(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131916
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ホログラム用データ生成システム及びホログラム用データ生成方法
(51)【国際特許分類】
G03H 1/26 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G03H1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036930
(22)【出願日】2022-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】田中 博
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 優
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 利幸
(72)【発明者】
【氏名】豊田 晴義
(72)【発明者】
【氏名】早崎 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智士
【テーマコード(参考)】
2K008
【Fターム(参考)】
2K008AA00
2K008HH06
2K008HH26
(57)【要約】
【課題】 空間光変調器において用いられるホログラムを適切なものとする。
【解決手段】 ホログラム用データ生成システム10は、空間光変調器において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するシステムであって、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報を取得する取得部11と、取得部11によって取得された目標情報によって示される強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する決定部12と、決定部12によって決定された生成方法によって、取得部11によって取得された目標情報からホログラム用データを生成する生成部13とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間光変調器において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するホログラム用データ生成システムであって、
ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された目標情報によって示される強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定された生成方法によって、前記取得手段によって取得された目標情報からホログラム用データを生成する生成手段と、
を備えるホログラム用データ生成システム。
【請求項2】
前記決定手段は、前記取得手段によって取得された目標情報によって示される強度分布から、当該強度分布の種別を判断し、判断した種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する請求項1に記載のホログラム用データ生成システム。
【請求項3】
前記強度分布の種別は、離散的な分布、出射光の進行方向の分布、及び円環状の分布の少なくとも何れかを含む請求項1又は2に記載のホログラム用データ生成システム。
【請求項4】
空間光変調器において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するホログラム用データ生成システムの動作方法であるホログラム用データ生成方法であって、
ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された目標情報によって示される強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する決定ステップと、
前記決定ステップにおいて決定された生成方法によって、前記取得ステップにおいて取得された目標情報からホログラム用データを生成する生成ステップと、
を含むホログラム用データ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光変調器において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するホログラム用データ生成システム及びホログラム用データ生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の空間的な位相分布を変調させて出射する空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)がレーザ加工機等に用いられている。空間光変調器では、ホログラムによって光の変調が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空間光変調器におけるホログラムとしては、コンピュータでの計算によって生成される計算機生成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)が用いられる。ホログラムからの出射光の分布は、空間光変調器の利用目的等に応じて種々のものになり得る。