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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132020
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】積層不織布および吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/153 20120101AFI20230914BHJP
   D04H 3/147 20120101ALI20230914BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20230914BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20230914BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
D04H3/153
D04H3/147
D04H3/16
B32B5/26
A61F13/511 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037105
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大隈 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
【テーマコード(参考)】
3B200
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA03
3B200BA04
3B200BB03
3B200CA02
3B200CA11
3B200DC02
4F100AK03C
4F100AK04C
4F100AK07C
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK63C
4F100BA03
4F100DC15A
4F100DC15B
4F100DG15C
4F100GB72
4F100JA06C
4F100JA13C
4F100JD15
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA27
4L047BA09
4L047BB01
4L047CA05
4L047CB07
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】
水分を速やかに吸収して拡散蒸発でき、さらに繰り返し使用でもその性能を維持できる積層不織布を提供すること。
【解決手段】
ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(A)と、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(B)とがそれぞれ1層以上積層された積層不織布であって、一方の最表面にスパンボンド不織布(A)、もう一方の最表面にスパンボンド不織布(B)が配されており、さらにスパンボンド不織布(A)面側からの吸水時間が0秒以上10秒以下であり、スパンボンド不織布(B)面側からの吸水時間が20秒以上120秒以下である、積層不織布。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(A)と、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(B)とがそれぞれ1層以上積層された積層不織布であって、一方の最表面にスパンボンド不織布(A)、もう一方の最表面にスパンボンド不織布(B)が配されており、さらにスパンボンド不織布(A)面側からの吸水時間が0秒以上10秒以下であり、スパンボンド不織布(B)面側からの吸水時間が20秒以上120秒以下である、積層不織布。
【請求項2】
スパンボンド不織布(B)を構成する繊維が、芯にポリプロピレン系樹脂、鞘にポリエチレン系樹脂を配した芯鞘構造である、請求項1に記載の積層不織布。
【請求項3】
スパンボンド不織布(B)を構成する繊維が、ポリエチレン系樹脂からなる、請求項1に記載の積層不織布。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の積層不織布を少なくとも一部に具備する吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層不織布および吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料、吸水性物品等には、低価格であることや実使用における適度な柔軟性と物理特性を得やすいことから、スパンボンド不織布が多く用いられる。
【0003】
中でも、紙おむつのトップシートや、汗をかきやすい腰周りのバンド部分、生理用ナプキンといった吸水性物品では、水分を速やかに吸収するとともに、水分を吸収した側の反対側に、速やかに水分を拡散、蒸発させる機能が要求される。
【0004】
例えば、特許文献1では、疎水性繊維を含む疎水性層と親水性繊維を含む親水性層から構成され、疎水性層を不織布表面に配置してなる積層不織布を開示しており、疎水性層と親水性層の積層で断面方向に親水性勾配をつけることで疎水性層に吸収された水分を親水性層に移行させて疎水性面で蒸発させる積層不織布を開示している。また、特許文献2では、ポリアルキレングリコールを共重合した熱可塑性の吸水性樹脂を含有している吸水性繊維から構成される吸水性不織布層と、熱可塑性樹脂からなる不織布層から形成される積層体が提案されている。さらに、特許文献3では、各不織布層を構成する繊維の平均単繊維直径の比を特定の範囲とし、各不織布層を特定の構成で積層させ、さらに各不織布層の水との接触角を特定の範囲にしてなる積層不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-213360号公報
【特許文献2】特開2006-299425号公報
【特許文献3】国際公開2021/172051号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、親水性層に用いる熱可塑繊維を親水化する方法として、親水化剤を繊維表面に塗布する方法や熱可塑性樹脂に親水化剤を練り込む方法を開示しているが、このようにして得られた親水性繊維から構成される不織布は、吸水の度に親水成分が水分によって流れ落ちるため、繰り返し使用時の吸水性は維持できない。
【0007】
また、特許文献2ではポリアルキレングリコールを共重合した熱可塑性の吸水性樹脂を含有している吸水性繊維を用いることで吸水性と保水性を有する吸水性不織布積層体が開示されているが、吸水性と保水性が高すぎるために吸収した水分が蒸発しづらく、いつまでも濡れた触感となる。
【0008】
