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特開2023-132134鋼板の製造方法、鋼板の切断設備、及び鋼板の製造装置
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  • 特開-鋼板の製造方法、鋼板の切断設備、及び鋼板の製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132134
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】鋼板の製造方法、鋼板の切断設備、及び鋼板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B23D 47/00 20060101AFI20230914BHJP
   B21B 15/00 20060101ALI20230914BHJP
   B23D 19/06 20060101ALI20230914BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20230914BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20230914BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20230914BHJP
   B23D 33/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
B23D47/00 D
B21B15/00 B
B23D19/06 A
B23Q11/10 A
B23Q17/09 A
B23Q17/24 A
B23D33/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037296
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】呉 思綺
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐一郎
【テーマコード(参考)】
3C011
3C029
3C039
3C040
3C051
【Fターム(参考)】
3C011EE01
3C029CC07
3C029CC10
3C039CA01
3C039CB11
3C039CB23
3C040AA04
3C040AA05
3C040EE00
3C040GG07
3C040HH21
3C051AA15
3C051FF29
(57)【要約】
【課題】更なる刃欠け頻度の改善を行いつつ、塗布した油による鋼板表面の悪化も抑制して、鋼板製造の歩留りを高める。
【解決手段】鋼板1のエッジ部を回転刃2で切断する切断処理を有する鋼板の製造方法であって、上記回転刃2で切断前の鋼板表面における上記回転刃2で切断する位置に対し潤滑油10を付着し、上記回転刃2で切断後の鋼板表面における上記付着した潤滑油10の付着状態を画像解析により判定し、上記付着状態に基づき、上記鋼板に付着する潤滑油10の付着量を制御し、上記付着量が多いと判定した場合、上記付着量が少ないと判定した場合に比べ、上記付着量を少なくする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を回転刃で切断する切断処理を有する鋼板の製造方法であって、
上記回転刃で切断前の鋼板表面における上記回転刃で切断する位置に対し潤滑油を付着させ、
上記回転刃で切断後の鋼板表面を撮像した撮像画像を画像解析することで、上記切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の付着状態を判定し、
判定した上記潤滑油の付着状態に基づき、上記鋼板に付着する潤滑油の付着量を制御する、
ことを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記付着状態の判定に基づき、上記切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の付着量が多いと判定した場合、上記付着させる潤滑油の付着量が少なくなるように制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載した鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記回転刃を回転駆動するモーターの負荷に応じて、上記鋼板に付着する潤滑油の付着量を制御し、上記付着量を、上記モーターの負荷が高い場合、上記付着量を多くする、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記潤滑油の付着は、鋼板表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う、ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項5】
上記潤滑油は、噴霧後のミストの平均直径が1μm以上2000μm以下である、ことを特徴とする請求項4に記載した鋼板の製造方法。
【請求項6】
搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、
上記回転刃よりも上流において、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着させる潤滑油付着装置と、
上記回転刃よりも下流において、切断後の鋼板端部の上記潤滑油による付着状態を判定する表面欠陥検出装置と、
上記表面欠陥検出装置による付着状態の判定結果に基づき、上記潤滑油付着装置による潤滑油の付着量を制御する付着量制御部と、
を備え、
上記表面欠陥検出装置は、切断後の鋼板端部を撮像した撮像画像を画像解析することで、上記付着状態を判定する、
ことを特徴とする鋼板の切断設備。
【請求項7】
上記付着量制御部は、上記付着状態の判定結果に基づき、上記切断後の鋼板端部に付着している潤滑油の付着量が多いと判定した場合、上記付着量を少なくする、
ことを特徴とする請求項6に記載した鋼板の切断設備。
【請求項8】
上記付着量制御部は、更に、上記回転刃を回転駆動するモーターの負荷に応じて、上記鋼板に付着する付着量を制御し、上記付着量を、上記モーターの負荷が高い場合、上記付着量を多くする、
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載した鋼板の切断設備。
【請求項9】
上記潤滑油付着装置は、潤滑油の付着を、鋼板表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う構成である、
ことを特徴とする請求項6~請求項8のいずれか1項に記載した鋼板の切断設備。
【請求項10】
請求項6~請求項9のいずれか1項に記載した鋼板の切断設備を備える、鋼板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の切断技術及び切断処理を含む鋼板の製造に関する技術である。特に、本発明は、例えば引張強度が590MPa以上の高張力鋼板(ハイテン)であって、板厚が例えば0.4mm以上の鋼板の製造に好適な技術である。
もっとも、本発明は、脆性破壊による刃欠けが多発するハイテン鋼などの硬質鋼板の製造のための切断のみならず、疲労破壊による刃欠けが多くみられる一般軟鋼等、任意の鋼板の切断にも適用でき、検証により効果が見られたことを確認した。
すなわち、本発明は、590MPa以上の高張力鋼板、板厚が0.4mm以上鋼板のように刃欠けが発生しやすい鋼板の製造に好適に適用できるのはもちろんのこと、これに限らず、590MPa未満の一般軟鋼材、0.4mm未満の鋼板にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍ラインや表面処理ラインなどの鋼板処理下流側のプロセスラインでは、鋼板の寸法形状を整えるサイドトリマ設備(切断設備)によりトリミングが実行される。また、製品となる前の最終検査として、表面品質保証の観点から鋼板の表面検査などが行われる。この検査工程は、製品としての鋼板の品質を判定するため、トリマ設備よりも下流はもちろん、全工程の最終位置に配置するのが一般的である。
【0003】
トリミングする工程では、回転刃と鋼板せん断部の摩擦による回転刃の刃欠け・焼き付きが起きるおそれがあり、回転刃の刃欠け・焼き付きが発生すると、鋼板幅不良の原因になるという課題がある。特に、従来、硬質鋼板をせん断する際に、回転刃に掛かる瞬間負荷が大きく、脆性破壊による刃欠けが発生しやすい状況となっている。この課題は、鋼板のエッジ部を切断する際に顕著となる。
