(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132279
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】排水の処理方法および処理システム、ならびにその利用
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20230101AFI20230914BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20230914BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20230914BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20230914BHJP
【FI】
C02F3/28 Z
C12P7/40
C12P5/02
C02F3/34 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037504
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】竪山 瑛人
(72)【発明者】
【氏名】福本 明日香
(72)【発明者】
【氏名】西海 薫
(72)【発明者】
【氏名】滝田 昌輝
【テーマコード(参考)】
4B064
4D040
【Fターム(参考)】
4B064AB03
4B064AD83
4B064CA02
4B064DA16
4D040AA26
4D040AA42
4D040BB02
4D040BB52
(57)【要約】
【課題】微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおける排水処理において、嫌気処理を行うことが可能な方法を提供する。
【解決手段】微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理方法であって、前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する工程(d)と、前記工程(d)で希釈された希釈排水を、嫌気性菌を含む処理槽で処理する嫌気処理工程(e)と、を含む、排水の処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物からポリヒドロキシアルカノエートを生産する際に生じる排水の処理方法であって、
前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する工程(d)と、
前記工程(d)で希釈された希釈排水を、嫌気性菌を含む処理槽で処理する嫌気処理工程(e)と、
を含み、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理方法:
ポリヒドロキシアルカノエートを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、ポリヒドロキシアルカノエートを分離する工程(c)。
【請求項2】
前記嫌気処理工程(e)において生成するメタンガスを回収する工程(f)をさらに含む、請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記工程(d)において、全窒素濃度50mg/L以下、かつ、全硫黄濃度が30mg/L以下である、製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水を用いて排水を希釈する工程を含む、請求項1または2に記載の排水の処理方法。
【請求項4】
前記排水、前記希釈排水、前記洗浄水または前記雨水のいずれか1以上について、前記工程(d)における希釈倍率を算出するのに必要となる物理量および/または含有する化学物質の濃度を測定し、その測定結果に基づいて前記工程(d)における希釈倍率を調整する、請求項1~3のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項5】
前記嫌気処理工程(e)において生じた排水を、活性汚泥法により処理する好気処理工程(g)をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項6】
前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガスを脱硫する脱硫工程(h)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項7】
前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫工程(h)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する工程(i)をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の排水の処理方法を含む、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
【請求項9】
微生物からポリヒドロキシアルカノエートを生産する際に生じる排水の処理システムであって、
前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する希釈槽(D)と、
前記希釈槽(D)で希釈された希釈排水を処理する、嫌気性菌を含む嫌気処理槽(E)と、
を備え、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理システム:
ポリヒドロキシアルカノエートを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、ポリヒドロキシアルカノエートを分離する工程(c)。
【請求項10】
前記処理槽(E)において生成したメタンガスを回収し、貯蔵する貯蔵槽(F)をさらに備える、請求項9に記載の排水の処理システム。
【請求項11】
前記希釈槽(D)は、全窒素濃度50mg/L以下、かつ、全硫黄濃度が30mg/L以下である、製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水を用いて排水を希釈するものである、請求項10に記載の排水の処理システム。
【請求項12】
前記排水、前記希釈排水、前記洗浄水または前記雨水のいずれか1以上について、前記希釈槽(D)における希釈倍率を算出するのに必要となる物理量および/または含有する化学物質の濃度を測定し、その測定結果に基づいて前記希釈槽(D)における希釈倍率を調整する、請求項10または11に記載の排水の処理システム。
【請求項13】
前記嫌気処理槽(E)において生じた排水を、活性汚泥法により処理する好気処理槽(G)をさらに備える、請求項10~12のいずれか1項に記載の排水の処理システム。
【請求項14】
前記嫌気処理槽(E)において生成したメタンガスを脱硫する脱硫槽(H)をさらに備える、請求項10~13のいずれか1項に記載の排水の処理システム。
【請求項15】
前記嫌気処理槽(E)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫槽(H)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する機構(I)をさらに備える、請求項10~14のいずれか1項に記載の排水の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物からポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」とも称する。)を生産する際に生じる排水の処理方法および処理システム、ならびにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