さらに、特許文献3では、各不織布層を構成する繊維の平均単繊維直径の比を特定の範囲とすることで、毛細管現象を利用し、平均単繊維直径の大きい層から小さい層に速やかに水分を移行させ、平均単繊維直径の小さい層の表面から水分を蒸発させる積層不織布が開示されている。2つの不織布層を重ね合わせ、積層不織布を製造する方法として捕集ネット上にスパンボンド法により第1の熱可塑性繊維を捕集して得た不織布層の上に、スパンボンド法により第2の熱可塑性繊維を捕集して得た不織布層をインラインで積層する方法が挙げられているが、積層不織布の生産速度は、より小さい平均単繊維直径の熱可塑性繊維の製造工程を律速とするため、生産性を高くしにくい課題がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記の課題に鑑み、水分を速やかに吸収して拡散蒸発でき、さらに繰り返し使用でもその性能を維持できる積層不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、ポリアルキレングリコールが特定の比率で共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(A)と、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(B)とを積層することで、水分の速やかな吸収とともに、拡散、蒸発ができ、さらに繰り返し使用でもその性能を維持できる積層不織布を得られるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0012】
本発明の積層不織布は、ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(A)と、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(B)とがそれぞれ1層以上積層された積層不織布であって、一方の最表面にスパンボンド不織布(A)、もう一方の最表面にスパンボンド不織布(B)が配されており、さらにスパンボンド不織布(A)面側からの吸水時間が0秒以上10秒以下であり、スパンボンド不織布(B)面側からの吸水時間が20秒以上120秒以下である。
【0013】
本発明の積層不織布の好ましい態様によれば、スパンボンド不織布(B)を構成する繊維が、芯にポリプロピレン系樹脂、鞘にポリエチレン系樹脂を配した芯鞘構造である。
【0014】
本発明の積層不織布の別の好ましい態様によれば、スパンボンド不織布(B)を構成する繊維が、ポリエチレン系樹脂からなる。
【0015】
本発明の吸収性物品は、本発明の積層不織布を少なくとも一部に具備する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従前よりも汗等の水分を速やかに吸収し、拡散蒸発でき、さらに繰り返し使用でもその性能を維持できる積層不織布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の積層不織布は、ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(A)と、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(B)とがそれぞれ1層以上積層された積層不織布であって、一方の最表面にスパンボンド不織布(A)、もう一方の最表面にスパンボンド不織布(B)が配されており、さらにスパンボンド不織布(A)面側からの吸水時間が0秒以上10秒以下であり、スパンボンド不織布(B)面側からの吸水時間が20秒以上120秒以下である。なお、本発明において、スパンボンド不織布(A)面側とは、最表面にスパンボンド不織布(A)が配されている側を指す。また、スパンボンド不織布(B)面側とは、最表面にスパンボンド不織布(B)が配されている側を指す。
【0018】
以下に、これら本発明の構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0019】
[ポリエステル系樹脂]
本発明の積層不織布において、スパンボンド不織布(A)は、ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されてなる。
【0020】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などが挙げられる。中でも、高い紡糸速度で延伸することができるため、配向結晶化が進みやすく機械強度を併せ持つ繊維としやすいことから、ポリエチレンテレフタラートが好ましい。
【0021】
本発明の積層不織布において、ポリエステル系樹脂は、ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下で共重合されてなる。ポリアルキレングリコールの共重合の割合は4質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。このようにすることで良好な親水性を発現でき、水分の吸収速度が速くなる。一方、ポリアルキレングリコールの共重合の割合は30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。このようにすることで、ポリエステル系樹脂の紡糸性を確保できるとともに、適度に親水性を有することで、水分の拡散や蒸発性能が良好となり、さらには、得られるスパンボンド不織布(A)の物理強度を強くでき、実用に耐える耐摩耗性を発現できる。
【0022】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。中でも、特に優れた親水性、柔軟性と触感を有する点で、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0023】
本発明の積層不織布において、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、4000以上30000以下であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量を4000以上、より好ましくは5000以上とすることでポリエステル系樹脂にさらに優れた親水性を付与することができ、より良好な吸水性能とともに水分の拡散、蒸発をしやすくなり、ドライな触感の不織布が得られやすくなる。また、ポリアルキレングリコールの数平均分子量を30000以下、より好ましくは25000以下とすることで、ポリエステル系樹脂としたときに優れた製糸性を発現しやすくでき、紡糸欠点の少ないスパンボンド不織布が得られやすくなる。
【0024】
本発明におけるポリエステル系樹脂に共重合しているポリアルキレングリコールの数平均分子量および共重合量は、以下の方法で測定、算出される値を指す。
(1)試料としてポリアルキレングリコールを共重合したポリエステル系樹脂0.05gを採取し、アンモニア水1mLを加え、加圧下で120℃で5時間加熱し、試料を溶解する。
(2)放冷後、精製水6mL、6mol/L塩酸1.5mLを加え、遠心分離後、孔径が0.45μmのフィルターにて濾過する。
