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特開2023-131818耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131818
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230914BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20230914BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230914BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L27/18
C08L23/08
C08L69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036785
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】小林 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】井関 秀太
(72)【発明者】
【氏名】小林 優太
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 有希
(72)【発明者】
【氏名】黒田 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 創貴
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB072
4J002BD153
4J002CF071
4J002CG004
4J002FD030
4J002FD160
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐衝撃性、および耐薬品性に優れた耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【解決手段】固有粘度が1.10dl/g以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン(B)0.01~3質量部、及びα-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)4~20質量部を含有することを特徴とする耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が1.10dl/g以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン(B)0.01~3質量部、及びα-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)4~20質量部を含有することを特徴とする耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂を含有しないか、含有する場合でもその含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部未満である請求項1に記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレン(B)が、有機系重合体で被覆されていないポリテトラフルオロエチレンである請求項1または2に記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
ISO179に従って測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である請求項1~3のいずれかに記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関し、詳しくは、耐衝撃性、および耐薬品性に優れた耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた耐熱性、成形性、耐薬品性及び電気絶縁性等エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に好適に使用されている。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、比較的物性のバランスのとれた樹脂であるが、ポリアミド樹脂やポリカーボネート樹脂に比べると、耐衝撃性に劣っている。耐衝撃性を改良するためには、通常、耐衝撃改良剤を配合する。しかし、耐衝撃改良剤を配合すると引張強度や曲げ強度が低下するのでその配合量は自ずと限られる。
【0004】
本出願人は、ポリブチレンテレフタレート樹脂50~80質量部にポリカーボネート樹脂20~50質量部を配合し、さらにフルオロポリマー-エラストマー複合化物を含有する樹脂組成物を提案(特許文献1)した。しかしながら、この樹脂組成物はポリカーボネート樹脂を多く含むため、耐薬品性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/067309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題(目的)は、上記問題点を解決し、耐衝撃性と耐薬品性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねてきた結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、ポリテトラフルオロエチレンを配合した上で、さらに特定の共重合体を配合した樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関する。
【0008】
1.固有粘度が1.10dl/g以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン(B)0.01~3質量部、及びα-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)4~20質量部を含有することを特徴とする耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
2.ポリカーボネート樹脂を含有しないか、含有する場合でもその含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部未満である上記1に記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
3.ポリテトラフルオロエチレン(B)が、有機系重合体で被覆されていないポリテトラフルオロエチレンである上記1または2に記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
4.ISO179に従って測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上である上記1~3のいずれかに記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。5.上記1~4のいずれかに記載の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、高粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に、ポリテトラフルオロエチレン(B)及びα-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)をそれぞれ特定の量で配合することにより、ポリテトラフルオロエチレンはフィブリル化し、共重合体(C)の周りに纏わりつき、共重合体(C)の柔らかい成分とフィブリル化したポリテトラフルオロエチレン(B)による補強効果によって高衝撃化が達成できていると考えられ、優れた耐衝撃性及び耐薬品性を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本発明の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、固有粘度が1.10dl/g以上のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン(B)0.01~3質量部、及びα-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)4~20質量部を含有することを特徴とする。
【0012】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
本発明の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を含有する。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含む。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよく、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
