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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013194
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20230119BHJP
   F16J 15/3244 20160101ALI20230119BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3244
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117197
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杢保 優
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AD02
3J006AE05
3J006AE17
3J006AE41
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA01
(57)【要約】
【課題】リップ先端部の潤滑性を高めることができる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置10は、回転する軸7の外周面7aに接触する環状の第一のリップ12を備え、軸方向一方の潤滑油Lが軸方向他方に漏れるのを防ぐ。第一のリップ12は、軸7の外周面7aに滑り接触するリップ先端部20と、リップ先端部20の軸方向一方に設けられ軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる第一傾斜面21と、を有する。第一傾斜面21には、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押される潤滑油Lを、軸方向他方側へ導く溝34が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する軸の外周面に接触する環状のリップを備え、軸方向一方の液体又は半固体が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、
前記リップは、
前記軸の外周面に滑り接触するリップ先端部と、
前記リップ先端部の軸方向一方に設けられ軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる傾斜面と、を有し、
前記傾斜面には、前記軸の回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記液体又は半固体を、軸方向他方側へ導く突条又は溝が設けられている
密封装置。
【請求項2】
前記突条又は溝の軸方向他方端は、前記リップ先端部における前記外周面との接触面よりも軸方向一方側に位置する
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記突条又は溝の延びる方向は、周方向に対して所定方向に傾斜している
請求項1又は請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記傾斜面には、他の突条又は溝がさらに設けられ、
前記他の突条又は溝の延びる方向は、前記所定方向と反対方向に傾斜している
請求項3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記リップは、前記傾斜面の軸方向一方に隣接して設けられた環状側面をさらに有し、
前記環状側面には、前記エアに押される前記液体又は半固体を、前記傾斜面側に導く補助突条又は補助溝が設けられている
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記突条又は溝と、前記補助突条又は補助溝とは、互いに連続的に繋がっている
請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記突条又は溝と、前記補助突条又は補助溝とは、不連続である
請求項5に記載の密封装置。
【請求項8】
前記傾斜面には、前記溝が設けられ、
前記環状側面には、前記補助突条が設けられる
