(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131978
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】鉄道車両の内装部材取付構造、及び、鉄道車両の内装部材取付方法
(51)【国際特許分類】
B61D 17/18 20060101AFI20230914BHJP
B61D 17/12 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B61D17/18
B61D17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037033
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健悟
(72)【発明者】
【氏名】松尾 光洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼子 賢
(72)【発明者】
【氏名】谷口 優
(57)【要約】
【課題】切り粉を封じ込める固定部材を固定された骨部材に対して内装部材が取り付けられる内装部材取付構造において、固定部材に関わる工数を削減すること。
【解決手段】骨部材30と、骨部材30に対して取り付けられる内装部材40と、骨部材30と内装部材40とに形成されるネジ孔61と、ネジ孔61に螺着されて骨部材30に対して内装部材40を取り付けるネジ部材60と、内装部材40が取り付けられる位置と反対側の位置に固定される固定部材50と、を備える鉄道車両の内装部材取付構造において、固定部材50は、一方に開口するカップ形状のカップ部51を有し、ネジ孔61が形成される位置をカップ部51によって覆うように固定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨部材と、前記骨部材に対して車内側から取り付けられる内装部材と、前記骨部材と前記内装部材とに形成されるネジ孔と、前記ネジ孔に螺着されて前記骨部材に対して前記内装部材を取り付けるネジ部材と、前記内装部材が取り付けられる位置と反対側の位置に固定される固定部材と、を備える鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記固定部材は、一方に開口するカップ形状のカップ部を有し、前記ネジ孔に螺着された前記ネジ部材の先端部を前記カップ部によって覆うように固定されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記固定部材は、前記カップ部の開口部から外向きに延びるように設けられ、前記骨部材に対して接合される平坦部を有し、
前記ネジ孔は、前記内装部材と前記骨部材とにわたって形成されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項3】
請求項2に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記平坦部が前記骨部材に対してスポット溶接されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項4】
請求項1に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記固定部材と前記骨部材との間に配置されるプレートを有し、
前記固定部材は、前記カップ部の開口部から外向きに延びるように設けられ、前記プレートを介して前記骨部材に対して固定される平坦部を有し、
前記ネジ孔は、前記内装部材と前記骨部材と前記プレートとにわたって形成されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項5】
請求項4に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記平坦部と前記プレートとが前記骨部材に対してスポット溶接されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項6】
請求項4に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記プレートが前記骨部材に対して接合され、前記平坦部が前記プレートに対して接合されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項7】
請求項2から請求項6の何れか1つに記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、
前記固定部材は、前記カップ部と前記平坦部とが絞り加工により成形されている
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付構造。
【請求項8】
