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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132045
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】走行状態制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230914BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20230914BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230914BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20230914BHJP
【FI】
G05D1/02 P
G05D1/02 W
G08G1/00 J
G08G1/16 A
B60W30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037142
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 俊
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 駿
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241CC03
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE01
3D241CE02
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB02Z
3D241DB12Z
3D241DB27Z
3D241DC47Z
5H181AA27
5H181BB04
5H181BB08
5H181BB20
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC14
5H181FF04
5H181LL09
5H181LL15
5H301BB02
5H301CC03
5H301FF11
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG16
5H301HH16
5H301QQ01
(57)【要約】
【課題】移動体の旋回走行時の制限速度を容易に設定可能とすることである。
【解決手段】移動体の旋回走行時の制限速度が、移動体のスリップ状態に基づいて決定される。例えば、移動体のスリップ状態が設定範囲内にある場合にはスリップ状態が設定範囲外にある場合より制限速度が大きい値に決定される。このように、移動体の旋回走行時の制限速度が、スリップ限界値、最大減速度等を取得することなく決定されるのであり、スリップ状態に基づいて制限速度を容易に決定することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動体の走行状態を制御する走行状態制御装置であって、
前記複数の移動体の各々の予定走行経路に共通に含まれる少なくとも1つの区間のうちの、前記予定走行経路が湾曲した部分を含む一の区間を、前記複数の移動体のうちの少なくとも1台が走行した場合のスリップ状態に基づいて、前記一の区間における前記移動体の前後方向の走行速度の制限速度を決定する制限速度決定部を含む走行状態制御装置。
【請求項2】
前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が設定範囲内にある場合には前記スリップ状態が前記設定範囲外にある場合より、前記制限速度を大きい値に決定するものである請求項1に記載の走行状態制御装置。
【請求項3】
前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲から外れた場合に前記制限速度を第1設定速度に決定し、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲内にある場合に、前記制限速度を、前記第1設定速度より大きい第2設定速度を越えない範囲で漸増させるものである請求項2に記載の走行状態制御装置。
【請求項4】
前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態を取得するスリップ状態取得部を含み、
前記複数の移動体の各々が、それぞれ、前記移動体の走行状態を表す情報である移動体走行状態情報を含む移動体情報を無線で送信する移動体通信装置を含み、
当該走行状態制御装置が、前記移動体情報を受信可能な中央通信装置を含み、
前記スリップ状態取得部が、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記移動体走行状態情報が表す前記移動体の走行状態に基づいて前記少なくとも1台の移動体のスリップ状態が予め定められた設定範囲内にあるかどうかを取得するものである請求項1ないし3のいずれか1つに記載の走行状態制御装置。