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する軸とその軸を支持するハウジングの一部との間に設けられ、オイル等の液体が外部へ漏れるのを防ぐために、密封装置が用いられる。密封装置は、例えば、ハウジング側に取り付けられる固定部と、その固定部から延び弾性変形が可能であるリップとを有する。特許文献1に、前記のような密封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019?210998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密封装置のリップは、回転する軸の外周面に滑り接触するリップ先端部を有する。
例えば、軸が高速で回転する場合、リップ先端部にスティックスリップ現象が発生することがある。スティックスリップ現象とは、リップ先端部が外周面に対して摩擦による付着及び滑りを繰り返すことで生じる振動現象である。
スティックスリップ現象がリップ先端部に生じると、リップ先端部と軸との間に隙間が生じ、密封対象である液体の漏れが発生することがある。
【0005】
スティックスリップ現象の原因は、軸が高速で回転することで、リップ先端部と軸との間の油膜が薄くなり、リップ先端部と軸との間の潤滑性が低下し摩擦係数が変動するためであると考えられる。
よって、スティックスリップ現象の発生を抑制するためには、リップ先端部の潤滑性を高める必要がある。
【0006】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、リップ先端部の潤滑性を高めることができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の密封装置は、回転する軸の外周面に接触する環状のリップを備え、軸方向一方の液体又は半固体が軸方向他方に漏れるのを防ぐ密封装置であって、前記リップは、前記軸の外周面に滑り接触するリップ先端部と、前記リップ先端部の軸方向一方に設けられ軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなる傾斜面と、を有し、前記傾斜面には、前記軸の回転に伴って周方向に流れるエアに押される前記液体又は半固体を、軸方向他方側へ導く突条又は溝が設けられている。
【0008】
軸が回転すると、その軸に引っ張られて周囲のエアが周方向に流れる。リップの傾斜面に液体又は半固体が付着していると、その液体又は半固体は、前記エアに押されることによって、そのエアの流れ方向に移動することができる。このように移動する液体又は半固体は、前記突条又は溝によって、軸方向他方側、つまり、リップ先端部側に導かれる。このため、導かれた液体又は半固体は、リップ先端部に供給され、その液体又は半固体によってリップ先端部の潤滑性が高められる。このように、傾斜面に付着する液体又は半固体が軸方向他方側へ導かれることで、その液体又は半固体によってリップ先端部の潤滑性を高めることが可能となる。
【0009】
(2)上記密封装置において、前記突条又は溝の軸方向他方端は、前記リップ先端部における前記外周面との接触面よりも軸方向一方側に位置していることが好ましい。
この場合、突条又は溝が、軸の外周面に接触することがない。このため、突条又は溝が、ポンプ効果等によって液体又は半固体をリップ先端部よりも軸方向他方側へ導いてしまったり、突条又は溝がリップと軸との間の接触面積や接触面圧を変化させてしまったりといった現象の発生を抑制することができる。
これにより、突条又は溝が、液体又は半固体の漏れの原因となるのを抑制することができる。
【0010】
(3)上記密封装置において、前記突条又は溝の延びる方向は、周方向に対して所定方向に傾斜していることが好ましい。
この場合、軸が一方方向に回転したときに生じるエアの流れによって、リップの傾斜面に付着する液体又は半固体が軸方向他方側へ導かれるように突条又は溝を設けることができる。
【0011】
(4)周方向に対して所定方向に傾斜する突条又は溝が、軸が一方方向に回転したときに生じるエアの流れによって、傾斜面に付着する液体又は半固体を軸方向他方側へ導くように構成される場合、この突条又は溝は、軸が一方方向とは反対の方向に回転したとすると、傾斜面に付着する液体又は半固体を軸方向一方側へ導いてしまうおそれがある。
この場合、前記傾斜面に、他の突条又は溝をさらに設け、前記他の突条又は溝の延びる方向を、前記所定方向と反対方向に傾斜させればよい。
所定方向と反対方向に傾斜する他の突条又は溝は、軸が反対方向に回転したときに生じるエアの流れによって、リップの傾斜面に付着する液体又は半固体を軸方向他方側へ導くことができる。