骨部材に対して車内側から内装部材を重ね合わせ、前記骨部材と前記内装部材とにネジ孔を形成するネジ孔加工工程と、前記ネジ孔にネジ部材を螺着することにより前記内装部材を前記骨部材に対して取り付ける取付工程と、を行う鉄道車両の内装部材取付方法において、
前記ネジ孔加工工程を行う前に、固定部材を固定する固定工程を行い、
前記固定部材は、一方に開口するカップ形状のカップ部を有し、
前記固定工程では、前記ネジ孔に螺着された前記ネジ部材の先端部を前記カップ部によって覆うように前記固定部材を固定し、
前記ネジ孔加工工程では、前記ネジ孔の形成時に発生する切り粉が前記カップ部の内部に封じ込められる
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付方法。
【請求項9】
請求項8に記載する鉄道車両の内装部材取付方法において、
前記固定部材は、前記カップ部の開口部から外向きに延びるように設けられた平坦部を有し、
前記平坦部の一部を除去する除去工程を行う
ことを特徴とする鉄道車両の内装部材取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において開示する技術は、内装部材を骨部材に取り付ける鉄道車両の内装部材取付構造、及び、鉄道車両の内装部材取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、鉄道車両の骨部材に対して車内側から内側パネルを取り付ける技術が開示されている。骨部材の内側パネルと反対側の位置には、固定部材が固定されている。内側パネル、骨部材、及び、固定部材には車内側からネジ孔が形成され、そのネジ孔にネジ部材を螺着することにより、内装部材が骨部材に対して取り付けられる。固定部材は、角パイプの両端部にスポンジを詰めたり、角パイプの中空孔部にスポンジを詰めたりすることにより構成したものであり、ネジ孔加工時に発生する切り粉を封じ込める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、固定部材ごとに、角パイプの両端部あるいは中空孔部にスポンジを詰める必要があり、固定部材に関わる工数が多かった。近年、切り粉による車両運用中止のリスクを避けるため、固定部材の適用箇所が増えており、固定部材に関わる工数を削減する要望が高くなっている。
【0005】
本明細書において開示する技術は、切り粉を封じ込める固定部材を固定された骨部材に対して内装部材が取り付けられる内装部材取付構造において、固定部材に関わる工数を削減できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において開示する鉄道車両の内装部材取付構造は、(1)骨部材と、前記骨部材に対して車内側から取り付けられる内装部材と、前記骨部材と前記内装部材とに形成されるネジ孔と、前記ネジ孔に螺着されて前記骨部材に対して前記内装部材を取り付けるネジ部材と、前記内装部材が取り付けられる位置と反対側の位置に固定される固定部材と、を備える鉄道車両の内装部材取付構造において、前記固定部材は、一方に開口するカップ形状のカップ部を有し、前記ネジ孔に螺着された前記ネジ部材の先端部を前記カップ部によって覆うように固定されている。
【0007】
(2)(1)に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、前記固定部材は、前記カップ部の開口部から外向きに延びるように設けられ、前記骨部材に対して接合される平坦部を有し、前記ネジ孔は、前記内装部材と前記骨部材とにわたって形成されていることが好ましい。
【0008】
(3)(2)に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、前記平坦部が前記骨部材に対してスポット溶接されていることが好ましい。
【0009】
(4)(1)に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、前記固定部材と前記骨部材との間に配置されるプレートを有し、前記固定部材は、前記カップ部の開口部から外向きに延びるように設けられ、前記プレートを介して前記骨部材に対して固定される平坦部を有し、前記ネジ孔は、前記内装部材と前記骨部材と前記プレートとにわたって形成されていることが好ましい。
【0010】
(5)(4)に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、前記平坦部と前記プレートとが前記骨部材に対してスポット溶接されていることが好ましい。
【0011】
(6)(4)に記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、前記プレートが前記骨部材に対して接合され、前記平坦部が前記プレートに対して接合されていることが好ましい。
【0012】
(7)(2)から(6)の何れか1つに記載する鉄道車両の内装部材取付構造において、前記固定部材は、前記カップ部と前記平坦部とが絞り加工により成形されていることが好ましい。
【0013】
