(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132135
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】サーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B41J2/14 201
B41J2/14 209
B41J2/14 607
B41J2/14 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037297
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF01
2C057AG12
2C057AG33
2C057AG46
2C057AG69
2C057AG80
2C057AG93
2C057AN05
2C057AP51
2C057BA04
2C057BA13
(57)【要約】
【課題】 主走査方向の印刷幅を拡大するのに適したサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタを提供すること。
【解決手段】 サーマルインクジェットプリントヘッドA1は、基板1と、抵抗体層4と、電極層3と、保護層5と、複数の発熱部41のそれぞれに対応して厚さ方向の一方側に配置された複数の発泡室61と、複数の発泡室61にそれぞれつながる複数の吐出口62と、複数の発泡室61に導入されるインクIkを収容するインクタンク9と、インクタンク9と複数の吐出口62とを繋ぐ導入路63とを備え、基板1は、セラミックスを含み発泡室61に滞留したインクIkが発熱部41からの熱によって発泡することにより、吐出口62からインクIkの液滴Drが吐出される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向の一方側を向く主面および他方側を向く裏面を有する基板と、
前記基板の前記主面に支持され且つ主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層と、
前記基板の前記主面に支持され且つ前記抵抗体層に導通する電極層と、
前記抵抗体層および前記電極層を覆う保護層と、
前記複数の発熱部のそれぞれに対応して前記厚さ方向の一方側に配置された複数の発泡室と、
前記複数の発泡室にそれぞれつながる複数の吐出口と、
前記複数の発泡室に導入されるインクを収容するインクタンクと、
前記インクタンクと前記複数の吐出口とを繋ぐ導入路とを備え、
前記基板は、セラミックスを含み
前記発泡室に滞留したインクが前記発熱部からの熱によって発泡することにより、前記吐出口からインクの液滴が吐出される、サーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
前記複数の発泡室および前記複数の吐出口の少なくとも一部を形成するノズル層を備える、請求項1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
前記インクタンクは、前記基板に対して前記厚さ方向の他方側に配置されている、請求項2に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
前記吐出口は、前記複数の発熱部に対して、前記厚さ方向の一方側に配置されている、請求項3に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項5】
前記導入路は、前記インクタンクから前記基板の副走査方向の一方側の端部に対して副走査方向の一方側に位置する第1部と、前記厚さ方向において前記基板と前記ノズル層との間に位置する第2部と、を含む、請求項4に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項6】
前記基板の前記裏面は、前記インクタンクの内部に露出している、請求項5に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項7】
前記インクタンクは、前記基板に対して前記厚さ方向の一方側に配置されている、請求項2に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項8】
前記吐出口は、前記複数の発熱部に対して、副走査方向の一方側に配置されている、請求項7に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項9】
前記導入路は、前記インクタンクから前記厚さ方向に沿って前記発泡室に向かう部分を含む、請求項8に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項10】
前記複数の吐出口は、前記ノズル層と前記保護層とによって構成されている、請求項9に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項11】
前記保護層は、前記抵抗体層を覆うガラス層と、前記厚さ方向の一方側の表層を構成する金属層と、を含む、請求項1ないし10のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項12】
前記基板と前記抵抗体層および前記電極層との間に介在するグレーズ層をさらに備える、請求項1ないし11のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項13】
