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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132042
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】シートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/19 20060101AFI20230914BHJP
   B60R 22/16 20060101ALI20230914BHJP
   B60R 22/28 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B60R22/19
B60R22/16
B60R22/28 106
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037138
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 修司
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018BA05
3D018CB02
3D018CB03
3D018DA05
(57)【要約】
【課題】肩側ウェビングにおける腰部付近の張力を十分に調整することができるシートベルト装置を提供する。
【解決手段】シートベルト装置1は、乗員の一方の腰部近傍に配置されるバックルに結合可能なタング21と、乗員の肩部から一方の腰部にかけて斜めに掛け渡され、タング21を介して、一方の腰部から他方の腰部にかけて掛け渡されるウェビング22と、ウェビング22におけるタング21よりも乗員の肩部側に位置する肩側ウェビング30のタング21近傍に設けられ、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、肩側ウェビング30におけるタング21近傍の張力を調整する張力調整部23と、を備える。張力調整部23は、一定以上の張力により塑性変形して肩側ウェビング30の張力を調整する変形部材90を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の一方の腰部近傍に配置されるバックルに結合可能なタングと、
乗員の肩部から前記一方の腰部にかけて斜めに掛け渡され、前記タングを介して、前記一方の腰部から他方の腰部にかけて掛け渡されるウェビングと、
前記ウェビングにおける前記タングよりも前記乗員の肩部側に位置する肩側ウェビングの前記タング近傍に設けられ、前記肩側ウェビングに一定以上の張力がかかった場合に、前記肩側ウェビングにおける前記タング近傍の張力を調整する張力調整部と、を備える、
シートベルト装置。
【請求項2】
前記張力調整部は、前記一定以上の張力により塑性変形又は弾性変形して前記肩側ウェビングの張力を調整する変形部材を有する、
請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記変形部材は、互いに摺動可能に連結された第1の連結部材と第2の連結部材を有し、
前記第1の連結部材、前記第2の連結部材のうちの一方は、前記肩側ウェビングに接続され、他方は、前記タングに接続され、
前記肩側ウェビングに前記一定以上の張力がかかった場合に、前記第1の連結部材又は前記第2の連結部材の少なくともいずれかが塑性変形又は弾性変形しながら前記第1の連結部材と前記第2の連結部材が摺動して前記肩側ウェビングの張力を調整する、
請求項2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
前記第1の連結部材は、第1の面から第2の面に通じる第1の孔及び第2の孔を有し、
前記第2の連結部材は、前記第1の連結部材の前記第1の面から前記第2の面に向かって前記第1の孔を通過し、その後前記第1の連結部材の前記第2の面から前記第1の面に向かって前記第2の孔を通過する帯状の形状を有し、
前記肩側ウェビングに前記一定以上の張力がかかった場合に、前記第2の連結部材が塑性変形しながら前記第2の連結部材と前記第1の連結部材が摺動する、
請求項3に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
前記第2の連結部材と前記第1の連結部材の相対的な摺動を止めるストッパーをさらに備える、
請求項3又は4に記載のシートベルト装置。
【請求項6】
