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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132282
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】転炉用昇熱材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/30 20060101AFI20230914BHJP
   C22B 1/242 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C21C5/30 A
C22B1/242
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037508
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 淳史
(72)【発明者】
【氏名】青木 利一
(72)【発明者】
【氏名】関屋 政洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 宗幸
【テーマコード(参考)】
4K001
4K070
【Fターム(参考)】
4K001CA28
4K001CA29
4K001GA06
4K070AB03
4K070AC02
4K070AC28
4K070AC34
4K070AC36
4K070BA07
4K070EA12
4K070EA14
4K070EA27
(57)【要約】
【課題】炭化物の充填率を高めて昇熱材の強度を高めつつバインダーの添加量を削減することを可能とする転炉用昇熱材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材であって、前記炭化物成型体中の炭化物は、(a)最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満の粒径を有し、(b)大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が1.5~2.3であることを特徴とする転炉用昇熱材、および、前記転炉用昇熱材の製造方法であって、炭化物原料に対し、1または複数の篩分け処理および1または複数の破砕処理を施して、前記炭化物粉粒体を前記(a)、(b)と同様の粒度分布となるようにする転炉用昇熱材の製造方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材であって、
前記炭化物成型体中の炭化物は、
(a) 最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満の粒径を有するものであり、
(b) 大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3であることを特徴とする、転炉用昇熱材。
【請求項2】
前記転炉用昇熱材は、圧潰強度が490N/個以上であることを特徴とする、請求項1に記載の転炉用昇熱材。
【請求項3】
炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材の製造方法であって、
石炭、植物系バイオマス、廃プラスチックの群から選択される少なくとも1つを炭化して炭化物原料を製造し、
前記炭化物原料に対し、1または複数の篩分け処理および1または複数の破砕処理を施して、
(a’) 前記炭化物原料から、最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満となる範囲内で、粒度の異なる複数の群に区分けされた前記炭化物粉粒体を得るようにし、さらに、
(b’) 得られた前記炭化物粉粒体を、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3の範囲となるように調合して前記成型前の前記炭化物粉粒体とする
ことを特徴とする、転炉用昇熱材の製造方法。
【請求項4】
前記転炉用昇熱材は、圧潰強度が490N/個以上であることを特徴とする、請求項3に記載の転炉用昇熱材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉用昇熱材に関し、詳しくは、昇熱材の原料である炭化物の充填率を高めて昇熱材の強度を高めつつバインダーの添加量を適正化する転炉用昇熱材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程の転炉は、高炉で出銑された溶銑に高純度の酸素を高速で吹き付けることにより脱炭を行い、溶鋼を製造する主要なプロセスである。同時に、生石灰を主体とする副原料を投入し、溶銑中の不純物(リン等)の除去を行う。
