(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131807
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】マネキン人形の製造方法およびマネキン人形
(51)【国際特許分類】
A47F 8/00 20060101AFI20230914BHJP
G09B 25/00 20060101ALI20230914BHJP
D21J 3/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A47F8/00 Z
G09B25/00 Z
D21J3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036769
(22)【出願日】2022-03-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 会見場所 株式会社アバンティ二宮ビル1階プリスティン本店(東京都新宿区大京町31)、会見日 令和03年09月21日
(71)【出願人】
【識別番号】501386359
【氏名又は名称】株式会社アバンティ
(71)【出願人】
【識別番号】300068742
【氏名又は名称】株式会社モード工芸
(74)【代理人】
【識別番号】100179855
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 えりか
(74)【代理人】
【氏名又は名称】藁科 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】奥森 秀子
(72)【発明者】
【氏名】大里 祥生
(72)【発明者】
【氏名】中島 将
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA08
4L055AA11
4L055AC09
4L055AG53
4L055AH37
4L055EA04
4L055EA32
(57)【要約】
【課題】再生産可能なマネキン人形の製造方法が確立していない。
【解決手段】 マネキン人形の製造方法は、残糸または残布を粉砕する粉砕工程S1と、残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料を調製する混合工程S2と、マネキン人形の前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面を金網でそれぞれ被覆し、スラリー化した材料を金網の表面にそれぞれ付着する型入工程S3と、材料を硬化させ、硬化した材料を前型、後型の各金網からそれぞれ取り出して前部本体、後部本体を成型し、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合する結合工程S4と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部本体と後部本体とをそれぞれ成型、結合して身体の形状を形成する中空のマネキン人形を製造するマネキン人形の製造方法であって、
残糸または残布を粉砕する粉砕工程と、
粉砕工程で粉砕した残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料を調製する混合工程と、
マネキン人形の前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面を金網でそれぞれ被覆し、混合工程でスラリー化した材料を金網の表面にそれぞれ付着する型入工程と、
型入工程で付着した材料を硬化させ、硬化した材料を前型、後型の各金網からそれぞれ取り出して前部本体、後部本体を成型し、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合する結合工程と、
を備えるマネキン人形の製造方法。
【請求項2】
結合工程において、前部本体、後部本体を結合させた結合部分に対応する内表面上に、膠および胡粉を染み込ませたシートを貼付する請求項1記載のマネキン人形の製造方法。
【請求項3】
混合工程において、粉砕した残糸または残布と、再生パルプとの割合はそれぞれ、重量比20~70%、30~80%である請求項1または2記載のマネキン人形の製造方法。
【請求項4】
残糸または残布は、綿糸または綿布である請求項1~3のいずれか記載のマネキン人形の製造方法。
【請求項5】
前部本体と後部本体とをそれぞれ成型、結合させて身体の形状が形成される中空のマネキン人形であって、
粉砕した残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料が調製され、
前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面が金網でそれぞれ被覆され、スラリー化した材料が金網の表面にそれぞれ付着され、
