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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131734
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】船外機及び船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/08 20060101AFI20230914BHJP
   B63H 20/00 20060101ALI20230914BHJP
   B63H 21/17 20060101ALI20230914BHJP
   B63H 20/06 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B63H20/08 510
B63H20/00 610
B63H21/17
B63H20/06 100
B63H20/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036644
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宏樹
(57)【要約】
【課題】船外機の船外機本体の大きなトリムインを実現する。
【解決手段】船外機13は、電動モータ15を内蔵する船外機本体16と、チルト軸17を有するブラケット18とを備え、ブラケット18は船舶10の船体11の船尾12に取り付けられ、船外機本体16はチルトアップとトリムインが可能となるようにブラケット18へ取り付けられ、船外機本体16の下部16bにはプロペラシャフト21が設けられ、船舶10の航走時において、船舶10の上下方向に関するチルト軸17から船尾12の上端までの距離Lは、船舶10の上下方向に関するチルト軸17からプロペラシャフト21までの距離L以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを備え、前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、
前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、
前記本体の下部にはプロペラ軸が設けられ、
前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記船舶の航走時において、前記船舶の上下方向に関する前記回転軸から前記船尾の上端までの第1の距離は、前記船舶の上下方向に関する前記回転軸から前記プロペラ軸までの第2の距離以上である、船外機。
【請求項2】
前記船舶の航走時において、前記第1の距離が前記第2の距離の2倍以上である、請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記船体の前後方向に関して、前記回転軸は前記船尾の後端よりも後方に配置される、請求項1に記載の船外機。
【請求項4】
前記第2の回転では、前記本体が前記回転軸の回りに回転角で20°以上回転する、請求項1に記載の船外機。
【請求項5】
前記第2の回転では、前記本体が前記回転軸の回りに回転角で30°以上回転する、請求項4に記載の船外機。
【請求項6】
前記船体の船尾において、前記船舶の上下方向に関して回動する姿勢制御板が配置されない、請求項1に記載の船外機。
【請求項7】
前記本体を前記船舶の上下方向に関して移動させるリフト機構をさらに備える、請求項1に記載の船外機。
【請求項8】
前記リフト機構は、前記船舶の航走時における前記本体の前記船舶の上下方向に関する位置を変更可能である、請求項7に記載の船外機。
【請求項9】
前記船舶は水中翼を備え、前記リフト機構は、前記船舶が航走時に翼走する際、前記本体を前記船体の下方向に移動させる、請求項8に記載の船外機。
【請求項10】
前記船舶の保管時、前記リフト機構は前記本体を上昇させ、且つ前記本体は前記第1の回転を行う、請求項8に記載の船外機。
【請求項11】
前記動力源は電動モータである、請求項1に記載の船外機。
【請求項12】
船外機を備える船舶であって、
前記船外機は、動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを有し、
前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、
前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、
前記本体の下部にはプロペラ軸が設けられ、
