(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132094
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】熱間加工磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230914BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230914BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 160
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037221
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】大澤 明弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
【テーマコード(参考)】
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040CA01
5E062CD04
5E062CE03
(57)【要約】
【課題】高い磁気特性を有する熱間加工磁石を製造する。
【解決手段】磁性材料を成形して得られた成形体を押出し金型で熱間加工する熱間加工磁石の製造方法であって、押出し金型は、塑性加工部と、塑性加工部の後段に塑性加工部から連続して設けられた冷却部とを有し、押出方向における冷却部の長さLは、冷却部の押出方向に垂直な断面の周長をAとし、冷却部を構成する材料の熱伝導率をJ1とし、成形体に含まれる磁性材料の熱伝導率をJ2としたときに、以下の数式(1)を満たし、塑性加工部と冷却部との温度差が50℃~200℃の条件で、成形体の熱間加工を行う。
(0.0005×A×(J1/J2)+3)<L≦(0.01×A×(J1/J2)+10) …(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料を成形して得られた成形体を押出し金型で熱間加工する熱間加工磁石の製造方法であって、
前記押出し金型は、塑性加工部と、前記塑性加工部の後段に前記塑性加工部から連続して設けられた冷却部とを有し、
押出方向における前記冷却部の長さLは、前記冷却部の前記押出方向に垂直な断面の周長をAとし、前記冷却部を構成する材料の熱伝導率をJ1とし、前記成形体に含まれる磁性材料の熱伝導率をJ2としたときに、以下の数式(1)を満たし、
前記塑性加工部と前記冷却部との温度差が50℃~200℃の条件で、前記成形体の熱間加工を行う、熱間加工磁石の製造方法。
(0.0005×A×(J1/J2)+3)<L≦(0.01×A×(J1/J2)+10) …(1)
【請求項2】
前記押出し金型のうち、前記塑性加工部の外側に加熱装置が設けられると共に、前記冷却部の外側には前記加熱装置が設けられていない、請求項1に記載の熱間加工磁石の製造方法。
【請求項3】
前記成形体の熱間加工時における前記塑性加工部の温度が600℃~1000℃である、請求項1または2に記載の熱間加工磁石の製造方法。
【請求項4】
前記成形体の熱間加工時における前記塑性加工部の最低温度と最高温度との差が100℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間加工磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱間加工磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気特性に優れたR-T-B系永久磁石として、熱間塑性加工法により製造される熱間加工磁石が知られている。熱間加工磁石の製造方法としては、高温の金型内で成形体の押出しを行いながら塑性加工を行う前方押出法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-258585号公報
