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特開2023-132280排水の処理方法および処理システム、ならびにその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132280
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】排水の処理方法および処理システム、ならびにその利用
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/127 20190101AFI20230914BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20230914BHJP
   C02F 11/13 20190101ALI20230914BHJP
   C02F 11/14 20190101ALI20230914BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20230914BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20230914BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20230914BHJP
   C12P 7/40 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C02F11/127
C02F11/04 A
C02F11/13
C02F11/14
C02F11/06 Z
C02F11/00 Z
C02F11/00 B
C02F1/00 M
C12P7/40 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037505
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】竪山 瑛人
(72)【発明者】
【氏名】金谷 健登
(72)【発明者】
【氏名】福本 明日香
(72)【発明者】
【氏名】山本 朔加
【テーマコード(参考)】
4B064
4D059
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064CA01
4B064CC30
4B064CE02
4B064DA16
4B064DA20
4D059AA30
4D059BA12
4D059BB01
4D059BD00
4D059BE38
4D059BE54
4D059BK11
4D059BK12
4D059CA07
4D059CA12
4D059EB01
(57)【要約】
【課題】微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、活性汚泥処理槽の容積を低減可能な、新たな排水処理の技術を提供する。
【解決手段】微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理方法であって、前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する工程(d)と、前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理工程(e)と、前記高濃度排水処理工程とは別の工程として、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理工程(f)と、を含む、排水の処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物からポリヒドロキシアルカノエートを生産する際に生じる排水の処理方法であって、
前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する工程(d)と、
前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理工程(e)と、
前記高濃度排水処理工程とは別の工程として、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理工程(f)と、
を含み、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理方法:
ポリヒドロキシアルカノエートを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、ポリヒドロキシアルカノエートを分離する工程(c)。
【請求項2】
前記工程(f)が、活性汚泥処理工程を含む、請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記工程(e)が、蒸発濃縮工程、凝集分離工程、嫌気処理工程、および焼却工程からなる群より選択される少なくとも1つ以上を含む、請求項1または2に記載の排水の処理方法。
【請求項4】
前記工程(e)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する工程(g)をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項5】
前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記工程(d)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する工程(h)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項6】
前記工程(e)が、蒸発濃縮工程を含み、
前記工程(h)の中濃度排水の処理が、前記低濃度排水処理工程により行われる、請求項5に記載の排水の処理方法。
【請求項7】
前記工程(e)が、凝集分離工程を含み、
前記工程(h)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理工程により行われる、請求項5に記載の排水の処理方法。
【請求項8】
前記工程(h)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理工程、前記低濃度排水処理工程のいずれかまたは両方により行われ、
前記高濃度排水処理工程において、前記排水のBOD負荷量のうちの65~90%のBOD負荷量を処理するように中濃度排水を前記高濃度排水処理工程、前記低濃度排水処理工程のいずれかまたは両方に分配して供給する、請求項5~7のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の排水の処理方法を含む、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
【請求項10】
微生物からポリヒドロキシアルカノエートを生産する際に生じる排水の処理システムであって、
前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する排水分離部(D)と、
前記排水分離部(D)にて分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理部(E)と、
前記高濃度排水処理部(E)とは別に、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理部(E)と、
を備え、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理システム:
ポリヒドロキシアルカノエートを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記ポリヒドロキシアルカノエートを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、ポリヒドロキシアルカノエートを分離する工程(c)。
【請求項11】
前記低濃度排水処理部(F)が、活性汚泥処理槽を備える、請求項10に記載の排水の処理システム。
【請求項12】
前記高濃度排水処理部(E)が、蒸発濃縮装置、凝集分離槽、嫌気処理槽、および焼却装置からなる群より選択される少なくとも1つ以上を備える、請求項10または11に記載の排水の処理システム。
【請求項13】
前記高濃度排水処理部(E)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する機構(G)をさらに備える、請求項10~12のいずれか1項に記載の排水の処理システム。
【請求項14】
前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記排水分離部(D)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する機構(H)を備える、請求項10~13のいずれか1項に記載の排水の処理システム。
【請求項15】
前記高濃度排水処理部(E)が、蒸発濃縮装置を備え、
前記機構(H)の中濃度排水の処理が、前記低濃度排水処理部(F)により行われる、請求項14に記載の排水の処理システム。
【請求項16】
前記高濃度排水処理部(E)が、凝集分離槽を備え、
前記機構(H)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理部(E)により行われる、請求項14に記載の排水の処理システム。
