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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132097
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】土壌改良剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20230914BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20230914BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230914BHJP
   C05G 3/60 20200101ALI20230914BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C09K17/02 H
A01N61/00 B
A01P3/00
C05G3/60
A01G7/00 602Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037225
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山田 真
(72)【発明者】
【氏名】加島 幸二
【テーマコード(参考)】
4H011
4H026
4H061
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB20
4H011DA15
4H011DD04
4H026AA01
4H026AB03
4H026AB04
4H061DD07
4H061DD14
4H061EE43
4H061EE45
4H061HH08
4H061HH11
4H061KK02
(57)【要約】
【課題】生態的な植物の病害防除法に使用でき、共生菌との併用により病原菌に対する抗菌効果を向上させることができる、土壌改良剤を提供する。
【解決手段】粘土鉱物を有効成分とする土壌改良剤。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物を有効成分とする、土壌改良剤。
【請求項2】
連作用土壌を改良するために用いる、請求項1に記載の土壌改良剤。
【請求項3】
前記粘土鉱物がスメクタイト族に属する鉱物由来である、請求項1又は2に記載の土壌改良剤。
【請求項4】
前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ソーコナイト、及び膨潤性マイカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の土壌改良剤。
【請求項5】
前記粘土鉱物が、フザリウム(Fusarium)属菌、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、リゾプス(Rhizopus)属菌、ピリクラリア(Pyricularia)属菌、コクリオボルス(Cochliobolus)属菌、ポドスフェラ(Podosphaera)属菌、コレトトリカム(Colletotrichum)属菌、シュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)属菌、ベンチュリア(Venturia)属菌、ボトリチス(Botrytis)属菌、パクシニア(Puccinia)属菌、セプトリア(Septoria)属菌、スクレロティニア(Sclerotinia)属菌、スフェロテカ(Sphaerotheca)属菌、エリシフィ(Erysiphe)属菌、スクレロティウム(Sclerotium)属菌、アシドボラックス(Acidovorax)属細菌、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌、及びシュードモナス(Pseudomonas)属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の微生物の生育を抑制する、請求項1~4のいずれか1項に記載の土壌改良剤。
【請求項6】
粘土鉱物を有効成分とする、微生物の生育抑制剤。
【請求項7】
前記粘土鉱物がスメクタイト族に属する鉱物由来である、請求項6に記載の微生物の生育抑制剤。
【請求項8】
前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ソーコナイト、及び膨潤性マイカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6又は7に記載の微生物の生育抑制剤。
【請求項9】
フザリウム(Fusarium)属菌、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、リゾプス(Rhizopus)属菌、ピリクラリア(Pyricularia)属菌、コクリオボルス(Cochliobolus)属菌、ポドスフェラ(Podosphaera)属菌、コレトトリカム(Colletotrichum)属菌、シュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)属菌、ベンチュリア(Venturia)属菌、ボトリチス(Botrytis)属菌、パクシニア(Puccinia)属菌、セプトリア(Septoria)属菌、スクレロティニア(Sclerotinia)属菌、スフェロテカ(Sphaerotheca)属菌、エリシフィ(Erysiphe)属菌、スクレロティウム(Sclerotium)属菌、アシドボラックス(Acidovorax)属細菌、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌、及びシュードモナス(Pseudomonas)属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の微生物の生育を抑制する、請求項6~8のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤。
【請求項10】
連作用土壌と、請求項1~5のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は請求項6~9のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作用土壌の改良方法。
【請求項11】
連作用土壌と、請求項1~5のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は請求項6~9のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作用土壌で生息する菌の生育抑制方法。
【請求項12】
連作用土壌と、請求項1~5のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は請求項6~9のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作における植物病害の防除方法。
