(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132031
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】混合装置及び混合方法、並びに検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
B01F 33/30 20220101AFI20230914BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20230914BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230914BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20230914BHJP
B01F 33/40 20220101ALI20230914BHJP
B01F 35/71 20220101ALI20230914BHJP
G01N 1/38 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B01F33/30
G01N35/00 D
G01N37/00 101
B01F23/40
B01F33/40
B01F35/71
G01N1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037122
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】浮田 芳昭
(72)【発明者】
【氏名】二見 昌宏
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
4G035
4G036
4G037
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052AD46
2G052DA09
2G052FB03
2G052FB09
2G052GA24
2G058BA08
2G058DA07
2G058FA05
2G058FA07
4G035AB36
4G035AE13
4G036AC03
4G037AA01
4G037EA10
(57)【要約】
【課題】安全かつ簡便な機構により、極めて効率的な攪拌混合を実現できる混合装置及び混合方法等の提供。
【解決手段】外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体収容室と、前記流体収容室から排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合室と、を有する混合装置である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力により、
加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体収容室と、
前記流体収容室から排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合室と、
を有することを特徴とする混合装置。
【請求項2】
前記加圧用液体により予め収容していた流体が気体である、請求項1に記載の混合装置。
【請求項3】
前記液体混合室が、前記流体収容室から排出された気体を気泡状に流入させ、内部に収容される液体を混合する、請求項2に記載の混合装置。
【請求項4】
前記外力が遠心力である、請求項1から3のいずれかに記載の混合装置。
【請求項5】
前記流体収容室の回転方向の長さが、前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長い、請求項4に記載の混合装置。
【請求項6】
加圧用液体収容室に収容されている加圧用液体と流体収容室に流入する加圧用液体との水頭圧差を大きく維持できるように、前記加圧用液体を流入する流路を前記流体収容室と接続する、請求項5に記載の混合装置。
【請求項7】
前記流体収容室及び前記液体混合室が、回転可能な回転体上に配置された、請求項1から6のいずれかに記載の混合装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の混合装置からなる混合部と、
前記混合部によって混合された混合物に対し検査を行う検査部と、
を有することを特徴とする検査装置。
【請求項9】
前記検査部が、前記混合部に印加された外力と同じ外力が印加された状態で前記混合物に対し検査を行う、請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体排出工程と、
前記流体排出工程により排出された前記流体を流入させ、液体混合室の内部に収容される液体を混合する液体混合工程と、
を含むことを特徴とする混合方法。
【請求項11】
前記加圧用液体により予め収容していた流体が気体である、請求項10に記載の混合方法。
【請求項12】
前記液体混合工程において、前記流体収容室から排出された気体を気泡状に流入させ、内部に収容される液体を混合する、請求項11に記載の混合方法。
【請求項13】
前記外力が遠心力である、請求項10から12のいずれかに記載の混合方法。
【請求項14】
前記内部に収容される液体が、検査対象試料及び試料希釈液である、請求項10から13のいずれかに記載の混合方法。
【請求項15】
請求項10から14のいずれかに記載の混合方法によって混合された混合物に対し検査を行う検査工程を含むことを特徴とする検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合装置及び混合方法、並びに検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合攪拌は化学プロセスにおける最も基本的な単位操作の一つであるが、マイクロデバイスにおける混合攪拌は、マイクロデバイスのマイクロ空間内の液体が層流となるため、難易度の高い単位操作となる。
このようなマイクロデバイスの混合攪拌方法としては、例えば、
図1に示すようにポンプ301を搭載しており、このポンプ301からの空気によってバブリング撹拌を行うことができるマイクロデバイスが報告されている(非特許文献1参照)。この非特許文献1では、ポンプ301を駆動するために電力の供給手段などが必要となりシステム構成が複雑になる。また、非特許文献1では外気を取り込んで空気を発生させるので、外気に含まれるコンタミネーションが濃縮された空気を供給するという問題がある。
【0003】
また、非特許文献2では、
