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特開2023-131698系統違反解消制御計算システム、系統違反解消システム、故障計算システム、系統安定化システム、予防制御システム、及び系統違反解消制御計算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131698
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】系統違反解消制御計算システム、系統違反解消システム、故障計算システム、系統安定化システム、予防制御システム、及び系統違反解消制御計算方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20230914BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036596
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐原 健太
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀岳
(72)【発明者】
【氏名】川本 直輝
(72)【発明者】
【氏名】谷津 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】丹宗 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上野 真太郎
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC08
5G064DA03
5G066AA03
5G066AA09
5G066AE03
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】電力系統の変動要因に対してロバストな違反解消制御を算出する。
【解決手段】電力系統の系統違反を解消する系統違反解消制御を計算する系統違反解消制御計算システムは、電力系統のモデルと、電力系統の状態とに基づいて、系統違反解消制御を算出するための最適化問題の制約条件を定式化する制約条件定式化部と、制約条件と、電力系統の各母線の電力変動の範囲を示す変動レンジとに基づいて、各母線の電力変動が電力系統の各送電線の線路潮流へ与える影響度を算出する変動影響度算出部とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の系統違反を解消する系統違反解消制御を計算する系統違反解消制御計算システムであって、
前記電力系統のモデルと、前記電力系統の状態とに基づいて、前記系統違反解消制御を算出するための最適化問題の制約条件を定式化する制約条件定式化部と、
前記制約条件と、前記電力系統の各母線の電力変動の範囲を示す変動レンジとに基づいて、各母線の電力変動が前記電力系統の各送電線の線路潮流へ与える影響度を算出する変動影響度算出部と
を有することを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項2】
請求項1に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記変動影響度算出部は、
各母線の電力変動が前記電力系統の各送電線の線路潮流へ与える潮流変動を目的関数とする最適化問題を解くことで前記影響度を算出する
ことを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項3】
請求項1に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記影響度と前記制約条件とに基づいて前記最適化問題を解くことで前記系統違反解消制御を算出する系統違反解消制御算出部
を有することを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項4】
請求項3に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記電力系統のモデルと、前記電力系統の状態と、前記系統違反解消制御算出部によって算出された前記系統違反解消制御とに基づいて、前記影響度を考慮した場合の前記系統違反の解消可否を評価する系統違反解消制御評価部
を有することを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項5】
請求項4に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記系統違反解消制御算出部は、
前記影響度を考慮しない場合の前記最適化問題の解を算出し、
前記系統違反解消制御評価部は、
前記電力系統のモデルと、前記電力系統の状態と、前記系統違反解消制御算出部によって算出された前記解とに基づいて、前記影響度を考慮しない場合の前記系統違反の解消可否を評価する
ことを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項6】
請求項5に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記変動レンジ、前記影響度、前記系統違反解消制御、及び、前記影響度を考慮した場合の前記解消可否の評価結果と前記影響度を考慮しない場合の前記解消可否の評価結果、の少なくとも何れかを出力部から出力する
ことを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項7】
請求項1に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記電力系統の状態の過去の実績データに基づいて前記変動レンジを算出する変動レンジ算出部
を有することを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項8】
請求項7に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記変動レンジ算出部は、
指定範囲の前記実績データを読み込み、所定のインターバル毎の各母線の電力の変動範囲を算出し、該変動範囲を所定の分布で表した場合の該変動範囲の過酷度に基づいて前記変動レンジの上限及び下限を決定する
