(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013223
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】2ストロークエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 25/16 20060101AFI20230119BHJP
F02B 33/04 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
F02B25/16 H
F02B25/16 A
F02B33/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117235
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 隆広
(72)【発明者】
【氏名】玄馬 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴裕
(57)【要約】
【課題】2ストロークエンジンの吹き抜けの問題を抑制する。
【解決手段】実施例のエンジン2は4流掃気式エンジンである。4つの掃気ポート34は、相対的に排気ポート22から離れる側に位置し且つシリンダ4を挟んで互いに対向して位置する左右の第1掃気ポート34(lef-1)、34(ref-1)と、該左右の第1掃気ポート34(lef-1)、34(ref-1)よりも排気ポート22側に位置し且つシリンダ4を挟んで互いに対向して位置する左右に第2掃気ポート34(lef-2)、34(ref-2)とを含む。第2の左側掃気ポートと第1の右側掃気ポートとで構成される互いに対角関係の第1の組Diag-No.1の2つの掃気ポートの開きタイミングが、第1の左側掃気ポートと第2の右側掃気ポートとで構成される互いに対角関係の第2の組Diag-No.2の2つの掃気ポートの開きタイミングとは異なる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃気行程において、クランク室で予圧縮した新気を掃気ポートを通じて燃焼室に供給して掃気を実行する2ストロークエンジンにおいて、
少なくとも4つの掃気ポートを有し、
該4つの掃気ポートは、相対的に排気ポートから離れる側に位置し且つシリンダを挟んで互いに対向して位置する左右の第1掃気ポートと、該左右の第1掃気ポートよりも排気ポート側に位置し且つシリンダを挟んで互いに対向して位置する左右に第2掃気ポートとを含み、
前記第2の左側掃気ポートと前記第1の右側掃気ポートとで構成される互いに対角関係の第1の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが、前記第1の左側掃気ポートと前記第2の右側掃気ポートとで構成される互いに対角関係の第2の組の2つの掃気ポートの開きタイミングとは異なることを特徴とする2ストロークエンジン。
【請求項2】
前記第1の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが同期している、請求項1に記載の2ストロークエンジン。
【請求項3】
前記第2の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが同期している、請求項1に記載の2ストロークエンジン。
【請求項4】
前記第1の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが同期しており、また、前記第2の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが同期している、請求項1に記載の2ストロークエンジン。
【請求項5】
前記第2の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが異なる、請求項2に記載の2ストロークエンジン。
【請求項6】
前記第1の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが異なる、請求項3に記載の2ストロークエンジン。
【請求項7】
前記4つの掃気ポートの各々が上縁を有し、該上縁によって、前記掃気ポートの開きタイミングが規定され、
前記第1の組の2つの掃気ポートの上縁の高さレベルが、前記第2の組の2つの掃気ポートの上縁の高さレベルとは異なる、請求項1に記載の2ストロークエンジン。
【請求項8】
シリンダを挟んで互いに対向する左右の第1掃気ポート及び左右の第2掃気ポートが、排気ポートとは離れる方向に差し向けられ、
前記第1掃気ポートの向きと、第2掃気ポートの向きが異なる、請求項1に記載の2ストロークエンジン。
【請求項9】
前記4つの掃気ポートが正面視略矩形であり、前記第1の組の2つの掃気ポートの開口上下高さと、前記第2の組の2つの掃気ポートの開口上下高さとが異なる、請求項8に記載の2ストロークエンジン。
【請求項10】
前記2ストロークエンジンが層状掃気式エンジンであり、
掃気行程において、前記クランク室で予圧縮した混合気を前記掃気ポートと通じて前記燃焼室に供給する前に先導エアを前記燃焼室に供給する、請求項1~9のいずれか一項に記載の2ストロークエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機用の2ストロークエンジンに関し、より詳しくは、排出ガス対策技術に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な2ストロークエンジンは、掃気行程において、シリンダに開口する掃気ポートを通じて、クランク室で予圧縮した混合気を燃焼室に供給して掃気を行う。2ストロークエンジンは、対をなす少なくとも2つの掃気ポートを含む。対の掃気ポートはシリンダを挟んで対向して配置され、そして、ピストンによって開閉される。
【0003】
2ストロークエンジンは、「吹き抜け」という問題を含んでいる。「吹き抜け」は、燃焼室に供給した混合気の一部が排気ガスと一緒に排気ポートから抜け出てしまう現象である。この「吹き抜け」は2ストロークエンジンの周知且つ重要な課題である。
【0004】
年々強化されるエミッション規制に打ち勝つために、掃気ポートの数を4つの掃気ポート(2対の掃気ポート)に増やした4流掃気式エンジン、6つの掃気ポート(3対の掃気ポート)に増やした6流掃気式エンジン(特許文献1)、掃気行程において、燃焼室に対して混合気を供給する前に先導エアを供給する層状掃気式エンジン(特許文献2)が提案されている。
