(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131667
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】リトレッド可否判定方法及びリトレッド可否判定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20230914BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036557
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】三宅 英二
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤子
(72)【発明者】
【氏名】小路 隆巨
(72)【発明者】
【氏名】原 悠規
(72)【発明者】
【氏名】豊田 憲司
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB04
3D131BC09
3D131BC55
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤのリトレッドの可否を正確に判定可能なリトレッド可否判定方法及びリトレッド可否判定装置が提供される。
【解決手段】リトレッド可否判定方法は、第1判定及び第2判定で用いられる、タイヤの状態を示す状態特性値を取得する工程(S1)と、第1判定を実行する工程(S2)と、第1判定でタイヤのリトレッドが可能と判定した場合に第2判定を実行する工程(S9)と、を含み、第1判定は、タイヤのゴム材料の化学的変化に基づいて算出される台タイヤの残存耐久性を用いる化学的な劣化状態判定及びタイヤの物理的な損傷の状態に基づいて算出される台タイヤの残存耐久性を用いる物理的な劣化状態判定の一方であって、第2判定は、化学的な劣化状態判定及び物理的な劣化状態判定の他方である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドと前記トレッドのタイヤ径方向内側に配置される台タイヤとを備えるタイヤのリトレッドの可否を判定するリトレッド可否判定方法であって、
第1判定及び第2判定で用いられる、前記タイヤの状態を示す状態特性値を取得する工程と、
前記第1判定を実行する工程と、
前記第1判定で前記タイヤのリトレッドが可能と判定した場合に前記第2判定を実行する工程と、を含み、
前記第1判定は、前記タイヤのゴム材料の化学的変化に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる化学的な劣化状態判定及び前記タイヤの物理的な損傷の状態に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる物理的な劣化状態判定の一方であって、
前記第2判定は、前記化学的な劣化状態判定及び前記物理的な劣化状態判定の他方である、リトレッド可否判定方法。
【請求項2】
前記第1判定の実行後に、前記第2判定が実行されるまで、前記タイヤが車両に取り付けられたままで走行に使用される追加使用が可能である、請求項1に記載のリトレッド可否判定方法。
【請求項3】
前記追加使用における前記車両の走行条件に基づいて、前記第1判定における前記台タイヤの残存耐久性が補正される、請求項2に記載のリトレッド可否判定方法。
【請求項4】
前記第1判定は、前記化学的な劣化状態判定である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリトレッド可否判定方法。
【請求項5】
前記第1判定又は前記第2判定で前記タイヤのリトレッドが可能と判定した場合に第3判定を実行する工程を含み、
前記第3判定は、前記第1判定又は前記第2判定の前記台タイヤの残存耐久性と、新しいタイヤに交換する場合のコストに基づいて定められる閾値と、を比較することによって前記タイヤのリトレッドの可否を判定する、請求項1から4のいずれか一項に記載のリトレッド可否判定方法。
【請求項6】
前記物理的な劣化状態判定において、前記タイヤの物理的な損傷の状態は、前記タイヤの外観の目視検査、外観の画像を使用した検査、及び、シアログラフ、X線又はエコーを使用した前記タイヤの内部の検査の少なくとも1つによって得られる、請求項1から5のいずれか一項に記載のリトレッド可否判定方法。
【請求項7】
前記化学的な劣化状態判定において、前記台タイヤの残存耐久性は、前記タイヤのリトレッドの加硫の影響を含む総熱履歴を用いて算出される、請求項1から6のいずれか一項に記載のリトレッド可否判定方法。
