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特開2023-131834ペースト状重合硬化性組成物の製造方法
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  • 特開-ペースト状重合硬化性組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131834
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ペースト状重合硬化性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20230914BHJP
   B01F 27/72 20220101ALI20230914BHJP
   B01F 23/57 20220101ALI20230914BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230914BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20230914BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20230914BHJP
   C08L 51/10 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEY
B01F7/08 B
B01F3/14
C08F2/44 A
C08F292/00
C08F20/00 510
C08L51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036811
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】曽雌 杏南
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
【テーマコード(参考)】
4F070
4G035
4G078
4J002
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AA46
4F070AC22
4F070AE01
4F070AE08
4F070AE30
4F070FA13
4F070FB06
4F070FC05
4G035AB46
4G035AB54
4G035AE01
4G035AE02
4G035AE13
4G035AE15
4G078AA03
4G078AA20
4G078AA22
4G078AA26
4G078AB06
4G078AB20
4G078BA01
4G078BA07
4G078CA01
4G078DA09
4G078EA03
4G078EA10
4J002BG071
4J002BN191
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GB01
4J011AA05
4J011BA04
4J011PA13
4J011PA16
4J011PB16
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
4J011WA08
4J026AC00
4J026BA27
4J026BA28
4J026DB05
4J026DB30
(57)【要約】
【課題】 重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含む低粘度ペースト状重合硬化性組成物を、従来のバッチ法で混練したときの組成物の特性を損なうことなく、二軸混練機を用いて効率よく製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 目的物の粘度とダイラタンシー性が所定の範囲内にあることを確認した上で、バレルの円筒状シリンダ内にスクリュが回転自在に挿入された汎用的な本構造を有する二軸混練機に、フィラーを含む粉体原料及び重合性単量体と熱重合開始剤を含む液体原料を所定の組成となるように供給し、混練部のバレル温度を25℃~45℃とすると共に、シリンダ内径、混練部におけるシリンダ内壁とスクリュと間のクリアランス最小値、及び混練時のスクリュの回転速度を調整して、上記粘度に基づいて所定の式で計算される混練時の二軸混練機内の剪断応力が3~250kPa以内となるようにして混練を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含む、所定の組成を有するペースト状重合硬化性組成物であって、ダイラタンシー性を有し、パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)が10~100Pa・sの範囲内の所定の値であるペースト状重合硬化性組成物を製造する方法において、
フィラーを含む粉体原料、及び重合性単量体を含む液体原料からなり、前記粉体原料及び前記重合性単量体の少なくとも一方には熱重合開始剤が配合されている原料を準備する原料準備工程;並びに
二軸混練機を用いて前記粉体原料及び液体原料を混練する、混練工程;を含み、
前記二軸混練機は、
並列に配置された同一又は実質的に同一な2つの「円筒状シリンダ」が一部重複して一体化し、一体化後における円筒軸方向に垂直な断面が、合同又は実質的に合同な2つの円弧が弦を共有するようにして対向して突き合わされた形状となっている「連結円筒状シリンダ」が内部に形成されたバレルと、同一又は実質的に同一な形状を有する1対のスクリュと、を有し、
前記1対のスクリュの一方及び他方が前記「連結円筒状シリンダ」を構成する2つの「円筒状シリンダ」の一方及び他方の内部に夫々回転自在に挿入されることにより、フィードゾーン:FZ、ニーディングゾーン:KZ及びイクストゥルーデングゾーン:EZを形成し、
前記1対のスクリュを同方向に回転させながら、前記筒状シリンダ内部において、前記FZに供給された原料に、前記KZで剪断力を付加して混練し、前記EZを介して外部に押出す、同方向回転二軸混練機であり、
前記混練工程において、
単位時間に供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成と一致するように前記粉体原料及び前記液体原料の供給速度(単位:g/分)を調整してこれら原料を前記フィードゾーン:FZに供給し、
前記ニーディングゾーン:KZにおけるバレル温度を25℃~45℃とし、
前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダの内径(直径)をD(単位:mm)とし、前記円筒状シリンダ内壁とスクリュ間のクリアランスの最小値をc(単位:mm)とし、円周率をπとし、これら値に基づいて、式:A={(c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められる値:Aを装置定数とし、混練時における混練スクリュの回転速度をN(単位:rpm)としたときに、下記条件(I):
3A/η ≦ N ≦ 250A/η ・・・(I)
{但し、ηは、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の前記粘度:η(単位:Pa・s)を意味する。}
を満足する回転速度:N(単位:rpm)で前記混練スクリュを回転させながら混練を行う、
ことを特徴とする前記ペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項2】
パラレルプレートを用いた回転粘度計により一定温度、一定回転速度:m(rpm)の条件で測定される粘度トルク:M(単位:Pa・m)と断応力:τ(単位:kPa)との間に下記式(III):
τ={4M/(3πR)}×10 ・・・(III)
{但し、上記式におけるRは、パラレルプレートの半径(単位:mm)を表す。}
で示される関係がある、トルク測定において、
パラレルプレート半径:Rが10mmであるパラレルプレートを用いてペースト状重合硬化性組成物からなる0.7gの試料を1mmの厚さに圧縮して、30℃の温度条件下、回転速度1rpm及び10rpmでトルク測定を行ったときに得られるトルクを、夫々、M及びMとし、これらトルクに基づき前記式で求められる断応力を、夫々:τ及びτ10とし、これら剪断応力の比:τ10/τを、試料として使用した前記ペースト状重合硬化性組成物の「ダイラタンシー性指数」と定義したときに、