【請求項5】
当該走行状態制御装置が、前記複数の移動体の各々の予定走行経路に関する情報を記憶する走行経路情報記憶部と、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記移動体走行状態情報を記憶する移動体情報記憶部とを含み、
前記制限速度決定部が、前記移動体情報記憶部に記憶された前記移動体走行状態情報と、前記走行経路情報記憶部に記憶された前記予定走行経路の前記一の区間を含む部分に関する情報と、前記一の区間において決定されて、設定された前記制限速度との関係を学習することにより、前記制限速度を決定する学習型制限速度決定部を含む請求項4に記載の走行状態制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の移動体の走行状態を制御する走行状態制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の走行状態制御装置において、移動体の予定走行経路が複数区間に分けられ、それぞれの区間について、スリップ限界値が推定され、スリップ限界値に基づいて移動体の各々の出力可能な最大加減速度が取得される。そして、移動体が現在位置から目的位置に目標速度で到達する場合の、それぞれの区間の目標走行速度が、最大加減速度、目的位置までの距離、目標到達時間等に基づいて取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-047528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、移動体の旋回走行時の制限速度を容易に決定可能とすることである。
【課題を解決するための手段、作用および効果】
【0005】
本発明に係る走行状態制御装置において、移動体の旋回走行時の制限速度が、移動体のスリップ状態に基づいて決定される。例えば、移動体のスリップ状態が設定範囲内にある場合にはスリップ状態が設定範囲外にある場合より制限速度が大きい値に決定される。このように、移動体の旋回走行時の制限速度が、スリップ限界値、最大減速度等を取得することなく決定されるのであり、スリップ状態に基づいて制限速度を容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一実施形態である走行状態制御装置を含む作業システムを概念的に示す図である。
図2】上記走行状態制御装置の構成要素である管制装置の管制ECUの記憶部に記憶された制限速度決定プログラムを表すフローチャートである。
図3】上記移動体の移動体ECUの記憶部に記憶された移動体情報作成プログラムを表すフローチャートである。
図4】上記管制ECUの作業計画情報記憶部に記憶された予定走行経路に関する情報を観念的に示す図である。
図5】上記移動体の旋回状態を示す図である。(a)スリップ状態が設定範囲外にある場合。(b)スリップ状態が設定範囲内にある場合。
図6】前記管制ECUの学習部における実行を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態に係る走行状態制御装置を含む作業システムについて図面に基づいて説明する。
【実施例0008】
本実施例に係る作業システムは、例えば、鉱山等で作業を行う複数の移動体Mの各々と通信可能な管制装置C、アンテナA等を含む。管制装置Cと複数の移動体Mとの間では、直接またはアンテナAを介して無線による通信が行われる。
【0009】
複数の移動体Mの各々は、例えば、運転者による運転操作により走行可能なマニュアル運転移動体であっても、カメラ,ライダー等により取得された移動体Mの周辺の情報と、管制装置Cからの走行指令との少なくとも一方に基づいて走行可能な自動運転移動体であってもよい。
【0010】
複数の移動体Mは、それぞれ、移動体Mを駆動する駆動装置D,移動体Mを制動する制動装置B,移動体Mの操舵輪を転舵する転舵装置T,GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機としてのGPS(Global Positioning System)受信機10、周辺情報取得装置12、無線により情報を送信したり受信したりする移動体通信装置14、慣性計測装置16、コンピュータを主体とする移動体ECU20等を含む。
【0011】
駆動装置Dは、例えば、移動体Mの複数の車輪30のうちの複数の駆動輪に連結された駆動源としての電動モータと、電動モータを制御する駆動回路とを含むものとすることができる。駆動回路の制御により電動モータが制御され、駆動輪に加えられる駆動力が制御され、移動体Mの走行速度や加速度が制御される。
【0012】