(3)GPCにて濾液の分子量分布を測定し、既知の分子量の標準試料を用いて作成した分子量の検量線を用いてポリアルキレングリコールの数平均分子量を算出する。
(4)ポリエチレングリコール水溶液にて作成した溶液濃度の検量線を用いてポリアルキレングリコールを定量し、ポリアルキレングリコールの共重合量を算出する。
【0025】
ポリエステル系樹脂は、滑り性や柔軟性を向上させる観点から、さらに炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物を含有しても良い。脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは23以上とし、より好ましくは30以上とすることにより、脂肪酸アミド化合物が過度に繊維表面に露出することを抑制し、紡糸性と加工安定性に優れたものとし、高い生産性を保持することができる。一方、脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは50以下とし、より好ましくは42以下とすることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面に移動しやすくなり、得られるスパンボンド不織布(A)に滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0026】
炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物としては、例えば、飽和脂肪酸モノアミド化合物、飽和脂肪酸ジアミド化合物、不飽和脂肪酸モノアミド化合物、不飽和脂肪酸ジアミド化合物などが挙げられる。
【0027】
具体的には、炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物として、テトラドコサン酸アミド、ヘキサドコサン酸アミド、オクタドコサン酸アミド、ネルボン酸アミド、テトラコサペンタエン酸アミド、ニシン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、およびヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられ、これらは複数組み合わせて用いることもできる。中でも、熱安定性に優れているため溶融紡糸が可能であり、高い紡糸安定性を保持しながら、滑り性や柔軟性に優れたスパンボンド不織布(A)を得ることができるため、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0028】
本発明において、ポリエステル系樹脂に含まれる炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物の量(以降、単に、脂肪酸アミド化合物の含有量と記載することがある)は、ポリエステル系樹脂100質量%中に0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。脂肪酸アミド化合物の含有量を0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上とすることで、適度な滑り性と柔軟性を付与することができる。一方、脂肪酸アミド化合物の含有量を5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下とすることで、紡糸性の低下を抑制することができる。
【0029】
ここでいう脂肪酸アミド化合物の含有量とは、ポリエステル系樹脂からなる繊維全体の質量に対する脂肪酸アミド化合物の質量の割合(%)をいう。つまり、例えば、前記の繊維が芯鞘型複合繊維であったとして、この芯鞘型複合繊維の鞘部の成分のみに脂肪酸アミド化合物を含む場合であっても、芯鞘型複合繊維の全体の質量に対する脂肪酸アミド化合物の質量の割合を算出することとする。
【0030】
この脂肪酸アミド化合物の含有量を測定する方法としては、例えば、繊維から脂肪酸アミド化合物を溶媒抽出し、液体クロマトグラフ質量分析(LS/MS)などを用いて定量分析する方法が挙げられる。このとき抽出溶媒は脂肪酸アミド化合物の種類に応じて適宜選択される。例えば、脂肪酸アミド化合物がエチレンビスステアリン酸アミドの場合には、抽出溶媒としてクロロホルム-メタノール混液を用いる方法が一例として挙げられる。
【0031】
また、本発明で用いられるポリエステル系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、帯電助剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、結晶核剤、および顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0032】
[ポリエステル系樹脂からなる繊維]
本発明において、スパンボンド不織布(A)を構成するポリエステル系樹脂からなる繊維は、平均単繊維直径が8μm以上20μm以下であることが好ましい。平均単繊維直径を好ましくは8μm以上とし、より好ましくは9μm以上とし、さらに好ましくは10μm以上とすることにより、紡糸性の低下を防ぎ、生産安定性に優れたスパンボンド不織布(A)とすることができる。一方、平均単繊維直径を好ましくは20μm以下とし、より好ましくは18μm以下とし、さらに好ましくは16μm以下とすることにより、柔軟性および肌触りに優れ、地合が均一であり、かつ実用に供しうる十分な強度を有するスパンボンド不織布(A)とすることができる。
【0033】
本発明におけるスパンボンド不織布(A)を構成するポリエステル系樹脂からなる繊維の平均単繊維直径(μm)は、後述の方法により測定する。
【0034】
本発明において、スパンボンド不織布(A)を構成するポリエステル系樹脂からなる繊維は、単成分繊維はもとより、2種類以上の樹脂を複合した複合繊維であってもよい。複合繊維の場合、その形状は本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではなく、芯鞘型や海島型、サイドバイサイド型、偏心芯鞘型、ブレンド型などから適宜選択することができる。
【0035】
[ポリオレフィン系樹脂]
本発明の積層不織布を構成するスパンボンド不織布(B)は、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されてなる。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン等、およびこれらを2種以上ブレンドしたポリマーを挙げることができる。
【0037】
ポリプロピレンは、一般的なチーグラーナッタ触媒により合成されるものでもよいし、メタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されたものであってもよい。ポリエチレンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を挙げることができる。中でも、紡糸性が優れていることから、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。更には、ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンとポリエチレンとの共重合体やポリプロピレン中にポリエチレンやその他の添加剤を添加したポリマーであってもよい。