本発明の別態様は、(8)骨部材に対して車内側から内装部材を重ね合わせ、前記骨部材と前記内装部材とにネジ孔を形成するネジ孔加工工程と、前記ネジ孔にネジ部材を螺着することにより前記内装部材を前記骨部材に対して取り付ける取付工程と、を行う鉄道車両の内装部材取付方法において、前記ネジ孔加工工程を行う前に、固定部材を固定する固定工程を行い、前記固定部材は、一方に開口するカップ形状のカップ部を有し、前記固定工程では、前記ネジ孔に螺着された前記ネジ部材の先端部を前記カップ部によって覆うように前記固定部材を固定し、前記ネジ孔加工工程では、前記ネジ孔の形成時に発生する切り粉が前記カップ部の内部に封じ込められる。
【0014】
(9)(8)に記載する鉄道車両の内装部材取付方法において、前記固定部材は、前記カップ部の開口部から外向きに延びるように設けられた平坦部を有し、前記平坦部の一部を除去する除去工程を行うことが好ましい。
【0015】
上記構成では、従来の固定部材のように固定部材にスポンジを詰めなくても、ネジ孔に螺着されるネジ部材の先端部をカップ部によって覆うように固定部材を固定するだけで、ネジ孔加工時に発生する切り粉をカップ部の内部に封じ込めることができる。これによれば、固定部材にスポンジを詰め、その固定部材を骨部材に固定する場合と比べ、固定部材に関わる工数を削減することができる。
【0016】
また、上記構成では、固定部材の平坦部を骨部材に直接当接させて接合するだけで、当該骨部材とカップ部との間に切り粉を封じ込める空間を簡単に形成できる。
【0017】
また、上記構成では、固定部材の平坦部を骨部材に重ねてスポット溶接するだけで、固定部材を骨部材に直接固定できるので、例えば、角パイプ形状の固定部材を骨部材に隅肉溶接する場合と比べて、溶接作業を行いやすい。
【0018】
また、上記構成では、固定部材の平坦部をプレートを介して骨部材に間接的に固定する。この場合、内装部材と骨部材とプレートとにネジ孔を形成し、そのネジ孔にネジ部材を螺着することにより内装部材を骨部材に対して取り付ける。これによれば、肉厚の異なる骨部材に対して固定部材を共通して使用しつつ、ネジ孔を形成する範囲をプレートにより調整することができる。
【0019】
また、上記構成では、固定部材の平坦部をプレートを介して骨部材に重ね合わせ、平坦部とプレートとを骨部材に対してスポット溶接することにより、固定部材をプレートを介して骨部材に間接的に固定する。これによれば、固定部材とプレートとをまとめて骨部材に溶接できるので、固定部材を骨部材に対して固定する際の工数を減らすことができる。
【0020】
また、上記構成では、骨部材に対してプレートを接合し、そのプレートに対して固定部材を接合することにより、固定部材をプレートを介して骨部材に間接的に固定する。これにより、固定部材とプレートとを骨部材に対してスポット溶接できない場合でも、固定部材をプレートを介して骨部材に固定し、ネジ孔を形成する際に発生する切り粉を固定部材に封じ込めることができる。
【0021】
上記構成では、絞り加工によりカップ部と平坦部とを有する固定部材を形成するので、絞り加工した固定部材をそのまま骨部材に固定することができる。
【0022】
上記構成では、例えば、固定部材の固定先に制約がある場合、その制約に応じて平坦部の一部が除去される。平坦部の一部を除去しても、固定部材はカップ部によって切り粉を封じ込める空間を形成できる。
【発明の効果】
【0023】
よって、本明細書において開示する鉄道車両の内装部材取付構造によれば、切り粉を封じ込める固定部材を固定された骨部材に対して内装部材が取り付けられる内装部材取付構造において、固定部材に関わる工数を削減できる技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】内部骨組構造を室内側から見た正面図である。
【
図7】固定部材の固定方法の変形例を説明する図である。
【
図8】固定部材を固定する手順を説明する図である。
【
図9】固定部材の固定方法の変形例を説明する図である。
【
図10】内装部材を取り付ける手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において開示する鉄道車両の内装部材取付構造、及び、内装部材取付方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
鉄道車両の車体は、台枠、一対の側構、屋根構、一対の妻構の六面体で構成されている。
図1は、鉄道車両の内部骨組構造1を運転室側から見た正面図である。
図1は、運転室を枕木方向に沿って切断した断面図である。運転室は、仕切パネル45によって、客室と区画される。
【0027】
図1に示す内部骨組構造1では、台枠10と、鉄道車両の外面である外板20と、内装部材40を支持する骨部材30とが示されている。
図2は、
図1のA部拡大図である。
図3は、
図2のD-D断面図である。
図4は、
図1のB部拡大図である。
図5は、
図1のC部拡大図である。
