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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131930
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患を検査する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230914BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230914BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230914BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230914BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/68
C07K14/435
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036955
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 啓子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正直
(72)【発明者】
【氏名】石上 雅敏
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】炎症性腸疾患を検査する方法を提供すること。
【解決手段】(1)被検体から採取された生体試料におけるゲルゾリンを検出する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被検体から採取された生体試料におけるゲルゾリンを検出する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法。
【請求項2】
前記工程(1)が、
(1a)ゲルゾリン結合性分子と前記生体試料とを接触させる工程、並びに
(1b)前記ゲルゾリン結合性分子に結合した前記ゲルゾリンの量又は濃度を測定する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、(2)前記工程(1)で検出された前記ゲルゾリンの量又は濃度に基づいて、前記被検体の炎症性腸疾患への罹患の有無、及び/又は前記被検体の炎症性腸疾患の活動性を判定する工程、
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(2)が、
(2a)前記工程(1)で検出された前記ゲルゾリンの量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、前記被検体が炎症性腸疾患に罹患している、及び/又は前記被検体の炎症性腸疾患の活動性が高いと判定する工程、及び/又は
(2b)前記工程(1)で検出された前記ゲルゾリンの量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が炎症性腸疾患に罹患していない、及び/又は前記被検体の炎症性腸疾患の活動性が低いと判定する工程
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記活動性が内視鏡的活動性である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料が体液又は体液由来の試料である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記体液が全血、血清、及び血漿からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被検体がヒトである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ゲルゾリン結合性分子を含む、炎症性腸疾患の検査薬。
【請求項11】
被検物質で処理された動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度を指標とする、炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
【請求項12】
被検物質で処理された動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度を指標とする、炎症性腸疾患の誘発性又は増悪性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患を検査する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(UC)は、潰瘍性大腸炎とクローン病を含む、消化管に難治性慢性炎症をきたす難治性疾患であり、その患者数は世界的に増加の一途を辿っている。近年の免疫調整剤や生物学的製剤等による内科治療の進歩に伴い、炎症性腸疾患の治療目標は、臨床症状や症状の改善から内視鏡的粘膜治癒の達成へ移行しており、粘膜治癒は、その後の再発率、手術率、発がん率を減らすことが複数報告されている。従来は、疾患活動性や粘膜治癒を判定するためには、大腸内視鏡検査が必要であった。
【0003】
大腸内視鏡検査は、疾患活動性や粘膜治癒の評価が可能であるが、頻回に行うことは、
身体的、時間的、経済的な負担がある。そのため、実臨床では、疾患活動性や粘膜治癒を反映する、非侵襲的で、繰り返し実施可能なバイオマーカーが必要である。このようなバイオマーカーとしてはCRP等が報告されているが(非特許文献1)、これは感度、特異度共に十分ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fagan EA, Dyck RF, Maton PN, et al. Serum levels of C-reactive protein in Crohn's disease and ulcerative colitis. Eur J Clin Invest 1982;12:351-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炎症性腸疾患を検査する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、(1)被検体から採取された生体試料におけるゲルゾリン(GSN)を検出する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. (1)被検体から採取された生体試料におけるゲルゾリンを検出する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法。