PHAは100%植物由来の資源を原材料にして微生物発酵で生産されるバイオマスプラスチックであり、かつ海洋分解性を示す生分解性プラスチックである。原材料となる植物が生育過程の光合成により温暖化の原因とされるCO2を吸収することから、温暖化ガスの排出も抑制し得る。また、仮にPHAを焼却処分したとしても、排出されるCO2は原材料である植物が吸収した量と同じということになるため、結果的に大気中のCO2の増減に影響を与えないという考え方で、カーボンニュートラルの素材でもある。
【0003】
この微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいては、微生物を培養する培養工程、前記微生物を破砕および/または可溶化する工程、菌体残渣とPHAとを分離する精製工程等から、培養液、菌体残渣等に由来する有機物成分を多量に含む排水が発生する。この排水を処理する工程含む製造方法として、例えば、特許文献1には、微生物の菌体内で生合成されたポリヒドロキシアルカン酸を精製、又は成形する製造工程と、前記製造工程から、窒素含有不純物を含む排水を排出する排出工程と、前記排水を生物学的に処理して、前記窒素含有不純物を前記排水から除去する窒素除去工程と、を含み、当該製造工程におけるポリヒドロキシアルカン酸の残留率を99重量%以下とし、前記窒素除去工程において生物学的に処理する前記排水には、前記窒素含有不純物に加えて、ポリヒドロキシアルカン酸が含まれる、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおける排水処理に関して、環境負荷の低い製造プロセスとする観点から、改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、嫌気処理を行うことが可能な、新たな排水処理の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおける排水を、各種槽や装置、配管等の洗浄排水や雑排水と混合することにより、従来嫌気処理が困難であった、前記PHAの製造プロセスにおける窒素・硫黄濃度が非常に高い排水に関して嫌気処理を行うことができること、および、その結果として、エネルギー源として利用できるメタンガスをより多く回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明の一態様は、微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理方法であって、前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する工程(d)と、前記工程(d)で希釈された希釈排水を、嫌気性菌を含む処理槽で処理する嫌気処理工程(e)と、を含み、前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理方法(以下、「本処理方法」と称する。)である:PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
【0009】
また、本発明の一態様は、微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理システムであって、前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する希釈槽(D)と、前記希釈槽(D)で希釈された希釈排水を処理する、嫌気性菌を含む嫌気処理槽(E)と、を備え、前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理システム(以下、「本処理システム」と称する。)である:PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおける窒素・硫黄濃度が非常に高い排水に関して嫌気処理を行うことができ、廃棄物からエネルギー源として利用可能なメタンガスをより多く回収できるようになるため、環境負荷の低い製造プロセスとすることができる。また、好気処理槽の容積を大幅に削減することによってコンパクトかつ設備費の安価な排水処理プロセスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、PHAの製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0013】
〔1.本発明の概要〕
上述の通り、PHAは100%植物由来のプラスチックであり、化石燃料からの脱却に向けて期待されている素材である。このPHAの製造においては、輸送に伴う温室効果ガスの排出量削減の観点から、消費地の近くに製造設備を建設することが望ましい。
【0014】
近年、環境保全意識の高まりから、欧州でもバイオマス原料プラスチックの需要が高まっており、将来的には欧州でのPHA生産量の増加が見込まれる。
【0015】
しかしながら、欧州では、国内に先行してライフサイクルアセスメント(LCA)による製品の規制が議論されており、製品の製造プロセスにおいて使用する化石燃料を可能な限り低減する技術が要求されつつある。
【0016】
また、上述のように、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいては、微生物を培養する培養工程(工程(a)に相当。)、前記微生物を破砕および/または可溶化する工程(工程(b)に相当。)、菌体残渣とPHAとを分離する精製工程(工程(c)に相当。)等から、培養液、菌体残渣等に由来する有機物成分を多量に含む排水が発生する。この排水は一般的には活性汚泥法によって処理されているが、環境負荷の低い製造プロセスとするためには、この有機物成分から嫌気処理によってメタンガスとして製造に必要となるエネルギーの燃料を回収することが望ましい。
【0017】
精製工程のうち精製初期の段階においては、菌体残渣濃度が特に高い排水が排出される。この精製初期の排水は有機物成分を特に多量に含むため、嫌気処理によって多くのメタンガスを回収し得るが、嫌気処理を阻害する窒素成分・硫黄成分をも多量に含むため、嫌気処理の適用ができなかった。そこで、本発明者らは、上記の観点から鋭意検討した結果、PHAの製造プロセスで生じる排水を、各種槽や装置、配管等の洗浄排水や雑排水と混合し、窒素成分・硫黄成分濃度を調整することによって、精製初期の段階において発生する菌体残渣濃度が特に高い排水についても嫌気処理を適用可能とすることができ、排水中からより多くのメタンガスの回収が可能となることを初めて見出した。また、全窒素濃度・全硫黄濃度の調整は工業用水で希釈しても可能であるが、洗浄排水や雑排水によって濃度の調整をすることによって、水資源の効率的な利用を達成しつつ、排水処理が可能となることを見出した。
【0018】
本発明によれば、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、有機成分を多量に含む排水を嫌気処理が適用可能な全窒素濃度および全硫黄濃度に調整することで、排水中の有機成分をエネルギー源として有価値化し、環境負荷の低い製造プロセスとすることができる。また、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスでは、気温や水質等の環境が菌の生育に影響するため、ロットによる排水処理負荷の変動が大きく、安定した排水処理は難しかった。しかし、本発明によれば、排水処理負荷の変動に応じて希釈倍率を調整することができるため、ロットによらず安定して放流基準を満たすように排水の処理を行うことができる。
【0019】
また、本発明によれば、PHAの製造プロセスから排出される廃棄物から、エネルギー源として用いることができるメタンガスを生成することにより、廃棄物量の削減と、化石燃料の使用量の削減を達成できる。また、排水中の有機物成分のうち70~90%を嫌気処理で削減することによって、好気処理工程の負荷を大幅に削減でき、好気処理槽の容積の小さい、コンパクトかつ設備費の安価な排水処理プロセスとすることができる。
【0020】
さらに、上述したような構成によれば、PHAを用いた環境負荷の低い製造プロセスを提供することができ、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」や目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。以下、本発明について詳説する。
