(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131816
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】制御装置及び体腔液処理システム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036782
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 翔太
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA20
4C077BB02
4C077EE04
4C077EE10
4C077HH10
4C077HH13
4C077JJ08
4C077JJ16
4C077KK12
4C077KK27
4C077LL05
4C077NN14
4C077NN15
(57)【要約】
【課題】腹水の蛋白質濃度を算出できる腹水処理システムを提供する。
【解決手段】腹水処理システム1は、腹水を濃縮する濃縮器12と、濃縮器12に腹水を送液する第1の送液ライン16と、濃縮器12で濃縮された腹水を排出する第2の送液ライン17と、第1の送液ライン16のライン内圧力を測定する圧力測定装置20と、濃縮器12で除去された排液を排出する排液ライン18と、制御装置21とを備える。制御装置21は、圧力測定装置20で測定されたライン内圧力に基づいて、腹水中の蛋白質濃度を算出する算出部61を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔液を濃縮する濃縮器と、
前記濃縮器に体腔液を送液する第1の送液ラインと、
前記濃縮器で濃縮された体腔液を排出する第2の送液ラインと、
前記濃縮器で除去された排液を排出する排液ラインと、
前記第1の送液ライン、前記第2の送液ライン、及び前記排液ラインのうちの少なくとも1つのライン内圧力を測定する圧力測定装置と、を少なくとも備える体腔液処理システムを制御する制御装置であって、
前記圧力測定装置で測定されたライン内圧力に基づいて、前記体腔液の物性又は前記体腔液中の物質濃度の少なくともいずれかのパラメータを算出する算出部を備える、制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記ライン内圧力と前記パラメータの関係を示す関係式と、前記圧力測定装置で測定されたライン内圧力に基づいて前記パラメータを算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記算出部で算出されたパラメータに基づいて、前記第1の送液ライン、前記第2の送液ライン、及び前記排液ラインのうちの少なくともいずれかの体腔液の流量を制御する流量制御部をさらに備える、請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記流量制御部は、前記パラメータに基づいて、前記濃縮器における体腔液の濃縮率を調整するように構成されている、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記算出部により算出されたパラメータを表示するパラメータ表示部をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記算出部で算出されたパラメータに基づいて、体腔液処理の設定項目の推奨設定を算出する推奨設定算出部をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記推奨設定算出部により算出された前記推奨設定を表示する推奨設定表示部をさらに備える、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記推奨設定算出部により算出された推奨設定に前記設定項目を設定する設定部をさらに備える、請求項6又は7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記体腔液の物性は、粘度であり、
前記体腔液中の物質濃度は、蛋白質濃度である、請求項1~8のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の制御装置を備えた、体腔液処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び体腔液処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