【請求項8】
トレッドと前記トレッドのタイヤ径方向内側に配置される台タイヤとを備えるタイヤのリトレッドの可否を判定するリトレッド可否判定装置であって、
第1判定及び第2判定で用いられる、前記タイヤの状態を示す状態特性値を取得する取得部と、
前記第1判定を実行し、前記第1判定で前記タイヤのリトレッドが可能と判定した場合に前記第2判定を実行する判定部と、を備え、
前記第1判定は、前記タイヤのゴム材料の化学的変化に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる化学的な劣化状態判定及び前記タイヤの物理的な損傷の状態に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる物理的な劣化状態判定の一方であって、
前記第2判定は、前記化学的な劣化状態判定及び前記物理的な劣化状態判定の他方である、リトレッド可否判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リトレッド可否判定方法及びリトレッド可否判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リトレッドタイヤの利用拡大等に伴い、タイヤの劣化状態を把握する技術が注目されている。リトレッドのコストを無駄にしないために、タイヤのリトレッドを実施する際には、台タイヤがリトレッド後の使用に耐えられるだけの耐久性を残している必要がある。例えば特許文献1は、タイヤ使用中の熱履歴情報に基づくゴム劣化状態に基づいて、リトレッド前の台タイヤの耐久性を評価する手法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ゴム劣化状態などの化学的な状態だけでなく、例えば台タイヤの内部的な物理的損傷なども台タイヤの残存耐久性に影響することがある。そのため、台タイヤの残存耐久性の評価の精度をさらに高めて、台タイヤがリトレッド後の使用に耐えられるかをより正確に判定できる技術が求められている。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、タイヤのリトレッドの可否を正確に判定可能なリトレッド可否判定方法及びリトレッド可否判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るリトレッド可否判定方法は、トレッドと前記トレッドのタイヤ径方向内側に配置される台タイヤとを備えるタイヤのリトレッドの可否を判定するリトレッド可否判定方法であって、第1判定及び第2判定で用いられる、前記タイヤの状態を示す状態特性値を取得する工程と、前記第1判定を実行する工程と、前記第1判定で前記タイヤのリトレッドが可能と判定した場合に前記第2判定を実行する工程と、を含み、前記第1判定は、前記タイヤのゴム材料の化学的変化に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる化学的な劣化状態判定及び前記タイヤの物理的な損傷の状態に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる物理的な劣化状態判定の一方であって、前記第2判定は、前記化学的な劣化状態判定及び前記物理的な劣化状態判定の他方である。
この構成により、タイヤのリトレッドの可否を正確に判定することが可能になる。
【0007】
本開示の一実施形態として、前記第1判定の実行後に、前記第2判定が実行されるまで、前記タイヤが車両に取り付けられたままで走行に使用される追加使用が可能である。
この構成により、第2判定の実行までユーザが車両を継続利用できるため、ユーザにとって利便性が高い。
【0008】
本開示の一実施形態として、前記追加使用における前記車両の走行条件に基づいて、前記第1判定における前記台タイヤの残存耐久性が補正される。
この構成により、追加使用があってもタイヤのリトレッドの可否を正確に判定することが可能になる。
【0009】
本開示の一実施形態として、前記第1判定は、前記化学的な劣化状態判定である。
この構成により、第2判定である物理的な劣化状態判定の実行までの間に台タイヤの残存耐久性に影響し得ることが生じても、その影響を含めた予測が可能になる。
【0010】
本開示の一実施形態として、前記第1判定又は前記第2判定で前記タイヤのリトレッドが可能と判定した場合に第3判定を実行する工程を含み、前記第3判定は、前記第1判定又は前記第2判定の前記台タイヤの残存耐久性と、新しいタイヤに交換する場合のコストに基づいて定められる閾値と、を比較することによって前記タイヤのリトレッドの可否を判定する。
