(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013173
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/13 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
E21D9/13 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117156
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】足立 英明
(72)【発明者】
【氏名】笠井 和俊
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054BA03
2D054CA03
2D054DA03
2D054GA10
2D054GA12
2D054GA25
2D054GA52
2D054GA63
2D054GA93
(57)【要約】
【課題】泥土圧シールド掘進機のチャンバ内全域における泥土の圧力管理を高い精度で行うことのできる、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法を提供する。
【解決手段】泥土圧シールド掘進機におけるチャンバ内圧力管理システム50であり、バルクヘッド13に対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている、複数の圧力センサ20と、チャンバ14内圧力の適否を評価する評価装置30とを有し、評価装置30は、複数の圧力センサ20からそれぞれ計測データを取得する取得部302と、高さ方向に亘る計測データを用いて、高さ方向に亘る圧力勾配に関する回帰直線を求める算定部304と、カッタヘッド12の高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する、理論切羽圧直線を格納する格納部310と、回帰直線と理論切羽圧直線を用いてチャンバ14内圧力の適否を評価する評価部306とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタヘッドとバルクヘッドの間のチャンバに取り込まれた掘削土と、添加材とを撹拌して塑性流動化させることにより泥土とし、該泥土の圧力にて切羽圧力に対抗させる、泥土圧シールド掘進機におけるチャンバ内圧力管理システムであって、
前記バルクヘッドに対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている、複数の圧力センサと、
前記チャンバ内圧力の適否を評価する評価装置とを有し、
前記評価装置は、
複数の前記圧力センサからそれぞれ計測データを取得する、取得部と、
前記高さ方向に亘る前記計測データを用いて、該高さ方向に亘る圧力勾配に関する回帰直線を求める、算定部と、
前記カッタヘッドの高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する、理論切羽圧直線を格納する、格納部と、
前記回帰直線と前記理論切羽圧直線を用いて、前記チャンバ内圧力の適否を評価する、評価部とを有することを特徴とする、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システム。
【請求項2】
前記格納部では、前記理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインが格納され、
前記評価部では、前記上限ラインと前記下限ラインの間に前記回帰直線が存在するか否かを判定し、間に存在する場合に第1適格と評価することを特徴とする、請求項1に記載の泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システム。
【請求項3】
前記算定部では、前記回帰直線と各圧力センサの計測データとの差を求めて標準偏差を算定し、
前記格納部には、前記標準偏差に関する閾値がさらに格納されており、
前記評価部では、前記標準偏差と前記閾値とを比較し、該標準偏差が該閾値以下の場合に第2適格と評価することを特徴とする、請求項1又は2に記載の泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システム。
【請求項4】
カッタヘッドとバルクヘッドの間のチャンバに取り込まれた掘削土と、添加材とを撹拌して塑性流動化させることにより泥土とし、該泥土の圧力にて切羽圧力に対抗させる、泥土圧シールド掘進機におけるチャンバ内圧力管理方法であって、
前記バルクヘッドに対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている、複数の圧力センサからそれぞれ計測データを取得する、計測取得工程と、
前記高さ方向に亘る前記計測データを用いて、該高さ方向に亘る圧力勾配に関する回帰直線を求める、算定工程と、
前記回帰直線と、カッタヘッドの高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する、理論切羽圧直線とを用いて前記チャンバ内圧力の適否を評価する、評価工程と、を有することを特徴とする、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理方法。