【0021】
〔2.排水の処理方法〕
本処理方法は、以下の工程(d)~(e)を含む方法である:
・工程(d):微生物からPHAを生産する際に生じる排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する工程
・工程(e):前記工程(c)で希釈された希釈排水を、嫌気性菌を含む処理槽で処理する嫌気処理工程。
【0022】
ここで、前記排水は、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である。
・工程(a):PHAを生産する微生物を培養する工程
・工程(b):PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程
・工程(c):前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程。
【0023】
本発明の一実施形態において、本処理方法は、さらに以下の工程(f)~(i)を含むことが好ましい:
・工程(f):前記嫌気処理工程(e)において生成するメタンガスを回収する工程
・工程(g):前記嫌気処理工程(e)において生じた排水を、活性汚泥法により処理する好気処理工程
・工程(h):前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガスを脱硫する脱硫工程
・工程(i):前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫工程(h)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する工程
本処理方法において、上記の各工程は、目的に応じて、適宜順番や構成を入れ替えることができる。なお、本明細書では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。
【0024】
本発明の一実施形態において、本処理方法を含む、PHAの製造方法(以下、「本製造方法」とも称する。)を提供する。本製造方法は、本処理方法をその一工程として含むものであればよく、例えば、排水の処理方法の前段階の工程である工程(a)~(c)の少なくとも1つ以上を含み得る。本製造方法では、PHAの製造工程で生じた排水を利用するため、環境負荷を低減しつつ、PHAを製造できる。
【0025】
本発明の一実施形態について、
図1を用いて説明する。なお、本発明は、
図1に限定されない。また、各槽や各装置・機構については、特に言及しない限り、公知のものを好適に使用できる。
【0026】
具体的には、まず、PHAを生産する微生物が適当な培地中で培養される(工程(a))。次いで、内部にPHAを蓄えた微生物が、処理槽1で、破砕および/または可溶化処理される(工程(b))。前記処理後の処理液は分離装置2に送られ、分離装置2において、前記処理液からPHAが分離される(工程(c)。前記工程(a)~(c)のいずれか1以上で生じた排水の全窒素濃度および全硫黄濃度が特定の濃度となるように、希釈槽3で希釈する。本処理方法で使用される排水は、工程(a)~(c)の全部で生じた排水あってもよいし、いずれか1つまたは2つで生じた排水であってもよい。工程(a)および(b)で所望のPHAが得られなかった場合には、工程(a)および/または(b)から得られた培養液が、工程(c)のPHA分離工程を経ることなく排水として、工程(d)に送液され得る。希釈槽3で希釈された排水は、酸生成槽4を経た後、嫌気性菌を含む嫌気処理槽5で処理される。また、前記希釈槽3では、全窒素濃度および全硫黄濃度が高くない、製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水(工程洗浄水・雨水)を用いて排水を希釈することが好ましい。なお、
図1中、排水Aおよび排水Bは、前記工程(a)~(c)で生じた排水のいずれか1以上について、全窒素濃度および全硫黄濃度の異なる排水を意図する。前記濃度の異なる排水は、例えば、分離装置2における遠心分離により生じ得る。この場合、例えば、
図1中の排水Aおよび排水Bは、それぞれ、破砕処理液から最初にPHAを分離した際の排水(排水A)、およびその後に水への再分散と分離を繰り返すことによって生成する排水(排水B)とすることができる。
図1では全窒素濃度および全硫黄濃度が異なる2種類の排水が生じる場合を示しているが、前記工程(a)~(c)から生じる排水の種類は必ずしも2種類である必要は無く、3種類以上であっても良いし、1種類であっても良い。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記嫌気処理槽5において生成したメタンガスは、脱硫槽50で脱硫される。脱硫槽50は、例えば、生物脱硫槽6および乾式脱硫槽7から構成される。
【0028】
また、本発明の一実施形態において、前記嫌気処理槽5において生成し、脱硫槽50において脱硫されたメタンガスは、貯蔵槽(メタンガスホルダー)8で回収・貯蔵される。回収・貯蔵されたメタンガスは、ボイラー9で燃料として使用される。
【0029】
さらに、本発明の一実施形態において、前記嫌気処理槽5において生じた排水は、好気処理槽100で活性汚泥法により処理される。好気処理槽100は、例えば、第一脱窒槽10、曝気槽11、第二脱窒槽12、および再曝気槽13から構成される。好気処理槽100で生じた余剰汚泥は、汚泥貯槽14に貯蔵された後、汚泥脱水機15にかけられ、産業廃棄物として処分される。また別の経路として、好気処理槽100で処理された処理水は、凝集反応槽16および沈降槽17で放流基準に満たない炭素、窒素、硫黄、リン等の成分が除去された後、放流される。沈降槽17において沈降した凝集体についても汚泥脱水機15にかけられ、産業廃棄物として処分される。
【0030】
(工程(a))
工程(a)では、PHAを生産する微生物を培養する。
【0031】
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカン酸)をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
【0032】
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
【0033】
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99.9/0.1(mol/mol)であることが好ましく、85/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99.9/0.01(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。
【0035】
PHAを実用化するためには、加工品が使用に耐え得る物性を示す必要があり、ゲルクロマトグラフィー法でポリスチレンを分子量標準としたPHAの重量平均分子量が1万以上であることが好ましい。より好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、さらに好ましくは20万以上、特に好ましくは20万~200万、極めて好ましくは20万~150万、最も好ましくは20万~100万である。分子量が200万を超えると、溶融して加工する際に流動性が低下し、ハンドリングが悪い場合がある。
【0036】
<微生物(微生物細胞)>