【0038】
ポリオレフィン系樹脂は、滑り性や柔軟性を向上させる観点から、さらに炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物を含有しても良い。脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは23以上とし、より好ましくは30以上とすることにより、脂肪酸アミド化合物が過度に繊維表面に露出することを抑制し、紡糸性と加工安定性に優れたものとし、高い生産性を保持することができる。一方、脂肪酸アミド化合物の炭素数を好ましくは50以下とし、より好ましくは42以下とすることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面に移動しやすくなり、スパンボンド不織布(B)に滑り性と柔軟性を付与することができる。
【0039】
炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物としては、例えば、飽和脂肪酸モノアミド化合物、飽和脂肪酸ジアミド化合物、不飽和脂肪酸モノアミド化合物、および不飽和脂肪酸ジアミド化合物などが挙げられる。
【0040】
具体的には、炭素数23以上50以下の脂肪酸アミド化合物として、テトラドコサン酸アミド、ヘキサドコサン酸アミド、オクタドコサン酸アミド、ネルボン酸アミド、テトラコサペンタエン酸アミド、ニシン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、およびヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられ、これらは複数組み合わせて用いることもできる。中でも、熱安定性に優れているため溶融紡糸が可能であり、高い紡糸安定性を保持しながら、滑り性や柔軟性に優れたスパンボンド不織布(B)を得ることができるため、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0041】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂に含まれる脂肪酸アミド化合物の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量%中に0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。脂肪酸アミド化合物の含有量を0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上とすることで、適度な滑り性と柔軟性を付与することができる。一方、脂肪酸アミド化合物の含有量を5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下とすることで、紡糸性の低下を抑制することができる。
【0042】
ここでいう脂肪酸アミド化合物の含有量とは、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維全体の質量中に含まれる脂肪酸アミド化合物の質量の割合(%)をいう。つまり、例えば、前記の繊維が芯鞘型複合繊維であったとして、この芯鞘型複合繊維の鞘部の成分のみに脂肪酸アミド化合物を含む場合であっても、芯鞘型複合繊維の全体の質量中に含まれる脂肪酸アミド化合物の質量の割合を算出することとする。
【0043】
この脂肪酸アミド化合物の含有量を測定する方法としては、例えば、繊維から添加剤を溶媒抽出し、液体クロマトグラフ質量分析(LS/MS)などを用いて定量分析する方法が挙げられる。このとき抽出溶媒は脂肪酸アミド化合物の種類に応じて適宜選択されるものであるが、例えばエチレンビスステアリン酸アミドの場合には、クロロホルム-メタノール混液などを用いる方法が一例として挙げられる。
【0044】
また、ポリオレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、帯電助剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、結晶核剤、および顔料等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0045】
[ポリオレフィン系樹脂からなる繊維]
本発明において、スパンボンド不織布(B)を構成するポリオレフィン系樹脂からなる繊維は、平均単繊維直径が8μm以上20μm以下であることが好ましい。平均単繊維直径を好ましくは8μm以上とし、より好ましくは9μm以上とし、さらに好ましくは10μm以上とすることにより、紡糸性の低下を防ぎ、生産安定性に優れたスパンボンド不織布とすることができる。一方、平均単繊維直径を好ましくは20μm以下とし、より好ましくは18μm以下とし、さらに好ましくは16μm以下とすることにより、柔軟性および肌触りに優れ、地合が均一であり、かつ実用に供しうる十分な強度を有するスパンボンド不織布(B)とすることができる。
【0046】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂からなる繊維の平均単繊維直径(μm)は、後述の方法により測定する。
【0047】
本発明において、スパンボンド不織布(B)を構成するポリオレフィン系樹脂からなる繊維は、単成分繊維はもとより、2種類以上の樹脂を複合した複合繊維であってもよい。複合繊維の場合、その形状は本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではなく、芯鞘型や海島型、サイドバイサイド型、偏心芯鞘型、ブレンド型などから適宜選択することができる。特に、優れた触感を発現する点で、スパンボンド不織布(B)を構成する繊維が、芯にポリプロピレン系樹脂、鞘にポリエチレン系樹脂を配した芯鞘構造であることが好ましい。また、より柔軟性を発現する点で、スパンボンド不織布(B)を構成する繊維が、ポリエチレン系樹脂からなることがより好ましい。
【0048】
[積層不織布]
本発明の積層不織布は、上述のとおり、ポリアルキレングリコールが2質量%以上40質量%以下共重合されているポリエステル系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(A)と、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布(B)とがそれぞれ1層以上積層された積層不織布であって、一方の最表面にスパンボンド不織布(A)、もう一方の最表面にスパンボンド不織布(B)が配されており、さらにスパンボンド不織布(A)面側からの吸水時間が0秒以上10秒以下であり、スパンボンド不織布(B)面側からの吸水時間が20秒以上120秒以下である。
