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特開2023-13193プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013193
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/20 20060101AFI20230119BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20230119BHJP
   E02B 7/20 20060101ALI20230119BHJP
   E04B 2/02 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
E04B2/20
E01D19/02
E02B7/20 104
E04B2/02 135
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117192
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】村野 耕作
(72)【発明者】
【氏名】竹森 敬介
(72)【発明者】
【氏名】林 英和
(72)【発明者】
【氏名】上山 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】大島 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】細谷 学
(72)【発明者】
【氏名】栗林 潤
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕志
【テーマコード(参考)】
2D019
2D059
【Fターム(参考)】
2D019AA41
2D059AA03
2D059BB37
2D059GG61
(57)【要約】
【課題】大型の構造物に対してもプレキャスト部材を用いた施工を容易に実現できる。
【解決手段】L1~L6において、断面形状の長径方向における両端部側に離間してPC部材が設けられる。図2(a)においては、L2における断面、図2(b)においては、L6における断面が示されており、どちらも鉛直方向に垂直な断面となっている。L1~L5においてはPC部材11A、11Bが共通に用いられ、図2(a)の断面構造は、L1、L3~L5においても同様である。L1~L5においては、下層側のPC部材11A、11Bの上に上層側のPC部材11A、11Bがそれぞれ積層される。また、L5のPC部材11A、11Bの上にはL6のPC部材12A、12Bがそれぞれ積層される。中詰層20は、後述する打設工程において、コンクリートを打設することによって形成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャスト部材を積層して構造物を構築する、構造物の構築方法であって、
前記プレキャスト部材の積層構造のうちの少なくとも一つの層で、複数の前記プレキャスト部材を互いに離間させて設け、
下層側における前記プレキャスト部材の上に充填剤を塗布する充填剤塗布工程と、
塗布された前記充填剤の上に、上層側における前記プレキャスト部材を積層する積層工程と、
単層において複数の前記プレキャスト部材が用いられた層において、当該複数の前記プレキャスト部材を結合するようにコンクリートを打設する打設工程と、
を含むことを特徴とする、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法。
【請求項2】
前記充填剤はモルタルであることを特徴とする請求項1に記載の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法。
【請求項3】
複数のプレキャスト部材を積層して構造物を構築する、構造物の構築方法であって、
下層側における前記プレキャスト部材の上に、モルタルからなる充填剤を塗布する充填剤塗布工程と、
塗布された前記充填剤の上に、上層側における前記プレキャスト部材を積層する積層工程と、
を含むことを特徴とする、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法。
【請求項4】
前記モルタルのJISR5201のフロー試験における0打フロー値を200~280mmの範囲とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法。