【特許文献2】特開2008-91867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前方押出法によって熱間加工磁石を製造する場合、高温で加工された後に速やかに冷却することが磁石の保磁力の向上のために重要である。一方で、R-T-B系磁石は、冷却時に変形することが知られていることから冷却温度の調整によっては、金型の破損を引き起こす可能性がある。
【0005】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、高い磁気特性を有する熱間加工磁石を製造することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態に係る熱間加工磁石の製造方法は、磁性材料を成形して得られた成形体を押出し金型で熱間加工する熱間加工磁石の製造方法であって、前記押出し金型は、塑性加工部と、前記塑性加工部の後段に前記塑性加工部から連続して設けられた冷却部とを有し、押出方向における前記冷却部の長さLは、前記冷却部の前記押出方向に垂直な断面の周長をAとし、前記冷却部を構成する材料の熱伝導率をJ1とし、前記成形体に含まれる磁性材料の熱伝導率をJ2としたときに、以下の数式(1)を満たし、前記塑性加工部と前記冷却部との温度差が50℃~200℃の条件で、前記成形体の熱間加工を行う。
【0007】
(0.0005×A×(J1/J2)+3)<L≦(0.01×A×(J1/J2)+10) …(1)
【0008】
上記の熱間加工磁石の製造方法によれば、塑性加工部の後段の冷却部において成形体が冷却されるため、高い磁気特性を有する熱間加工磁石を得ることができる。さらに、冷却部の長さを上記の範囲とすることで、塑性加工後の成形体を冷却した場合であっても、金型が閉塞すること等が防がれるため、金型の破損が防がれると共に生産効率の低下も防ぐことができる。
【0009】
前記押出し金型のうち、前記塑性加工部の外側に加熱装置が設けられると共に、前記冷却部の外側には前記加熱装置が設けられていない態様としてもよい。
【0010】
上記の構成とすることで、塑性加工部と冷却部との温度差を上記の範囲に調整することが可能となる。
【0011】
前記成形体の熱間加工時における前記塑性加工部の温度が600℃~1000℃である態様としてもよい。
【0012】
上記の構成とすることで、塑性加工部における塑性加工によって、高い磁気性能を有する熱間加工磁石を得ることができる。
【0013】
前記成形体の熱間加工時における前記塑性加工部の最低温度と最高温度との差が100℃以下である態様としてもよい。
【0014】
上記の構成とすることで、塑性加工部の温度差に由来する成形体の流動性の悪化に由来する磁気性能の低下が防がれる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、高い磁気特性を有する熱間加工磁石を製造することが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る熱間加工磁石の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、熱間加工磁石の製造方法において使用される押出し金型の構成例を説明する図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る熱間加工磁石の製造方法において使用される押出し金型の構成例を説明する図である。
【
図4】
図4(a)、
図4(b)は、押出し金型の構成例を説明する図である。
【
図5】
図5は、押出金型の変形例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
[熱間加工磁石の製造方法]
図1は、一実施形態に係る熱間加工磁石の製造方法を説明するフローチャートである。以下では、R-T-B系永久磁石の一種であるNd
2Fe
14B結晶を主相とするネオジム磁石(ネオジム鉄ボロン系磁石)の製造方法について説明する。
【0019】