前記グレーズ層は、前記厚さ方向に膨出した形状である膨出部を含み、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向に視て、前記膨出部に重なる、請求項12に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項14】
前記電極層は、前記基板と前記抵抗体層の少なくとも一部との間に介在する、請求項1ないし13のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項15】
前記電極層は、各々が副走査方向に延びており且つ主走査方向に間隔をおいて配置された個別電極帯状部を有する複数の個別電極と、各々が副走査方向に延びており且つ前記複数の個別電極帯状部と主走査方向に交互に配置された複数の共通電極帯状部を有する共通電極と、を有しており、
前記抵抗体層は、前記複数の個別電極帯状部および前記複数の共通電極帯状部を跨ぐ帯状である、請求項1ないし13のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項16】
前記抵抗体層は、前記基板と前記電極層の少なくとも一部との間に介在する、請求項1ないし13のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッドを備える、サーマルインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に印字する電子機器であるプリンタには、サーマルインクジェットプリントヘッドを備えたサーマルインクジェットプリンタがある。特許文献1には、従来のサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタの一例が開示されている。同文献に開示されたサーマルインクジェットプリントヘッドは、シリコン基板、複数の発熱素子、複数の発泡室、複数の吐出口を備える。複数の発熱素子は、シリコン基板に支持されている。複数の発泡室に滞留されたインクは、複数の発熱素子によって加熱され、発泡する。複数の発泡室における発泡により、吐出口からインクの液滴が吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコン基板の主走査方向の長さは、サーマルインクジェットプリンタの主走査方向の印刷幅よりも小さいことが一般的である。このため、サーマルインクジェットプリンタにおいては、サーマルインクジェットプリントヘッドを主走査方向に走査させつつ、副走査方向に移動させることが強いられる。
【0005】
本開示は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、主走査方向の印刷幅を拡大するのに適したサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の側面によって提供されるサーマルインクジェットプリントヘッドは、厚さ方向の一方側を向く主面および他方側を向く裏面を有する基板と、前記基板の前記主面に支持され且つ主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層と、前記基板の前記主面に支持され且つ前記抵抗体層に導通する電極層と、前記抵抗体層および前記電極層を覆う保護層と、前記複数の発熱部のそれぞれに対応して前記厚さ方向の一方側に配置された複数の発泡室と、前記複数の発泡室にそれぞれつながる複数の吐出口と、前記複数の発泡室に導入されるインクを収容するインクタンクと、前記インクタンクと前記複数の吐出口とを繋ぐ導入路とを備え、前記基板は、セラミックスを含み前記発泡室に滞留したインクが前記発熱部からの熱によって発泡することにより、前記吐出口からインクの液滴が吐出される。
【0007】
本開示の第2の側面によって提供されるサーマルインクジェットプリンタは、本開示の第1の側面によって提供されるサーマルインクジェットプリントヘッドを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、主走査方向の印刷幅を拡大するのに適したサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタを提供することができる。
【0009】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタを示す断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の第1実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドを示す平面図である。
【
図3】
図3は、本開示の第1実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドを示す要部平面図である。
【
図4】
図4は、本開示の第1実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドを示す要部拡大平面図である。
【
図7】
図7は、本開示の第1実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドの第1変形例を示す要部拡大断面図である。
【
図8】
図8は、本開示の第2実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドを示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