【請求項5】
前記充填剤塗布工程及び前記積層工程を繰り返して行うことによって複数の層間にわたり前記プレキャスト部材を前記充填剤を介して積層し、
前記充填剤の固化後に、積層された複数の前記プレキャスト部材に対し、鉛直方向に沿って緊張力を付与する緊張作業を行うことを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材(プレキャストコンクリート部材:PC部材)を用いて堰柱等の大型の構造物を構築する構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住居等の構造物を構築する工法としてPC(プレキャストコンクリート)工法が知られている。PC工法においては、現場とは異なる場所で予めコンクリートで成形されたプレキャストコンクリートブロック(プレキャスト部材又はPC部材)が現場に搬入され、このPC部材を現場で組み合わせた構造に対してコンクリートを打設すること等によって、構造体が構築される。この工法によれば、現場でコンクリートの養生を行う必要がない。また、構築現場とは異なる場所において、その生産に適した環境で多数のPC部材を高精度、高品質で生産することができる。このため、施工期間を短くすることができると共に、信頼性も高めることができる。
【0003】
同様に、PC部材を用いて橋脚基礎工等の大型の構造物を構築するPCウェル工法も知られている。PCウェル工法においては、短尺の円筒形状とされたPCブロックを中心軸に沿って順次圧入して沈設して長尺の円筒形状の構造物が形成される。この際、この構造物をPC鋼材を用いて緊張させて圧縮応力を付与することによって、完成後の構造物の強度を高めることができる。この工法においても、上記と同様のメリットが得られる。
【0004】
PC工法やPCウェル工法の特性は、特に使用されるPC部材の構成によって大きく左右され、特に構築される構造物が大型となる場合には、これに応じた構成のPC部材が使用される。特許文献1には、2ピース構造として形成され、接続部材によって接続されて一体化されるPC部材が記載されている。一体化された後のPC部材を更に組み合わせた後の作業は従来と変わらずに行うことができる。
【0005】
また、特許文献2には、より小型かつ多数のPC部材を継手を用いて多数接続することによって外周部を形成し、外周部で囲まれた内部にコンクリートを打設することによって、堰柱等の大型の構造物を構築する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-143785号公報
【特許文献2】特開2019-060236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば堰柱のような大型の構造物の施工のためにPC工法を適用する場合、単一のPC部材は特に大型となるため、その運搬が容易ではなかった。このため、堰柱のような大型の構造物に対しては、例えば特許文献1に記載のようにこれを分割して製造した場合でも、上記のようなPC工法の適用は容易ではなかった。
【0008】
一方で、特許文献2に記載のように小型のPC部材を複数接続して外周部を形成する場合には、使用されるPC部材の総数が多くなりその組立作業が容易ではないため、やはりこの工法の適用は大型の構造物に対しては困難であった。
【0009】
また、実際に構造物を構築する際には、積層される各PC部材の各々に対してプリテンション(緊張力)を付与する緊張作業が行われる。これに対して、構造物が大型でありPC部材の積層数が多くなった場合には、緊張作業の回数が多くなるために、施工に時間を要した。
【0010】
このため、大型の構造物に対してもプレキャスト部材を用いた施工を容易に実現できる構築方法が求められた。
【0011】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法は、複数のプレキャスト部材を積層して構造物を構築する、構造物の構築方法であって、前記プレキャスト部材の積層構造のうちの少なくとも一つの層で、複数の前記プレキャスト部材を互いに離間させて設け、下層側における前記プレキャスト部材の上に充填剤を塗布する充填剤塗布工程と、塗布された前記充填剤の上に、上層側における前記プレキャスト部材を積層する積層工程と、単層において複数の前記プレキャスト部材が用いられた層において、当該複数の前記プレキャスト部材を結合するようにコンクリートを打設する打設工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法において、前記充填剤はモルタルであることを特徴とする。