R-T-B系永久磁石においてRは希土類元素を示している。永久磁石は、希土類元素として少なくともネオジム(Nd)を含有する。永久磁石は、Ndに加えて、他の希土類元素を含んでもよい。他の希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。R-T-B系永久磁石においてTは遷移金属元素を示している。永久磁石は、遷移金属元素として少なくとも鉄(Fe)を含有する。永久磁石は、遷移金属元素として、Feのみを含有していてもよい。永久磁石は、遷移金属元素として、Fe及びコバルト(Co)の両方を含有してもよい。R-T-B系永久磁石においてBはボロンである。
【0020】
熱間加工磁石を製造する際は、まず、原料となる磁性材料を磁性粉に粉砕する(ステップS1)。粉砕は、たとえばカッターミルやプロペラミルにより行うことができ、たとえばアルゴンガス雰囲気中(または窒素ガス雰囲気中)で行うことができる。粉砕により得られた磁性粉の粒径はたとえば約100~300μmである。磁性粉は、ネオジム磁石結晶の寸法レベル(1μm以下、たとえば数十~数百nm)までは細かくは粉砕されておらず、複数のネオジム磁石結晶で構成された多結晶構造を有する。
【0021】
ステップS1で得られた磁性粉は、圧縮成形機により成形されて、成形体が得られる(ステップS2)。成形は、窒素ガス雰囲気中(またはアルゴンガス雰囲気中)、800℃以下の高温下(一例として、750℃)、200MPa以下のプレス圧で、数十秒間行われる。成形により、緻密な成形体が得られる。ただし、この成形体の状態では、磁石粒子はランダムに配向されており、磁化容易軸方向が揃っていない。
【0022】
ステップS2で得られた成形体は、前方押出法により熱間加工されて、熱間加工磁石が得られる(ステップS3)。熱間加工は、例えばアルゴンガス雰囲気中、500℃~1000℃程度の高温下(一例として、750℃)、100MPa以下のプレス圧で、数十秒間行われる。熱間加工時の成形体の加熱温度は、熱間加工磁石に使用される磁性材料の塑性加工が可能な温度であり、粒界相が液相化する温度である。上記の範囲の加熱温度を、塑性加工可能温度という。なお、塑性加工可能温度域は、磁石の組成、すなわち磁性材料の組成によって変化する。また、塑性加工可能温度と粒成長する温度はほぼ一致する。
【0023】
熱間加工後は、冷却によって固化される。これにより、熱間加工磁石が製造される。
【0024】
[熱間加工装置]
熱間加工に使用される熱間加工装置1について
図2~4を参照しながら説明する。熱間加工装置1は、
図2に示されるように、押出し金型2と、加熱装置3と、スペーサ4と、ステージ5と、を含んで構成される。
【0025】
押出し金型2は、一例として円柱状の金型である。ただし、押出し金型2の外形は円形状に限定されず、角柱状等の他の形状であってもよい。加熱された状態の押出し金型2に対して上方から成形体を導入し、熱間加工された後に下方から排出する。
【0026】
また、加熱装置3は、熱間加工時に押出し金型2を加熱する。加熱装置3は、押出し金型2の全体を加熱するのではなく、成形体を塑性変形される領域を重点的に加工する。この点は後述する。
【0027】
ステージ5は、熱間加工後の成形体を載置する場所である。ステージ5は例えば水冷によって低温に維持され、加工後の成形体を速やかに冷却する。
【0028】
スペーサ4は、押出し金型2とステージ5との間の間隙を確保するために設けられ、押出し金型2から排出された成形体が移動(落下)するための空間42が内部に形成される。スペーサ4の上下方向の長さ(すなわち、押出し金型2とステージ5との間の距離)は、後述の押出し金型2の温度調整に応じて設定され得る。この点についても後述する。
【0029】
次に、押出し金型2について説明する。
【0030】
押出し金型2は、例えば
図3に示されるように、円柱状の外形を有している。押出し金型2は、高耐熱材料(たとえばニッケル基超合金(たとえばインコネル(登録商標))、モリブデン等)で構成されている。押出し金型2は、円柱状の原料装填部10と、円柱状の塑性加工部20と、冷却部30と、を含んで構成され、上から順に、原料装填部10、塑性加工部20、及び冷却部30がこの順に並んでいる。
【0031】
図3に示されるように、原料装填部10は、互いに対面する始端面10a及び終端面10bを有する。また、原料装填部10には、始端面10aと終端面10bとを接続するように上下方向に延びる貫通孔12が形成されている。始端面10aと終端面10bとの対面方向である上下方向に対して直交する断面、すなわち水平面における、貫通孔12の断面形状は、後述の塑性加工孔22の始端部22aの端面形状と同一とされる。また、貫通孔12の断面形状は、始端面10aから終端面10bまで同一とされる。