付着された材料が硬化され、硬化された材料が前型、後型の各金網からそれぞれ取り出されて前部本体、後部本体が成型され、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合されたマネキン人形。
【請求項6】
前部本体、後部本体を結合させた結合部分に対応する内表面上に、膠および胡粉を染み込ませたシートが貼付された請求項5記載のマネキン人形。
【請求項7】
粉砕した残糸または残布と、再生パルプとの割合はそれぞれ、重量比20~70%、30~80%である請求項5または6記載のマネキン人形。
【請求項8】
残糸または残布は、綿糸または綿布である請求項5~7のいずれか記載のマネキン人形。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マネキン人形の製造方法およびマネキン人形に関する。
【背景技術】
【0002】
アパレル(被服)の店舗においては、被服を展示するために人間の身体の形状を模したマネキン人形が多数設置されている。
なお、本発明において「マネキン人形」は、人間の全身を模したもの、トルソー(胸像)と呼ばれる上半身のみを模したもの、下半身のみを模したもの、頭部や手など特定の身体部分を模したものを含んでいる。
【0003】
マネキン人形の製造方法として、前部本体と後部本体とをそれぞれ成型、結合してマネキン人形(マネキン本体)を製造する方法が知られている(たとえば特開2000-210167号公報)。
概略、マネキン人形(マネキン本体)の前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型にそれぞれに材料を充填、硬化させたのちに前型、後型から取り出して前部本体、後部本体をそれぞれ成型する。そして、前部本体、後部本体を対向、結合させてマネキン本体を形成し、マネキン本体に支柱、台座など取り付けてマネキン人形を完成させる。
【0004】
マネキン人形(マネキン本体)の材料として、安価、軽量、高強度であるFRP(繊維強化プラスチック)が多く使用されている。しかし、FRPを使用したマネキン人形の製造工程において有機溶剤を使用することによる人体への安全・健康上の問題や、温暖化問題など地球環境への影響も指摘されている。
【0005】
さらに、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を受け、産業界では再生可能な材料の使用、廃棄物の削減などに向けて様々な取り組みやリサイクルモデルの発案が行われるようになっている。
【0006】
そのため、たとえば再生可能な材料を使用したマネキン人形の製造方法が知られている(たとえば特開2001-128818号公報、特開2003-159166号公報)。
特開2001-128818号公報では、生分解性プラスチックにヤシ殻粉末を混合したものをマネキン人形(マネキン本体)の材料としている。また、特開2003-159166号公報では、リサイクルポリエチレンテレフタレート繊維などの熱硬化性プラスチックを混合したものをマネキン人形(マネキン本体)の材料としている。
【0007】
また、マネキン人形と密接に関連しているアパレル(被服)業界では、日常的に残糸、残布が廃棄されている。アパレルのリサイクルモデルとして、古着としての使用、販売が一般的に知られている。しかし、古着として再度販売するには古着の状態が良好である必要があり、状態が良好でない古着は結局廃棄せざるをえない。アパレル業界においても、SDGsの観点を鑑み、古着の使用、販売に代わる新たなリサイクルモデルが求められている。
【0008】
そのため、古着を使用した新たなリサイクルモデルが知られている(たとえば、特開2004-060127号公報)。
特開2004-060127号公報では、古着の糸や布をほぐして繊維化し、繊維化した材料と再生パルプとを混合させて再生紙を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-128818号公報
【特許文献2】特開2003-159166号公報
【特許文献3】特開2004-060127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2001-128818号公報では、本来廃棄されるヤシ殻からヤシ殻粉末を生成し、再生可能な材料を使用している。ヤシ殻粉末と生分解性プラスチックとを混合した材料は、溶融時の流動性が高く、かつ、収縮率が小さい。そのため、強度があり、かつ、成形後の加工性などに優れたマネキン人形が製造される。
特開2003-159166号公報では、廃ペットボトルから再生されたリサイクルポリエチレンテレフタレート繊維などの再生可能な材料を使用している。
【0011】
しかし、特開2001-128818号公報のヤシ殻粉末は、ヤシ実の繊維質を取り除いて割り、内部のパルプ質を除去し、後に残る非粘着性物質の殻を粉砕して製造されたものである。そのため、ヤシ殻粉末を容易に製造、入手することが困難である。
