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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131896
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】操船支援装置および船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/42 20060101AFI20230914BHJP
   B63H 25/46 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H25/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036903
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】村山 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】玉城 俊
(57)【要約】
【課題】船体の横移動を円滑にする。
【解決手段】コントローラ40は、船体2を横移動させる指示を受けたことに応じて推進機(エンジン3L,3R、船舶推進機4L,4R)を制御することで、船体2に横方向への推力を与える横移動モードを実行する。コントローラ40は、少なくとも横移動モードの開始時に、船体2を回頭させるための推力を発生させるように上記推進機を制御する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体を横移動させる指示を受けたことに応じて少なくとも2つの推進機を制御することで、前記船体に横方向への推力を与える横移動モードを実行する制御部を有し、
前記制御部は、少なくとも前記横移動モードの開始時に、前記船体を回頭させるための推力を発生させるように前記推進機を制御する、操船支援装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後に、前記船体に横方向の推力を与える、請求項1に記載の操船支援装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後、所定条件が成立したことに応じて、前記船体に横方向の推力を与える、請求項2に記載の操船支援装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記所定条件が成立したか否かを、前記横移動モードの開始からの経過時間、前記横移動モードの開始からの前記船体の方位の変化、前記船体の速度、前記船体から移動目標位置までの距離、前記横移動モードの開始からの前記船体の位置の変化、またはユーザ入力、の少なくとも1つに基づいて判定する、請求項3に記載の操船支援装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記横移動モードの開始から所定時間が経過すると、前記所定条件が成立したと判定する、請求項3に記載の操船支援装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後、前記船体に横方向の推力を与えるまでの間に、前記船体に与える推力の方向、前記船体に与える推力の大きさ、または前記船体に与える推力の作用位置、の少なくとも1つを変化させる、請求項2乃至5のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後、前記船体に横方向の推力を与えるまでの間に、前記船体の回頭方向を逆転させる、請求項2乃至5のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後、前記船体に横方向の推力を与えるまでの間に、前記船体に横方向の成分を含む推力を与えながら前記船体の回頭方向も逆転させる、請求項2乃至5のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項9】
前記横移動モードの開始時の前記船体の回頭方向は、前記指示に応じた方向へ船尾が近づく方向に対応する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項10】
前記横移動モードの開始時に前記船体を回頭させるための推力のベクトル方向は、前記指示に応じた方向である、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後、ステアリング操作を受け付けた場合は、前記ステアリング操作に応じて、前記船体の回頭速度を補正する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項12】
前記横移動モードの開始時における前記船体の回頭には、前記船体の重心を中心とする回転も含まれる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記横移動モードの開始時には、鉛直方向からみて、前記船体に与える推力のベクトルと、前記船体の重心を通り前後方向に平行な中央線と、の交点を前記重心からずらし、その後、前記交点を前記重心に近づけるように制御する、請求項1に記載の操船支援装置。
