IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立造船株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-放流システム 図1
  • 特開-放流システム 図2
  • 特開-放流システム 図3
  • 特開-放流システム 図4
  • 特開-放流システム 図5
  • 特開-放流システム 図6
  • 特開-放流システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132106
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】放流システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/44 20060101AFI20230914BHJP
   F03B 13/26 20060101ALI20230914BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20230914BHJP
【FI】
B63B35/44 N
F03B13/26
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037242
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】田村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】正木 洋二
【テーマコード(参考)】
3H074
【Fターム(参考)】
3H074AA06
3H074AA08
3H074AA20
3H074BB11
3H074CC11
3H074CC38
(57)【要約】
【課題】海水の流れを効率良く利用して、表層よりも深い領域の海水を効率良く汲み上げる。
【解決手段】放流システムは、浮体本体21と、取水管3と、垂直軸式の水車22とを備える。水車22は、浮体本体21に取り付けられて海面下に位置する。水車22は、上下方向を向く中心軸J1を中心として周方向の一方のみに回転する。水車22には、水車流路223が設けられる。水車流路223は、取水管3と接続される。水車流路223は、径方向外側の端部に吐出口224を有する。放流システムでは、海水の流れによって水車22が回転することにより、水車流路223内の海水が遠心力によって吐出口224から吐出されるとともに、取水口近傍の海水が取水管3を介して水車流路223内へと導かれる。これにより、海水の流れを効率良く利用して、表層よりも深い領域の海水を効率良く汲み上げることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放流システムであって、
係留ラインにより係留されて海面に浮かぶ浮体本体と、
前記浮体本体から下方へと延びるとともに下端部に取水口を有する取水管と、
前記浮体本体に取り付けられて海面下に位置するとともに上下方向を向く中心軸を中心として周方向の一方のみに回転する垂直軸式の水車と、
を備え、
前記水車には、前記取水管と接続されるとともに径方向外側の端部に吐出口を有する水車流路が設けられ、
海水の流れによって前記水車が回転することにより、前記水車流路内の海水が遠心力によって前記吐出口から吐出されるとともに、前記取水口近傍の海水が前記取水管を介して前記水車流路内へと導かれることを特徴とする放流システム。
【請求項2】
請求項1に記載の放流システムであって、
前記浮体本体は、前記中心軸を中心とする柱状であり、
前記水車は、前記浮体本体の側面に設けられることを特徴とする放流システム。
【請求項3】
請求項2に記載の放流システムであって、
前記水車は、前記浮体本体の側面から径方向外方へとそれぞれ突出するとともに周方向に配列される複数の羽根を有するプロペラ型の水車であることを特徴とする放流システム。
【請求項4】
請求項3に記載の放流システムであって、
前記複数の羽根はそれぞれ、径方向の中央部が前記水車の回転方向に向かって凸となるように湾曲することを特徴とする放流システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の放流システムであって、
前記水車流路は、前記複数の羽根のそれぞれの内部に設けられ、
前記吐出口は、前記複数の羽根のそれぞれの端縁に設けられることを特徴とする放流システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の放流システムであって、
前記浮体本体のうち、少なくとも海面よりも上側の部位は、前記水車の回転から独立していることを特徴とする放流システム。
【請求項7】
請求項6に記載の放流システムであって、
前記浮体本体の全体が、前記水車の回転から独立していることを特徴とする放流システム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の放流システムであって、
