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特開2023-132124窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132124
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20230914BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20230914BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230914BHJP
   G02B 5/20 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C01G25/00
G02B5/22
C09J201/00
G02B5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037277
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】田口 莉帆
【テーマコード(参考)】
2H148
4G048
4J040
【Fターム(参考)】
2H148BE37
2H148BH01
2H148CA01
2H148CA05
2H148CA14
2H148CA17
4G048AA01
4G048AB01
4G048AC05
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4J040DF001
4J040EC001
4J040HA206
4J040JB08
4J040KA23
4J040KA35
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに、可視光線領域の遮蔽性に優れ、かつ耐湿性が良好な窒化ジルコニウム粉末を提供する。
【解決手段】亜鉛系組成物を含有する窒化ジルコニウム粉末である。この粉末の全量を100質量%とするとき、この粉末は、アルミニウムを0.3質量%~10.0質量%の割合で、亜鉛を0.1質量%~1.1質量%の割合で、それぞれ含有し、BET法により測定される比表面積が20m2/g~90m2/gである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物を含有する窒化ジルコニウム粉末であって、前記粉末の全量を100質量%とするとき、前記粉末は、アルミニウムを0.3質量%~10.0質量%の割合で、亜鉛を0.1質量%~1.1質量%の割合で、それぞれ含有し、BET法により測定される比表面積が20m2/g~90m2/gであることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末。
【請求項2】
粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、365nmの光透過率Xが25%以上であり、550nmの光透過率Yが8%以下であり、前記550nmの光透過率Yに対する前記365nmの光透過率X(X/Y)が6.0以上である請求項1記載の窒化ジルコニウム粉末。
【請求項3】
二酸化ジルコニウム粉末と、前記二酸化ジルコニウムの0.02倍モル~0.46倍モルのアルミニウム化合物含有粉末と、前記二酸化ジルコニウムの0.03倍モル~0.25倍モルの亜鉛化合物含有粉末と、前記二酸化ジルコニウムの2.0倍モル~6.0倍モルの金属マグネシウム粉末と、前記二酸化ジルコニウムの0.3倍モル~5.0倍モルの酸化マグネシウム粉末とを、混合して前記混合物を得た後、前記混合物を窒素ガス雰囲気下、700℃~1100℃の温度で60分間~180分間焼成することにより、前記酸化ジルコニウム粉末を還元して、請求項1又は2記載の窒化ジルコニウム粉末を製造する方法。
【請求項4】
前記アルミニウム化合物含有粉末が、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム又はアルミン酸化合物のいずれか1種以上の粉末であり、前記亜鉛化合物含有粉末が、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛又は炭酸亜鉛のいずれか1種以上の粉末である請求項3記載の窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項5】
ジルコニウム化合物含有粉末とアルミニウム化合物含有粉末と亜鉛化合物含有粉末を、N2ガス雰囲気中、N2及びH2の混合ガス雰囲気中、N2及びArの混合ガスの雰囲気中、或いはN2及びNH3の混合ガス雰囲気中で、熱プラズマ法、火炎法又はアークプラズマ法により、窒化反応させて、亜鉛及びアルミニウムを含有する窒化ジルコニウム粉末を製造する方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の窒化ジルコニウム粉末が溶剤又はモノマー化合物に分散した黒色分散液。
【請求項7】
請求項6記載の黒色分散液に有機高分子化合物を含む黒色ペースト。
【請求項8】
請求項1又は2記載の窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として含む黒色感光性組成物。
【請求項9】
請求項8記載の黒色感光性組成物を用いて得られたUV硬化型黒色接着剤。
【請求項10】
請求項8記載の黒色感光性組成物を用いて得られた黒色パターニング膜。
【請求項11】
請求項8記載の黒色感光性組成物を用いて得られた黒色成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の黒色顔料として好適に用いられるアルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物を含有する窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の黒色顔料は、感光性樹脂に分散されて黒色感光性組成物に調製され、この組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィー法でフォトレジスト膜に露光してパターニング膜を形成することで、液晶ディスプレイのカラーフィルター等の画像形成素子のブラックマトリックス、イメージセンサー、カメラモジュール、センサー内部の遮光膜等に用いられる。また、黒色顔料を感光性樹脂に分散することにより調製される黒色感光性組成物は、黒色の感光性接着剤、塗膜形成材、成型物形成材として液晶パネルのシール材、額縁材、表面着色フィルム、各種デバイス内部を着色、ないしは遮蔽する目的で使用するカバーレイフィルム、遮光フィルム、調色フィルム、アンダーフィル材、ソルダーレジスト、黒色接着剤、樹脂成型物を黒色化する各種表示装置の筐体、車載機器、民生用電子機器の筐体等幅広い用途に使用される。
【0003】
従来、アルミナにより被覆され、体積抵抗率が1×106Ω・cm以上であり、アルミナによる被覆量が窒化ジルコニウム100質量%に対して1.5質量%~9質量%であり、等電点が5.7以上である窒化ジルコニウム粉末が開示されている(特許文献1(請求項1、段落[0006])参照。)。特許文献1には、この窒化ジルコニウム粉末がアクリル樹脂等との相溶性を向上でき、またガスバリア性と相まって耐湿性も向上できることが記載されている。
【0004】
一方、ZrNと、AlおよびTiのうち少なくとも1つとが複合化されたことを特徴とする複合粒子が開示されている(特許文献2(請求項1、段落[0007])参照。)。特許文献2には、この複合粒子が可視光領域において透過率がより低い、すなわち、可視光領域において遮光性がより高い光学特性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-158377号公報
【特許文献2】WO2019-124100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたアルミナにより被覆された窒化ジルコニウム粉末も、特許文献2に記載されたZrNと、Alとが複合化された粒子も、黒色顔料として黒色パターニングを形成するときに、依然として、可視光線領域の透過率が低くなく、即ち、可視光線領域の遮蔽性が十分に高くない課題があった。
【0007】