本開示における「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、単に識別のため用いたものであり、それらの対象物に順列を付することを意図していない。
【0013】
本開示において、「ある物Aがある物Bに形成されている」および「ある物Aがある物B上に形成されている」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bに直接形成されていること」、および、「ある物Aとある物Bとの間に他の物を介在させつつ、ある物Aがある物Bに形成されていること」を含む。同様に、「ある物Aがある物Bに配置されている」および「ある物Aがある物B上に配置されている」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bに直接配置されていること」、および、「ある物Aとある物Bとの間に他の物を介在させつつ、ある物Aがある物Bに配置されていること」を含む。同様に、「ある物Aがある物B上に位置している」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bに接して、ある物Aがある物B上に位置していること」、および、「ある物Aとある物Bとの間に他の物が介在しつつ、ある物Aがある物B上に位置していること」を含む。また、「ある物Aがある物Bにある方向に見て重なる」とは、特段の断りのない限り、「ある物Aがある物Bのすべてに重なること」、および、「ある物Aがある物Bの一部に重なること」を含む。また、本開示において「ある面Aが方向B(の一方側または他方側)を向く」とは、面Aの方向Bに対する角度が90°である場合に限定されず、面Aが方向Bに対して傾いている場合を含む。
【0014】
図1~
図6は、本開示の第1実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタを示している。本実施形態のサーマルインクジェットプリンタB1は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1を備える。サーマルインクジェットプリンタB1は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1からインクIkの液滴Drを吐出させることにより、紙等の印刷媒体82に印刷する機器である。サーマルインクジェットプリンタB1は、図示されたサーマルインクジェットプリントヘッドA1の他に、たとえば、印刷媒体82を送る紙送り機構(図示略)、サーマルインクジェットプリントヘッドA1をはじめとする各部に電力を供給する電源部(図示略)、サーマルインクジェットプリントヘッドA1および紙送り機構を制御する制御部(図示略)、使用者が操作するための操作部(図示略)、コンピュータ等と接続するための通信部(図示略)等を適宜備える。
【0015】
図1は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1およびサーマルインクジェットプリンタB1を示す断面図である。
図2は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1を示す平面図である。
図3および
図4は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1を示す要部平面図である。
図5は、
図2のV-V線に沿う要部断面図である。
図6は、
図2のV-V線に沿う要部拡大断面図である。
図3および
図4においては、後述のノズル層6を省略している。これらの図において、z方向は、本開示の厚さ方向である。x方向は、本開示の主走査方向である。y方向は、本開示の副走査方向である。また、x方向の一方側をx1側、他方側をx2側と称する場合がある。また、y方向の一方側をy1側、他方側をy2側と称する場合がある。また、z方向の一方側をz1側、他方側をz2側と称する場合がある。
【0016】
サーマルインクジェットプリントヘッドA1は、基板1、グレーズ層2、電極層3、抵抗体層4、保護層5、ノズル層6およびインクタンク9を備える。また、図示された例においては、サーマルインクジェットプリントヘッドA1は、駆動IC71、封止樹脂72、コネクタ73および配線基板74を備える。本実施形態のサーマルインクジェットプリントヘッドA1は、いわゆるトップシューターまたはルーフシューターと称される構造である。
【0017】
基板1は、本実施形態においては、たとえば窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)などのセラミックを含み、たとえばその厚さが0.6~1.0mm程度とされている。
図3に示すように、基板1は、x方向に長く延びる長矩形状とされている。
図1に示すように、配線基板74は、たとえばガラスエポキシ樹脂からなる基材層とCuなどからなる配線層とが積層された基板、あるいは、フレキシブル配線基板等である。基板1および配線基板74は、互いに隣接して配置されている。図示された例においては、基板1上の駆動IC71と配線基板74の配線とが、ワイヤ79によって接続されている。配線基板74には、コネクタ73が設けられている。コネクタ73は、サーマルインクジェットプリンタB1の電源部および制御部等(いずれも図示略)と接続するためのものである。なお、サーマルインクジェットプリントヘッドA1は、配線基板74を備えず、コネクタ73が基板1に設けられていてもよい。また、基板1、配線基板74および放熱部材75の材料や寸法は限定されない。