体腔液の1つである腹水における治療法として、患者から腹水を取り出し、当該腹水から細菌やがん細胞などの病因物質を除去し、アルブミンなどの有用成分を残した状態で濃縮し、当該濃縮腹水を体内に戻す腹水ろ過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)がある。
【0003】
かかる治療法には、一般的に腹水処理システムが用いられている。この腹水処理システムには、腹水バッグと、濾過器と、濃縮器と、濃縮腹水バッグをこの順番で接続され、ポンプ或いは落差により腹水を流して腹水を濾過、濃縮するものが用いられている。濾過器と濃縮器には、中空糸膜などの分離膜が用いられている。
【0004】
上述のような腹水処理システムにおいて濾過器や濃縮器の膜に腹水を通過させていると、膜を通過できない物質が膜の表面や内部に堆積して、腹水が膜を通過しづらくなることがある。この状態を、膜が目詰まりしていると表現する。膜が目詰まりしている状態で腹水通過させようとすると、濾過器や濃縮器の内部の圧力が高まり、膜の破損や接続部からの腹水の漏れ等が発生する可能性がある。そのため、例えば特許文献1に示すように、濾過器にかかる圧力を監視し、圧力が上昇した場合に濾過器を洗浄する機能を備えた装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、既存の腹水処理システムにおいては、処理されている腹水の粘度や腹水中の物質濃度が認識されていないため、腹水の粘度等に関わらず例えば同一の流量(流速)で腹水が処理されることがある。このような場合、処理されている腹水の粘度等に対し腹水の流量が過多であると、濃縮器にかかる圧力がすぐに上昇して膜が目詰まりしていると判断され得る。また逆に腹水の粘度等に対して腹水の流量が過少であると、濃縮処理に時間がかかりすぎたり、腹水の濃縮が十分に行われず濃縮腹水が所望の濃度にならないことがある。
【0007】
また、処理前に腹水処理システムとは別の計測機器を使用して腹水中の物質濃度を計測し、処理に必要となる流量などの設定を決める場合がある。その場合において、途中で流量を変えると、出来上がりの濃縮腹水の濃度は再計測が必要になる。このような濃度計測を実施する場合は多くの手間がかかるため、前述したように濃度を認識せずに処理する場合が多い。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、腹水などの体腔液の物性又は体腔液中の物質濃度のいずれかを把握できる制御装置及び体腔液処理システムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、体腔液処理システムの制御装置に、送液ラインの内圧力に基づいて、体腔液の物性又は体腔液中の物質濃度の少なくともいずれかのパラメータを算出する機能を持たせることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)体腔液を濃縮する濃縮器と、前記濃縮器に体腔液を送液する第1の送液ラインと、前記濃縮器で濃縮された体腔液を排出する第2の送液ラインと、前記濃縮器で除去された排液を排出する排液ラインと、前記第1の送液ライン、前記第2の送液ライン、及び前記排液ラインのうちの少なくとも1つのライン内圧力を測定する圧力測定装置と、を少なくとも備える体腔液処理システムを制御する制御装置であって、前記圧力測定装置で測定されたライン内圧力に基づいて、前記体腔液の物性又は前記体腔液中の物質濃度の少なくともいずれかのパラメータを算出する算出部を備える、制御装置。
(2)前記算出部は、前記ライン内圧力と前記パラメータの関係を示す関係式と、前記圧力測定装置で測定されたライン内圧力に基づいて前記パラメータを算出する、(1)に記載の制御装置。
(3)前記算出部で算出されたパラメータに基づいて、前記第1の送液ライン、前記第2の送液ライン、及び前記排液ラインのうちの少なくともいずれかの体腔液の流量を制御する流量制御部をさらに備える、(1)又は(2)に記載の制御装置。
(4)前記流量制御部は、前記パラメータに基づいて、前記濃縮器における体腔液の濃縮率を変更するように構成されている、(3)に記載の制御装置。
(5)前記算出部により算出されたパラメータを表示するパラメータ表示部をさらに備える、(1)~(4)のいずれか一項に記載の制御装置。
(6)前記算出部で算出されたパラメータに基づいて、体腔液処理の設定項目の推奨設定を算出する推奨設定算出部をさらに備える、(1)~(5)のいずれか一項に記載の制御装置。
