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特開2023-132006アパシーの予防および/または治療のための医薬組成物
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  • 特開-アパシーの予防および/または治療のための医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132006
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】アパシーの予防および/または治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20230914BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230914BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P39/02
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037079
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】岡 雄一
(72)【発明者】
【氏名】石内 雅丈
(72)【発明者】
【氏名】菅野 亮
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086GA02
4C086GA08
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA03
4C086ZA15
4C086ZC37
(57)【要約】
【課題】
シヌクレイノパチーを有する患者のアパシーを予防および/または治療する薬剤などを提供すること。
【解決手段】
下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、アパシーの予防および/または治療するための医薬組成物であって、シヌクレイノパチーを有する患者に投与される、前記医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、アパシーを予防および/または治療するための医薬組成物であって、シヌクレイノパチーを有する患者に投与される、前記医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、レビー小体型認知症または多系統萎縮症である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
シヌクレイノパチーが、パーキンソン病である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
シヌクレイノパチーが、レビー小体型認知症である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
シヌクレイノパチーが、多系統萎縮症である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
1日1回投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
経口投与用である、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の有効量を、シヌクレイノパチーを有する患者に投与する工程を含む、前記患者におけるアパシーを予防および/または治療する方法。
【化2】
【請求項11】
シヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーを予防および/または治療する方法における使用のための、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
【化3】
【請求項12】
シヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーの予防および/または治療するための医薬組成物の製造における、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の使用。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのシヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーを予防および/または治療するための医薬組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
アパシーは意識障害、認知障害および感情障害によらない動機付けの減弱と定義され、意識レベルの低下、認知障害および感情的な悲嘆に起因するものではないとされる(非特許文献1)。アパシーは臨床的にうつとの鑑別が重要である。両者は、いずれもイニシアチブの欠如と日常生活への興味の喪失によって定義されるが、これらの状態は、認知的および感情的な特徴により鑑別が可能である。アパシーはうつに合併する事もあるが、純粋なアパシーではうつの代表的症状である悲壮感や気分の落ち込みは認められない(非特許論文2)。実際、抗うつ薬がアパシーの治療に効果を示さないという臨床報告が知られている(非特許文献3など)。さらに、抗うつ薬は、アパシーを惹起および/または悪化させることも知られている(非特許文献4)。
【0003】
非臨床試験において、アデノシンA2A受容体拮抗薬は、正常動物のモチベーションを向上させることや(非特許文献5など)、ドパミン阻害によるモチベーションの低下を改善することが知られている(非特許文献6など)。しかし、パーキンソン病、レビー小体型認知症および多系統萎縮症における精神症状のモデルとして、近年妥当性が高いと考えられているシヌクレインモデル(非特許文献7)を用いて、アデノシンA2A受容体拮抗薬のアパシーに対する効果を評価した報告はない。
【0004】
臨床試験においては、アデノシンA2A受容体拮抗薬として知られているイストラデフィリンがアパシーに対する効果を示したという報告があるが、非盲検試験であり、かつ試験規模も小さい(非特許文献8)。イストラデフィリンに関する、より試験規模の大きな観察研究において、アパシーに対する有意な効果は認められていない(非特許文献9)。
【0005】
式(I)で表される化合物(N-[4-(フラン-2-イル)-5-(オキサン-4-カルボニル)-1,3-チアゾール-2-イル]-6-メチルピリジン-3-カルボキシアミド)は、アデノシンA2A受容体に対し親和性を有し、パーキンソン病の治療効果を有することが知られている(特許文献1)。また、この化合物は、運動障害の治療および/または予防剤として有用であることが知られている(特許文献2)さらに、この化合物は、うつなどの気分障害に有用であることが知られている(特許文献3)。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Marin、American Journal of Psychiatry、147、1990、22-30頁