前記浮体本体の周囲の海水の流れを利用して発電を行う発電装置と、
前記発電装置によって生成される電力により駆動されて前記取水管内の海水の上方への移動を補助するポンプと、
をさらに備えることを特徴とする放流システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放流システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表層海水を富栄養化して新たな漁場を形成することを目的として、表層よりも深い領域の栄養塩を豊富に含む海水を汲み上げて表層に拡散させる海洋肥沃化装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の海洋深層水の汲上・拡散装置は、有光層の水面下に浮かぶ水中浮体と、水中浮体から海底へと延びる湧昇パイプと、を備えている。当該汲上・拡散装置では、水中浮体の内部に設けられたインペラを蒸気タービン装置によって回転させることにより、深層水の汲み上げ、表層水の吸い込み、および、深層水と表層水とを混合した混合水の吐出が行われる。
【0004】
特許文献2の海洋肥沃化装置は、海面に係留される浮体と、当該浮体から海底へと延びる深層水取水管と、を備えている。当該海洋肥沃化装置では、浮体の内部に設けられたインペラを水密型電動モータによって回転させることにより、深層水の汲み上げ、表層水の吸い込み、および、深層水と表層水とを混合した混合水の吐出が行われる。当該電動モータは、浮体内部に設けられた内燃機関等による発電によって得られる電力で駆動される。
【0005】
特許文献3の海洋深層水汲み上げ装置は、フロートから海中に吊り下げられる深層水汲み上げ部と、深層水汲み上げ部から海底へと延びるホースと、深層水汲み上げ部の外部に取り付けられた外スクリューと、を備える。当該海洋深層水汲み上げ装置では、当該外スクリューを潮流によって回転させることにより、深層水汲み上げ部の内部に設けられた内スクリューを回転させて深層水の汲み上げが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-27748号公報
【特許文献2】特開2002-370690号公報
【特許文献3】特開2012-90619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の汲上・拡散装置では、インペラを回転させる蒸気タービン装置用の蒸気を、表層水と汲み上げられた深層水との温度差によるエネルギー(いわゆる、海洋温度差エネルギー)を利用して生成することが提案されている。また、特許文献2の海洋肥沃化装置では、インペラを回転させる電動モータ用の電力を、海洋温度差発電や風力発電等によって得ることが提案されている。
【0008】
しかしながら、海洋温度差エネルギーを利用するためには、まず深層水を汲み上げる必要があるため、インペラを回転させる蒸気タービン装置や電力モータの駆動源となる内燃機関が必要となる。また、風力発電等を利用する場合も、風力を電力に変換し、さらに、当該電力をインペラを回転させる運動エネルギーに変換する必要があるため、エネルギーの利用効率が低くなり、安定的なエネルギー供給が困難である。したがって、インペラを回転させる蒸気タービン装置や電力モータの駆動源となる内燃機関がやはり必要となる。
【0009】
一方、特許文献3では、潮流を利用して外スクリューおよび内スクリューを回転させることにより、電動ポンプを使用することなく海洋深層水の汲み上げが可能である、と記載されている。しかしながら、当該外スクリューは、回転軸が水平な水平軸プロペラであり、プロペラ周囲の潮流が潮汐によって反対向きになると、プロペラの回転方向も反対向きになる。したがって、プロペラ周囲の水の流れの変化への追従性が低く、海洋深層水の汲み上げ効率が低くなるおそれがある。また、波によるプロペラ周囲の水の流れ(すなわち、波を構成する粒子の動き(オービタルモーション))は、波の山と谷とで反対向きになるため、当該プロペラでは、波による海水の流れを海洋深層水の汲み上げに利用することは難しい。この点からも、海洋深層水の汲み上げ効率が低くなるおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、海水の流れを効率良く利用して、表層よりも深い領域の海水を効率良く汲み上げることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、放流システムであって、係留ラインにより係留されて海面に浮かぶ浮体本体と、前記浮体本体から下方へと延びるとともに下端部に取水口を有する取水管と、前記浮体本体に取り付けられて海面下に位置するとともに上下方向を向く中心軸を中心として周方向の一方のみに回転する垂直軸式の水車とを備え、前記水車には、前記取水管と接続されるとともに径