【0008】
項2. 前記工程(1)が、
(1a)ゲルゾリン結合性分子と前記生体試料とを接触させる工程、並びに
(1b)前記ゲルゾリン結合性分子に結合した前記ゲルゾリンの量又は濃度を測定する工程、
を含む、項1に記載の方法。
【0009】
項3. さらに、(2)前記工程(1)で検出された前記ゲルゾリンの量又は濃度に基づいて、前記被検体の炎症性腸疾患への罹患の有無、及び/又は前記被検体の炎症性腸疾患の活動性を判定する工程、
を含む、項1又は2に記載の方法。
【0010】
項4. 前記工程(2)が、
(2a)前記工程(1)で検出された前記ゲルゾリンの量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、前記被検体が炎症性腸疾患に罹患している、及び/又は前記被検体の炎症性腸疾患の活動性が高いと判定する工程、及び/又は
(2b)前記工程(1)で検出された前記ゲルゾリンの量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が炎症性腸疾患に罹患していない、及び/又は前記被検体の炎症性腸疾患の活動性が低いと判定する工程
を含む、項3に記載の方法。
【0011】
項5. 前記活動性が内視鏡的活動性である、項3又は4に記載の方法。
【0012】
項6. 前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、項1~5のいずれかに記載の方法。
【0013】
項7. 前記生体試料が体液又は体液由来の試料である、項1~6のいずれかに記載の方法。
【0014】
項8. 前記体液が全血、血清、及び血漿からなる群より選択される少なくとも1種である、項7に記載の方法。
【0015】
項9. 前記被検体がヒトである、項1~8のいずれかに記載の方法。
【0016】
項10. ゲルゾリン結合性分子を含む、炎症性腸疾患の検査薬。
【0017】
項11. 被検物質で処理された動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度を指標とする、炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
【0018】
項12. 被検物質で処理された動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度を指標とする、炎症性腸疾患の誘発性又は増悪性の評価方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炎症性腸疾患のバイオマーカーを提供することができる。該バイオマーカーを利用することにより、炎症性腸疾患の検査、炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング、炎症性腸疾患の誘発性又は増悪性の評価等が可能になり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】臨床的活動期のUC患者では血清GSN濃度が低下することを示す図である。(a) 健常者16名(コントロール)とUC患者138名との血清GSN濃度 (b) 臨床的寛解期のUC患者68人と臨床的活動期のUC患者70人の血清GSN濃度 (c) CRP値が正常(<0.14 mg/dL)である臨床的寛解期のUC患者56名と、臨床的活動期のUC患者26名における血清GSN濃度。統計はMann-Whitney U-testを用い、P < 0.05 (*P < 0.05; **P < 0.01; ***P < 0.001) を統計的有意差として定義した。
図2】GSN濃度は内視鏡的活動性スコアの相関と逆相関することを示す図である。(a) 内視鏡的寛解期(Mayo endoscopic score [MES] = 0)のUC患者50人と内視鏡的活動性期のUC患者(MES > 0)88人の血清GSN濃度 (b) 内視鏡的活動性によって分類された UC 患者の血清 GSN 濃度(MES 0 [n = 50]、1 [n = 26]、2 [n = 54]、3 [n = 8] )。(c) CRP値が正常(CRP <0.14mg/dL)である内視鏡的寛解期のUC患者48名と、内視鏡的活動期のUC患者34名における血清GSN濃度。統計的有意性は,Mann-Whitney U-testおよびKruskal-Wallis testを用いてP < 0.05(*P < 0.05; **P < 0.01; ***P < 0.001; N.S. not significant)と定義した。
図3】GSN濃度は従来の疾患活動性マーカーであるCRPより高い感度、特異度で臨床的および内視鏡的活動性を反映することを示す図である。(a, b) GSNとCRPのROC(Receiver Operating Characteristic)曲線による臨床的寛解の検出の感度、特異度。(c, d)内視鏡的寛解の感度、特異度。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0022】
本明細書中において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0023】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0024】
1.炎症性腸疾患を検査する方法
本発明は、その一態様において、(1)被検体から採取された生体試料におけるゲルゾリンを検出する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法(本明細書において、「本発明の検査方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0025】