【0032】
塑性加工部20は、互いに対面する始端面20a及び終端面20bを有する。始端面20aと終端面20bとは互いに平行である。原料装填部10の終端面10bは、塑性加工部20の始端面20aと略一致する。塑性加工部20は、上述の貫通孔12から連続する塑性加工孔22を有する。塑性加工孔22は、塑性加工部20の始端面20aにおける始端部22aと、終端面20bにおける終端部22bとを有する。
【0033】
塑性加工孔22の始端部22aは、始端面20aと終端面20bとの対面方向(上下方向)から見て、一方向に延びた端面形状を有している。一例として、始端部22aの端面形状は長方形状とされる。また、始端部22aの端面が、始端面20aと終端面20bとの対面方向(上下方向)から見て原料装填部10の貫通孔12と重なるように、塑性加工孔22の始端部22aが配置される。
【0034】
冷却部30は、互いに対面する始端面30a及び終端面30bを有する。また、冷却部30には、始端面30aと終端面30bとを接続するように上下方向に延びる貫通孔32が形成されている。始端面30aと終端面30bとの対面方向である上下方向に対して直交する断面、すなわち水平面における、貫通孔32の断面形状は、後述の塑性加工孔22の終端部22bの端面形状と同一とされる。また、貫通孔32の断面形状は、始端面30aから終端面30bまで同一とされる。
【0035】
図4(a)及び
図4(b)を参照しながら、塑性加工部20における塑性加工孔22の形状について説明する。以下、説明の便宜上、塑性加工部20の始端面20aと終端面20bとの対面方向をZ方向とし、塑性加工孔22の始端部22aの端面形状が延びる方向をX方向とし、Z方向及びX方向に直交する方向をY方向とする。
【0036】
押出し金型2では、塑性加工孔22のX-Y断面における断面積が、始端部22aから終端部22bに向かって、漸減している。
【0037】
塑性加工孔22の終端部22bは、塑性加工部20の始端面20aと終端面20bとの対面方向から見て、一方向に延びた端面形状を有している。一例として、終端部22bの端面形状は長方形状である。
図4(b)に示すように、始端部22aの端面形状がX方向に延びている(すなわち、長辺がX軸に沿っている)のに対し、
図4(a)に示すように、終端部22bの端面形状はY方向に延びている(すなわち、長辺がY軸に沿っている)。始端面20aと終端面20bとの対面方向から見ると、始端部22aの端面形状が延びるX方向(第1の方向)と、終端部22bの端面形状が延びるY方向(第2の方向)とは交差しており、より詳しくは直交している。塑性加工孔22は、始端部22aの長方形端面から終端部22bの長方形端面までの間で、長辺(または長軸)と短辺(または短軸)とが入れ替わると表現することもできる。始端部22aの端面と終端部22bの端面とは捻れの位置関係となっている。
【0038】
押出し金型2は、
図2に示すように、塑性加工孔22の始端部22aの端面形状と同一寸法(または、ごくわずかだけ各辺の長さが短い)断面形状を有するパンチ40を用いて、原料装填部10に投入された上述の成形体を、塑性加工部20の終端面20bに向けて、すなわちZ方向に前方押出しする。これにより、塑性加工孔22の終端部22bの端面形状と同一の断面形状を有する帯状の熱間加工磁石が得られる。帯状の熱間加工磁石は、所定幅に適宜切断される。なお、
図2では、パンチ40に、成形体を構成する磁性材料Mが押出し金型2の内部に押し込まれた状態を模式的に示している。パンチ40による押し込みをさらに行うと、貫通孔32の下方から熱間加工後の成形体がスペーサ4の空間42内に排出され、ステージ5上に落下する。
【0039】
一例として、押出し金型2の塑性加工部20の内部では、塑性加工孔22の輪郭は
図3,4に示したように曲線によって構成されていてもよい。
【0040】
加熱装置3は、押出し金型2をその外周側から加熱する機能を有する。加熱装置3としては、例えば、抵抗加熱ヒータを用いることができる。この場合、加熱装置3の発熱体(または発熱体からの熱を伝熱させる伝熱体)を、押出し金型2の周囲を囲むように配置することで、押出し金型2を加熱することができる。なお、抵抗加熱ヒータは、直接加熱方式・間接加熱方式のいずれでもよい。