方向外側の端部に吐出口を有する水車流路が設けられ、海水の流れによって前記水車が回転することにより、前記水車流路内の海水が遠心力によって前記吐出口から吐出されるとともに、前記取水口近傍の海水が前記取水管を介して前記水車流路内へと導かれる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の放流システムであって、前記浮体本体は、前記中心軸を中心とする柱状であり、前記水車は、前記浮体本体の側面に設けられる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の放流システムであって、前記水車は、前記浮体本体の側面から径方向外方へとそれぞれ突出するとともに周方向に配列される複数の羽根を有するプロペラ型の水車である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の放流システムであって、前記複数の羽根はそれぞれ、径方向の中央部が前記水車の回転方向に向かって凸となるように湾曲する。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の放流システムであって、前記水車流路は、前記複数の羽根のそれぞれの内部に設けられ、前記吐出口は、前記複数の羽根のそれぞれの端縁に設けられる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の放流システムであって、前記浮体本体のうち、少なくとも海面よりも上側の部位は、前記水車の回転から独立している。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の放流システムであって、前記浮体本体の全体が、前記水車の回転から独立している。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の放流システムであって、前記浮体本体の周囲の海水の流れを利用して発電を行う発電装置と、前記発電装置によって生成される電力により駆動されて前記取水管内の海水の上方への移動を補助するポンプとをさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、海水の流れを効率良く利用して、表層よりも深い領域の海水を効率良く汲み上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一の実施の形態に係る放流システムの側面図である。
図2】浮体の側面図である。
図3】浮体の平面図である。
図4】浮体の横断面図である。
図5】浮体の縦断面図である。
図6】浮体の縦断面図である。
図7】他の水車を備える浮体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る放流システム1の構成を示す側面図である。放流システム1は、漁場とされる海域等において係留され、表層よりも深い領域の栄養塩を豊富に含む深層海水(いわゆる、海洋深層水)を利用して表層を富栄養化する浮体式の海洋肥沃化装置である。放流システム1は、海洋肥沃化機能を備えた浮き魚礁として利用可能である。
【0022】
放流システム1は、浮体2と、取水管3とを備える。浮体2は、海底92から上方に離間した状態で海面91に浮かぶ構造物である。浮体2は、係留ライン41によって海底92に係留される。図1に示す例では、浮体2は、海面91を貫通して上下方向に延びる略柱状の構造物であり、海底92に設置された係留基体42に係留ライン41を介して接続される。
【0023】
係留基体42は、例えば、海底92に沈められたシンカー(すなわち、錘)またはアンカー(すなわち、把駐力を有する錨)である。あるいは、係留基体42は、海底92に予め設置されている固定構造物であってもよい。係留基体42は、必ずしも海底92に直接的に固定される必要はなく、例えば、海底92に固定された他の構造物を介して、海中において間接的に海底92に固定される物体であってもよい。
【0024】
係留ライン41は、浮体2と係留基体42とを接続する略線状の部材である。係留ライン41は、例えば、係留ロープ、係留鎖、または、係留鎖と係留ロープとが接続されたものである。係留ロープは、例えば、合成繊維製またはワイヤーを含む金属製のロープである。図1では、図示の都合上、係留ライン41を線にて示す。図1に示す例では、浮体2は、浮体2の下端部に接続された1本の係留ライン41により、係留基体42に1点係留されている。なお、浮体2は、多点係留されてもよい。
【0025】
取水管3は、浮体2の下端部から海底92に向かって下方へと延びる略円筒状の部材であり、ライザー管とも呼ばれる。取水管3の下端部には、深層海水を取り込む取水口31が設けられる。取水管3は、主にスチールにより形成される。取水管3の上下方向の長さは、例えば100m~1000mである。取水管3の直径(すなわち、外径)は、例えば0.25m~1.5mである。取水管3の材料、長さおよび直径は、様々に変更されてよい。
