(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132184
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 201G
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037360
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】大島 道生
(72)【発明者】
【氏名】福田 隼也
(72)【発明者】
【氏名】有我 穰二
(72)【発明者】
【氏名】柴田 好規
(72)【発明者】
【氏名】浅井 尚
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AD01
5E001AF06
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
(57)【要約】
【課題】 外部電極の密着性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 複数の誘電体層と、互いに対向するように設けられる複数の内部電極層と、を有する素体と、前記複数の内部電極層が延伸される方向の端である前記素体の端面に設けられ、前記複数の内部電極層の一端と各々接し、共材を含む外部電極と、前記外部電極と前記素体との間に設けられ、前記素体側から前記外部電極に向かって凸形状を有する凸状部と、を備え、前記複数の誘電体層の主成分セラミックは、CaおよびZrを含み、前記共材は、セラミック粒子であり、BaおよびTiを含み、前記複数の誘電体層の前記主成分セラミックの構成金属元素群と、前記共材の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と、前記複数の誘電体層を介して積層され、互いに対向するように設けられる複数の内部電極層と、を有する素体と、
前記複数の内部電極層が延伸される方向の端である前記素体の端面に設けられ、前記複数の内部電極層の一端と各々接し、共材を含む外部電極と、
前記外部電極と前記素体との間に設けられ、前記素体側から前記外部電極に向かって凸形状を有する凸状部と、を備え、
前記複数の誘電体層の主成分セラミックは、CaおよびZrを含み、
前記共材は、セラミック粒子であり、BaおよびTiを含み、
前記複数の誘電体層の前記主成分セラミックの構成金属元素群と、前記共材の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれ、
前記凸状部は、少なくともBa、Ca、およびTiを含むセラミックを主成分とする、セラミック電子部品。
【請求項2】
前記外部電極は、下地層上にめっき層が形成された構造を有する、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記下地層は、Niを主成分とする、請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記複数の誘電体層の前記主成分セラミックは、BaxSryCazZrsTitO3組成式で表わされ、0≦x<0.4、0≦y<0.7、0<z<0.8、x+y+z=1、0.9<s<1、0<t<0.1を満たす、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記凸状部は、さらにSrを含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記誘電体層は、常誘電体である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記凸状部は、前記複数の誘電体層の積層方向において0.5μm以上、5.0μm以下の幅を有し、前記外部電極に向かって0.5μm以上、7.0μm以下の高さを有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記共材の主成分は、BaTiO3である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
CaおよびZrを含むセラミック粉末を主成分セラミックとする誘電体グリーンシートを塗工する塗工工程と、
前記誘電体グリーンシート上に導電ペーストを用いて内部電極パターンを形成する内部電極形成工程と、
前記誘電体グリーンシートを積層して未焼成の素体を得る圧着工程と、
前記未焼成の素体の側面に、BaおよびTiを含む共材を含む外部電極用ペーストを塗布する塗布工程と、
前記未焼成の素体および前記外部電極用ペーストを焼成する焼成工程と、を含み、
前記主成分セラミックの構成金属元素群と、前記共材の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれる、セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品は、小型大容量、半永久的な寿命、高周波低抵抗などそのすぐれた特性から広い範囲で使用されている。近年では、実装される装置の小型化を目的として、またはセラミック電子部品自身のコストダウンを目的として、セラミック電子部品の小型化およびチップ化が進みつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、誘電体セラミック粉末を有機バインダ中に分散させたスラリをドクターブレード等によって一定の厚みとして、誘電体グリーンシートを作成する。誘電体グリーンシート上に金属粉末を有機ビヒクル中に分散させた導電ペーストをスクリーン印刷して内部電極パターンを形成した後、積層、熱プレス成形を行い、積層体を得る。次に、脱バインダして焼結させた素体の角取りを行い、内部電極を取り出すように外部電極を形成し、セラミック電子部品を得ていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