【請求項14】
前記制御部は、鉛直方向からみて、前記交点を前記重心からずらした後、前記交点を前記重心と一致させ且つ前記ベクトルの向きを前記指示に応じた横方向にする、請求項13に記載の操船支援装置。
【請求項15】
前記重心は前記船体の抵抗重心である、請求項12乃至14のいずれか1項に記載の操船支援装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記船体を回頭させるための推力を発生させた後、前記船体の回頭速度が徐々に小さくなるように制御する、請求項1に記載の操船支援装置。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の操船支援装置と、
前記少なくとも2つの推進機と、を備える、船舶。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船支援装置および船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、離岸または接岸等のために船体を横方向に移動させる横移動が行われる。特許文献1には、指示に応じて、2つの推進機を制御して船体に横方向の推力を作用させる技術が開示されている。しかし、船体が静止した状態から横移動を開始する際には、船体への水の抵抗や船体の慣性モーメントによる大きな負荷がかかり効率がよくない。従って、船体の動き出しが遅く、岸等の所望位置まで到達する所要時間がかかる点で、横移動が円滑でない場合がある。
【0003】
一方、特許文献2には、操船者が2つの操作レバーを操作することで、横移動をはじめとする種々の挙動を直感的操作で実現可能にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2025-200004号公報
【特許文献2】特許5351785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2では、円滑な横移動を実現するためにはレバー操作方法を習得する必要がある。操作技能の習得度合いにかかわらず、常に円滑な横移動を実現する観点からは改善の余地があった。
【0006】
本発明は、船体の横移動を円滑にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による操船支援装置は、船体を横移動させる指示を受けたことに応じて少なくとも2つの推進機を制御することで、前記船体に横方向への推力を与える横移動モードを実行する制御部を有し、前記制御部は、少なくとも前記横移動モードの開始時に、前記船体を回頭させるための推力を発生させるように前記推進機を制御する。
【0008】
この構成によれば、少なくとも横移動モードの開始時に、船体を回頭させるための推力を発生させるように、少なくとも2つの推進機が制御される。例えば、船体を回頭させるための推力により動き出しが早まり、船体の横移動が円滑になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船体の横移動を円滑にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】船舶の平面図である。
図2】船舶の側面図である。
図3】第1船舶推進機の構成を示す模式的側面図である。
図4】操船支援システムを含む船舶の制御系のブロック図である。
図5】横移行モードで船体に作用する推力を示す模式図である。
図6】横移動モード時の船体の挙動を示す遷移図である。
図7】横移動モード処理を示すフローチャートである。
図8】横移動モードの開始後にステアリング操作が受け付けられた場合の合力FSの変化を示す模式図である。
図9】横移動モードの開始後にステアリング操作が受け付けられた場合の合力FSの変化を示す模式図である。
図10】横移動モードの開始時に作用させる推力の変形例を示す模式図である。
図11】横移動モードの開始時と真横推力発生モード時との間に作用させる推力の変形例を示す模式図である。
図12】横移動モードの開始時と真横推力発生モード時との間に作用させる推力の変形例を示す模式図である。
図13】横移動モードの開始時と真横推力発生モード時との間に作用させる推力の変形例を示す模式図である。
図14】横移動モードの開始時と真横推力発生モード時との間に作用させる推力の変形例を示す模式図である。
図15】他の船舶の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る操船支援装置が適用される船舶の平面図である。図1では、船舶1の内部の構成の一部が示されている。図2は、船舶1の側面図である。船舶1は、一例としてジェット推進艇であり、ジェットボートまたはスポーツボートと呼ばれるタイプの船である。
【0013】
船舶1は、船体2と、エンジン3L,3Rと、船舶推進機4L,4Rとを含む。船体2は、デッキ11とハル12とを含む。ハル12は、デッキ11の下方に配置されている。デッキ11には、操船席13が配置されている。また、操船席13には、ステアリング装置14とリモコンユニット15とが配置されている。
【0014】