本発明の目的は、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに、可視光線領域の遮蔽性に優れ、かつ耐湿性が良好な窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、アルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物を含有する窒化ジルコニウム粉末であって、前記粉末の全量を100質量%とするとき、前記粉末は、アルミニウムを0.3質量%~10.0質量%の割合で、亜鉛を0.1質量%~1.1質量%の割合で、それぞれ含有し、BET法により測定される比表面積が20m2/g~90m2/gであることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末である。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、365nmの光透過率Xが25%以上であり、550nmの光透過率Yが8%以下であり、前記550nmの光透過率Yに対する前記365nmの光透過率X(X/Y)が6.0以上である窒化ジルコニウム粉末である。
【0010】
本発明の第3の観点は、二酸化ジルコニウム(以下、単に酸化ジルコニウムという。)粉末と、前記酸化ジルコニウムの0.02倍モル~0.46倍モルのアルミニウム化合物含有粉末と、前記酸化ジルコニウムの0.03倍モル~0.25倍モルの亜鉛化合物含有粉末と、前記酸化ジルコニウムの2.0倍モル~6.0倍モルの金属マグネシウム粉末と、前記酸化ジルコニウムの0.3倍モル~5.0倍モルの酸化マグネシウム粉末とを、混合して前記混合物を得た後、前記混合物を窒素ガス雰囲気下、700℃~1100℃の温度で60分間~180分間焼成することにより、前記酸化ジルコニウム粉末を還元して、第1又は第2の観点の窒化ジルコニウム粉末を製造する方法(以下、焼成法ということもある。)である。
【0011】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記アルミニウム化合物含有粉末が、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム又はアルミン酸化合物のいずれか1種以上の粉末であり、前記亜鉛化合物含有粉末が、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛又は炭酸亜鉛のいずれか1種以上の粉末である窒化ジルコニウム粉末の製造方法である。
【0012】
本発明の第5の観点は、ジルコニウム化合物含有粉末とアルミニウム化合物含有粉末と亜鉛化合物含有粉末を、N2ガス雰囲気中、N2及びH2の混合ガス雰囲気中、N2及びArの混合ガスの雰囲気中、或いはN2及びNH3の混合ガス雰囲気中で、熱プラズマ法、火炎法又はアークプラズマ法により、窒化反応させて、亜鉛及びアルミニウムを含有する窒化ジルコニウム粉末を製造する方法(以下、プラズマ合成法ということもある。)である。
【0013】
本発明の第6の観点は、第1又は第2の観点の窒化ジルコニウム粉末が溶剤又はモノマー化合物に分散した黒色分散液である。
【0014】
本発明の第7の観点は、第6の観点の黒色分散液に有機高分子化合物を含む黒色ペーストである。
【0015】
本発明の第8の観点は、第1又は第2の観点の窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として含む黒色感光性組成物である。
【0016】
本発明の第9の観点は、第8の観点の黒色感光性組成物を用いて得られたUV硬化型黒色接着剤である。
【0017】
本発明の第10の観点は、第8の観点の黒色感光性組成物を用いて得られた黒色パターニング膜である。
【0018】
本発明の第11の観点は、第8の観点の黒色感光性組成物を用いて得られた黒色成形体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の観点の窒化ジルコニウム粉末では、この粉末の全量を100質量%とするとき、この粉末は、アルミニウムを0.3質量%~10.0質量%の割合で、亜鉛を0.1質量%~1.1質量%の割合で含有し、BET法により測定される比表面積が20m2/g~90m2/gである。この窒化ジルコニウム粉末は、BET比表面積が20m2/g以上であるため、レジストとした場合の沈降抑制の効果があり、また90m2/g以下であるため、十分な可視光線遮蔽性を有する効果がある。この窒化ジルコニウム粉末がアルミニウムを上記割合で含有すると、アルミニウム含有粉末がテルミット還元反応の補助剤として働くため、高い結晶性と微細粒子均一化の効果があるため、紫外線領域の透過性が向上するとともに、耐湿性が良好になる。また窒化ジルコニウム粉末が亜鉛を上記割合で含有すると、粒子微細化かつ均一化効果が高いため、窒化ジルコニウム粉末が本来有する紫外線の透過性を高めるとともに可視光線領域の遮蔽性がより向上し、赤外線の透過性が向上する。またアルミニウムと亜鉛を同時に含有することにより、微細粒子均一化並びに結晶性向上の効果が一段と高まる。
【0020】
本発明の第2の観点の窒化ジルコニウム粉末は、更に粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、365nmの光透過率Xが25%以上であり、550nmの光透過率Yが8%以下であり、550nmの光透過率Yに対する365nmの光透過率X(X/Y)が6.0以上である。このため、紫外線をより一層透過する特長があるうえ、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときにより一層高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜はより高い可視光線の遮蔽性能を有する。
【0021】
本発明の第3の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法(焼成法)では、酸化ジルコニウムに、アルミニウム化合物と亜鉛化合物含有粉末と金属マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末とを所定の割合で混合して、700℃~1100℃の温度で、窒化ジルコニウム粉末を製造するため、粉末にアルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物が含有するようになる。特に、アルミニウム含有粉末と亜鉛化合物含有粉末がテルミット還元反応において、金属マグネシウムよりも穏やかに寄与することの理由により、窒化ジルコニウム粉末の結晶性を低下させず、結晶性を高く保つことができ、窒化ジルコニウム粉末の純度及び粒度を改善する。
【0022】
テルミット還元反応の詳細なメカニズムは不明であるが、この反応材料として、亜鉛化合物含有粉末を使用することにより、テルミット還元反応において以下の副反応を生じることが予想され、その効果により良好な光学特性が得られるものと推測される。
【0023】
アルミニウム化合物が金属アルミニウムであって、亜鉛化合物が金属亜鉛である場合には、この金属アルミニウムと金属亜鉛は、窒素ガス雰囲気下、酸化ジルコニウムを還元し、ジルコニウムの窒化をアシストする。この反応は式(1)及び式(2)に示される。
ZrO2 + 4/3Al + 1/2N2 → ZrN + 2/3Al23 (1)
ZrO2 + 2Zn + 1/2N2 → ZrN + 2ZnO (2)
アルミニウム化合物が、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム又はアルミン酸化合物である場合、又は亜鉛化合物が酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛又は炭酸亜鉛である場合には、これらのアルミニウム化合物又は亜鉛化合物は、金属マグネシウムで一度金属アルミニウム又は金属亜鉛に還元され、その後で、上記式(1)又は式(2)の反応が行われる。
上記式(1)及び式(2)に示される反応により、窒化ジルコニウム、アルミニウム系化合物及び亜鉛系化合物の混合体が生成される。
【0024】