また、特開2003-159166号公報のマネキン人形は熱硬化性プラスチックを含んでいる。そのため、これらのマネキン人形を再生産(リサイクル)することが困難である。
【0012】
一方、特開2004-060127号公報では、アパレル(被服)の製造工程で廃棄される残糸、残布や、古着として販売できない被服などを再生紙として再利用することができる。また、特開2004-060127号公報の再生紙をスラリー状(粘土状)にして、マネキン人形の材料とすることも考えられる。
しかし、特開2004-060127号公報の再生紙をそのまま使用してマネキン人形を製造すると、マネキン人形の強度が不足するおそれがある。また、再生紙特有のざらざらした表面が残存し、マネキン人形の美観が良好ではないおそれがある。
【0013】
本発明は、使用上の強度と美観を持ちつつ、製造時に入手容易な材料を使用し、再生産可能なマネキン人形の製造方法の提供を目的としている。
また、本発明では、使用上の強度と美観を持ちつつ、製造時に入手容易な材料を使用し、再生産可能なマネキン人形の提供を別の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、アパレル(被服)の製造工程などで日常的に廃棄されている残糸、残布に着目するとともに、天然の材料のみを使用してマネキン人形を製造している。
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、前部本体と後部本体とをそれぞれ成型、結合して身体の形状を形成する中空のマネキン人形を製造するマネキン人形の製造方法であって、残糸または残布を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程で粉砕した残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料を調製する混合工程と、マネキン人形の前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面を金網でそれぞれ被覆し、混合工程でスラリー化した材料を金網の表面にそれぞれ付着する型入工程と、型入工程で付着した材料を硬化させ、硬化した材料を前型、後型の各金網からそれぞれ取り出して前部本体、後部本体を成型し、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合する結合工程と、を備えている。
【0015】
また、請求項5に係る本発明によれば、前部本体と後部本体とをそれぞれ成型、結合させて身体の形状が形成される中空のマネキン人形であって、粉砕した残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料が調製され、前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面が金網でそれぞれ被覆され、スラリー化した材料が金網の表面にそれぞれ付着され、付着された材料が硬化され、硬化された材料が前型、後型の各金網からそれぞれ取り出されて前部本体、後部本体が成型され、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、従来アパレル業界で廃棄されていた残糸、残布や、牛乳パックなどから再生される一般的な再生パルプといった入手容易な材料を使用している。また、残糸または残布と、再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料を使用してマネキン本体の前部本体、後部本体を成型、硬化させることで、従来と同様の強度や美観を備えるマネキン人形を得ることができる。
また、マネキン人形の前部本体と後部本体との結合には、天然の材料である膠および胡粉を使用し、ガラス繊維や化学物質を使用していない。そのため、通常の紙ごみとしてリサイクル(あるいは可燃性ごみとして廃棄)することが可能であり、さらにはマネキン人形(マネキン本体)を使用して、別のマネキン人形を製造(再生産)することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は本発明の一実施例に係るマネキン人形の全体斜視図、(B)はマネキン人形の前部本体の斜視図、(C)はマネキン人形の後部本体の斜視図をそれぞれ示す。
【
図2】(A)は金網の概略斜視図、(B)は後型の概略斜視図をそれぞれ示す
【
図3】本発明の一実施例に係るマネキン人形の製造方法のフロー図を示す。
【
図4】粉砕工程S1、混合工程S2の概略フロー図を示す。
【
