(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132017
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20230914BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230914BHJP
C01B 32/21 20170101ALI20230914BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
C01B32/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037099
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳穂
(72)【発明者】
【氏名】山本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】干川 康人
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA19
4G146AB01
4G146AC07B
4G146BA02
4G146CB07
4G146CB11
4G146CB19
4G146CB22
4G146CB23
4G146CB26
4G146CB33
4G146DA07
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA17
5H050CB08
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】初期効率が高く且つ充放電レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材を提供すること。
【解決手段】黒鉛粒子を圧縮すると共にせん断力を加える表面圧縮せん断処理を行うことにより、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子を得る表面圧縮せん断処理工程と、該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1300℃で焼成する焼成工程と、を有し、式(1):表面粗度増加率C(%)=((表面粗度R
A-表面粗度R
B)/表面粗度R
A)×100(1)で算出される表面粗度増加率Cが、5.0%以上であること、P/C比が0.002~0.011であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子を圧縮すると共にせん断力を加える表面圧縮せん断処理を行い、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子を得る表面圧縮せん断処理工程と、
該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1300℃で焼成する焼成工程と、
を有し、
該表面圧縮せん断処理工程において、下記式(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度RB-表面粗度RA)/表面粗度RA)×100 (1)
(式中、表面粗度RAは、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m2/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度RBは、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m2/g)の比(SAB/SBB)である。)
で算出される表面粗度増加率Cが、5.0%以上であること、
該被覆工程において、表面粗度増加率C(%)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)の比(P/C)が0.002~0.011であること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項2】
前記表面圧縮せん断処理前のBET法で求められる黒鉛粒子の比表面積SAA(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m2/g)の比(SAB/SAA)が、1.01~1.56であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
前記表面圧縮せん断処理工程において、ハンマーミル又はボールミルを用いて、前記表面圧縮せん断処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質炭素材原料が、コールタールピッチ、フェノール樹脂、石油ピッチ、タール又は重質油であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
前記表面圧縮せん断処理工程において、前記表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の多くの機器に搭載され、高容量で、高電圧、小型軽量である点から多様な分野で利用されるようになっている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、車載用途の需要が急激に高まっており、車載用に求められる特性としては、高容量で、高寿命かつ高入出力であり、かつこれらの特性のバランスに優れていることが求められている。このため、エネルギー密度が高くかつ膨張収縮が小さい負極材が必要とされ、これらの特性を満たす負極材として黒鉛粒子製のものが広く利用されるようになっている。
【0004】
そして、このような黒鉛粒子を用いるリチウムイオン二次電池用負極材の性能向上を目的として、黒鉛粒子を複合化した種々の複合粒子が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、人造黒鉛からなる芯材と、非粉体状の非晶質炭素材料及び粉体状の導電性炭素材料を含み前記芯材を被覆する被覆層とを有する複合黒鉛粒子であって、前記芯材の質量に対する前記非粉体状の非晶質炭素材料の質量の割合が0.2~3.8質量%であり、前記芯材の質量に対する前記粉体状の導電性炭素材料の質量の割合が0.3~5.0質量%である複合黒鉛粒子が開示されている。特許文献2によれば、リチウムイオン二次電池の入出力特性が向上させることができることが記載されている。
【0006】
そして、近年、リチウムイオン二次電池用負極材には、充放電容量が高いこと、初期効率が高いこと、充放電効率が高いこと、充放電レート特性に優れること等の種々の性能が要求される。
【0007】
