(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131842
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 25/12 20060101AFI20230914BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20230914BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C08L25/12
C08L51/04
C08L53/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036820
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 成季
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC06W
4J002BN12Y
4J002BN14Y
4J002BN15Y
4J002BP03X
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐衝撃性、発色性、光沢性に優れ、しかも、流動配向による衝撃強度のバラツキが抑制された成形品が得られ、流動性に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその成形品の提供。
【解決手段】ゴム含有グラフト共重合体(A)15~50質量%、ビニル系共重合体(B)20~80質量%及びアクリル系ブロック共重合体(C)5~30質量%を含み、前記(A)は体積平均粒子径が50~300nmのゴム質重合体20~70質量%に、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物30~80質量%をグラフト重合してなり、前記(B)は芳香族ビニル系単量体60~85質量%及びシアン化ビニル系単量体15~40質量%を含む単量体混合物を共重合してなり、前記(C)はアクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック60~95質量%及びメタクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック5~40質量%を含む熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム含有グラフト共重合体(A)15~50質量%と、ビニル系共重合体(B)20~80質量%と、アクリル系ブロック共重合体(C)5~30質量%とを含む熱可塑性樹脂組成物(ただし、前記ゴム含有グラフト共重合体(A)と前記ビニル系共重合体(B)と前記アクリル系ブロック共重合体(C)との合計が100質量%である。)であって、
前記ゴム含有グラフト共重合体(A)は、体積平均粒子径が50~300nmであるゴム質重合体(a1)20~70質量%に、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(a2)30~80質量%をグラフト重合したグラフト共重合体であり(ただし、前記ゴム質重合体(a1)と前記ビニル系単量体混合物(a2)との合計が100質量%である。)、
前記ビニル系共重合体(B)は、ゴム質重合体の非存在下、芳香族ビニル系単量体60~85質量%及びシアン化ビニル系単量体15~40質量%を含むビニル系単量体混合物(b2)を共重合した共重合体であり、
前記アクリル系ブロック共重合体(C)は、アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック(Ca)と、メタクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック(Cm)とを含むブロック共重合体であり、前記アクリル系ブロック共重合体(C)の総質量に対して、前記重合体ブロック(Ca)の割合が60~95質量%であり、前記重合体ブロック(Cm)の割合が5~40質量%である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分100質量%中の窒素元素の割合が1.0~10.0質量%である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体(ASA樹脂)等に代表されるスチレン系樹脂を用いた成形品は、耐衝撃性に優れることが知られている。
例えば特許文献1には、耐衝撃性等に優れる熱可塑性樹脂組成物として、アクリル酸エステル系ゴムの粒子径が異なる2種類のAES樹脂と、芳香族ビニル系単量体及びアルキル(メタ)アクリレート系単量体を共重合した共重合体(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の熱可塑性樹脂組成物は耐衝撃性、流動性等の性能についてはある程度発現できるものの、成形品の外観に影響が大きい発色性、光沢性については必ずしも満足できるものではない。また、樹脂の流動配向による衝撃強度にバラツキがみられるため、成形品の形状によっては耐衝撃性が十分に発現されにくくなる。
本発明は、耐衝撃性、発色性、光沢性に優れ、しかも、流動配向による衝撃強度のバラツキが抑制された成形品が得られ、流動性に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] ゴム含有グラフト共重合体(A)15~50質量%と、ビニル系共重合体(B)20~80質量%と、アクリル系ブロック共重合体(C)5~30質量%とを含む熱可塑性樹脂組成物(ただし、前記ゴム含有グラフト共重合体(A)と前記ビニル系共重合体(B)と前記アクリル系ブロック共重合体(C)との合計が100質量%である。)であって、
前記ゴム含有グラフト共重合体(A)は、体積平均粒子径が50~300nmであるゴム質重合体(a1)20~70質量%に、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(a2)30~80質量%をグラフト重合したグラフト共重合体であり(ただし、前記ゴム質重合体(a1)と前記ビニル系単量体混合物(a2)との合計が100質量%である。)、
前記ビニル系共重合体(B)は、ゴム質重合体の非存在下、芳香族ビニル系単量体60~85質量%及びシアン化ビニル系単量体15~40質量%を含むビニル系単量体混合物(b2)を共重合した共重合体であり、
前記アクリル系ブロック共重合体(C)は、アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック(Ca)と、メタクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック(Cm)とを含むブロック共重合体であり、前記アクリル系ブロック共重合体(C)の総質量に対して、前記重合体ブロック(Ca)の割合が60~95質量%であり、前記重合体ブロック(Cm)の割合が5~40質量%である、熱可塑性樹脂組成物。
[2] 前記熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分100質量%中の窒素元素の割合が1.0~10.0質量%である、前記[1]の熱可塑性樹脂組成物。
[3] 前記[1]又は[2]の熱可塑性樹脂組成物を用いた、成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐衝撃性、発色性、光沢性に優れ、しかも、流動配向による衝撃強度のバラツキが抑制された成形品が得られ、流動性に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1で得られた熱可塑性樹脂組成物(1)の成形品(1)の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【
図2】実施例2で得られた熱可塑性樹脂組成物(1)の成形品(1)の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【
図3】実施例3で得られた熱可塑性樹脂組成物(1)の成形品(1)の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【
図4】実施例4で得られた熱可塑性樹脂組成物(1)の成形品(1)の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【
図5】比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物(1)の成形品(1)の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「成形品」とは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。