1-1.工程(1)
検査対象である炎症性腸疾患としては、特に制限されず、例えば潰瘍性大腸炎、クローン病等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは潰瘍性大腸炎が挙げられる。炎症性腸疾患の進行度、状態等に関する各種分類基準における全てのクラス、グレード、ステージの炎症性腸疾患が検査対象となり得る。また、検査対象は、炎症性腸疾患への罹患の有無のみならず、炎症性腸疾患の状態、例えば炎症性腸疾患の活動性も包含する。炎症性腸疾患の活動性は、例えば、内視鏡的活動性(内視鏡で観察することができる大腸の状態から判定される疾患活動性)、臨床的活動性(臨床症状から判定される疾患活動性)等であることができる。これらの活動性は、活動性スコアよって分類することができる。例えば、内視鏡的活動性及び臨床的活動性は、Mayoスコア(N Engl J Med. 2005 Dec 8;353(23):2462-76.)で分類することができる。内視鏡的活動性について、内視鏡的Mayoスコアが0の場合を内視鏡的寛解であると定義することができ、内視鏡的Mayoスコアが1~3の場合を内視鏡的活動状態であると定義することができる。臨床的活動性について、Mayoスコアが≦2の場合を臨床的寛解であると定義することができ、Mayoスコアが>2の場合を臨床的活動状態であると定義することができる。
【0026】
被検体は、本発明の検査方法の対象生物であり、その生物種は特に制限されない。被検体の生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類動物が挙げられ、好ましくはヒトが挙げられる。
【0027】
被検体の状態は、特に制限されない。被検体としては、例えば炎症性腸疾患に罹患しているかどうか不明な検体、炎症性腸疾患に罹患していると既に別の方法により判定されている検体、炎症性腸疾患に罹患していないと既に別の方法により判定されている検体、炎症性腸疾患の治療中の検体等が挙げられる。
【0028】
生体試料は、ゲルゾリンを含有し得るものであれば特に制限されない。生体試料としては、例えば全血、血清、血漿、卵胞液、経血、唾液、髄液、関節液、尿、組織液、汗、涙、唾液などの体液や、これらの体液由来の試料が挙げられる。体液由来の試料としては、体液から調製される試料である限り特に制限されず、例えば体液から、該体液に含まれるタンパク質(好ましくはゲルゾリン)を濃縮、精製などして得られる試料などが挙げられる。体液としては、好ましくは全血、血清、血漿などが挙げられる。生体試料は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0029】
生体試料は、当業者に公知の方法で被検体から採取することができる。例えば、全血は、注射器などを用いた採血によって採取することができる。なお、採血は、医師、看護師などの医療従事者が行うことが望ましい。血清は、血液から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、血液から血球を除去した部分であり、例えば、血液を凝固させない条件下で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。
【0030】
工程(1)の検出対象は、生体試料に含まれるゲルゾリン(ゲルゾリンタンパク質)である。
【0031】
ゲルゾリンの遺伝子は公知であり、ヒトの場合であれば、例えばNCBIGene ID: 2934の遺伝子がゲルゾリンの遺伝子である。ゲルゾリンのアミノ酸配列は、公知の遺伝子情報に基づいて把握することができる。ヒトゲルゾリンのアミノ酸配列として、例えば配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列が挙げられる。工程(1)の検出対象であるゲルゾリンは、アイソフォームや、個体間で認められる変異を含むものも包含される。工程(1)の検出対象であるゲルゾリンは、具体的には、例えば下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つアクチン切断活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
上記(b)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0033】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入(好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)されたアミノ酸配列からなり、且つアクチン切断活性を有するタンパク質
が挙げられる。
【0034】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~80個であり、好ましくは2~50個であり、より好ましくは2~25個であり、よりさらに好ましくは2~10個である。
【0035】
アクチン切断活性は、ゲルゾリンのアクチン切断活性の測定方法として公知の方法に従って測定することができる。
【0036】
ゲルゾリンを検出する工程において、ゲルゾリンの検出方法(好ましくはゲルゾリンの量又は濃度を測定する方法)は、ゲルゾリンを検出可能な方法である限りにおいて、特に制限されない。該方法としては、例えばイムノアッセイが挙げられる。イムノアッセイは、直接法、間接法、均一法、不均一法、競合法、非競合法などを問わず、広く採用することができる。イムノアッセイとして、より具体的には、例えばELISA(例えば直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法など)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、サンドイッチEIA、イムノクロマト、ウェスタンブロット、免疫沈降、スロット或いはドットブロットアッセイ、免疫組織染色、蛍光イムノアッセイ、アビジン-ビオチン又はストレプトアビジン-ビオチン系を用いるイムノアッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いるイムノアッセイなどが挙げられる。イムノアッセイにより、具体的には例えばゲルゾリンに結合したゲルゾリン結合性分子に対して直接又は間接的に標識抗体を接触させ、結合した標識抗体の標識に由来するシグナルを定量することによって、ゲルゾリンを検出することができる。この際に使用する標識抗体や標識抗体とゲルゾリン結合性分子又はゲルゾリンとを介在する抗体としては、特に制限されず、例えば抗体定常領域に対する抗体、抗イディオタイプ抗体等が使用できる。