【請求項17】
前記機構(H)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理部(E)、前記低濃度排水処理部(F)のいずれかまたは両方により行われ、
前記高濃度排水処理部(E)において、前記排水のBOD負荷量のうちの65~90%のBOD負荷量を処理するように中濃度排水を前記高濃度排水処理部(E)、前記低濃度排水処理部(F)のいずれかまたは両方に分配して供給する、請求項14~16のいずれか1項に記載の排水の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物からポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」とも称する。)を生産する際に生じる排水の処理方法および処理システム、ならびにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックは、土中または水中の微生物等により完全に生分解され、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることになるため、生態系への悪影響がほとんどない環境調和型のプラスチック材料として積極的な使用が望まれている。代表的な生分解性プラスチックとして、PHA等の植物由来の生分解性プラスチックが注目されている。PHAは、微生物によって植物由来の天然の有機酸や油脂を炭素源として生産され、細胞内にエネルギー蓄積物質として蓄積される脂肪族ポリエステル(熱可塑性ポリエステル)である。
【0003】
微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいては、菌体残渣に由来する有機物成分を多量に含む排水が発生する。この排水を処理する工程含む製造方法として、例えば、特許文献1には、微生物の菌体内で生合成されたPHAを精製、又は成形する製造工程と、前記製造工程から、窒素含有不純物を含む排水を排出する排出工程と、前記排水を生物学的に処理して、前記窒素含有不純物を前記排水から除去する窒素除去工程と、を含み、当該製造工程におけるPHAの残留率を99重量%以下とし、前記窒素除去工程において生物学的に処理する前記排水には、前記窒素含有不純物に加えて、PHAが含まれる、PHAの製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、活性汚泥法で処理した排水から、NF膜やRO膜によって無機イオンを除去することによって、製造プロセスにおいて排水を再利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/221755号
【特許文献2】国際公開第2021/186872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、放流または膜分離処理による再利用が可能となるレベルまで排水中の有機物成分量を低減するためには、非常に容積の大きい活性汚泥処理槽が必要となり、広い工場の敷地を確保する必要があるとともに、設備費が非常に高額になるという課題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、活性汚泥処理槽の容積を低減可能な、新たな排水処理の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PHAの製造プロセス排水について、(i)有機物成分含有量の多い高濃度排水と、有機物成分含有量の少ない低濃度排水と、に分けて(貯留し)、(ii)低濃度排水のみを活性汚泥法で処理し、(iii)高濃度排水は、設備費が比較的安価な蒸発濃縮装置、凝集分離槽、嫌気処理槽、焼却装置等によって処理することにより、活性汚泥処理槽の容積を大幅に低減できることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理方法であって、前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する工程(d)と、前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理工程(e)と、前記高濃度排水処理工程とは別の工程として、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理工程(f)と、を含み、前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理方法(以下、「本処理方法」と称する。)である:PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
【0010】
また、本発明の一態様は、微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理システムであって、前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する排水分離部(D)と、前記排水分離部(D)にて分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理部(E)と、前記高濃度排水処理部(E)とは別に、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理部(E)と、を備え、前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理システム(以下、「本処理システム」と称する。)である:PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、活性汚泥処理槽の容積を低減可能な、新たな排水処理の技術を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る、排水の処理方法における各工程を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、排水の処理方法における各工程を示す概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、排水の処理方法における各工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0014】
〔1.本発明の概要〕
PHAは100%植物由来のプラスチックであり、化石燃料からの脱却に向けて期待されている素材である。このPHAの製造においては、輸送に伴う温室効果ガスの排出量削減の観点から、消費地の近くに製造設備を建設することが望ましい。
【0015】
近年、環境保全意識の高まりから、欧州でもバイオマス原料プラスチックの需要が高まっており、将来的には欧州でのPHA生産量の増加が見込まれる。
【0016】
しかしながら、欧州では国によって取水および排水量に関する制限が厳しい場合があり、上述したように、活性汚泥法で処理した排水から、NF膜やRO膜によって無機イオンを除去することによって、製造プロセスにおいて排水を再利用する技術が開発されている(特に、特許文献2)。
【0017】
この方法によって排水を再利用するためには、NF膜やRO膜が目詰まりしないように活性汚泥法で有機物濃度を十分に低減する必要があるが、そのためにはPHA生産量当たり非常に容積の大きい活性汚泥処理槽が必要となり、限られた工場の敷地面積においてはPHA生産能力の高い製造設備が建設できないという課題があった。
【0018】
そこで、本発明者らは、上記の観点から鋭意検討した結果、PHAの製造プロセス排水について、(i)有機物成分含有量の多い高濃度排水と、有機物成分含有量の少ない低濃度排水と、に分けて(貯留し)、(ii)低濃度排水のみを活性汚泥法で処理し、(iii)高濃度排水は、設備費が比較的安価な蒸発濃縮装置、凝集分離槽、嫌気処理槽、焼却装置等によって処理することにより、活性汚泥処理槽の容積を大幅に低減できることを初めて見出した。
【0019】
本発明によれば、微生物培養を利用したPHAの製造プロセスにおいて、活性汚泥処理槽の容積を低減可能な、新たな排水処理の技術を提供することができる。すなわち、本発明によれば、PHAの製造プロセスの排水から、容積の小さい活性汚泥処理槽を用いた処理によって、有機物濃度が十分に低減された処理水を得ることができる。
【0020】
また、上述したような構成によれば、廃棄物から可燃性ガスまたは熱の形態でエネルギーを回収することができることから、PHAを用いた環境負荷の低い製造プロセスを提供することができ、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」や目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。以下、本発明について詳説する。
【0021】
〔2.排水の処理方法〕
本処理方法は、以下の工程(d)~(f)を含む方法である:
・工程(d):微生物からPHAを生産する際に生じる排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する工程
・工程(e):前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理工程。
・工程(f):前記高濃度排水処理工程とは別の工程として、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理工程。
