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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132028
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】熱間加工用金型の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20230914BHJP
   B21D 37/00 20060101ALI20230914BHJP
   B30B 11/00 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
H01F41/02 G
B21D37/00 A
B30B11/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037118
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】大澤 明弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062CE07
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】熱間加工後の金型内部の洗浄を効率良く行う。
【解決手段】熱間加工用金型の洗浄方法は、磁性材料からなる成形体に係る熱間加工後の押出し金型内に除去剤を投入することと、除去剤が内部に投入された状態の押出し金型を、成形体の塑性加工可能温度以上である加熱温度に加熱しながら、パンチにより除去剤を押し込むことで、磁性材料を除去することと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料からなる成形体に係る熱間加工後の押出し金型内に除去剤を投入することと、
前記除去剤が内部に投入された状態の前記押出し金型を、前記成形体の塑性加工可能温度以上である加熱温度に加熱しながら、パンチにより前記除去剤を押し込むことで、前記磁性材料を除去することと、
を含む、熱間加工用金型の洗浄方法。
【請求項2】
前記成形体は、R-T-B系永久磁石を製造するための成形体である、請求項1に記載の熱間加工用金型の洗浄方法。
【請求項3】
前記除去剤は、前記塑性加工可能温度で焼結しない材料からなる、請求項1または2に記載の熱間加工用金型の洗浄方法。
【請求項4】
前記押出し金型に投入される前記除去剤の重量は、前記除去剤の真密度に対して、前記押出し金型の容積と前記パンチのうち前記熱間加工時に前記押出し金型に挿入される部分の体積との差分を乗じて得られる重量以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間加工用金型の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱間加工用金型の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気特性に優れたR-T-B系永久磁石として、熱間塑性加工法により製造される熱間加工磁石が知られている。熱間加工磁石の製造方法としては、高温の金型内で成形体の押出しを行いながら塑性加工を行う前方押出法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-92167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前方押出法によって熱間加工磁石を製造すると、加工後に金型の内部に成形体に由来する材料が残留する。そのため、金型内部の洗浄には多くの時間が必要であった。
【0005】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、熱間加工後の金型内部の洗浄を効率良く行うことが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る熱間加工用金型の洗浄方法は、磁性材料からなる成形体に係る熱間加工後の押出し金型内に除去剤を投入することと、前記除去剤が内部に投入された状態の前記押出し金型を、前記成形体の塑性加工可能温度以上である加熱温度に加熱しながら、パンチにより前記除去剤を押し込むことで、前記磁性材料を除去することと、を含む。
【0007】