しかしながら、一律の生成方法(例えば、特定のアルゴリズム)によってホログラムを生成すると、ホログラムからの出射光の分布は、利用目的等に応じた適切なものとなり得ないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、空間光変調器において用いられるホログラムを適切なものとすることができるホログラム用データ生成システム及びホログラム用データ生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係るホログラム用データ生成システムは、空間光変調器において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するホログラム用データ生成システムであって、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報を取得する取得手段と、取得手段によって取得された目標情報によって示される強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する決定手段と、決定手段によって決定された生成方法によって、取得手段によって取得された目標情報からホログラム用データを生成する生成手段と、を備える。
【0007】
本発明に係るホログラム用データ生成システムでは、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布の種別に応じた、適切な生成方法によってホログラム用データが生成される。従って、本発明に係るホログラム用データ生成システムによれば、空間光変調器において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【0008】
決定手段は、取得手段によって取得された目標情報によって示される強度分布から、当該強度分布の種別を判断し、判断した種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定することとしてもよい。この構成によれば、適切かつ確実に生成方法を決定することができる。その結果、確実に空間光変調器において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【0009】
強度分布の種別は、離散的な分布、出射光の進行方向の分布、及び円環状の分布の少なくとも何れかを含むこととしてもよい。この構成によれば、生成方法を決定するための強度分布の種別を適切なものとすることができる。その結果、確実に、空間光変調器において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【0010】
ところで、本発明は、上記のようにホログラム用データ生成システムの発明として記述できる他に、以下のようにホログラム用データ生成方法の発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0011】
即ち、本発明に係るホログラム用データ生成方法は、空間光変調器において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するホログラム用データ生成システムの動作方法であるホログラム用データ生成方法であって、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報を取得する取得ステップと、取得ステップにおいて取得された目標情報によって示される強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する決定ステップと、決定ステップにおいて決定された生成方法によって、取得ステップにおいて取得された目標情報からホログラム用データを生成する生成ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空間光変調器において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るホログラム用データ生成システムの構成を示す図である。
【
図2】ホログラム用データ生成システムによって生成されるホログラム用データが利用されるレーザ加工機の構成の例を示す図である。
【
図3】ホログラム用データ生成システムに取得される目標情報の例を示す図である。
【
図4】ホログラム用データ生成システムにおけるホログラム用データの生成を模式的に示す図である。
【
図5】ホログラム用データ生成システムに取得される目標情報の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るホログラム用データ生成システムで実行される処理であるホログラム用データ生成方法を示すフローチャートである。
【
図7】強度分布の種別の判断の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面と共に本発明に係るホログラム用データ生成システム及びホログラム用データ生成方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1に本実施形態に係るホログラム用データ生成システム10を示す。ホログラム用データ生成システム10は、SLM(空間光変調器)において光の変調に用いられるホログラムを実現するためのホログラム用データを生成するシステム(装置)である。SLMは、光を入射して、入射した光の空間的な位相分布を変調させて出射する装置である。以後、単に光を変調すると記載する。
【0016】
本実施形態では、SLMは、レーザ加工機20に用いられる。