制動装置Bは、例えば、複数の車輪30の各々に対応して設けられ、摩擦係合部材を車輪30と一体的に回転可能なブレーキ回転体に押し付けることにより車輪30の回転を抑制する摩擦ブレーキと、複数の摩擦ブレーキの各々の押付力を制御可能な押付力制御アクチュエータとを含むものとすることができる。摩擦ブレーキが、押付力としての流体圧により作動可能な流体圧ブレーキである場合には、押付力制御アクチュエータを流体圧制御アクチュエータとすることができる。押付力制御アクチュエータの制御により、複数の車輪30の各々に設けられた摩擦ブレーキの押付力が制御され、複数の車輪30の各々に加えられる制動力が制御される。
【0013】
転舵装置Tは、複数の車輪30のうちの操舵輪である左側車輪30Lと右側車輪30Rとを転舵するものである。転舵装置Tは、例えば、左側車輪30L、右側車輪30Rを連結する一対のタイロッドおよび一対のタイロッドを連結する転舵ロッド、転舵ロッドに設けられた転舵アクチュエータ等を含むものとすることができる。転舵アクチュエータにより転舵ロッドが移動体Mの幅方向に移動させられることにより、左側車輪30Lと右側車輪30Rとが転舵される。
【0014】
GPS受信機10は、GPS信号を受信するものであり、GPS信号に基づいて、移動体自体の位置を取得する。
周辺情報取得装置12は、カメラ、ライダー等を含み、その周辺情報取得装置12が設けられた移動体自体の周辺の物体等を認識するとともに、その物体等と移動体自体との相対位置関係等を取得する。
【0015】
慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)16は、慣性計測装置16が設けられた移動体自体の前後方向,横方向および上下方向の加速度、前後方向軸、横方向軸および上下方向軸回りの角速度等を検出するものである。換言すると、慣性計測装置16は、移動体Mの前後方向,横方向,上下方向の加速度、ロールレート、ピッチレート、ヨーレート等を検出する。
【0016】
移動体通信装置14は、移動体ECU20において作成された移動体情報を無線で送信したり、管制装置Cから無線で送信された情報である管制情報を受信したりするものである。
【0017】
移動体ECU20には、これら駆動装置Dの駆動回路、制動装置Bの押付力制御アクチュエータ、転舵装置Tの転舵アクチュエータ、GPS受信機10、周辺情報取得装置12、移動体通信装置14、慣性計測装置16等が接続される。また、移動体ECU20には、走行経路等記憶部22、走行状態取得部23、移動体情報作成部24、走行制御部26等が含まれる。
【0018】
走行経路等記憶部22は、移動体自体に設定された予定走行経路に関する情報、走行速度の制限速度等を記憶するものである。予定走行経路に関する情報には、例えば、目標ヨーレート、横方向の変位である目標横変位等の目標旋回状態を表す情報である目標旋回状態情報が含まれる。また、予定走行経路上に設定された複数の区間のうちの少なくとも1つにおいて、制限速度等が決定されて、設定される。予定走行経路、制限速度は、予め管制装置Cから供給されるが、これら予定走行経路の一部や制限速度は変更される場合があり、その場合には、変更された走行経路、制限速度等が供給されて、記憶される。
【0019】
走行状態取得部23は、移動体Mの走行状態を取得するものである。走行状態には、移動体Mの実際の旋回状態である実旋回状態、移動体Mのスリップ状態等が含まれる。例えば、慣性計測装置16の検出値である前後方向、横方向の加速度に基づけば、移動体Mの前後方向の走行速度、横方向の速度、横変位、車体スリップ角等の実際の旋回状態である実旋回状態を取得することができる。車体スリップ角は、前後方向の速度、横方向の速度等に基づいて取得したり、スタビリティファクターA、ホイールベース等の移動体Mの諸元、車輪30L、30Rの転舵角、実ヨーレート、前後方向の走行速度等を用いてよく知られた式に従って取得したりすること等もできる。
以下、慣性計測装置16の検出値であるヨーレート、慣性計測装置16の検出値に基づいて取得された走行速度、横変位、車体スリップ角等を実ヨーレート、実走行速度、実横変位、実車体スリップ角等と称する場合がある。なお、本実施例において、移動体Mの前後方向の走行速度を表す情報は、実旋回状態を表す実旋回状態情報に含まれる情報とする。
【0020】
また、移動体Mのスリップ状態を表す情報であるスリップ状態情報は、走行経路等記憶部22に記憶された目標旋回状態情報と実旋回状態情報とに基づいて取得することができる。例えば、スリップ状態は、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差の絶対値が設定ヨーレートより小さいか否か、目標横変位と実横変位との差の絶対値が設定横変位より小さいか否か、車体スリップ角の絶対値が設定角度より小さいか否か等で表すことができる。
【0021】
移動体情報作成部24は、移動体通信装置14によって無線で送信される情報である移動体情報を作成するものである。移動体情報は、移動体走行状態情報、移動体位置情報、識別情報等を含むものである。移動体走行状態情報には、上述の実旋回状態情報(移動体Mの実ヨーレート、実走行速度、実横変位、実車体スリップ角等を表す情報)とスリップ状態情報との少なくとも一方を含むものとすることができる。