船舶1は、第1エンジン3Lと第2エンジン3Rとを含んでいる。船舶1は、第1船舶推進機4Lと第2船舶推進機4Rとを含んでいる。ただし、エンジンの数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。船舶推進機の数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。
【0015】
第1エンジン3Lおよび第2エンジン3Rは船体2に収容される。第1エンジン3Lの出力軸は第1船舶推進機4Lに接続されている。第2エンジン3Rの出力軸は第2船舶推進機4Rに接続されている。第1船舶推進機4Lは、第1エンジン3Lによって駆動され、船体2を移動させる推進力を発生させる。第2船舶推進機4Rは、第2エンジン3Rによって駆動され、船体2を移動させる推進力を発生させる。第1船舶推進機4Lと第2船舶推進機4Rとは左右に並んで配置されている。
【0016】
図3は、第1船舶推進機4Lの構成を示す模式的側面図である。図3においては第1船舶推進機4Lの一部が断面で示されている。第1船舶推進機4Lは、船体2のまわりの水を吸い込んで噴射するジェット推進機である。
【0017】
図3に示すように、第1船舶推進機4Lは、第1インペラシャフト21Lと、第1インペラ22Lと、第1インペラハウジング23Lと、第1ノズル24Lと、第1デフレクタ25Lと、第1リバースバケット26Lとを含む。第1インペラシャフト21Lは、前後方向に延びるように配置されている。第1インペラシャフト21Lの前部は、カップリング28Lを介してエンジン3Lの出力軸に接続されている。第1インペラシャフト21Lの後部は、第1インペラハウジング23L内に配置されている。第1インペラハウジング23Lは、水吸引部27Lの後方に配置されている。第1ノズル24Lは、第1インペラハウジング23Lの後方に配置されている。
【0018】
第1インペラ22Lは、第1インペラシャフト21Lの後部に取り付けられている。第1インペラ22Lは、第1インペラハウジング23L内に配置されている。第1インペラ22Lは、第1インペラシャフト21Lとともに回転して、水吸引部27Lから水を吸引する。第1インペラ22Lは、吸引した水を第1ノズル24Lから後方に噴射させる。
【0019】
第1デフレクタ25Lは、第1ノズル24Lの後方に配置されている。第1リバースバケット26Lは、第1デフレクタ25Lの後方に配置されている。第1デフレクタ25Lは、第1ノズル24Lからの水の噴射方向を左右方向に転換するように構成されている。すなわち、第1デフレクタ25Lの向きが左右方向に変更されることにより、船舶1の進行方向が左右に変更される。
【0020】
第1リバースバケット26Lは、前進位置と後進位置と中立位置とに切換可能に設けられている。第1リバースバケット26Lが前進位置にある状態では、第1リバースバケット26Lが第1デフレクタ25Lを覆わないので、噴流の向きは後方となる。これにより船舶1が前進する。第1リバースバケット26Lが後進位置にある状態では、第1リバースバケット26Lが第1デフレクタ25Lを覆うので、噴流の向きは前方に転換される。これにより船舶1が後進する。
【0021】
ここで、第1リバースバケット26Lの中立位置は、前進位置と後進位置との間の位置である。第1リバースバケット26Lは、中立位置において、第1デフレクタ25Lの一部を覆うので、噴流の向きは船体2の左方または右方へ変更される。従って、第1リバースバケット26Lは、中立位置において、船体2を前進させる推進力を低減させる。これにより、船体2が減速されるか、あるいは船体2が停止位置に保持される。なお、図示を省略するが、第2船舶推進機4Rは、第1船舶推進機4Lと同様に構成される。
【0022】
次に、船舶1の制御系について説明する。図4は、本実施の形態における操船支援システムを含む船舶1の制御系のブロック図である。
【0023】
操船支援システムは、操船支援装置としてのコントローラ40(制御部)を含む。コントローラ40は、CPUなどの演算装置と、RAM,ROMなどの記憶装置とを含んでおり(図示せず)、船舶1を制御するようにプログラムされている。
【0024】
船舶1は、第1ステアリングアクチュエータ32Lと第1シフトアクチュエータ34Lとを含んでいる。コントローラ40は、第1エンジン3L、第1ステアリングアクチュエータ32L、及び第1シフトアクチュエータ34Lと通信可能に接続されている。
【0025】
第1ステアリングアクチュエータ32Lは、第1船舶推進機4Lの第1デフレクタ25Lに接続されている。第1ステアリングアクチュエータ32Lは、第1デフレクタ25Lの舵角を変更する。第1ステアリングアクチュエータ32Lは、例えば電動モータである。あるいは、第1ステアリングアクチュエータ32Lは、油圧シリンダ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0026】
第1シフトアクチュエータ34Lは、第1船舶推進機4Lの第1リバースバケット26Lに接続されている。第1シフトアクチュエータ34Lは、第1リバースバケット26Lの位置を前進位置と後進位置と中立位置とに切り換える。第1シフトアクチュエータ34Lは、例えば電動モータである。あるいは、第1シフトアクチュエータ34Lは、油圧シリンダ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0027】
