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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132039
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/06 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
F16G13/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037131
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】平田 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 和幸
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れ、チェーンの伸びが抑制されるとともに振動や騒音が低減され、駆動効率を向上させることのできるチェーンを提供すること。
【解決手段】本発明は、チェーン構成部材として、複数のリンクプレートと、複数のピン115とを少なくとも含むチェーン100であって、ピン115及びピン115と相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材の各々の摺動面の一部または全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層116が設けられた構成とされる。チェーン構成部材としてブシュ125を含み、ブシュ125が相互摺動チェーン構成部材を構成する場合には、ブシュ125の摺動面の一部または全部に、表面硬化層126が設けられた構成とされる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン構成部材として、複数のリンクプレートと、複数のピンとを少なくとも含むチェーンであって、
前記ピン及び該ピンと相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材の各々の摺動面の一部または全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層が形成されていることを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記チェーン構成部材が、前記ピンに外嵌されるブシュを含み、
前記相互摺動チェーン構成部材が、前記ブシュであることを特徴とする請求項1に記載のチェーン。
【請求項3】
前記ピンにおける表面硬化層の摺動面粗さが、前記相互摺動チェーン構成部材の表面硬化層の摺動面粗さよりも小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン。
【請求項4】
前記ピンにおける表面硬化層の摺動面粗さRkが0.04~0.30μmであり、
前記相互摺動チェーン構成部材の表面硬化層の摺動面粗さRkが0.8μm~2.0μmであることを特徴とする請求項3に記載のチェーン。
【請求項5】
前記ピンにおける表面硬化層及び前記相互摺動チェーン構成部材における表面硬化層の各々は、1600HV以上3500HV以下の摺動面硬度を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のチェーン。
【請求項6】
前記ブシュの内周面が凹形状を有することを特徴とする請求項2に記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン構成部材として、複数のリンクプレートと、複数のピンとを少なくとも含むチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
チェーン伝動機構に用いられるチェーンとして、幅方向に複数の内プレートを有する内リンクと、チェーン幅方向に複数の外プレートを有する外リンクとを備え、複数の内リンク及び外リンクがピンを介してチェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結されてなるローラチェーン、ブシュチェーン、サイレントチェーン等が知られている。
【0003】
このような各種のチェーンにおいて、チェーン構成部材同士の摩耗を抑制して耐久性を向上させるために、ピンと該ピンと相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材のそれぞれの表面粗さ、ピンの表面処理及び前記相互摺動チェーン構成部材の成形方法等を調整することが行われている。