前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記船舶の航走時において、前記船舶の上下方向に関する前記回転軸から前記船尾の上端までの第1の距離は、前記船舶の上下方向に関する前記回転軸から前記プロペラ軸までの第2の距離以上である、船舶。
【請求項13】
動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを備え、前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、
前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、
前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記船舶の上下方向に関して、前記回転軸は前記船尾の上端よりも前記船尾の下端に近くなるように配置される、船外機。
【請求項14】
動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを備え、前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、
前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、
前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、
前記本体の上下方向に関して、前記回転軸は前記本体の上端よりも前記本体の下端に近くなるように配置される、船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルトアップやトリムインが可能な船外機及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
滑走艇等の比較的小型の船舶は推進機として船外機を備える。図9(A)に示すように、船外機90は、動力源を内蔵する船外機本体91と、チルト軸92が設けられたブラケット93とを有し、ブラケット93は船舶の船体94の船尾98に取り付けられ、船外機本体91はチルト軸92回りに回転可能な状態でブラケット93に取り付けられる。なお、以下の図9(A)~図9(C)では、図中の左方が船舶の前方に該当し、同右方が船舶の後方に該当し、同上方が船舶の上方に該当し、同下方が船舶の下方に該当する。そして、チルト軸92は船舶の左右方向に延伸するため、船外機本体91は、チルト軸92回りに上部91aが前方且つ下方へ移動するとともに下部91bが後方且つ上方へ移動するように、図中反時計回りに回転(チルトアップ)し(図9(A))、又は上部91aが後方且つ下方へ移動するとともに下部91bが前方且つ上方へ移動するように、図中時計回りに回転(トリムイン)する(図9(B))(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来より、船外機90の動力源として内燃機関であるレシプロエンジン95が用いられている。レシプロエンジン95は、船外機本体91の上部91aにおいて、クランク軸が上下方向に沿い且つシリンダヘッド96がシリンダブロック97よりも後方に位置するように配置されている(図9(A))。したがって、船外機本体91を大きくトリムインさせると、シリンダヘッド96の少なくとも一部がシリンダブロック97よりも下方に位置することになり、シリンダブロック97のシリンダの潤滑オイルがクランクケースに戻らずに燃料室で燃焼されてレシプロエンジン95が白煙を噴く可能性がある。そのためにレシプロエンジン95を用いる船外機90では大きなトリムインの実現が困難である。
【0004】
ところで、近年提唱されているSDGs(Sustainable Development Goals)を達成するための一手段として移動体のカーボンフリーの実現が推し進められ、移動体の一例である自動車の動力源が内燃機関から電動モータへ置き換えられつつある。
【0005】
船外機90においても、自動車と同様に、内燃機関から電動モータへ動力源の置き換えが検討されているが、船外機90の動力源が電動モータへ置き換えられた場合、上述したような、潤滑オイルの燃焼が発生しないため、白煙の発生を抑制するためにトリムインを制限する必要がなくなる。そして、トリムインは船舶の航走時におけるピッチ方向の姿勢制御に大きな影響を与えるため、動力源として電動モータを用いる船外機90では、姿勢制御の自由度を広げる観点から、寧ろ、大きなトリムインの実現が求められる。
【0006】