本発明の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法は、複数のプレキャスト部材を積層して構造物を構築する、構造物の構築方法であって、下層側における前記プレキャスト部材の上に、モルタルからなる充填剤を塗布する充填剤塗布工程と、塗布された前記充填剤の上に、上層側における前記プレキャスト部材を積層する積層工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法は、前記モルタルのJISR5201のフロー試験における0打フロー値を200~280mmの範囲とすることを特徴とする。
本発明の、プレキャスト部材を用いた構造物の構築方法は、前記充填剤塗布工程及び前記積層工程を繰り返して行うことによって複数の層間にわたり前記プレキャスト部材を前記充填剤を介して積層し、前記充填剤の固化後に、積層された複数の前記プレキャスト部材に対し、鉛直方向に沿って緊張力を付与する緊張作業を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されているので、大型の構造物に対してもプレキャスト部材を用いた施工を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る構築方法によって構築される構造物である堰柱の側面図(a)、正面図(b)である。
図2】本発明の実施の形態に係る構築方法によって構築される構造物である堰柱の2箇所における鉛直方向に垂直な断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る構築方法のフローチャートの例である。
図4】本発明の実施の形態に係る構築方法における途中の工程においての側面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る構築方法における途中の工程においての、積層体のPC鋼棒挿入孔(a)、鉄筋挿入孔(b)に沿った断面図である。
図6】本発明の実施の形態に係る構築方法において、共通の端部プレキャスト部材を用いて異なる断面形状の堰柱を構築した例(その1)である。
図7】本発明の実施の形態に係る構築方法において、様々なプレキャスト部材を用いた場合の堰柱の断面図の例である。
図8】本発明の実施の形態に係る構築方法において、共通の端部プレキャスト部材を用いて異なる断面形状の堰柱を構築した例(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る構造物の構築方法について説明する。ここで、この構築方法によって構築されるのは、特許文献2に記載されたような堰柱であるものとする。堰柱は特に大型の構造物であり、かつ高い強度が要求される。また、ほぼ同一構造のものが複数構築されるため、その工期を短くするためにはPC工法が特に好ましく用いられる。一方で、これに使用されるプレキャスト部材(プレキャストコンクリート部材:PC部材)は大型となるため、大型化に伴う問題点が発生するおそれがある。
【0016】
図1は、ここで構築される堰柱1の異なる2つの側からみた図であり、図1(a)は水流と垂直な方向からみた側面図であり、図中右側が上流側となる。図1(b)は、水流に沿った方向の上流側からみた正面図である。この堰柱1は、底版Bの上における6層(L1~L6)の積層構造を具備し、この6層の積層構造の構成、あるいはその構築方法に特徴を有する。堰柱1の上には天端部Tが設けられ、この上に堰柱1よりも小型の門柱部2が設けられる。実際にはこのような構造は水流に対して垂直な方向に沿って複数並行に設けられ、隣接する堰柱1及び門柱部2の間には水流を調整するための扉状の構造物が設けられる。このため、図1(b)の構造が実際には複数並列に形成される。堰柱1は特に水流に曝される部分となるため、この水流に抗する強度が要求される。ただし、これらの各々は同一の形状(断面形状)を有するとは限らず、この形状は、例えば水流に垂直な方向における位置に応じて設定される場合もある。なお、門柱部2は本願発明とは直接関係がないため、図1ではその記載は簡略化されている。
【0017】