【0022】
ここで、前記排水は、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である。
・工程(a):PHAを生産する微生物を培養する工程
・工程(b):PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程
・工程(c):前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程。
【0023】
本発明の一実施形態において、本処理方法は、さらに以下の工程(g)~(h)を含むことが好ましい:
・工程(g):前記工程(e)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する工程
・工程(h):前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記工程(d)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する工程。
【0024】
本処理方法において、上記の各工程は、目的に応じて、適宜順番や構成を入れ替えることができる。なお、本明細書では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。
【0025】
本発明の一実施形態において、本処理方法を含む、PHAの製造方法(以下、「本製造方法」とも称する。)を提供する。本製造方法は、本処理方法をその一工程として含むものであればよく、例えば、排水の処理方法の前段階の工程である工程(a)~(c)の少なくとも1つ以上を含み得る。すなわち、本処理方法をその一工程として含むPHAの製造方法もまた、本発明の範囲に含まれる。本製造方法は、本処理方法(例えば、工程(d)~(h))、上記工程(a)~(c)の他に、例えば、工程(c)で分離して得られたPHAから、PHAの乾燥粉体等を製造する工程を含んでいてもよく、かかる工程は、公知の手法を好適に利用し得る。本製造方法では、PHAの製造工程で生じた排水を利用するため、環境負荷を低減しつつ、PHAを製造できる。なお、本製造方法については、本処理方法に主に関連する工程(a)~(c)を中心に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態について、図1~3を用いて説明する。なお、本発明は、図1~3に限定されない。また、各工程において使用される槽、装置、機構等については、特に言及しない限り、公知のものを好適に使用できる。
【0027】
[実施形態1]
実施形態1を図1に示すフローチャートを用いて説明する。まず、PHAを生産する微生物が適当な培地中で培養される(工程(a))。次いで、内部にPHAを蓄えた微生物が、破砕および/または可溶化処理工程(工程(b))において、破砕および/または可溶化処理される。次いで、得られた処理液からPHAが分離される(工程(c))。前記工程(a)~(c)で生じた排水のいずれか1以上を用いて、少なくとも、特定の濃度を有する高濃度排水と、特定の濃度を有する低濃度排水とに分離する(工程(d))。本処理方法で使用される排水は、工程(a)~(c)の全部であってもよいし、いずれか1つまたは2つで生じた排水であってもよい。通常のPHA製造プロセスにおいては、工程(c)からのみ排水が生じる。工程(a)および/または(b)において、培地の調整の失敗や、前記微生物の増殖を阻害する別の微生物種の混入等によって所望のPHAが得られず、PHAを分離することなく培養液や処理液を排水として処理する場合には、工程(c)のPHA分離工程を経ることなく、工程(a)および/または(b)で生じた排水を用いて、工程(d)が行われ得る。なお、本明細書において、「培養液」は、少なくとも培地成分を含む溶液を意図し、培養対象の微生物を含まない培養用溶液自体の他に、前記微生物を含む培養ブロス、PHA含有微生物を含む培養ブロス、培養失敗によるPHA不含微生物を含む培養ブロス等も包含する。工程(d)の分離において、中濃度排水も含めた3段階で分離することが好ましい。次いで、高濃度排水および中濃度排水は、蒸発濃縮工程に送られ処理される(工程(e)、工程(h))。一方、低濃度排水は、活性汚泥処理工程に送られ処理される(工程(f))。中濃度排水は、低濃度排水と共に、活性汚泥処理工程に送られ処理されてもよい(工程(h))。活性汚泥処理工程には、低濃度排水、中濃度排水の他にも、製造工程から排出される洗浄水、製造工程に流入した雨水、雑排水、使用後の冷却水や蒸気の凝縮水等を送って処理してもよい。蒸発濃縮工程で得られた濃縮液は、焼却工程に送られ、ボイラー等の熱源として利用される(工程(g))。蒸発濃縮工程で得られた凝縮水は、放流基準を満たしていれば放流される。放流基準を満たしていない場合には、アンモニアストリッピングによって放流基準を満たす水質まで処理されたのち、放流される。また、別の態様として、蒸発濃縮工程で得られた凝縮水は、活性汚泥処理工程に供され、その後放流されてもよい。蒸発濃縮工程で得られた凝縮水の炭素、窒素含有量は十分に少ないため、活性汚泥処理工程で処理しても活性汚泥処理槽の容量はさほど大きくならない。活性汚泥処理工程に送られた低濃度排水(および中濃度排水、製造工程から排出される洗浄水、製造工程に流入した雨水、雑排水、使用後の冷却水や蒸気の凝縮水等)は、活性汚泥処理されたのち、放流される。
【0028】
[実施形態2]
実施形態2を図2に示すフローチャートを用いて説明する。排水の分離までは、実施形態1と同じである。次いで、高濃度排水および中濃度排水は、凝集分離工程に送られ処理される(工程(e)、工程(h))。一方、低濃度排水は、活性汚泥処理工程に送られ処理される(工程(f))。中濃度排水は、低濃度排水と共に、活性汚泥処理工程に送られ処理されてもよい(工程(h))。活性汚泥処理工程には、低濃度排水、中濃度排水の他にも、製造工程から排出される洗浄水、製造工程に流入した雨水、雑排水、使用後の冷却水や蒸気の凝縮水等を送って処理してもよい。凝集分離工程で得られた凝集体は、焼却工程に送られ、ボイラー等の熱源として利用される(工程(g))。凝集分離工程で得られた処理水は、放流基準を満たしていれば放流される。放流基準を満たしていない場合には、活性汚泥処理工程に供され、その後放流される。活性汚泥処理工程に送られた低濃度排水(および中濃度排水、製造工程から排出される洗浄水、製造工程に流入した雨水、雑排水、使用後の冷却水や蒸気の凝縮水等)は、活性汚泥処理されたのち、放流される。
【0029】
[実施形態3]
実施形態3を図3に示すフローチャートを用いて説明する。凝集分離工程までは、実施形態2と同じである。凝集分離工程で得られた凝集体は、嫌気処理工程に送られる。次いで、嫌気処理工程おいて生成したメタンガスは、脱硫工程で脱硫される。脱硫工程は、例えば、生物脱硫工程および乾式脱硫工程から構成され得る。脱硫工程で脱硫されたメタンガスは、メタンガスホルダーに貯蔵され、ボイラー等のエネルギー回収工程の燃料として利用される(工程(g))。
【0030】
(工程(a))
工程(a)では、PHAを生産する微生物を培養する。
【0031】
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカン酸)をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
【0032】
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
【0033】
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99.9/0.1(mol/mol)であることが好ましく、85/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99.9/0.01(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。
【0035】
PHAを実用化するためには、加工品が使用に耐え得る物性を示す必要があり、ゲルクロマトグラフィー法でポリスチレンを分子量標準としたPHAの重量平均分子量が1万以上であることが好ましい。より好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上、さらに好ましくは20万以上、特に好ましくは20万~200万、極めて好ましくは20万~150万、最も好ましくは20万~100万である。分子量が200万を超えると、溶融して加工する際に流動性が低下し、ハンドリングが悪い場合がある。
【0036】
<微生物(微生物細胞)>
工程(a)において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生産(生成)する微生物である限りにおいて、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えばIFO、ATCC等)に寄託されている微生物、または、それらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。例えばカプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネカトール(C.necator)等の菌株が好ましい。また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しない場合、もしくは生産量が低い場合には、該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入し、得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定はないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これら微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積させた微生物菌体を得ることができる。その培養方法については特に限定はないが、例えば特開平05-93049号公報、国際公開第08/010296号等に記載の方法が使用できる。