【0018】
グレーズ層2は、基板1上に形成されており、たとえば非晶質ガラスなどのガラス材料からなる。このガラス材料の軟化点は、たとえば800~850℃である。グレーズ層2は、ガラスペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することにより形成されている。本実施形態においては、基板1の図中上面すべてがグレーズ層2によって覆われている。
【0019】
本実施形態においては、
図5および
図6に示すように、グレーズ層2は、膨出部22および平坦部23を有する。膨出部22は、x方向と直角である断面の形状がz方向に膨出した形状であり、x方向に長く延びるz方向視帯状である。平坦部23は、膨出部22のy方向の両側に配置されており、基板1の上面を覆っている。平坦部23は、z方向の厚さが概ね一定である。
【0020】
なお、グレーズ層2の構成は特に限定されず、様々な構成とすることができる。また、グレーズ層2は、基板1の一部のみを覆う構成であってもよい。
【0021】
電極層3は、抵抗体層4に通電するための経路を構成するためのものであり、導電性材料によって形成されている。電極層3は、たとえば添加元素としてロジウム、バナジウム、ビスマス、シリコンなどが添加されたAuを主成分とする層である。電極層3は、レジネートAuのペーストを厚膜印刷したのちに、これを焼成することにより形成されている。電極層3は、複数のAu層を積層させることによって構成してもよい。電極層3の厚さは、たとえば0.6~1.2μm程度である。本実施形態においては、電極層3は、グレーズ層2上に形成されている。
図3に示すように、電極層3は、共通電極33および複数の個別電極36を有している。
【0022】
共通電極33は、複数の共通電極帯状部34および連結部35を有している。連結部35は、基板1のy方向下流側端寄りに配置されており、x方向に延びる帯状である。複数の共通電極帯状部34は、各々が連結部35からy方向に延びており、x方向に等ピッチで配列されている。また、本実施形態においては、連結部35には、Ag層(図示略)が積層されていてもよい。Ag層は、連結部35の抵抗値を低減させるためのものである。
【0023】
複数の個別電極36は、抵抗体層4に対して部分的に通電するためのものであり、共通電極33に対して逆極性となる部位である。個別電極36は、抵抗体層4から駆動IC71に向かって延びている。複数の個別電極36は、x方向に配列されており、各々が個別電極帯状部38、連結部37およびボンディング部39を有している。
【0024】
各個別電極帯状部38は、y方向に延びた帯状部分であり、共通電極33の隣り合う2つの共通電極帯状部34の間に位置している。複数の個別電極帯状部38と複数の共通電極帯状部34とは、x方向において交互に配置されている。隣り合う個別電極36の個別電極帯状部38と共通電極33の共通電極帯状部34との間隔はたとえば40μm以下となっている。
【0025】
連結部37は、個別電極帯状部38から駆動IC71に向かって延びる部分である。連結部37は、平行部371および斜行部372を有する。平行部371は、一端がボンディング部39につながり、かつy方向に沿っている。斜行部372は、y方向に対して傾斜している。斜行部372は、y方向において平行部371と、個別電極帯状部38との間に挟まれている。また、複数の個別電極36は、駆動IC71に集約される。
【0026】
ボンディング部39は、個別電極36のy方向端部に形成されており、平行部371に繋がっている。ボンディング部39には、個別電極36と駆動IC71とを接続するためのワイヤ79がボンディングされている。複数のボンディング部39は、第1ボンディング部39Aと第2ボンディング部39Bとを含む。隣り合う2つの第1ボンディング部39Aに挟まれた平行部371の幅(x方向における長さ)は、たとえば10μm以下とされている。また、第2ボンディング部39Bは、y方向において第1ボンディング部39Aよりも抵抗体層4から遠ざかる側に位置する。第2ボンディング部39Bは、隣り合う2つの第1ボンディング部39Aに挟まれた平行部371につながっている。このような構成により、複数のボンディング部39は、連結部37のほとんどの部位よりも幅が大きいにも関わらず、たがいに干渉することが回避されている。連結部37のうち隣り合う第1ボンディング部39Aに挟まれた部位は、個別電極36において最も幅が小さい。
【0027】
なお、電極層3の各部の形状および配置は特に限定されず、様々な構成とすることができる。また、電極層3の各部の材料も限定されない。
【0028】
抵抗体層4は、電極層3を構成する材料よりも抵抗率が大であるたとえば酸化ルテニウムなどを含む。本実施形態の抵抗体層4は、膨出部22上でx方向に延びる帯状に形成されている。抵抗体層4は、共通電極33の複数の共通電極帯状部34と複数の個別電極36の個別電極帯状部38とに交差しており、これらを跨ぐように形成された帯状である。さらに、抵抗体層4は、共通電極33の複数の共通電極帯状部34と複数の個別電極36の個別電極帯状部38に対して基板1とは反対側に積層されている。
【0029】