前記変形部材は、前記肩側ウェビングを屈曲させた状態で保持するように構成され、
前記肩側ウェビングに前記一定以上の張力がかかった場合に、前記変形部材が塑性変形又は弾性変形しながら前記肩側ウェビングを直線状に延ばして前記肩側ウェビングの張力を調整する、
請求項2に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
前記変形部材は、屈曲させた状態の前記肩側ウェビングに接触する複数のローラを有する、
請求項6に記載のシートベルト装置。
【請求項8】
前記タングと前記変形部材をつなぐつなぎ部材をさらに備える、
請求項6または7に記載のシートベルト装置。
【請求項9】
前記ウェビングにおける前記タングよりも前記乗員の前記他の腰部側に位置する腰側ウェビングと前記肩側ウェビングは、前記タングに対し摺動しないように固定されている、
請求項1から8のいずれかに記載のシートベルト装置。
【請求項10】
前記タングは、
前記ウェビングを摺動自在に保持する保持部と、
前記ウェビングが前記乗員の前記他の腰部側に一定値以上の力で摺動したときに当該摺動を止めるロック部と、を有する、
請求項1から8のいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両において、車両衝突時に、運転者や同乗者を保護するための、いわゆる三点式シートベルト装置が提案されている。三点式シートベルト装置では、タングがバックルに適切に結合されたとき、座席に座っている乗員の肩部から胸部を横切るように一方の腰部に延在する肩側ウェビングと、タングを介して、一方の腰部から他方の腰部に腰部を横切るように延在する腰側ウェビング(全体で「ウェビング」ともいう。)によって乗員を保護している(特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、上述のウェビングの乗員の肩部側には、ウェビングを自由に引き出し可能とし、一定以上の慣性がかかった場合にウェビングの引き出しをロックするリトラクタが設けられている。リトラクタには、張力が所定以上に増大しないようにロードリミッターが設けられ、乗員にかかるウェビングの張力をコントロールするものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-51527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようなリトラクタは、乗員の肩部から胸部付近までの肩側ウェビングの張力をコントロールできるが、乗員の胸部と肩部ウェビングとの間に大きな摩擦が生じたときには、乗員の胸部付近から腰部まで(腰部付近)の肩側ウェビングの張力を十分にコントロールすることは難しい。
【0006】
本出願はかかる点に鑑みてなされたものであり、肩側ウェビングにおける腰部付近の張力を十分に調整することができるシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るシートベルト装置は、乗員の一方の腰部近傍に配置されるバックルに結合可能なタングと、乗員の肩部から一方の腰部にかけて斜めに掛け渡され、タングを介して、一方の腰部から他方の腰部にかけて掛け渡されるウェビングと、ウェビングにおけるタングよりも乗員の肩部側に位置する肩側ウェビングのタング近傍に設けられ、肩側ウェビングに一定以上の張力がかかった場合に、肩側ウェビングにおけるタング近傍の張力を調整する張力調整部と、を備える。
【0008】
本態様によれば、肩側ウェビングにおける腰部付近の張力を十分に調整することができる。
【0009】
上記態様において、張力調整部は、一定以上の張力により塑性変形又は弾性変形して肩側ウェビングの張力を調整する変形部材を有するようにしてよい。
【0010】
上記態様において、変形部材は、互いに摺動可能に連結された第1の連結部材と第2の連結部材を有し、第1の連結部材、第2の連結部材のうちの一方は、肩側ウェビングに接続され、他方は、タングに接続されており、肩側ウェビングに一定以上の張力がかかった場合に、第1の連結部材又は第2の連結部材の少なくともいずれかが塑性変形又は弾性変形しながら第1の連結部材と第2の連結部材が摺動して肩側ウェビングの張力を調整するようにしてよい。
【0011】
上記態様において、第1の連結部材は、第1の面から第2の面に通じる第1の孔及び第2の孔を有し、第2の連結部材は、第1の連結部材の第1の面から第2の面に向かって第1の孔を通過し、その後第1の連結部材の第2の面から第1の面に向かって第2の孔を通過する帯状の形状を有し、肩側ウェビングに一定以上の張力がかかった場合に、第2の連結部材が塑性変形しながら第2の連結部材と前記第1の連結部材が摺動するようにしてよい。
