を求めた。5視野を観察して50個の粒子の投影面積円相当直径を求めた後、これを平均してホウ化チタンの平均粒子とした。ホウ化チタン粒子の集合体のサイズも同様にして求めた。
【0086】
造形品の硬度と強度は、以下のように測定した。図3に示した円柱状の造形品を切断して切断面を研磨した面で、ビッカース硬度を測定した。ホウ化チタンを添加していない母材鋼の3D造形品のビッカース強度を100とした場合の硬度(硬度向上率)の割合を表2に示している。図4に示した引張試験片を作製して各造形品の強度を測定した。ホウ化チタンを添加していない母材鋼の3D造形品の強度を100として場合の強度(強度向上率)の割合を表2に示している。
【0087】
よって、本発明の効果は、ホウ化チタンTiB2が同じ含有量の鋼において、従来ホウ化チタン分散強化鋼よりも優れた強度向上率や硬度向上率が得られた等で判断する(図5図6)。図5図6の黒丸は実施例、三角は比較例である。白丸はホウ化チタンを含有させない場合の基準となる強度を示す。
【0088】
母材によって分散強化による強度、硬度の向上は異なり、以下の場合、特に顕著な効果が得られたと判断した。
【0089】
SUS316L:硬度向上率105%以上、かつ強度向上率165%以上
MS1:硬度向上率105%以上、かつ強度向上率115%以上
SUS304:硬度向上率200%以上、かつ強度向上率180%以上
SUS630:硬度向上率115%以上、かつ強度向上率105%以上
【0090】
ホウ化チタン分散鋼においては、本発明の組織構造になっていれば、ホウ化チタンの含有量が同じ3D造形品を比較して硬度や強度が向上していることが確認できた。言い換えれば、同じ分散強化の効果を得るのであれば、本発明の組織構造のホウ化チタン分散鋼では、少量のホウ化チタン添加でよいことが分かった(実施例19―28、30と比較例6―7、8;実施例31、32、33、34と比較例9、10、11、12)。
【0091】
ホウ化チタン粒子が3.0μm以下の平均径で、5μm以上20μm以下のサイズの集合体で分布していると母材鋼に対して硬度や強度が顕著に向上し、分散強化の効果が高いことが分かる。一方、前記のようなホウ化チタン粒子が分散した組織を持たない比較例6や7は、ホウ化チタン粒子の分散効果が低い結果となった。
【0092】
また、ホウ化チタンの含有量が5質量%を超えるような造形品では、引張試験を行い作成した応力-ひずみ曲線から、ヤング率(剛性)の向上効果も顕著であることが確認できた。
【0093】
また、別途行ったDED法による単層ビード造形試験でも前記粉末の供給は全く問題なく、所定の形状の単層ビード造形品を得ることができた。さらに、本発明の組織構造となるものでは、ホウ化チタン粒子の分散強化の効果が顕著であった。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、強度、硬度、剛性を大きく向上させたホウ化チタン分散強化3D造形鋼が得られる。よって、これまでにはなかった3D構造を有する鋼構造物を作製でき、その強度、硬度、剛性が今までにないような優れたものにできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6