上記の熱間加工用金型の洗浄方法によれば、除去剤が押出し金型内に投入され、さらに加熱温度に加熱した状態で除去剤を押し込むことで、熱間加工後に押出し金型内に残留した残留物を排出することができる。したがって、より簡単に金型内を除去剤によって洗浄することが可能となる。
【0008】
前記成形体は、R-T-B系永久磁石を製造するための成形体である態様としてもよい。
【0009】
R-T-B系永久磁石の材料は、熱膨張率に異方性があり、冷却によって磁化困難軸方向に膨張するため、熱間加工後に押出し金型内に残留した場合の除去が困難であった。上記の手法は、このように除去が困難なR-T-B系永久磁石を製造するための押出し金型に対して特に有効である。
【0010】
前記除去剤は、前記塑性加工可能温度で焼結しない材料からなる態様としてもよい。
【0011】
上記の構成とすることで、加熱温度で加熱した際に、除去剤が焼結することが防がれるため、除去剤が金型に残留することが防がれる。
【0012】
前記押出し金型に投入される前記除去剤の重量は、前記除去剤の真密度に対して、前記押出し金型の容積と前記パンチのうち前記熱間加工時に前記押出し金型に挿入される部分の体積との差分を乗じて得られる重量以上である態様としてもよい。
【0013】
上記の構成とすることで、パンチが到達しない領域に残留する磁性材料を確実に排出することが可能であるため、より確実に金型内を除去剤によって洗浄することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、熱間加工後の金型内部の洗浄を効率良く行うことが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る熱間加工用金型の洗浄方法の洗浄方法を含む、熱間加工磁石の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
図2図2は、押出し金型の構成例を説明する図である。
図3図3(a)、図3(b)は、押出し金型の構成例を説明する図である。
図4図4(a)、図4(b)、図4(c)は、除去剤を利用した押出し金型の洗浄方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
[熱間加工磁石の製造方法]
図1は、一実施形態に係る熱間加工用金型の洗浄方法を含む、熱間加工磁石の製造方法を説明するフローチャートである。以下では、R-T-B系永久磁石の一種であるR14B結晶を主相とするネオジム磁石(ネオジム鉄ボロン系磁石)の製造方法について説明する。
【0018】
R-T-B系永久磁石においてRは希土類元素を示している。永久磁石は、希土類元素として少なくともネオジム(Nd)を含有する。永久磁石は、Ndに加えて、他の希土類元素を含んでもよい。他の希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。R-T-B系永久磁石においてTは遷移金属元素を示している。永久磁石は、遷移金属元素として少なくとも鉄(Fe)を含有する。永久磁石は、遷移金属元素として、Feのみを含有していてもよい。永久磁石は、遷移金属元素として、Feおよびコバルト(Co)の両方を含有してもよい。R-T-B系永久磁石においてBはボロンである。
【0019】
熱間加工磁石を製造する際は、まず、原料となる磁性材料を磁性粉に粉砕する(ステップS1)。粉砕は、たとえばカッターミルやプロペラミルにより行うことができ、たとえばアルゴンガス雰囲気中(または窒素ガス雰囲気中)で行うことができる。粉砕により得られた磁性粉の粒径はたとえば約100~300μmである。磁性粉は、ネオジム磁石結晶の寸法レベル(1μm以下、たとえば数十~数百nm)までは細かくは粉砕されておらず、複数のネオジム磁石結晶で構成された多結晶構造を有する。
【0020】
ステップS1で得られた磁性粉は、圧縮成形機により成形されて、成形体が得られる(ステップS2)。成形は、窒素ガス雰囲気中(またはアルゴンガス雰囲気中)、800℃以下の高温下(一例として、750℃)、200MPa以下のプレス圧で、数十秒間行われる。成形により、緻密な成形体が得られる。ただし、この成形体の状態では、磁石粒子はランダムに配向されており、磁化容易軸方向が揃っていない。
【0021】
ステップS2で得られた成形体は、前方押出法により熱間加工されて、熱間加工磁石が得られる(ステップS3)。熱間加工は、例えばアルゴンガス雰囲気中、500℃~1000℃程度の高温下(一例として、750℃)、100MPa以下のプレス圧で、数十秒間行われる。熱間加工時の成形体の加熱温度は、熱間加工磁石に使用される磁性材料の塑性加工が可能な温度であり、塑性加工可能温度という。
【0022】
