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特開2023-132182セラミック電子部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132182
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037358
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】水野 高太郎
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC04
5E001AC09
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE18
5E082EE23
5E082EE27
(57)【要約】
【課題】 容量部への酸素侵入を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、最外層の各内部電極層において、外側の主面に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下の、前記内部電極層を構成する主成分元素を含む金属酸化物が設けられ、前記最外層の各内部電極層以外の内部電極層の少なくともいずれかと、当該内部電極層に隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層が存在し、前記金属酸化物は、前記外側の主面の80%以上を被覆することを特徴とする。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、
最外層の各内部電極層において、外側の主面に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下の、前記内部電極層を構成する主成分元素を含む金属酸化物が設けられ、
前記最外層の各内部電極層以外の内部電極層の少なくともいずれかと、当該内部電極層に隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層が存在し、
前記金属酸化物は、前記外側の主面の80%以上を被覆することを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の対向する2端面に前記複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップを備え、
前記複数の内部電極層の少なくともいずれかは、前記略直方体形状の前記2端面以外の2側面の端部に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下の、前記内部電極層を構成する主成分元素を含む金属酸化物が設けられ、
最外層の各内部電極層以外の内部電極層の少なくともいずれかと、当該内部電極層に隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層が存在し、
前記2側面の端部において前記内部電極層の厚みの60%以上を前記金属酸化物が被覆する内部電極層の数が、前記複数の内部電極層の総数の80%以上であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項3】
前記金属酸化物の少なくとも一部と前記内部電極層との間に、前記偏析層が形成されていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記偏析層は、10nm以下の厚みを有し、当該偏析層が設けられる内部電極層中の前記添加金属元素の平均濃度以上の濃度を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記金属酸化物は、前記内部電極層の主成分および前記添加金属元素のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記添加金属元素は、Au、Pt、Cu、Fe、Cr、Zn、Y、In、As、Co、Ir、Mg、Os、Pd、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Ag、Mo、Geから選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記内部電極層全体において、前記添加金属元素の濃度は、前記内部電極層の主成分金属に対して0.01at%以上、5.0at%以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記金属酸化物の少なくとも一部において、前記偏析層が前記金属酸化物の内部を分断せずに、前記内部電極層の金属成分および前記添加金属元素が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記内部電極層の主成分金属は、NiおよびCuのいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
誘電体グリーンシート上に内部電極パターンが形成された積層単位を複数積層することによってセラミック積層体を形成する工程と、
前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、
最外層以外の前記内部電極パターンについては、前記内部電極パターンの主成分金属とは異なる添加金属元素を、前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%以上となるように添加しておき、
最外層の前記内部電極パターンについては、前記内部電極パターンの主成分金属とは異なる添加金属元素を、前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%未満としておき、
前記焼成する工程において、前記最外層の前記内部電極パターンから得られる内部電極層の外側の主面に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下であって、前記外側の主面の80%以上を被覆する金属酸化物を形成することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項11】