図2にレーザ加工機20の構成の例を模式的に示す。レーザ加工機20は、SLM31を含むSLMモジュール30を含んで構成されている。なお、SLM31は、必ずしもレーザ加工機20に用いられる必要はなく、レーザ加工以外の従来用いられている用途等の任意の用途に用いられてもよい。
【0017】
SLM31は、二次元状に配置された複数の画素電極を有しており、画素電極によってホログラムを実現(生成)する。例えば、SLM31は、1280×1024画素(ピクセル)(SXGA:Super Extended Graphics Array)のホログラムを実現する。SLM31は、当該ホログラムに入射した光を透過又は反射させて光を変調する。SLM31は、例えば、LCOS(Liquid crystal on silicon)-SLMである。なお、SLM31は、ホログラムを用いて光の変調を行う従来のSLMでよい。
【0018】
SLM31において光の変調に用いられるホログラムとしては、CGHが用いられる。ホログラム用データ生成システム10は、CGHを実現するためのホログラム用データを生成する。SLM31は、ホログラム用データ生成システム10によって生成されたホログラム用データを入力して、ホログラムの実現に用いる。
【0019】
ホログラム用データ生成システム10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、通信モジュール等のハードウェアを含む従来のコンピュータによって実現される。ホログラム用データ生成システム10は、複数のコンピュータを含むコンピュータシステムであってもよい。ホログラム用データ生成システム10の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。
【0020】
ホログラム用データ生成システム10は、例えば、SLM31のユーザ、即ち、レーザ加工機20のユーザにホログラム用データを提供するサービス事業者によって設けられる。例えば、ユーザは、サービス事業者との間にサブスクリプション契約を結び、ホログラム用データの提供を受ける。この場合、ホログラム用データ生成システム10は、クラウドサーバによって実現されてもよい。
【0021】
PC(パーソナルコンピュータ)等のユーザの制御装置40が、インターネット等の通信網を介してホログラム用データ生成システム10にホログラム用データの生成に必要となるデータを送信する。ホログラム用データ生成システム10は、送信されたデータを受信して、当該データに基づいてホログラム用データを生成する。ホログラム用データ生成システム10は、生成したホログラム用データを制御装置40に送信する。制御装置40は、送信されたホログラム用データを受信して、SLM31に出力する。なお、制御装置40の機能は、専用のクライアントソフトウェアによって実現されてもよい。
【0022】
このようにユーザ以外のサービス事業者によって、ホログラム用データが生成されてユーザに提供されれば、ユーザは、自身でホログラム用データを生成する必要がなく、容易にSLM31を利用することができる。例えば、ユーザは、ホログラム用データを生成するためのソフトウェアを個別に用意したり、ホログラム用データの生成を習得したりする必要がない。なお、ホログラム用データ生成システム10は、上記のようなサービス事業者によるクラウドサーバを用いた枠組みで設けられる必要はなく、本実施形態に係る構成を有するものであれば任意の枠組みで設けられたものであってよい。
【0023】
ホログラム用データ生成システム10によるホログラム用データの生成は、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報に基づいて行われる。ホログラム用データ生成システム10は、後述する本実施形態に係る機能によって、目標情報に応じて適切なホログラム用データを作成する。
【0024】
引き続いて、SLM31を含むレーザ加工機20の例を説明する。
図2に本実施形態に係るレーザ加工機20の構成を模式的に示す。
図2に示すようにレーザ加工機20は、レーザ光源21と、ビーム整形光学系22と、レンズ23と、SLMモジュール30とを含む。上記の各構成要素は、レーザ加工に用いられる光の光路において、レーザ光源21、ビーム整形光学系22、SLMモジュール30及びレンズ23の順に位置決めされて配置される。
【0025】
レーザ光源21は、SLMモジュール30に入力されてレーザ加工に用いられる光(レーザ光)を出力する光源である。ビーム整形光学系22は、レーザ光源21から出力された光を、SLMモジュール30への入力に適するようにレーザビームとして整形して出射する光学系である。SLMモジュール30は、SLM31を含んでおり、ビーム整形光学系22から出射された光を入力して、入力した光を変調して出射する。レンズ23は、SLMモジュール30から出射されて加工用光路を経由した光を入射して、被加工材料(加工対象物)50に集光して入射するレンズである。
【0026】
SLMモジュール30の構成を説明する。
図2に示すようにSLMモジュール30は、SLM31と、結像光学系32と、ミラー33と、レンズ34と、カメラ35とを含む。上記の各構成要素は、レーザ加工に用いられる光の光路において、SLM31、結像光学系32、ミラー33、レンズ34及びカメラ35の順に位置決めされて配置される。
【0027】
SLM31は、ビーム整形光学系22を経由してSLMモジュール30に入力された光を変調して出力する。SLM31は、制御装置40から、CGHを実現するためのホログラム用データD1を入力してホログラムを実現して光の変調に用いる。
