(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132314
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】コードレス電話装置の基地局、コードレス電話装置の基地局および子機、およびコードレス電話システムの電話制御装置および基地局
(51)【国際特許分類】
H04W 48/10 20090101AFI20230914BHJP
H04W 28/06 20090101ALI20230914BHJP
H04W 72/0446 20230101ALI20230914BHJP
【FI】
H04W48/10
H04W28/06 130
H04W72/04 131
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037548
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000181
【氏名又は名称】岩崎通信機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正道
(72)【発明者】
【氏名】岩本 悟
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA03
5K067BB08
5K067CC04
5K067DD34
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE72
5K067JJ21
(57)【要約】
【課題】DECT無線通信方式を利用するコードレス電話装置において、隣接基地局同士の同一チャネル干渉の発生を回避して子機が、制御信号であるビーコンを干渉の影響なしに受信可能にすること。
【解決手段】TDMA-TDD方式のコードレス電話装置の基地局20は、無線伝送において使用される複数スロットをスロット群に類別したものの中から当該基地局において使用するスロット群を特定するスロット群情報を記憶するスロット群情報記憶手段23と、前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局において使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段24と、前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づいて選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部22を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
広域ネットワークに接続される電話制御装置に対して、複数の子機を接続可能な1以上の基地局が接続されて構成されるTDMA-TDD方式のコードレス電話装置の基地局であって、
無線伝送において使用される複数スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別したものの中から当該基地局において使用する1つ、または複数のスロット群を特定するための情報であるところのスロット群情報を記憶するためのスロット群情報記憶手段と、
前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局において使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段と、
前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づいて選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部を備えることを特徴とするコードレス電話装置の基地局。
【請求項2】
当該基地局で使用する前記スロット群の情報を、DECT規格のショートページフレームのMAC情報に埋め込んで報知することを特徴とする請求項1に記載のコードレス電話装置の基地局。
【請求項3】
当該基地局で使用する前記スロット群の情報を、DECT規格のシステム情報フレームの独自情報に埋め込んで報知することを特徴とする請求項1に記載のコードレス電話装置の基地局。
【請求項4】
前記スロット群情報は、当該基地局が使用する前記スロット群を識別する情報であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1つに記載のコードレス電話装置の基地局。
【請求項5】
前記スロット群情報は、当該コードレス電話装置における、当該基地局の識別情報から予め定められた規則に従って算出されるスロット群の情報であり、前記ブラインドスロット情報生成手段は、前記スロット群の情報からブラインドスロット情報を生成することを特徴とする請求項1ないし3の何れか1つに記載のコードレス電話装置の基地局。
【請求項6】
基地局の識別情報から前記スロット群の情報を算出するために、基地局の識別情報をL (Lは3以上の自然数)で除した剰余を参照することを特徴とする請求項5に記載のコードレス電話装置の基地局。
【請求項7】
広域ネットワークに接続される電話制御装置に対して接続される1以上の基地局と該基地局に接続可能な複数の子機とから構成されるコードレス電話装置の基地局および子機であって、
前記基地局は、
無線伝送において使用される複数スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別したものの中から当該基地局において使用する1つ、または複数のスロット群を特定するための情報であるところのスロット群情報を記憶するためのスロット群情報記憶手段と、
前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局において使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段と、
前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づき選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部を備え、
前記ブラインドスロット情報をビーコンで子機に報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づいて選択したスロットで無線伝送の送受信を行い、
前記子機は、
基地局探索時に取得される基地局探索情報およびブラインドスロット情報に基づいて基地局毎スロット群テーブルを生成し、これを記憶する基地局毎スロット群テーブル記憶手段と、