【請求項13】
連作用土壌と、請求項1~5のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は請求項6~9のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作による植物の育成方法。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良剤、並びにこれを用いた土壌改良方法、植物病害の防除方法、及び植物の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同じ畑の同じ土壌で、同じ作物を続けて栽培すると、連作障害と呼ばれる土壌病害が各地で発生する。連作障害が発生する原因の1つとして、土壌に存在する植物病原性真菌類(以下、単に「病原菌」ともいう)が知られている。
【0003】
連作障害に対する対策として、作物を植える前にクロールピクリンなどの農薬を散布することにより完全滅菌消毒を行う方法や、1つの畑でいくつかの作物を順番に繰り返し栽培し(輪作)、作物の根から出る忌避成分を利用して病原菌が植物の根へ定着することを抑制する方法などが知られている。
しかし、クロールピクリンなどの農薬は人体に有害である場合が多く、農薬を散布する際にはガスマスクや防護服など重装備が必要であり、過酷な労働が強いられる。また、輪作を行えば連作障害を一定程度解決することはできるが、特定の作物を一定量栽培するには広大な土地が必要となる。
【0004】
土壌病害の防除対策は、生態的防除法を基幹とし、それに物理的又は化学的な防除法を組み合わせた総合防除が必要とされる。生態的防除法は、植物と共生し、かつ病原菌に拮抗的に働く微生物(以下、「共生菌」ともいう)を利用して病害を防除する方法であり、自然界における生態系を極端に破壊することなく土壌病害を防除することができる。そのため、生体的防除法は土壌病害の総合防除において重要な手段である。
【0005】
共生菌として、トリコデルマ属(Tricoderma)菌が知られている。トリコデルマ属菌は、一般に土壌及び植物残さ中に棲息する糸状菌であり、病原菌に拮抗ないし寄生し、セルラーゼ等の溶菌酵素を生産することで、病害防除効果を発現するとされている。例えば、トリコデルマ・ハルジアナム(Tricoderma harzianum)が病原菌の1種であるリゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)の菌糸に対してグルカナーゼ及びキチナーゼを産生し、インゲン、トマト、ナスなどの苗立枯病を効果的に防除することができる。また、トリコデルマ・ハルジアナムがスクレラリウム・ロルフシ(Scleralium rolfsii)やリゾクトニア・ソラニの菌糸に寄生して溶解し、インゲンの病害の発生を減少させたことや、トリコデルマ・リグノルム(Tricoderma lignorum)のタバコ自絹病菌に対する拮抗作用として、寄主の菌糸が数珠玉状に肥大し、先端がふくらみ生長が阻止されることも確認されている。(以上、非特許文献1参照。)
【0006】
これまでに、共生菌を利用した生態的防除法が提案されている。例えば、特許文献1には、植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さないトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)の新規菌株が記載されている。特許文献2には、豆の煮汁を醗酵させ、該醗酵物に有機酸を加えてPHを4~5に調整してトリコデルマ菌を接種、増殖してなる液状植物活性剤が記載されている。特許文献3には、糖蜜、コーンスチープリカー、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸鉄(II)、シリコーンオイルなどの消泡剤をそれぞれ所定量含む、トリコデルマ属菌などの早くて十分な胞子形成のために有用な組成物が記載されている。特許文献4には、穀物の種子及び/又はその精白物を固体培地としたトリコデルマ菌の固体培養物の粉砕物を含有してなる農薬製剤組成物が記載されている。
このように、共生菌を利用した各種生態的防除法について研究事例が報告されている。しかし、生態的防除のために共生菌が実用化された事例は極めて少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-225745号公報
【特許文献2】特開平6-172117号公報
【特許文献3】国際公開第2003/065812号
【特許文献4】国際公開第2017/188051号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】九病虫研会報、第35巻、16-19頁(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
農薬を使用せず、共生菌を利用した生態的防除法は、人体に有害な薬剤を使用しないので、環境負荷や健康被害の少ない病害防除方法として有用である。しかし、共生菌を利用しても病原菌を完全に駆除することは困難である。
そのため、病害防除効果が向上した、新たな生態的防除技術の確立が望まれている。
【0010】
そこで本発明は、生態的な植物の病害防除法に使用でき、共生菌との併用により病原菌に対する抗菌効果を向上させることができる、土壌改良剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明者らは、土壌改良剤として粘土鉱物の使用について鋭意検討を行った。その結果、粘土鉱物は、連作障害の原因となる病原菌の胞子や菌糸に吸着することで病原菌の増殖を抑制するとともに、共生菌に吸着しても経時的に共生菌は増殖可能であることを見出した。そして、共生菌と粘土鉱物を併用することで、生体的防除法において、病原菌の増殖抑制効果をより向上させることができ、連作障害の発生を抑制できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0012】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)
粘土鉱物を有効成分とする、土壌改良剤。
(2)
連作用土壌を改良するために用いる、前記(1)に記載の土壌改良剤。
(3)
前記粘土鉱物がスメクタイト族に属する鉱物由来である、前記(1)又は(2)に記載の土壌改良剤。
(4)
前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ソーコナイト、及びマイカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の土壌改良剤。
(5)