【0028】
結像光学系32は、SLM31から出力された光を、被加工材料50においてレーザ加工が行われるようにレンズ34に結像させる光学系である。ミラー33は、結像光学系32から出力された光を分岐させる光学系である。ミラー33によって分岐された一方の光(例えば、ミラー33によって反射された光)は、加工用光路及びレンズ23を経由して被加工材料50に入射する。
【0029】
ミラー33によって分岐された他方の光(例えば、ミラー33を透過した光)は、レンズ34に入射する。レンズ34は、ミラー33によって分岐された光を入射して、カメラ35に集光して入射するレンズである。カメラ35は、レンズ34から出力された光、即ち、SLM31からの出射光を撮像する装置である。例えば、カメラ35は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等の撮像素子である。カメラ35によって撮像された画像は、SLM31からの出射光の集光位置での強度分布である。
【0030】
カメラ35によって撮像されたSLM31からの出射光の画像のデータD2は、制御装置40に入力される。当該データD2は、SLM31で用いられるホログラム用データの修正に用いられる。
【0031】
レーザ加工機20の各構成要素は、SLMを用いた従来のレーザ加工機と同様ものでよい。なお、レーザ加工機20を必ずしも上記の構成を取る必要はなく、上記の構成要素の何れかを含まない構成、及び上記の構成要素以外を含む構成であってもよい。
【0032】
引き続いて、本実施形態に係るホログラム用データ生成システム10の機能を説明する。
図1に示すようにホログラム用データ生成システム10は、取得部11と、決定部12と、生成部13とを備えて構成される。
【0033】
取得部11は、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す目標情報を取得する取得手段である。目標情報は、例えば、出射光の集光位置での強度分布を示す画像である。
図3に目標情報の例を示す。具体的には、目標情報は、光の進行方向(z方向)の予め設定される位置(z=0)での当該方向と垂直な面での位置(x,y)毎の光の強度I
0(x,y)を示す情報を含む。
図3に示す画像のうち1枚目の画像である。本実施形態では、光の強度が強いほど白い色で、光の強度が弱いほど黒い色で示す。光の進行方向の予め設定される位置(z=0)は、SLM31からの出射光が集光される位置、即ち、被加工材料50の加工位置である。
図3に示す1枚目の画像の例では、横並びの2つの点の位置に光が照射され、それ以外の位置には光が照射されない(あるいは極めて弱い光が照射される)ことを示している。
【0034】
目標情報は、光の進行方向(z方向)の上記とは異なる予め設定される位置(z=L)での当該方向と垂直な面での位置(x,y)毎の光の強度I
L(x,y)を示す情報を含んでいてもよい。
図3に示す画像のうち2枚目の画像である。SLM31からの出射光が集光される位置が、光の進行方向において複数の位置にわたる場合には、2枚目の情報が含まれていてもよい。なお、上述した目標情報は一例であり、目標情報はホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布を示す情報であれば上記以外の情報であってもよい。
【0035】
目標情報は、被加工材料50に対してどのようなレーザ加工を行うかに応じたものとなる。従って、レーザ加工機20のユーザが、加工内容に応じて目標情報を生成する。目標情報の生成は従来と同様に行われればよい。
【0036】
目標情報は、例えば、レーザ加工機20のユーザの操作によって制御装置40からホログラム用データ生成システム10に送信される。取得部11は、送信された目標情報を受信して取得する。なお、取得部11による目標情報の取得は上記以外の方法で行われてもよい。取得部11は、取得した目標情報を決定部12及び生成部13に出力する。
【0037】
ホログラム用データは、当該ホログラム用データによって実現されるホログラムが用いられてSLM31によって光の変調が行われる際に、出射光の強度分布が目標情報によって示される強度分布となるように生成される。ホログラム用データは、目標情報に基づいて所定の生成方法、具体的には所定のアルゴリズムに従って生成される。しかしながら、一律の生成方法、例えば、特定のアルゴリズムによってホログラムを生成すると、ホログラムからの出射光の分布は、利用目的等に応じた適切なものとなり得ないおそれがある。
【0038】
これに対して本実施形態に係るホログラム用データ生成システム10は、
図4に示すように、目標情報によって示される強度分布の種別(例えば、多点ビーム、非回折ビーム、ラゲールガウシアンモード、ソリッドパターン)に応じてホログラム用データを生成するためのアルゴリズム(計算ライブラリ)を自動判別して、ホログラム用データを生成する。このようにホログラム用データを生成することで、SLM31によって光の変調に用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【0039】
決定部12は、取得部11によって取得された目標情報によって示される強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する決定手段である。決定部12は、取得部11によって取得された目標情報によって示される強度分布から、当該強度分布の種別を判断し、判断した種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定してもよい。強度分布の種別は、離散的な分布、出射光の進行方向の分布、及び円環状の分布の少なくとも何れかを含んでもよい。