「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0009】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、以下に示すゴム含有グラフト共重合体(A)(以下、「成分(A)」ともいう。)と、ビニル系共重合体(B)(以下、「成分(B)」ともいう。)と、アクリル系ブロック共重合体(C)(以下、「成分(C)」ともいう。)とを含む。
熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、成分(A)、成分(B)及び成分(C)以外の成分(以下、「任意成分」ともいう。)をさらに含んでいてもよい。
【0010】
<ゴム含有グラフト共重合体(A)>
成分(A)であるゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a1)の存在下に、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(a2)をグラフト重合したグラフト共重合体である。
なお、ゴム含有グラフト共重合体(A)においては、ゴム質重合体(a1)にビニル系単量体混合物(a2)がどのように重合しているか特定することは容易ではない。すなわち、グラフト共重合体(A)については、その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。したがって、グラフト共重合体(A)は「ゴム質重合体(a1)にビニル系単量体混合物(a2)がグラフト重合した」と規定することがより適切とされる。
【0011】
(ゴム質重合体(a1))
ゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(a1)としては特に限定されないが、例えばジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが挙げられ、具体的にはポリブタジエン、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(ブタジエン-アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸メチル)、ポリアクリル酸ブチル、ポリ(ブタジエン-メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン-アクリル酸エチル)、エチレン-プロピレンラバー、エチレン-プロピレン-ジエンラバー、ポリ(エチレン-イソブチレン)、ポリ(エチレン-アクリル酸メチル)、ポリ(エチレン-アクリル酸エチル)などが挙げられる。これらの中でも、成形品の耐衝撃性がより向上する観点から、ポリブタジエン、ポリアクリル酸ブチル、ポリ(ブタジエン-スチレン)が好ましい。
これらのゴム質重合体(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は、50~300nmであり、60~200nmが好ましく、70~150nmがより好ましい。ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径が上記範囲内であれば、成形品の耐衝撃性及び発色性が向上する。加えて、熱可塑性樹脂組成物の流動性及び成形加工性が向上する。
ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は、ゴム質重合体(a1)を水に分散させた後、レーザー回析、散乱方式の粒度分布測定器を用いて室温(20℃)で体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布から算出される累積頻度50%の粒径(メジアン径:D50)である。
ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は、ゴム質重合体(a1)の製造時の重合条件(温度、時間など)、モノマーの種類とその配合割合などを調整することで制御できる。
【0013】
ゴム質重合体の製造方法としては特に制限されないが、粒子径の制御が容易であることから乳化重合で製造することが好ましい。乳化重合は公知の方法が適用でき、使用する触媒、乳化剤等は特に制限なく、各種のものが使用できる。
【0014】
(ビニル系単量体混合物(a2))
ゴム含有グラフト共重合体(A)を構成するビニル系単量体混合物(a2)は、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む。ビニル系単量体混合物(a2)は、必要に応じて芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0015】
芳香族ビニル系単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、o-エチルスチレン、o-クロロスチレン、o,p-ジクロロスチレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
これらの芳香族ビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
シアン化ビニル系単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でもアクリロニトリルが好ましい。
これらのシアン化ビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
他の単量体は、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と共重合可能なビニル系単量体である。
他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体;N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物;(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸が好ましい。
これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ビニル系単量体混合物(a2)中の各単量体の割合は、ビニル系単量体混合物(a2)の総質量に対して、好ましくは芳香族ビニル系単量体の割合が50~95質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合が5~50質量%であり、より好ましくは芳香族ビニル系単量体の割合が65~85質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合が15~35質量%であり、さらに好ましくは芳香族ビニル系単量体の割合が72~80質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合が20~28質量%である。各単量体の割合が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上するとともに、得られる成形品の外観及び衝撃強度もより良好となる。
また、他の単量体の割合は、ビニル系単量体混合物(a2)の総質量に対して、0~30質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましい。
【0019】
(グラフト率)
ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率は特に制限されないが、30~120質量%が好ましく、50~110質量%がより好ましく、55~100質量%がさらに好ましい。ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率が上記範囲内であれば、成形品の耐衝撃性がより向上する。
【0020】
なお、グラフト率とは、ゴム質重合体(a1)にグラフト重合したビニル系単量体混合物(a2)の質量(Wa)を、ゴム質重合体(a1)の質量(Wd)に対する百分率((Wa/Wd)×100)で示した値のことであるが、一般的には、グラフト重合後に得られたゴム含有グラフト共重合体(A)のアセンン不溶分から以下のようにして算出できる。
ゴム含有グラフト共重合体(A)にアセトンを加えて25℃で2時間振とうし、アセトン可溶分を抽出する。ついで、アセトン不溶分を濾過、乾燥させて質量を測定し、下記式(1)によりグラフト率を求める。なお、下記式(1)において、「m」は抽出前のグラフト共重合体(A)の質量(g)であり、「n」はアセトン不溶分の質量(g)であり、「L」はゴム含有グラフト共重合体(A)のゴム含有率、すなわちゴム質重合体(a1)の質量(質量%)である。ゴム含有グラフト共重合体(A)のゴム含有率は、重合処方及び重合添加率から算出する方法、赤外線吸収スペクトルより求める方法などから求めることができる。