船舶1は、第2ステアリングアクチュエータ32Rと第2シフトアクチュエータ34Rとを含んでいる。第2ステアリングアクチュエータ32Rは、第2船舶推進機4Rの第2デフレクタ25Rに接続されている。第2シフトアクチュエータ34Rは、第2船舶推進機4Rの第2リバースバケット26Rに接続されている。これらの構成は、第2船舶推進機4Rを制御するための装置であり、上述した第1ステアリングアクチュエータ32L及び第1シフトアクチュエータ34Lと同様の構成である。コントローラ40は、第2ステアリングアクチュエータ32R、及び第2シフトアクチュエータ34Rと通信可能に接続されている。
【0028】
なお、コントローラ40は、単一の装置であってもよいし、互いに別体の複数のコントロールユニットによって構成されてもよい。コントローラ40は、ステアリング装置14及びリモコンユニット15と通信可能に接続されている。なお、コントローラ40がリモコンユニット15のセンサで検出された電圧を信号として取得してもよい。
【0029】
リモコンユニット15は、エンジン3L,3Rの出力の調整、及び前後進の切換のために操作される。リモコンユニット15は、第1スロットルレバー15Lと第2スロットルレバー15Rとを含む。第1スロットルレバー15Lと第2スロットルレバー15Rとは、それぞれゼロ操作位置から前進方向と後進方向とに操作可能である。
【0030】
リモコンユニット15は、第1,第2スロットルレバー15L,15Rの操作量及び操作方向を示す信号を出力する。通常操船モード(後述)において、コントローラ40は、第1スロットルレバー15Lの操作量に応じて、第1エンジン3Lの回転速度を制御する。コントローラ40は、第2スロットルレバー15Rの操作量に応じて、第2エンジン3Rの回転速度を制御する。コントローラ40は、第1スロットルレバー15Lの操作方向に応じて、第1シフトアクチュエータ34Lを制御する。コントローラ40は、第2スロットルレバー15Rの操作方向に応じて、第2シフトアクチュエータ34Rを制御する。これにより、船舶1の前後進が切り換えられる。
【0031】
船舶1は、表示部39および設定操作部38を含む。表示部39はディスプレイを備え、コントローラ40からの指示に基づき各種情報を表示する。設定操作部38は、操船に関する操作をするための操作子のほか、各種設定を行うための設定操作子、各種指示を入力するための入力操作子を含む(いずれも図示せず)。設定操作部38で入力された信号はコントローラ40に供給される。
【0032】
ステアリング装置14は、回転操作されるホイール部のほか、左横移動スイッチ53、右横移動スイッチ54およびその他のスイッチ55を備える。これらは操船者によって操作され、操作信号がコントローラ40に供給される。
【0033】
また、船体2には、各種センサ56が設けられている。各種センサ56による検出信号はコントローラ40に供給される。各種センサ56は、方位センサ、船速センサ、距離センサ、位置センサなどを含む。方位センサは、船体2の方位を検出する。船速センサは、船体2の航行速度を検出する。距離センサは、例えば光学的に、船体2と目標物(桟橋等)との相対的な距離を検出する。位置センサは、GPS受信機等を含み、船体2の現在位置を検出する。各センサの構成は例示したものに限定されない。
【0034】
ここで、各種の操船モードについて説明する。操船モードには、大別して「通常操船モード」と「横移動モード」とが含まれる。横移動モードには、左横移動モードと右横移動モードとがある。左横移動スイッチ53が押下されると左横移動モードが実行され、右横移動スイッチ54が押下されると右横移動モードが実行される。
【0035】
通常操船モードでは、コントローラ40は、ステアリング装置14のホイール部の回転操作に応じて、船体2のバウ方向を制御する。ステアリング装置14は、ホイール部の操作位置を示す操作信号をコントローラ40に出力する。コントローラ40は、ホイール部の操作に応じてステアリングアクチュエータ32L,32Rを制御する。これにより、船体2のバウ方向が左右に変更される。また、通常操船モードでは、コントローラ40は、リモコンユニット15の操作に応じてエンジン3L,3Rおよび船舶推進機4L,4Rを制御する。
【0036】
横移動モードは、船体2を横方向へ平行移動させる推力を発生させるモードである。左横移動モード、右横移動モードはそれぞれ、船体2を左方、右方へ横移動させるようにエンジン3L,3Rおよび船舶推進機4L,4Rを制御するモードである。
【0037】
ここで、平行移動は、船体2が重心G(図1)を中心にヨー方向に回転することなく水平方向に移動することを意味する。例えば、回頭を伴わない横移動モードでは、船体2の重心Gが左方または右方に移動する。
【0038】
図5は、横移行モードで船体2に作用する推力を示す模式図である。船体2の形状は模式的に示してある。便宜上、船体2が回頭するときの回転中心位置は重心Gと一致するとする。なお、重心Gは、船体2の抵抗重心であってもよい。また、第1船舶推進機4Lと第2船舶推進機4Rとは、前後方向における船体2の中心線に対して左右対称位置に配置されているとする。船体2の重心Gを通り前後方向に平行な線を中央線CLとする。
【0039】