ことを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項9】
請求項3に記載の系統違反解消制御計算システムであって、
前記系統違反解消制御算出部は、
前記系統違反解消制御を算出できない場合には、前記最適化問題の目的関数、前記制約条件、又は前記影響度を緩和した最適化問題を解くことで、前記系統違反を軽減又は最小化する制御を算出する
ことを特徴とする系統違反解消制御計算システム。
【請求項10】
請求項3に記載の系統違反解消制御計算システムと、
前記系統違反解消制御計算システムによる前記系統違反解消制御の計算の実行を管理する計算管理部と
を有することを特徴とする系統違反解消システム。
【請求項11】
請求項3に記載の系統違反解消制御計算システムと、
前記電力系統の故障を模擬した模擬故障ケースを前記系統違反解消制御計算システムへ入力し、前記系統違反解消制御計算システムによる該模擬故障ケースにおける前記系統違反を解消する前記系統違反解消制御の計算の実行を管理する計算管理部と、
各模擬故障ケースに対して計算された前記系統違反解消制御を、該各模擬故障ケースと対応付けて記憶する記憶部と
を有することを特徴とする故障計算システム。
【請求項12】
請求項11に記載の故障計算システムと、
前記電力系統の状態が何れの故障ケースに該当するかを判定する故障ケース判定部と、
前記記憶部を参照し、前記故障ケース判定部によって判定された故障ケースに該当する模擬故障ケースに対応付けられた前記系統違反解消制御を取得し、該系統違反解消制御に基づいて制御対象に対して制御指令を出力する遠隔制御部と
を有することを特徴とする系統安定化システム。
【請求項13】
請求項1に記載の系統違反解消制御計算システムと、
前記制約条件のうちの送電潮流の制約条件を、前記電力系統の送電線を開放した場合の開放感度を用いて表した制約条件に置き換え、該制約条件を充足する送電線が存在する場合に該送電線の故障における前記系統違反を解消できる可能性があると判断すると共に、該系統違反を解消した状態での前記電力系統の運用点を算出する予防制御運用点算出部
を有することを特徴とする予防制御システム。
【請求項14】
電力系統の系統違反を解消する系統違反解消制御を計算する系統違反解消制御計算システムが実行する系統違反解消制御計算方法であって、
前記電力系統のモデルと、前記電力系統の状態とに基づいて、前記系統違反解消制御を算出するための最適化問題の制約条件を定式化する制約条件定式化ステップと、
前記制約条件と、前記電力系統の各母線の電力変動の範囲を示す変動レンジとに基づいて、各母線の電力変動が前記電力系統の各送電線の線路潮流へ与える影響度を算出する変動影響度算出ステップと
を有することを特徴とする系統違反解消制御計算方法。
【請求項15】
請求項14に記載の系統違反解消制御計算方法であって、
前記変動影響度算出ステップでは、
各母線の電力変動が前記電力系統の各送電線の線路潮流へ与える潮流変動を目的関数とする最適化問題を解くことで前記影響度を算出する
ことを特徴とする系統違反解消制御計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、系統違反解消制御計算システム、系統違反解消システム、故障計算システム、系統安定化システム、予防制御システム、及び系統違反解消制御計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力の輸送を担う電力系統において、再生可能エネルギー等の発電による変動要因が多くなりつつある。電力系統における変動要因は、電力系統の潮流を大きく左右することが知られており、潮流の流れが複雑になることが各地で懸念されている。このような電力系統の複雑化は、送電機器の過負荷等を初めとする電力系統の違反を誘発させ、また、これらの違反状態からの回復を複雑にすることが知られている。例えば、風力発電機の出力上限を変更することで電力系統の違反解消を試みた場合、制御結果が反映されるまでの間に電力系統の状態が変化し、適切な違反解消ができない懸念がある。
【0003】
このような変動要因に対し、電力系統分野では、変動に対応する手法が提案されてきた。
【0004】
例えば、発電計画への適用例としては、特許文献1が知られている。特許文献1では、変動に対応した発電計画を立案するため、シナリオツリーとBranch-cut-price algorithmを活用している。
【0005】
また、電力系統の周波数維持と線路違反解消には、特許文献2が知られている。特許文献2では、部分的なモデル予測制御やアダプティブ制御を用いることで、変動を制御ループの中で解消していく方式を提案している。
【0006】
また、稀頻度で発生する不確実要因の一つである想定故障へ対応した例としては、特許文献3が知られている。特許文献3では、Bi-level decomposition schemeによる数理的なアプローチを用いて、重篤な変動要因を制約として入れた最適化問題を解くことで、これらを回避できる運用点を算出している。
【0007】
また、重篤な故障に特定せず運用をする例としては、非特許文献1と非特許文献2が知られている。非特許文献1では、変動を分布として捉え、運用点を算出する際の制約条件として入れ込んでいる。また、非特許文献2では、運用マージンを確率分布としてとらえ、制約条件に入れることで、確率的に最適な運用点を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0242757号明細書
【特許文献2】米国特許第9507367号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/112365号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】L. Roald, S. Misra, T. Krause and G.Andersson, "Corrective Control to Handle Forecast Uncertainty: A ChanceConstrained Optimal Power Flow," in IEEE Transactions on Power Systems,vol. 32, no. 2, pp. 1626-1637, March 2017, doi: 10.1109/TPWRS.2016.2602805.