外部電極は、ガラスフリットを含む金属ペーストをディップ法等によって素体に塗布し、焼き付けることによって形成させていた。しかしながら、誘電体グリーンシートを焼成する際にセラミックの粒径に大小が生じ、外部電極の密着性にバラツキが生じ、素体表面と外部電極との間に隙間が生じた場合には外部電極の密着性が弱くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、外部電極の密着性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、複数の誘電体層と、前記複数の誘電体層を介して積層され、互いに対向するように設けられる複数の内部電極層と、を有する素体と、前記複数の内部電極層が延伸される方向の端である前記素体の端面に設けられ、前記複数の内部電極層の一端と各々接し、共材を含む外部電極と、前記外部電極と前記素体との間に設けられ、前記素体側から前記外部電極に向かって凸形状を有する凸状部と、を備え、前記複数の誘電体層の主成分セラミックは、CaおよびZrを含み、前記共材は、セラミック粒子であり、BaおよびTiを含み、前記複数の誘電体層の前記主成分セラミックの構成金属元素群と、前記共材の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれ、前記凸状部は、少なくともBa、Ca、およびTiを含むセラミックを主成分とする。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記外部電極は、下地層上にめっき層が形成された構造を有していてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記下地層は、Niを主成分としてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記複数の誘電体層の前記主成分セラミックは、BaxSryCazZrsTitO3組成式で表わされ、0≦x<0.4、0≦y<0.7、0<z<0.8、x+y+z=1、0.9<s<1、0<t<0.1を満たしてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記凸状部は、さらにSrを含んでいてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層は、常誘電体であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記凸状部は、前記複数の誘電体層の積層方向において0.5μm以上、5.0μm以下の幅を有し、前記外部電極に向かって0.5μm以上、7.0μm以下の高さを有していてもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記共材は、BaTiO3であってもよい。
【0015】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、CaおよびZrを含むセラミック粉末を主成分セラミックとする誘電体グリーンシートを塗工する塗工工程と、前記誘電体グリーンシート上に導電ペーストを用いて内部電極パターンを形成する内部電極形成工程と、前記誘電体グリーンシートを積層して未焼成の素体を得る圧着工程と、前記未焼成の素体の側面に、BaおよびTiを含む共材を含む外部電極用ペーストを塗布する塗布工程と、前記未焼成の素体および前記外部電極用ペーストを焼成する焼成工程と、を含み、前記主成分セラミックの構成金属元素群と、前記共材の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外部電極の密着性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)は外部電極付近の拡大断面図であり、(b)は下地層付近の拡大図である。
【
図5】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図6】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【
図7】(a)から(c)は拡散のメカニズムを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する素体10と、素体10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、素体10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、素体10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0020】
なお、
図1~
図3において、X軸方向は、素体10の長さ方向であって、素体10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向は、内部電極層の幅方向であり、素体10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。Z軸方向は、積層方向であり、素体10の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0021】
素体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、金属を主成分とする内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。言い換えると、素体10は、互いに対向する複数の内部電極層12と、複数の内部電極層12の間に各々挟まれた誘電体層11と、を備えている。各内部電極層12が延伸される方向の端縁は、素体10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に一端まで形成され露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13は、誘電体層11と組成が同じであっても、異なっていても構わない。
