(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131680
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ステアリング装置用支持ブラケット及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/185 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B62D1/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036574
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】圷 直人
(72)【発明者】
【氏名】佐直 紘規
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC16
3D030DC17
3D030DD18
3D030DD19
3D030DD26
3D030DD65
3D030DD76
(57)【要約】
【課題】支持板部に備えられた段差部の幅方向内側面の面精度を確保できる、ステアリング装置用支持ブラケットの構造を実現する。
【解決手段】アッパブラケット7を、取付板部25と1対の支持板部26と溶接ビード27とを備えるものとする。取付板部25を、ブリッジ部29と1対のサイド板部30と1対の接続部31とを有するものとする。1対の支持板部26のそれぞれを、段差部42を有する支持板本体35と、溶接用耳部36とを有するものとする。1対の接続部31のそれぞれを、平板形状を有し、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜したものとする。これにより、1対の接続部31のそれぞれの幅方向内側面と1対の支持板本体35のそれぞれの幅方向外側面の上端部との間に、溶接ビード27を収容する溶接ポケット45を形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向中央部に配置され、逆U字状の断面形状を有するブリッジ部と、幅方向両外側部に配置され、それぞれが平板形状を有する1対のサイド板部と、前記ブリッジ部の幅方向両外側の端部と前記1対のサイド板部とを接続する1対の接続部とを有し、車体に支持される取付板部と、
幅方向に離隔して互いに対向配置され、それぞれの上端部が前記取付板部の下面に溶接固定された、1対の支持板部と、
前記取付板部と前記1対の支持板部のそれぞれとの溶接部に形成される溶接ビードと、
を備え、
前記1対の支持板部のそれぞれは、幅方向に貫通したブラケット側通孔、及び、前記ブラケット側通孔を含む範囲に形成された、幅方向外側に凹形状を有しかつ幅方向内側に凸形状を有する段差部を含む支持板本体と、前記支持板本体よりも上方に設けられた溶接用耳部と、を有し、
前記1対の接続部のそれぞれは、平板形状を有し、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜しており、
前記1対の接続部のそれぞれの幅方向内側面と前記1対の支持板本体のそれぞれの幅方向外側面の上端部との間に、前記溶接ビードを収容する溶接ポケットが形成されている、
ステアリング装置用支持ブラケット。
【請求項2】
前記ブリッジ部は、幅方向両外側部に、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜した、1対の側方傾斜板部を有し、
前記サイド板部と平行な仮想平面に対する前記接続部の傾斜角度は、前記仮想平面に対する前記側方傾斜板部の傾斜角度よりも小さい、
請求項1に記載したステアリング装置用支持ブラケット。
【請求項3】
内側にステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラムと、
前記ステアリングコラムを車体に対して支持する支持ブラケットと、を備え、
前記支持ブラケットが、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載したステアリング装置用支持ブラケットである、ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置用支持ブラケット及びステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に組み込まれるステアリング装置は、運転者が操作するステアリングホイールの動きを、ステアリングシャフトを介してステアリングギヤユニットに伝達し、左右の操舵輪に舵角を付与する。ステアリング装置には、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイールの位置を調節可能とする位置調節装置が備えられている。
【0003】
図10は、ステアリングホイールの位置調節装置を備えたステアリング装置の1例を示している。ステアリング装置100は、後側の端部に図示しないステアリングホイールが固定されるステアリングシャフト101と、内側にステアリングシャフト101を回転自在に支持したステアリングコラム102とを備える。
【0004】
ステアリングコラム102の前側部は、ロアブラケット103に対して支持されており、ステアリングコラム102の前後方向中間部は、支持ブラケットに相当するアッパブラケット104に対して支持されている。ロアブラケット103及びアッパブラケット104は、車体105に支持されている。ステアリングコラム102の前側部には、ステアリングホイールの操作に要する力を軽減するための電動アシスト装置106が備えられている。
【0005】
