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特開2023-131665アイソレータ及びアイソレータの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131665
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】アイソレータ及びアイソレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20230914BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20230914BHJP
   G02B 6/126 20060101ALI20230914BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20230914BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G02B27/28 A
G02B6/125
G02B6/126
G02B6/13
G02B6/12 367
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036555
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】杉田 丈也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 太一
【テーマコード(参考)】
2H147
2H199
【Fターム(参考)】
2H147AB02
2H147AB04
2H147AB11
2H147AB22
2H147AC04
2H147AC17
2H147BA11
2H147BD01
2H147BD02
2H147BE03
2H147BE11
2H147BG06
2H147CA25
2H147EA07D
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147FA05
2H147FA09
2H147FA25
2H147FC02
2H147FC05
2H199AA02
2H199AA05
2H199AA08
2H199AA96
(57)【要約】
【課題】半導体プロセスにおけるYIGの影響を低減するアイソレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アイソレータ10は、基板面50Aを有する基板50と、基板面50Aの上に位置し、基板面50Aに対向する第1面211、221とその反対側の第2面212、222と側面213、223とを有する導波路21、22と、底部と導波路21、22の側面213、223の少なくとも一部が露出した側部とを有する溝30と、導波路21、22の第2面212、222のうち、基板面50Aの法線方向から見て少なくとも溝30に接している領域に重なるように位置するマスク40と、溝30の中で導波路21、22の側面213、223に接触するように位置する非相反性部材31とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面を有する基板と、
前記基板面の上に位置し、前記基板面に対向する第1面と前記第1面の反対側に位置する第2面と前記第1面及び前記第2面を接続する側面とを有する導波路と、
底部と、前記導波路の側面の少なくとも一部が露出した側部とを有する溝と、
前記導波路の第2面のうち、前記基板面の法線方向から見て少なくとも前記溝に接している領域に重なるように位置するマスクと、
前記溝の中で前記導波路の側面に接触するように位置する非相反性部材と
を備えるアイソレータ。
【請求項2】
前記非相反性部材は、YIG(イットリウム・鉄・ガーネット)を含む、請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記マスクは、光の透過率が透過閾値未満になるように構成される、請求項1又は2に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記導波路は、前記基板面の法線方向から見て略円形の領域の中につづら折り状に位置する、請求項1から3までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記基板面の法線方向における前記溝の底部の位置は、前記導波路の第1面の位置と略同一である、請求項1から4までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項6】
前記基板面の法線方向における前記溝の底部の位置は、前記導波路の第1面の位置よりも低い、請求項1から4までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項7】
前記導波路は、TEモードの電磁波を透過し、TMモードの電磁波を除去する、フィルタ部を有する、請求項1から6までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項8】