前記粘土鉱物が、フザリウム(Fusarium)属菌、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、リゾプス(Rhizopus)属菌、ピリクラリア(Pyricularia)属菌、コクリオボルス(Cochliobolus)属菌、ポドスフェラ(Podosphaera)属菌、コレトトリカム(Colletotrichum)属菌、シュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)属菌、ベンチュリア(Venturia)属菌、ボトリチス(Botrytis)属菌、パクシニア(Puccinia)属菌、セプトリア(Septoria)属菌、スクレロティニア(Sclerotinia)属菌、スフェロテカ(Sphaerotheca)属菌、エリシフィ(Erysiphe)属菌、スクレロティウム(Sclerotium)属菌、アシドボラックス(Acidovorax)属細菌、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌、及びシュードモナス(Pseudomonas)属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の微生物の生育を抑制する、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の土壌改良剤。
【0013】
(6)
粘土鉱物を有効成分とする、微生物の生育抑制剤。
(7)
前記粘土鉱物がスメクタイト族に属する鉱物由来である、前記(6)に記載の微生物の生育抑制剤。
(8)
前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ソーコナイト、及び膨潤性マイカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記(6)又は(7)に記載の微生物の生育抑制剤。
(9)
フザリウム属菌、リゾクトニア属菌、ピシウム属菌、リゾプス属、ピリクラリア属菌、コクリオボルス属菌、ポドスフェラ属菌、コレトトリカム属菌、シュードペロノスポラ属菌、ベンチュリア属菌、ボトリチス属菌、パクシニア属菌、セプトリア属菌、スクレロティニア属菌、スフェロテカ属菌、エリシフィ属菌、スクレロティウム属菌、アシドボラックス属細菌、バークホルデリア属細菌、及びシュードモナス属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1種の微生物の生育を抑制する、前記(6)~(8)のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤。
【0014】
(10)
連作用土壌と、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は前記(6)~(9)のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作用土壌の改良方法。
(11)
連作用土壌と、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は前記(6)~(9)のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作用土壌で生息する菌の生育抑制方法。
(12)
連作用土壌と、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は前記(6)~(9)のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作における植物病害の防除方法。
(13)
連作用土壌と、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の土壌改良剤、又は前記(6)~(9)のいずれか1項に記載の微生物の生育抑制剤とを混和する工程を含む、連作による植物の育成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の土壌改良剤は、生態的な植物の病害防除法に使用でき、共生菌との併用により病原菌に対する抗菌効果を向上させることができる、土壌改良剤の提供を課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)の胞子検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図2】フザリウム・オキシスポラムの胞子検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図3】フザリウム・オキシスポラムの胞子検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図4】フザリウム・オキシスポラムの胞子検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図5】フザリウム・オキシスポラムの胞子検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図6】フザリウム・オキシスポラムの胞子検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図7】リゾクトニア・ソラニの胞子検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図8】リゾクトニア・ソラニの胞子検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図9】トリコデルマ・ハルジアナムの胞子検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図10】トリコデルマ・ハルジアナムの胞子検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図11】トリコデルマ・ハルジアナムの胞子検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の胞子数を示すグラフである。
図12】トリコデルマ・ハルジアナムの胞子検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図13】トリコデルマ・ハルジアナムの胞子検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図14】トリコデルマ・ハルジアナムの胞子検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の胞子数を示すグラフである。
図15図15(a)は、精製水にフザリウム・オキシスポラムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。図15(b)は、Ca型ベントナイト分散液にフザリウム・オキシスポラムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。図15(c)は、Na型ベントナイト分散液にフザリウム・オキシスポラムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。
図16図16(a)は、精製水にリゾクトニア・ソラニを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。図16(b)は、Ca型ベントナイト分散液にリゾクトニア・ソラニを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。図16(c)は、Na型ベントナイト分散液にリゾクトニア・ソラニを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。