この堰柱1における前記の積層構造においては、L1~L6の各層毎に2つのPC部材(プレキャストコンクリート部材、プレキャスト部材)が用いられた構成が積層される。ただし、各層において用いられる2つのPC部材は同一層内では図1(a)において左右で離間して設けられた形態とされ、各PC部材は最外周部の一部を構成する。PC部材が積層された構造の内部、及びPC部材が離間した箇所は、PC部材が設置された後で打設されたコンクリートで構成された中詰層20となっている。
【0018】
ここで、L1~L6において、断面形状の長径方向における両端部側に離間してPC部材(端部PC部材)が設けられる。図2(a)においては、図1(a)におけるX-X方向のL2における断面が示され、図2(b)においては、図1(a)におけるY-Y方向のL6における断面が示されており、どちらも鉛直方向に垂直な断面となっている。L1~L5においてはPC部材(端部PC部材)11A、11Bが共通に用いられ、図2(a)の断面構造は、L1、L3~L5においても同様である。ここでは、PC部材以外で各層を構成する中詰層20も記載されている。ここで、L1~L5においては、下層側のPC部材11A、11Bの上に上層側のPC部材11A、11Bがそれぞれ積層される。また、L5のPC部材11A、11Bの上にはL6のPC部材12A、12Bがそれぞれ積層される。
【0019】
図2においては各PC部材を鉛直方向で貫通する円型のPC鋼棒挿入孔21と鉄筋挿入孔22が多数配列されて形成されている。PC鋼棒挿入孔21、鉄筋挿入孔22は、積層時においてL1~L6の全てで平面視において重複するように形成されている。このため、図2(a)の構造はL1~L5にかけて連続的に形成され、図2(b)の構造もL6においてL5における図2(a)の構造と連続的に形成される。PC鋼棒挿入孔21は後述する緊張作業においてPC鋼棒を挿入するために用いられ、鉄筋挿入孔22は、全てのPC部材の積層後において、L1~L6にわたり鉄筋を挿入するために用いられる。これらの詳細については後述する。
【0020】
また、図1においてはその記載は省略されているが、鉛直方向で積層されたPC部材の間には充填剤が設けられている。充填剤としては、モルタルが特に好ましく用いられる。この点についても後述する。
【0021】
中詰層20は、後述する打設工程において、PC部材が配置され、各層において図2における左右のPC部材間に型枠が設置された状態で、コンクリートを打設することによって形成される。コンクリートの固化後に型枠が除去されることによって、図1、2の形態が実現される。
【0022】
図3は、このPC工法によって図1の構造を構築する際のフローチャートである。図1においてはL1~L6の6層構造とされているが、図3においてはこの総数は任意の数(複数)一般化されている。また、図4は、図1(a)の構造をこの構築方法で構築する際のいくつかの工程における形態を示す側面図である。
【0023】
ここでは、まず、図1における最下層の構造体である底版Bが形成される(S1)。ここでは、底版Bはコンクリートで構成されているため、底版Bは、型枠を形成後にコンクリートを打設することによって形成され、その上面側は平面状に形成される。なお、底版Bを、後述するL1等と同様にPC部材を用いて形成してもよい。
【0024】
次に、底版B上に充填剤が塗布された(S2:充填剤塗布工程)後に、PC部材が配置される(S3)。ここでは、まず、L1におけるPC部材11A、11Bが配置される。特許文献1等に記載されるように、一般的にPC部材を積層する際の充填剤としては、エポキシ系等の接着剤が使用されるのに対し、ここで用いられるような大型の構造物用のPC部材の積層においては、モルタルが特に好ましく用いられる。
【0025】
一般的にはエポキシ系接着剤とモルタルの流動性は異なり、エポキシ系接着剤は流動性が低い(粘度が高い)ために通常は塗布されて用いられる。上記のようにモルタルを塗布して充填剤として用いるためには、モルタルの流動性を、JISR5201のフロー試験における0打フロー値を200~280mmの範囲に設定することが好ましい。
【0026】
この工程は、所定の層数(段数)分だけ繰り返され(S4)、ここではこの所定の段数は3段であるものとする。すなわち、設置後のL1のPC部材11A、11Bの上面に充填剤が塗布された後にL2のPC部材11A、11Bが配置された後に充填剤を固化させ(S2~S3:積層工程)、その後に設置後のL2のPC部材11A、11Bの上面に充填剤が塗布された後にL3のPC部材11A、11Bが配置された後に充填剤を固化させる(S2~S3:積層工程)。以上により、図1におけるL1~L3におけるPC部材11A、11Bが積層された構造が形成される(S4:Yes)。図4(a)は、この状態における図1(a)に対応した側面図である。ここでは、充填剤についての記載は省略されている。