【0026】
図2は、放流システム1の浮体2を示す側面図である。図3は浮体2の平面図である。図4は、図2中のIV-IVの位置にて浮体2を切断した横断面図である。図5は、図4中のV-Vの位置にて浮体2を切断した縦断面図である。図2および図5では、取水管3の一部を併せて示す。また、図4および図5では、図の理解を容易にするために、浮体2の内部の海水のみに平行斜線を付し、浮体2の断面には平行斜線を付さない。
【0027】
浮体2は、浮体本体21と、水車22とを備える。浮体本体21は、海面91(図1参照)を貫通して上下方向に延びる略柱状の構造物である。図2に示す例では、浮体本体21は、中心軸J1を中心として上下方向に延びる略円柱状の構造物である。中心軸J1は、上下方向に延びる仮想的な直線である。浮体本体21は、主にスチールにより形成される。浮体本体21の上下方向の長さは、例えば、4m~10mである。浮体本体21の直径は、例えば、3m~7mである。浮体本体21のうち海面91から上方に突出する部位の上下方向の長さ(すなわち、乾舷)は、例えば、0.5m~4mである。浮体本体21の大きさおよび形状は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。
【0028】
上述の取水管3は、例えば、浮体本体21の下端部において、中心軸J1を中心とする径方向(以下、単に「径方向」とも呼ぶ。)の略中央部に取り付けられる。また、係留ライン41(図1参照)は、例えば、浮体本体21の下端部の径方向外端部において、中心軸J1を中心とする周方向(以下、単に「周方向」とも呼ぶ。)の一部に接続される。
【0029】
水車22は、海面91よりも下側において浮体本体21に取り付けられる。図2に示す例では、水車22は、取水管3および係留ライン41(図1参照)よりも上側において、浮体本体21の側面(すなわち、径方向外側の略円筒状の側面)に設けられる。水車22は、上下方向を向く中心軸J1を中心として浮体本体21の側面に沿って回転可能とされる。すなわち、水車22は、浮体本体21に回転自在に取り付けられた垂直軸式の水車である。水車22は、主にスチールにより形成される。
【0030】
水車22は、浮体本体21の周囲を流れる海水から作用する力により、周方向の一方のみに回転する。図3に示す例では、水車22は、浮体本体21の周囲を流れる海水の向きに関わらず、平面視において時計回り方向にのみ回転し、反時計回り方向には回転しない。浮体本体21の周囲の海水の流れとは、常時略同じ方向に流れる黒潮等の「海流」、潮の干満に伴って生じる「潮流(潮汐流ともいう。)」、海上を吹く風によって生じる「吹送流」、および、波による海水の流れ等を含む。潮流の向きは、繰り返される干潮と満潮とによって、通常1日2回、略反対向きに変化する。吹送流の向きは、海上を吹く風の向きによって様々に変化する。波による海水の流れ(すなわち、波を構成する粒子の動き(オービタルモーション))は、浮体2が波の山に位置する場合と、波の谷に位置する場合とで反対向きになる。水車22は上述のように垂直軸式であるため、浮体本体21の周囲における海水の流れの向きの変化に関わらず、当該海水の流れのエネルギーを効率良く利用して同じ回転方向に回転し続ける。
【0031】
水車22は、ボス部221と、複数の羽根222とを備える垂直軸式のプロペラ型の水車である。ボス部221は、中心軸J1を中心として略上下方向に延びる略円筒状の部位であり、浮体本体21の側面に対して回転自在に取り付けられる。複数の羽根222は、ボス部221の外側面に接続され、当該外側面から径方向外方へと延びる。換言すれば、水車22の複数の羽根222は、浮体本体21の側面から径方向外方へとそれぞれ突出する。複数の羽根222はそれぞれ、上下方向に略平行に広がる略板状の部材である。複数の羽根222は、略等角度間隔にて周方向に配列される。図3に示す例では、4枚の羽根222が略90°間隔にて周方向に配列されている。なお、複数の羽根222の数は4枚には限定されず、適宜変更されてよい。また、各羽根222は、必ずしも上下方向に略平行に広がる必要はなく、上下方向に対して傾斜するように広がっていてもよい。
【0032】
各羽根222の径方向の大きさ(すなわち、平面視における羽根222のボス部221との接続部と、羽根222の径方向外端との間の径方向における距離)は、例えば1m~2mである。各羽根222の上下方向の大きさ(すなわち、羽根222の高さ)は、例えば2m~3mである。
【0033】
各羽根222のボス部221との接続部は、各羽根222の端縁(すなわち、当該接続部とは反対側の自由端縁)よりも、平面視において水車22の回転方向(すなわち、時計回り方向)の前側に位置することが好ましい。また、各羽根222は、平面視において径方向の中央部が水車22の回転方向に向かって凸となるように、略円弧状に湾曲することが好ましい。換言すれば、各羽根222のボス部221との接続部、および、各羽根222の径方向の中央部は、平面視において、各羽根222の端縁と中心軸J1とを結ぶ直線よりも、水車22の回転方向の前側に位置することが好ましい。