【0040】
ホログラム用データの生成に用いる生成方法は、目標情報を入力としてホログラム用データを出力するアルゴリズムである。複数のアルゴリズムが予め用意されており、決定部12は、複数のアルゴリズムから、目標情報に基づいてホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定する。例えば、アルゴリズムは、予め計算ライブラリとして予めホログラム用データ生成システム10に記憶されている。計算ライブラリは、随時アップデートされ最新のものにされてもよい。なお、決定部12は、上記以外の生成方法の決定を行ってもよい。例えば、決定部12は、以下のように生成方法を決定する。
【0041】
決定部12は、取得部11から目標情報を入力する。決定部12は、入力した目標情報によって示される強度分布から、当該強度分布の種別を判断する。本実施形態における強度分布の種別は、多点ビーム、非回折ビーム、ラゲールガウシアンモード及びソリッドパターンである。決定部12は、強度分布の種別がこれらの4つの何れに該当するかを判断する。
【0042】
多点ビームは、目標情報によって示される強度分布において、出射光の位置(強度が一定以上の位置、以下同様)が、不連続な複数の位置であり、それぞれの連続する出射光の強度分布がガウス分布である(ガウシアンプロファイル)である種別である。即ち、多点ビームは、離散的な分布である。例えば、
図5(a)に示す強度分布が多点ビームである。非回折ビームは、目標情報によって示される強度分布において、光が進行方向に非回折で伝搬する種別である。即ち、非回折ビームは、出射光の進行方向の分布である。
【0043】
ラゲールガウシアンモードは、目標情報によって示される強度分布において、出射光の位置が円環状(リング状)の分布である種別である。例えば、
図5(b)に示す強度分布がラゲールガウシアンモードである。ソリッドパターンは、上記の何れの種別でもない種別である。例えば、
図5(c)に示す強度分布がソリッドパターンである。
【0044】
決定部12は、例えば、以下のように強度分布の種別を判断する。決定部12は、z=0での強度分布の画像(1枚目の画像)を、予め設定された閾値によって二値化し、出射光の輪郭(例えば、
図5の各強度分布での破線)を検出する。決定部12は、検出した輪郭によって示される、連続する出射光のグループが2以上か否かを判断する。決定部12は、グループの数が2以上である場合、分岐パターンであるとし、グループの数が2以上でない場合、分岐パターンでないとする。例えば、
図5(a)に示す強度分布は分岐パターンであると判断され、
図5(b)及び(c)に示す強度分布は分岐パターンでないと判断される。
【0045】
強度分布が分岐パターンであると判断した場合、決定部12は、連続する個々の出射光のグループの強度分布がガウシアンプロファイルであるか否かを判断する。連続する個々の出射光のグループの強度分布がガウシアンプロファイルであると判断した場合、決定部12は、目標情報によって示される強度分布の種別が多点ビームであると判断する。
【0046】
強度分布が分岐パターンでないと判断した場合、又は連続する個々の出射光のグループの強度分布がガウシアンプロファイルでないと判断した場合、続いて、決定部12は、目標情報にz=Lでの強度分布の画像(2枚目の画像)が含まれるか否か(即ち、出射光の進行方向の複数の位置での強度分布か否か)を判断する。2枚目の画像が含まれると判断した場合、決定部12は、目標情報によって示される強度分布の種別が非回折ビームであると判断する。
【0047】
2枚目の画像が含まれないと判断した場合、決定部12は、強度分布の出射光の位置がリング状であるか否か(強度分布がリングパターンであるか否か)を判断する。なお、上記の判断は、例えば、上記の二値化された画像を用いて行われる。強度分布の出射光の位置が、リング状であると判断した場合、決定部12は、目標情報によって示される強度分布の種別がラゲールガウシアンモードであると判断する。強度分布の出射光の位置が、リング状でないと判断した場合、決定部12は、目標情報によって示される強度分布の種別がソリッドパターンであると判断する。強度分布(画像)に対する上記の各判断は、従来の画像処理の技術等によって行うことができる。
【0048】
決定部12は、強度分布の種別と、ホログラム用データの生成に用いるアルゴリズムとを対応付けて記憶している。アルゴリズムは、対応する強度分布の種別に適したホログラム用データの生成が可能なものである。強度分布の種別に適したホログラム用データとは、実現されるホログラムによる出射光の強度分布が、より正確に目標情報によって示される強度分布となるものである。
【0049】
例えば、多点ビームには、Hidetomo Takahashi et al.,“Holographic femtosecond laser processing using optimal-rotation-angle method with compensation of spatial frequency response of liquid crystal spatial light modulator”,Appl.Opt.46,5917-5923(2007)に示されるアルゴリズムが対応付けられる。非回折ビームには、Zhongsheng Zhai et al.,“Tunable Axicons Generated by Spatial Light Modulator with High-Level Phase Computer-GeneratedHolograms”,Appl.Sci.10,5127(2020)に示されるアルゴリズムが対応付けられる。ラゲールガウシアンモードには、特開2008-134450号公報に示されるアルゴリズムが対応付けられる。ソリッドパターンには、Fred M.Dickey,Scott C.Holswade,“Laser Beam Shaping Theory And Techniques”,CRC Press,(2000)の140ページ以降に示されるアルゴリズムが対応付けられる。