金属アルミニウム及び金属亜鉛は金属マグネシウム同様に高温でのテルミット反応を起こすが、マグネシウムより長く緩やかな反応となるため、反応物として得られる窒化ジルコニウムは、熱焼結による粗大粒子化が抑制され、均一性に優れた小粒径の形状となり、特に紫外線領域の透過性向上及び赤外線領域の透過性向上に寄与すると考えられる。
【0025】
本発明の第4の観点の製造方法では、アルミニウム化合物含有粉末が、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム又はアルミン酸化合物のいずれか1種以上の粉末であるため、また亜鉛化合物含有粉末が、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛又は炭酸亜鉛のいずれか1種以上の粉末であるため、焼成時にいずれの粉末も金属マグネシウムにより還元されて金属アルミニウム及び金属亜鉛が生成され、上記式(1)及び式(2)により、窒化ジルコニウム粉末が得られる。
【0026】
本発明の第5の観点の製造方法(プラズマ合成法)は、ジルコニウム化合物含有粉末とアルミニウム化合物含有粉末と亜鉛化合物含有粉末を窒素含有雰囲気中で、熱プラズマ法、火炎法又はアークプラズマ法により、窒化反応させることにより、亜鉛及びアルミニウムを含有する窒化ジルコニウム粉末を製造することができる。この製造方法(プラズマ合成法)は、窒化ジルコニウム粉末が第3の観点の製造方法(焼成法)と比較して、より不純物が少なく、均一性に優れた粒子を生成できる特長がある。
【0027】
本発明の第6の観点の黒色分散液は、第1又は第2の観点の窒化ジルコニウム粉末が溶剤又はモノマー化合物に分散されることにより、窒化ジルコニウムが紫外線を透過し、可視光線を遮蔽するとともに、赤外線を透過する特長がある。この結果、この黒色分散液は黒色パターニング膜形成用材料として好適に用いられる。
【0028】
本発明の第7の観点の黒色ペーストは、上記黒色分散液に有機高分子化合物を含むため、また本発明の第8の観点の黒色感光性組成物は、黒色顔料として窒化ジルコニウム粉末を含むため、更に本発明の第9の観点のUV硬化型黒色接着剤は、この黒色感光性組成物を用いて得られるため、この黒色ペースト、黒色顔料組成物又はUV硬化型黒色接着剤を用いて黒色パターニング膜を形成すれば、黒色パターニング膜は紫外線透過率が高くなることから、光開始剤の使用量を減らしても高解像度のパターニング膜を形成することができる。またアルミニウム及び亜鉛が添加されることにより粒子が微細均一化し、赤外線透過率が向上するため、カラーフィルターを構成するブラックマトリックスをパターニングする際の位置合わせを精度よく行うことができる。
【0029】
本発明の第10の観点の黒色パターニング膜は、高解像度である上、可視光線の高い遮蔽性能と、紫外線及び赤外線領域の高い透過性能を有する。
【0030】
本発明の第11の観点の黒色成形体は、低いUV照射量で硬化するとともに、近赤外線を吸収しないため蓄熱性が低減され、内部温度が高温にならないという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1及び比較例1でそれぞれ得られた窒化ジルコニウム粉末の分散液を粉末濃度50ppmに希釈した分散液における光透過率を示す分光曲線である。
図2】本発明の第1の製造方法(焼成法)により、窒化ジルコニウム粉末を製造するフロー図である。
図3】本発明の第2の製造方法(プラズマ合成法)により、窒化ジルコニウム粉末を製造するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0033】
〔窒化ジルコニウム粉末の第1の製造方法(焼成法)〕
本発明の窒化ジルコニウム粉末(以下、最終製品ということもある。)の第1の製造方法の特徴ある点は、金属マグネシウム粉末とともにアルミニウム化合物含有粉末と亜鉛化合物含有粉末を用いて、これらのアルミニウム化合物と亜鉛化合物を酸化ジルコニウムの還元に寄与させることにある。
【0034】
〔アルミニウム化合物含有粉末と亜鉛化合物含有粉末とZrO2粉末と金属Mg粉末とMgO粉末との混合〕
第1の製造方法では、図2に示すように、アルミニウム化合物含有粉末11及び亜鉛化合物含有粉末12を、酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末13に、金属マグネシウム(金属Mg)粉末14と酸化マグネシウム(MgO)粉末15とともに混合して混合物20を得る。
【0035】
この混合物20は、酸化ジルコニウム粉末13と、酸化ジルコニウムの0.02倍モル~0.46倍モルのアルミニウム化合物含有粉末11と、酸化ジルコニウムの0.03倍モル~0.25倍モルの亜鉛化合物含有粉末12と、前記酸化ジルコニウムの2.0倍モル~6.0倍モルの金属マグネシウム粉末14と、前記酸化ジルコニウムの0.3倍モル~5.0倍モルの酸化マグネシウム粉末15とを、混合して得られる。
【0036】
〔アルミニウム化合物含有粉末〕
アルミニウム化合物含有粉末11は、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム又はアルミン酸化合物のいずれか1種以上の粉末である。金属アルミニウム以外のアルミニウム化合物は、焼成時に金属マグネシウムにより還元されて、金属アルミニウムを生成するために使用される。そのため、アルミニウム化合物含有粉末が金属アルミニウムであれば、金属マグネシウムの使用量を僅少にすることができる。水酸化アルミニウムは、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の無機アルミニウム化合物を水に溶解した後、アルカリを加えて合成し、合成物を洗浄して不純物を除去した後、乾燥した状態で使用するか、又は硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の無機アルミニウム化合物を水に溶解した後、アルカリを加えて合成し、合成物を洗浄して不純物を除去してスラリーに調製し、このスラリーに、酸化ジルコニウム、金属マグネシウム、酸化マグネシウムを加えて混合し、乾燥した後、乾燥粉の状態で使用することができる。
【0037】
アルミニウム化合物含有粉末11が金属アルミニウム粉末である場合には、金属アルミニウム粉末は、1μm~200μmの平均粒子径を有することが好ましい。下限値未満の場合、反応が急激に進行し易く、上限値を超えると、反応が円滑に進行しにくい。アルミニウム化合物含有粉末11が金属アルミニウム粉末以外の粉末である場合には、これらの粉末は、イオン性化合物であり、容易に熱分解するため、粉末11の平均粒子径について、制約はない。
【0038】
酸化ジルコニウム粉末13に対する金属アルミニウム以外のアルミニウム化合物含有粉末11の添加量の多寡は、金属アルミニウムの生成量に影響を与える。このアルミニウム化合物含有粉末の量が少な過ぎると、金属アルミニウム不足でアルミニウムによるテルミット還元反応を生じにくい。多すぎると、アルミニウムとジルコニウムの化合物であるZrAl3を生成し、最終製品の光学特性が低下する。アルミニウム化合物含有粉末11は、酸化ジルコニウムの0.02倍モル~0.46倍モルの割合になるように、酸化ジルコニウム粉末13に添加して混合する。0.02倍モル未満では、金属アルミニウムの生成量が不足し易く、0.46倍モルを超えると、最終製品の光学特性が低下する。0.025倍モル~0.2倍モルが好ましい。ここで、アルミニウム化合物含有粉末のモル数は、アルミニウム化合物含有粉末を構成するアルミニウム1原子当たりの分子量に換算した値である。
【0039】
〔亜鉛化合物含有粉末〕
亜鉛化合物含有粉末12は、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛又は炭酸亜鉛のいずれか1種以上の粉末である。金属亜鉛以外の亜鉛化合物は、焼成時に金属マグネシウムにより還元されて、金属亜鉛を生成するために使用される。そのため、亜鉛化合物含有粉末が金属亜鉛であれば、金属マグネシウムの使用量を僅少にすることができる。水酸化亜鉛は、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛等の無機亜鉛化合物を水に溶解した後、アルカリを加えて合成し、合成物を洗浄して不純物を除去した後、乾燥した状態で使用するか、又は硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛等の無機亜鉛化合物を水に溶解した後、アルカリを加えて合成し、合成物を洗浄して不純物を除去してスラリーに調製し、このスラリーに、酸化ジルコニウム、金属マグネシウム、酸化マグネシウムを加えて混合し、乾燥した後、乾燥粉の状態で使用することができる。