ステアリングホイールの前後位置の調節を可能とするために、ステアリングコラム102は、前方に配置されるインナコラム107の後側部と後方に配置されるアウタコラム108の前側部とを軸方向に関する相対変位を可能に嵌合することにより、全長を伸縮可能に構成されている。アウタコラム108は、前後方向に伸長した図示しないコラム側通孔を有し、縮径可能に構成されており、アッパブラケット104に対して前後方向に移動可能に支持されている。ステアリングシャフト101は、インナシャフト109とアウタシャフト110とを、スプライン係合などによりトルク伝達可能かつ伸縮可能に組み合わせることで構成されている。
【0006】
ステアリングホイールの上下位置の調節を可能とするために、ステアリングコラム102は、ロアブラケット103に対して、チルト軸111を中心とする揺動変位を可能に支持されている。アウタコラム108は、アッパブラケット104に対して上下方向に移動可能に支持されている。
【0007】
図示の構造では、アッパブラケット104は、車体105に支持された取付板部112と、アウタコラム108の幅方向両側に配置された1対の支持板部113とを備えている。1対の支持板部113のそれぞれには、上下方向に伸長したブラケット側通孔114が形成されている。
【0008】
ブラケット側通孔114及びアウタコラム108に備えられたコラム側通孔には、調節ロッド115が幅方向に挿通されている。図示のステアリング装置100では、調節ロッド115の端部に配置された調節レバー116を操作し、カム装置128の軸方向寸法を拡縮することで、1対の支持板部113の幅方向内側面同士の間隔を拡縮させる。これにより、1対の支持板部113の幅方向内側面による、アウタコラム108に対する締付力を調整する。1対の支持板部113の幅方向内側面同士の間隔を縮めたクランプ時には、アウタコラム108を縮径させて、アウタコラム108によりインナコラム107の外周面を保持する力を増大させる。このため、ステアリングホイールの位置調節が不能になる。これに対し、1対の支持板部113の幅方向内側面同士の間隔を拡げたアンクランプ時には、アウタコラム108は弾性復元するため、アウタコラム108によりインナコラム107の外周面を保持する力が低下する。このため、調節ロッド115がコラム側通孔及びブラケット側通孔114の内側で移動できる範囲で、ステアリングホイールの前後位置及び上下位置の調節が可能になる。
【0009】
図11及び
図12は、特開2017-197178号公報(特許文献1)に記載された、アッパブラケット104a及びアウタコラム108aの具体的構造を示している。
【0010】
アッパブラケット104aは、取付板部112aと、1対の支持板部113aとを備える。
【0011】
取付板部112aは、幅方向中央部に配置されたブリッジ部117と、幅方向両外側部に配置された1対のサイド板部118と、ブリッジ部117の幅方向両外側の端部と1対のサイド板部118とを接続する1対の接続部119とを備える。
【0012】
ブリッジ部117は、逆U字状の断面形状を有し、アウタコラム108aの上方に配置される。ブリッジ部117は、幅方向中央部に配置された中央板部120と、幅方向両外側部に配置された1対の側方傾斜板部121とを有する。1対の側方傾斜板部121のそれぞれは、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜している。
【0013】
1対のサイド板部118のそれぞれは、平板形状を有し、後側の端縁に開口した係止切り欠き122を備える。係止切り欠き122には、図示しない離脱カプセルが係止される。
【0014】
1対の接続部119のそれぞれは、
図13に拡大して示すように、略円弧形の断面形状を有し、ブリッジ部117を構成する側方傾斜板部121と、サイド板部118とを接続する。具体的には、接続部119は、幅方向内側面が凸曲面になっており、側方傾斜板部121の幅方向外側(下側)の端部とサイド板部118の幅方向内側の端部とを接続している。
【0015】
1対の支持板部113aは、アウタコラム108aの幅方向両外側に略平行に配置されている。1対の支持板部113aのそれぞれの上端部は、取付板部112aの下面に溶接固定されている。1対の支持板部113aのそれぞれは、板状部材からなり、支持板本体123と、溶接用耳部124とを備える。
【0016】
支持板本体123は、幅方向に貫通したブラケット側通孔114aと、該ブラケット側通孔114aを含む範囲に形成された段差部125とを有する。段差部125は、面押し加工を施すことで形成されており、幅方向外側に凹形状を有し、かつ、幅方向内側に凸形状を有している。段差部125は、クランプ時に、段差部125の幅方向内側面をアウタコラム108aの幅方向外側面に対して、片当たりさせずに、広い面積で接触させるために形成される。このため、段差部125の幅方向内側面は、平坦面状に構成されている。特に図示の構造では、ステアリングホイールの上下位置を最も上側に調節した場合にも、段差部125の幅方向内側面をアウタコラム108aの幅方向外側面に対して接触させることができるように、段差部125の上端縁125aを、支持板本体123と溶接用耳部124との境界部126の下側近傍に位置させている。
【0017】
溶接用耳部124は、1対の支持板部113aのそれぞれの上端部に配置されており、上方に向かうほど幅方向内側に向かう方向に傾斜している。溶接用耳部124の下端部は、支持板本体123の上端部につながっている。
【0018】
図示の構造では、溶接用耳部124の幅方向外側面と側方傾斜板部121の幅方向内側面とを、互いに面接触させた状態で、溶接固定(アーク溶接)ている。そして、溶接用耳部124の幅方向外側面と側方傾斜板部121の幅方向内側面との溶接部には、溶接痕の盛り上がりである、溶接ビード127が形成されている。具体的には、溶接ビード127は、支持板本体123の幅方向外側面の上端部と、接続部119の幅方向内側面からサイド板部118の下面の幅方向内側の端部にわたる範囲との間部分に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2017-197178号公報