図2に示すように、反応チャンバー303内に二酸化マンガンを封入しておき、この二酸化マンガンに過酸化水素収容チャンバー302から過酸化水素水を滴下することにより酸素を発生させ、この酸素を混合チャンバー304に注入させてバブリング攪拌を行っている。しかしながら、非特許文献2は化学反応によって気泡を発生させて混合する方式であり、過酸化水素水は劇物であることからマイクロデバイスの取扱及び法令への配慮が必要になると共に、二酸化マンガン等の試薬の保存安定性について考慮しなければならないという課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Active pneumatic control of centrifugal microfluidic flows for lab-on-a-chip applications,Lab Chip (2015) 15, p.2343-2524
【非特許文献2】Rigorous buoyancy driven bubble mixing for centrifugal microfluidics,Lab Chip (2016) 16, p.261-268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前述の諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安全かつ簡便な機構により、極めて効率的な攪拌混合を実現できる混合装置及び混合方法、並びに検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するための手段としての本発明の混合装置は、外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体収容室と、前記流体収容室から排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合室と、を有する。
【0007】
本発明の検査装置は、本発明の前記混合装置からなる混合部と、前記混合部によって混合された混合物に対し検査を行う検査部と、を有する。
【0008】
本発明の混合方法は、外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体排出工程と、前記流体排出工程により排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合工程と、を含む。
【0009】
本発明の検査方法は、本発明の前記混合方法によって混合された混合物に対し検査を行う検査工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、安全かつ簡便な機構により、極めて効率的な攪拌混合を実現できる混合装置及び混合方法、並びに検査装置及び検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、従来のマイクロデバイスの一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、従来のマイクロデバイスの他の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態の混合装置の一例を示す概略図である。
【
図4A】
図4Aは、第1の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その1)。
【
図4B】
図4Bは、第1の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その2)。
【
図4C】
図4Cは、第1の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その3)。
【
図4D】
図4Dは、第1の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その4)。
【
図4E】
図4Eは、第1の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その5)。
【
図4F】
図4Fは、第1の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その6)。
【
図5】
図5は、加圧用液体収容室の加圧用液体の液面と流体収容室内に流入した加圧用液体の液面との距離(水頭圧差)がH1からH2のように半分以下に小さくなってしまう場合を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態の混合装置の一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、第3の実施形態の混合装置の一例を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その1)。
【
図8B】
図8Bは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その2)。
【
図8C】
図8Cは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その3)。
【
図8D】
図8Dは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その4)。
【
図8E】
図8Eは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その5)。
【
図8F】
図8Fは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その6)。
【
図8G】
図8Gは、第3の実施形態の混合装置を用いた本発明の混合方法の一例を示す図である(その7)。
【
図9】
図9は、加圧用液体収容室の加圧用液体の液面と流体収容室内に流入した加圧用液体の液面との距離(水頭圧差)がH3からH4のように大きい状態を維持できる場合を示す図である。
【
図10】
図10は、混合装置を回転体上にセットして回転させることにより遠心力をかける状態の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態の検査装置の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、第2の実施形態の検査装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(混合装置及び混合方法)
本発明の混合装置は、外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体収容室と、前記流体収容室から排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合室と、を有し、更に必要に応じてその他の室及び部材を有する。
【0013】
本発明の混合方法は、外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体排出工程と、前記流体排出工程により排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0014】