工程(a)において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生産(生成)する微生物である限りにおいて、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えばIFO、ATCC等)に寄託されている微生物、または、それらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。例えばカプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネカトール(C.necator)等の菌株が好ましい。また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しない場合、もしくは生産量が低い場合には、該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入し、得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定はないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これら微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積させた微生物菌体を得ることができる。その培養方法については特に限定はないが、例えば特開平05-93049号公報、国際公開第08/010296号等に記載の方法が使用できる。
【0037】
微生物からPHAを回収する上において、培養後の微生物(PHAを含む微生物)中のPHA含有率は、高い方が好ましいのは当然であり、工業レベルでの適用においては乾燥細胞中のPHA含有率は50重量%以上であることが好ましく、以後の分離操作、分離ポリマーの純度等を考慮するとPHA含有率は60重量%以上が好ましく、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0038】
本発明の一実施形態において、工程(a)は、後述するPHAの製造システムにおける培養槽(A)により行われる。
【0039】
(工程(b))
工程(b)では、PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する。工程(b)により、微生物細胞内に蓄積されたPHAを当該微生物細胞の外に取り出す。
【0040】
<破砕・可溶化処理>
微生物により産生したPHAは、当該微生物の破砕および/または可溶化処理を実施することにより回収される。
【0041】
工程(b)において破砕処理および可溶化処理は、そのいずれかを実施してもよく、その両方を実施してもよい。破砕処理および可溶化処理の両方を実施する場合、実施する順番は、特に限定されない。
【0042】
工程(b)において破砕および/または可溶化処理を実施する対象としては、PHAを含む微生物の水性懸濁液を使用することが好ましい。当該水性懸濁液としては、培養完了後のPHA含有微生物を含む培養ブロスをそのまま用いることもできるし、当該培養ブロスから回収した菌体に水を添加する等して調製したPHA含有微生物の水性懸濁液を用いることもできる。培養ブロスから菌体を回収する方法としては、遠心分離や膜分離など当業者に周知の方法を用いることができる。また、菌体の回収に際して加熱などにより菌体を死滅させてもよい。ここで、加熱する場合の温度は50℃~80℃が好ましい。破砕および/または可溶化処理に際しては、微生物は死滅させることが好ましい。
【0043】
上記破砕および/または可溶化処理としては、化学的処理および物理的破砕処理からなる群より選択される少なくとも一種の処理を含むことが好ましい。中でも、化学的処理および物理的破砕処理の両方を含むことがより好ましい。
【0044】
PHAを含む微生物の可溶化処理としては、酵素処理、アルカリ処理、界面活性剤処理等の化学的処理が挙げられる。これらの可溶化処理は、1種のみを実施してもよいし、2種以上を組み合わせて実施してもよい。これら可溶化処理の2種以上を実施する場合、これらを実施する順番は特に限定されない。中でも、酵素処理、アルカリ処理、および界面活性剤処理からなる群より選択される2種以上(特に、アルカリ処理および界面活性剤処理)を実施することが好ましく、3種全てを実施することが好ましい。
【0045】
上記酵素処理は、従来公知の方法に従って実施でき、その方法は特に限定されないが、例えば、特開2012-115145号公報に記載の方法(PHA含有微生物を酵素処理することで、細胞壁を分解してより高い純度を得る方法)等を利用することができる。酵素としては、工業的な製品に用いられ得るものであれば特に限定はないが、蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)、細胞壁分解酵素が好ましい。酵素の添加量は、適宜選択可能である。上記酵素処理の際に、液性が酵素の作用する至適pHの範囲外である場合には、酸性化合物又はアルカリ性化合物を添加して至適pHの範囲内となるように調整するのが好ましい。当該酸性化合物としては特に制限されず、例えば、硝酸;硫酸;塩酸;リン酸などの無機酸や、酢酸;ギ酸;クエン酸;シュウ酸などの有機酸等が挙げられる。また、当該アルカリ性化合物としては特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含めたアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩;リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア水等が挙げられる。
【0046】
上記アルカリ処理は、例えば、PHAを含む微生物の水性懸濁液にアルカリを添加することにより実施できる。当該アルカリとしては、従来公知のものを用いることができるが、PHA含有微生物の細胞壁を破壊して細胞中のPHAを細胞外に流出できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含めたアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩;リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア水等が挙げられる。アルカリ処理における水性懸濁液のpHは、特に限定されないが、8.0~12.0の範囲で調整することが好ましい。
【0047】
上記界面活性剤処理は、従来公知の方法に従って実施でき、その方法は特に限定されないが、例えば、特開2012-115145号公報に記載の方法(PHAを含む微生物の水性懸濁液に界面活性剤を添加する方法)等を利用することができる。当該界面活性剤としては、PHA含有微生物の細胞壁を破壊して細胞中のPHAを細胞外に流出できるものであれば特に限定されるものではない。界面活性剤としては、例えば、陰イオン界面活性化剤、陽イオン界面活性化剤、両性界面活性化剤、非イオン界面活性化剤が挙げられる。洗浄性の観点からは、陰イオン界面活性化剤及び/又は非イオン界面活性化剤が好ましい。蛋白質などを洗浄・除去する目的においては、陰イオン界面活性化剤を用いることが好ましく、また、脂肪酸や油脂の洗浄・除去を目的とする場合、非イオン界面活性化剤を用いることが好ましい。また陰イオン界面活性化剤及び非イオン界面活性化剤の両方を含有してもかまわない。陰イオン界面活性化剤であるドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム及びオレイン酸ナトリウム、非イオン界面活性化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどが好ましく、またこれらを2種以上併用して用いてもよい。中でも、価格、使用量および添加効果の観点から、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が好ましく使用される。当該界面活性剤処理は、アルカリ条件下で実施することが好ましく、すなわち、アルカリ処理と共に実施することが好ましい。
【0048】
界面活性剤処理における界面活性剤の添加量は、特に制限されないが、PHA重量100重量部に対して、0.001~10重量部が好ましく、さらにはコストの点から、5重量部以下が好ましい。
【0049】
上記物理的破砕処理としては、従来公知の方法を適用して実施でき、細胞中のPHA以外の細胞を引き剥がし、微細化できるような物理的処理であればよく、限定されることはない。物理破砕処理に用いられる装置としては、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波破砕機、乳化分散機、ビーズミル等が挙げられる。