誘電体グリーンシート上に内部電極パターンが形成された積層単位を複数積層することによって略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記セラミック積層体の対向する2端面に、積層された前記内部電極パターンを交互に露出させ、
前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、
最外層以外の前記内部電極パターンについて、前記内部電極パターンの主成分金属とは異なる添加金属元素を、前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%以上となるように添加しておき、
前記セラミック積層体の前記2端面以外の2側面側の端部に、前記添加金属元素の前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%未満のペースト材料を配置しておき、
前記焼成する工程において、前記2側面側の端部において、前記内部電極パターンから得られる内部電極層の厚みの60%以上を金属酸化物が被覆する内部電極層の数が、前記内部電極パターンの総数の80%以上となるように、前記金属酸化物を形成することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品は、チタン酸バリウムなどの誘電体材料を主原料とした誘電体グリーンシートの上に、金属粉末を主原料とする金属ペーストを印刷し、積層、圧着、カット、脱バインダ、焼成、外部電極塗布等を経て作製される。市場要求である小型大容量化のため、誘電体層の薄層化、内部電極層の薄層化、高積層化が要求されている。
【0003】
一方で、誘電体層の薄層化は、電界強度の増加を伴うため、寿命の確保がより難しくなる。希土類酸化物等の微量添加物をチタン酸バリウム等の誘電体材料に固溶させるなどの誘電体材料設計による検討に加え、近年では、内部電極中に異種金属元素を添加し、誘電体層と内部電極層との界面設計による検討も報告されている(例えば、特許文献1参照)。誘電体層と内部電極層との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成することで、ショットキー障壁が強化され、寿命が改善されるものと考えられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/053233号
【特許文献2】国際公開第2014/024538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミック電子部品の所望の電気特性を発現させるために、焼成温度や雰囲気等の焼成条件により、誘電体材料への微量添加物の固溶状態の制御が行われることがある。ここで、酸素分圧が高いと、内部電極層に添加した添加金属元素がイオン化し、誘電体層中に拡散することがある。これにより、誘電体層の異常粒成長や電気特性の変動が誘発され、問題となることがある。また、内部電極層が主成分に対して貴な金属成分を含む場合には、耐酸化性が得られる反面、チップ中央部まで酸素が侵入しやすく、微量添加物の偏析部など、偶発的な局所酸化による特性悪化が生じやすい。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、容量部への酸素侵入を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、最外層の各内部電極層において、外側の主面に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下の、前記内部電極層を構成する主成分元素を含む金属酸化物が設けられ、前記最外層の各内部電極層以外の内部電極層の少なくともいずれかと、当該内部電極層に隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層が存在し、前記金属酸化物は、前記外側の主面の80%以上を被覆することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る他のセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、金属を主成分とする複数の内部電極層とが交互に積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の対向する2端面に前記複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップを備え、前記複数の内部電極層の少なくともいずれかは、前記略直方体形状の前記2端面以外の2側面の端部に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下の、前記内部電極層を構成する主成分元素を含む金属酸化物が設けられ、最外層の各内部電極層以外の内部電極層の少なくともいずれかと、当該内部電極層に隣接する誘電体層との界面に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる添加金属元素を含む偏析層が存在し、前記2側面の端部において前記内部電極層の厚みの60%以上を前記金属酸化物が被覆する内部電極層の数が、前記複数の内部電極層の総数の80%以上であることを特徴とする。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記金属酸化物の少なくとも一部と前記内部電極層との間に、前記偏析層が形成されていなくてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記偏析層は、10nm以下の厚みを有し、当該偏析層が設けられる内部電極層中の前記添加金属元素の平均濃度以上の濃度を有していてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記金属酸化物は、前記内部電極層の主成分および前記添加金属元素のいずれか1種以上を含んでいてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属元素は、Au、Pt、Cu、Fe、Cr、Zn、Y、In、As、Co、Ir、Mg、Os、Pd、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Ag、Mo、Geから選択された1種または2種以上であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層全体において、前記添加金属元素の濃度は、前記内部電極層の主成分金属に対して0.01at%以上、5.0at%以下であってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品の前記金属酸化物の少なくとも一部において、前記偏析層が前記金属酸化物の内部を分断せずに、前記内部電極層の金属成分および前記添加金属元素が配置されていてもよい。