【特許文献2】国際公開第2020/116350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
取付板部112aと支持板部113aとを溶接により接合する際に、熱の影響により、支持板本体123に形成された段差部125の面精度が低下しやすくなる。
【0021】
特に特開2017-197178号公報に記載された構造のように、段差部125の上端縁125aが、支持板本体123と溶接用耳部124との境界部126の下側近傍に位置する構造の場合、溶接ビード127と段差部125の上端縁125aとが近くに配置されるため、段差部125が、溶接ビード127の熱の影響を受けやすくなる。この結果、アウタコラム108aの幅方向外側面に対して当接面となる、段差部125の幅方向内側面の面精度が悪化し、アウタコラム108aの幅方向外側面に対して、段差部125の幅方向内側面が片当たりしやすくなる。
【0022】
なお、溶接ビード127と段差部125との上下方向距離を大きく確保するために、接続部119の曲率半径を大きくして、溶接ビード127を収容可能な、接続部119の幅方向内側面と支持板本体123の幅方向外側面の上端部との間の容積を大きくすることも考えられる。ただし、この場合には、接続部119の曲率半径を大きくすることで、サイド板部118の幅方向寸法が短くなり、サイド板部118に必要な幅方向寸法を確保できなくなる可能性があるため、採用することは難しい。
【0023】
本発明は、支持板部に備えられた段差部の幅方向内側面の面精度を確保できる、ステアリング装置用支持ブラケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一態様にかかるステアリング装置用支持ブラケットは、取付板部と、1対の支持板部と、溶接ビードと、を備える。
前記取付板部は、幅方向中央部に配置され、逆U字状の断面形状を有するブリッジ部と、幅方向両外側部に配置され、それぞれが平板形状を有する1対のサイド板部と、前記ブリッジ部の幅方向両外側の端部と前記1対のサイド板部とを接続する1対の接続部とを有し、車体に支持される。
前記1対の支持板部は、幅方向に離隔して互いに対向配置され、それぞれの上端部が前記取付板部の下面に溶接固定される。
前記溶接ビードは、前記取付板部と前記1対の支持板部のそれぞれとの溶接部に形成される。
【0025】
本発明の一態様にかかるステアリング装置用支持ブラケットでは、前記1対の支持板部のそれぞれは、幅方向に貫通したブラケット側通孔、及び、前記ブラケット側通孔を含む範囲に形成された、幅方向外側に凹形状を有しかつ幅方向内側に凸形状を有する段差部を含む支持板本体と、前記支持板本体よりも上方に設けられた溶接用耳部と、を有する。
前記1対の接続部のそれぞれは、平板形状を有し、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜している。
これにより、前記1対の接続部のそれぞれの幅方向内側面と前記1対の支持板本体のそれぞれの幅方向外側面の上端部との間に、前記溶接ビードを収容する溶接ポケットを形成している。
【0026】
本発明の一態様にかかるステアリング装置用支持ブラケットでは、前記ブリッジ部を、幅方向両外側部に、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜した、1対の側方傾斜板部を有するものとすることができる。
そして、前記サイド板部と平行な仮想平面に対する前記接続部の傾斜角度を、前記仮想平面に対する前記側方傾斜板部の傾斜角度よりも小さくすることができる。
【0027】
本発明の一態様にかかるステアリング装置は、内側にステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラムと、前記ステアリングコラムを車体に対して支持する支持ブラケットと、を備え、前記支持ブラケットを、本発明のステアリング装置用支持ブラケットとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、支持板部に備えられた段差部の幅方向内側面の面精度を確保できる、ステアリング装置用支持ブラケットを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるステアリング装置を示す側面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例にかかるステアリング装置を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例にかかるステアリング装置からアッパブラケットを取り出して示す、断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第1例にかかるステアリング装置からアッパブラケットを取り出して示す、側面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例にかかるステアリング装置からアッパブラケットを取り出して示す、斜視図である。
【
図10】
図10は、従来構造のステアリング装置の1例を示す側面図である。
【
図11】
図11は、特開2017-197178号公報に記載された従来構造のステアリング装置を示す、
図5に相当する図である。
【
図12】
図12は、特開2017-197178号公報に記載された従来構造のステアリング装置からアッパブラケットを取り出して示す、斜視図である。
【
図13】
図13は、特開2017-197178号公報に記載された従来構造のステアリング装置に関する、