【0022】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0023】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。本実施形態においては、誘電体層11の主成分セラミックとして、少なくともカルシウム(Ca)およびジルコニウム(Zr)を含むセラミック材料を用いる。例えば、誘電体層11の主成分セラミックは、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)などを含んでいてもよい。当該セラミック材料は、例えば、BaxSryCazZrsTitO3組成式で表すことができる。この組成式において、xは、0≦x<0.4を満たす。yは、0≦y<0.7を満たす。zは、0<z<0.8を満たす。x、y、zは、x+y+z=1を満たす。sは、0.9<s<1を満たす。tは、0<t<0.1を満たす。例えば、誘電体層11の主成分セラミックは、常誘電体として機能する。
【0024】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0025】
内部電極層12は、ニッケル,銅(Cu),スズ(Sn)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、白金(Pt),パラジウム(Pd),銀(Ag),金(Au)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0026】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において静電容量を生じる領域である。そこで、当該静電容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0027】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、静電容量を生じない領域である。エンドマージン15は、容量部14の誘電体層11と同じ組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0028】
図3で例示するように、素体10において、素体10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、静電容量を生じない領域である。サイドマージン16は、容量部14の誘電体層11と同じ組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0029】
図4(a)は、外部電極20a付近の拡大断面図である。
図4(a)では、ハッチを省略している。
図4(a)で例示するように、外部電極20aは、下地層21上に、めっき層22が設けられた構造を有している。
【0030】
図4(b)は、下地層21付近の拡大図である。下地層21は、Ni、Cuなどを主成分とし、共材17が分散した構造を有している。共材17は、セラミック粒子であり、BaおよびTiを含んでいる。誘電体層11の主成分セラミックの構成金属元素群と、共材17の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれている。例えば、誘電体層11の主成分セラミックの構成金属元素群に、共材17の構成金属元素群に含まれない金属元素が含まれていてもよい。または、共材17の構成金属元素群、誘電体層11の主成分セラミックの構成金属元素群に含まれない金属元素が含まれていてもよい。一例として、共材17として、BaTiO
3などを用いる。
【0031】
下地層21のX軸方向の厚みは、例えば、5μm以上30μm以下であり、7μm以上25μm以下であり、10μm以上20μm以下である。下地層21における共材17の含有量は、例えば、5wt%以上50wt%以下であり、10wt%以上35wt%以下であり、10wt%以上20wt%以下である。下地層21における共材17の平均粒径は、例えば、0.5μm以上8.0μm以下であり、1.0μm以上6.0μm以下であり、2.0μm以上5.0μm以下である。なお、
図4(b)では、共材17以外のハッチを省略している。このような厚みや粒径のサイズは、対象部品のたとえばX-Z断面をSEMまたはTEMで拡大して確認することができる。なお共材の平均粒径は30個の粒子の長径と短径を測定し、その平均値として得ることができる。
【0032】
めっき層22は、Cu,Ni,Al,Zn,Snなどの金属またはこれらの2以上の合金を主成分とする。めっき層22は、単一金属成分のめっき層でもよく、互いに異なる金属成分の複数のめっき層でもよい。例えば、めっき層22は、下地層21側から順に、第1めっき層23、第2めっき層24および第3めっき層25が形成された構造を有する。第1めっき層23は、例えば、Cuめっき層である。第2めっき層24は、例えば、Niめっき層である。第3めっき層25は、例えば、Snめっき層である。
【0033】
なお、
図4(a)および
図4(b)では、外部電極20aについて例示しているが、外部電極20bも同様の積層構造を有する。
【0034】
また、
図4(b)で例示するように、下地層21と素体10との間に、下地層21に向かって凸形状となっている凸状部30が形成されている。凸状部30は、複数形成されていてもよい。例えば、複数の凸状部30は、所定間隔で設けられていてもよい。凸状部30は、例えば、下地層21に向かって凸形状のくさび形状を有している。例えば、凸状部30は、下地層21に向かって徐々に細くなる形状を有している。凸状部30は、内部電極層12が素体10の端面に対してその一端まで形成され露出する箇所の一部を覆っていてもよいが、当該露出する箇所の全てを覆うわけではない。したがって、内部電極層12と外部電極20a,20bとの電気的接続が確保される。