【0027】
ここで、充填剤(モルタル)が固化した状態とは、PC部材の設計基準強度(例えば5℃環境下において材齢1日強度が2.5N/mm)に応じた強度(例えば2.5N/mm以上)となった状態として定義することができる。あるいは、後述する緊張作業は充填剤が固化した状態で行われるため、この緊張作業によって付与される緊張力を基準としてこの強度を定めてもよい。
【0028】
前記の通り、L1~L3においては共通のPC部材11A、11Bが用いられるため、図2(a)におけるPC鋼棒挿入孔21、鉄筋挿入孔22はL1~L3にかけて連通する。なお、上記においては、L1のPC部材11A、11BとL2のPC部材11A、11Bの間の充填剤の固化後に、L2のPC部材11A、11Bの上に新たに充填剤が塗布され、L3のPC部材11A、11Bが積層されるものとした。すなわち、下層側の充填剤の固化後に、これよりも上層側の充填剤が新たに塗布されてPC部材が新たに積層されるものとした。しかしながら、後述する緊張作業(S5)が、この充填剤が固化して十分な強度となった状態で行われる限りにおいて、下層側における充填剤の硬化前に上層側で新たに充填剤を塗布して新たにPC部材を積層してもよい。
【0029】
このようにL1~L3のPC部材11A、11Bが積層されて配置された状態で、これらを鉛直方向で貫通するようにPC鋼棒挿入孔21中にPC鋼棒が挿入された後で、PC鋼棒を介してL1~L3のPC部材11A、11Bに上下方向(積層方向)に沿って緊張力(圧縮応力)を付与する緊張作業を行う(S5)。図4(b)は、この形態を模式的に示す側面図である。この緊張作業及びこれに関わる構造については後述する。
【0030】
緊張作業(S5)は、この時点での積層時に用いられた充填剤の固化後に行われ、この固化前においてPC部材は加圧されない。充填剤の固化前に加圧を行った場合にはPC部材11A、11Bと底版B、あるいは隣接する層間におけるPC部材11A同士、PC部材11B同士が直接接し、これらの間に充填剤が存在しない箇所が形成されるところ、加圧をしないことによって、これらの間において全体にわたり充填剤で形成された層を形成することができ、この層が固化することによってPC部材11A、11Bが固定される。これによって、PC部材11A、11Bが大型化した場合でも、以降の工程においてPC部材にクラックが入ることが抑制される。
【0031】
上記のような緊張作業(S5)が終了したら、次に、L1~L3に対応した中詰層である中詰層20Aを形成するために、型枠の設置(S6)、コンクリートの打設(S7:打設工程)が行われる。ここで、型枠は図2(a)におけるPC部材11A,11B間の中詰層20の形状に対応して、L1~L3にかけて連続的に形成される。コンクリートの固化後に型枠を撤去する(S8)ことによって、L1~L3にかけて図2(a)の構造が形成される。図4(c)は、この形態を示す側面図である。
【0032】
上記のような充填剤の塗布(S2)、PC部材の配置(S3)~緊張作業(S5)~コンクリート打設(S7)、型枠撤去(S8)の工程は、全ての層が形成されるまで繰り返される(S9)。図1の構成においては、残りのL4~L6の3層について、上記のL1~L3と同様の作業が行われる(S9)。図4(d)、(e)、(f)は、L4~L6が積層された後(S3)、その後の緊張作業(S5)、コンクリート打設によりL4~L6にかけての中詰層20Bを形成した(S7)後、の形態をそれぞれ示す側面図である。この状態で、L1~L6にかけて鉄筋挿入孔22は連通する。
【0033】
その後、図4(g)に示されるように、L1~L6にかけて連通する鉄筋挿入孔21に鉄筋100が挿入され(S10)、その後に鉄筋挿入孔22にグラウトが注入される(S11)。この際、PC鋼棒挿入孔21中にもグラウトが注入され(S11)、その後にグラウトが固化することによって、堰柱1が完成する。その後に、図1に示されるように天端部T、門柱部2が構築される(S12)。
【0034】