【0012】
上記態様において、シートベルト装置は、第2の連結部材と第1の連結部材の相対的な摺動を止めるストッパーをさらに備えてよい。
【0013】
上記態様において、変形部材は、肩側ウェビングを屈曲させた状態で保持するように構成され、肩側ウェビングに一定以上の張力がかかった場合に、変形部材が塑性変形又は弾性変形しながら肩側ウェビングを直線状に延ばして肩側ウェビングの張力を調整するようにしてよい。
【0014】
上記態様において、変形部材は、屈曲させた状態の肩側ウェビングに接触する複数のローラを有するようにしてよい。
【0015】
上記態様において、シートベルト装置は、タングと変形部材をつなぐつなぎ部材をさらに備えてよい。
【0016】
上記態様において、ウェビングにおけるタングよりも乗員の他の腰部側に位置する腰側ウェビングと肩側ウェビングは、タングに対し摺動しないように固定されていてよい。
【0017】
上記態様において、タングは、ウェビングを摺動自在に保持する保持部と、ウェビングが乗員の他の腰部側に一定値以上の力で摺動したときに当該摺動を止めるロック部と、を有するようにしてよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、肩側ウェビングにおける腰部付近の張力を十分に調整できるシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施の形態に係るシートベルト装置の構成の一例を示す説明図である。
図2】バックルと、タングと、張力調整部の変形部材の構成を示す斜視図である。
図3】タングと、張力調整部の構成を示す断面図である。
図4】変形部材の第1の連結部材と第2の連結部材が摺動している状態の張力調整部を示す断面図である。
図5】変形部材の第1の連結部材と第2の連結部材が摺動し、肩側ウェビングが直線状に延びた状態の張力調整部を示す断面図である。
図6】腰側ウェビングの端部にリトラクタを設けた場合のシートベルト装置の構成の一例を示す説明図である。
図7図7(A)は、腰側ウェビングが一方側に引っ張られたときのアジャストタングの構成を示す説明図であり、図7(B)は、肩側ウェビングが他方側に引っ張られたときのアジャストタングの構成を示す説明図であり、図7(C)は、腰側ウェビングの長さが調整されるときのアジャストタングの構成を示す説明図である。
図8】第2の実施の形態における張力調整部の変形部材の構成を示す斜視図である。
図9】第2の実施の形態における張力調整部とタングの構成を示す断面図である。
図10】ロック部材が解放位置にあるタングの構成を示す断面図である。
図11】ロック部材がロック位置にあるタングの構成を示す断面図である。
図12】タングがウェビングをロックした状態の張力調整部を示す断面図である。
図13】変形部材が塑性変形した状態の張力調整部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態の一例について説明する。
【0021】
<第1の実施の形態>
図1は、本実施の形態に係るシートベルト装置1の構成の一例を示す説明図である。図1に示すようにシートベルト装置1は、いわゆる三点式シートベルト装置である。シートベルト装置1は、車両シート10に着座した乗員Aの一方の腰部近傍に配置されるバックル20と、バックル20に結合可能なタング21と、乗員Aの肩部から一方の腰部にかけて斜めに掛け渡され、タング21を介して、一方の腰部から他方の腰部にかけて掛け渡されるウェビング22と、ウェビング22の肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、肩側ウェビング30におけるタング21近傍の張力を調整する張力調整部23と、リトラクタ24と、肩側アンカー25と、腰側アンカー26を備えている。肩側ウェビング30は、ウェビング22における、タング21よりも乗員Aの肩部側に位置する区間である。また、ウェビング22における、タング21よりも乗員Aの腰部側に位置する区間は、腰側ウェビング31とする。
【0022】
バックル20は、車両シート10の座部11の一方の側部に設けられ、タング21を挿入し結合可能に構成されている。
【0023】