図5では、右横移動モードのときに作用する推力を示している。図5に示すように、右横移動モードにおいては、第1船舶推進機4Lの第1推力作用線4L-Pと第2船舶推進機4Rの第2推力作用線4R-Pとは、重心Gで交わる。この場合、第1船舶推進機4Lの第1推力FLは右前方のベクトルであり、第2船舶推進機4Rの第2推力FRは右後方のベクトルである。第1推力FLと第2推力FRとの合力が合力FSとなる。合力FSは右方向を向くベクトルとなる。従って、船体2に対しては、重心Gを作用点F0として、右方向の合力FSが推力として作用する。従って、船体2に回転モーメントが作用しないため、船体2は回頭することなく右方向に平行横移動する。なお、左横移動モードの場合は、図5に示す例に対し、左右方向を反転させたものとして理解できる。なお、作用点F0は、鉛直方向から見て、合力FSのベクトル方向と中央線CLとの交点に該当する。
【0040】
中央線CLに対して第1推力作用線4L-Pおよび第2推力作用線4R-Pのそれぞれが成す角度、さらには、第1推力作用線4L-Pと第2推力作用線4R-Pとが成す角度によって、作用点F0は異なる。例えば、中央線CLに対して第1推力作用線4L-Pおよび第2推力作用線4R-Pのそれぞれが成す角度が共通である場合、作用点F0は中央線CL上に位置する。この場合において、第1推力作用線4L-Pと第2推力作用線4R-Pとが後方で成す角度が大きいほど、作用点F0は後方に位置する。
【0041】
第1推力FLまたは第2推力FRのいずれかの大きさまたは向きが変化すると、作用点F0の位置、合力FSの大きさまたは向きが変化する。例えば、作用点F0を同じとした場合同士であっても、第1推力FLまたは第2推力FRのいずれかの大きさが変化すると、合力FSのベクトル方向は斜め横方向または前後方向となる場合がある。
【0042】
図6(a)~(d)は、横移動モード時の船体2の挙動を示す遷移図である。図6(a)~(d)では、横移動モードが開始されてから、船体2が桟橋等の岸19に接近し、岸19に対して横付け状態となるまでの合力FSの変化と船体2の動きを示している。左横移動スイッチ53または右横移動スイッチ54の押下が、船体2を横移動させる指示に該当する。船体2を横移動させる指示は、船体2がほぼ静止した状態で受け付けられることが想定されるが、静止状態での受け付けに限定されるものではない。なお、図6(a)~(d)では、右横移動モードの場合を示すが、左横移動モードの場合は、図6(a)~(d)に対し、左右方向を反転させたものとして理解できる。
【0043】
右横移動スイッチ54が押下されると右横移動モードが開始される(図6(a))。コントローラ40は、船体2の動き出しを早めるために、横移動モードの開始時に、船体2を回頭させるための推力を発生させるように船舶推進機4L、4Rを制御する。ここでは、一例として、コントローラ40は、作用点F0の位置を重心Gの後方に設定し、且つ、合力FSのベクトル方向を、船体2を基準として右方向(真横)とするよう船舶推進機4L、4Rを制御する。
【0044】
ここで、真横方向は、上方から見て中央線CLに直交する方向である。すなわち、真横方向の合力FSのベクトル方向と中央線CLとが、指示方向且つ後方で成す角度をθとしたとき、角度θは90°である。
【0045】
すると、まず、船体2は上方(鉛直方向)から見て反時計方向に回頭する。回頭と並行して、または回頭の開始直後に、船体2は右方向へも移動し始める。一般に、船体2が静止した状態から横移動を開始する際には、船体2への水の抵抗や船体2の慣性モーメントによる大きな負荷がかかるため、仮に作用点F0の位置を重心Gと一致させたとすると、船体2の動き出しが遅くなる。これに対し本実施の形態では、最初に船体2が回頭するので、その後の横方向への移動が円滑となる。
【0046】
船体2が回頭した後、合力FSの位置および方向が維持されると、船体2は回頭しつつ右方向へ移動していく(図6(b))。そして、やがて、船体2は岸19に当接する。船体2の初期姿勢にもよるが、船体2が反時計方向に回頭している分だけ、船体2の船首よりも船尾の方が先に岸19に当接することが多くなる。なお、船体2の側部が岸19に当接するのと比べて、船尾または船首が岸19に当接した場合は、生じる摩擦力が大きいことで、船体2が流されにくくなる。
【0047】
その後、後述する終了条件(所定条件)が成立するまで、合力FSの位置(作用点F0の位置)および方向が維持される。そのまま船体2が着岸したならば、通常、船体2は徐々に岸19に対して平行になっていく。そして、終了条件が成立すると、コントローラ40は、真横推力発生モードへ移行する。真横推力発生モードは、横移動モードにおける最終的なモードであり、船体2が桟橋等の着岸場所に横付けで押し付けられた状態が維持されるように、エンジン3L,3Rおよび船舶推進機4L,4Rを制御するモードである。
【0048】
真横推力発生モードでは、コントローラ40は、船体2に対して、回頭力を与えることなく横方向(正確には真横方向)への推力を与える。言い換えると、コントローラ40は、作用点F0の位置を重心Gと一致させ、且つ、合力FSのベクトル方向を、船体2を基準として真横(図6(d)では右方)に維持する。
【0049】
