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  • 特開-細胞の移植方法 図1
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  • 特開-細胞の移植方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131904
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】細胞の移植方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20230914BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C12N1/00 Z
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036914
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】松原 孝博
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA27
4B029BB11
4B029HA07
4B065AA90X
4B065AB02
4B065BA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡便ながらも、培養液の混入を少なくすることができ、移植するための細胞の濃度高めることができる細胞の移植方法を提供する。
【解決手段】1)一方の先端が移植対象物に注入するための閉じた先細り形状であり、他の端が解放されているキャピラリーを準備する工程、2)前記解放された他の端から、移植のための細胞を含有する培養液を前記キャピラリーに充填する工程、3)前記細胞を充填したキャピラリーを、前記先細り形状の端を外側にして遠心し、培養液を分離する工程、4)前記分離した培養液を除去し、濃縮した細胞を含有する細胞濃縮液を充填したキャピラリーを取得する工程、5)前記細胞濃縮液を充填したキャピラリーの先細りした形状の先端に、細胞を注入し移植するための孔を形成する工程、および6)前記濃縮した細胞を、前記形成した孔から他の細胞に移植する工程、とを有する細胞の移植方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)一方の先端が移植対象物に注入するための閉じた先細り形状であり、他の端が解放されているキャピラリーを準備する工程、
2)前記解放された他の端から、移植のための細胞を含有する培養液を前記キャピラリーに充填する工程、
3)前記細胞を充填したキャピラリーを、前記先細り形状の端を外側にして遠心し、培養液を分離する工程、
4)前記分離した培養液を除去し、濃縮した細胞を含有する細胞濃縮液を充填したキャピラリーを取得する工程、
5)前記細胞濃縮液を充填したキャピラリーの先細りした形状の先端に、細胞を注入し移植するための孔を形成する工程、および
6)前記濃縮した細胞を、前記形成した孔から他の細胞に移植する工程、
とを有する細胞の移植方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな細胞の移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主にライフサイエンス分野において、個体や生物組織などの導入対象物(以下、移植対象物ともいう)に、新たな細胞などを導入、移植するために、マイクロインジェクション法などの注入方法が適用されている。マイクロインジェクション法は、移植する細胞が充填された微細な中空のガラス針(キャピラリー)を移植対象物に突き刺し、該キャピラリーを介し移植対象物内に移植する細胞を注入する方法である。そのため一般にキャピラリーは、移植対象物に突き刺す方の先端は尖っており、他端は細胞を充填するために、解放された形状を有している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-202448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、そのキャピラリーに移植する細胞を充填するためには、解放された端から培養液に分散された細胞が充填されることから、その場合培養液も同時に充填されるため、移植する細胞数が目減りしたり、キャピラリー内で細胞濃度にばらつきが生じ、移植細胞数が移植対象物の個体ごとに異なるといった問題点があった。
【0005】
また培養液を遠心分離で除いた後キャピラリーに充填すると、キャピラリーに充填する前の操作でのロスが多くなってしまうという問題もあった。
【0006】
本発明は、簡便ながらも、培養液の混入を少なくすることができ、移植するための細胞の濃度高めることができる細胞の移植方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1. 1)一方の先端が移植対象物に注入するための閉じた先細り形状であり、他の端が解放されているキャピラリーを準備する工程、
2)前記解放された他の端から、移植のための細胞を含有する培養液を前記キャピラリーに充填する工程、
3)前記細胞を充填したキャピラリーを、前記先細り形状の端を外側にして遠心し、培養液を分離する工程、
4)前記分離した培養液を除去し、濃縮した細胞を含有する細胞濃縮液を充填したキャピラリーを取得する工程、
5)前記細胞濃縮液を充填したキャピラリーの先細りした形状の先端に、細胞を注入し移植するための孔を形成する工程、および
6)前記濃縮した細胞を、前記形成した孔から他の細胞に移植する工程、
とを有する細胞の移植方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便ながらも、培養液の混入を少なくすることができ、移植するための細胞の濃度高めることができる細胞の移植方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来の移植方法を示す概略図である。
図2】本発明で使用されるキャピラリーの概略図である。
図3】本発明の各工程における、培養液に分散された細胞を充填したキャピラリーの概略図である。
図4】本発明の、先端に孔を形成したキャピラリーの概略図である。
図5】本発明の濃縮した細胞を移植する工程の概略図である。