【非特許文献2】Haoyuan Qu, L. Roald and G.Andersson, "Uncertainty margins for probabilistic AC securityassessment," 2015 IEEE Eindhoven PowerTech, 2015, pp. 1-6, doi:10.1109/PTC.2015.7232297.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電力系統における変動は、電力系統の規模や変動要因が増えるにつれ、増加する傾向にある。また、これらの変動は連続的であるため、特許文献1や特許文献3で記載されるような、離散空間で表されるシナリオツリーのみで適切に反映することは困難である。
また、特許文献2のように、計測データにあわせた制御を実行する方式では、変動に対応できるものの、対応できる変動の範囲が明確ではない。
【0011】
非特許文献1や非特許文献2では、変動を確率分布として捉えているため、一般的な運用においては十分な性能を発揮できるが、変動成分によるエッジケースに対応できないため、系統違反発生時の解消には、同様の制御を活用にはリスクが伴う。
【0012】
本発明は上述を考慮してなされたもので、電力系統の変動要因に対してロバストな違反解消制御を算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様では、電力系統の系統違反を解消する系統違反解消制御を計算する系統違反解消制御計算システムであって、前記電力系統のモデルと、前記電力系統の状態とに基づいて、前記系統違反解消制御を算出するための最適化問題の制約条件を定式化する制約条件定式化部と、前記制約条件と、前記電力系統の各母線の電力変動の範囲を示す変動レンジとに基づいて、各母線の電力変動が前記電力系統の各送電線の線路潮流へ与える影響度を算出する変動影響度算出部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電力系統の変動要因に対してロバストな違反解消制御を算出できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電力系統の構成例を示す図。
図2】実施形態1に係る系統違反解消制御計算システムの構成例を示す図。
図3】実施形態1に係る系統違反解消制御計算システムのハードウェアの構成例を示す図。
図4】実施形態1に係る系統違反解消制御計算システムの全体処理の一例を示すフローチャート。
図5】従来技術に係る系統違反解消制御計算システムの作用例の説明図。
図6】実施形態1に係る系統違反解消制御計算システムの作用例の説明図。
図7】実施形態1に係る系統違反解消制御計算システムの出力部に表示される画面表示の例を示す図。
図8】実施形態3に係る変動レンジ算出部の構成例を示す図。
図9】実施形態3に係る変動レンジ算出部の変動レンジ算出処理例を示すフローチャート。
図10】実施形態3に係る変動レンジ算出部におけるレンジ算出の説明図。
図11】実施形態4に係る系統違反解消システムの構成例を示す図。
図12】実施形態5に係る故障計算システム及び系統安定化システムの構成例を示す図。
図13】実施形態6に係る予防制御システム及び系統運用システムの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施形態は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でもよい。
【0017】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0018】
実施形態において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit))によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であればよく、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、量子コンピュータ等である。
【0019】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバ又は計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施形態において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0020】
以下の説明では、「XXXDB」は、情報(あるいはデータ)である「XXX」を格納するデータベースを指すが、「XXXDB」に格納されている「XXX」そのものを指す場合もある。DB(Data Base)は、記憶部の一例である。
【0021】
以下の説明では、例えば記号「A」の真上に記号「~」を付した記号を「A~」と記載する。
【0022】
[実施形態1]
本実施形態では、開示の技術を電力系統における過負荷解消の制御算出に応用した例について説明する。
【0023】
まず、図1を用いて電力系統について説明する。図1は、電力系統PSの構成例を示す図である。
【0024】
電力系統PSは、主に発電機器、送電機器、需要のそれぞれで構成されるネットワークであり、送電機器を介して、電力を需要へ届けることを主たる目的とする。電力系統PSの高信頼度の運用には、線路潮流Sが線路潮流の上限Smaxを厳守する必要がある。図1では、発電機器は、発電機G1~G3及び風力発電機WF1を含む。送電機器は、送電線PL1~PL7を含む。需要は、負荷L1~L3を含む。図1に示すように、発電機G1~G3及び負荷L1~L3が母線B1~B6に接続され、母線B1~B6が送電線PL1~PL7を介して接続されることで、電力系統PSが構成されている。