【請求項5】
前記算定工程では、前記回帰直線と各圧力センサの計測データとの差を求めて標準偏差を算定し、
前記評価工程では、前記理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインの間に前記回帰直線が存在するか否かを判定し、間に存在する場合に第1適格と評価し、かつ、前記標準偏差と該標準偏差に関する閾値とを比較し、該標準偏差が該閾値以下の場合に第2適格と評価することを特徴とする、請求項4に記載の泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切羽の安定保持性や排土効率性等の観点から、例えば外径が10m以上の大断面シールドトンネルの施工においては、これまでは泥土圧シールドよりも泥水式シールド(泥水加圧シールド)が有利とされ、一般に適用されてきた。
切羽の安定保持性に関し、泥水式シールドの場合は、地上のプラントにて調整された泥水を送泥管を介してカッタヘッドの背面のチャンバに送り、泥水圧を切羽からの土水圧(切羽土圧)に対抗させることから、切羽の安定保持を図り易い。これに対して、泥土圧シールドの場合は、カッタヘッドにて掘削された掘削土をチャンバに取り込み、掘削土と添加材を撹拌して塑性流動化させることにより不透水性を高めた泥土を生成し、この泥土による泥土圧を切羽土圧に対抗させることにしている。そのため、チャンバの全域において泥土が均一かつ十分に塑性流動化されていない場合は、カッタヘッドの全面で泥土圧にて切羽土圧に対抗することができず、地盤沈下等の周辺環境への影響が懸念される事態となり得る。
従来のシールド掘進機においては、チャンバを形成するバルクヘッドに複数の圧力センサ(土圧計)を取り付け、シールド掘進機のセンターやセンター近傍にある圧力センサの計測値を主に監視しながら泥土の圧力管理を行っている。しかしながら、このような単数もしくは複数の圧力センサの計測値のみに基づく泥土の圧力管理では、チャンバ内全域の泥土の圧力を特定することはできず、チャンバ内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化しているか否かを特定することは極めて難しい。
上記する大断面シールドトンネルの施工において泥土圧シールドを適用する場合、大断面のカッタヘッドの背面にあるチャンバ内全域における泥土の可及的均一かつ十分な塑性流動化は一層困難になることから、このことが、大断面シールドトンネルの施工において泥土圧シールド工法が適用され難い理由の一つとなっている。
その一方で、泥水式シールド工法は、送泥管や排泥管を装備する必要があり、立坑や地上における土水分離設備を必須とし、産廃処理量も増加する傾向にあることなどから、泥土圧シールド工法に比べて施工コストが高価になり易く、大断面シールドトンネルの施工においてはこの課題が一層顕著になり得る。
【0003】
以上のことから、切羽の安定保持性に優れ、大断面シールドトンネルの施工に適用可能な泥土圧シールド工法が望まれている。すなわち、このような泥土圧シールド工法の実現には、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内全域における泥土の圧力管理(チャンバ内圧力管理)を高い精度で実行可能なシステムや方法が必要になる。
【0004】
ここで、特許文献1には、掘削した土砂を利用して地山圧力(切羽圧力)に対抗させながら掘進する、シールド工法が提案されている。具体的には、シールド掘進機のチャンバ内において、シールド掘進機のカッタにより掘削された土砂に添加材を混合して液状化させ、液状土砂の圧力により地山圧力に対抗させながらチャンバ内の圧力を複数の圧力センサにより検出してその圧力勾配を求め、この圧力勾配と推定した地山圧力勾配との差に応じて添加材の添加率を調整し、さらには、チャンバ内圧力と推定した地山圧力との差に応じて液状土砂の排出量を調整し、液体の遮断機能を有した密閉型ポンプにより液状土砂を排出するシールド工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のシールド工法によれば、チャンバ内の圧力を複数の圧力センサにより検出してその圧力勾配を求め、この圧力勾配と推定した地山圧力勾配との差に応じて添加材の添加率を調整するとしているが、ここには、チャンバ内全域における泥土の圧力管理を高い精度で実行可能とするシステムや方法に関する記載はない。
【0007】
本発明は、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内全域における泥土の圧力管理を高い精度で行うことのできる、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムの一態様は、
カッタヘッドとバルクヘッドの間のチャンバに取り込まれた掘削土と、添加材とを撹拌して塑性流動化させることにより泥土とし、該泥土の圧力にて切羽圧力に対抗させる、泥土圧シールド掘進機におけるチャンバ内圧力管理システムであって、
前記バルクヘッドに対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている、複数の圧力センサと、
前記チャンバ内圧力の適否を評価する評価装置とを有し、
前記評価装置は、
複数の前記圧力センサからそれぞれ計測データを取得する、取得部と、