上記の工程における緊張作業(S5)及び鉄筋100の挿入(S10)に関わる構造について具体的に説明する。図5(a)は、L4~L6にかけての緊張作業において、PC部材11A、12Aが積層された箇所のPC鋼棒挿入孔21に沿った鉛直方向の詳細な断面図(図4(e)に対応)である。ここでは、L4~L6にかけて連続的に形成されたPC鋼棒挿入孔21に前記のようにPC鋼棒30(PC鋼棒30B)が挿入される。また、この段階ではL1~L3にかけての緊張作業は既に行われているため、L3のPC部材11Aにおいても同様にPC鋼棒30(PC鋼棒30A)が設けられており、L3のPC部材11Aの上側の状況とL6のPC部材12Aの上側の状況は同様である。
【0035】
図5(a)においては、L4~L6にかけて緊張作業(S5)が行われる際のL6のPC部材12Aにおける上側の状況、L4のPC部材11Aにおける下側の状況、及びL3のPC部材11Aにおける上側の状況が示されている。前記のように、鉛直方向においてPC部材間には充填剤が設けられるため、図5(a)におけるL4のPC部材11AとL3のPC部材11A間には、充填剤が固化した接合層40が薄く形成されている。接合層40は他の層間においても同様に形成されている。
【0036】
L1~L3における緊張作業とL4~L6における緊張作業が個別に行われるため、L6のPC部材12A及びL4のPC部材11Aを貫通するPC鋼棒30であるPC鋼棒30Bと、L3のPC部材11Aを貫通するPC鋼棒30であるPC鋼棒30Aは、別体となる。下側のPC鋼棒30Aの下端側は、図示の範囲外で図4(e)における底版B中に固定されている。
【0037】
PC鋼棒30(30A、30B)にはネジ加工が施され、ナット31がこれに螺合して上側から装着可能とされる。また、緊張作業の際に上側となるPC部材(図5(a)においてはL6のPC部材12AとL3のPC部材11A)の上面側には、水平方向に広がる板状の金属板でありPC鋼棒30が貫通するアンカープレート32が設けられ、各PC部材の上側には、アンカープレート32を内部に収容した状態でPC部材の上面よりも突出させないように掘り下げられた凹部32AがPC鋼棒挿入孔21の周囲に形成されている。なお、凹部32Aは他のPC部材(L1、L2、L4、L5におけるPC部材)にも設けられていてもよく、この場合には、これらのPC部材ではL3、L6のPC部材と同様にナット31、アンカープレート32は用いられないが、例えばL1~L3で共通の構造のPC部材を用いることができる。
【0038】
このため、アンカープレート32の上側でナット31をPC鋼棒30A、30Bに装着することによって、図5(a)の形態が実現される。この際、ナット31と同様に内面がネジ加工されたカプラ33がPC鋼棒30Aの上端及びPC鋼棒30Bの下端に装着されるため、PC鋼棒30AとPC鋼棒30Bは結合されて一体化される。このため、図5(a)における上側のナット31を締め込むことによって、PC鋼棒30Bを介してL4~L6のPC部材11A、12Aに対して鉛直方向で圧縮応力を付与することができる。なお、前記のように下側のPC鋼棒30Aの下端側は図示の範囲外で底版B中に固定されているため、この段階の前の緊張作業(S5)において下側のナット31を締め込むことによって、同様にL1~L3のPC部材11Aに対して鉛直方向で同様に圧縮応力が付与されている。図2においては、単一のPC部材11A、11B、12A、12Bにおいて複数のPC鋼棒挿入孔21が設けられているが、この作業はPC鋼棒挿入孔21の各々において行うことができ、これによってPC部材の全体にわたり緊張作業を行ない、一様に圧縮応力を付与することができる。この圧縮応力は、0.5~1.0N/mm程度とすることができる。
【0039】
また、図5(b)は、鉄筋100の挿入(S10)後における鉄筋挿入孔22がある箇所の図5(a)と同様の断面図である。図4(g)(S10)に示されたように鉄筋100はL1~L6を貫通するため、図5(b)においては鉛直方向全体において単一の鉄筋100が鉄筋挿入孔22内に存在する。PC鋼棒挿入孔21の場合と同様に、図5(b)の状況も、鉄筋挿入孔22の各々において実現される。
【0040】
図5(a)(b)に示されるように、PC鋼棒挿入孔21、鉄筋挿入孔22には、これらをPC部材の側方の外部と連通させる細孔であるグラウト注入孔23が形成されている。このため、鉄筋100の挿入(S10)後において、PC鋼棒30が内部に設けられたPC鋼棒挿入孔21、鉄筋100が内部に設けられた鉄筋挿入孔22内に、グラウト注入孔23から流動性の高い液状のグラウトを注入する(S11)ことによってこれらの内部にグラウトを充填させた後に、グラウトを固化させることができる。これにより、L1~L3、L4~L6に対してそれぞれ緊張力が付与され、かつ鉄筋100により補強された堰柱1が得られる。