グラフト率(%)={(n-m×L)/(m×L)}×100 ・・・(1)
【0021】
(製造方法)
ゴム含有グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a1)20~70質量%の存在下に、ビニル系単量体混合物(a2)30~80質量%をグラフト重合して得られる。ただし、ゴム質重合体(a1)とビニル系単量体混合物(a2)との合計が100質量%である。
ゴム質重合体(a1)の割合が20質量%以上であり、ビニル系単量体混合物(a2)の割合が80質量%以下であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。ゴム質重合体(a1)の割合が70質量%以下であり、ビニル系単量体混合物(a2)の割合が30質量%以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。加えて、成形品の光沢性が向上する。
ゴム質重合体(a1)の割合は、耐衝撃性と成形性の観点から、25~65質量%が好ましく、28~60質量%がより好ましい。ビニル系単量体混合物(a2)の割合は、35~75質量%が好ましく、40~72質量%がより好ましい。
【0022】
このようにして得られるグラフト共重合体(A)は、ビニル系単量体混合物(a2)を重合することによって得られるビニル系共重合体がゴム質重合体(a1)にグラフトされた形態を有している。
なお、ゴム含有グラフト共重合体(A)は、ビニル系単量体混合物(a2)の全量がグラフトしている必要はなく、通常はグラフトしていないビニル系単量体混合物(a2)の共重合体との混合物として得られたものを使用する。この混合物は本来、組成物であるが、本発明においては、ゴム含有グラフト共重合体(A)に含まれるものとする。したがって、成分(A)は、「ゴム含有グラフト共重合体組成物(A)」又は「ゴム含有グラフト共重合体含有物(A)」と言い換えてもよい。
【0023】
グラフト重合を行う方法としては特に制限はなく、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、連続溶液重合法又はこれらを複合した方法等の公知の重合方法をいずれも適用できる。これらの中でも、ゴム含有グラフト共重合体(A)は、乳化重合法又は塊状重合法で製造されることが好ましい。ゴム含有グラフト共重合体(A)中の乳化剤含有量、水分量を調整しやすいという点から、ゴム含有グラフト共重合体(A)は乳化重合法で製造されることが最も好ましい。
【0024】
乳化重合には、通常、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤が用いられる。
ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率は、ゴム質重合体(a1)及びビニル系単量体混合物(a2)の仕込み量、重合開始剤及や乳化剤の使用量により調整できる。
乳化重合に用いられる重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤としては特に限定されず、乳化重合に一般的に用いられるものを使用できる。
【0025】
ゴム含有グラフト共重合体(A)は、通常、ラテックスの状態で得られる。ゴム含有グラフト共重合体(A)のラテックスからゴム含有グラフト共重合体(A)を回収する方法としては、例えばゴム含有グラフト共重合体(A)のラテックスを、硫酸等の凝固剤を溶解させた熱水中に投入することによってスラリー状に凝析する湿式法;加熱雰囲気中にゴム含有グラフト共重合体(A)のラテックスを噴霧することによって半直接的にゴム含有グラフト共重合体(A)を回収するスプレードライ法などが挙げられる。
なお、湿式法を用いると、スラリー状のゴム含有グラフト共重合体(A)が得られる。このスラリー状のゴム含有グラフト共重合体(A)から乾燥状態のゴム含有グラフト共重合体(A)を得る方法としては、まず残存する乳化剤残渣を水中に溶出させて洗浄し、次いで、このスラリーを遠心又はプレス脱水機等で脱水した後に気流乾燥機等で乾燥する方法;圧搾脱水機や押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。かかる方法によって、粉体又は粒子状のゴム含有グラフト共重合体(A)が得られる。
ゴム含有グラフト共重合体(A)は1種のみを用いてもよく、単量体組成やグラフト率等の異なるゴム含有グラフト共重合体(A)の2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
<ビニル系共重合体(B)>
成分(B)であるビニル系共重合体(B)は、ゴム質重合体の非存在下、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(b2)を共重合した共重合体である。ビニル系単量体混合物(b2)は、必要に応じて芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)を含んでいてもよい。
すなわち、ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体単位と、シアン化ビニル系単量体単位と、必要に応じて他の単量体単位とを有する共重合体である。
【0027】
ビニル系単量体混合物(b2)に含まれる芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び他の単量体としては、それぞれ、ゴム含有グラフト共重合体(A)の説明において先に例示した、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及び他の単量体と同様な化合物を使用することができ、好ましい態様も同様である。
【0028】
(割合)
ビニル系単量体混合物(b2)中の各単量体の割合は、ビニル系単量体混合物(b2)の総質量に対して、芳香族ビニル系単量体の割合が60~85質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合が15~40質量%であり、好ましくは芳香族ビニル系単量体の割合が65~85質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合が15~35質量%であり、より好ましくは芳香族ビニル系単量体の割合が75~80質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合が20~25質量%である。各単量体の割合が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上するとともに、得られる成形品の外観もより良好となる。
また、他の単量体の割合は、ビニル系単量体混合物(b2)の総質量に対して、0~30質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましい。
【0029】
(分子量)
ビニル系共重合体(B)の質量平均分子量(Mw)は、50,000~400,000が好ましく、70,000~300,000がより好ましく、80,000~200,000がさらに好ましい。
また、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表されるビニル系共重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.3~2.8が好ましく、1.8~2.6がより好ましく、1.9~2.4がさらに好ましい。
ビニル系共重合体(B)のMw及びMnは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0030】
(製造方法)
ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体と、シアン化ビニル系単量体と、必要に応じて他の単量体とを共重合することにより製造できる。
重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合又はこれらを複合した方法等の公知の重合方法をいずれも適用できる。
ビニル系共重合体(B)は1種のみを用いてもよく、単量体組成や分子量等の異なるビニル系共重合体(B)の2種類以上を混合して用いてもよい。
【0031】
<アクリル系ブロック共重合体(C)>
成分(C)であるアクリル系ブロック共重合体(C)は、アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック(Ca)と、メタクリル酸エステル単量体単位を含む重合体ブロック(Cm)とを含むブロック共重合体である。
アクリル系ブロック共重合体(C)は、必要に応じて、重合体ブロック(Ca)及び重合体ブロック(Cm)以外の重合体ブロック(Co)を含んでいてもよい。
【0032】
(重合体ブロック(Ca))