前記導波路は、第1導波路と第2導波路とを含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項9】
前記溝の少なくとも一部は、前記第1導波路の側面の少なくとも一部が露出した第1側部と、前記第2導波路の側面の少なくとも一部が露出した第2側部とを有する、請求項8に記載のアイソレータ。
【請求項10】
前記第1導波路が前記非相反性部材に接している距離と、前記第2導波路が前記非相反性部材に接している距離とが等しい、請求項8又は9に記載のアイソレータ。
【請求項11】
前記第1導波路及び前記第2導波路それぞれの温度を制御するヒーターを更に備える、請求項8から10までのいずれか一項に記載のアイソレータ。
【請求項12】
基板面を有する基板の上に導波路を形成し、
前記導波路の上に絶縁層とマスクとを形成し、
前記導波路の側面を露出させるように前記絶縁層をエッチングして溝を形成し、
前記溝に非相反性部材を形成し、
前記マスクの透過率が透過閾値未満となるレーザ光を前記非相反性部材に照射する、
アイソレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アイソレータ及びアイソレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気光学材料Ce:YIGを導波層として用いる光アイソレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/083419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
YIGを導波層として用いたアイソレータを半導体基板上に形成する場合、半導体プロセスにおけるYIGの影響を低減することが求められる。
【0005】
本開示は、半導体プロセスにおけるYIGの影響を低減するアイソレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るアイソレータは、基板面を有する基板と、導波路と、溝と、マスクと、非相反性部材とを備える。前記導波路は、前記基板面の上に位置し、前記基板面に対向する第1面と前記第1面の反対側に位置する第2面と前記第1面及び前記第2面を接続する側面とを有する。前記溝は、底部と、前記導波路の側面の少なくとも一部が露出した側部とを有する。前記マスクは、前記導波路の第2面のうち、前記基板面の法線方向から見て少なくとも前記溝に接している領域に重なるように位置する。前記非相反性部材は、前記溝の中で前記導波路の側面に接触するように位置する。
【0007】
本開示の一実施形態に係るアイソレータの製造方法は、基板面を有する基板の上に導波路を形成することと、前記導波路の上に絶縁層とマスクとを形成することと、前記導波路の側面を露出させるように前記絶縁層をエッチングして溝を形成することと、前記溝に非相反性部材を形成することと、前記マスクの透過率が透過閾値未満となるレーザ光を前記非相反性部材に照射することとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態に係るアイソレータ及びその製造方法によれば、半導体プロセスにおけるYIGの影響が低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るアイソレータの構成例を示す平面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】第1導波路及び第2導波路の間に溝が位置する構成例を示す平面図である。
図4図2のB-B断面図である。
図5】導波路が略円形のレーザ照射領域内につづら折り状に配置され、第1導波路及び第2導波路に共通して接する溝を含む構成例を示す平面図である。
図6】導波路が略円形のレーザ照射領域内につづら折り状に配置され、第1導波路及び第2導波路に共通して接する溝を含まない構成例を示す平面図である。
図7】溝の底部が導波路の第1面より低い構成例を示す断面図である。
図8】非相反性部材の上に更に吸収部材を備える構成例を示す断面図である。
図9】平面視において導波路の第2面のうち溝の側に位置する辺の少なくとも一部にマスクが重なっていない構成例を示す断面図である。
図10図9において、導波路の断面形状がリブ形状になっている断面図である。
図11】溝の2つの側部のうち1つの側部だけに非相反性部材が成膜された構成例を示す断面図である。
図12】ヒーターを更に備えるアイソレータの構成例を示す平面図である。
図13A】基板に導波路を形成する工程を示す断面図である。
図13B】導波路の上に第1絶縁層を形成する工程を示す断面図である。
図13C】第1絶縁層の上にマスクを形成する工程を示す断面図である。
図13D】マスクの上に第2絶縁層を形成する工程を示す断面図である。
図13E】導波路の側面が露出するように溝を形成する工程を示す断面図である。
図13F】溝に非相反性部材を形成する工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(アイソレータ10の構成例)
図1及び図2に示されるように、一実施形態に係るアイソレータ10は、第1導波路21と、第2導波路22と、非相反性部材31と、マスク40と、第1分岐部81と、第2分岐部82とを備える。第1導波路21及び第2導波路22は、単に導波路とも称される。