なお、真横推力発生モードにおいて、合力FSの大きさを、横移動モードの開始時と比べて小さくしてもよい。このようにすれば、いわゆる押し付けモードと同様の制御状態となる。あるいは、真横推力発生モードに遷移してから、一定の時間が経過してから、合力FSの大きさを、横移動モードの開始時と比べて小さくしてもよい。
【0050】
このように、コントローラ40は、最初に船体2を回頭させるための推力を発生させ、その後に(終了条件が成立すると)、船体2に横方向(真横方向)の推力を与える。実質的には、コントローラ40は、船体2を回頭させるための推力(合力FS)を発生させた後、船体2の回頭速度が小さくなるように制御する。
【0051】
ここで、横移動モードの態様をベクトル視点で考察すると次のようになる。コントローラ40は、横移動モードの開始時には、鉛直方向からみて、合力FSの作用点F0を重心Gから前後方向にずらし、その後、作用点F0を重心Gに近づけるように制御する。その後、コントローラ40は、作用点F0を重心Gと一致させ且つ、合力FSのベクトルの向きを、指示に応じた真横方向にする。
【0052】
図7は、横移動モード処理を示すフローチャートである。この処理は、コントローラ40において、ROMに格納されたプログラムをCPUがRAMに展開して実行することにより実現される。この処理は、通常操船モードにおいて左横移動スイッチ53または右横移動スイッチ54が押下操作されたことに応じて開始される。
【0053】
ステップS101では、コントローラ40は、横移動モードにおける横移動制御を開始する。すなわち、コントローラ40は、船舶推進機4L、4Rを制御して、船体2を回頭させるための推力を発生させる(図6(a))。ステップS102では、コントローラ40は、ステアリング操作(ステアリング装置14のホイール部の回転操作)があったか否かを、ステアリング装置14からの操作信号に基づいて判別する。そしてコントローラ40は、ステアリング操作があった場合はステップS106に進み、ステアリング操作がない場合はステップS103に進む。
【0054】
ステップS103では、コントローラ40は、終了条件が成立したか否かを判別する。ここで、一例として、終了条件は、横移動モードの開始から所定時間が経過したこと(条件Aという)であるとする。つまりコントローラ40は、横移動モードの開始から所定時間が経過すると、終了条件が成立したと判別する。所定時間は、例えば、通常の接岸開始から接岸までに要する時間と同等以上の長さに設定されている。
【0055】
なお、終了条件はこれに限定されず、コントローラ40は、終了条件が成立したか否かを、横移動モードの開始からの経過時間、横移動モードの開始からの船体2の方位の変化、船体2の速度、船体2から移動目標位置(例えば岸19)までの距離、横移動モードの開始からの船体2の位置の変化、またはユーザ入力、の少なくとも1つに基づいて判定してもよい。具体的には、コントローラ40は、条件A~Fのうち少なくとも1つが成立したことで終了条件が成立したと判別してもよい。条件B~Fの例を以下に示す。
【0056】
条件Bは、横移動モードの開始からの船体2の方位の変化が所定量を超えることであり、言い換えると、横移動モードの開始からの船体2の回頭角度の変化量が所定量を超えることである。これの成否は、各種センサ56における方位センサの検出結果から判別される。条件Cは、指示方向(右または左)への船体2の速度成分が所定速度を超えることである。これの成否は、各種センサ56における船速センサの検出結果(船体2の速度)から判別される。条件Dは、移動目標位置(例えば岸19)までの距離が所定距離以内となることである。これの成否は、各種センサ56における距離センサの検出結果から判別される。
【0057】
条件Eは、横移動モードの開始からの船体2の位置の変化が所定値を超えることである。これの成否は、各種センサ56における位置センサの検出結果から判別される。条件Fは、船体2に対し真横への推力を与える指示がユーザから入力されたことである。例えばユーザは、その他のスイッチ55を操作することで、船体2に対して真横への推力を与える指示を入力することができる。コントローラ40は、真横への推力を与える指示が入力されたか否かによって条件Fの成否を判別することができる。
【0058】
条件A、D、Eを採用した場合は、船体2が接岸すると予測される状況で押し付け状態へ移行させることができる。条件Bを採用した場合は、船体2が岸19に対して傾きすぎない状況で押し付け状態へ移行させることができる。条件Cを採用した場合は、押し付け状態への移行を早めることができる。条件Fを採用した場合は、ユーザの所望するタイミングで押し付け状態へ移行させることができる。
【0059】
ステップS103で終了条件が成立しない場合は、コントローラ40は、ステップS102に戻る。従って、横移動制御開始時に発生させた推力(船体2を回頭させるための推力)が維持される(図6(b)、(c))。ステップS103で終了条件が成立した場合は、コントローラ40はステップS104に進む。
【0060】
ステップS104では、コントローラ40は、真横推力発生モードへ移行する(図6(d))。すなわちコントローラ40は、作用点F0の位置を重心Gと一致させ、且つ、合力FSのベクトル方向を、中央線CLに直交する真横方向にすることで、回頭力を与えることなく真横方向への推力を与える。
【0061】
