IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニッセイの特許一覧

<>
  • 特開-差動減速機 図1
  • 特開-差動減速機 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131719
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】差動減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20230914BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20230914BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036620
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】591218307
【氏名又は名称】株式会社ニッセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小浜田 卓
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA21
3J027GB03
3J027GC02
3J027GE14
3J063AB15
3J063AC01
3J063BA11
3J063XD02
3J063XD32
3J063XD42
3J063XD46
3J063XD47
(57)【要約】
【課題】グリスの流動性を高めて十分な潤滑性能を得る。
【解決手段】差動減速機1は、ケーシング2と、内歯歯車6と、内歯歯車6を同軸で貫通して偏心部20A,20Bを備えた入力軸15と、偏心部20A,20Bに外装され、内歯歯車6に内接して噛合し、入力軸15の回転に伴って遊星運動すると共に、自身の軸心を中心とした同心円上に複数の貫通孔25を有する外歯歯車24A,24Bと、外歯歯車24A,24Bの各貫通孔25をそれぞれ偏心位置で貫通する複数のキャリアピン11を有し、外歯歯車24A,24Bの遊星運動に伴い、内歯歯車6と相対的に回転する回転運動を取り出すキャリア9と、を含んでなり、ケーシング2内に、グリスが充填されて外歯歯車24A,24Bが遊星運動する密封空間Sが形成される。そして、外歯歯車24A,24Bにおける各貫通孔25以外の位置に、グリス流動用の小貫通孔26が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
内歯歯車と、
前記内歯歯車を同軸で貫通すると共に、自身の中心軸に対して偏心する偏心部を備えた入力軸と、
前記偏心部に外装され、前記内歯歯車に内接して噛合し、前記入力軸の回転に伴って遊星運動すると共に、自身の軸心を中心とした同心円上に複数の貫通孔を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の各前記貫通孔をそれぞれ偏心位置で貫通する複数のキャリアピンを有し、前記外歯歯車の遊星運動に伴い、前記内歯歯車と相対的に回転する回転運動を取り出すキャリアと、を含んでなり、前記ケーシング内に、グリスが充填されて前記外歯歯車が遊星運動する密封空間が形成される差動減速機であって、
前記外歯歯車における各前記貫通孔以外の位置に、グリス流動用の第2の貫通孔が設けられていることを特徴とする差動減速機。
【請求項2】
前記第2の貫通孔の開口端部には、前記外歯歯車の軸方向外側へ向けて拡開する面取りが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の差動減速機。
【請求項3】
前記第2の貫通孔は、前記軸心を中心とした同心円上に複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の差動減速機。
【請求項4】
前記偏心部及び前記外歯歯車は、それぞれ複数設けられており、前記第2の貫通孔は、各前記外歯歯車それぞれに同じ態様で設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の差動減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内歯歯車と、内歯歯車に内接して噛合する外歯歯車とを含む内接揺動式の差動減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
差動減速機は、ケーシングと、内歯歯車と、内歯歯車を同軸で貫通すると共に、自身の中心軸に対して偏心する偏心部を備える入力軸と、偏心部に外装され、内歯歯車に内接して噛合し、入力軸の回転に伴って遊星運動する外歯歯車と、外歯歯車の遊星運動から内歯歯車と相対的に回転する回転運動を取り出すキャリアと、を含んでいる。キャリアは、外歯歯車に設けられた貫通孔を偏心位置で貫通するキャリアピンを備えている。よって、入力軸からの回転入力によって内歯歯車内で外歯歯車が遊星運動(偏心運動)すると、両歯車間に相対回転が生じ、偏心運動と相対回転との回転数差による減速比で回転を出力することになる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-139466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の差動減速機において、ケーシング内には、外歯歯車が遊星運動する密封空間が形成されて、密封空間の内部には潤滑用のグリスが充填される。しかし、外歯歯車には、キャリアピンの貫通孔しか形成されていないため、グリスの流動性が悪くなり、十分な潤滑性能が得られないおそれがあった。
【0005】