図3には、鉄道車両の内装部材取付構造2の一例が示されている。
【0028】
図1に示す台枠10は、乗客や車内設備品等の荷重を支えるものである。台枠10には、図中仮想線で示すように、床面パネル11が敷設されている。台枠10には、枕木方向に沿って床根太12が配設されている。
【0029】
外板20は、車体の外観を構成している。外板20の例としては、屋根外板21と、側外板22と、図示しない妻外板とがある。屋根外板21の枕木方向の端部は、側外板22の上端部と溶接等によって接合されている。また、屋根外板21のレール方向の端部は、図示しない妻外板の上端部と溶接等によって接合されている。
【0030】
骨部材30は、妻仕切の骨格を構成し、各種の内装部材40が車内側から取り付けられる。骨部材30には、天井内骨31と、一対の側内骨32,32とが含まれている。天井内骨31は、枕木方向に延びていて、一対の側内骨32の上端部に連結骨33を介して結合されている。図中左側に位置する側内骨32の下端部は、巾木受け35を介して台枠10に接合されている。図中右側に位置する側内骨32の下端部は、台枠10の床根太12に接合されている。連結骨33と巾木受け35と床根太12も、骨部材30に含まれる。
【0031】
天井内骨31は、屋根外板21から離間して配設され、屋根外板21との間に空間101を形成している。一対の側内骨32,32は、それぞれ、側外板22から離間して配設され、側外板22との間に空間102を形成している。空間101,102は、空調ダクトなどの機器類や、配線や、配管などを配置するためのスペースである。
【0032】
鉄道車両では、これらの機器類や配線や配管などが車内から見えないように、内側パネルが骨部材30に取り付けられる。内側パネルの例としては、天井パネル41や側パネル42や仕切パネル45がある。天井パネル41や側パネル42や仕切パネル45などの内側パネルは「内装部材」の一例である。骨部材30には、図示しない荷棚などの内装品も取り付けられる。骨部材30には、灯具43や図示しない冷風グリルなどの設備品も取り付けられる。内側パネルと内装品と設備品は内装部材40の一例である。内装部材40は、骨部材30に対してネジ部材60(
図3参照)を用いて取り付けられる。
【0033】
骨部材30は、内装部材40が取り付けられる面と反対側の面に、切り粉を封じ込めるための固定部材50が固定されている。例えば、天井内骨31、一対の側内骨32,32、床根太12、及び、巾木受け35には、仕切パネル45が取り付けられる。
図1~
図5に示すように、固定部材50は、天井内骨31、一対の側内骨32,32、床根太12、及び、巾木受け35の仕切パネル45が取り付けられる位置に、それぞれ固定されている。
【0034】
固定部材50の構成を、
図6を参照して説明する。
図6(a)は、固定部材50の平面図である。
図6(b)は、
図6(a)のE-E断面図である。
図6(c)及び
図6(d)は固定部材50の側面図である。固定部材50は、ステンレスやアルミなどの金属を絞り加工により成形したものである。固定部材50は、カップ部51と、平坦部52とを有する。
【0035】
カップ部51は、一方に開口するカップ形状をなす。カップ部51は、内部骨組構造1の組立誤差や溶接変形などによる、ネジ部材60が螺着されるネジ孔61(
図3参照)の形成位置の誤差範囲を含む大きさで設けられている。本実施形態のカップ部51は、
図6(a)に示すように、直方体形状に設けられている。カップ部51の形状は、これに限らず、楕円形状や円柱形状や半球形状などであってもいい。平坦部52は、
図6(b)に示すように、カップ部51の開口部51aから外向きに延びるように設けられている。平坦部52は、
図6(c)及び
図6(d)に示すように、平らな面により形成されている。
【0036】
例えば
図3に示すように、固定部材50は、ネジ孔61に螺着されたネジ部材60の先端部をカップ部51によって覆うように、平坦部52が骨部材30(
図3では天井内骨31)に対して固定されている。カップ部51が覆うネジ部材60は1本でも、複数本でもよい。カップ部51の形状は、対応するネジ部材60の配置や数に応じて適宜変更可能である。例えば、
図6(c)及び
図6(d)に示すカップ部51の縦幅W1と横幅W2は、ネジ部材60の数や配置に応じて異なってもよい。また、カップ部61の深さW3は、ネジ孔61に形成されたネジ部材60の先端部60aがカップ部61の底部と干渉しない大きさに設定されている。
【0037】
固定部材50の平坦部52は骨部材30に対して直接固定してもよいし、間接的に固定してもよい。例えば
図3に示すように、天井内骨31は、空調ダクトなどの荷重を支える剛性を確保するため、第1部分31aの両側を垂直に曲げて第2部分31bと第3部分31cを形成した断面コの字形をなす。
図2に示す天井内骨31の肉厚W21は、
図4に示す側内骨32の肉厚W22よりも厚くされ、ネジ部材60用のネジ孔61を形成することが可能な厚さを有する。この場合、