【0025】
この時、線路潮流の上限Smaxは、電力系統の電圧安定性、周波数安定性、過渡安定性、送電機器の熱容量により決定される。線路潮流Sが線路潮流の上限Smaxを超過する違反状態(過負荷)は電力系統の主目的である電力輸送の信頼性に影響を及ぼすため、解消する必要がある。
【0026】
過負荷解消は、電力系統の発電出力の持ち替え、送電機器の状態変更、需要の変更等の手段を組み合わせて実現されるが、送電機器を除いて、過負荷解消の制御が反映されるまでの間に、電力系統の状態が変化する懸念がある。図1では、電力系統の状態変化は、「+/-」で表記されており、例えば、再生可能エネルギー電源や負荷が接続された母線において、発電電力や消費電力が変化すること等である。このように状態変化が予想される電力系統においても、高い信頼度で過負荷解消できる制御の算出が本実施形態のシステムの目的である。なお、図1では、送電線PL3の送電量が過負荷(S>Smax!)状態になっているため、電力系統の操作によって、他の送電線に不要に影響を及ぼすことなく、過負荷を解消することを目的とする例を示す。
【0027】
ここで、図2を用いて、本実施形態の系統違反解消制御計算システム1の構成について説明する。図2は、実施形態1に係る系統違反解消制御計算システム1の構成例を示す図である。図3は、実施形態1に係る系統違反解消制御計算システム1のハードウェアの構成例を示す図である。
【0028】
系統違反解消制御計算システム1は、計算機10(図3)で構成されるシステムである。図2に示す系統違反解消制御計算システム1の機能構成は、図3に示す計算機10の各ハードウェア要素を用いて実現される。計算機10は、主記憶装置であるメモリ101、CPUやGPU等のプロセッサである演算手段102、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力手段103を含んで構成される。また、計算機10は、GPU、モニター、及び通信インターフェースを含む出力手段104、及び外部記憶装置であるデータベースDBを含んで構成される。図2は、メモリ101やデータベースDB上にあるデータ、演算手段102によるプログラムの実行により実現される各処理機能部、GPUやモニターを介して結果を表示する出力手段104をそれぞれ、各データベースと各処理ブロックで表している。
【0029】
図2に説明を戻す。系統違反解消制御計算システム1は、電力系統モデルを格納する電力系統モデルDB1と、電力系統状態を格納する電力系統状態DB2と、変動レンジを格納する変動レンジDB3とを有する。また、系統違反解消制御計算システム1は、変動影響度を格納する変動影響度DB4と、系統違反解消制御を格納する系統違反解消制御DB5と、系統違反解消可否を格納する系統違反解消可否DB6とを有する。電力系統モデルDB1、電力系統状態DB2、変動レンジDB3、変動影響度DB4、系統違反解消制御DB5、及び系統違反解消可否DB6の少なくとも何れかは、系統違反解消制御計算システム1に接続される外部装置であってもよい。
【0030】
また、系統違反解消制御計算システム1は、制約条件定式化部12と、変動影響度算出部13と、系統違反解消制御算出部14と、系統違反解消制御評価部15と、を処理機能として有する。また、系統違反解消制御計算システム1は、ディスプレイやスピーカ等の出力部16を有する。出力部16は、系統違反解消制御計算システム1に接続される外部装置であってもよい。
【0031】
制約条件定式化部12は、電力系統モデルDB1と電力系統状態DB2を入力として電力系統制約を定式化し出力する。変動影響度算出部13は、制約条件定式化部12によって出力された電力系統制約と、変動レンジDB3とを入力として変動影響度を算出し出力する。算出された変動影響度は、変動影響度DB4へ格納される。
【0032】
系統違反解消制御算出部14は、制約条件定式化部12によって出力された電力系統制約と、変動影響度DB4を入力として系統違反解消制御を算出し出力する。算出された系統違反解消制御は、系統違反解消制御DB5へ格納される。系統違反解消制御評価部15は、電力系統モデルDB1と電力系統状態DB2と系統違反解消制御DB5を入力として系統違反解消可否DB6を算出し出力する。出力部16は、これらの入力と出力を表示する。各機能の詳細フローについては、後述する。
【0033】
ここで、各種入力データについて説明する。電力系統モデルDB1は、電力系統PSのインピーダンス、接続構成、発電機の出力上下限、負荷特性、発電機モデル等を格納したデータである。電力系統モデルDB1は、電力系統の周波数が一定であると仮定した潮流計算(Power flow calculation)に用いるデータ、及び周波数が変動し得る前提の過渡計算(dynamic calculation)に用いるデータ、の一つ以上を含む。
【0034】
電力系統状態DB2は、電力系統の状態を表すデータであり、電力系統の状態推定(state estimation)によって計算された各母線の電圧と位相(Voltage magnitude and phase)や、潮流計算によって計算された各送電線の潮流等の情報を持つ。
【0035】
変動レンジDB3は、電力系統の不確実に変動し得る母線電力の範囲であり、例えば、式(1)によって表すことができる。
【0036】
【数1】
【0037】
ここで、Nは母線数であり、P~は全母線の電力変動を表すベクトルであり、P~は母線iの電力変動であり、PminとPmaxは母線iの電力変動P~の下限と上限を示す。PminとPmaxが変動レンジDB3に格納される。
【0038】
図1の電力系統PSにおいて、「+/-」で表記された部分が変動レンジDB3に相当する。例えば、再生可能エネルギー電源が接続された母線では、電力変動が大きくなることから、変動レンジを大きく設定する等が考えれる。変動レンジの設定に関しては、後述する。