熱間加工に使用される押出し金型1(熱間加工用金型)について図2,3を参照しながら説明する。本実施形態では、一例として押出し金型1は円柱状の外形を有している。ただし、押出し金型の外形は円形状に限定されず、角柱状等の他の形状であってもよい。押出し金型1は、高耐熱材料(たとえばニッケル基超合金(たとえばインコネル(登録商標))、モリブデン等)で構成されている。押出し金型1は、円柱状の導入部10と、円柱状の塑性加工部20と、を含んで構成され、上から順に、導入部10及び塑性加工部20がこの順に並んでいる。
【0023】
導入部10は、互いに対面する始端面10aおよび終端面10bを有する。また、導入部10には、始端面10aと終端面10bとを接続するように上下方向に延びる貫通孔12が形成されている。始端面10aと終端面10bとの対面方向である上下方向に対して直交する断面、すなわち水平面における、貫通孔12の断面形状は、後述の塑性加工孔22の始端部22aの端面形状と同一とされる。また、貫通孔12の断面形状は、始端面10aから終端面10bまで同一とされる。
【0024】
塑性加工部20は、互いに対面する始端面20aおよび終端面20bを有する。始端面20aと終端面20bとは互いに平行である。導入部10の終端面10bは、塑性加工部20の始端面20aと略一致する。塑性加工部20は、上述の貫通孔12から連続する塑性加工孔22を有する。塑性加工孔22は、塑性加工部20の始端面20aにおける始端部22aと、終端面20bにおける終端部22bとを有する。
【0025】
塑性加工孔22の始端部22aは、始端面20aと終端面20bとの対面方向(上下方向)から見て、一方向に延びた端面形状を有している。一例として、始端部22aの端面形状は長方形状とされる。また、始端部22aの端面が、始端面20aと終端面20bとの対面方向(上下方向)から見て導入部10の貫通孔12と重なるように、塑性加工孔22の始端部22aが配置される。
【0026】
以下、説明の便宜上、塑性加工部20の始端面20aと終端面20bとの対面方向をZ方向とし、塑性加工孔22の始端部22aの端面形状が延びる方向をX方向とし、Z方向およびX方向に直交する方向をY方向とする。
【0027】
押出し金型1では、塑性加工孔22のX-Y断面における断面積が、始端部22aから終端部22bに向かって、漸減している。
【0028】
塑性加工孔22の終端部22bは、塑性加工部20の始端面20aと終端面20bとの対面方向から見て、一方向に延びた端面形状を有している。一例として、終端部22bの端面形状は長方形状である。始端部22aの端面形状がX方向に延びている(すなわち、長辺がX軸に沿っている)のに対し、終端部22bの端面形状はY方向に延びている(すなわち、長辺がY軸に沿っている)。始端面20aと終端面20bとの対面方向から見ると、始端部22aの端面形状が延びるX方向(第1の方向)と、終端部22bの端面形状が延びるY方向(第2の方向)とは交差しており、より詳しくは直交している。塑性加工孔22は、始端部22aの長方形端面から終端部22bの長方形端面までの間で、長辺(または長軸)と短辺(または短軸)とが入れ替わると表現することもできる。始端部22aの端面と終端部22bの端面とは捻れの位置関係となっている。
【0029】
押出し金型1は、図2に示すように、塑性加工孔22の始端部22aの端面形状と同一寸法(または、ごくわずかだけ各辺の長さが短い)断面形状を有するパンチ30を用いて、導入部10に投入された上述の成形体を、塑性加工部20の終端面20bに向けて、すなわちZ方向に前方押出しする。これにより、塑性加工孔22の終端部22bの端面形状と同一の断面形状を有する帯状の熱間加工磁石が得られる。帯状の熱間加工磁石は、所定幅に適宜切断される。
【0030】
一例として、押出し金型1の塑性加工部20の内部では、塑性加工孔22の輪郭は図2,3に示したように曲線によって構成されていてもよい。
【0031】
押出し金型1を所望の温度に加熱して、成形体を塑性加工部20の始端部22aから終端部22bに向けて、すなわちZ方向に前方押出すると、金型内で加熱された成形体中の粒界相が液化して液相が生成されると共に、塑性加工部20の断面形状の変化にともなって成形体が塑性変形する。液相の生成と塑性変形とに伴って、主相粒子のc軸(磁化容易軸)と垂直な方向に異方成長が進行する。成形体の塑性変形と主相粒子の異方成長によって、主相粒子に所定の方向の応力が作用する。また液相が各結晶粒を潤滑にし、個々の主相粒子が動きやすくなる。その結果、結晶粒が粒界すべりによって回転し、各主相粒子のc軸が応力方向と略平行に配向する。その結果、磁化容易軸方向に配向した熱間加工磁石が得られる。