【0022】
移動体位置情報は、GPS受信機10において受信したGPS信号に基づいて取得された移動体Mの位置を表す情報である。識別情報は、移動体Mの各々に対応して予め設定され、記憶されている。作成した移動体情報は、移動体通信装置14に出力される。移動体通信装置14は移動体情報を無線で送信する。
【0023】
図3に示す移動体情報作成プログラムは、移動体情報作成部24において予め定められた設定時間毎に実行される。ステップ51(以下、S51と略称する。他のステップについても同様とする)において、移動体Mの走行状態を表す情報である移動体走行状態情報(実旋回状態情報とスリップ状態情報との少なくとも一方)が取得される。S52において、移動体Mの位置を表す移動体位置情報が取得される。S53において、移動体Mの識別情報が読み込まれる。そして、S54において、識別情報、移動体位置情報、移動体走行状態情報等を含む移動体情報が作成される。移動体情報は、移動体通信装置14に出力されて、送信される。
【0024】
走行制御部26は、駆動装置D,制動装置B,転舵装置T等を制御することにより、移動体Mの走行を制御するものである。
移動体Mが自動運転移動体である場合には、走行制御部26は、移動体通信装置14において受信した管制情報に含まれる走行指令と、周辺情報取得装置12によって取得された移動体Mの周辺の物体等と移動体Mとの相対位置関係等との少なくとも一方に基づいて、駆動装置D,制動装置B,転舵装置T等を制御する。
例えば、移動体Mが旋回する場合には、移動体自体の走行速度が、管制情報に含まれる制限速度を越えないように、駆動装置D,制動装置B等が制御される。
【0025】
移動体Mがマニュアル運転移動体である場合には、走行制御部26は、運転者によって操作可能な図示しない運転操作部材の操作状態に基づいて駆動装置D,制動装置B,転舵装置T等を制御する。また、走行経路等記憶部22に記憶された目標旋回状態情報、管制情報に含まれる制限速度を表す情報は、ディスプレイ等に表示されて、報知される。運転者は、報知された目標旋回状態情報、制限速度等に基づいて、図示しない運転操作部材を操作する。
【0026】
管制装置Cは、コンピュータを主体とする管制ECU50と管制ECU50に接続された管制通信装置52とを含む。管制ECU50は、管制情報作成部54、作業計画情報記憶部56、移動体情報記憶部58、制限速度決定部60等を含む。
【0027】
管制通信装置52は、管制情報作成部54によって作成された管制情報を無線で送信したり、移動体Mの移動体通信装置14から無線で送信された移動体情報を受信したりするものである。
【0028】
管制情報作成部54は、走行指令、制限速度等を含む管制情報を作成する。
【0029】
作業計画情報記憶部56は、移動体Mの各々の作業計画に関する情報を記憶するものである。作業計画情報記憶部56は、移動体Mの各々の予定走行経路に関する情報を記憶する走行経路情報記憶部56aを含む。走行経路情報記憶部56aには、予定走行経路に関する情報等が記憶される。
【0030】
例えば、図4に示すように、予定走行経路に、道路が湾曲しているために走行経路が湾曲している区間R1、道路に路面の摩擦係数μが低い部分である低μ部(例えば、水溜り、氷)があるために、経路が、低μ部を迂回するよう湾曲している区間R2等が含まれる。また、本実施例において、これら区間R1,R2が複数の移動体の予定走行経路に共通して含まれる。このように、予定走行経路が湾曲している区間R1,R2において、路面の摩擦係数μに応じた制限速度が決定されて、設定される。また、走行経路に関する情報として、区間R1,R2の旋回半径、目標ヨーレート、目標横変位等の目標旋回状態を表す情報である目標旋回状態情報が記憶されている。
【0031】
移動体情報記憶部58は、管制通信装置52において受信した移動体情報に含まれる移動体Mの位置情報、移動体走行状態情報(実旋回状態情報とスリップ状態情報との少なくとも一方)等を記憶するものである。これら情報は、今回受信したものに限らず、過去に受信したものも記憶されている。
【0032】
制限速度決定部60は、移動体Mが経路に沿って旋回する場合の制限速度を決定するものである。予定走行経路は、複数の区間に分けられるが、複数の区間のうち、少なくとも、走行経路が湾曲した部分を含む区間について、移動体Mの前後方向の走行速度の制限速度が決定されて、設定される。
制限速度決定部60は、スリップ状態取得部62を含む。スリップ状態取得部62は、移動体Mのスリップ状態を取得するものである。移動体情報に移動体走行状態情報としてスリップ状態情報が含まれる場合には、スリップ状態取得部62は、移動体情報を処理することにより、移動体Mのスリップ状態情報を取得する。移動体情報に移動体走行状態情報として実旋回状態情報が含まれる場合には、スリップ状態取得部62は、実旋回状態情報と走行経路情報記憶部56aに記憶された目標旋回状態情報とに基づいてスリップ状態が設定範囲内にあるかどうかを取得する。