【0004】
これに対する技術としては、従来、例えば特許文献1や2に記載される技術がある。特許文献1には、回転刃に対し、切削油を吹き付けて塗布することが記載されている。また、特許文献2には、スリッタ刃の刃先に対し、油を浸透した油塗布装置を接触させることで、刃先に油を塗布することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-153116号公報
【特許文献2】特開平6-800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らの知見によれば、回転刃の刃欠けの主な原因は、切断時の鋼板のバタツキによる瞬間抗力の増加と、鋼板-刃間の摩擦に起因する側方力の2種類があると推定される。このうち側方力は、鋼板-刃間の潤滑効果向上による摩擦低減で抑制することができると考えられる。
【0007】
しかし、発明者らの知見によれば、特許文献1や2の技術のように、回転刃に直接潤滑油を付与する方法では、切断時の摩擦を一部低減できるものの、硬質鋼板の切断時の刃欠け頻度の改善には至っていない。すなわち、発明者らは、特許文献1,2に記載のように、回転刃に直接に塗油を実施することによる摩擦低減等の対策は、切断対象が超硬質鋼板や板厚が厚い鋼板の場合には効果が薄い、との知見を得た。原因は、回転する回転刃に直接切削油(潤滑油ともいう)を塗布した場合、回転刃の回転の遠心力により切削油が飛散して、切断部への切削油の供給が不足の状態となるためと推定される。
【0008】
また、回転刃に直接に潤滑油を塗布した場合、回転刃の回転による遠心力で、塗布した潤滑油が飛散して、鋼板表面の汚れの一因となるという課題もある。
ここで、回転刃に直接に潤滑油を塗布する従来方法として、回転刃に向けて切削油を滴下させる方法もある。しかし、この方法ではどうしても塗油量が多くなり、切削油が鋼板の端部に落下し、下流の検査工程において、表面欠陥計でボタ落ち汚れなどの欠陥として検出され、実際には不良ではない材料を不良であると誤判定する場合も発生する。そして、この誤判定により、歩留まりを低下させるという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記のような点に着目したもので、更なる刃欠け頻度の改善を行いつつ、塗布した切削油による鋼板表面の悪化も抑制して、鋼板製造の歩留りを高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
刃-鋼板間の摩擦低減による側方力抑制のために回転刃に塗油するなど対策を実施してきたが、改善に至らなかった。発明者らの検討によれば、従来技術の欠点は、次の2点であると推定される。
【0011】
(1)回転刃にフェルトで塗布する(付着させる)方法では、刃の回転の遠心力により潤滑油が飛散し、潤滑油が供給不足になっている点
【0012】
(2)回転刃に向けて潤滑油を滴下する方法では、油量が多すぎて鋼板に落下し、油のボタ落ち汚れとして下流の表面欠陥計に検出される点
【0013】
本発明は、このような知見に基づき、回転刃による切断前の鋼板に潤滑油を直接塗布する(付着させる)ことで、潤滑油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマの刃欠けの頻度を抑制しつつ、鋼板表面での過剰な潤滑油が表面欠陥計で不良と誤検出されることを抑制する技術を確立したものである。
【0014】
そして、課題解決のために、本発明の一態様は、鋼板を回転刃で切断する切断処理を有する鋼板の製造方法であって、上記回転刃で切断前の鋼板表面における上記回転刃で切断する位置に対し潤滑油を付着させ、上記回転刃で切断後の鋼板表面を撮像した撮像画像を画像解析することで、上記切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の付着状態を判定し、判定した上記潤滑油の付着状態に基づき、上記鋼板に付着する潤滑油の付着量を制御する、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の態様によれば、鋼板への過剰な潤滑油の塗布(付着)を抑えつつ、塗布による刃欠けを抑制することが可能となる。この結果、硬質鋼板をトリミングする際であっても、回転刃への負荷を軽減して、刃欠け頻度の改善を行いつつ、塗布した潤滑油による鋼板表面の悪化も抑制して、鋼板製造の歩留りを高めることが可能となる。
【0016】
ここで、切断後に残存する潤滑油が多い場合、その潤滑油の残存によって、本来、検査工程で検出すべき表面疵を検出し難くするおそれもある。これに対し、本実施形態では、潤滑油が過剰に残存することを抑制することで、品質検査への悪影響も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に基づく実施形態に係るサイドトリマ設備(切断設備)及び表面欠陥計の設置を有する、鋼板製造ラインの概念図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る鋼板の切断設備を説明するための側面図である。
図3】本発明に基づく実施形態に係る鋼板の切断設備を説明するための平面図である。
図4】本発明に基づく実施形態に係る表面欠陥計(表面欠陥検出装置)を説明する図である。
図5】付着量制御部での処理例を説明するフロー図である。
図6】潤滑油付着装置の他の構成例を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、鋼板製造における表面処理鋼板製造ラインの切断設備であるトリマ設備(トリミング工程)を例に挙げて説明する。本発明は、冷延鋼板などの鋼板製造工場であっても適用することができる。
【0019】
「処理対象の鋼板について」
本開示の切断処理を有する鋼板の製造方法、鋼板の切断設備を適用する処理対象の鋼板の成分は、特に限定されるものではないが、刃欠け不良が発生しやすい高張力鋼板、特に引張強度が590MPa以上の高張力鋼板であって、板厚が0.4mm以上の鋼板であっても適用可能となる。本実施形態は、例えば、板厚が3.0mm以下の高張力鋼板に適用してもよい。
【0020】
回転刃で切断される鋼板の例としては、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛系めっき鋼板、錫めっき鋼板、Al系めっき鋼板等の各種めっき鋼板や、冷延鋼板が例示できる。しかし、これに限定されず、本開示は、任意の鋼板に適用可能である。本実施形態は、例えば、GI、GAに固体潤滑皮膜を付与した鋼板や有機被覆を施した鋼板でも適用可能である。
【0021】
更に、発明者らが調査したところ、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板の端部(エッジ部)を回転刃で切断する場合には、製造コイルの8%程度という極めて高い頻度で刃欠けによるトリム不良材が生じ、不良材のオフラインでの再トリム処理が必要となるという新たな課題も見いだされた。この課題に対し、本開示を適用した場合、従来、刃欠けによるトリム不良の著しい発生を生じていた1180MPa級や1470MPa級の高張力鋼板でかつ板厚が0.4mm以上の鋼板においても、トリム不良の発生率を顕著に低減することができることを確認した。
【0022】
本実施形態が処理対象とする高張力鋼板は、その組成成分が例えば、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.50%以上3.50%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、N:0.0200%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
なお、本明細書で、成分に関する%表示は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
【0023】
次に、本願の切断処理を有する鋼板の製造方法、鋼板の切断設備を好適に適用できる高張力鋼板の成分組成の一例について説明する。
【0024】
・C:0.03%以上0.35%以下
Cは鋼板の強度を高める効果を有する。そのためには、Cは0.03%以上必要である。一方で、Cが0.35%を超えると自動車や家電の素材として用いる場合に必要である溶接性が劣化する。したがって、C量は0.03%以上0.35%以下としてよい。