【0037】
検出方法は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0038】
ゲルゾリンを検出する際に用いられる標識物(例えば標識抗体など)における標識の種類は特に制限されない。標識としては、例えば蛍光物質、発光物質、色素、酵素、金コロイド、放射性同位体などが挙げられる。これらの中でも、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素標識は、安全性、経済性、検出感度などの観点から、好ましい。
【0039】
工程(1)は、一態様においては、好ましくは(1a)ゲルゾリン結合性分子と前記生体試料とを接触させる工程、並びに(1b)前記ゲルゾリン結合性分子に結合した前記ゲルゾリンの量又は濃度を測定する工程、を含むことができる。
【0040】
ゲルゾリン結合性分子は、ゲルゾリンを選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばウェスタンブロット法やELISA法において、ゲルゾリンが特異的に検出できることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物がゲルゾリンに由来するものであると判断できるものであればよい。
【0041】
ゲルゾリン結合性分子には、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部を含む分子が包含される。対象タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有するゲルゾリン結合性分子も、本発明のゲルゾリン結合性分子に含まれる。
【0042】
これらのゲルゾリン結合性分子の製造方法は、すでに周知であり、本発明のゲルゾリン結合性分子もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology , Chapter 11.12~11.13(2000))。具体的には、本発明のゲルゾリン結合性分子がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製した対象タンパク質を用いて、あるいは常法に従って当該対象タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製した対象タンパク質、あるいは対象タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4~11.11)。
【0043】
ゲルゾリン結合性分子の作製に免疫抗原として使用される対象タンパク質は、公知の遺伝子配列情報に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0044】
具体的には、対象タンパク質をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明ゲルゾリン結合性分子の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。また対象タンパク質の部分ペプチドは、公知の遺伝子配列情報に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0045】
また本発明のゲルゾリン結合性分子は、対象タンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであってよい。かかるゲルゾリン結合性分子の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、対象タンパク質と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つ対象タンパク質のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
【0046】
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対するゲルゾリン結合性分子の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット-ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0047】
工程(1a)における接触の態様は、特に制限されず、上述したゲルゾリンの検出方法(例えば各種イムノアッセイなど)の種類に応じて、適切な態様を選択することができる。接触態様としては、例えば生体試料中のタンパク質(抗原)、並びにゲルゾリン結合性分子のいずれか一方のみを固相に固定した状態で接触させる態様、これらの両方とも固相に固定しない状態で接触させる態様などが挙げられる。これらの中でも、効率性などの観点から、好ましくは少なくとも一方のみを固相に固定した状態で接触させる態様が挙げられる。工程(1a)における接触の態様において、少なくとも一方のみのみを固相に固定する場合、固定後に、固相を洗浄することが好ましい。
【0048】
固相としては、ゲルゾリン又はゲルゾリン結合性分子を固定可能なものである限り特に制限されない。該固相としては、例えばポリスチレン、ガラス、ニトロセルロースなどを主成分として含むプレート、スライド、膜などが挙げられる。固相は、ゲルゾリン又はゲルゾリン結合性分子をより容易に固定させるための成分、例えば易反応性化合物(例えば易反応性基を有する化合物、金コロイドなど)でコーティングされたものであってもよい。易反応性基を有する化合物としては、タンパク質と共有結合を形成しうる基であって、例えば、(1H-イミダゾール-1-イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、又はハロゲン化カルボニル基(塩化カルボニル基、フッ化カルボニル基、臭化カルボニル基、ヨウ化カルボニル基)等を有する化合物が挙げられる。
