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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131711
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】偏波共用アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20230914BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20230914BHJP
   H01Q 9/16 20060101ALI20230914BHJP
   H01P 5/10 20060101ALI20230914BHJP
   H01Q 13/06 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q21/08
H01Q9/16
H01P5/10 Z
H01Q13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036610
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西薗 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鹿山 英則
(72)【発明者】
【氏名】マンソア クーチャキ
(72)【発明者】
【氏名】ムハマド レザ ネザード アマディ
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA07
5J021AA11
5J021AB03
5J021AB07
5J021DB02
5J021DB03
5J021HA10
5J021JA05
5J021JA07
5J045AA12
5J045AB05
5J045AB06
5J045EA08
5J045MA07
5J045NA01
(57)【要約】
【課題】アンテナの交差偏波識別度が高い偏波共用アンテナを提供する。
【解決手段】一列に配列された複数のアンテナユニットを有し、第1方向に振動する第1偏波及び第1方向と直交する第2方向に振動する第2偏波を送受信可能な偏波共用アンテナであって、複数のアンテナユニットは、それぞれ、第1偏波用の第1アンテナ素子と、第2偏波用の第2アンテナ素子と、を備える。隣り合うアンテナユニットにおいて、第1アンテナ素子は、いずれも、第1入力信号の位相に対し、所定の第1位相遅れた位相にて第1偏波を放射し、第2アンテナ素子の一方は、第2入力信号の位相に対し、所定の第2位相遅れた位相にて第2偏波を放射し、第2アンテナ素子の他方は、第2入力信号位相に対し、第2位相遅れた位相の逆位相で第2偏波を放射する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一列に配列された複数のアンテナユニットを有し、第1方向に振動する第1偏波及び第1方向と直交する第2方向に振動する第2偏波を送受信可能な偏波共用アンテナであって、
複数の前記アンテナユニットは、それぞれ、
前記第1偏波用の第1アンテナ素子と、
前記第2偏波用の第2アンテナ素子と、を備え、
隣り合う前記アンテナユニットにおいて、
前記第1アンテナ素子は、いずれも、第1入力信号の位相に対し、所定の第1位相遅れた位相にて前記第1偏波を放射し、
前記第2アンテナ素子の一方は、第2入力信号の位相に対し、所定の第2位相遅れた位相にて前記第2偏波を放射し、前記第2アンテナ素子の他方は、前記第2入力信号の位相に対し、前記第2位相遅れた位相の逆位相で前記第2偏波を放射する、
偏波共用アンテナ。
【請求項2】
前記第2アンテナ素子は、シングルエンド信号を作動信号に変換する信号変換部を有し、
隣り合う前記アンテナユニットの前記信号変換部は、前記シングルエンド信号の給電方向が逆向きである、
請求項1に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項3】
前記信号変換部は、非接触で電磁結合する中継線路及びスロットを有し、
隣り合う前記アンテナユニットの前記信号変換部は、前記スロットに対する前記中継線路の延在方向が逆向きである、