【0015】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層の主成分金属は、NiおよびCuのいずれか1種以上を含んでいてもよい。
【0016】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンが形成された積層単位を複数積層することによってセラミック積層体を形成する工程と、前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、最外層以外の前記内部電極パターンについては、前記内部電極パターンの主成分金属とは異なる添加金属元素を、前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%以上となるように添加しておき、最外層の前記内部電極パターンについては、前記内部電極パターンの主成分金属とは異なる添加金属元素を、前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%未満としておき、前記焼成する工程において、前記最外層の前記内部電極パターンから得られる内部電極層の外側の主面に、形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下であって、前記外側の主面の80%以上を被覆する金属酸化物を形成することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るセラミック電子部品の他の製造方法は、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンが形成された積層単位を複数積層することによって略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記セラミック積層体の対向する2端面に、積層された前記内部電極パターンを交互に露出させ、前記セラミック積層体を焼成する工程と、を含み、最外層以外の前記内部電極パターンについて、前記内部電極パターンの主成分金属とは異なる添加金属元素を、前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%以上となるように添加しておき、前記セラミック積層体の前記2端面以外の2側面側の端部に、前記添加金属元素の前記主成分金属に対する有効金属濃度が0.01at%未満のペースト材料を配置しておき、前記焼成する工程において、前記2側面側の端部において、前記内部電極パターンから得られる内部電極層の厚みの60%以上を金属酸化物が被覆する内部電極層の数が、前記内部電極パターンの総数の80%以上となるように、前記金属酸化物を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、容量部への酸素侵入を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】最外層以外の内部電極層および当該内部電極層に隣接する2層の誘電体層の概略図である。
図5】最外層の内部電極層の概略図である。
図6】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図7】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図8】(a)および(b)はペースト材料の印刷を例示する図である。
図9】(a)は比較例1のSEM写真を模式的に描いた図であり、(b)は実施例1のSEM写真を模式的に描いた図である。
図10】最外層および内部電極端部の拡大図である。
図11】ワイブル分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の積層方向の上面および下面以外の4面を側面と称する。上記2端面は、この4側面に含まれる。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面と、下面と、2端面以外の2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0022】
なお、図1図3において、X軸方向は、積層チップ10の長さ方向であって、積層チップ10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向は、内部電極層の幅方向であり、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。Z軸方向は、積層方向であり、積層チップ10の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0023】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じであっても構わない。