(7)前記推奨設定算出部により算出された前記推奨設定を表示する推奨設定表示部をさらに備える、(6)に記載の制御装置。
(8)前記推奨設定算出部により算出された推奨設定に前記設定項目を設定する設定部をさらに備える、(6)又は(7)に記載の制御装置。
(9)前記体腔液の物性は、粘度であり、
前記体腔液中の物質濃度は、蛋白質濃度である、(1)~(8)のいずれか一項に記載の制御装置。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載の制御装置を備えた、体腔液処理システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、体腔液の物性又は体腔液中の物質濃度の少なくともいずれかを算出できる制御装置及び体腔液処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】腹水処理システムの構成の概略を示す説明図である。
【
図3】ライン内圧力と腹水中の蛋白質濃度との関係式を示すグラフである。
【
図4】腹水中の蛋白質濃度と適正な濃縮腹水流量との対応関係を示す図である。
【
図5】制御装置の他の構成を示すブロック図である。
【
図6】パラメータ表示部のディスプレイの一例を示す図である。
【
図7】制御装置の他の構成を示すブロック図である。
【
図8】推奨設定表示部のディスプレイの一例を示す図である。
【
図9】制御装置の他の構成を示すブロック図である。
【
図10】腹水処理システムの他の構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態の一例について説明する。なお、本明細書における上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る体腔液処理システムとしての腹水処理システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0015】
腹水処理システム1は、体腔液収容部としての腹水バッグ10と、濾過器11と、濃縮器12と、濃縮体腔液収容部としての濃縮腹水バッグ13と、送液ライン15と、第1の送液ライン16と、第2の送液ライン17と、排液ライン18と、送液手段19と、圧力測定装置20と、制御装置21等を備えている。
【0016】
腹水バッグ10は、例えば軟質性のバッグであり、患者から採取された腹水を収容することができる。
【0017】
濾過器11は、例えば円筒形状の筐体を有している。濾過器11は、長手方向(上下方向)の両端部に通液口11a、11bを有し、側面に2つの通液口11c、11dを有している。
【0018】
濾過器11は、例えば細菌やがん細胞などの所定の病因物質を除去し、アルブミンなどの所定の有用成分を通過させる中空糸膜などの濾過膜30を備えている。濾過膜30の内側領域(中空糸膜の内部領域)は通液口11a、11bに通じ、濾過膜30の外側領域(中空糸膜の外部領域)は通液口11c、11dに通じている。なお、本実施の形態において通液口11b、11cは閉鎖されている。
【0019】
濃縮器12は、例えば円筒形状の筐体を有している。濃縮器12は、長手方向(上下方向)の両端部に通液口12a、12bを有し、側面に2つの通液口12c、12dを有している。
【0020】
濃縮器12は、例えば腹水から水分を除去して濃縮する中空糸膜などの濃縮膜40を備えている。濃縮膜40の内側領域は通液口12a、12bに通じ、濃縮膜40の外側領域は、通液口12c、12dに通じている。なお、本実施の形態において通液口12dは閉鎖されている。
【0021】
濃縮腹水バッグ13は、例えば軟質性のバッグであり、濃縮器12で濃縮された濃縮腹水を収容することができる。濃縮腹水バッグ13は、腹水バッグ10よりも低い位置に設置されている。
【0022】
送液ライン15は、腹水バッグ10と濾過器11に接続されている。送液ライン15の上流側の端部は、腹水バッグ10に接続され、送液ライン15の下流側の端部は、濾過器11の通液口11aに接続されている。なお、本明細書において、「上流側」とは、腹水が、濾過器11、濃縮器12をこの順で流れる時の上流側をいう。
【0023】
第1の送液ライン16は、濾過器11と濃縮器12に接続されている。第1の送液ライン16の上流側の端部は、濾過器11の通液口11dに接続され、第1の送液ライン16の下流側の端部は、濃縮器12の通液口12bに接続されている。
【0024】