本発明の混合方法は、本発明の混合装置により実施することができ、流体排出工程は流体収容室により行うことができ、液体混合工程は液体混合室により行うことができ、その他の工程はその他の部材により行うことができる。
【0015】
本発明の混合方法及び本発明の混合装置においては、試薬溶液等の液体の混合攪拌をマイクロデバイスの下部に配置した流体収容室からのバブリング攪拌により実現する。気泡(バブル)を発生させるためにマイクロデバイス内に加圧用液体を流体収容室に移送する機構を実装する構造とする。気泡(バブル)となる気体はマイクロデバイス内の流体収容室に予め収容されている。流体収容室内の流体(例えば、空気等の気体)に対し非相溶な液体(例えば、水等の液体)を注入することにより流体収容室内の流体が置換され、流体収容室から排出された流体が液体混合室内の液体に注入され、バブリング攪拌が行われる。
気泡(バブル)による混合攪拌は、圧力源を確保できれば簡便な流路構造によって実現できることから、より実用的な方法である。
したがって、本発明の混合方法及び本発明の混合装置によると、従来技術のように複雑な機構及び化学エネルギーを用いることなく、安全かつ簡便な機構により、極めて効率的な攪拌混合を実現できる。
【0016】
<流体排出工程及び流体収容室>
流体排出工程は、外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する工程であり、流体収容室によって行われる。
【0017】
前記外力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心力、重力などが挙げられる。これらの中でも、混合装置を載せた回転体を、回転軸位置(基準点)を中心に回転させることにより生じさせた遠心力が好ましい。
混合装置に外力を印加することにより、加圧用液体収容室から流体収容室に加圧用液体を流入させ、流体収容室に予め収容していた流体を排出する力が生じる。
更に、混合装置に外力を印加することにより、混合装置内の溶液等を各室や流路に流す力が生じる。なお、以下の説明では、外力の印加方向の上流側を単に「上流側」又は各部の「上部」と称し、下流側を単に「下流側」又は各部の「下部」若しくは「底部」と称する。
【0018】
前記流体収容室の大きさ、形状、構造、数などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記流体収容室の数は1個に限られず、複数であっても構わない。
前記流体収容室の長手方向を外力方向と平行に配置すると、初期に爆発的なバブリングが発生し、それ以降、加圧用液体による流体収容室の置換が急速に減弱し、バブリングが短時間で終了する。
一方、前記流体収容室の回転方向の長さを、前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長くなるように配置すると、継続的な攪拌を達成できる。前記流体収容室の回転方向の長さを前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長くなるように配置することにより、ゆっくりと反応が進行する化学反応や抗原抗体反応などの比較的遅い反応において反応速度に合わせてバブリング攪拌の持続時間を設計することが可能となる。なお、バブリング攪拌の持続時間は加圧用液体の注入速度に依存するものと考えられるため、流路の長さ及び細さの調節などによって、更なるバブリング攪拌の長寿命化も実現可能である。
【0019】
また、加圧用液体収容室に収容されている加圧用液体と流体収容室に流入する加圧用液体との水頭圧差を大きく維持できるように、前記加圧用液体を流入する流路を前記流体収容室と接続することが、バブリング攪拌の長寿命化を図れる点から好ましい。
図9に示すように加圧用液体収容室の加圧用液体の液面と流体収容室内に流入した加圧用液体の液面との距離(水頭圧差)がH3からH4のように大きい状態を維持できる場合には長時間バブリングを維持することができる。一方、
図5に示すように加圧用液体収容室の加圧用液体の液面と流体収容室内に流入した加圧用液体の液面との距離(水頭圧差)がH1からH2のように半分以下に小さくなってしまう場合には初期に爆発的なバブリングが発生するが、バブリングが短時間で終了してしまう。
【0020】
前記流体収容室に予め収容されている流体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、空気、窒素やアルゴン等の不活性気体;水、アルコール等の親水性溶媒、オイルなどが挙げられる。これらの中でも、空気等の気体が好ましい。
【0021】
前記加圧用液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、アルコール等の親水性溶媒、オイルなどが挙げられる。
前記水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水などが挙げられる。
前記オイルとしては、例えば、流動パラフィン、ミネラルオイルなどが挙げられる。
【0022】
前記加圧用液体は、予め加圧用液体収容室に収容されており、外力が付与されると加圧用液体の移送機構の働きにより、流体収容室に移送される。
前記加圧用液体収容室の大きさ、形状、構造、数などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記加圧用液体収容室の数は1個に限られず、複数であっても構わない。
【0023】
前記加圧用液体の移送機構としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、加圧用液体保持容器、屈曲状流路、及びサイフォン構造の少なくともいずれかを有することが好ましい。前記加圧用液体の移送機構を設けることにより、加圧用液体を移送する時間が適正となるように調整することができる。
【0024】
前記屈曲状流路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、「つづら折れ(ヘアピンカーブ)状」、「くの字状」、「コの字状」、「Sの字状」、「Yの字状」、「Tの字状」、「十字状」、又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。
前記屈曲状流路を採用することにより、直線状流路に比べて流路の長さが長くなるため、加圧用液体が流路を通過する時間が長くなるように調整することができる。
【0025】
前記加圧用液体保持容器は、流体収容室の前に(上流に)設けられ、屈曲状流路と流路を介して連通しており、加圧用液体を一時的に収容する容器である。
前記加圧用液体保持容器を流体収容室の前に(上流に)設けることにより、流体収容室内に加圧用液体を移送する時間を稼ぐことができる。
前記加圧用液体保持容器の大きさ、形状、構造、数などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記加圧用液体保持容器の数は1個に限られず、複数であっても構わない。
【0026】