【0033】
図5に示すように、仮に、一定の走行速度vで旋回半径Rで旋回している場合には、移動体Mに作用する横Gは、v/Rとなる。また、路面の摩擦係数μが低い場合は高い場合より横Gは小さくなる。
そのため、路面の摩擦係数μに対して走行速度vが大きくなると、移動体Mの走行状態は不安定となり、スリップ状態が設定範囲外になる。目標旋回状態と実旋回状態との差が大きくなり、移動体Mはドリフトアウトしたり、スピンしたりする。具体的には、図5(a)に示すように、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差の絶対値が設定ヨーレートより大きくなったり、目標横変位と実横変位との差の絶対値が設定横変位より大きくなったり、車体スリップ角の絶対値が設定角度より小さくなったりする。このように、移動体Mのスリップ状態が設定範囲外にある場合には、制限速度が小さくされる。
【0034】
本実施例において、スリップ状態取得部62によって取得された移動体Mのスリップ状態が設定範囲内にある状態から設定範囲外になった場合には、制限速度が第1設定速度Vaに決定される。第1設定速度Vaは、路面の摩擦係数μが小さくても、スリップ状態が設定範囲内になると推測される速度とすることができる。
【0035】
それに対して、路面の摩擦係数μは時間の経過に伴って変わる場合があり、例えば、天候の変化により路面が乾き、路面の摩擦係数μが大きくなれば、目標旋回状態と実旋回状態との差が小さくなる。そこで、移動体Mのスリップ状態が設定範囲内となり、走行状態が安定状態になった場合には、制限速度が漸増させられる。路面の摩擦係数μに対して前後方向の走行速度を大きくできると推測されるため、制限速度が漸増させられるのである。しかし、制限速度が大きくなりすぎるのは、移動体Mの走行安定性の観点から望ましくない。そのため、第1設定速度Vaより大きい第2設定速度Vbを越えないように制限される。
【0036】
本実施例において、制限速度の初期値は標準速度V0に設定される。標準速度は、上述の第2設定速度Vbとしたり、第2設定速度Vbより小さい速度としたりすること等ができる。その後、区間R1,R2を少なくとも1台の移動体Mが走行した場合において、その移動体Mのスリップ状態が設定範囲外にあると取得された場合に、その制限速度が小さくされ、設定範囲内にあると取得された場合に、制限速度が漸増されるのである。
【0037】
管制ECU50においては、図2のフローチャートで表される制限速度決定プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
S1において、管制通信装置52において、区間R1,R2のいずれか一方を走行する移動体Mから送信された移動体情報を受信したか否かが判定される。区間R1,R2のいずれか一方を走行しているか否かは、移動体情報に含まれる移動体位置情報に基づいて判定することができる。S2において、移動体情報を前回受信してから今回受信するまでの間に設定時間が経過したか否かが判定される。設定時間は、例えば、路面の摩擦係数μが変化した可能性があると推定される時間とすることができる。S1,2の判定がYESである場合には、S3において、移動体走行状態情報に基づいて取得された移動体Mのスリップ状態が設定範囲から外れているか否かが判定される。
【0038】
スリップ状態が設定範囲外にあり、S3の判定がYESである場合には、S4において、現在設定されている制限速度Vlimitが第1設定速度Vaより大きいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S5において、制限速度Vlimitが第1設定速度Vaに決定される。第1設定速度Vaは、例えば、路面の摩擦係数μが小さくても、スリップ状態が設定範囲内になると推測される大きさに設定することができる。S4の判定がNOである場合には、S6において、制限速度Vlimitは漸減させられる。制限速度Vlimitが現在の制限速度VlimitよりΔV小さい値に決定されるのである。スリップ状態が設定範囲外にある場合には、S1~4,6が実行されて、制限速度Vlimitが漸減させられる。
【0039】
なお、上記制限速度決定プログラムのS4,6のステップは、仮に、制限速度が第1設定速度Vaであっても、スリップ状態が設定範囲外になった場合に、制限速度を小さくするためのステップであるが、制限速度が第1設定速度Vaであってもスリップ状態が設定範囲外になることは少ないと考えられる。そのため、S4,6のステップは不可欠ではない。スリップ状態が設定範囲外にある場合の制限速度は第1設定速度Vaに保持されるようにすることができるのである。
【0040】