【0037】
微生物からPHAを回収する上において、培養後の微生物(PHAを含む微生物)中のPHA含有率は、高い方が好ましいのは当然であり、工業レベルでの適用においては乾燥細胞中のPHA含有率は50重量%以上であることが好ましく、以後の分離操作、分離ポリマーの純度等を考慮するとPHA含有率は60重量%以上が好ましく、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0038】
本発明の一実施形態において、工程(a)は、後述するPHAの製造システムにおける培養槽(A)により行われる。
【0039】
(工程(b))
工程(b)では、PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する。工程(b)により、微生物細胞内に蓄積されたPHAを当該微生物細胞の外に取り出す。
【0040】
<破砕・可溶化処理>
微生物により産生したPHAは、当該微生物の破砕および/または可溶化処理を実施することにより回収される。
【0041】
工程(b)において破砕処理および可溶化処理は、そのいずれかを実施してもよく、その両方を実施してもよい。破砕処理および可溶化処理の両方を実施する場合、実施する順番は、特に限定されない。
【0042】
工程(b)において破砕および/または可溶化処理を実施する対象としては、PHAを含む微生物の水性懸濁液を使用することが好ましい。当該水性懸濁液としては、培養完了後のPHA含有微生物を含む培養ブロスをそのまま用いることもできるし、当該培養ブロスから回収した菌体に水を添加する等して調製したPHA含有微生物の水性懸濁液を用いることもできる。培養ブロスから菌体を回収する方法としては、遠心分離や膜分離など当業者に周知の方法を用いることができる。また、菌体の回収に際して加熱などにより菌体を死滅させてもよい。ここで、加熱する場合の温度は50℃~80℃が好ましい。破砕および/または可溶化処理に際しては、微生物は死滅させることが好ましい。
【0043】
上記破砕および/または可溶化処理としては、化学的処理および物理的破砕処理からなる群より選択される少なくとも一種の処理を含むことが好ましい。中でも、化学的処理および物理的破砕処理の両方を含むことがより好ましい。
【0044】
PHAを含む微生物の可溶化処理としては、酵素処理、アルカリ処理、界面活性剤処理等の化学的処理が挙げられる。これらの可溶化処理は、1種のみを実施してもよいし、2種以上を組み合わせて実施してもよい。これら可溶化処理の2種以上を実施する場合、これらを実施する順番は特に限定されない。中でも、酵素処理、アルカリ処理、および界面活性剤処理からなる群より選択される2種以上(特に、アルカリ処理および界面活性剤処理)を実施することが好ましく、3種全てを実施することが好ましい。
【0045】
上記酵素処理は、従来公知の方法に従って実施でき、その方法は特に限定されないが、例えば、特開2012-115145号公報に記載の方法(PHA含有微生物を酵素処理することで、細胞壁を分解してより高い純度を得る方法)等を利用することができる。酵素としては、工業的な製品に用いられ得るものであれば特に限定はないが、蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)、細胞壁分解酵素が好ましい。酵素の添加量は、適宜選択可能である。上記酵素処理の際に、液性が酵素の作用する至適pHの範囲外である場合には、酸性化合物又はアルカリ性化合物を添加して至適pHの範囲内となるように調整するのが好ましい。当該酸性化合物としては特に制限されず、例えば硝酸;硫酸;塩酸;リン酸などの無機酸や、酢酸;ギ酸;クエン酸;シュウ酸などの有機酸が挙げられる。また、当該アルカリ性化合物としては特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含めたアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩;リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア水等が挙げられる。
【0046】
上記アルカリ処理は、例えば、PHAを含む微生物の水性懸濁液にアルカリを添加することにより実施できる。当該アルカリとしては、従来公知のものを用いることができるが、PHA含有微生物の細胞壁を破壊して細胞中のPHAを細胞外に流出できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含めたアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩;リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア水等が挙げられる。アルカリ処理における水性懸濁液のpHは、特に限定されないが、8.0~12.0の範囲で調整することが好ましい。
【0047】
上記界面活性剤処理は、従来公知の方法に従って実施でき、その方法は特に限定されないが、例えば、特開2012-115145号公報に記載の方法(PHAを含む微生物の水性懸濁液に界面活性剤を添加する方法)等を利用することができる。当該界面活性剤としては、従来公知のものを用いることができるが、PHA含有微生物の細胞壁を破壊して細胞中のPHAを細胞外に流出できるものであれば特に限定されるものではない。界面活性剤としては、例えば、陰イオン界面活性化剤、陽イオン界面活性化剤、両性界面活性化剤、非イオン界面活性化剤が挙げられる。洗浄性の観点からは、陰イオン界面活性化剤及び/又は非イオン界面活性化剤が好ましい。蛋白質などを洗浄・除去する目的においては、陰イオン界面活性化剤を用いることが好ましく、また、脂肪酸や油脂の洗浄・除去を目的とする場合、非イオン界面活性化剤を用いることが好ましい。また陰イオン界面活性化剤及び非イオン界面活性化剤の両方を含有してもかまわない。陰イオン界面活性化剤であるドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム及びオレイン酸ナトリウム、非イオン界面活性化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどが好ましく、またこれらを2種以上併用して用いてもよい。中でも価格、使用量や添加効果の観点から、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が好ましく使用される。当該界面活性剤処理は、アルカリ条件下で実施することが好ましく、すなわち、アルカリ処理と共に実施することが好ましい。
【0048】
界面活性剤処理における界面活性剤の添加量は、特に制限されないが、PHA重量100重量部に対して、0.001~10重量部が好ましく、さらにはコストの点から、5重量部以下が好ましい。
【0049】
上記物理的破砕処理としては、従来公知の方法を適用して実施でき、細胞中のPHA以外の細胞を引き剥がし、微細化できるような物理的処理であればよく、限定されることはない。物理破砕処理に用いられる装置としては、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波破砕機、乳化分散機、ビーズミル等が挙げられる。
【0050】
本発明の一実施形態において、工程(b)は、後述するPHAの製造システムにおける処理槽(B)により行われる。
【0051】
(工程(c))
工程(c)では、前記工程(b)で得られた処理液(「破砕処理液」とも称する。)から、PHAを分離する。工程(c)は、前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを回収する工程と換言することもできる。
【0052】
上記破砕処理液からPHAを分離する方法としては、遠心分離、膜分離等、従来公知の方法が使用できる。中でも、工業的に大量処理が可能で連続使用できることから、遠心分離が好ましい。遠心分離機のなかでは、孔なし回転容器をもつ遠心沈降機が好ましく、種類としては分離板型、円筒型、デカンター型等がある。PHA粒子は、水との比重差が小さいため、分離沈降面積が大きく、高い加速度が得られる分離板型(間欠排出型、ノズル排出型)が好ましい。また、上記破砕処理液に含まれるPHA濃度が高い場合は、特にノズル排出型が好ましい。さらに、デカンター型は、一般的に加速度が低く、固液の比重差が小さい場合は不向きであるが、PHAの粒子径を変化させる等することでデカンター型も使用可能である。また、デカンター型には、分離板を有し、分離沈降面積を大きくした機種もあり、このような機種であれば特に粒子径を変化させなくても使用可能な場合がある。
【0053】