第2の送液ライン17は、濃縮器12と濃縮腹水バッグ13に接続されている。第2の送液ライン17の上流側の端部は、濃縮器12の通液口12aに接続され、第2の送液ライン17の下流側の端部は、濃縮腹水バッグ13に接続されている。
【0025】
排液ライン18は、濃縮器12から外部の排液部に接続されている。排液ライン18の上流側の端部は、濃縮器12の通液口12cに接続されている。なお、ライン15~18には、例えば軟質性のチューブが用いられている。
【0026】
送液手段19は、腹水バッグ10の腹水を送液ライン15、濾過器11、第1の送液ライン16、濃縮器12及び第2の送液ライン17をこの順に通じて濃縮腹水バッグ13に送液する機能を有している。例えば送液手段19は、第1の送液ライン16に設けられた第1のポンプ50と、第2の送液ライン17に設けられた第2のポンプ51を有している。
【0027】
第1のポンプ50は、例えばチューブポンプであり、第1の送液ライン16のチューブを扱いて腹水を圧送することができる。また第1のポンプ50は、停止時に第1の送液ライン16を閉鎖可能である。
【0028】
第2のポンプ51は、例えばチューブポンプであり、第2の送液ライン17のチューブを扱いて腹水を圧送することができる。また第2のポンプ51は、停止時に第2の送液ライン17を閉鎖可能である。
【0029】
圧力測定装置20は、第1の送液ライン16のライン内圧力を測定する機能を有している。例えば圧力測定装置20は、例えば第1の送液ライン16に接続されたドリップチャンバー55に連通する圧力センサを備えている。
【0030】
制御装置21は、例えばCPU、メモリ等を有するコンピュータである。制御装置21は、第1のポンプ50、第2のポンプ51等の各装置の動作を制御して腹水処理を実行することができる。制御装置21は、例えばメモリに記憶されたプログラムをCPUで実行することにより腹水処理を実現することができる。
【0031】
また制御装置21は、
図2に示すように記憶部60と、算出部61と、流量制御部62を備えている。
【0032】
記憶部60は、
図3に示すようなパラメータである腹水中の物質濃度としての蛋白質濃度Nと第1の送液ライン16のライン内圧力Pとの関係を規定する関係式R1と、
図4に示すような蛋白質濃度Nと、第2の送液ライン17における適正濃縮腹水流量との対応関係を示す関係データR2を記憶している。関係データR2には、適正濃縮腹水流量の範囲に対応する蛋白質濃度の上限閾値Ntと下限閾値Nuが含まれている。
【0033】
算出部61は、関係式R1と、圧力測定装置20で測定されたライン内圧力p1に基づいて、腹水中の蛋白質濃度n1を算出する。濃度が算出される腹水の蛋白質は、例えばアルブミンやグロブリンである。
【0034】
流量制御部62は、算出部61で算出された蛋白質濃度n1と関係データR2に基づいて、濃縮腹水の流量(濃縮腹水流量)を制御する。濃縮腹水は、濃縮器12で濃縮され第2の送液ライン17を通じて排出される腹水である。本実施の形態においては、濃縮腹水流量は、第2のポンプ51の流量に相当するので、流量制御部62は、第2のポンプ51の流量を調整して濃縮腹水流量を制御する。
【0035】
図1の制御装置21は、物理的な構成として、例えばCPU(Central Processing Unit)及びメモリを含む制御ユニット、操作部、ディスプレイ、スピーカ、記憶ユニット、通信ユニット等を備えて構成される。CPUがメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより、記憶部60、算出部61、流量制御部62等の各機能が発現する。
【0036】
次に、本実施の形態における制御装置21で行われる濃縮腹水の流量制御を、腹水処理システム1で行われる腹水処理のプロセスとともに説明する。
【0037】
制御装置21の記憶部60には、予め関係式R1と関係データR2が記憶されている。関係式R1と関係データR2は、例えば制御装置21の入力部にユーザにより入力されたり、制御装置21の外部から通信ネットワークを通じて入力されて、記憶部60に記憶されている。
【0038】
腹水処理時には、先ず
図1に示すように患者から採取した腹水が収容された腹水バッグ10が送液ライン15に接続される。そして、第1のポンプ50及び第2のポンプ51が作動して、腹水の濾過・濃縮処理が開始される。
【0039】
このとき腹水バッグ10の腹水は、送液ライン15を通じて濾過器11に送られる。腹水は、濾過器11の通液口11aから濾過膜30の内側領域に流入し、濾過膜30を通過して、濾過膜30の外側領域に流出する。このとき、腹水から所定の病因物質が除去される。