図2に示すように、固定部材50は、天井内骨31に対して直接固定される。具体的に、固定部材50は、絞り加工により薄い肉厚で形成されている。固定部材50は、
図2のP1に示すように、平坦部52を天井内骨31に当接させた状態で、カップ部51を挟んで対称となる位置をスポット溶接することで、天井内骨31に対して接合されている。
【0038】
これに対して、例えば
図4に示す側内骨32は、第1部分32aと第2部分32bとを有し、ネジ部材60用のネジ孔61を形成することが可能な厚さを有していない。この場合、固定部材50は、側内骨32に対して間接的に固定される。具体的に、図中P1に示すように固定部材50は、ネジ座プレート70を介して平坦部52を側内骨32の第1部分32aに重ねた状態で、平坦部52とネジ座プレート70とがスポット溶接によって第1部分32aに対して一体的に固定されている。ネジ座プレート70は「プレート」の一例である。
【0039】
なお、平坦部52とネジ座プレート70は別々に固定してもよい。例えば
図7の図中P11に示すように、骨部材30に対してネジ座プレート70を隅肉溶接し、図中P12に示すように、そのネジ座プレート70に対して平坦部52を隅肉溶接してもよい。
【0040】
続いて、内装部材の取り付け手順について説明する。
図1に示すように内部骨組構造1が形成される前に、骨部材30には固定部材50が固定されている。固定部材50を固定する手順について
図8を参照して説明する。ここでは、床根太12に固定部材50を固定する場合を例にして説明する。
【0041】
図8(a)に示すように、絞り加工によってカップ部51と平坦部52とを一体成形し、固定部材50を形成する。
図8(b)に示すように、固定部材50の平坦部52は、例えば、床根太12に対して固定する際に制約される部分52xが切断等により除去される。
図8(b)は除去工程の一例である。平坦部52は、制約を受ける場合の他、形状を整えるなど、他の理由で一部を除去されてもよい。なお、固定部材50は、固定先の制約などを受けない場合、
図8(b)に示す工程を省き、絞り加工したままの形状としてもよい。
【0042】
図8(c)に示すように、固定部材50は、平坦部52を床根太12に当接させた状態で、図中P1に示すようにスポット溶接が施される。
図8(c)は固定工程の一例である。スポット溶接の位置は、1箇所でも複数箇所でもよい。スポット溶接を複数箇所に行う場合、
図8(c)及び
図8(d)に示すように、カップ部51を挟んで対称位置に施工するとよい。平坦部52が骨部材30から浮き上がりにくくするためである。また、施工位置は、
図9(a)の図中P1に示すように、カップ部51の片側だけでもよい。また、施工位置は、
図9(b)に示すように、複数箇所でなく、1箇所であってもよい。つまり、固定部材50に対する溶接を行う位置や数は適宜変更可能である。
【0043】
上記のようにして固定部材50が固定された骨部材30は、溶接により互いに接合され、
図1に示す内部骨組構造1を構成する。鉄道車両は、例えば全長が約20mある大型構造物である。内装部材40を天井内骨31などの骨部材30に対して取り付ける位置には、内部骨組構造1の組立公差や溶接変形などによって、ずれが生じる。そのため、内装部材40は、骨部材30を組み立てた後に車内に持ち込まれ、車内側から骨部材30に対して取り付けられる。内装部材40の取り付け手順について
図10を参照して説明する。ここでは、仕切パネル45を天井内骨31に固定する場合を例にして説明する。
【0044】
図10(a)に示すように、仕切パネル45は、樹脂により形成されたパネルである。仕切パネル45の縁部には、取付金具45aが一体的に取り付けられている。仕切パネル45は、内部骨組構造1に対して位置合わせされると、天井内骨31の第1部分31aの下面と取付金具45aとの間にライナー80を配置して、高さ調整される。この状態で、工具300を用いて、取付金具45aとライナー80と第1部分31aとに車内側からネジ孔加工が施され、ネジ孔61が形成される。ネジ孔加工は、例えば、孔開け加工及びタップ加工を含む。ネジ部材60がセルフタップビスである場合、ネジ孔加工では、孔開け加工のみ施して丸孔を形成すればよい。
図10(a)はネジ孔加工工程の一例である。
【0045】
カップ部51の縦幅W1と横幅W2(
図6(c)、
図6(d)参照)は、ネジ孔61を形成する位置の誤差範囲を含むように設定されている。そのため、内部骨組構造1に組立誤差や溶接変形などが生じていても、カップ部51と天井内骨31との間に形成される空間201の範囲内でネジ孔加工を施すことができる。
【0046】
ネジ孔加工を行う際には、切り粉CHが発生する。天井内骨31より車内側(図中下側)に排出された切り粉CHは、車内清掃により除去できるが、天井内骨31より車外側(図中上側)に排出された切り粉CHは、清掃により除去することが難しい。車外側に排出された切り粉CHを放置すると、その切り粉CHが内装パネルと外板20との間の空間101、102(
図1参照)に飛散し、機器類の動作不良を引き起こす可能性がある。