【0049】
易反応性基を有する化合物としては、例えば、エポキシシラン、及びポリリジン等が挙げられる。
【0050】
固相は、ウシ血清アルブミン(BSA)緩衝液等を用いてブロッキングすることが好ましい。
【0051】
工程(1b)におけるゲルゾリンの量又は濃度の測定の態様は、特に制限されず、上述したゲルゾリンの検出方法(例えば各種イムノアッセイなど)の種類に応じて、適切な態様を選択することができる。該測定は、例えば用いられた標識物の標識に由来するシグナルを定量することによって行うことができる。より具体的な態様としては、例えばゲルゾリンとゲルゾリン結合性分子との複合体に対して標識抗体を接触させ、結合した標識抗体の標識に由来するシグナルを定量することによって行うことができる。
【0052】
その一例としてELISA法がある。ELISA法によれば、標準抗体を用いて標準曲線を作成し、ゲルゾリンの濃度を定量することができる。標準抗体は、例えば、ビオチン標識抗原とストレプトアビジン-アガロース樹脂とを用いたアフィニティー精製によって、市販の抗体から調製できる。まず、適当なELISA用プレートのウエルを抗原又は抗体で被覆した後に、BSA緩衝液でブロッキングする。次に、各濃度の標準抗体または検体をウエルに加えて一定時間静置後にウエルを洗浄し、ペルオキシダーゼで標識された二次抗体をウエルに加えて一定時間静置する。その後に、ウエルを洗浄し、ペルオキシダーゼの基質をウエルに加えて一定時間静置して発色させ、硫酸等の反応停止液を加えた後に、プレートリーダーを用いて吸光度を測定する。標準抗体の濃度とその吸光度とに基づいて標準曲線を作成した後、標準曲線に基づいて、検体中のゲルゾリンの濃度を定量する。
【0053】
得られたシグナル量に基づいて、ゲルゾリンの量を算出することができる。例えば、非競合法の場合であれば、得られたシグナル量をそのままゲルゾリンの量とすることができる。また、別の例として、競合法の場合であれば、得られたシグナル量とゲルゾリンの量は、反比例の関係にあるので、この関係に基づいて得られたシグナル量からゲルゾリンの量を算出することができる。
【0054】
また、ゲルゾリンの量を、生体試料の量や、生体試料内の成分量(例えばタンパク質全量など)で除することによって、ゲルゾリンの濃度を算出することができる。
【0055】
工程(1)を含む本発明の検査方法によれば、炎症性腸疾患の検査指標である対象バイオマーカーの量及び/又は濃度を提供することができ、これにより炎症性腸疾患の検査などを補助することができる。
【0056】
また、工程(1)においては、ゲルゾリンを検出又は測定することに加えて、炎症性腸疾患の他のバイオマーカーを検出又は測定することもできる。他のバイオマーカーとしては、例えばCRP(C-reactive protein)、LRG(Leucin rich α2-glycoprotein)、赤血球沈降速度等が挙げられる。ゲルゾリンと他のバイオマーカーを組み合わせることにより、より高い精度で炎症性腸疾患を検査することが可能になる。
【0057】
1-2.工程(2)
本発明の検査方法は、一態様として、さらに、(2)工程(1)で検出されたゲルゾリンの量又は濃度に基づいて、被検体の炎症性腸疾患への罹患の有無、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性を判定する工程、を含むことが好ましい。
【0058】
工程(2)は、より具体的には、
(2a)工程(1)で検出されたゲルゾリンの量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、被検体が炎症性腸疾患に罹患している、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性が高い(例えば、内視鏡的活動状態である、又は臨床的活動状態である)と判定する工程、及び/又は
(2b)工程(1)で検出されたゲルゾリンの量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、被検体が炎症性腸疾患に罹患していない、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性が低い(例えば、内視鏡的寛解である、又は臨床的寛解である)と判定する工程
を含むことができる。
【0059】
カットオフ値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの観点から当業者が適宜設定することができ、例えば、各種被検体(例えば炎症性腸疾患に罹患していない被検体、炎症性腸疾患に罹患している被検体、炎症性腸疾患の内視鏡的活動状態である被検体、炎症性腸疾患の内視鏡的寛解である被検体、炎症性腸疾患の臨床的活動状態である被検体、炎症性腸疾患の臨床的寛解である被検体等)から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量及び/又は濃度に基づいて、その都度定められた値、或いは予め定められた値とすることができる。より具体的には、例えば、炎症性腸疾患に罹患していない被検体(或いは炎症性腸疾患の内視鏡的寛解である被検体)、及び炎症性腸疾患に罹患している被検体(或いは炎症性腸疾患の内視鏡的活動状態である被検体)から採取された生体試料における、ゲルゾリンの量又は濃度を測定し、該測定値を用いて、受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic, ROC)曲線の解析などに基づいた統計解析(より具体的には、Youden indexを用いた方法が例示される。)を行うことにより、設定することができる。カットオフ値は、例えば、基準となる被検体群における生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度の値のパーセンタイル値、例えば10~90パーセンタイル値のいずれか、30~70パーセンタイル値のいずれか、又は40~60パーセンタイル値のいずれかとすることができる。