【0003】
一方、転炉の前工程として溶銑予備処理を行い、鉄鋼製品の材料特性面の要求から溶銑中のS、Pなどを除く処理を行う場合もある。この場合、溶銑予備処理により溶銑温度が低下するという問題がある。
【0004】
また近年、環境保護の観点から、製鉄プロセスにおいてはCO排出量の削減が重要課題となっており、製鋼工程においては、使用する鉄源として鉄スクラップ(屑鉄)などの冷鉄源の配合比率を高め、溶銑の配合比率を低減することが試みられている。これは、鉄鋼製品の製造にあたり、高炉での溶銑の製造では、鉄鉱石を還元し且つ溶融するための多大なエネルギーを要すると同時に多量のCOを排出するのに対し、冷鉄源は溶解熱のみを必要としており、製鋼工程で冷鉄源を利用した場合には、鉄鉱石の還元熱分のエネルギー使用量を少なくすることができ、CO発生量を大幅に削減することができるからである。しかしながら、転炉においては、冷鉄源の溶解用熱源は溶銑の有する顕熱、及び溶銑中の炭素及び珪素の酸化熱であり、冷鉄源の溶解量には自ずと限界がある。
【0005】
そこで、溶銑の脱燐処理や脱炭精錬において、溶銑の熱的余裕を高めて冷鉄源の配合比率を拡大するべく、溶銑に追加の炭素源を供給する昇熱材として、石炭、コークス粉、黒鉛、電極粉、SiCなどを塊状に成型した昇熱材が種々提案されている。なお、成型しない天然鉱産物の土状黒鉛も、比較的安価であることから、昇熱材として用いられる場合もある。
【0006】
そのような転炉用の昇熱材については、たとえば、特許文献1では、粒度が1mm以下を30~70%含み、他は粒度が1~8mmの炭素粉(石炭、コークス粉、黒鉛など)に、炭素粉の0.5~1.0重量%の範囲でポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、α澱粉などからなるバインダーを加え、含有水分が10%以下となるように調質して混錬後、高圧成形、乾燥することにより、炭素粉を十分な強度の固形物に成型することを可能としている。
【0007】
また、特許文献2では、カーボンニュートラルな植物系バイオマスを炭化した炭化物と、炭化物の質量に対して1~15質量%の澱粉、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどからなるバインダーとで成型してなる転炉用昇熱材を、石炭、コークス、黒鉛等の化石資源を原料とする従来からの転炉用昇熱材の代替とすることにより、化石資源消費量を低減し、温室効果ガスであるCOの発生を低減できるようにするととともに、炭化物の粒径を3mm以下とすることにより、転炉用昇熱材として十分な強度である圧潰強度490N/個以上の固形物にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2-270922号公報
【特許文献2】特許第5846289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された昇熱材の原料の炭素粉は、粒度が1mm以下のものの割合が30~70%と多いため、そのための炭素原料の粉砕処理等、粒度調整のための処理負荷が高いという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載された昇熱材の原料の炭素粉は、粒径3mm以下と比較的狭い粒度範囲に整粒する必要があり、特許文献1に記載された発明同様に、そのための炭素原料の粉砕処理等、粒度調整のための処理負荷が高いという問題がある。
【0011】
また、特許文献1に記載された昇熱材では、炭素粉の0.5~1.0重量%の範囲でバインダーが使用され、特許文献2に記載された昇熱材では、炭化物の1~15質量%のバインダーが使用されているところ、近年、植物由来のバインダーの、具体的にはトウモロコシ由来のコーンスターチの価格変動が大きくなっていることが問題となっている。これは、異常気象によるトウモロコシの作柄不良に連動した価格変動や、環境負荷低減のためのトウモロコシ由来のバイオエタノールの需要増に伴う価格上昇圧力のためである。そのため、昇熱材の成型時に使用するバインダーを低減させる技術が従来に増して求められるようになってきている。
【0012】