請求項2に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項4】
前記第1アンテナ素子に第1入力信号を伝送する第1伝送線路と、
前記第2アンテナ素子に第2入力信号を伝送する第2伝送線路と、を備え、
前記第1伝送線路及び前記第2伝送線路は、マイクロストリップラインである、
請求項1から3のいずれか一項に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項5】
伝送線路ごとの位相の調整を行う制御部を備え、
前記制御部は、隣り合う前記アンテナユニットの前記第2アンテナ素子に対して、逆位相の入力信号を伝送する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の偏波共用アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直偏波及び水平偏波を送受信可能な偏波共用アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯を使用した5G通信では、互いに直交する垂直偏波及び水平偏波を利用して、2つの情報チャネルを一つの搬送周波数で多重化して通信することが可能である。従来、垂直偏波及び水平偏波を送受信可能な偏波共用アンテナとして、基板集積導波管(SIW:Substrate Integrated Waveguide)を利用したアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1等に開示されているSIWを利用した偏波共用アンテナは、基板面と平行な方向に電磁波を放射する。この種のアンテナは、「エンドファイア型」と呼ばれる。これに対して、基板面と垂直な方向に電磁波を放射するアンテナは、「ブロードサイド型」と呼ばれる。
【0004】
エンドファイア型の偏波共用アンテナは、例えば、車両のルーフに設置して、周囲360°に対してビームサーチを行いながら通信するユースケースに好適である。このとき、車両デザインの観点で、ルーフ上の突起をなるべく小さくするために、低背で小型のアレイアンテナであることが望ましい。SIWを利用した偏波共用アンテナは、製造が容易であり、アンテナの低背化、小型化にも適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2021-517760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、偏波共用アンテナでは、アンテナの低背化、小型化に伴い、垂直偏波及び水平偏波用の伝送線路の離間幅が狭くなる傾向にある。この場合、一方の伝送線路(例えば、垂直偏波用の伝送線路)から他方の伝送線路(例えば、水平偏波用の伝送線路)へ、交差偏波成分が漏れやすくなり、通信品質が低下する虞がある。
【0007】
本発明の目的は、アンテナの交差偏波識別度が高い偏波共用アンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る偏波共用アンテナは、
一列に配列された複数のアンテナユニットを有し、第1方向に振動する第1偏波及び第1方向と直交する第2方向に振動する第2偏波を送受信可能な偏波共用アンテナであって、
複数の前記アンテナユニットは、それぞれ、
前記第1偏波用の第1アンテナ素子と、
前記第2偏波用の第2アンテナ素子と、を備え、
隣り合う前記アンテナユニットにおいて、
前記第1アンテナ素子は、いずれも、第1入力信号の位相に対し、所定の第1位相遅れた位相にて前記第1偏波を放射し、
前記第2アンテナ素子の一方は、第2入力信号の位相に対し、所定の第2位相遅れた位相にて前記第2偏波を放射し、前記第2アンテナ素子の他方は、前記第2入力信号の位相に対し、前記第2位相遅れた位相の逆位相で前記第2偏波を放射する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アンテナの交差偏波識別度が高い偏波共用アンテナが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るアンテナ装置を示す外観斜視図である。
図2図2は、アンテナ装置の分解斜視図である。
図3図3は、X軸方向の正側から見たアンテナ装置の正面図である。