【0034】
水車22では、複数の羽根222の大きさおよび形状は、好ましくは略同じである。これにより、水車22の製造を簡素化することができる。なお、各羽根222の大きさおよび形状は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。また、複数の羽根222の大きさおよび/または形状は、必ずしも同じである必要はなく、異なっていてもよい。
【0035】
水車22の上端は、例えば、海面91よりも3m~5m下側に位置する。また、浮体本体21のうち、少なくとも海面91よりも上側の部位は、水車22の回転から独立しており、水車22に作用する海水の流れにより生じる水車22の回転には追従しないことが好ましい。これにより、浮体2に接近する船舶等が、回転する水車22と接触することなく、ほとんど回転しない浮体本体21の上部に容易に接舷可能となる。また、浮体2では、浮体本体21の全体が、水車22の回転から独立しており、水車22に作用する海水の流れにより生じる水車22の回転には追従しないことがより好ましい。これにより、浮体本体21の下部に接続された係留ライン41および取水管3も、水車22の回転から独立する。このため、浮体2の海底92への係留が容易とされ、また、浮体本体21と取水管3との接続構造等が簡素化される。
【0036】
図5に例示する浮体2では、浮体本体21の側面に、中心軸J1を中心として略上下方向に延びる略円筒状の凹部211(以下、「本体凹部211」とも呼ぶ。)が設けられる。本体凹部211が設けられる領域における浮体本体21の側面(以下、「凹部側面212」とも呼ぶ。)の直径は、浮体本体21のうち本体凹部211よりも上側の部位の側面の直径、および、本体凹部211よりも下側の部位の側面の直径よりも小さい。本体凹部211には、ボス部221が嵌合される。ボス部221の内側面の直径は、凹部側面212の直径よりも大きい。このため、ボス部221の内側面と浮体本体21の凹部側面212との間に、中心軸J1を中心として略上下方向に延びる略円筒状の間隙(以下、「外バッファ空間214」とも呼ぶ。)が形成される。
【0037】
ボス部221の内側面の直径は、浮体本体21のうち本体凹部211よりも上側の部位の側面の直径、および、本体凹部211よりも下側の部位の側面の直径よりも小さい。ボス部221の上端面および下端面はそれぞれ、浮体本体21の本体凹部211の上面および下面と上下方向に対向する。ボス部221の上端面と本体凹部211の上面との間、および、ボス部221の下端面と本体凹部211の下面との間には、それぞれベアリング213が設けられており、当該ベアリング213を介して、水車22が浮体本体21に回転自在に支持される。ボス部221の上端面と本体凹部211の上面との間、および、ボス部221の下端面と本体凹部211の下面との間は、水密にシールされている。これにより、上述の外バッファ空間214は、ボス部221および浮体本体21の周囲の空間から隔離され、外バッファ空間214に表層海水が進入することが防止される。
【0038】
図4および図5に示す例では、外バッファ空間214は、浮体本体21の内部において径方向に沿って延びる複数の接続流路215を介して、内バッファ空間216に接続される。内バッファ空間216は、外バッファ空間214および複数の接続流路215よりも径方向内側に位置する空間である。内バッファ空間216は、例えば、中心軸J1を中心として略上下方向に延びる略円柱状の空間であり、取水管3の上方に位置する。内バッファ空間216の下端部は、取水管3の上端部と接続されており、内バッファ空間216、複数の接続流路215、および、外バッファ空間214には、取水管3の取水口31(図1参照)から取り込まれた深層海水が満たされている。
【0039】
水車22の各羽根222の内部には、水車流路223が設けられる。水車流路223は、羽根222の上記端縁(すなわち、自由端縁)から、羽根222のボス部221との接続部まで、羽根222の回転方向前側および後側の側面に沿って延びる。水車流路223は、例えば、羽根222の上端部から下端部まで広がる。水車流路223は、径方向内側の端部においてボス部221を貫通して上述の外バッファ空間214に接続している。水車流路223は、外バッファ空間214、複数の接続流路215、および、内バッファ空間216を介して取水管3に接続されており、水車流路223内にも取水管3の取水口31(図1参照)から取り込まれた深層海水が満たされている。
【0040】