一方、従来の船外機90では、船舶の桟橋等への長期係留時の船外機本体91の水揚げを優先するために、大きなチルトアップの実現が求められている。そこで、従来、チルト軸92を船外機本体91の上部91a近傍に配置することにより、船外機本体91が大きくチルトアップしても船外機本体91の上部91aの前方への移動量を少なくして船外機本体91の上部91aと船体94の干渉を防いでいた(図9(B))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-317893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、チルト軸92を船外機本体91の上部91a近傍に配置すると、船外機本体91がトリムインした際、船外機本体91の下部91bの前方への移動量が大きくなるため、トリムインの量を少し大きくしただけで船外機本体91の下部91bと船体94が干渉してしまうおそれがある(図9(C))。したがって、従来の船外機90ではトリムインの量(角度)を大きくするのは困難であり、チルト軸92回りに約4°までしかトリムインすることができない。すなわち、実現し得るトリムインの量に関して改善の余地がある。
【0009】
本発明は、船外機の船外機本体の大きなトリムインを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の一態様による船外機は、動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを備え、前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、前記本体の下部にはプロペラ軸が設けられ、前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、前記船舶の航走時において、前記船舶の上下方向に関する前記回転軸から前記船尾の上端までの第1の距離は、前記船舶の上下方向に関する前記回転軸から前記プロペラ軸までの第2の距離以上である。
【0011】
また、この発明の一態様による船外機は、動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを備え、前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、前記船舶の上下方向に関して、前記回転軸は前記船尾の上端よりも前記船尾の下端に近くなるように配置される。
【0012】
さらに、この発明の一態様による船外機は、動力源を内蔵する本体と、回転軸を有するブラケットとを備え、前記ブラケットは船舶の船体の船尾に取り付けられ、前記本体は第1の回転と第2の回転が可能となるように前記ブラケットへ取り付けられ、前記第1の回転は、前記本体の上部が前記船舶の前方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の後方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、前記第2の回転は、前記本体の上部が前記船舶の後方へ移動するとともに前記本体の下部が前記船舶の前方へ移動するように前記回転軸の回りに前記本体が回転する回転であり、前記本体の上下方向に関して、前記回転軸は前記本体の上端よりも前記本体の下端に近くなるように配置される。
【0013】
この構成によれば、船舶の航走時において、船舶の上下方向に関する回転軸から船尾の上端までの第1の距離は、船舶の上下方向に関する回転軸からプロペラ軸までの第2の距離以上であるか、船舶の上下方向に関して回転軸が船尾の上端よりも前記船尾の下端に近くなるように配置されるか、若しくは、船舶の上下方向に関して回転軸は船外機の本体の上端よりも本体の下端に近くなるように配置されるため、船外機の本体の回転軸は船舶の上下方向に関して下寄りに配置される。これにより、船外機の本体の下部が船舶の前方へ移動するように回転軸の回りに回転(トリムイン)した際に本体の下部の前方への移動量が小さくなるため、トリムインの量を大きくしても本体の下部と船体が干渉するのを抑制することができ、その結果、大きなトリムインを実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、船外機の船外機本体の大きなトリムインを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る船外機が適用される船舶の側面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る船外機の構成を概略的に説明するための側面図である。
図3】第1の実施の形態における船外機本体のトリムインやチルトアップを説明するための図である。
図4】従来のレシプロエンジンを用いる船外機を備えた滑走艇のプレーニング状態への移行を説明するための図である。