製造目的物である前記ペースト状重合硬化性組成物の上記ダイラタンシー性指数が2~25である、請求項1に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記装置定数:Aが190~260である前記同方向回転二軸混練機を用いて前記混練工程を行う、請求項1又は2に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記同方向回転二軸混練機に供給される原料の総質量(単位:g)を前記同方向回転二軸混練機から押し出される混練物の押出速度(単位:g/分)で除した滞在時間(単位:分)が3分~30分となるようして、前記混練工程を行う、請求項1~3の何れか1項に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記粉体原料が、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである微細無機フィラーを20質量%以上で含み、
単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記重合性単量体の量を100質量部としたときに、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記微細無機フィラーの量が200~500質量部となる範囲内の所定の量となるように、前記粉体原料の供給速度及び前記液体原料供給速度を制御する、
請求項1~4の何れか1項に記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項5の記載のペースト状重合硬化性組成物の製造方法により、前記重合性単量体:100質量部、前記微細無機フィラー:200~500質量部及び熱重合開始剤:0.01~10質量部を含み、前記粘度:ηが10~100Pa・sであり、前記ダイラタンシー性指数が2~25である歯科用ペースト状硬化性組成物を製造することを特徴とする、歯科用硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト状重合硬化性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体(モノマー)、フィラー、及び重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物は、一般に、コンポジットレジン、硬質レジン、人工歯、セメント、歯科加工用レジン材料等として応用されている。このような歯科用硬化性組成物は、通常、プロペラ式の攪拌機等の装置を用いてバッチ式で製造されており、最終ペーストの粘度によらず、比較的低い剪断応力を長時間かけることで重合性単量体(モノマー)及び重合開始剤を主成分として構成されたマトリックスとなる液状成分中にフィラーを均一に分散させていた。
【0003】
このようなバッチ式の調製方法においては、効率化のために、液状成分に対して粉体成分を数回に分けて添加することによって調製した粉末状フィラーが高含量の混練物を希釈用混練母材として先に製造し、これを必要な数に分配し、各分配物に、顔料等や低粘度化に必要な液状モノマーを追加混合して混練することが行われている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-014690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されているような方法では、希釈用混練母材調製過程において粉体成分を数回に分けて添加して混合する必要があるばかりでなく、希釈操作が必要なうえ、低粘度化の程度によっては希釈工程においても希釈用液状モノマーを数回に分けて添加する必要があるため、分散に手間と時間を要していた。
【0006】
夫々別々に調製した液体原料と粉体原料を、二軸混練機のような連続混練機を用いて一度で混錬すれば、より効率的に歯科用硬化性組成物を調製できると考えられるが、このような方法で歯科用硬化性組成物を調製した例はあまり知られていない。これは、液体原料と粉体原料の混合割合によっては混錬初期に両者が馴染まず、特に塗布性や金型への充填性が重要視される用途に使用される低粘度の歯科用硬化性組成物を調製する場合には、混練初期に両原料が分離してしまうことが懸念されるのが一因であると考えられる。
【0007】
このような背景ものと、本発明者等が二軸混練機における一般的な条件で液体原料と粉体原料を混錬して低粘度ペーストを混練してみたところ、事実、マトリックス中にフィラーが均一に分散せず、安定した物性のペーストが得られないことが多いことが確認された。また、高剪断力をかけて均一分散するように混練を行った場合には、混練が可能となるものの、系によっては想定していなかった問題が発生することが明らかとなった。
【0008】
すなわち、CAD/CAMシステムを用いた切削加工により歯科用補綴物を作製する際に使用されるハイブリッドレジン系歯科用ミルブランの原料となるフロアブル性状を有する重合硬化性組成物(以下、「フロアブル性状HC原料組成物」ともいう。)のような、熱重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物を、連続混練機を用いて調製した場合には、混練後のペーストの重合硬化性が低下する場合があることが明らかとなった。
【0009】
そこで、本発明は、二軸混練機を用いて、フィラーが均一に分散した、熱重合開始剤を含む低粘度のペースト状重合硬化性組成物を、重合硬化性を低下させずに、効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の第1の形態は、重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含む、所定の組成を有するペースト状重合硬化性組成物であって、ダイラタンシー性を有し、パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)が10~100Pa・sの範囲内の所定の値であるペースト状重合硬化性組成物を製造する方法において、
フィラーを含む粉体原料、及び重合性単量体を含む液体原料からなり、前記粉体原料及び前記重合性単量体の少なくとも一方には熱重合開始剤が配合されている原料を準備する原料準備工程;並びに
二軸混練機を用いて前記粉体原料及び液体原料を混練する、混練工程;を含み、
前記二軸混練機は、
並列に配置された同一又は実質的に同一な2つの「円筒状シリンダ」が一部重複して一体化し、一体化後における円筒軸方向に垂直な断面が、合同又は実質的に合同な2つの円弧が弦を共有するようにして対向して突き合わされた形状となっている「連結円筒状シリンダ」が内部に形成されたバレルと、同一又は実質的に同一な形状を有する1対のスクリュと、を有し、
前記1対のスクリュの一方及び他方が前記「連結円筒状シリンダ」を構成する2つの「円筒状シリンダ」の一方及び他方の内部に夫々回転自在に挿入されることにより、フィードゾーン:FZ、ニーディングゾーン:KZ及びイクストゥルーデングゾーン:EZを形成し、
前記1対のスクリュを同方向に回転させながら、前記筒状シリンダ内部において、前記FZに供給された原料に、前記KZで剪断力を付加して混練し、前記EZを介して外部に押出す、同方向回転二軸混練機であり、
前記混練工程において、
単位時間に供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成と一致するように前記粉体原料及び前記液体原料の供給速度(単位:g/分)を調整してこれら原料を前記フィードゾーン:FZに供給し、
前記ニーディングゾーン:KZにおけるバレル温度を25℃~45℃とし、
前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダの内径(直径)をD(単位:mm)とし、前記円筒状シリンダ内壁とスクリュ間のクリアランスの最小値をc(単位:mm)とし、円周率をπとし、これら値に基づいて、式:A={(c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められる値:Aを装置定数とし、混練時における混練スクリュの回転速度をN(単位:rpm)としたときに、下記条件(I):
3A/η ≦ N ≦ 250A/η ・・・(I)