これらの性能のうち、充放電レート特性は、リチウムイオン二次電池の急速充放電を実現するために重要な性能である。負極材の充放電レート特性を向上させるための技術としては、例えば、特許文献2には、黒鉛粒子の表面に複数の硬質粒子が埋設されており、前記硬質粒子は、前記黒鉛粒子よりも粒径が小さく且つ硬質であり、更に、前記硬質粒子の埋設された前記黒鉛粒子の表面が非晶質炭素層によって被覆されているリチウムイオン二次電池用負極材が開示されている。特許文献2では、硬質粒子及び黒鉛粒子を摩砕装置に入れて混合し、それらの粒子に、衝撃力、せん断力等を付与する処理が行なわれることにより、特許文献2のリチウムイオン二次電池用負極材では、硬質粒子の一部が黒鉛粒子に埋設され、そのことにより、黒鉛粒子の表面に、リチウムイオンが黒鉛粒子へ出入り可能な亀裂が形成されており、このことにより、特許文献2では、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/110263号
【特許文献2】特開2018-49769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性の向上への要求は増々高まっており、特許文献2のリチウムイオン二次電池用負極材よりも、更に充放電レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材が求められている。
【0010】
また、リチウムイオン二次電池用負極材には、初期の充電容量が放電容量より大きくなる、すなわち初期効率が低くなると、SEI膜の生成で消費されるリチウムイオン量が増大し、電池性能が低下する点から、初期効率が高いことも要求されている。なお、本発明において、SEI(Solid Electrolyte Interphase)膜とは、電解液が分解されることによって形成する被膜を指す。
一方、充放電レート特性を高めるにはリチウムイオンが負極材活物質に入る反応の抵抗を下げる必要がある。リチウムイオンの反応抵抗はリチウムイオンの反応サイトを増やすことで低下するため、活物質の表面積を増やせば反応サイトが増えるため、反応抵抗は低下する。しかし活物質の表面積を増やすとSEI膜の生成量も増えるため、初期効率が低下する。
つまり、高い初期効率と低い反応抵抗は活物質の表面積に対してトレードオフの関係であるため、その相反した関係から外れた、両方に優れた特性を持つ材料が必要となる。
【0011】
従って、本発明の目的は、初期効率が高く、かつ反応抵抗が低くなるリチウムイオン二次電池用負極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記技術背景の下、本発明者は、鋭意検討重ねたところ、(1)黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆する前に、黒鉛粒子を圧縮しながらせん断力を加えて、黒鉛粒子同士で、粒子表面を押しながら擦り合わせる表面圧縮せん断処理を行い、黒鉛粒子の表面に存在している大きくて深い凹部を減少させると共に、黒鉛粒子の黒鉛層に微細な凹凸を多数形成させることにより、Liイオンが黒鉛活物質内部にアクセスし易くできること、そのため、(2)表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、非晶質炭素材原料で被覆し、次いで、焼成し、非晶質炭素材原料を炭化して得られるリチウム二次電池用負極材は、初期効率が高く、且つ、リチウムイオン伝導性が高められて、負極の抵抗が低減されるので、優れた充放電レート特性を有すること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明(1)は、黒鉛粒子を圧縮すると共にせん断力を加える表面圧縮せん断処理を行い、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子を得る表面圧縮せん断処理工程と、
該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1300℃で焼成する焼成工程と、
を有し、
該表面圧縮せん断処理工程において、下記式(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度RB-表面粗度RA)/表面粗度RA)×100 (1)
(式中、表面粗度RAは、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m2/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度RBは、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m2/g)の比(SAB/SBB)である。)
で算出される表面粗度増加率Cが、5.0%以上であること、
該被覆工程において、表面粗度増加率C(%)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)の比(P/C)が0.002~0.011であること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、前記表面圧縮せん断処理前のBET法で求められる黒鉛粒子の比表面積SAA(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m2/g)の比(SAB/SAA)が、1.01~1.56であることを特徴とする(1)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(3)は、前記表面圧縮せん断処理工程において、ハンマーミル又はボールミルを用いて、前記表面圧縮せん断処理を行うことを特徴とする(1)又は(2)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(4)は、前記非晶質炭素材原料が、コールタールピッチ、フェノール樹脂、石油ピッチ、タール又は重質油であることを特徴とする(1)乃至(3)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(5)は、前記表面圧縮せん断処理工程において、前記表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の平均粒子径(D50)が5~30μmであることを特徴とする(1)乃至(4)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、初期効率が高く且つ充放電レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1の表面圧縮せん断処理した後の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図2】実施例1で得られたリチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図3】実施例1に用いた表面圧縮せん断処理する前の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図4】表面圧縮せん断処理工程、並びに被覆工程及び焼成工程による黒鉛粒子表面の変化を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、黒鉛粒子を圧縮すると共にせん断力を加える表面圧縮せん断処理を行い、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子を得る表面圧縮せん断処理工程と、