【0024】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0025】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),MgTiO(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaSrTi1-zZrは、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0026】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホロミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、または、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)もしくはSi(ケイ素)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0027】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0028】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0029】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0030】
このような積層セラミックコンデンサでは、小型大容量化のため、誘電体層の薄層化、内部電極層の薄層化、高積層化が要求されている。しかしながら、誘電体層の薄層化は、電界強度の増加を伴うため、寿命の確保がより難しくなる。希土類酸化物等の微量添加物をチタン酸バリウム等の誘電体材料に固溶させるなどの誘電体材料設計による検討に加え、近年では、内部電極層中に異種金属元素を添加し、誘電体層と内部電極層との界面設計による検討が報告されている。誘電体層と内部電極層との界面に、添加金属元素を含む偏析層を形成することで、ショットキー障壁が強化され、寿命が改善されるものと考えられている。
【0031】
積層セラミックコンデンサの所望の電気特性を発現させるために、焼成温度や雰囲気等の焼成条件により、誘電体材料への微量添加物の固溶状態の制御が行われることがある。ここで、酸素分圧が高いと、内部電極層に添加した添加金属元素がイオン化し、誘電体層中に拡散することがある。これにより、誘電体層の異常粒成長や電気特性の変動が誘発され、問題となることがある。また、内部電極層が主成分に対して貴な金属成分を含む場合、耐酸化性がある反面、チップ中央部まで酸素が侵入しやすく、微量添加物の偏析部など、偶発的な局所酸化による特性悪化が生じやすい。
【0032】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、誘電体層11と内部電極層12との界面に偏析層を備える一方で、容量部14への酸素侵入を抑制することができる構成を有している。
【0033】
図4は、最外層以外の内部電極層12、および当該内部電極層12に隣接する2層の誘電体層11の概略図である。図4で例示するように、内部電極層12は、誘電体層11との界面に、偏析層17を備えている。偏析層17は、内部電極層12の主成分と、内部電極層12に添加された添加金属元素とを含む。偏析層17は、積層方向にSTEM(走査型透過型電子顕微鏡)-EDS(エネルギー分散型X線分光法)ライン分析を行なった場合に、内部電極層12全体の添加金属元素の平均濃度以上となる領域と定義することができる。なお、ここでは、STEM-EDSライン分析は1000万倍の倍率にて測定している。また、偏析層17は、例えば、10nm以下の厚みを有している。
【0034】
誘電体層11と内部電極層12との界面に偏析層17が設けられることで、ショットキー障壁が強化され、積層セラミックコンデンサ100の寿命が改善される。偏析層17は、内部電極層12と誘電体層11との界面の全体に設けられていなくてもよく、当該界面の少なくとも一部に設けられていればよい。ただし、偏析層17は、内部電極層12と誘電体層11との界面の全体に設けられていることが好ましい。
【0035】
ショットキー障壁を十分に強化する観点から、偏析層17における添加金属元素の濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、偏析層17における添加金属元素の濃度は、内部電極層12における偏析層17以外の非偏析部の添加金属元素濃度の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。内部電極層12の全体における添加金属元素濃度を高くする観点から、内部電極層12の全体における添加金属元素濃度は、有効金属濃度で0.01at%以上であることが好ましく、0.05at%以上であることがより好ましく、0.1at%以上であることがさらに好ましい。有効金属濃度とは、内部電極層12の主成分金属を100at%とした場合に添加する金属成分濃度のことである。
【0036】
偏析層17における添加金属元素の濃度が高すぎると、電極抵抗の増加によるESRの増加や焼結性や内部応力差による内部電極の不連続化やクラックの発生のおそれがある。そこで、偏析層17における添加金属元素の濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、偏析層17における添加金属元素の濃度は、内部電極層12における偏析層17以外の非偏析部の添加金属元素濃度の20倍以下であることが好ましく、15倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることがさらに好ましい。内部電極層12の全体における添加金属元素濃度を低く抑える観点から、内部電極層12の全体における添加金属元素濃度は、有効金属濃度で5at%以上であることが好ましく、4at%以上であることがより好ましく、3at%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
内部電極層12の主成分は、特に限定されるものではないが、Ni、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属である。内部電極層12の主成分として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0038】
添加金属元素は、特に限定されるものではないが、内部電極層12の主成分金属よりも貴な金属であることが好ましい。添加金属元素は、例えば、Au、Sn、Cr、Fe(鉄)、Y、In(インジウム)、As(砒素)、Co、Cu、Ir(イリジウム)、Mg、Os(オスミウム)、Pd、Pt、Re(レニウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Se(セレン)、Te(テルル)、W、Zn(亜鉛)、Ag、Mo、Ge(ゲルマニウム)から選択された1種または2種以上である。