例えば、特許文献1には、カーボンスーツが混入している潤滑油条件下での摩耗伸び性能を向上させると共に、油膜切れに起因する異常摩耗の発生を抑制すべく、ピンの表面が炭化クロム層又は炭化バナジウム層により被覆されてなるチェーンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-281027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のチェーンにおいては、相互に摺動する2つのチェーン構成部材のうち、いずれか一方のチェーン構成部材の摺動面にのみ表面硬化処理が施されるため、該一方のチェーン構成部材による他方のチェーン構成部材に対する攻撃性が増大する。このため、チェーン構成部材同士の摺動による摩耗が促進され、チェーンの伸びが生ずるという問題がある。
また、表面硬化処理を施していないチェーン構成部材の摺動面硬度は、ビッカース硬度で例えば800~1000HVの範囲内である。従って、ケイ素粒子やアルミナ粒子などのコンタミが潤滑油に混入した場合には、ケイ素やアルミナよりも硬度の小さいチェーン構成部材の摺動面に、ケイ素粒子やアルミナ粒子による摩耗が促進され、チェーンの伸びの原因となるおそれがある。
一方、相互に摺動する複数のチェーン構成部材の摺動面の表面粗さが向上するようにチェーン構成部材を表面加工したチェーンにおいては、摺動面において潤滑油が保持されにくくなると共に、コンタミなどの異物が摺動面間に入り込んだ際に、該異物に起因するアグレシブ摩耗が促進されることとなるため、チェーン伸びの原因となる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、耐摩耗性に優れ、チェーンの伸びが抑制されるとともに振動や騒音が低減され、駆動効率を向上させることのできるチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チェーン構成部材として、複数のリンクプレートと、複数のピンとを少なくとも含むチェーンであって、前記ピン及び該ピンと相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材の各々の摺動面の一部または全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層が形成された構成とされることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本請求項1に係るチェーンによれば、ピン及び該ピンと相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材の各々の摺動面の一部または全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層が形成されていることにより、ピンと相互摺動チェーン構成部材との摺動による摩耗が抑制されるので、チューンの伸びを抑制することができる。
また、チューンの伸びが抑制されることで、スプロケットとの正確な噛み合いが維持されるので、駆動効率の低下を回避することができると共に振動や騒音を低減することができる。
【0009】
本請求項2に記載の構成によれば、ブシュチェーン、ローラチェーン、ブシュドサイレントチェーンなどのブシュとピンで構成される摺動部において、ピンとブシュとの摺動による摩耗を抑制してチューンの伸びを抑制することができる。
【0010】
本請求項3に記載の構成によれば、ピンと相互摺動チェーン構成部材との摺動面間に入り込んだコンタミを効率よく逃がすことができると共に相互摺動チェーン構成部材の摺動面に潤滑油が保持されやすくなるので、ピンと相互摺動チェーン構成部材の耐摩耗性が向上し、チェーンの伸びを一層確実に抑制することができる。
本請求項4に記載の構成によれば、摩耗性能向上によるチェーンの伸び抑制効果を確実に得ることができる。
【0011】
本請求項5に記載の構成によれば、例えばケイ素やアルミナなどのコンタミが潤滑油に混入した場合であっても、ピンにおける表面硬化層及び相互摺動チェーン構成部材における表面硬化層の各々の硬度が該コンタミより高硬度であるために、ピンと相互摺動チェーン構成部材との摺動面間に該コンタミに起因する摩耗を確実に抑制することができる。
【0012】
本請求項6に記載の構成によれば、ピンとの摺動によりブシュが摩耗した場合であっても、ブシュにおける摺動面粗さが保持されるため、ピンとブシュとの摺動面間に入り込むコンタミの逃がし効果及びブシュの摺動面での潤滑油保持効果を持続させることができ、所期の耐摩耗性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
図2図1において破線で示す円で囲まれた領域を示す拡大図である。
図3】ブシュの他の構成例を概略的に示す断面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
図5図4において破線で示す円で囲まれた領域を示す拡大図である。
図6】本発明の第3実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