【0040】
濾過膜30の外側領域に流出した腹水は、濾過器11の通液口11dから第1の送液ライン16に流出し、第1の送液ライン16を通って濃縮器12に送られる。腹水は、濃縮器12の通液口12bから濃縮膜40の内側領域に流入し、通液口12aから排出される。このとき、腹水の一部の主に水分が、濃縮膜40を通過して濃縮膜40の外側領域に流出する。これにより腹水から主に水分が除去されて腹水が濃縮される。濃縮器12で濃縮された腹水は、第2の送液ライン17を通って濃縮腹水バッグ13に収容される。
【0041】
一方、濃縮器12で除去された排液は、排液ライン18を通って外部に排出される。上記濾過・腹水処理は、例えば腹水バッグ10のすべての腹水が処理されるまで行われ、腹水バッグ10の腹水がすべて処理されると、第1のポンプ50及び第2のポンプ51が停止し、一連の腹水処理が終了する。
【0042】
ここで、濾過器11を通過した腹水が濃縮器12に流入する流量を「腹水流入流量」とし、濃縮器12から濃縮腹水バッグ13に流れる濃縮腹水の流量を「濃縮腹水流量」とし、濃縮器12から排液ライン18へ排出される排液の流量を「排液流量」とすると、次式が成立する。
腹水流入流量(mL/min)=濃縮腹水流量(mL/min)+排液流量(mL/min)
【0043】
濃縮された腹水は最終的に患者に再静注されるため、その量は少ない方が望ましい。そこで濃縮腹水流量を少なくしたいが、濃縮腹水流量が少なくなると上記式により排液流量が多くなる。この場合、濃縮器12における除水量が増え、このような除水を続けていると濃縮器12の内部の濃縮膜40が目詰まりを起こしやすくなる。そこで、次のとおり濃縮腹水流量を適切な流量に設定する。
【0044】
例えば腹水の濾過・濃縮処理中、圧力測定装置20により第1の送液ライン16のライン内圧力p1が測定される。ライン内圧力p1の測定結果は、制御装置21に出力される。制御装置21では算出部61により、圧力測定装置20で測定されたライン内圧力p1が
図3に示すような関係式R1に代入され、腹水中のタンパク質濃度n1が算出される。このとき関係式R1に代入される圧力値p1は、ある瞬間の圧力値であってもよいし、一定時間の圧力値の平均値であってもよい。
【0045】
次に、流量制御部62により、腹水中の蛋白質濃度n1に基づいて濃縮腹水流量が制御される。例えば腹水中の蛋白質濃度n1と、
図4に示すような関係データR2に基づいて、第2のポンプ51の流量が調整される。例えば腹水中の蛋白質濃度n1が、上限閾値(
図4では20g/dL)より高い場合には、第2のポンプ51の流量を減らし、下限閾値(
図4では10g/dL)よりも低い場合には、第2のポンプ51の流量を増やす。また、腹水中の蛋白質濃度n1が、上限閾値以下で下限閾値以上の場合には、第2のポンプ51の流量を維持する。なお、この例では、第1のポンプ50の流量を維持した状態で、第2のポンプ51の流量を調整していたが、第1のポンプ50を調整してもよく、また第1のポンプ50と第2のポンプ51の両方を調整してもよい。
【0046】
なお、上限閾値と下限閾値は必ずしもユーザが決めるのではなく、例えば、制御装置21が、ユーザが設定した所望する蛋白質濃度に基づき、一定の幅を取って上限閾値と下限閾値を自動で決めてもよい。この場合ユーザが所望する蛋白質濃度に近い濃縮腹水が得られる。場合によっては、上限閾値と下限閾値は同じ値でも良い。
【0047】
上記流量制御部62による濃縮腹水流量の制御は、濾過・濃縮処理中の一部の期間に行うようにしてもよい。例えば処理開始時のように各ライン15~18や濾過器11、濃縮器12が生食で満たされている場合には、腹水の蛋白質濃度が正確に算出されないため、流量制御部62による濃縮腹水流量の制御を実施しない方がよい。また、異常による警報時やユーザが自動制御を不要と判断した場合に、濃縮腹水流量の制御を停止できるようにしてもよい。
【0048】
本実施の形態によれば、制御装置21が、圧力測定装置20で測定されたライン内圧力に基づいて、腹水中の蛋白質濃度を算出する算出部61を有するので、処理される腹水の蛋白質濃度に応じた腹水処理を実現することができる。この結果、例えば適正な流量で腹水処理を行うことができるので、腹水処理時間を短縮できたり、腹水処理量を増加することができる。また腹水を所望の濃度に濃縮することができる。
【0049】
算出部61は、ライン内圧力Pと腹水の蛋白質濃度Nとの関係を示す関係式R1と、圧力測定装置20で測定されたライン内圧力p1に基づいて腹水の蛋白質濃度n1を算出する。これにより、腹水の蛋白質濃度の算出を好適に行うことができる。