【0039】
また、図4で例示するように、内部電極層12のY軸方向の両端部の少なくとも一方に、不働態として機能する金属酸化物18が形成されている。金属酸化物18は、内部電極層12の主成分金属および添加金属元素の少なくともいずれか一方を含む。
【0040】
図5は、最外層の内部電極層12の概略図である。図5で例示するように、最外層の内部電極層12は、外側の主面に金属酸化物18が形成されている。例えば、上端の内部電極層12の上面に金属酸化物18が形成されている。下端の内部電極層12の下面に金属酸化物18が形成されている。また、最外層の内部電極層12は、Y軸方向の両端部の少なくとも一方に、金属酸化物18が形成されていてもよく、全て金属酸化物18で形成されていてもよい。
【0041】
金属酸化物18は、酸化物であるため、酸素の通過を抑制する。各内部電極層12のY軸方向の端部に金属酸化物18が設けられることによって、Y軸方向の酸素侵入を抑制することができ、容量部14への酸素侵入を抑制することができる。最外層の内部電極層12の外側の主面に金属酸化物18が設けられることによって、Z軸方向の酸素侵入を抑制することができ、容量部14への酸素侵入を抑制することができる。
【0042】
ただし、金属酸化物18が十分に厚く形成されていないと、酸素の侵入を十分に抑制できないおそれがある、そこで、金属酸化物18の厚みに下限を設ける。本実施形態においては、金属酸化物18は、形成深さが0.5μm以上である。形成深さとは、金属酸化物18が内部電極層12のY軸方向の端部に設けられている場合にはY軸方向の厚みのことであり、金属酸化物18が最外層の内部電極層12の外側の主面に設けられている場合にはZ軸方向の厚みのことである。金属酸化物18の形成深さは、例えば、積層セラミックコンデンサ100を樹脂に埋め、X軸方向の中央まで研磨した断面をFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)にて5000倍に拡大し、反射電子像を観察することで、金属部と金属酸化物部を識別し、3視野中の10点以上のポイントでの平均測長長さにより求める。金属酸化物18の形成深さは、0.8μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。
【0043】
一方、金属酸化物18が厚く形成されていると、体積膨張に起因する過度な応力により、クラックの発生や信頼性の低下のおそれがある。そこで、金属酸化物18の厚みに上限を設ける。本実施形態においては、金属酸化物18は、形成深さが5.0μm以下であり、4.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましい。
【0044】
最外層の各内部電極層12において、金属酸化物18が十分に広く形成されていないと、Z軸方向における酸素の侵入を十分に抑制できないおそれがある。そこで、最外層の各内部電極層12に対する金属酸化物18の被覆率に下限を設ける。本実施形態においては、最外層の各内部電極層12に対する金属酸化物18の被覆率は、80%以上であり、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。最外層の各内部電極層12に対する金属酸化物18の被覆率とは、最外層の各内部電極層12の外側の主面全体に対して金属酸化物18が覆っている面積の比率のことである。なお、最外層の各内部電極層12に対する金属酸化物18の被覆率は、チップを樹脂に埋め、中央まで研磨した断面をFE-SEMにて5000倍に拡大し、反射電子像を観察することで、金属部と金属酸化物部を識別し、測定することができる。
【0045】
また、前記内部電極層12について、Y軸方向の端部に金属酸化物18が十分に形成されていないと、Y軸方向における酸素の侵入を十分に抑制できないおそれがある。そこで、全内部電極層12のY軸方向の端部に対する金属酸化物18の被覆率に下限を設ける。本実施形態においては、全内部電極層12のY軸方向の端部に対する金属酸化物18の被覆率は、80%以上であり、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。全内部電極層12のY軸方向の端部に対する金属酸化物18の被覆率とは、Y軸方向の両端部において各内部電極層12の厚みの60%以上を金属酸化物18が被覆する内部電極層12の数が、積層チップ10における内部電極層12の総数に対する比率のことである。全内部電極層12のY軸方向の端部に対する金属酸化物18の被覆率は、積層セラミックコンデンサ100の例えば図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡にて反射電子像を撮像することで、金属部と金属酸化物部を識別し、測定することができる。
【0046】
金属酸化物18が形成されている箇所の少なくとも一部では、金属酸化物18と内部電極層12との間に偏析層17が形成されていないことが好ましい。この場合、内部電極層12と金属酸化物18との間で、内部電極層12の主成分や添加金属元素の拡散が促され、金属を主成分とする内部電極層12と金属酸化物18との間の接合強度を維持することができる。また、金属酸化物18の急激な体積膨張によって生じる応力が緩和される。
【0047】
また、金属酸化物18が形成されている箇所の少なくとも一部では、偏析層17が金属酸化物18の内部を分断することなく、内部電極層12の主成分および添加金属元素が一様に配置されていることが好ましい。この構成では、酸素の浸入遮断をより均一に行うことができる。
【0048】
1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.3μm以上10μm以下であり、または0.4μm以上8μm以下であり、または0.5μm以上5μm以下である。一般に、誘電体層11が薄くなる方が、内部電極層12に添加した添加金属元素の拡散による影響や、内部電極層12の局所酸化による影響を受けやすいため、電気特性の変動が起こりやすい。本実施形態においても、誘電体層11の薄層化に伴い、より大きな作用効果の発現が期待される。1層あたりの誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の例えば図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0049】