【0035】
凸状部30は、少なくともBa、Ca、およびTiを含むセラミックを主成分とする。凸状部30の主成分は、ペロブスカイト構造を有していてもよい。例えば、凸状部30は、BaCaTiO3を主成分とする。凸状部30は、誘電体層11が含む成分を含んでいてもよい。例えば、凸状部30は、Sr、Si、Mnなどを含んでいてもよい。
【0036】
凸状部30が下地層21に対して凸形状を有しているため、下地層21が平坦な素体10の表面とのみ接触する場合と比較して、下地層21が素体10および凸状部30と接触する場合の接触面積が大きくなる。それにより、アンカー効果が得られ、下地層21の密着性が高くなる。凸状部30は、セラミックを主成分とするため、凸状部30と素体10の端面に露出する誘電体層11との間に高い密着性が得られている。以上のことから、外部電極20a,20bは、素体10に対して高い密着性を有している。
【0037】
凸状部30は、例えば、Z軸方向において、0.5μm以上、5.0μm以下の幅を有し、または1.0μm以上、4.0μm以下の幅を有し、または1.5μm以上、3.5μm以下の幅を有する。凸状部30は、例えば、X軸方向において、下地層21に向かって0.5μm以上、7.0μm以下の高さを有し、または1.5μm以上、5.0μm以下の高さを有し、または2.0μm以上、4.0μm以下の高さを有する。このような凸状部30のサイズは、対象部品のたとえばX-Z断面をSEMまたはTEMで拡大して確認することができる。
【0038】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図5は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0039】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11の主成分セラミックの粉末は、構成成分の材料を合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0040】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。これらのうち、主としてSiO2が焼結助剤として機能する。
【0041】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、原料粉末が得られる。
【0042】
(塗工工程)
次に、得られた原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【0043】
(内部電極形成工程)
次に、
図6(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。
図6(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0044】
内部電極パターン53には、内部電極層12の主成分金属の金属ペーストを用いる。成膜の手法は、印刷、スパッタ、蒸着などであってもよい。
【0045】
(圧着工程)
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図6(b)で例示するように、積層単位を積層する。その後、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法にカットする。
図6(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加物が異なっていてもよい。
【0046】
(塗布工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に、下地層21となる外部電極用ペーストをディップ法などで塗布する。外部電極用ペーストには、下地層21の主成分金属の粉末と、共材17とを含ませる。例えば、外部電極用ペーストは、積層体において、内部電極パターン53が露出する2端面に塗布する。外部電極用ペーストは、積層体において、上面、下面、および2側面にまで延在させてもよい。
【0047】
(焼成工程)
その後、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で15分~4時間焼成する。このようにして、素体10と下地層21とを同時焼成することができる。
【0048】
誘電体グリーンシート52の主成分セラミックの構成金属元素群と、共材17の構成金属元素群とを比較した場合に、いずれか一方に、他方の構成金属元素とは異なる金属元素が含まれることから、素体10と下地層21とを同時焼成する際に、拡散が生じる。拡散のメカニズムは以下の様に推測される。例えば、
図7(a)で例示するように、共材17が誘電体グリーンシート52の主成分セラミック粉末18と接触する。例えば、共材17のBaが主成分セラミック粉末18のCaと接触する。次に、
図7(b)で例示するように、BaとCaとが面接触に変化しながら互いに拡散する。次に、
図7(c)で例示するように、BaとCaとが互いに拡散しつつ、焼成時の収縮によって応力が印加されて収縮する。以上の過程を経て、凸状部30が形成されると推測される。なお、焼成条件は、このような凸状部30の形成過程が十分に進行するように試作をおこなって調整をする。たとえば、最高温度からの冷却速度を10℃/min未満とし、冷却時間を十分に取れば凸形状そのものが形成されやすくなる。また、共材17および主成分セラミック粉末18の主成分組成の差異を大きくすると拡散が進行し、凸状部30は短時間の焼成で形成されやすくなる。また、凸状部30は、共材17および主成分セラミック粉末18の粒径を小さくすれば、上記の過程が進行して短時間で形成されやすくなる。
【0049】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0050】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、下地層21上に、めっき層22を形成する。例えば、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行なうことによって、第1めっき層23、第2めっき層24、および第3めっき層25を形成する。