{但し、ηは、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の前記粘度:η(単位:Pa・s)を意味する。}
を満足する回転速度:N(単位:rpm)で前記混練スクリュを回転させながら混練を行う、
ことを特徴とする前記ペースト状重合硬化性組成物の製造方法である。
【0011】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、パラレルプレートを用いた回転粘度計により一定温度、一定回転速度:m(rpm)の条件で測定される粘度トルク:M(単位:Pa・m)と断応力:τ(単位:kPa)との間に下記式(III):
τ={4M/(3πR)}×10 ・・・(III)
{但し、上記式におけるRは、パラレルプレートの半径(単位:mm)を表す。}
で示される関係がある、トルク測定において、
パラレルプレート半径:Rが10mmであるパラレルプレートを用いてペースト状重合硬化性組成物からなる0.7gの試料を1mmの厚さに圧縮して、30℃の温度条件下、回転速度1rpm及び10rpmでトルク測定を行ったときに得られるトルクを、夫々、M及びMとし、これらトルクに基づき前記式で求められる断応力を、夫々:τ及びτ10とし、これら剪断応力の比:τ10/τを、試料として使用した前記ペースト状重合硬化性組成物の「ダイラタンシー性指数」と定義したときに、
製造目的物である前記ペースト状重合硬化性組成物の上記ダイラタンシー性指数が2~25である、ことが好ましい。
【0012】
また、前記装置定数:Aが190~260である前記同方向回転二軸混練機を用いて前記混練工程を行う、ことが好ましい。
【0013】
また、前記同方向回転二軸混練機に供給される原料の総質量(単位:g)を前記同方向回転二軸混練機から押し出される混練物の押出速度(単位:g/分)で除した滞在時間(単位:分)が3分~30分となるようして、前記混練工程を行う、ことが好ましい。
【0014】
さらに、前記粉体原料が、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである微細無機フィラーを20質量%以上で含み、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記重合性単量体の量を100質量部としたときに、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記微細無機フィラーの量が200~500質量部となる範囲内の所定の量となるように、前記粉体原料の供給速度及び前記液体原料供給速度を制御する、ことが特に好ましい。
【0015】
本発明の第二の形態は、上記の特に好ましい態様の本発明の製造方法により、前記重合性単量体:100質量部、前記微細無機フィラー:200~500質量部及び熱重合開始剤:0.01~10質量部を含み、前記粘度:ηが10~100Pa・sであり、前記ダイラタンシー性指数が2~25である歯科用ペースト状硬化性組成物を製造することを特徴とする、歯科用硬化性組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、フロアブル性状HC原料組成物のような、重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤が均一に分散した低粘度なペースト状重合硬化性組成物を、重合硬化性を低下させることなく、効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本図は、実施例で同方向回転二軸混練機として用いた装置1及び装置3~5のスクリュセグメントの基本構成を示す図である。
図2】本図は、実施例で同方向回転二軸混練機として用いた装置2のスクリュセグメントの基本構成を示す図である。
図3】本図は、図1及び図2のニーディングゾーンにおけるニーディングディスクの配置状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前記したように、重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤について二軸混練機(二軸押出機)を用いて高剪断力をかけて混練を行った場合には、低粘度のペースト状組成物であってもフィラーを均一に分散させることは可能であるが、混練後のペーストの重合硬化性が低下する場合がある。そこで、重合硬化性が低下の原因について、検討を行ったところ、重合硬化性の低下がみられる系の多くは、フィラーとして球状フィラー及び微細粒径のフィラーを含み、ダイラタンシー性が発現する低粘度ペーストであり、同方向回転二軸混練機を用いた場合には、異方向回転二軸混練機を用いた場合と比べて重合硬化性の低下が起こり難い傾向が見られた。また、混練時における剪断応力度が高い場合には重合硬化性が低下し易い、という知見を得るに至った。そこで、混練時における局所的な発熱によって混練後に残存する熱重合開始剤が失活することが、重合硬化性低下の原因であり、二軸混練機における混練領域の温度や剪断応力度を制御することにより重合硬化性を抑制できるのではないかと考え、さらに検討を行った。その結果、混練部のバレル温度を特定の範囲とすると共に、スクリュ回転数を制御して混練時の剪断応力度を特定の範囲とすることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0019】
すなわち、本発明の製造方法は、(1)製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物が、ダイラタンシー性を有する特定の粘度のものである点、(2)同方向回転二軸混練機を用いて混練工程を行う点、(3)混練工程における混練時の前記ニーディングゾーン:KZにおけるバレル温度を25℃~45℃とする点、及び(4)混練工程における混練時のスクリュの回転速度:N(rpm)を、特定の条件を満足するように制御する点に大きな特徴を有する。
【0020】
ここで、上記(4)におけるスクリュの回転速度:N(rpm)の制御は、前記した混練時の剪断応力度を特定の範囲内とすることを目的とするものである。この点について説明すると、実際の混練時にペーストに負荷される剪断応力度:Tを直接測定(モニター)することは非常に困難であるが、同方向回転二軸混練機における混練においては、下記式(II)で示される関係があることが知られている。
【0021】
Τ={(π・D・N・η)/(60・c)}×10-3 ・・・(II)
ここで、上記式におけるTは剪断応力度(単位:kPa)を表し、Dは使用する装置における円筒シリンダの内径(直径)(単位:mm)を表し、cは前記円筒状シリンダ内壁とニーディングスクリュとの間のクリアランスの最小値(単位:mm)を表し、Nはスクリュ回転速度(rpm)を表し、ηは混練物であるペースト粘度(単位:Pa・s)を表す。装置に関するパラメータである、D、c及びNは制御可能で、任意に設定できるため、ηが分かればTを求めることができるが、ダイラタンシー性を有し剪断力によって粘度が変化するペーストについて混練時における実際の粘度を測定(モニター)することは困難である。そこで、本発明では、上記粘度:ηが、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の、パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)であるとして計算される二軸混練機内の剪断応力度:T(単位:kPa)の範囲を特定することにしている。具体的には、前記D及びcが所与の装置を用いて前記Nを制御することにより、上記の二軸混練機内の剪断応力度:Tを3~250(単位:kPa)、好ましくは6~200(単位:kPa)、より好ましくは10~100(単位:kPa)となるようにしている。具体的には、円周率をπとし、使用する装置におけるD及びcの値に基づき{(60・c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められる値を装置定数:Aとし、混練時における混練スクリュの回転速度をN(単位:rpm)としたときに、下記条件(I):
3A/η ≦ N ≦ 250A/η ・・・(I)
を満足する回転速度:N(単位:rpm)で前記混練スクリュを回転させて、混練を行うことにより、前記の二軸混練機内の剪断応力度:Tを3~250(単位:kPa)の範囲となるように制御している。