図5】型入工程S3、結合工程S4の概略フロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前部本体と後部本体とをそれぞれ成型、結合して身体の形状を形成する中空のマネキン人形を製造するマネキン人形の製造方法であって、残糸または残布を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程で粉砕した残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料を調製する混合工程と、マネキン人形の前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面を金網でそれぞれ被覆し、混合工程でスラリー化した材料を金網の表面にそれぞれ付着する型入工程と、型入工程で付着した材料を硬化させ、硬化した材料を前型、後型の各金網からそれぞれ取り出して前部本体、後部本体を成型し、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合する結合工程と、を備えている。
【実施例0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。
図1(A)は本発明の一実施例に係るマネキン人形の全体斜視図、(B)はマネキン人形の前部本体の斜視図、(C)はマネキン人形の後部本体の斜視図をそれぞれ示す。
【0020】
(マネキン人形の製造方法により製造される)マネキン人形1は、たとえば人間の身体の形状を模したマネキン本体10、支柱12、台座14を備えて構成されている。
なお、
図1(A)などのマネキン本体10は人間の上半身を模したトルソー(胸像)とされているが、これに限定されず、人間の全身を模したもの、下半身のみを模したもの、頭部や手など特定の身体部分を模したものでもよい。
【0021】
マネキン本体10は、
図1(B)(C)のように、前部本体10Fと後部本体10Rとをそれぞれ成型、結合して身体の形状(上半身)となる中空の成形体である。符号10aは、前部本体10Fと後部本体10Rとを結合する結合部材である。結合部材10aは、身体の首に相当する位置であるマネキン本体10の上端に取り付けられ、マネキン人形1の装飾としても使用される。しかし、結合部材10aは必須ではなく、たとえば結合部材を使用しなくても前部本体10Fと後部本体10Rとが強固に結合されている場合はなくてもよい。
【0022】
支柱12は、一体化されたマネキン本体の底板10bに取り付けられ、マネキン本体10を支持している。マネキン本体10は中空であり、その底面は開口している(後述する開口10b’)。そのため、開口を覆う平面を持つ底部材10bがマネキン本体10の底面に取り付けられている。符号12bは支持部材であり、マネキン本体の底部材10bに取り付けられて支柱12を支持、固定し、マネキン本体10、支柱を一体化している。
台座14は、支柱12の下端に取り付けられ、床面(図示しない)上で支柱12を下方から支持している。
【0023】
マネキン本体の前部本体10F、後部本体10Rは、前型20F、後型20Rによりそれぞれ成型される。前型20F、後型20Rは、後述する型入工程S3でそれぞれ使用される。
図2(A)は金網の概略斜視図、(B)は後型の概略斜視図をそれぞれ示す。前型20Fも後型20Rと同様の構成であるため、
図2(B)の後型20Rのみを参照して以下説明する。なお、
図2(A)(B)にそれぞれ記載された3本の一点鎖線は、首と胴との境界線、背中の中央線(背骨に相当)、胴と腰との境界線をそれぞれ表している。また、
図2(A)(B)間の二点鎖線は、後述する金網26と後型20Rとの対応を表している。
【0024】
まず、
図2(B)を参照して後型20Rについて説明する。後型20Rは、マネキン本体の後部本体10Rに対応するように中央部の凹んだ概略凹形形状に形成されている。
図2(B)の符号22Rは、後型20Rの中央凹部である。後型20(中央凹部22R)の周囲に、後型を把持するための外周縁(把持片)20R’が設けられていてもよい。なお、後型20Rは、たとえばFRP(繊維強化プラスチック)により成型されている。
図2(B)に示すように、後型の中央凹部の内表面22R’には無数の孔24Rが形成されている。孔24Rは、後型の内表面22R’から外表面(図示しない)まで貫通する貫通孔とされている。孔24Rは無数に形成されているため、
図2(B)では孔の一部のみを示している。
【0025】
図2(A)の金網26は、後型の中央凹部22Rの表面、すなわち後型の内表面22R’を上から被覆するように、後型の内表面に沿って取り付けられている。金網26の網目(メッシュ)の大きさは、たとえば0.5mm程度とされるがこれに限定されず、後述の材料40を付着、脱水可能であればよい。微細なため、
図2(A)では金網26の網目を省略している。
金網26は、別途設けられた針金(図示しない)の両端を後型の内表面の孔24Rおよび金網の網目にそれぞれ通し、後型の外表面上で複数結着させることで後型の内表面22R’上に固定される。
【0026】
図3は、本発明の一実施例に係るマネキン人形の製造方法のフロー図を示す。