図7図6において破線で示す円で囲まれた領域を示す拡大図である。
図8】本発明の第4実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
図9図8において破線で示す円で囲まれた領域を示す拡大図である。
図10】本発明の第5実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
図11図10において破線で示す円で囲まれた領域を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るチェーンについて、図面に基づいて説明する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
このチェーン100は、ローラチェーンとして構成されており、チェーン構成部材として、外リンクプレート111と、内リンクプレート121と、ピン115と、ブシュ125と、ローラ130とを含む。
このチェーン100は、左右一対の外リンクプレート111に前後一対のピン115を連結して成る複数の外リンク110と、左右一対の外リンクプレート111間に配置された左右一対の内リンクプレート121に前後一対の円筒状のブシュ125を連結して成る複数の内リンク120と、ブシュ125に外嵌されるローラ130とを備えている。これら複数の外リンク110および複数の内リンク120は、ブシュ125内にピン115を挿入することで、チェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結されている。
【0016】
本実施形態のチェーン100では、図2に示すように、ピン115及びピン115と相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材であるブシュ125の各々の摺動面の全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層116,126が形成されている。
これらの材料で表面硬化層を形成することで、ピン115の材料を単純に熱処理等で硬化したものに比べ、表面硬度を大きくすることが可能であり、摩耗を低減することができる。しかも、ピン115及びブシュ125の各々の摺動面に表面硬化層116,126を形成することで、表面硬化層116,126による摺動相手への攻撃性が低減されるので、ピン115及びブシュ125が相互に摺動することによる摩耗が抑制され、チェーン100の伸びを抑制される。
【0017】
本実施形態のチェーン100では、ピン115は、外周面の全部に表面硬化層116が形成された構成とされているが、ピン115の外周面における少なくともブシュ125の内周面と摺動する箇所に表面硬化層116が形成された構成とされていればよい。
また、ブシュ125は、ピン115の外周面と摺動する摺動面を構成する内周面に表面硬化層126が形成された構成とされているが、外リンクプレート111の内側面と接触するブシュ125の両端面及びローラ130の内周面と接触するブシュ125の外周面にも表面硬化層が形成された構成とされていてもよい。
【0018】
表面硬化層116,126の厚みは、例えば2μm以上30μm以下であることが好ましく、これにより、良好な耐摩耗性が得られ、チェーンの耐摩耗伸び性を向上させることができる。
【0019】
ピン115における表面硬化層116の摺動面粗さは、ブシュ125における表面硬化層126の摺動面粗さよりも小さいことが好ましい。具体的には、ピン115における表面硬化層116の摺動面粗さRkは、0.04~0.30μmであることが好ましく、ブシュ125における表面硬化層126の摺動面粗さRkは、0.8~2.0μmであることが好ましい。
ピン115における表面硬化層116の摺動面粗さが、ブシュ125における表面硬化層126の摺動面粗さよりも小さいことにより、アブレシブ摩耗及び油膜切れの発生を確実に抑制することが可能となる。また、ピン115における表面硬化層116の摺動面粗さ及びブシュ125における表面硬化層126の摺動面粗さが上記数値範囲内であることにより、ピン115の外周面とブシュ125の内周面との間に入り込んだコンタミを逃がしやすくなるとともにブシュ125の摺動面に潤滑油が保持されやすくなり、ピン115及びブシュ125の摩耗性能が向上し、チェーン100の伸びを確実に抑制することができる。
ここに、摺動面粗さRkは、JIS B0671-2:2002に準拠した有効負荷粗さであるが、表面粗さのパラメータは、実質的にRkで上記数値範囲に相当する数値範囲を含むものであれば、他のパラメータで代用してもよい。
【0020】
ピン115における表面硬化層116及びブシュ125における表面硬化層126の各々は、ビッカース硬度で1600HV以上3500HV以下の摺動面硬度を有することが好ましい。これにより、ケイ素粒子やアルミナ粒子などの高硬度の汚染要因物(コンタミ)が潤滑油に混入した場合であっても、表面硬化層116,126がケイ素やアルミナよりも高硬度を有することから、汚染要因物に起因するアブレシブ摩耗がピン115とブシュ125の各々の摺動面間に生ずることを確実に抑制することができる。