重合体ブロック(Ca)は、アクリル酸エステル単量体単位を含む。重合体ブロック(Ca)は、必要に応じてアクリル酸エステル単量体以外の単量体(他の単量体)単位を含んでいてもよい。なお、重合体ブロック(Ca)は、メタクリル酸エステル単量体単位は含まない。
アクリル酸エステル単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸n-ブチルがより好ましい。
これらのアクリル酸エステル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
他の単量体としては、アクリル酸エステル単量体と共重合可能であれば特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体などが挙げられる。
これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
重合体ブロック(Ca)を構成する全ての単量体単位の総質量に対して、アクリル酸エステル単量体単位の割合は、60~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
重合体ブロック(Ca)を構成する全ての単量体単位の総質量に対して、他の単量体単位の割合は、0~40質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましく、他の単量体単位を実質的に含まないことが特に好ましい。
本明細書において、「実質的に含まない」とは、意図せずして含むものを除き、積極的に配合しないことを意味する。
【0035】
(重合体ブロック(Cm))
重合体ブロック(Cm)は、メタクリル酸エステル単量体単位を含む。重合体ブロック(Cm)は、必要に応じてメタクリル酸エステル単量体以外の単量体(他の単量体)単位を含んでいてもよい。なお、重合体ブロック(Cm)は、アクリル酸エステル単量体単位は含まない。
メタクリル酸エステル単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
これらのメタクリル酸エステル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
他の単量体としては、メタクリル酸エステル単量体と共重合可能であれば特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体などが挙げられる。
これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
重合体ブロック(Cm)を構成する全ての単量体単位の総質量に対して、メタクリル酸エステル単量体単位の割合は、60~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
重合体ブロック(Cm)を構成する全ての単量体単位の総質量に対して、他の単量体単位の割合は、0~40質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましく、他の単量体単位を実質的に含まないことが特に好ましい。
【0038】
(重合体ブロック(Co))
重合体ブロック(Co)は、アクリル酸エステル単量体単位及びメタクリル酸エステル単量体単位を含まず、これら以外の単量体(他の単量体)単位を含む。
他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体などが挙げられる。
これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(割合)
アクリル系ブロック共重合体(C)中の各重合体ブロックの割合は、アクリル系ブロック共重合体(C)の総質量に対して、重合体ブロック(Ca)の割合が60~95質量%であり、重合体ブロック(Cm)の割合が5~40質量%であり、好ましくは重合体ブロック(Ca)の割合が65~90質量%であり、重合体ブロック(Cm)の割合が10~35質量%であり、より好ましくは重合体ブロック(Ca)の割合が70~90質量%であり、重合体ブロック(Cm)の割合が10~30質量%である。各重合体ブロックの割合が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂組成物の流動性が向上するとともに、得られる成形品の耐衝撃性、光沢性が向上する。
また、重合体ブロック(Co)の割合は、アクリル系ブロック共重合体(C)の総質量に対して、0~30質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましい。
【0040】
(分子量)
アクリル系ブロック共重合体(C)の質量平均分子量(Mw)は、20,000~200,000が好ましく、40,000~120,000がより好ましく、50,000~95,000がさらに好ましい。
また、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表されるアクリル系ブロック共重合体(C)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.7がより好ましい。アクリル系ブロック共重合体(C)の分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下であれば、ゴム質含有グラフト共重合体(A)の分散性、凝集性にバラつきが生じにくくなり、成形品の耐衝撃性及び光沢性がより向上する。
アクリル系ブロック共重合体(C)のMw及びMnは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0041】
(製造方法)
アクリル系ブロック共重合体(C)は、例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法等により得られる。
アクリル系ブロック共重合体(C)は1種のみを用いてもよく、単量体組成や分子量等の異なるアクリル系ブロック共重合体(C)の2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
こうして得られるアクリル系ブロック共重合体(C)は、重合体ブロック(Ca)をA、重合体ブロック(Cm)をBとした場合、AB型ジブロック共重合体であってもよいし、ABA型トリブロック共重合体であってもよいし、BAB型トリブロック共重合体であってもよい。成形品の耐衝撃性がより向上する観点から、ABA型又はBAB型トリブロック共重合体が好ましい。
【0043】
<任意成分>
任意成分としては、各種の添加剤、その他の樹脂などが挙げられる。
添加剤としては、例えばヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系等の紫外線吸収剤;有機ニッケル系、ヒンダードアミン系等の光安定剤;高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類等の滑剤;フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の可塑剤;ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール-A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマー等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤;カーボンブラック、顔料、染料等の着色剤などが挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
その他の樹脂としては、例えばHIPS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAS樹脂等のゴム強化スチレン系樹脂(ただし、成分(A)を除く。)、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及びこれらの樹脂を相溶化剤や官能基等により変性したものなどが挙げられる。
これらのその他の樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
なお、本発明で用いられる必須成分や任意成分には、何れも、品質に問題がなければ、重合工程や加工工程、成形時等の工程回収品、市場から回収されたリサイクル品を用いることができる。
【0046】
<各成分の含有量>
成分(A)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計を100質量%としたときに、15~50質量%であり、20~45質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましい。成分(A)の含有量が上記下限値以上であれば、成形品の耐衝撃性及び光沢性が向上する。成分(A)の含有量が上記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となる。