【0005】
特許文献3は2ストロークエンジンに関して次の問題点を指摘している。2ストロークエンジンにおいて、シリンダを挟んで互いに対向する対の掃気ポートから燃焼室に供給された混合気はシリンダ内の中心部で強く衝突する。この衝突によって混合気の一部が排気ポートに向けて流れ込むショートカット現象が発生する。特許文献3は、このショートカット現象が「吹き抜け」の問題の原因になっていると指摘している。そして、特許文献3は、4流掃気式エンジンにおいて、シリンダを挟んで対角に位置する2組の掃気通路のうち、一組の掃気通路を構成する第1、第2の掃気通路の各々に遮蔽部材を配置することを提案している。ここに遮蔽部材は、複数の孔部が形成されている。掃気行程において、多孔の遮蔽部材が配置された掃気通路から燃焼室に吐出される混合気の流速は、遮蔽部材無しの掃気通路から燃焼室に吐出される混合気の流速よりも遅くなる。
【0006】
一般的な4流掃気式エンジンでは、互いに対向する2対の掃気ポートから燃焼室に供給される混合気はシリンダの中心部で衝突する。この一般的な4流掃気式エンジンとは異なり、特許文献3の4流掃気式エンジンでは、4つの掃気ポートのうち、一方の対角関係の2つの掃気ポートに多孔の遮蔽部材が配置され、これにより当該掃気ポートから吐出される混合気の流速が弱められる。このことから、互いに対向する2つの掃気ポートから吐出される混合気の衝突が弱くなり、また、衝突する位置がシリンダの中心部からオフセットされる。これにより、「吹き抜け」の問題を抑制することができる。しかし、このような構成を以てしても依然として、対向する2つの掃気ポートから吐出される混合気は比較的掃気行程の初期段階で衝突して反転するため、未燃焼ガス排出の原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】JP特開昭60-222521号公報
【特許文献2】US 6,718,917 B2
【特許文献3】JP特許第5060459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、2ストロークエンジンの課題である「吹き抜け」を抑制して、更なるエミッション規制を乗り越えることのできる2ストロークエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
掃気行程において、クランク室で予圧縮した新気を掃気ポートを通じて燃焼室に供給して掃気を実行する2ストロークエンジンにおいて、
少なくとも4つの掃気ポートを有し、
該4つの掃気ポートは、相対的に排気ポートから離れる側に位置し且つシリンダを挟んで互いに対向して位置する左右の第1掃気ポートと、該左右の第1掃気ポートよりも排気ポート側に位置し且つシリンダを挟んで互いに対向して位置する左右に第2掃気ポートとを含み、
前記第2の左側掃気ポートと前記第1の右側掃気ポートとで構成される互いに対角関係の第1の組の2つの掃気ポートの開きタイミングが、前記第1の左側掃気ポートと前記第2の右側掃気ポートとで構成される互いに対角関係の第2の組の2つの掃気ポートの開きタイミングとは異なることを特徴とする2ストロークエンジンを提供することにより達成される。
【0010】
本発明の作用効果、他の目的は、以下の本発明の好ましい実施例及びその変形例の詳しい説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施例の2ストロークエンジンの縦断面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って切断した第1実施例の4流掃気式2ストロークエンジンの断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿って切断した第1実施例の2ストロークエンジンの横断面図である。
【
図4】本発明の説明で用いる「対向」及び「対角」の概念を説明するための図である。
【
図5】第1実施例の4流掃気式エンジンに含まれる4つの掃気ポートを平面展開した図である。
【
図6】第1実施例の2ストロークエンジンの作用説明図であり、第1組の対角の掃気ポートが開いた直後(
図6の(II))に燃焼室内で入る混合気(新気)の状態を説明するための図である。
【
図7】第1実施例の2ストロークエンジンの作用説明図であり、第1組の対角の掃気ポートが開き、次いで第2組の対角の掃気ポートが開いた直後(
図7の(II))の燃焼室内での混合気(新気)の状態を説明するための図である。
【
図8】第1実施例の2ストロークエンジンの作用説明図であり、第1組の対角の掃気ポート及び第2組の対角の掃気ポートが共に開き、これらが閉じる直前 (
図8の(II))の燃焼室内での混合気(新気)の状態を説明するための図である。
【
図9】第1組の対角の掃気ポート及び第2組の対角の掃気ポートの開きタイミング、閉じタイミングの変形例を説明するための図である。
【
図10】第1組の対角の掃気ポート及び第2組の対角の掃気ポートの開きタイミング、閉じタイミングの第2変形例を説明するための図である。
【
図11】第1組の対角の掃気ポート及び第2組の対角の掃気ポートの開きタイミング、閉じタイミングの第3変形例を説明するための図である。
【
図12】本発明を層状掃気式エンジンに適用した第2実施例の2ストロークエンジンの縦断面図である。
【
図13】
図12の層状掃気式エンジンにおいて、ピストンが下死点に位置するときのエアポート102と混合気ポート104との位置関係を説明するための図である。
【
図14】気化器に代えて燃料噴射弁を吸気通路に配置した第3実施例の2ストロークエンジンの縦断面図である。
【
図15】気化器に代えて燃料噴射弁をクランク室に臨んで配置した第4実施例の2ストロークエンジンの縦断面図である。
【
図16】本発明を6流掃気式エンジンに適用したときに6つの掃気通路の対角関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0012】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
図1~
図11は、第1実施例の2ストロークエンジン2及びこれに関連した変形例を説明するための図である。
【0013】
図1は2ストロークエンジン2の縦断面図であり、
図2は、
図1のII―II線に沿って切断した断面図である。図示の2ストロークエンジン2は、刈払機、チェーンソー、ブロワーなどの携帯作業機に搭載される小型エンジンであり、空冷式の単気筒エンジンである。
【0014】
参照符号4はシリンダであり、6は点火プラグ(