【0011】
アイソレータ10は、第1分岐部81に入力されたTEモードの電磁波を第2分岐部82に透過させ、第2分岐部82に入力されたTEモードの電磁波を遮断して第1分岐部81に透過させないように構成される。電磁波が第1分岐部81から第2分岐部82に伝搬する方向は、第1方向とも称される。電磁波が第2分岐部82から第1分岐部81に伝搬する方向は、第2方向とも称される。つまり、アイソレータ10は、TEモードの電磁波を第1方向に透過させ、第2方向に透過させない。
【0012】
アイソレータ10は、非対称マッハツェンダー干渉計の原理を用いて非対称な電磁波の伝搬特性を実現する。アイソレータ10は、第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれとが同じになるように構成される。また、アイソレータ10は、第1導波路21を第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれとの間に波長の1/4に相当する分(90度の位相)だけ差が生じるように構成される。
【0013】
位相のずれは、導波路の線路長によって調整され得るし、導波路の実効屈折率によって調整され得る。アイソレータ10は、非相反性部材31が存在しない場合に第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ遅れるように構成されるとする。非相反性部材31が存在しない場合、電磁波がアイソレータ10を第1方向に伝搬する場合でも第2方向に伝搬する場合でも第1導波路21を伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ遅れる。したがって、単に導波路の線路長又は実効屈折率を設定しても、第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれ方と第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれ方とが同じになる。そこで、アイソレータ10は、導波路を第1方向に伝搬する電磁波の位相のずれと第2方向に伝搬する電磁波の位相のずれとを異ならせるように、導波路の少なくとも一部に沿って位置する非相反性部材31を備える。非相反性部材31を備える導波路は、磁場の印加によって非相反性導波路として機能する。
【0014】
非相反性導波路は、伝搬する電磁波の位相を進ませたり遅らせたりする。本実施形態に係るアイソレータ10は、電磁波の伝搬方向に向かって導波路を見たときに非相反性部材31が導波路の右側に位置する場合に、その電磁波の位相を波長の1/8に相当する分(45度の位相)だけ遅らせるとする。また、アイソレータ10は、電磁波の伝搬方向に向かって導波路を見たときに非相反性部材31が導波路の左側に位置する場合に、その電磁波の位相を波長の1/8に相当する分(45度の位相)だけ進ませるとする。
【0015】
図1の例において、電磁波が第1方向(図1でX軸の正の方向)に伝搬する場合、非相反性部材31は、第1導波路21の第1方向に向かって左側に位置する。また、非相反性部材31は、第2導波路22の第1方向に向かって右側に位置する。したがって、第1方向に伝搬する電磁波の位相は、第1導波路21で45度だけ進み、第2導波路22で45度だけ遅れる。上述したように、アイソレータ10は、非相反性部材31が存在しない場合に第1導波路21を第1方向に伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を第1方向に伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ遅れるように構成される。そうすると、第1導波路21を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相の遅れが45度になる。一方で、第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相の遅れが45度になる。その結果、第1導波路21を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれとの差が0度になる。つまり、第1導波路21を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれとが同じになる。
【0016】
一方で、電磁波が第2方向(図1でX軸の負の方向)に伝搬する場合、非相反性部材31は、第1導波路21の第2方向に向かって右側に位置する。また、非相反性部材31は、第2導波路22の第2方向に向かって左側に位置する。したがって、第2方向に伝搬する電磁波の位相は、第1導波路21で45度だけ遅れ、第2導波路22で45度だけ進む。上述したように、アイソレータ10は、非相反性部材31が存在しない場合に第1導波路21を第2方向に伝搬する電磁波の位相が第2導波路22を第2方向に伝搬する電磁波の位相よりも90度だけ遅れるように構成される。そうすると、第1導波路21を第2方向に向かって伝搬する電磁波の位相の遅れが135度になる。一方で、第2導波路22を第2方向に向かって伝搬する電磁波の位相の進みが45度になる。その結果、第1導波路21を第2方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれと第2導波路22を第1方向に向かって伝搬する電磁波の位相のずれとの差が180度になる。