図17図17(a)は、精製水にトリコデルマ・ハルジアナムを植菌した検体液72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。図17(b)は、Ca型ベントナイト分散液にトリコデルマ・ハルジアナムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。図17(c)は、Na型ベントナイト分散液にトリコデルマ・ハルジアナムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した電子顕微鏡写真である。
図18】フザリウム・オキシスポラムの菌糸検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図19】フザリウム・オキシスポラムの菌糸検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図20】フザリウム・オキシスポラムの菌糸検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図21】フザリウム・オキシスポラムの菌糸検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図22】フザリウム・オキシスポラムの菌糸検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図23】フザリウム・オキシスポラムの菌糸検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図24】リゾクトニア・ソラニの菌糸検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図25】リゾクトニア・ソラニの菌糸検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図26】トリコデルマ・ハルジアナムの菌糸検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図27】トリコデルマ・ハルジアナムの菌糸検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図28】トリコデルマ・ハルジアナムの菌糸検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した沈殿サンプル中の菌糸数を示すグラフである。
図29】トリコデルマ・ハルジアナムの菌糸検体液(0.2質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図30】トリコデルマ・ハルジアナムの菌糸検体液(0.4質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図31】トリコデルマ・ハルジアナムの菌糸検体液(0.6質量%ベントナイト懸濁液を用いて実施例で調製)から回収した上清中の菌糸数を示すグラフである。
図32図32(a)は、精製水にフザリウム・オキシスポラムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。図32(b)は、Ca型ベントナイト分散液にフザリウム・オキシスポラムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。図32(c)は、Na型ベントナイト分散液にフザリウム・オキシスポラムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。
図33図33(a)は、精製水にリゾクトニア・ソラニを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。図33(b)は、Ca型ベントナイト分散液にリゾクトニア・ソラニを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。図33(c)は、Na型ベントナイト分散液にリゾクトニア・ソラニを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。
図34図34(a)は、精製水にトリコデルマ・ハルジアナムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。図34(b)は、Ca型ベントナイト分散液にトリコデルマ・ハルジアナムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。図34(c)は、Na型ベントナイト分散液にトリコデルマ・ハルジアナムを植菌した検体液を72時間静置した後の検体液の沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した電子顕微鏡写真である。
図35図35(a)は、Na型ベントナイトを施用して行ったセロリ発芽試験の結果を示す図面代用写真である。図35(b)は、Ca型ベントナイトを施用して行ったセロリ発芽試験の結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の土壌改良剤は、粘土鉱物を含有する。後述の実施例で実証するように、粘土鉱物は、連作障害の病原菌の増殖を抑制する。
【0018】
連作障害の病原菌の増殖は、まず、培地上に一つの菌が存在すると、細胞から菌糸が縦横無尽に伸長し、伸長した菌糸から分生子柄がさらに伸長し、胞子が形成される。形成された胞子が拡散などにより別の場所で生育すると、間隙水などで土中を胞子がさらに拡散して広がる。このように拡散した病原菌が植物の根に定着すると、連作障害が引き起こされる。
本発明に用いる粘土鉱物が連作障害の病原菌に対する増殖抑制効果を発揮する具体的なメカニズムは定かではないが、後述の実施例で実証するように、粘土鉱物が微生物の菌糸や胞子に吸着することで、微生物が植物の根に定着することを抑制できると考えられる。
粘土鉱物が有する上記のメカニズムから、粘土鉱物を特定の菌種の生育抑制剤として用いることもできる。
【0019】
一方、後述の実施例でも示すように、本発明に用いる粘土鉱物は、連作障害の病原菌だけではなく、共生菌の菌糸や胞子にも吸着する。しかし、粘土鉱物の存在下であっても、共生菌から産生され、細菌、放線菌、糸状菌などに対して抗菌性を示す、グルカナーゼやキチナーゼなどの毒素の産生は阻害されない。そのため、共生菌は、病原菌の菌糸を変体させることで、植物の生育を助長させることができる(T. Matsumoto et al., Proc. Assoc. Pl. Prot. Kyushu, 1988, vol. 35, p. 16-19参照)。
よって、生態的防除法において、共生菌と粘土鉱物とを併用することで、共生菌と粘土鉱物それぞれが有する抗菌作用の相乗効果により病原菌に対する抗菌作用が向上するとともに、目的の植物の生産量を一定レベルに保持しながら、連作障害などの病害を防除することができる。