【0047】
また、ゴム質重合体(a1)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、4~25質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、6~18質量%がさらに好ましい。ゴム質重合体(a1)の含有量が上記下限値以上であれば、成形品の耐衝撃性がより向上する。ゴム質重合体(a1)の含有量が上記上限値以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となる。加えて、成形品の光沢性がより向上する。
【0048】
成分(B)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計を100質量%としたときに、20~80質量%であり、30~72質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。成分(B)の含有量が上記範囲内であれば、成形品の耐衝撃性及び光沢性が向上する。特に、成分(B)の含有量が、上記下限値以上であれば熱可塑性樹脂組成物の流動性が向上し、上記上限値以下であれば熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となる。
【0049】
成分(C)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計を100質量%としたときに、5~30質量%であり、8~25質量%が好ましく、15~25質量%がより好ましい。成分(C)の含有量が上記下限値以上であれば、成形品の耐衝撃性、光沢性が向上する。また、流動配向による衝撃強度のバラツキを抑制できる。加えて、熱可塑性樹脂組成物の流動性が向上する。成分(C)の含有量が上記上限値以下であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。また、流動配向による衝撃強度のバラツキを抑制できる。
【0050】
成分(A)/成分(C)で表される質量比(以下、「A/C比」ともいう。)は、1~7が好ましく、1.1~5がより好ましく、1.2~3がさらに好ましい。A/C比が上記範囲内であれば、成分(A)と成分(C)との複合体が凝集しやすくなり、疑似的な大粒子が形成されやすくなり、耐衝撃性がより良好となる。
【0051】
また、成分(A)の含有量をm1、成分(B)の含有量をm2、成分(C)の含有量をm3としたとき、各含有量の相対的な関係は、m2>m1≧m3であることが好ましく、m2>m1>m3であることがより好ましい。
【0052】
<アセトン可溶分>
熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分は、各成分の配合量によって決まるものであり、熱可塑性樹脂組成物の流動性、成形品の耐衝撃性及び光沢性に影響しやすい。特に、アセトン可溶分中の窒素元素及び酸素元素の割合、これらの比率や、アセトン可溶分の質量平均分子量を制御することで、成形品の耐衝撃性がより向上する。
アセトン可溶分は、主に成分(B)、成分(C)、成分(A)の製造において副生する、グラフトしていないビニル系単量体混合物(a2)の共重合体などのポリマー成分である。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の抽出方法は、以下の通りである。
熱可塑性樹脂組成物にアセトンを加えて25℃で2時間振とうし、アセトン可溶分を抽出する。ついで、アセトン不溶分を濾過し、アセトン可溶分が溶解したアセトン溶液を得る。ついで、アセトン溶液をメタノールに滴下し、アセトン可溶分であるポリマー成分を析出させ、濾過してアセトン可溶分を取り出す。取り出したアセトン可溶分を乾燥して、熱可塑性樹脂組成物からアセトン可溶分であるポリマー成分を抽出する。
【0054】
アセトン可溶分100質量%中に存在する窒素元素(N)の割合は、1.0~10.0質量%が好ましく、4.0~8.0質量%がより好ましく、4.5~7.0質量%がさらに好ましく、4.8~5.8質量%が特に好ましい。アセトン可溶分中の窒素元素は、主に成分(B)に由来する元素である。
詳しくは後述するが、熱可塑性樹脂組成物中で成分(A)と成分(C)とにより複合体が形成され、この複合体が凝集することで疑似的な大粒子を形成する。
アセトン可溶分100質量%中の窒素元の割合が上記範囲内であれば、成分(C)が熱可塑性樹脂組成物中でドメインとして微分散しやすくなり、成分(A)と成分(C)との複合体の凝集物も微分散しやすくなり、連続相と微分相とのバランスが良好となり、その結果、成分(A)による耐衝撃性が発現されやすくなる。
【0055】
アセトン可溶分100質量%中に存在する酸素元素(O)の割合は、1.0~5.0質量%が好ましく、1.5~4.5質量%がより好ましく、1.8~4.0質量%がさらに好ましく、2.0~3.0質量%が特に好ましい。アセトン可溶分中の酸素元素は、主に成分(C)に由来する元素である。アセトン可溶分100質量%中の酸素元の割合が上記範囲内であれば、成分(C)が熱可塑性樹脂組成物中で微分散しやすくなり、成分(A)と成分(B)との複合体の凝集物も微分散しやすくなり、連続相と微分相とのバランスが良好となり、その結果、成分(A)による耐衝撃性が発現されやすくなる。
【0056】
また、アセトン可溶分中に存在する酸素元素(O)に対する窒素元素(N)の比率、すなわち、窒素元素(N)/酸素元素(O)で表される質量比(以下、「N/O比」ともいう。)は、1.5~7.5が好ましく、1.8~4.0がより好ましく、1.9~2.5がさらに好ましく、2.0~2.30が特に好ましい。N/O比が上記範囲内であれば、成分(C)が熱可塑性樹脂組成物中で微分散しやすくなり、かつ、成分(A)の少なくとも一部が、微分散した成分(C)のドメインに集まりやすくなり、複合体がより凝集しやすくなり、その結果、成分(A)による耐衝撃性がより発現されやすくなる。
なお、アセトン可溶分中に存在する窒素元素(N)及び酸素元素(O)の割合は、元素分析装置を用いて測定することができる。
【0057】
アセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)は、50,000~200,000が好ましく、80,000~170,000がより好ましく、90,000~160,000がさらに好ましい。アセトン可溶分のMwが上記範囲内であれば、成形品の耐衝撃性、光沢性がより向上する。加えて、熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する。
アセトン可溶分のMwは、GPCを用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0058】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)と、成分(B)と、成分(C)と、必要に応じて任意成分の1つ以上とを混合、混練して製造される。各成分を混合、混練する方法は特に制限はなく、一般的な混合、混練方法を何れも採用することができ、例えば、単軸又は多軸押出機、バンバリーミキサー、混練ロール等にて混練した後ペレタイザー等で切断しペレット化する方法等が挙げられる。
こうして得られた熱可塑性樹脂組成物は、成形して成形品とされる。
【0059】
<作用効果>
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特定量の成分(A)と成分(B)と成分(C)とを含有する。
成分(A)を構成するゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径が大きいと、成形品の発色性が低下する傾向にある。そのため、成形品の発色性の観点では、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は小さい方が好ましい。しかし、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径が小さくなると、成形品の耐衝撃性が低下する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、成分(A)と成分(C)とにより複合体が形成され、この複合体が凝集することで疑似的な大粒子を形成する。よって、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径を大きくしなくても、複合体の凝集により見かけ上の粒子径が大きくなるため、良好な耐衝撃性が得られる。また、ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径は300nm以下であるため、良好な発色性も得られる。このように、成分(A)と成分(B)と成分(C)とを特定の割合で併用することで、成形品の耐衝撃性と発色性のバランスよく高めることができる。加えて、成形品の光沢性にも優れ、しかも、流動配向による衝撃強度のバラツキを抑制できる。さらに、凝集した複合体は流動性が優れるので、熱可塑性樹脂組成物の流動性及び成形性にも優れる。