前記高さ方向に亘る前記計測データを用いて、該高さ方向に亘る圧力勾配に関する回帰直線を求める、算定部と、
前記カッタヘッドの高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する、理論切羽圧直線を格納する、格納部と、
前記回帰直線と前記理論切羽圧直線を用いて、前記チャンバ内圧力の適否を評価する、評価部とを有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、バルクヘッドの上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている複数の圧力センサによる計測データを評価装置が取得し、評価装置において、高さ方向に亘る泥土(不透水性泥土)の圧力勾配に関する回帰直線を求め、カッタヘッドの高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する理論切羽圧直線(の傾き)と回帰直線(の傾き)を用いてチャンバ内圧力の適否を評価することにより、泥土圧にて切羽圧力が適正に保持されているか否かを確認及び評価することができる。
ここで、評価装置は、泥土圧シールド掘進機の内部に装備されていてもよいし、地上の管理棟に装備されていてもよい。また、取得部における計測データの取得には、有線や無線による計測データの受信等が含まれる。
【0010】
また、「バルクヘッドに対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている」とは、例えば、バルクヘッドの上端や上端近傍から下端や下端近傍にかけて、高さ方向に間隔を置いて複数の圧力センサが取り付けられていることを意味しており、例えば、正面視円形のバルクヘッドの外郭ラインに沿って、周方向に間隔を置いて複数の圧力センサが取り付けられてもよいし、バルクヘッドの中央位置において高さ方向に間隔を置いて複数の圧力センサが取り付けられてもよいし、さらには、各高さレベルにおいて水平方向に複数の圧力センサが取り付けられてもよい。
また、「回帰直線と理論切羽圧直線を用いて」とは、回帰直線と理論切羽圧直線を直接比較することや、理論切羽圧直線を中心に所定の幅を持った閾値範囲を設定し、この閾値範囲と回帰直線を比較すること(従って回帰直線と理論切羽圧直線を間接的に比較すること)を含んでいる。
さらに、理論切羽圧直線の設定方法は様々であり、例えば、施工対象地山におけるボーリングデータや既存の土質データ等を用いて、カッタヘッドの上方レベル(例えば上端レベル)と下方レベル(例えば下端レベル)の各静止土圧(水圧を含む)を算定することにより設定してもよいし、カッタヘッドの上方レベルと下方レベルの土被り荷重に対して所定割合を乗じることにより設定してもよい。
例えば、回帰直線が理論切羽圧直線を中心に所定の幅を持った閾値範囲内に収まっている場合に、切羽圧力が適正に保持されていると評価することができる。
【0011】
また、本発明による泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムの他の態様において、
前記格納部では、前記理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインが格納され、
前記評価部では、前記上限ラインと前記下限ラインの間に前記回帰直線が存在するか否かを判定し、間に存在する場合に第1適格と評価することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインの間に回帰直線が存在するか否かを評価部にて判定し、間に存在する場合に第1適格と評価することによって、泥土圧にて切羽圧力が適正に保持されているか否かを高い精度で確認及び評価することができる。
ここで、上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインの設定方法は、地山の性状や周辺環境への影響の重要度等に応じて様々に設定でき、理論切羽圧直線の例えば±20%や±30%を上限ラインと下限ラインとして設定できる。これら上限ラインと下限ラインは一般に直線であるが、トンネルの施工位置に応じて理論切羽圧が異なり、理論切羽圧に基づいて設定される上限ラインと下限ラインも同様に異なることから、トンネルをその軸線方向に沿って示す管理図において理論切羽圧と上限ライン及び下限ラインをともに示す場合に、これらの線形はいずれも波形となる。
【0013】
また、本発明による泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムの他の態様において、
前記算定部では、前記回帰直線と各圧力センサの計測データとの差を求めて標準偏差を算定し、
前記格納部には、前記標準偏差に関する閾値がさらに格納されており、
前記評価部では、前記標準偏差と前記閾値とを比較し、該標準偏差が該閾値以下の場合に第2適格と評価することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、回帰直線と各圧力センサの計測データとの差(ずれ)を求めて高さ方向のずれに関する標準偏差を算定し、標準偏差がその閾値以下である場合に第2適格と評価することにより、バルクヘッドの高さ方向に亘る各圧力センサの値を結んでできる計測データ折れ線の直線性を適切に評価することができ、計測データ折れ線が良好な直線性を有する場合に、チャンバ内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化していると評価することができる。