【0040】
亜鉛化合物含有粉末12が金属亜鉛粉末である場合には、金属亜鉛粉末は、1μm~200μmの平均粒子径を有することが好ましい。下限値未満の場合、反応が急激に進行し易く、上限値を超えると、反応が円滑に進行しにくい。亜鉛化合物含有粉末12が金属亜鉛粉末以外の粉末である場合には、これらの粉末は、イオン性化合物であり、容易に熱分解するため、粉末12の平均粒子径について、制約はない。
【0041】
酸化ジルコニウム粉末13に対する金属亜鉛以外の亜鉛化合物含有粉末12の添加量の多寡は、金属亜鉛の生成量に影響を与える。この亜鉛化合物含有粉末の量が少な過ぎると、金属亜鉛不足で亜鉛によるテルミット還元反応を生じにくい。多すぎると、亜鉛とジルコニウムの化合物であるZrZn2を生成し、最終製品の光学特性が低下する。亜鉛化合物含有粉末11は、酸化ジルコニウムの0.03倍モル~0.25倍モルの割合になるように、酸化ジルコニウム粉末12に添加して混合する。0.03倍モル未満では、金属亜鉛の生成量が不足し易く、0.25倍モルを超えると、最終製品の光学特性が低下する。0.04倍モル~0.20倍モルが好ましい。ここで、亜鉛化合物含有粉末のモル数は、亜鉛化合物含有粉末を構成する亜鉛1原子当たりの分子量である。
【0042】
〔酸化ジルコニウム粉末〕
酸化ジルコニウム粉末13としては、例えば、単斜晶系二酸化ジルコニウム、立方晶系二酸化ジルコニウム、イットリウム安定化二酸化ジルコニウム等の二酸化ジルコニウムの粉末がいずれも使用可能であるが、窒化ジルコニウム粉末の生成率が高くなる観点から、単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末が好ましい。酸化ジルコニウムには通常不可避不純物としてハフニウムが2質量%程度含有されるが、2質量%のレベルであれば生成物の光学特性に影響は及ぼさない。
【0043】
[金属マグネシウム粉末]
金属マグネシウム粉末14は、粒径が小さすぎると、反応が急激に進行して操作上危険性が高くなるので、粒径が篩のメッシュパスで100μm~1000μmの粒状のものが好ましく、特に200μm~500μmの粒状のものが好ましい。ただし、金属マグネシウム粉末14は、すべて上記粒径範囲内になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上が上記範囲内にあればよい。
【0044】
酸化ジルコニウム粉末13に対する金属マグネシウム粉末14の添加量の多寡は、酸化ジルコニウムへの還元力に影響を与える。金属マグネシウムの量が少なすぎると、還元不足で目的とする窒化ジルコニウム粉末が得られにくくなり、多すぎると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こす恐れがあるとともに不経済となる。金属マグネシウム粉末14は、その粒径の大きさによって、金属マグネシウムが酸化ジルコニウムの2.0倍モル~6.0倍モルの割合になるように、金属マグネシウム粉末13を酸化ジルコニウム粉末13に添加して混合する。2.0倍モル未満では、酸化ジルコニウムの還元力が不足し易く、6.0倍モルを超えると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し易く、粉末の粒成長を引き起こすおそれがあるとともに不経済となる。2.0倍モル~5.0倍モルが好ましい。
【0045】
〔酸化マグネシウム粉末〕
酸化マグネシウム粉末15は、金属マグネシウムによる酸化ジルコニウムの還元反応により生成する窒化ジルコニウムの焼結を防止するためのものである。その使用量は、酸化マグネシウムの粒径によっても異なるが、酸化ジルコニウム粉末1モルに対して、0.3倍モル~5.0倍モルである。0.5倍モル~4.5倍モルであることが好ましい。酸化マグネシウム粉末15は、窒化ジルコニウムの焼結を防止することができる量だけあればよく、過剰に使用すると、反応後の酸洗浄時に要する酸性溶液の使用量が増加するので、上記の範囲で使用するのが好ましい。
【0046】
[混合物の焼成]
アルミニウム化合物含有粉末11と亜鉛化合物含有粉末12と酸化ジルコニウム粉末13と金属マグネシウム粉末14と酸化マグネシウム粉末15を図示しない反応容器に入れ、これらの混合物20を焼成する。酸化ジルコニウム粉末13を還元して窒化ジルコニウム粉末を生成させるための金属マグネシウムによる還元反応時の温度、即ち焼成温度は、700℃~1100℃、好ましくは950℃~1000℃である。下限値の700℃以下では、アルミニウム化合物含有粉末及び亜鉛化合物含有粉末をテルミット還元反応に有効に利用できず、酸化ジルコニウムの還元反応が十分に生じない。また、温度を1100℃より高くしても、その効果は増加せず、熱エネルギーの無駄になるとともに粒子の焼結が進行し好ましくない。また還元反応時間、即ち焼成時間は、還元反応温度と同じ理由で、60分間~180分間、好ましくは60分間~120分間である。この還元反応時、即ち焼成時の雰囲気ガスは、還元生成物の酸化を防ぐため窒素ガス雰囲気である。上記還元反応を促進させるために、窒素ガスと水素ガスの混合ガス、又は窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスを用いてもよい。上記混合物20を焼成して焼成物21が得られる。
【0047】
[焼成物の処理]
上記混合物を焼成することにより得られた焼成物21は、反応容器から取り出し、最終的には室温まで冷却した後、塩酸水溶液などの酸溶液22で洗浄して、金属マグネシウムの酸化によって生じた酸化マグネシウムや生成物の焼結防止のために当初から含まれていた酸化マグネシウム(MgO)及び焼成により生成した窒化マグネシウム(Mg32)を除去する。また酸溶液の洗浄により、亜鉛化合物含有粉末の亜鉛は、下記の反応式(3)により、部分的に溶解し、除去される。
Zn + 2HCl → ZnCl2 + H2 (3)
この酸洗浄に関しては、0.5以上のpHで90℃以下の温度で行うのが好ましく、1.0以上3,0以下のpHで90℃以下の温度で行うのが更に好ましい。これは酸性が強すぎたり温度が高すぎるとジルコニウムまでが溶出してしまうおそれがあるためである。そして、その酸洗浄後、アンモニア水などでpHを5~6に調整した後、ろ過又は遠心分離により固形分を分離し、その固形分を乾燥した後、粉砕して本実施形態の窒化ジルコニウム粉末23を得る。なお、窒化ジルコニウム粉末23は、使用原料又はステンレス鋼製の反応容器の材質等に由来した、工程上含有し得る不純物を含んでいても良い。不純物としては、塩化マグネシウム、酸化マグネシウムなどのマグネシウム塩、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、フッ素、塩素、臭素、金属亜鉛、窒化亜鉛、カーボン、吸着水、鉄、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、チタン、コバルト、カリウム、銅、ハフニウム化合物などが挙げられる。窒化ジルコニウム粉末23に、これらの不純物が微量含まれた場合においても、その光学特性、電気的絶縁性、恒温恒湿環境での特性変化などに全く影響を及ぼさない。
【0048】
〔窒化ジルコニウム粉末の第2の製造方法(プラズマ合成法)〕
本発明の窒化ジルコニウム粉末(以下、最終製品ということもある。)の第2の製造方法は、熱プラズマ法により、アルミニウム及び亜鉛を含有する窒化ジルコニウム粉末を製造する方法である。この方法は金属窒化物を得る方法として一般的となっているけれども、窒化ジルコニウム粉末を高純度で得る手段としては確立されていなかった。上記熱プラズマ法を実施する装置としては、例えば高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置(日本電子製TP40020NPS)等の熱プラズマ装置を挙げることができる。この熱プラズマ装置は、窒素(N2)ガス、水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガスなどの反応ガスのガス供給機と、ジルコニウム化合物含有粉末とアルミニウム化合物含有粉末と亜鉛化合物含有粉末をプラズマトーチに供給する原料供給機と、この原料供給機に接続され原料を熱プラズマ法により合成窒化反応させるプラズマトーチと、このプラズマトーチの外周に巻回された誘導コイルと、この誘導コイルに電気的に接続され誘導コイルに高周波電力を供給する高周波電源と、プラズマトーチに接続され内部にN2ガスやArガス等の冷却ガスが流通するチャンバーと、このチャンバーに接続されアルミニウム及び亜鉛を含有する窒化ジルコニウム粉末を回収するバグフィルターとを備える。