それに対して、移動体Mのスリップ状態が設定範囲内にある場合には、S3の判定がNOとなり、S7において、制限速度Vが第2設定速度Vb以下であるか否かが判定される。移動体Mのスリップ状態が設定範囲外から設定範囲内に入った場合には、S7の判定がYESとなり、S8において、制限速度Vlimitが現在の制限速度よりΔV大きくされる。以下、スリップ状態が設定範囲内にある間、S1~3,7,8が繰り返し実行され、制限速度Vlimitが漸増させられる。その後、S7の判定がNOになると、制限速度Vlimitは保持される。制限速度Vlimitは、第2設定速度Vbを越えて大きくされることはないのである。
【0041】
また、制限速度Vlimitが変更された場合(S5,6,8の実行後)には、S9において、決定された制限速度Vlimitを含む情報である管制情報が作成されて、管制通信装置52に出力される。管制通信装置52は、管制情報を複数の移動体M、例えば、予定走行経路に区間R1,R2を含む移動体Mに送信する。
【0042】
複数の移動体Mの各々においては、前述のように、区間R1,R2を旋回走行する場合に、制限速度Vlimitを越えないように駆動装置D,制動装置B等が制御される。移動体Mがマニュアル運転車両である場合には、制限速度が報知され、運転者は制限速度を越えないように運転操作部材を操作する。それにより、図5(b)に示すように、実旋回状態を目標旋回状態に近づけることが可能となり、路面の摩擦係数μに合った速度で走行することができる。
【0043】
このように、本実施例においては、制限速度が、スリップ限界値、最大加減速度を取得することなく、移動体のスリップ状態に基づいて直接的に決定される。そのため、制限速度を容易に決定することができる。また、移動体のスリップ状態が設定範囲外にある場合には制限速度が小さくされ、スリップ状態が設定範囲内にある場合には制限速度が大きくされる。そのため、制限速度を路面の摩擦係数μに合った値に設定することができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0044】
また、制限速度決定部62は学習部64等を含むものとすることができる。
学習部64は、例えば、AI(Artificial Intelligence)を利用して、制限速度の最適解を決定するものとすることができる。
具体的には、図6に示すように、複数の移動体Mの各々について、移動体情報に含まれる移動体走行状態情報(実旋回状態情報およびスリップ状態情報)と、予定走行経路情報(目標旋回状態情報)と、設定されている制限速度Vlimitとの関係を機械学習し、これらの関係に基づいて、制限速度Vlimitの最適解を取得することができる。
また、これらの関係に基づいて、制限速度Vlimitを大きくする最適なタイミングを取得することができる。移動体のスリップ状態が設定範囲外にあっても、設定範囲内に移行する可能性が高い場合には、制限速度を漸増させることが可能となると考えられる。
【0045】
以上、本実施例において、管制装置C等により走行状態制御装置が構成され、管制通信装置52等が中央通信装置に対応する。また、学習部64が学習型制限速度決定部に対応する。さらに、区間R1,R2のいずれか1つが一の区間に対応する。
【0046】
なお、制限速度の初期値は第1設定速度Vaまたは第1設定速度Vaより多少大きい値に決定することもできる。
また、上記実施例において、作業システムが鉱山の作業において利用される場合について説明したが、鉱山の作業に限らず、種々の作業現場において利用することができる。
【0047】
さらに、駆動装置D、制動装置B、転舵装置Tの構造は問わない。また、慣性計測装置16の代わりに、走行速度センサ、ヨーレートセンサ等の複数のセンサを設けることもできる。さらに、学習部64は不可欠ではない等、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
14:移動体通信装置 23:走行状態取得部 50:管制ECU 52:管制通信装置 54:管制情報作成部 56:作業計画情報記憶部 56a:走行経路情報記憶部 58:移動体情報記憶部 60:制限速度決定部 62:スリップ状態取得部 64:学習部
【特許請求可能な発明】
【0049】
以下の各項に、特許請求可能な発明を記載する。
(1)複数の移動体の走行状態を制御する走行状態制御装置であって、
前記複数の移動体の各々の予定走行経路に共通に含まれる少なくとも1つの区間のうちの、前記予定走行経路が湾曲した部分を含む一の区間を、前記複数の移動体のうちの少なくとも1台が旋回走行した場合のスリップ状態に基づいて、前記一の区間における前記移動体の前後方向の走行速度の制限速度を決定する制限速度決定部を含む走行状態制御装置。
【0050】
複数の移動体の各々について、それぞれ、出発地から目的地までの予定走行経路が決められている。複数の予定走行経路の各々は、それぞれ、複数の区間に分けられる。そして、複数の区間には、予定走行経路が湾曲した区間が少なくとも1つあり、その少なくとも1つの区間のうちの一の区間は、複数の予定走行経路に共通した区間とする。その一の区間においては、移動体が湾曲した予定走行経路に沿って旋回走行する場合の前後方向の制限速度が決定される。制限速度は、複数の移動体のうちの少なくとも1台が、予定走行経路のうちのその区間に対応する部分を旋回走行した場合の、スリップ状態に基づいて決定される。