【0050】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、後述するPHAの製造システムにおける処理槽(B)により行われる。
【0051】
(工程(c))
工程(c)では、前記工程(b)で得られた処理液(「破砕処理液」とも称する。)から、PHAを分離する。工程(c)は、前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを回収する工程と換言することもできる。
【0052】
上記破砕処理液からPHAを分離する方法としては、遠心分離、膜分離等、従来公知の方法が使用できる。中でも、工業的に大量処理が可能で連続使用できることから、遠心分離が好ましい。遠心分離機のなかでは、孔なし回転容器をもつ遠心沈降機が好ましく、種類としては分離板型、円筒型、デカンター型等がある。PHA粒子は、水との比重差が小さいため、分離沈降面積が大きく、高い加速度が得られる分離板型(間欠排出型、ノズル排出型)が好ましい。また、上記破砕処理液に含まれるPHA濃度が高い場合は、特にノズル排出型が好ましい。さらに、デカンター型は、一般的に加速度が低く、固液の比重差が小さい場合は不向きであるが、PHAの粒子径を変化させる等することでデカンター型も使用可能である。また、デカンター型には、分離板を有し、分離沈降面積を大きくした機種もあり、このような機種であれば特に粒子径を変化させなくても使用可能な場合がある。
【0053】
また、工程(c)においては、上述のような分離方法により、破砕処理液からPHAを分離、回収した後、例えば、水でPHAを懸濁させてから再度PHAを分離することによって水洗し、PHA以外の細胞物質を排除することができる。この水洗時のpHは8.0~12.5(すなわち、当該水洗はアルカリ水による洗浄であること)が好ましい。この水洗においては、水洗1回目においては全窒素濃度および全硫黄濃度の高い水洗水が発生するが、水洗を繰り返すごとに水洗水の全窒素濃度および全硫黄濃度は低下する。
【0054】
本発明の一実施形態において、工程(c)は、後述するPHAの製造システムにおける分離装置(C)により行われる。
【0055】
(工程(d))
工程(d)では、微生物からPHAを生産する際に生じる排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する。前記排水中には、主として、微生物由来のタンパク質や糖類が含まれ、さらに前記微生物を培養した培地成分、工程(b)で用いる酵素、界面活性剤、無機塩(リン酸塩、ナトリウム塩、硫酸塩等)も含み得る。この排水は有機物成分を多く含むため、嫌気処理によって多量のメタンガスを回収し得るが、嫌気処理を阻害する窒素成分・硫黄成分をも多量に含むため、そのままでは嫌気処理の適用ができない。そこで、工程(d)で、排水中の全窒素濃度および全硫黄濃度が上記範囲となるように排水を希釈することにより、嫌気処理工程(e)における嫌気処理が可能となる。
【0056】
本発明の一実施形態において、前記微生物からPHAを生産する際に生じる排水は、前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である。すなわち、排水は、工程(a)~(c)の全部から生じた排水であってもよいし、いずれか1つまたは2つの工程から生じた排水であってもよい。通常のPHA製造プロセスにおいては、工程(c)からのみ排水が生じる。工程(a)および(b)において、培地の調整の失敗や、前記微生物の増殖を阻害する別の微生物種の混入等によって所望のPHAが得られず、PHAを分離することなく培養液を排水として処理する場合には、工程(c)のPHA分離工程を経ることなく、工程(a)および/または(b)で生じた排水を用いて、工程(d)が行われ得る。なお、本明細書において、「培養液」は、少なくとも培地成分を含む溶液を意図し、培養対象の微生物を含まない培養用溶液自体の他に、前記微生物を含む培養ブロス、PHA含有微生物を含む培養ブロス、培養失敗によるPHA不含微生物を含む培養ブロス等も包含する。
【0057】
工程(d)における排水の希釈は、処理負荷の低い、PHAの製造工程および/または排水処理工程から排出される洗浄水、PHAの製造工程および/または排水処理工程に流入した雨水、雑排水、使用後の冷却水や蒸気の凝縮水等を用いて行われることが好ましい。これにより、工業用水の利用量を低減することができ、水資源を効率的に利用できる。上記希釈に用いられる媒体は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
本明細書において、「全窒素濃度」とは、窒素ガスとして溶存している窒素を除く水中の窒素原子の濃度であり、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、有機体窒素の総和である。全窒素濃度は従来公知の方法によって測定することができるが、例えばJIS K 0102に定められた方法によって測定することができる。
【0059】
本明細書において、「全硫黄濃度」とは、水中の硫黄原子の濃度であり、従来公知の方法によって測定することができるが、例えば、ICP分析法、蛍光X線分析法、燃焼生成ガス分析によって測定することができる。また、含硫黄化合物と反応して呈色する化学反応や、含硫黄化合物と反応して沈殿を生じる反応を用いて測定しても良い。
【0060】
本明細書において、「PHAの製造工程および/または排水処理工程から排出される洗浄水」とは、本処理方法および/またはPHAの製造方法で使用した各種槽や装置、配管等を洗浄することにより生じた排水を意図する。例えば、
図1では、培養槽20、処理槽1、または分離装置2のいずれか1以上を洗浄することにより生じた排水等が、「製造工程から排出される洗浄水」に含まれる。また、前記工程(c)で得られたPHAを乾燥させる工程等を含んでいる場合は、それらの工程で用いる槽や装置を洗浄することにより生じた排水等も、「製造工程から排出される洗浄水」に含まれる。また、「製造工程から排出される洗浄水」は槽や装置の内部を洗浄した洗浄水に限られず、例えば、工程の設備が設置されている防液堤の内部を洗浄する際に排出される排水等も、「製造工程から排出される洗浄水」に含まれる。
【0061】
本明細書において、「PHAの製造工程および/または排水処理工程に流入した雨水」とは、本処理方法および/またはPHAの製造方法の任意の工程で混入した雨水を意図する。さらに、「雑排水」とは、「PHAの製造工程および/または排水処理工程から排出される洗浄水」および「PHAの製造工程および/または排水処理工程に流入した雨水」以外のもので本処理方法および/またはPHAの製造方法の任意の工程で生じた排水を意図する。
【0062】
上記希釈に用いられる各媒体(洗浄水、雨水、雑排水等)は、全窒素濃度50mg/L以下、かつ、全硫黄濃度が30mg/L以下であることが好ましい。これにより、工程(d)における排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように効率的に希釈することができる。上記各媒体の全窒素濃度は、50mg/L以下であることが好ましく、20mg/L以下であることがより好ましく、10mg/L以下であることがさらに好ましい。上記各媒体の全窒素濃度の下限値は特に限定されないが、例えば、0.001mg/L以上であることが好ましい。また、上記各媒体の全硫黄濃度は、30mg/L以下であることが好ましく、10mg/L以下であることがより好ましく、3mg/L以下であることがさらに好ましい。上記各媒体の全硫黄濃度の下限値は特に限定されないが、例えば、0.001mg/L以上であることが好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態において、前記工程(d)において、全窒素濃度50mg/L以下、かつ、全硫黄濃度が30mg/L以下である、製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水を用いて排水を希釈する。製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水のうち、希釈に用いられなかったものについては、好気処理による処理の負荷がさほど高くないことから、前記工程(g)に直接送液して活性汚泥法によって処理するようにしても良い。