1層あたりの内部電極層12の厚みは、例えば、0.1μm以上2μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下であり、または0.3μm以上0.8μm以下である。内部電極層12が薄くなるほど、表面比率の増大から、局所酸化が起こりやすくなるため、本実施形態において、より大きな作用効果の発現が期待される。しかしながら、内部電極層12の厚みが0.05μm未満になると、内部電極層12の厚みに対して、偏析層17の厚み比率が高くなりすぎ、ESR(等価直列抵抗)の増加、内電酸化、内電焼結性の影響が無視できなくなるおそれがある。1層あたりの内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の例えば図2の断面を機械研磨で露出した後、走査透過電子顕微鏡等の顕微鏡で撮影した画像から10か所の厚さの平均値を求めるようにして測定することができる。
【0050】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図6は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0051】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0052】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mo、Nb、Ta、W、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)の酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。これらのうち、主としてSiOが焼結助剤として機能する。
【0053】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0054】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0055】
次に、図7(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。図7(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が印刷された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0056】
最外層の内部電極層12用以外の内部電極パターン53については、添加金属元素を有する有機金属錯体溶液や、当該添加金属元素を有する微粉末を添加する。添加金属元素は、単金属、合金、酸化物などの形態を有していてもよい。また、添加金属元素の導入方法として、内部電極パターン53の主成分金属の表面に添加金属元素がコートされたものを用いてもよい。
【0057】
添加金属元素が少ないと、十分に偏析層17を形成できないおそれがある。そこで、添加金属元素の添加量に下限を設けることが好ましい。例えば、添加金属元素の添加量は、内部電極パターン53の主成分金属に対して、有効金属濃度で0.01at%以上の添加金属元素を添加することが好ましく、0.05at%以上であることがより好ましく、0.1at%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
一方、添加金属元素が多いと、誘電体層11への添加金属元素の拡散、内部電極層12の酸化、内部電極層12の焼結性低下、などの影響が無視できなくなるおそれがある。そこで、添加金属元素の添加量に上限を設けることが好ましい。例えば、添加金属元素の添加量は、内部電極パターン53の主成分金属に対して、有効金属濃度で5.0at%以下であることが好ましく、4.0at%以下であることがより好ましく、3.0at%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
最外層の内部電極層12用以外の内部電極パターン53について、その後、図8(a)で例示するように、Y軸方向の両端に、内部電極パターン53の主成分金属に対して、添加金属元素の有効金属濃度が0.01at%未満のペースト材料55を印刷する。ペースト材料55の主成分金属は、内部電極パターン53の主成分金属と同じである。または、添加金属元素を含まないペースト材料を印刷する。または、添加金属元素を含有する膜に、有効金属濃度が0.01at%未満となるように、内部電極パターン53の主成分金属のペーストを重ねて印刷してもよい。内部電極パターン53およびペースト材料55の形成方法として、印刷以外に、スパッタ、蒸着、めっき等を用いてもよい。
【0060】
最外層の内部電極層12用以外の内部電極パターン53については、主成分金属に対して添加金属元素が0.01at%未満の微粉末を用いる。または、図8(b)で例示するように、添加金属元素を含有する膜56に、有効金属濃度が0.01at%未満となるように、ペースト材料55を重ねて印刷してもよい。この場合の膜形成方法として、印刷以外に、スパッタ、蒸着、めっき等を用いてもよい。
【0061】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、図7(b)で例示するように、積層単位を積層する。この場合において、最下層の積層単位については、図8(b)の積層単位を上下反転させる。その上に、図8(a)の積層単位を複数積層し、最上層の積層単位については図8(b)の積層単位を上下反転させずに積層する。
【0062】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。図7(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0063】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。内部電極層12に金属酸化物18を形成するためには、少なくとも10-7atm以上の酸素分圧を有する雰囲気で1000℃以上の高温に10分以上曝露すればよい。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0064】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0065】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0066】