ステップS105では、コントローラ40は、横移動モードを終了させる指示があるまで待機する。従って、真横推力発生モードが継続される。この終了させる指示は、例えば、ユーザが設定操作部38を操作することで入力することができる。そして、コントローラ40は、横移動モードを終了させる指示があった場合は、図7に示す処理を終了する。
【0062】
ステップS106では、コントローラ40は、受け付けたステアリング操作に応じて推力補正を実施し、ステップS103に進む。この推力補正の例を図8図9で説明する。
【0063】
図8図9は、横移動モードの開始後にステアリング操作が受け付けられた場合の合力FSの変化を示す模式図である。これらの図では、船体2の姿勢変化は表現されていない。なお、以降、合力FSのベクトルを示す矢印の長さは合力FSの大きさに対応しており、矢印が長いほど合力FSの大きさは大きいとする。
【0064】
コントローラ40は、船体2を回頭させるための推力を発生させた後、ステアリング操作を受け付けた場合は、ステアリング操作に応じて、船体2の回頭速度を補正する。なお、その結果として、回頭半径または回頭方向も補正されてもよい。
【0065】
例えば、図8のケース80に示すように、反時計方向へ回頭させるための合力FSを発生させた後に、右方向(時計方向)に旋回するステアリング操作が受け付けられた場合を考える。この場合、コントローラ40は、ケース81に示すように、作用点F0の位置を重心Gに近づけるか、または、合力FSの大きさを小さくする。これら双方を適用してもよい。あるいは、コントローラ40は、ケース82に示すように、作用点F0の位置を、重心Gに対して前後方向において逆の位置にする。その際、合力FSの大きさは問わず、最初よりも小さくしてもよい。ケース81、82のようにすることで、船体2の反時計方向への回頭速度が遅くなる。
【0066】
次に、図9のケース90に示すように、時計方向へ反回頭させるための合力FSを発生させた後に、左方向(反時計方向)に旋回するステアリング操作が受け付けられた場合を考える。この場合、コントローラ40は、ケース91に示すように、作用点F0の位置を重心Gから後方へ遠ざける。あるいは、コントローラ40は、ケース92に示すように、合力FSの大きさを大きくする。なお、これら双方を適用してもよい。ケース91、92のようにすることで、船体2の反時計方向への回頭速度が速くなる。
【0067】
なお、回頭速度を変化させるための推力のベクトル方向は、真横方向に限定されるものではない。従って、ステアリング操作が受け付けられる度に、それに応じて、作用点F0の位置、合力FSの大きさ、合力FSのベクトル方向の少なくとも1つを変更することで、回頭速度を変化させてもよい。なお、ステアリング操作に応じて推力補正を実施することは必須でない。従って、ステップS102、S106を廃止してもよい。
【0068】
本実施の形態によれば、コントローラ40は、船体2を横移動させる指示を受けたことに応じて推進機(エンジン3L,3R、船舶推進機4L,4R)を制御することで、船体2に横方向への推力を与える横移動モードを実行する。コントローラ40は、少なくとも横移動モードの開始時に、船体2を回頭させるための推力を発生させるように上記推進機を制御する。これにより、船体2の動き出しを早めることができるので、横移動を円滑にすることができる。例えば、接岸のための横移動時には、操作技能の習得度合いに左右されることなく接岸を早めることができる。
【0069】
また、コントローラ40は、船体2を回頭させるための推力を発生させた後に、船体2に横方向の推力を与えるので、押し付け状態へ移行させることができる。特に、所定条件が成立したことに応じて、船体2に横方向の推力を与えるので、横移動を開始した後、適切なタイミングで押し付け状態へ移行させることができる。
【0070】
なお、横移動モードの開始時において、船体2を回頭させるための推力は、例示したものに限定されない。また、横移動モードの開始時と、最終的な真横推力発生モード時との間に、横移動モードの開始時での推力と真横推力発生モード時の推力のいずれとも異なる推力(位置、大きさまたは向きの少なくともいずれかが異なる推力)を発生させてもよい。以下、図10図14で、推力に関する変形例を説明する。
【0071】
図10(a)~(d)は、横移動モードの開始時に作用させる推力の変形例を示す模式図である。いずれも、右方向への横移動の指示を受けた場合であるとする。
【0072】
横移動モード開始時の合力FSのベクトル方向は、必ずしも真横でなくてもよく、図10(a)、(b)に示すように、斜め(上方から見て中央線CLと直交しない方向)であってもよい。このような合力FSによっても、横移動モード開始当初には船体2を回頭させることができる。
【0073】
また、横移動モード開始時の合力FSは、左右方向の成分を有することは必須でない。例えば、図10(c)に示すように、重心Gを中心とする反時計方向の回転モーメントMを船体2に生じさせるような推力であってもよい。従って、横移動モード開始時の船体2の回頭には、重心Gを中心とする船体2の回転も含まれる。
【0074】