前記サイフォン構造は、加圧用液体保持容器と流体収容室とを繋ぐ流路にはサイフォン構造を設けることが好ましい。サイフォン構造を設けることにより、加圧用液体保持容器内の加圧用液体の注入量が所定量以上になった際に、流体収容室内に加圧用液体を円滑に移送させることができる。
サイフォン構造としては、サイフォンの原理により、加圧用液体を流体収容室内に連続的に移送できる構造であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加圧用液体保持容器と流体収容室とを連通する流路に設けられたU字状構造などが挙げられる。
【0027】
前記加圧用液体の移送機構としての加圧用液体保持容器、屈曲状流路、及びサイフォン構造、及びこれらを接続する流路は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)等の材料を用いてリソグラフィー手法により作製することができる。
【0028】
<液体混合工程及び液体混合室>
液体混合工程は、前記流体排出工程により排出された流体を流入させ、液体混合室の内部に収容される液体を混合する工程であり、液体混合室により実施される。
前記液体混合室は、前記流体収容室から排出された気体を気泡状(バブル状)に流入させ、内部に収容される液体を混合することが、混合攪拌の効率性能の点から好ましい。
【0029】
前記液体混合室の大きさ、形状、構造、数などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記液体混合室の数は1個に限られず、複数であっても構わない。
前記液体混合室の形状は、液体混合室内に流体を注入する箇所が先細りの形状であることが好ましく、液体混合室内に流体を注入する箇所は1箇所に限られず、複数個所であっても構わない。
【0030】
前記液体混合室の内部に収容される液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、血液、唾液、胃液、胆汁、尿等の検査対象試料;微生物、動物細胞、植物細胞等を含む溶液;海水、陸水、土壌、河底土、湖底土、海底土、排水等の環境試料;ドレッシング等の液体調味料、分析時に使用する各種の試薬、試料希釈液、バッファ液、洗浄水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、検査対象試料及び試料希釈液が好ましい。
前記試料希釈液としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール溶液、含水エタノール、アセトン、アセトニトリル、トリクロロ酢酸、過塩素酸などが挙げられる。
例えば、血液を固液分離した血清又は血漿と50%エタノール水溶液を混合させて質量分析用試料を調製することができる。
【0031】
前記液体混合室の内部に収容される液体は、予め液体混合室に収容させておいてもよく、また、前記液体混合室と連結された混合用液体収容室に収容させておき、前記混合用液体収容室から混合用液体を液体混合室に移送させてもよく、液体混合室と混合用液体室に分けて収容させておいてもよく、複数の混合用液体収容室に分けて収容させておいてもよい。
前記混合用液体収容室の大きさ、形状、構造、数などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記混合用液体収容室の数は1個に限られず、複数であっても構わない。
【0032】
<その他の室及び部材>
その他の部材としては、例えば、試料抽出用液体収容室、ベント、制御部などが挙げられる。
【0033】
試料抽出用液体収容室は、試料抽出用液体を収容しており、外力を印加することにより、試料抽出用液体が試料抽出用加圧室に到達し、予め試料抽出用加圧室に収容されている空気等の気体が加圧され、液体混合室内の混合後溶液を加圧し、混合後溶液を試料抽出室に移送させる。試料抽出室に移送された混合後溶液を分析することにより、混合攪拌性能を確認することができる。
また、試料抽出室は検査装置と流路を介して連通していてもよい。これにより、混合後溶液を続けて検査装置で検査することができる。
試料抽出用液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、アルコール等の親水性溶媒、オイルなどが挙げられる。
【0034】
前記ベントとしては、例えば、液体混合室、加圧用液体収容室、混合用液体収容室等の各室と連通させて設けられている。液体混合室、加圧用液体収容室、混合用液体収容室等の各室にベントを設けることにより、液体混合室、加圧用液体収容室、混合用液体収容室等の各室内の空気を効率よく逃がすことができる。
【0035】
前記制御部としては、例えば、定常回転するモーター等のシンプルな制御装置が利用可能である。
【0036】
本発明の混合装置は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)等の材料を用いてリソグラフィー手法により作製することができる。また、より剛性が高い材料として、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィン(COP)などを用いて射出成形等により、流体収容室、液体混合室等の各室、各容器、流路などを作製することができる。
【0037】
前記混合装置は、効率よく遠心力を印加するため、回転可能な回転体上に配置されていることが好ましい。
前記回転体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円盤状のディスクが好適である。円盤状のディスクとしては、例えば、コンパクトディスク(CD)、デジタルビデオディスク(DVD)等と同様なものを用いることができる。
回転体上に混合装置を載置し、回転体を、回転軸位置を中心に回転させることにより混合装置に対し遠心力を印加することができる。回転体の回転数としては、所望の回転数であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、回転数を上下に調整する制御が不要である点から、一定の回転数であることが好ましい。
回転体上に複数個の混合装置を搭載することにより、一度に複数の混合を同時に効率良く行うことができる。
また、回転体上に混合装置と、検査装置とを連結させてセットにすることにより、混合装置により混合した混合後溶液の検査までをワンストップで自動実施することができる。この場合、検査装置による検査を混合装置に印加された外力と同じ外力が印加された状態で混合後溶液に対し検査を行うことができる。
【0038】
混合装置の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流体収容室、液体混合室、加圧用液体収容室、混合用液体収容室などが一体であってもよく、流体収容室、液体混合室、加圧用液体収容室、及び混合用液体収容室の少なくともいずれかが別体であってもよく、それぞれが別体であってもよい。
【0039】