図4図4は、Y軸方向の負側から見たアンテナ装置の側面図である。
図5図5A図5Bは、アンテナ本体におけるアンテナ構造を示す平面図である。
図6図6は、アンテナ本体におけるアンテナ構造を示す斜視図である。
図7図7は、アンテナ本体の積層構造を示す図である。
図8図8は、隣り合うアンテナ部に対する入力信号の位相を示す図である。
図9図9は、線路間でカップリングがない場合のアンテナ出力を示す図である。
図10図10は、垂直偏波用の入力信号に水平偏波成分がカップリングした場合のアンテナ出力における水平偏波成分を示す図である。
図11図11は、水平偏波用の入力信号に垂直偏波成分がカップリングした場合のアンテナ出力における垂直偏波成分を示す図である。
図12図12A図12Bは、放射方向における主偏波成分と交差偏波成分の強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係るアンテナ装置Aについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
アンテナ装置Aは、互いに直交する第1偏波及び第2偏波を放射可能な偏波共用アンテナである。アンテナ装置Aは、例えば、5Gミリ波帯(28GHz)の垂直偏波及び水平偏波の送信を行う。アンテナ装置Aは、主放射方向が基板面に平行なエンドファイア型のアンテナである。
【0013】
本開示では、第1偏波の振動方向である第1方向を「垂直方向」、第2偏波の振動方向である第2方向を「水平方向」として説明する。また、基板面に垂直な方向をZ軸の正方向、第1偏波及び第2偏波の主放射方向をX軸の正方向とする右手直交座標系を使用して説明する。以下において、「X軸方向」、「Y軸方向」、「Z軸方向」とは、X軸、Y軸及びZ軸の正方向を意味する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係るアンテナ装置Aを示す外観斜視図である。図2は、アンテナ装置Aの分解斜視図である。図3は、X軸方向の正側から見たアンテナ装置Aの正面図である。図4は、Y軸方向の負側から見たアンテナ装置Aの側面図である。
【0015】
図1図4に示すように、アンテナ装置Aは、アンテナ本体1及びアンテナカバー5を備える。図3及び図4では、アンテナ本体1の内部が透過して示されている。
【0016】
アンテナ本体1は、Y軸方向に一列に配置された8個のアンテナユニット1A~1Hを有するアレイアンテナである。アンテナ本体1には、制御部61、62が実装される。制御部61、62は、例えば、ビームフォーミングICであり、伝送線路を介して接続されるアンテナごとの位相及びゲインの調整、並びに伝送信号の増幅等を行う。制御部61は、アンテナユニット1A~1Dの給電制御を行い、制御部62は、アンテナユニット1E~1Hの給電制御を行う。
【0017】
アンテナカバー5は、アンテナ本体1のX軸方向における正側の端部に配置される補助部材である。アンテナカバー5は、金属等の導体材料で形成される。アンテナカバー5は、第1カバー体51、第2カバー体52及び第3カバー体53を有する。第1カバー体51及び第2カバー体52は、Z軸方向に対向して配置され、第3カバー体53によって連結されている。すなわち、アンテナカバー5は、XZ断面において、X軸方向の正側が開口した略U字形状を有している。
【0018】
例えば、第3カバー体53に設けられた開口53aに、アンテナ本体1のX軸方向における正側の端部が挿入され、固定されることにより、アンテナカバー5は、アンテナ本体1に取り付けられる。アンテナカバー5は、アンテナ本体1のグランドパターン(符号略)と電気的に接続される。アンテナカバー5は、例えば、はんだ付けや導電性接着剤などにより、アンテナ本体1のグランドと直流的な導通を確保した形態で固定される。なお、アンテナカバー5は、取付部分の開口53aがアンテナ本体1のグランドと十分に近接していれば、ねじ止めのような直流的な導通を伴わない形態で固定されてもよい。アンテナカバー5を設けることにより、アンテナ装置Aのアンテナ利得が向上する。
【0019】
図5A図5Bは、アンテナ本体1におけるアンテナ構造を示す平面図である。図6は、アンテナ本体1におけるアンテナ構造を示す斜視図である。図5B及び図6では、アンテナユニット1A、1Bの部分が拡大して示されている。また、図6では、アンテナ構造の内部が透過して示されている。