【0051】
本実施形態に係る製造方法によれば、下地層21と素体10との間に、下地層21に向かって凸形状となっている凸状部30が形成される。この場合、下地層21が平坦な素体10の表面とのみ接触する場合と比較して、下地層21が素体10および凸状部30と接触する場合の接触面積が大きくなる。それにより、アンカー効果が得られ、下地層21の密着性が高くなる。凸状部30は、セラミックを主成分とするため、凸状部30と素体10の端面に露出する誘電体層11との間に高い密着性が得られる。以上のことから、外部電極20a,20bは、素体10に対して高い密着性を有するようになる。
【0052】
なお、上記各実施形態は、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、上記各実施形態の構成は、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品に適用することもできる。
【実施例0053】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0054】
(実施例)
誘電体グリーンシートの主成分セラミック粉末として、BaxSryCazZrsTitO3を用いた。なお、x=0.17、y=0.56、z=0.27、s=0.95、t=0.05とした。すなわち、Baを8.5mol%とし、Srを28.0mol%とし、Caを13.5mol%とし、Zrを47.5mol%とし、Tiを2.5mol%とした。また、BaxSryCazZrsTitO3を100mol%と仮定した場合に、Mnが0.42mol%、Siが0.47mol%となるように、MnおよびSiを酸化物として添加した。混合した粉体を、有機溶剤に分散させスラリとした後にバインダを加え、PETフィルム上に所定厚みで塗工し、乾燥させ、誘電体グリーンシートを得た。
【0055】
誘電体グリーンシートの上に、Niを主成分とし、誘電体グリーンシートの主成分セラミック材料を12重量部含むペーストを印刷して内部電極パターンを形成した。得られた複数の積層単位を積層し、内部電極パターンを印刷していない誘電体グリーンシート(カバーシート)で上下を挟み圧着した。その後、N2雰囲気中で熱処理(脱バインダ処理)した。
【0056】
内部電極層が露出している2端面に、Niのペーストと、平均粒径が0.1μmのBaTiO3粉末を共材として10重量部含む外部電極用ペーストをディップで形成した。金属成分および共材成分において、Niを78mol%とし、Baを11mol%とし、Tiを11mol%とした。また、金属成分および共材成分を100mol%と仮定した場合に、Hoが0.09mol%、Mnが0.01mol%、Siが0.07mol%となるように、Ho、Mn、およびSiを酸化物として添加した。
【0057】
その後、H2が1.0体積%程度の還元雰囲気で、最高温度1310℃で6分から7分焼成した。下地層上に、Cu、Ni、Snの順で電解メッキを形成した。得られた積層セラミックコンデンサのサイズは、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであった。
【0058】
(比較例)
比較例では、外部電極用ペーストとして、Niのペーストと、平均粒径が0.35μmの(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3粉末を共材として10重量部含む外部電極用ペーストをディップで形成した。金属成分および共材成分において、Niを79.83mol%とし、Caを6.03mol%とし、Srを3.47mol%とし、Baを0.47mol%とし、Tiを3.50mol%とし、Zrを6.49mol%とした。また、金属成分および共材成分を100mol%と仮定した場合に、Hoが0.01mol%、Mnが0.09mol%、Siが0.10mol%となるように、Ho、Mn、およびSiを酸化物として添加した。その他の条件は、実施例と同様とした。
【0059】
実施例および比較例のそれぞれについて、XZ平面での断面を露出させ、SEM-EDSにより、下地層と素体との間の凸状部の有無を観察した。比較例では、凸状部が観察されなかった。これは、外部電極用ペーストの共材として、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3粉末を用いたために、誘電体層からの拡散が生じなかったからであると考えられる。これに対して、実施例では、Ca、Ba、Ti、およびSrが含まれる凸状部が観察された。これは、外部電極用ペーストの共材としてBaTiO
3粉末を用いたために、誘電体層からのCaおよびSrの拡散が生じたからであると考えられる。なお、凸状部にZrはほとんど拡散しておらず、凸状部のCaおよびSrはそれぞれZrの拡散量より多くなっていた。このような凸状部の組成は、凸状部の緻密性を素体より高めるため外部電極との密着性をさらに高めることができる。また、実施例の凸状部は、
図4(b)のように外部電極の下地層と素体の界面を底辺とし、下地層の領域内に頂点をもつ略三角形の形状のものが多くみられた。前記頂点は、それぞれの位置の下地層の厚さの8~43%の範囲で底面から厚さ方向に離間する位置にあった。さらに、前記略三角形の頂点から前記底辺に伸びる辺は、凸状部の領域内に向かって張り出すように湾曲するものが多く見られた。このような湾曲する形状は凸状部と下地層との接触面積を増加させるので、素体と外部電極との密着性をさらに高めることができる。このように、実施例では凸状部が形成され、外部電極の密着性が向上することがわかる。
【表1】
【表2】
【0060】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。