図9に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図9を用いて説明する。なお、以下の説明において、特に断らない限り、前後方向は、車両の前後方向を意味し、上下方向は、車両の上下方向を意味し、幅方向(左右方向)は、車両の幅方向を意味する。
【0031】
〔ステアリング装置の全体構造〕
本例のステアリング装置1は、ステアリングシャフト2と、ステアリングコラム3とを備える。ステアリングシャフト2は、後側の端部に、図示しないステアリングホイールが固定される。ステアリングコラム3は、略円筒形状を有しており、その内側に図示しない複数の転がり軸受を介して、ステアリングシャフト2を回転自在に支持する。
【0032】
ステアリングコラム3の前側部は、ロアブラケット4に対して支持されている。具体的には、ステアリングコラム3の前側の端部には、電動アシスト装置5を構成するギヤハウジング6が固定されており、該ギヤハウジング6がロアブラケット4に対して支持されている。ギヤハウジング6には、図示しない電動モータが支持されている。電動モータの出力トルクは、ギヤハウジング6の内部に収容された減速機構を介して、ステアリングシャフト2に付与される。これにより、ステアリングホイールの操作に要する力の軽減が図られる。
【0033】
ステアリングコラム3の前後方向中間部は、支持ブラケットに相当するアッパブラケット7に対して支持されている。
【0034】
本例のステアリング装置1は、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイールの上下位置を調節するためのチルト機構、及び、前後位置を調節するためのテレスコピック機構をそれぞれ備えている。
【0035】
テレスコピック機構を構成するために、ステアリングコラム3は、前方(ロアー側)に配置された略円筒形状のインナコラム8と、後方(アッパー側)に配置された略円筒形状のアウタコラム9とから構成されている。インナコラム8とアウタコラム9とは、軸方向に関する相対変位を可能に嵌合している。この結果、ステアリングコラム3は、全長を伸縮可能に構成されている。また、アウタコラム9は、アッパブラケット7に対して前後方向に移動可能に支持されている。
【0036】
また、ステアリングシャフト2は、インナシャフト10と、アウタシャフト11とから構成されている。インナシャフト10とアウタシャフト11とは、スプライン係合などにより、トルク伝達可能に接続されている。この結果、ステアリングシャフト2は、全長を伸縮可能に構成されている。
【0037】
チルト機構を構成するために、ステアリングコラム3は、車体12(
図2参照)に対して、幅方向に配置されたチルト軸13を中心とする揺動変位を可能に支持されている。具体的には、ステアリングコラム3の前側の端部に固定されたギヤハウジング6が、車体12に固定されたロアブラケット4に対して、チルト軸13を中心とする揺動変位を可能に支持されている。また、アウタコラム9は、アッパブラケット7に対して上下方向に移動可能に支持されている。
【0038】
〔アウタコラム〕
アウタコラム9は、インナコラム8を外嵌する略円筒形状を有するコラム本体14と、補強ブリッジ部15とを有する。
【0039】
コラム本体14は、下面の幅方向中央部に、前後方向に伸長した前後方向スリット16を有する。コラム本体14は、下側半部の前側部分に、周方向に伸長した前側周方向スリット17aを有しており、下側半部の後側部分に、周方向に伸長した後側周方向スリット17bを有している。前側周方向スリット17aは、前後方向スリット16の前側部分を周方向に横切るように形成されており、後側周方向スリット17bは、前後方向スリット16の後側部分を周方向に横切るように形成されている。
【0040】
コラム本体14は、1対のクランプ部18を有している。クランプ部18は、前後方向スリット16と前側周方向スリット17aと後側周方向スリット17bとにより三方を囲まれた、コラム本体14の幅方向両側部分に配置されている。
【0041】
コラム本体14は、幅方向両外側面のうちで、アウタコラム9の中心軸と上下方向位置が重なる部分に、幅方向外側に向けて突出し、かつ、前後方向に伸長した突条部19を有する。突条部19は、クランプ部18の上側に配置されている。突条部19の先端面(幅方向外側面)には、クランプ時に、アッパブラケット7を構成する後述の支持板部26の幅方向内側面から締め付け力を受ける、平坦面状の上部締付面20を有する。
【0042】
クランプ部18は、部分円筒面状の幅方向内側面を有している。クランプ部18は、幅方向外側面の下側の端部に、幅方向外側に向けて突出した平板状の張出板部21を有する。張出板部21の先端面(幅方向外側面)には、クランプ時に、アッパブラケット7を構成する後述の支持板部26の幅方向内側面から締め付け力を受ける、平坦面状の中間部締付面22を有する。
【0043】
補強ブリッジ部15は、アウタコラム9のねじり剛性を向上させる機能を有している。補強ブリッジ部15は、幅方向視で略U字状を有しており、コラム本体14と一体に構成されている。アウタコラム9は、補強ブリッジ部15と、クランプ部18の下方側の端部(張出板部21)との間に、前後方向に伸長したコラム側通孔23を有する。なお、テレスコ機構を備えない場合には、コラム側通孔は単なる円孔とする。
【0044】
補強ブリッジ部15のうちで、コラム側通孔23の下方に位置する部分の幅方向外側面には、クランプ時に、アッパブラケット7を構成する後述の支持板部26の幅方向内側面から締め付け力を受ける、平坦面状の下部締付面24を有する。
【0045】
本例のアウタコラム9は、上述の通り、幅方向両外側面に、上部締付面20と中間部締付面22と下部締付面24との3つの締付面を有する。
【0046】
〔アッパブラケット〕
アッパブラケット7は、アウタコラム9を車体12に対して支持する機能を有する。アッパブラケット7は、鋼やアルミニウム系合金などの十分な剛性を有する金属板製で、取付板部25と、1対の支持板部26と、溶接ビード27とを有する。
【0047】