【0047】
しかし、天井内骨31の第1部分31aには、取付金具45aが取り付けられる面と反対側に位置する面に、固定部材50が固定されている。固定部材50は、カップ部51と第1部分31aとの間に、ネジ孔61に螺着されたネジ部材60の先端部60aを覆う空間201を形成している。これにより、天井内骨31より車外側(図中上側)に排出された切り粉CHは、カップ部51と第1部分31aとの間に形成された空間201に封じ込められ、空間101、102(
図1参照)に飛散しない。
【0048】
なお、ネジ孔61から工具300を抜く場合、空間201に封じ込めた切り粉CHがネジ孔61を経由して車内側に落下することがある。この場合も、車内側に落下した切り粉は車内清掃により除去できる。また、空間201の切り粉CHは、カップ部51に覆われて、車外側の空間101、102(
図1参照)に飛散しない。
【0049】
図10(b)に示すように、ネジ部材60は、仕切パネル45の取付金具45aとライナー80と天井内骨31の第1部分31aにわたって形成されたネジ孔61に螺着される。これにより、仕切パネル45が第1部分31aの下面に取り付けられる。
図10(b)は取付工程の一例である。
【0050】
固定部材50は、絞り加工により肉厚が薄く形成されている。カップ部51の深さW3(
図6(b)参照)がネジ部材60の先端部60aに干渉しないように設定されている。そのため、ネジ部材60がカップ部51の底部に干渉してカップ部51を破損させない。
【0051】
固定部材50の平坦部52は、天井内骨31の第1部分31aにスポット溶接されている。そのため、鉄道車両の走行時に発生する振動により固定部材50が天井内骨31から脱落しにくく、空間201に封じ込めた切り粉CHが車両走行中に飛散しない。
【0052】
なお、
図4に示すように、側内骨32は、肉厚W22が天井内骨31の肉厚W21(
図2参照)より薄く、ネジ孔16の形成が難しい。このような側内骨32では、固定部材50が、ネジ座プレート70を介して側内骨32の第1部分31aに固定される。ネジ孔加工は、仕切パネル45の取付金具45aと側内骨32の第1部分32aとネジ座プレート70とに施される。固定部材50は、カップ部51とネジ座プレート70との間に形成される空間201に、ネジ孔加工時に発生する切り粉を封じ込め、切り粉が車外側の空間101、102(
図1参照)に飛散することを防ぐ。ネジ部材60は、仕切パネル45の取付金具45aと側内骨32の第1部分32aとネジ座プレート70とにわたって形成されたネジ孔に螺着され、仕切パネル45を側内骨32に対して固定する。
【0053】
この場合も、固定部材50の平坦部52は、ネジ座プレート70と共に側内骨32の第1部分32aにスポット溶接されている。そのため、鉄道車両の走行時に発生する振動により固定部材50が側内骨32から脱落しにくく、カップ部51とネジ座プレート70との間に形成した空間201に封じ込めた切り粉CHが車両走行中に飛散しない。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、従来の固定部材のように固定部材にスポンジを詰めなくても、ネジ孔61に螺着されるネジ部材60の先端部60aをカップ部51によって覆うように固定部材50を固定するだけで、ネジ孔加工時に発生する切り粉CHをカップ部51の内部に封じ込めることができる。これによれば、スポンジを詰めた従来の固定部材を骨部材に固定する場合と比べ、固定部材50に関わる工数を削減することができる。その結果として、空調装置などの機器類が切り粉CHに起因して動作不良を生じることを回避できる。
【0055】
近年、車内環境を向上させるため、車室に装着される内装部材の種類や数が増えている。それに伴い、切り粉による車両運用中止のリスクを避けるため、固定部材50の適用箇所が増えている。本実施形態のように、1個の固定部材50に関わる工数を削減することができれば、内装部材の取付作業全体の工数を減らし、作業効率を向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、
図10(a)に示すように、固定部材50の平坦部52を天井内骨31などの骨部材30に直接当接させて接合するだけで、当該骨部材30とカップ部51との間に切り粉CHを封じ込める空間201を簡単に形成できる。
【0057】
また、角パイプにスポンジを詰めた従来の固定部材では角パイプの一部によりネジ座を形成しているが、本実施形態の固定部材50は、一方に開口する形状をなし、ネジ座を備えていない。そのため、従来の固定部材を固定した骨部材に対して内装部材を取り付ける場合と比べ、ネジ孔加工時に発生する切り粉CHを抑制できる。
【0058】
また、固定部材50がスポンジを使用していないので、平坦部52を天井内骨31などの骨部材30に対して溶接により接合する場合には、スポンジが溶けないように溶接する必要がなく、溶接作業を簡易化することができる。
【0059】