本実施形態の製造方法によれば、最外層の内部電極層12用以外の内部電極パターン53については、内部電極層12の主成分金属に加えて、添加金属元素が添加される。それにより、最外層以外の内部電極層12と、隣接する誘電体層11との界面に、偏析層17が形成される。
【0067】
最外層の内部電極パターン53における添加金属元素の有効金属濃度が0.01at%未満であることから、最外層の内部電極層12の外側の主面に金属酸化物18を形成することができる。本実施形態の製造方法では、金属酸化物18の形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下となるように、焼成条件を調整する。また、最外層の内部電極層12の外側の主面における金属酸化物18の被覆率が80%以上となるように、焼成条件を調整する。
【0068】
また、最外層以外の内部電極パターン53のY軸方向両端部に、添加金属元素の有効金属濃度が0.01at%未満のペースト材料を印刷することから、当該両端部に金属酸化物18を形成することができる。また、本実施形態の製造方法では、金属酸化物18の形成深さが0.5μm以上、5.0μm以下となるように、焼成条件を調整する。また、全内部電極層12のY軸方向の端部に対する金属酸化物18の被覆率は、80%以上となるように、焼成条件を調整する。
【0069】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0070】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0071】
(実施例1)
チタン酸バリウムを誘電体材料として含む誘電体グリーンシート上に、Ni粉末を含むNiペーストが内部電極パターンとして印刷された積層単位を積層し、圧着し、カットし、バインダを除去し、焼成することによって、チップ形状1.0mm×0.5mm×0.5mmの積層チップを作製した。誘電体層の厚みは0.8μmであり、内部電極層の厚みは0.6μmであり、誘電体層および内部電極層の各積層数は470層とした。
【0072】
このとき、最外層とY軸方向の両端部を除く内部電極パターンにおいて、添加金属元素としてのAuを有する有機金属錯体溶液や微粉末を添加し、Niに対して、有効金属濃度で1.0at%とし、各内部電極パターンのY軸方向の両端部に、Auの有効金属濃度を0.01at%未満としたNiペースト材料を印刷した。焼成過程において、誘電体層と内部電極層との界面に偏析層を形成させた。また、Y軸方向の両端部に金属酸化物を形成した。
【0073】
最外層の内部電極パターンにおいては、誘電体層と内部電極層との界面に偏析層を形成させないため、Niに対して、Auの有効金属濃度を0.01at%未満としたNiペースト材料を使用した。焼成過程において、最外層の内部電極層の外側の主面に、金属酸化物を形成した。
【0074】
最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、100%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、100%であった。金属酸化物の形成深さは、5.0μmであった。
【0075】
(実施例2)
実施例2では、Y軸方向の両端部にAuの有効金属濃度を0.01at%未満のNiペースト材料を印刷する際に、印刷範囲を狭くした。また、最外層の内部電極においては、Auの有効金属濃度1.0at%のNiペースト材料を印刷する厚みを薄くし、更にその上にAuの有効金属濃度を0.01at%未満のNiペースト材料を重ねて印刷した。その他の条件は、実施例1と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、80%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、80%であった。金属酸化物の形成深さは、0.5μmであった。
【0076】
(実施例3)
実施例3では、添加金属元素としてAuおよびFeを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、90%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、90%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0077】
(実施例4)
実施例4では、添加金属元素としてAuおよびCrを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、90%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、90%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0078】
(実施例5)
実施例5では、添加金属元素としてPtを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、80%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、80%であった。金属酸化物の形成深さは、0.5μmであった。
【0079】
(実施例6)
実施例6では、添加金属元素としてCuを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、80%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、80%であった。金属酸化物の形成深さは、0.5μmであった。
【0080】
(実施例7)