また、工程(c)においては、上述のような分離方法により、破砕処理液からPHAを分離、回収した後、例えば、水でPHAを懸濁させてから再度PHAを分離することによって水洗し、PHA以外の細胞物質を排除することができる。この水洗時のpHは8.0~12.5(すなわち、当該水洗はアルカリ水による洗浄であること)が好ましい。この水洗においては、水洗1回目においてはBODの高い水洗水が発生するが、水洗を繰り返すごとに水洗水のBODは低下する。
【0054】
本発明の一実施形態において、工程(c)は、後述するPHAの製造システムにおける分離装置(C)により行われる。
【0055】
(工程(d))
工程(d)では、微生物からPHAを生産する際に生じる排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する。工程(d)において、前記高濃度排水と、前記低濃度排水と、に分離することにより、工程(f)で使用される低濃度排水処理部(例えば、活性汚泥処理槽)容量の低減・コンパクト化が可能となる。
【0056】
本発明の一実施形態において、前記微生物からPHAを生産する際に生じる排水は、前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である。
【0057】
本明細書において、「BOD」とは、生物化学的酸素要求量のことであり、水中の有機物質を好気性菌が20℃において分解するときに、水1Lあたりに5日間で必要とされる酸素量(mg)を示した数値である。BODは、従来公知の方法によって測定することができるが、例えば、JIS K 0102に定められた方法によって測定することができる。
【0058】
本明細書において、「高濃度排水」とは、BODが7000mg/L以上の濃度の排水を意図する。高濃度排水は、例えば、前記工程(c)においてPHAを含む懸濁液を遠心分離した際に、初期に生じる排水(例えば、遠心分離の1、2回目に生じる排水)から得ることができる。また、例えば、前記工程(a)および/または(b)において所望のPHAが得られなかった際に、培養液や処理液を、前記工程(c)を経ることなく排水として処理する場合において、BODが7000mg/L以上の培養液は、高濃度排水として処理する。
【0059】
本明細書において、「低濃度排水」とは、BODが1000mg/L以下の濃度の排水を意図する。低濃度排水は、例えば、前記工程(c)においてPHAを含む懸濁液を遠心分離した際に、後期に生じる排水(例えば、遠心分離の3~6回目に生じる排水)から得ることができる。また、例えば、前記工程(a)および/または(b)において所望のPHAが得られなかった際に、培養液や処理液を、前記工程(c)を経ることなく排水として処理する場合において、BODが1000mg/L以下の培養液は、低濃度排水として処理する。
【0060】
本発明の一実施形態において、本処理方法では、微生物からPHAを生産する際に生じる排水(例えば、工程(a)~(c)の全部から生じた排水、あるいは工程(a)~(c)のいずれか1つまたは2つの工程から生じた排水)に加えて、製造工程から排出される洗浄水、製造工程に流入した雨水、雑排水等を用いることもできる。これら製造工程から排出される洗浄水、製造工程に流入した雨水、雑排水等はBODが十分低いことから、低濃度排水と同様に工程(f)において処理することができる。
【0061】
本明細書において、「PHAの製造工程および/または排水処理工程から排出される洗浄水」とは、本処理方法および/またはPHAの製造方法で使用した各種槽や装置、配管等を洗浄することにより生じた排水を意図する。例えば、前記工程(a)で使用された培養槽、前記工程(b)で使用された処理槽、前記工程(c)で使用された分離装置等を洗浄することにより生じた排水等が、「製造工程から排出される洗浄水」に含まれる。また、前記工程(c)で得られたPHAを乾燥させる工程等を含んでいる場合は、それらの工程で用いる槽や装置を洗浄することにより生じた排水等も、「製造工程から排出される洗浄水」に含まれる。「製造工程から排出される洗浄水」は、槽や装置の内部を洗浄した洗浄水に限られず、例えば、工程の設備が設置されている防液堤の内部を洗浄する際に排出される排水等も、「PHAの製造工程および/または排水処理工程から排出される洗浄水」に含まれる。
【0062】
本明細書において、「PHAの製造工程および/または排水処理工程に流入した雨水」とは、本処理方法および/またはPHAの製造方法の任意の工程で混入した雨水を意図する。さらに、「雑排水」とは、「PHAの製造工程および/または排水処理工程から排出される洗浄水」および「PHAの製造工程および/または排水処理工程に流入した雨水」以外のもので本処理方法および/またはPHAの製造方法の任意の工程で生じた排水を意図する。
【0063】
工程(d)において、前記高濃度排水と、前記低濃度排水と、を分離する方法、装置等は特に限定されず、当該技術分野で用いられる任意の方法、装置等が採用できる。
【0064】
本発明の一実施形態において、工程(d)は、本処理システムにおける排水分離部(D)により行われる。
【0065】
(工程(e))
工程(e)では、前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水を処理する。
【0066】
本発明の一実施形態において、前記工程(e)は、前記高濃度排水の処理として、蒸発濃縮工程、凝集分離工程、嫌気処理工程、および焼却工程からなる群より選択される少なくとも1つ以上を含むことが好ましい。
【0067】
蒸発濃縮工程は、前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水から水分を蒸発させ、前記排水中の固形分を濃縮する工程である。
【0068】
蒸発濃縮工程の具体的な方法、装置等は特に限定されず、当該技術分野で用いられる任意の方法、装置等が採用できる。例えば、水溶液または水懸濁液を加熱および/または減圧することによって、水を気化させたのち、発生した水蒸気を冷却して凝縮水として分離することによって濃縮する装置が利用できる。また、蒸発濃縮工程において発泡が激しい場合には、前記排水中に消泡剤を添加して発泡を抑制することが好ましい。消泡剤の種類については、特に限定されず、当該技術分野において公知または慣用のものを用いることができる。
【0069】
蒸発濃縮工程においては、固形分の濃度が、5%~80%となるように濃縮するのが好ましく、15%~50%となるように濃縮するのがより好ましく、25%~40%となるように濃縮するのがさらに好ましい。
【0070】
本発明の一実施形態において、蒸発濃縮工程は、本処理システムにおける蒸発濃縮装置により行われる。
【0071】
本発明の一実施得形態において、図1に記載のように、蒸発濃縮工程で得られた濃縮液は、焼却工程に送られ、ボイラー等の熱源として利用され得る。また、本発明の一実施得形態において、蒸発濃縮工程で得られた凝縮水は、放流基準を満たす場合にはそのまま放流してもよいし、放流基準を満たさない場合にはアンモニアストリッピングまたは活性汚泥処理により処理し得る。
【0072】
凝集分離工程は、前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水から固形分を凝集させ、分離する工程である。
【0073】
凝集分離工程の具体的な方法、装置等は特に限定されず、当該技術分野で用いられる任意の方法、装置等が採用できる。
【0074】
本発明の一実施形態において、凝集分離工程は、本処理システムにおける凝集分離槽により行われる。
【0075】
凝集分離工程で添加する薬剤としては、排水中の有機物成分を好適に除去できるものであれば、特に制限されず、公知の凝集剤を用いることができる。当該凝集剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、水酸化カルシウム等の無機系凝集剤や、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびこれらの共重合体等の高分子凝集剤が挙げられる。
【0076】
凝集分離工程によって生成する凝集体は、沈降槽、デカンター、フィルタープレス、ベルトプレス、スクリュープレス、加圧浮上装置等の分離工程によって処理水と分離される。
【0077】
凝集分離工程においては、前記高濃度排水に対して処理水中のBODを40~99%削減するように凝集剤を添加するのが好ましく、55~95%削減するのがより好ましく、70~90%削減するのがさらに好ましい。
【0078】
本発明の一実施得形態において、図2に記載のように、凝集分離工程で得られた凝集体は、焼却工程に送られ、ボイラー等の熱源として利用され得る。また、本発明の一実施得形態において、凝集分離工程で得られた処理水は、後述する活性汚泥処理工程に供され、その後放流され得る。
【0079】
また、本発明の別の一実施得形態において、図3に記載のように、凝集分離工程で得られた凝集体は、嫌気処理工程に送られ、次いで、前記嫌気処理工程で得られたメタンガス等が焼却工程に送られ、ボイラー等の熱源として利用され得る。また、本発明の一実施得形態において、凝集分離工程で得られた処理水は、後述する活性汚泥処理工程に供され、その後放流され得る。
【0080】
嫌気処理工程は、前記凝集分離工程において得られた前記凝集体を、嫌気性菌を含む処理槽で嫌気処理する工程である。工程(e)において、嫌気処理工程を含むことにより、前記凝集体に含まれる有機物の一部をメタンガスとして取り出すことができ、排水処理からエネルギーを生み出すことができる。また、嫌気処理は、エネルギー(メタン)の回収が可能、曝気電力レス、余剰汚泥量が極めて少ない、設置スペースが小さい、界面活性剤含有排水の発泡削減、好気処理よりも飢餓状態に強い、等の利点を有する。