【0017】
以上述べてきたように構成されるアイソレータ10において、第1導波路21を伝搬する電磁波と第2導波路22を伝搬する電磁波との間の位相差が、第1方向に伝搬する場合において0度になり、第2方向に伝搬する場合において180度になる。このようにすることで、アイソレータ10は、第1方向に伝搬する電磁波を透過させ、第2方向に伝搬する電磁波を透過させないように構成される。
【0018】
アイソレータ10の導波路及び非相反性部材31は、基板面50Aを有する基板50の上に形成されている。基板50は、金属等の導体、シリコン等の半導体、ガラス、又は樹脂等を含んで構成されてよい。本実施形態において、基板50は、シリコン(Si)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。
【0019】
基板50は、基板面50Aの上にシリコン酸化膜等の絶縁体で構成されるボックス層52を備える。導波路は、ボックス層52の上に位置する。第1導波路21は、基板面50Aに対向する側に位置する第1面211と、第1面211の反対側に位置する第2面212と、第1面211及び第2面212を接続する側面213とを有する。第2導波路22は、基板面50Aに対向する側に位置する第1面221と、第1面221の反対側に位置する第2面222と、第1面221及び第2面222を接続する側面223とを有する。基板50は、導波路の上に位置する第1絶縁層54を更に備える。基板50は、第1絶縁層54の上に位置するマスク40を更に備える。基板50は、マスク40の上に位置する第2絶縁層56を更に備える。
【0020】
導波路は、ボックス層52と第1絶縁層54と非相反性部材31とに囲まれている。導波路は、コアとも称される。ボックス層52及び第1絶縁層54は、クラッドとも称される。コア及びクラッドは、誘電体を含んで構成されてよい。導波路は、誘電体線路とも称される。コア及びクラッドの材質は、コアの比誘電率がクラッドの比誘電率よりも大きくなるように定められる。言い換えれば、コア及びクラッドの材質は、クラッドの屈折率がコアの屈折率より大きくなるように定められる。このようにすることで、コアを伝搬する電磁波は、クラッドとの境界において全反射され得る。その結果、コアを伝搬する電磁波の損失が低減され得る。
【0021】
コア及びクラッドの比誘電率は、空気の比誘電率よりも大きくされてよい。コア及びクラッドの比誘電率が空気の比誘電率よりも大きくされることで、アイソレータ10からの電磁波の漏れが抑制され得る。結果として、アイソレータ10から外部に電磁波が放射されることによる損失が低減され得る。
【0022】
本実施形態において、コアとしての導波路の材質は、シリコン(Si)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。クラッドとしてのボックス層52及び第1絶縁層54の材質は、石英ガラス又はシリコン酸化膜(SiO)であるとするが、これに限られず、他の種々の材料であってよい。シリコン及び石英ガラスの比誘電率はそれぞれ、約12及び約2である。シリコンは、約1.2μm~約6μmの近赤外波長を有する電磁波を低損失で伝搬させ得る。導波路は、シリコンで構成される場合、光通信で使用される1.3μm帯又は1.55μm帯の波長を有する電磁波を低損失で伝搬させ得る。
【0023】
アイソレータ10は、第1絶縁層54をエッチングすることによって形成された溝30を備える。溝30は、導波路に沿って延在する。溝30は、その延在方向(図1においてX軸方向)に向かって見た断面(図2)において底部と側部とを有する。第1導波路21に沿って位置する溝30は、その側部において第1導波路21の側面213の少なくとも一部を露出させるように形成されている。第2導波路22に沿って位置する溝30は、その側部において第2導波路22の側面223の少なくとも一部を露出させるように形成されている。溝30の底部の位置は、導波路の下面(第1導波路21の第1面211又は第2導波路22の第1面221)の位置と略同一であってよい。
【0024】
非相反性部材31は、溝30の底部及び側部への成膜によって形成されている。非相反性部材31は、第1導波路21に沿って位置する溝30において、第1導波路21の側面213に接触する。また、非相反性部材31は、第2導波路22に沿って位置する溝30において、第2導波路22の側面223に接触する。
【0025】
溝30は、第1絶縁層54に位置する部分と、第2絶縁層56に位置する部分とで2段に構成されてよい。第2絶縁層56における溝30の幅(図2においてY軸方向の寸法)は、第1絶縁層54における溝30の幅よりも広い。このようにすることで、導波路が露出する部分まで非相反性部材31が成膜されやすくなる。非相反性部材31は、溝30の底部と側部とが交差する部分にまで成膜されるように、基板50をY軸の正の方向又は負の方向に傾けた状態で成膜されてもよい。
【0026】