【0049】
このように、吸水時間が異なるスパンボンド不織布を積層することで、スパンボンド不織布(A)とスパンボンド不織布(B)間の親水性の差を駆動力として、スパンボンド不織布(B)側で吸収された水分は速やかに、親水性の高いスパンボンド不織布(A)側に移行し、積層不織布のスパンボンド不織布(B)面ではドライな触感を得ることができる。
【0050】
本発明の積層不織布におけるスパンボンド不織布(A)面からの吸水時間が10秒以下、好ましくは5秒以下、さらに好ましくは3秒以下であることにより、スパンボンド不織布(B)側で吸収された水分をより早くスパンボンド不織布(A)側に移行することができ、スパンボンド不織布(B)側をドライな触感とすることができる。スパンボンド不織布(A)面からの吸水時間を上記範囲とする方法としては、例えば、スパンボンド不織布(A)を構成するポリエステル系樹脂からなる繊維のポリアルキレングリコール共重合率を制御してスパンボンド不織布(A)の親水性を調整する方法や、スパンボンド不織布(A)を構成するポリエステル系樹脂からなる繊維の平均単繊維直径を調整する方法、スパンボンド不織布(A)の厚みを調整する方法などが挙げられる。
【0051】
また、積層不織布のスパンボンド不織布(B)面からの吸水時間が20秒以上、好ましくは30秒以上、さらに好ましくは40秒以上であることにより、スパンボンド不織布(A)とスパンボンド不織布(B)の親水性の差を広げ、水分吸水後に優れたドライ感のある触感を発現できる。一方、吸水時間が120秒以下、好ましくは100秒以下、さらに好ましくは80秒以下であることにより、速やかに水分を吸水してドライ感のある触感とすることができる。スパンボンド不織布(B)面からの吸水時間を上記範囲とする方法としては、例えば、スパンボンド不織布(A)を構成する繊維のポリアルキレングリコール共重合率を制御して、スパンボンド不織布(A)とスパンボンド(B)間の親水性勾配の大きさを調整する方法や、スパンボンド不織布(B)を構成するポリオレフィン系樹脂からなる繊維の平均単繊維直径を調整する方法、スパンボンド不織布(B)の厚みを調整する方法などが挙げられる。
【0052】
本発明の積層不織布は、スパンボンド不織布(A)とスパンボンド不織布(B)がそれぞれ1層ずつ積層された構造であってもよいし、スパンボンド不織布(A)とスパンボンド不織布(B)の少なくとも一方が2層以上積層された構造であってもよい。本発明の積層不織布は、断面方向にスパンボンド不織布(A)層とスパンボンド不織布(B)層が交互に積層されず、スパンボンド不織布(A)層が1層以上積層されたドメインとスパンボンド不織布(B)層が1層以上積層されたドメインとの2つのドメインからなることが好ましい。なお、具体的な積層構成としては、例えば、A/B、A/A/B、A/B/B、A/A/A/B、A/A/B/B、A/B/B/Bなどが挙げられる。
【0053】
このようにすることで、積層不織布の断面方向に1次的な親水性勾配が生じ、スパンボンド不織布(B)面にて吸収した水分が不織布内で留まることなくスパンボンド不織布(A)面に速やかに移行して蒸発するため、積層不織布全体としての優れた吸水速乾性を得ることができる。例えば、複数のスパンボンド不織布(B)層でスパンボンド不織布(A)層を挟んだサンドイッチ型の構成である場合、スパンボンド不織布(B)側で吸収された水分はスパンボンド不織布(A)層へ速やかに移行されるが、スパンボンド不織布(A)と比して親水性の低いスパンボンド不織布(B)層に挟まれていることから、吸収された水分はスパンボンド不織布(A)層に保水され、蒸発が妨げられるために積層不織布としての速乾性が低下しやすくなる。
【0054】
本発明において使用する吸水時間にはJIS L1907:2010「繊維製品の吸水性試験方法」の「7.1.1 滴下法」に示された方法で測定した値を用いる。吸水時間の測定方法は、後述のとおりである。
【0055】
本発明における積層不織布の目付は、10g/m以上100g/m以下とすることが好ましい。より好ましくは10g/m以上、さらに好ましくは15g/m以上とすることで、より優れた機械的強度を有する積層不織布を得ることができる。また、好ましくは100g/m以下、さらに好ましくは60g/m以下とすることで衛生材料向け不織布としての使用に、より適した柔軟性を有する積層不織布とすることができる。
【0056】
本発明の積層不織布において、積層不織布の厚み100%中のスパンボンド不織布(B)の厚みの割合は好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下である。スパンボンド不織布(B)の厚みの割合が上記範囲であることにより、スパンボンド不織布(B)面からスパンボンド不織布(A)面への水分の移行が速やかに行われる。また、積層不織布の厚み100%中のスパンボンド不織布(B)の厚みの割合は好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。スパンボンド不織布(B)の割合が上記範囲であることにより、例えば衛生材料としてスパンボンド不織布(B)面を肌に直接接する側にした際に、柔らかな触感が得られやすくなる。なお、積層不織布が2層以上のスパンボンド不織布(B)を含む場合、上述のスパンボンド不織布(B)の厚みは、2層以上のスパンボンド不織布(B)の合計の厚みである。
【0057】
積層不織布を構成する各スパンボンド不織布層の厚みの測定はナイフ、カッター、剃刀等を用いて切断面が潰れないように厚み方向にカットして、カット断面をマイクロスコープで観察し、各スパンボンド不織布層の最も厚い部分の厚みを測定する。厚み測定は、異なる10点を測定し、それらの平均値を算出して各スパンボンド不織布層の厚みとする。
【0058】
本発明の積層不織布において、積層不織布を構成するポリエステル系樹脂からなる繊維の平均単繊維直径(Da)とポリオレフィン系樹脂からなる繊維の平均単繊維直径(Db)の比(Db/Da)は特に限定はしないが、より水分の吸収を速やかにおこなう観点で、Db/Daの値は1以上であることが好ましく、より好ましくは1.1以上であり、さらに好ましくは1.3以上である。そうすることで、毛細管現象により、スパンボンド不織布(B)面からスパンボンド不織布(A)面への水分の移行がより速やかに行われる。
【0059】
[積層不織布の製造方法]
次に、本発明の積層不織布を製造する好ましい態様を、具体的に説明する。
【0060】
本発明の積層不織布を構成するスパンボンド不織布(A)およびスパンボンド不織布(B)の製造方法は、生産性の観点でスパンボンド法が好ましい。
【0061】
以下、スパンボンド法に基づいて本発明の積層不織布を製造する好ましい様態を説明するが、これに限定されるものではない。
【0062】
スパンボンド法とは、原料である熱可塑性樹脂を溶融し、紡糸口金から紡糸した後、冷却固化して得られた糸条に対し、エジェクターで牽引し延伸して、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブ化した後、熱接着する工程を要する不織布の製造方法である。