【0049】
上記熱プラズマ装置を用いてアルミニウム及び亜鉛を含有する窒化ジルコニウム粉末を製造するには、図3に示すように、先ず、原料供給機に、原料であるジルコニウム化合物含有粉末16とアルミニウム化合物含有粉末17と亜鉛化合物含有粉末18を供給する。ジルコニウム化合物含有粉末16としては、金属ジルコニウム粉末、酸化ジルコニウム粉末(ZrO2)、窒化ジルコニウム(ZrN)粉末が例示される。上記アルミニウム化合物含有粉末17及び亜鉛化合物含有粉末18は、第1の製造方法で用いたアルミニウム化合物含有粉末11及び亜鉛化合物含有粉18とそれぞれ同一であっても異なってもよい。具体的には、アルミニウム化合物含有粉末17としては、酸化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム粉末などが好ましい。亜鉛化合物含有粉18としては、酸化亜鉛、窒化亜鉛などが好ましい。ジルコニウム化合物含有粉末16が金属ジルコニウム粉末である場合、金属ジルコニウム粉末の純度は98%以上であることが好ましく、平均一次粒径は30μm以下であることが好ましい。またアルミニウム化合物含有粉末17が金属アルミニウム粉末である場合、金属アルミニウム粉末の純度は98%以上であることが好ましく、平均一次粒径は200μm以下であることが好ましい。更に、亜鉛化合物含有粉末18が金属亜鉛粉末である場合、金属亜鉛粉末の純度は98%以上であることが好ましく、平均一次粒径は150μm以下であることが好ましい。ここで、金属ジルコニウム粉末の純度を98%以上に限定したのは、98%未満では目的とする窒化ジルコニウムの純度が低下し、十分な特性が得られないからである。また、金属ジルコニウム粉末の平均一次粒径を30μm以下に限定したのは、30μm以下にすると、高い純度の窒化ジルコニウム粉末が得られるのに対し、30μmを超えると、金属ジルコニウム粉末の溶解及びガス化が不十分となり、窒化されない金属ジルコニウム粉末のまま回収され、十分な特性を発現する窒化ジルコニウム粉末が得られないからである。一方、金属アルミニウム粉末及び金属亜鉛粉末の各純度を98%以上に限定したのは、98%未満では目的とする窒化ジルコニウムの純度が低下し、十分な特性が得られないからである。また、金属アルミニウム粉末の平均一次粒径を200μm以下に限定し、金属亜鉛粉末の平均一次粒径を150μm以下に限定したのは、これらの上限値を超えるとアルミニウムと亜鉛を均一にを含有した窒化ジルコニウム粉末が得られないからである。ジルコニウム化合物含有粉末16とアルミニウム化合物含有粉末17と亜鉛化合物含有粉末18がそれぞれ酸化物粉末又は窒化物である場合には、各化合物の沸点、融点を指標とし、反応温度、反応時間を調整することが好ましい。
なお、上記金属粉末の平均一次粒径は、粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-950)を用いて測定した粒径であり、体積基準平均一次粒径である。
【0050】
次いで、上記原料はN2ガスやArガス等のキャリアガスによりプラズマトーチに導入される。このときプラズマトーチ内は、N2ガス雰囲気、N2及びH2の混合ガス雰囲気、N2及びArの混合ガスの雰囲気、或いはN2及びNH3の混合ガス雰囲気になっており、これらの混合ガスは、高周波電源から誘導コイルに高周波電力を供給することにより、N2ガスの熱プラズマ、N2及びH2の混合ガスの熱プラズマ、N2及びArの混合ガスの熱プラズマ、或いはN2及びNH3の混合ガスの熱プラズマ(プラズマ炎)が発生する。このため、プラズマトーチに導入された原料は、プラズマトーチ内で発生した数千度の高温のN2ガスの熱プラズマ等により揮発してガス化する、即ち熱プラズマ法により合成窒化反応する。次に、上記ガス化した原料は、N2ガスやArガス等の冷却ガスの流通するチャンバー内で急冷される、即ちプラズマトーチの下方のチャンバー内でN2ガスやArガス等の冷却ガスにより瞬時に冷却・凝縮されることにより、図3に示すように、アルミニウムと亜鉛を含有する窒化ジルコニウム粉末24が得られる。更に、この窒化ジルコニウム粉末は、バグフィルターにより回収される。このようにして、アルミニウムと亜鉛を含有する窒化ジルコニウム粉末からなるナノサイズ(平均一次粒径:10nm~50nm)の黒色材料が得られる。なお、黒色材料等の平均一次粒径は、後述する式(4)を用いて、比表面積の測定値からの球形換算により測定した値である。
【0051】
〔窒化ジルコニウム粉末の特性〕
第1及び第2の製造方法で得られた窒化ジルコニウム粉末は、粉末の全量を100質量%とするとき、アルミニウムを0.3質量%~10.0質量%の割合で、また亜鉛を0.1質量%~1.1質量%の割合で、それぞれ含有する。アルミニウムの割合が下限値未満では、耐湿性が低下するとともに、テルミット還元反応による、結晶性向上及び粒子の微細均一化の効果が発現せず、波長365nmにおける光透過率が低くなる。その割合が上限値を超えると、アルミニウム化合物が残存不純物となり、可視光線領域(380nm~780nm)の透過率が高くなり、可視光線領域の光遮蔽性が低下する。また亜鉛の割合が下限値未満では、テルミット還元反応による、結晶性向上及び粒子の微細均一化の効果が発現せず、波長365nmにおける光透過率が低くなる。その割合が上限値を超えると、亜鉛化合物が残存不純物となるため、可視光線領域(380nm~780nm)の光遮蔽性が低下する。アルミニウムの好ましい割合は0.3質量%~6.0質量%であり、亜鉛の好ましい割合は0.1質量%~1.0質量%である。
【0052】
この窒化ジルコニウム粉末におけるアルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物の各形態は、未確認ではあるが、窒化ジルコニウム粒子の粒界に存在するか、又は一部ジルコニウム原子に置き換わっていると推測される。アルミニウム系組成物としては、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等が挙げられ、亜鉛系組成物としては、窒化亜鉛、酸窒化亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0053】
粉末の表面におけるアルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物の付着の有無は走査型透過電子顕微鏡(STEM)及びエネルギー分散型X線分析法(EDS)を用いて確認する。具体的には、この有無の確認は、STEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製Titan G2 ChemiSTEM)を用いて、倍率10000倍から200000倍のうち、粒子が1~5個確認できる倍率に設定し、加速電圧200kVの条件で粒子外観の観察により行う。更に、この有無の確認は、同じ視野において、EDS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製Velox)を用いて、アルミニウム元素、亜鉛元素、ジルコニウム元素、酸素元素、窒素元素について元素マッピングを行い、アルミニウム系組成物と亜鉛系組成物と窒化ジルコニウムの判別により行う。簡易的には、粒子外観の観察時に、高角環状暗視野(HAADF:High-Angle Annular Dark Field)像におけるアルミニウム系組成物と亜鉛元素とジルコニウム元素のコントラスト差からも、アルミニウム系組成物と亜鉛系組成物と窒化ジルコニウムとを判別することが可能である。
【0054】
アルミニウム及び亜鉛の含有割合は、誘導結合プラズマ発光分析装置(島津製作所社製のICP発光分析装置:ICPS-7510)により測定する。
【0055】