混合装置の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、回転可能な回転体上に配置可能な形状が好ましく、平板状、円盤状などが更に好ましい。また、混合装置の形状としては、円盤状の円の中心から所定の角度で切り取った形状(いわゆる「扇形」)であってもよい。
【0040】
ここで、本発明の混合装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状などにすることができる。
【0041】
<第1の実施形態の混合装置>
図3は、第1の実施形態の混合装置の一例を示す概略図である。この
図3の第1の実施形態の混合装置201は、液体混合室202、混合用液体収容室203、加圧用液体収容室204、長手方向を遠心力方向と平行に配置されている流体収容室205、試料抽出用液体収容室206、試料抽出用加圧室207、試料抽出室208を備えている。
液体混合室202は、なお、混合装置201は、
図10に示すように回転体としての回転体90上に実装されており、回転体90を回転させることによる遠心力によって液体等を流すように構成されている。
【0042】
以下、
図3に示す第1の実施形態の混合装置201を用いた混合攪拌方法について、
図4A~
図4Fを参照して説明する。なお、
図4A~
図4F中Aは回転体の回転軸位置を表す。
【0043】
図4Aに示すように、混合用液体収容室203内には混合用液体(50体積%エタノール水溶液、30μL)が収容されている。加圧用液体収容室204内には加圧用液体(超純水、50μL)が収容されている。試料抽出用液体収容室206内には試料抽出用液体(超純水、50μL)が収容されている。流体収容室205内には予め空気が収容されている。なお、液体混合室202には、混合攪拌の評価のために色素水溶液を少量注入(サフラニン水溶液、1μL)している。色素水溶液は、サフラニンを0.2質量%で超純水に加えマグネチックスターラーで5分間、攪拌し溶解し、マグネットを取り出し、超音波を5分間印加し、シリンジフィルターにてろ過したものである。
【0044】
まず、
図4Aに示すように、混合装置201における各室に気体、液体及び試料などをセットする。
次に、
図10に示すように、混合装置201を回転体90上に搭載し、回転方向R1、1,500rpm(加速度1,500rpm/s)で回転させることにより、
図4Aに示す混合装置201の加圧用液体収容室204内の加圧用液体に対し、遠心力を印加することができる。回転体90の中心には、この回転体90を回転させるディスク駆動装置の回転軸を受ける穴を有する。この穴が混合装置201の回転軸位置Aに相当する(
図4A、
図10参照)。
なお、混合装置201は、
図10に示すように、回転体90上の区画(91、92・・・)にそれぞれ1つずつ配置して、複数の混合装置201を搭載することができる。
【0045】
図11は、回転体90上に搭載された混合装置201のL1-L1線での断面構造を示し、L1-L1線は、
図4Aに示す混合装置201の加圧用液体収容室204と中継流路に形成されたサイフォン構造の断面を表す。94は回転体90の基材部である。基材部94の上にポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)シート(PDMSシート)93を有する。PDMSシート93上に形成したPDMS層92に、リソグラフィー手法を用いて加圧用液体収容室部95と、サイフォン構造の細管96とが形成されている。PDMS層92の上にはカバー層91が設けられている。この場合、材料の弾性の影響を減じるには、各室の断面形状を正方形や円形等のアスペクト比が1に近い形状とすることが好ましい。なお、より剛性が高い材料として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィン(COP)などを用いて、射出成形等により、リザーバーや流路等を作製することもできる。
【0046】
次に、回転体90を回転し遠心力を印加すると、
図4Bに示すように、混合用液体収容室203内の混合用液体が液体混合室202に到達し、色素水溶液と混合用液体の比重差に応じて、
図4Cに示すように、液体混合室202内で色素水溶液上に混合用液体が重層される。
【0047】
次に、回転体90の回転を続けると、
図4Dに示すように、加圧用液体収容室204内の加圧用液体が流体収容室205に注入され、予め流体収容室205に収容されていた空気が圧縮されることにより、液体混合室202内にバブリングが生じ、色素水溶液と混合用液体の混合攪拌が行われ、混合後溶液となる。
【0048】
次に、回転体90の回転を続けると、
図4Eに示すように、試料抽出用液体収容室206内の試料抽出用液体が試料抽出用加圧室207に到達し、予め試料抽出用加圧室207に収容されていた空気が加圧され、液体混合室202内の混合後溶液を加圧する。
【0049】
次に、
図4Fに示すように、液体混合室202内の混合後溶液が試料抽出室208に移送される。
【0050】
(実験)
図3に示す第1の実施形態の混合装置201を用い、混合後溶液の攪拌性能を評価するため、加圧用液体収容室204内に加圧用液体を収容した場合(バブリング攪拌あり)と、加圧用液体収容室204内に加圧用液体を収容しなかった場合(バブリング攪拌なし)とで
図4A~
図4Fに示す混合攪拌をそれぞれ3回行い、色素水溶液と混合用液体(超純水)とが理想的に攪拌された場合との色素濃度の比較を行った。なお、色素濃度は吸光光度計により測定した。
【0051】
<結果>
色素水溶液と混合用液体(超純水)が理想的に攪拌された場合に予想される理論的な色素濃度は0.0737mg/mLである。一方、バブリング攪拌を行った場合では色素濃度は0.0663mg/mL(誤差6.7%CV)、バブリング攪拌を行わなかった場合では色素濃度は0.00953mg/mL(誤差84%CV)となり、第1の実施形態の混合装置を用いてバブリング攪拌を行うことによって大幅な攪拌性能の向上が認められた。
【0052】
<第2の実施形態の混合装置>
第1の実施形態の混合装置において、
図6に示すように流体収容室205を該流体収容室の回転方向の長さが、流体収容室205の遠心力方向の長さよりも長くなるように配置した以外は、第1の実施形態の混合装置と同様にして、第2の実施形態の混合装置を作製した。
【0053】
(実験)
図6に示す第2の実施形態の混合装置を用い、第1の実施形態の混合装置の
図4A~
図4Fと同様にして、混合攪拌を行った。その結果、第2の実施形態の混合装置では安定なバブリング攪拌を20秒間程度持続することができた。
一方、
図3に示す第1の実施形態の混合装置においては、初期に爆発的なバブリングが発生し、それ以降に加圧用液体による流体収容室の置換が急速に減弱するため、バブリング攪拌の持続時間が短かった(1秒程度)。
図6に示す第2の実施形態の混合装置は、流体収容室205が、該流体収容室の回転方向の長さが、前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長くなるように形成されており、流体収容室の長手方向が重力(遠心力)方向に対して平行な配置となっているため、急速に水頭圧差が低下することにより置換が減速するので、長時間のバブリング攪拌を実現できる。