そこで、本開示は、グリスの流動性を高めて十分な潤滑性能を得ることができる差動減速機を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、ケーシングと、内歯歯車と、前記内歯歯車を同軸で貫通すると共に、自身の中心軸に対して偏心する偏心部を備えた入力軸と、
前記偏心部に外装され、前記内歯歯車に内接して噛合し、前記入力軸の回転に伴って遊星運動すると共に、自身の軸心を中心とした同心円上に複数の貫通孔を有する外歯歯車と、
前記外歯歯車の各前記貫通孔をそれぞれ偏心位置で貫通する複数のキャリアピンを有し、前記外歯歯車の遊星運動に伴い、前記内歯歯車と相対的に回転する回転運動を取り出すキャリアと、を含んでなり、前記ケーシング内に、グリスが充填されて前記外歯歯車が遊星運動する密封空間が形成される差動減速機であって、
前記外歯歯車における各前記貫通孔以外の位置に、グリス流動用の第2の貫通孔が設けられていることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記第2の貫通孔の開口端部には、前記外歯歯車の軸方向外側へ向けて拡開する面取りが形成されていることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記第2の貫通孔は、前記軸心を中心とした同心円上に複数設けられていることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記偏心部及び前記外歯歯車は、それぞれ複数設けられており、前記第2の貫通孔は、各前記外歯歯車それぞれに同じ態様で設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、外歯歯車に第2の貫通孔を設けたことで、グリスの流動性を高めて十分な潤滑性能を得ることができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、第2の貫通孔の開口端部に面取りが形成されているので、第2の貫通孔へグリスが流動しやすくなる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、第2の貫通孔は、外歯歯車の軸心を中心とした同心円上に複数設けられているので、第2の貫通孔によるグリスの流動量を多くして潤滑性能を高めることができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、偏心部及び外歯歯車は、それぞれ複数設けられて、第2の貫通孔は、外歯歯車それぞれに同じ態様で設けられているので、外歯歯車を複数設けてもグリスの流動性にムラが生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】差動減速機の中央縦断面図である。
図2】外歯歯車の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、差動減速機1の一例を示す中央縦断面図である。図1では、便宜上右側(入力側)を前、左側(出力側)を後として説明する。
差動減速機1において、ケーシング2は、前ケース3と、後ケース4と、ブラケット5とから形成されている。前ケース3は、内側に内歯歯車6を一体に設けた円筒状である。後ケース4は、前ケース3の後側に配置される円筒状である。ブラケット5は、前ケース3の前側に配置される円盤状である。
前ケース3と後ケース4とブラケット5とは、前方からブラケット5及び前ケース3を貫通して後ケース4に螺合される複数のボルト7,7・・により一体に結合される。
【0010】
後ケース4の内側には、クロスローラーベアリング8を介して、円盤状のキャリア9が同軸で回転可能に支持されている。後ケース4とキャリア9との間でクロスローラーベアリング8の後方には、オイルシール10が設けられている。
キャリア9には、10本のキャリアピン11,11・・が連結されている。キャリアピン11,11・・は、キャリア9の中心との同心円上に等間隔で配置されている。各キャリアピン11は、キャリア9にそれぞれ後端部を挿入させた状態で、後方からボルト12,12・・によってそれぞれキャリア9と連結されている。ブラケット5の後側には、各キャリアピン11の前端部を支持するリング状のキャリア受け13が設けられている。キャリア9とキャリア受け13との間で各キャリアピン11には、スリーブ状のメタル14がそれぞれ外装されている。
【0011】
ケーシング2の中心には、入力軸15が配置されている。入力軸15は、後端をキャリア9の前側に位置させて前方へ延び、ブラケット5を貫通して前端を前方へ突出させている。入力軸15には、後端部と中間部とに同径の軸支部16,16がそれぞれ形成されている。後端の軸支部16は、ボールベアリング17を介してキャリア9に同軸で回転可能に支持されている。中間部の軸支部16は、ボールベアリング18を介してブラケット5に同軸で回転可能に支持されている。ボールベアリング18の前側でブラケット5と入力軸15との間には、オイルシール19が設けられている。
入力軸15において、軸支部16,16の間には、一対の偏心部20A,20Bが前後に形成されている。偏心部20A,20Bは、入力軸15の中心軸O1から同じ量だけ偏心し、且つ互いに位相が180度異なる偏心軸O2,O2を中心として、同じ外径で形成されている。入力軸15において、軸支部16,16と偏心部20A,20Bとの間及び、偏心部20A,20Bの間には、全周に亘って偏心部20A,20Bよりも径方向外側へ高く突出する円盤状の肩部21,21・・がそれぞれ周設されている。
【0012】
偏心部20A,20Bには、全周に亘って配設される横断面円形状の複数のニードル23,23・・からなるニードルベアリング22,22が設けられている。各ニードル23は、肩部21により軸方向の移動が規制されている。
ボールベアリング17,18の間で偏心部20A,20Bには、ニードルベアリング22,22を介して、同じ外形の外歯歯車24A,24Bが回転可能に外装されている。外歯歯車24A,24Bは、内歯歯車6の歯数よりも少ない歯数を有し、内歯歯車6に内接して噛合している。