【0081】
嫌気処理工程で使用される嫌気性菌は、排水からメタンを生成できる嫌気性の細菌(換言すれば、メタン生成細菌)であれば、特に限定されない。嫌気性菌しては、例えば、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノサーモバクター(Methanothermobacter)属、メタノブレウィバクター(Methanobrevibacter)属、メタノサルキナ(Methanosarcina)属、メタノサエタ(Methanosaeta)属、メタノスリックス(Methanothrix)属、メタノコーパスキュレム(Methanocorpusculum)属、メタノミクロビウム(Methanomicrobia)網の菌等が挙げられる。
【0082】
嫌気処理工程における凝集体のpHは、嫌気性菌によるメタン生成を行えるpHであれば特に限定されないが、例えば、6.5~8.2であることが好ましい。嫌気処理工程における凝集体のpHが6.5~8.2であると、有機酸の蓄積によるpH低下等によって嫌気性菌に影響が生じず、また、過剰のアルカリによるpH上昇に伴うメタン発酵の抑制を回避できる。pHがこの範囲外である場合には、酸性化合物やアルカリ性化合物の添加によってpHが6.5~8.2の範囲内となるように調整するのが好ましい。当該酸性化合物としては特に制限されず、例えば硝酸;硫酸;塩酸;リン酸などの無機酸や、酢酸;ギ酸;クエン酸;シュウ酸などの有機酸が挙げられる。また、当該アルカリ性化合物としては特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含めたアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ホウ砂等のアルカリ金属のホウ酸塩;リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア水等が挙げられる。
【0083】
嫌気処理工程における凝集体の温度は、嫌気性菌によるメタン生成を行える温度であれば特に限定されないが、例えば、15~65℃であり、25~55℃であることが好ましい。
【0084】
嫌気処理工程における嫌気処理条件は、目的等に応じて、当業者により適宜設定され得る。
【0085】
嫌気処理工程における嫌気処理方式としては、特に限定されないが、浮遊法、UASB法、EGSB法、IC法、湿式メタン発酵法、乾式メタン発酵法等が好適に利用できる。また、これらの方式のうち2以上を組み合わせても良く、複数の嫌気処理槽を直列および/または並列に接続して用いても良い。また、これらの方式に、酸生成菌の作用によって高分子量の炭水化物や脂質類を有機酸や低級アルコールに分解する酸生成槽を組み合わせても良い。
【0086】
本発明の一実施形態において、嫌気処理工程は、本処理システムにおける嫌気処理槽により行われる。
【0087】
焼却工程は、前記高濃度排水処理工程(e)において高濃度排水を処理した残渣として得られる凝集分離後の凝集体や蒸発濃縮液を焼却する工程である。工程(e)において、焼却工程を含むことにより、熱が発生し、その熱をエネルギー源として利用できる。
【0088】
焼却工程の具体的な方法、装置等は特に限定されず、当該技術分野で用いられる任意の方法、装置等が採用できるが、例えば流動焼却装置、液中燃焼装置、キルン炉、ストーカ炉、バイオマスボイラーが挙げられる。
【0089】
本発明の一実施形態において、焼却工程は、本処理システムにおける焼却装置により行われる。
【0090】
(工程(f))
工程(f)では、前記高濃度排水処理工程とは別の工程として、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水を処理する。
【0091】
本発明の一実施形態において、工程(f)は、活性汚泥処理工程を含むことが好ましい。工程(f)において、活性汚泥処理工程を含むことにより、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水中のBOD、窒素成分等を処理できる。
【0092】
活性汚泥処理工程では、例えば、脱窒槽(活性汚泥の処理槽)と曝気槽(活性汚泥の処理槽)とで構成された槽を用いて、排水中の有機物を、好気性菌の作用により分解することができる。好気処理槽は、例えば、第一脱窒槽、曝気槽、第二脱窒槽、および再曝気槽で構成されてもよい。また、膜分離活性汚泥法を用いても良く、この場合には例えば、曝気槽および/または再曝気槽に、UF膜又はMF膜のメンブレンバイオリアクター膜分離活性汚泥法浸透膜(MBR)を設置することで行うことができる。
【0093】
活性汚泥処理工程の曝気槽で使用される好気性菌は、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水中のBOD、窒素成分等を処理できる好気性の細菌であれば、特に限定されない。そのような好気性菌としては、例えば、ニトロソモナス(Nitorosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロコッカス(Nitrococcus)属、ニトロバクター(Nitrobacter)属、ニトロスピラ(Nitrospira)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソビブリオ(Nitrosovibrio)属の細菌といった硝化細菌等が挙げられる。
【0094】
また、活性汚泥処理工程の脱窒槽で使用される細菌は、排水中に含まれる亜硝酸態窒素および/または硝酸態窒素を代謝して窒素ガスを発生させる細菌であれば、特に限定されない。そのような細菌としては、例えば、パラコッカス(Paracoccus)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属の細菌が挙げられる。
【0095】
活性汚泥処理工程における低濃度排水のpHは、例えば、活性汚泥法により好気処理を行えるpHであれば特に限定されないが、例えば、6.0~9.2であることが好ましく、6.5~8.0であることがより好ましい。活性汚泥処理工程における低濃度排水のpHが6.0~9.2であると、例えば、活性汚泥法による好気処理が適切に行える。
【0096】
活性汚泥処理工程における低濃度排水の水温は、例えば、活性汚泥法により好気処理を行える温度であれば特に限定されないが、例えば、10~40℃であることが好ましく、20~30℃であることがより好ましい。
【0097】
活性汚泥処理工程における好気処理条件は、目的等に応じて、当業者により適宜設定され得る。
【0098】
活性汚泥処理のみで放流基準に満たすように処理するのが難しい場合には、前記低濃度排水処理工程(f)は凝集反応工程をさらに備えていても良い。この凝集反応工程では、凝集剤を添加し、精製した凝集体を分離することによって、放流基準を満たすように有機物成分、窒素成分、硫黄成分、リン成分等を除去する。凝集反応工程で添加する薬剤としては、放流基準を満たさない成分を好適に除去できるものであれば、特に制限されず、公知の凝集剤を用いることができる。当該凝集剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、水酸化カルシウム等の無機系凝集剤や、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびこれらの共重合体等の高分子凝集剤が挙げられる。また、放流基準に満たない成分を吸着して除去することができる活性炭を添加しても良い。
【0099】
凝集反応工程によって生成する凝集体は、沈降槽、デカンター、フィルタープレス、ベルトプレス、スクリュープレス、加圧浮上装置等の分離工程によって処理水と分離することができる。
【0100】
本発明の一実施形態において、工程(f)は、本処理システムにおける低濃度排水処理部(F)(例えば、活性汚泥処理槽)により行われる。
【0101】
(工程(g))
工程(g)では、前記工程(e)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する。前記工程(e)では、メタンガス、熱等が生じる。工程(g)では、これらの熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用することにより、廃棄物量の削減、化石燃料の使用量の削減等を達成できる。
【0102】
工程(g)におけるエネルギー源の利用態様としては、特に制限されず、電気に変換して利用しても良いし、熱の状態のまま加熱や乾燥等に利用しても良く、例えば、ボイラー、発電機、ガスタービン、ガスエンジン、燃料電池、熱交換器、乾燥機等が挙げられる。すなわち、前記ボイラー、ガスタービン、ガスエンジン、燃料電池、熱交換器、乾燥機等を稼働させるために、前記工程(e)において生成する熱および/またはメタンガスを用いることができる。
【0103】
本発明の一実施形態において、工程(g)は、本処理システムにおける機構(G)により行われる。
【0104】
(工程(h))
工程(h)では、前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記工程(d)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する。