該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1200℃で焼成する焼成工程と、
を有し、
該表面圧縮せん断処理工程において、下記式(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度RB-表面粗度RA)/表面粗度RA)×100 (1)
(式中、表面粗度RAは、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m2/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度RBは、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m2/g)の比(SAB/SBB)である。)
で算出される表面粗度増加率Cが、5.0%以上であること、
該被覆工程において、表面粗度増加率C(%)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)の比(P/C)が0.002~0.011であること、
を特徴とする。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1は、表面圧縮せん断処理した後の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)であり、また、
図2は、表面圧縮せん断処理した黒鉛粒子を、ピッチで被覆し、次いで、焼成して得られるリチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡写真(SEM)であり、また、
図3は、表面圧縮せん断処理する前の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。また、
図4は、表面圧縮せん断処理工程、並びに被覆工程及び焼成工程による黒鉛粒子表面の変化を表す模式図である。
【0022】
図3及び
図4中、原料黒鉛粒子11は、表面圧縮せん断処理が施される黒鉛粒子であり、粒子表面には光沢のある平滑面3と、深い凹部2が存在している。
図1及び
図4中の表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1は、
図3及び
図4中の原料黒鉛粒子11に対して、黒鉛粒子を圧縮すると共にせん断力を加えて、表面圧縮せん断処理を行なった後の黒鉛粒子である。
図1及び
図4中、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1の表面には、多数の微細な凹凸4が形成されている。また、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1では、原料黒鉛粒子11と比べると、原料黒鉛粒子11の表面に存在していた大きくて深い凹部2が減少している。つまり、
図3及び
図4の表面圧縮せん断処理を行う前の黒鉛粒子と対比すると、
図1及び
図4の表面圧縮せん断処理した後の黒鉛粒子1の表面は、深い凹部2が減少すると共に、光沢のある平滑面3が減少し、粒子表面に微細な凹凸4が形成される。そして、
図2及び
図4中のリチウムイオン二次電池用負極材6は、
図1及び
図4中の表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1と非晶質炭素材原料であるピッチを混合することにより、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、ピッチで被覆し、次いで、焼成して得られたものである。
図2及び
図4中のリチウムイオン二次電池用負極材6の粒子表面には、表面圧縮せん断処理を行い形成された微細な凹凸4がピッチの炭化物で被覆された微細な凹凸5が存在している。また、リチウムイオン二次電池用負極材6の粒子表面には、表面圧縮せん断処理した後の黒鉛粒子1と同様に、溝状の凹部2も存在している。
図1と
図2の対比でわかるように、ピッチによる黒鉛粒子の表面の被覆では、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面に形成された微細な凹凸は、ピッチにより完全に埋められることはなく、微細な凹凸が保持される程度に、表面がピッチで被覆される。以上のように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、表面圧縮せん断処理工程で、表面圧縮せん断処理を行うことにより、原料の黒鉛粒子の表面に存在していた大きくて深い凹部が減少するものの、それに代わって微細な凹凸が黒鉛粒子の表面に多数形成されるので、表面圧縮せん断処理工程の前に比べ後の方が、黒鉛粒子の表面粗度が大きくなる。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、表面圧縮せん断処理工程と、被覆工程と、焼成工程と、を有する。
【0024】
表面圧縮せん断処理工程は、黒鉛粒子(原料黒鉛粒子)を圧縮すると共にせん断力を加える表面圧縮せん断処理を行うことにより、黒鉛粒子(原料黒鉛粒子)の表面形状を変化させて、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子を得る工程である。
【0025】
表面圧縮せん断処理工程において、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子は、球状化された黒鉛であり、扁平状の黒鉛が球状に凝集したものである。黒鉛粒子は、天然黒鉛であっても、人造黒鉛であってもよい。
【0026】
表面圧縮せん断処理工程において、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは5.0~30.0μmである。黒鉛粒子の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることにより、反応比表面積が増加することにより反応抵抗が下がり、加えて、黒鉛粒子内のリチウムイオンの移動速度も速くなる。黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、初回充電時の不可逆容量増大の抑制が可能となる点で、より好ましくは7.0μm以上であり、また、更に高速充放電性能が向上する点で、より好ましくは25.0μm以下、更に、高速充放電性能が向上する点で、特に好ましくは20.0μm以下である。