【0039】
次に各種出力データについて説明する。変動影響度DB4は、変動レンジが対象とする電力系統に及ぼす影響を表す。一例としては、変動レンジが各送電線に及ぼす影響である。数理的には、例えば、式(2)で表すことができる。
【0040】
【数2】
【0041】
ここでS~は変動レンジDB3による送電線lへの潮流変動の影響であり、SminとSmaxは変動レンジDB3による送電線lへの潮流変動の影響の上限と下限である。
【0042】
系統違反解消制御DB5は、例えば、系統違反解消のため、電力系統の発電機器や負荷の持ち替え量や、系統構成の変更を示すものである。電力系統の発電機器や負荷の持ち替え量は、例えば式(3)で表すことができる。
【0043】
【数3】
【0044】
ここでΔPは、母線iへの有効電力変更量である。有効電力変更量以外にも、系統構成変更による違反解消も可能である。
【0045】
系統違反解消可否DB6は、系統違反解消制御により系統違反解消の可否を判定した結果である。系統違反解消が否である場合、違反解消までの系統違反量のマージンを示してもよい。
【0046】
次に、図4を用いて、本実施形態の全体処理フローを説明する。図4は、実施形態1に係る系統違反解消制御計算システム1の全体処理の一例を示すフローチャートである。
【0047】
ステップS11では、系統違反解消制御計算システム1は、電力系統モデルDB1と電力系統状態DB2と変動レンジDB3を読み込む。ステップS12では、制約条件定式化部12は、電力系統モデルDB1と電力系統状態DB2とを、違反解消ロジック向けに制約条件として定式化する。
【0048】
ステップS13では、変動影響度算出部13は、ステップS12で算出された制約条件(電力系統制約)と変動レンジDB3に基づいて、各母線の電力変動が電力系統に及ぼす変動影響度DB4を算出する。ステップS14では、系統違反解消制御算出部14は、電力系統制約と変動影響度DB4に基づいて系統違反解消制御DB5を算出する。ステップS15では、系統違反解消制御評価部15は、系統違反解消制御DB5を評価する。ステップS16では、ステップS15の評価結果を出力部16へ出力する。
【0049】
このような一連の制御を用いることで、ユーザは、入力した電力系統モデルと電力系統状態と変動レンジに対し、変動影響度、系統違反解消制御、系統違反解消可否を得ることができる。
【0050】
次に、図1に示す電力系統PSを具体例として、図4のステップS11~S16のそれぞれの詳細を説明する。
【0051】
本実施形態の電力系統モデルDB1は、例えば、図1に例示する電力系統PSをモデル化したものである。電力系統状態DB2は、例えば、図1に例示する電力系統PSの状態である。この状態に対し、本実施形態では、母線B1、B5、B6において、±5MWの変動レンジDB3の状態変化を想定している。ステップS11では、このような入力データが、ユーザ、あるいは他システムから取得される。
【0052】
ステップS12では、電力系統状態DB2が違反解消ロジック向けに制約条件として定式化される。この時、制約条件は、変動レンジDB3の影響下での違反解消制御により、電力系統の制約が守られるよう作成される。制約条件は、例えば、一例としては、式(4)で表すことができる。
【0053】
【数4】
【0054】
ここで、S initは電力系統状態DB2におけるインデックスlで識別される送電線の皮相電力である。Aは各母線の有効電力の変化における各送電線の変化量を表す感度行列である。S max,S minは、インデックスlで識別される送電線の線路潮流の上限及び下限である。
【0055】
ここで、式(4)の中辺の“ΔP+AP~”は、違反解消制御による制御量ΔPと母線の有効電力の変化による線路潮流への影響の和を表す。このとき、感度係数Aは、電力系統モデルDB1の各要素の変化に対する潮流計算を繰り返すことによって算出されても、電力系統の直流法(Direct Current Power Flow)によって算出できる感度係数(PTDF:Power Transfer Distribution Factor)を用いても、何れでもよい。式(4)が満たされれば、少なくとも線形化された領域では、母線の有効電力の変動があった場合においても、電力系統の過負荷(違反の一種)が解消される。また、このように、変動成分の影響を、違反解消制御算出時の制約として定義することで、様々な違反解消制御算出ロジックへ応用することができる。
【0056】
次にステップS13の詳細を説明する。まず、制御が実行されない場合は、式(4)の制約式は式(5)のように変動レンジによって決定されることがわかる。
【0057】
【数5】
【0058】
このとき、変動P~は、最適化問題の決定変数とは違い、必ずしも最適化に対して協力的な値を取るものではないため、この状態では、変動レンジの影響評価は困難である。そこで、本実施形態では、式(5)の線形関係を活用して、母線の有効電力の変化による、変動レンジDB3による送電線lへの影響の上限と下限へ分離する。
【0059】
【数6】
【0060】
例えば、変動レンジによる影響が過酷な下限は、式(7)の最適化問題を通して解くことができる。
【0061】
【数7】
【0062】
ここで、式(7)に示すように、母線の有効電力の電力変動P~の総和はゼロであることが望ましい。これは電力系統の潮流計算における重要な前提であり、この前提が崩れると、潮流計算そのものに影響が出てしまうためである。
【0063】
同様に、変動レンジによる影響が過酷な上限は、式(7)の最適化問題を通して解くことができる。
【0064】
【数8】
【0065】