【0020】
図5A図5Bに示すように、アンテナユニット1A~1Hは、それぞれ、第1アンテナ部10及び第2アンテナ部20を有する。第1アンテナ部10は、垂直偏波用のアンテナ構造を有する。第2アンテナ部20は、水平偏波用のアンテナ構造を有する。アンテナユニット1A~1Hは、例えば、多層プリント配線基板で形成される。
【0021】
アンテナユニット1A~1Hは、例えば、多層プリント配線基板で形成される。プリント配線基板の回路形成技術を利用して、アンテナユニット1A~1Hを利用容易に製造することができる。また、第1アンテナ部10及び第2アンテナ部20におけるアンテナ素子の大きさ、形状及び位置等を容易に制御でき、素子精度が向上する。
【0022】
アンテナ本体1の積層構造を図7に示す。アンテナ本体1は、例えば、図7に示すように、第1導体層M1~第6導体層M6を有する。第1導体層M1~第6導体層M6は、銅箔等の金属箔で形成される。第1導体層M1~第6導体層M6のそれぞれの層間には、樹脂材料等で形成される誘電体層Dが介在する。アンテナカバー5は、例えば、第1導体層M1及び第6導体層M6のグランドパターン(符号略)と電気的に接続される。
【0023】
第1アンテナ部10は、第1伝送線路11及び第1アンテナ素子12を含む。第1伝送線路11は、垂直偏波用の信号を伝送する部分である。第1アンテナ素子12は、垂直偏波を放射する部分である。
【0024】
第1伝送線路11は、第1導体層M1により基板表層に形成されるマイクロストリップラインである。
【0025】
第1アンテナ素子12は、垂直偏波を伝搬する導波部30を含む。導波部30は、例えば、基板集積導波管(SIW)構造を有する。導波部30は、側面ビア群31G、32G、背面ビア群33G、上板34、下板35によって形成される。
【0026】
側面ビア群31G、32Gは、それぞれ、X軸方向に配列された複数の側面ビア31、32で形成される。背面ビア群33Gは、Y軸方向に配列された複数の背面ビア33で形成される。側面ビア31、32及び背面ビア33は、第1導体層M1に形成されたグランドパターン(符号略)と第6導体層M6のグランドパターン(符号略)を連結するスルーホールであり、第2導体層M2~第5導体層M5を貫通する。側面ビア31、32及び背面ビア33は、第2導体層M2、第4導体層M4及び第5導体層M5と電気的に接続され、第3導体層M3とは電気的に絶縁される。
【0027】
上板34は、第2導体層M2のグランドプレーンで形成される。なお、第2導体層M2のグランドプレーンは、基板表層に形成された伝送線路(例えば、第1伝送線路11)のリターン経路を形成する。下板35は、第5導体層M5のグランドプレーンで形成される。
【0028】
側面ビア群31G、32G、背面ビア群33G、上板34及び下板35により、X軸方向の正側に開口を有する方形導波管が形成される。背面ビア群33Gの近くに、第1伝送線路11に接続された第1ビア36が挿入される。
【0029】
第1ビア36は、第1導体層M1と第6導体層M6を連結するスルーホールであり、第2導体層M2~第5導体層M5を貫通する。第1ビア36は、第2導体層M2~第5導体層M5と、電気的に絶縁される。第1ビア36の周囲に電磁界が誘起され、導波部30内を伝搬する。そして、導波部30の開口から垂直偏波として放射される。
【0030】
第2アンテナ部20は、第2伝送線路21及び第2アンテナ素子22を含む。第2伝送線路21は、水平偏波用の信号を伝送する部分である。第2アンテナ素子22は、水平偏波を放射する部分である。
【0031】
第2伝送線路21は、第1導体層M1により基板表層に形成されるマイクロストリップラインである。第2伝送線路21は、第1伝送線路11に近接して、略平行に配置される。
【0032】
第2アンテナ素子22は、放射部23及び信号変換部24を含む。放射部23は、例えば、ダイポールアンテナ構造を有する。信号変換部24は、第2伝送線路21からのシングルエンド信号を差動信号に変換する。
【0033】
放射部23は、第4導体層M4によって形成される。放射部23は、直線形状を有し、第4導体層M4に形成されたスロット24Bを挟んでY軸方向の正側及び負側に延在する。
【0034】