これにより、軸がどちらの方向に回転したとしても、突条又は溝、及び他の突条又は溝のいずれか一方は、潤滑油を軸方向他方側へ導くことができる。
【0012】
(5)上記密封装置において、前記リップが、前記傾斜面の軸方向一方に隣接して設けられた環状側面をさらに有する場合、前記環状側面には、前記エアに押される前記液体又は半固体を、前記傾斜面側に導く補助突条又は補助溝が設けられていてもよい。
この場合、環状側面に付着する液体又は半固体を傾斜面側に導くことができる。傾斜面側に導かれた液体又は半固体は、さらに、傾斜面に設けられた突条又は溝によって軸方向他方側へ導かれる。このように、環状側面に付着する液体又は半固体をリップ先端部側へ導き、リップ先端部へ供給することができる。
【0013】
(6)上記密封装置において、前記突条又は溝と、前記補助突条又は補助溝とは、互いに連続的に繋がっていてもよい。
この場合、補助突条又は補助溝が導く液体又は半固体を連続的に突条又は溝へ導くことができる。
【0014】
(7)上記密封装置において、前記突条又は溝と、前記補助突条又は補助溝とは、不連続であることが好ましい。
この場合、互いの位置に関係無く、前記突条又は溝、及び、前記補助突条又は補助溝を設けることができ、前記突条又は溝、及び、前記補助突条又は補助溝の配置の自由度が増す。
【0015】
(8)さらにこの場合、前記傾斜面には、前記溝が設けられ、前記環状側面には、前記補助突条が設けられることが好ましい。
傾斜面は、形成後のリップの一部を切除したときの切断面によって構成されることがある。このため、傾斜面に対しては、リップの一部を切除したとしても傾斜面に残すことができる溝の方が容易に形成することができる。また、環状側面は、切除する必要がなく、例えば、リップを形成する金型の環状側面に対応する面に、補助突条に応じた溝を設ければ、環状側面に補助突条を容易に設けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の密封装置によれば、リップ先端部の潤滑性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態に係る密封装置の断面図である。
図2図2は、第1実施形態の密封装置の断面及び内周側を示す図である。
図3図3は、図2中、第一傾斜面における溝の断面部分を拡大した図である。
図4図4は、図2中、環状側面における補助突条43の断面部分を拡大した図である。
図5図5は、第2実施形態に係る密封装置の断面及び内周側の一部を示す図である。
図6図6は、第3実施形態に係る密封装置の断面及び内周側の一部を示す図である。
図7図7は、変形例に係る密封装置の断面及び内周側の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。
〔第1実施形態について〕
図1は、第1実施形態に係る密封装置の断面図である。図1は、軸7を側面から見た状態を示し、密封装置10を断面図として示している。図1に示す密封装置10の断面は、軸7の中心線Cを含む平面に沿った断面である。
【0019】
軸7は、円柱形状を有し、ハウジング8において図外の軸受等によって回転可能に支持されている。軸7は、その軸7の中心線C回りに回転する。軸7とハウジング8との間には環状空間Sが形成されている。本開示では、軸7は、その中心線Cが水平方向に平行に設けられている。軸7の中心線Cと密封装置10の中心線とは一致する。密封装置10は、例えば、モータ、変速機等に用いられるが、他の機器にも適用可能である。
【0020】
密封装置10は、環状空間Sに設けられており、その環状空間Sにおいて軸方向一方に存在する液体又は半固体(半流動体)が軸方向他方に漏れるのを防ぐ。本開示では、前記液体は潤滑油である。つまり、密封装置10は、密封装置10よりも軸方向一方側の空間に存在する潤滑油が、密封装置10よりも軸方向他方側の空間へ漏れるのを防ぐ。
潤滑油は、例えば、ハウジング8内に設けられている他の部分を潤滑する。また、潤滑油は、その一部が密封装置10側へ飛散する等して密封装置10へ供給され、密封装置10の潤滑も行う。つまり、密封装置10は、潤滑油が飛散する環境で用いられる。
密封装置10による密封の対象は、潤滑油以外であってもよく、半固体であるグリースの場合もある。密封の対象がグリースである場合、密封装置10は、グリースそのものの漏れを防ぐ他に、グリースの基油の漏れを防ぐ。また、そのグリースは、密封装置10及び軸7等に予め付着されているもの以外に、潤滑油のように周囲から飛散するグリースもある。以下、特に説明しない場合、密封の対象は潤滑油である。
【0021】