本実施形態において、非相反性部材31の材料としてCe:YIG(セリウム置換のイットリウム・鉄・ガーネット)が用いられる。非相反性部材31の材料として、Bi:YIG(ビスマス置換のYIG)等のYIGの一部置換物質のような透明状磁性体が用いられてもよい。非相反性部材31の材料として、FeCo、FeNi若しくはCoPt等の強磁性体、又は、強磁性体を含む物質等が用いられてもよい。非相反性部材31の材料として、磁性体ナノ粒子がコンポジットされた誘電体、例えばナノグラニュラー材が用いられてもよい。これらに限られず他の種々の磁性材料が非相反性部材31として用いられてよい。
【0027】
YIG系の非相反性部材31は、その結晶化が十分に進行することによって十分な非相反性を発現させる。非相反性部材31を所定温度以上に加熱することによって非相反性部材31の結晶化が進行する。しかし、基板50に形成された導波路又は配線等の他の構成への影響を考慮すれば、非相反性部材31の成膜時において基板50の全体を所定温度以上に加熱することは難しい。したがって、基板50を加熱しない状態の成膜によって溝30に形成された非相反性部材31は、十分に結晶化されておらず、そのままで十分な非相反性を発現させない。
【0028】
そこで、本実施形態に係るアイソレータ10において、非相反性部材31を結晶化させるために、レーザ光の照射によって非相反性部材31が加熱される。レーザ光として、非相反性部材31による光の吸収効率が高い波長の光が用いられる。非相反性部材31がCe:YIGである場合、可視光の吸収効率が高い。したがって、加熱のために可視光レーザが用いられてよい。
【0029】
レーザ光は、光学的な限界によって照射点において有限の範囲に広がる。レーザ光の照射範囲は、溝30の幅よりも広くなる。本実施形態に係るアイソレータ10において、マスク40は、レーザ光の透過率が透過閾値未満になるように、又は、レーザ光の反射率が反射閾値以上になるように構成される。マスク40の材料として、例えばアルミ等の金属が採用されてよい。マスク40の材料として、これらに限られず種々の材料が採用され得る。マスク40は、導波路の第2面212又は222のうち基板50の平面視において(基板面50Aの法線方向から見たときに)少なくとも溝30に接している領域に重なるように位置する。言い換えれば、マスク40は、基板50の平面視において、導波路に重なって位置し、溝30に重ならない。マスク40が導波路に重なって位置することによって、基板50に対して基板面50Aの側から照射されるレーザ光は、導波路に到達しにくくなる。マスク40が溝30に重ならないことによって、レーザ光は、溝30の内部の非相反性部材31に到達しやすくなる。その結果、レーザ光の照射によって、溝30の内部の非相反性部材31だけが加熱されやすくなる。
【0030】
以上述べてきたように、本実施形態に係るアイソレータ10において、基板50の他の構成に影響を及ぼしにくいように、非相反性部材31が加熱される。このようにすることで、加熱処理を必要とする材料を非相反性部材31として用いた場合でも、半導体プロセスに及ぼす影響が低減され得る。また、アイソレータ10の性能が高められ得る。
【0031】
非相反性部材31の結晶化の度合いによって、アイソレータ10の性能が変化し得る。アイソレータ10の完成後に性能を調整するために、追加でレーザ光が照射されてもよい。本実施形態に係るアイソレータ10がマスク40を備えることによって、追加でレーザ光が照射されたとしても、非相反性部材31の他の構成への影響が低減され得る。
【0032】
図3及び図4に示されるように、溝30は、第1導波路21及び第2導波路22の両方に沿うように位置してもよい。このようにすることで、基板50においてアイソレータ10によって占められる面積が低減し得る。つまり、アイソレータ10が小型化され得る。溝30の側部のうち第1導波路21の側面213の少なくとも一部を露出させる側部は、第1側部とも称される。溝30の側部のうち第2導波路22の側面223の少なくとも一部を露出させる側部は、第2側部とも称される。
【0033】
図5及び図6に示されるように、導波路がつづら折り状に配置されてもよい。言い換えれば、導波路は、延在方向が変化する部分を有してよい。導波路は、略円形の領域の中につづら折り状に位置してもよい。導波路は、略円形のレーザ照射領域LSの中に入るように配置されてよい。このようにすることで、レーザ光が非相反性部材31の加熱に有効に利用され得る。また、基板50の上においてアイソレータ10の他の構成にレーザ光が照射されにくくなる。
【0034】
導波路は、電磁波の伝搬方向が180度異なる部分が並ぶように配置されてよい。溝30は、導波路のうち、電磁波の伝搬方向が180度異なる部分の間に配置されてよい。このようにすることで、導波路を非相反性導波路として機能させるために、1つの溝30の両側の側部に位置する非相反性部材31が活用され得る。
【0035】
アイソレータ10は、図5に示されるように第1導波路21と第2導波路22の間に溝30が位置するように構成されてもよいし、図6に示されるように第1導波路21と第2導波路22の間に溝30が位置しないように構成されてもよい。このようにすることで、アイソレータ10の設計の自由度が向上し得る。また、図6に示されるように第1導波路21及び第2導波路22それぞれに別の溝30が位置することによって、溝30の2つの側部への成膜された非相反性部材31が非対称になった場合でも、導波路が溝30の両側を通ることによってその影響が低減され得る。