また、第2の実施形態の混合装置において、色素水溶液と混合用液体(超純水)が理想的に攪拌された場合に予想される理論的な色素濃度は0.0737mg/mLである。一方、バブリング攪拌を行った場合では色素濃度は0.0663mg/mL(誤差6.7%CV)、バブリング攪拌を行わなかった場合では色素濃度は0.0095mg/mL(誤差89.4%CV)となり、第2の実施形態の混合装置を用いてバブリング攪拌を行うことによって大幅な攪拌性能の向上が認められた。
【0054】
<第3の実施形態の混合装置>
図7は、第3の実施形態の混合装置の一例を示す概略図である。この
図7の混合装置101は、液体混合室102、混合用液体収容室103、加圧用液体収容室104、流体収容室105、第1の試料抽出用液体収容室106、試料抽出用加圧室107、試料抽出室108、試料収容室109、第2の試料抽出用液体収容室110、加圧室111、分離室112を備えている。流体収容室105は流体収容室の回転方向の長さが、前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長くなるように配置しているが、長手方向を遠心力方向と平行に配置しても構わない。
なお、混合装置101は、
図10に示すように回転体90上に実装されており、回転体90を回転させることによる遠心力によって液体等を流すように構成されている。
【0055】
以下、第3の実施形態の混合装置101を用いた混合攪拌方法について、
図8A~
図8Gを参照して説明する。なお、
図8A~
図8G中Aは回転体の回転軸位置を表す。
【0056】
図8Aに示すように、混合用液体収容室103内には混合用液体が収容されている。加圧用液体収容室104内には加圧用液体(超純水、50μL)が収容されている。第1の試料抽出用液体収容室106内には第1の試料抽出用液体(超純水、50μL)が収容されている。第2の試料抽出用液体収容室110内には第2の試料抽出用液体(超純水、50μL)が収容されている。試料収容室109内には色素水溶液(15μL)が収容されている。混合用液体収容室103内には混合用液体(50%エタノール、30μL~35μL)が収容されている。流体収容室105内には予め空気が収容されている。色素水溶液は、サフラニンを0.2質量%で超純水に加えマグネチックスターラーで5分間、攪拌し溶解し、マグネットを取り出し、超音波を5分間印加し、シリンジフィルターにてろ過したものである。
なお、第3の実施形態の混合装置101は、混合装置と共に、血液に抗凝固剤を加えて血球等の固形分を除去した溶液である血清から、タンパク質等の夾雑成分を除去した分離後溶液を抽出する分離装置を備えているが、この第3の実施形態では、混合攪拌性能を評価するため、試料として血液ではなく色素水溶液を用いている。
【0057】
まず、
図8Aに示すように、混合装置101における各室内に液体及び試料などをセットする。
次に、回転体90を1,500rpm(加速度1,500rpm/s)で400s回転させることにより、遠心力を印加すると、
図8Bに示すように、第1の試料抽出用液体収容室106内の第1の試料抽出用液体が加圧室111に到達し、加圧室内の空気を加圧することにより、分離室112内に移送された色素水溶液を保持室113に移送する。
【0058】
次に、回転体90を回転し遠心力を印加すると、混合用液体収容室103内の混合用液体が保持室113に到達し、色素水溶液と混合用液体の比重差に応じて、
図8Cに示すように、保持室113内で重層される。
【0059】
次に、回転体90の回転を続けると、
図8Dに示すように、保持室113内の液体混合物が液体混合室102に移動する。
【0060】
次に、回転体90の回転を続けると、
図8Eに示すように、加圧用液体収容室104内の加圧用液体が流体収容室105に注入され、予め流体収容室105に収容されていた空気が圧縮されることにより、液体混合室102内にバブリングが生じ、色素水溶液と混合用液体の混合攪拌が行われ、混合後溶液となる。
【0061】
次に、回転体90の回転を続けると、
図8Fに示すように、第2の試料抽出用液体収容室110内の第2の試料抽出用液体が試料抽出用加圧室107に到達し、予め試料抽出用加圧室107に収容されていた空気が加圧され、液体混合室102内の混合後溶液を加圧する。
【0062】
次に、
図8Gに示すように、液体混合室102内の混合後溶液が試料抽出室108に移送される。
【0063】
(実験)
図7に示す第3の実施形態の混合装置101は、流体収容室105が、該流体収容室の回転方向の長さが、前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長くなるように形成されており、流体収容室の長手方向が重力(遠心力)方向に対して平行な配置となっているため、安定なバブリング攪拌を20秒間程度持続することができた。
また、この第3の実施形態の混合装置によると、分離工程と混合工程と検査工程とをまとめてワンストップで処理することができる。
【0064】
(検査装置及び検査方法)
本発明の検査装置は、分離装置と、検査部とを有し、更に必要に応じてその他の部を有する。
本発明の検査方法は、混合工程と、検査工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0065】
本発明の検査方法は、本発明の検査装置により実施することができ、混合工程は混合装置により行うことができ、検査工程は検査部により行うことができ、その他の工程はその他の部により行うことができる。
【0066】
<混合装置及び混合工程>
混合装置としては、本発明の混合装置を用いることができ、その内容については、上述したとおりである。
混合工程としては、本発明の混合方法からなる混合工程を用いることができ、その内容については、上述したとおりである。
【0067】
<検査部及び検査工程>
検査工程は、混合装置によって混合された混合後溶液に対し検査を行う工程であり、検査部により実施される。
前記検査工程が、前記混合物に含まれる対象物の存在を検出することにより行われることが好ましい。対象物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0068】
混合部と検査部との間には、混合部で混合された混合後溶液を検査部まで移送する流路を有することが好ましい。
検査部は、混合装置に印加された外力と同じ外力が印加された状態で混合後溶液に対し検査を行うことが好ましい。これにより、検査装置は、混合装置による混合後溶液について検査を連続して行うことができる。
【0069】
検査部としては、混合後溶液に対し検査を行うことができる部であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、微細な流路構造やバルブ構造を集積したマイクロ統合システム(Micro Total Analysis System:μTAS)などが好適に挙げられる。
このようなμTASとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2013-088211号公報に記載の検査装置、特開2017-75807号公報に記載の検査装置、国際公開第2019/146734号パンフレットなどが挙げられる。
【0070】
また、検査部としては、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法を用いた質量分析を行うことができる。
PESI法を用いたイオン化部は、混合後溶液を針状部材で採取した後、直ちにイオン化が行われるため、リアルタイムな質量分析が可能である。
このようなPESI法を用いたイオン化手段としては、例えば、国際公開第2010/047399号パンフレット、特開2018-181600号公報などに開示されたものを用いることができる。
【0071】
<その他の部及びその他の工程>
検査装置のその他の部としては、例えば、制御部などが挙げられる。
検査方法のその他の工程としては、例えば、制御工程などが挙げられる。
制御部としては、例えば、定常回転するモーター等のシンプルな制御装置が利用可能である。
【0072】
ここで、本発明の検査装置の実施形態について、図面を参照して更に詳細に説明する。
<検査装置の第1の実施形態>
図12は、第1の実施形態の検査装置18の一例を示す平面図である。この
図12の第1の実施形態の検査装置18は、2つのチャネルa、bと、2つのチャネルa、bがともに接続されたチャンバー13と、を備える。
なお、図示を省略しているが、第1の実施形態の検査装置18は、
図3の第1の実施形態の混合装置201の試料抽出室208、又は
図7の第3の実施形態の混合装置101の試料抽出室108と流路を介して連通し、第1の実施形態の混合装置201又は第3の実施形態の混合装置101により混合された混合後溶液を第1の実施形態の検査装置18の試料として用いるように構成することもできる。
以下、「チャネル」は、チャンバーに繋がるまでの経路及びその構成物の少なくともいずれかを総称する。
【0073】
チャネルa及びbは、それぞれ、第1リザーバー12a、12bと、第2リザーバー14a、14bと、を備える。
流路11a及び11bは、第1リザーバー12a、12bの最下部に設けられた出力口11as、11bsから第2リザーバー14a、14bの最上部に設けられた入力口11ae、11beに接続する。
流路15a及び15bは、第2リザーバー14a、14bの最下部に設けられた出力口15as、15bsからチャンバー最上部に設けられた入力口15ae、15beと、に接続されており、チャンバー13でチャネルa、bは合流する。
チャネルa及びbは、互いに独立して構成され、各々の流路はチャンバー13に独立して接続される。
各流路11a、11b、15a、及び15bは、いずれも細管で構成されている。
【0074】
第1の実施形態の検査装置18は、回転軸位置Aに対して第1リザーバー12a、12b、第2リザーバー14a、14b、及びチャンバー13の順に近い位置に配置されている。即ち、当初、液体を収容するリザーバー側を上部に、液体が流れていく側にあるチャンバー13を下部にそれぞれ配置する。
回転軸位置Aは、第1の実施形態の検査装置18の動作時には回転軸位置Aからチャンバー13の方向に遠心力が与えられるように構成されている。
図12の第1の実施形態の検査装置18においては、回転軸位置Aから
図12の下の方向、即ち、第1の実施形態の検査装置18の上部から下部に遠心力が与えられるように構成されている。回転軸位置Aは、検査装置18の上流側を定義づける基準点でもある。
【0075】
チャネルaを構成する第1リザーバー12aと第2リザーバー14aとを結ぶ流路11aと、チャネルbを構成する第1リザーバー12bと第2リザーバー14bとを結ぶ流路11bとは、互いに長さが異なるように構成されている。
図12の第1の実施形態の検査装置18においては、流路11bは流路11aよりも長く構成されている。
【0076】
図12の第1の実施形態の検査装置18においては、互いに長さが異なる構成を示したが、第1リザーバー12a、12bから第2リザーバー14a、14bまでそれぞれのチャネルに流す液体が通過するために必要な時間差を生じさせるため、流路11a、11bの太さ及び形状が互いに異なるように構成してもよい。また、時間差を生じさせるために流路11a、11bの長さ、太さ、及び形状の少なくとも1つが互いに異なるように構成してもよい。流路11a、11bは、細管で構成されているので液体が通過するためにそれぞれ所定の時間を有し、抵抗流路として機能する。なお、第2リザーバー14a、14bの体積や位置が異なるように構成してもよい。
【0077】
第2リザーバー14a、14bのそれぞれとチャンバー13とを結ぶ流路15a、15bには、各々サイフォン構造16a、16bが設けられている。
サイフォン構造16a、16bは、回転軸位置Aに向かう第1方向に流路を形成した第1流路部16a1と、第1流路部16a1とは逆に遠心力が働く第2方向に流路を形成した第2流路部16a2とを備える。
第1流路部16a1は、第2流路部16a2よりも第2リザーバー側(上流側)に形成されている。
ここで、第1方向に向くベクトルの遠心力方向に対するベクトル成分が、遠心力の方向に対し正反対の方向であり、第2方向に向くベクトルの遠心力方向に対するベクトル成分が、遠心力の方向に対し同一の方向である。即ち、第1方向は遠心力に逆らう方向、第2方向は遠心力に従う方向である。必要に応じて、第1方向及び第2方向は、遠心力方向とは角度のずれを備えるように構成されていてもよいし、この条件を満たす範囲で蛇行していてもよい。
【0078】
第1の実施形態の検査装置18は、サイフォン構造の第1流路部16a1と第2流路部16a2とが屈曲点16amでつながっている。屈曲点16amは回転軸位置Aから見て第2リザーバー14aの入力口11aeと出力口15asの間に位置している。即ち、回転軸位置Aと屈曲点16amとの間隔は、回転軸位置Aと第2リザーバー14aの最上部である入力口11aeとの間隔と、最下部である出力口15asとの間隔の間(中間)の値である。
なお、実際の設計時には、屈曲点16amは、当初、第1リザーバー12aに注入した液体の全てを第2リザーバー14aに移したときの第2リザーバー14aの水位(上部液面)の位置以下に設置する。また、屈曲点16am、16bmの位置が異なるように構成してもよい。
【0079】
図12中に図示していないが、第1リザーバー12a、12b、第2リザーバー14a、14b、及びチャンバー13は、それぞれベントを有する。これら各ベントは、検査装置18を使用時には必要に応じて開放されている。
【0080】
<検査装置の第2の実施形態>
図13は、第2の実施形態の検査装置127の平面図である。この