【0041】
本実施形態では、加熱装置3の発熱体35を、押出し金型2のうち塑性加工部20の外周に配置している。このような構成とすることで、塑性加工部20が特に加熱した状態とされる。塑性加工部20は、上述のように、成形体が600℃~1000℃程度の高温条件となるまで加熱される必要がある。そのため、塑性加工部20(特に塑性加工孔22の壁面)が上記温度範囲で維持されるように、加熱装置3による加熱が行われる。このとき、塑性加工部20については、最低温度と最高温度との差が100℃以下であると、塑性加工部20における熱間加工時に、成形体における塑性加工のばらつきを抑制することができる。塑性加工部20について、最低温度と最高温度の差が100℃より大きい場合、温度が低い位置で成形体の流動性が部分的に悪化し、粒子の配向性が低下する。その結果、得られた熱間加工磁石の磁気特性が低下する。
【0042】
この状態で加熱を行った場合、発熱体35によりも上方に位置する原料装填部10は、発熱体35からの熱が伝わりやすくなるため、塑性加工部20と同程度またはそれよりやや低い温度(例えば、温度差が50℃程度)まで加熱され得る。
【0043】
一方、発熱体35よりも下方に位置する冷却部30の外周には発熱体35が設けられていない。この場合、原料装填部10と比べて温度上昇が抑制される。また、冷却部30の下方には、スペーサ4が設けられているため、スペーサ4の空間42を介して冷却部30が冷却される。その結果、塑性加工部20と冷却部30との温度差が50℃~200℃の範囲に調整することができる。なお、ここでの温度差とは、塑性加工部20内の最低温度と、冷却部30内の最高温度との差をいう。
【0044】
上記のように、塑性加工部20と冷却部30との間で50℃~200℃の温度差を設けた場合、塑性加工部20において熱間加工された成形体は、冷却部30まで移動した際に、温度差によって冷却される。この結果、内部での粒成長が抑制されるため、磁石としての保磁力の低下が抑制される。熱間加工を行う場合、一般的には、粒成長を抑制するため必要最低限の熱エネルギーで塑性加工を行いたいと考える。したがって、熱間加工は塑性加工可能な最低温度で加工を行う場合が多い。したがって、塑性加工時の温度に対して50℃以上低くすると粒成長が大きく抑制されるため、保磁力の低下が防がれる。
【0045】
ただし、押出し金型2内で成形体が冷却され過ぎた場合、内部で固化する。この場合、ネオジム鉄ボロン系磁石特有の現象として、冷却時に結晶軸としてのc軸方向は収縮するものの、ab軸方向には膨張するという特性を有する。したがって、押出し金型2の内部で成形体が膨張する程度まで冷却されてしまうと、冷却後の成形体によって押出し金型2を内部から押し広げる応力が発生する。この場合、押出し金型2から下方へ磁性材料Mが排出されず、押出し金型2が閉塞する可能性がある。さらに、上記の膨張力によって押出し金型2の冷却部30が破損する可能性も考えられる。
【0046】
そこで、冷却部30の長さ、すなわち、始端面30aと終端面30bとの対面方向である上下方向(Z方向)における貫通孔32の長さを以下の通りに調節する。すなわち、押出方向における冷却部30の長さL(
図1参照)について、押出方向(上下方向:Z方向)に垂直な冷却部30の断面の周長をAとし、冷却部30を構成する材料の熱伝導率をJ1とし、押出し金型2に投入される成形体に含まれる磁性材料の熱伝導率をJ2としたときに、以下の数式(1)を満たすように、冷却部30の長さLを決定する。
【0047】
(0.0005×A×(J1/J2)+3)<L≦(0.01×A×(J1/J2)+10) …(1)
【0048】
ここで、冷却部30の断面の周長Aとは、冷却部30のうち成形体が通過する領域の周長であり、貫通孔32の周長を指す。
【0049】
上記の関係を満たすように、冷却部30の長さを設定することで、冷却部30を通過する間に成形体が固化し、冷却部30の貫通孔32内に成形体が滞留することが防がれる。
【0050】