【0027】
なお、本発明において、黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて得られる粒度分布における体積換算の積算50%の粒子径(D50)を指す。レーザー回折粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、LA-960)を用い、蒸留水100質量部に対し、10質量部の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、測定対象の黒鉛粒子を超音波で分散させ、分散させた黒鉛粒子を、レーザー回折粒度分布測定装置内の測定セルにフローし、光源として半導体レーザー(650nm)を照射して、散乱光をリング状検出器で検出、解析することで、黒鉛粒子の粒度分布を得、得られた粒度分布より、体積換算の積算50%の粒子径(D50)を平均粒子径として求める。
【0028】
表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3360nm以下である。黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)が、0.3360nm以下であることにより、可逆容量が十分に大きくなる。黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、更に可逆容量が大きくなる点で、好ましくは0.3358nm以下である。
【0029】
なお、本発明において、平均格子面間隔d(002)は、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線をNiフィルターで単色化したX線を使用して、高純度シリコンを標準物質として粉末X線回折法で測定を行い、得られた炭素(002)面の回折ピークの強度と半値幅より、日本学術振興会第117委員会によって定められた学振法に従って求めた値である。
【0030】
表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のBET法による比表面積は、好ましくは1.0~9.0m2/gである。表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のBET比表面積が、1.0m2/g以上であることにより黒鉛粒子表面のリチウムイオン反応サイトが増え、反応抵抗が低くなり、また、9.0m2/g以下であることにより黒鉛粒子の内部の密度が増え、リチウム金属の内部析出が抑制され、初期効率が高くなる。
【0031】
表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のタップ密度は、好ましくは0.5~1.2g/cm3である。黒鉛粒子のタップ密度が、0.5g/cm3以上であることにより、電極膜内に黒鉛粒子が充填され易くなり、また、1.2g/cm3以下であることにより、急速充電向けの低密度電極でも負極材活物質粒子間の導電パスが形成し易くなる。
【0032】
表面圧縮せん断処理工程では、黒鉛粒子の集合物に圧縮力を加えながら、黒鉛粒子の集合物にせん断力を加えて、黒鉛粒子同士で、粒子表面を押し合いながら擦り合わせる表面圧縮せん断処理を行なうことにより、黒鉛粒子の表面の大きくて深い凹部が減少すると共に、黒鉛粒子の表面に微細な凹凸が多数形成される。
【0033】
表面圧縮せん断処理工程において、表面圧縮せん断処理に用いる装置及び処理条件は、黒鉛粒子の集合物を圧縮しながら、黒鉛粒子の集合物にせん断力を加え、黒鉛粒子の表面の大きくて深い凹部を減少させると共に、黒鉛粒子表面に微細な凹凸を形成させ、表面粗度増加率Cが所定の範囲にある黒鉛粒子を得ることができるものであれば、特に制限されない。表面圧縮せん断処理に用いる装置としては、ハンマーミル、ボールミル、日本コークス工業社製の粒子設計装置(製品名:コンポジ)、日本コークス工業社製のメカノハイブリッド、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムNSH、ホソカワミクロン社製の循環型メカノフュージョンシステムAMS等の黒鉛粒子に圧縮力及びせん断力を与えることができるものが適宜選択される。そして、処理条件を選択することにより、黒鉛粒子の表面粗度増加率Cを、5.0%以上、好ましくは8.0~20.0%、特に好ましくは10.0~15.0%に調節することができる装置が適宜選択される。
【0034】
表面圧縮せん断処理工程における処理方法の一例として、せん断力及び衝突力を発生させるための羽根と、衝突板と、を設けた粒子処理装置を用い、羽根を高速回転させることにより、処理対象の粒子を装置内で対流させつつ、衝突板に衝突させることで、処理対象の粒子に、処理対象の粒子の集合物に圧縮力を加えながら、処理対象の粒子の集合物にせん断力を加える方法、例えば、日本コークス工業社製の粒子設計装置(製品名:コンポジ、型式MP5、CP15、CP60、CP130、CP230等)で処理する方法が挙げられる。
また、表面圧縮せん断処理工程における処理方法の他の例として、せん断力及び衝突力を発生させるための羽根を設けた粒子処理装置を用い、羽根を高速回転させることにより、処理対象の粒子を装置内で対流させて、粒子同士を衝突させることで、処理対象の粒子の集合物に圧縮力を加えながら、処理対象の粒子の集合物にせん断力を加える方法、例えば、日本コークス工業社製のメカノハイブリッド(型式MP5、MH20、MH75、MH150、MH300等)で処理する方法が挙げられる。
また、表面圧縮せん断処理工程における処理方法の他の例として、装置内で高速気流を発生させ、高速気流で、処理対象の粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させることにより、処理対象の粒子の集合物に圧縮力を加えながら、処理対象の粒子の集合物にせん断力を加える方法、例えば、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムNSH(型式NSH-0、NSH-1、NSH-2、NSH-3、NSH-4、NSH-5等)で処理する方法が挙げられる。
また、表面圧縮せん断処理工程における処理方法の他の例として、回転容器と、容器内に回転容器の内壁とは隙間を設けて固定されているプレス部材と、を設けた粒子処理装置を用い、回転容器を回転させることにより、処理対象の粒子の集合体を、回転容器の内壁とプレス部材との間に挟み込んで、処理対象の粒子の集合物に圧縮力を加えながら、処理対象の粒子の集合物にせん断力を加える方法、例えば、ホソカワミクロン社製の循環型メカノフュージョンシステムAMSで処理する方法が挙げられる。