【0036】
図7に示されるように、溝30は、その底部が第1導波路21よりも低い位置になるように形成されてよい。つまり、導波路が露出している部分が溝30の底部から離れるように溝30が構成されてよい。溝30の内部に非相反性部材31を成膜する場合、底部と側部とが交わる部分に非相反性部材31が入りにくい。導波路が露出している部分が底部から離れることによって、導波路が露出している部分に非相反性部材31が成膜されやすくなる。このようにすることで、導波路に接触する非相反性部材31の特性が制御されやすくなる。その結果、アイソレータ10の性能が高められ得る。
【0037】
図8に示されるように、溝30に形成された非相反性部材31の上に、更に吸収部材32が形成されてもよい。吸収部材32として、レーザ光の吸収効率が高い材料が用いられる。また、非相反性部材31と異なる吸収特性を有する材料が用いられてもよい。吸収部材32として、赤外光の吸収効率が高いカーボン等が用いられてもよい。
【0038】
図9に示されるように、基板50の平面視において、マスク40は、導波路の一部に重ならないように位置してもよい。このようにすることで、導波路は、溝30の側部で露出しやすくなり、非相反性部材31に接触しやすくなる。その結果、アイソレータ10の性能が安定になり得る。また、アイソレータ10の製造工程が簡略化され得る。図10に示されるように、導波路の断面形状がリブ型になってもよい。
【0039】
上述したように、溝30の中に成膜される非相反性部材31は、溝30の両側の側部で非対称になり得る。図11に示されるように、溝30の2つの側部の一方の側部のみに非相反性部材31が成膜されてもよい。この場合、溝30の右側に位置する導波路に非相反性部材31が接触していない。しかし、溝30の両側の導波路は、直列に接続されている。したがって、導波路全体として、非相反性部材31に接触している長さは、第1導波路21及び第2導波路22のいずれでも調整され得る。溝30の一方の側部のみに非相反性部材31が成膜されることによって、溝30の一方の側部における非相反性部材31が安定に成膜され得る。その結果、アイソレータ10の性能が高められ得る。
【0040】
導波路を伝搬する電磁波の位相は、導波路の温度によっても変化する。アイソレータ10は、電磁波の位相を調整するために、導波路の温度を制御してもよい。図12に示されるように、アイソレータ10は、第1導波路21及び第2導波路22それぞれの一部の温度を制御するヒーター71及び72を更に備えてもよい。ヒーター71は、第1導波路21の一部の温度を制御できる。ヒーター72は、第1導波路21の一部の温度を制御できる。このようにすることで、アイソレータ10は、基板50の上に形成した導波路の線路長に誤差が生じたとしても、温度制御によって位相を補償できる。その結果、アイソレータ10の性能が高められ得る。
【0041】
図12において、ヒーター71及び72が配置されている部分において、導波路は、小さい曲率半径で180度曲がっている。このように小さい曲率半径で導波路を曲げることによって、この部分を通過するTMモードの電磁波が外に放射されて除去される。本実施形態に係るアイソレータ10の導波路と非相反性部材31との組み合わせはTEモードの電磁波に対して非相反性を発現させる。したがって、TMモードの電磁波を除去する部分を有することによって、TMモードの電磁波が第2分岐部82から第1分岐部81に向かって伝搬することが防がれ得る。TMモードの電磁波を除去する部分は、フィルタ部とも総称される。フィルタ部として、小さい曲率半径で導波路を曲げる構成だけでなく、TMモードの電磁波を結合させない方向性結合器が用いられてもよい。
【0042】
アイソレータ10は、第1導波路21が非相反性部材31に接している距離と、第2導波路22が非相反性部材31に接している距離とが等しくなるように、構成されてよい。このようにすることで、位相が調整されやすくなる。その結果、アイソレータ10の性能が向上し得る。
【0043】
(アイソレータ10の製造方法)
本実施形態に係るアイソレータ10の製造方法が図13Aから図13Fまでに例示される断面図を参照して説明される。
【0044】
図13Aに示されるように、基板50のボックス層52の上に、第1導波路21及び第2導波路22が形成される。導波路は、成膜工程とエッチング工程との組み合わせによって形成されてよい。成膜工程として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)又はスパッタ等が実行されてよい。エッチング工程として、例えばRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング又はウェットエッチングが実行されてよい。
【0045】
図13Bに示されるように、第1導波路21及び第2導波路22の上に第1絶縁層54が形成される。第1絶縁層54は、プラズマCVD等によって成膜されてよい。図13Cに示されるように、第1絶縁層54の上に、マスク40が形成される。マスク40は、成膜工程とエッチング工程との組み合わせによって形成されてよい。図13Dに示されるように、マスク40の上に、第2絶縁層56が形成される。第2絶縁層56は、プラズマCVD等によって成膜されてよい。