【0050】
制御装置21は、算出部61で算出された腹水中の蛋白質濃度に基づいて、濃縮器12で濃縮された濃縮腹水の流量を制御する流量制御部62を備えている。これにより、例えば腹水中の蛋白質濃度に基づく濃縮腹水流量の制御を自動で行うことができ、ユーザが設定を細かく変更する手間をなくすことができる。
【0051】
流量制御部62は、腹水中の蛋白質濃度が所定の上限閾値を超えた場合に腹水の流量を下げ、腹水中の蛋白質濃度が所定の下限閾値より低い場合に腹水の流量を上げるように構成されている。このため、適切な濃縮腹水流量を簡単な制御で実現することができる。
【0052】
制御装置21は、
図5に示すように算出部61により算出されたパラメータである腹水中の蛋白質濃度を表示するパラメータ表示部80をさらに備えていてもよい。パラメータ表示部80は、
図6に示すようにディスプレイ(表示画面)81を有し、例えば腹水中の蛋白質濃度を数値で表示する。かかる場合、腹水中の蛋白質濃度がユーザに情報提供され、ユーザはこれらの情報を参考にして例えば腹水処理の各種設定を行うことができる。なお、この時、処理中のある瞬間における腹水中の蛋白質濃度を数値で表示するだけでなく、瞬間の蛋白質濃度の値を積算していくことで濃縮腹水中の蛋白質の総量を表示したり、蛋白質濃度の時間平均を計算することで濃縮腹水の平均濃度を表示することもできる。
【0053】
制御装置21は、
図7に示すように算出部61で算出されたパラメータである腹水中の蛋白質濃度に基づいて、腹水処理の設定項目の推奨設定を算出する推奨設定算出部90と、推奨設定算出部90により算出された推奨設定を表示する推奨設定表示部91をさらに備えていてもよい。
【0054】
推奨設定算出部90は、腹水処理の設定項目である例えば第1のポンプ50及び第2のポンプ51の流量、腹水の濃縮率、濃縮腹水量などの推奨設定を算出する。例えば上述したように算出部61で算出された腹水の蛋白質濃度と適正濃縮腹水流量との対応関係や関係式を用いて、第2のポンプ51の流量(濃縮腹水流量)を推奨設定として算出してもよい。
【0055】
推奨設定表示部91は、
図8に示すようにディスプレイ(表示画面)100を備え、ディスプレイ100に、算出された各種設定項目の推奨設定を表示する。かかる場合、推奨設定値を数値で表示してもよいし、例えば「推奨設定が○○である」ことを文字で表示してもよい。この場合、ユーザが推奨設定に基づいて設定項目の設定を適切かつ簡単に行うことができる。
【0056】
制御装置21は、
図9に示すように推奨設定算出部90と、推奨設定算出部90により算出された推奨設定に設定項目を設定する設定部92を備えていてもよい。
【0057】
設定部92は、推奨設定算出部90で算出された例えば第1のポンプ50及び第2のポンプ51の流量、腹水の濃縮率、濃縮腹水量の推奨設定に腹水処理の各種設定項目を変更する。この場合、自動で設定項目が推奨設定に設定されるので、ユーザの負担を低減することができる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
腹水処理システム1の構成は、上記実施の形態のものに限られない。例えば腹水処理システム1は、腹水の濾過・濃縮処理が可能であれば、ライン15~18、濾過器11、濃縮器12同士の接続の仕方、ポンプ50、51の配置などは別の構成であってもよい。例えば第2のポンプ51は排液ライン18に設けられていてもよい。かかる場合、流量制御部62は、第1の送液ライン16の第1のポンプ50又は排液ライン18の第2のポンプ51の少なくともいずれかの流量を調整することで濃縮腹水流量を制御してもよい。また、第1の送液ライン16、第2の送液ライン17、排液ライン18のそれぞれにポンプを設けて、それらのいずれかのポンプの流量を調整することで、濃縮腹水流量を制御してもよい。
【0060】
以上の実施の形態では、流量制御部62は、算出部61で算出された蛋白質濃度に基づいて、第2の送液ライン17の流量を制御していたが、第1の送液ライン16、第2の送液ライン17、及び排液ライン18のうちの少なくともいずれかの体腔液の流量を制御してもよい。
【0061】