【0063】
スパンボンド法において、用いられる紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。中でも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくいという観点から、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせを用いることが好ましい。
【0064】
本発明の積層不織布を製造する場合、紡糸温度は、(原料である熱可塑性樹脂の融解温度+10℃)以上(原料である熱可塑性樹脂の融解温度+100℃)以下とすることが好ましい。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0065】
紡出された糸条は、次に冷却される。紡出された糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法、および紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法等が挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせる方法を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度および雰囲気温度等を考慮して適宜調整することができる。
【0066】
次に、冷却固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
【0067】
繊維の平均単繊維直径は、紡糸口金の吐出孔当たりの吐出量と牽引速度、すなわち紡糸速度によって決定される。このため、所望の平均単繊維直径に応じて、吐出量と紡糸速度を決定することが好ましい。
【0068】
紡糸速度においては、ポリオレフィン系樹脂の紡糸速度は2000m/分以上であることが好ましく、より好ましくは3000m/分以上である。紡糸速度を2000m/分以上とすることにより、高い生産性を有することになり、また繊維の配向結晶化が進み高い強度の長繊維を得ることができる。また、ポリエステル系樹脂の紡糸速度は2000m/分以上であることが好ましく、より好ましくは3000m/分以上であり、さらに好ましくは4000m/分以上である。紡糸速度を2000m/分以上とすることにより、高い生産性を有することになり、また繊維の配向結晶化が進み高い強度の長繊維を得ることができる。
【0069】
このように牽引により延伸された長繊維糸条は、移動するネットに捕集されることでシート化された後に、熱接着する工程に供される。
【0070】
本発明の積層不織布は、スパンボンド不織布(A)とスパンボンド不織布(B)をそれぞれ少なくとも1層以上積層することにより得られる積層不織布である。2つの不織布層を積層する方法としては、例えば、捕集ネット上にスパンボンド法によりポリエステル系樹脂からなる繊維を捕集して得た不織繊維ウェブの上に、スパンボンド法によりポリオレフィン系樹脂からなる繊維を捕集して得た不織繊維ウェブをインラインで連続的に捕集し、積層一体化する方法、別々に得たスパンボンド不織布(A)およびスパンボンド不織布(B)をオフラインで重ね合わせ、熱接着などにより積層一体化する方法などを採用することができる。中でも生産性に優れているということから、ポリエステル系樹脂からなる繊維から得られる不織繊維ウェブとポリオレフィン系樹脂からなる繊維から得られる不織繊維ウェブをインラインで連続的に捕集し、熱接着により積層一体化する方法が好ましい。その際、ポリエステル系樹脂からなる繊維から得られる不織繊維ウェブとポリオレフィン系樹脂からなる繊維から得られる不織繊維ウェブの積層する順は、いずれか一方の上にもう一方を積層するものであれば、限定はされない。
【0071】
本発明の積層不織布を熱接着により積層一体化する方法としては、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど、各種ロールにより熱接着する方法や、ホーンの超音波振動により熱溶着させる超音波接着などの熱接着による方法を採用することができる。
【0072】
熱接着により本発明の積層不織布を製造した場合には、複数のスパンボンド不織布層が十分に接着されることで、積層不織布の機械強度が増すため、好ましい。
【0073】
本発明の積層不織布を熱接着により積層一体化する方法として、熱風を吹き付ける手法である、いわゆるエアスルー法であってもよい。エアスルー法で本発明の積層不織布を製造した場合には、嵩高く、風合いに優れるため、好ましい。
【0074】
[吸収性物品]
本発明の吸収性物品は、本発明の積層不織布を少なくとも一部に具備する。このようにすることで、水分が発生する側では速やかに水分を吸水し、積層不織布内を拡散して反対面から蒸発する速乾性に優れた衛生材料となる。なお、衛生材料は、例えば、医療・介護など健康に関わる目的で使用される、主に使い捨ての物品である。衛生材料の具体例としては、紙おむつ、生理用ナプキン、ガーゼ、包帯、マスク、手袋、絆創膏等が挙げられ、その構成部材、例えば、紙おむつのトップシート、バックシート、サイドギャザー、ウエストバンド等も含まれる。
【0075】
中でも、積層不織布のスパンボンド不織布(B)面側の最表面が、着用者の肌側に向けて配されてなる衛生材料の場合は、肌面側に付着した水分を積層不織布の内部へ直ちに吸収することができ、着用者に不快感を低減できるため、より好ましい。
【0076】
例えば、衛生材料が紙おむつであって、積層不織布が紙おむつのトップシートに用いられる場合において、スパンボンド不織布(B)面側の最表面が、着用者の肌側に向けて配されてなるときには、着用時に生じる汗や排泄された尿を素早く吸収し、スパンボンド不織布(A)に迅速に拡散されることとなり、表面を過度な湿り気がなくサラサラしたドライな状態に保つことができる。
【0077】
衛生材料がマスクであって、積層不織布がマスクの内面層に用いられる場合において、スパンボンド不織布(B)面側の最表面が、着用者の肌側に向けて配されてなるときには、汗や呼気が結露し、肌面側に水分が付着しても、積層不織布内部にすぐに吸収され、肌面を過度な湿り気がなくサラサラしたドライな状態に保つことができる。
【実施例0078】
次に、実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0079】
(1)吸水時間(秒)
吸水時間はJIS L1907:2010「繊維製品の吸水性試験方法」の「7.1.1 滴下法」に示された方法で測定した。積層不織布に水滴を1滴滴下し、吸収されて表面の鏡面反射が消失するまでの時間を測定し、これを異なる5箇所で測定した値の単純平均を算出し、単位を秒として、吸水速度とした。そして、この評価をA層側、B層側の2面で行った。
【0080】
(2)積層不織布のB層側触感評価
積層不織布のB層側において、前記吸水時間を測定後の不織布表面の濡れ感を触感で次の通り評価した。また、吸水時間測定の操作を3回繰り返した後も同様に濡れ感を触感で評価した。
5級:乾いたドライな触感