《取付板部》
取付板部25は、通常時には車体12に対し支持されているが、衝突事故の際には、二次衝突の衝撃に基づいて前方に離脱し、アウタコラム9の前方への変位を許容する。このため、取付板部25は、車体12に支持固定した係止カプセル28に対して、前方への離脱を可能に係止されている。
【0048】
取付板部25は、幅方向中央部に配置されたブリッジ部29と、幅方向両外側部に配置された1対のサイド板部30と、ブリッジ部29の幅方向両外側の端部と1対のサイド板部30とを接続する1対の接続部31とを備える。
【0049】
ブリッジ部29は、逆U字状の断面形状を有し、アウタコラム9の上方に配置される。ブリッジ部29は、幅方向中央部に配置された中央板部32と、幅方向両外側部に配置された1対の側方傾斜板部33とを有する。
【0050】
中央板部32は、平板状に構成されており、1対のサイド板部30と略平行に配置されている。
【0051】
1対の側方傾斜板部33は、中央板部32の幅方向両外側に配置されている。1対の側方傾斜板部33は、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜している。1対の側方傾斜板部33のそれぞれの幅方向内側の端部は、中央板部32の幅方向外側の端部に接続されている。
【0052】
1対のサイド板部30のそれぞれは、平板形状を有し、後側の端縁に開口した係止切り欠き34を備える。係止切り欠き34には、係止カプセル28が係止される。
【0053】
1対の接続部31のそれぞれは、ブリッジ部29を構成する側方傾斜板部33と、サイド板部30とを接続している。具体的には、接続部31は、側方傾斜板部33の幅方向外側(下側)の端部とサイド板部30の幅方向内側の端部とを接続している。
図9に示すように、本例の接続部31は、平板形状を有し、下方に向かうほど幅方向外側に向かう方向に傾斜している。このため、接続部31は、平坦面状の幅方向内側面を有する。サイド板部30と平行な仮想平面Pに対する接続部31(の幅方向内側面)の傾斜角度α
31は、たとえば20°~50°程度とすることができ、前記仮想平面Pに対する側方傾斜板部33(の幅方向内側面)の傾斜角度α
33よりも小さい(α
31<α
33)。なお、接続部31の幅方向両側の端部と、側方傾斜板部33の幅方向外側の端部及びサイド板部30の幅方向内側の端部とはそれぞれ、断面略円弧形の接続片により接続されている。
【0054】
本例の取付板部25は、ブリッジ部29の剛性を1対のサイド板部30の剛性よりも高めるために、取付板部25の前後方向中間部に第1リブ46を有している。第1リブ46は、幅方向に伸長し、かつ、上側が凸状で下側が凹状の形状を有する。第1リブ46の幅方向両外側の端部は、1対のサイド板部30のそれぞれの幅方向内側の端部に位置している。このため、第1リブ46は、ブリッジ部29を構成する中央板部32及び1対の側方傾斜板部33と、1対の接続部31と、1対のサイド板部30とに跨って形成されている。
【0055】
取付板部25は、1対の第2リブ47をさらに有する。第2リブ47は、取付板部25のうち、前後方向に関して溶接ビード27を挟んで第1リブ46の幅方向外側の端部の反対側である、後側部分に位置している。第2リブ47の幅方向内側の端部は、側方傾斜板部33の幅方向外側の端部に位置しており、第2リブ47の幅方向外側の端部は、サイド板部30の幅方向内側の端部に位置している。このため、第2リブ47は、側方傾斜板部33と接続部31とサイド板部30とに跨って形成されている。
【0056】
本例の取付板部25は、1対のサイド板部30のそれぞれの幅方向内側部に、前後方向に伸長した取付側スリット48を有している。取付側スリット48は、溶接ビード27と略平行に配置されており、溶接ビード27とほぼ同じ前後方向位置に備えられている。つまり、取付側スリット48は、前後方向に関して、第1リブ46の幅方向外側の端部と、第2リブ47の幅方向外側の端部との間に配置されている。取付側スリット48は、ブリッジ部29に対するサイド板部30の剛性を低下させて、サイド板部30の上面及び車体12の取付面の精度の影響が、ブリッジ部29に及ぶことを防止する。
【0057】
《支持板部》
1対の支持板部26は、幅方向に離隔して互いに対向配置されている。また、1対の支持板部26は、アウタコラム9を幅方向両側から挟むように、アウタコラム9の幅方向両外側に略平行に配置されている。1対の支持板部26のそれぞれの上端部は、取付板部25の下面に溶接固定されている。1対の支持板部26のそれぞれは、板状部材からなり、支持板本体35と、溶接用耳部36とを備える。
【0058】
支持板本体35は、前後方向中間部に配置された中間板部37と、前側の端部に配置された前側補強部38と、後側の端部に配置された後側補強部39とを有する。
【0059】
中間板部37は、段付き板形状を有する。中間板部37は、板厚が一定である平板形状の素材の一部に対して、面押し加工や打ち抜き加工などのプレス加工を施すことにより形成される。中間板部37は、基板部40と、ブラケット側通孔41と、該ブラケット側通孔41を含む範囲に形成された段差部42とを有する。
【0060】
段差部42は、基板部40に対して面押し加工を施すことにより形成され、幅方向外側に凹形状を、幅方向内側に凸形状を有する。図示の例では、段差部42は、基板部40のうち、上側部及び前後方向両側の端部を除く、大部分の範囲に形成されている。
【0061】
段差部42の幅方向内側面は、平坦面であり、基板部40の幅方向内側面よりも幅方向内側に張り出し、かつ、基板部40の幅方向内側面と略平行に配置されている。段差部42の幅方向内側面は、アウタコラム9に備えられた3つの締付面である、上部締付面20、中間部締付面22及び下部締付面24に対して、幅方向に対向する。段差部42の幅方向外側面は、基板部40の幅方向外側面よりも幅方向内側に凹んでおり、かつ、基板部40の幅方向外側面と略平行に配置されている。段差部42の幅方向外側面は、後述するカム装置53を構成する被駆動側カム58及び押圧プレート56の座面として機能する。なお、基板部40を基準とする段差部42の高さ(深さ)は、たとえば0.2mm~0.8mm程度である。