例えば、流量制御部62は、算出部61で算出された蛋白質濃度に基づいて、濃縮器12における体腔液の濃縮率を調整するようにしてもよい。濃縮率とは、濃縮する割合であり、(濃縮腹水流量)/(腹水流入流量)×100(%)で示される。具体的には、流量制御部62は、算出部61で算出された腹水中の蛋白質濃度が所定の上限閾値を超えた場合には、蛋白質濃度が下がるように、第1の送液ライン16における濃縮器12に流入する体腔液の流量、第2の送液ライン17における濃縮器12から流出する体腔液の流量、排液ライン18における濃縮器12から除去される排液の流量のうちの少なくともいずれかを調整する。また、流量制御部62は、算出部61で算出された腹水中の蛋白質濃度が所定の下限閾値より低い場合に、蛋白質濃度が上がるように、第1の送液ライン16における濃縮器12に流入する体腔液の流量、第2の送液ライン17における濃縮器12から流出する体腔液の流量、排液ライン18における濃縮器12から除去される排液の流量のうちの少なくともいずれかを調整する。
【0062】
圧力測定装置20は、第1の送液ライン16のライン内圧力を測定するものであったが、
図10に示すように、第2の送液ライン17のライン内圧力を測定するものであってもよいし、第1の送液ライン16と第2の送液ライン17の両方のライン内圧力を測定するものであってもよい。第1の送液ライン16と第2の送液ライン17の両方のライン内圧力を測定する場合には、測定された2つの圧力値の差分を、腹水中の蛋白質濃度を算出するためのライン内圧力p1として用いてもよい。圧力測定装置20は、さらに排液ライン18のライン内圧力を測定するものであってもよい。圧力測定装置20は、第1の送液ライン16のライン内圧力、第2の送液ライン17のライン内圧力、排液ライン18のライン内圧力のうちの少なくとも一つを測定するものであってもよい。
【0063】
パラメータである腹水中の蛋白質濃度を算出するための関係式R1や、適正濃縮腹水流量を算出するための関係データR2は、逐次更新されてもよい。かかる場合、腹水処理システム1で行われた濾過・濃縮処理の結果を関係式R1や関係データR2に反映させてもよいし、腹水処理システム1の外部から通信ネットワークを介して入手したデータから関係式R1や関係データR2を更新するようにしてもよい。
【0064】
パラメータである腹水中の蛋白質濃度と適正濃縮腹水流量との対応関係は、関係データR2である必要はなく関係式などであってもよい。
【0065】
例えば以上の実施の形態において、腹水処理システム1は、腹水バッグ10の腹水を濾過、濃縮して濃縮腹水バッグ13に収容するものであったが、患者の腹水を直接送液ライン15に取り出し、濾過、濃縮するものであってもよい。この場合、送液ライン15の先端に穿刺針が接続されてもよい。また、腹水処理システム1は、濾過、濃縮した濃縮腹水を濃縮腹水バッグ13に収容するものであったが、濃縮腹水を第2の送液ライン17を通じて直接患者に戻すものであってもよい。この場合、第2の送液ライン17の先端に穿刺針が接続されてもよい。
【0066】
さらに腹水処理システム1は、濾過器11を備えてないものであってもよい。かかる場合、腹水処理システム1は、既に濾過された腹水を濃縮器12で濃縮するものであってもよい。
【0067】
制御装置21は、腹水処理システム1の一部であってもよいし、別のものであってもよい。例えば制御装置21は、腹水処理システム1と離れた場所にあり、腹水処理システム1と通信ネットワーク等により接続されたものであってもよい。
【0068】
以上の実施の形態において、算出部61で算出されるパラメータが腹水中の蛋白質濃度であったが、腹水中の他の物質濃度であってもよい。またパラメータは、腹水の物性又は腹水中の物質濃度の少なくともいずれかであればよく、腹水の物性、例えば腹水の粘度や比重であってもよい。算出部61は、腹水の物性及び腹水中の物質濃度の両方のパラメータを算出してもよい。
【0069】
また、腹水処理システム1は、ポンプの代わりに落差を用いて腹水の送液を行うものであってもよい。かかる場合、腹水処理システム1は、腹水バッグ10や濃縮腹水バッグ13の高さを適宜変更できるように構成されていてもよい。
【0070】
以上の実施の形態は、本発明を、腹水を処理する腹水処理システム1に適用した例であったが、本発明は、胸水などの他の体腔液を処理する体腔液処理システムにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、体腔液の物性又は体腔液中の物質濃度の少なくともいずれかを算出できる制御装置及び体腔液処理システムを提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 腹水処理システム
10 腹水バッグ
11 濾過器
12 濃縮器
13 濃縮腹水バッグ
15 送液ライン
16 第1の送液ライン
17 第2の送液ライン
18 排液ライン
19 送液手段
20 圧力測定装置
21 制御装置
61 算出部