【0105】
本明細書において、「中濃度排水」とは、前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記工程(d)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の排水を意図する。
【0106】
前記中濃度排水は、前記工程(d)において、高濃度・中濃度・低濃度の3種の排水として分離してもよいし、下記の本発明の一実施形態に従って、高濃度排水側に分離したり、低濃度排水側に分離したり、適宜、方法・システムの構成を設定することもできる。
【0107】
本発明の一実施形態において、前記工程(e)が蒸発濃縮工程を含む場合、前記工程(h)の中濃度排水の処理は、前記低濃度排水処理工程により行われることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、前記低濃度排水処理工程は、活性汚泥処理工程を含むことが好ましい。中濃度排水は高濃度排水に比べて固形分濃度が低いため、中濃度排水を焼却処分できる固形分濃度まで濃縮するには大規模な蒸発濃縮設備が必要となる。また、前記工程(c)から排出される排水処理負荷の高い有機物成分の大部分は高濃度排水中に含まれるため、中濃度排水を活性汚泥処理工程で処理しても、活性汚泥処理槽の容量は十分に小さくなる。従って、高濃度排水のみを蒸発濃縮工程によって処理し、中濃度排水および低濃度排水を活性汚泥処理工程を含む工程で処理することにより、全体の排水処理設備費を最も安価とできる。なお、中濃度排水を、前記高濃度排水処理工程で処理することも可能である。
【0108】
本発明の一実施形態において、前記工程(e)が凝集分離工程を含む場合、前記工程(h)の中濃度排水の処理は、前記高濃度排水処理工程により行われることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、前記低濃度排水処理工程は、活性汚泥処理工程を含むことが好ましい。高濃度排水は凝集を阻害する界面活性剤を多く含むことから、高濃度排水と中濃度排水を混合して界面活性剤の濃度を低下させてから凝集分離工程に供することにより、使用する凝集剤量を大幅に削減することができる。
【0109】
本発明の一実施形態において、前記工程(c)から発生する中濃度排水の全量を必ずしも前記高濃度排水処理工程または前記低濃度排水処理工程のどちらか一方で処理する必要があるわけではなく、中濃度排水の一部を前記高濃度排水処理工程で、その他を低濃度排水処理工程で処理するように分配しても良い。活性汚泥処理槽の容量を効果的に削減するためには、前記高濃度排水処理工程において、前記工程(c)から発生する全BOD負荷量のうちの60~99%のBOD負荷量を処理するように中濃度排水の処理方法を選択することが好ましく、70~95%のBOD負荷量を処理することがより好ましく、80~90%のBOD負荷量を処理することがさらに好ましい。なお、本明細書において、「BOD負荷量」とは、BOD[mg/L]×排水量[L/day]で示される値である。
【0110】
本発明の一実施形態において、工程(h)は、本処理システムにおける機構(H)により行われる。
【0111】
(その他の工程)
本発明の一実施形態において、本処理方法は、前記嫌気処理工程において生成したメタンガスを脱硫する工程を含んでいてもよい。
【0112】
前記嫌気処理工程において生成したメタンガスには、一般に、メタン、二酸化炭素の他に、硫化水素等が含まれる場合がある。硫化水素は、ボイラー等の装置を腐食させるため、前記メタンガス中から除去することが好ましい。
【0113】
メタンガスを脱硫する方法は特に限定されず、当該技術分野で使用される任意の方法が採用できる。メタンガスの脱硫は、例えば、生物脱硫槽を用いて行うこともできるし、乾式脱硫槽を用いて行うこともできる。好ましくは、これらを組み合わせて行われる。
【0114】
本発明の一実施形態として、上記では主に処理後の排水を放流する場合の実施方法について述べたが、高濃度排水処理工程および/または低濃度排水処理工程から排出される処理水を膜分離等の方法でさらに処理することによって、工程において再利用しても良い。工程において再利用するための処理方法としては、従来公知の方法を適用して実施でき、特に限定されないが、例えば国際公開第2021/186872号に記載の方法を使用できる。
【0115】
〔3.排水の処理システム〕
本処理システムは、以下の(D)~(F)を備える:
・(D):微生物からPHAを生産する際に生じる排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する排水分離部
・(E):前記排水分離部(D)にて分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理部
・(F):前記高濃度排水処理部(E)とは別に、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理部
ここで、前記排水は、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である。
・工程(a):PHAを生産する微生物を培養する工程
・工程(b):PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程
・工程(c):前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程。
【0116】
また、本発明の一実施形態において、本処理システムは、さらに以下の工程(G)~(H)を備えることが好ましい:
・(G):前記高濃度排水処理部(E)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する機構
・(H):前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記排水分離部(C)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する機構。
【0117】
本発明の一実施形態において、本処理システムを備える、PHAの製造システム(以下、「本製造システム」とも称する。)を提供する。本製造システムは、本処理システムをその一構成として含むものであればよく、例えば、本排水システムで使用される排水の供給源となる以下の(A)~(C)の少なくとも1つ以上を含み得る:
・(A):PHAを生産する微生物を培養する培養槽
・(B):PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する処理槽
・(C):前記処理槽(B)で得られた処理液から、PHAを分離する分離装置。
本製造システムでは、PHAの製造工程で生じた排水を利用するため、環境負荷を低減しつつ、PHAを製造できる。
【0118】
培養槽(A)は、工程(a)を行うための槽である。処理槽(B)は、工程(b)を行うための槽である。分離装置(C)は、工程(c)を行うための装置である。排水分離部(D)は、工程(d)を行うための部である。高濃度排水処理部(E)は、工程(e)を行うための部である。低濃度排水処理部(F)は、工程(f)を行うための部である。機構(G)は、工程(g)を行うための機構である。機構(H)は、工程(h)を行うための機構である。
【0119】
本発明の一実施形態において、前記低濃度排水処理部(F)は、活性汚泥処理槽を備えることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、前記高濃度排水処理部(E)は、蒸発濃縮装置、凝集分離槽、嫌気処理槽、および焼却装置からなる群より選択される少なくとも1つ以上を備えることが好ましい。
【0120】
本発明の一実施形態において、前記高濃度排水処理部(E)が、蒸発濃縮装置を備える場合、前記機構(H)の中濃度排水の処理は、前記低濃度排水処理部(F)により行われることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、前記低濃度排水処理部(F)は、活性汚泥処理槽を備えることが好ましい。
【0121】
本発明の一実施形態において、前記高濃度排水処理部(E)が、凝集分離槽を備える場合、前記機構(H)の中濃度排水の処理は、前記高濃度排水処理部(E)により行われることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、前記高濃度排水処理部(E)は、蒸発濃縮装置、凝集分離槽、嫌気処理槽、および焼却装置からなる群より選択される少なくとも1つ以上を備えることが好ましい。
【0122】
本発明の一実施形態において、前記高濃度排水処理部(E)において、前記排水のBOD負荷量のうちの60~99%のBOD負荷量を処理するように中濃度排水を前記高濃度排水処理部(E)と前記低濃度排水処理部(F)のいずれかまたは両方に供給することが好ましい。
【0123】
本処理システムおよび/または本製造方法は、上記各構成を備えることにより、PHAの製造プロセスにおいて、活性汚泥処理槽の容積を低減できる。
【0124】
本発明の一実施形態において、本処理システムおよび/または本製造方法は、上記各構成に加えて、当該技術分野において使用される種々の装置、槽等をさらに備えることもできる。例えば、本処理システムは、図1~3に記載の各工程で使用される各種構成をさらに備えていてもよい。