一方で、バインダーの添加量が必要量よりも過少であると、成型した炭材の強度不足等の異常が生じ、搬送時の操業トラブルや歩留まり低下等の問題が発生する。また、バインダー量の削減による成型炭材の強度不足の問題を、原料の炭化物を全て微破砕することで成型炭材の強度を確保して解消することとすれば、炭化物の微破砕のためのコスト増の問題が生じて総合的な経済性が損なわれるという問題がある。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、昇熱材の原料である炭化物の粒度の分布を適正化することにより、炭化物の充填率を高めて昇熱材の強度を高めつつバインダーの添加量を削減することを可能とする転炉用昇熱材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材であって、前記炭化物成型体中の炭化物は、(a)最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満の粒径を有するものであり、(b)大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3であることを特徴とする、転炉用昇熱材。
[2]前記転炉用昇熱材は、圧潰強度が490N/個以上であることを特徴とする、[1]に記載の転炉用昇熱材。
[3]炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材の製造方法であって、石炭、植物系バイオマス、廃プラスチックの群から選択される少なくとも1つを炭化して炭化物原料を製造し、前記炭化物原料に対し、1または複数の篩分け処理および1または複数の破砕処理を施して、(a’)前記炭化物原料から、最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満となる範囲内で、粒度の異なる複数の群に区分けされた前記炭化物粉粒体を得るようにし、さらに、(b’)得られた前記炭化物粉粒体を、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3の範囲となるように調合して前記成型前の前記炭化物粉粒体とすることを特徴とする、転炉用昇熱材の製造方法。
[4]前記転炉用昇熱材は、圧潰強度が490N/個以上であることを特徴とする、[3]に記載の転炉用昇熱材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、転炉用昇熱材(炭化物成型体)(以下、単に昇熱材ともいう。)中の炭化物の粒度の分布を、炭化物の最大粒径が転炉用昇熱材の代表長さdの1/2未満の粒径とし、かつ、炭化物粒子を、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が1.5~2.3の範囲とすることにより、炭化物の充填率を高めて昇熱材の強度を高めつつ、経済的合理性のある範囲でバインダーの添加量を削減することを可能とする転炉用昇熱材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の転炉用昇熱材が用いられる転炉設備の1例の概略断面図である。
図2】本発明に至る予備実験および実施例で用いたロールクラッシャー(カッターミル)により、バイオマス炭を粉砕する様子を概略断面図で示す図である。
図3】本発明に至る予備実験および実施例で用いた双ロール式ブリケットマシンにより、バイオマス炭の粉砕物を圧縮成形する様子を概略断面図で示す図である。
図4】本発明に至る予備実験および実施例で用いたペレット製造機(ペレタイザー)により、バイオマス炭の粉砕物を押し出し成形する様子を概略断面図で示す図である。
図5】本発明に至る予備実験で得られた図であって、転炉用昇熱材中の炭化物の大粒径と小粒径の割合と転炉用昇熱材の炭化物成型体の空隙率の関係を、大粒径と小粒径の粒子径比で層別してまとめた図である。
図6】本発明に至る予備実験で得られた図であって、転炉用昇熱材中の炭化物の大粒径と小粒径の粒子径比と転炉用昇熱材の炭化物成型体の最小空隙率の関係をまとめた図である。
図7】本発明に至る予備実験で得られた図であって、炭化物成型体の代表長さdに対する大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比と転炉用昇熱材の成型の際に必要なバインダー濃度との関係をまとめた図である。
図8】本発明のペレット形状の炭化物成型体の実施例で用いられたバイオマス炭材の粉砕物の粒度の測定結果を示す図である。
図9】本発明のブリケット形状の炭化物成型体の実施例で用いられたバイオマス炭材の粉砕物の粒度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明を適用する転炉設備を説明する。図1は、本発明の転炉用昇熱材を用いる転炉設備の1例の概略断面図である。
【0018】