引張強度1180MPa以上の高強度材を得る観点からは、C量は0.10%以上とすることが好ましい。また、引張強度1320MPa以上の高強度材を得る観点からは、C量は0.13%以上とすることが好ましい。
【0025】
・Si:0.01%以上3.00%以下
Siは鋼を強化し、延性を向上させるのに有効な元素であり、そのためにはSiは0.01%以上が必要である。一方で、Siが3.00%を超えると、Siが表面に酸化物を形成し、めっき外観が劣化する。したがって、Si量は0.01%以上3.00%以下としてよい。
【0026】
・Mn:0.50%以上3.50%以下
Mnは、焼入れ性を高め鋼板の強度を高めるために有用な元素である。その効果は、Mnが0.50%未満では得られない。一方、Mnの含有量が3.50%を超えるとMnの偏析が生じ、加工性が低下する。したがって、Mn量は0.50%以上3.50%以下が望ましい。
引張強度1180MPa以上の高強度材を得る観点からは、Mn量は1.00%以上とすることが好ましい。ガスジェット冷却設備のような冷却速度の比較的緩やかな設備で焼鈍後の冷却を行う場合において、1180MPa級の鋼板を得る観点からは、Mnは2.20%以上とすることが更に好ましい。
【0027】
・Al:0.001~1.000%
Alは溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、Alの含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。一方、Alが1.000%を超えると、Alが表面に酸化物を形成し、めっき外観(表面外観)が劣化する。したがって、Al量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0028】
・P:0.100%以下
Pは不可避的に含有される元素のひとつであり、Pを0.005%未満にするためには、コストの増大が懸念されるため、Pは0.005%以上が望ましい。一方、Pの増加に伴いスラブ製造性が劣化する。更に、Pの含有は合金化反応を抑制し、めっきムラを引き起こす。これらを抑制するためには、Pの含有量を0.100%以下にすることが必要である。したがって、P量は0.100%以下としてよい。好ましくは0.050%以下である。
【0029】
・S:0.0100%以下
Sは製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると溶接性が劣化する。そのため、Sは0.0100%以下としてよい。Sを0.0002%未満にするためには、コストの増大が懸念されるため、Sは0.0002%以上とすることが好ましい。
【0030】
・N:0.0200%以下
Nは製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると延性が劣化する。そのため、Nは0.0200%以下としてよい。下限は限定されないが、0.0005%以下に低減するには多大なコストを要するので、下限は0.0005%程度である。
【0031】
その他の添加可能な組成成分について説明する。
本願の切断処理を有する鋼板の製造方法、鋼板の切断設備を好適に適用できる高張力鋼板には、下記を目的として、B:0.0002%以上0.0050%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Sb:0.001%以上0.200%以下、Zr:0.005%以上0.100%以下、V:0.005%以上0.200%以下、W:0.005%以上0.100%以下、Sn:0.001%以上0.200%以下、Ca:0.0002%以上0.0050%以下、REM:0.0002%以上0.0050%以下、Mg:0.0002%以上0.0050%以下の中から選ばれる1種以上の元素を必要に応じて含有してもよい。
【0032】
これらの元素を添加する場合における適正含有量、及びその限定理由は以下の通りである。
【0033】
・B:0.0002%以上0.0050%以下
Bは0.0002%以上で焼き入れ促進効果が得られる。一方、Bの含有量が0.0050%を超えると、鋳造性や化成処理性が劣化する。よって、Bを含有する場合、B量は0.0002%以上0.0050%以下としてよい。十分な焼き入れ性促進効果を得る観点からBは0.0005%以上とすることが好ましく、介在物を低減する観点からBは0.0025%以下とすることが好ましい。
【0034】
・Nb:0.005%以上0.100%以下
Nbは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Nbが0.100%を超えるとコストアップを招く。また、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、含有する場合、Nb量は0.005%以上0.100%以下としてよい。組織を微細化して強度上昇の効果を得る観点、耐遅れ破壊特性を改善する観点からNbは0.01%以上添加することがさらに好ましい。介在物を低減する観点からNbは0.06%以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
・Ti:0.005%以上0.200%以下
Tiは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Tiが0.200%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。また、化成処理性の劣化を招く。よって、Tiを含有する場合、Ti量は0.005%以上0.200%以下としてよい。組織を微細化して強度上昇の効果を得る観点、耐遅れ破壊特性を改善する観点からTiは0.01%以上添加することがさらに好ましい。介在物を低減する観点からTiは0.15%以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
・Cr:0.005%以上1.000%以下
Crは0.005%以上で焼き入れ性効果が得られる。一方、Crが1.000%を超えるとCrが表面濃化するため、化成処理性、めっき性、溶接性が劣化する。よって、含有する場合、Cr量は0.005%以上1.000%以下としてよい。
【0037】
・Mo:0.005%以上1.000%以下
Moは0.005%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Moが1.000%を超えると化成処理性の劣化やコストアップを招く。よって、含有する場合、Mo量は0.0005%以上1.000%以下としてよい。
【0038】
・Cu:0.005%以上1.000%以下
Cuは0.005%以上で耐遅れ破壊改善効果が得られる。一方、Cuが1.000%超えると化成処理性の劣化やコストアップを招く。よって、Cuを含有する場合、Cu量は0.005%以上1.000%以下としてよい。耐遅れ破壊特性を向上させる観点から、Cuは0.05%以上添加することがさらに好ましい。化成処理性の劣化を防止する観点からCuは0.2%以下とすることがさらに好ましい。
【0039】
・Ni:0.005%以上1.000%以下
Niは0.005%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、Niが1.000%を超えるとコストアップを招く。よって、Niを含有する場合、Ni量は0.005%以上1.000%としてよい。
【0040】
・Sb:0.001%以上0.200%以下
Sbは鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、Sb:0.001%以上で得られる。一方、Sb:0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、Sbを含有する場合、Sb量は0.001%以上0.200%以下としてよい。耐疲労特性を改善する観点からSbは0.002%以上添加することが好ましく、高い靭性を得る観点からSbは0.100%以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
・Zr:0.005%以上0.100%以下
Zrは、0.005%以上で高強度化の効果が得られる。一方、Zrが0.100%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、Zrを含有する場合、Zr量は0.005%以上0.100%以下としてよい。
【0042】