本明細書において、「防除」とは、植物の病害、好ましくは、植物の土壌伝染性病害、を予防、抑制又は排除することを意味する。また、本明細書において「抗菌」とは、菌の増殖を抑制する効果を含む概念である。「菌の増殖を抑制する効果」とは、例えば、病原菌の分裂阻害、糸状菌の菌糸先端の分裂異常、糸状菌の付着器形成阻害、分生子形成阻害、分生子殻形成阻害、分生子層形成阻害、子嚢殻形成阻害、などを原因として引き起こされる効果が挙げられる。
【0020】
連作障害の原因であり、粘土鉱物により生育を阻害される病原菌としては、例えば糸状菌、放線菌、細菌などを挙げることができる。ここで、「糸状菌」とは、分枝した糸状の菌糸体で栄養成長する微生物(菌類、かび)である。また、「細菌」とは、一般的に大きさが1~2μm程度の単細胞からなる微生物である。
具体的には、フザリウム属菌(例えば、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium Oxysporum)、フザリウム・セルモラム(Fusarium Culmorum)、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium Moniliforme))、リゾクトニア属菌(例えば、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani))、ピシウム属菌(例えば、ピシウム・ヘリコイデス(Pythium hekicoides)、ピシウム・グラミニコラ(Pythium graminicola))、リゾプス属菌(例えば、リゾプス・キネンシス(Rhizopus chinensis)、リゾプス・ストロ二ファー(Rhizopus stolonifer)、リゾプス・デレマー(Rhizopus Delemar))、ピリクラリア属菌(例えば、ピリクラリア・カバラ(Pyricularia oryzae Cavara))、コクリオボルス属菌(例えば、コクリオボルス・ミヤベアヌス(Cochliobolus miyabeanus)、コクリオボルス・サチブス(Cochliobolus sativus))、ポドスフェラ属菌(例えば、ポドスファエラ・レウコトリカ(Podosphaera leuctricha))、コレトトリカム属菌(例えば、コレトトリカム・オービキュラーレ(Colletotrichum orbiculare)、コレトトリカム・グロエオスポリオイデス(Colletotrichum gloeosporioides)、コレトトリカム・シルシナンス(Colletotrichum circinans)、コレトトリカム・カカービタエ(Colletotrichum cucurbitae))、シュードペロノスポラ属菌(例えば、シュードペロノスポラ・キューベンシス(Pseudoperonospora subensis)、シュードペロノスポラ・フムリ(Pseudocercospora fumuli))、ベンチュリア属菌(例えば、ベンチュリア・ナシコーラ(Venturia nashicola)、ベンチュリア・イナエクアリス(Venturia inaequalis))、ボトリチス属菌(例えば、ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)、ボトリチス・エリプティカ(Botrytis elliptica))、パクシニア属菌(例えば、パクシニア・タナケティ(Puccinia tanaceti)、パクシニア・ホリアーナ(Puccinia horiana))、セプトリア属菌(例えば、セプトリア・アピー(Septoria apii)、セプトリア・リコペルシキー(Septoria lycopersici、セプトリア・オベサ(Septoria obesa)、セプトレア・リリー(Septoria lilii))、スクレロティニア属菌(例えば、スクレロティニア・スクレロティオラム(Sclerotinia sclerotiorum)、スクレロティニア・インターメディア(Sclerotinia intermedia))、スフェロテカ属菌(例えば、スフェロテカ・パンノッサ(Sphaerotheca pannosa)、スフェロテカ・フリジニア(Sphaerotheca fuliginea))、エリシフィ属菌(例えば、エリシフィ・シコラセアラム(Erysiphe cichoracearum)、エリシフィ・ピシ(Erysiphe pisi)、エリシフィ・ポリゴニー(Erysiphe polygoni))、スクレロティウム属菌(例えば、スクレロティウム・ロルフシ(Sclerotium rolfsii))などの糸状菌や、アシドボラックス属細菌(例えば、アシドボラックス・アベナエ(Acidovorax avenae)、アシドボラックス・コンジャシ(Acidovorax konjaci))、バークホルデリア属細菌(例えば、バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)、バークホルデリア・プランタリー(Burkholderia plantarii))、シュードモナス属細菌(例えば、シュードモナス・フスコバギナエ(Pseudomonas fuscovaginae)、シュードモナス・シリンジェ(Pseudomonas syringe)、シェードモナス・トラージー(Pseudomonas tolaasii))などの細菌が挙げられる。
【0021】
また、生態的防除法において、本発明に用いる粘土鉱物と併用する微生物としては、病原菌に拮抗的に働き、植物の成長促進効果を有する微生物であれば、特に制限はない。
病原菌に拮抗的に働き、植物の成長促進効果を有する微生物の具体例としては、トリコデルマ属菌(例えば、トリコデルマ・ハルジアナム、トリコデルマ・アトロビリデ、トリコデルマ・リグノルム、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・アスペレラム(Tricoderma asperellum))、ギガスポラ属(Gigaspora)菌(例えば、ギガスポラ・マルガリタ(Gigaspora margarita)、ギガスポラ・アルビダ(Gigaspora albida)、ギガスポラ・ギガンタ(Gigaspora gigantea))などの糸状菌が挙げられる。
【0022】
本発明で用いる粘土鉱物は、スメクタイト族に属する鉱物由来であることが好ましい。スメクタイト族に属する鉱物は、2:1型の層構造を有している。スメクタイトの一次粒子は厚さ1nmであり、広がりが20nm~2μmの板状結晶である。スメクタイト族に属する鉱物由来の粘土鉱物は、水分散液中では、スメクタイトの結晶層自体が有する永久負電荷を補う形で、ナトリウムイオンなどの陽イオンが結晶層に取り込まれる(「粘土ハンドブック」、第三版、日本粘土学会編、2009年5月、p.65参照)。スメクタイトは天然に産出する無機系の粘土であるため安全性に優れている。また土中の微生物によって分解されることがなく長期的に安定であり、さらに低価格である。このため、特に好ましい粘土鉱物はスメクタイト族に属する鉱物である。