よって、本発明の熱可塑性樹脂組成物であれば、耐衝撃性、発色性、光沢性に優れ、しかも、流動配向による衝撃強度のバラツキが抑制された成形品が得られ、かつ流動性にも優れる。
【0060】
[成形品]
成形品は、上述した本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いてなるものである。
成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られる。その成形方法としては、例えば射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法、インサート成形法などが挙げられる。
【0061】
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いているため、耐衝撃性、発色性、光沢性に優れ、しかも、流動配向による衝撃強度のバラツキを抑制できる。
本発明の成形品は、成形過程における樹脂の配向による衝撃強度の影響を受けにくく、さらに光沢性に優れ、成形品の外観、強度を発現するものであり、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、又は家電機器のハウジング部品、一般雑貨、住設建材などに使用可能である。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例における各種測定及び評価方法は、以下の通りである。
なお、以下の説明において、特に断りがない限り「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0063】
[測定・評価方法]
<ゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径の測定>
ゴム質重合体(a1)のラテックス中の体積平均粒子径(単位:nm)を、レーザー回析、散乱方式の粒度分布測定器(HONEYWELL社製、商品名「マイクロトラックUPA150」)を用い、室温(20℃)で測定した。
なお、ラテックス中のゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径と、これを用いた熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(a1)の体積平均粒子径との間には、実質的な差異は無いことが知られており、前者は後者に符合する。
【0064】
<ゴム含有グラフト共重合体(A)のグラフト率の測定>
乾燥した粉末状のゴム含有グラフト共重合体(A)約1gを秤量し、これをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で振とう機により2時間振とうしてアセトン可溶分を抽出した後、5℃の温度条件下で遠心分離機(回転数23,000rpm)にて60分間遠心分離し、アセトン可溶分が溶解したアセトン溶液と、アセトン不溶分とに分離した。アセトン不溶分を濾過し、70℃で5時間減圧乾燥し、乾燥質量を測定し、下記式(1)によりグラフト率を求めた。なお、下記式(1)において、「m」は抽出前の(すなわち、秤量した)ゴム含有グラフト共重合体(A)の質量(g)であり、「n」はアセトン不溶分の質量(g)であり、「L」はゴム含有グラフト共重合体(A)のゴム含有率、すなわちゴム質重合体(a1)の質量(質量%)である。ゴム含有グラフト共重合体(A)のゴム含有率は、重合処方から算出した。
グラフト率(%)={(n-m×L)/(m×L)}×100 ・・・(1)
【0065】
<ビニル系共重合体(B)の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定>
ビニル系共重合体(B)のMw及びMnは、下記装置を用い、下記条件でGPCによって得られたクロマトグラムについて、標準ポリマーとしてポリスチレンを用いた較正曲線によって溶出時間を分子量に換算して求めた。また、MwおよびMnから分子量分布Mw/Mnを算出した。
・GPCシステム:Waters社製、商品名「GPC/V2000」、
・カラム:昭和電工株式会社製、商品名「Shodex AT-G+AT-806MS」、
・溶媒:o-ジクロロベンゼン、
・濃度:0.2質量%、
・流速:0.5mL/分、
・注入量:10μL、
・温度:145℃。
【0066】
<熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の元素分析及び質量平均分子量(Mw)の測定>
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(1)約2gをアセトン60mLに投入し、25℃の温度条件下で振とう機により2時間振とうしてアセトン可溶分を抽出した後、5℃の温度条件下で遠心分離機(回転数23,000rpm)にて60分間遠心分離し、アセトン可溶分が溶解したアセトン溶液と、アセトン不溶分とに分離した。アセトン不溶分を濾過した後、アセトン溶液をメタノール100mLに滴下し、アセトン可溶分であるポリマー成分を析出させ、濾過してアセトン可溶分を取り出した。取り出したアセトン可溶分を乾燥して、熱可塑性樹脂組成物からアセトン可溶分であるポリマー成分を抽出した。
アセトン可溶分中に存在する窒素元素(N)及び酸素元素(O)について、以下の元素分析装置を用いて元素分析を行い、N/O比を求めた。元素が検出されない場合は「N.D.」とした。また、アセトン可溶分のMwについては、ビニル系共重合体(B)のMwの測定方法と同様の方法により測定した。
・窒素元素分析:JM10 MICRO CORDER(株式会社J-SCIENCE-LAB製)
・酸素元素分析:JMO12 MICRO CORDER(株式会社J-SCIENCE-LAB製)
【0067】
<流動性の評価:メルトボリュームレート(MVR)の測定>
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(1)について、ISO 1133規格に従い、温度220℃、荷重98N(10kg)の条件で、熱可塑性樹脂組成物(1)のMVR(cm3/10分)を測定した。MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の指標となり、MVRが高いほど、流動性に優れる。
【0068】
<成形品の作製>
(成形品(1)の作製)
射出成型機(芝浦機械株式会社製、商品名「IS55FP-1.5A」)を用い、シリンダー温度220~250℃、金型温度60℃の条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(1)を射出成形し、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品(1)を得た。成形品(1)をシャルピー衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定用として用いた。
【0069】
(成形品(2)の作製)
射出成型機(芝浦機械株式会社製、商品名「IS55FP-1.5A」)を用い、シリンダー温度220~250℃、金型温度60℃の条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(2)を射出成形し、縦100mm、横100mm、厚さ3mmの成形品(2)を得た。成形品(2)を60°光沢及び明度(L*)の測定用として用いた。
【0070】
(試験片(3)の作製)
射出成型機(芝浦機械株式会社製、商品名「IS55FP-1.5A」)を用い、シリンダー温度220~250℃、金型温度50℃の条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(1)を射出成形し、縦100mm、横100mm、厚さ2mmであり、単辺の中央部にゲートを有する成形品(3)を得た。この成形品(3)の中央部から15mm×10mmの試験片を切り出して、ダインスタット衝撃試験用の試験片(3)とした。
なお、試験片(3)は、樹脂の流れ方向(ゲート方向)に対して、平行、垂直の2種類をそれぞれ作製し、ゲート方向に対して平行な方向の長さを15mmとした試験片(3)を試験片(3P)とした。また、ゲート方向に対して90度回転した方向(ゲート方向に対して垂直な方向)の長さを15mmとした試験片(3)を試験片(3V)とした。1つの熱可塑性樹脂組成物について、試験片(3P)と試験片(3V)をそれぞれ5個用意した。
【0071】
<耐衝撃性の評価:シャルピー衝撃強度の測定>
成形品(1)について、ISO 179規格に従い、23℃の条件でシャルピー衝撃試験(ノッチ付)を行い、成形品(1)のシャルピー衝撃強度を測定した。数値が高いほど耐衝撃性に優れる。