【非特許文献2】Iacobacci、Clinical and Experimental Psychology、Vol.3、Issue 3、2017、1000163
【非特許文献3】Weintraub et al.、Neurology、75、August 3、2010、448-455頁
【非特許文献4】Barnhart et al.、Journal of Psychiatric Practice、May 2004、vol.10、No. 3、196-199頁
【非特許文献5】Li et al.、Neuropharmacology、168、2020、108010、1-14頁
【非特許文献6】Nunes et al.、Neuroscienence、170、2010、268-280頁
【非特許文献7】Uemura et al.、Movement Disorders、Vol.36、No.9、2021、2036-2047頁
【非特許文献8】Nagayama et al.、Journal of the Neurological Sciences、396、2019、78-83頁
【非特許文献9】Shimo et al.、Parkinsonism and Related Disorders、91、2021、115-120頁
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/063743号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/126082号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/027805号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、例えばパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのシヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーを予防および/または治療するための手段等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の実施形態において、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] 下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、アパシーを予防および/または治療するための医薬組成物であって、シヌクレイノパチーを有する患者に投与される、前記医薬組成物。
【化2】
[2] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、レビー小体型認知症または多系統萎縮症である、[1]に記載の医薬組成物。
[3] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病である、[1]に記載の医薬組成物。
[4] シヌクレイノパチーが、レビー小体型認知症である、[1]に記載の医薬組成物。
[5] シヌクレイノパチーが、多系統萎縮症である、[1]に記載の医薬組成物。
[6] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8] 1日1回投与される、[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[9] 経口投与用である、[1]~[8]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0010】
第2の実施形態において、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] 下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の有効量を、シヌクレイノパチーを有する患者に投与する工程を含む、前記患者におけるアパシーを予防および/または治療する方法。
【化3】
[2] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、レビー小体型認知症または多系統萎縮症である、[1]に記載の方法。
[3] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病である、[1]に記載の方法。
[4] シヌクレイノパチーが、レビー小体型認知症である、[1]に記載の方法。
[5] シヌクレイノパチーが、多系統萎縮症である、[1]に記載の方法。
[6] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で投与する、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で投与する、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[8] 化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を1日1回前記患者に投与する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を経口投与する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【0011】
第3の実施形態において、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] シヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシー(シヌクレイノパチーに伴うアパシー)を予防および/または治療する方法における使用のための、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。例えば、アパシーを呈するシヌクレイノパチーを有する患者の治療方法における使用のための、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
【化4】
[2] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、レビー小体型認知症または多系統萎縮症であることを特徴とする、[1]に記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[3] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病であることを特徴とする、[1]に記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[4] シヌクレイノパチーが、レビー小体型認知症であることを特徴とする、[1]に記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[5] シヌクレイノパチーが、多系統萎縮症であることを特徴とする、[1]に記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[6] 1日あたり、3~6mg用量で投与されることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[7] 1日あたり、6mg用量で投与されることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[8] 1日1回前記患者に投与されることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