本発明で用いる粘土鉱物の具体例として、モンモリロナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ソーコナイト及び膨潤性マイカが挙げられる。これらのうち、ベントナイトのような天然に存在する粘土に含まれる不純物を取り除き、主成分であるモンモリロナイトの純度を高めた精製ベントナイトを好ましく用いることができる。
粘土鉱物は、膨潤性、増粘性、チクソトロピー性、陽イオン交換性など、様々な特性を有している。さらに、粘土鉱物は無機物質であるため、微生物による分解や変質作用をほとんど受けず、人体にも優しい素材である。
【0023】
本発明で用いる粘土鉱物の水分散液中での粒径は、水を分散媒とした粒度分布測定により決定でき、本発明の効果を損なわない範囲で任意に設定できる。水分散液中の粘土鉱物のメディアン径は、分散媒に均一に分散させる観点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
粘土鉱物のメディアン径の測定においては、分散粒度がナノスケールであるため、光子相関法による測定が好ましく、拡散係数相当径として得られる粒度分布においてのメディアン径を用いて示すことができる。測定においては粘土鉱物を水にて分散させた後、0.1w/v%程度に希釈したものを用いて測定できる。測定装置としては市販されている光子相関法を用いた装置であればよい。例えば、堀場製作所製SZ-100シリーズが挙げられる。その他、マルバーン社製Zetasizer Nanoシリーズ、大塚電子社製DLS-6500シリーズなどが挙げられる。
【0024】
本発明で用いる粘土鉱物は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の陽イオン交換容量を有してよい。粘土鉱物の陽イオン交換容量は、50meq/100g以上が好ましく、80meq/100g以上がより好ましい。好適な範囲の陽イオン交換容量は、病原菌の菌糸や胞子への吸着に好適な負電荷を粘土鉱物に付与する。
なお、粘土鉱物の陽イオン交換容量の測定方法は、Schollenberger法(粘土ハンドブック第三版、日本粘土学会編、2009年5月、p. 453-454)に準じた方法で測定することができる。より具体的には、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法で測定することができる。例えば、モンモリロナイトの浸出陽イオン量は、モンモリロナイトの層間陽イオンをモンモリロナイト0.5gに対して100mLの1M酢酸アンモニウム水溶液を用いて4時間以上かけて浸出させ、得られた溶液中の各種陽イオンの濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析等により測定し、算出することができる。
また、本発明で用いる粘土鉱物の陽イオン交換容量の上限値に特に制限はないが、120meq/100g以下が実際的である。
【0025】
本発明で用いる粘土鉱物としては、天然物であってもよいし、常法に従い合成することもできる。
粘土鉱物として天然物を用いる場合、天然物は夾雑物や不純物を含んでよいが、病原菌の生育を抑制させる観点から、夾雑物や不純物は除去されていることが好ましい。
粘土鉱物の合成方法としては、例えば、水熱合成法、溶融合成法、高圧合成法、固体反応法、火炎溶融法及び変質法が挙げられる。粘土鉱物の合成方法は、特開2008-13401号公報に記載の方法を参照できる。
また本発明では、市販の粘土鉱物を用いることもできる。市販品としては、例えば、クニゲルシリーズ(例えば、クニゲルV1、クニゲルU)、ネオクニボンド、クニボンド、クニピア-F、スメクトン-SA、スメクトン-SWN、スメクトン-SWF、スメクトン-ST(いずれも商品名、クニミネ工業社製)、ソマシフME、ソマシフMEB-3(いずれも商品名、片倉コープアグリ社製)、PDM-5B、PDM-800(いずれも商品名、トピー工業社製)などが挙げられる。
【0026】
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の施用対象となる植物として特に限定されないが、種子植物が好ましい。例えば、穀類、イモ類、マメ類、野菜類、果樹類、特用作物、花卉類などが挙げられる。
具体的には、穀類(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、モロコシ、アワ、キビ、ヒエ、トウジンビエ、シコクビエ、ソバ)、イモ類(例えば、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ヤマノイモ、コンニャク)、マメ類(例えば、ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ササゲ、ヒヨコマメ、キマメ)、野菜類(例えば、ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、キュウリ、メロン、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、シロウリ、ユウガオ、トウガン、ニガウリ、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、カリフラワー、ダイコン、カブ、チンゲンサイ、コマツナ、ミズナ、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、アスパラガス、レタス、ゴボウ、シュンギク、フキ、ニンジン、ミツバ、パセリ、セロリ、イチゴ、ホウレンソウ、オクラ、シソ、バジル、ミント、ショウガ、ミョウガ)、果樹類(例えば、リンゴ、ナシ、セイヨウナシ、マルメロ、カリン、オウトウ、モモ、スモモ、ウメ、アンズ、クリ、クルミ、アーモンド、ペカン、ブドウ、キウイフルーツ、アケビ、カキ、イチジク、ザクロ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、クランベリー、カンキツ、ビワ、オリーブ、ヤマモモ、マンゴー、グアバ、アボカド、ナツメヤシ、ココヤシ、バナナ、パイナップル、パパイア、パッションフルーツ、アセロラ)、特用作物(例えば、ワタ、アマ、イグサ、ナタネ、ヒマワリ、ゴマ、アブラヤシ、テンサイ、サトウキビ、チャ、コーヒー、カカオ、ホップ、タバコ)、花卉類(例えば、コスモス、アサガオ、マリーゴールド、ホウセンカ、カスミソウ、スイートピー、キク、カーネーション、チューリップ、ユリ、スイセン、グラジオラス、シクラメン、ベゴニア、スイレン、ダリア、バラ、シンビジウム、カトレア)などが挙げられる。本発明において、施用対象となる植物としては、フザリウム属菌が病原菌として影響を及ぼすトマト、キュウリ、ダイコン、サツマイモ、セロリ及びかぼちゃ、リゾクトニア属菌が病原菌として影響を及ぼすカブ、イチゴ、ニンジン及びゴボウが好ましい。
また、従来の育種法、遺伝子組換え技術などで病原菌に対する耐性、除草剤に対する耐性、乾燥など環境ストレスへの耐性を付与した植物にも施用することができる。
【0027】