【0060】
2.炎症性腸疾患のより高い精度での診断
工程(2)を含む本発明の検査方法により、被検体が炎症性腸疾患に罹患している、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性が高い(例えば、内視鏡的活動状態である、又は臨床的活動状態である)、或いは被検体が炎症性腸疾患に罹患していない、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性が低い(例えば、内視鏡的寛解である、又は臨床的寛解である)と判定された場合、本発明の検査方法に、さらに医師による診断を適用する工程を組み合わせることによって、より高い精度で炎症性腸疾患を診断することができる。
【0061】
3.炎症性腸疾患の治療
工程(2)を含む本発明の検査方法により被検体が炎症性腸疾患に罹患している、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性が高い(例えば、内視鏡的活動状態である、又は臨床的活動状態である)と判定された場合は本発明の検査方法に対してさらに、或いは上記「2.炎症性腸疾患のより高い精度での診断」に記載の様に被検体が炎症性腸疾患に罹患している、及び/又は被検体の炎症性腸疾患の活動性が高い(例えば、内視鏡的活動状態である、又は臨床的活動状態である)と診断された場合は本発明の検査方法と医師による診断を適用する工程との組合せに対してさらに、(3)被検体に対して、該疾患の治療を行う工程を行うことによって、被検体の該疾患を治療することが可能となる。また、本発明の検査方法はより正確に炎症性腸疾患を検査できるので、本発明の検査方法に対して、或いは本発明の検査方法と医師による診断を適用する工程との組合せに対して工程3を組み合わせることによって、炎症性腸疾患に罹患している被検体をより効率的に、より確実に治療できる。
【0062】
炎症性腸疾患の治療方法は、特に制限されないが、代表的には投薬治療が挙げられる。投薬治療に用いる医薬としては、特に制限されないが、例えばアミノサリチル酸、コルチコステロイド(ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、ブデソニド等)、免疫調節薬(アザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、タクロリムス等)、生物製剤(TNF阻害薬(インフリキシマブ、セルトリズマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ等)、インターロイキン、抗インターロイキン抗体等)等が挙げられる。医薬は、1種、2種、又は3種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
4.炎症性腸疾患の検査薬
本発明は、その一態様において、ゲルゾリン結合性分子を含む、炎症性腸疾患の検査薬(本明細書において、「本発明の検査薬」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0064】
本発明の検査薬は、炎症性腸疾患を検査する薬である。
【0065】
本発明の検査薬は、ゲルゾリン結合性分子を含む組成物の形態であってもよい。該組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0066】
本発明の検査薬は、ゲルゾリン結合性分子を含むキットの形態であってもよい。該キットには、本発明の検査方法の実施に用いられ得る器具、試薬などが含まれていてもよい。
【0067】
ゲルゾリン結合性分子は、任意の固相に固定化された状態であることもできる。このため本発明の検査薬は、ゲルゾリン結合性分子を固定化した基板(例えばプローブを固定化したマイクロアレイチップ等。別の例として、抗体を固定化したELISAプレート等)の形態として提供することができる。
【0068】
固定化に使用される固相は、抗体等を固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相への検出剤の固定は、特に制限されない。
【0069】
器具としては、例えば試験管、マイクロタイタープレート、アガロース粒子、ラテックス粒子、精製用カラム、エポキシコーティングスライドガラス、金コロイドコーティングスライドガラスなどが挙げられる。
【0070】
試薬としては、例えば標識抗体、標準試料(陽性対照、陰性対照)などが挙げられる。
【0071】
標識抗体としては、ゲルゾリン結合性分子の種類(例えばアイソタイプ)に応じて、各種市販されているものを用いることができる。
【0072】
標準試料としては、ゲルゾリンが用いられる。ゲルゾリンは、例えばゲルゾリン発現ベクターを導入した細胞を培養し、その当該細胞又は培養上清から精製して得ることができる。
【0073】
5.炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法
本発明は、その一態様において、被検物質で処理された動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度を指標とする、炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法(本明細書において、「本発明の有効成分スクリーニング方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0074】
生体試料、ゲルゾリン、炎症性腸疾患、ゲルゾリンの量又は濃度の測定等については、上記「1.炎症性腸疾患の検査方法」における定義と同様である。
【0075】
動物の生物種は特に制限されない。動物の生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類動物が挙げられる。動物は炎症性腸疾患に罹患している動物であることができる。
【0076】
被検物質としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。化合物には、低分子化合物に限らず、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物も包含される。