図1)である。シリンダ4にはピストン8が往復動自在に嵌挿され、ピストン8によって燃焼室10が画成される。ピストン8の往復動はコネクティングロッド12によってクランクシャフト14に伝達される。クランクシャフト14は、ピストン8の往復動を回転運動に変換して出力する。クランクシャフト14は周知のようにクランク室16に収容されている。
【0015】
図1を参照して、参照符号20は吸気ポートを示し、参照符号22は排気ポートを示す。これら吸気ポート20、排気ポート22はピストン8によって開閉される。吸気ポート20には吸気通路24が接続される。吸気通路24は、その上流端にエアクリーナ26を有し、次いで気化器28を有する。気化器28は燃料タンク30から燃料Fを吸い上げて混合気を生成し、生成した混合気を吸気ポート20に供給する。
【0016】
混合気は、吸気ポート20を通じてクランク室16に供給される。そして、クランク室16の混合気(新気)は、ピストン8の下降動作によって予圧縮される。クランク室16で予圧縮された混合気(新気)は、掃気行程において、掃気通路32(
図2)を通じて燃焼室10に供給される。
【0017】
図2を参照して、掃気通路32は、上下方向に延びる通路で構成されている。掃気通路32の下端32aは、クランク室16に開口している。掃気通路32の上端部は掃気ポート34を構成し、掃気ポート34は燃焼室10に連通している。掃気ポート34はピストン8によって開閉される。掃気通路32及びピストン開閉式掃気ポート34の構造は周知であるので、その詳しい説明は省略する。
【0018】
図3は、
図2のIII-III線に沿って切断した断面図である。第1実施例の2ストロークエンジン2は、4つの掃気ポート34を備えた4流掃気式エンジンであり、周知のシュニーレ式エンジンである。シリンダ4を平面視したときに、吸気ポート20と排気ポート22とを結ぶ仮想のシリンダ中心線iLを挟んで一方側に2つの掃気ポート34が位置し、他方側に2つの掃気ポート34が位置している。
【0019】
本発明を説明する上で4つの掃気ポート34の各々を識別する必要がある。各掃気ポート34を次のように識別する。上記シリンダ中心線iLの一方側に位置する2つの掃気ポート34を「右側掃気ポート」と呼び、参照符号34に(rig)を付記する。そして、2つの右側掃気ポート34(rig)のうち、排気ポート22から離れた側つまり吸気ポート20の側に位置する掃気ポートを「第1右側掃気ポート」と呼び、参照符号34に(rig-1)を付記する。2つの右側掃気ポート34(rig)のうち、排気ポート22の側に位置する掃気ポートを「第2右側掃気ポート」と呼び、参照符号34に(rig-2)を付記する。
【0020】
同様に、シリンダ中心線iLの他方側に位置する2つの掃気ポート34を「左側掃気ポート」と呼び、参照符号34に(lef)を付記する。そして、2つの左側掃気ポート34(lef)のうち、排気ポート22から離れた側つまり吸気ポート20の側に位置する掃気ポートを「第1左側掃気ポート」と呼び、参照符号34に(lef-1)を付記する。2つの左側掃気ポート34(lef)のうち、排気ポート22の側に位置する掃気ポートを「第2左側掃気ポート」と呼び、参照符号34に(lef-2)を付記する。
【0021】
第1の右側掃気ポート34(rig-1)及び第1の左側掃気ポート34(lef-1)は、シリンダ4を挟んで互いに対向して位置している。第2の右側掃気ポート34(rig-2)及び第2の左側掃気ポート34(lef-2)は、シリンダ4を挟んで互いに対向して位置している。
【0022】
図4を参照して、上述したように、第1実施例の2ストロークエンジン2は4流掃気式エンジンである。排気ポート22から離れた側つまり吸気ポート20側には、第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)とが位置している。また、排気ポート22側には、第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)とが位置している。
【0023】
図1、
図3を参照して、互いに対向する第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)は、正面視したときに、同じ大きさの矩形の形状を有している。また、第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)も正面視したときに、同じ大きさの矩形の形状を有している。
【0024】
第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)の正面視形状及び第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)の正面視形状は、矩形に限定されず任意である。また、第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)において、これを横断面したときの形状は略矩形であってもよいし、略三角形であってもよい。同様に、第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)において、これを横断面したときの形状は略矩形であってもよいし、略三角形であってもよい。
【0025】
第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)及び/又は第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)を横断面したときの形状に関し、上述した略三角形であってもよいというのは、2つの意味を有している。一つは、シリンダ4側を頂点とした三角形であり、他の一つは、シリンダ4側に底辺を有する三角形である。
【0026】
本実施例の4流掃気式エンジン2は、互いに対向する第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)が基本的に同じ形状で構成され、この第1の右側掃気ポート34(rig-1)、第1の左側掃気ポート34(lef-1)から吐出される混合気は、排気ポート20から離れる方向に差し向けられる。
【0027】