また窒化ジルコニウム粉末は、BET比表面積が20m2/g~90m2/gである。この窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が20m2/g未満では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降する不具合があり、90m2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、可視光線の遮蔽性能が不足する不具合がある。30m2/g~85m2/gが好ましい。
上記比表面積から次の式(4)により球状に見なした平均粒子径を算出することができる。このBET比表面積から算出される、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末の平均粒子径は10nm~50nmである。式(4)中、Lは平均粒子径(μm)、ρは粉末の密度(g/cm3)、Sは粉末の比表面積(m2/g)である。
L=6/(ρ×S) (4)
【0056】
本実施形態の窒化ジルコニウム粉末では、更に、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、365nmの光透過率Xが25%以上であり、550nmの光透過率Yが8%以下であることが好ましい。光透過率Xが25%未満では、黒色顔料としてパターニング膜を形成するときにフォトレジスト膜の底部まで露光されず、パターニング膜のアンダーカットが発生し易い。また光透過率Yが8%を超えると、パターニング膜の可視光線の遮光性に劣り易い。更に好ましい光透過率Xは26%以上であり、更に好ましい光透過率Yは6%以下である。上記光透過率Yと光透過率Xの二律背反的な特性を考慮して、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末は、550nmの光透過率Yに対する365nmの光透過率X(X/Y)が6.0以上であることが好ましく、7.0以上であることが更に好ましい。即ち、X/Yが6.0以上であることにより、可視光線領域における遮光性が高くなる。
【0057】
なお、最終製品の窒化ジルコニウム粉末は、粒子が凝集しないで、十分に分散されていることが必要不可欠である。十分な分散は、例えば、リン酸、アミンなどの官能基を有する高分子系の分散剤を使用し、ジルコニアビーズなどの粉砕メディアを使用して所定時間分散処理を行うことにより実現する。分散度の指標としては、動的散乱方式の粒度分布計(例えばマイクロトラック社製のUPA、や堀場製作所製のSZ-100)において、200nmを超える二次凝集物が確認されないことが挙げられる。
【0058】
〔黒色分散液の調製〕
最終製品の窒化ジルコニウム粉末を溶剤又はアクリルモノマー又はエポキシモノマーなどのモノマー化合物に分散することにより、黒色分散液を調製する。
【0059】
アクリルモノマーは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基とメタアクリロイル基を含む。アクリルモノマーは、1つ分子中に(メタ)アクリル基を1つ有する単官能アクリルモノマーであってもよいし、1つの分子中に(メタ)アクリル基を2つ以上有する多官能アクリルモノマーであってもよい。
【0060】
単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソアミルアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0061】
二官能(メタ)アクリルモノマーとしては、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0062】
多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0063】
エポキシモノマーは、エポキシ基を有するものである。エポキシモノマーは、1つの分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシモノマーであってもよいし、1つの分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシモノマーであってもよい。エポキシモノマーとしては、グリシジルエーテル、脂環式エポキシなどが挙げられる。
【0064】
このモノマー分散体である黒色分散液をアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などのポリマー中に添加することにより、上記窒化ジルコニウム粉末を分散して含有する樹脂組成物が作製され、この樹脂組成物から樹脂成形体が形成される。また、上記モノマー分散体である黒色分散液は、更に金属酸化物粉末を含み、可塑剤を更に含有することができる。可塑剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸トリブチル、リン酸2-エチルヘキシル等のリン酸エステル系可塑剤、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル等のフタル酸エステル系可塑剤、オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪族- 塩基性エステル系可塑剤、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシルなどの脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチラートなどの二価アルコールエステル系可塑剤;アセチルリシノール酸メチル、アセチルクエン酸トリブチルなどオキシ酸エステル系可塑剤等の従来公知の可塑剤を挙げることができる。
【0065】
更に、モノマー分散体である黒色分散液に、更に別のモノマーを添加することができる。別のモノマーとしては、特に限定はなく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系モノマー、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系モノマー、ウレタンアクリレート等のウレタン系モノマー、上記各種ポリオール類など、従来公知のモノマーを挙げることができる。なお、モノマー分散体の粘度は、窒化ジルコニウム粉末の分散性を考慮して10mPa・s~1000mPa・sの範囲内に設定されることが好ましい。モノマーへの分散は、次に述べる溶剤への分散と同様に、粉砕メディアを使用したミル方式を使用することも可能である。また、必須成分ではないが、より分散性を向上させるため高分子分散剤を使用することも可能である。高分子分散剤は分子量が数千~数万であることが有効である。
また、顔料に吸着する高分子分散剤の官能基としては二級アミン、三級アミン、カルボン酸、リン酸、リン酸エステルなどが挙げられるが、特に三級アミン、カルボン酸が有効である。高分子分散剤の代わりに、シランカップリング剤を少量添加することも分散性向上に有効である。一方、遊星撹拌を施した後、三本ロールを数回通して黒色分散液を得ることも可能である。
【0066】
溶剤に分散した黒色分散液についても、モノマー化合物を分散した黒色分散液と同様に高分子分散剤の添加が有効である。高分子分散剤は、モノマー化合物を分散した黒色分散液と同様に分子量が数千から数万であることが有効であり、高分子分散剤の官能基としては三級アミン、カルボン酸が有効である。溶剤としては、イソプロパノール(IPA)、酢酸ブチル(BA)、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0067】
〔黒色ペーストの調製〕
上記黒色分散液に、アクリル、エポキシ、ウレタン等のバインダとなる高分子化合物を添加し、必要に応じて各種添加剤を添加混合して調製される。この黒色ペーストは感光性黒色膜形成材として遮光膜、接着剤として各種電子機器に用いられる。
【0068】
〔黒色感光性組成物の調製〕
最終製品の窒化ジルコニウム粉末が黒色顔料として分散媒に分散され、更に樹脂が混合された黒色組成物が調製される。この上記分散媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸ブチル(BA)等が挙げられる。また、上記樹脂としては、感光性のアクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。この黒色感光性組成物を所定の粘度に調合することにより、UV硬化型黒色接着剤を得ることができる。このUV硬化型黒色接着剤は各種電子機器に用いられる。更にこの黒色感光性組成物に光開始剤を加え、UV硬化させることにより、黒色成形体を得ることができる。この黒色成形体は液晶ディスプレイや光学式センサー、レンズ等に用いられる。