図2にも示すように、外歯歯車24A,24Bには、偏心軸O2を中心とした同心円上に、10個の円形の貫通孔25,25・・が、周方向に等間隔をおいて形成されている。各キャリアピン11は、外歯歯車24A,24Bの各貫通孔25をそれぞれ貫通し、メタル14の外周を、各貫通孔25の内周に、前後で互いに180度異なる位相で内接させている。
【0013】
また、外歯歯車24A,24Bにおいて、貫通孔25,25・・よりも径方向内側には、偏心軸O2を中心とした同心円上に、10個の円形の小貫通孔26,26・・が、周方向に等間隔をおいて形成されている。各小貫通孔26は、貫通孔25よりも直径が小さく形成され、外歯歯車24A,24Bの径方向で貫通孔25と重ならないように周方向に位相をずらして配置されている。各小貫通孔26の前後の開口端部には、それぞれ前後へ向かうに従って拡開する面取り27,27が形成されている。
こうしてケーシング2内で、ブラケット5とキャリア9との間には、オイルシール10,19で密封されて外歯歯車24A,24Bが収容される密封空間Sが形成される。この密封空間Sには、グリスが充填される。
【0014】
以上の如く構成された差動減速機1において、入力軸15に、図示しない駆動軸から回転が入力されると、入力軸15が回転する。すると、前後の偏心部20A,20Bがそれぞれ対称的に偏心運動を行い、外歯歯車24A,24Bを内歯歯車6に内接して噛合した状態で偏心及び自転運動させる。このため、各貫通孔25も偏心及び自転運動するが、各貫通孔25はメタル14を含むキャリアピン11よりも大径に形成されているので、各メタル14は貫通孔25に内接した状態で相対的に偏心運動して偏心成分を吸収し、各キャリアピン11からは自転成分のみが取り出される。よって、キャリア9は、所定の減速比で減速された状態で回転する。
このとき、密封空間S内では、外歯歯車24A,24Bの各貫通孔25に加えて、各小貫通孔26により、外歯歯車24A,24Bの前後が連通しているので、密封空間S内のグリスは、貫通孔25及び小貫通孔26を介して前後へ流動する。特に小貫通孔26では、前後の開口端部が面取り27によって拡開しているので、グリスが小貫通孔26に出入りしやすくなる。よって、密封空間S内での潤滑性能が維持される。
【0015】
このように、上記形態の差動減速機1は、ケーシング2と、内歯歯車6と、内歯歯車6を同軸で貫通すると共に、自身の中心軸O1に対して偏心する偏心部20A,20Bを備えた入力軸15と、偏心部20A,20Bに外装され、内歯歯車6に内接して噛合し、入力軸15の回転に伴って遊星運動すると共に、偏心軸O2(自身の軸心の一例)を中心とした同心円上に複数の貫通孔25を有する外歯歯車24A,24Bと、外歯歯車24A,24Bの各貫通孔25をそれぞれ偏心位置で貫通する複数のキャリアピン11を有し、外歯歯車24A,24Bの遊星運動に伴い、内歯歯車6と相対的に回転する回転運動を取り出すキャリア9と、を含んでなり、ケーシング2内に、グリスが充填されて外歯歯車24A,24Bが遊星運動する密封空間Sが形成される。そして、外歯歯車24A,24Bにおける各貫通孔25以外の位置に、グリス流動用の小貫通孔26(第2の貫通孔の一例)が設けられている。
この構成によれば、グリスの流動性を高めて十分な潤滑性能を得ることができる。
【0016】
小貫通孔26の開口端部には、外歯歯車24A,24Bの軸方向外側へ向けて拡開する面取り27,27が形成されている。
よって、小貫通孔26へグリスが流動しやすくなる。
小貫通孔26は、偏心軸O2を中心とした同心円上に複数設けられている。
よって、小貫通孔26によるグリスの流動量を多くして潤滑性能を高めることができる。
偏心部20A,20B及び外歯歯車24A,24Bは、それぞれ2つ設けられており、小貫通孔26は、外歯歯車24A,24Bそれぞれに同じ態様で設けられている。
よって、外歯歯車24A,24Bを設けてもグリスの流動性にムラが生じにくくなる。
【0017】
以下、本開示の変更例を説明する。
グリス流動用の第2の貫通孔は、上記形態の小貫通孔に限らない。例えば第2の貫通孔は、径や数を上記形態と変えてもよいし、横断面が円形以外であってもよい。第2の貫通孔は、形や大きさがそれぞれ異なるものが複数あってもよいし、外歯歯車の軸心と同心円上に配置しなくてもよい。第2の貫通孔は、1つであってもよい。
第2の貫通孔の開口端部の面取りは、上記形態よりも軸方向に長く形成してもよいし、径を大きくしてもよい。面取りは、両方の開口端部でなく何れか一方の開口端部のみに設けてもよい。但し、面取りはなくてもよい。
第2の貫通孔の内面に螺旋状の溝を設けてもよい。このような溝を設ければ貫通孔内でグリスが流動しやすくなる。
【0018】
外歯歯車は、2つに限らず、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
ケーシングは、上記形態のような複数の部材を結合してなる構造に限らず、1つの筒状体で形成してもよい。内歯歯車もケーシングと別体に形成してケーシングに固定してもよい。
キャリアの軸受は、クロスローラーベアリングに限らず、ボールベアリング等の他の軸受も採用できるし、軸受の数を増やしてもよい。入力軸の軸受も同様に変更できる。
入力軸は、キャリアを貫通して設けられていてもよい。入力軸は、中空軸であってもよい。
【符号の説明】
【0019】
1・・差動減速機、2・・ケーシング、3・・前ケース、4・・後ケース、5・・ブラケット、6・・内歯歯車、9・・キャリア、10,19・・オイルシール、11・・キャリアピン、13・・キャリア受け、15・・入力軸、17,18・・ボールベアリング、20A,20B・・偏心部、22・・ニードルベアリング、23・・ニードル、24A,24B・・外歯歯車、25・・貫通孔、26・・小貫通孔、27・・面取り、O1・・中心軸、O2・・偏心軸、S・・密封空間。
図1
図2