すなわち、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値となる上限ラインと下限ラインの間に回帰直線が存在する場合に第1適格と評価することにより、泥土圧シールド掘進機の掘進時において切羽圧力が泥土圧にて適正に保持されていることを確認及び評価でき、さらに、計測データ折れ線の高さ方向における回帰直線との差に関する標準偏差がその閾値以下の場合に第2適格と評価することにより、チャンバ内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化していることを確認及び評価できる。
このように、二段階(二種類)の評価を実行することにより、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内全域における泥土の圧力管理を高い精度で行うことが可能になる。
【0015】
ここで、標準偏差に関する閾値の設定方法も、地山の性状や周辺環境への影響の重要度等に応じて様々に設定できる。
また、標準偏差の値が小さい程、計測データ折れ線の直線性が高くなり、回帰直線に近くなる。また、全ての高さレベルにおける差(ずれ)が大きい場合は当然に標準偏差も大きくなり、第2適格と評価できないことになるが、ある高さレベルの差のみが極端に大きな場合も、このことに起因して標準偏差が大きくなり、第2適格と評価できないことになり得る。
【0016】
また、本発明による泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理方法の一態様は、
カッタヘッドとバルクヘッドの間のチャンバに取り込まれた掘削土と、添加材とを撹拌して塑性流動化させることにより泥土とし、該泥土の圧力にて切羽圧力に対抗させる、泥土圧シールド掘進機におけるチャンバ内圧力管理方法であって、
前記バルクヘッドに対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている、複数の圧力センサからそれぞれ計測データを取得する、計測取得工程と、
前記高さ方向に亘る前記計測データを用いて、該高さ方向に亘る圧力勾配に関する回帰直線を求める、算定工程と、
前記回帰直線と、カッタヘッドの高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する、理論切羽圧直線とを用いて前記チャンバ内圧力の適否を評価する、評価工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、バルクヘッドの上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている複数の圧力センサによる計測データを用いて、高さ方向に亘る圧力勾配に関する回帰直線を求め、カッタヘッドの高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する理論切羽圧直線と回帰直線を用いてチャンバ内圧力の適否を評価することにより、泥土圧にて切羽圧力が適正に保持されているか否かを確認及び評価することができる。
【0018】
また、本発明による泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理方法の他の態様において、
前記算定工程では、前記回帰直線と各圧力センサの計測データとの差を求めて標準偏差を算定し、
前記評価工程では、前記理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインの間に前記回帰直線が存在するか否かを判定し、間に存在する場合に第1適格と評価し、かつ、前記標準偏差と該標準偏差に関する閾値とを比較し、該標準偏差が該閾値以下の場合に第2適格と評価することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインの間に回帰直線が存在する場合に第1適格と評価することにより、泥土圧シールド掘進機の掘進時において泥土圧にて切羽圧力が適正に保持されていることを確認及び評価でき、さらに、回帰直線と各圧力センサの計測データとの差の差に関する標準偏差がその閾値以下の場合に第2適格と評価することにより、チャンバ内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化していることを確認及び評価できる。これら二段階の評価方法により、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内全域における泥土の圧力管理を高い精度で行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法によれば、泥土圧シールド掘進機のチャンバ内全域における泥土の圧力管理を高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係るチャンバ内圧力管理システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】評価装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】回帰直線と各圧力センサの計測データとの差に基づく標準偏差の求め方を説明する図である。