図6】本発明の遠心分離工程において使用した遠心分離機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、従来の移植方法を示している。培養液に分散された移植する細胞を、両端が解放されているキャピラリーの開口径の大きい端から、キャピラリー先端にやや空気を残しながら、充填する。他の細胞への移植は、キャピラリーの先細りした先端から空気を除き他の細胞に突き刺し、充填した細胞を注入することによって行われる。
【0012】
この方法では、移植する細胞は、培養液中での濃度そのままであり、低濃度1で分散していることから、細胞の濃度にばらつきが生じている。
【0013】
本発明の工程を示す概略図2図6をもって、本発明を説明する。なお以下の操作は、移植する細胞の生存可能条件下(魚類の細胞の場合、4℃から30℃)で行うのが好ましい。
【0014】
まず図2に示すキャピラリーを、工程1)キャピラリーを準備する工程で準備する。一方の先端Sは細胞に注入するために閉じた先細り形状を有し、他の端Oは、培養液に分散した細胞を充填するために開放されている。このキャピラリーは通常の方法によって自作することができるし、市販品を入手することもできる。
キャピラリーは、先細り形状部分の長さがL1、筒状部分の長さがL2であり、内径がΦである。L1は3~6mm、L2は30~100mm、Φは0.8~1.2mmであることが好ましい。
【0015】
工程2)では、工程1)で準備したキャピラリーの解放されている端Oから、培養液に分散した細胞をキャピラリー内に導入する。図3-1は、培養液に分散した細胞が充填されたキャピラリーを示す。
【0016】
工程3)は、工程2)で細胞を充填したキャピラリーを、前記先細り形状の端を外側にして遠心し、培養液を分離する工程である。図3-2は、培養液に分散した細胞が充填されたキャピラリーを遠心分離した後の状態を示す。遠心分離は、図6に示すような装置を用い、先端Sを外側にして遠心する。すると細胞は先端S側に濃縮され、過剰な培養液は他の端O側に分離する。遠心分離機は、固定式、スイングアーム式のいずれも使用することができる。
【0017】
工程4)は、遠心分離した培養液を除去し、濃縮した細胞を含有する細胞濃縮液を充填したキャピラリーを取得する工程である。図3-3は、過剰な培養液を解放されている端Oから除去した状態を示している。移植する細胞が高濃度に充填された状態となっている。
【0018】
工程5)は、細胞濃縮液を充填したキャピラリーの先細りした形状の先端に、細胞を注入し移植するための孔を形成する工程である。図4は、先細りした先端Sに、移植の対象となる細胞に注入するための孔を斜めに切断して形成する工程を示している。孔の位置、形状は移植の対象となる細胞の種類によって適宜選択することができる。たとえば、先端Sよりわずかに離れた横の位置に形成してもよい。形状としては、キャピラリーの長さ方向に対して直角に切断することのできるし、斜めに切断することもできる。切断面は、移植対象となる細胞に挿入することが容易になるような形状とすることが好ましい。
【0019】
工程6)は、濃縮した細胞を、形成した孔から他の細胞に移植する工程である。図5は、先端Sに孔を形成したキャピラリーから、移植する細胞を注入する状態を示している。形成した孔を有する先端Sを移植する細胞に突き刺し、遠心分離した高濃度の細胞を、他の操作手段に接することもなく直接注入する。本発明においては、遠心分離後そのまま移植することから、移植する細胞のロスは極めて小さい。
【0020】
図6は、キャピラリーを遠心する装置を示す。図6に記載の装置は、遠心軸に対して対象に2か所のキャピラリー装着箇所を設けている。この装着箇所は1箇所でも、3箇所以上でもよい。また上下にあってもよい。固定式、スイングアーム式のいずれであってもよい。
以下本発明を、実施例をもって具体的に説明する。
【実施例0021】
以下本発明を、実施例をもって具体的に説明する。なお、下記実験は、断りの無い限り23℃50%RHの環境下で行った。
【0022】
ゼブラフィッシュ(Danio rerio)孵化仔魚の腹腔内への精原細胞移植に本技術を用いた結果を実施例に示した。赤色蛍光タンパクで生殖細胞が標識された遺伝子組み換えゼブラフィッシュ成魚の精巣を摘出し、外科用メスにより細かく細断した後、PBS(-)に溶解した0.1%トリプシン中で振盪培養することにより生殖細胞を単離した。
【0023】
30%と35%に調整したPercoll液を用いた密度勾配遠心分離法により精原細胞を濃縮し、0.1%牛血清アルブミンを含むPBS(-)に再懸濁した。懸濁細胞をセルカウンターにより計数し、濃度を算出した。実施例では、約50,000/μlの濃度に細胞を調製した。
【0024】
ついでマイクロキャピラリー(L1:5mm L2:50mm Φ:1mm)を作製した(1)工程)。
単離し濃縮した精原細胞液をピペットにより10μl吸引し、作製したマイクロキャピラリーに充填した(2)工程)。
【0025】
この細胞液を充填したマイクロキャピラリーを、先細り形状の端が外側を向くように3Dプリンタにより自作したホルダー(図6)に固定し、手動式遠心機によりおよそ800xgで1分間遠心した(3)工程)。
【0026】
遠心分離後、マイクロピペットを用いてマイクロキャピラリー内の余分な培養液をできる限り除去した。細胞濃縮されたマイクロキャピラリーをインジェクターのホルダーに固定し、マイクロキャピラリー内圧を外気圧と合わせた後、実体顕微鏡ステージ上に置いたPBSを満たしたシャーレー液内に針先を浸した(4)工程)。
【0027】
ピンセットを用いて、実体顕微鏡下でマイクロキャピラリーの開口部がおよそ10μmになるように先端を折った(5)工程)。
マイクロキャピラリー先端を、dnd遺伝子に対するモルフォリノヌクレオチドの顕微注入によりあらかじめ不妊化処理したゼブラフィッシュ孵化仔魚(10日齢)の腹腔内へ挿入し、1個体当たりおよそ10万細胞ずつ移植した(6)工程)。
【0028】
移植2週間後に蛍光顕微鏡により観察したところ、これらの移植個体のうち10個体中9体で、ドナー細胞に由来する赤色蛍光により可視化された生殖細胞の生殖腺原基への定着が確認された。
以上の通り、本発明が、簡便でロスの少ない移植方法であることが判る。
【符号の説明】
【0029】
1 キャピラリー
2 移植する細胞
3 培養液
4 移植する細胞の充填装置
5 孔

S キャピラリーの閉じた先細り形状を有する端
O キャピラリーの解放された端
Φ キャピラリーの内径
図1
図2
図3
図4
図5
図6