信号変換部24は、第3導体層M3に形成された中継線路24A及び第4導体層M4に形成されたスロット24Bにより構成される。中継線路24Aは、マイクロストリップラインであり、第2ビア25を介して、第2伝送線路21と接続される。第2ビア25は、第1導体層M1と第3導体層M3を連結するスルーホールであり、第2導体層M2を貫通する。第2ビア25は、第2導体層M2と電気的に絶縁される。
【0035】
中継線路24Aは、略L字形状を有し、第2ビア25との接続部からX軸方向の正側に延在するとともに、Y軸方向に屈曲して延在する。図6において、アンテナユニット1Aの中継線路24Aは、Y軸方向の正側に屈曲して延在し、アンテナユニット1Bの中継線路24Aは、Y軸方向の負側に屈曲して延在している。すなわち、隣り合うアンテナユニット1A、1Bにおいて、中継線路24Aの屈曲方向は逆向きである。スロット24Bは、第4導体層M4の端縁(放射部23の離間部分)からX軸方向に沿って形成される。
【0036】
隣り合うアンテナユニット1A、1Bにおいて、中継線路24Aの屈曲方向を逆向きにしない場合、シングルエンド信号から差動信号への変換が完全ではないため、ダイポール構造を有する第2アンテナ素子22の左右のアームに流れる電流に若干の偏りが生じる。そして、給電の向きが一方に偏ることにより、対称性が悪くなり、アレーアンテナのビームが傾いてしまう。そこで、本実施の形態では、隣り合うアンテナユニット1A、1Bにおいて、中継線路24Aの屈曲方向は逆向きになっている。
【0037】
中継線路24A及びスロット24Bは、Z軸方向から見た平面視において、直交するように配置され、非接触で電磁結合する。信号変換部24は、マイクロストリップ-スロット変換器であり、隣り合うアンテナユニット1A、1Bの信号変換部24では、給電方向が逆になっている。
【0038】
中継線路24Aの周囲に形成される電磁界によって、第4導体層M4のグランドパターンのスロット24Bに電磁界が誘起される。これにより、第2伝送線路21からのシングルエンド信号が差動信号に変換されて放射部23に伝送される。そして、放射部23から水平偏波として放射される。
【0039】
アンテナ装置Aでは、入力信号の位相が同じである場合、隣り合うアンテナユニット1A~1H(例えば、第1アンテナユニット1Aと第2アンテナユニット1B)から放射される水平偏波は、逆位相となる。一方、入力信号の位相が同じである場合、隣り合うアンテナユニット1A~1Hから放射される垂直偏波は、同位相となる。すなわち、アンテナユニット1A、1Bにおいて、第1アンテナ素子12は、いずれも、入力信号の位相に対し、所定の位相(第1位相)遅れた位相にて垂直偏波を放射する。第2アンテナ素子22の一方は、入力信号の位相に対し、所定の位相(第2位相)遅れた位相にて水平偏波を放射し、第2アンテナ素子22の他方は、入力信号の位相に対し、所定の位相(第2位相)遅れた位相の逆位相で水平偏波を放射する。
【0040】
そのため、例えば、アンテナ利得のピークをX方向(正面)に設定する場合、隣り合うアンテナユニット1A~1Hにおける水平偏波用の入力信号(第2入力信号)は、交互に反転させて逆位相となるように制御される(図8参照)。また、隣り合うアンテナユニット1A~1Hにおける垂直偏波用の入力信号(第1入力信号)は、同位相となるように制御される。これにより、隣り合うアンテナユニット1A~1Hから放射される水平偏波及び垂直偏波は、いずれも、放射方向で同位相となり、隣り合うアンテナ出力との間で強め合ってアンテナ利得が向上する。
【0041】
以下に、アンテナ利得のピークを+X方向に設定する場合を例に、制御部61によって第1アンテナユニット1A~第4アンテナユニット1Dへの伝送制御が行われた場合のアンテナ出力について具体的に説明する。それぞれのアンテナユニット1A~1Dにおいて、垂直偏波用の第1伝送線路11及び水平偏波用の第2伝送線路21はマイクロストリップラインで形成され、互いに近接して配置されている。第1伝送線路11及び第2伝送線路21は、伝送モードが同じであるため、線路間の伝送モードが異なる場合に比較して、アイソレーションが低くなる。
【0042】
図9図11では、第1アンテナユニット1A~第4アンテナユニット1Dの垂直偏波V1~V4及び水平偏波H1~H4の位相として、制御部61から出力されるBFIC出力(入力信号)、伝送経路における伝送信号、及びアンテナ素子からのアンテナ出力(出力信号)の位相を示している。