【0069】
〔窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いたパターニング膜の形成方法〕
上記窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いた、ブラックマトリックスに代表されるパターニング膜の形成方法について述べる。先ず、上記窒化ジルコニウム粉末を溶剤に分散させて黒色分散液を調製する。アミン系分散剤を用いることが好ましい。溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)、ジエチルケトン、酢酸ブチル等が例示される。この分散液に感光性のアクリル樹脂を、質量比で黒色顔料:樹脂=(10:90)~(80:20)となる割合で添加混合して黒色感光性組成物を調製する。次いでこの黒色感光性組成物を基板上に塗布した後、溶剤を蒸発させて、フォトレジスト膜を形成する。次にこのフォトレジスト膜にフォトマスクを介して所定のパターン形状に露光したのち、アルカリ現像液を用いて現像して、フォトレジスト膜の未露光部を溶解除去し、その後好ましくはポストベークを行うことにより、所定の黒色パターニング膜が形成される。
【0070】
上記基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等を挙げることができる。また上記基板には、所望により、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施しておくこともできる。黒色感光性組成物を基板に塗布する際には、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の適宜の塗布法を採用することができる。塗布厚さは、乾燥後の膜厚として、通常、0.1μm~10μm、好ましくは0.2μm~7.0μm、更に好ましくは0.5μm~6.0μmである。パターニング膜を形成する際に使用される放射線としては、本実施形態では、波長が250nm~365nmの範囲にある電磁波が好ましい。電磁波の積算光量は、好ましくは10J/m2 ~10,000J/m2 である。
【0071】
また上記アルカリ現像液としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-5-ノネン等の水溶液が好ましい。上記アルカリ現像液には、例えばメタノール、エタノール等の水溶性有機溶剤や界面活性剤等を適量添加することもできる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗する。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができ、現像条件は、常温で5秒~300秒が好ましい。このようにして形成されたパターニング膜は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス、イメージセンサー用遮光材、光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に好適に用いられる。またこの黒色パターニング膜は、黒色フィルムを構成する要素として用いられる。具体的には、支持フィルムと、この支持フィルム上にこの黒色パターニング膜とを備えることにより黒色フィルムが得られる。
【実施例0072】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。実施例1~14及び比較例1~6は第1の製造方法(焼成法)により、実施例15、16及び比較例7は第2の製造方法(プラズマ合成法)により、それぞれ最終製品である窒化ジルコニウム粉末を製造した。
【0073】
<実施例1>
BET比表面積が30m2/gの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末100gに、アルミニウム化合物含有粉末としてBET比表面積が200m2/gの酸化アルミニウム粉末2.6g(酸化ジルコニウムに対して0.064倍モル)と、亜鉛化合物含有粉末として平均粒径が100μmの酸化亜鉛粉末5.0g(酸化ジルコニウムに対して0.076倍モル)と、金属マグネシウム粉末79g(酸化ジルコニウムに対して4.0倍モル)と、酸化マグネシウム粉末46g(酸化ジルコニウムに対して1.4倍モル)とを混合した。カッコ内のモル数は、酸化ジルコニウム1モルに対する割合である。この混合物を反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、1000℃の温度で180分間焼成した。この焼成物を、2.5リットルの水に分散し、10%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を90℃以下に保ちながら洗浄した後、2.5%アンモニア水にてpH7~8に調整し、ろ過した。そのろ過固形分を水中に10リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、ろ過した。このように酸洗浄-アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、ろ過物をイオン交換水に固形分換算で5g/リットルで分散させ、60℃での加熱撹拌とpH7への調整をした後、吸引ろ過装置でろ過し、さらに等量のイオン交換水で洗浄し、120℃の温度に設定された熱風乾燥機にて乾燥することにより、最終製品の粉末を得た。実施例1の製造条件を以下の表1及び表2に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
<実施例2~14及び比較例1~6>
実施例2~14及び比較例1~6の各最終製品の粉末の製造に際して、酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末のBET比表面積を実施例1と同一又は変更し、アルミニウム(Al)源であるアルミニウム化合物含有粉末、亜鉛源である亜鉛化合物含有粉末の各種類を実施例1と同一又は変更した。また酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末に対するアルミニウム化合物含有粉末(Al源)、亜鉛化合物含有粉末(Zn源)、金属マグネシウム(金属Mg)粉末及び酸化マグネシウム(MgO)粉末の添加割合をそれぞれ実施例1と同一又は変更した。更に、焼成時の雰囲気は窒素ガス雰囲気に統一した他、温度及び時間を、それぞれ実施例1と同一又は変更して、実施例2~14及び比較例1~6の各最終製品の粉末を得た。これらの内容を上記表1及び表2に示す。
【0077】
<実施例15>
高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置(日本電子社製:TP40020NPS)の原料供給機に、原料である金属ジルコニウム粉末(純度99%、平均一次粒径20μm)50gと、金属アルミニウム粉末(純度99.9%、平均一次粒径20μm)5gと、金属亜鉛粉末(純度99%、平均一次粒径50μm)3gとを供給し、これらの原料をプラズマトーチに導入してこのプラズマトーチで発生したN2ガスの熱プラズマにより揮発させた後、この揮発した原料をN2及びArの混合ガスの流通するチャンバー内で急冷し、これを回収することにより、アルミニウムと亜鉛を含有する窒化ジルコニウム粉末を合成した。この窒化ジルコニウム粉末を最終製品とした。
【0078】
<実施例16>
実施例15と同一の高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置を用いて、その原料供給機に、原料である金属ジルコニウム粉末(純度99%、平均一次粒径20μm)50gと、金属アルミニウム粉末(純度99.9%、平均一次粒径10μm)10gと、金属亜鉛粉末(純度99%、平均一次粒径50μm)5gとを供給した。以下、実施例15と同様にして、最終製品の窒化ジルコニウム粉末を合成した。
【0079】
<比較例7>