密封装置10は、環状の固定部11と、環状の第一のリップ12と、第二のリップ19とを有する。
固定部11は、ハウジング8の内周面に嵌合して取り付けられる。固定部11は、金属製の芯材13と、芯材13を覆う被覆部14とを有する。芯材13は、金属からなる環状の部材であり、円筒部15と、円筒部15の軸方向他方側の部分から径方向内方に延びる円環部16とを有する。被覆部14は、円筒部15を径方向外方が覆う第一被覆部17と、円環部16を軸方向他方から覆う第二被覆部18とを有する。被覆部14は、芯材13を、その軸方向他方とその径方向外方とのうちの少なくとも一方から覆っていればよい。
【0022】
第一のリップ12は、固定部11(円環部16)の径方向内側部11aから軸方向一方に延びて設けられている。第一のリップ12は、回転する軸7の外周面7aに対して接触面Tで滑り接触するリップ先端部20を有する。第一のリップ12の外周側には、環状のスプリング30が設けられている。スプリング30は、その弾性復元力によって、リップ先端部20を軸7に押し付ける。
【0023】
第二のリップ19は、固定部11(円環部16)の径方向内側部11aから軸方向他方かつ径方向内方に延びて設けられている。第二のリップ19は、軸7の外周面7aに滑り接触する又は隙間を有して対向する第二のリップ先端部19aを有する。
【0024】
被覆部14、第一のリップ12、及び第二のリップ19は、ゴム等の弾性部材により構成されている。被覆部14、第一のリップ12、及び第二のリップ19により構成される弾性部は、芯材13に加硫接着されている。つまり、リップ12,19、及び被覆部14は、被覆部14を芯材13に加硫接着する際に、一体に形成される。
【0025】
第一のリップ12は、リップ先端部20の他に、第一傾斜面21と、第二傾斜面22と、環状側面23とを有する。
第二傾斜面22は、リップ先端部20の軸方向他方に設けられている。第二傾斜面22は、軸方向他方に向かうにつれて内径が大きくなる面22aを有する。第二傾斜面22の軸方向他方への延長側に第二のリップ19が設けられている。
第一傾斜面21は、リップ先端部20の軸方向一方に設けられている。第一傾斜面21は、リップ先端部20に向かって縮径するテーパ面であり、軸方向一方に向かうにつれて内径が大きくなっている。
環状側面23は、第一傾斜面21の軸方向一方に隣接して設けられている。環状側面23は、径方向に沿った円環状の面である。
【0026】
第一傾斜面21は、第一のリップ12を形成した後、その一部を切除したときの切断面によって構成される場合がある。このため、第一傾斜面21はカット面とも呼ばれる。環状側面23は、切除されず、形成用の金型による転写面によって構成される。環状側面23はノーズ面と呼ばれることがある。
【0027】
第一傾斜面21には、溝34が設けられている。また、環状側面23には、補助突条43が設けられている。
図2は、密封装置10の断面及び内周側の一部を示す図である。図2では、溝34及び補助突条43を1本の線で模式的に示している。
【0028】
図2中、矢印Rは、軸7が一方方向に回転したときに、第一傾斜面21に対向する外周面7a(図1)が、第一傾斜面21に対して相対移動する方向を示している。
軸7が一方方向に回転すると、その回転に伴って軸7の周囲のエアが、軸7の回転方向と同じ方向に流れる。よって、軸7の外周面7aと第一傾斜面21との間においては、エアが矢印Rの方向に沿って周方向に流れる。
【0029】
図2では、潤滑油Lが第一傾斜面21及び環状側面23に付着している状態を模式的に示している。
第一傾斜面21に付着する潤滑油Lは、周方向に沿って流れるエアによって押される。よって、潤滑油Lには、矢印Rに沿って周方向に移動する力が作用する。
本実施形態の溝34は、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押される潤滑油Lを、軸方向他方側へ導くように設けられている。
【0030】
図2に示すように、溝34は、第一傾斜面21に複数設けられている。
各溝34は、所定長さを有する線状とされている。各溝34は、所定間隔をおいて周方向に沿って並べて設けられている。
各溝34の軸方向一方端34aは、第一傾斜面21と環状側面23との境界Qに位置している。
各溝34が延びる方向は、周方向及び軸方向に対して傾斜している。
溝34は、周方向においては、溝34の軸方向一方端34aから軸方向他方端34bへ向かうに従って矢印Rの方向に進むように延びている。また溝34は、軸方向においては、軸方向一方端34aから軸方向他方端34bへ向かうに従ってリップ先端部20に漸次近づく方向に進むように延びている。