抵抗体層4のうち各共通電極帯状部34と各個別電極帯状部38とに挟まれた部位が、電極層3によって部分的に通電されることにより発熱する発熱部41とされている。発熱部41の発熱によって印字ドットが形成される。抵抗体層4の厚さは、たとえば3~6μmである。なお、抵抗体層4の材料および厚さは限定されない。抵抗体層4は、たとえば酸化ルテニウムを含むペーストを印刷した後に、このペーストを焼成することによって形成される。
【0030】
保護層5は、電極層3および抵抗体層4を保護するためのものであり、抵抗体層4および電極層3のほぼ全体を覆っている。ただし、保護層5は、複数の個別電極36のボンディング部39を含む領域を露出させている。本実施形態の保護層5は、ガラス層51および金属層52を含む。
【0031】
ガラス層51は、抵抗体層4の複数の発熱部41を覆っている。本実施形態においては、ガラス層51は、複数の発熱部41に直接接している。ガラス層51は、主成分がたとえば非晶質ガラスなどのガラス材料である。このガラス材料の軟化点は、たとえば700℃程度である。金属層52の厚さは何ら限定されず、たとえば4μm以上7μm以下である。ガラス層51は、複数種類のガラス層が組み合わされた構成であってもよい。
【0032】
また、保護層5は、ガラス層51に加えてSiC(炭化ケイ素)やセラミックス等を含む層を有していてもよい。
【0033】
金属層52は、ガラス層51上に積層されており、保護層5の最表層を構成している。金属層52は、たとえば、Ta(タンタル)を含む層である。金属層52は、後述のサーマルインクジェットプリントヘッドA1の印刷動作において、発泡室61におけるインクIkの発泡によって、ガラス層51等が損傷することを防止するための層である。
【0034】
駆動IC71は、複数の個別電極36を選択的に通電させることにより、抵抗体層4を部分的に発熱させる機能を果たす。駆動IC71には、複数のパッド(図示略)が設けられている。駆動IC71のパッドと複数の個別電極36とは、それぞれにボンディングされた複数のワイヤ79を介して接続されている。ワイヤ79は、たとえばAuからなる。
図1および
図2に示すように、駆動IC71およびワイヤ79は、封止樹脂72によって覆われている。封止樹脂72は、たとえば黒色の軟質樹脂からなる。また、駆動IC71とコネクタ73とは、図示しない信号線によって接続されている。
【0035】
インクタンク9は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1による印刷に用いられるインクIkを貯留するためのものである。インクタンク9は、インクIkを貯留する内部空間を有する。インクタンク9を構成する材質は何ら限定されず、たとえばインクタンク9による侵食等のおそれが少ない材質が適宜選択される。本実施形態においては、インクタンク9は、基板1に対してz方向のz2側に配置されている。基板1の裏面12は、インクタンク9の内部に露出している。
【0036】
ノズル層6は、複数の発泡室61および複数の吐出口62の少なくとも一部を形成する層である。ノズル層6の材質は何ら限定されず、複数の発泡室61および複数の吐出口62を形成可能な樹脂等の材質が適宜選択される。ノズル層6は、基板1およびインクタンク9に対して、z方向のz1側に配置されている。
【0037】
複数の発泡室61は、複数の発熱部41のそれぞれに対応してz方向のz1側に配置されている。複数の発泡室61は、x方向に配列されており、互いに区画されている。発泡室61には、インクIkが導入される。
【0038】
複数の吐出口62は、複数の発泡室61にそれぞれつながっている。本実施形態においては、複数の吐出口62は、複数の発泡室61のz方向のz1側につながっている。
図2に示すように、複数の吐出口62は、x方向に等ピッチで配列されている。吐出口62の形状は何ら限定されず、円形、楕円形、矩形状、多角形等が適宜選択される。
【0039】
発泡室61に導入されたインクIkは、対応する発熱部41が発熱することにより、加熱される。この加熱によってインクIkが発泡すると、インクIkの一部が液滴Drとなって対応する吐出口62から吐出される。
【0040】
導入路63は、インクタンク9と複数の吐出口62とを繋ぐインクIkの流路である。本実施形態の導入路63は、第1部631と第2部632とを含む。第1部631は、基板1のx方向のx1側の端面13に対してx方向のx1側に位置している。第1部631は、インクタンク9の内部空間につながっている。第2部632は、z方向において基板1(保護層5)とノズル層6との間に位置する。第2部632は、第1部631と発泡室61とにつながっている。インクタンク9内のインクIkは、たとえば毛細管現象によって、導入路63の第1部631および第2部632の順に経由して、発泡室61に導入される。
【0041】
次に、サーマルインクジェットプリントヘッドA1およびサーマルインクジェットプリンタB1の作用について説明する。
【0042】
本実施形態によれば、基板1は、セラミックスを含む。このため、たとえばシリコン基板と比べて、x方向の大きさを格段に大きく設定することが可能である。したがって、x方向の印刷幅を拡大するのに適したサーマルインクジェットプリントヘッドA1およびサーマルインクジェットプリンタB1を提供することができる。サーマルインクジェットプリントヘッドA1の複数の吐出口62が配列された長さを、サーマルインクジェットプリンタB1の印刷幅と同一に設定すれば、サーマルインクジェットプリンタB1の印刷において、サーマルインクジェットプリントヘッドA1をx方向に走査させる必要がない。これにより、印刷の高速化や、サーマルインクジェットプリンタB1のコスト低減を図ることができる。