電力系統状態の制約式を、母線の有効電力の変動の影響による各送電線の潮流変動を目的関数とした最適化問題に分離することで、想定された変動レンジの影響を計算することができる。この変動レンジの影響は、過負荷を対象にした場合には、式(9)で表すことができる。
【0066】
【数9】
【0067】
このように、制約条件から分離した潮流変動を目的関数とする最適化問題を解くことで母線電力の変動による影響度を算出するので、個々の最適化問題に依存しない汎用的な影響度が算出される。つまり、変動による影響度を算出する個別の最適化計算の集合を解くことで変動影響度を計算する。よって、このようにして算出された影響度は、電力系統違反解消制御計算の様々なアルゴリズムへ適用することができる。
【0068】
次にステップS14の詳細を説明する。ステップS14では、電力系統の違反を解消するため、例えば、各母線への有効電力変更量を最小化する最適化問題を用いる。一例としては、式(10)の最適化問題の解を用いる。
【0069】
【数10】
【0070】
なお、式(10)は絶対値最小化問題として表記されているが、線形計画法として再定式化して解いてもよい。いずれにせよ、算出される解は、ΔPであり、対象の電力系統の違反を解消するための制御量である。式(10)の制約を満たす解であれば、想定された変動に対してロバストな制御量が算出できる。
【0071】
ここで、図5及び図6を用いて、ロバストな制御の例を説明する。図5は、従来技術に係る系統違反解消制御計算システムの作用例の説明図である。図6は、実施形態1に係る系統違反解消制御計算システムの作用例の説明図である。
【0072】
先ず、従来技術の変動レンジDB3を考慮しない制御を行う場合を考える。図5に示すように、風力発電機WF1の出力を100→104MW、発電機G1の出力を100→99MW、発電機G2の出力を100→104MW、発電機G3の出力を50→48MW、負荷L1の消費を150→153MWと制御する。変動レンジDB3を考慮していないため、系統状態が変化しない場合には問題は生じないが、系統状態が変化した場合には、図5に示すように、送電線PL3の違反(図1)は解消されたものの、別の送電線(送電線PL5)で違反が誘発される。
【0073】
次に、本実施形態の変動レンジDB3を考慮した制御を行う場合を考える。図6に示すように、発電機G1の出力を100→101M、発電機G2の出力を100→102MWと制御する点が図5に示す従来技術と異なるが、変動レンジDB3を考慮しているため、系統状態が変化した場合でも、違反解消ができる。
【0074】
図4の説明に戻る。ステップS15では、ステップS14で算出された制御量で系統状態の違反解消ができるかを確認する。このときステップS14で算出された制御量を電力系統モデルに反映した上で、潮流計算で確認する。ステップS14で算出された制御量で系統状態の違反解消ができる場合には、系統違反解消可否DB6には、例えば“OK(解消可能)”と記録される。また、ステップS14で算出された制御量で系統状態の違反解消ができない場合には、系統違反解消可否DB6には、例えば“NG(解消不可能)”と記録される。ステップS14で算出された制御量で系統状態の違反解消ができない場合には、違反解消までのマージンが記録されてもよい。
【0075】
なお、系統違反解消制御算出部14は、変動レンジDB3を考慮しない系統違反解消制御を計算してもよい。この場合、系統違反解消制御評価部15は、変動レンジDB3を考慮せず算出された制御量を電力系統モデルに反映した上で、潮流計算で確認する。変動レンジDB3を考慮せず算出された制御量で系統状態の違反解消ができる場合には、系統違反解消可否DB6には、例えば“OK(解消可能)”と記録される。また、変動レンジDB3を考慮せず算出された制御量で系統状態の違反解消ができない場合には、系統違反解消可否DB6には、例えば“NG(解消不可能)”と記録される。変動レンジDB3を考慮せず算出された制御量で系統状態の違反解消ができない場合には、違反解消までのマージンが記録されてもよい。
【0076】
系統違反解消制御評価部15は、ロバスト性あり(変動レンジDB3を考慮)のケースとロバスト性なし(変動レンジDB3を考慮せず)のケースの一つ以上を評価する。ロバスト性あり評価とロバスト性なしの評価を併用することで、ロバスト性の必要性や制御の効果を評価することができる。
【0077】
ステップS16では、ステップS15の計算結果を表示する。ここで、図7を用いて表示の例を説明する。図7は、実施形態1に係る系統違反解消制御計算システム1の出力部16に表示される画面表示16dの例を示す図である。
【0078】
出力部16には、電力系統モデル及び電力系統状態が表示16d1にて示され、解析対象の電力系統の状態を確認することができる。また、解析に用いた変動レンジDB3が表示16d2にて示され、この変動レンジDB3に対する系統違反制御が表示16d3にて、変動影響度が表示16d4にて、系統違反解消可否が表示16d5にてそれぞれ示される。このように表示することにより、ユーザは、変動レンジに対しロバストな違反制御が可能かを確認し、系統制御に活用することができる。
【0079】
本実施形態の系統違反解消制御計算システム1を用いることにより、電力系統の状態変化による不確実な影響に対して、違反解消できるロバストな制御が算出できる。
【0080】
[実施形態2]
さて実施形態1では、変動レンジDB3が広すぎる結果、系統違反解消制御計算が困難な場合がある。本実施形態では、系統違反解消制御計算の困難を回避する一例として、ボトルネックとなっている送電線を特定した上で、過負荷の違反制御の目的関数を、ボトルネックとなっている送電線の違反度を最小化する問題を解くことで、解を算出する。
【0081】
【数11】
【0082】
式(11)において、“l”はボトルネックと特定された送電線のインデックスであり、S max,S minは該当の送電線の線路潮流の上限及び下限、ΔSmax,ΔSminは変動レンジDB3による該当の送電線の線路潮流に対する影響の上限及び下限である。