・V:0.005%以上0.200%以下
Vは、0.005%以上で高強度化の効果が得られる。一方、Vが0.200%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、Vを含有する場合、V量は0.005%以上0.200%以下としてよい。
【0043】
・W:0.005%以上0.100%以下
Wは、0.005%以上で高強度化の効果が得られる。一方、Wが0.100%を超えると、介在物が増加して鋳造性や鋼板の延性を損なう。よって、Wを含有する場合、W量は0.005%以上0.100%以下としてよい。
【0044】
・Sn:0.001%以上0.200%以下
Snは、鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から、含有することができる。窒化や酸化を抑制することで、鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止する。この結果、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、Sn:0.001%以上で得られる。一方、Sn:0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、Snを含有する場合、Sn量は0.001%以上0.200%以下としてよい。耐疲労特性を改善する観点からSnは0.002%以上添加することが好ましく、高い靭性を得る観点からSnは0.100%以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
・Ca:0.0002%以上0.0050%以下
Caは、介在物の形態を球状化して曲げ性や耐遅れ破壊特性を改善する効果がある。このような効果を得る観点から、Caは、0.0002%以上添加することができる。しかし、Caを多量に添加すると、コストアップにつながるので、Caは0.0050%以下とすることが好ましい。
【0046】
・REM(Rare Earth Metal):0.0002%以上0.0050%以下
REMは、介在物の形態を球状化して曲げ性や耐遅れ破壊特性を改善する効果がある。このような効果を得る観点から、REMは0.0002%以上添加することができる。しかし、REMを多量に添加すると、コストアップにつながる。したがって、REMは0.0050%以下とすることが好ましい。
【0047】
・Mg:0.0002%以上0.0050%以下
Mgは、介在物の形態を球状化して、曲げ性や耐遅れ破壊特性を改善する効果がある。このような効果を得る観点から、Mgは0.0002%以上添加することが好ましい。しかし、Mgを多量に添加すると、コストアップにつながるので、Mgは0.0050%以下とすることが好ましい。
【0048】
以上説明してきたような成分組成の鋼板は、公知又は任意の方法で製造することができる。例えば、上記成分組成を有するスラブを加熱し、熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、必要に応じて熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とすることができる。その後、必要に応じて、各種表面処理が施される。
【0049】
「第1実施形態」
図1は、本実施形態のサイドトリマ設備を備える切断設備の構成を説明する図である。図1では、サイドトリマ設備と品質検査工程の設備が例示されている。
図1に示すように、本実施形態では、めっき、その他の表面処理や焼鈍処理などが前工程で施された鋼板1が、搬送ライン(図1では、右から左に向けて)に沿ってサイドトリマ設備に搬送され、搬送中の鋼板1に対してトリム処理(切断処理)が実行される。また、搬送(切断設備)の下流において、品質検査工程として、鋼板表面の品質の検査処理が行われる。符号15は、表面欠陥計である。なお、図1において、符号16は、ノッチャを示し、符号17は、トリム後の鋼板に対する、形状矯正用のマッシャーロールを示す。
【0050】
(構成)
本実施形態の切断設備は、回転刃2と、潤滑油付着装置3と、表面欠陥検出装置と、モーター負荷検出部と、付着量制御部6と、を備える。また、本実施形態の切断設備は、膜厚均一化器具7と、押さえロール11と、板押さえ、を備える。膜厚均一化器具7、押さえロール11、板押さえなどは有しなくても良い。
【0051】
<回転刃2>
回転刃2は、図2及び図3に示すように、鋼板1を挟んで対向可能な一対の回転刃2A、2B(上刃2A及び下刃2B)を有し、その一対の回転刃2A、2Bで鋼板1の各端部を板厚方向から挟み込んで切断する構成となっている。図3のように、一対の回転刃2A、2Bの刃先同士の接触位置が切断位置となる。
図3における符号Lは、切断位置を通過すると想定される切断前の鋼板1の位置を示す。また、図2及び図3における符号10は、潤滑油付着装置3にて鋼板1の表面に付着させた潤滑油を示す。
【0052】
一対の回転刃2A、2Bは、図2に示すように、切断位置での回転方向が搬送方向と同方向となる順方向に設定されている。
回転刃2は、例えば、出側検査前にて、製品幅に合わせて鋼板1のエッジ部(端部)を切断するトリム処理を実行する。
【0053】
符号11は、押さえロールである。押さえロール11は、回転刃2の上流に配置されて、回転刃2で切断前の鋼板の振動を抑制する。また、符号12は、板押さえである。板押さえ12は、左右の回転刃2の間に配置されたロールから構成され、鋼板1を押さえて、より安定した切断を可能とする。
符号13は、回転刃2を回転駆動するモーターである。符号14は、モーター13の負荷率を検出するモーター負荷検出部である。モーター負荷検出部14は、例えば、モーターの電流値から負荷率を求める。モーター負荷検出部14は、求めた負荷率を付着量制御部6に供給する。
【0054】
<潤滑油付着装置3>
潤滑油付着装置3は、図2に示すように、鋼板搬送方向における回転刃2の設置位置よりも上流位置、すなわち切断前の鋼板1の表面1a、1bと対向可能な位置に配置されている。潤滑油付着装置3は、図3に示すように、鋼板1の表面1a、1bにおける、回転刃2で切断される位置(符号Lの位置)を含む領域に対し事前に潤滑油10を付着させる装置である。
【0055】
ここで、図2では、鋼板の上面側及び下面側の両側に噴霧方式の潤滑油付着装置3を配置する場合を例示している。しかし、これに限るものではなく、噴霧方式以外の付着方式としてもよく、例えば、ロールで塗布する方式、滴下方式などが挙げられる。ただし、付着量を制御しつつ均一に潤滑油を付着させるためには、噴霧方式が好ましい。また、一方の面側だけに潤滑油付着装置3を設けてもよいし、噴霧方式以外の方式での潤滑油付着装置を設けてもよいし、上面側と下面側に異なる付着方式の潤滑油付着装置3を設けてもよい。
【0056】
本実施形態の潤滑油付着装置3は、噴霧装置3A(噴射ノズル)を有し、噴霧装置3Aは、鋼板1の表面1a、1bに向けて潤滑油を噴霧することで、鋼板1の表面1a、1bに潤滑油を付着させる。噴霧装置3Aには、潤滑油を貯蔵した油タンク3Bと、空気を供給するコンプレッサその他のエア供給装置3Cが接続されている。噴霧装置3Aは、付着量制御部6からの指令に応じて、ノズル先端部で潤滑油に空気を混合して、潤滑油を霧状にし、その霧状の潤滑油を鋼板1の表面1a、1bに向けて噴霧可能に構成されている。本実施形態の噴霧装置3Aは、内部に、油と空気を混合する混合部を有する。混合部は、噴霧装置3Aと別体であってもよい。
なお、付着量制御部6については後述する。
【0057】
[潤滑油の水分含有量]
潤滑油の含有水分量は、3000ppm以下であることが好ましい。
潤滑油を鋼板1に付着させた場合、そのままでは、回転刃2で切断後の鋼板の端部には、潤滑油が付着したままとなる。その付着している潤滑油の含有水分量が3000ppm超と含有水分量が多い場合、回転刃2での切断から、自動車メーカや家電メーカ等で鋼板を製品に加工される迄の間に、潤滑油に含有する水分によって、鋼板の平坦面あるいは切断面に錆が発生するおそれがある。このことは、自動車用途や家電用途の鋼板の製造に、本実施形態が使用し難しくなることに繋がる。
【0058】
一方、潤滑油の含有水分量を3000ppm以下とすることで、鋼板の平坦面あるいは切断面での錆の発生を抑制することができる。
より長期間に渡って錆の発生を抑制する観点を考えると、潤滑油の含有水分量は、2000ppm以下であることが更に好ましい。
また、潤滑油の含有水分量の下限は0ppmである。脱水に要するコストを考慮すると、潤滑油の含有水分量の下限は、20ppm以上が好ましい。