【0022】
本発明の製造方法は、歯科用硬化性組成物の製造方法として有用であり、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の構成成分(原材料)としては従来の歯科用硬化性組成物で使用されているものが特に制限なく使用でき、また使用する同方向回転二軸混練機についても、基本構造は特に変わる点はなく、プラスチックスの押出等で一般に使用されている装置が使用可能である。以下、これらの点を含めて、本発明について詳しく説明する。
【0023】
1.製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物
1-1 粘度及びダイラタンシー性について
本発明の製造方法は、従来、バッチ法で製造されていたペースト状重合硬化性組成物を効率よく製造することを目的とする。このため、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の多くは既に知られたものであり、その粘弾性特性も事前に確認することができる。本発明では、本発明の製造方法を採用しない場合には、二軸混練機を用いて製造することが困難な粘弾性特性を有するペースト状重合硬化性組成物を製造目的物としている。すなわち、重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含む、所定の組成を有するペースト状重合硬化性組成物であって、ダイラタンシー性を有し、パラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)が10~100Pa・sの範囲内の所定の値を有するペースト状重合硬化性組成物を製造目的物としている。
【0024】
ここで、上記粘度:ηは、パラレルプレートを用いた回転粘度計の試料台の温度を30℃に調節し、試料(予めバッチ法で調製した製造目的物となるペースト状重合硬化性組成物)0.7gをペーストの厚みが1mmとなるように、φ20mmのパラレルプレートで圧接した状態で1分間静置した後、剪断速度を毎分1回転で走査して、測定することにより知ることができる。本発明の製造方法では、このようにして測定された30℃における粘度:ηが10~100Pa・sのものを製造目的物とするが、効果の顕著性の観点から、上記粘度は、20~80Pa・sであることが好ましく、30~70Pa・sであることがさらに好ましい。なお、一般に、重合性単量体と無機粒子によって、粘度を調節することが可能であり、特に無機粒子の充填率の影響は顕著である。
【0025】
本発明の製造方法の目的物であるペースト状重合硬化性組成物は、上記粘度:ηが10~100Pa・sであることに加えて、ダイラタンシー性を有する必要がある。ここで、ダイラタンシー性とは、ゆっくりと負荷をかけた場合は柔らかく流れやすいが、強い負荷をかけた場合は硬く流れ難くなる性状を意味する。混練時にペーストに強い剪断応力がかかることで粉体原料が液体原料中に分散し易くなり、得られるペースト状重合硬化性組成物の重合硬化性が低下し難いという観点からは、目的物であるペースト状重合硬化性組成物のダイラタンシー性は、以下に定義されるダイラタンシー性指数の値が2~25、特に3~23であることが好ましく、4~20であることが最も好ましい(なお、ダイラタンシー性指数の値が1を越える場合にはダイラタンシー性を有し、数値が大きいほどダイラタンシー性が強いことを意味する。)。
【0026】
ここで、ダイラタンシー性指数とは、ペースト状組成物からなる試料について回転粘度計で夫々異なる回転速度で測定されたトルク:M(単位:Pa・m)から求められる剪断応力の比として定義されるものであり、本発明では、回転速度1rpmにおける断応力:τと回転速度10rpmにおける断応力:τ10の比:τ10/τで定義される値を意味する。
【0027】
なお、回転速度m(rpm)で測定したトルク:M(単位:Pa・m)と断応力:τ(単位:kPa)との間には、下記式(III)
τ={4M/(3πR)}×10 ・・・(III)
{但し、上記式におけるRは、パラレルプレートの半径(単位:mm)を表す。}
で示される関係があるので、1rpmで測定されるトルク:M及び10rpmで測定されるトルク:M10から上記式によりτ及びτ10をそれぞれ求めることができる。本発明では、回転粘度計の試料台の温度を30℃に調節し、試料(予めバッチ法で調製したペースト状重合硬化性組成物)0.7gをペーストの厚みが1mmとなるように、φ20mmのパラレルプレートで圧接した状態で1分間静置した後、剪断速度を1(rpm)及び10(rpm)で走査して、各回転速度におけるトルク:M及びM10に基づき決定されるτ10/τを、ダイラタンシー性指数としている。
【0028】
なお、重合性単量体、フィラー及び熱重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物の粘弾性特定はその組成によって決まるものであるが、成分(原料)として使用される物質の種類は様々であり、組成から直ちに該組成物がダイラタンシー性を有するか否かを判断することはできない。そのため、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の粘弾性特性(該組成物の粘度や該組成物がダイラタンシー性を有するか否か)が不明である場合には、事前にバッチ法により同一組成のペースト状重合硬化性組成物を調製し、該ペースト状重合硬化性組成物についての粘度及びダイラタンシー性指数を確認しておくことが好ましい。なお、組成等から凡その粘弾性特性が予想できる場合には、得られたペースト状重合硬化性組成物について粘弾性特性を測定し、前記条件を満足すること及びスクリュ回転数が前記条件を満足することを事後的に確認してもよい。
【0029】
1-2.ペースト状重合硬化性組成物の原料物質及び組成について
次に、製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の構成成分(原料物質)及び組成について説明する。
【0030】
<重合性単量体>
製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物の構成成分である重合性単量体は、(メタ)アクリル化合物などのラジカル重合性単量体、エポキシ化合物やオキセタン化合物等のカチオン重合性単量体等の中から適宜選択して用いることができる。たとえば、歯科用重合硬化性組成物を得るためには、(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用することが好ましい。((メタ)アクリレート系重合性単量体としては、単官能重合性単量体、多官能重合性単量体の何れであってもよく、また、分子内に酸性基や水酸基を有するものであってもよく、更に芳香族系のものであっても脂肪族系のものであってもよい。歯科用重合性硬化物用に好適に使用できる(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0031】
これらの(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0032】
<フィラー>
フィラーとしては、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナ、ガラスなどのなどの無機フィラー及びこれ無機フィラーを用いた有機無機複合フィラーが好適に使用できる。たとえば、歯科用重合硬化性組成物を得るためには、シリカとジルコニア、またはシリカと酸化バリウムとを主な構成成分とする複合無機酸化物の粒子、例えば、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニアの粒子が、高いX線造影性を有するため好ましく使用される。なお、無機粒子の形状は特に限定されないが、球状のものを用いた場合には、得られるペースト状重合硬化性組成物の硬化体が耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたものとなる。
【0033】
また、無機粒子は有機無機複合粒子として配合することもできる。有機無機複合粒子の例としては、前述の無機粒子と重合性単量体を混合した後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合粒子が挙げられる。