マネキン人形1の製造方法、詳細にはマネキン本体10の製造方法は、粉砕工程S1、混合工程S2、型入工程S3、結合工程S4を備えて構成されている。
【0027】
図4は、粉砕工程S1、混合工程S2の概略フロー図を示す。
粉砕工程S1では、残糸32または残布34を粉砕している。具体的に、アパレル(被服)の製造過程において日常的に廃棄されている余った糸(残糸)32、布(残布)34を回収し、カッター(図示しない)により3mm以下の大きさに細かく裁断、粉砕し、綿状の材料(以下、綿状材料という。)30を製造している。残糸32、残布34は、3mm以下の大きさに裁断、粉砕されると空気を含んで綿状(コットン状)になり、これが綿状材料30となる。なお、3mm以下との数値は例示であり、この数値に限定されない。
また、残糸32、残布34は、たとえば綿糸、綿布とされるが、これに限定されない。しかし、化学繊維からなる糸や布ではなく綿糸、綿布であれば、マネキン本体10をすべて天然の材料から成形することができる。
【0028】
混合工程S2では、粉砕工程S1で粉砕した残糸32または残布34と、別途設けられた再生パルプ40と、水42とを混合してスラリー化した材料50を調製している。具体的に、粉砕工程S1で粉砕した残糸32または残布34(綿状材料30)とは別に、再生パルプ40、水42が準備される。再生パルプ40として、たとえば特開2022-001686号公報など公知のものが用いられる。公知の再生パルプ40は、概略使用済の牛乳パック、雑誌、新聞などの古紙を材料とし、古紙に含まれる異物、インクを除去、漂白して生成される。
【0029】
綿状材料30、再生パルプ40に水42を加え、混合用の水槽44内で混合する。混合は手で行ってもよいし、スクリューなどの機械を用いてもよい。しかし、混合のための薬剤、化学物質は使用しない。
綿状材料30と再生パルプ40との割合はそれぞれ、重量比20~70%、30~80%とされる。水温は特段設定されず、通常常温の水42が用いられる。
綿状材料30、再生パルプ40、水42を混合、十分に攪拌し、水槽44から取り出して(
図4の一点鎖線)スラリー状の材料50を得る。材料50がマネキン本体10の(直接的な)材料となる。
【0030】
図5は、型入工程S3、結合工程S4の概略フロー図を示す。
型入工程S3では、マネキン人形1(マネキン本体10)の前部本体10Fを成型する前型20F、後部本体10Rを成型する後型20Rの各内表面を金網26でそれぞれ被覆し、混合工程S2でスラリー化した材料50を金網の表面にそれぞれ付着している。
【0031】
具体的に、型入工程S3ではまず、マネキン人形の前部本体10Fを成形する前型20F、後部本体10Rを成形する後型20Rの各内表面22F’、22R’に沿って金網26をそれぞれ取り付け、各内表面を金網で被覆する(
図2(A)(B)参照)。
【0032】
次に、
図2(B)、5の後型20Rを用いてまず説明すると、後型の内表面22R’を被覆する金網26の表面に、混合工程S2でスラリー化した材料50を付着させる。材料50は、後型の中央凹部22Rの全体を満たすように流し込まれるのではなく、金網26の表面に一定の厚みで付着される。
なお、材料50の付着は、手作業でも機械作業(たとえば公知の特開平08-033544号公報)でもよい。
【0033】
上記では
図2(B)の後型20Rを用いて説明したが、上記と同様の工程が前型20Fを用いて行われる。概略、前型20Fは、中央部の凹んだ概略凹形形状に形成され、前型の中央凹部22Fはマネキン人形の前部本体10Fに対応した形状に形成されている。前型の中央凹部22Fの表面(前型の内表面22F’)には複数の孔が形成され、中央凹部の表面に沿って金網26で被覆される。そして、前型の内表面の金網26の表面に、混合工程S2でスラリー化した材料50が付着される。
【0034】
型入工程S3において、材料50が前型20Fおよび後型20Rに一定の厚みで付着されたため、前部本体10F、後部本体10Rの周囲には一定の厚みによる周縁(前部周縁、後部周縁)10F’、10R’が形成される。前部周縁10F’、後部周縁10R’は、前部本体10F、後部本体10Rを互いに重ね合わせ可能な厚み、形状に形成されている。
【0035】
結合工程S4では、型入工程S3で付着した材料50を硬化させ、硬化した材料を前型20F、後型20Rの各金網26からそれぞれ取り出して前部本体10F、後部本体10Rを成型し、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合している。
【0036】
具体的に、結合工程S4ではまず、型入工程S3で前型20F、後型20Rに付着させた材料50を金網26(正確には金網の孔24R)で脱水させ、その後天日干しなどにより乾燥、硬化させる。
次に、
図5の一点鎖線の矢視のように、十分硬化した材料50を前型20F、後型20Rからそれぞれ取り出し、前部本体10F、後部本体10Rを得る。この段階で、前部本体10F、後部本体10Rの材料50の余材(バリ)をやすり(図示しない)で取り、前部本体、後部本体の表面を滑らかにしてもよい。