また、これらの処理装置での処理条件は、黒鉛粒子の処理量、使用する装置、目標とする表面粗度増加率等により、適宜選択される。
【0035】
表面圧縮せん断処理工程では、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面粗度増加率Cが、5.0%以上、好ましくは8.0~20.0%、特に好ましくは10.0~15.0%となるまで、表面圧縮せん断処理を行なう。表面粗度増加率C(%)は、下記(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度RB-表面粗度RA)/表面粗度RA)×100 (1)
で算出される値である。
【0036】
式(1)中、表面粗度RAは、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m2/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度RBは、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m2/g)に対する表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m2/g)の比(SAB/SBB)である。
【0037】
なお、本発明において、黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積(SAA、SAB)とは、全自動表面積測定装置((マイクロトラックベル社製BELSORP-miniX)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出される値を意味する。
【0038】
また、本発明において、黒鉛粒子の真球換算の比表面積(SBA、SBB)は、以下のようにして求められる。
先ず、蒸留水100質量部に対し、10質量部の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、測定対象の黒鉛粒子を超音波で分散させ、分散させた黒鉛粒子を、レーザー回折粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、LA-960)内の測定セルにフローし、光源として半導体レーザー(650nm)を照射して、散乱光をリング状検出器で検出、解析することで、黒鉛粒子の粒度分布を得る。
次いで、得られた粒度分布において、以下の計算式により、真球換算の比表面積を算出する。
第n区分目の真球相当粒子径をyn(μm)とする。ただし、ynは、「Log yn=0.0589n-8.0011(1≦n≦97、nは整数)」を満たす。
次いで、各n区分における真球粒子の存在頻度をfn、黒鉛粒子の密度をd(=2.2×10-6g/m3)とすると、粉末1g当たりの第n区分の直径ynの真球の体積の合計Tn(m3/g)は、「Tn=1×fn×(1/d)」で表される。ここで、第n区分の直径ynの球の体積Vn(m3)は、「Vn=(4π(yn/2)3)/3」であるので、粉末1g当たり第n区分の直径ynの球の個数はTn/Vnで表される。よって、粉末1g当たりの第n区分の直径ynの真球の表面積の合計Sn(m2/g)は、「Sn=4π(yn/2)2×(Tn/Vn)=6fn/(dyn)」となる。
粉末1gにおける真球換算の表面積は、Snの全ての区分(n=97)における面積の合計であるので、真球換算の比表面積(m2/g)は、「真球換算の比表面積=Σ6fn/(dyn)(n→97)」によって算出される。
【0039】
表面圧縮せん断処理工程において、黒鉛粒子に付与する圧縮力及びせん断力を一定以下にすることで、粒子の粉砕が抑制され、黒鉛粒子の表面の深い凹部の減少と、黒鉛粒子の粒子表面への微細な凹凸の形成が優先するため、表面粗度増加率Cが大きくなり易い。また、表面圧縮せん断処理工程において、黒鉛粒子に付与する圧縮力及びせん断力を一定以上にすることで、黒鉛粒子の粒子表面への微細な凹凸の形成が十分となるため、表面粗度増加率Cが大きくなり易い。そこで、表面圧縮せん断処理工程では、表面圧縮せん断処理を行なう装置及び処理条件を選択することにより、黒鉛粒子に付与する圧縮力及びせん断力を調節して、黒鉛粒子の表面粗度増加率Cを、5.0%以上、好ましくは8.0~20.0%、特に好ましくは10.0~15.0%にする。
【0040】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、圧縮せん断処理工程における表面粗度増加率Cを、5.0%以上、好ましくは8.0~20.0%、特に好ましくは10.0~15.0%とすることにより、黒鉛表面に適度な隙間を形成させることができ、Liイオンが黒鉛活物質内部にアクセスし易くできるので、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率を高くすることができ、且つ、リチウムイオン伝導性を高め、負極の抵抗を低減されることができるので、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性を高くすることができる。
【0041】
被覆工程は、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合して、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を、非晶質炭素材原料で被覆することにより、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る工程である。
【0042】
被覆工程に係る非晶質炭素材原料は、被覆工程で、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と混合されることにより、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面を被覆し、且つ、焼成工程で焼成されることにより、炭化し、非晶質の炭素材となるものであれば、特に制限されず、コールタールピッチ、フェノール樹脂、石油ピッチ、タール、重質油等が挙げられる。
【0043】