【0051】
例えば、一の区間を移動体が定速で旋回走行する場合において、移動体には前後方向の走行速度に応じた横方向の加速度が生じる。横方向の加速度の最大値は、路面の摩擦係数に応じた大きさとなる。そして、移動体の前後方向の走行速度が路面の摩擦係数に対して適した大きさである場合には、スリップ状態が設定範囲内にあり、目標旋回状態と実旋回状態との差は小さくなる。それに対して、移動体の前後方向の走行速度が路面の摩擦係数に対して過大になると、スリップ状態が設定範囲外になり、目標旋回状態と実旋回状態との差が大きくなる。以上のことから、一の区間における移動体の前後方向の制限速度を移動体のスリップ状態に基づいて決めることは妥当なことである。
【0052】
移動体のスリップ状態は、例えば、目標旋回状態と実旋回状態との差に基づいて取得することができる。目標旋回状態と実旋回状態との差が小さい場合には、スリップ状態が設定範囲内にあり、移動体の走行状態が安定状態にあると考えることができる。この場合には、制限速度を、現時点において設定されている制限速度以上に決定することができる。それに対して、目標旋回状態と実旋回状態との差が大きい場合には、スリップ状態が設定範囲外にあり、移動体の走行状態が不安定状態にあると考えることができる。その場合には、制限速度を、現時点において設定されている制限速度より小さい値に決定することが望ましい。
【0053】
(2)前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が設定範囲内にある場合には、前記スリップ状態が前記設定範囲外にある場合より、前記制限速度を大きい値に決定するものである(1)項に記載の走行状態制御装置。
【0054】
(3)前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲外の状態から前記設定範囲内に入った後に、前記制限速度を漸増させるものである(2)項に記載の走行状態制御装置。
【0055】
(4)前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲から外れた場合に前記制限速度を第1設定速度に決定し、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲内にある場合に、前記制限速度を、前記第1設定速度より大きい第2設定速度を越えない範囲で漸増させるものである(2)項または(3)項に記載の走行状態制御装置。
【0056】
制限速度の初期値が、第1設定速度と同じ値である場合には、移動体のスリップ状態が設定範囲内にある場合に、第2設定速度を越えない範囲で制限速度が漸増させられる。制限速度の初期値が、第1設定速度より大きい値である場合には、移動体のスリップ状態が設定範囲外にある場合に制限速度が小さくされ、その後、移動体のスリップ率が設定範囲内に入った場合に制限速度が初期値まで漸増させられるようにしたり、初期値より大きい値まで漸増させられるようにしたりすること等ができる。
【0057】
第1設定速度は、路面の摩擦係数が小さくても、スリップ状態が設定範囲内になる可能性が高いと推定される速度に設定することができる。しかし、制限速度が第1設定速度であっても、移動体のスリップ状態が設定範囲外にある場合には、制限速度をさらに小さくすることができる。それに対して、制限速度が第1設定速度である場合に、移動体のスリップ状態が設定範囲外にあっても、制限速度は第1設定速度に保持されるようにすることもできる。これは、制限速度が小さくなりすぎるのは望ましくないからである。
【0058】
(5)前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲外にある場合に、前記制限速度を漸減させるものである(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の走行状態制御装置。
【0059】
(6)前記制限速度決定部が、前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態を取得するスリップ状態取得部を含み、前記スリップ状態取得部によって取得された前記少なくとも1台の移動体のスリップ状態に基づいて、前記制限速度を決定するものである(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の走行状態制御装置。
【0060】
(7)前記複数の移動体の各々が、それぞれ、前記移動体の走行状態を表す情報である移動体走行状態情報を含む移動体情報を無線で送信する移動体通信装置を含み、
当該走行状態制御装置が、前記移動体情報を受信可能な中央通信装置を含み、