この構成により、ユーザのコストメリットを考慮した上で、タイヤのリトレッドの可否を判定することが可能になる。
【0011】
本開示の一実施形態として、前記物理的な劣化状態判定において、前記タイヤの物理的な損傷の状態は、前記タイヤの外観の目視検査、外観の画像を使用した検査、及び、シアログラフ、X線又はエコーを使用した前記タイヤの内部の検査の少なくとも1つによって得られる。
この構成により、非破壊でタイヤの物理的な損傷の状態の情報を得ることができる。
【0012】
本開示の一実施形態として、前記化学的な劣化状態判定において、前記台タイヤの残存耐久性は、前記タイヤのリトレッドの加硫の影響を含む総熱履歴を用いて算出される。
この構成により、リトレッドによる台タイヤの残存耐久性への影響を考慮できるため、タイヤのリトレッドの可否をさらに正確に判定することが可能になる。
【0013】
本開示の一実施形態に係るリトレッド可否判定装置は、トレッドと前記トレッドのタイヤ径方向内側に配置される台タイヤとを備えるタイヤのリトレッドの可否を判定するリトレッド可否判定装置であって、第1判定及び第2判定で用いられる、前記タイヤの状態を示す状態特性値を取得する取得部と、前記第1判定を実行し、前記第1判定で前記タイヤのリトレッドが可能と判定した場合に前記第2判定を実行する判定部と、を備え、前記第1判定は、前記タイヤのゴム材料の化学的変化に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる化学的な劣化状態判定及び前記タイヤの物理的な損傷の状態に基づいて算出される前記台タイヤの残存耐久性を用いる物理的な劣化状態判定の一方であって、前記第2判定は、前記化学的な劣化状態判定及び前記物理的な劣化状態判定の他方である。
この構成により、タイヤのリトレッドの可否を正確に判定することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、タイヤのリトレッドの可否を正確に判定可能なリトレッド可否判定方法及びリトレッド可否判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るリトレッド可否判定装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のリトレッド可否判定装置を含むリトレッド可否判定システムの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、タイヤの総熱履歴の変化を例示する図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係るリトレッド可否判定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るリトレッド可否判定装置及びリトレッド可否判定方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0017】
図1は、本開示の一実施形態に係るリトレッド可否判定装置10の機能ブロックを示す図である。
図2は、
図1のリトレッド可否判定装置10を備えるリトレッド可否判定システムの構成例を示す。
【0018】
リトレッド可否判定装置10は、トレッド31と台タイヤ32を備えるタイヤ30のリトレッドの可否を判定する。タイヤ30の構成部材としてトレッド31、ビード、カーカス、ベルト等を例示できるところ、
図2に示すように、台タイヤ32は、タイヤ30のトレッド31以外の部分であって、トレッド31のタイヤ径方向内側に配置される。また、リトレッドは、タイヤ30のトレッド31を削ってから新しいゴムを貼り付けて、加硫して再利用することをいう。タイヤ30のリトレッドを実施する際には、台タイヤ32がリトレッド後の使用に耐えられるだけの耐久性を残している必要があるところ、リトレッド可否判定装置10は、以下に説明するように、タイヤ30のリトレッドの可否を正確に判定することができる。ここで、タイヤ30の種類は特に限定されない。タイヤ30は、例えば普通自動車に装着されるものであってよいし、トラックに装着されるものであってよいし、大型の建設車両などに装着されるOR(off the road)タイヤであってよい。
【0019】
図1に示すように、リトレッド可否判定装置10は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、を備える。制御部13は、取得部131と、判定部132と、を備える。リトレッド可否判定装置10は、ハードウェア構成として、例えばネットワーク40に接続されたコンピュータであってよい。リトレッド可否判定装置10の構成要素の詳細については後述する。