【0072】
<光沢性の評価:60°光沢の測定>
成形品(2)について、JIS K 7105に従い、デジタル光沢計(株式会社村上色彩技術研究所製、形式名「GM-26D」)を用い、測定角度60°の条件で成形品(2)の表面の反射率(%)を測定し、その値を60°光沢とした。60°光沢の値が高いほど光沢性に優れる。
【0073】
<発色性の評価:L*の測定>
成形品(2)について、分光測色計(コニカミノルタオプティクス株式会社製、商品名「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて成形品(2)の明度(L*)を測定した。L*が低いほど黒色となり、発色性が良好となる。
なお、「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
【0074】
<耐熱性の評価:荷重撓み温度(HDT)の測定>
成形品(1)について、ISO 75規格に従い、荷重1.80MPa、フラットワイズ(4mm厚み)の条件で成形品(1)のHDTを測定した。HDTが高いほど耐熱性に優れる。
【0075】
<流動配向による衝撃特性の評価>
試験片(3)を用い、DIN 53453に従い、ダインスタット衝撃試験を行い、3個の試験片(3P)の衝撃強度の平均値を平均方向の衝撃強度とした。同様に、3個の試験片(3V)の衝撃強度の平均値を垂直方向の衝撃強度とした。平行方向の衝撃強度に対する垂直方向の衝撃強度の比(垂直方向の衝撃強度/平行方向の衝撃強度)を求めた。この衝撃強度の比の値が大きいほど樹脂の流動配向による衝撃性の影響が小さい、すなわち、流動配向による衝撃強度のバラツキが抑制されていることを意味する。
【0076】
[ゴム質重合体(a1)の製造]
<合成例1:ゴム質重合体(a1-1)の製造>
アルケニルコハク酸ジカリウム0.73部、イオン交換水225部、アクリル酸n-ブチル100部、メタクリル酸アリル0.16部、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート0.08部及びt-ブチルヒドロペルオキシド0.12部の混合物を反応器に投入した。反応器に窒素気流を通じることによって、反応器内を窒素置換し、60℃まで昇温した。内温が50℃となった時点で、硫酸第一鉄0.00015部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.00045部、ロンガリット0.24部及びイオン交換水5部からなる水溶液を添加して重合を開始させ、内温を75℃に上昇させた。さらにこの状態を1時間維持し、体積平均粒子径90nm、固形分45.6%のゴム質重合体(a1-1)を得た。
【0077】
<合成例2:ゴム質重合体(a1-2)の製造>
反応器に、合成例1で得られたゴム質重合体(a1-1)を仕込み(固形分100部)、次いで、5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を40部添加し、十分撹拌した。そこに、酸基含有共重合体ラテックス(アクリル酸n-ブチル/メタクリル酸=85/15(質量比))を3.5部(固形分1.2部)添加し、内温を35℃に保持して30分撹拌して、体積平均粒子径420nm、固形分45.2%のゴム質重合体(a1-2)を得た。
【0078】
<合成例3:ゴム質重合体(a1-3)の製造>
撹拌機を備えた耐圧容器に脱イオン水150部、ブタジエンモノマー100部、硬化脂肪酸カリ石鹸3.2部、有機スルホン酸ソーダ0.33部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、過硫酸カリウム0.32部及び水酸化カリウム0.16部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で撹拌しながら温度を60℃に上げて重合を開始し、重合率65%のときに過硫酸カリウム0.1部を溶解した脱イオン水5部を上記耐圧容器に加えた。その後、重合温度を70℃に上げ、反応時間13時間、重合転化率95%で重合を完結して、体積平均粒子径110nm、固形分51.0%のゴム質重合体(a1-3)を得た。
【0079】
[ゴム含有グラフト共重合体(A)の製造]
<合成例4:ゴム含有グラフト共重合体(A-1)の製造>
撹拌機付きステンレス重合槽に、ゴム質重合体(a1-1)を50部(固形分として)入れ、イオン交換水を加え120部、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部及びフラクトース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。スチレン(ST)37.5部、アクリロニトリル(AN)12.5部及びクメンヒドロペルオキシド0.6部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行った。重合後、ゴム含有グラフト共重合体(A-1)を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、粉状のゴム含有グラフト共重合体(A-1)を得た。
得られたゴム含有グラフト共重合体(A-1)の組成は、AN/BA/ST=12.5/50/37.5、グラフト率は85%であった。なお、BAはゴム質重合体(a1-1)である。
【0080】
<合成例5:ゴム含有グラフト共重合体(A-2)の製造>
撹拌機付きステンレス重合槽に、ゴム質重合体(a1-2)を50部(固形分として)入れ、イオン交換水を加え100部、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部及びフラクトース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。スチレン(ST)36部、アクリロニトリル(AN)14部及びクメンヒドロペルオキシド0.6部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行った。重合後、ゴム含有グラフト共重合体(A-2)を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、粉状のゴム含有グラフト共重合体(A-2)を得た。
得られたゴム含有グラフト共重合体(A-2)の組成は、AN/BA/ST=14/50/36、グラフト率は46%であった。なお、BAはゴム質重合体(a1-2)である。
【0081】
<合成例6:ゴム含有グラフト共重合体(A-3)の製造>
撹拌機付きステンレス重合槽に、ゴム質重合体(a1-3)を40部(固形分として)入れ、イオン交換水を加え100部、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.4部及びフラクトース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。スチレン(ST)43.8部、アクリロニトリル(AN)16.2部及びクメンヒドロペルオキシド0.6部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行った。重合後、ゴム含有グラフト共重合体(A-3)を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、粉状のゴム含有グラフト共重合体(A-3)を得た。
得られたゴム含有グラフト共重合体(A-3)の組成は、AN/BD/ST=16/40/44、グラフト率は80%であった。なお、BDはゴム質重合体(a1-3)である。
【0082】
[ビニル系共重合体(B)の製造]
<合成例7:ビニル系共重合体(B-1)の製造>
窒素置換した反応器に水120部と、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部と、ポリビニルアルコール0.5部と、アゾイソブチルニトリル0.3部と、t-ドデシルメルカプタン0.62部と、アクリロニトリル32部及びスチレン68部からなるビニル系単量体混合物(b-1)100部とを仕込み、反応させた。反応は、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させて行った。さらに、120℃で4時間反応した後、反応生成物を取り出し、アクリロニトリル/スチレン=32/68(質量比)のビニル系共重合体(B-1)を得た。
得られたビニル系共重合体(B-1)の質量平均分子量(Mw)は85,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。
【0083】
<合成例8:ビニル系共重合体(B-2)の製造>
t-ドデシルメルカプタンの配合量を0.5部に変更した以外は合成例7と同様にして、アクリロニトリル/スチレン=32/68(質量比)のビニル系共重合体(B-2)を得た。