なお、本明細書のおける「ppm」は、重量ppmを表す。
【0059】
[噴霧量]
噴霧量とは、鋼板表面への付着量と同義である。
自動車製造業等の鋼板を加工する製造メーカでは、例えば、鋼板にプレス加工を施した後、化成処理・電着塗装工程の前に、鋼板に付着した油(プレス油や防錆油)をアルカリ洗浄液で脱脂する洗浄工程を備える。このとき、油の付着量が多くなるほど、脱脂工程での脱脂性が著しく劣化する。このため、化成処理性や塗装性に悪影響を及ぼさないようにするためには、脱脂条件の変更が必要になる可能性がある。したがって、このような用途の鋼板を製造する場合、従来のように、回転刃2に直接油を塗布して鋼板を切断する方法では、更に多量の潤滑油を供給することは困難である。
【0060】
一方で、発明者らが種々検討したところ、トリム前の鋼板に潤滑油を直接塗布して(付着させて)切断する方法を採用した場合、以下のような効果が得られるという新たな知見を得た。
すなわち、発明者らは、潤滑油の供給量が同じであっても、トリム用の回転刃2に直接潤滑油を付着させる場合に比べて、鋼板に直接潤滑油を付着させて切断した方が、刃欠けの頻度が抑制されることを確認した。
この理由は必ずしも明らかではないが、次に示すような、刃先で油を保つ新たな機構が生じることが理由と考えられる。
【0061】
すなわち、従来のように回転刃2に直接潤滑油を付着させる場合、刃が鋼板に接触した後、新たな潤滑油の供給が生じない。このため、刃のコーナ部、つまり刃先が鋼板上を摺動しながら鋼板を変形させて切断に至る過程において、刃先の油切れを抑制できない。このため、この過程で、刃には、鋼板-刃間の摩擦に起因する側方力が強く作用すると推定される。
【0062】
一方、トリム前の鋼板に直接潤滑油を付着させた場合、刃が鋼板に接触した後も、刃先が鋼板表面を摺動して切断する過程で、刃先が摺動した先の新たな鋼板表面の領域にも、付着させた潤滑油が存在する。このため、刃先に潤滑油が供給され続けることになる。この結果、油切れが抑制され、鋼板-刃間の摩擦も低減されることで、鋼板に直接潤滑油を付着させた場合には、刃欠けが著しく抑制されると考えられる。
【0063】
以上のことから、回転刃2に直接潤滑油を付着させる場合に比べ、鋼板に直接潤滑油を付着させた場合、トリムのために鋼板に供給される潤滑油の量を抑えることが可能となる。
すなわち、本実施形態を適用することで、顕著な刃欠けの抑制効果を得るのに多量の潤滑油を必要とせず、自動車メーカなどから求められる脱脂性を損なわない範囲の潤滑油の付着量で、その効果が得られるという有利な点がある。
【0064】
このように、本開示によれば、回転刃2に直接潤滑油を付着させて鋼板を切断する方法に比べて、少ない潤滑油の付着量で、刃欠けの頻度が抑制される。この結果、本開示によれば、自動車骨格・ボディ部品用等の用途に適用できる利点を有し、環境保全の面においても優れている、との知見を得た。また、本開示によれば、潤滑油が飛散することが防止され、鋼板への潤滑油の付着領域も限定的にすることも可能となる。
【0065】
ここで、潤滑油の噴霧量は、鋼板1の表面1a、1bのエッジ部に対し、連続的かつムラなく付着させることができるように、潤滑油流量などを調整する。
例えば、噴霧量は、鋼板1の表面1a、1bに対して一定以上の塗油密度を確保するために、下記(1)式のように設定する。
【0066】
すなわち、噴霧量の下限値は、鋼板の搬送速度に応じて、例えば下記(1)式によって設定する。より好ましくは、噴霧量の下限値は、(2)式によって設定する。
噴霧量の下限値=1.00[mL/m]×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(1)
噴霧量の下限値=7.24[mL/m]×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(2)
【0067】
噴霧量を(1)式で規定する量以上に設定することで、特に優れた刃欠けの抑制効果が得られる。なお、(1)式で規定される噴霧量の下限値は、1.00mL/mの塗油密度(単位面積当たりの鋼板表面における潤滑油の付着量)に対応する。更に、噴霧量を(2)式で規定する量以上に設定することで、更に優れた刃欠けの抑制効果が得られるので、噴霧量の下限値はこの範囲とすることが好ましい。なお、(2)式で規定される噴霧量の下限値は、7.24mL/mの塗油密度に対応する。
【0068】
ここで、(1)式及び(2)式での規定は、噴霧領域(付着領域)の幅が鋼板エッジ部から40mmの範囲を前提としたものである。噴霧領域(付着領域)の幅が異なる場合は、40mmに替えてその値を代入することで噴霧量を求めることができる。[mpm]は、一分間当たりの鋼板の通過距離(m)である。
噴霧領域の幅を0.01m、搬送速度を40mpmとすると、(1)式では0.02L/hr、(2)式はで0.17L/hrとなり、これらの値が、優れた刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値、及び更に刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値と考えることができる。なお、塗油密度に換算した場合の値は、上述の通りである。
【0069】
塗油密度をこのように制御することで、自動車メーカ等で実施する脱脂処理に要する時間を削減できる。
なお、この実施形態では、潤滑油をそのまま噴射すること無く、霧状として供給するため、潤滑油の給油が自ずと抑えられる。
【0070】
ここで、潤滑油の塗布(付着)を滴下で実行した場合、その滴下量の範囲は、上記の噴霧の場合と同様の範囲となる。なお、滴下の場合、(1)式や(2)式において(噴霧領域の幅)を(滴下領域の幅)に置き換えて算定すればよい。
【0071】
[噴霧圧力]
噴霧圧力は、例えば0.09MPa以上0.12MPa以下とする。
噴霧圧力は、規定する噴霧領域に均一塗油が可能となるように設定されれば、特に限定はない。
【0072】
[噴霧領域]
噴霧領域は、切断位置となる位置Lを基準として、鋼板1の幅方向へ±20mmの領域を有することが好ましい。
噴霧領域の幅(噴霧幅)が40mm以下の噴霧幅になると、切断位置において、十分な潤滑領域を確保できず刃欠けのおそれが発生する。
噴霧領域の幅の上限値については特に規定はない。ただし、過剰塗油の場合、鋼板1のエッジ部に付着した潤滑油10が鋼板から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念があるため、噴霧領域の幅は極力少量が望ましい。
【0073】
[噴霧装置3Aの噴射部と鋼板1との距離]
噴霧装置3Aの噴射部と鋼板1との距離は、40mm以上離すことが好ましい。40mm未満の場合、鋼板形状が悪形状の鋼板1が通過する時に、噴霧装置3Aのノズル部が、鋼板1と干渉するおそれがある。
噴霧装置3Aの噴射部と鋼板1との距離の上限値については、特に規定はない。距離を離すほど、鋼板1の表面1a、1bに付着する潤滑油の塗油密度が低くなると共に、噴霧領域の幅が広くなる。しかし、鋼板表面への潤滑油の付着量(噴霧量)と噴霧領域とが上記規定に基づき予め設定した目的とする範囲に確保できる距離の範囲であれば、距離の上限値に規定はない。
【0074】
本実施形態では、噴霧装置3Aは、鋼板1の上面1a及び下面1bに対向させて配置されて、鋼板1の表裏両面における、回転刃2で切断する位置に潤滑油を付着する構成となっている。
噴霧装置3Aは、鋼板1の表裏表面1a、1bのうちの、一方の面のみに配置されていても良い。
【0075】
[潤滑油の粘度]
潤滑油の粘度は、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、3mm/s以上、130mm/s以下であることが望ましい。3mm/s未満の場合、回転刃2の切断面と鋼板1が高い面圧で作用するため、油切れにより回転刃2と鋼板1が直接接触する恐れがある。1180MPa以上の強度の高強度鋼板の切断においては、より高い面圧となっても油切れを抑制する観点からは、潤滑油の粘度は、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、8mm/s以上が更に好ましい。
【0076】