【0020】
(リトレッド可否判定システム)
リトレッド可否判定装置10は、ネットワーク40で接続されるサーバ60とともに、リトレッド可否判定システムを構成してよい。ネットワーク40は例えばインターネットであるが、LAN(Local Area Network)であってよい。サーバ60は、例えばリトレッド可否判定装置10とは別のコンピュータである。サーバ60の場所は限定されないが、例えば管理設備に設置されてよい。管理設備は、車両20に取付けられたタイヤ30を管理する設備であって、タイヤ30の検査、修理及びリトレッドなどを行う。サーバ60は、リトレッド可否判定装置10からタイヤ30のリトレッドの可否の判定を受け取って、サーバ60に接続されているディスプレイなどに表示することによって、ユーザと判定結果を共有してよい。ここで、ユーザは、リトレッドなどが行われる管理設備の利用者であるが、特に車両20の管理者、所有者又は運転者である。また、サーバ60は、タイヤ30のリトレッド及び修理の履歴などのデータを管理してよい。
【0021】
本実施形態において、サーバ60が設置される管理設備は、後述する物理的な劣化状態判定で用いられるタイヤ30の物理的な損傷の状態を検査する。サーバ60は、検査によって得られたタイヤ30の物理的な損傷の状態を、タイヤ30の状態を示す状態特性値としてリトレッド可否判定装置10に出力する。ここで、物理的な検査は、本実施形態において管理設備にて実施されるとして説明するが、実施場所が限定されるものでない。物理的な検査は、ユーザの敷地内、車両20が使用される場所などで実施されてよい。また、サーバ60は、管理設備においてタイヤ30にリトレッドが実行される場合に、加硫の処理によってタイヤ30に加えられる温度(熱)の情報を状態特性値としてリトレッド可否判定装置10に出力する。ここで、管理設備は、リトレッド不可とされるタイヤ30をリサイクルするリサイクル設備と同じ地域にあってよい。
【0022】
車両20は、ネットワーク40に接続可能な通信装置と、タイヤ30の状態特性値を計測する計測装置と、を備える。本実施形態において、計測装置によって計測される状態特性値は、タイヤ30の温度を含む。計測装置は、例えば温度センサを含んで構成される。タイヤ30の温度を含む状態特性値は、通信装置及びネットワーク40を介して、リトレッド可否判定装置10に出力される。ここで、「計測する」とは、直接的であるか間接的であるかを問わず、タイヤ30の状態特性値を得ることができることを意味し、直接計測したパラメータ等に対して何らかの算出を行って状態特性値を得る場合も、ここでいう「計測」に含まれるものとする。
【0023】
また、本実施形態において、計測装置によって計測される状態特性値は、タイヤ30の走行パラメータを含む。走行パラメータは、例えば走行距離、走行時間などを含んでよい。タイヤ30の走行パラメータを含む状態特性値は、通信装置及びネットワーク40を介して、リトレッド可否判定装置10に出力される。
【0024】
ここで、状態特性値に含まれるタイヤ30の温度は、タイヤ30の構成部材の温度としてリトレッド可否判定装置10に出力されてよい。例えば計測装置がチャンバ内に取り付けられており、計測装置は計測したチャンバ内の温度を構成部材の温度に変換してよい。チャンバは、タイヤ30の内面とリムホイールとの間の空間である。
【0025】
例えば計測されたチャンバ内の温度をTchとし、α、β、γ、δを係数とすると、ある構成部材(トレッド31、ベルト、ビード等)の温度Tは、一例として、下記の式(1)を用いて算出することができる。
【0026】
【0027】
ここで、係数であるα、β、γ、δは、予め求めておくものであり、例えば過去のデータ等に基づいてフィッティングを行うことにより、誤差が最小になるような係数α、β、γ、δを求めることができる。係数α、β、γ、δは構成部材毎に求められ、構成部材によって異なってよい。
【0028】
(リトレッド可否判定装置)
上記のように、リトレッド可否判定装置10は、通信部11と、記憶部12と、取得部131及び判定部132を有する制御部13と、を備える。通信部11は、ネットワーク40に接続する1つ以上の通信モジュールを含んで構成される。通信部11は、例えば4G(4th Generation)、5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば有線のLAN規格(一例として1000BASE-T)に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば無線のLAN規格(一例としてIEEE802.11)に対応する通信モジュールを含んでよい。