図1において、溶銑8を収容した転炉本体1の内部には、上方から上吹きランス2が挿入され、この上吹きランス2から酸素ガスが溶銑8に吹き付けられると同時に、転炉本体1の底部に配置した複数の底吹き羽口3から攪拌用底吹きガスが吹き込まれて溶銑8とスラグ9とが攪拌されながら、溶銑8の脱炭精錬が行われる。溶銑8の脱炭精錬によって炉内からCOガスを主体とする転炉排ガス10が発生する。
【0019】
転炉本体1の上方には煙道4が設置され、煙道4の後段には、一次集塵機(図示せず)、二次集塵機(図示せず)、誘引送風機(図示せず)が、この順に設置されている。このような転炉排ガス10の処理設備により、脱炭精錬によって転炉本体1の内部で発生する転炉排ガス10を、冷却して除塵し未燃焼のまま、誘引送風機(図示せず)の下流側のガスホルダー(図示せず)に回収されるようになっている。
【0020】
煙道4の転炉本体1の炉口との接続側は、スカート5と呼ばれており、上下移動が可能な構造となっており、排ガスを回収する場合には、スカート5と転炉本体1の炉口とは原則的には密着した状態になる。また、煙道4には、生石灰、焼成ドロマイト、鉄鉱石、ミルスケール、マンガン鉱石、昇熱材(コークス、土壌黒鉛などの炭材)及び合金鉄(Fe-Mn、Fe-Siなど)などの副原料を転炉本体1に投入添加するための、ホッパー6及び投入シュート7などからなる副原料投入装置が設置されている。副原料投入装置から炉内に投入される生石灰、焼成ドロマイト、鉄鉱石、ミルスケール、マンガン鉱石などによってスラグ9が形成される。
【0021】
本発明の転炉用昇熱材は、炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材であって、前記炭化物成型体中の炭化物は、(a)最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満の粒径を有するものであり、(b)大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の転炉用昇熱材の製造方法は、炭化物粉粒体とバインダーとで成型してなる炭化物成型体の転炉用昇熱材の製造方法であって、石炭、植物系バイオマス、廃プラスチックの群から選択される少なくとも1つを炭化して炭化物原料を製造し、前記炭化物原料に対し、1または複数の篩分け処理および1または複数の破砕処理を施して、(a’)前記炭化物原料から、最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満となる範囲内で、粒度の異なる複数の群に区分けされた前記炭化物粉粒体を得るようにし、さらに、(b’)得られた前記炭化物粉粒体を、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3の範囲となるように調合して前記成型前の前記炭化物粉粒体とすることを特徴とする。
【0023】
本発明の炭化物成型体(転炉用昇熱材)は、炭化物粉粒体を主原料にしてバインダーと水を加え、公知のミキサー(図示せず)で混合、撹拌してから公知の成型装置(図3図4参照)によって成型し、その後、所定の水分量まで乾燥させることにより得られる。主原料の炭化物粉粒体は、まず、原料である石炭、植物系バイオマス、廃プラスチック等を、ロータリーキルン炉、バッチ式炉、シャフト炉等の公知の炭化装置(図示せず)で炭化し、次に、得られた炭化物を、必要に応じて公知のカッターミルを1回または複数回通して種々の粒度に破砕し、さらに篩分け等により粒度調整して製造される。バインダーとしては、無機系のベントナイト、有機系のカルボキシメチルセルロース、コーンスターチ等を用いることができる。
【0024】
公知のカッターミルとして、図2では、ロータリーキルン炉等で乾留された炭材21が、ロールクラッシャー(カッターミル)26のホッパー27からクラッシャーロール28に供給され破砕されて粉砕物22となって、ベルトコンベヤー29で搬出される様子を概略的に示している。炭化物成型体の成型装置としては、公知の双ロール式ブリケットマシンや、ペレット製造機(ペレタイザー)などを用いることができる。図3では、粒度調整された炭材にバインダーと水を加えてミキサーで混錬された炭材の混錬物23が、双ロール式ブリケットマシン31のホッパー32から成型ロール33に供給され圧縮成型されて炭材の成型物24(ブリケット24a)となって、ベルトコンベヤー34で搬出される様子を概略的に示している。また図4では、同様の炭材の混錬物23が、ペレット製造機(ペレタイザー)41のホッパー42からスクリューフィーダー43に供給され圧縮されて押出成型され、さらにカッター44で所定長さに切断された成型物24(ペレット24b)となって、ベルトコンベヤー45で搬出される様子を概略的に示している。
【0025】