図5】本実施の形態に係る電動モータを用いる船外機を備えた船舶のプレーニング状態への移行を説明するための図である。
図6】本発明の第2の実施の形態に係る船外機が適用される船舶の側面図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る船外機の構成を概略的に説明するための側面図である。
図8】第2の実施の形態における船外機本体のトリムインやチルトアップを説明するための図である。
図9】従来の船外機本体のトリムインやチルトアップを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る船外機が適用される船舶の側面図であり、図2は、本発明の第1の実施の形態に係る船外機の構成を概略的に説明するための側面図である。
【0018】
船舶10は、例えば、滑走艇であり、船体11と、船体11の船尾12に取り付けられる推進機としての少なくとも1つ、例えば、2つの船外機13とを備える。また、船体11には操縦席を兼ねる船室14が配置される。図1は、滑走状態(プレーニング状態)の船舶10を示すが、船舶10は滑走艇に限られず、例えば、比較的小型の排水量型の船舶であってもよい。
【0019】
なお、以降の各図において、図中の左方が船舶10の前方に該当し、同右方が船舶10の後方に該当し、同上方が船舶10の上方に該当し、同下方が船舶10の下方に該当し、図面の奥行き方向は船舶10の右方向に該当し、図面の手前方向が船舶10の左方向に該当する。
【0020】
船外機13は、動力源である電動モータ15を内蔵する船外機本体16と、チルト軸17(回転軸)が設けられるブラケット18と、船体11の船尾12に取り付けられるリフト機構19とを有する。船外機本体16では電動モータ15が上部16aに配置され、さらに、船外機本体16は、下部16bに配置されるプロペラ20と、プロペラ20を回転させるためのプロペラシャフト21(プロペラ軸)と、電動モータ15の駆動力をプロペラシャフト21に伝達するドライブシャフト22と、を有し、電動モータ15の駆動力によって回転されるプロペラ20によって船舶10へ推力を付与する。なお、プロペラシャフト21は船舶10の前後方向に沿うように配置され、ドライブシャフト22は船舶10の上下方向に沿うように配置される。
【0021】
船外機13には操舵機構(図示しない)が設けられ、操舵機構は船外機13を船体11に対して船舶10の左右方向に首振りさせることで船外機13が発生する推力の作用方向を左右に調整する。
【0022】
ブラケット18はリフト機構19を介して船体11の船尾12に取り付けられ、リフト機構19はブラケット18を船舶10の上下方向に関して移動させる。また、船外機本体16はブラケット18へ取り付けられる。したがって、リフト機構19はブラケット18を介して船外機本体16を船舶10の上下方向に関して移動させる。
【0023】
また、船外機本体16はチルト軸17の回りに回転可能な状態でブラケット18に取り付けられる。チルト軸17は船舶10の左右方向に延伸するため、船外機本体16は、チルト軸17回りに上部16aが船舶10の前方且つ下方へ移動するとともに下部16bが船舶10の後方且つ上方へ移動するように、図中反時計回りに回転(第1の回転)し、又は上部16aが後方且つ下方へ移動するとともに下部16bが前方且つ上方へ移動するように、図中時計回りに回転(第2の回転)する。なお、以降、前者の回転を「チルトアップ」と称し、後者の回転を「トリムイン」と称する。
【0024】
ブラケット18は、船外機本体16をチルトアップさせるための油圧アクチュエータや船外機本体16をトリムインさせるための油圧アクチュエータを有する回動機構、例えば、パワーチルトトリム(図示しない)を備える。また、リフト機構19は、ブラケット18を上下方向に移動させるための油圧アクチュエータ(図示しない)を有する。
【0025】
船舶10の航走時、リフト機構19はプロペラ20が完全に水面下に没するようにブラケット18を介して船外機本体16の上下方向に関する位置を調整する。このとき、チルト軸17から船尾12の下端までの上下方向に関する距離Lはチルト軸17から船尾12の上端までの上下方向に関する距離L(第1の距離)以下となる。すなわち、上下方向に関して、チルト軸17は船尾12の上端よりも船尾12の下端に近くなる。また、チルト軸17からプロペラシャフト21までの上下方向に関する距離L(第2の距離)は距離L以下となる。さらに、チルト軸17から船外機本体16の下端までの上下方向に関する距離Lはチルト軸17から船外機本体16の上端までの上下方向に関する距離L以下となる。すなわち、上下方向に関して、チルト軸17は船外機本体16の上端よりも船外機本体16の下端に近くなる。また、船尾12の後端からチルト軸17までの前後方向に関する距離Lは0より大きくなる。すなわち、前後方向に関して、チルト軸17は船尾12の後端よりも後方に配置される。