【0014】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいてもよく、他のジオール単位の具体例としては、炭素原子数2~20の脂肪族又は脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、上記した通り、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましいが、また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上及び/又はジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよく、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。
なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、特に好ましくは5~20モル%である。このような共重合割合とすることにより、流動性、靱性、耐トラッキング性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0016】
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)として高粘度のものを使用し、その固有粘度が1.1dl/g以上であるものを使用する。1.1dl/gより低いものを用いると、樹脂を押出や射出成形する際に発生するせん断応力が小さくなり、樹脂中でポリテトラフルオロエチレンがフィブリル化しにくい傾向のため、補強効果が弱くなり衝撃強度が低くなりやすい。固有粘度は、好ましくは1.15dl/g以上、より好ましくは1.18dl/g以上であり、さらに好ましくは1.22dl/g以上である。また、好ましくは2.00dl/g以下であり、中でも1.80dl/g以下、1.60dl/g以下、特に1.40dl/g以下が好ましい。2dl/gより高いものでは、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
【0017】
固有粘度が1.1dl/g以上のポリブチレンテレフタレート樹脂は、固有粘度が1.1dl/g以上のものを単独または混合して使用してもよいが、固有粘度が1.1dl/g未満のものを、固有粘度が1.1dl/g以上のものと組み合わせて固有粘度を1.1dl/g以上とすることも好ましい。
【0018】
なお、固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。60eq/tonを超えると、耐アルカリ性及び耐加水分解性が低下し、また樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
【0020】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分又はこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式又は連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下又は減圧下固相重合させることにより、重合度(又は分子量)を所望の値まで高めることもできる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0022】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0023】
[ポリテトラフルオロエチレン(B)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレン(B)を含有する。ポリテトラフルオロエチレン(B)としては、フィブリル形成能を有するものが好ましい。
ポリテトラフルオロエチレン(B)を、α―オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)と組み合わせて含有することにより、フィブリル化したポリテトラフルオロエチレンは共重合体(C)の周囲に纏わりつき、共重合体(C)の柔らかい成分とフィブリル化したポリテトラフルオロエチレン(B)による補強効果によって高衝撃化が達成できる。
【0024】
ポリテトラフルオロエチレン(B)は、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン及びパーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィン、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレート等を用いることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリテトラフルオロエチレン(B)中の全テトラフルオロエチレンに対して、好ましくは10質量%以下である。
【0025】
なお、ポリテトラフルオロエチレンには懸濁重合と乳化重合の2種の製法があり、懸濁重合品と乳化重合品では、懸濁重合品の方が、押出時にポリテトラフルオロエチレンが凝集しにくく、凝集による耐衝撃性の低下を起こしにくい点で懸濁重合品が好ましい。
【0026】
また、ポリテトラフルオロエチレン(B)として、有機系重合体で被覆されたポリテトラフルオロエチレンを使用することもできる。有機系重合体被覆ポリテトラフルオロエチレン(あるいはポリテトラフルオロエチレン-有機系重合体複合物ともいう。)は、公知の種々の方法により製造でき、例えば(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(ii)ポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、(iii)ポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
ポリテトラフルオロエチレンを被覆する有機系重合体としては、スチレン、(メタ)アルキルアクリレート、アクリロニトリル等の一種または2種以上の単量体からなる重合体、エラストマー等が挙げられる。
【0027】
しかし、ポリテトラフルオロエチレン(B)は、有機系重合体で被覆されていないポリテトラフルオロエチレンの方が、耐衝撃性の改良効果が大きいことから、好ましい。
【0028】
ポリテトラフルオロエチレン(B)はD50粒径が0.01~50μmの範囲にあることが、ポリテトラフルオロエチレン(B)の分散性が高まるため、ポリテトラフルオロエチレン(B)の凝集による耐衝撃性の低下を抑制する点から好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、一層好ましくは5μm以上、より一層好ましくは8μm以上であり、好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、中でも35μm以下、特には30μm以下であることが好ましい。
ポリテトラフルオロエチレン(B)のD50粒径は、本発明においては溶融混練前の原料のD50粒径である。
【0029】
ポリテトラフルオロエチレン(B)は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0030】
ポリテトラフルオロエチレン(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~3質量部であり、好ましくは0.05質量部以上、中でも0.1質量部以上、0.2質量部以上、特には0.3質量部以上が好ましく、好ましくは2.5質量部以下、中でも2.0質量部以下、1.5質量部以下、1.0質量部以下、特には0.8質量部以下が好ましい。
【0031】
[α-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、α-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)を含有する。
α-オレフィン-不飽和カルボン酸エステル―不飽和グリシジル化合物共重合体(C)は、α-オレフィンと不飽和カルボン酸エステルと不飽和グリシジル化合物の三元共重合体のみならず、α-オレフィンと不飽和カルボン酸エステルと不飽和グリシジル化合物と、さらに他の単量体とからなる四元系以上の多元共重合体であってもよい。
【0032】
共重合体(C)におけるα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン等の炭素数2~8程度のα-オレフィンを例示できるが、特にエチレンが好ましい。
【0033】
共重合体(C)における不飽和カルボン酸エステルとしては、エチレン性不飽和カルボン酸エステルが好ましく、その具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の炭素数が1~22のアルキル基(アルキル基は直鎖、分岐鎖でも、脂環式でよい)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0034】
また、不飽和グリシジル化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル又は不飽和グリシジルエーテル、例えばビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル等が好ましく、特に(メタ)アクリル酸グリシジル、すなわちアクリル酸グリシジル又はメタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0035】
また、上記四元系以上の多元共重合体の成分となり得る他の単量体としては、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル類、アクリロニトリル、スチレン、無水マレイン酸等を例示することができる。