リトラクタ24は、車両シート10、又は車両シート10の近傍の車体に設けられている。リトラクタ24は、ウェビング22における、乗員Aの肩部側の端部に接続され、ウェビング22を一定の力で巻き取ることができる。リトラクタ24は、ウェビング22に一定の力を付加することでリトラクタ24からウェビング22が引き出されるように構成されている。また、リトラクタ24は、一定の慣性がかかったときにウェビング22の引き出しを止めるロック機能を有している。さらにリトラクタ24は、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかったときに肩側ウェビング30のロックを緩和するロードリミッター機能を有している。
【0024】
肩側アンカー25は、車両シート10の背凭れ部12の肩部付近、或いは背凭れ部12の肩部近傍の車体に設けられている。肩側アンカー25は、肩側ウェビング30を摺動自在に保持する。肩側アンカー25は、肩側ウェビング30が挿通する挿通孔40を有している。肩側ウェビング30は、肩側アンカー25の挿通孔40に摺動自在に挿通されている。
【0025】
腰側アンカー26は、ウェビング22における、乗員Aのバックル20と反対側の腰部側の端部に接続されている。腰側アンカー26は、車両シート10の座部11における、バックル20と反対側の側部に固定されている。
【0026】
図2は、バックル20と、タング21と、張力調整部23の変形部材90の構成を示す斜視図である。図3は、タング21と、張力調整部23の構成を示す断面図である。
【0027】
図2及び図3に示すようにタング21は、バックル20に挿入され結合されるタングプレート50と、ウェビング22が保持され、後述の変形部材90が固定される樹脂モールド51を有している。
【0028】
タングプレート50は、例えば金属製である。タングプレート50は、板形状を有し、樹脂モールド51から挿入方向Pに向けて突出している。
【0029】
樹脂モールド51は、樹脂製である。樹脂モールド51は、ウェビング22を摺動自在に保持する。樹脂モールド51は、ウェビング22が挿通する第1の挿通孔60と第2の挿通孔61を有している。すなわち、樹脂モールド51は、方形の枠状部70と、枠状部70の中央に設けられ、ウェビング22が引っ掛けられる引掛け部71を有している。
【0030】
例えば枠状部70は、図2に示すように挿入方向Pの前方に位置し、挿入方向Pと直角の幅方向Yに延設される前方辺部80と、挿入方向Pの後方に位置し、幅方向Yに延設される後方辺部81と、前方辺部80と後方辺部81の幅方向Yの両端部を接続し、挿入方向Pに延設される側方辺部82、83を有している。
【0031】
引掛け部71は、板形状を有し、枠状部70の挿入方向Pの中央に位置し幅方向Yに延設されている。図3に示すように前方辺部80と引掛け部71との間に第1の挿通孔60が形成され、引掛け部71と後方辺部81との間に第2の挿通孔61が形成されている。
【0032】
張力調整部23は、肩側ウェビング30のタング21の近傍(乗員Aの胸部よりもタング21側の区間)にかかる張力を調整するものである。図2及び図3に示す張力調整部23は、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、その張力により塑性変形して肩側ウェビング30の張力を調整する変形部材90を有する。
【0033】
変形部材90は、互いに摺動可能に連結された第1の連結部材100と第2の連結部材101を有している。第1の連結部材100は、肩側ウェビング30の第1の部分30aに接続され、第2の連結部材101は、タング21に接続されている。
【0034】
第1の連結部材100は、金属製である。第1の連結部材100は、例えば連結ベルト120を介して肩側ウェビング30に接続される枠状部材110と、第2の連結部材101と連結される板状部材111を有している。
【0035】
枠状部材110は、方形の枠形状を有し、中央に連結ベルト120が挿通する挿通孔130を有している。連結ベルト120は、一端が肩側ウェビング30の第1の部分30aに接続され、他端が枠状部材110に接続されている。
【0036】
板状部材111は、方形の板形状を有している。板状部材111における乗員Aの肩部側(肩方向X1)の端部は、枠状部材110のタング21側(タング方向X2)の端部に固着されている。
【0037】
板状部材111は、中央付近に、第2の連結部材101が挿通する第1の孔140及び第2の孔141と、第1の孔140及び第2の孔141の間に位置する中間部142を有している。第1の孔140と第2の孔141は、肩方向X1に並べて配置されている。
【0038】