また、潤滑油の粘度が130mm/sより大きい場合、潤滑油が鋼板面に付着した後に鋼板面での拡散・浸透が不足し、局所的に潤滑油が不足する恐れがある。また、回転刃2が鋼板1を切断する過程で潤滑油の回転刃側面への供給が不足し、回転刃側面と鋼板が直接接触する恐れがある。したがって、潤滑油の粘度は130mm/s以下とすることが好ましい。更に、付着した油をより均一に分布させる観点からは、潤滑油の粘度は、潤滑油の液温が40℃のときにおいて、100mm/s以下とすることが更に好ましい。なお、粘度の測定はJIS Z8803に基づく。粘度の測定は、例えば、回転粘度計で測定できる。
潤滑油の種類は特に規定しない。例えば、潤滑油として、プレス油、防錆油、切削油等が例示できる。高強度鋼板を切断する場合においても安定して刃欠けを抑制する観点から、これらの潤滑油に対し、極圧添加剤を添加したものとすることもできる。
【0077】
[潤滑油の粒径]
噴霧後のミストの平均直径は、例えば1μm以上2000μm以下の範囲、好ましくは1μm以上1000μm以下の範囲とする。ミストの平均直径について、下限の制約は特にない。ただし、粒径が小さすぎると周囲へ飛散し鋼板への付着率が下がる。また、飛散した油が周囲へ飛び散り、防災の観点からリスクが発生する、などの懸念がある。ミストの平均直径について、上限の制約も特にはない。ただし、付着量が不均一になり、刃欠けが生じやすくなる懸念がある。刃欠け抑制の観点から、ミストの平均直径のより好ましい範囲は、100μm以下である。
【0078】
[潤滑油の鋼板への付着後、切断が開始されるまでの保持時間]
潤滑油の鋼板への付着後、切断が開始されるまでの保持時間は特に規定しない。ただし、鋼板表面に付着した油の粒子を鋼板表面に分散させて均一な付着状態とする観点から、該保持時間は1秒以上とすることが好ましい。付着した潤滑油の粒子の直径が大きい場合は、鋼板表面に付着した油の粒子が鋼板表面に分散して均一な付着状態となる時間が長くなる。このため、潤滑油の粒径が2000μmを超える場合は、該保持時間は3秒以上とすることが望ましい。
【0079】
[回転刃の構成材]
回転刃2の構成材については特に規定しない。回転刃2の構成材の例としては、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等を挙げることができる。引張強度が1180MPa以上の高張力鋼板の切断において歯欠けを安定して抑制する観点からは、回転刃2の構成材として、合金工具鋼や高速度工具鋼を使用するのが好ましい。また、回転刃2の表面に、焼き入れ処理、窒化・浸炭、TD処理等の表面硬化処理や、PVD、CVD、めっき、溶射等の表面被覆処理が施されていることが、更に好ましい。
【0080】
<膜厚均一化器具7>
一対の膜厚均一化器具7は、鋼板1を挟んで当該鋼板1を把持可能に配置されている。図2では、膜厚均一化器具7が、ロールから構成される場合を例示している。
一対の膜厚均一化器具7は、鋼板1の搬送方向における、回転刃2と、潤滑油付着装置3による潤滑油の付着位置との間に設定されている。
この一対の膜厚均一化器具7で把持する鋼板1の領域は、少なくとも上記回転刃2で切断される鋼板1の位置を含むように設定される。
【0081】
この一対の膜厚均一化器具7は、鋼板1の振動を抑えて、回転刃2による切断をより安定して実行可能とする。
また、鋼板1に付着した潤滑油10を、鋼板1の表面1a、1bに押しつけて引き伸ばして、付着した潤滑油10を均一化すると共に鋼板への密着度を高める役割も有する。
本実施形態では、別途押さえロール11を備えるため、膜厚均一化器具7による鋼板への押圧力を低めに設定しても良い。
【0082】
ここで、膜厚均一化器具7を設ける主な目的は、回転刃2と潤滑油の付着位置との間に配置され、鋼板表面に付着させた潤滑油の膜厚を均一化するためである。すなわち、膜厚均一化器具7は、滴下や噴霧により付着させた潤滑油が不均一に分布していた場合に潤滑油の付着領域とりわけ切断箇所近傍(10~100mm幅)の付着量をより均一な状態に調整する器具である。
【0083】
この膜厚均一化器具7によって、潤滑油10の鋼板への付着後、回転刃2で切断されるまでの間に、潤滑油の膜厚を均一化することが好ましいが、膜厚均一化器具7が無くても良い。
本実施形態では、膜厚均一化器具7は、潤滑油の噴霧装置3A又は後述の油滴下装置と、回転刃2との間に設置される。特に、連続して潤滑油を安定的に供給出来ない場合に有効である。
【0084】
図2では、膜厚均一化器具7の例として、一対のロールが例示されている。
膜厚均一化器具としては、一対のロールに限定されず、刷毛又はフェルト、ゴム、樹脂、金属の1種又は2種以上で構成される平面部材若しくはロール形状の部材を用いることができる。これらの膜厚均一化器具は、固定したもの、又は潤滑油の膜厚をより均一化する目的で回転若しくは揺動するものとしてもよい。潤滑油の表面を押圧する若しくは掻くことで鋼板表面の潤滑油の付着量を均一化する構成となっていればよい。
【0085】
潤滑油が不均一に分布すると刃欠けを誘発する原因となるおそれがある。これに対し、膜厚均一化器具の利用によって、刃欠けを顕著に抑制する作用があり、安定して刃欠けが抑制することができる。また、潤滑油が不均一に分布すると脱脂性が劣化する原因となるが、膜厚均一化器具の利用によって、それを抑制することができる。
【0086】
(表面欠陥検出装置)
本実施形態の表面欠陥検出装置は、検査工程に設けた表面欠陥計15からなる。
表面欠陥計15は、鋼板表面の表面疵や表面割れなどの表面欠陥の有無を判定する装置である。
図1では、おもて面側の表面品質の保証精度が高いとして、おもて面としての鋼板上面側にだけ表面欠陥計15を配置した例を図示しているが、表面欠陥計15を鋼板の裏面(下面)側にも配置しても良い。
【0087】
本実施形態では、表面欠陥計15で、通常検出している表面欠陥の検出とともに、付着した潤滑油による切断後の潤滑油の付着状態も検出(判定)するように構成する。
本実施形態では、潤滑油の付着状態として、潤滑油によるボタ落ち汚れの状態を判定する。
本実施形態の表面欠陥計15は、図4に示すように、撮像部15Aと欠陥検出部15Bとを備える。
【0088】
撮像部15Aは、鋼板表面を撮像するカメラからなる。
欠陥検出部15Bは、撮像部15Aが撮像した撮像画像の画像処理(画像解析)を行い、表面欠陥を検出する処理を実行する。
【0089】
本実施形態の欠陥検出部15Bは、通常の表面欠陥の検出と共に、付着した潤滑油10による鋼板表面の汚れも検出する。この鋼板表面の汚れが、「ボタ落ち汚れ」である。
ボタ落ち汚れか否かの画像処理による判定は、例えば、深層学習その他の機械学習により生成した学習モデルを用いて実行すればよい。ここで、潤滑油付着装置3から噴霧された潤滑油によるボタ落ち汚れか否かの判定は、鋼板表面上の検出場所、汚れの形状、及び汚れの色によって判定する。すなわち、鋼板2の端部に存在する油汚れで、輪郭形状が、楕円形や液体を落下した後に広がったような形状で、かつ、油の色若しくはそれに近似した色か否かで判定する。潤滑油の付着が噴霧であれば、その噴霧特有の汚れ形状を検出する。
【0090】
本実施形態では、予め設定した表面欠陥と判定されるおそれのあるボタ落ち汚れがあるか否かで判定し、判定結果を付着量制御部6に供給する。ボタ落ち汚れがあると判定された状態は、ボタ落ち汚れがないと判定された状態に比べ、切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の量が多い状態である。
【0091】
ここで、本実施形態では、検査工程での表面欠陥計15によって、ボタ落ち汚れを検出構成としているが、これに限定されない。ボタ落ち汚れの検出用の表面欠陥計15を、回転刃2の下流に近づけて配置してもよい。この場合、ボタ落ち汚れに対する、潤滑油の付着量の制御の遅れが小さくなる。
【0092】
(付着量制御部6)
付着量制御部6は、モーター13の負荷率やボタ落ち汚れの状態に応じて、潤滑油付着装置3による油の付着量を制御する。
本実施形態では、回転刃2への負荷率及びライン下流にある表面欠陥計15の欠陥認識状況(切断後の潤滑油の付着状態)によって、噴霧量と油のミストサイズの両方を調整する。
本実施形態の付着量制御部6は、例えば、所定サンプリング周期で、図5で示すような制御フローで付着量調整の処理を実行する。
【0093】
すなわち、まずステップS10にて、モーター13の負荷率が、予め設定した閾値A以上か否かを判定する。そして、負荷率が閾値A以上の場合には、ステップS20に移行し、負荷率が閾値A未満の場合には、ステップS30に移行する。
閾値Aは、例えば、モーター13の仕様特性や予め行った実験などから、回転刃2で刃欠けが発生すると推定される負荷率を予め求め、その求めた負荷率から安全代分だけ小さくした値として設定する。
【0094】