【0032】
金型の温度は500℃~1000℃、より好ましくは600℃~800℃である。金型の温度が上記の範囲内であるとき、磁性材料を塑性加工することができる。
【0033】
ところで、押出し方向(Z方向)に沿って押出し金型1へ挿入されるパンチ30の断面形状は、上述のように貫通孔12及び塑性加工孔22の始端部22aの端面形状と略同一とされている。したがって、パンチ30は、断面形状が変化する塑性加工部20の始端部22aよりも下方に挿入することができない。そのため、パンチ30により成形体の押出しを行った後も、押出し金型1内(特に、塑性加工孔22の内部)には磁性材料が残留する。この状態について、図4(a)を参照しながら説明する。なお、図4(a)~図4(c)は、図3(b)に対応する方向から見た押出し金型1内の貫通孔12及び塑性加工孔22を示している。図4(a)に示すように、押出し金型1内へのパンチ30の挿入長さをLとすると、押出し金型1のうち上方から長さLの領域は磁性材料Mが除去される一方、それよりも下方の領域には、磁性材料Mが残留する。特に塑性加工孔22内にはパンチ30は挿入されないため、塑性加工孔22内の磁性材料Mは除去されず、内部に残留することになる。
【0034】
そこで、本実施形態に係る熱間加工磁石の製造方法では、図1に示すように、上述の熱間加工(S3)の後に、押出し金型1内に除去剤を投入し(ステップS4)、押出し金型1を加熱した状態で、パンチ30を押し込むことで、押出し金型1内の磁性材料を除去する(ステップS5)。これらの手順は、押出し金型1の洗浄方法に相当する。
【0035】
これらの手順について、図4(b)、図4(c)を参照しながら説明する。図4(a)のように、熱感加工後の押出し金型1内には磁性材料Mが残留する。そこで、図4(b)に示すように、残留する磁性材料Mの上方から押出し金型1の内部へ除去剤Rを投入する。
【0036】
除去剤Rは、投入時及び加熱時に固体であり、且つ、塑性加工可能温度で焼結しない材料から選択される。つまり、除去剤Rは、成形体(磁性材料)の塑性加工可能温度で加熱をしても安定であり、押出し金型1内部で焼結しない材料が選択される。なお、磁性材料によっては、成形体の塑性加工可能温度が変化する場合がある。この場合、塑性加工可能温度に応じて、適切な除去剤Rの材料が選択される。
【0037】
また、除去剤Rは、押出し金型1の内面を形成する材質よりも硬度が低いものが選択される。これにより、除去剤Rが押出し金型1を傷つけることが防がれる。
【0038】
除去剤Rの粒度は特に限定されないが、粒度がある程度小さく、例えば、除去剤Rが粉体または顆粒の状態であると、押出し金型1の内部で分散しやすい。
【0039】
これらの条件を満たす除去剤Rの一例として、黒鉛、窒化ホウ素、タルク等が挙げられる。これらの材料は、上述の成形体の塑性加工可能温度(600℃~900℃)において焼結しない材料であり、且つ、一般的な押出し金型1よりも硬度が低いため、上記の条件を満たし得る。
【0040】
押出し金型1内部への除去剤Rの投入量(重量)は特に限定されないが、パンチ30による除去剤Rの圧縮後の体積が、押出し金型1の容積と、パンチ30のうち熱間加工時に押出し金型1に挿入される部分の体積との差分寄りも大きいと、パンチ30による押出しによって、残留する磁性材料Mの全量を除去剤Rに置換しやすくなる。すなわち、「除去剤Rの充填量」が、「除去剤Rの真密度」と「押出し金型1の容積と、前記パンチのうち前記熱間加工時に前記押出し金型に挿入される部分の体積との差分」との積よりも大きい場合、塑性加工孔22の内部に残留する磁性材料Mの排出が促進され得る。なお「除去剤Rの真密度」とは、除去剤Rの粒子密度であり、JIS R 1620:1995「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠して測定される。
【0041】
次に、除去剤Rを投入した状態で、押出し金型1を加熱しながら、パンチ30を内部に挿入する。このときの押出し金型1の加熱温度は成形体の塑性加工可能温度とされる。また、押出し金型1の周辺を、除去剤Rに対応したガス雰囲気とする。除去剤Rに対応したガス雰囲気としては、例えば、除去剤Rを加熱した際に除去剤Rが押出し金型1または磁性材料Mと反応することを防ぐために、周囲を不活性ガス雰囲気とすることが挙げられる。この状態で、パンチ30のプレス圧を熱間加工時と同様にして、熱間加工時と同様の加工速度でパンチ30を押出し金型1内に挿入する。この結果、図4(c)に示すように、パンチ30の挿入によって内部の磁性材料Mが下方から押し出され、押出し金型1から排出されると共に、上層に投入された除去剤Rが磁性材料Mに代わって押出し金型1内のうちパンチ30が到達しない空間に残留する。これにより、押出し金型1内の磁性材料Mは外部に排出されることになる。