【0026】
図3は、第1の実施の形態における船外機本体16のトリムインやチルトアップを説明するための図である。
【0027】
図3(A)に示すように、船舶10の航走時、トリムインやチルトアップされていない船外機本体16は、ドライブシャフト22が上下方向に沿うように、ブラケット18によって保持されるが、操船者等によってトリムインを行うように指示がなされると、ブラケット18のパワーチルトトリムが船外機本体16をチルト軸17に関して図中時計回りに回転させる(図3(B))。
【0028】
ここで、上述したように、上下方向に関して、チルト軸17は船尾12の上端よりも船尾12の下端に近くなり、また、チルト軸17からプロペラシャフト21までの上下方向に関する距離Lはチルト軸17から船尾12の上端までの上下方向に関する距離L以下であるため、チルト軸17は下寄りに配置され、船外機本体16においても、チルト軸17は船外機本体16の上端よりも船外機本体16の下端に近くなる。これにより、チルト軸17から船外機本体16の下端までの距離が小さくなるため、船外機本体16がチルト軸17回りにトリムインしても、船外機本体16の下部16bの前方への移動量が小さくなる。その結果、トリムインの量を大きくしても下部16bと船尾12が干渉するのを抑制することができ、大きなトリムインを実現することができる。
【0029】
また、本実施の形態では、上述したように、前後方向に関してチルト軸17は船尾12の後端よりも後方に配置されるが、これにより、船外機本体16が船尾12から遠ざかるため、船外機本体16をチルト軸17回りにトリムインさせたときに下部16bが船尾12に干渉しにくくなる。したがって、前後方向に関してチルト軸17が船尾12の後端よりも後方に配置されることも、大きなトリムインの実現に寄与する。
【0030】
このように、本実施の形態では大きなトリムインを実現することができるが、具体的に、ドライブシャフト22が上下方向に沿う状態(中立状態)からチルト軸17に関して図中時計回りに船外機本体16を回転させたときに船外機本体16の下部16bが船体11の船尾12やブラケット18と干渉しない最大回転角(最大トリムイン角)θが20°以上、好ましくは30°以上となるように、航走時のチルト軸17の位置が設定される。
【0031】
また、船舶10を保管するために桟橋へ長期係留する際には、船外機本体16を水揚げするが、この場合、リフト機構19はブラケット18を介して船外機本体16を最上位置まで上昇させ、さらに、ブラケット18のパワーチルトトリムは船外機本体16をチルト軸17に関してチルトアップさせる(図3(C))。このときは、ブラケット18の上方への移動に伴い、チルト軸17も上寄りに配置されることになるため、チルトアップの量を大きくしても船外機本体16の上部16aと船尾12が干渉するのを抑制することができ、大きなチルトアップを実現することができる。これにより、相対的に船外機本体16の下部16bを大きく上方へ移動させることができ、プロペラ20を水面から確実に離水させることができる。
【0032】
図4は、従来のレシプロエンジンを用いる船外機を備えた滑走艇の滑走(プレーニング)状態への移行を説明するための図である。
【0033】
従来の滑走艇40は、低速での航走時、船底に揚力が殆ど発生していないため、排水量型の船舶と同様に、喫水は所定の深さがある。このとき、船外機41は殆どトリムインしておらず、船外機41のプロペラ42が発生する推力fの荷重方向(作用方向)は水面とほぼ平行である(図4(A))。なお、図4において、推力fの荷重方向は一点鎖線で示され、水面は実線で示される。
【0034】
その後、船速が上がると滑走艇40の船首43の水切りによって波が発生し、この波の背に滑走艇40の船体44が持ち上げられるとともに、滑走艇40の船尾45が波の谷に落ち込むため、船首43が相対的に持ち上がるハンプ状態となる(図4(B))。ハンプ状態では、船体44に作用する抵抗、造波抵抗や粘性抵抗が大きくなり、船速が上がりにくくなるため、船底で揚力が発生せず、プレーニング状態へ移行しにくくなる。そして、ハンプ状態を解消するためには、例えば、船体44の重心46回りに船首43を下げるようなピッチモーメント(図中反時計回りのモーメント)を推力fによって発生させればよい。
【0035】
しかしながら、従来の滑走艇40の船外機41は、上述したように、チルト軸47回りに約4°までしかトリムインすることができないため、船外機41の下部に設けられたプロペラ42が発生する推力fの荷重方向が重心46よりも下に留まる。その結果、推力fによって重心46回りに発生するピッチモーメント48は、図中時計回りのモーメントとなり、船首43を上げるように船体44に作用する。なお、ピッチモーメント48を図中において白の矢印で示す。