【0062】
本例の場合には、図示しないステアリングホイールの上下位置を最も上側に調節した場合にも、段差部42の幅方向内側面をアウタコラム9に備えられた上部締付面20に対して接触させることができるように、段差部42の上端縁42aを、支持板本体35と溶接用耳部36との境界部の下側近傍に位置させている。段差部42の上端縁42aは、幅方向視で逆U字形状を有しており、前後方向中間部が前後方向両側部に比べて上方に位置している。段差部42の上端縁42aの前後方向中間部は、後方に向かうほど上方に向かう方向に傾斜している。
【0063】
ブラケット側通孔41は、中間板部37を幅方向に貫通した貫通孔である。ブラケット側通孔41は、チルト軸13を中心とする部分円弧形状を有し、かつ、上下方向に伸長する。ブラケット側通孔41は、段差部42の上下方向中間部かつ前後方向中間部に配置されている。なお、チルト機構を備えない場合には、ブラケット側通孔は単なる円孔とする。
【0064】
前側補強部38及び後側補強部39のそれぞれは、たとえば、後述のステアリングロック装置を作動させた状態で、ステアリングホイールを大きな力で操作した場合など、アウタコラム9から1対の支持板部26にトルク(捩りトルク)が加わった場合にも、1対の支持板部26に塑性変形が生じることを防止する機能を有する。すなわち、前側補強部38及び後側補強部39は、支持板部26の断面係数を高め、支持板部26の幅方向に関する曲げ剛性を向上させる。
【0065】
前側補強部38は、支持板本体35の前側の端部に配置されており、上下方向に直線状に伸長する。前側補強部38の後側の端部は、中間板部37の前側の端部につながっている。ただし、前側補強部38の上端部は、ブリッジ部29にはつながっていない。前側補強部38は、幅方向外側が凸になるように湾曲しており、半円弧状の断面形状を有する。このため、前側補強部38の前側の端部は、幅方向内側を向いている。ただし、前側補強部38の前側の端部は、段差部42の幅方向内側面よりも幅方向外側に位置する。このため、前側補強部38の前側の端部は、アウタコラム9の上部締付面20、中間部締付面22及び下部締付面24に対して当接することはない。
【0066】
後側補強部39は、支持板本体35の後側の端部に配置されており、上下方向に伸長する。後側補強部39は、支持板本体35の後側の端部を幅方向外側に向けて略直角に折り曲げることにより形成されている。後側補強部39の前側の端部は、中間板部37の後側の端部につながっている。ただし、後側補強部39の上端部は、ブリッジ部29にはつながっていない。後側補強部39の上半部は、前側補強部38と略平行に配置され、上下方向に直線状に伸長するが、後側補強部39の下半部は、下方に向かうほど前方に向かう方向に傾斜している。
【0067】
前側補強部38の上端部と後側補強部39の上端部との上下方向位置は、ほぼ同じである。本例では、段差部42の上端縁42aの大部分が、前側補強部38及び後側補強部39のそれぞれの上端部よりも上方に位置している。
【0068】
溶接用耳部36は、1対の支持板部26のそれぞれの上端部に配置されている。具体的には、溶接用耳部36は、支持板本体35を構成する中間板部37の上方に配置されている。このため、溶接用耳部36の下端部は、中間板部37の上端部につながっている。ただし、溶接用耳部36の下端部は、前側補強部38及び後側補強部39のそれぞれの上端部にはつながっていない。溶接用耳部36は、上方に向かうほど幅方向内側に向かう方向に傾斜している。鉛直面に対する溶接用耳部36の傾斜角度は、前記鉛直面に対する側方傾斜板部33の傾斜角度と同じである。
【0069】
本例のアッパブラケット7では、溶接用耳部36の幅方向外側面と、ブリッジ部29を構成する側方傾斜板部33の幅方向内側面とを、互いに面接触させた状態で、溶接固定(アーク溶接)している。本例では、
図9に示すように、取付板部25と支持板部26とを溶接固定した状態で、支持板本体35と溶接用耳部36との境界部を、側方傾斜板部33と接続部31との境界部の近傍に位置させている。
【0070】
《溶接ビード》
溶接ビード27は、溶接用耳部36の幅方向外側面とブリッジ部29を構成する側方傾斜板部33の幅方向内側面との溶接部に形成された、溶接痕の盛り上がりである。本例の溶接ビード27は、中間板部37の幅方向外側面の上端部と接続部31の幅方向内側面とを接合している。溶接ビード27は、前後方向に伸長している。溶接ビード27は、前後方向に関して、第1リブ46の幅方向外側の端部と、第2リブ47との間に配置されている。溶接ビード27は、略三角形の断面形状を有しており、幅方向内側に向かうほど下方に向かう方向に傾斜した下面を有する。なお、
図9には、溶接ビード27の下面を平坦面状に描いているが、実際の場合には、前後方向に微小な凹凸を有する場合もある。
【0071】
本例では、ブリッジ部29の側方傾斜板部33とサイド板部30とを、従来構造のように、幅方向内側面が凸曲面になった接続部ではなく、幅方向内側面が平坦面状の接続部31により接続している。これにより、接続部31の幅方向内側面と中間板部37の幅方向外側面の上端部との間に、略三角形の断面形状を有する、溶接ビード27を収容するための溶接ポケット45を形成している。溶接ポケット45は、前後方向に関して、第1リブ46の幅方向外側の端部と、第2リブ47との間に配置されている。本例では、
図9に示すように、接続部31の幅方向内側面を平坦面状とすることにより、従来構造のように、接続部の幅方向内側面を凸曲面とした場合(
図9の破線参照)に比べて、溶接ポケット45の容積を増大させている。この結果、溶接ビード27の下端部27aを、接続部の幅方向内側面を凸曲面とした場合の溶接ビード(