【0043】
図9は、線路間でカップリングがない場合のアンテナ出力を示す図である。
【0044】
図9に示すように、垂直偏波V1~V4は、BFIC出力(第1入力信号)、伝送信号及びアンテナ出力がいずれも同位相である。アンテナ出力が同位相となることにより、放射方向で高いアンテナ利得が得られる。
【0045】
一方、水平偏波H1~H4は、隣り合うアンテナユニット1A~1H(例えば、第1アンテナユニット1A及び第2アンテナユニット1B)において、BFIC出力(第2入力信号)が逆位相となるように制御される。伝送線路では、そのまま伝送されるので、逆位相が保持される。最終的に、隣り合うアンテナユニット1A~1Hでは、第2アンテナ素子22によって、一方は同位相のまま保持され、他方は反転されて逆位相に変換されるので、アンテナ出力は同位相となる。アンテナ出力が同位相となることにより、放射方向で高いアンテナ利得が得られる。
【0046】
図10は、垂直偏波用の入力信号に水平偏波成分がカップリングした場合のアンテナ出力における水平偏波成分を示す図である。
【0047】
図10に示すように、アンテナユニット1A~1Dでは、垂直偏波用の第1伝送線路11と水平偏波用の第2伝送線路21との線間で、水平偏波用の信号が漏洩して、垂直偏波用の信号に水平偏波成分がカップリングすることがありうる。水平偏波H1~H4のBFIC出力は逆位相であるため、第1伝送線路11において、カップリングした水平偏波成分の位相は逆位相である。垂直偏波用の第1アンテナ素子12では、伝送信号の位相がそのまま保持されるので、隣り合うアンテナユニット1A~1Hのアンテナ出力は、逆位相となる。したがって、アンテナ出力に含まれる水平偏波成分は、放射方向において、隣り合うアンテナユニット1A~1H間で打ち消されることとなり、放射方向の交差偏波成分の利得が低下し、結果として交差偏波識別度が向上する。
【0048】
図11は、水平偏波用の入力信号に垂直偏波成分がカップリングした場合のアンテナ出力における垂直偏波成分を示す図である。
【0049】
図11に示すように、アンテナユニット1A~1Dでは、垂直偏波用の第1伝送線路11と水平偏波用の第2伝送線路21との線間で、垂直偏波用の信号が漏洩して、水平偏波用の信号に垂直偏波成分がカップリングすることがありうる。垂直偏波V1~V4のBFIC出力は同位相であるため、第2伝送線路21において、カップリングした垂直偏波成分の位相は同位相である。隣り合うアンテナユニット1A~1Hでは、水平偏波用の第2アンテナ素子22によって、一方は同位相のまま保持され、他方は反転されて逆位相に変換されるので、アンテナ出力は逆位相となる。したがって、アンテナ出力に含まれる垂直偏波成分は、隣り合うアンテナユニット1A~1H間で打ち消されることとなり、放射方向の交差偏波成分の利得が低下し、結果として交差偏波識別度が向上する。
【0050】
図12A図12Bは、放射方向における交差偏波成分の強度を示す図である。図12Aは、実施の形態に係るアンテナ装置Aの計測結果を示し、図12Bは、従来のアンテナ装置の計測結果を示す。
【0051】
図12Aに示すように、アンテナ装置Aでは、主放射方向(0[deg])において、交差偏波成分の強度が低減されている。従来のアンテナ装置では、交差偏波成分も同位相で出力されるため、偏波成分と同様に、主放射方向で強度が高くなっている。
【0052】
このように、本発明の一態様に係るアンテナ装置Aは、以下の特徴事項を単独で、又は、適宜組み合わせて備えている。
【0053】
すなわち、アンテナ装置A(偏波共用アンテナ)は、一列に配列された複数のアンテナユニット1A~1Hを有し、垂直方向(第1方向)に振動する垂直偏波(第1偏波)及び垂直方向と直交する水平方向(第2方向)に振動する水平偏波(第2偏波)を送受信可能な偏波共用アンテナである。複数のアンテナユニット1A~1Hは、それぞれ、垂直偏波用の第1アンテナ素子12と、水平偏波用の第2アンテナ素子22と、を備える。隣り合うアンテナユニット1A~1Hにおいて、第1アンテナ素子12は、いずれも、第1入力信号の位相に対し、所定の第1位相遅れた位相にて垂直偏波を放射し、第2アンテナ素子22の一方は、第2入力信号の位相に対し、所定の第2位相遅れた位相にて水平偏波を放射し、第2アンテナ素子22の他方は、第2入力信号の位相に対し、第2位相遅れた位相に対し逆位相で水平偏波を放射する。