本実施例の4流掃気式エンジン2にあっては、互いに対向する第1の右側掃気ポート34(rig-1)の開きタイミングと第1の左側掃気ポート34(lef-1)の開きタイミングが異なっているが、従来は、第1の左右の掃気ポート34(rig-1)、34(lef-1)の開きタイミングが同期していた。この従来例では、ピストン8が下降するのに伴って第1の右側掃気ポート34(rig-1)、第1の左側掃気ポート34(lef-1)が次第に開き、その開度が大きくなると共にこれら掃気ポート34(rig-1)、34(lef-1)の双方から同時に混合気が吐出され始める。この従来例において、本実施例の4流掃気式エンジン2と同様に、互いに対向する右側掃気ポート34(rig-1)、第1の左側掃気ポート34(lef-1)とが、シリンダ中心線iLに対して略対称に設けられている場合、ピストン8の下降に伴って変化する第1の右側掃気ポート34(rig-1)から吐出される第1の混合気の向きと、第1の左側掃気ポート34(lef-1)から吐出される第2の混合気の向きが線対称であることから、前述したシリンダ中心線iL上の第1の領域で第1の混合気と第2の混合気とが衝突する。また、互いに対向する第1の右側掃気ポート34(rig-1)、第1の左側掃気ポート34(lef-1)とが、シリンダ中心線iLに対して正確な線対称でない場合であっても、第1の左右の掃気ポート34(rig-1)、34(lef-1)の開きタイミングが同期している場合、両掃気ポートから吐出された混合気は、シリンダ中心線iLからわずかにずれた位置で衝突する。いずれの位置で衝突した混合気も、衝突した位置からその向きを反転して排気ポート22へ短絡するため、これが従来の未燃焼ガス排出の原因となっている。
【0028】
互いに対向する第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)についても同様であり、ピストン8の下降に伴って変化する第2の右側掃気ポート34(rig-2)から吐出される第3の混合気の向きと、第2の左側掃気ポート34(lef-2)から吐出される第4の混合気の向きは、前述したシリンダ中心線iLに対して線対称になっている。このため、上記第1の領域とは異なる第2の領域で、第3の混合気と第4の混合気とが衝突するように設定されるのが基本である。
【0029】
図3を参照して、第1の右側掃気ポート34(rig-1)、第1の左側掃気ポート34(lef-1)の向きは、シリンダ4の中央部で衝突するように設定しても良いが、
図3に図示のように、シリンダ4の中央部で衝突しないように、第1の右側掃気ポート34(rig-1)の向きと、第1の左側掃気ポート34(lef-1)の向きとを若干異ならせてもよい。同様に第2の右側掃気ポート34(rig-2)、第2の左側掃気ポート34(lef-2)の向きについても、
図3に図示のように、シリンダ4の中央部で衝突しないように、第2の右側掃気ポート34(rig-2)の向きと、第2の左側掃気ポート34(lef-2)の向きとを若干異ならせてもよい。
【0030】
以上が、一般的な且つ伝統的な4流掃気式エンジンの4つの掃気ポート34の基本的な設計指針である。そして、互いに対向する対の2つの掃気ポート34が開くタイミングは同じであるのが基本的な設計指針である。
【0031】
第1実施例の2ストロークエンジン2は、上記の伝統的な4流掃気式エンジンの基本的な設計指針を尊重し、特に第1、第2組の対向関係の掃気ポート(Opos-No.1)、(Opos-No.2)という区分の下で、各掃気ポート34の開きタイミングの設定を変更したものである。
【0032】
上述したように第1実施例の2ストロークエンジン2は4流掃気式エンジンであり、
図4を参照して、互いに対向関係を有する掃気ポート34は次の2組である。
(1)
第1組の対向関係の掃気ポート(Opos-No.1):
第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)が、第1組の対向関係の掃気ポートOpos-No.1である。
(2)
第2組の対向関係の掃気ポート(Opos-No.2):
第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)が、第2組の対向関係の掃気ポートOpos-No.2である。
【0033】
本発明を説明する上で必要な「対角」という概念を具体的に説明する。互いに対角関係を有する掃気ポート34は次の2組である。
(1)第1組の対角関係の掃気ポート(Diag-No.1):
第2の左側掃気ポート34(lef-2)と第1の右側掃気ポート34(rig-1)が、第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1である。
(2)第2組の対角関係の掃気ポート(Diag-No.2):
第1の左側掃気ポート34(lef-1)と第2の右側掃気ポート34(rig-2)が、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2である。
【0034】
図5は、シリンダ4を平面展開して4つの掃気ポート34を図示した図であり、第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1の開閉タイミングと、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2の開閉タイミングとを説明するための図である。
図5に示す「Up」はピストン上死点に向かう方向を示し、「Down」はピストン下死点に向かう方向を示す。
図5から分かるように、第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1は、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2よりも早いタイミングで開く。
【0035】
前述したように、第1実施例の2サイクルエンジン2は、4つの掃気ポート34を有し、この4つの掃気ポート34は正面視略矩形である。
図5において、例示的に第2の左側掃気ポート34(lef-2)を参照すると、この第2の左側掃気ポート34(lef-2)は、共に略水平方向に延びる上縁34a、下縁34bを有し、この上縁34a、下縁34bをピストン8が通過することにより第2の左側掃気ポート34(lef-2)が開閉される。
【0036】
第1組の掃気ポートDiag-No.1の上縁34aは、第2組の掃気ポートDiag-No.2の上縁34aよりもΔtだけ上方の高さレベルに位置している。したがって、上述したように、第1組の掃気ポートDiag-No.1は第2組の掃気ポートDiag-No.2よりも早いタイミングで開く。このように第1組Diag-No.1と第2組Diag-No.2との開きタイミングを異ならせることにより、第1組Diag-No.1が開いて第1組Diag-No.1から新気が燃焼室10に入る混合気(新気)の第1の圧力と、第2組Diag-No.2が開いて第2組Diag-No.2から新気が燃焼室10に入る混合気(新気)の圧力とが開くときの混合気(新気)の第2の圧力とを異ならせることができる。