ステップS20では、高くなった回転刃2への負荷を抑えるために、噴霧装置3Aで混合する潤滑油量を多くすると共に、混合する空気量を減少する。これによって、鋼板1に付着する潤滑油量を増加すると共に、噴霧ミストサイズを大きくする。潤滑油量だけを増加しても良いが、ミストサイズを大きくすることで、よりモーター13の負荷を抑制することができる。
また、潤滑油量の増加と共に空気量を減少することで、付着量変化に伴う噴霧圧力の変化を小さく抑えることができる。
その後、復帰する。
【0095】
ステップS30では、欠陥検出部15Bからの信号に応じて、所定以上のボタ落ち汚れが発生しているか否かを判定する。発生していると判定した場合には、ステップS40に移行し、そうでない場合に、そのまま復帰する。
ステップS40では、ボタ落ち汚れを抑制するために、噴霧装置3Aで混合する潤滑油量を少なくすると共に、混合する空気量を増加する。これによって、鋼板1に付着する潤滑油量を減少すると共に、噴霧ミストサイズを小さくする。潤滑油量だけを減少しても良いが、ミストサイズを小さくすることで、より効率よくボタ落ち汚れを抑制することができる。
【0096】
また、潤滑油量の減少と共に空気量を増加することで、付着量変化に伴う噴霧圧力の変化を小さく抑えることができる。
その後、復帰する。
ここで、ステップS40において、ボタ落ち汚れを抑制するための、潤滑油の減少量及び混合する空気の増加量は、ボタ落ち汚れの程度に応じて予め設定しておく。
【0097】
ここで、ステップS20の潤滑油量調整AとステップS40の潤滑油量調整Bでの、潤滑油量の変化割合や空気量の変化割合は同じである必要はない。
また、上記説明では、図5のフローのように、一連の処理とする場合を例示しているがこれに限定しない。例えば、ステップS10の負荷率が閾値A以上か否かの判定と、ステップS30のボタ落ち汚れ発生の判定を並行して行っても良い。ただし、負荷率が閾値A以上でかつボタ落ち汚れ発生と判定する場合には、ステップS20の油量調整Aの処理を優先して実行するように構成する。なお、負荷率の検出は、ボタ落ち汚れの判定よりも応答性が早い。
【0098】
また、上記説明では、「負荷率が閾値A以上か否か」「ボタ落ち汚れ発生の有無」で判定しているが、それぞれ多段階や連続的に判定して、潤滑油量及び空気量を調整する構成としてもよい。
【0099】
(変形例)
(1)上記説明では、潤滑油付着装置3の主体部を噴霧装置3Aで構成する場合を例示した。潤滑油付着装置3の他の例を、図6を参照して説明する。
図6に示す潤滑油付着装置3は、潤滑油滴下装置30を備え、リザーブタンク31から供給される潤滑油を、付着量制御部6からの指令に応じて、鋼板1の上面1aに向けて潤滑油の油滴を連続的に滴下する構成となっている。なお、鋼板1の下面1bに対して潤滑油を滴下させることはできない。したがって、鋼板の下面側にも潤滑油を付着させる場合には、更に、鋼板1の下面1bに対向させて噴霧装置3Aを配置し、下面1bへも潤滑油を噴霧することがより好ましい。
【0100】
鋼板1の表面1bに対し搬送方向に沿って滴下された油滴23は、膜厚均一化器具7で引き伸ばされて、鋼板1に付着した油滴が、搬送方向に沿って均一化する。
この場合、油滴の滴下速度や油滴の大きさを調整することで、潤滑油量を調整する。
【0101】
(2)また、潤滑油付着装置3を、刷毛から構成し、刷毛によって、鋼板1に潤滑油を付着させる構成でも良い。
ただし、刷毛による塗布の場合、非接触で潤滑油10を供給する噴霧装置3Aなどと異なり、鋼板1の表面1a、1bに刷毛を直接接触させることになる。このため、鋼板1が高速で搬送されて振動する鋼板製造ラインで刷毛を適用するのは難しい。例えば、塗布時にラインを止める必要があったり、ライン内に作業員が入る必要があったりするなど、適用に対する課題がある。
【0102】
(3)また、潤滑油付着装置3を、フェルト、ゴム、樹脂、金属の一種若しくは二種以上から構成される平面部材若しくはロール形状部材としてもよい。そして、これらに潤滑油を付着させたのち、当該潤滑油を鋼板1に付着させる構成でも良い。更に、これらの潤滑油付着装置3は、固定したもの、又は油の付着をより均一化する目的で回転若しくは揺動するものとしてもよい。
【0103】
例えば、潤滑油付着装置3をロール形状とする場合は、ロールからなる膜厚均一化器具7は、潤滑油付着装置3としても利用することができる。ロールからなる膜厚均一化器具7の外周面に潤滑油を付着させて鋼板に潤滑油を供給することで、上述の押さえロールの機能と潤滑油付着装置3としての機能の両機能を受け持たせることができる。
【0104】
(4)更に、鋼板の進行方向における回転刃2の設置位置の前、若しくは後の位置に、余分な潤滑油を除去する潤滑油除去装置を有していてもよい。この場合、回転刃2での切断の前、若しくは後において、鋼板に付着した潤滑油の一部を除去することで、潤滑油の付着量を調整可能となる。
【0105】
例えば、製造した鋼板を自動車用等の優れた脱脂性が求められる用途で使用する場合、トリム刃欠け抑制の観点から潤滑油を10mL/m以上付着させた後、潤滑油除去装置により潤滑油の付着量を10mL/m以下に調整することが好ましい。ただし、この場合、潤滑油除去装置を備える必要があるので、コスト増となる問題が生じる。
【0106】
(5)更に、除去した潤滑油を潤滑油付着装置3に循環させ、再利用してもよい。
(作用)
本実施形態では、トリム前の鋼板1に潤滑油を直接付着させることで、切断位置での油の供給不足を解消する。これによって、本実施形態では、摩擦を低減することによってトリマの刃欠けの頻度を抑制して、仮に回転刃2を高速回転させて切断を行う必要があっても、鋼板製造の歩留りが向上する。
【0107】
例えば、鋼板1の表裏両面1a、1bに対し連続的に塗油できるような噴霧装置3Aをトリマの前に設置する。そして、この噴霧装置3Aを用いて切断前の鋼板1の切断される位置に塗油することで、切断位置での油浸透不足を解消できる。このため、切断対象の鋼板1を高張力鋼板1としても、一対の回転刃2A、2Bを構成する上刃及び下刃共に連続的にかつムラなく十分に塗油できた。このため、油の浸透不足は解消され、刃欠けは抑制される。
【0108】
また、本実施形態では、回転刃2に潤滑油を供給する場合に比べて、鋼板1に付与する潤滑油の量を抑えつつも、鋼板表面に均一に潤滑油を付着させることができる。このため、製造した鋼板での錆発生を、回転する回転刃2に潤滑油を供給する場合に比べて抑えることができる。
更に、膜厚均一化器具7で潤滑油を均一にすることで、より安定して切断位置に対し潤滑油を供給可能となる。
【0109】
同様に、図6に示すような、潤滑油滴下装置30によってトリム前の鋼板1の端部に塗油することでも、切断位置での油浸透不足を解消できる。このため、切断対象の鋼板1を高張力鋼板1としても、一対の回転刃2A、2Bを構成する上刃及び下刃共に連続的にかつムラなく十分に塗油できたため、油の浸透不足は解消され、刃欠けは抑制された。
ここで、潤滑油の噴霧量や滴下量は、鋼板の搬送速度に応じて、鋼板1の表裏両面とも潤滑油が連続的にかつムラなく付着させることができるように、供給空気圧や潤滑油流量、潤滑油消費量を設定することが好ましい。
【0110】
更に本実施形態では、表面欠陥計15による潤滑油の付着状態に応じて、鋼板1に付着する潤滑油の量を調整することで、刃欠け防止のために鋼板表面に潤滑油を付着しても、その付着による鋼板の品質悪化を抑制することができる。
更に、モーター13の負荷に応じて潤滑油の付着量を調整することで、より確実に回転刃2の刃欠けを抑制可能となり、刃欠けによる処理の中断を抑制可能となる。
【0111】
特に、本実施形態では、潤滑油の付着量の調整に加えて、噴霧ミストサイズも調整することで、より確実にボタ落ち汚れとして検出される潤滑油の付着量を抑制できると共に刃欠け発生を抑制することができる。
以上のように、本実施形態では、鋼板に直接塗油することで潤滑油の供給不足を解消し、摩擦低減ができ、回転刃2への負荷が低減できる。つまり、刃欠け頻度の抑制ができる。更に、潤滑油流量及び空気量を調整することによって、噴射する潤滑油の総量と噴霧後のミストのサイズを調整し、ライン下流側の表面欠陥計15に欠陥として認識できないものにすることで、表面欠陥計15への悪影響を抑制した。これで、刃欠け頻度の抑制及び表面欠陥計15へ無影響のトリマ設備の塗油技術を確立した。
【0112】
すなわち、本実施形態によれば、鋼板への過剰な潤滑油の塗布を抑えつつ、塗布による刃欠けを抑制する。この結果、硬質鋼板をトリミングする際であっても、回転刃2への負荷を軽減して、刃欠け頻度の改善を行いつつ、塗布した潤滑油による鋼板表面の悪化も抑制して、鋼板製造の歩留りを高めることが可能となる。