第2の連結部材101は、金属製である。第2の連結部材101は、第1の連結部材100よりも塑性変形しやすい構成を有する。第2の連結部材101は、細長の帯状の形状を有している。
【0039】
第2の連結部材101のタング21側の端部は、タング21の後方辺部81に巻き付けられてタング21に固定されている。第2の連結部材101は、タング21から第1の連結部材100の板状部材111上に達し、板状部材111の第1の孔140を第1の面111aから第2の面111bに向けて通過し、その後湾曲し、第2の孔141を第2の面111bから第1の面111aに向けて通過し、その後板状部材111に沿って肩方向X1に延びている。第2の連結部材101における、第2の孔141を通過した後の肩方向X1に延びる延伸部分101aは、例えば10cm以上の長さを有する。かかる構成により、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、第2の連結部材101が塑性変形しながら第1の連結部材100が第2の連結部材101に対し肩方向X1に摺動し、それによって肩側ウェビング30のタング21近傍の張力を調整することができる。このとき、変形部材90は、肩側ウェビング30を実質的に伸長しつつ、張力に対する抗力を発生させて肩側ウェビング30の張力を所定範囲内に維持することができる。
【0040】
第1の連結部材100上には、第1の連結部材100と第2の連結部材101の摺動方向を規定するガイド部材150が設けられている。ガイド部材150は、例えば第2の連結部材101の延伸部分101aを上から覆うように設けられている。
【0041】
ウェビング22は、乗員Aの肩部側からタング21の第2の挿通孔61を挿通し、引掛け部71で折り返えされ、第1の挿通孔60を挿通し、乗員Aの腰部側に延びる。タング21の肩部側の肩側ウェビング30と、タング21の腰部側の腰側ウェビング31は、タング21の近傍(縫合部160)で互いに縫製され固定されている。これにより、肩側ウェビング30と腰側ウェビング31は、それぞれタング21に対し摺動しないように固定されている。また、肩側ウェビング30の第1の部分30aからタング21までの区間30bが緩んだ状態になるように、肩側ウェビング30がタング21に対し固定されている。肩側ウェビング30の区間30bは、第2の連結部材101と第1の連結部材100の相対的な摺動を止めるストッパーとして機能する。
【0042】
図1に示したように変形部材90は、第1の連結部材100と第2の連結部材101を覆うカバー170を有していてもよい。
【0043】
次に、以上のように構成されたシートベルト装置1の動作について説明する。
【0044】
図1に示すようにタング21がバックル20に結合され、ウェビング22は、車両シート10に着座した乗員Aの肩部から一方の腰部にかけて斜めに掛け渡され、タング21を介して、一方の腰部から他方の腰部にかけて掛け渡される。リトラクタ24は、ウェビング22を一定の力で巻き取っており、ウェビング22は、乗員Aの体型や動きに応じてリトラクタ24から出し入れされる。
【0045】
例えば車両衝突時に乗員Aに大きな慣性が作用すると、リトラクタ24にロックがかかり、ウェビング22の引き出しが止められる。さらにウェビング22に一定以上の張力がかかると、リトラクタ24のロードリミッター機能が作動する。肩側ウェビング30のタング21近傍において張力調整部23が作動する。
【0046】
図4に示すように張力調整部23は、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、変形部材90の第1の連結部材100と第2の連結部材101が互いに離れる方向に引っ張られ、第2の連結部材101が塑性変形しながら、第1の連結部材100が第2の連結部材101に対し肩方向X1に摺動する。これにより、第1の連結部材100と第2の連結部材101は、張力に対し塑性変形による安定した抗力を発生させながら、肩側ウェビング30を実質的に伸長する。こうして、肩側ウェビング30のタング21の近傍の張力の上昇が抑えられる。またこのとき、肩側ウェビング30の緩んだ区間30bは、第1の連結部材100と第2の連結部材101が摺動した分延びる。
【0047】
また車両衝突時には腰側ウェビング31にも張力がかかることがあるが、肩側ウェビング30と腰側ウェビング31が縫合部160で固定されているため、腰側ウェビング31の張力は、肩側ウェビング30側には伝わらない。
【0048】