【0037】
また、4つの矩形の掃気ポート34の横方向に延びる上縁34aに関し、第1組の掃気ポートDiag-No.1を構成する第2の左側掃気ポート34(lef-2)と第1の右側掃気ポート34(rig-1)は、その上縁34aが同じ高さレベルに位置している。このことから、これら第1組の掃気ポート34(lef-2)、34(rig-1)の開きタイミングは同じであり、よって第1組の掃気ポートDiag-No.1は同期して開く。
【0038】
同様に、第2組の掃気ポートDiag-No.2を構成する第1の左側掃気ポート34(lef-1)と第2の右側掃気ポート34(rig-2)は、その上縁34aが同じ高さレベルに位置していることから、これら第2組の掃気ポート34(lef-1)、34(rig-2)の開きタイミングは同じであり、よって第2組の掃気ポートDiag-No.2は同期して開く。
【0039】
変形例として、第1組の掃気ポートDiag-No.1が同期して開く場合に、第2組の掃気ポート34(lef-1)、34(rig-2)の開きタイミングが完全に一致していなくても良い。同様に、第2組の掃気ポートDiag-No.2が同期して開く場合に、第1組の掃気ポート34(lef-2)、34(rig-1)の開きタイミングが完全に一致していなくてもよい。
【0040】
4つの掃気ポート34の閉じタイミングについて説明する。
図5を参照して、第1組及び第2組の掃気ポートDiag-No.1、Diag-No.2の掃気ポートつまり、4つの掃気ポート34の下縁34bは同じ高さレベルに設定されている。したがって、第1実施例の2ストロークエンジン2に含まれる4つの掃気ポート34は同期して閉じるように設定されている。このことから、第1組の掃気ポートDiag-No.1の2つの掃気ポートの開口高さは、第2組の掃気ポートDiag-No.2の2つの掃気ポートの開口高さよりも大きい。
【0041】
図5に図示の例では、第2の左側掃気ポート34(lef-2)と第1の右側掃気ポート34(rig-1)を第1組の掃気ポートDiag-No.1と定義したが、これを第2組と定義し、第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)を第1組の掃気ポートDiag-No.1と定義してもよい。
【0042】
上記した「同期」という用語は、本明細書においては、完全な同期に限定されない。完全な同期の場合には、「完全な同期」という用語を用いる。第1組の掃気ポートDiag-No.1は同期して開くという意味は、第1組の掃気ポートDiag-No.1が完全に同期して開くという意味と、略同じタイミングで開くという意味を含む。また、第2組の掃気ポートDiag-No.2は同期して開くという意味は、第2組の掃気ポートDiag-No.2が完全に同期して開くという意味と、略同じタイミングで開くという意味を含む。ここに、略同じタイミングというのは、第1組の開きタイミングと、第2組の開きタイミングとが区別でき且つこの区別に混乱を与えない範疇で異なるタイミングを含むという意味を含む。以上の説明は、第1組の掃気ポートDiag-No.1の閉じタイミング及び第2組の掃気ポートDiag-No.2の閉じタイミングで使用する「同期」も同様に適用されると理解されたい。
【0043】
図6ないし
図8を参照して実施例の2ストロークエンジン2の作用を説明する。
図6は、ピストン8の下降過程において、掃気ポート34が開き始めたタイミングを示し(II)、その際の作用を(I)に示す。
図6の(II)において、ラインLn(1)は、ピストン8の上縁位置を示す。掃気行程において、先ず、対角に位置する第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)が開き始める。換言すれば、第1の対角に位置する掃気ポート34(rig-1)と掃気ポート34(lef-2)が開き始める。第2の対角に位置する第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)は閉じたままである。
【0044】
図6の(I)に図示のように、シリンダ4の中央部からオフセットした第1流入領域first areaに、第1の右側掃気ポート34(rig-1)から吐出された第1混合気と、第2の左側掃気ポート34(lef-2)から吐出された第2混合気が流れ込む。この第1の右側掃気ポート34(rig-1)と、第2の左側掃気ポート34(lef-2)とはシリンダ4を挟んで互いに対向した関係にはない。これらは対角に位置していることから、両者がそれぞれ第1流入領域first areaに到達するまでの距離を長くすることができる。ここで、初期流入領域はシリンダ4の中央線iLからオフセットした第1流入領域first areaが出現する。この第1流入領域first areaには、対角関係の第1の右側掃気ポート34(rig-1)の第1混合気と、第2の左側掃気ポート34(lef-2)の第2混合気が流入することから、これら第1、第2の混合気は衝突しないし、第1流入領域first areaは上述したようにシリンダ4の中央部からオフセットして位置に出現する。この第1流入領域first areaにおいて、第1の右側掃気ポート34(rig-1)から吐出された第1混合気と、第2の左側掃気ポート34(lef-2)から吐出された第2混合気とは、両者が互いに到達するまでの距離が長いため、掃気初期には衝突しない。第1混合気と第2混合気とが対面するとき、2つの互いに離れた位置にある掃気ポートからの混合気がゆるやかに合流することで、燃料室内にタンブル流が発生し、燃焼室内を満遍なく掃気することができる。また、衝突位置は中央部からオフセットしているため、その位置で反転したとしても、排気ポートへの短絡が発生しない。
【0045】
なお、この時点で、第1の左側掃気ポート34(lef-1)と第2の右側掃気ポート34(rig-2)は開いていないため、先行して流入する掃気流は、隣接する掃気ポートからの掃気流による影響を受けずに、設計された所望の指向性を維持して流入可能である。詳細に説明すると、