[9] 経口投与されることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の使用のための化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
【0012】
第4の実施形態において、本発明は、以下の[1]~[9]に関する。
[1] シヌクレイノパチーを有する患者における、アパシーを予防および/または治療するための医薬組成物の製造における、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の使用。
【化5】
[2] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、レビー小体型認知症または多系統萎縮症である、[1]に記載の使用。
[3] シヌクレイノパチーが、パーキンソン病である、[1]に記載の使用。
[4] シヌクレイノパチーが、レビー小体型認知症である、[1]に記載の使用。
[5] シヌクレイノパチーが、多系統萎縮症である、[1]に記載の使用。
[6] 前記医薬組成物が、1日あたり、化合物1として3~6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の使用。
[7] 前記医薬組成物が、1日あたり、化合物1として6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の使用。
[8] 前記医薬組成物が1日1回投与される、[1]~[7]のいずれかに記載の使用。
[9] 前記医薬組成物が経口投与用である、[1]~[8]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、シヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーを予防および/または治療するための医薬組成物、並びにこれを用いたアパシーの予防および/または治療方法が提供される。
【化6】
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、Week26時点における、やる気スコアのWeek2時点からの変化量を示す。左から、プラセボ群(n=145)、化合物(I)3mg/日群(n=141)、化合物(I)6mg/日群(n=151)を表す。数値は、最小二乗平均値で表示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、上記式(I)で示される化合物(N-[4-(フラン-2-イル)-5-(オキサン-4-カルボニル)-1,3-チアゾール-2-イル]-6-メチルピリジン-3-カルボキシアミド)を化合物(I)と記載する。
【0016】
化合物(I)の薬学的に許容される塩は、例えば薬学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩などを包含する。化合物(I)の薬学的に許容される酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩などがあげられ、薬学的に許容される金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などがあげられ、薬学的に許容されるアンモニウム塩としては、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの塩があげられ、薬学的に許容される有機アミン付加塩としては、例えばモルホリン、ピペリジンなどの付加塩があげられ、薬学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、例えばリジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの付加塩があげられる。
【0017】
本発明で用いられる化合物(I)は、例えばWO2005/063743の実施例504に記載の方法により製造することができる。
【0018】
化合物(I)の塩を取得したいとき、化合物(I)が塩の形で得られるときはそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られるときは、化合物(I)を適当な溶媒に溶解または懸濁し、酸または塩基を加えて塩を形成させて単離、精製すればよい。
【0019】
また、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、水または各種溶媒との付加物の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明に使用することができる。
【0020】
本発明の医薬組成物は、シヌクレイノパチーに伴うアパシーを予防および/または治療するための医薬組成物であって、シヌクレイノパチーを有する患者に投与され、当該患者におけるアパシーを予防および/または治療する。
【0021】
「シヌクレイノパチー」とは、神経細胞またはグリア細胞におけるα-シヌクレインの異常な凝集体の蓄積を特徴とする神経変性疾患であり、具体的には、例えばパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(例えばオリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群)などがあげられる。
【0022】
「アパシー」とは、意識障害、認知障害および感情障害によらない動機付けの減弱と定義され、意識レベルの低下、認知障害および感情的な悲嘆に起因するものではないとされる(Marin、American Journal of Psychiatry、147、1990、22-30頁)。シヌクレイノパチーを有する患者は、しばしばアパシーを呈することが知られている。アパシーは、シヌクレイノパチーにおいて生じる他の精神症状(うつ症状や認知障害など)とは区別される(例えば、Kirsch-Darrow et al., Neurology. 2006 July 11; 67(1): 33-38、Parkinsonism and Related Disorders 60 (2019) 14-24など)。
【0023】
治療的に使用する場合、本発明の医薬組成物はアパシーを有するシヌクレイノパチー(シヌクレイノパチーに伴うアパシー)を有する患者に投与される。患者におけるアパシーの発症や改善は、例えば、後述する実施例に記載される「やる気スコア」、アパシー評価スケール(Apathy Evaluation Scale(AES);Robert G. Robinson, "The Clinical Neuropsychiatry of Stroke" 1998, ambridge University Press)、アパシースケール(Apathy Scale; Starkstein, et al., J. Neuropsychiatry Clin. Neurosciences, 4: 134-139 (1992))およびLARS(Lille Apathy Rating Scale)など、アパシーの評価スケールとして当該分野で周知の方法を使用して評価することができる(Laura B. Zahodne et al., Movement Disorder, 2009 April 15, 24(5), 677-683)。