【0083】
また、変形例としては、変動レンジを所定の制御に基づいて狭めた上で系統違反制御を算出してもよい。その他の変形例としては、送電線に優先度をつけることで、変動レンジの制約を一部緩和することもできる。
【0084】
すなわち、系統違反解消制御算出部14(図2)は、所定時間内や所定試行回数内で系統違反解消制御を算出できない場合には、目的関数、制約条件、及び、影響度の基になる変動レンジDB3を緩和した最適化問題を解く。これにより、系統違反解消制御算出部14は、系統違反を軽減又は最小化する制御を算出できる場合がある。
【0085】
[実施形態3]
本実施形態では、変動レンジDB3を算出する変動レンジ算出部2の一例について説明する。
【0086】
実施形態1の系統違反解消制御計算システム1は、変動レンジDB3に対応できる系統違反解消制御を算出するため、電力系統の制約式に固定のマージンを設定することで実現されている。しかし、不必要に大きなマージンを変動レンジDB3に設定することは、過剰な制御になりかねない。そこで、本実施形態では、過剰な制御にならないように適切な変動レンジDB3を算出する変動レンジ算出部2について説明する。
【0087】
図8を用いて変動レンジ算出部2を説明する。図8は、実施形態3に係る変動レンジ算出部2の構成例を示す図である。
【0088】
変動レンジ算出部2は、過去の系統状態を格納した系統状態実績データDB7と、変動レンジ算出用パラメータDB8と、レンジ算出部21と、変動レンジDB3を含んで構成される。系統状態実績データDB7は、電力系統における発電実績、構成実績、負荷実績等のデータを格納している。変動レンジ算出用パラメータDB8は、例えば、系統状態実績算出の指定範囲、変動レンジの算出インターバル、変動レンジの過酷度等格納する。ここで、変動レンジの算出インターバルとは、個々の分布を算出するためのインターバルである。例えば、10秒間の時系列の範囲である場合、10秒間の最初を基準として、電力の変動分を算出する。
【0089】
図9を用いて変動レンジ算出部2の詳細フローを説明する。図9は、実施形態3に係る変動レンジ算出部2の変動レンジ算出処理例を示すフローチャートである。
【0090】
先ずステップS21では、変動レンジ算出部2のレンジ算出部21は、変動レンジ算出用パラメータDB8を読み込む。次にステップS22では、レンジ算出部21は、ステップS21で読み込んだ変動レンジパラメータで指定される範囲のデータを系統状態実績データDB7から読み込む。次にステップS23では、レンジ算出部21は、変動インターバル毎の各母線の変動影響度の範囲を算出する。次にステップS24では、レンジ算出部21は、ステップS23で算出された変動影響度の範囲を分布として捉え、この変動レンジの過酷度に基づき、変動レンジの上限及び下限を決定する。次にステップS25では、レンジ算出部21は、変動レンジDB3を出力する。
【0091】
ここで、図10を用いてステップS23とステップS24を説明する。図10は、実施形態3に係る変動レンジ算出部2におけるレンジ算出の説明図である。
【0092】
変動レンジに基づいて算出された各母線の電力の変動範囲は、一定の分布(例えば正規分布)で表すことができる。このとき、計算範囲内の分布において、過酷度として標準偏差σに基づく1σ、2σ、3σ等を求める。ここで、過酷度に該当する上限及び下限を、変動レンジとする。なお、再生可能エネルギーのように出力上限及び下限が明確である母線に関しては、変動レンジを再生可能エネルギーの出力毎に算出してもよい。
【0093】
なお、各母線の電力の変動範囲が正規分布で表せない場合には、過酷度相当のパラメータで代用してもよい。例えば、分布において、1σ相当の中央値(Median)から上下68.27%のデータが含まれる上限及び下限で代用してもよい。
【0094】
[実施形態4]
本実施形態では、実施形態1の系統違反解消制御計算システム1を電力系統の多種なシステムと連携した例について説明する。
【0095】
ここで図11を用いて、系統違反解消システム3の全体構成について説明する。図11は、実施形態4に係る系統違反解消システム3の構成例を示す図である。系統違反解消システム3は、実施形態1又は2の系統違反解消制御計算システム1と、変動レンジDB3と、計算インターバルDB9と、計算管理部31とを有する。変動レンジDB3及び計算インターバルDB9は、系統違反解消システム3に接続される外部装置であってもよい。
【0096】
計算管理部31は、計算インターバルと変動レンジを入力として計算を管理する。系統違反解消制御計算システム1は、計算管理部31の計算結果と、電力系統モデル管理システム8の電力系統モデルDB1と、電力系統状態監視システム9の電力系統状態DB2とを入力として系統違反解消制御計算システム1に系統違反解消制御の計算を実行させる。
【0097】
ここで、計算管理部31は、計算インターバルと変動レンジDB3を設定することで、所定周期で系統違反解消制御計算システム1を実行できる。これは、特にオンラインの計算システムにおいては重要であり、実施形態3の変動レンジ算出部2を用いるならば、常に最新の変動レンジDB3に対応できる。この系統違反解消システム3により、図7の出力部16の画面表示16dを一定周期で更新し続けることができる。
【0098】
また、変動レンジDB3を変更した際には、変更後の変動レンジDB3で計算を実行することで、時間帯に応じて変動レンジDB3を変更する等の対応ができる。
【0099】