【0043】
サーマルインクジェットプリントヘッドA1の電極層3および抵抗体層4等の構成は、たとえば厚膜サーマルプリントヘッドと称されるサーマルプリントヘッドと同様の構成である。これにより、複数の吐出口62のx方向における配列ピッチを、サーマルプリントヘッドにおけるx方向の印刷ドットピッチと同等の大きさに設定することが可能である。これにより、サーマルインクジェットプリントヘッドA1およびサーマルインクジェットプリンタB1の印刷解像度を、サーマルプリントヘッドと同等に設定することができる。
【0044】
インクタンク9のインクIkは、導入路63を経由して複数の発泡室61に導入される。導入路63は、基板1の端面13に沿った第1部631と、ノズル層6および保護層5によって規定された第2部632とを含む。したがって、導入路63を構成するための専用の部材を用いることなく、導入路63を合理的に構成することができる。基板1は、セラミックスを含むため、インクIkに侵食されるおそれが小さい。また、インクIkが基板1によって汚染されるおそれが少ない。
【0045】
金属層52は、ガラス層51のうち主面11のx方向のx1側の端まで(端面13まで)に至る領域を覆っている。これにより、導入路63を流れるインクIkによって、ガラス層51が侵食されることを抑制することができる。
【0046】
図7および
図8は、本開示の変形例および他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。また、各変形例および各実施形態における各部の構成は、技術的な矛盾を生じない範囲において相互に適宜組み合わせ可能である。
【0047】
図7は、サーマルインクジェットプリントヘッドA1の第1変形例を示している。本変化例のサーマルインクジェットプリントヘッドA11は、主に、電極層3および抵抗体層4の構成が上述したサーマルインクジェットプリントヘッドA1と異なっている。
【0048】
基板1上には、グレーズ層2が形成されている。グレーズ層2は、基板1の全面を覆っており、図示された例においては、厚さがほぼ均一である。
【0049】
抵抗体層4は、グレーズ層2上に形成されている。抵抗体層4は、たとえば酸化ルテニウム等の抵抗体材料を、CVDまたはスパッタリング等の薄膜形成手法によってグレーズ層2上に成膜し、これに対して所定のパターニング処理を施すことによって形成されている。
【0050】
電極層3は、抵抗体層4上に形成されている。電極層3は、たとえばAl等の金属材料を、CVDまたはスパッタリング等の薄膜形成手法によって抵抗体層4上に成膜し、これに対して所定のパターニング処理を施すことによって形成されている。本例においては、共通電極帯状部34の先端と、個別電極帯状部38の先端とが、y方向に離隔している。抵抗体層4のうち共通電極帯状部34と個別電極帯状部38との間に位置する部位が、発熱部41とされている。
【0051】
このような変形例によっても、x方向の印刷幅を拡大するのに適したサーマルインクジェットプリントヘッドA11を提供することができる。また、本変形例から理解されるように、電極層3および抵抗体層4の具体的な構成は、何ら限定されない。
【0052】
図8は、本開示の第2実施形態に係るサーマルインクジェットプリントヘッドを示している。本実施形態のサーマルインクジェットプリントヘッドA2は、いわゆるサイドシューターと称される構造である。なお、
図8においては、z方向の向きを
図6および
図7とは逆に示している。
【0053】
本実施形態における基板1、グレーズ層2、電極層3、抵抗体層4および保護層5の構成は、たとえば上述のサーマルインクジェットプリントヘッドA1における基板1、グレーズ層2、電極層3、抵抗体層4および保護層5の構成と同様である。あるいは、サーマルインクジェットプリントヘッドA11における構成を採用してもよく、これらの構成要素の具体的構成は何ら限定されない。
【0054】
本実施形態においては、インクタンク9は、基板1に対しz方向のz1側に配置されている。吐出口62は、複数の発熱部41に対して、y方向のy1側に配置されている。複数の吐出口62は、ノズル層6と保護層5とによって構成されている。たとえば、複数の吐出口62は、ノズル層6に形成された複数の溝と保護層5とによって規定される流路の端部に位置する開口である。導入路63は、インクタンク9からz方向に沿って発泡室61に向かう部分を含む。
【0055】
本実施形態においては、インクタンク9のインクIkは、導入路63を通じて、発泡室61に導入される。発熱部41の発熱によって発泡室61内のインクIkが発泡すると、インクIkの一部が液滴Drとなって、吐出口62からy方向のy1側に向けて吐出される。
【0056】
本実施形態によっても、x方向の印刷幅を拡大するのに適したサーマルインクジェットプリントヘッドA2を提供することができる。また、本実施形態から理解されるように、本開示に係るサーマルインクジェットプリントヘッドの構造は、トップシューター、再度シューター等の種々の構造を採用することができる。
【0057】
本開示に係るサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタは、上述した実施形態に限定されるものではない。本開示に係るサーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリンタの具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0058】
付記1.