【0036】
共重合体(C)の各構成単位の好ましい含有量は、全体の100質量%基準で、α-オレフィンが50~94.5質量%、不飽和カルボン酸エステルが5~49.5質量%、不飽和グリシジル化合物が0.5~20質量%である。
【0037】
共重合体(C)は、ランダム共重合体であってもグラフト共重合体であってもよいが、ランダム共重合体を使用するのが好ましい。このようなランダム共重合体は、例えば、高温、高圧下のラジカル共重合によって得ることができる。
【0038】
共重合体(C)は、メルトフローレート(JIS K7210-1999に準拠、190℃、2.16kg荷重で測定)が、好ましくは0.1~200g/10min、特に1~70g/10minのものを使用するのが好ましい。
【0039】
共重合体(C)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、4~20質量部であり、このような量で、ポリテトラフルオロエチレン(B)と組み合わせて含有することにより、高衝撃化が達成できる。含有量は、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは7質量部以上であり、好ましくは17質量部以下、中でも15質量部以下、10質量部以下が好ましい。
【0040】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、基本的にはポリカーボネート樹脂を含有しないが、含有することも可能である。ただし、ポリカーボネート樹脂を含有する場合の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは20質量部未満であり、中でも15質量部未満、10質量部未満、7質量部未満、5質量部未満、さらには3質量部未満、特には1質量部未満であることが好ましい。
【0041】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、特には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわちビスフェノールA)、(2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン)(すなわちビスフェノールC)、(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン)(すなわちビスフェノールAP)等に由来する芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体等が挙げられる。
【0042】
[安定剤]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性や色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0043】
安定剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~2質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、2質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~1.5質量部であり、更に好ましくは、0.005~1.0質量部である。
【0044】
安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機リン酸エステル化合物が好ましい。
【0045】
有機リン酸エステル化合物は、リン原子にアルコキシ基又はアリールオキシ基が1~3個結合した部分構造を有するものである。なお、これらのアルコキシ基やアリールオキシ基には、さらに置換基が結合していてもよい。好ましくは、下記一般式(1)~(5)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いる。有機リン酸エステル化合物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
【化1】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0047】
【化2】
一般式(2)中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0048】
【化3】
一般式(3)中、R~R11は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。
【0049】
【化4】
一般式(4)中、R12~R14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
【化5】
一般式(5)中、R15はアルキル基又はアリール基を表す。nは0~2の整数を表す。なお、nが0のとき3つのR15は同一でも異なっていてもよく、nが1のとき2つのR15は同一でも異なっていてもよい。
【0051】
一般式(1)~(5)中、R~R15は、通常は炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~30のアリール基である。滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性等の観点からは、炭素数2~25のアルキル基であるのが好ましく、更には炭素数6~23のアルキル基であるのが最も好ましい。アルキル基としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、一般式(1)、(2)のMは亜鉛であるのが好ましく、一般式(3)、(4)のM’はアルミニウムであるのが好ましい。
【0052】
有機リン酸エステル化合物の好ましい具体例としては一般式(1)の化合物としてはビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、一般式(2)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩、一般式(3)の化合物としてはトリス(ジステアリルアッシドホスフェート)アルミニウム塩、一般式(4)の化合物としては1個のモノステアリルアッシドホスフェートと2個のモノステアリルアッシドホスフェートアルミニウム塩との塩、一般式(5)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェートやジステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0053】
有機リン酸エステル化合物としては、エステル交換抑制効果が非常に高く、成形加工時の熱安定性がよく成形性に優れ、射出成形機での計量部の設定温度を高めに設定することが可能となって成形が安定すること、また耐加水分解性、耐衝撃性が優れる観点から、前記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、前記一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩等のステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩を用いるのが好ましい。これらの市販のものとしては、城北化学工業製「JP-518Zn」等がある。
【0054】
有機リン酸エステル化合物の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。有機リン酸エステル化合物の含有量は、より好ましくは0.01~0.8質量部であり、更に好ましくは、0.05~0.7質量部、特に好ましくは0.1~0.5質量部である。
【0055】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これらの市販のものとしては、ADEKA製「アデカスタブAO-60」等がある。
【0056】
フェノール系安定剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。フェノール系安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005~0.5質量部である。
【0057】
[離型剤]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、耐アルカリ性が良好な点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましく、特に、ポリオレフィン系化合物が好ましい。
【0058】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0059】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0060】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
【0061】
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0062】
なお、上記の脂肪酸エステル系化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0063】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0064】