図6(I)において、第2の左側掃気ポート34(lef-2)に同期して第1の左側掃気ポート34(lef-1)も開いた場合、第2の左側掃気ポート34(lef-2)から流入した掃気流は、第1の左側掃気ポート34(lef-1)からの掃気流の存在によって、吸気側の壁面へ接近、到達することができない。また、第1の左側掃気ポート34(lef-1)からの掃気流は、第2の左側掃気ポート34(lef-2)に接触して排気側へと偏向され、排気ポートへの短絡が発生する。本実施例では、左側及び右側において互いに隣接する掃気ポートが異なるタイミングで開くため、先行してシリンダ内へ導入される第2の左側掃気ポート34(lef-2)および第1の右側掃気ポート34(rig-1)の指向性が維持され、かつ隣接する掃気流同志が接触することによって発生偏向の影響を受けないため、未燃焼ガスが排気ポート22に短絡するのをより確実に防ぐことができる。
【0046】
図7は、
図6の状態からピストン8が所定距離だけ下降したときの状態を示し、第2の対角に位置する第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)が開き始めたときの状態を示す。ラインLn(2)は、ピストン8の上縁位置を示す。この状態では4つの掃気ポート34の全てが開いた状態にある。つまり互いに対向する第1、第2の組Opos-No.1、Opos-No.2が開いた状態となる。第1の対向する組Opos-No.1(第1の右側掃気ポート34(rig-1)と、第1の左側掃気ポート34(lef-1))から吐出される第1混合気と第3混合気が第2流入領域second area(
図7の(I))で交わるが、既に掃気行程の初期ではないため、衝突が発生した場合にもその衝突速度は遅く、また、衝突位置からの反転および排気ポート22への短絡が発生しにくい。また、第2流入領域second areaには、既に上記の第1の右側掃気ポート34(rig-1)から吐出された第1混合気が流入していることから、第2流入領域second areaは、シリンダ4の中央部からオフセットした位置に発生する。
【0047】
また、第2の対向する組Opos-No.2(第2の右側掃気ポート34(rig-2)と、第2の左側掃気ポート34(lef-2))から吐出される第2混合気と第4混合気が第3流入領域third area(
図7の(I))で交わるが、既に上記の第2の左側掃気ポート34(lef-2)から吐出された第2混合気が流入していることから、第3流入領域third areaは、シリンダ4の中央部からオフセットした位置に発生する。そして、第3流入領域third areaでの衝突は掃気行程の初期ではないため、この衝突は弱い。
【0048】
このように、第2の対向する組から導入される混合気同志についても、中央部からオフセットした位置で、かつゆるやかに、2つの離れた掃気ポートからの混合気が合流する。また、第1組と第2組の衝突も回避されるため、燃料室内に時間差のあるタンブル流が掃気行程の期間中絶えず発生し、燃焼室内を満遍なく掃気することができる。対向する掃気ポート同志の開きタイミングを同期させ、開きタイミングを第1組、第2組として時間的に離間することで、未燃焼ガスが排気ポートへ掃気の初期に短絡することを防ぐとともに、燃焼室でのタンブル流が次々に生成されて燃焼室全体の既燃焼ガスが万遍なく掃気され、新気への入れ替えが充分に行われる。
【0049】
図8は、
図7の状態からピストン8が更に下降して、4つの掃気ポート34が閉じる直前の状態を示す。ラインLn(3)は、ピストン8の上縁位置を示す。この状態では、4つの掃気ポート34が全て開いた状態であり、各掃気ポート34から混合気が燃焼室に吐出されている状態である。
【0050】
各掃気ポート34から吐出される混合気を矢印で図示してあるが、この図を見ると、互いに対向する第1の対向する組Opos-No.1の掃気ポート34(rig-1)、34(lef-1)から吐出される混合気が交わっているように見える。同じように互いに対向する第2の組Opos-No.2の掃気ポート34(rig-2)、34(lef-2)から吐出される混合気が交わっているように図示されている。しかし、これら互いに対向する第1の対向する組Opos-No.1の掃気ポートのうち、一方が先に開く。この時間差によって、第1の対向する組Opos-No.1の2つの掃気ポートから吐出される混合気(新気)の流速に違いが生まれる。したがって、第1の対向する組Opos-No.1の2つの掃気ポートから吐出される混合気はシリンダ4の中央部で合流しない。同様に第2の対向する組Opos-No.2の掃気ポートのうち、一方が先に開く、他方が後に開く。この時間差によって、第2の対向する組Opos-No.2の2つの掃気ポートから吐出される混合気(新気)の流速に違いが生まれる。したがって、第2の対向する組Opos-No.2の2つの掃気ポートから吐出される混合気はシリンダ4の中央部で合流しない。このように、同時に4つの掃気ポートが開いているタイミングであっても、シリンダ4の中央部において、対向する掃気流同志の衝突や合流、隣接する掃気流同志による互いの指向性への干渉が発生しない。
【0051】
互いに対向する第1の組Opos-No.1を構成する2つの掃気ポートにおいて、一方が早く開き、他方が遅く開く。相対的に早く開く掃気ポート34から燃焼室10に吐出される混合気(新気)の流速は速い。遅く開く掃気ポート34から吐出される混合気(新気)の流速は相対的に遅い。次いで、第1の対向する組Opos-No.1を構成する2つの掃気ポート34の開口面積が増えていくと、掃気ポート34から吐出される混合気の圧力が下がり、よって2つの掃気ポート34から吐出される混合気の流速は遅くなる。
【0052】
同様に、互いに対向する第2の対向する組Opos-No.2を構成する2つの掃気ポートにおいて、一方が早く開き、他方が遅く開く。早く開く掃気ポート34から燃焼室10に吐出される混合気(新気)の流速は速い。遅く開く掃気ポート34から吐出される混合気(新気)の流速は相対的に遅い。次いで、第2の対向する組Opos-No.2を構成する2つの掃気ポート34の開口面積が増えていくと、掃気ポート34から吐出される混合気の圧力が下がり、よって2つの掃気ポート34から吐出される混合気の流速は遅くなる。
【0053】
上述したように、2つの組の対角関係の掃気ポート34において、遅れて開き始める第2の対角の組Diag-No2の対角の掃気ポート34から吐出される混合気の流速は、先に開き始める第1の対角の組Diag-No1から吐出される混合気の流速よりも遅い。この対角の第1、第2の組Diag-No1、Diag-No2から吐出される混合気(新気)の間の相対的な流速の速度差によって、4つの掃気ポート34から吐出される混合気(新気)がシリンダ4の中央部で強く衝突することを回避することができる。
【0054】