【0029】
記憶部12は、1つ以上のメモリである。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。記憶部12は、例えばリトレッド可否判定装置10に内蔵されるが、任意のインターフェースを介してリトレッド可否判定装置10に外部からアクセスされる構成も可能である。
【0030】
記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出において使用される各種のデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出の結果及び中間データを記憶してよい。また、記憶部12は、プログラムを記憶してよい。
【0031】
本実施形態において、記憶部12は、後述する化学的な劣化状態判定及び物理的な劣化状態判定における、台タイヤ32の残存耐久性を算出するためのパラメータなどを記憶する。ここで、本実施形態において、残存耐久性としては、予測される走行可能距離が用いられるが、これに限定されず、例えば走行可能時間などが用いられてよい。また、本実施形態において、記憶部12は、タイヤ30又は車両20毎の総熱履歴を記憶する。総熱履歴は、タイヤ30に与えられた熱の総和に対応する。また、本実施形態において、記憶部12は、タイヤ30の種類などに応じて定められ、タイヤ30の寿命を示す耐久限界などを記憶する。また、本実施形態において、記憶部12は、新品のタイヤ30のコスト、タイヤ30のリトレッドのコストなどを記憶する。
【0032】
制御部13は、1つ以上のプロセッサを含んで構成される。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサであるが、これらに限られず任意のプロセッサとすることができる。制御部13は、リトレッド可否判定装置10の全体の動作を制御する。
【0033】
ここで、リトレッド可否判定装置10は、以下のようなソフトウェア構成を有してよい。リトレッド可否判定装置10の動作の制御に用いられる1つ以上のプログラムが記憶部12に記憶される。記憶部12に記憶されたプログラムは、制御部13のプロセッサによって読み込まれると、制御部13を取得部131及び判定部132として機能させる。
【0034】
取得部131は、タイヤ30の状態を示す状態特性値を、ネットワーク40及び通信部11を介して取得する。状態特性値は、後述する第1判定及び第2判定で用いられる。状態特性値は、さらに後述する第3判定で用いられてよい。
【0035】
判定部132は、異なる複数の判定手法を多段階に組み合わせることによって、タイヤ30のリトレッド可否を多面的に判定する。また、判定部132は、判定結果を例えばサーバ60、ユーザの端末装置(一例としてスマートフォン)などに出力してよい。判定部132は、複数の判定手法のそれぞれによる判定結果を出力してよいし、最終の判定結果だけを出力してよい。判定部132は、少なくとも2つの判定手法を用いる。判定部132は、第1判定(1次判定)を実行し、第1判定でタイヤ30のリトレッドが可能と判定した場合に第2判定(2次判定)を実行する。
【0036】
ここで、タイヤ30の劣化状態判定手法として、化学的な劣化状態判定及び物理的な劣化状態判定を用いることができる。化学的な劣化状態判定は、タイヤ30のゴム材料の化学的変化に基づいて算出される台タイヤ32の残存耐久性を用いてリトレッド可否を判定する手法である。物理的な劣化状態判定は、タイヤ30の物理的な損傷の状態に基づいて算出される台タイヤ32の残存耐久性を用いてリトレッド可否を判定する手法である。第1判定は、化学的な劣化状態判定及び物理的な劣化状態判定の一方である。また、第2判定は、化学的な劣化状態判定及び物理的な劣化状態判定の他方である。本実施形態において、判定部132は、第1判定として化学的な劣化状態判定を実行し、第2判定として物理的な劣化状態判定を実行する。タイヤ30の化学的な状態だけでなく、残存耐久性に影響し得る台タイヤ32の物理的損傷なども考慮して判定が行われるため、台タイヤ32の残存耐久性の評価の精度をさらに高めて、台タイヤ32がリトレッド後の使用に耐えられるかをより正確に判定できる。つまり、リトレッド可否判定装置10は、タイヤ30のリトレッドの可否を正確に判定可能である。
【0037】