本発明の炭化物成型体中の炭化物が、最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2未満の粒径を有するものとするのは、転炉用昇熱材の製造時のバインダー濃度を不必要に増大させないためである。すなわち、炭化物粉粒体を造粒する際に、大粒子間に小粒子が入り込んで密充填されるとの期待に反して、場所によっては大粒子間に小粒子が入り込まない部分が発生する場合があるが、このような現象は、後述の予備実験結果で説明するとおり、最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2以上で特に顕著となる。そのため、このような大粒子間でもバインダーを含む水の液架橋付着力により粒子が結合するものの、最大粒径が前記炭化物成型体の代表長さdの1/2以上で大粒子間が広く空いて間隔が広がるようになると、大きな液架橋付着力が必要となり、バインダー濃度を高める必要があるからである。
【0026】
ここで、本発明の炭化物成型体(転炉用昇熱材)の代表長さdについて説明する。すなわち、代表長さdとは、転炉用昇熱材にかかる重力とその外形に応じて転炉排ガスから受ける抗力との釣り合い関係を取り扱うときの転炉用昇熱材の外形を代表させる長さである。この代表長さを用いて、たとえば転炉排ガスから受ける抗力との釣り合い関係から重力の方が小さくなる代表長さの昇熱材を用いれば、昇熱材が転炉排ガスとともに浮上して、昇熱材を溶湯まで投入することができなくなることを事前に検討することができる。なお、転炉用昇熱材がペレット形状の場合の代表長さdは、ペレット径で代表させ、転炉用昇熱材がブリケット形状の場合の代表長さdは、最大対角長さで代表させることができる。
【0027】
また、本発明の炭化物成型体中の炭化物が、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が1.5~2.3となるようにするのは、後述の予備実験および実施例で説明するとおり、大小の粒子を配合しない場合よりも空隙率が低下し、その空隙率の変化率も小さく空隙率の許容できる範囲に広い幅を持つため、製造の際のばらつきを考慮しても炭化物成型体の異常が発生せず製品歩留まりを高く維持できるためである。
【0028】
ここで、本発明の転炉用昇熱材(炭化物成型体)中の炭化物粒子のメジアン粒径の比の測定について説明する。まず、転炉用昇熱材(炭化物成型体)を水につけてバインダーを溶かした後、ろ過を行い炭化物を採取して純水もしくはメタノールで洗浄してから、レーザ回折粒度分布測定(JIS Z 8825:2013 粒子径解析-レーザ回折・散乱法)により、炭化物粒子の粒度分布を求める。次に、その粒度分布についてコンピューター解析することにより、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比を求めることができる。なお、ここでのメジアン粒径D50とは、横軸に粒径をとり、縦軸に粒子量の累積値を体積百分率(%)で表した体積基準の積算分布曲線において、その累積値が50%にあたる粒径を読み取って定めるものである。
【0029】
一方、本発明の転炉用昇熱材の製造方法において、炭化物成型体の主原料である炭化物粉粒体のメジアン粒径の比の測定については、所定粒径毎の篩目毎に炭化物粉粒体を篩分けして炭化物粉粒体の粒度分布を求め、その粒度分布について、上記の炭化物成型体中の炭化物粒子のメジアン粒径の比の求め方と同様の方法で求めることができる。なお、炭化物成型体の原料である炭化物粉粒体でのメジアン粒径の比の測定結果と、その炭化物粉粒体から製造された炭化物成型体中の炭化物粒子のメジアン粒径の比の測定結果とは、原理的にも統計的にも等しいものと扱うことができる。
【0030】
このような炭化物粒径の範囲についての予備実験の結果について次に説明する。
本発明者らは、まず、炭化物粉粒体を成型して得られる炭化物成型体(転炉用昇熱材)の圧潰強度と炭化物粒子の充填率の関係について検討した。一般に、充填率が高いと、粒子間隙の毛管吸引力が高まることや粒子同士が互いの凹凸部に接合するといった機械的接合の効果が作用するため、圧潰強度と充填率(=1-空隙率)は比例することが知られている。
【0031】
充填率に関しては、Horsfieldによる充填モデルが知られており、単一粒径φの真球粒子を六方最密充填とした場合、空隙率は25.9%となる。更に、真球粒子間の残りの空間に先の真球粒子径φに対し、0.414φの真球粒子を充填することで、空隙率は20.7%とすることができる。しかしながら、炭化物を成型する場合、充填構造が六方最密充填にはなっておらず、粒形が真球でもなく、さらに粒径が均一ではなく分布を持つため、Horsfieldによる充填モデルの適用は難しい。
【0032】