【0031】
このため、図2に示すように、第一傾斜面21に潤滑油Lが付着していると、その潤滑油Lは、周方向に流れるエアによって押され、溝34で捕捉される。溝34で捕捉された潤滑油Lは、溝34に沿ってリップ先端部20に近づくように軸方向他方側へ導かれる。これにより、溝34で捕捉された潤滑油Lは、リップ先端部20近傍にまで導かれる。
【0032】
このように、本実施形態の溝34は、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押される潤滑油Lを軸方向他方側、つまり、リップ先端部20側へ導くことができる。
軸方向他方側へ導かれる潤滑油Lは、リップ先端部20に供給され、潤滑油Lによってリップ先端部20の潤滑性が高められる。このように、第一傾斜面21に付着する潤滑油Lが軸方向他方側へ導かれることで、その潤滑油Lによってリップ先端部20の潤滑性を高めることが可能となる。
この結果、軸7が高速で回転したとしても、リップ先端部20と軸7との間の油膜を十分に維持することができ、リップ先端部と軸との間の摩擦係数の変動を抑えることができる。これにより、スティックスリップ現象の発生が抑制され、潤滑油Lの漏れを効果的に抑制することができる。
【0033】
リップ先端部20は、図1に示すように、外周面7aに接触することにより弾性変形し、接触面Tの範囲で外周面7aに面接触する。
本実施形態の溝34の軸方向他方端34bは、リップ先端部20における接触面Tよりも軸方向一方側に位置している。
本実施形態では、図2に示すように、溝34の軸方向他方端34bと、リップ先端部20との間に、所定の間隔Kが設けられている。これによって、溝34の軸方向他方端34bは、接触面Tよりも軸方向一方側に配置される。
【0034】
これにより、溝34が軸7の外周面7aに接触することがない。このため、溝34がポンプ効果等によって潤滑油Lをリップ先端部20よりも軸方向他方側へ導いてしまったり、溝34が第一のリップ12と外周面7aとの間の接触面積や接触面圧を変化させてしまい、スティックスリップ現象の発生を助長してしまったりといった原層の発生を抑制することができる。これにより、溝34が、潤滑油Lの漏れの原因となるのを抑制することができる。
【0035】
図3は、図2中、第一傾斜面21における溝34の断面部分を拡大した図である。
図3に示すように、溝34は、第一傾斜面21に対して断面三角形状に凹んでいる。
溝34は、エアの流れる矢印Rの方向に向かって交差する内面34cを有する。
内面34cと、内面34cに隣接する第一傾斜面21のとの成す角度θは、90度であってもよいが、90度未満であることが好ましい。
角度θを90度未満とすることで、溝34に捕捉された潤滑油Lが、溝34から離脱し難くなり、溝34の長手方向に沿って導かれやすくなる。
また、溝34の断面形状は、三角形状以外であってもよく、少なくとも一部に円弧形状が含まれていてもよい。
【0036】
図2に戻って、補助突条43は、環状側面23に複数設けられている。
各補助突条43は、所定長さを有する線状とされている。各補助突条43は、所定間隔をおいて周方向に沿って並べて設けられている。
各補助突条43は、境界Qから、環状側面23の内周縁Uに亘って設けられている。よって各補助突条43の一端43aは、境界Qに位置し、各補助突条43の他端43bは、内周縁Uに位置する。
【0037】
各補助突条43が延びる方向は、周方向に対して傾斜している。補助突条43は、周方向において、補助突条43の他端43bから一端43aへ向かうに従って矢印Rの方向に進むように延びている。
このため、図2に示すように、環状側面23に潤滑油Lが付着していると、その潤滑油Lは、周方向に流れるエアによって押され、補助突条43で捕捉される。補助突条43で捕捉された潤滑油Lは、補助突条43に沿って径方向内方、つまり、第一傾斜面21側へ導かれる。
【0038】
つまり、環状側面23に設けられた補助突条43は、軸7の回転に伴って周方向に流れるエアに押される潤滑油Lを、径方向内方へ導くことができる。
これにより、環状側面23に付着する潤滑油Lを径方向内方、つまり、第一傾斜面21側に導くことができる。第一傾斜面21側に導かれた潤滑油Lは、さらに、溝34によってリップ先端部20にまで導かれる。このように、環状側面23に付着する潤滑油Lをリップ先端部20側へ導き、リップ先端部20へ供給することができる。
【0039】
図4は、図2中、環状側面23における補助突条43の断面部分を拡大した図である。