なお、塑性加工部20の温度及び冷却部30の温度を調整する方法としては、加熱装置3の構成変更及びスペーサ4の長さの変更が挙げられる。例えば、
図3に示す例では、発熱体35(または伝熱体)が塑性加工部20の周囲に設けられているが、この発熱体35による加熱温度を上下方向に沿って偏らせる構成とした場合、塑性加工部20へ伝達される熱量が場所によって変化するため、塑性加工部20の温度分布が変化するとともに、冷却部30における温度分布も変化し得る。押出方向(上下方向)におけるスペーサ4の長さ(すなわち、冷却部30の終端面30bとステージ5との距離)を大きくすると、押出し金型2のうち特に冷却部30周辺の空間が大きくなる。空間が大きくなることで、空冷効果が高められる。したがって、例えば、冷却部30の温度(特に最低温度)を低くしたい場合には、スペーサ4の長さを大きくすることが考えられるし、冷却部30の温度(特に最低温度)を高くしたい場合には、スペーサ4の長さを小さくすることが考えられる。このように、冷却部30の温度を調節する際には、スペーサ4の長さを調節することが有効な対応の一つとなり得る。また、スペーサ4の材質、または、空間42の大きさも冷却部30の温度に影響し得るため、これらを用いて冷却部30の温度を調節してもよい。
【0051】
さらに、加熱装置3の構成を変更することも温度調整に有効となる場合がある。
図5に示す熱間加工装置1Aは、加熱装置3Aの構成が加熱装置3と異なっている。加熱装置3Aは、巻線自体が発熱する誘導加熱コイルによって構成されている。具体的には、誘導加熱コイルを押出し金型2の周囲に巻回した状態とすることで、押出し金型2はその外周から加熱される構成となる。さらに、
図5に示す例では、原料装填部10の周囲では、コイルの巻回密度(押出方向における巻回の密度)が小さく、塑性加工部20の周囲では、コイルの巻回密度が大きく、すなわち、より誘導加熱コイル同士が近づくようにコイルが巻回されている。さらに冷却部30の外周にはコイルがほとんど設けられていない構成とされている。加熱装置3が誘導加熱コイルによって構成されている場合、コイルの巻き密度を調節することで、熱源の分布を調整することができ、その結果、塑性加工部20及び冷却部30の温度を調節することが可能となる。コイルの巻き密度の調節は比較的容易であるため、所望の条件を達成するための温度調節をより簡単に行うことができる。
【0052】
[評価]
冷却部30の長さLを上記のように設定した場合に、高い磁気特性を有する熱間加工磁石を製造することができ、且つ、押出し金型2の破損等が防がれる点ことを以下の手順で評価した。
【0053】
(評価1)
図2に示す装置を用いて、実施例1~9及び比較例1~12に係る熱間加工磁石の加工を行い、加工後の磁石の評価を行った。このとき使用した磁性材料は、塑性加工可能温度が800℃以上である材料であった。
【0054】
表1に示すように、押出し金型2における冷却部30の周長Aおよび長さを変更することで、実施例1~9及び比較例1~12の熱間加工磁石を製造した。表1における押出圧力とは、各装置におけるパンチ40による押出圧力を示している。なお、表1では、参考として、各例における0.0005×A×(J1/J2)+3及び0.01×A×(J1/J2)+10の算出結果も併記している。なお、表1には示していないが、押出し金型2における塑性加工部の温度は800℃とし、冷却部の温度は600℃とした。
【0055】
【0056】
上記の条件で得られた実施例1~9及び比較例1~12に係る熱間加工磁石の保磁力Hcj及び残留磁束密度Brを測定した。また、熱間加工磁石製造後の押出し金型について、金型破損の有無を確認した。確認結果を表2に示す。金型破損の有無については、冷却部30の終端面30bにおける貫通孔32の周長が、押出加工の前後で2mm以上増加した場合は、金型が破損したと判定した。
【0057】
【0058】
表1,2に示す結果から、冷却部長さLが0.0005×A×(J1J2)+3以下である場合、(比較例1,4,7,11)では、保磁力Hcjが13kOe未満となり、他の実施例1~9及び比較例2,3,5,6,8,9,11,12における保磁力が20kOe以上であるのと比較して保磁力の低下が確認された。
【0059】