水車流路223は、羽根222の上記端縁にて羽根222の外部(すなわち、浮体2の外部)に向かって開口している。以下の説明では、羽根222の当該端縁に設けられた開口を「吐出口224」とも呼ぶ。吐出口224は、水車流路223の径方向外側の端部に位置し、また、水車22の径方向外側の端部に位置する。吐出口224は、例えば、羽根222の当該端縁の上端部から下端部まで上下方向に沿って延びる略スリット状の開口である。なお、吐出口224の形状は適宜変化されてよい。例えば、羽根222の上記端縁に、上下方向に沿って配列される複数の円形等の吐出口が設けられてもよい。水車流路223は、吐出口224を除く羽根222の表面において(例えば、羽根222の上端や下端において)開口していない。
【0041】
放流システム1では、浮体本体21の周囲の海水の流れによって水車22が回転すると、各羽根222の水車流路223内の深層海水が、遠心力によって吐出口224から径方向外方へと吐出される。また、各吐出口224からの深層海水の吐出と並行して、外バッファ空間214から各水車流路223に深層海水が流入し、外バッファ空間214には、複数の接続流路215を介して内バッファ空間216から深層海水が流入する。さらに、内バッファ空間216には、取水口31から取り込まれた深層海水が取水管3を介して流入する。換言すれば、浮体2において水車22が回転すると、各吐出口224から深層海水が吐出されるとともに、取水口31近傍の深層海水が取水管3を介して汲み上げられて水車流路223内へと導かれる。
【0042】
本実施の形態に係る放流システム1では、取水管3を介して深層海水を汲み上げるためのポンプ、および、当該ポンプを駆動するための発電装置(例えば、燃料油を使用するディーゼルエンジン等の発電機)は設けられないことが好ましい。
【0043】
放流システム1では、複数の羽根222の吐出口224から浮体2の周囲へと放射状に吐出された深層海水(すなわち、栄養塩を豊富に含む海水)は、密度流として表層において広い範囲に拡散される。これにより、表層が富栄養化され、新たな漁場が形成される。なお、上記説明では、各吐出口224から吐出される海水は、取水管3によって汲み上げられた深層海水のみであるが、これには限定されない。例えば、取水管3によって汲み上げられた深層海水と、浮体本体21の周囲から取り込まれた表層海水とが、浮体本体21の内部(例えば、内バッファ空間216)にて混合されて混合海水とされ、当該混合海水が各吐出口224から吐出されてもよい。
【0044】
放流システム1では、水車流路223は、必ずしも水車22の羽根222の内部に設けられる必要はない。また、浮体2に設けられる垂直軸式の水車22は、プロペラ型には限定されず、クロスフロー型、サポニウス型、ダリウス型またはジャイロミル型等、他の構造を有するものであってもよい。例えば、中心軸J1を中心として略上下方向に延びる略円筒状のクロスフロー型水車の上面に、中心軸J1から径方向外方へと延びる複数の管路(例えば、略円管状の金属製配管)が設けられ、当該複数の管路のそれぞれが水車流路223とされてもよい。この場合、各管路の径方向内側の端部は、上述の内バッファ空間216等を介して取水管3と接続され、当該各管路の径方向外側の端部は、水車22の径方向外側の端部に設けられる吐出口224となる。
【0045】
以上に説明したように、放流システム1は、浮体本体21と、取水管3と、垂直軸式の水車22とを備える。浮体本体21は、係留ライン41により係留されて海面91に浮かぶ。取水管3は、浮体本体21から下方へと延びる。取水管3は、下端部に取水口31を有する。水車22は、浮体本体21に取り付けられて海面91下に位置する。水車22は、上下方向を向く中心軸J1を中心として周方向の一方のみに回転する。水車22には、水車流路223が設けられる。水車流路223は、取水管3と接続される。水車流路223は、径方向外側の端部に吐出口224を有する。放流システム1では、海水の流れによって水車22が回転することにより、水車流路223内の海水が遠心力によって吐出口224から吐出されるとともに、取水口31近傍の海水が取水管3を介して水車流路223内へと導かれる。
【0046】
このように、放流システム1では、浮体本体21の周囲における海水の流れの向きに関わらず、当該海水の流れを利用して周方向の一方のみに回転する垂直軸式の水車22を設ける。これにより、上記海水の流れの向きが変動した場合であっても、当該海水の流れを効率良く利用して水車22を回転させることができる。具体的には、放流システム1は、略同じ方向に流れる海流のみならず、流れの向きが変化する潮流、吹送流、および、波による海水の流れ等も、水車22の回転に効率良く利用することができる。
【0047】
さらに、放流システム1では、水車22の回転による遠心力を利用して、水車流路223内の海水を浮体2の周囲に吐出させることができるとともに、表層よりも深い領域の栄養豊富な海水(すなわち、深層海水)を効率良く汲み上げて水車流路223に供給することができる。したがって、取水管3を介して海水を汲み上げるためのポンプや、当該ポンプを駆動するための発電装置等を放流システム1から省略することができ、放流システム1の構成およびメンテナンス等を簡素化することができる。また、当該ポンプや発電装置が設けられる場合であっても、当該発電装置を駆動する燃料油等の使用量を低減することができる。その結果、放流システム1の製造および/または運用に要するコストを低減することができる。