【0042】
熱間加工後に磁性材料Mが内部に残留した場合、押出し金型1が冷却されると、磁性材料Mも冷却され、磁性材料Mが残存した状態で固化する。そのため、磁性材料Mの押出し金型1からの除去が困難となる。これに対して、上記のように除去剤Rを内部に押し込み、磁性材料M等の残留物を外部に排出することで、押出し金型1の内部からの磁性材料Mの除去がより簡単に行われる。
【0043】
なお、パンチ30の挿入(S5)後に内部に残留する除去剤Rは、簡単に押出し金型1内に排出することができる。上述のように、除去剤Rは上記の処理(S5)中に押出し金型1内で焼結しないため、押出し金型1の内面に対して固着しにくい。したがって、例えば、エアブロウ等を利用して、押出し金型1内からの除去剤Rの除去を簡単に行うことができる。
【0044】
[評価]
熱間加工磁石の製造後に上述の方法で押出し金型の洗浄を行った場合の内部の状態について、以下の手順で評価した。
【0045】
図2に示す装置を用いて、熱間加工磁石の加工を行った後に、除去剤Rによる押し込みを行った。押出し金型1は、インコネル(登録商標)によって作成されたものを使用した。また、押出し金型1の内部の体積は、8cmであった。熱間加工磁石を製造した後に押出し金型1に投入する除去剤Rの種類を以下の表1に示すように変更し、実施例1~4の条件で押出し金型1の洗浄を行った。
【0046】
熱間加工磁石の製造に使用した磁性材料は、NdFe14Bであり、押出し金型1に対して所定量の磁性材料を投入し、アルゴンガス雰囲気中、金型温度750℃、パンチ30によるプレス圧100MPaの条件で、熱間加工を行った。これらの熱間加工磁石の製造条件は実施例1~4で共通とした。
【0047】
その後、押出し金型1内に表1の各例に示された除去剤Rの粉体をそれぞれ表1に示す分量だけ投入した。その上で、窒素ガス雰囲気中において押出し金型1を750℃に加熱した。押出し金型1が加熱された状態で、パンチ30のプレス圧を熱間加工時と同様の100MPaとして、熱間加工時と同様の加工速度でパンチ30を押出し金型1内に挿入した。パンチ30による押出しの後、エアブロウによって、押出し金型1内部に残留する粉体を除去した。エアブロウによる粉体の除去の後に押出し金型1の内部を観察したところ、内面に付着する磁性材料は確認されなかった。
【0048】
それぞれの条件において、熱間加工磁石を製造する前(押出し加工前)の押出し金型1の塑性加工孔22内面の表面粗さと、除去剤Rを投入してパンチ30による押出しを行った後(洗浄後)の押出し金型1の塑性加工孔22内面の表面粗さと、を測定した。表面粗さとしては、JIS B0601:2001によって規定される算術平均粗さ(Ra)を測定した。除去剤の種類・真密度・充填量と、押出し金型1の塑性加工孔22内面の表面粗さの測定結果と、を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、実施例1~3で示すように除去剤Rとして黒鉛、窒化ホウ素、またはタルクを使用した場合と比べて、実施例4で示すアルミナを使用した場合は、押出し加工後の表面粗さが大きく変化していることが確認された。ただし、算術平均粗さRaが50μm以下であれば、熱間加工磁石の製造用の押出し金型1として問題なく使用できる程度であり、除去剤Rを使用して磁性材料を除去した後も繰り返して使用できることが確認された。
【0051】
[変形例]
以上、実施形態について説明してきたが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0052】
例えば、押出し金型1の形状は上記実施形態で説明した形状特に限定されない。例えば、押出し金型1の塑性加工部20の始端部および終端部の端面形状は、長方形状に限らず、一方向に延びた楕円形状であってもよく、真円形状やU字状、V字状であってもよい。
【0053】
永久磁石の磁性材料は、熱間加工によって製造することが可能な永久磁石の材料であれば、特に限定されない。したがって、R-T-B系永久磁石以外の永久磁石に係る磁性材料に対しても上記の構成は適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…押出し金型、10…導入部、12…貫通孔、20…塑性加工部、22…塑性加工孔、30…パンチ。
図1
図2
図3
図4