図5に示すように第1の連結部材100が第2の連結部材101に対し肩方向X1に大きく摺動し、肩側ウェビング30の緩んだ区間30bが延びきった場合には、肩側ウェビング30の区間30bがストッパーとして機能し、第1の連結部材100と第2の連結部材101の摺動が止められる。
【0049】
本実施の形態によれば、シートベルト装置1が、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、肩側ウェビング30におけるタング21近傍の張力を調整する張力調整部23を備えるので、車両衝突時等に肩側ウェビング30における腰部付近の張力を十分に調整することができる。
【0050】
張力調整部23は、一定以上の張力により塑性変形して肩側ウェビング30の張力を調整する変形部材90を有している。これにより、張力に対して安定した抗力が生じるので、肩側ウェビング30の張力を安定的に調整することができる。
【0051】
変形部材90は、互いに摺動可能に連結された第1の連結部材100と第2の連結部材101を有し、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、第2の連結部材101が塑性変形しながら第1の連結部材100と第2の連結部材101が摺動して肩側ウェビング30の張力を調整する。これにより、肩側ウェビング30の張力の調整を簡単な構造で適切に行うことができる。
【0052】
第1の連結部材100は、第1の面111aから第2の面111bに通じる第1の孔140及び第2の孔141を有し、第2の連結部材101は、第1の連結部材100の第1の面111aから第2の面111bに向かって第1の孔140を通過し、その後第1の連結部材100の第2の面111bから第1の面111aに向かって第2の孔141を通過する帯状の形状を有している。かかる構成により、第2の連結部材101が適切に塑性変形しながら第1の連結部材100と第2の連結部材101が適切に摺動することができる。
【0053】
シートベルト装置1は、第2の連結部材101と第1の連結部材100の相対的な摺動を止めるストッパーとしての肩側ウェビング30の区間30bを備えている。これにより、第2の連結部材101と第1の連結部材100が摺動しすぎて連結が外れるようなことを防止することができる。
【0054】
腰側ウェビング31と肩側ウェビング30は、タング21に対し摺動しないように固定されている。これにより、車両衝突時に乗員Aに大きな慣性が作用し腰側ウェビング31に大きな張力が生じたときに、腰側ウェビング31の張力が肩側ウェビング30に伝わらない。これにより、肩側ウェビング30のタング21付近の張力が過剰に大きくなることを防止することができる。また、変形部材90による肩側ウェビング30の張力の調整を腰側ウェビング31の張力に影響されることなく適切に行うことができる。
【0055】
本実施の形態において、図6に示すように、腰側ウェビング31における、乗員Aのバックル20と反対側の腰部の端部は、腰側アンカー26ではなく、リトラクタ180に接続されていてもよい。かかる場合、肩側ウェビング30とは独立して、腰側ウェビング31の長さや張力を調整することができる。
【0056】
本実施の形態において、図7に示すように、タング21が、腰側ウェビング31の長さを調整可能ないわゆるアジャストタングであってもよい。タング21は、タング本体190と、タング本体190内の挿入方向Pの前後方向に移動するストッパー191を有している。腰側ウェビング31は、ストッパー191に引っ掛けられ摺動自在に保持されている。
【0057】
図7(A)に示すように腰側ウェビング31が一方側に引っ張られた際には、ストッパー191が挿入方向Pの逆方向に移動し、腰側ウェビング31がストッパー191とタング本体190との間に挟まれ、腰側ウェビング31の摺動がロックされる。図7(B)に示すように腰側ウェビング31が他方側(逆側)に引っ張られた際には、ストッパー191が挿入方向Pに移動し、腰側ウェビング31がストッパー191のロックから解放され、摺動自在となる。さらに、図7(C)に示すように腰側ウェビング31が直角程度に十分に開いた状態で引っ張られた場合には、腰側ウェビング31がタング21に対し自由に摺動でき、腰側ウェビング31の長さを調整することができる。かかる場合、肩側ウェビング30とは独立して、腰側ウェビング31の長さや張力を調整することができる。
【0058】