また、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、固定部材50の平坦部52を骨部材30に重ねてスポット溶接するだけで、固定部材50を骨部材30に直接固定できるので、例えば、角パイプ形状の固定部材を骨部材に隅肉溶接する場合と比べて、溶接作業を行いやすい。
【0060】
また、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、例えば
図4に示すように、固定部材50の平坦部52をネジ座プレート70を介して側内骨32などの骨部材30に間接的に固定する。この場合、内装部材40と骨部材30とネジ座プレート70とにネジ孔を形成し、そのネジ孔にネジ部材を螺着することにより内装部材40を骨部材30に対して取り付ける。これによれば、肉厚の異なる骨部材30に対して固定部材50を共通して使用しつつ、ネジ孔61を形成する範囲をネジ座プレート70により調整することができる。
【0061】
また、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、例えば
図4に示すように、固定部材50をネジ座プレート70を介して側内骨32に重ね合わせ、平坦部52とネジ座プレート70とを側内骨32に対してスポット溶接することにより、固定部材50をネジ座プレート70を介して側内骨32に間接的に固定する。これによれば、固定部材50とネジ座プレート70とをまとめて側内骨32に溶接できるので、固定部材50を側内骨32に対して固定する際の工数を減らすことができる。また、固定部材50にスポンジが詰められていないので、スポンジを溶かさないように溶接する必要がなく、固定部材50を側内骨32(骨部材30)に溶接する作業を簡易化することができる。
【0062】
また、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、例えば
図7に示すように、骨部材30に対してネジ座プレート70を接合し、そのネジ座プレート70に対して固定部材50を接合することにより、固定部材50をネジ座プレート70を介して骨部材30に間接的に固定することができる。これによれば、例えば、ネジ座プレート70がスポット溶接できない厚さや材質である場合でも、固定部材50をネジ座プレート70を介して骨部材30に固定し、ネジ孔61を形成する際に発生する切り粉を固定部材50に封じ込めることができる。
【0063】
また、本実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2では、絞り加工によりカップ部51と平坦部52とを有する固定部材50を形成するので、絞り加工した固定部材50をそのまま骨部材30に固定することができる。
【0064】
また、本実施形態では、例えば
図5に示すように、固定部材50の固定先に制約がある場合、
図8(b)に示すように、その制約に応じて平坦部52の一部を除去する。平坦部52の一部を除去しても、固定部材50は骨部材30に固定した際にカップ部51によって切り粉CHを封じ込める空間201を形成できる。
【0065】
本明細書において開示する内装部材取付構造は、上記実施形態に限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。上記実施形態の鉄道車両の内装部材取付構造2は、妻構に内装部材を取り付ける部位にも適用することができる。
【0066】
例えば、上記実施形態において、固定部材50の固定方法は、溶接に限られるものではなく、接着、ビス止め、リベット止め等、適宜変更可能である。ただし、上記実施形態のように、固定部材50がスポット溶接あるいは隅肉溶接により骨部材30に対して直接あるいは間接的に固定されることにより、鉄道車両の走行時の振動で固定部材50が骨部材30から離脱することを防止できる。
【0067】
また、例えば、固定部材50は平坦部52を備えず、カップ部51の開口部を骨部材30に対して溶接等で固定するようにしてもよい。ただし、平坦部52を備えることにより、固定部材50を骨部材30に対して溶接等で固定する作業を行いやすくなる。
【0068】
また、例えば、固定部材50のカップ部51と平坦部52とを別個に製作し、結合してもよい。ただし、上記実施形態のように、絞り加工により固定部材50のカップ部51と平坦部52とを一体成形することにより、薄くて軽い固定部材50を簡単かつ安価に製造できる。
【0069】
なお、固定部材50は、切り粉の飛散を防止するものであり、強度が必要でない。よって、固定部材50の材質は、金属に限らず、樹脂などでもよい。ただし、固定部材50の材質を金属にすることで、カップ部51が外力によって破損し、空間201に封じ込めた切り粉を飛散させることを防止できる。
【符号の説明】
【0070】
2……鉄道車両の内装部材取付構造、30……骨部材、40……内装部材、31……天井内骨、50……固定部材、51……カップ部、51a……開口部、52……平坦部、60……ネジ部材、61……ネジ孔、70……ネジ座プレート