4級:3級と5級の間
3級:表面に水分はないが、触れると濡れた触感
2級:1級と3級の間
1級:表面に水分があり、触れると濡れた触感。
【0081】
(3)目付(g/m
JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の6.2「単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0082】
(4)平均単繊維直径(μm)
不織布から、ランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製「VHX-D500」)で500~1000倍の表面写真を撮影して、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定し、その平均値を算出して平均単繊維直径(μm)とした。
【0083】
(5)樹脂のメルトフローレート(MFR)(g/10分)
ポリオレフィン系樹脂のMFRは、ASTM D1238(A法)によって測定される値を採用した。なお、この規格によれば、例えば、ポリプロピレンは荷重:2.16kg、温度:230℃にて、ポリエチレンは荷重:2.16kg、温度:190℃にて測定することが規定されている。
【0084】
[実施例1]
(スパンボンド不織布(A))
ポリエチレンテレフタラート(PET)に数平均分子量が5500のポリエチレングリコール(PEG)を10質量%共重合したPEG共重合PETを押出機で溶融し、紡糸温度が290℃で、孔径が0.3mmφの丸孔を有した矩形口金から、単孔吐出量1.00g/分で紡出した糸条を、冷風にて冷却固化した後、矩形エジェクターにおいて圧縮エアによって、牽引・延伸し、移動するネット上に捕集してスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(A)を構成する繊維の平均単繊維直径は14.0μm、目付17g/mであった。
【0085】
(スパンボンド不織布(B))
メルトフローレート(MFR)が30g/10分、融点が131.0℃、固体密度0.955g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のホモポリマーからなるポリエチレン系樹脂を鞘成分とし、MFRが60g/10分、融点が131.0℃、固体密度0.940g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のホモポリマーからなるポリエチレン系樹脂を芯成分として使用し、それぞれ押出機で溶融し、孔径φが0.30mmで、孔深度が8mmの紡糸口金から、紡糸温度が220℃、単孔吐出量が0.20g/分で、鞘成分比率が40質量%の同心芯鞘複合繊維を紡出した。紡出した糸条を冷風にて冷却固化した後、矩形エジェクターにおいて圧縮エアによって、牽引・延伸し、移動するネット上に捕集してスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(B)を構成する繊維の平均単繊維直径は15.1μm、目付3g/mであった。
【0086】
(積層不織布)
得られたスパンボンド不織布(A)の上に直接スパンボンド不織布(B)を捕集することにより、スパンボンド不織布(A)層とスパンボンド不織布(B)層の2層構造(表1で積層構成について「A/B」と表記した)の積層繊維ウェブを得た。
【0087】
このようにして得られた積層繊維ウェブを、以下の上ロール、下ロールから構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、線圧:300N/cm、熱接着温度:130℃の条件で熱接着し、目付20g/mの積層不織布を得た。
(上ロール):金属製で水玉柄の彫刻がなされた、接着面積率16%のエンボスロール
(下ロール):金属製フラットロール
【0088】
得られた積層不織布について、スパンボンド不織布(A)側からの吸水速度、スパンボンド不織布(B)側からの吸水速度を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例2]
(スパンボンド不織布(A))
単孔吐出量を0.60g/分に変更した以外は実施例1と同様の方法によりスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(A)を構成する繊維の平均単繊維直径は12.0μm、目付10g/mであった。
【0090】
(スパンボンド不織布(B))
単孔吐出量を0.50g/分に変更した以外は実施例1と同様の方法によりスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(B)を構成する繊維の平均単繊維直径は16.0μm、目付10g/mであった。
【0091】
(積層不織布)
実施例1と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0092】
[実施例3]
(スパンボンド不織布(A))
スパンボンド不織布(A)の製法において、PEGの共重合量を2質量%に変更した以外は実施例2と同様の方法でスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(A)を構成する繊維の平均単繊維直径は11.0μm、目付10g/mであった。
【0093】
(スパンボンド不織布(B))
実施例2と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0094】
(積層不織布)
実施例1と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例4]
(スパンボンド不織布(A))
スパンボンド不織布(A)の製法において、PEGの共重合量を40質量%に変更した以外は実施例2と同様の方法でスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(A)を構成する繊維の平均単繊維直径は13.3μm、目付10g/mであった。
【0096】
(スパンボンド不織布(B))
実施例2と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0097】
(積層不織布)
実施例1と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0098】
[実施例5]
(スパンボンド不織布(A))
実施例2と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0099】
(スパンボンド不織布(B))
芯成分をMFRが150g/10分のポリプロピレン(PP)系樹脂に、紡糸温度を235℃に変更した以外は実施例2と同様の方法によりスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(B)を構成する繊維の平均単繊維直径は15.8μm、目付10g/mであった。
【0100】
(積層不織布)