得られたビニル系共重合体(B-2)の質量平均分子量(Mw)は132,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0084】
<合成例9:ビニル系共重合体(B-3)の製造>
ビニル系単量体混合物(b-1)の代わりに、アクリロニトリル24部及びスチレン76部からなるビニル系単量体混合物(b-3)を使用したこと以外は合成例7と同様にして、アクリロニトリル/スチレン=24/76(質量比)のビニル系共重合体(B-3)を得た。
得られたビニル系共重合体(B-3)の質量平均分子量(Mw)は95,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0085】
<合成例10:ビニル系共重合体(B-4)の製造>
t-ドデシルメルカプタンの配合量を0.40部に変更し、ビニル系単量体混合物(b-1)の代わりに、アクリロニトリル24部及びスチレン76部からなるビニル系単量体混合物(b-3)を使用したこと以外は合成例7と同様にして、アクリロニトリル/スチレン=24/76(質量比)のビニル系共重合体(B-4)を得た。
得られたビニル系共重合体(B-4)の質量平均分子量(Mw)は152,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0086】
<合成例11:ビニル系共重合体(B-5)の製造>
窒素置換した反応器に水120部と、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.002部と、ポリビニルアルコール0.4部と、アゾイソブチルニトリル0.3部と、t-ドデシルメルカプタン0.55部と、アクリロニトリル14部、スチレン55部及びN-フェニルマレイミド31部からなるビニル系単量体混合物(b-5)100部とを仕込み、反応させた。反応は、ススチレンの一部を逐次添加しながら開始温度60℃から5時間昇温加熱後、120℃に到達させた。さらに、120℃で4時間反応した後、反応生成物を取り出し、アクリロニトリル/スチレン/N-フェニルマレイミド=14/55/31(質量比)のビニル系共重合体(B-5)を得た。
得られたビニル系共重合体(B-5)の質量平均分子量(Mw)は142,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0087】
[アクリル系ブロック共重合体(C)]
アクリル系ブロック共重合体(C)として、以下の化合物を用いた。
・アクリル系ブロック共重合体(C-1):株式会社クラレ製の商品名「クラリティLA2140」(質量平均分子量(Mw):73,000、分子量分布(Mw/Mn):1.1、アクリル系ブロック共重合体100質量%中のアクリル酸n-ブチル単位の割合(すなわち重合体ブロック(Ca)の割合)が80質量%、メタクリル酸メチル単位の割合(すなわち重合体ブロック(Cm)の割合)が20質量%であるBAB型トリブロック共重合体)。
・アクリル系ブロック共重合体(C-2):株式会社クラレ製の商品名「クラリティLA2330」(質量平均分子量(Mw):122,000、分子量分布(Mw/Mn):1.2、アクリル系ブロック共重合体100質量%中のアクリル酸n-ブチル単位の割合(すなわち重合体ブロック(Ca)の割合)が80質量%、メタクリル酸メチル単位の割合(すなわち重合体ブロック(Cm)の割合)が20質量%であるBAB型トリブロック共重合体)。
・アクリル系ブロック共重合体(C-3):株式会社クラレ製の商品名「クラリティLA4285」(質量平均分子量(Mw):73,000、分子量分布(Mw/Mn):1.2、アクリル系ブロック共重合体100質量%中のアクリル酸n-ブチル単位の割合(すなわち重合体ブロック(Ca)の割合)が50質量%、メタクリル酸メチル単位の割合(すなわち重合体ブロック(Cm)の割合)が50質量%であるBAB型トリブロック共重合体)。
【0088】
[参考用:ポリアクリル系樹脂]
ポリアクリル系樹脂として、三菱ケミカル株式会社製の商品名「アクリペットVH5」(質量平均分子量(Mw):74,000、ポリアクリル系樹脂100質量%中のメタクリル酸メチル単位の割合98.5質量%、メタクリル酸単位1.5質量%)を用いた。
【0089】
[実施例1~8、比較例1~7]
<熱可塑性樹脂組成物(1)の製造>
表1、2に示す割合(部)で、ゴム含有グラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)、アクリル系ブロック共重合体(C)及びポリアクリル系樹脂を混合し、さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(株式会社ADEKA製、商品名「アデカスタブA-60」)0.2部を配合して混合した後、スクリュー直径30mmの真空ベント付き2軸押出機(株式会社池貝製、商品名「PCM30」)を用いて、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、熱可塑性樹脂組成物(1)を得た。また、必要に応じて溶融混練後に、ペレタイザー(株式会社創研製、商品名「SH型ペレタイザー」)を用いて熱可塑性樹脂組成物(1)をペレット化した。
得られた熱可塑性樹脂組成物(1)のアセトン可溶分の元素分析を行い、N/O比を求めた。また、アセトン可溶分の質量平均分子量(Mw)を測定した。これらの結果を表1、2に示す。
また、得られた熱可塑性樹脂組成物(1)を用いて、流動性、耐衝撃性、耐熱性及び流動配向による衝撃特性を評価した。これらの結果を表1、2に示す。
なお、表1、2中の空欄は、その成分が配合されていないこと(0部)を示す。
【0090】
また、実施例1~4、比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物(1)を用いて成形品(1)を作製し、成形品(1)の中心部分において、厚さ方向に切断した。透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名「JEM-1400 plus」)を用い、加速電圧100kV、倍率2500倍、10000倍又は30000倍で成形品(1)の切断面を撮影し、透過型電子顕微鏡(TEM)像を得た。得られたTEM像を
図1~5に示す。
【0091】
<熱可塑性樹脂組成物(2)の製造>
酸化防止剤を配合する際に、着色剤としてカーボンブラック0.6部をさらに配合した以外は、熱可塑性樹脂組成物(1)の製造と同様にして、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(2)を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物(2)を用いて、光沢性及び発色性を評価した。これらの結果を表1、2に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
表1の結果から明らかなように、実施例1~8で得られた熱可塑性樹脂組成物は流動性に優れていた。また、これらの熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品は、耐衝撃性、光沢性、発色性及び耐熱性に優れていた。しかも、実際の成形品を想定した樹脂の流動方向による衝撃強度の比が0.60以上であり、流動配向による衝撃強度のバラツキが抑制されていた。また、シャルピー衝撃強度の絶対値からも十分な強度を示し優れていた。
また、
図1~4に示すように、実施例1~4で得られた熱可塑性樹脂組成物においては、成分(A)と成分(C)とにより複合体が形成され、この複合体が凝集することで、例えば図中の符号Lのような疑似的な大粒子を形成していた。
【0095】
これに対し、比較例1~7の場合、熱可塑性樹脂組成物の流動性、成形品の耐衝撃性、発色性、光沢性、耐熱性及び樹脂の流動方向による衝撃強度のいずれかが不十分であり、性能が劣っていた。
また、
図5に示すように、比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物においては、成分(A)同士、すなわち体積平均粒子径90nmのゴム質重合体(a1-1)にビニル系単量体混合物(a2)をグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体(A-1)と、体積平均粒子径420nmのゴム質重合体(a1-2)にビニル系単量体混合物(a2)をグラフト重合したゴム含有グラフト共重合体(A-2)は複合体を形成せずに、それぞれ独立して存在していた。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、成形過程における樹脂の配向による衝撃強度の影響を受けにくく、さらに光沢性に優れ、成形品の外観、強度を発現するものであり、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、又は家電機器のハウジング部品、一般雑貨、住設建材などに使用可能であり、その有用性は極めて高い。