厚さ方向の一方側を向く主面および他方側を向く裏面を有する基板と、
前記基板の前記主面に支持され且つ主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層と、
前記基板の前記主面に支持され且つ前記抵抗体層に導通する電極層と、
前記抵抗体層および前記電極層を覆う保護層と、
前記複数の発熱部のそれぞれに対応して前記厚さ方向の一方側に配置された複数の発泡室と、
前記複数の発泡室にそれぞれつながる複数の吐出口と、
前記複数の発泡室に導入されるインクを収容するインクタンクと、
前記インクタンクと前記複数の吐出口とを繋ぐ導入路とを備え、
前記基板は、セラミックスを含み
前記発泡室に滞留したインクが前記発熱部からの熱によって発泡することにより、前記吐出口からインクの液滴が吐出される、サーマルインクジェットプリントヘッド。
付記2.
前記複数の発泡室および前記複数の吐出口の少なくとも一部を形成するノズル層を備える、付記1に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記3.(トップシューター)
前記インクタンクは、前記基板に対して前記厚さ方向の他方側に配置されている、付記2に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記4.
前記吐出口は、前記複数の発熱部に対して、前記厚さ方向の一方側に配置されている、付記3に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記5.
前記導入路は、前記インクタンクから前記基板の副走査方向の一方側の端部に対して副走査方向の一方側に位置する第1部と、前記厚さ方向において前記基板と前記ノズル層との間に位置する第2部と、を含む、付記4に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記6.
前記基板の前記裏面は、前記インクタンクの内部に露出している、付記5に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記7.(サイドシューター)
前記インクタンクは、前記基板に対して前記厚さ方向の一方側に配置されている、付記2に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記8.
前記吐出口は、前記複数の発熱部に対して、副走査方向の一方側に配置されている、付記7に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記9.
前記導入路は、前記インクタンクから前記厚さ方向に沿って前記発泡室に向かう部分を含む、付記8に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記10.
前記複数の吐出口は、前記ノズル層と前記保護層とによって構成されている、付記9に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記11.
前記保護層は、前記抵抗体層を覆うガラス層と、前記厚さ方向の一方側の表層を構成する金属層と、を含む、付記1ないし10のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記12.
前記基板と前記抵抗体層および前記電極層との間に介在するグレーズ層をさらに備える、付記1ないし11のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記13.
前記グレーズ層は、前記厚さ方向に膨出した形状である膨出部を含み、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向に視て、前記膨出部に重なる、付記12に記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記14.
前記電極層は、前記基板と前記抵抗体層の少なくとも一部との間に介在する、付記1ないし13のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記15.
前記電極層は、各々が副走査方向に延びており且つ主走査方向に間隔をおいて配置された個別電極帯状部を有する複数の個別電極と、各々が副走査方向に延びており且つ前記複数の個別電極帯状部と主走査方向に交互に配置された複数の共通電極帯状部を有する共通電極と、を有しており、
前記抵抗体層は、前記複数の個別電極帯状部および前記複数の共通電極帯状部を跨ぐ帯状である、付記1ないし13のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記16.
前記抵抗体層は、前記基板と前記電極層の少なくとも一部との間に介在する、付記1ないし13のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッド。
付記17.
付記1ないし16のいずれかに記載のサーマルインクジェットプリントヘッドを備える、サーマルインクジェットプリンタ。
【符号の説明】
【0059】
A1,A11,A2:サーマルインクジェットプリントヘッド
B1 :サーマルインクジェットプリンタ
1 :基板
2 :グレーズ層
3 :電極層
4 :抵抗体層
5 :保護層
6 :ノズル層
9 :インクタンク
11 :主面
12 :裏面
13 :端面
22 :膨出部
23 :平坦部
33 :共通電極
34 :共通電極帯状部
35 :連結部
36 :個別電極
37 :連結部
38 :個別電極帯状部
39 :ボンディング部
39A :第1ボンディング部
39B :第2ボンディング部
41 :発熱部
51 :ガラス層
52 :金属層
61 :発泡室
62 :吐出口
63 :導入路
71 :駆動IC
72 :封止樹脂
73 :コネクタ
74 :配線基板
75 :放熱部材
79 :ワイヤ
82 :印刷媒体
371 :平行部
372 :斜行部
631 :第1部
632 :第2部
Dr :液滴
Ik :インク