【0021】
本実施形態のチェーン100では、ブシュ125は円筒状とされその内周面が円柱の周面に沿った形状とされているが、図3に示すように、ブシュ125として、凹形状の内周面を有するものを用いることが好ましい。このような構成であることにより、ピン115との摺動によりブシュ125が摩耗しても摺動面粗さを保持し続けるため、ピン115の外周面とブシュ125の内周面との間に入り込んだコンタミを逃がしやすくなるとともにブシュ125の摺動面に潤滑油が保持されやすくなり、ピン115及びブシュ125の摩耗性能を一層向上させることができる。
【0022】
<第2実施形態>
以上においては、ローラチェーンとして構成されたチェーンを例に挙げて本発明について説明したが、本発明のチェーンは、ローラチェーンに限定されるものではない。
例えば、図4及び図5に示すように、本発明のチェーンは、上記第1実施形態に係るローラチェーンにおいて、内リンク120のブシュ125にローラを組込まないブシュチェーンとして構成されていてもよい。図4及び図5においては、第1実施形態に係るローラチェーンと同一の構成部材については、便宜上、同一の符号を付してある。
【0023】
本実施形態のチェーン100は、チェーン構成部材として、外リンクプレート111と、内リンクプレート121と、ピン115と、ブシュ125とを含み、ピン115及びピン115と相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材であるブシュ125の各々の摺動面の全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層116,126が形成されている。
【0024】
本実施形態のチェーンにおいては、ピン115の外周面の全部に表面硬化層116が形成された構成とされているが、表面硬化層116は、ピン115の外周面における少なくともブシュ125の内周面と摺動する箇所に設けられた構成とされていればよい。
また、ブシュ125は、ピン115の外周面と摺動する摺動面を構成する内周面に表面硬化層126が形成された構成とされているが、外リンクプレート111の内側面と接触するブシュ125の両端面及びローラ130の内周面と接触するブシュ125の外周面にも表面硬化層が形成された構成とされていてもよい。
【0025】
本実施形態のチェーン100においても、ブシュ125として、凹形状の内周面を有するものを用いることが好ましい。
【0026】
<第3実施形態>
図6は、本発明の第3実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
このチェーン100は、サイレントチェーンとして構成されており、チェーン構成部材として、外リンクプレート111と、中間リンクプレート140と、内リンクプレート121と、ピン115とを含む。
具体的には、本実施形態のチェーン100は、ガイド列を構成する複数の外リンク110と、非ガイド列を構成する複数の内リンク120と、長手方向で隣り合う外リンク110及び内リンク120をチェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結するピン115とを備える。外リンク110は、前後一対のピン孔が形成された左右一対の外リンクプレート111と、左右一対の外リンクプレート111間に配置され前後一対のピン孔が形成された中間リンクプレート140とを備える。内リンク120は、外リンクプレート111及び中間リンクプレート140間の各々に配置され前後一対のピン孔が形成された左右一対の内リンクプレート121を備える。
ピン115は、両端が外リンクプレート111のピン孔に圧入固定され、中間リンクプレート140のピン孔に挿通されるとともに内リンクプレート121のピン孔に緩挿されることで、これら複数の外リンク110及び複数の内リンク120が屈曲可能に連結されている。
本実施形態のチェーン100では、外リンク110を構成する中間リンクプレート140の数が1つとされ、内リンク120を構成する内リンクプレート121が一対とされているが、外リンク110における中間リンクプレート140を2つ以上有していてもよく、また、内リンク120を構成する内リンクプレート121を2対以上有していてもよい。
【0027】
本実施形態のチェーン100では、図7に示すように、ピン115及びピン115と相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材である内リンクプレート121の各々の摺動面の全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層116,122が形成されている。