【
図5】計測データ折れ線と理論切羽圧直線、回帰直線等をともに示す図である。
【
図6】トンネルの各施工位置における、チャンバ内圧力勾配(波形)と上限ライン(上限波形)と下限ライン(下限波形)をともに示す管理図である。
【
図7A】標準偏差がその閾値以下にあって、計測データ折れ線の直線性が良好である例を示す図である。
【
図7B】(a)、(b)ともに、標準偏差がその閾値を超えて、計測データ折れ線の直線性が不良である例を示す図である。
【
図8】トンネルの各施工位置における、チャンバ内圧力勾配(波形)の直線性を示す管理図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係るチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係る泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システムとチャンバ内圧力管理方法の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係るチャンバ内圧力管理システムの全体構成の一例を示す図である。
【0024】
チャンバ内圧力管理システム50は、泥土圧シールド掘進機10を構成するバルクヘッド13に対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられている、複数の圧力センサ20と、泥土圧シールド掘進機10の鋼殻11の内部にあってチャンバ内圧力の適否を評価する評価装置30とを有する。ここで、評価装置30は泥土圧シールド掘進機10の内部に装備されている形態として以下説明するが、評価装置30は地上にある不図示の管理棟に装備されてもよいし、泥土圧シールド掘進機10と管理棟の双方に装備され、双方の評価装置がデータの送受信を可能に接続されてもよい。
【0025】
泥土圧シールド掘進機10は、鋼殻11と、鋼殻11の掘進方向前方にあるカッタヘッド12とを有する。また、図示例の泥土圧シールド掘進機10は、カッタヘッド12の外径が10m以上(特に15m程度かそれ以上)の大断面シールド掘進機として以下説明するが、カッタヘッドの外径が10m未満の中小規模のシールド掘進機が適用されてもよい。
【0026】
鋼殻11の内部には、カッタヘッド12の背面とともにチャンバ14を形成するバルクヘッド13と、カッタヘッド12を回転駆動する油圧駆動モータ18と、セグメントSをリング状に組み付けるエレクタ装置17と、セグメントリングに反力を取って泥土圧シールド掘進機10を掘進させるシールドジャッキ16と、カッタヘッド12を介してチャンバ14に取り込まれた掘削土を掘進方向後方へ搬送するスクリューコンベア15と、テールシールに裏込め注入材Jを注入する裏込め注入装置19等を備えている。ここで、カッタヘッド12には、切羽圧力Pkを直接計測するための不図示の圧力センサが取り付けられていてもよい。
【0027】
カッタヘッド12の背面には複数の撹拌翼12aが取り付けられてチャンバ14内に張り出しており、カッタヘッド12のX方向の回転に応じて切羽Kにある土砂を掘削土としてチャンバ14に取り込み、回転する撹拌翼12aにて掘削土と添加材とを撹拌して塑性流動化させることにより、不透水性の泥土Dを生成する。ここで、添加材は不図示の供給管を介してバルクヘッド13の背面側からチャンバ14に供給される。
【0028】
泥土圧シールド掘進機10では、塑性流動化された泥土Dの泥土圧により、カッタヘッド12に作用する切羽圧力Pkに対抗する。地中Gにおける泥土圧シールド掘進機10の掘進に応じて土質性状が変化し、地下水位が変化し、土被り荷重が変化すること等により、切羽圧力Pkも変化することになる。そのため、泥土圧シールド掘進機10では、掘進に応じて都度変化する切羽圧力Pkに応じた泥土圧となるように、チャンバ14への掘削土の取り込み量やチャンバ14からの泥土Dの排出量、さらには添加材の供給量等を調整しながら、掘進に応じて変化する切羽圧力Pkの保持を図るようになっている。
【0029】
バルクヘッド13は正面視円形を呈しており、複数の圧力センサ20は、バルクヘッド13の外郭ラインに沿って、周方向に間隔を置いて取り付けられることにより、
図1に示すように、バルクヘッド13に対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられることになる。
【0030】
バルクヘッド13の高さ方向に亘って取り付けられている複数の圧力センサ20にて計測された各高さレベルにおける泥土圧に関する計測データは、評価装置30に送信される。ここで、
図2及び
図3を参照して、評価装置30について説明する。
図2は、評価装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図3は、評価装置の機能構成の一例を示す図である。
【0031】