被覆工程において、非晶質炭素材原料の混合量は、「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)」の比(P/C)が0.002~0.011となる量、好ましくは0.004~0.008となる量である。「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)」の比(P/C)を、上記範囲とすることにより、表面圧縮せん断処理工程を行うことによって黒鉛粒子の表面に形成された微細な凹凸が、非晶質炭素材原料により完全に埋められることなく、凹凸が残存する程度に、黒鉛粒子の表面が非晶質炭素材原料で被覆されるので、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率を高くすることができ、且つ、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電特性を高くすることができる。一方、「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)」の比(P/C)が、上記範囲未満だと、非晶質炭素材の被覆量が不十分となるため、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率が低くなり、また、上記範囲を超えると、表面圧縮せん断処理工程を行うことによって黒鉛粒子表面に形成された微細な凹凸が、非晶質炭素材で埋められてしまうため、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性が低くなる。
【0044】
被覆工程において、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と非晶質炭素材原料を混合する方法としては、特に制限されず、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、捏合機等の加熱混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0045】
被覆工程において、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子と非晶質炭素材原料を混合するときの混合温度は、常温で固体の非晶質炭素材原料の場合は、軟化点温度以上であり、常温で液体の非晶質炭素材原料の場合は、特に限定されないが、樹脂を用いる場合は通常硬化温度以下である。混合時間は、好ましくは10~30分間である。
【0046】
そして、被覆工程を行なうことにより、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の表面が非晶質炭素材原料で被覆された、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る。
【0047】
焼成工程は、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を焼成することにより、黒鉛粒子に被覆されている非晶質炭素材原料を炭化し、非晶質炭素材に変換する工程である。
【0048】
焼成工程において、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子の焼成温度は、800~1300℃である。焼成温度が上記範囲にあることにより、非晶質炭素層の結晶性がほどよく高まり、初期効率が高く、反応抵抗が低くなる。非晶質炭素層の導電性を良くして、負極性能を良くする観点から、焼成温度は800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、1000℃以上が更に好ましい。焼成温度は反応抵抗を低くする観点から1300℃以下が好ましく、1200℃以下がより好ましく1100℃以下が更に好ましい。また、焼成工程において、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子の焼成時間は、適宜選択される。
【0049】
非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、焼成するときの雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気である。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、焼成工程を行い得られる焼成物に、必要に応じて、粉砕処理、分級処理を施してもよい。
【0051】
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより、リチウムイオン二次電池用負極材を得ることができる。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の粒子表面には、微細な凹凸が存在している。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の表面粗度RCは、好ましくは4~36、特に好ましくは20~32である。表面粗度RCは、リチウムイオン二次電池用負極材の真球換算の比表面積SBC(m2/g)に対するリチウムイオン二次電池用負極材のBET法で求められる比表面積SAC(m2/g)の比(SAC/SBC)である。リチウムイオン二次電池用負極材の表面粗度RCが上記範囲にあることにより、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率が高くなり、且つ、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性が高くなる。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材のBET法による比表面積は、好ましくは1.5~6.5m2/g、特に好ましくは2.0~5.0m2/gである。リチウムイオン二次電池用負極材のBET法による比表面積が上記範囲にあることにより、2.0以上であることでリチウムイオンの反応サイトが増え、反応抵抗が減少し、5.0以下であることで初期効率の大幅な現象が抑制されることとなる。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、好ましくは5.0~30.0μm、特に好ましくは7.0~15.0μmである。リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径が7以上であることで、重さ当たりの表面積があまり大きくならず、初期効率の低下が抑制され、15以下であることで、重さ当たりのリチウムイオン反応サイトが少なくならず、反応抵抗が小さくなることとなる。なお、本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて得られる粒度分布における体積換算の積算50%の粒子径(D50)を指す。
【0055】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の平均格子面間隔d(002)は、0.3380nm以下である。リチウムイオン二次電池用負極材の平均格子面間隔d(002)が、0.3380nm以下であることにより、黒鉛化度が十分に高くなり、高い充放電容量が得られる。リチウムイオン二次電池用負極材の平均格子面間隔d(002)は、黒鉛の理論容量に近い充放電容量となる負極材とするために、好ましくは0.3360nm以下である。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の初期放電容量は、好ましくは350mAh/g以上である。リチウムイオン二次電池用負極材の初期容量が、350mAh/g以上であることにより、電池を組んだ際に十分なエネルギー密度を確保することが可能となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の初期容量は、更に十分なエネルギー密度の確保が可能となる点で、特に好ましくは355mAh/g以上である。