【0034】
上記無機粒子は、機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていてもよい。
【0035】
歯科用重合硬化性組成物を得るためには、無機粒子の平均1次粒子径が、0.001μm以上3μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.0μm以下であることが、前記硬化体の耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点より好ましい。また、前記粉体原料以外に平均1次粒子径が0.1~1.0μmである微細無機粒子を含むことが好ましく、(有機無機複合フィラーの形態の物を含めて)フィラーの全質量100質量部に対して20質量部以上含むことが好ましく、30質量部以上含むことがより好ましい。また、上記微細無機粒子は球状微細無機粒子であることがより好ましい。
【0036】
なお、このような平均1次粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて求める。走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、その単位視野内の粒子30個以上を無作為に選び、それぞれの一次粒子径(最大径)を計測する。その一次粒子径の合計を選択した粒子の数で徐して得られる値を平均1次粒子径とする。
【0037】
これらのフィラーの配合量は、使用目的に応じて、重合性単量体と混合したときの硬化体の機械的物性や粘度(操作性)を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には重合性単量体100質量部に対して200質量部以上500質量部以下、好ましくは245質量部以上460質量部以下の範囲で用いられる。
【0038】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、前記重合性単量体を熱で重合硬化させる機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が好適に使用できる。これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合方法の異なる複数の開始剤を組み合わせることも可能である。
【0039】
重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
【0040】
<その他の添加剤>
本重合硬化性組成物には、熱重合開始剤以外の重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、顔料等の着色物質等の他の添加剤を配合することができる。
【0041】
<好適なペースト状重合硬化性組成物>
本発明者等により、多くの歯科用フロアブルコンポジットレジンは、前記粘度:ηが10~100Pa・sで、且つダイラタンシー性を有することが確認されている。フロアブルコンポジットレジンは、通常光重合開始剤を使用し、基本的に熱重合開始剤を含むことはないが、CAD/CAMシステムを用いた切削加工により歯科用補綴物を作製する際に使用されるハイブリッドレジン系歯科用ミルブランの原料となるフロアブル性状を有する重合硬化性組成物(フロアブル性状HC原料組成物)においては、基本組成(重合開始剤以外の組成)は、フロアブルコンポジットレジンと同等であり、重合開始剤として(光重合開始剤に代えて)熱重合開始剤が用いられている。このため、本発明の製造方法は、ハイブリッドレジン系歯科用ミルブランクの原料となるフロアブル性状HC原料組成物の製造方法(調製方法)として有効である。すなわち、本発明の製造方法の製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物は、フロアブル性状HC原料組成物であることが好ましい。
【0042】
ここで、フロアブル性状HC原料組成物の好適な組成を示せば、以下のとおりである。すなわち、代表的な組成は、(メタ)アクリル化合物系重合性単量体100質量部に対し、無機フィラー200~500質量部、及び熱重合開始剤0.01~10質量部であり、全組成物質量に対する無機フィラーの質量の割合で定義される充填率が50~85(質量%)であり、前記無機フィラーは、無機フィラーの総質量を基準とした質量%で表して、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均粒子径が0.1~1.0μmである微細無機フィラーを20質量%以上含む、といったものである。
【0043】
2.原料準備工程
原料準備工程では、粉体原料と液体原料とを準備する。ここで、粉体原料とは、フィラーを含む粉体からなる原料であり、液体の重合性単量体は原則的に含まず、全く含まないことが好ましい。なお、ここで原則的に含まないとは、粉体性状を損なうような量では含まないという意である。一方、液体原料とは重合性単量体を含む液状の原料であり、フィラー及び非溶解性の材料は含まない。熱重合開始剤は、重合性単量体に不溶な場合には、粉体原料に配合され、溶解する場合には、粉体原料、液体原料のどちらに配合してもよい。
【0044】
これら粉体原料及び液体原料は、夫々所定の供給速度(単位:g/分)であって、単位時間に供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成となるような供給速度で前記フィードゾーン:FZに供給されるものである。このため、同一成分を粉体原料と液体原料とに分けて配合しない場合には、粉体原料中に置ける各成分の量比及び液体原料中に置ける各成分の量比は、(供給速度に拘わらず)夫々はペースト状重合硬化性組成物の所定の組成における量比と同じになるようにすればよい。たとえばペースト状重合硬化性組成物の所定の組成における各成分の質量比が、重合性単量体:フィラー:熱重合開始剤:顔料(任意成分)=α:β:γ:εであり、粉体原料がフィラー及び熱重合開始剤からなり、液体原料が重合性単量体及び顔料からなるときの粉体原料における各成分の質量比はフィラー:熱重合開始剤=β:γとし、液体原料における各成分の質量比は重合性単量体:顔料=α:εとすればよい。このとき、フィラーと重合性単量体の質量比がα:βとなるように供給速度が調整される。一方、同一成分を粉体原料と液体原料とに分けて配合する場合には、粉体原料と液体原料の供給速度比を考慮して夫々の原料中の組成を決定する必要がある。このため、同一成分を粉体原料と液体原料とに分けて配合しないことが好ましい。
【0045】
3.混練工程
混練工程では、二軸混練機を用いて前記粉体原料及び液体原料を混練するが、本発明の製造方法では、本発明の効果を得るために二軸混練機として同方向回転二軸混練機を用いて特定の混練条件で混練を行う必要がある。以下に、同方向回転二軸混練機及び混練条件について説明する。
【0046】
3-1.同方向回転二軸混練機
本発明の製造方法では、二軸混練機として同方向回転二軸混練機を使用する。セルフクリーニング性が高い同方向回転二軸混練機を用いることで装置内での固化が起こらず、所望のペーストを排出することが可能となる。
【0047】
本発明の製造方法で使用する同方向回転二軸混練機は、並列に配置された同一又は実質的に同一な2つの「円筒状シリンダ」が一部重複して一体化し、一体化後における円筒軸方向に垂直な断面が、合同又は実質的に合同な2つの円弧が弦を共有するようにして対向して突き合わされた形状となっている「連結円筒状シリンダ」が内部に形成されたバレルと、同一又は実質的に同一な形状を有する1対のスクリュと、を有し、前記1対のスクリュの一方及び他方が前記「連結円筒状シリンダ」を構成する2つの「円筒状シリンダ」の一方及び他方の内部に夫々回転自在に挿入されることにより、フィードゾーン:FZ、ニーディングゾーン:KZ及びイクストゥルーデングゾーン:EZを形成し、前記1対のスクリュを同方向に回転させながら、前記筒状シリンダ内部において、前記FZに供給された原料に、前記KZで剪断力を付加して混練し、前記EZを介して外部に押出すものである。
【0048】