実施例7では、添加金属元素としてFeを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、95%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、95%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0081】
(実施例8)
実施例8では、添加金属元素としてCrを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、95%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、95%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0082】
(実施例9)
実施例9では、添加金属元素としてZnを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、95%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、95%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0083】
(実施例10)
実施例10では、添加金属元素としてYを用いた。その他の条件は、実施例2同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、90%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、90%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0084】
(実施例11)
実施例11では、添加金属元素としてInを用いた。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、90%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、90%であった。金属酸化物の形成深さは、1.0μmであった。
【0085】
(比較例1)
比較例1では、添加金属元素を添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、40%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、40%であった。金属酸化物の形成深さは、0.5μmであった。
【0086】
(比較例2)
比較例2では、焼成工程において、10-7atm以上の酸素分圧を有する雰囲気で1000℃以上の高温に曝露する時間を延ばした。その他の条件は、実施例2と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、30%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、30%であった。金属酸化物の形成深さは、0.5μmであった。
【0087】
(比較例3)
比較例3では、焼成工程において、10-7atm以上の酸素分圧を有する雰囲気で1000℃以上の高温に曝露するさらに時間を延ばした。その他の条件は、実施例1と同様とした。最外層の各内部電極層に対する金属酸化物の被覆率は、100%であった。全内部電極層のY軸方向の端部に対する金属酸化物の被覆率も、100%であった。金属酸化物の形成深さは、10.0μmであった。
【0088】
実施例1および比較例1について、断面のSEM写真を撮影した。図9(a)は、比較例1のSEM写真を模式的に描いた図である。図9(b)は、実施例1のSEM写真を模式的に描いた図である。内部電極層12への添加金属元素を添加することによって内部電極層12の連続性に差があることや連続膜が維持できる厚みに差があることが確認できた。
【0089】
次に、誘電体層と内部電極層との界面についてSTEM-EDS分析を行なった。誘電体層と内部電極層との界面10nm以下の厚み範囲において、添加金属元素の偏析層が形成されている様子が確認できた。
【0090】
図10に示すように、最外層および内部電極端部に金属酸化物18を形成した積層セラミックコンデンサを実現することができ、偶発的な局所酸化や、複合化元素の拡散による電気特性の変動を回避することができた。
【0091】
実施例1~11および比較例1~3について高温加速寿命(125℃、12V)を測定した。表1に結果を示す。表1に、50%寿命値と、ワイブル分布の傾きであるm値とを示す。図11は、実施例2および比較例2の結果を示す。また、過剰な金属酸化物形成に伴うクラックの有無を確認した。クラックが発生していなければ良好「〇」と判定し、クラックが発生していれば不良「×」を判定した。
【0092】
50%寿命値が1000分以上、m値が2以上であって、クラックが発生していない場合に、良好「〇」と判定した。それ以外の場合に、不良「×」と判定した。実施例1~11は、全て良好「〇」と判定された。これは、偏析層を形成し、過剰な金属酸化物を形成せずに、容量部への酸素侵入を抑制できたからであると考えられる。このように、実施例1~11については、母集団から外れた初期故障と言われる低寿命な個体頻度が減じており、生産安定化に有効であることが確認できた。これに対して、比較例1では十分な寿命が得られなかった。これは、偏析層を形成しなかったからであると考えられる。比較例2では、十分なm値が得られなかった。これは、金属酸化物の被覆率が十分でなかったからであると考えられる。比較例3では、クラックが発生した。これは、過剰な金属酸化物を形成したからであると考えられる。
【表1】
【0093】
なお、同様の作用効果は、As、Co、Ir、Mg、Os、Pd、Re、Rh、Ru、Se、Sn、Te、W、Zn、Ag、Mo、Geのいずれか1種以上が含まれる系においても、発現が確認できている。
【0094】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量部
15 エンドマージン
16 サイドマージン
17 偏析層
18 金属酸化物
20a,20b 外部電極
51 基材
52 誘電体グリーンシート
53 内部電極パターン
54 カバーシート
55 ペースト材料
56 膜
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11