【0057】
本発明において、タップ密度は、25mlメスシリンダーに測定対象粒子粉末5gを投入し、タッピング式粉体減少度測定器(筒井理化学器械社製)を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した測定対象粒子粉末の質量から、下記式(3)により算出した値を意味する。
【0058】
タップ密度(g/cm3)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm3) (3)
【実施例0059】
(実施例1)
<表面圧縮せん断処理工程>
平均粒子径(D
50)10.8μmの球形化天然黒鉛(平均格子面間隔d(002):0.3340nm、BET法による比表面積:7.04m
2/g、タップ密度0.74g/cm
3)を、表面処理装置(日本コークス工業社製、CPタンク付きマルチパーパスミキサー(コンポジMP5))に投入し、下羽根回転数10,000rpmの処理条件で20分間、黒鉛粒子の表面圧縮せん断処理を行なった。
タンク内での強力なせん断作用が長時間掛かることで表面改質効果が増加する。この表面処理で得られた黒鉛粒子の表面粗度R
B及び表面圧縮せん断処理による表面粗度増加率Cを求めた。その結果を表1に示す。また、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の表面粗度R
Aを表1に併記する。また、表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を
図1に示す。なお、
図3には、表面圧縮せん断処理前の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)に示す。
【0060】
<被覆工程>
上記で得た表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1.00kg及びコールタールピッチ(JFEケミカル株式会社製PKQL、軟化点70℃)0.098kgを、混合機(三井鉱山社製ヘンシェルミキサー)に投入し、130℃で10分間混合し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得た。このときの「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(0.098kg)」の比(P/C)は、表1に示す通りであった。
【0061】
<焼成工程>
得られた非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成した。次いで、得られた焼成粉を粉砕(装置名:スーパーローター、日清エンジニアリング社製)し、分級(装置名:篩分級、目開き45μm)し、篩下分を、リチウムイオン二次電池用負極材として製造した。
得られたリチウムイオン二次電池用負極材の分析及び性能評価を行なった。その結果を表1に示す。また、リチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を
図2に示す。
【0062】
(分析方法)
・SEM分析装置及び条件
分析装置:日本電子社製JSM7900F
加速電圧2-5kvで加速した電子線を試料に当て二次電子像を観察した。
・レーザー回折粒度分布測定装置及び分析条件
分析装置:堀場製作所社製:LA-960
光源:半導体レーザー(650nm)
蒸留水100質量部に対し、10質量%の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、粉末を超音波で分散させた。分散させた粉末を装置内の測定セルにフローし、レーザーを照射する。散乱光をリング状検出器で検出、解析することで粒度分布を得る。
・比表面積(SA)測定
分析装置:マイクロトラックベル社製:BelSоrp mini X
黒鉛粉末100mgをガラスセルに封入し、150℃6時間の真空加熱乾燥を行った後、全自動表面積測定装置(BelSоrp mini X)に取り付け、液体窒素温度(-196℃)での相対圧0.05~0.2の範囲における窒素分子の吸着量測定の値からBET多点法によりSA値を算出した。
【0063】
(評価方法)
(電極シートの作製)
黒鉛粒子球状凝集体90.2質量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で9.8質量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製する。
得られた負極合材ペーストを厚さ20μmの銅箔(集電体)上にドクターブレード法で塗布した後、常圧下90℃で90分間、更に真空下130℃で11時間加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が3.5±0.2mg/cm2である電極シートを得る。
なお、ここで目付量とは、電極シートの単位面積当たりの黒鉛粒子球状凝集体の質量を意味する。
(ラミネート電池の作製及び充放電測定)
評価用電池として、正極(Li金属)、セパレータ(ポリプロピレン)、負極(試験負極材)を順に積層し、更に、Niタブを取り付けた後、積層物をアルミラミネートして、ラミネート電池を不活性雰囲気下で組み立てた。電解液は1mol/dm3のリチウム塩LiPF6を溶解したエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)1:1混合溶液を使用した。充電は電流密度0.2mA/cm2、終止電圧5mVで定電流充電を終えた後、下限電流0.02mA/cm2となるまで定電位保持する。放電は電流密度0.2mA/cm2にて終止電圧1.5Vまで定電流放電を行い、3サイクル終了後の放電容量を可逆容量とした。初期効率は、1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除した値(%)である。5Cの充電容量は、3サイクル後の完放電の状態から、12分間で満充電させたときの充電容量である。
(ラミネート電池のIV抵抗測定)
3サイクル終了後、可逆放電容量の50%まで0.1C充電を行い(SOC50%充電)、5時間休止状態で待つ。その後0.2Cのレートで10秒間充電し、10分間休止状態で待ち、その後0.2Cのレートで10秒間放電し、0.1秒間の電流-電圧値を計測する。その後10分間休止状態で待った後、0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cの各レートで同様の充放電を行う。10秒間の充電(Li挿入)における各レートでの開始前と0.1秒間の電位変化を計測する。5点のレートにおける電位変化の値を縦軸として電流-電圧(I-V)プロットから直線式を作り、その傾きの絶対値からIV抵抗値を算出した。