図5を参照して説明したように、4つの掃気ポート34の下縁34bの高さレベルは同じである。換言すれば、遅れて開き始める第2の対角の組Diag-No2の対角の掃気ポート34の開口高さは、先に開き始める第1の対角の組Diag-No1の掃気ポート34の開口高さよりも小さい。このことから、遅れて開き始める第2の対角の組Diag-No2の対角の掃気ポート34から吐出される混合気の圧力を比較的高い値に維持できるため、この第2の対角の組Diag-No2の掃気ポート34から吐出される混合気の流速をある程度高いレベルに維持することができる。
【0055】
以上の作用により、実施例の2ストロークエンジン2によれば、各掃気ポート34が開いたときに燃焼室10に入る混合気(新気)の水平角、流速がバラバラであり、これにより4つの掃気ポート34から燃焼室10に入った混合気(新気)の衝突によって混合気(新気)の一部が排気ポート22に向けて流れ込むショートカット現象の発生を抑制することができる。そして、4つの掃気ポート34から燃焼室10に入った混合気(新気)によってシリンダ4内の既燃ガスを掃気することができる。尚、掃気ポートが4つあるために、掃気ポートに対応して掃気通路が4つ備えられる必要はなく、クランクケース側では4つよりも少ない通路で合流され、シリンダへの開口位置において4つのポートを備えていれば、同様の作用が得られる。
【0056】
実際に2ストロークエンジン2を試作して、性能評価したところ、次の結果を得ることができた。
(1)排気ガス中のHCの量:自社の一般的な且つ伝統的な4流掃気式エンジンとの対比で約3.1%ないし約5.9%の低減効果を確認できた。
(2)出力向上効果:吹き抜けが減れば出力が向上する。自社の一般的な且つ伝統的な4流掃気式エンジンとの対比で約2.1%ないし約2.8%の出力向上効果を確認できた。
【0057】
また、掃気ポートから吐出される混合気の流れを解析したところ、燃焼室10内にタンブル流が発生していることが確認できた。
【0058】
図9ないし
図12は、第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1の開きタイミング及び閉じタイミングの変形例を示し、また、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2の開きタイミング及び閉じタイミングの変形例を示す。
【0059】
図9から分かるように、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2の開きタイミングを第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1の閉じタイミングに同期させてもよい。すなわち、第1の対角の組Diag-No.1の第1右側掃気ポート34(rig-1)と第2左側掃気ポート34(left-2)が閉じたときに、第2の対角の組Diag-No.2の第2右側掃気ポート34(rig-2)と第1左側掃気ポート34(left-1)が開くようにしてもよい。
【0060】
また、
図10から分かるように、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2の閉じタイミングを第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1の閉じタイミングよりも遅らせてもよい。すなわち、第1の対角の組Diag-No.1の第1右側掃気ポート34(rig-1)と第2左側掃気ポート34(left-2)が閉じた後で、第2の対角の組Diag-No.2の第2右側掃気ポート34(rig-2)と第1左側掃気ポート34(left-1)を閉じるようにしてもよい。
【0061】
また、
図11から分かるように、第2組の対角関係の掃気ポートDiag-No.2の閉じタイミングを第1組の対角関係の掃気ポートDiag-No.1の閉じタイミングよりも早めてもよい。すなわち、第1の対角の組Diag-No.1の第1右側掃気ポート34(rig-1)と第2左側掃気ポート34(left-2)が閉じる前に、第2の対角の組Diag-No.2の第2右側掃気ポート34(rig-2)と第1左側掃気ポート34(left-1)を閉じるようにしてもよい。
【0062】
以上、本発明を伝統的な2ストロークエンジンに適用したエンジン2を第1実施例として説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0063】
図12、
図13は、層状掃気式エンジンに本発明を適用した第2実施例を示す。第2実施例の層状掃気式エンジン100の説明において、第1実施例の2ストロークエンジン2と同じ要素には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0064】
層状掃気式エンジン100は、シリンダ4にエアポート102と混合気ポート104とを含む。
図13は、ピストン8が下死点に位置するときのエアポート102と混合気ポート104との位置関係を説明するための図である。エアポート102には吸気系から空気が供給され、エアポート102に供給された空気は、ピストン8の周面に形成されたピストン溝8aを通じて掃気通路34(
図2)の上部に先導エアとして供給される。他方、混合気ポート104には、吸気系から混合気が供給され、混合気ポート104を通じて混合気がクランク室16に供給される。
【0065】
層状掃気式エンジン100の吸気系は、エアフィルタ26に続く気化器28と、気化器28に続く吸気管106を含む。気化器28は、スロットルバルブ110とチョークバルブ112を含み、この2つのバルブ110、112は共にバタフライ弁で構成されている。気化器28において、スロットルバルブ110とチョークバルブ112が共に全開状態では、気化器28内に空気通路114と混合気生成通路116が形成される。
【0066】
吸気管106は隔壁120を有し、隔壁120によって空気通過通路122と混合気通過通路124とが画成されている。気化器28内の空気通路114は、吸気管106の空気通過通路122に連通している。エアフィルタ26でろ過した空気は、空気通路114、空気通過通路122を通じてエアポート102に供給される。
【0067】
他方、吸気管106の混合気通過通路124は、その上流端が気化器28内の混合気生成通路116に連通し、下流端がクランク室16に連通している。気化器28内の混合気生成通路116で生成された混合気は、クランク室16に供給される。
【0068】
層状掃気式エンジン100の掃気行程において、先ず掃気ポート34から先導エアが燃焼室10に供給され、次いで、クランク室16で予圧縮された混合気が燃焼室10に供給される。
【0069】
図14、
図15に図示の第3、第4実施例の2ストロークエンジン200、300は、気化器28の代わりに燃料噴射弁202が搭載されている。