図6(a)~(d)に示した例では、横移動モードの開始時に船体2を回頭させるための推力のベクトル方向は、船体2を横移動させる指示に応じた方向(図6(a)では右方)に設定された。これは、効率のよい動き出しと自然な制御を実現するために有利だからである。しかし、これに限らず、横移動モード開始時の合力FSは、指示方向とは反対方向の成分を含んでもよい。例えば、右方向への横移動の指示を受けた場合においても、図10(d)に示すように、横移動モード開始時には左方向の成分を含む合力FSを作用させて船体2を回頭させ、その後、指示に応じた右方向の成分を有する合力FSを作用させてもよい。
【0075】
図6図10で示した例では、横移動モードの開始時の船体2の回頭方向は、指示に応じた方向へ船尾が近づく方向に対応している。これは、船舶推進機から遠い船首を動かすよりも船舶推進機に近い船尾を動かす方が、船体2を動かし始める際のエネルギが少なくて済むからである。しかし、これに限定されず、横移動モードの開始時の船体2の回頭方向は、指示に応じた方向へ船首が近づく方向に対応していてもよい。そのようにする場合、例えば、図6(a)、図10(a)、(b)の例でいえば、合力FSの作用点F0の位置を重心Gよりも前方に設定すればよい。図10(c)の例でいえば、回転モーメントMを時計方向にすればよい。図10(d)の例でいえば、合力FSの作用点F0の位置を重心Gよりも後方に設定すればよい。
【0076】
図11図14は、横移動モードの開始時と、真横推力発生モード時との間(以下、モード途中という)に作用させる推力の変形例を示す模式図である。いずれも、右方向への横移動の指示を受けた場合であるとする。横移動モードの開始時には図6(a)に示すような合力FSが作用し、真横推力発生モード時には図6(d)に示すような合力FSが作用するとする。すなわち、図11図14は、図6(b)、(c)の状況での合力FSの変形例に該当する。
【0077】
図11図14で説明するように、船体2を回頭させるための推力を発生させた後、船体2に横方向の推力を与えるまでの間に、船体2に与える推力の方向または作用位置を変化させてもよい。これにより、モード途中で船体2の姿勢を整えることができる。
【0078】
まず、図11に示すように、モード途中において、合力FSの作用点F0の位置を、徐々に重心Gに近づけていってもよい。これにより、船体2の回頭速度が徐々に小さくなる、その結果として、回答半径は徐々に大きくなる。
【0079】
図12に示すように、モード途中においてだけ、重心Gに対する前後方向における作用点F0の位置を逆にしてもよい。あるいは、図13に示すように、モード途中において、重心Gに対する前後方向における作用点F0の位置を複数回に亘って(前後に)切り替えてもよい。
【0080】
図12図13の例では、船体2を回頭させるための推力を発生させた後、船体2に横方向の推力を与えるまでの間に、船体2に横方向の成分を含む推力を与えながら船体2の回頭方向も逆転させている。モード途中で船体2の回頭方向を逆転させることで、接岸時に横付け状態になりやすい。
【0081】
図14に示すように、モード途中において合力FSのベクトル方向を変化させてもよい。この例では、モード途中においては、角度θが徐々に小さくなっている。船体2が回頭した状態であっても、船体2に対して岸19などの目標位置へ向かう成分を合力FSに多く持たせることで、目標位置への到着を早めることが期待できる。
【0082】
なお、図11図14の例は、横移動モード開始時の合力FSが、図10(a)~(d)のいずれに示すものであった場合にも有用である。
【0083】
なお、このほか、モード途中において合力FSを変化させる態様は、作用位置、向き、大きさを徐々に変化させることに限らず、これらの少なくともいずれかを段階的に変化させてもよい。
【0084】
なお、横移動モードの開始は、船体2が停止した状態で接岸する際に指示されることが想定されるが、それに限定されない。航行中でもよいし、接岸ではなく他の目標位置に横移動する際にも横移動モードが実行されてもよい。
【0085】
なお、左横移動スイッチ53、右横移動スイッチ54とは別に、船体2を横付けで押し付ける押し付けモード専用の操作子をその他のスイッチ55として設けてもよい。この場合、押し付けモード専用の操作子が操作された場合も、横移動モードが実行されるようにしてもよい。なお、左横移動スイッチ53、右横移動スイッチ54が操作された場合に実行される横移動モードと、押し付けモード専用の操作子が操作された場合に実行される横移動モードとで、合力FSの大きさや作用位置などを異ならせてもよい。
【0086】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0087】
例えば、船体2に3つ以上の船舶推進機を設け、コントローラ40は、3つ以上の推進機を制御して、横移動や斜め移動、回頭の制御を実現してもよい。なお、船舶推進機の一部または全部は電動モータであってもよい。
【0088】
本発明が適用される船舶は、ジェット推進艇に限らず、他の種類の船舶であってもよい。例えば、図15に示すように、船舶推進機4L,4Rとして船外機を含む船舶であってもよい。すなわち、船舶推進機4L,4Rは、ジェット推進機に限らず、船外機などの他の船舶推進機であってもよい。
【符号の説明】
【0089】
2 船体、 3L,3R エンジン、 4L,4R 船舶推進機、 40 コントローラ、 FS 合力、 F0 作用点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15