実施例15と同一の高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置を用いて、その原料供給機に、原料である金属ジルコニウム粉末(純度99%、平均一次粒径20μm)50gと、金属アルミニウム粉末(純度99.9%、平均一次粒径10μm)10gとを供給した。金属亜鉛粉末は供給しなかった。以下、実施例15と同様にして、最終製品の窒化ジルコニウム粉末を合成した。実施例15、16及び比較例7の内容を上記表1に示す。
【0080】
<比較試験>
実施例1~16及び比較例1~7の各最終製品の粉末を試料として用いた。これらの試料から、含有物であるアルミニウム系組成物及び亜鉛系組成物の有無の確認を行い、アルミニウムと亜鉛の各含有割合を測定した。この確認及び測定は上述した方法で行った。次に、これらの試料について、(1) BET比表面積を測定し、(2) 365nmの光透過率X、550nmの光透過率Yを分光曲線から読取り、及び X/Yの計算を行い、更に(3)耐湿性について測定した。それらの結果を以下の表3に示す。
【0081】
(1) BET比表面積: 全ての試料について、比表面積測定装置(柴田化学社製、SA-1100)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により測定した。
【0082】
(2) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線: 実施例1~16と比較例1~7の各試料について、これらの試料を循環式横型ビーズミル(メディア:ジルコニア)に各別に入れ、アミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)溶剤中での分散処理を行った。得られた23種類の分散液を10万倍に希釈し粉末濃度を50ppmに調整した。この希釈した分散液における各試料の光透過率を日立ハイテクフィールディング((株)(UH-4150)を用い、波長300nmから1200nmの範囲で測定して分光曲線を得た。i線(365nm)近傍の波長365nmにおける光透過率X及び550nmの光透過率Yを分光曲線から読み取った。図1に、実施例1及び比較例1の2つの分光曲線を示す。
【0083】
実施例1~16と比較例1~7の各試料の分光曲線から読み取られた光透過率Xと光透過率YよりX/Yを算出した。
【0084】
(3) 耐湿性:実施例1~16と比較例1~7の各試料について、これらの試料に、アミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)溶剤中で分散処理を行って分散液を調製した。この分散液にアクリル樹脂を、質量比で黒色顔料:樹脂=5:5となる割合で添加し混合して黒色組成物を調製した。この黒色組成物をガラス基板上にスピンコートし、250℃の温度に30分間保持することにより厚さ1μmの乾燥した塗膜を得た。これらの体積抵抗率をそれぞれ測定することにより、塗膜の耐湿性を評価した。
【0085】
塗膜の体積抵抗率は、この塗膜の作製直後(初期)と、温度80℃かつ湿度80%の雰囲気中に1000時間保持した後(加熱加湿後)にそれぞれ測定した。上記塗膜の初期及び加熱加湿後の体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学アナリテック社製の抵抗率計(ハイレスタ(商標名)、型番:MCP-HT450)を用いて測定した。加熱加湿後の体積抵抗率が1×106Ω・cm以上の場合を耐湿性が『良好』と判定し、1×106Ω・cm未満の場合を耐湿性が『不良』と判定した。
【0086】
【表3】
【0087】
<評価>
表3から明らかなように、比較例1及び比較例7では、最終製品の粉末を誘導結合プラズマ発光分析装置で分析したところ、亜鉛は含まれていなかった。またSTEMで観察したところ、これらの窒化ジルコニウム粉末の表面には亜鉛化合物は存在しないことが確認された。これらの粉末の内部を電子線回折装置で調べたところ、亜鉛化合物は存在していなかった。
【0088】
比較例1では、亜鉛化合物が含まれたテルミット還元反応による、結晶性向上及び粒子の微細均一化の効果が発現せず、550nmの透過率Yは8.1%と高く、X/Yの値は3.5であって、6.0未満であった。比較例7では、亜鉛が含有されていなかったため、365nmの透過率Xは29.0%であり、550nmの透過率Yは5.0%であり、良好であったが、X/Yの値は5.8であって、6.0未満であった。この結果、比較例1及び比較例7の可視光線領域における遮光性が低かった。
【0089】
比較例2では、亜鉛化合物含有粉末である金属亜鉛粉末の添加量が酸化ジルコニウムに対して0.008倍モルと少な過ぎ、最終製品の粉末における亜鉛の含有割合は0.02質量%と少な過ぎた。このため、この粉末では、亜鉛化合物が含まれたテルミット還元反応による、結晶性向上及び粒子の微細均一化の効果が発現せず、550nmの透過率Yは10.0%と8%を上回り、X/Yの値が4.0となり、6.0未満であった。このため可視光線領域における遮光性が低かった。
【0090】
比較例3では、亜鉛化合物含有粉末である金属亜鉛粉末の添加量が、酸化ジルコニウムに対して0.303倍モルと多過ぎ、最終製品の粉末における亜鉛の含有割合を誘導結合プラズマ発光分析装置で分析したところ、1.2質量%であり多過ぎた。この粉末では、過剰な金属亜鉛が不純物として残量するため、550nmの透過率Yは8.2%と高くなり、X/Yの値が4.4となり、6.0未満であった。
【0091】
比較例4では、アルミニウム化合物含有粉末である金属アルミニウム粉末の添加量が酸化ジルコニウムに対して0.012倍モルと少な過ぎ、最終製品の粉末におけるアルミニウムの含有割合は0.2質量%と少な過ぎた。このため、この粉末では、結晶性向上及び粒子の微細均一化の効果が発現せず、365nmの透過率Xは23.6%と25%を下回り、X/Yの値が4.9となり、6.0未満であった。このため可視光線領域における遮光性が低かった。また酸化アルミニウム系組成物の含有割合が低かったため、耐湿性は不良であった。
【0092】
比較例5では、アルミニウム化合物含有粉末である金属アルミニウム粉末の添加量が、酸化ジルコニウムに対して0.483倍モルと多過ぎ、最終製品の粉末における亜鉛の含有割合を誘導結合プラズマ発光分析装置で分析したところ、11.0質量%であり多過ぎた。この粉末では、過剰な金属アルミニウムが不純物として残量するため、550nmの透過率Yは10.0%と高くなり、X/Yの値が4.7となり、6.0未満であった。
【0093】
比較例6では、最終製品の窒化ジルコニウム粉末のBET比表面積が19m2/gと小さ過ぎたため、最終製品の粉末を粉末濃度50ppmの分散液に分散させたときに粉末が沈降し、光学性能が低下した。
【0094】
これらに対して、実施例1~16の最終製品は、窒化ジルコニウム粉末であり、これらの最終製品の粉末を誘導結合プラズマ発光分析装置で分析したところ、アルミニウムの含有割合が0.3質量%~10.0質量%の範囲にあり、亜鉛の含有割合が0.1質量%~1.1質量%以下の範囲にあった。また電子線回折装置で分析したところ、すべての最終製品の粉末の表面にアルミニウム及び亜鉛化合物が付着しているか、又は粉末内部に非晶質亜鉛として存在していた。更に、実施例1~16の最終製品は、本発明の第1の観点の要件を満たしており、可視光線の遮光性能が高いことに加え、紫外線を透過するためパターニングに有利であり、かつ耐湿性が良好であることが判った。
【0095】
特にBET比表面積が20m2/g~90m2/gの範囲にあり、365nmの光透過率Xが25%以上であり、550nmの光透過率Yが8%以下であり、550nmの光透過率Yに対する365nmの光透過率X(X/Y)が6.0以上である実施例1~4、実施例6~16の最終製品は、本発明の第2の観点の要件を満たしており、可視光線の遮光性能が更に高いため、紫外線を透過するためパターニングに更に有利であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の窒化ジルコニウム粉末は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス、マイクロディスプレイ用ブラックマトリックス、イメージセンサー用遮光材、光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター、IRセンサー、太陽電池、液晶額縁材等に利用することができる。
図1
図2
図3