図9の1点鎖線参照)の下端部27xに比べて、上方に位置させている。
【0072】
アッパブラケット7を構成する1対の支持板部26をアウタコラム9の幅方向両側に配置した状態で、コラム側通孔23及びブラケット側通孔41のそれぞれには、調節ロッド49が幅方向に挿通されている。調節ロッド49は、軸方向一方側の端部(
図2及び
図5の左側の端部)に頭部50を有し、軸方向他方側の端部(
図2及び
図5の右側の端部)に雄ねじ部51を有する。
【0073】
調節ロッド49の軸方向一方側部分で、かつ、頭部50と1対の支持板部26のうちの一方(
図2及び
図5の左方)の支持板部26の幅方向外側面との間部分の周囲には、幅方向外側から順に調節レバー52及びカム装置53が配置されている。また、調節ロッド49の軸方向他方側部分で、かつ、1対の支持板部26のうちの他方(
図2及び
図5の右方)の支持板部26の幅方向外側面から突出した部分の周囲には、幅方向外側から順に、ナット54、スラスト軸受55及び押圧プレート56が配置されている。ナット54は、調節ロッド49の雄ねじ部51に螺合している。
【0074】
本例のステアリング装置1では、調節レバー52を揺動させて、カム装置53の軸方向寸法を拡縮させることで、1対の支持板部26の幅方向内側面同士の間隔を拡縮することができる。これにより、1対の支持板部26によるアウタコラム9に対するクランプ力の大きさを調節できる。
【0075】
カム装置53は、駆動側カム57と被駆動側カム58とからなる。駆動側カム57は、調節レバー52の基端部に対して相対回転不能に固定されている。
【0076】
駆動側カム57及び被駆動側カム58はいずれも、焼結金属製で、円輪板形状を有する。駆動側カム57は、幅方向内側面(
図2及び
図5の右側面)に、周方向に関する凹凸面である駆動側カム面を備える。被駆動側カム58は、幅方向外側面(
図2及び
図5の左側面)に、周方向に関する凹凸面である被駆動側カム面を備える。被駆動側カム58は、幅方向内側面に、略矩形板形状の係合凸部を備える。被駆動側カム58の係合凸部は、一方の支持板部26のブラケット側通孔41に対し、ブラケット側通孔41に沿った変位のみを可能に係合している。
【0077】
本例のステアリング装置1は、アッパブラケット7を構成する1対の支持板部26の幅方向両外側に、1対の引張ばね59を有する。1対の引張ばね59のうち、一方の引張ばね59は、一方のサイド板部30と調節レバー52の基端部との間に架け渡されている。これに対し、1対の引張ばね59のうち、他方の引張ばね59は、他方のサイド板部30と押圧プレート56との間に架け渡されている。1対の引張ばね59は、クランプ力を解除した際に、ステアリングホイールが勢い良く落下するようにステアリングコラム3が傾動することを防止する。
【0078】
本例のステアリング装置1には、車両用盗難防止装置の一種である、図示しないステアリングロック装置が組み込まれる。ステアリングロック装置により、イグニッションキーをOFFにした際には、ステアリングシャフト2の回転が実質的に不能になる。
【0079】
本例のステアリング装置1において、ステアリングホイールを所望位置に保持する際には、ステアリングホイールを所望位置に移動させた後、調節レバー52を、調節ロッド49を中心として所定方向(たとえば上方)に回動させる。これにより、前記駆動側カム面の凸部と前記被駆動側カム面の凸部とが互いに突き合わされ、カム装置53の軸方向寸法が拡がり、1対の支持板部26の幅方向内側面同士の間隔が縮まる。この際、1対の支持板部26(段差部42)の幅方向内側面が、上部締付面20、中間部締付面22及び下部締付面24を押圧する。これにより、1対のクランプ部18が、幅方向内側に弾性変形し、インナコラム8の外周面を幅方向両側から挟持する。この結果、ステアリングホイールが、調節後の位置に保持される。
【0080】
ステアリングホイールの位置調節を行う際には、調節レバー52を、前記所定方向とは逆方向(たとえば下方)に揺動させる。これにより、前記駆動側カム面の凸部と前記被駆動側カム面の凸部とが円周方向に関して交互に配置され、カム装置53の軸方向寸法が縮み、1対の支持板部26の幅方向内側面同士の間隔が拡がる。この結果、1対の支持板部26による押圧力が低下するため、1対のクランプ部18が弾性的に復元し、1対のクランプ部18がインナコラム8の外周面を保持する力が低下する。この状態で、調節ロッド49が、コラム側通孔23及びブラケット側通孔41の内側で動ける範囲で、ステアリングホイールの前後位置及び上下位置の調節が可能となる。
【0081】
以上のような本例のステアリング装置1によれば、アッパブラケット7を構成する1対の支持板部26に備えられた段差部42の幅方向内側面の面精度を確保できる。
すなわち、本例では、アッパブラケット7の取付板部25に関して、ブリッジ部29の側方傾斜板部33とサイド板部30とを、前記
図13に示した従来構造のように、幅方向内側面が凸曲面になった接続部により接続するのではなく、幅方向内側面が平坦面状の接続部31により接続している。これにより、接続部31の幅方向内側面と中間板部37の幅方向外側面の上端部との間に、接続部の幅方向内側面を凸曲面とした場合(
図9の破線参照)に比べて容積が増大した、溶接ポケット45を形成している。この結果、溶接ビード27の下端部27aを上方に位置させることが可能になるため、溶接ビード27と段差部42の上端縁42aとの距離(上下方向距離)を、従来構造に比べて大きくできる。したがって、溶接ビード27の熱の影響を段差部42が受けにくくできるため、段差部42の幅方向内側面の面精度を確保することができる。これにより、本例のステアリング装置1によれば、上部締付面20、中間部締付面22又は下部締付面24に対して、段差部42の幅方向内側面が片当たりすることを防止でき、アッパブラケット7によるアウタコラム9の幅方向に関する支持剛性を向上させることができる。