図4に示すように、補助突条43は、第一傾斜面21に対して断面三角形状に突出している。
補助突条43は、エアの流れる方向に向かって交差する外面43cを有する。
外面43cと、外面43cに隣接する環状側面23のとの成す角度γは、90度であってもよいが、90度未満であることが好ましい。
角度γを90度未満とすることで、補助突条43に捕捉された潤滑油Lが、補助突条43を乗り越え難くなり、補助突条43の長手方向に沿って導かれやすくなる。
また、補助突条43の断面形状は、三角形状以外であってもよく、少なくとも一部に円弧形状が含まれていてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、図2に示すように、各溝34の軸方向一方端34aと、各補助突条43の一端43aとが境界Qにおいて交互に並んでいる。よって、各溝34と、各補助突条43とは、互いに繋がっておらず、不連続となっている。
このように、各溝34と、各補助突条43とを不連続とすることで、互いの位置に関係なく、各溝34及び各補助突条43を設けることができ、各溝34及び各補助突条43の配置の自由度を増すことができる。
【0041】
また、本実施形態では、第一傾斜面21には溝34を設け、環状側面23には補助突条43を設けた場合を例示したが、溝34に代えて、溝34と同様に線状に延びる突条を第一傾斜面21に設けてもよいし、補助突条43に代えて、補助突条43と同様に線状に延びる補助溝を環状側面23に設けてもよい。
この場合、第一傾斜面21に設けられる突条としては、例えば、図4に示す補助突条43と同様の突条とすることができる。また、環状側面23に設けられる溝としては、例えば、図3に示す溝34と同様の溝とすることができる。
【0042】
なお、本実施形態のように、第一傾斜面21には溝34を設けることが好ましく、環状側面23には補助突条43を設けることが好ましい。その理由は、以下の通りである。
第一傾斜面21は、上述したように、形成後の第一のリップ12の一部を切除したときの切断面によって構成されることがある。このため、第一傾斜面21に対しては、リップ12の一部を切除したとしても第一傾斜面21に残すことができる溝34の方が、突条よりも容易に形成することができる。また、環状側面23は、切除する必要がなく、例えば、リップ12を形成する金型の環状側面に対応する面に、補助突条43に応じた溝を設ければ、環状側面23に補助突条43を容易に設けることができる。
【0043】
〔第2実施形態について〕
図5は、第2実施形態に係る密封装置10の断面及び内周側の一部を示す図である。
本実施形態の密封装置10は、第一傾斜面21の溝34と、環状側面23の補助突条43とが互いに連続的に繋がっている点において、第1実施形態と相違する。他の点については、第1実施形態と同様である。
【0044】
図5に示すように、各溝34の軸方向一方端34aと、各補助突条43の一端43aとは、境界Qにおいて同じ位置に位置している。よって、各溝34と、各補助突条43とは、互いに連続的に繋がっている。
この場合、図5に示すように、各補助突条43が導く潤滑油Lを連続的に溝34へ導くことができる。
【0045】
なお、本実施形態では、環状側面23に補助突条43を設けた場合を例示したが、例えば、補助突条43に代えて、補助突条43と同様に線状に延びる補助溝を環状側面23に設けてもよい。
この場合、環状側面23の補助溝と、第一傾斜面21の溝34とを、一本の溝とすることができ、よりスムーズに潤滑油Lを環状側面23側から第一傾斜面21側へ導くことができる。
【0046】
同様に、溝34に代えて、溝34と同様に線状に延びる突条を第一傾斜面21に設けてもよい。
この場合、環状側面23の補助突条43と、第一傾斜面21の突条とを、一本の突条とすることができ、よりスムーズに潤滑油Lを環状側面23側から第一傾斜面21側へ導くことができる。
【0047】
〔第3実施形態について〕
図6は、第3実施形態に係る密封装置10の断面及び内周側の一部を示す図である。
本実施形態の密封装置10には、第一傾斜面21に溝34に加え、溝34の傾斜方向と異なる方向に傾斜する他の溝50が設けられている点、及び、環状側面23に補助突条43が設けられていない点において、第1実施形態と相違する。他の点については、第1実施形態と同様である。
【0048】
上述したように、溝34は、所定間隔をおいて周方向に沿って並べて設けられている。複数の溝34は、第一傾斜面21の約半周に亘って並べて設けられている。