本実施の形態において、変形部材90は、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に第2の連結部材101が塑性変形していたが、弾性変形してもよい。また、第1の連結部材100が塑性変形又は弾性変形してもよいし、第1の連結部材100と第2の連結部材101の両方が塑性変形又は弾性変形してもよい。
【0059】
<第2の実施の形態>
図8は、第2の実施の形態における張力調整部23の変形部材200の構成を示す斜視図である。図9は、第2の実施の形態における張力調整部23とタング21の構成を示す断面図である。図8及び図9に示すように張力調整部23の変形部材200は、タング21近傍の肩側ウェビング30を屈曲させた状態で保持するように構成されてもよい。
【0060】
変形部材200は、金属製である。変形部材200は、幅方向Yに互いに対向するように配置された一対の側面板210、211と、側面板210と側面板211との間に配置され、側面板210、211同士を接続する複数、例えば3つのローラ212、213、214を有している。
【0061】
側面板210、211は、中央部が両端部に対して前方Fに位置する屈曲形状を有している。
【0062】
ローラ212、212、214は、幅方向Yに延びる回転軸周りに回転自在に構成されている。3つのローラ212、212、214のうちの第1のローラ212は、側面板210、211の肩方向X1の端部に設けられ、第2のローラ213は、側面板210、211の中央部に設けられ、第3のローラ214は、側面板210、211のタング方向X2の端部に設けられている。図9に示すように第1のローラ212と第3のローラ214を結ぶ直線に対し、第2のローラ213は、前方Fにずれている。前方Fは、肩方向X1、タング方向X2及び幅方向Yに対し直角の方向であり、通常使用時の車両の前方である。また、後方Rは、肩方向X1、タング方向X2及び幅方向Yに対し直角の方向であり、通常使用時の車両の後方である。
【0063】
肩側ウェビング30は、乗員Aの肩部側から変形部材200に進入し、第1のローラ212の後方R側から第1のローラ212に接して曲がり、その後第2のローラ213の前方F側から第2のローラ213に接して曲がり、その後第3のローラ214の後方R側から第3のローラ214に接し曲がり、その後タング21に向かって延びている。
【0064】
例えば変形部材200は、カバー230により保持され覆われていてもよい。
【0065】
図10図11に示すようにタング21は、いわゆるロッキングタングであってもよい。タング21は、バックル20に結合可能で、ウェビング22を摺動自在に保持する保持部としてのタング本体250と、ウェビング22を解放する解放位置とウェビング22をロックするロック位置との間で回動自在なロック部材251と有している。
【0066】
タング本体250は、ウェビング22が挿通する2つの挿通孔260、261と、その挿通孔260と挿通孔261の間に位置する湾曲部分262と、ロック部材251がロック位置に移動した際に、ロック部材251と協働してウェビング22をクランプするクランプ部263と、後述のつなぎ部材300が係止される係止部264を有している。
【0067】
ロック部材251は、タング本体250に保持されており、タング本体250の湾曲部分262の近傍に設けられている。ウェビング22は、乗員Aの肩部側から挿通孔260に挿入され、ロック部材251の外側を通って、挿通孔261から乗員Aの腰部側に向かって延びる。すなわち、タング21の挿通孔260側から出るウェビング22が肩側ウェビング30となり、タング21の挿通孔261側から出るウェビング22が腰側ウェビング31となっている。
【0068】
ロック部材251は、図示しない位置決め部により平常時に解放位置に位置決めされている(図10の状態)。ロック部材251は、一定以上の力が加わったときに位置決め部が破壊され、図11に示すように解放位置からロック位置に回動し、ウェビング22をロック部材251とクランプ部263との間に挟んでウェビング22の摺動を止めることができる。
【0069】
図9に示すように変形部材200とタング21は、一定長さのつなぎ部材300により繋がれている。つなぎ部材300は、一端が例えば変形部材200のカバー230に接続され、他端がタング21の係止部264に接続されている。
【0070】
次に、本実施の形態のおけるシートベルト装置1の動作について説明する。平常時には、図9に示すように張力調整部23の変形部材200により、肩側ウェビング30は、屈曲した状態で保持されている。タング21のロック部材251は解放位置に位置し、ウェビング22がタング21に対し摺動自在になっている。
【0071】