そこで、炭化物の充填率を高めて炭化物成型体の圧潰強度を高めるための予備実験として、バイオマス炭化物をペレットに成型する場合について、まず、ペレット径A(A=20mm)の整数分割相当(1/2A、1/3A、1/4A、1/5A、1/6A)の平均粒子径を持つ炭化物群を、原料の炭化物の粉砕、篩い分けにより粒度調整して準備した。これらの炭化物群のうち、大粒子径側の炭化物群としては、1/2A、1/3A、1/4A、1/5Aの4つの群とし、小粒子径側の炭化物群としては、1/3A、1/4A、1/5A、1/6Aの4つの群として、表1に示す10組の組み合わせについて検討することにした。図5は、このような10組の炭化物の組合せのうち、一例としての4種類の粒子径比(1.3、2.0、2.5、3.0)となる組について、各組内の小粒子の体積割合(配合比)を変化させた試料毎の空隙率(=1-充填率)を測定した結果を示すものである。なお、このときの条件毎の各々の試料は、各組内の小粒子の体積割合(配合比)を変化させた炭化物の混合物毎に、バインダーとして炭化物の8質量%のコーンスターチと適当な水を添加して混錬し、その後にペレタイザーで成型してペレットの成型品とし、さらに含水率3質量%以内となるように乾燥させて供試材としたものである。また、表1には、図5および図5と同等の図(図5で表示していない粒子径比でのデータを含むもの)から読み取れる最小空隙率も併記した。
【0033】
【表1】
【0034】
図5から小粒子径と大粒子径との配合比によって空隙率が変化し、小粒子の体積割合が0.3付近で最小値を取ることが分かる。また図5から、空隙率の変化は、粒子径の比で層別して整理できることも分かる。図6は、このように層別して整理できる転炉用昇熱材中の炭化物の大粒径と小粒径の粒子径比を横軸に取り、転炉用昇熱材の炭化物成型体の最小空隙率を縦軸に取って、これらの関係をまとめた図である。この図6から、炭化物の粒子径比(大粒子径/小粒子径)を大きくすることで、最小空隙率を低下させることができることが分かる。このことから、さらに空隙を埋めるための添加水分量を低減させることができると推測された。
【0035】
ただし、組No.3、4では、粒子径比が大きく、最小空隙率をそれぞれ、0.32、0.25と大きく低減させることができるものの、図5から分かるとおり炭化物粒子の配合比による空隙率の変化が大きい。そのため、製造の際のばらつきによって、添加水分量が適正値よりも多くなり、成型後、乾燥前の炭化物成型体にラミネーションなどの異常が発生して製品歩留まりが低下することが懸念される。一方で、組No.1、2、5~10は、空隙率は組No.3、4には劣るものの、空隙率が最小となる配合比の近辺の空隙率の変化率が小さく、空隙率の許容できる範囲に広い幅を持つため、製造の際のばらつきを考慮しても、炭化物成型体の異常が発生せず、高い製品歩留まりが得られることが期待される。このため、空隙率は組No.3、4には劣るものの、大小の粒子を配合しない場合(空隙率0.39)よりも空隙率が2~5%低下し、製造の際のばらつきを考慮しても、炭化物成型体の異常が発生せず、製品歩留り低下の無い、組No.1、2、7、9が適当だと判断した。
【0036】
上記のとおり、図6から、炭化物の粒子径比を大きくすることで、最小空隙率を低下させることができ、さらに空隙を埋めるための添加水分量を低減させることができることが推測されることから、さらに推し進めて、転炉用昇熱材の成型の際に必要なバインダー量の低減の可能性を検討することにした。図7は、炭化物成型体の代表長さdに対する大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比と転炉用昇熱材の成型の際に必要なバインダー濃度との関係をまとめた図である。図7によると、大粒子として、1/2Aのように大きな径を持つ粒子を用いた場合、必要なバインダー濃度が増加することが判明した。この原因として次のようなことが推定される。すなわち、造粒の際、大粒子間に小粒子が入り込むため、密充填されることを期待しているが、場所によっては大粒子間に小粒子が入り込まない部分がどうしても発生してしまう。この部分では、大粒子間でバインダーを含む水の液架橋付着力により粒子が結合する。大粒子間の間隔が広いほど、大きな液架橋付着力が必要となり、そのためにバインダー濃度を高める必要があると推定される。実際に、組No.2の様に、大粒子に1/2Aを用いた場合では、組No.7の様に、大粒子に1/3Aを用いた場合と比較して、高いバインダー濃度を必要とした。このため、組No.2よりも、組No.7の方が、バインダー量は低下した。
【0037】