【0041】
以上の内容においては、積層工程(S2、S3)を3つの層(L1~L3、L4~L6)について連続的に行なった後に緊張作業、打設工程(S5~S8)を行うものとしたが、緊張作業、打設工程を他の層数毎(1層毎も含む)に同様に行うことができることは明らかである。
【0042】
上記の構築方法においては、各層において分離された2つのPC部材(PC部材11A、11BとPC部材12A、12B)が用いられた。これらのPC部材は中詰層20となるコンクリートが打設されることによって固定されるため、特許文献1、2に記載の技術のように、これらの2つのPC部材を他の部材(接続部材)を用いて結合する必要はない。この際、堰柱1は大型の構造物であるが、2つのPC部材は、その外周の一部のみを構成する部材となるため、堰柱1と比べて小型の部材となる。このため、各PC部材の製造、運搬が容易であることは、従来のPC工法におけるPC部材と同様である。
【0043】
ただし、上記の例では、全ての層において2つのPC部材が用いられていたが、上記と同様に積層が可能な限りにおいて、全ての層で2つ(複数)のPC部材が用いられる必要はない。すなわち、各層に設けられたPC部材の数が同一(複数)である必要はなく、積層構造における少なくとも1層でこのように複数のPC部材が設けられた場合には、同様に構造物の構築が可能である。
【0044】
一方、PC部材をこのように外周の一部のみに対応させて設けることによって、同一のPC部材を用いて、異なる大きさの構造物を構築することもできる。図6(a)(b)は、図2のPC部材11A、11Bを用いて図2とは異なる大きさの構造物を構築した例を示す。ここではPC鋼棒挿入孔21、鉄筋挿入孔22の記載は省略されている。図6(a)においては、PC部材11AとPC部材11Bの間隔を図2よりも小さくすることによって図2よりも幅が小さな構造物(堰柱)が構築され、図6(b)においては、この間隔を図2よりも大きくすることによって図2よりも幅が大きな構造物(堰柱)が構築される。
【0045】
前記のように、一般的には堰柱は複数並行に設けられ、各々に対応して図1の構造が設けられるが、この際に、例えば河川の岸からの距離に応じて堰柱の大きさ(流れ方向に沿った幅)を変える場合もある。こうした場合においても、上記の構築方法によれば、全ての堰柱で共通のPC部材を用いることができる。このため、施工のコストを低くすることができる。
【0046】
上記の例においては、構造物(堰柱1)の鉛直方向(PC部材の積層方向)と垂直な断面における長径方向の両端側にそれぞれPC部材(端部PC部材)11A,12A、11B、12Bが設けられた。しかしながら、この断面形状に応じたPC部材の設定は、これ以外の例も可能である。
【0047】
図7(a)~(l)は、このような変形例の構造を図2(a)に対応させて示す断面図である。ここではPC鋼棒挿入孔21、鉄筋挿入孔22の記載は省略されている。図7の例においては、いずれも図2の場合と同様に長径方向の両端側にそれぞれPC部材(端部PC部材)が設けられているが、これらの間においても、短径方向の両端側の外周の一部を構成する中間PC部材が、更に用いられている。
【0048】
図7(a)~(d)においては、左右両端に前記のPC部材11A、11Bよりも小さなPC部材(端部PC部材)51A、51Bがそれぞれ設けられている。図7(a)においては、これらの間に、大きな平板状の中間PC部材52A,52Bがそれぞれ図中上下(堰柱における実際の流れ方向に対しては左右)に設けられ、図7(b)においてはこれよりも小さな平板状の中間PC部材53A、53Bが図中上下に設けられる。この際、PC部材51Bと中間PC部材53A、53Bの間の型枠によって図7(b)における中詰層20の形状を実現することができる。図7(c)(d)においては、それぞれ4つの中間PC部材54A~54D、55A~55Dがそれぞれ用いられている。このように2つよりも多くの中間PC部材を用いる場合においても、構造物が短径方向の両端側で対称な断面形状を有している場合には、これらを短径方向における両端側に対称に設けることが好ましい。
【0049】