車両衝突時には、先ず、図12に示すように腰側ウェビング31に一定以上の張力がかかった場合に、タング21において腰側ウェビング31が引っ張られ、ロック部材251の位置決め部が破壊され、ロック部材251が解放位置からロック位置に回動する。これにより、ウェビング22がロック部材251とクランプ部263との間に挟み込まれ、ウェビング22の摺動が止められる。
【0072】
そして、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、肩側ウェビング30のタング21近傍において張力調整部23が作動する。図13に示すように肩側ウェビング30にかかる張力により変形部材200が外力を受け、変形部材200が塑性変形しながら肩側ウェビング30を直線状に延ばす。これにより、変形部材200が、張力に対し塑性変形による安定した抗力を発生させながら、肩側ウェビング30を実質的に伸長する。こうして、肩側ウェビング30のタング21近傍の張力の上昇が抑えられる。
【0073】
本実施の形態によれば、変形部材200は、肩側ウェビング30を屈曲させた状態で保持するように構成され、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に、変形部材200が塑性変形しながら肩側ウェビング30を直線状に延ばして肩側ウェビング30の張力を調整する。これにより、車両衝突時等に肩側ウェビング30における腰部付近の張力を十分かつ安定的に調整することができる。
【0074】
変形部材200は、屈曲させた状態の肩側ウェビング30に接触する複数のローラ212、213、214を有するので、変形部材200における肩側ウェビング30の移動を円滑に行うことができる。
【0075】
シートベルト装置1は、タング21と変形部材200をつなぐつなぎ部材300を備えるので、変形部材200をタング21の近傍の位置に留めることができる。
【0076】
タング21は、ウェビング22を摺動自在に保持するタング本体250と、ウェビング22が乗員Aの腰部側に一定値以上の力で摺動したときに当該摺動を止めるロック部材251を有している。これにより、車両衝突時に乗員Aに大きな慣性が作用し腰側ウェビング31に大きな張力が生じたときに、ウェビング22の摺動が止められ、腰側ウェビング31の張力が肩側ウェビング30に伝わらない。これにより、肩側ウェビング30のタング21付近の張力が過剰に大きくなることを防止することができる。また、変形部材200による肩側ウェビング30の張力の調整を腰側ウェビング31の張力に影響されることなく適切に行うことができる。さらに、平常時には、ウェビング22のタング21を介した摺動を自在に行うことができる。
【0077】
本実施の形態において、タング21がいわゆるロッキングタングであったが、ウェビング22の摺動をロックするロック機能を有さないものであってもよい。かかる場合、上記第1の実施の形態で記載したように、腰側ウェビング31と肩側ウェビング30が、タング21に対し摺動しないように固定されていてもよい。また、この場合、上記第1の実施の形態で記載したように、腰側ウェビング31における乗員Aのバックル20と反対側の腰部の端部は、腰側アンカー26ではなく、図6に示したリトラクタ180に接続されていてもよい。
【0078】
本実施の形態において、変形部材200は、肩側ウェビング30に一定以上の張力がかかった場合に塑性変形していたが、弾性変形してもよい。
【0079】
本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【0080】
また、以上添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0081】
例えば上記第1の実施の形態において、第2の実施の形態のようにタング21がいわゆるロッキングタングであってもよい。変形部材90、200の形状や構造は他のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、肩側ウェビングにおける腰部付近の張力を十分に調整できるシートベルト装置を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 シートベルト装置
20 バックル
21 タング
22 ウェビング
23 張力調整部
30 肩側ウェビング
31 腰側ウェビング
90、200 変形部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13