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、植物の病害、好ましくは、植物の土壌伝染性病害、に対して優れた防除効果を有する。植物病害としては、子嚢菌、担子菌、ツボカビ菌、接合菌などの糸状菌や細菌により引き起こされる植物病害(糸状菌病や細菌病)が挙げられる。本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、糸状菌病と細菌病の両方の防除に好適に用いることができる。具体的な植物病害としては、例えば「日本植物病名目録(2020年1月版)(日本植物病理学会編)」に記載される植物病害が挙げられる。
【0028】
また本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤を用いて防除できる病害としては特に制限はなく、施用対象となる植物などに応じて適宜選択することができる。例えば、青枯病、黄色かさ斑細菌病、褐色かさ斑細菌病、褐斑細菌病、軟腐病、斑点細菌病、縁枯細菌病、うどんこ病、疫病、果実腐敗病、褐斑病、環紋葉枯病、菌核病、黒星病、こうがいかび病、黒点根腐病、黒斑病、白絹病、炭腐病、立枯病、炭疽病、つる枯病、つる割病、苗立枯病、根腐病、灰色疫病、灰色かび病、半身萎凋病、斑点病、斑葉病、ばら色かび病、変形菌病、べと病、ホモプシス根腐病、円葉枯病、紫紋羽病、輪紋病、綿腐病、黒斑細菌病、萎黄病、菌核病、白さび病、炭疽病、灰色かび病、白斑病、斑葉病、べと病、リゾクトニア病、イチゴ炭疽病、トマト斑葉細菌病、及びキウイフルーツかいようなどが挙げられる。
【0029】
さらに本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、本発明の効果を妨げない範囲で任意の成分を含有することができる。このような成分としては、例えば、界面活性剤、結合剤、粘着付加材、増粘剤、着色剤、拡展剤、凍結防止剤、固結防止剤、崩壊剤、分解防止剤、防腐剤、鉱物系資材(例えば、パーライトやバーミキュライト)などが挙げられる。これらの成分は単独で含有されてもよいし、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、他の土壌改良剤ないし生育抑制剤と組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の剤型は、使用目的に応じて適切に選択することができる。
【0030】
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤はそのまま直接施用するか、あるいは水又は担体などで希釈して施用することができる。施用方法は、対象となる植物種、病原菌の種類や感染程度、施用範囲、剤型に応じた方法で行うことができる。例えば、植物茎葉への散布、植物株元への散布、土壌表層への散布、土壌混和、土壌灌注、育苗箱への施用、液剤かん注、側条施用、水面施用、種子浸漬、種子粉衣、種子塗布、種子吹き付け、空中散布等が挙げられる。中でも、本発明においては、連作用土壌と、本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤とを混和することが好ましい。
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の施用場所は特に制限はなく、農園芸用植物を栽培する苗床、畑地、水田、果樹園、養液栽培施設などが挙げられる。
【0031】
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の施用時期は特に制限はなく、作付け前、作付け時ないし作付け後、及び育苗期の播種前、播種同時ないし播種後のいずれの時期でも施用できる。
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の施用回数は、対象となる植物種、防除する菌種、防除方法などによって適宜設定することができる。また、本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤を複数回使用するときの施用頻度は、対象となる植物種、防除する菌種、防除方法などによって適宜設定することができるが、対象病害の発生前または初期に予防的に施用することが好ましい。また、通常一定期間の間隔を空けて使用し、施用間隔は、植物の成長、病勢に適合することがより好ましい。
【0032】
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の施用量は一概に規定することはできず、適用植物の種類、病原菌の種類、土壌の状態、施用時期、栽植密度、剤型などに応じて適宜選択することができる。
例えば、粘土鉱物の施用量は、土壌質量に対し0.1~2質量%が好ましく、0.2~0.6質量%がより好ましい。
【0033】
本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、病原菌に対する抗菌効果が優れており、病原菌の増殖を抑制するのに対し、共生菌に対しては増殖を抑制せず、グルカナーゼやキチナーゼなどの毒素の産生も阻害しない。
従って、本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤を用いることで、連作に適した土壌を提供することができる。また、連作障害などの植物病害の病原菌の生育を抑制し、植物病害を防除できる。さらに、植物の育成を行うに際し、植物病害の発生を抑制させることができる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
<カビ吸着試験>
本実施例で用いた菌株は、下記の通りであった。

・NBRC32000:フザリウム・オキシスポラム(病原菌)
・NBRC5254:リゾクトニア・ソラニ(病原菌)
・NBRC31292:トリコデルマ・ハルジアナム(共生菌)

なお、上記菌株はすべて、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)より入手した。
【0036】
試験例1 胞子吸着能試験
(1)病原菌の培養
上記菌株を、それぞれポテトデキストロース(PDA)寒天培地(商品名:ポアメディアCP加ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学社製)に植菌し、25℃で2週間以上培養(前培養)した。カビの状態により胞子形成しにくい場合は追加で1~2週間培養した。
【0037】
(2)ベントナイト懸濁液の調製
Na型ベントナイト(商品名:ネオクニボンド、クニミネ工業社製)及びCa型ベントナイト(商品名:クニボンド、クニミネ工業社製)を濃度がそれぞれ0.2質量%、0.4質量%、0.6質量%となるように精製水に添加し、ミキサー(商品名:VOLTEX-GENIE2、SCIENTIFIC INDUSTRY INC社製)を用いて分散して十分に懸濁させた。
以下、Na型ベントナイトが分散してなる懸濁液を「Na型分散液」、Ca型ベントナイトが分散してなる懸濁液を「Ca型分散液」とも称す。
【0038】
(3)胞子検体液の作製