他の溝50も溝34と同様に、所定間隔をおいて周方向に沿って並べて設けられている。複数の他の溝50は、第一傾斜面21において溝34が設けられた約半周以外の残りの半周に亘って並べて設けられている。
【0049】
図6中、矢印Rは、上述したように、軸7が一方方向に回転したときのエアの流れる方向を示している。
上述したように、各溝34が延びる方向は、周方向及び軸方向に対して傾斜している。
溝34は、周方向においては、溝34の軸方向一方端34aから軸方向他方端34bへ向かうに従って矢印Rの方向に進むように延びている。また溝34は、軸方向においては、軸方向一方端34aから軸方向他方端34bへ向かうに従ってリップ先端部20に漸次近づく方向に進むように延びている。
このように、溝34の延びる方向は、周方向に対して所定方向に傾斜している。
【0050】
一方、他の溝50の延びる方向は、溝34が延びる所定方向と反対方向に傾斜している。
すなわち、他の溝50は、周方向においては、他の溝50の軸方向一方端50aから軸方向他方端50bへ向かうに従って矢印Rの反対方向に進むように延びている。また、他の溝50は、軸方向においては、軸方向一方端50aから軸方向他方端50bへ向かうに従ってリップ先端部20に漸次近づく方向に延びている。
【0051】
ここで、軸7が一方方向に回転すると、第一傾斜面21に付着する潤滑油Lは、矢印Rに沿って周方向に流れるエアによって押され、矢印Rの方向に移動し、溝34及び他の溝50によって捕捉される。
他の溝50は、溝34が延びる所定方向と反対方向に傾斜しているので、他の溝50で捕捉された潤滑油Lは、溝34とは逆に環状側面23側へ導かれる。
しかし、溝34で捕捉された潤滑油L(L1)は、上述のように溝34に沿ってリップ先端部20に導かれ、リップ先端部20の潤滑性向上に寄与する。
【0052】
逆に、軸7が一方方向と反対方向に回転すると、軸7の外周面7aと第一傾斜面21との間においては、エアが矢印Rと反対の方向に沿って周方向に流れる。第一傾斜面21に付着する潤滑油Lは、矢印Rと反対方向に沿って周方向に流れるエアによって押され、矢印Rと反対方向に移動し、溝34及び他の溝50によって捕捉される。
この場合、溝34で捕捉された潤滑油Lは、環状側面23側へ導かれる。
一方、他の溝50で捕捉された潤滑油L(L2)は、他の溝50に沿って軸方向他方側、つまり、リップ先端部20側へ導かれる。
よって、この場合、他の溝50で捕捉された潤滑油Lは、リップ先端部20に導かれ、リップ先端部20の潤滑性向上に寄与する。
【0053】
このように、溝34は、軸7が一方方向に回転したときに生じるエアの流れによって、第一傾斜面21に付着する潤滑油Lを軸方向他方側へ導く一方、軸7が一方方向とは反対の方向に回転したとすると、潤滑油Lを軸方向一方側へ導いてしまうおそれがある。
これに対して、本実施形態の第一傾斜面21には、他の溝50がさらに設けられているので、軸7が反対方向に回転したときに生じるエアの流れによって、第一傾斜面21に付着する潤滑油Lを軸方向他方側へ導くことができる。
これにより、軸7がどちらの方向に回転したとしても、溝34、及び他の溝50のいずれか一方は、潤滑油Lを軸方向他方側へ導くことができ、リップ先端部20の潤滑性を高めることができる。
【0054】
〔その他〕
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
第1実施形態及び第2実施形態において、環状側面23に補助突条43を設けた場合を例示したが、図7に示すように、第一傾斜面21に溝34を設け、環状側面23の補助突条43を設けない構成としてもよい。
【0055】
本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
7 軸 7a 外周面 8 ハウジング
10 密封装置 11 固定部 11a 径方向内側部
12 第一のリップ 13 芯材 14 被覆部
15 円筒部 16 円環部 17 第一被覆部
18 第二被覆部 19 第二のリップ 19a 第二のリップ先端部
20 リップ先端部 21 第一傾斜面 22 第二傾斜面
22a 面 23 環状側面 30 スプリング
34 溝 34a 軸方向一方端 34b 軸方向他方端
34c 内面 43 補助突条 43a 一端
43b 他端 43c 外面 50 溝
50a 軸方向一方端 50b 軸方向他方端 C 中心線
K 間隔 L 潤滑油 Q 境界
R 矢印 S 環状空間 T 接触面
U 内周縁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7