【0048】
上述のように、好ましくは、浮体本体21は中心軸J1を中心とする柱状であり、水車22は浮体本体21の側面に設けられる。これにより、浮体2の大型化を抑制しつつ、水車22を海面91近傍に配置することができる。その結果、海面91近傍に位置する水車22の吐出口224から、栄養豊富な深層海水を周囲に拡散させることができるため、表層の富栄養化を好適に実現することができる。
【0049】
上述のように、水車22は、浮体本体21の側面から径方向外方へとそれぞれ突出するとともに周方向に配列される複数の羽根222を有するプロペラ型の水車であることが好ましい。これにより、浮体本体21の周囲の海水の流れを、水車22の回転に効率良く利用することができる。その結果、深層海水の汲み上げを効率良く行うことができる。
【0050】
上述のように、複数の羽根222はそれぞれ、径方向の中央部が水車22の回転方向に向かって凸となるように湾曲することが好ましい。これにより、浮体本体21の周囲の海水の流れを、水車22の回転にさらに効率良く利用することができる。その結果、深層海水の汲み上げをさらに効率良く行うことができる。
【0051】
上述のように、水車流路223は、複数の羽根222のそれぞれの内部に設けられることが好ましい。また、吐出口224は、複数の羽根222のそれぞれの端縁に設けられることが好ましい。これにより、水車流路223が羽根222の外部に設けられる場合に比べて、水車22を小型化することができる。その結果、浮体2および放流システム1を小型化することができる。
【0052】
上述のように、放流システム1では、浮体本体21のうち、少なくとも海面91よりも上側の部位は、水車22の回転から独立していることが好ましい。これにより、浮体本体21に対する船舶等の接舷、および、浮体本体21への作業者の乗り込み等を容易とすることができる。また、放流システム1では、浮体本体21の全体が、水車22の回転から独立していることがさらに好ましい。これにより、上述のように、浮体2の海底92への係留を容易とすることができるとともに、浮体本体21と取水管3との接続構造等を簡素化することもできる。
【0053】
放流システム1では、図6に示すように、浮体本体21の内部にポンプ51が設けられ、水車22の回転による深層海水の汲み上げ(すなわち、取水管3内の海水の上方への移動)が、当該ポンプ51によって補助されてもよい。ポンプ51は、例えば軸流ポンプであり、内バッファ空間216内に配置される。ポンプ51は、通常の状態(すなわち、水車22の回転による深層海水の汲み上げ流量が所定流量以上である状態)では使用されず、浮体本体21の周囲の海水の流れが弱くなって当該汲み上げ流量が不足した際等に駆動されて深層海水の汲み上げを補助する。なお、ポンプ51の種類や配置等は特に限定されず、適宜選択されてよい。
【0054】
ポンプ51は、浮体本体21に設けられた発電装置52によって生成される電力により駆動される。図6に示す例では、発電装置52は、浮体本体21の内部に配置され、図示省略のギアやシャフト等を介して水車22と機械的に接続される。発電装置52は、浮体本体21の周囲の海水の流れによる水車22の回転エネルギーを電気エネルギーに変換する。換言すれば、発電装置52は、浮体本体21の周囲の海水の流れを利用して発電を行う。発電装置52により生成された電力は、浮体本体21の内部に配置された蓄電池53に蓄えられる。そして、水車22の回転による深層海水の汲み上げ流量が上記所定流量未満になると、蓄電池53に蓄えられた電力がポンプ51に供給され、ポンプ51が駆動されて深層海水の汲み上げを補助する。
【0055】
このように、放流システム1は、浮体本体21の周囲の海水の流れを利用して発電を行う発電装置52と、発電装置52によって生成される電力により駆動されて取水管3内の海水の上方への移動を補助するポンプ51と、をさらに備えることも好ましい。これにより、浮体本体21の周囲の海水の流れが弱くなった場合であっても、深層海水の汲み上げ流量の不足を抑制または防止することができる。また、発電装置52は、水車22の回転を利用して発電を行うことが好ましい。これにより、当該発電に係る構成を簡素化することができる。
【0056】
なお、発電装置52による発電は、水車22の回転による深層海水の汲み上げ流量が上記所定流量よりも多い所定の閾値以上である場合のみ行われ、当該閾値未満である場合は停止されることが好ましい。これにより、浮体本体21の周囲の海水の流れが比較的弱い場合、当該海水の流れを発電には利用せず、深層海水の汲み上げのみに利用することができる。その結果、深層海水の汲み上げ流量の不足を好適に抑制することができる。
【0057】