図13の第2の実施形態の検査装置127は、酵素免疫測定法による検査を実施する実施形態であり、第1の実施形態の検査装置18において、2つのチャネルを更に加えて4チャネルとした以外は、第1の実施形態の検査装置18と同様である。なお、第2の実施形態の検査装置127において、既に説明した第1の実施形態の検査装置18と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0081】
第2の実施形態の検査装置127は、4つのチャネルa、b、c、dと、4つのチャネルがともに接続されたチャンバー53と、を備える。
4つのチャネルa~dは、それぞれ、第1リザーバー52a~52dと、第2リザーバー54a~54dと、第1リザーバー52a~52dと、第2リザーバー54a~54bとをそれぞれ接続する流路51a~51dと、第2リザーバー54a~54bとチャンバー53とを接続する流路55a~55dと、を各々独立して備えている。
なお、図示を省略しているが、第2の実施形態の検査装置127は、
図3の第1の実施形態の混合装置201の試料抽出室208、又は
図7の第3の実施形態の混合装置101の試料抽出室108と流路を介して連通し、第1の実施形態の混合装置201又は第3の実施形態の混合装置101で混合された混合後溶液を第2の実施形態の検査装置127の試料として用いるように構成することもできる。
【0082】
第2の実施形態の検査装置127は、第1の実施形態の検査装置18と同様に、回転軸位置(基準点)Aに対して第1リザーバー52a~52d、第2リザーバー54a~54d、及びチャンバー53の順に近い位置に配置されている。
【0083】
各チャネルの流路51a~51dは、それぞれの流路の長さが51a<51b<51c<51dとなるように、また互いに異なるように構成されている。流路の長さに変えて、流路の太さ及び流路の形状を変えて、細管で構成された流路51a~51dのそれぞれを液体が通過するための所定の時間が51a<51b<51c<51dとなるように、抵抗流路を構成する。即ち、第1リザーバー52a~52dに収容された流体(液体)は、チャネルa、チャネルb、チャネルc、及びチャネルdの順にチャンバー53に到達するように構成されている。
【0084】
流路55a~55dには、各々サイフォン構造56a~56dが形成されており、その構造は第1の実施形態の検査装置18と同様である。
なお、第1リザーバー52a~52d、第2リザーバー54a~54b、及びチャンバー53は、それぞれベントを有している。
図13においては、第2リザーバー54a~54b、及びチャンバー53のそれぞれに対応するベント57a~57d、及び57zを示す。各ベントは検査装置を使用時には必要に応じて開放している。
【0085】
チャンバー53からの排液は、サイフォン構造56zを備えた流路を介して排液槽58へ送られるよう構成されている。
サイフォン構造56zは、サイフォン構造56a~56d及び第1の実施形態の検査装置18でのサイフォン構造16a、16bと同様に、回転軸位置Aに向かう第3方向に流路を形成した第3流路部と、第3方向とは逆に遠心力が働く第4方向に流路を形成した第4流路部とを備えている。即ち、第3方向は遠心力に逆らう方向であり、第4方向は遠心力に従う方向である。
【0086】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 外力により、
加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体収容室と、
前記流体収容室から排出された前記流体を流入させ、内部に収容される液体を混合する液体混合室と、
を有することを特徴とする混合装置である。
<2> 前記加圧用液体により予め収容していた流体が気体である、前記<1>に記載の混合装置である。
<3> 前記液体混合室が、前記流体収容室から排出された気体を気泡状に流入させ、内部に収容される液体を混合する、前記<2>に記載の混合装置である。
<4> 前記外力が遠心力である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の混合装置である。
<5> 前記流体収容室の回転方向の長さが、前記流体収容室の遠心力方向の長さよりも長い、前記<4>に記載の混合装置である。
<6> 加圧用液体収容室に収容されている加圧用液体と流体収容室に流入する加圧用液体との水頭圧差を大きく維持できるように、前記加圧用液体を流入する流路を前記流体収容室と接続する、前記<5>に記載の混合装置である。
<7> 前記流体収容室及び前記液体混合室が、回転可能な回転体上に配置された、前記<1>から<6>のいずれかに記載の混合装置である。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の混合装置からなる混合部と、
前記混合部によって混合された混合物に対し検査を行う検査部と、
を有することを特徴とする検査装置である。
<9> 前記検査部が、前記混合部に印加された外力と同じ外力が印加された状態で前記混合物に対し検査を行う、前記<8>に記載の検査装置である。
<10> 外力により、加圧用液体を流入させ、前記加圧用液体により予め収容していた流体を排出する流体排出工程と、
前記流体排出工程により排出された前記流体を流入させ、液体混合室の内部に収容される液体を混合する液体混合工程と、
を含むことを特徴とする混合方法である。
<11> 前記加圧用液体により予め収容していた流体が気体である、前記<10>に記載の混合方法である。
<12> 前記液体混合工程において、前記流体収容室から排出された気体を気泡状に流入させ、内部に収容される液体を混合する、前記<11>に記載の混合方法である。
<13> 前記外力が遠心力である、前記<10>から<12>のいずれかに記載の混合方法である。
<14> 前記内部に収容される液体が、検査対象試料及び試料希釈液である、前記<10>から<13>のいずれかに記載の混合方法である。
<15> 前記<10>から<14>のいずれかに記載の混合方法によって混合された混合物に対し検査を行う検査工程を含むことを特徴とする検査方法である。
【0087】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の混合装置、前記<8>から<9>のいずれかに記載の検査装置、前記<10>から<14>のいずれかに記載の混合方法、及び前記<15>に記載の検査方法によると、従来における前述の諸問題を解決し、前述の本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0088】
90 回転体
101 混合装置
102 液体混合室
103 混合用液体収容室
104 加圧用液体収容室
105 流体収容室
106 第1の試料抽出用液体収容室
107 試料抽出用加圧室
108 試料抽出室
109 試料収容室
110 第2の試料抽出用液体収容室
111 加圧室
112 分離室
201 混合装置
202 液体混合室
203 混合用液体収容室
204 加圧用液体収容室
205 流体収容室
206 試料抽出用液体収容室
207 試料抽出用加圧室
208 試料抽出室
A 回転軸位置