【0082】
また、本例では、接続部の曲率半径を大きくすることで、溶接ビードを収容可能な容積を増やす方法のように、サイド板部30の幅方向寸法が短くなることがない。つまり、本例では、サイド板部30の幅方向寸法を短くせずに、溶接ビード27を収容するための溶接ポケット45の容量を増やすことができる。
【0083】
また、本例では、サイド板部30と平行な仮想平面Pに対する接続部31(の幅方向内側面)の傾斜角度α31を、前記仮想平面Pに対する側方傾斜板部33(の幅方向内側面)の傾斜角度α33よりも小さくしている。このため、サイド板部30と側方傾斜板部33とを、接続部を介さずに直接接続した場合(接続部31の傾斜角度α31と側方傾斜板部33の傾斜角度α33とを同じとした場合)に比べて、溶接ポケット45の容積を増大できる。このため、溶接ビード27の熱の影響を段差部42が受けにくくなり、段差部42の幅方向内側面の面精度を確保できる。
【0084】
また、本例では、アッパブラケット7の支持板部26に備えられた前側補強部38及び後側補強部39のそれぞれの上端部を、ブリッジ部29に対して接続していない。このため、前側補強部38及び後側補強部39を設けたことに起因して、1対の支持板部26が幅方向内側に撓み変形しにくくなることを防止できる。また、支持板部26の上端部に備えられた溶接用耳部36を、サイド板部30ではなく、側方傾斜板部33の下面に対して溶接固定している。さらに、ブリッジ部29の剛性を、サイド板部30の剛性よりも高くしている。したがって、サイド板部30又は車体12の取付面の精度が十分に高くない場合であっても、この精度の影響が、1対の支持板部26に及ぶことを防止できる。
【0085】
また、本例では、1対のクランプ部18を弾性変形させるための中間部締付面22と、たとえばステアリングロック装置を作動させた状態で、ステアリングホイールを大きな力で操作した場合などにアウタコラム9に作用するトルクを、アッパブラケット7の支持板部26の幅方向内側面に伝達するための上部締付面20及び下部締付面24とが、別々に独立して設けられている。すなわち、中間部締付面22には、支持板部26の幅方向内側面にトルクを伝達する機能は必要とされない。このため、1対のクランプ部18は、インナコラム8を挟持する機能のみを発揮できれば足り、必要以上に強度を確保しなくて済む。したがって、クランプ部18を幅方向に大きく撓ませることが可能になる。これに対し、上部締付面20及び下部締付面24は、幅方向に大きく撓む必要はなく、トルクを伝達する機能を発揮できれば足りる。この結果、本例のステアリング装置1では、アウタコラム9の強度確保とインナコラム8の保持力確保との両立を図れる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0087】
本発明を実施する場合に、支持板本体の形状は、実施の形態で示したものに限定されない。たとえば、国際公開第2020/116350号(特許文献2)に記載された構造のように、段差部が形成された範囲の中にさらに、軸方向外側に凹形状を有し且つ軸方向内側に凸形状を有する2段目の段差部(第2段差部)を設けることもできる。このような第2段差部を形成すれば、支持板部に撓み変形が生じた場合にも、第2段差部の幅方向内側面を、アウタコラムの幅方向外側面(たとえば上部締付面)に対して当接させることができる。また、本発明を実施する場合に、前側補強部及び後側補強部の形状は、実施の形態で示したものに限定されない。前側補強部及び/又は後側補強部は、省略することもできる。また、本発明のアッパブラケットにより幅方向両側から挟持されるステアリングコラムの構造に関しても、実施の形態で説明した構造に限定されず、従来から知られた各種の構造を採用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 ステアリング装置
2 ステアリングシャフト
3 ステアリングコラム
4 ロアブラケット
5 電動アシスト装置
6 ギヤハウジング
7 アッパブラケット
8 インナコラム
9 アウタコラム
10 インナシャフト
11 アウタシャフト
12 車体
13 チルト軸
14 コラム本体
15 補強ブリッジ部
16 前後方向スリット
17a 前側周方向スリット
17b 後側周方向スリット
18 クランプ部
19 突条部
20 上部締付面
21 張出板部
22 中間部締付面
23 コラム側通孔
24 下部締付面
25 取付板部
26 支持板部
27 溶接ビード
27a、27x 下端部
28 係止カプセル
29 ブリッジ部
30 サイド板部
31 接続部
32 中央板部
33 側方傾斜板部
34 係止切り欠き
35 支持板本体
36 溶接用耳部
37 中間板部
38 前側補強部
39 後側補強部
40 基板部
41 ブラケット側通孔
42 段差部
42a 上端縁
45 溶接ポケット
46 第1リブ
47 第2リブ
48 取付側スリット
49 調節ロッド
50 頭部
51 雄ねじ部
52 調節レバー
53 カム装置
54 ナット
55 スラスト軸受
56 押圧プレート
57 駆動側カム
58 被駆動側カム
59 引張ばね
100 ステアリング装置
101 ステアリングシャフト
102 ステアリングコラム
103 ロアブラケット
104、104a アッパブラケット
105 車体
106 電動アシスト装置
107 インナコラム
108、108a アウタコラム
109 インナシャフト
110 アウタシャフト
111 チルト軸
112、112a 取付板部
113、113a 支持板部
114、114a ブラケット側通孔
115 調節ロッド
116 調節レバー
117 ブリッジ部
118 サイド板部
119 接続部
120 中央板部
121 側方傾斜板部
122 係止切り欠き
123 支持板本体
124 溶接用耳部
125 段差部
125a 上端縁
126 境界部
127 溶接ビード
128 カム装置