実施例1と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0101】
[実施例6]
(スパンボンド不織布(A))
実施例2と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0102】
(スパンボンド不織布(B))
MFRが70g/10分のPP系樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度が235℃で、孔径が0.3mmφの丸孔を有した矩形口金から、単孔吐出量0.50g/分で紡出した糸条を、冷風にて冷却固化した後、矩形エジェクターにおいて圧縮エアによって、牽引・延伸し、移動するネット上に捕集してスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(B)を構成する繊維の平均単繊維直径は15.2μm、目付10g/mであった。
【0103】
(積層不織布)
熱接着温度を140℃に変更した以外は実施例1と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0104】
[比較例1]
(スパンボンド不織布(A))
スパンボンド不織布(A)の製法において、PEGを共重合しない以外は実施例2と同様の方法でスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(A)を構成する繊維の平均単繊維直径は10.5μm、目付10g/mであった。
【0105】
(スパンボンド不織布(B))
実施例6と同じ方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0106】
(積層不織布)
前記スパンボンド不織布(A)のスパンボンド不織繊維ウェブと、前記スパンボンド不織布(B)のスパンボンド不織繊維ウェブを積層して実施例1と同様に熱接着し、積層不織布を得た。
【0107】
その後、キスロールを用いてスパンボンド不織布(A)面に親水化剤として非イオン系界面活性剤を塗布し、比較例となる積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0108】
[比較例2]
(スパンボンド不織布(A))
スパンボンド不織布(A)の製法において、PEGの共重合量を45質量%に変更した以外は実施例2と同様の方法でスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(A)を構成する繊維の平均単繊維直径は13.8μm、目付10g/mであった。
【0109】
(スパンボンド不織布(B))
実施例6と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0110】
(積層不織布)
実施例1と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0111】
[比較例3]
(スパンボンド不織布(A))
実施例2と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た。
【0112】
(スパンボンド不織布(B))
ポリエチレンテレフタラート(PET)に数平均分子量が5500のポリエチレングリコール(PEG)を10質量%共重合したPEG共重合PETを押出機で溶融し、紡糸温度が290℃で、孔径が0.3mmφの丸孔を有した矩形口金から、単孔吐出量0.50g/分で紡出した糸条を、冷風にて冷却固化した後、矩形エジェクターにおいて圧縮エアによって、牽引・延伸し、移動するネット上に捕集してスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(B)を構成する繊維の平均単繊維直径は25.0μm、目付10g/mであった。
【0113】
(積層不織布)
実施例2と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0114】
[比較例4]
(スパンボンド不織布(A))
MFR150のPP系樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度が235℃で、孔径が0.3mmφの丸孔を有した矩形口金から、単孔吐出量0.50g/分で紡出した糸条を、冷風にて冷却固化した後、矩形エジェクターにおいて圧縮エアによって、牽引・延伸し、移動するネット上に捕集してスパンボンド不織繊維ウェブを得た。得られたスパンボンド不織布(B)を構成する繊維の平均単繊維直径は15.8μm、目付10g/mであった。
【0115】
(スパンボンド不織布(B))
実施例5と同様の方法により、スパンボンド不織繊維ウェブを得た
(積層不織布)
実施例2と同様の方法により、積層不織布を得た。得られた積層不織布の評価結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
実施例1~6の吸水時間は、スパンボンド不織布(A)面に対してスパンボンド不織布(B)面は吸水時間が長く、親水性が低かったことから、スパンボンド不織布(B)面に水を滴下すると、スパンボンド不織布(B)面から吸収された水分はスパンボンド(A)側に移行し、滴下した水がスパンボンド不織布(B)面に吸収された1分後にスパンボンド不織布(B)面を触ると、水気を感じず、さらさらとしたドライな触感であった。同様の操作を3回繰り返し行っても、スパンボンド不織布(B)面のさらさらとしたドライな触感は継続した。
【0118】
一方、比較例1では、積層不織布の断面方向における親水性勾配は、親水化剤が塗布されたスパンボンド不織布(A)層表面の近傍で発現しているために、水の吸収、拡散が遅く、スパンボンド不織布(B)面を触ると、わずかに水気を感じ、わずかに濡れた触感であった。同様の操作を3回繰り返し行ったところ、親水剤は流れ落ち、濡れた触感となった。
【0119】
比較例2、3では、スパンボンド不織布(A)面とスパンボンド不織布(B)面の吸水時間はともに短く、親水性に大きな差がないことから、スパンボンド不織布(B)面に水を滴下すると、スパンボンド不織布(B)面から吸収された水分はスパンボンド(A)側に移行しにくく、スパンボンド不織布(B)面を触ると、水気を感じる濡れた触感となった。同様の操作を3回繰り返し行っても同様に濡れた触感であった。
【0120】
比較例4では、吸水時間について、スパンボンド不織布(A)面とスパンボンド不織布(B)面の吸水時間はともに長く、水を滴下しても吸収、拡散が遅く、滴下後のスパンボンド不織布(B)面を触ると、水気を感じる濡れた触感となった。同様の操作を3回繰り返し行っても同様に濡れた触感であった。
【0121】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の積層不織布は、従前よりも汗等の水分を速やかに吸収し、拡散蒸発でき、さらに繰り返し使用でもその性能を維持できるため、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料、吸水性物品等に好適に用いることができる。