【0024】
一例として、本発明の医薬組成物はアパシーを呈するパーキンソン病患者に投与される。パーキンソン病は、年齢とともに徐々に進行する神経変性疾患である。特徴的な症状は、例えば安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害等であり、これらはパーキンソン病の4大症状といわれる。病理学的には、錐体外路系の一部である黒質から線条体へ投射するドパミン性神経細胞の変性・脱落およびα-シヌクレインの異常な凝集体を主成分とするレビー小体の出現が見られ、線条体ドパミン含量の顕著な低下が認められる。パーキンソン病患者では、運動障害に加えて、しばしばアパシーが認められることが知られている。本発明はそのようなパーキンソン病患者のアパシーの改善に有用である。
【0025】
対象となるパーキンソン病患者は特に限定されず、ドパミン補充療法を継続的に受けていない患者にも、ドパミン補充療法で治療中の患者にも使用できる。
【0026】
「ドパミン補充療法」とは、不足しているドパミンを補う治療方法であって、レボドパ含有製剤による治療のほか、レボドパのプロドラッグや、ドパミンアゴニスト、MAO-B(モノアミン酸化酵素B)阻害剤、COMT(カテコール-O-メチル転移酵素)阻害剤、抗コリン剤、ドパミン放出促進剤(アマンタジンなど)、ゾニサミドによる処置等による治療も含まれる。
【0027】
本発明の医薬組成物の用法用量は、対象の症状や年齢等に応じて適宜決定される。例えば、本発明の医薬組成物は、1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として3mg~6mg(化合物1)用量で対象(例えば、パーキンソン病患者、レビー小体型認知症患者、多系統萎縮症患者等)に投与される。好ましくは、本発明の医薬組成物は、1日あたり3mgまたは6mg用量、より好ましくは1日あたり6mg用量で対象に投与される。
【0028】
本発明の医薬組成物は、上記用量で投与される限り、複数回に分けて投与されてもよいし、1回で投与されてもよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は、1日1回投与される。
【0029】
本発明の医薬組成物は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される一種またはそれ以上の担体(例えば、希釈剤、溶剤、賦形剤など)と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。投与経路や投与形態は特に限定されない。
【0030】
本発明の医薬組成物は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を単独の有効成分として含んでもよいし、任意の他の治療のための有効成分との組み合わせて(配合して)含んでもよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を単独の有効成分として含有する。
【0031】
投与経路としては、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与または、例えば静脈内、経皮などの非経口投与をあげることができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は経口投与され、投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤などがあげられる。
【0032】
錠剤やカプセル剤は、乳糖などの賦形剤、澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤などを用いて製造できる。
【0033】
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合液などの希釈剤または溶剤などを用いて製造できる。外用剤としては、例えば軟膏剤、クリーム剤、リニメント剤、ローション剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤などがあげられる。適当な基剤に活性成分を溶解または混合分散して製造できる。
【0034】
本発明の医薬組成物は、本発明の目的に反しない範囲で、他の医薬組成物や治療と組み合わせて使用(併用)されてもよい。
【0035】
本発明の医薬組成物と組み合わせて用いられる他の医薬組成物や他の有効成分としては、例えば、ドパミンアゴニスト、コリンエステラーゼなどがあげられる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、1日1回投与される場合、1回分の製剤に3~6mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を含有する。例えば、1錠あるいは1カプセル中に、3mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含む錠剤またはカプセル剤とし、これを1日1回1または2(錠/カプセル)服用する。あるいは、1錠中に1.5mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含有する錠剤またはカプセル剤とし、これを1日1回2または4(錠/カプセル)服用する。1錠または1カプセル中に、1mgや6mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を含有する製剤や他の投与形態の場合も同様である。
【0037】
本発明の医薬組成物は、例えば、「パーキンソン病に伴うアパシー症状の改善」など、上記した効能又は効果に関する表示(添付文書やパッケージ)とともに製品化される。
【0038】
本発明は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の有効量を、シヌクレイノパチーを有する患者に投与する工程を含み、前記患者におけるアパシーを予防および/または治療する方法も提供する。本発明はまた、パーキンソン病におけるアパシーを改善する方法も提供する。本発明の方法は、過去にレボドパ含有製剤などによる治療を継続的に受けていないパーキンソン病患者やレボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病患者にも好適に利用できる。
【0039】