本実施形態の系統違反解消システム3を用いることにより、ユーザは、実施形態1又は2の系統違反解消制御計算システム1をオンラインシステムの一環として繰り返し計算を実行することができ、変動レンジDB3の範囲内で想定される不確実性の下でもロバストな制御指令を常に算出できる。また、計算管理部31を介して所定周期で系統違反解消制御計算システム1へ変動レンジDB3を入力し計算結果を得る形態をとることで、最新データに基づく最新の変動要因の反映が可能となる。
【0100】
[実施形態5]
本実施形態では、実施形態1又は2の系統違反解消制御計算システム1を系統安定化システム(保護システム)に応用した場合について説明する。
【0101】
ここで図12を用いて、本実施形態の全体構成について説明する。図12は、実施形態6に係る故障計算システム及び系統安定化システム(保護システム)5の構成例を示す図である。
【0102】
系統安定化システム5は、故障計算システム4と、遠隔制御部51と、故障ケース判定部52とを有する。故障計算システム4は、実施形態1又は2で説明した系統違反解消制御計算システム1と、故障計算管理部41と、故障ケースDB10と、故障計算結果DB11とを有する。系統安定化システム5は、電力系統モデル管理システム8と、電力系統状態監視システム9と、発電機器、送電機器、又は負荷等の制御対象100と接続されている。
【0103】
系統安定化システム5は、実施形態1又は2の系統違反解消制御計算システム1を故障計算のエンジンとして活用しており、故障計算管理部41と遠隔制御部51によって、電力系統の安定化を図るシステムである。
【0104】
故障計算管理部41は、電力系統モデル管理システム8の電力系統モデルDB1と、電力系統状態監視システム9の電力系統状態DB2と、故障ケースDB10とを入力とし、電力系統の故障ケース相当の電力系統状態を模擬計算する。故障ケースDB10は、想定される故障を模擬した模擬故障ケースを列挙したリスト情報である。
【0105】
故障計算管理部41は、故障ケース毎に模擬計算された電力系統状態のそれぞれを系統違反解消制御計算システム1へ入力することで、故障ケース毎の系統違反解消制御を計算することができる。この時、前述の変動レンジは、故障ケース毎に変更してもよい。
【0106】
故障ケース毎の系統違反解消制御が算出された後、故障計算管理部41は、故障計算結果DB11として、故障ケースの状態と故障ケース毎の系統違反解消制御を紐付けて格納する。故障ケース判定部52は、電力系統状態DB2が故障に該当する場合に、遠隔制御部51に対して故障計算結果DB11を参照させ該当する故障項目に対応する制御指令を取得し制御対象100に対して出力する。このような構成を用いることにより、系統安定化システム5は、ロバストな違反解消制御で電力系統の安定化を図ることができる。
【0107】
[実施形態6]
本実施形態では、実施形態1又は2の系統違反解消制御計算システム1を故障時の違反が解消できる運用点を算出する予防制御システムに適用した場合について説明する。図13は、実施形態6に係る予防制御システム6及び系統運用システム7の構成例を示す図である。系統運用システム7は、予防制御システム6と、遠隔運用制御部71とを有する。予防制御システム6は、実施形態1又は2の系統違反解消制御計算システム1と、予防制御運用点算出部61とを有する。
【0108】
送電線Kを解放した場合、送電線Lの潮流変化量は、一般的には、送電線解放感度(LODF:Line Outage Distribution Factor)によって計算できることが知られている。ここでLODFは、前述の感度係数Aから算出できる。送電線kの開放後の送電線lの潮流Pは、式(12)で表せることが知られている。
【0109】
【数12】
【0110】
ここで、P は送電線kの事前潮流であり、P は送電線lの事前潮流であり、LODFl,kは送電線kを開放した場合の送電線lのLODFである。ここで、LODFを、1以上の送電線kを開放した場合に、開放されていない全ての送電線に関するLODFとすると、対象の送電線の故障ケースにおける送電潮流の制約式は式(13)の通りに表すことができる。予防制御運用点算出部61は、式(10)を系統違反解消制御計算システム1から取得して、式(13)を生成する。
【0111】
【数13】
【0112】
ここで送電線kの開放を送電線kの故障とみなし、故障ケースkと呼ぶこととする。故障ケースkは、全故障ケースKの部分集合である。予防制御運用点算出部61は、式(13)の制約を満たす解kを算出できる場合には、故障ケースkの違反状態を解消できる可能性があると判断する。また、予防制御運用点算出部61は、式(13)の制約を満たす解kの集合の補集合から、ある送電線kで故障が発生しても系統違反を解消した状態での運用点(送電線)を算出する。
【0113】
式(13)は、式(10)の第一番目の送電潮流の制約条件を、LODFを用いた式に置き換えたものである。式(13)を用いることで、最適化問題を解く以前に、送電潮流の制約条件から、制約違反状態の解消の可否と違反解消状態における運用点を概算的に判断できる場合がある。
【0114】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、矛盾しない限りにおいて、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成で置き換え、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、構成の追加、削除、置換、統合、又は分散をすることが可能である。また、実施形態で示した構成及び処理は、処理効率又は実装効率に基づいて適宜分散、統合、又は入れ替えることが可能である。
【符号の説明】
【0115】
1:系統違反解消制御計算システム、3:系統違反解消システム、4:故障計算システム、5:系統安定化システム、10:計算機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13