図14に図示の第3実施例の2ストロークエンジン200は、吸気通路24に燃料噴射弁202が組み込まれている。
図15に図示の第3実施例の2ストロークエンジン300は、クランク室16に燃料噴射弁202が組み込まれている。これら
図14、
図15は、
図1に図示の2ストロークエンジン2の変形例として図示されているが、
図12に図示の層状掃気式エンジン100において、気化器28の代わりに燃料噴射弁202を搭載してもよい。
【0070】
上記のように、本発明は、伝統的な2ストロークエンジンだけでなく、層状掃気式エンジンにも適用できるだけでなく、気化器に代えて燃料噴射弁を組み込んだ2ストロークエンジンにも適用可能である。このことから、2ストロークエンジンにおいて、掃気行程に燃焼室10に供給される混合気又は先導エアは、これを総括する用語として「新気」と呼ぶ。特に層状掃気エンジンに適用する場合、前述した混合気掃気における衝突や干渉の回避効果のほかに、以下のような効果がある。工程の順に説明すると、まず、先行して開く第1の対角の掃気ポート群(Diag-No.1;34(rig-1),34(lef-2))によって、掃気行程のもっとも初期に空気が導入される。このとき、第2の対角の掃気ポート群(Diag-No.2;34(rig-2),34(lef-1))は閉じたままである。ピストン8が下降するにつれて第2の掃気ポート群(Diag-No.2)から空気が導入され始め、つづいて、第1の掃気ポート群(Diag-No.1)から混合気が導入される。このとき、第1の掃気ポート群(Diag-No.1)からは混合気が導入され、また第2の掃気ポート群(Diag-No.2)からは空気が導入されるため、シリンダ4内部は混合気と空気とによって満たされる。更にピストンが降下した、掃気の終盤になってようやく、第1の掃気ポート群(Diag-No.1)および第2の掃気ポート群(Diag-No.2)の双方から混合気が導入される。このように、層状掃気式エンジンに本発明を適用すれば、空気の総導入量を維持したまま、空気が導入される時間を長く設定することができる。また、掃気のもっとも初期に混合気を含まない完全な空気が導入され、中間で希薄混合気が導入され、終盤で混合気が導入されることで、掃気初期の吹き抜けを減少させるとともに、混合気不足による出力低下や加速不足などのデメリットを排除できる。
【0071】
また、本発明の典型例として4流掃気式エンジンに本発明を適用した実施例のエンジン2、200、300を説明したが、本発明は、掃気ポート34を4つ以上含む2ストロークエンジンに適用可能である。例えば特許文献1に開示の6流掃気式エンジンに本発明を適用可能である。6流掃気式エンジンにおいて、本発明にいう「対角」の具体例を
図16に示す。例えば第1の右側掃気ポート34(rig-1)と第3の左側掃気ポート34(lef-3)とが第1の組Diag-No.1の対角関係のある掃気ポートを構成する。例えば第3の右側掃気ポート34(rig-3)と第1の左側掃気ポート34(lef-1)とが第3の組Diag-No.3の対角関係のある掃気ポートを構成する。この第1、第3の対角の各組Diag-No.1、Diag-No.3を構成する掃気ポートの開きタイミングを同期させる一方で、第1、第3の対角の各組Diag-No.1、Diag-No.3の開きタイミング異ならせるのがよい。なお、
図16の例では、互いに対向する第2の右側掃気ポート34(rig-2)と第2の左側掃気ポート34(lef-2)とが同期して開かれ、この開きタイミングは、上記の第1、第3の対角の各組を構成する掃気ポートの開きタイミングとは異なるタイミングに設定されている。
【0072】
第1第1ないし第3の対角の各組Diag-No.1ないしDiag-No.3の各々の組の開きタイミングを相対的に異ならせる組み合わせを以下に例示的に列挙する。
(1)第1、第2の右側掃気ポート34(rig-1)、34(rig-2)と、第3の左側掃気ポート34(lef-3)とを一つの互いに対角関係の掃気ポートの第1群として設定し、第3の右側掃気ポート34(rig-3)と、第1、第2の左側掃気ポート34(lef-1)、34(lef-2)とを一つの互いに対角関係の掃気ポートの第2群として設定し、この第1の群を構成する複数の掃気ポートを第1の同期タイミングで開かせ、第2の群を構成する複数の掃気ポートを、第1の同期タイミングとは異なる第2の同期タイミングで開かせてもよい。
【0073】
(1)第1、第2の右側掃気ポート34(rig-1)、34(rig-2)と、第3の左側掃気ポート34(lef-3)とを互いに対角関係の掃気ポートの第1群として設定し、第3の右側掃気ポート34(rig-3)と、第1、第2の左側掃気ポート34(lef-1)、34(lef-2)とを互いに対角関係の掃気ポートの第2群として設定し、この第1の対角関係の群を構成する複数の掃気ポートを第1の同期タイミングで開かせ、第2の対角関係の群を構成する複数の掃気ポートを、第1の同期タイミングとは異なる第2の同期タイミングで開かせてもよい。
(2)第1の左側掃気ポート34(lefg-1)と、第2、第3の右側掃気ポート34(rig-2)、34(rig-3)とを互いに対角関係の掃気ポートの第1群として設定し、第1の右側掃気ポート34(rig-1)と、第2、第3の左側掃気ポート34(lef-2)、34(lef-3)とを互いに対角関係の掃気ポートの第2群として設定し、この第1の対角関係の群を構成する複数の掃気ポートを第1の同期タイミングで開かせ、第2の対角関係の群を構成する複数の掃気ポートを、第1の同期タイミングとは異なる第2の同期タイミングで開かせてもよい。
【0074】
(3)第1の右側掃気ポート34(rig-1)と、第3の左側掃気ポート34(lef-3)とを互いに対角関係の掃気ポートの第1組として設定し、第1の左側掃気ポート34(lef-1)と、第2の右側掃気ポート34(rig-2)とを互いに対角関係の掃気ポートの第2組として設定し、第2の左側掃気ポート34(lef-2)と、第3の右側掃気ポート34(rig-3)とを互いに対角関係の掃気ポートの第3組として設定しもよい。そして、第1ないし第3の組の各々の組を構成する掃気ポートの開きタイミングを同期させる一方で、第1ないし第3の組の開きタイミングを異ならせるようにしてもよい。
【0075】
上記の例から分かるように、対角の各組又は各群の開きタイミングを異ならせる一方で、各組又は各群を構成する掃気ポートの開きタイミングを同期させることで、6流掃気式エンジンにおいても、前述した4流掃気式エンジンと同様の効果を奏することができる。