本発明は、シヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーを予防および/または治療する方法における使用のための、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩に関する発明も提供する。本発明はまた、シヌクレイノパチーを有する患者におけるアパシーの予防および/または治療するための医薬組成物の製造における、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の使用に関する発明も提供する。
【0040】
本発明の医薬組成物において記載した事項は、特記しない限り、上記方法、使用のための、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩、使用にもそのまま適用される。
【実施例0041】
以下に、化合物(I)の代表的な薬理作用について実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。
【0042】
[実施例1]ドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者を対象とした臨床試験
ドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者を対象とした臨床試験の方法及び結果を以下に示す。
【0043】
(1.試験方法)
(1-1)対象:
レボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病患者
(1-2)治験デザイン:
多施設共同ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験
(1-3)投与量:
化合物(I)3mg、化合物(I)6mgまたはプラセボを1日1回
(1-4)投与製剤:
化合物(I)を有効成分として、それぞれ3mgまたは6mg含有する錠剤
【0044】
(1-5)投与方法・投与期間:
以下の方法により、単盲検期、二重盲検期の順で投与した。
単盲検期:朝食後にプラセボを単盲検下で2週間経口投与した(被験者が朝食を摂らない場合には、朝に投与した)。
二重盲検期:朝食後に化合物(I)3mg、化合物(I)6mgまたはプラセボを二重盲検下で24週間経口投与した(被験者が朝食を摂らない場合には、朝に投与した)。
【0045】
(1-6)治験デザインの概略(Study Schema)
【0046】
【表1】
【0047】
(1-7)対象患者選択基準:
以下の表2の通り
【0048】
【表2】
【0049】
(1-8)本試験の被験者内訳:
以下の表3の通りであるが、2次登録された502名の被験者のうち、化合物(I)3mg投与群に168名、化合物(I)6mg投与群に167名、プラセボ群に167名が割り付けられた。このうち、化合物(I)6mg投与群に割り付けられた1名を除く501名が有効性の主たる解析対象とされた。
【0050】
【表3】
【0051】
(1-9)評価方法:
本試験に参加した被験者について、アパシー(意欲の低下)の評価尺度である、やる気スコア(Starkstein)を投与直前(Week 0)から経時的に測定した。やる気スコアは、アパシーに注目して作成された14項目からなる問診票に基づくスコアであり、治験担当医師による患者への聞き取りによって各項目のスコアが判定された。
【0052】
(1-10)統計解析方法:
評価指標(やる気スコア)に対する結果を得るために行った統計解析の手法について以下に説明する。
【0053】
応答変数:各時点における、やる気スコアの変化量;説明変数:治療群、2次登録時のやる気スコア、時点、Week 0時の平均オフ時間カテゴリ(< 2時間、>= 2時間)、治療群と時点の交互作用として、Mixed Model for Repeated Measures (MMRM)を行った。
【0054】
(2.試験結果)
Week 26時点におけるやる気スコアのWeek 2時点(治験薬投与前)からの変化量の最小二乗平均値は、プラセボ群(n=145)で0.7278、化合物(I)3mg投与群(n=141)で0.3513、化合物(I)6mg投与群(n=151)で-0.2185であった(図1)。またプラセボ群との差は、それぞれ化合物(I)3mg投与群で-0.377、化合物(I)6mg投与群で-0.946であり、化合物(I)6mg投与群の方が化合物(I)3mg投与群よりもその差は大きかった(図1)。
【0055】
以上の結果から、化合物(I)をドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者に投与することで、該患者のアパシーを予防および/または改善させることができることを確認した。
【0056】
[実施例2]シヌクレイノパチーモデル動物を用いたアパシー様症状改善効果確認試験
文献(Movement Disorders,36,p.2036(2021);Acta Neuropathologica Communications,2,p.88(2014))を参考に、シヌクレイノパチーの動物モデルを作製し、アパシー様症状の改善効果を検証する。
【0057】
<モデル作製>
線維化させたマウス野生型αシヌクレインタンパク質を、5 mg/mLとなるようにリン酸緩衝生理食塩水を加えて溶解し、ウォーターバス型ソニケーターを用いて6分間ソニケーションする。これをPFF(preformed fibrils)溶液とする。
【0058】
モデル動物の作製には、2-4か月齢の雄性ヘテロ接合型A53T BAC-SNCAトランスジェニックマウスを使用する。ペントバルビタール麻酔下でマウスを脳定位固定装置に固定し、33ゲージのニューロシリンジ(ハミルトン)を用いて、マウスの両側嗅球(ブレグマから前方へ4.5 mm、左右へ1.0 mm、深さ2.0 mm)又は両側側坐核(ブレグマから前方へ1.5 mm、左右へ1.0 mm、深さ4.5 mm)へ適量(1-4 μL)のPFFを注入し、アパシー様症状を惹起する(PFF処置群)。偽処置群には同様の手法でαシヌクレインを含まないリン酸緩衝生理食塩水を注入する。
【0059】
<アパシー様症状の評価>
一定期間後、2種類の報酬(回転かごとショ糖タブレット)に対する選択課題を用いて、モデルのアパシー様症状を評価する。マウスは通常、回転かごでの運動を好むが、ドパミン系の機能低下によりアパシー様症状を誘発すると、回転かごでの運動が減少してより少ない労力で報酬効果を得られるショ糖タブレットを好むようになると知られている(Psychopharmacology,2016;233:393-404)。アパシー様症状が惹起されていることを確認した後、化合物(I)(0.5 w/v% MC水溶液に懸濁し、投与日のマウスの体重100 gあたり0.5 mL投与となるように調製したもの)又は試験化合物を含まない溶媒(0.5 w/v% MC水溶液)を投与日のマウスの体重100 gあたり0.5 mL経口投与する。投与後に上述の選択課題を用いて、化合物(I)のアパシー様症状改善効果を評価する。
【0060】
上記試験により、化合物(I)がシヌクレイノパチーのアパシーに対し治療および/または予防効果を有することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、シヌクレイノパチーを有する患者(特に、パーキンソン病患者)などにおけるアパシーの予防および/または治療に有用である。
【0062】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1