発電装置52は、必ずしも水車22の回転を利用して発電を行う必要はない。例えば、水車22とは別の発電用水車が浮体本体21に取り付けられ、浮体本体21の周囲の海水の流れによる当該発電用水車の回転エネルギーが、発電装置52により電気エネルギーに変換されてもよい。また、発電装置52は、浮体本体21の周囲の海水の流れに代えて、あるいは、当該海水の流れに加えて、他の再生可能エネルギーを利用して発電を行ってもよい。当該他の再生可能エネルギーとしては、例えば、太陽光、風力、および/または、表層海水と深層海水との温度差(いわゆる、海洋温度差)等が利用可能である。これらの場合であっても、上記と略同様に、深層海水の汲み上げ流量の不足を抑制または防止することができる。
【0058】
上述の放流システム1では、様々な変更が可能である。
【0059】
例えば、水車22では、全ての羽根222に水車流路223および吐出口224が設けられる必要はなく、複数の羽根222のうち、一部の羽根222のみに水車流路223および吐出口224が設けられてもよい。また、吐出口224は、羽根222の内部に設けられた水車流路223の径方向外側の端部に位置していれば、必ずしも羽根222の端縁に設けられる必要はなく、羽根222の端縁以外の部位(例えば、羽根222の回転方向前側および/または後側の側面において、当該端縁よりも径方向内側の部位)に設けられてもよい。水車22では、水車流路223は、必ずしも羽根222の内部に設けられる必要はなく、羽根222の外部に設けられてもよい。例えば、羽根222の上端縁に沿って延びる管路(例えば、略円管状の金属製配管)が、羽根222の上端部に取り付けられ、当該管路が水車流路223とされてもよい。この場合、当該管路の径方向外側の端部開口が吐出口224となる。
【0060】
水車22は、必ずしも浮体本体21の側面に取り付けられる必要はなく、浮体本体21の他の部位に取り付けられてもよい。例えば、水車22は、浮体本体21の下端部に取り付けられ、浮体本体21よりも下方にて取水管3を取り囲むように配置されてもよい。
【0061】
浮体本体21の形状および大きさ等は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。また、浮体本体21は必ずしも水車22の回転から独立している必要はなく、例えば、浮体本体21の一部(例えば、海面91よりも下側の部位)、または、浮体本体21の全体が、浮体本体21の周囲の海水の流れによって回転する水車22と共に回転するように構成されてもよい。
【0062】
水車22の形状は、上記例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、図7に示すように、羽根222とは形状が異なる羽根222aを備えるプロペラ型の水車22aが、水車22に代えて浮体本体21の側面に取り付けられてもよい。水車22aでは、上記例と略同形状のボス部221の外側面から、複数の羽根222aが径方向外方へと延びる。換言すれば、複数の羽根222aは、浮体本体21の側面から径方向外方へとそれぞれ突出する。図7に示す例では、4枚の羽根222aが略90°間隔にて周方向に配列されている。また、複数の羽根222aの大きさおよび形状は略同じである。なお、複数の羽根222aの数は4枚には限定されず、適宜変更されてよい。
【0063】
各羽根222aは、第1部位225と、第2部位226とを備える。第1部位225は、上下方向に略平行に広がる略平板状の部位であり、平面視において、ボス部221から径方向に沿って略直線状に延びる。第1部位225は、好ましくは径方向に略平行に延びるが、径方向に対して傾斜する方向に延びていてもよい。第2部位226は、上下方向に略平行に広がる略平板状の部位であり、第1部位225の径方向外側の端部に接続される。第2部位226は、平面視において、第1部位225の径方向外側の端部から水車22aの回転方向の後側に略直線状に延びる。平面視において、羽根222aの第1部位225と第2部位226との成す角度は、例えば略90°である。当該角度は、様々に変更されてよい。第2部位226のうち第1部位225とは反対側の端部(すなわち、羽根222aの端縁)には、上記と同様の吐出口224が設けられており、水車22aが回転すると、各羽根222aの内部に設けられた水車流路(図示省略)内の深層海水が、遠心力によって吐出口224から周囲に吐出される。放流システム1では、水車22aが水車22(図3参照)に代えて設けられる場合も、上記と略同様に、浮体本体21の周囲の海水の流れを、水車22aの回転に効率良く利用することができる。
【0064】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0065】
1 放流システム
3 取水管
21 浮体本体
22,22a 水車
31 取水口
41 係留ライン
51 ポンプ
52 発電装置
91 海面
222,222a 羽根
223 水車流路
224 吐出口
J1 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7