【0050】
決定部12は、判断した強度分布の種別に対応付けられたアルゴリズムを、ホログラム用データの生成に用いるアルゴリズムとして決定(選択)する。決定部12は、決定したアルゴリズムを生成部13に通知する。
【0051】
なお、決定部12による、強度分布の種別の判断は必ずしも上記のように行われる必要はなく、任意の方法で行われればよい。また、判断される強度分布の種別は、上記のものである必要はなく、SLM31において用いられるホログラムを適切なものにするものであれば、任意の種別でよい。また、種別毎のアルゴリズムは、上記以外のものが用いられてもよい。
【0052】
生成部13は、決定部12によって決定された生成方法によって、取得部11によって取得された目標情報からホログラム用データを生成する生成手段である。生成部13は、取得部11から目標情報を入力する。生成部13は、決定部12からホログラム用データの生成に用いるアルゴリズムの通知を受ける。
【0053】
生成部13は、決定部12から通知されたアルゴリズム(計算ライブラリ)を読み出して、当該アルゴリズムによって、取得部11から入力された目標情報からホログラム用データを生成する。上述したように、ホログラム用データの生成は、当該ホログラム用データによって実現されるホログラムによる出射光の強度分布が、目標情報によって示される出射光の強度分布となるように行われる。アルゴリズムを用いたホログラム用データの生成自体は、従来と同様に行われればよい。
【0054】
生成部13は、生成したホログラム用データを出力する。例えば、生成部13は、目標情報の送信元である制御装置40に、生成したホログラム用データを送信する。制御装置40では、ホログラム用データが受信される。ホログラム用データは、制御装置40からレーザ加工機20に含まれるSLM31に入力されて、SLM31において光の変調のためのホログラムの実現に利用される。
【0055】
生成部13は、目標情報以外の情報をホログラム用データの生成に利用してもよい。例えば、カメラ35によって撮像されたSLM31からの出射光の画像のデータD2(カメラ35の計測データ)が、ホログラム用データの生成に利用されてもよい。この画像のデータD2は、制御装置40からホログラム用データ生成システム10に送信される。生成部13は、画像のデータD2を受信して取得する。
【0056】
生成部13は、画像のデータD2をホログラム用データの補正(修正)に用いる。例えば、
図5(a)に示す多点ビームのそれぞれの強度を均一にするという目標情報の場合、レーザ光源又は光学素子等の経年変化等の影響を受け、一方に偏りが生じる場合がある。また、湿度及び温度等の環境も、SLM31からの出射光に影響を与える。この場合、カメラ35の計測データをホログラム用データ生成システム10にフィードバックして、例えば強い強度の部分は弱め、弱い強度の部分は強める、といった具合に補正を加えることで、目標情報に適したホログラム用データを生成することができる。また、この際、例えば、
図2に示すレーザ加工機20において、ミラー33とレンズ34との間の光路上に光学的又は機械的なシャッタを設けておき、最終的なホログラム用データが生成されるまでシャッタを閉じて、被加工材料50に光が照射されないようにしてもよい。
【0057】
また、例えば、F. Mezzapesa et al.,“High-resolution monitoring of the hole depth during ultrafast laser ablation drilling by diode laser self-mixing interferometry”,Opt.Lett.36,822-824(2011)に記載されている光干渉計測を用いて被加工材料50の加工状態をモニタリングして、その計測情報を元にホログラム用データを生成してもよい。また、生成部13は、上記以外の情報(例えば、レーザ加工機20のハードウェアに関する情報)もホログラム用データの生成に利用してもよい。以上が、本実施形態に係るホログラム用データ生成システム10の機能である。
【0058】
引き続いて、
図6及び
図7のフローチャートを用いて、本実施形態に係るホログラム用データ生成システム10で実行される処理(ホログラム用データ生成システム10が行う動作方法)であるホログラム用データ生成方法を説明する。
【0059】
図6に示すように本処理では、まず、取得部11によって目標情報が取得される(S01、取得ステップ)。目標情報の取得は、例えば、制御装置40から送信された目標情報を受信することで行われる。続いて、決定部12によって、目標情報によって示される強度分布から当該強度分布の種別が判断される(S02、決定ステップ)。
【0060】