【0125】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0126】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理方法であって、
前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する工程(d)と、
前記工程(d)において分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理工程(e)と、
前記高濃度排水処理工程とは別の工程として、前記工程(d)において分離した、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理工程(f)と、
を含み、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理方法:
PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
<2>前記工程(f)が、活性汚泥処理工程を含む、<1>に記載の排水の処理方法。
<3>前記工程(e)が、蒸発濃縮工程、凝集分離工程、嫌気処理工程、および焼却工程からなる群より選択される少なくとも1つ以上を含む、<1>または<2>に記載の排水の処理方法。
<4>前記工程(e)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する工程(g)をさらに含む、<1>~<3>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<5>前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記工程(d)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する工程(h)を含む、<1>~<4>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<6>前記工程(e)が、蒸発濃縮工程を含み、
前記工程(h)の中濃度排水の処理が、前記低濃度排水処理工程により行われる、<5>に記載の排水の処理方法。
<7>前記工程(e)が、凝集分離工程を含み、
前記工程(h)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理工程により行われる、<5>に記載の排水の処理方法。
<8>前記工程(h)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理工程、前記低濃度排水処理工程のいずれかまたは両方により行われ、
前記高濃度排水処理工程において、前記排水のBOD負荷量のうちの65~90%のBOD負荷量を処理するように中濃度排水を前記高濃度排水処理工程、前記低濃度排水処理工程のいずれかまたは両方に分配して供給する、<5>~<7>のいずれかに記載の排水の処理方法。
<9><1>~<8>のいずれかに記載の排水の処理方法を含む、PHAの製造方法。
<10>微生物からPHAを生産する際に生じる排水の処理システムであって、
前記排水を、BODが7000mg/L以上の高濃度排水と、BODが1000mg/L以下の低濃度排水と、に分離する排水分離部(D)と、
前記排水分離部(D)にて分離した、前記高濃度排水を処理する高濃度排水処理部(E)と、
前記高濃度排水処理部(E)とは別に、前記低濃度排水を処理する低濃度排水処理部(E)と、
を備え、
前記排水が、以下の工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水である、排水の処理システム:
PHAを生産する微生物を培養する工程(a)、
前記PHAを含む微生物の破砕および/または可溶化処理を実施する工程(b)、
前記工程(b)で得られた処理液から、PHAを分離する工程(c)。
<11>前記低濃度排水処理部(F)が、活性汚泥処理槽を備える、<10>に記載の排水の処理システム。
<12>前記高濃度排水処理部(E)が、蒸発濃縮装置、凝集分離槽、嫌気処理槽、および焼却装置からなる群より選択される少なくとも1つ以上を備える、<10>または<11>に記載の排水の処理システム。
<13>前記高濃度排水処理部(E)において生成する熱および/またはメタンガスをエネルギー源として利用する機構(G)をさらに備える、<10>~<12>のいずれかに記載の排水の処理システム。
<14>前記工程(a)~(c)のいずれか1以上の工程において生じた排水のうち、前記排水分離部(D)で分離される前記高濃度排水および前記低濃度排水以外の中濃度排水を処理する機構(H)を備える、<10>~<13>のいずれかに記載の排水の処理システム。
<15>前記高濃度排水処理部(E)が、蒸発濃縮装置を備え、
前記機構(H)の中濃度排水の処理が、前記低濃度排水処理部(F)により行われる、<14>に記載の排水の処理システム。
<16>前記高濃度排水処理部(E)が、凝集分離槽を備え、
前記機構(H)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理部(E)により行われる、<14>に記載の排水の処理システム。
<17>前記機構(H)の中濃度排水の処理が、前記高濃度排水処理部(E)、前記低濃度排水処理部(F)のいずれかまたは両方により行われ、
前記高濃度排水処理部(E)において、前記排水のBOD負荷量のうちの65~90%のBOD負荷量を処理するように中濃度排水を前記高濃度排水処理部(E)、前記低濃度排水処理部(F)のいずれかまたは両方に分配して供給する、<14>~<16>のいずれかに記載の排水の処理システム。
【実施例0127】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0128】
〔実施例1〕
国際公開第2019/142717号に記載のラルストニア・ユートロファを、同文献の段落〔0041〕~〔0048〕に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体(微生物)を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネカトールに分類されている。
【0129】
上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で30分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
【0130】
前記滅菌処理後の微生物を破砕および可溶化した残渣と、PHAからなる微粒子とを含むスラリーに対して、工業用水による希釈および遠心分離を6回繰り返し、微生物残渣の除去された精製PHAを得た。1回目および2回目の遠心分離排水の混合液の水量は100m/day、BODは28000ppmであり、3回目および4回目の遠心分離排水の混合液の水量は110m/day、BODは3300ppmであり、5回目および6回目の遠心分離排水の混合液の水量は110m/day、BODは400ppmであった。このうち、3回目~6回目の遠心分離排水を活性汚泥法によって処理することにより、容積320mの活性汚泥処理槽でBODを60ppmまで処理することができた。1回目および2回目の遠心分離排水については、蒸発濃縮で15倍濃縮したのち、流動焼却炉で焼却することによって処理した。流動焼却炉から発生した熱を利用してボイラーで蒸気を生成し、蒸発濃縮において必要な熱媒体として利用した。
【0131】
〔実施例2〕
前記滅菌処理後の微生物を破砕および可溶化した残渣と、PHAからなる微粒子とを含むスラリーに対して、工業用水による希釈および遠心分離を6回繰り返し、微生物残渣の除去された精製PHAを得た。1回目および2回目の遠心分離排水の混合液の水量は100m/day、BODは28000ppmであり、3回目および4回目の遠心分離排水の混合液の水量は110m/day、BODは3300ppmであり、5回目および6回目の遠心分離排水の混合液の水量は110m/day、BODは400ppmであった。このうち、1~4回目の遠心分離排水については、まず、凝集剤を添加してBODを4500ppmまで低減させた。この凝集分離後の処理液、ならびに5回目および6回目の遠心分離排水を活性汚泥法によって処理することにより、容積700mの活性汚泥処理槽でBODを75ppmまで処理することができた。凝集剤の添加によって得られた凝集体からは、嫌気処理によってメタンガスを回収し、このメタンガスはボイラーの燃料として利用した。
【0132】
〔比較例1〕
前記滅菌処理後の微生物を破砕および可溶化した残渣と、PHAからなる微粒子とを含むスラリーに対して、工業用水による希釈および遠心分離を6回繰り返し、微生物残渣の除去された精製PHAを得た。1回目および2回目の遠心分離排水の混合液の水量は100m/day、BODは28000ppmであり、3回目および4回目の遠心分離排水の混合液の水量は110m/day、BODは3300ppmであり、5回目および6回目の遠心分離排水の混合液の水量は110m/day、BODは400ppmであった。これらの排水を全て活性汚泥法によって処理し、BODを75ppmまで低減する場合に、活性汚泥処理槽の容積として2300mが必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、排水処理の分野、およびその他の分野において、好適に利用することができる。
図1
図2
図3