離型剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であるが、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.5~2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体の外観が悪化しやすい。
【0065】
[その他成分]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記した以外の他の樹脂添加剤を含有することもできる。他の樹脂添加剤としては、強化充填材、紫外線吸収剤、顔料(カーボンブラック等を含む)、耐候安定剤、滑剤、触媒失活剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、難燃剤、難燃助剤(アンチモン化合物等)等が挙げられる。
ただし、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃剤を含有しない方が、ノッチ付きシャルピー衝撃値が高くなりやすいので好ましい。難燃剤は含有しないことが好ましく、含有する場合でもその含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、好ましくは10質量部未満、中でも7質量部未満、5質量部未満、3質量部未満、2質量部未満、特に好ましくは1質量部未満である。
【0066】
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記した樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂等を含有することができる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種でも2種類以上であってもよい。
【0067】
ただし、前記した必須成分の樹脂以外の他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の合計100質量部に対し、30質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは25質量部以下、さらには20質量部以下、中でも10質量部以下、特には5質量部以下、2質量部以下とすることが最も好ましい。
【0068】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造するには、特定の方法に限定されるものではないが、前記した必須成分、並び必要に応じて配合されるその他成分を混合し、次いで溶融・混練する。
【0069】
溶融・混練方法としては、例えば、前記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、タンブラー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で溶融・混練する方法が挙げられる。本発明のポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化しやすい点から二軸押出機で溶融・混練することが好ましい。溶融・混練する際の温度は200~300℃の範囲が好ましく、220~280℃の範囲がより好ましい。
【0070】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐衝撃性に優れ、ISO179に従って測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が好ましくは20kJ/m以上である。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐衝撃性向上のためにはポリカーボネート樹脂を配合することも行われるが、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含有しなくても、衝撃値が高いという特徴も有する。ノッチ付きシャルピー衝撃強度は、より好ましくは25kJ/m以上、中でも30kJ/m以上、40kJ/m以上、特に50kJ/m以上、さらには60kJ/m以上が好ましい。
【0071】
なお、ノッチ付きシャルピー衝撃強度の測定法の具体的な詳細は、実施例に記載する通りである。
【0072】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレン(B)を含有することにより、その補強効果によって、降伏応力(平均)より最大応力(平均)の方が高いという傾向がある。通常、ポリブチレンテレフタレート樹脂にエラストマーを配合する系では降伏応力と最大応力がほぼ同等となり、かつ、エラストマーを含有することによって降伏応力・最大応力ともに低下するにあることを踏まえると、上記の点は特徴的である。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、最大応力(σMAX)と降伏応力(σy)(いずれも単位はMPa)が、以下の式を満たすことが好ましい。
最大応力(σMAX)>降伏応力(σy)+3MPa
最大応力(σMAX)と降伏応力の測定法の具体的な詳細は、実施例に記載する通りである。
【0073】
[成形体]
上記したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用でき、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法等が挙げられるが、射出成形法が特に好ましい。
【0074】
成形体としては、射出成形体、押出成形体、シート、パイプ、各種フィルム等が挙げられる。これら成形体の形状、大きさ、厚み等は任意である。
【0075】
成形体としては、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品、家電製品の部品として、例えば、電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体、電子電気機器部品の筐体、コネクター、リレー、スイッチ、センサー、アクチュエーター、ターミナルスイッチ、炊飯器関連部品、グリル調理機器部品等に好適に使用できる。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載例に限定して解釈されるものではない。
実施例及び比較例で使用した原料成分は、下記の表1の通りである。
【0077】
【表1】
【0078】
〔実施例1~7、比較例1~8〕
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
表1に記載の各成分を、後記表2に示される割合(全て質量部)にて、ブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機「TEX30α」)を使用して、バレル温度260℃にて溶融混練し、ストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0079】
[耐衝撃性 ノッチ付シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)]
得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、日本製鋼所社製射出成形機「J-85AD-60H」を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(厚さ4mm)を成形した。その後、ISO179に準拠して、得られた多目的試験片を用いてノッチ付きシャルピー衝撃試験用の試験片を作成し、常温(23℃)でのノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
【0080】
[降伏応力(単位:MPa)、最大応力(単位:MPa)、破壊呼び歪(%)]
上記で得られたISO多目的試験片を用いて、ISO527に準拠し引張試験(試験速度:50mm/min)を行った。5個の試験片を用いて測定し、降伏応力の平均値と最大応力の平均値を求めた。最大応力は、破壊前の最大の応力値とした。また、5回試験を行った中での最大応力値の最大値と、破壊呼び歪の最大値も求めた。
【0081】
[CTI値(単位:V)]
得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80-9E」を使用して、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、試験片(厚さ2mm、大きさ100mm×100mmの平板)を製造した。
得られた試験片について、国際規格IEC60112に定める試験法によりCTIを決定した。CTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、100Vから25V刻みの電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、数値が高いほど良好であることを意味する。
結果を下記表2に示す。
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の耐衝撃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐衝撃性、耐薬品性に優れるので、各種の電気電子機器部品、自動車用部品、その他の電装部品、機械部品、調理器具等の家電製品用として、好適に使用できる。