【0064】
工程(d)における排水の希釈後の濃度は、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lであればよい。排水の希釈後の濃度が上記を満たすことにより、嫌気処理工程(e)における嫌気処理が可能となる。排水の希釈後の全窒素濃度は、10~800mg/Lであり、50~600mg/Lであることが好ましく、100~400mg/Lであることがより好ましい。また、排水の希釈後の全硫黄濃度は、3~500mg/Lであり、10~300mg/Lであることが好ましく、30~150mg/Lであることがより好ましい。
【0065】
嫌気処理工程を安定的に運転するためには、前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水、前記希釈排水、希釈に用いる洗浄水、または雨水のいずれか1以上の物理量および/または含有する化学物質の濃度を測定し、その測定結果に基づいて希釈倍率を調整することによって、前記希釈排水の全窒素濃度および全硫黄濃度が常に所定の値の範囲内となるように制御することが好ましい。この際に測定するべき物理量および/または化学物質の濃度としては、必ずしも全窒素濃度および/または全硫黄濃度を直接測定するものに限られず、適切な希釈倍率を算出するのに必要な物理量および/または化学物質の濃度であれば、特に制限されない。したがって、全窒素濃度および/または全硫黄濃度と相関のある別の物理量および/または化学物質の濃度を測定し、適切な希釈倍率を算出するようにしても良い。測定するべき物理量および/または化学物質の濃度としては特に限定されないが、例えば、全窒素濃度、アンモニア態窒素濃度、有機態窒素濃度、全硫黄濃度、全有機体炭素濃度、化学的酸素要求量、生物化学的酸素要求量、全リン濃度、浮遊物質量、pH、電気伝導度、濁度、吸光度、流量、温度等が挙げられる。
【0066】
これらの物理量および/または化学物質の濃度としては特に限定されず、従来公知または慣用の方法に従って測定することができる。この際の測定方法としては、工程中の前記分離排水、前記希釈排水、希釈に用いる洗浄水、または雨水のいずれか1以上を作業員が定期的にサンプリングして測定しても構わない。ただし、工程を安定的に運転するためには、前記工程(a)、前記工程(b)、前記工程(c)、前記工程(d)、前記工程(e)、およびこれらの工程を接続する配管、槽のいずれか1以上に、取得するべき物理量および/または化学物質の濃度を測定できるセンサを設置し、常時モニタリングすることが好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態において、工程(d)は、本処理システムにおける希釈槽(D)により行われる。
【0068】
(工程(e))
工程(e)では、前記工程(d)で希釈された希釈排水を、嫌気性菌を含む処理槽で嫌気処理し、排水中の有機物成分をメタンガスと炭酸ガスに分解する。工程(e)において、嫌気性菌を排水処理に用いることで、排水に含まれる有機物の一部をメタンガスとして取り出すことができ、排水処理からエネルギーを生み出すことができる。また、工程(d)の嫌気処理は、エネルギー(メタン)の回収が可能、曝気電力レス、余剰汚泥量が極めて少ない、設置スペースが小さい、界面活性剤含有排水の発泡削減、好気処理よりも飢餓状態に強い、等の利点を有する。なお、工程(e)により、排水中のBOD(生物化学的酸素要求量)を約70~90%まで処理でき、工程(g)の好気処理槽の容積を低減できる。
【0069】
工程(e)で使用される嫌気性菌は、排水からメタンを生成できる嫌気性の細菌(換言すれば、メタン生成細菌)であれば、特に限定されない。嫌気性菌としては、例えば、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノサーモバクター(Methanothermobacter)属、メタノブレウィバクター(Methanobrevibacter)属、メタノサルキナ(Methanosarcina)属、メタノサエタ(Methanosaeta)属、メタノスリックス(Methanothrix)属、メタノコーパスキュレム(Methanocorpusculum)属、メタノミクロビウム(Methanomicrobia)網の菌等が挙げられる。
【0070】
工程(e)における排水のpHは、嫌気性菌によるメタン生成を行えるpHであれば特に限定されないが、例えば、6.5~8.2であることが好ましい。工程(e)における排水のpHが6.5~8.2であると、有機酸の蓄積によるpH低下等によって嫌気性菌に影響が生じず、また、過剰のアルカリによるpH上昇に伴うメタン発酵の抑制を回避できる。pHがこの範囲外である場合には、酸性化合物やアルカリ性化合物の添加によってpHが6.5~8.2の範囲内となるように調整するのが好ましい。当該酸性化合物としては特に制限されず、例えば、硝酸;硫酸;塩酸;リン酸などの無機酸や、酢酸;ギ酸;クエン酸;シュウ酸などの有機酸が挙げられる。また、当該アルカリ性化合物としては特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含めたアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩;リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア水等が挙げられる。
【0071】
工程(e)における排水の水温は、嫌気性菌によるメタン生成を行える温度であれば特に限定されないが、例えば、15~65℃であり、25~40℃であることが好ましい。
【0072】
工程(e)における嫌気処理条件は、目的等に応じて、当業者により適宜設定され得る。
【0073】
工程(e)における嫌気処理方式としては、特に限定されないが、浮遊法、UASB法、EGSB法、IC法等が好適に利用できる。また、これらの方式のうち2以上を組み合わせても良く、複数の嫌気処理槽を直列および/または並列に接続して用いても良い。また、これらの方式に、酸生成菌の作用によって高分子量の炭水化物や脂質類を有機酸や低級アルコールに分解する酸生成槽を組み合わせても良い。
【0074】
本発明の一実施形態において、工程(e)は、本処理システムにおける嫌気処理槽(E)により行われる。」
(工程(f))
工程(f)では、前記嫌気処理工程(e)において生成するメタンガスを回収する。回収されたメタンガスは、ボイラー等の燃料として使用できる。
【0075】
メタンガスの回収方法は特に限定されず、当該技術分野で使用される任意の方法が採用できる。
【0076】
本発明の一実施形態において、工程(f)においてメタンガスを回収する過程で、前記生成したメタンガスを脱硫する工程(例えば、工程(h))を含むことが好ましい。工程(f)においてメタンガスを回収する過程で、前記生成したメタンガスを脱硫する工程を含むことにより、ボイラー等の燃料に適したメタンガスを調製できる。
【0077】
(工程(g))
工程(g)では、前記嫌気処理工程(e)において処理された後の処理水を、活性汚泥法により好気処理する。工程(g)により、嫌気処理工程(e)で残ったBOD、窒素成分等を処理できる。
【0078】
工程(g)では、例えば、脱窒槽(活性汚泥の処理槽)と曝気槽(活性汚泥の処理槽)とで構成された槽を用いて、嫌気処理で分解されなかった有機物を、好気性菌の作用により分解することができる。好気処理槽は、例えば、第一脱窒槽、曝気槽、第二脱窒槽、および再曝気槽で構成されてもよい。また、膜分離活性汚泥法を用いても良く、この場合には例えば、曝気槽および/または再曝気槽に、UF膜又はMF膜のメンブレンバイオリアクター膜分離活性汚泥法浸透膜(MBR)を設置することで行うことができる。
【0079】