【0077】
本発明の有効成分スクリーニング方法は、より具体的には、ゲルゾリンに関する前記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度よりも高い場合に、前記被検物質を炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分として選択する工程、を含む。
【0078】
「高い」とは、例えば指標の値が、対照値の2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍であることを意味する。
【0079】
6.炎症性腸疾患の誘発性又は増悪性の評価方法
本発明は、その一態様において、被検物質で処理された動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度を指標とする、炎症性腸疾患の誘発性又は増悪性の評価方法(本明細書において、「本発明の毒性評価方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0080】
生体試料、ゲルゾリン、炎症性腸疾患、ゲルゾリンの量又は濃度の測定、動物の生物種、被検物質等については、上記「1.炎症性腸疾患の検査方法」及び「5.炎症性腸疾患の予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法」における定義と同様である。
【0081】
本発明の毒性評価方法は、より具体的には、ゲルゾリンに関する前記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された生体試料におけるゲルゾリンの量又は濃度よりも低い場合に、前記被検物質を炎症性腸疾患の誘発性又は増悪性があると判定する工程、を含む。
【0082】
「低い」とは、例えば指標の値が、対照値の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、1/100であることを意味する。
【実施例0083】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0084】
試験例1.炎症性腸疾患の検査
<1-1.試験対象者および試料採取>
健常対照者16名と潰瘍性大腸炎患者(UC)138名とを本検査の対象ヒト被検体とした。患者は臨床的、内視鏡的、組織学的基準に基づいてUCと診断され、薬物療法を受けた138名を対象とした。臨床的活動性スコアおよび内視鏡的活動性スコアは、医療記録から抽出した。血液検査と内視鏡検査は1ヵ月以内に行われた。臨床的活動性の判定はMayoスコアを用いて決定し、寛解はスコア≦2と定義した。内視鏡的活動性の判定は内視鏡的Mayoスコアを用い、内視鏡的寛解はスコア0と定義した。臨床的活動性と内視鏡的活動性の割合はそれぞれ56.5%(70/138)、63.6%(88/138)であった。患者の特徴を表に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
<1-2.血清GSN濃度の測定>
対象ヒト被検体の血清ゲルゾリン(GSN)濃度は、ELISA測定キット(Abcam, Cambridge, UK)を用いて測定した。各サンプルの吸光度は、PowerScan4マイクロプレートリーダー(DSファーマメディカル株式会社、日本、大阪)を用いて450 nmと570 nmの波長で測定した。GSN濃度は標準曲線に基づいて算出した。
【0087】
<1-3.結果>
UC患者と健常対照者の血清GSN濃度を比較した。対象は138名(男性54名、女性84名)、年齢中央値は47歳(20-82歳)であった。病型は、全患者の68.1%が全大腸炎型、26.0%が左側大腸炎型、5.8%が直腸炎型であった。臨床的活動期および内視鏡的活動の割合は,それぞれ56.5%(70/138)および63.6%(88/138)であった。血清GSN濃度は、UC患者において健常対照者よりも低かった(UC患者138人、健常対照者16人、P < 0.001、図1a)。さらに、血清GSNレベルは、臨床的に活動中のUC患者では、寛解期にある患者よりも有意に低かった(UC患者138人、P < 0.001、図1b)。さらに、CRP値が正常(0.14 mg/dL未満)であったUC患者82名のうち、臨床的に活動期の患者では、寛解期の患者と比較してGSN値が有意に低かった(UC患者82名、P < 0.001、図1c)。
【0088】
UC患者において、血清GSN濃度と内視鏡的活動性が関連しているかどうかを解析した。GSN濃度は、内視鏡的活動期のUC(Mayo内視鏡スコア[MES]> 0)患者は、内視鏡的寛解期(MES = 0)の患者より低値であった(P < 0.001、図2a)。GSN濃度は、内視鏡的活動性スコアの増加と逆相関して低下した(Mayo 0 vs. 1, P = 0.999; Mayo 0 vs. 2, P = 0.0113.、Mayo 0 vs. 3, P < 0.01; Mayo 1 vs. 2, P = 0.0549; Mayo 1 vs. 3, P < 0.001; および Mayo 2 vs. 3, P < 0.001)。MES 2の患者は、MES 0の患者よりもGSN濃度が有意に低く(54人[Mayo score 2]、50人[Mayo score 0]、P=0.0113)、軽度の粘膜変化を反映する可能性が示唆された(図2b)。また、CRP値が正常範囲内(<0.14mg/dL)であったUC患者82名のうち、内視鏡的活動期の患者では、寛解期の患者と比較してGSN濃度が有意に低値であった(P < 0.001, 図2c)。
【0089】
GSNがUCの臨床的および内視鏡的活動性を評価するバイオマーカーとして使用可能かどうかを調べるため、ROC曲線およびAUC分析を用いてその感度と特異性を分析し、既存のUCの疾患活動性マーカーであるCRPと比較検討した。GSN濃度はCRPよりもより高い感度、特異度で臨床的および内視鏡的な寛解を同定した。(図3a-d)。
図1
図2
図3
【配列表】
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