図2に示すように、評価装置30は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。評価装置30を構成するコンピュータは、接続バス36により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)31、主記憶装置32、補助記憶装置33、入出力IF(interface)34、及び通信IF35を備えている。主記憶装置32と補助記憶装置33は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0032】
CPU31は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU31は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU31は、コンピュータからなる評価装置30の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU31は、例えば、補助記憶装置33に記憶されたプログラムを主記憶装置32の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0033】
主記憶装置32は、CPU31が実行するコンピュータプログラムや、CPU31が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置32は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置33は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置33には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF35を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、バルクヘッド13に取り付けられている各圧力センサ20、カッタヘッド12に取り付けられている不図示の圧力センサ、泥土圧シールド掘進機10が内部に備えるジャイロ等の位置センサ(図示せず)の他、ネットワークに接続する管理棟にある施工管理用のパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0034】
補助記憶装置33は、例えば、主記憶装置32を補助する記憶領域として使用され、CPU31が実行するコンピュータプログラムや、CPU31が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置33は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置33として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0035】
入出力IF34は、評価装置30に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF34には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。評価装置30は、入出力IF34を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0036】
また、入出力IF34には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、バルクヘッド13に取り付けられている各圧力センサ20、カッタヘッド12に取り付けられている不図示の圧力センサ等から送信される泥土圧に関する計測データや切羽圧力に関する計測データが取得(受信)され、表示されるようになっている。また、評価装置30にて算定された、計測データに基づく泥土圧の圧力勾配に関する回帰直線や、カッタヘッド12の高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する理論切羽圧直線、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値となる上限ライン及び下限ライン等が同画面に表示されるようになっている。
【0037】
通信IF35は、評価装置30が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF35は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、圧力センサ20からの計測データを受信し、この計測データや、計測データに基づいて評価装置30にて評価された各種の評価結果データを管理棟等におけるパーソナルコンピュータに送信する。尚、各圧力センサ20と評価装置30が有線にてデータ送受信可能に接続されていてもよい。
【0038】
図3に示すように、評価装置30は、CPU31によるプログラムの実行により、少なくとも、取得部302、算定部304、評価部306、表示部308,及び格納部310の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0039】
取得部302には、各圧力センサ20により計測された、チャンバ14内の泥土圧に関する計測データや、カッタヘッド12が切羽圧力を計測する圧力センサを備えている場合はこの切羽圧力に関する計測データが随時受信され、格納部310に随時格納される。例えば、カッタヘッド12が切羽圧力を計測する圧力センサを備えている場合は、この圧力センサも、バルクヘッド13に取り付けられている圧力センサ20と同様に、複数の圧力センサがカッタヘッド12に対してその上方から下方の高さ方向に亘って取り付けられているのがよい。