【0113】
ここで、鋼板の搬送速度が早くなるほど、回転刃2を駆動するモーター13の負荷も大きくなる。これに対し、本実施形態では、回転刃2を駆動するモーター13の負荷を低減するために、鋼板への潤滑油の付着量を増加する制御が行われる。一方で、切断後の鋼板における潤滑油の付着量が所定以上とならないように、鋼板に付着する潤滑油の付着量が制御される。このため、本実施形態では、鋼板の搬送速度に関係無く、鋼板への潤滑油の付着量は、所定の変動範囲内に収まるように調整される。
【0114】
(その他)
本開示は、次のような構成も取り得る。
(1)鋼板を回転刃で切断する切断処理を有する鋼板の製造方法であって、
上記回転刃で切断前の鋼板表面における上記回転刃で切断する位置に対し潤滑油を付着させ、
上記回転刃で切断後の鋼板表面を撮像した撮像画像を画像解析することで、上記切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の付着状態を判定し、
判定した上記潤滑油の付着状態に基づき、上記鋼板に付着する潤滑油の付着量を制御する。
【0115】
(2)上記付着状態の判定に基づき、上記切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の付着量が多いと判定した場合、上記切断後の鋼板表面に付着している潤滑油の付着量が少ないと判定した場合に比べ、上記付着させる潤滑油の付着量が少なくなるように制御する。
【0116】
(3)上記回転刃を回転駆動するモーターの負荷に応じて、上記鋼板に付着する潤滑油の付着量を制御し、上記付着量を、上記モーターの負荷が高い場合、上記モーターの負荷が低い場合に比べて、上記付着量を多くする。
【0117】
(4)上記潤滑油の付着は、鋼板表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う。
(5)上記潤滑油は、噴霧後のミストの平均直径が1μm以上2000μm以下である。
【0118】
(6)搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、
上記回転刃よりも上流において、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着させる潤滑油付着装置と、
上記回転刃よりも下流において、切断後の鋼板端部の上記潤滑油による付着状態を判定する表面欠陥検出装置と、
上記表面欠陥検出装置による付着状態の判定結果に基づき、上記潤滑油付着装置による潤滑油の付着量を制御する付着量制御部と、
を備え、
上記表面欠陥検出装置は、切断後の鋼板端部を撮像した撮像画像を画像解析することで、上記付着状態を判定する。
【0119】
(7)上記付着量制御部は、上記付着状態の判定結果に基づき、上記切断後の鋼板端部に付着している潤滑油の付着量が多いと判定した場合、上記切断後の鋼板端部に付着している潤滑油の付着量が少ないと判定した場合に比べ、上記付着量を少なくする。
【0120】
(8)上記付着量制御部は、更に、上記回転刃を回転駆動するモーターの負荷に応じて、上記鋼板に付着する付着量を制御し、上記付着量を、上記モーターの負荷が高い場合、上記モーターの負荷が低い場合に比べて、上記付着量を多くする。
【0121】
(9)上記潤滑油付着装置は、潤滑油の付着を、鋼板表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う構成である。
(10)本開示の鋼板の切断設備を備える、鋼板の製造装置。
【実施例0122】
次に、本実施形態に基づく実施の例について説明する。
「実験例1」
実験例1では、図1のように、鋼板の表面に連続かつ均一塗油が可能な噴霧装置を設置した。そして、噴霧装置で潤滑油と空気を混合し、潤滑油を霧状の状態で噴霧可能とした。
実験例1では、鋼板として440MPa級ハイテン材を採用し、その鋼板を搬送しながらトリムした。その際、刃-鋼板間の摩擦力を低減するため、鋼板の表面に対し高さ75mm離れたところから鋼板エッジ部に対して、噴霧装置で幅60mmの範囲に潤滑油を噴霧した。なお、鋼板の厚さは1.0mmであった。板厚は、他の実験例でも同様である。
このとき、油が鋼板に十分に浸透できるよう、噴霧装置に0.7L/hrの潤滑油流量、噴霧ミストサイズが約900μmになるよう設定して、トリムを実施した。なお、実験例1では、潤滑油量の調整を行わなかった。また、実験例1では、膜厚均一化器具7は用いなかった。
【0123】
そして、鋼板の搬送速度を、200mpmと400mpmとして、二つの搬送速度で実験を行った。なお、本例では、噴霧装置による単位時間当たりの潤滑油の潤滑油流量が一定であるので、二つの搬送速度で鋼板への潤滑油の付着量が異なる。
【0124】
その結果、実験例1では、潤滑油を鋼板に塗布する前に比べ、回転刃を駆動するモーターの負荷率が、搬送速度が200mpmの場合で16.1%低減し、搬送速度が400mpmの場合で17.5%低減した。すなわち、実験例1では、潤滑油を鋼板に付着させることで、回転刃への負荷が低減しており、刃欠けになる要因の側方力が少なくなり、刃欠け率の削減につながることが分かった。
【0125】
一方で、実験例1では、大量な潤滑油を噴霧しているため、トリム後の鋼板エッジ部に、潤滑油浸透が目視で分かるようになっており、下流にある表面欠陥計15で、ボタ落ち汚れとして認識された。
また、ボタ落ち汚れによって、本来、鋼板のエッジ部にある表面欠陥が分かりづらくなり、通常の表面欠陥の判定に悪影響を及ぼしていることが分かった。
【0126】
「実験例2」
実験例2は、本実施形態の噴霧装置(図2参照)により潤滑油を鋼板に付着させる代わりに、潤滑効果があるシリコンスプレー(潤滑油の代替品、同様な効果)を刃物円周全長に直接に塗布した比較例である。
その他の条件については、実験例1と同様な条件とした。
この実験例2では、搬送速度が200mpmの場合でも、トリム最中の回転刃を駆動するモーターの負荷が、無負荷状態を基準として40%前後の状態を維持して、かなり高い負荷率が掛かっていた。そして、搬送速度200mpmで、鋼板を200mトリムしたところで、回転刃に刃欠けが発生し、後続鋼板がエッジ不良となってしまった。
【0127】
「実験例3」
実験例3では、実験例1と同様に、噴霧装置を用いてトリマ設備前に鋼板表面への塗油を実施した。実験例3では、ボタ落ち汚れを発生させないよう、鋼板の表面に対し高さ50mmを離れたところから、鋼板エッジ部へ対して、幅40mmの範囲に油を噴霧するように設定した。また、噴霧装置について、0.1~0.45 L/hr油流量の範囲内で、噴霧ミストサイズが約500μmなるように調整を行い、更に、表面欠陥計による欠陥検出及び回転刃を駆動するモーターの負荷を監視しながら、ボタ落ち汚れが発生しない条件で且つ平均のモーターの負荷率が30%以下になるように、噴霧装置への油流量の調整を行った。
また、実験例3では、鋼板として、一般軟鋼材(極低炭素鋼)、440MPa級ハイテン材、及び980MPa級ハイテン材の3種類の鋼板を使用し、搬送速度を200mpmとして、実験を実施した。
【0128】
その結果、実験例3では、モーターの負荷率の低減が、一般軟鋼材で7.1%減少、440MPa級ハイテン材で16.1%減少、980MPa級ハイテン材で18.4%減少した。
また、上記の各鋼材種について、ボタ落ち汚れが検出されず、かつ、それぞれ600ton分、サイドトリマを実行しても、いずれも刃欠けの発生はゼロであった。
また、実験例3の条件において、搬送速度を100mpmに変更して実験を実施した場合においても、ボタ落ち汚れが検出されず、かつ、それぞれ600ton分、サイドトリマを実行しても、いずれも刃欠けの発生はゼロであった。
以上の、実験例1~3から分かるように、表面欠陥計15でのボタ落ち汚れの検出と回転刃を駆動するモーターの負荷率を共に監視し、鋼板に付着させる潤滑油量を調整することで、表面欠陥計15に表面欠陥の検出に悪影響を与えずに、回転刃の刃欠け削減に可能になることが分かった。
【符号の説明】
【0129】
1 鋼板
2 回転刃
2A 上刃
2B 下刃
3 潤滑油付着装置
3A 噴霧装置
3B 油タンク
3C エア供給装置
6 付着量制御部
7 膜厚均一化器具
10 潤滑油
11 押さえロール
13 モーター
15 表面欠陥計(表面欠陥検出装置)
15A 撮像部
15B 欠陥検出部
23 油滴
30 潤滑油滴下装置
31 リザーブタンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6