【0037】
そして、前部本体10F、後部本体10Rを対向させて(重ね合わせて)、前部周縁10F’、後部周縁10R’に膠および胡粉を塗布し、前部本体、後部本体を結合させる。前部本体10F、後部本体10Rの結合がずれないように固定し、一体化させて完全に硬化させることでマネキン本体10を得る。型入工程S3において材料50が前型20Fおよび後型20Rに一定の厚みで付着されたため、前部本体10F、後部本体10Rを対向させるとマネキン本体10は中空となり、また、その底面に開口10b’が形成される。
ここで、前部本体10F、後部本体10Rを結合、接着させる接着剤として化学物質を含むものではなく、天然の材料のみからなる接着剤である膠および胡粉が使用される。天然の材料のみからなる接着剤であれば膠および胡粉に限定されないが、マネキン本体10の強度を鑑みると膠および胡粉が好ましい。
【0038】
結合工程S4において、前部本体10F、後部本体10Rを結合させた結合部分に対応する内表面上に、膠および胡粉を染み込ませたシート60が貼付される。
具体的に、膠および胡粉を染み込ませたシート60が、
図5のマネキン本体10の底面の開口10b’からマネキン本体の中空内部に挿入され、前部本体10F、後部本体10Rとの結合部分に対応するマネキン本体10の内表面上に貼付される。すなわち、シート60をマネキン本体10の中空内部で前部本体10F、後部本体10Rをかけ渡すように貼付することで、前部本体、後部本体の結合をより強固にすることができる。
【0039】
シート60はたとえば和紙とされるが、これに限定されない。シート60はたとえば布でもよいが、天然の材料を用いた紙、布が好ましい。
シート60の大きさ、形状は、マネキン人形の大きさ、部位などに応じて対応して適宜変更可能であり、矩形形状に限定されない。シート60はマネキン本体10の中空の内部から貼付されて前部本体10F、後部本体10Rの結合を強固にできればよく、貼付する枚数も限定されない。
また、前部本体10F、後部本体10Rを結合、一体化した後に、マネキン本体10の周縁や表面をやすりがけし、形状を調整する。布(綿布)や色彩のある和シートを本発明のマネキン本体に被覆してもよい。
最後に、マネキン本体10に底部材10b、支柱12、台座14などを取り付けて、マネキン人形1を得る。
【0040】
上記のように本発明では、従来アパレル業界において廃棄されていた残糸、残布(綿糸、綿布)を再生可能な材料として使用しており、アパレル業界における新たなリサイクルモデルを提供することができる。
また、再生可能な材料より成型された前部本体と後部本体との結合には、天然の材料である膠および胡粉を使用している。すべて天然の材料を用いることで、マネキン人形を通常の紙ごみとしてリサイクル(あるいは可燃性ごみとして廃棄)することができる。最終的にすべて自然に還元され、廃棄物の削減を実現することができる。
【0041】
マネキン人形の材料にガラス繊維を使用していないため、作業者に対する安全、健康上の問題はFRPを使用した場合と比較してほとんど発生しない。そして、マネキン人形(正確にはマネキン本体)の材料を水中で再度ほぐし、乾燥、硬化させてマネキン人形そのものを再生産することができる。
【0042】
前型、後型の各内表面にそれぞれ金網を被覆させることにより、前型、後型に付着させた材料をより脱水させることができる。
そして、膠および胡粉を染み込ませたシートを、前部本体、後部本体を結合させた結合部分に対応するマネキン本体の内表面上に貼付することにより、前部本体、後部本体の結合をより強固にすることができる。また、シートはマネキン本体の内部に貼付されるため、外観上の美観が損なわれない。
【0043】
混合工程において、粉砕した残糸または残布と、再生パルプとの割合をそれぞれ重量比20~70%、30~80%とすれば、従来と同様の強度や美観を備えるマネキン人形を得ることができる。
【0044】
そして、粉砕した残糸または残布と、別途設けられた再生パルプと、水とを混合してスラリー化した材料が調製され、前部本体を成型する前型、後部本体を成型する後型の各内表面が金網でそれぞれ被覆され、スラリー化した材料が金網の表面にそれぞれ付着され、付着された材料が硬化され、硬化された材料が前型、後型の各金網からそれぞれ取り出されて前部本体、後部本体が成型され、前部本体、後部本体を対向させ、膠および胡粉で結合されたマネキン人形であれば、上記マネキン人形の製造方法と同様の効果を得ることができる。
【0045】
上述した実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何等限定するものでなく、本発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全て本発明に包含されることはいうまでもない。