図7のフローチャートを用いて、強度分布の種別を判断する処理を説明する。本処理では、まず、目標情報によって示される強度分布が分岐パターンであるか否かが判断される(S21)。強度分布が分岐パターンであると判断された場合(S21のYES)、続いて、分岐された個々の強度分布がガウシアンプロファイルであるか否かが判断される(S22)。分岐された個々の強度分布がガウシアンプロファイルであると判断された場合(S22のYES)、強度分布の種別が多点ビームであると判断される。
【0061】
分岐された個々の強度分布がガウシアンプロファイルでないと判断された場合(S22のNO)、又はS21において強度分布が分岐パターンでないと判断された場合(S21のNO)、続いて、目標情報にz=Lでの強度分布の画像(2枚目の画像)が含まれるか否かが判断される(S23、S25)。目標情報にz=Lでの強度分布の画像(2枚目の画像)が含まれると判断された場合(S23のYES、S25のYES)、強度分布の種別が非回折ビームであると判断される。
【0062】
目標情報にz=Lでの強度分布の画像(2枚目の画像)が含まれないと判断された場合(S23のNO、S25のNO)、続いて、強度分布の出射光の位置がリング状であるか否か(強度分布がリングパターンであるか否か)が判断される(S24、S26)。強度分布の出射光の位置がリング状である(強度分布がリングパターンである)と判断された場合(S24のYES、S26のYES)、強度分布の種別がラゲールガウシアンモードであると判断される。強度分布の出射光の位置がリング状でない(強度分布がリングパターンでない)と判断された場合(S24のNO、S26のNO)、強度分布の種別がソリッドパターンであると判断される。以上が、強度分布の種別を判断する処理である。
【0063】
続いて、
図6に示すように決定部12によって、強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法であるアルゴリズムが決定される(S03、決定ステップ)。続いて、決定部12によって決定されたアルゴリズムによって、取得部11によって取得された目標情報から、生成部13によってホログラム用データが生成される(S04、生成ステップ)。生成されたホログラム用データは、生成部13から出力される(S05)。生成されたホログラム用データは、例えば、生成部13から制御装置40に送信されて、レーザ加工機20に含まれるSLM31においてホログラムの実現に利用される。本実施形態に係るホログラム用データ生成システム10で実行される処理である。
【0064】
本実施形態では、ホログラムからの出射光の目標である出射光の強度分布の種別に応じた、適切な生成方法によってホログラム用データが生成される。従って、本実施形態によれば、SLM31において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【0065】
また、上述した実施形態のように、ホログラム用データ生成システム10において、目標情報によって示される強度分布から、当該強度分布の種別を判断し、判断した種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法を決定してもよい。この構成によれば、適切かつ確実に生成方法を決定することができる。その結果、確実にSLM31において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。但し、必ずしも、ホログラム用データ生成システム10において強度分布の種別を判断する必要はない。例えば、目標情報とあわせて当該目標情報によって示される強度分布の種別を示す情報を取得し、その情報を用いて生成方法を決定してもよい。
【0066】
また、上述したように強度分布の種別は、離散的な分布、出射光の進行方向の分布、及び円環状の分布の少なくとも何れかを含むこととしてもよい。この構成によれば、生成方法を決定するための強度分布の種別を適切なものとすることができる。その結果、確実に、SLM31において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【0067】
なお、上述した実施形態では、強度分布の種別に応じて、ホログラム用データの生成に用いる生成方法であるアルゴリズムを決定することとしていたが、取得される目標情報のデータフォーマットに応じてアルゴリズムを決定してもよい。例えば、取得される目標情報が、上述したものとは異なり、(x,y,z,a,px,py)の6次元のデータである場合には、当該場合に応じたアルゴリズムとしてもよい。上記の6次元のデータのうち、(x,y,z)は、強度分布を示すための空間の座標(位置)である。zは、光の進行方向における座標であり、x,yは当該方向と垂直な面における座標である。aは、(x,y,z)の位置の明るさ(信号強度)を示す値である。px,pyは、(x,y,z)の位置のx方向及びy方向の偏光を示す値である。
【0068】
目標情報が、上記の6次元のデータである場合には、例えば、ホログラム用データの生成に用いるアルゴリズムとして、Optik 35,235-346(1972)に示されるGS(Gerchberg and Saxton)法が用いられる。このように目標情報のデータフォーマットに応じてアルゴリズムを決定することで、SLM31において用いられるホログラムを適切なものとすることができる。
【符号の説明】
【0069】
10…ホログラム用データ生成システム、11…取得部、12…決定部、13…生成部、20…レーザ加工機、21…レーザ光源、22…ビーム整形光学系、23…レンズ、30…SLMモジュール、31…SLM、32…結像光学系、33…ミラー、34…レンズ、35…カメラ、40…制御装置、50…被加工材料。