工程(g)の曝気槽で使用される好気性菌は、前記嫌気処理工程(e)において処理された後の処理水を、活性汚泥法により処理できる好気性の細菌であれば、特に限定されない。そのような好気性菌としては、例えば、ニトロソモナス(Nitorosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロコッカス(Nitrococcus)属、ニトロバクター(Nitrobacter)属、ニトロスピラ(Nitrospira)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソビブリオ(Nitrosovibrio)属の細菌などの硝化細菌等が挙げられる。
【0080】
また、工程(g)の脱窒槽で使用される細菌は、排水中に含まれる亜硝酸態窒素および/または硝酸態窒素を代謝して窒素ガスを発生させる細菌であれば、特に限定されない。そのような細菌としては、例えば、パラコッカス(Paracoccus)属、ミクロコッカス(Microcоccus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属の細菌等が挙げられる。
【0081】
工程(g)における排水のpHは、活性汚泥法により好気処理を行えるpHであれば特に限定されないが、例えば、6.0~9.2であることが好ましく、6.5~8.0であることがより好ましい。工程(f)における排水のpHが6.0~9.2であると、活性汚泥法による好気処理が適切に行える。
【0082】
工程(g)における排水の水温は、活性汚泥法により好気処理を行える温度であれば特に限定されないが、例えば、10~40℃であることが好ましく、20~30℃であることがより好ましい。
【0083】
工程(g)における好気処理条件は、目的等に応じて、当業者により適宜設定され得る。
【0084】
本発明の一実施形態において、工程(g)は、本処理システムにおける好気処理槽(G)により行われる。
【0085】
好気処理工程から排出される処理水が放流基準に満たない場合には、凝集反応工程によってさらに処理することによって、放流基準を満たすように有機物成分、窒素成分、硫黄成分、リン成分等を除去しても良い。凝集反応工程で添加する薬剤としては、放流基準に満たない成分を好適に除去できるものであれば、特に制限されず、公知の凝集剤を用いることができる。当該凝集剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、水酸化カルシウム等の無機系凝集剤や、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびこれらの共重合体等の高分子凝集剤が挙げられる。また、放流基準に満たない成分を吸着して除去することができる活性炭を添加しても良い。
【0086】
凝集反応工程によって生成する凝集体は、分離工程によって、処理水と分離される。分離工程において用いる分離方法としては特に制限されず、従来公知のものを適用して実施できるが、例えば、沈降槽、デカンター、フィルタープレス、ベルトプレス、スクリュープレス、加圧浮上装置等を用いる方法が挙げられる。分離工程においてはこれらの機器のうち1種類を単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0087】
(工程(h))
工程(h)では、前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガスを脱硫する。
【0088】
前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガスには、一般に、メタン、二酸化炭素の他に、硫化水素等が含まれる場合がある。硫化水素は、ボイラー等の装置を腐食させるため、前記メタンガス中から除去することが好ましい。
【0089】
メタンガスを脱硫する方法は特に限定されず、当該技術分野で使用される任意の方法が採用できる。メタンガスの脱硫は、例えば、生物脱硫槽を用いて行うこともできるし、乾式脱硫槽を用いて行うこともできる。好ましくは、これらを組み合わせて行われる。また、複数の脱硫槽を直列および/または並列に接続して用いても良い。
【0090】
本発明の一実施形態において、工程(h)は、本処理システムにおける脱硫槽(H)により行われる。
【0091】
(工程(i))
工程(i)では、前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫工程(h)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する。工程(i)では、前記メタンガスをエネルギー源として利用することにより、廃棄物量の削減、化石燃料の使用量の削減等を達成できる。
【0092】
工程(i)におけるエネルギー源の利用態様としては特に制限されず、例えば、ボイラー、発電機、ガスタービン、ガスエンジン、燃料電池等が挙げられる。すなわち、前記ボイラー、ガスタービン、ガスエンジン、燃料電池等を稼働させるために、前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫工程(h)で得られたメタンガスを用いることができる。例えば、ボイラーを用いる場合には、前記メタンガスを燃料として蒸気を発生させること等が利用態様として挙げられる。
【0093】
工程(i)でエネルギー源として利用されるメタンガスは、前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガスであってもよく、工程(h)で脱硫したメタンガスであってもよい。ボイラー等の腐食を回避する観点からは、工程(h)で脱硫したメタンガスがより好ましい。
【0094】
本発明の一実施形態において、工程(i)は、本製造システムにおける機構(I)により行われる。
【0095】
〔3.排水の処理システム〕
本処理システムは、以下の(D)~(E)を備える:
・(D):微生物からPHAを生産する際に生じる排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する希釈槽
・(E):前記希釈槽(D)で希釈された希釈排水を処理する、嫌気性菌を含む嫌気処理槽
ここで、前記排水は、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である。
・工程(a):PHAを生産する微生物を培養する工程
・工程(b):PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程
・工程(c):前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程。
【0096】
また、本発明の一実施形態において、本処理システムは、さらに以下の工程(F)~(I)を備えることが好ましい:
・(F):前記処理槽(E)において生成したメタンガスを回収し、貯蔵する貯蔵槽
・(G):前記嫌気処理槽(E)において生じた排水を、活性汚泥法により処理する好気処理槽
・(H):前記嫌気処理槽(E)において生成したメタンガスを脱硫する脱硫槽
・(I):前記嫌気処理槽(E)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫槽(H)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する機構
本発明の一実施形態において、本処理システムを備える、PHAの製造システム(以下、「本製造システム」とも称する。)を提供する。本製造システムは、本処理システムをその一構成として含むものであればよく、例えば、本排水システムで使用される排水の供給源となる以下の(A)~(C)の少なくとも1つ以上を含み得る:
・(A):PHAを生産する微生物を培養する培養槽
・(B):PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する処理槽
・(C):前記処理槽(B)で得られた処理液から、PHAを分離する分離装置。
本製造システムでは、PHAの製造工程で生じた排水を利用するため、環境負荷を低減しつつ、PHAを製造できる。
【0097】
培養槽(A)は、工程(a)を行うための槽であり、