一方、冷却部長さLが0.01×A×(J1/J2)+10よりも大きくなる場合(比較例2,3,5,6,8,9,11,12)では、金型破損が発生することが確認された。
【0060】
(評価2)
図2に示す装置を用いて、実施例5と同じ条件で、実施例10及び比較例13,14に係る熱間加工磁石の加工を行い、加工後の磁石の評価を行った。ただし、実施例5,10,比較例13,14の間で、塑性加工部20の温度は共通の800℃としたものの、冷却部30の温度を互いに異ならせることによって、塑性加工部20と冷却部30との温度差を互いに異ならせる条件とした。この状態で、熱間加工を行い、加工後の磁石について、保磁力Hcj及び残留磁束密度Brを測定した。上記の温度条件及び測定結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
表3に示すように、比較例13では、残留磁束密度Brが実施例5,10及び比較例14と比べて低くなることが確認された。比較例13の熱間加工磁石では、塑性加工部20に対して冷却部30の温度が低いため、磁石にクラックが入ったことが推定される。一方、比較例14では、保磁力Hcjが実施例5,10及び比較例13と比べて低くなることが確認された。これは、冷却部30の温度が塑性加工部20の温度に近いために、冷却部30へ移動した後も熱間加工磁石における粒成長を抑制することができなかったことに由来すると推定される。
【0063】
(評価3)
図2に示す装置を用いて、実施例13~15及び比較例15に係る熱間加工磁石の加工を行い、加工後の磁石の評価を行った。実施例13~15及び比較例15に係る熱間加工磁石の加工は、実施例5と同様とした。ただし、実施例13~15及び比較例15の間で、塑性加工部20内の温度分布を互いに異ならせ、塑性加工部20内での温度差を表4に示すように設定した。温度差を設けるための手法としては、加熱装置3の発熱体35の配置の調整を行った。また、塑性加工部20内では、上方の温度が高く、下方に向かうにつれて温度が低くなるように調整した。この状態で、熱間加工を行い、加工後の磁石について、保磁力Hcj及び残留磁束密度Brを測定した。上記の温度条件及び測定結果を表4に示す。
【0064】
【0065】
表4に示すように、比較例15では、残留磁束密度が実施例13~15と比べて低くなることが確認された。比較例15の熱間加工磁石では、塑性加工部20内での温度差が他の実施例13~15と比べて大きかった。このため、塑性加工部20内の成形体において材料の流れが不均一になり、結晶配向の整列がうまくいかなかったため、残留磁束密度Brが低下したと推定される。
【0066】
[変形例]
以上、実施形態について説明してきたが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0067】
例えば、押出し金型2の形状は上記実施形態で説明した形状に限定されない。例えば、押出し金型2の塑性加工部20の始端部及び終端部の端面形状は、長方形状に限らず、一方向に延びた楕円形状であってもよく、真円形状やU字状、V字状であってもよい。
【0068】
また、加熱装置3の構成についても上記実施形態で説明したものに限定されず、種々の変更を行うことができる。上述のように、加熱装置3は、塑性加工部20と冷却部30との温度差を上記の範囲に調整しつつ、押出し金型2における成形体の熱間加工が可能となるように、押出し金型2を加熱すればよい。この条件で、加熱装置3の構成及び配置は適宜変更され得る。
【0069】
また、上記実施形態では、押出し金型2の塑性加工部20と冷却部30とが一体である場合について説明したが、塑性加工部20と冷却部30とは分離可能であってもよい。この場合、互いに異なる材質によってこれらが構成されていてもよい。
【0070】
永久磁石の磁性材料は、熱間加工によって製造することが可能な永久磁石の材料であれば、特に限定されない。したがって、R-T-B系永久磁石以外の永久磁石に係る磁性材料に対しても上記の構成は適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…熱間加工装置、2…押出し金型、3…加熱装置、4…スペーサ、5…ステージ、10…原料装填部、12…貫通孔、20…塑性加工部、22…塑性加工孔、30…冷却部、32…貫通孔、40…パンチ。