【0036】
そこで、従来の滑走艇40は船尾45に姿勢制御板であるトリムタブ49を備える。トリムタブ49は、船尾45において、滑走艇40の上下方向に関して回動する。従来の滑走艇40では、トリムタブ49を下げることによって揚力Lを船尾45の近傍で生じさせる。この揚力Lは重心46回りに船首43を下げるようなピッチモーメント50(図中反時計回りのモーメント)を発生させる。これにより、船首43を下げてハンプ状態を解消することができ、その結果、船体44に作用する抵抗を下げて船速を上げることができ、船底発生する揚力によって滑走艇40をプレーニング状態へ移行させることができる。なお、ピッチモーメント50を図中においてハッチング付きの矢印で示す。
【0037】
ところで、トリムタブ49を下げると、トリムタブ49に作用する抵抗が増加するため、船外機41のレシプロエンジンには高い出力が求められ、引いてはレシプロエンジンの大型化やそれに伴う船外機41の大型化を招く。これに対して、本実施の形態に係る電動モータ15を用いる船外機13を備えた船舶10では、ハンプ状態を解消するためにトリムタブを用いる必要を無くすことができる。以下、その理由について説明する。
【0038】
図5は、本実施の形態に係る電動モータ15を用いる船外機13を備えた船舶のプレーニング状態への移行を説明するための図である。
【0039】
船舶10でも、低速での航走時、滑走艇40と同様に、船底に揚力が殆ど発生していないため、喫水は所定の深さがある。このときも、船外機13は殆どトリムインしておらず、船外機13のプロペラ20が発生する推力Fの荷重方向は水面とほぼ平行である(図5(A))。なお、図5においても、推力Fの荷重方向は一点鎖線で示され、水面は実線で示される。
【0040】
その後、船速が上がると、滑走艇40と同様に、船舶10の船首23の水切りによって波が発生し、船首23が相対的に持ち上がるハンプ状態となる(図5(B))。ここで、上述したように、船外機13は、最大回転角θが20°以上、好ましくは30°以上となるように、航走時のチルト軸17の位置が設定されるため、船外機本体16を大きくトリムインさせることができ、これに伴い、推力Fの荷重方向を大きく上向きにすることができる。これにより、プロペラ20が発生する推力Fの荷重方向を重心24よりも上に移動させることができ、その結果、推力Fによって重心24回りに発生するピッチモーメント25は、図中反時計回りのモーメントとなり、船首23を下げるように船体11に作用する(図5(C))。なお、ピッチモーメント25を図中において白の矢印で示す。
【0041】
すなわち、本実施の形態では、船外機本体16を大きくトリムインさせることができるため、推力Fによって船首23を下げるためのピッチモーメント25を発生させることができる。その結果、ハンプ状態を解消するためにトリムタブを用いる必要を無くすことができ、引いては、船舶10にトリムタブを配置する必要を無くすことができる。また、これにより、必要とされる電動モータ15の出力を抑え、電動モータ15の大型化を抑制することもできる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、船舶60が滑走艇ではなく水中翼船である点で第1の実施の形態と異なるが、それ以外の構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであるので、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0043】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る船外機が適用される船舶の側面図であり、図7は、本発明の第2の実施の形態に係る船外機の構成を概略的に説明するための側面図である。
【0044】
船舶60は、水中翼船であり、船体61と、船体61の船尾62に取り付けられる推進機としての少なくとも1つ、例えば、2つの船外機13とを備える。また、船体61には操縦席を兼ねる船室63が配置される。図1は、翼走状態の船舶60を示すが、船舶60は水中翼船に限られず、例えば、水中翼を備える比較的小型の排水量型の船舶であってもよい。
【0045】
また、船舶60は船底に水中翼64を備える。水中翼64は船体61に対して収容自在に構成されてもよい。また、水中翼64の数は限られないが、船舶60の前後方向に関して少なくとも2つの水中翼64が並んで配置されるのが好ましい。船舶60の船速が上がると、各水中翼64が発生する揚力が大きくなり、船体61が離水して船舶60は翼走状態に移行する。
【0046】