図1では、培養槽20に相当する。処理槽(B)は、工程(b)を行うための槽であり、
図1では、処理槽1に相当する。分離装置(C)は、工程(c)を行うための装置であり、
図1では、分離装置2に相当する。希釈槽(D)は、工程(d)を行うための槽であり、
図1では、希釈槽3に相当する。嫌気処理槽(E)は、工程(e)を行うための槽であり、
図1では、嫌気処理槽5に相当する。貯蔵槽(F)は、工程(f)で回収したメタンガスを貯蔵するための槽であり、
図1では、貯蔵槽(メタンガスホルダー)8に相当する。好気処理槽(G)は、工程(g)を行うための槽であり、
図1では、第一脱窒槽10、曝気槽11、第二脱窒槽12、および再曝気槽13に相当する。脱硫槽(G)は、工程(h)を行うための槽であり、
図1では、生物脱硫槽6および乾式脱硫槽7に相当する。機構(I)は、工程(i)を行うための装置であり、
図1では、ボイラー9に相当する。
【0098】
本処理システムおよび/または本製造システムは、上記各構成を備えることにより、PHAの製造プロセスから排出される廃棄物から、エネルギー源として用いることができるメタンガスを生成することができ、廃棄物量の削減と、化石燃料の使用量の削減を達成できる。
【0099】
本発明の一実施形態において、本処理システムおよび/または本製造システムは、上記各構成に加えて、当該技術分野において使用される種々の装置、槽等をさらに備えることもできる。例えば、本処理システムおよび/または本製造システムは、
図1に記載の各種構成をさらに備えていてもよい。
【0100】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0101】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理方法であって、
前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する工程(d)と、
前記工程(d)で希釈された希釈排水を、嫌気性菌を含む処理槽で処理する嫌気処理工程(e)と、
を含み、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理方法:
PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
<2>前記嫌気処理工程(e)において生成するメタンガスを回収する工程(f)をさらに含む、<1>に記載の排水の処理方法。
<3>前記工程(d)において、全窒素濃度50mg/L以下、かつ、全硫黄濃度が30mg/L以下である、製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水を用いて排水を希釈する工程を含む、<1>または<2>に記載の排水の処理方法。
<4>前記排水、前記希釈排水、前記洗浄水、または前記雨水のいずれか1以上について、前記工程(d)における希釈倍率を算出するのに必要となる物理量および/または含有する化学物質の濃度を測定し、その測定結果に基づいて前記工程(d)における希釈倍率を調整する、<1>~<3>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<5>前記嫌気処理工程(e)において生じた排水を、活性汚泥法により処理する好気処理工程(g)をさらに含む、<1>~<4>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<6>前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガスを脱硫する脱硫工程(h)をさらに含む、<1>~<5>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<7>前記嫌気処理工程(e)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫工程(h)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する工程(i)をさらに含む、<1>~<6>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<8><1>~<7>のいずれかに記載の排水の処理方法を含む、PHAの製造方法。
<9>微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理システムであって、
前記排水を、全窒素濃度が10~800mg/L、かつ、全硫黄濃度が3~500mg/Lを満たすように希釈する希釈槽(D)と、
前記希釈槽(D)で希釈された希釈排水を処理する、嫌気性菌を含む嫌気処理槽(E)と、
を備え、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理システム:
PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
<10>前記処理槽(E)において生成したメタンガスを回収し、貯蔵する貯蔵槽(F)をさらに備える、<9>に記載の排水の処理システム。
<11>前記希釈槽(D)は、全窒素濃度50mg/L以下、かつ、全硫黄濃度が30mg/L以下である、製造工程から排出される洗浄水および/または製造工程に流入した雨水を用いて排水を希釈するものである、<10>に記載の排水の処理システム。
<12>前記排水、前記希釈排水、前記洗浄水、または前記雨水のいずれか1以上について、前記希釈槽(D)における希釈倍率を算出するのに必要となる物理量および/または含有する化学物質の濃度を測定し、その測定結果に基づいて前記希釈槽(D)における希釈倍率を調整する、<10>または<11>に記載の排水の処理システム。
<13>前記嫌気処理槽(E)において生じた排水を、活性汚泥法により処理する好気処理槽(G)をさらに備える、<10>~<12>のいずれかに記載の排水の処理システム。
<14>前記嫌気処理槽(E)において生成したメタンガスを脱硫する脱硫槽(H)をさらに備える、<10>~<13>のいずれかに記載の排水の処理システム。
<15>前記嫌気処理槽(E)において生成したメタンガス、および/または前記脱硫槽(H)で得られたメタンガスをエネルギー源として利用する機構(I)をさらに備える、<10>~<14>のいずれかに記載の排水の処理システム。
【実施例0102】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0103】
〔実施例1〕
国際公開第2019/142717号に記載のラルストニア・ユートロファを、同文献の段落〔0041〕~〔0048〕に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体(微生物)を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネカトールに分類されている。
【0104】
上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で30分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
【0105】
前記滅菌処理後の微生物を破砕および可溶化した残渣と、PHAからなる微粒子とを含むスラリーに対して、工業用水による希釈および遠心分離を6回繰り返し、微生物残渣の除去された精製PHAを得た。6回の遠心分離から発生した排水の全窒素濃度は1200mg/L、全硫黄濃度は600mg/Lであり、嫌気処理が適用できなかった。
【0106】
そこで、PHAの製造工程から排出される洗浄水および製造工程に流入した雨水を用いて、前記排水を2倍に希釈することにより、全窒素濃度が600mg/L、全硫黄濃度が300mg/Lとなった。次いで、前記希釈した排水を用いて嫌気処理を行った。嫌気処理後の排水を、活性汚泥法により有機物成分を分解除去したのち、凝集分離処理により残存する有機物およびリン酸塩を分離し、放流して処理した。また、前記嫌気処理から発生するメタンガスは回収し、脱硫したのち、ボイラーの燃料として利用した。