判定部132は、化学的な劣化状態判定を例えば以下のように実行する。判定部132は、取得部131によって取得された状態特性値に基づいて、タイヤ30に加えられた温度を走行時間で積分することにより総熱履歴を算出する。判定部132は、記憶部12から総熱履歴についての耐久限界の値を読み出して、耐久限界までの走行距離を求めることによって、タイヤ30のリトレッドの可否を判定可能である。ここで、耐久限界は、総熱履歴に基づくタイヤ30の寿命を示す。また、耐久限界までの走行距離は、予測される走行可能距離であって、台タイヤ32の残存耐久性に対応する。
【0038】
図3は、タイヤ30の総熱履歴の変化を例示する図である。まず、
図3の上の図について説明すると、タイヤ30の総熱履歴はA
11、A
12及びA
13の区間を有する実線で示される。ΔAについては後述する。縦軸は総熱履歴の大きさを示す。また、横軸は走行距離を示す。車両20の走行距離が長くなるにつれて、タイヤ30に熱が加えられて、総熱履歴が大きくなり、耐久限界に達するとタイヤ30の寿命となる。総熱履歴の区間A
11は、リトレッドの可否の判定前の変化であって、車両20の走行によってタイヤ30に熱が加えられた様子を示す。総熱履歴の区間A
12は、タイヤ30のリトレッドを行う場合における、リトレッドの加硫の影響(加硫の際に加えられる熱)を示す。総熱履歴の区間A
13は、タイヤ30のリトレッドを行う場合における、リトレッド後の走行に対応する。つまり、区間A
13はリトレッド後に予測される総熱履歴の変化を示す。判定部132は、例えば区間A
11の傾きに基づいて区間A
13の傾きを決定してよい。判定部132は、リトレッド後の耐久限界までの走行距離であるD
1の長さに基づいて、タイヤ30のリトレッドの可否を判定できる。判定部132は、例えば基準値を設けて、D
1の長さが基準値以上であればリトレッドが可能であると判定してよい。
【0039】
ここで、
図3の下の図は、温度が高い環境下で走行する車両20に装着されたタイヤ30の総熱履歴の変化を例示する。タイヤ30の総熱履歴はA
21、A
22及びA
23の区間を有し、それぞれ上の図のA
11、A
12及びA
13に対応する。総熱履歴の区間A
21及びA
23の傾きは、上の図の区間A
11及びA
13に比べて大きい。その結果、リトレッド後の耐久限界までの走行距離であるD
2の長さは、上の図のD
1に比べて短くなっている。判定部132は、例えば基準値との比較に基づいて、リトレッドが不可であると判定してよい。
【0040】
本実施形態において、判定部132は、化学的な劣化状態判定において、区間A12及び区間A22のように、リトレッドによる台タイヤ32の残存耐久性への影響を考慮する。そのため、リトレッド可否判定装置10は、タイヤ30のリトレッドの可否をさらに正確に判定することが可能になる。ここで、タイヤ30は複数回のリトレッドが行われてよい。過去にリトレッドが行われたタイヤ30については、過去のリトレッドについても総熱履歴に対する加硫の影響が加えられる。
【0041】
判定部132は、物理的な劣化状態判定を例えば以下のように実行する。判定部132は、取得部131によって取得された状態特性値に基づいて、タイヤ30の亀裂などの有無を判定し、大きな亀裂などがある場合にリトレッドが不可であると判定してよい。判定部132は、所定のサイズ未満の亀裂などがある場合に、部位などに応じて台タイヤ32の残存耐久性を算出してよい。判定部132は、例えばベルト、カーカス、ビードなどの部位別の故障リスクに基づいて残存耐久性を算出してよい。このような故障リスクは、過去の故障に関するデータ等に基づいて予め用意することができる。
【0042】
物理的な劣化状態判定において、判定部132は、状態特性値のうち、タイヤ30の物理的な損傷の状態を用いて判定を行う。タイヤ30の物理的な損傷の状態は、タイヤ30の外観の目視検査、外観の画像を使用した検査、及び、シアログラフ、X線又はエコーを使用したタイヤ30の内部の検査の少なくとも1つによって得られてよい。ここで、エコーは、超音波の反射に限られない。例えばエコーは、タイヤに衝撃を与えたときの音の反射なども含む。このような検査によって、非破壊でタイヤ30の物理的な損傷の状態の情報を得ることができる。また、上記に例示した検査のうち、タイヤ30の外観の目視検査は必ず実行されてよい。タイヤ30の外観の検査及び内部の検査は、上記のように、サーバ60が設置される管理設備で行われてよい。
【0043】