【0046】
図13Eに示されるように、溝30が形成される。溝30は、ドライエッチングによって形成されてよい。溝30のうち、第1絶縁層54に形成される部分は、マスク40をエッチングマスクとしてドライエッチングを実行することによって形成される。溝30の側部で導波路が露出するように、ウェットエッチングが更に実行されてもよい。
【0047】
図13Fに示されるように、溝30の側部及び底部に非相反性部材31が形成される。非相反性部材31は、スパッタ等によって成膜されてよい。さらに、非相反性部材31に対してレーザ光が照射される。レーザ光の照射によって非相反性部材31が加熱される。非相反性部材31の温度及び加熱時間を制御することによって、非相反性部材31の結晶化の度合いが制御され得る。
【0048】
以上、図13A図13Fを参照して説明してきたように、アイソレータ10が製造され得る。アイソレータ10の完成後に追加でレーザ光を照射することによって、完成後でもアイソレータ10の特性が調整され得る。
【0049】
(アイソレータ10の応用例)
アイソレータ10は、電磁波を送信する構成と組み合わされて使用されてよい。アイソレータ10は、光スイッチ、光送受信機、又は、データセンタに適用されてもよい。アイソレータ10は、例えば、電磁波送信器に適用されてもよい。電磁波送信器は、アイソレータ10と、光源とを備える。電磁波送信器は、光源からアイソレータ10に電磁波を入力し、アイソレータ10から受信器に向けて電磁波を出力する。アイソレータ10は、光源から受信器に向けて伝搬する電磁波の透過率が受信器から光源に向けて伝搬する電磁波の透過率より大きくなるように構成される。このようにすることで、光源に向けて電磁波が入射しにくくなる。その結果、光源が保護され得る。
【0050】
光源は、例えば、LD(Laser Diode)又はVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)等の半導体レーザであってよい。光源は、可視光に限られず種々の波長の電磁波を射出するデバイスを含んでよい。光源は、基板50の上にアイソレータ10とともに形成されてよい。光源は、TEモードの電磁波をアイソレータ10に入力してよい。
【0051】
電磁波送信器は、変調器と信号入力部とをさらに備えてよい。変調器は、電磁波の強度を変化させることによって変調する。変調器は、光源とアイソレータ10との間ではなく、アイソレータ10と受信器との間に位置してもよい。変調器は、例えば、電磁波をパルス変調してもよい。信号入力部は、外部装置等からの信号の入力を受け付ける。信号入力部は、例えばD/Aコンバータを含んでよい。信号入力部は、変調器に信号を出力する。変調器は、信号入力部で取得した信号に基づいて、電磁波を変調する。
【0052】
光源は、変調器及び信号入力部を含んで構成されてもよい。この場合、光源は、変調した電磁波を出力し、アイソレータ10に入力してもよい。
【0053】
電磁波送信器は、基板50の上に実装されてよい。光源は、変調器を介して、第1分岐部81に接続するように実装されてよい。光源は、変調器を介さずに、第1分岐部81に接続するように実装されてよい。受信器は、変調器を介さずに、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。受信器は、変調器を介して、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。この場合、変調器は、第2分岐部82に接続するように実装されてよい。
【0054】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0055】
本開示において「第1」及び「第2」等の記載は、当該構成を区別するための識別子である。本開示における「第1」及び「第2」等の記載で区別された構成は、当該構成における番号を交換することができる。例えば、第1導波路21は、第2導波路22と識別子である「第1」と「第2」とを交換することができる。識別子の交換は同時に行われる。識別子の交換後も当該構成は区別される。識別子は削除してよい。識別子を削除した構成は、符号で区別される。本開示における「第1」及び「第2」等の識別子の記載のみに基づいて、当該構成の順序の解釈、小さい番号の識別子が存在することの根拠に利用してはならない。
【0056】
本開示において、X軸、Y軸、及びZ軸は、説明の便宜上設けられたものであり、互いに入れ替えられてよい。本開示に係る構成は、X軸、Y軸、及びZ軸によって構成される直交座標系を用いて説明されてきた。本開示に係る各構成の位置関係は、直交関係にあると限定されるものではない。
【符号の説明】
【0057】
10 アイソレータ
21 第1導波路(211:第1面、212:第2面、213:側面)
22 第2導波路(221:第1面、222:第2面、223:側面)
30 溝
31 非相反性部材
32 吸収部材
40 マスク
50 基板(50A:基板面、52:ボックス層)
54 第1絶縁層
56 第2絶縁層
71、72 ヒーター
81 第1分岐部
82 第2分岐部
LS レーザ照射範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F