綿棒を用いて、前記前培養後の寒天培地から各菌株の胞子を採取し、前述のNa型分散液又はCa型分散液10mL中に植菌し、胞子検体液を得た。これらの各胞子検体液をミキサー(商品名:VOLTEX-GENIE2、SCIENTIFIC INDUSTRY INC社製)を用いて1分間激しく撹拌させ、ベントナイトと各菌株の胞子を接触・反応させた。なお、対照実験として、精製水中に各菌株の胞子を植菌した試験区を用意した。
【0039】
その後、前記各検体液を、25±2℃で静置させた。静置後、8時間後、24時間後、48時間後、72時間後に、上清と沈殿サンプルをそれぞれ回収した。
回収した上清、沈殿サンプル中の胞子数を段階希釈法によりカウントした。沈殿サンプル中の胞子数の結果については図1~3(フザリウム・オキシスポラム)、図7(リゾクトニア・ソラニ)並びに図9~11(トリコデルマ・ハルジアナム)に示す。上清中の胞子数の結果については図4~6(フザリウム・オキシスポラム)、図8(リゾクトニア・ソラニ)並びに図12~14(トリコデルマ・ハルジアナム)に示す。
さらに、走査型電子顕微鏡(商品名:IT-100 走査電子顕微鏡、日本電子社製)を用いて、静置後4時間後に回収した沈殿サンプルに含まれる胞子を撮像した。撮像した電子顕微鏡写真を図15~17に示す。
【0040】
図15~17に示すように、フザリウム・オキシスポラム、リゾクトニア・ソラニ及びトリコデルマ・ハルジアナム、いずれの胞子にも、ベントナイトが吸着している。
一方、図1~8に示す胞子数の結果から、病原菌であるフザリウム・オキシスポラム及びリゾクトニア・ソラニについては、ベントナイトに吸着された後菌の増殖が抑制されるため、沈殿及び上清に含まれる胞子数の合計が、精製水中に各菌株の胞子を植菌した試験区よりも減少し、かつ、時間の経過とともに減少している。これに対して、病原菌に拮抗的に働くトリコデルマ・ハルジアナムについては、胞子へのベントナイトの吸着による胞子数の変化は確認されなかった(図9~11及び図12~14参照)。また、吸着したベントナイトの質量により、共生菌の大部分は沈殿に移行するが、沈殿に含まれる胞子数の減少も確認されなかった。
【0041】
図4~6並びに図12~14に示すように、ベントナイトの添加量を増加させると、上清に含まれる胞子数は1,000CFU/mL以下となり、ほとんどの菌がベントナイトに吸着されていると考えられる。これに対して、図1~3並びに図9~11に示すように、ベントナイトの添加量を増加させても、ベントナイトが低濃度の場合と同様に、沈殿の胞子数は経時的に減少傾向であった。特に、Ca型ベントナイトでは経時での胞子増加が抑えられている。
さらに、図9~11に示すように、トリコデルマ・ハルジアナムにおいては、ベントナイトにトリコデルマ・ハルジアナムの菌糸が吸着しても静置後24時間までは沈殿中の菌糸数は増加しており、ベントナイトに吸着されても有効に菌が生育していることが確認された。すなわち、トリコデルマ・ハルジアナムの胞子がベントナイトに吸着すると、24時間までに胞子形成され、増殖することが確認された。
【0042】
試験例2 菌糸吸着能試験
(1)病原菌の培養
上記菌株を、それぞれブドウ糖ペプトン液体培地(商品名:ブドウ糖ペプトン培地、栄研化学社製)に植菌し、25℃、で5~7日間密栓して培養(前培養)した。
【0043】
(2)ベントナイト液の調製、菌糸検体液の作製
前記前培養後の液体培地を、ミキサー(商品名:VOLTEX-GENIE2、SCIENTIFIC INDUSTRY INC社製)で撹拌して菌糸を細かく裁断した。その後、撹拌後の液体培地から各菌株の菌糸を採取し、試験例1で調製したNa型分散液又はCa型分散液10mL中に前培養液を100μL植菌し、菌糸検体液を得た。なお、対照実験として、精製水中に各菌株の菌糸を植菌した試験区を用意した。これらの各菌糸検体液をミキサー(商品名:VOLTEX-GENIE2、SCIENTIFIC INDUSTRY INC社製)を用いて1分間激しく撹拌し、ベントナイトと各菌株の菌糸を接触させた。
【0044】
その後、前記検体液を、25℃±2℃で静置させた。静置後、8時間後、24時間後、48時間後、72時間後に、各検体液を静置し、上清と沈殿サンプルをそれぞれ回収した。
回収した上清、沈殿サンプル中の菌糸数を段階希釈法によりカウントした。沈殿サンプル中の菌糸数の結果については図18~20(フザリウム・オキシスポラム)、図24(リゾクトニア・ソラニ)並びに図26~28(トリコデルマ・ハルジアナム)に示す。上清中の菌糸数の結果については図21~23(フザリウム・オキシスポラム)、図25(リゾクトニア・ソラニ)並びに図29~31(トリコデルマ・ハルジアナム)に示す。
さらに、走査型電子顕微鏡(商品名:IT-100 走査電子顕微鏡、日本電子社製)を用いて、静置後4時間後に回収した沈殿サンプルに含まれる菌糸を撮像した。撮像した電子顕微鏡写真を図32~34に示す。
【0045】
図32~34に示すように、フザリウム・オキシスポラム、リゾクトニア・ソラニ及びトリコデルマ・ハルジアナム、いずれの菌糸にも、ベントナイトが吸着している。
一方、図18~25に示す菌糸数の結果から、病原菌であるフザリウム・オキシスポラムやリゾクトニア・ソラニはベントナイトに吸着された後、上清で菌糸数の増加はされなかった。また、沈殿においては対照区では経時で菌糸数が増加傾向にあるのに対し、ベントナイトに吸着されたものは減少傾向または増殖抑制されている。一方で、病原菌に拮抗的に働くトリコデルマ・ハルジアナムにおいては、菌糸数が増加傾向にある(図26~28及び図29~31参照)。菌糸が伸長することで、胞子形成がなされる。したがって、ベントナイトが有害菌菌糸を吸着すると菌糸の成長を抑制し、有用菌(あるいは共生菌)の菌糸がベントナイトに吸着されてもその成長を阻害しないと考えられる。
【0046】
試験例3 セロリ発芽試験
八ヶ岳中央農業実践大学校で前年採取したセロリ種子を使用した。
育苗箱(大和プラスチック製)に育苗培養土(製品名:サブライムソイル、製造元:浅間システムソイル社製)3kgと、Na型ベントナイト又はCa型ベントナイトを育苗培養土質量に対し1質量%均一に混ぜた培養土を敷き、等間隔に種子を播種した。
1日に1回散水し、2週間後の様子を観察した。
【0047】
発芽試験結果を図35に示す。
図35に示すように、ベントナイトを施用しても、セロリの育成に影響はなく、セロリの発芽が確認された。
【0048】
以上の結果から、本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、病原菌に対する抗菌効果が優れているとともに、共生菌に対しては増殖を抑制せず、毒素の産生も阻害しないため、植物の育成を行うことができる。また、本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤は、連作障害などの植物病害の防除方法に好適用いることができる。さらに本発明の土壌改良剤ないし生育抑制剤の有効成分である粘土鉱物は人体にとって安全であり、さらに環境汚染のリスクも抑えることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図22
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図33
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図35