判定部132は、第1判定(1次判定)又は第2判定(2次判定)でタイヤ30のリトレッドが可能と判定した場合に第3判定(追加判定)を実行してよい。第3判定では、コストメリットの観点からタイヤ30のリトレッドの可否が判定される。第3判定は、第1判定及び第2判定のそれぞれの後で実施され得る「コストメリットの観点からの追加判定」と称することができる。第3判定の実施は、1回に限定されず、複数回であってよい。例えば第1判定でリトレッド可能と判定された場合に、続けて1回目の第3判定が実施されて、コストメリットも含めたリトレッド可否が判定されてよい。第1判定及び1回目の第3判定の総合的な結果としてリトレッド可能と判定された場合に、第2判定が実行されてよい。そして、第2判定でもリトレッド可能と判定された場合に、続けて2回目の第3判定が実施され、コストメリットも含めた最終的なリトレッド可否が判定されてよい。この例において、第2判定でリトレッド不可と判定された場合又は第2判定が実施されない場合に、2回目の第3判定は実施されない。また、第1判定でリトレッド不可と判定された場合には、第3判定が実施されない。
【0044】
第3判定は、第1判定又は第2判定の台タイヤ32の残存耐久性と、新しいタイヤ30に交換する場合のコストに基づいて定められる閾値と、を比較することによってリトレッドの可否を判定する。本実施形態において、台タイヤ32の残存耐久性は、化学的な劣化状態判定又は物理的な劣化状態判定で得られた耐久限界までの走行距離(以下、Daとする)である。例えば判定部132は、新しいタイヤ30に交換する場合のコストと、新しいタイヤ30の仕様上の寿命までの走行距離(以下、Dbとする)を記憶部12から読みだす。判定部132は、新しいタイヤ30のコストに「Da/Db」を乗じて得られる値(閾値の一例)とリトレッドのコストとを比較して、リトレッドのコストの方が安い場合に、リトレッドが可能であると判定してよい。第3判定が実行されることによって、ユーザのコストメリットを考慮した上で、タイヤ30のリトレッドの可否を判定することが可能になる。
【0045】
<リトレッド可否判定方法>
本実施形態に係るリトレッド可否判定方法は、上記のリトレッド可否判定装置10によって好適に実行される。
図4は、本実施形態に係るリトレッド可否判定方法の処理を示すフローチャートである。
【0046】
取得部131は、タイヤ30の状態を示す状態特性値を、ネットワーク40及び通信部11を介して取得する(ステップS1)。
【0047】
判定部132は、第1判定を実行する(ステップS2)。本実施形態において、第1判定は化学的な劣化状態判定である。上記のように、判定部132は、総熱履歴を算出し、台タイヤ32の残存耐久性として走行可能距離を予測する。判定部132は、予測される走行可能距離に基づいて、タイヤ30のリトレッドの可否を判定する。
【0048】
判定部132は、第1判定でタイヤ30のリトレッドが可能であると判定する場合に(ステップS3のYes)、ステップS4の処理に進む。判定部132は、第1判定でタイヤ30のリトレッドが可能でない(不可である)と判定する場合に(ステップS3のNo)、最終の判定結果として、タイヤ30をリサイクルすべきことを出力する(ステップS14)。例えばサーバ60に接続されているディスプレイなどに、リサイクル(すなわちリトレッド不可)との最終判定結果を示すメッセージが表示されて、ユーザはタイヤ30を同一施設内のリサイクル工程に回す又は他のリサイクル設備へ輸送する手配を行ってよい。ここで、ステップS14において、オプションとしてタイヤ30の廃棄が提示されてよい。つまり、最終の判定結果として、タイヤ30をリサイクル又は廃棄すべきことが出力されてよい。
【0049】
判定部132は、タイヤ30のリトレッドが可能であると判定した場合に、コストメリット判定のため、続けて1回目の第3判定(追加判定)を実施する(ステップS4)。判定部132は、第3判定でタイヤ30のリトレッドにコストメリットがあると判定する場合に(ステップS5のYes)、ステップS6の処理に進む。判定部132は、第3判定でコストメリットがないと判定する場合に(ステップS5のNo)、最終の判定結果として、タイヤ30をリサイクルすべきことを出力する(ステップS14)。
【0050】
ここで、本実施形態において、第1判定は化学的な劣化状態判定である。そのため、第2判定である物理的な劣化状態判定の実行までの間に台タイヤ32の残存耐久性に影響し得ることが生じても、その影響を含めた予測が可能になる。具体的に述べると、第1判定の実行後に、第2判定が実行されるまで、タイヤ30が車両20に取り付けられたままで走行に使用される追加使用が可能である。第2判定の実行までユーザが車両20を継続利用できるため、ユーザにとって利便性が高い。そして、追加使用における車両20の走行条件(例えば追加の走行距離)に基づいて、第1判定における台タイヤ32の残存耐久性が補正される。そのため、追加使用があってもタイヤ30のリトレッドの可否を正確に判定することが可能になる。本実施形態において、第2判定は、第1判定の直後に実行される必要がなく、第1判定から追加使用の時間を経た後に実行されればよい。