前記スリップ状態取得部が、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記移動体走行状態情報が表す前記移動体の走行状態に基づいて前記少なくとも1台の移動体のスリップ状態が設定範囲内にあるかどうかを取得するものである(6)項に記載の走行状態制御装置。
【0061】
移動体の走行状態を表す移動体走行状態情報には、スリップ状態を表す情報であるスリップ状態情報と、実際の旋回状態を表す情報である実旋回情報とが含まれる。
【0062】
(8)前記複数の移動体の各々が、それぞれ、前記移動体の前記走行状態としてのスリップ状態が設定範囲内にあるかどうかを表す情報であるスリップ状態情報を含む移動体情報を無線で送信する移動体通信装置を含み、
当該走行状態制御装置が、前記移動体情報を受信可能な中央通信装置を含み、
前記スリップ状態取得部が、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記スリップ状態情報に基づいて前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲内にあるかどうかを取得するものである(7)項に記載の走行状態制御装置。
【0063】
(9)前記複数の移動体の各々が、それぞれ、前記移動体の前記走行状態としての実際の旋回状態を表す実旋回状態情報を含む移動体情報を無線で送信する移動体通信装置を含み、
当該走行状態制御装置が、前記移動体情報を受信可能な中央通信装置を含み、
前記スリップ状態取得部が、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記実旋回状態情報が表す実旋回状態に基づいて前記少なくとも1台の移動体の前記スリップ状態が前記設定範囲内にあるかどうかを取得するものである(7)項に記載の走行状態制御装置。
【0064】
実旋回状態と、走行経路情報記憶部に記憶された目標旋回状態情報で表される目標旋回状態との差が小さい場合にはスリップ状態が設定範囲内にあると取得することができる。
【0065】
(10)当該走行状態制御装置が、前記複数の移動体の各々の予定走行経路に関する情報を記憶する走行経路情報記憶部と、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記移動体走行状態情報を記憶する移動体情報記憶部とを含み、
前記制限速度決定部が、前記移動体情報記憶部に記憶された前記移動体走行状態情報と、前記走行経路情報記憶部に記憶された前記予定走行経路の前記一の区間を含む部分と、前記一の区間において決定されて、設定された前記制限速度との関係を学習することにより、前記制限速度を決定する学習型制限速度決定部を含む(7)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の走行状態制御装置。
【0066】
AIを利用することにより、制限速度の最適解を取得することができる。
【0067】
(11)当該走行状態制御装置が、前記複数の移動体の各々の予定走行経路に関する情報を記憶する走行経路情報記憶部と、前記中央通信装置において受信した前記移動体情報に含まれる前記移動体走行状態情報を記憶する移動体情報記憶部とを含み、
前記制限速度決定部が、前記移動体情報記憶部に記憶された前記移動体走行状態情報と、前記走行経路情報記憶部に記憶された前記予定走行経路の前記一の区間を含む部分と、前記一の区間において決定されて、設定された前記制限速度との関係を学習することにより、前記制限速度を漸増させるタイミングを決定する漸増タイミング決定部を含む(7)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の走行状態制御装置。
【0068】
AIを利用することにより、制限速度を漸増させる最適なタイミングを取得することができる。それにより、制限速度を最適なタイミングで漸増させることができ、作業効率の低下を抑制することができる。
【0069】
(12)複数の移動体のうちの少なくとも1台の移動体についての制限速度を決定する制限速度決定装置であって、
前記複数の移動体の各々の予定走行経路に共通に含まれる少なくとも1つの区間のうちの、前記予定走行経路が湾曲した部分を含む一の区間を、前記複数の移動体のうちの前記少なくとも1台の移動体の前方を走行する1台以上の移動体が旋回走行した場合のスリップ状態に基づいて、前記一の区間における前記少なくとも1台の移動体の前後方向の走行速度の制限速度を決定するものである制限速度決定装置。
【0070】
上記実施例において、制限速度決定装置は管制装置Cに対応するが、制限速度決定装置は移動体Mの各々に設けることもできる。移動体Mにおいて制限速度が決定された場合には、その制限速度を表す情報と、その移動体に後続する複数の移動体の識別情報とを含む移動体情報が送信される。
本項に記載の制限速度決定装置には、(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
図1
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図6