なお、バレルとシリンダは同じものを意味する場合もあるが、本発明ではハウジング部に相当する部分をバレルといい、スクリュが挿入される筒状の部分をシリンダということとする。また、筒状シリンダは上記したように、その断面形状が同径の2つの円をその一部が重なるように、2つの円筒を結合させた、断面瓢箪形のものであり、前記2つの円の中心が2本のスクリュの軸心にそれぞれ合致するようにスクリュが配置されることから、本明細書では、各スクリュが配置される円筒部を円筒状シリンダと言う。厳密には、円筒状シリンダの高さ方向に垂直な断面は、瓢箪形断面を2分したものとなるため(完全な円ではなく)円周上の2つの交点を結ぶ弦と、交点を結ぶ非重複部の弧で囲まれた形状となるが、円筒状として扱うものとし、該円筒状シリンダの内径(直径):Dも上記弧の部分における直径を意味するものとする。
【0049】
このような構造は、同方向回転二軸混練機の構造として一般的なものであり、スクリュの回転は、混練機が有する駆動モータによって行われる。また、原料の供給は定量供給ホッパーや定量ポンプなどの定量供給装置を用い、フィードゾーン:FZに設けられたシリンダ内部に連通する原料供給孔を介して行われる。原料供給孔は、直径20mm以上の円状又は角状の孔であることが好ましい。混練された混練物はイクストゥルーデングゾーン:EZの先端に連通する吐出孔または、バレルの下部に形成されたシリンダ内部から外部に連通する吐出口から装置外部に押し出される。
【0050】
また、前記筒状シリンダの内部に形成される各ゾーンの配置は、FZが最も基端側(上流側)に、EZが最も先端側(下流側)に配置され、KZはその間に配置される。このとき、FZ-KZのユニットが複数含まれる、例えば上流側からFZ-KZ-FZ-KZ-EZのような配置であってもかまわない。
【0051】
さらに、前記1対のスクリュ(混練スクリュと呼ばれることもある)は、同一又は実質的に同一な形状を有し、共に、スクリュには、混練される原料を下流側に送る送り用スクリュセグメントからなる「送り部」と、前記送り部から送られた原料を混練するためのニーディングディスクを含む混練用スクリュセグメントからなる「混練部」と、前記混練部で混練された混練物を吐出孔または、吐出口から装置外部に押し出す押出用スクリュセグメントからなる「押出部」とが、基端部から先端部に向かってこの順に設けられている。そして、前記「送り部」が配置される領域が前記「フィードゾーン:FZ」となり、前記「混練部」が配置される領域が「ニーディングゾーン:KZ」となり、前記「押出部」が配置される領域が「イクストゥルーデングゾーン:EZ」となる。
【0052】
送り部で用いる(下流側に送る)送り用スクリュセグメントはフィラーやマトリックスを滞りなく送液可能であれば特に制限がない。装置内での滞留が少ないため、ねじ状のスクリュがより好ましい。
【0053】
混練部で用いる混練用スクリュセグメントは送り機能が少ないフラットタイプのニーディングディスク及び下流部に順送りに送ることが出来るように斜めにカットの入った傾斜タイプのニーディングディスクを使用することが出来る。特にフラットタイプのニーディングディスクを使用することで混練部の滞留時間が長くなるため剪断応力が強くかかり、マトリックス中にフィラーを分散することが可能となるため、より好ましい。また、ニーディングディスクの形状はシリンダ内壁面とニーディングディスクのクリアランスが最も狭い部分が2点あるレンズ形やシリンダ内壁面とニーディングディスクのクリアランスが最も狭い部分が3点あるおにぎり型は剪断力が高く、セルフクリーニング性が高いためより好ましい。その中でも、ニーディングディスクの構成角度を変更することで剪断力の調整がしやすいレンズ形がより好ましい。レンズ形のニーディング構成の角度として、ニーディングディスク前後での右回りにおける角度の差が30°~150°に設定することが出来る。
【0054】
また、押出用スクリューエレメントは、吐出孔または、吐出口から混練部で混練された混練物を滞りなく送液可能であれば特に制限がない。EZの先端に連通する吐出孔から混練物が押し出される場合は、装置内での滞留が少ないため、ねじ状のスクリュがより好ましく、バレルの下部に形成されたシリンダ内部から外部に連通する吐出口から混練物が押し出される場合は、混練物の送り機能が少なく、スクリュに付着した混練物が摺り切られて吐出することが可能であるため、フラットタイプのニーディングディスク及び下流部に逆送りに送ることが出来るように斜めにカットの入った傾斜タイプのニーディングディスクがより好ましい。
【0055】
送り用スクリュセグメント及び混練用スクリュセグメントはバレルに形成された円筒状シリンダ内部に回転自在に挿入配置されており、一対のスクリュが同方向に同じ回転速度で回転することにより、送り用スクリュセグメントとシリンダの間を原料が通過することで原料を送ることができ、また、混練用スクリュセグメントとシリンダの間及び2本のスクリュ間で剪断がかかることで混練することが可能である。シリンダ(円筒状シリンダ)の内径が小さい場合、単位時間当たりの生産量が低く、生産性が低下し、内径が大きい場合、単位時間当たりの生産量は高くなるものの、生産ロスが増えることから、8~160(mm)であることが好ましく、11~100(mm)であることがより好ましい。また、シリンダ(円筒状シリンダ)の内径Dと長さLの比である、L/D比は、大きい値の場合、装置内滞留時間が長いことから生産ロスが増量し、小さい値の場合は装置内滞留時間が短くなることからフィラーの分散性不良が起こりやすいことから、7.2~40であることが好ましい。また、シリンダ(円筒状シリンダ)とニーディングディスク間のクリアランス最小値cは剪断力の高い0.1~2(mm)であることが好ましく、0.15~1(mm)であることがより好ましい。
【0056】
また、送り用スクリュセグメント長:Lfと混練用スクリュセグメント長:Lの比である、Lf/Lは、0.1~10であることが好ましい。
【0057】
スクリュ及びシリンダ内面の材質は、一般的な金属材料が使用可能であるが、無機粒子による摩耗があることから、高強度の金属を用いることが好ましく、硬質クロムめっき、特殊鋼を熱処理した合金、イオン窒化鋼、タングステンが主な合金である超硬合金を用いることがより好ましい。
【0058】
3-2.混練条件
混練工程では、前記粉体原料及び前記液体原料を、夫々所定の供給速度(単位:g/分)であって、単位間供給される前記粉体原料及び前記液体原料の合計量中における各構成成分の量がペースト状重合硬化性組成物の所定の組成となるような供給速度で最上流に配置された前記フィードゾーン:FZに供給して混練を行う。具体的には、粉体原料は定量供給ホッパーを用いて供給し、液体原料は定量ポンプを用いて供給する。投入口が詰まることなく安定した配合比の供給が可能であれば、粉体原料と液体原料の供給の順番に関して特に限定はないが、粉体原料の方が定量供給及び定量送り出しがし易く、安定した配合比のペースト状重合硬化性組成物が製造可能であるため、粉体原料を上流側で供給することが好ましい。さらに、粉体原料が液体原料と混合される前に密の状態になり馴染みにくくなる前に混合可能とするため、粉体原料と液体原料の投入間隔が狭いほどより好ましい。各原料の供給速度は、同方向回転二軸混練機に供給される原料の総質量(単位:g)を前記同方向回転二軸混練機から押し出される混練物の押出速度(単位:g/分)で除した滞在時間(単位:分)と、ペースト状重合硬化性組成物及び粉体原料と液体原料の各組成に基づいて決定される。混練物の押出速度は、後述するスクリュの回転速度に依存するが、3分~30分とすることが好ましい。また、前記粉体原料が、走査型電子顕微鏡を用いて測定した平均1次粒子径が0.1~1.0μmである微細無機フィラーを20質量%以上で含む場合には、単位時間に前記同方向回転二軸混練機内へ供給される前記微細無機フィラーの量が200~500質量部となる範囲内の所定の量となるように、前記粉体原料の供給速度及び前記液体原料供給速度を制御することが好ましい。
【0059】
また、混練工程においては、前記ニーディングゾーン:KZのバレル温度を25℃~45℃として混練を行う必要がある。上記温度が25℃未満の場合には結露することによる重合阻害が起こり、混練したペーストの重合硬化性が低下することとなり、45℃を超える場合には混練中に重合硬化が始まり、混練不良となる。このような温度制御はバレル外部を水冷することにより行うことができる。
【0060】
さらに、混練に際しては、混練時におけるスクリュの回転速度:N(単位:rpm)が下記条件(I)を満足するようにする必要がある。
3A/η ≦ N ≦ 250A/η ・・・(I)
なお上記条件(I)において、Aは、下記式:
A={(60・c×10)/(D・π)}(単位:Pa)
によって求められる値(装置定数)を意味し、上記式におけるDは、前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダ内径(直径)(単位:mm)を意味し、cは、前記ニーディングゾーン:KZにおける、前記円筒状シリンダ内壁とニーディングスクリュー間のクリアランス最小値(単位:mm)を意味し、πは円周率を意味する。
【0061】
なお、上記条件は(I)は前記したように、下記式(II):
Τ={(π・D・N・η)/(60・c)}×10-3 ・・・(II)
においてη=ηとして求められる剪断応力度:Τ(単位:kPa)が3~250kPaとなることと同義である。剪断応力度が低い場合には分散不十分となり安定した充填率のペーストを得ることができず、剪断応力度が高い場合には混練時における局所的な発熱によって混練後に残存する熱重合開始剤が失活して重合硬化性が低下するという理由から上記Τが6~200kPa、特に10~100kPaとなるようにすることが好ましい。なお、Τが6~200kPaの場合における回転数Nは、6A/η ≦ N ≦ 200A/ηの条件を満足することになり、Τが10~100kPaの場合における回転数Nは、10A/η ≦ N ≦ 100A/ηの条件を満足することになる。
【実施例0062】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0063】
1.原材料について
実施例及び比較例で用いた原材料についてその略号及び物性等を以下に示す。
【0064】
(A) 重合性単量体
・UDMA: 1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・TEGGMA: トリエチレングリコールジメタアクリレート
・NPG: ネオペンチルグリコールジメタクリレート
・bis-GMA: 2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン。
【0065】
(B) 重合開始剤
・BPO: ベンゾイルパーオキサイド。
【0066】
(C) 無機粒子
C1 平均粒子径が12μmである有機無機複合フィラー(平均粒径0.2μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物83質量%含有物。有機成分は後述するM1の硬化体である。)
C2 平均粒径0.2μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物
C3 平均粒径3.0μm不定形シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物
C4 平均粒径1.0μm不定形シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物。
【0067】
なお、上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)および一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により算出した値である。
【0068】
【数1】
【0069】
2.液体原料及び粉体原料
(1)液体原料
実施例及び比較例では、下記組成を有する重合性単量体組成物M1~M3を液体原料として使用した。
・M1: UDMA:70質量部、TEGGMA:30質量部、及びBPO:1.0質量部
・M2: UDMA:60質量部、TEGGMA:20質量部、bis-GMA:20質量部、及びBPO:1.0質量部
・M3: UDMA:50質量部、NPG:50質量部。及びBPO:1.0質量部
(2)粉体原料
実施例及び比較例では、下記組成を有する粉体組成物F1~F5を粉体原料として使用した。
・F1: C1:50質量部及びC2:50質量部
・F2: C2:30質量部及びC3:70質量部
・F3: C2:80質量部及びC4:20質量部
・F4: C1:30質量部及びC2:70質量部
・F5: C4:100質量部
【0070】
3.混練装置について
実施例及び比較例では、混練装置として、同方向回転二軸混練機である装置1~5を使用した。これら装置1及び装置3~5は、図1及び図3に示すスクリュセグメントの基本構成を有する1対のスクリュを用いた同方向回転二軸混練機であり、装置2は、図2及び図3に示すスクリュセグメントの基本構成を有する1対のスクリュを用いた同方向回転二軸混練機である。何れも粉体原料供給用の定量供給ホッパー及び液体原料供給用定量ポンプを具備し、図において下向き矢印示すFZに粉体原料及び液体原料を(粉体原料を液体原料よりもやや上流側に)供給できるようになっている点では共通しているが、使用するスクリュにおける混練用セグメントのニーディングディスク(混練部エレメント部材)の形状、円筒シリンダの直径(mm):D、円筒シリンダ内壁とニーディングディスク間のクリアランス最小値(mm):cが夫々下表1に示すようなものとなっている。
なお、図1及び図2における「FZ」は送り用スクリュセグメントを、「KZ」は混練用スクリュセグメントを、「EZ」は、押出用スクリュセグメントを、夫々表している。また、図1及び図2における「KZ」の下に表記される30°、60°及び90°の表記は、図3に示されるように、これら表記がされている「KZ」において隣接して配置される(前後2枚の)ニーディングディスクの位相差を表している。また、表1には、{(c×10)/(D・π)}(単位:Pa)によって求められるA値(装置定数)も併せて表記している。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1
(1)製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物について
製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物をバッチ法で別途調製し、その粘弾性特定の確認と硬化体の評価を行った。具体的には、重合性単量体組成物:M1と粉体組成物:F1とを、F1の組成物全体の質量占める無機粒子全体の質量の割合(無機充填率)が72質量%になるように、M1:100質量部に対してF1:257質量部を、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合し、製造目的物となるペースト状重合硬化性組成物を調製した。次いで、調製された上記性組成物の粘度、ダイラタンシー性指数、及び硬化体の曲げ強さ以下の方法により測定した。
【0073】
(1-1)粘度測定
パラレルプレートを用いた回転粘度計であるModular Compact Rheometer MCR302(Anton Paar製)を用いて、次のようにして温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η(単位:Pa・s)を測定した。すなわち、先ずアルミ製ディスポーザブル試料台を装置本体に設置後、試料台の温度を30℃に調節した。試料台の温度が安定した後、試料台に試料となるペースト状重合硬化性組成物0.7gを試料台にとり、ペーストの厚みが1mmとなるように、装置本体に接続したパラレルプレート(φ20mm、R=10mm)で圧接する。この状態で1分間静置した後、測定ソフトウェアRheoCompass(Anton Paar製)を用いて、剪断速度を毎分1回転で走査して、熱重合硬化性組成物のペースト粘度η(Pa・s)を得た。その結果、上記粘度ηは16.6Pa・sであった。
【0074】
(1-2)ダイラタンシー性指数測定
上記と同様にして試料をパラレルプレート(φ20mm、R=10mm)で圧してから1分間静置した後に、測定ソフトウェアRheoCompass(Anton Paar製)を用いて、剪断速度を毎分1回転と毎分10回転の走査を行い、1rpmで測定されるトルク:M(単位:Pa・m)及び10rpmで測定されるトルク(単位:Pa・m):M10から下記式(III)
τ={4M/(3πR)}×10 ・・・(III)
により、それぞれ対応する断応力(単位:kPa)τ及びτ10をそれぞれ求め、得られた値に基づきτ10/τで定義されるダイラタンシー性指数を求めた。その結果、ダイラタンシー性指数は8.2であった。
【0075】
(1-3)硬化体の曲げ強さ測定