なお、以降の各図において、図中の左方が船舶60の前方に該当し、同右方が船舶60の後方に該当し、同上方が船舶60の上方に該当し、同下方が船舶60の下方に該当し、図面の奥行き方向は船舶60の右方向に該当し、図面の手前方向が船舶60の左方向に該当する。
【0047】
船舶60の翼走時、第1の実施の形態と同様に、船外機13のリフト機構19はプロペラ20が完全に水面下に没するようにブラケット18を介して船外機本体16の上下方向に関する位置を調整する。ここで、翼走時の船舶60の船底は、図6に示すように、完全に水面から浮上するため、リフト機構19は、滑走艇である船舶10が備える船外機13よりも、プロペラ20を下方に移動させる。
【0048】
このとき、プロペラ20を下方に移動させるために、リフト機構19は、船外機本体16の位置を、第1の実施の形態における船舶10の航走時の船外機本体16の位置よりも下げる。したがって、第1の実施の形態と異なり、ブラケット18のチルト軸17が上下方向に関して船尾62の下端よりも下方に位置するが、船尾62の下端からチルト軸17までの上下方向に関する距離Lは船尾62の上端からチルト軸17までの上下方向に関する距離L以下となる。換言すれば、上下方向に関して、やはり、チルト軸17は船尾62の上端よりも船尾62の下端に近くなる。また、チルト軸17からプロペラシャフト21までの上下方向に関する距離Lは距離L以下となり、具体的には、距離Lは距離Lの2倍以上となる。なお、第1の実施の形態と第2の実施の形態において船外機13の構造の差異は無いため、チルト軸17から船外機本体16の下端までの上下方向に関する距離Lがチルト軸17から船外機本体16の上端までの上下方向に関する距離L以下となることは、第1の実施の形態と変わらない。すなわち、第2の実施の形態においても、チルト軸17は下寄りに配置される。また、船尾62の後端からチルト軸17までの前後方向に関する距離Lが0より大きくなることも、第1の実施の形態と変わらない。
【0049】
図8は、第2の実施の形態における船外機本体16のトリムインやチルトアップを説明するための図である。
【0050】
図8(A)に示すように、船舶60の翼走時、トリムインやチルトアップされていない船外機本体16は、ドライブシャフト22が上下方向に沿うように、ブラケット18によって保持されるが、操船者等によってトリムインを行うように指示がなされると、ブラケット18のパワーチルトトリムが船外機本体16をチルト軸17に関して図中時計回りに回転させる(図8(B))。
【0051】
そして、上述したように、第2の実施の形態でも、チルト軸17は下寄りに配置され、チルト軸17は船外機本体16の上端よりも船外機本体16の下端に近くなる。これにより、船外機本体16がチルト軸17回りにトリムインしても、船外機本体16の下部16bの前方への移動量が小さくなるため、第1の実施の形態と同様、大きなトリムインを実現することができる。第2の実施の形態においても、最大トリムイン角θが20°以上、好ましくは30°以上となるように、翼走時のチルト軸17の位置が設定されるが、第2の実施の形態では、第1の実施の形態よりもチルト軸17が下方に移動するため、船外機本体16の下部16bは船体61の船尾62からより離れる。これにより、第2の実施の形態の方が第1の実施の形態よりも船外機本体16の下部16bが船尾62よりも遠ざかるため、より大きくトリムインさせることができる。したがって、第2の実施の形態では、最大トリムイン角θが第1の実施の形態の最大トリムイン角θよりも大きく設定されていてもよい。
【0052】
なお、桟橋へ長期係留する際、リフト機構19が船外機本体16を最上位置まで上昇させ、さらに、船外機本体16をチルト軸17に関してチルトアップさせる(図8(C))ことは第1の実施の形態と変わらない。
【0053】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0054】
例えば、船外機13は動力源として、電動モータを備えるが、船外機本体16を大きくトリムインさせても潤滑オイルがクランクケースに戻って燃焼される心配の無い内燃機関、例えば、ロータリーエンジンやトリムインした際にシリンダヘッドがシリンダブロックよりも下方に位置しないように配置されたレシプロエンジンを動力源として備えていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 船舶、11 船体、12 船尾、13 船外機、15 電動モータ、16 船外機本体、16a 上部、16b 下部、17 チルト軸、18 ブラケット、19 リフト機構、20 プロペラ、21 プロペラシャフト、f,F 推力
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