【0054】
アンテナ装置Aによれば、水平偏波の入力信号が逆位相となるように制御することで、伝送線路間で交差偏波成分がカップリングしても、当該交差偏波成分による放射特性の影響を低減でき、交差識別精度が向上する。また、第1アンテナ素子12及び第2アンテナ素子22までの伝送線路をマイクロストリップラインで形成することができるので、伝送線路の単純化及び実装面積の低減を図ることができる。また、エンドファイア型であることにより、容易に小型化及び低背化を図ることができ、特に、車両のルーフのような金属部材に近接して設置される場合に有用である。
【0055】
また、アンテナ装置Aにおいて、第2アンテナ素子22は、シングルエンド信号を作動信号に変換する信号変換部24を有し、隣り合うアンテナユニット1A~1Hの信号変換部24は、シングルエンド信号の給電方向が逆向きである。
具体的には、信号変換部24は、非接触で電磁結合する中継線路24A及びスロット24Bを有し、隣り合うアンテナユニット1A~1Hの信号変換部24は、スロット24Bに対する中継線路24Aの延在方向が逆向きである。
これにより、隣り合うアンテナユニット1A~1Hにおいて、第2アンテナ素子22の一方は、入力信号と同位相で水平偏波を放射し、第2アンテナ素子22の他方は、入力信号と逆位相で水平偏波を放射する構成を容易に実現することができる。
【0056】
また、アンテナ装置Aは、第1アンテナ素子12に第1入力信号を伝送する第1伝送線路11と、第2アンテナ素子22に第2入力信号を伝送する第2伝送線路21と、を備え、第1伝送線路11及び第2伝送線路12は、マイクロストリップラインである。これにより、偏波共用アンテナの小型化を図ることができる。線路間アイソレーションは低下するが、高い交差偏波識別度は確保される。
【0057】
また、アンテナ装置Aは、伝送線路ごとの位相の調整を行う制御部61、62を備え、制御部61、62は、隣り合うアンテナユニット1A~1Hの第2アンテナ素子22に対して、逆位相の第2入力信号を出力する。制御部61、62は、例えば、アンテナゲインが任意の角度でピークを持つように、アンテナユニット1A~1Hのそれぞれの入力信号に対して位相を設定する。このとき、隣り合うアンテナユニット1A~1Hでは、第2アンテナ素子22に対して、ピークを持たせる角度から計算される設定位相の逆位相の入力信号が出力される。これにより、隣り合うアンテナユニット1A~1Hから放射される水平偏波及び垂直偏波は、いずれも、設定した角度方向で同位相となり、隣り合うアンテナ出力との間で強め合ってアンテナ利得が向上する。
【0058】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0059】
例えば、実施の形態では、第1伝送線路11及び第2伝送線路21をマイクロストリップラインで形成しているが、第1伝送線路11及び第2伝送線路21は、その他のストリップ線路やコプレーナー線路であってもよい。
【0060】
また、実施の形態では、水平偏波用の第2アンテナ素子22にダイポールアンテナを適用しているが、第2アンテナ素子22には、八木アンテナ等の別のアンテナ構造を適用してもよい。また、垂直偏波用の第1アンテナ素子12には、実施の形態で示した基板集積導波管の他、ビアを用いて垂直方向に形成されたダイポールアンテナ等の別のアンテナ構造を適用してもよい。
【0061】
また、実施の形態では、水平偏波及び垂直偏波を放射する送信用アンテナを例に挙げて説明したが、本発明の偏波共用アンテナは、水平偏波及び垂直偏波の送信、受信、又はそれら両方の機能を有するアンテナのいずれにも適用できる。
【0062】
また、本発明の偏波共用アンテナは、アンテナユニットを複数備えていればよく、その数は特に制限されない。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1 アンテナ本体
1A~1H アンテナユニット
11 第1伝送線路
12 第1アンテナ素子
21 第2伝送線路
22 第2アンテナ素子
A アンテナ装置(偏波共用アンテナ)
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