混練方法が及ぼす硬化体物性への影響を調べるために、上記ペースト状重合硬化性組成物を真空脱泡し、角柱状のポリプロピレン製の成形型(14×18×150mm)へ気泡を巻き込まないように填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPa、100℃、15時間の条件で加熱加圧重合を行った。成形型から硬化体組成物を取り出し、歯科切削加工用ブランクを得た。得られた歯科用切削加工用レジン材料又は硬化性組成物の硬化体から、1.2mm×4.0mm×18mmの試験片を切り出し、試験片の各面をP2000の耐水研磨紙で仕上げた。作製した試験片を用いて、万能試験機オートグラフ(島津製作所製)を用いて、室温大気中、支点間距離12.0mmクロスヘッドスピード1.0mm/minの条件で、4.0mm×18mmの面に対して三点曲げ試験を行い、曲げ強さ(単位:MPa)を下記式より算出した。
曲げ強さ=3FS/(2bh
なお、上記式におけるFは試験片に加えられた最大荷重(単位:N)を表し、Sは支点間距離(単位:mm)を表し、bは試験直前に測定した試験片の幅(単位:mm)を表し、hは、試験直前に測定した試験片の厚さ(単位:mm)を表す。
試験片各10個について測定を行い、得られた曲げ強さの平均値をバッチ法調製物の曲げ強さ(基準値)としたところ、基準値は、219MPaであった。
【0076】
(2)同方向回転二軸混練機を用いた連続混練法によるペースト状重合硬化性組成物の調製(原料準備工程及び混練工程)
重合性単量体組成物:M1からなる液体原料と粉体組成物:F1からなる粉体原料を準備し、同方向回転二軸混練機である装置1を用いて、充填率が72質量%になるように、供給速度が液体原料:1.12(g/分)及び粉体原料:2.88(g/分)で供給すると共に、スクリュ回転数をN=100rpmとして、装置内滞留時間8分で混練を行ったところ混練は可能であり(ペーストとして吐出され)、ペースト状重合硬化性組成物を得ることができた。混練に際してはKZのバレル外部を30℃で水冷することにより設定し、30℃に温度が安定したことを確認した後に混練を行った。なお、上記N並びに前記η、D、及びcの各値に基づき下記式:
Τ={(π・D・N・η)/(60・c)}×10-3
によって求められる二軸混練機内の剪断応力度:Tは、6.4kPaとなる。
【0077】
また、バレル温度と吐出ペーストの温度差を測定し、吐出ペーストが発熱を確認することで、混練時に局所的な発熱が発生しているか評価することが可能であることから、混練の吐出開始10分後の各吐出ペーストの吐出直後のペースト温度を測定し、バレル温度との温度差を評価したところ、温度差は無かった(0℃であった)。
【0078】
(3)連続混練法で得られたペースト状重合硬化性組成物の評価
得られたペースト状重合硬化性組成物中について、粘弾性特性の評価、無機粒子の分散状態評価、無機充填率の評価、および得られたペースト状重合硬化性組成物の硬化体の曲げ強さ測定を行った。具体的な測定方法と結果を以下に示す。
【0079】
(3-1)粘弾性特性の評価
(1-1)および(1-2)と同様にして上記粘度η及びダイラタンシー性指数の測定を行ったところ、これら値はバッチ法で調製した場合と同等であった。
【0080】
(3-2)無機粒子の分散状態評価
硬化体を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して無機粒子の凝集物の数を調べることにより無機粒子の分散状態評価を行った。具体的には、吐出ペーストを真空脱泡し、10mm×12mm×14mmの金型に充填し、填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPa、100℃、15時間の条件で加熱加圧重合を行った。取り出した硬化体から14mm×12mm×1mmの固体試料を切り出し、走査SEM測定用固体試料を作製した。次いで、SEMで上記硬化体試料のフィラー写真を倍率500倍で撮り、その視野内の無機粒子について観察した際にフィラー凝集物(添加している無機粒子より径が大きいもの)の個数を数え、ペースト内に残存する無機粒子の凝集物の数を評価した。その結果、凝集物は観察されなかった(凝集物数は0であった)。
【0081】
(3-3)無機充填率の評価
ムラなく安定した無機充填率のものが得られているかどうかを確認する目的で、混練の吐出開始10分後から2分毎に採取したペースト3点の充填率を測定し、最も充填率が高い値と最も充填率が低い値の差を充填率差(%)として求めたところ、1.2%であった。
なお、充填率の測定は、各吐出ペーストを示差熱-熱重量同時測定装置「TG/DTA6300」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、以下の手順で行った。すなわち、0.02gの吐出ペーストをアルミパンに入れて試料とした。昇温速度を5℃/min、上限温度500℃、上限温度係留時間90分のスケジュールで加熱を行って、質量減少量を測定した。得られた重合性単量体成分と重合開始剤(有機物成分)の質量減少量を用いて、無機粒子と有機物成分の比率を求め、無機粒子100質量部に対する有機物成分(質量部)を算出した。また示差熱-熱重量同時測定のリファレンスには、0.02gの酸化アルミニウムを用いた。
【0082】
(3-4)曲げ強さ測定
得られたペースト状重合硬化性組成物を用い、(1-3)と同様にして連続法調製物の曲げ強さ(基準値)としたところ、バッチ法調製物の曲げ強さ(基準値)と同じ219MPaであった。
【0083】
実施例2~25及び比較例1~5
(1)製造目的物であるペースト状重合硬化性組成物について
実施例1において使用する重合性単量体組成物の種類、粉体組成物の種類及び無機充填率を表2に示すように変えたものを各実施例及び比較例における製造目的物とした。また、実施例1と同様にしてバッチ法で製造目的物となるペースト状重合硬化性組成物を調製し粘度η及びダイラタンシー性指数、曲げ強さ(基準値)の測定を行った。結果を合わせて表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
(2)同方向回転二軸混練機を用いた連続混練法によるペースト状重合硬化性組成物の調製(原料準備工程及び混練工程)
実施例1において使用する同方向回転二軸混練機を表3に示すものに変更し、更に使用する液体原料の種類を(表2に示した)製造目的物に対応する重合性単量体組成物及び粉体組成物に変更すると共に、これらを所定の無機充填率となるような共速度で供給し、更に混練条件を表3に示すようにして混練を行ったところ、比較例4を除いて混練可能(ペーストの吐出が可能)であった。
【0086】
【表3】
【0087】
(3)連続混練法で得られたペースト状重合硬化性組成物の評価
実施例1と同様にして連続混練法で得られたペースト状重合硬化性組成物の評価を行った。結果を、混練の可否結果と合わせても表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示されるように、粘度ηが10~100Pa・sであり、混練時の二軸混練機内の剪断応力が3~250kPa以内である実施例1~25では、バッチ法で調製したペースト状重合硬化性組成物と同等のペースト状重合硬化性組成物が得られている。
【0090】
これに対し、粘度が低い組成である比較例1、及び剪断応力度の低い条件である比較例2では、ペースト内に無機粒子の凝集物が複数残存していることが観察され、また、充填率差が大きいことから安定した混練が出来ていない。さらに、これら比較例では、曲げ強さが基準値と比較して大きく低下している結果となっている。これは、無機粒子の凝集物が複数残存することで無機粒子の凝集物が起点となって破壊が起こり、曲げ強さが低下したものと考えられる。
【0091】
また、逆送り傾斜タイプの混練スクリュセグメントニーディングディスクで構成されている装置5を用いた比較例3と45℃を超えたバレル温度である比較例5は下流側にペーストが送られず、装置内でペーストの温度上昇が起こったことにより重合し、ペーストとして吐出されなかった。
【0092】
また、15℃より低いバレル温度である比較例4は下流側にペーストとして送られる際に、急激に冷却されることで水分が発生し、ペースト内に水分が含まれ、重合阻害が起こり、曲げ強さにおいて表2に示す曲げ強さ(基準値)より値が大きく低下している結果であった。
図1
図2
図3