【0051】
判定部132は、第1判定の後でタイヤ30の追加使用があった場合に(ステップS6のYes)、第1判定における台タイヤ32の残存耐久性を補正する(ステップS7)。補正は、例えば
図3の上の図におけるΔAのように追加使用による走行距離を追加した上で、耐久限界までの走行距離であるD
1の長さを再計算し、リトレッドの可否を再判定することである。
【0052】
判定部132は、第1判定の再判定でタイヤ30のリトレッドが可能でないと判定する場合に(ステップS8のNo)、最終の判定結果として、タイヤ30をリサイクルすべきことを出力する(ステップS14)。
【0053】
判定部132は、第1判定の再判定でタイヤ30のリトレッドが可能であると判定する場合(ステップS8のYes)又はタイヤ30の追加使用がなかった場合に(ステップS6のNo)、ステップS9の処理に進む。
【0054】
判定部132は、第2判定を実行する(ステップS9)。本実施形態において、第2判定は物理的な劣化状態判定である。上記のように、判定部132は、外観の目視、外観の画像、シアログラフ、X線又はエコーなどを使用した検査で得られたタイヤ30の物理的な損傷の状態に基づいて算出される台タイヤ32の残存耐久性を予測し、タイヤ30のリトレッドの可否を判定する。
【0055】
判定部132は、第2判定でタイヤ30のリトレッドが可能であると判定する場合に(ステップS10のYes)、ステップS11の処理に進む。判定部132は、第2判定でタイヤ30のリトレッドが可能でない(不可である)と判定する場合に(ステップS10のNo)、最終の判定結果として、タイヤ30をリサイクルすべきことを出力する(ステップS14)。
【0056】
判定部132は、タイヤ30のリトレッドが可能であると判定した場合に、コストメリット判定のため、続けて2回目の第3判定(追加判定)を実施する(ステップS11)。判定部132は、第3判定でタイヤ30のリトレッドにコストメリットがあると判定する場合に(ステップS12のYes)、ステップS13の処理に進む。判定部132は、第3判定でコストメリットがないと判定する場合に(ステップS12のNo)、最終の判定結果として、タイヤ30をリサイクルすべきことを出力する(ステップS14)。
【0057】
判定部132は、2回目の第3判定でコストメリットがある場合に、最終の判定結果として、リトレッド可能であることを出力する(ステップS13)。例えばサーバ60に接続されているディスプレイなどに、リトレッド可能との最終判定結果を示すメッセージが表示されて、ユーザは管理設備においてタイヤ30のリトレッドを実行させてよい。
【0058】
以上のように、本実施形態に係るリトレッド可否判定方法及びリトレッド可否判定装置10は、上記の構成によって、タイヤ30のリトレッドの可否を正確に判定することができる。
【0059】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各工程などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又は工程などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0060】
例えば上記の実施形態において、判定部132は追加使用に対する補正を実行するが、追加補正に対する補正及び関連する処理(
図4のステップS6~ステップS8)が省略されてよい。
【0061】
例えば上記の実施形態において、判定部132は追加使用に対する補正を実行するが、補正に代えて、第1判定のやり直し(
図4でステップS2に戻る処理)が行われてよい。
【0062】
例えば上記の実施形態において、第1判定が化学的な劣化状態判定で、第2判定が物理的な劣化状態判定であったが、逆の対応であってよい。第1判定が物理的な劣化状態判定で、第2判定が化学的な劣化状態判定である場合に、第1判定において大きな亀裂などがあれば、第2判定を経ることなく直ちにリトレッド不可との最終判定が得られる。つまり、第1判定が物理的な劣化状態判定で、第2判定が化学的な劣化状態判定である場合に、最終判定を得るまでの工程を削減することが期待できる。
【符号の説明】
【0063】
10 リトレッド可否判定装置
11 通信部
12 記憶部
13 制御部
131 取得部
132 判定部
20 車両
30 タイヤ
31 トレッド
32 台タイヤ
40 ネットワーク
60 サーバ