ピン115は、外周面の全部に表面硬化層116が形成された構成とされているが、ピン115の外周面における少なくとも内リンクプレート121のピン孔の内周面と摺動する箇所に設けられた構成とされていればよい。
また、内リンクプレート121は、ピン115の外周面と摺動する摺動面を構成するピン孔の内周面に表面硬化層122が形成された構成とされているが、外リンクプレート111の内側面及び中間リンクプレート140の側面と対向する内リンクプレート121の両側面にも表面硬化層が形成された構成とされていてもよい。
【0028】
本発明のチェーンをサイレントチェーンとして構成する場合においては、図8乃至図11に示すように、ピン115に外嵌されるブシュ125を備えた構成、すなわちブシュドサイレントチェーンとして構成されていてもよい。
【0029】
<第4実施形態>
図8は、本発明の第4実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
このチェーン100は、ブシュドサイレントチェーンとして構成されており、チェーン構成部材として、外リンクプレート111と、内リンクプレート121と、ピン115と、ブシュ125とを含む。
具体的には、本実施形態のチェーン100は、左右一対の外リンクプレート111に前後一対のピン115を連結して成る複数の外リンク110と、左右一対の外リンクプレート111間に配置された複数の内リンクプレート121の各々に前後一対の円筒状のブシュ125を連結して成る複数の内リンク120とを備えている。これら複数の外リンク110および複数の内リンク120は、ブシュ125内にピン115を挿入することで、チェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結されている。
【0030】
本実施形態のチェーン100では、図9に示すように、ピン115及びピン115と相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材であるブシュ125の各々の摺動面の全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層116,126が形成されている。
本実施形態のチェーン100では、ピン115は、外周面の全部に表面硬化層116が形成された構成とされているが、ピン115の外周面における少なくともブシュ125の内周面と摺動する箇所に設けられた構成とされていればよい。
また、ブシュ125は、ピン115の外周面と摺動する摺動面を構成する内周面に表面硬化層126が形成された構成とされているが、外リンクプレート111の内側面と接触するブシュ125の両端面及びブシュ125の外周面にも表面硬化層が形成された構成とされていてもよい。
【0031】
本実施形態のチェーン100においても、ブシュ125として、凹形状の内周面を有するものを用いることが好ましい。
【0032】
<第5実施形態>
図10は、本発明の第5実施形態に係るチェーンの一構成例における一部を示す断面図である。
このチェーン100は、ブシュドサイレントチェーンとして構成されており、チェーン構成部材として、外リンクプレート111と、中間リンクプレート140と、内リンクプレート121と、ピン115と、ブシュ125とを含む。
具体的には、本実施形態のチェーン100は、ガイド列を構成する複数の外リンク110と、非ガイド列を構成する複数の内リンク120とを備える。
外リンク110は、前後一対のピン孔が形成された左右一対の外リンクプレート111と、両端部が外リンクプレート111のピン孔に圧入固定された前後一対のピン115と、左右一対の外リンクプレート111間に配置され各々のピン115が前後一対のピン孔に挿通される中間リンクプレート140とを備える。
内リンク120は、外リンクプレート111及び中間リンクプレート140間の各々に配置され前後一対のピン孔が形成された複数の内リンクプレート121と、各々の内リンクプレート121におけるピン孔に圧入固定されたブシュ125を備える。
これら複数の外リンク110および複数の内リンク120は、ブシュ125内にピン115を挿入することで、チェーン長手方向に交互に屈曲可能に連結されている。
【0033】
本実施形態のチェーン100では、図11に示すように、ピン115及びピン115と相互に摺動する相互摺動チェーン構成部材であるブシュ125の各々の摺動面の全部に、Cr炭化物、Ti炭化物、V炭化物、Nb炭化物、Cr窒化物、Ti窒化物、V窒化物及びNb窒化物のいずれか1つを含む表面硬化層116,126が形成されている。
本実施形態のチェーン100では、ピン115は、外周面の全部に表面硬化層116が形成された構成とされているが、ピン115の外周面における少なくともブシュ125の内周面と摺動する箇所に表面硬化層が設けられた構成とされていればよい。
また、ブシュ125は、ピン115の外周面と摺動する摺動面を構成する内周面に表面硬化層126が形成された構成とされているが、外リンクプレート111の内側面及び中間リンクプレート140の一方の側面と接触するブシュ125の両端面及びブシュ125の外周面にも表面硬化層が形成された構成とされていてもよい。