【0040】
このように、各圧力センサ20による泥土圧の計測と、各圧力センサ20から取得部302への計測データの送受信は、実施形態に係るチャンバ内圧力管理方法の計測取得工程に含まれる。
【0041】
算定部304では、バルクヘッド13の高さ方向に亘って設けられている各圧力センサ20による計測データを用いて、当該高さ方向に亘る泥土圧の圧力勾配に関する回帰直線を算定する。
【0042】
回帰直線の算定方法は、バルクヘッド13の高さ方向の各圧力センサ20の位置における計測データを結んでできる計測データ折れ線に対して、例えば最小二乗法を適用することにより算定することができる。
【0043】
算定部304ではさらに、回帰直線と各圧力センサ20の計測データとの差を求めて標準偏差を算定する。
【0044】
ここで、
図4は、回帰直線と各圧力センサの計測データとの差に基づく標準偏差の求め方を説明する図である。
図4に示すように、バルクヘッド13の高さ方向にある複数(図示例は五つ)の圧力センサ20による計測データに基づいて計測データ折れ線が作成され、この計測データ折れ線を用いて回帰直線が作成され、各計測データと回帰直線との差(ずれ)である、s1,s2,・・・,sn(図示例はn=5)を求め、各差の二乗和を計測データ数で除した値の平方根を算定することにより、標準偏差sが求められる。
【0045】
このように、各圧力センサ20による計測データを用いて、バルクヘッド13の高さ方向に亘る泥土圧の圧力勾配に関する回帰直線を算定すること、及び、回帰直線と各圧力センサ20の計測データとの差を求めて標準偏差を算定することは、実施形態に係るチャンバ内圧力管理方法の算定工程に含まれる。
【0046】
格納部310には、カッタヘッド12の高さ方向に亘る切羽圧力勾配に関する、理論切羽圧直線が格納される。この理論切羽圧直線は、施工対象の地山Gにおけるボーリングデータや既存の土質データ等を用いて、泥土圧シールド掘進機10の掘進に応じて変化する、カッタヘッド12の上方レベルと下方レベルの各静止土圧(水圧を含む)を算定することにより設定する。その他、カッタヘッドの上方レベルと下方レベルの土被り荷重に対して所定割合(70%や80%等)を乗じることにより理論切羽圧直線を設定することもできる。さらに、カッタヘッド12に取り付けられている複数の圧力センサにて計測された切羽圧力に関する計測データに基づいて、例えば算定部304が理論切羽圧直線を作成し、作成された理論切羽圧直線を格納部310に格納してもよい。
【0047】
格納部310には、理論切羽圧直線の他に、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインが格納される。上限ラインと下限ラインの設定方法は、地山の性状や周辺環境への影響の重要度等に応じて、理論切羽圧直線の例えば±20%や±30%を上限ラインと下限ラインとして設定される。
【0048】
格納部310には、理論切羽圧直線とこれに基づく上限ライン及び下限ラインの他に、標準偏差に関する閾値が格納される。この標準偏差に関する閾値の設定も、地山の性状や周辺環境への影響の重要度等に応じて設定される。
【0049】
評価部306では、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値ラインである上限ラインと下限ラインの間に、泥土圧の圧力勾配に関する回帰直線が存在するか否かを判定し、間に存在する場合に第1適格と評価する。
【0050】
ここで、
図5は、トンネルのある施工位置における、計測データ折れ線と理論切羽圧直線、回帰直線等をともに示す図である。
図5に示す例では、この施工位置における静止土圧線に基づく理論切羽圧直線の傾きが18kPa/mであり、回帰直線の傾きが21kPa/mであり、理論切羽圧直線の+15%となっている。閾値ラインである上限ラインが20%程度に設定されている場合、評価部306では、この施工位置における泥土圧は切羽圧力を安定的に保持していると評価され、第1適格と評価されることになる。
図5に示す各種のグラフは、評価装置30の表示部308に表示される。
【0051】
また、
図6は、トンネルの各施工位置における(トンネルの軸線方向に沿った)、チャンバ内圧力勾配(波形)と上限ライン(上限波形)と下限ライン(下限波形)をともに示す管理図である。この管理図は、評価装置30の表示部308に表示される。
【0052】
トンネルの施工位置に応じて理論切羽圧が異なり、理論切羽圧に基づいて設定される上限ラインと下限ラインも同様に異なることから、トンネルをその軸線方向に沿って示す管理図において理論切羽圧と上限ライン及び下限ラインをともに示す場合に、これらの線形はいずれも図示例のように波形となる。ここで、図示例の管理図は、トンネルの各施工位置をセグメントリングのリングNo.で表示しており、セグメントの幅(1m、2m等)をリングNo.に乗じることにより、例えば不図示の立坑からのトンネルの位置が特定される。
【0053】
図示する上限ラインと下限ラインは、理論切羽圧直線の±20%にて設定されている。この管理図では、リングNo.710~720当たりで回帰直線が下限ラインを下回っており、評価部306では第1適格と評価されないことになる。
【0054】