【0064】
(実施例2)
表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1.0kgに混合するコールタールピッチ量を0.050kgにする以外は実施例1と同じ手順で実施した。その結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
<表面圧縮せん断処理工程>
平均粒子径(D50)10.8μmの球形化天然黒鉛(平均格子面間隔d(002):0.3340nm、BET法による比表面積:7.04m2/g、タップ密度0.74g/cm3)を、表面処理装置(奈良機械製作所社製、ハイブリダイゼーションシステムNHS-1)に投入し、ローター下羽根回転数6,000rpmの処理条件で5分間、黒鉛粒子の表面圧縮せん断処理を行なった。
【0066】
<被覆工程>
上記で得た表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1.00kg及びコールタールピッチ(JFEケミカル株式会社製PKQL、軟化点70℃)0.098kgを、混合機(三井鉱山社製ヘンシェルミキサー)に投入し、130℃で10分間混合し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得た。このときの「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(0.098kg)」の比(P/C)は、表1に示す通りであった。
【0067】
<焼成工程>
得られた非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成した。次いで、得られた焼成粉を粉砕(装置名:スーパーローター、日清エンジニアリング社製)し、分級(装置名:篩分級、目開き45μm)し、篩下分を、リチウムイオン二次電池用負極材として製造した。
得られたリチウムイオン二次電池用負極材の分析及び性能評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0068】
(実施例4)
表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を0.050kgにする以外は実施例3と同じ手順で実施した。その結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
表面圧縮せん断処理工程において球形化天然黒鉛の処理条件を下羽根回転数3,000rpmにする以外は実施例1と同じ手順で実施した。その結果を表2に示す。
【0070】
(比較例2)
表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を0.150kgにする以外は実施例1と同じ手順で実施した。その結果を表2に示す。
【0071】
(比較例3)
平均粒子径(D50)10.8μmの球形化天然黒鉛(平均格子面間隔d(002):0.3340nm、BET法による比表面積:7.04m2/g、タップ密度0.74g/cm3)を、高速混合機(三井ヘンシェルミキサーFM10C/I型)に投入し、下羽根回転数3,000rpmの処理条件で10分間、黒鉛粒子の混合攪拌を行なった。
【0072】
<被覆工程>
上記で得た表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子1.00kg及びコールタールピッチ(JFEケミカル株式会社製PKQL、軟化点70℃)0.098kgを、混合機(三井鉱山社製ヘンシェルミキサー)に投入し、130℃で10分間混合し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得た。このときの「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面圧縮せん断処理後の黒鉛粒子の混合量1.0kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(0.098kg)」の比(P/C)は、表2に示す通りであった。
【0073】
<焼成工程>
得られた非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成した。次いで、得られた焼成粉を粉砕(装置名:スーパーローター、日清エンジニアリング社製)し、分級(装置名:篩分級、目開き45μm)し、篩下分を、リチウムイオン二次電池用負極材として製造した。
得られたリチウムイオン二次電池用負極材の分析及び性能評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0074】
(比較例4)
<被覆処理>
平均粒子径(D50)10.8μmの球形化天然黒鉛(平均格子面間隔d(002):0.3340nm、BET法による比表面積:7.04m2/g、タップ密度0.74g/cm3)1.00kg及びコールタールピッチ(JFEケミカル株式会社製PKQL、軟化点70℃)0.098kgを、混合機(三井鉱山社製ヘンシェルミキサー)に投入し、130℃で10分間混合し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得た。
【0075】
<焼成工程>
得られた非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成した。次いで、得られた焼成粉を粉砕(装置名:スーパーローター、日清エンジニアリング社製)し、分級(装置名:篩分級、目開き45μm)し、篩下分を、リチウムイオン二次電池用負極材として製造した。
得られたリチウムイオン二次電池用負極材の分析及び性能評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0076】
つまり、比較例4では、球形化天然黒鉛の表面圧縮せん断処理工程を行わないで負極材を作製した。その結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
表1及び表2中、処理装置Aは、日本コークス工業社製のCPタンク付きマルチパーパスミキサー(コンポジMP5)を指し、処理装置Bは、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムNHS-1を指し、処理装置Cは、三井ヘンシェルミキサーFM10C/I型を指す。
本発明によれば、初期効率が高く且つ充放電レート特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。