図7(e)~(h)は、図7(a)~(d)における左側のPC部材(端部PC部材)51Aを図中上下でPC部材(端部PC部材)51A1、51A2に、右側のPC部材(端部PC部材)51Bを図中上下でPC部材(端部PC部材)51B1、51B2に、それぞれ2分割した構成である。ここではPC部材51A1とPC部材51A2、PC部材51B1とPC部材51B2とはそれぞれ接しているものとしている。前記の通り、図2の例では1つの層で使用されるPC部材は分離されて離間する(例えば連結用の接続部材等は使用されない)ものとしたが、このように2つを超える数のPC部材が用いられる場合には、一部のPC部材同士が当接する、あるいは連結されていてもよく、全てのPC部材間を離間させる必要はない。
【0050】
図7(i)~(l)は、図7(e)~(h)とは異なり、図7(a)~(d)における左側のPC部材(端部PC部材)51Aを図中上下でPC部材(端部PC部材)51A3、51A4に、右側のPC部材(端部PC部材)51Bを図中上下でPC部材(端部PC部材)51B3、51B4に、それぞれ2分割し、かつPC部材51A3とPC部材51A4、PC部材51B3とPC部材51B4とをそれぞれ離間させた構成である。
【0051】
図8(a)(b)は、図7(i)と同一のPC部材(PC部材51A3、51A4、51B3、51B4、中間PC部材52A、52B)を用いた場合において、図8(a)においてはPC部材51A3とPC部材51A4、PC部材51B3とPC部材51B4の間隔を共に零とすること、図8(b)においてはこれらの間隔を共に図7(i)よりも大きくすること、によって異なる断面形状の構造物を構築した例である。すなわち、図6の場合と同様に、1層において2つを越える数のPC部材を用いた場合でも、同一のPC部材を用いて異なる断面形状の構造物を構築することができる。図8においては、図8(a)の場合と図8(b)の場合で共にPC部材(端部PC部材)51A3、51A4、51B3、51B4、中間PC部材52A、52Bが用いられたが、場合に応じて中間PC部材52A、52Bは使用しない、あるいは図7における他の中間PC部材を代わりに用いることによって、異なる断面形状の堰柱を構築することができる。前記の通り、こうした点は特に複数が並行に構築される堰柱において、特に有効である。
【0052】
なお、図7に示されたように、断面の長径方向における両端側のそれぞれに端部PC部材を、短径方向における両端側のそれぞれに中間PC部材を用いることが好ましい。この際、端部PC部材間の距離は長径方向に沿い長くなるため、図7(c)等に示されるように、特に中間PC部材を2組以上設けることができる。ただし、このように長径方向と短径方向を明確に区分できない断面形状を有する構造物に対しても、各々がその外周の一部を構成するPC部材を適宜設定することができ、これによって上記と同様の効果が得られることは明らかである。
【0053】
なお、図6~8においては、いずれも左右の端部PC部材が離間した構成とされた。しかしながら、結合具等を用いずにこれらを当接させてもよい。例えば図6において左右の端部PC部材11A、11Bの間に空隙を設けず、これらを当接させて、最も幅の小さな構造物を得ることができる。
【0054】
また、前記の通り、充填剤(接合層40)としてモルタルを用いることによって、図4(b)(e)、図5(a)に示されたように、緊張作業を複数の層間にわたり一括して行うことができ、積層総数が多くなった場合でも、施工の簡略化、工期の短縮化が図れる。上記の例では積層構造における各層が2つのPC部材で構成され、かつ、前記のように、少なくとも一つの層で複数のPC部材が設けられれば上記の効果が得られるが、このように充填剤としてモルタルを用いることによる効果は、一つの層で複数のPC部材を用いることとは無関係である。すなわち、全ての層を単一のPC部材で構成した場合でも、充填剤としてモルタルを用いることによって、工期の短縮化が図れる。この効果は、構造物が大型であり積層総数が多い場合に特に顕著である。
【0055】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0056】
1 堰柱(構造物)
2 門柱部
11A、11B、12A、12B、51A、51B、51A1~51A4、51B1~51B4 PC部材(端部PC部材、端部プレキャスト部材)
52A、52B、53A、53B、54A~54D、55A~55D PC部材(中間PC部材、中間プレキャスト部材)
20、20A、20B 中詰層
21 PC鋼棒挿入孔
22 鉄筋挿入孔
23 グラウト注入孔
30、30A、30B PC鋼棒
31 ナット
32 アンカープレート
32A 凹部
33 カプラ
40 接合層
100 鉄筋
B 底版
T 天端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8