このように、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値となる上限ラインと下限ラインの間に回帰直線が存在する場合に第1適格と評価することにより、泥土圧シールド掘進機10の掘進時において切羽圧力Pkが泥土圧にて適正に保持されているか否かを、適切に確認及び評価することができる。
【0055】
評価部306ではさらに、算定部304において算定された標準偏差と、この標準偏差に関する閾値とを比較し、標準偏差が閾値以下の場合に第2適格と評価する。
【0056】
ここで、
図7Aは、標準偏差がその閾値以下にあって、計測データ折れ線の直線性が良好である例を示す図であり、
図7B(a)、(b)はともに、標準偏差がその閾値を超えて、計測データ折れ線の直線性が不良である例を示す図である。
【0057】
標準偏差は、回帰直線と各圧力センサの計測データとの差に基づいていることから、計測データ折れ線の直線性を示す指標となり、計測データ折れ線が良好な直線性を示すことは、バルクヘッド13の高さ方向に亘って泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化されていることを意味する。
【0058】
図7Aに示す例では、計測データ折れ線が回帰直線とほぼ同様の直線性を示しており、従って標準偏差が小さく、チャンバ14内の泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化されていることを示す。
図7Aに示す例の場合、評価部306では第2適格と評価される。
【0059】
一方、
図7B(a)に示す例では、例えば二つの計測データと回帰直線との差が大きく、回帰直線に近似した直線性を有しているとは言い難く、従って標準偏差は大きくなり、チャンバ14内の泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化されているとは評価されない。
【0060】
また、
図7B(b)に示す例では、計測データ折れ線が回帰直線を跨いで大きくジグザグな線形を有しており、これも回帰直線に近似した直線性を有しているとは言い難く、従って標準偏差は大きくなり、チャンバ14内の泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化されているとは評価されない。
【0061】
図8は、トンネルの各施工位置における、チャンバ内圧力勾配(波形)の直線性を示す管理図である。
図8に示す例では、標準偏差の閾値として25kPaを設定している。
【0062】
図6に示す回帰直線や理論切羽圧直線と同様に、標準偏差に関してもその線形は図示例のように波形となる。この管理図も、評価装置30の表示部308に表示される。
【0063】
図示例では、トンネルの全施工位置において標準偏差はその閾値を下回っており、施工区間の全域において、チャンバ14内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化していると評価され、評価部306では第2適格と評価されることになる。
【0064】
このように、回帰直線と各圧力センサの計測データとの差を求めて高さ方向のずれに関する標準偏差を算定し、標準偏差がその閾値以下である場合に第2適格と評価することにより、バルクヘッド13の高さ方向に亘る各圧力センサ20の値を結んでできる計測データ折れ線の直線性を適切に評価することができ、計測データ折れ線が良好な直線性を有する場合に、チャンバ14内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化していると評価することができる。
【0065】
従って、評価部306では、理論切羽圧直線に基づいて設定された上下の閾値となる上限ラインと下限ラインの間に回帰直線が存在する場合に第1適格と評価することにより、泥土圧シールド掘進機の掘進時において切羽圧力が泥土圧にて適正に保持されていることを確認及び評価し、さらに、計測データ折れ線の高さ方向における回帰直線との差に関する標準偏差がその閾値以下の場合に第2適格と評価することにより、チャンバ内全域において泥土が可及的均一かつ十分に塑性流動化していることを確認及び評価する。
【0066】
上記する評価部306における二段階の評価を実行することは、実施形態に係るチャンバ内圧力管理方法の評価工程に含まれる。
【0067】
図示するチャンバ内圧力管理システム50とチャンバ内圧力管理方法によれば、二段階(二種類)の評価を実行することにより、泥土圧シールド掘進機10のチャンバ14内全域における泥土の圧力管理を高い精度で行うことが可能になる。
【0068】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0069】
10:泥土圧シールド掘進機(シールド掘進機)
11:本体(鋼殻)
12:カッタヘッド
12a:撹拌翼
13:バルクヘッド
14:チャンバ
15:スクリューコンベア
16:シールドジャッキ
17:エレクタ装置
18:油圧駆動モータ
19:裏込め注入装置
20:圧力センサ
30:評価装置
50:チャンバ内圧力管理システム(泥土圧シールド掘進機のチャンバ内圧力管理システム)
302:取得部
304:算定部
306:評価部
308:表示部
310:格納部
G:地山(地盤)
K:切羽
Pk:切羽圧力
D:泥土
S:セグメント
J:裏込め注入材