以上のような予備実験結果および後述の実施例から、本発明の転炉用昇熱材に含まれる炭化物は、まず、バインダー濃度を不必要に増大させないために、(a)最大粒径が転炉用昇熱材(炭化物成型体)の代表長さdの1/2未満の粒径を有するものとし、同時に、好ましい制御範囲を確保するために、(b)大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、1.5~2.3であるようにする。
【0038】
本発明の転炉用昇熱材の圧潰強度は、490N/個以上であるのが好ましい。昇熱材の圧潰強度が490N/個未満である場合は、昇熱材が溶鋼へ着湯するまでに破砕して粉塵となり転炉排ガスとともに飛散してしまい、昇熱材を歩留まり高く溶湯まで投入することができないためである。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0040】
炭化物原料として、製材端材や林地残材等の木質原料を用いることとし、650℃で加熱炭化したバイオマス炭材を被成型物に供することにした。
【0041】
実施例に供した転炉用昇温材の形状は、直径20mmのペレット形状のものと、一辺50mmのブリケット形状のものとした。このときのバイオマス炭材の粉砕物粒度目標値は、概ね「最大粒径が炭化物昇熱材の代表長さdの1/2未満の粒径を有するもの」との要件を満たすように、直径20mmのペレット形状の場合は9mm以下、一辺50mmのブリケット形状の場合は22mm以下とすることにした。
【0042】
このような粉砕物粒度の目標値に従って、上記のバイオマス炭材を、前述した予備実験と同様に、図2に示したロールクラッシャー(カッターミル)26に1回または複数回通した後、篩分けして得られた種々の平均粒子径のバイオマス炭の粉砕物を準備した。さらに、これら種々の平均粒子径のバイオマス炭の粉砕物を組み合わせて、大粒径側が70体積%、小粒径側が30体積%となるように区分したときの、大粒径側の炭化物のメジアン粒径D50と小粒径側の炭化物のメジアン粒径D50の比が、表2に示すとおりの1.3から2.5の範囲の炭化物粉粒体の混合物を5組分調合した。調合した5組の炭化物粉粒体のそれぞれの粒度分布を、図8図9に示す。
【0043】
次に、表2に示す混合条件で、5組の炭化物粉粒体のそれぞれにバインダーのコーンスターチと水を加えて混合して、図3に示す双ロール式ブリケットマシンまたは図4に示すペレタイザーで、ブリケットまたはペレットに圧縮成形した。成型後は、5日間常温で静置して、含有水分量が3%程度まで乾燥させて転炉用昇熱材とした。
【0044】
比較例1では、表2、図8(a)に示されるとおり、粒子径比が1.3と小さく大粒子間の隙間を埋める小粒子が少ないため最小空隙率を低下させることがほとんどできず、大粒子間の隙間を埋めるための添加水分量が増大しこれに伴って添加バインダー量が5組の中で一番大きくなった。また、乾燥後の炭化物成型体のn=10の抜き取りをした圧潰強度も、比較例1では、操業で必要となる490N以上の圧潰強度を達成することができなかった。
【0045】
また、比較例2では、表2、図9(b)に示されるとおり、粒子径比が2.5と大きく最小空隙率が低くなり、大粒子間の隙間を埋めるための添加水分量が少なくなり、これに伴って添加バインダー量が5組の中で本発明例3とともに一番少なくなった。しかし、粒子径比が大きいため炭化物粒子の配合比による空隙率の変化が大きく(図5参照)、製造の際のばらつきによって添加水分量が適正値よりも多くなり易いこともあり、成型後、乾燥前の炭材にラミネーションなどの異常が発生して製品歩留りが著しく低下し、圧潰強度の試験材を揃えることができないほどだった。
【0046】
一方、本発明例1~3では、ペレット形状、ブリケット形状の形状の違いにかかわらず、操業で必要となる圧潰強度と歩留りを維持しながら、バインダー量を低減することができた。
【0047】
【表2】
【符号の説明】
【0048】
1 転炉本体
2 上吹きランス
3 底吹き羽口
4 煙道
5 スカート
6 ホッパー
7 投入シュート
8 溶銑
9 スラグ
10 転炉排ガス
21 炭材(バイオマス炭材)(乾留物)
22 炭材(バイオマス炭材)粉砕物
23 炭材(バイオマス炭材)混錬物
24 炭材(バイオマス炭材)成型物
24a ブリケット
24b ペレット
26 ロールクラッシャー(カッターミル)
27 ホッパー
28 クラッシャーロール
29 ベルトコンベヤー
31 双ロール式ブリケットマシン
32 ホッパー
33 成型ロール
34 ベルトコンベヤー
41 ペレット製造機(ペレタイザー)
42 ホッパー
43 スクリューフィーダー
44 カッター
45 ベルトコンベヤー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9