【0034】
本実施形態のチェーン100においても、ブシュ125として、凹形状の内周面を有するものを用いることが好ましい。
【0035】
以下、本発明のチェーンの特性を調べるために行った摩耗試験について説明する。
【0036】
図1及び図2に示す構成に従って、本発明に係る試験用のローラチェーン(以下、「発明品1」と称する。)を作製した。チェーンのピッチは8mmとした。
発明品1において、ピンの外周面及びブシュの内周面の各々に形成された表面硬化層は、炭化クロム層又は炭化バナジウム層を含み、厚みを15μmとした。表面硬化層の摺動面硬度はビッカース硬度で2500HVに調整し、ピンにおける表面硬化層の摺動面粗さをRkで0.04~0.30μmの範囲内、ブシュにおける表面硬化層の摺動面粗さをRkで0.8μm~2.0μmの範囲内で調整した。
【0037】
また、ピンにおける表面硬化層及びブシュにおける表面硬化層の摺動面硬度を1900HVとしたことの他は発明品1と同様の構成を有するローラチェーン(以下、「発明品2」と称する。)及びピンにおける表面硬化層及びブシュにおける表面硬化層の摺動面硬度を3200HVとしたことの他は発明品1と同様の構成を有するローラチェーン(以下、「発明品3」と称する。)を作製した。
さらにまた、ピンにおける表面硬化層の摺動面粗さをRkで0.04μm且つブシュにおける表面硬化層の摺動面粗さをRkで0.73μmとしたことの他は発明品1と同様の構成を有するローラチェーン(以下、「参考品1」と称する。)を作製した。
さらにまた、ピンにおける表面硬化層の摺動面粗さをRkで0.36μmとしたことの他は発明品1と同様の構成を有するローラチェーン(以下、「参考品2」と称する。)を作製した。
さらにまた、ブシュにおける表面硬化層の摺動面粗さをRkで2.4μmとしたことの他は発明品1と同様の構成を有するローラチェーン(以下、「参考品3」と称する。)を作製した。
【0038】
さらにまた、ブシュの内周面には表面硬化層を形成せず、ピンの外周面のみに表面硬化層が形成されたことの他は発明品1と同様の構成を有するローラチェーン(以下、「通常品」と称する。)を用意した。
【0039】
上記において作製した発明品1~発明品3、参考品1~参考品3及び通常品の各々について、下記に示す試験条件で、摩耗試験を行い、通常品におけるピンの摩耗量とブシュの摩耗量の合計摩耗量を100%とした場合の、発明品1~発明品3及び参考品1~参考品3の各々におけるピンの摩耗量とブシュの摩耗量の合計摩耗量の相対値を調べた。結果を下記表1に示す。
<摩耗伸び試験条件>
スプロケット歯数:18枚×36枚、
回転速度:3000r/min、
潤滑油:通常使用されるエンジンオイルに11質量%のシリコン粒子(平均粒径17μm)及び9質量%のアルミナ粒子(平均粒径17μm)を添加したコンタミ油
油量:1L/min
なお、発明品及び比較のために示した通常品、参考品のチェーン伸び試験の結果は、上記の条件で通常のモータリング試験機を用いてチェーン伸び試験を行った結果にのみ基づいている。しかしながら、上記の試験方法は、当業界で通常用いられている再現性の高い試験方法であるので、他の試験方法を行ったとしても、同じ傾向が示されると推認される。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示した結果から明らかなように、発明品1~発明品3によれば、通常品に比して摩耗量を大幅に低減することができることが確認された。特に、発明品1では、摩耗量を通常品に対しておよそ1/2程度の大きさに低減することができることが確認された。
また、参考品1~参考品3の各々は、いずれも、摩耗量を通常品よりも低減することができるものの、摩耗量は発明品1~発明品3より大きくなってしまい、ピン及びブシュの摩耗性能が低下することが確認された。
【0042】
以上、本発明の一実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、上記第1実施形態に係るローラチェーン、第4実施形態に係るブシュドサイレントチェーン及び第5実施形態に係るブシュドサイレントチェーンにおいては、ブシュの両端部が内リンクプレートに圧入されて固定された構成のものについて説明したが、内リンクプレートの間隔が固定されるよう構成されていれば、ブシュが内リンクプレートに圧入されて固定された構成とされている必要はない。
【符号の説明】
【0043】
100 ・・・ チェーン
110 ・・・ 外リンク
111 ・・・ 外リンクプレート
115 ・・・ ピン
116 ・・・ 表面硬化層
120 ・・・ 内リンク
121 ・・・ 内リンクプレート
122 ・・・ 表面硬化層
125 ・・・ ブシュ
126 ・・・ 表面硬化層
130 ・・・ ローラ
140 ・・・ 中間リンクプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11