子機状態および状態遷移を管理し、前記基地局毎スロット群テーブルを参照して無線リンクの確立先の基地局で使用するスロット群の情報を取得し、前記スロット群の情報に基づいて選択したスロットを使用して、無線リンク確立および前記無線リンク上での通信を行うよう制御する子機制御手段を備えることを特徴とするコードレス電話装置の基地局および子機。
【請求項8】
広域ネットワークに接続される電話制御装置に対して、複数の子機を接続可能な1以上の基地局が接続されて構成されるコードレス電話システムの電話制御装置および基地局であって、
無線伝送において使用される複数スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別し、
前記電話制御装置は、
隣接基地局に異なるスロット群を割りてるようにして、各基地局が使用する1つ、または複数のスロット群を割り当てたスロット群を記憶する基地局毎スロット群情報記憶手段を備え、
前記基地局は、
基地局起動時に基地局伝送路を介して取得した、前記基地局毎スロット群情報記憶手段に格納された当該基地局のスロット群情報を記憶するためのスロット群情報記憶手段と、
前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局が使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段と、
前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づき選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部を備えることを特徴とするコードレス電話システムの電話制御装置および基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルコードレス電話に適用して好適なDECT無線通信方式を利用するコードレス電話装置の基地局、コードレス電話装置の基地局および子機、およびコードレス電話システムの電話制御装置および基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
日本においては、ボタン電話システムの端末として、有線伝送路を介して主装置に直接接続されるボタン電話機のみならず、無線基地局を介して主装置に接続されるデジタルコードレス電話機(子機)も使用されている。このようなデジタルコードレス電話機は、場所にとらわれずに使用可能な電話機として重宝されており、ボタン電話機と同等の機能性をもつことが期待されている。
【0003】
日本のデジタルコードレス電話では、第二世代コードレス電話システム標準規格 (RCR STD-28)が使用されてきたが、2011年に新たに広帯域デジタルコードレス電話の標準規格 (ARIB STD-T101)が策定され、J-DECTに準拠したデジタルコードレス電話も実現できるようになっている。J-DECTは、日本にローカライズされたDECT規格であり、1.9GHz帯の自営バンド (1893.5MHz~1906.1MHz)中に6波 (F1~F6)が規定されている。
【0004】
ボタン電話システムでは、ユーザの設置環境の呼量 (単位時間当たりの通信回線の占有量)に応じ、必要な数の電話回線を主装置に接続し、これを各ボタン電話機で共用して使用できるようにしている。
【0005】
このようなシステムにおいて、すべてまたは一部のボタン電話機をデジタルコードレス電話機に置き換える場合には、1つまたは複数の無線基地局の通話エリアがサービスエリア (オフィス)全体をカバーするように、無線基地局を配置すればよい。これを、1の基地局の通話エリアであるところの基地局ゾーンを面展開することにより、サービスエリア(オフィス)全体をカバーすると表現する。
【0006】
このようなデジタルコードレス電話機(子機)は、ボタン電話機と同様に、電話回線に空きがない場合を除けば、いつでも確実に発着信できることが望ましい。さらに、具体的には、デジタルコードレス電話機(子機)のトラフィックが輻輳し、同時に通話を行う子機の数が増大した場合においても、電話回線に空きがない場合を除けば、いつでも確実に発着信できることが望ましい。
【0007】
特許文献1には、TDMA-TDD方式のデジタルコードレス電話装置において、近隣の他のデジタルコードレス電話装置で通話が行われているとき、この他のデジタルコードレス電話装置で送信及び受信が行われるスロットのタイミングを検出し、この検出した送信及び受信が行われるスロット位置とは時間的に重ならないスロットの位置を算出して、この算出したスロット位置で送信及び受信を行うようにすることで、同一チャネル干渉の発生を回避する技術が開示されており、この技術を適用することで、基地局ゾーンを面展開してサービスエリア全体をカバーする場合における周辺基地局ゾーンからの同一チャネル干渉の影響を軽減することができる。
【0008】
非特許文献1には、J-DECT方式におけるキャリアセンス規定が記載されている。J-DECT方式では、2つのキャリアセンスレベル (第1レベル:-82dBm、第2レベル:-62dBm)および2つのキャリアグループ(第1キャリアグループ:F1, F2, F5, F6、第2キャリアグループ:F3, F4)を定め、基地局または子機が送信を開始する前に、事前に連続する2フレーム以上でキャリアセンスを行い、使用チャネルを以下の優先順位で選択することが規定されている。
・第1優先:第1キャリアグループで干渉レベルが第1レベル以下のチャネル
・第2優先:第2キャリアグループで干渉レベルが第1レベル以下のチャネル
・第3優先:第1キャリアグループで干渉レベルが第2レベル以下のチャネル
・第4優先:第2キャリアグループで干渉レベルが第2レベル以下のチャネル
・干渉レベルが第2レベル以下となるチャネルが存在しない場合には送信不可
【0009】
さらに、非特許文献1には、J-DECT方式における時分割多元接続方式狭帯域デジタルコードレス電話の保護規定(以下では、自営PHS保護規定と称する)も規定されている。J-DECT方式の基地局は自営PHS方式の2つの制御チャネルの周波数(1,899.072MHz および1,900.8MHz)の電波の有無を判定し、電波ありと判定した場合には、第1キャリアグループのみを使用可能とすること、および、DECT方式の基地局がアイドル時すなわち非通信時に送信するダミーベアラの送信では極力F1またはF5のみを使用可能とすることが規定されている。
【0010】
ここで、前者の規定は、第2キャリアグループの電波は、自営PHSの制御チャネルと同一帯域であり、これに干渉を与えると自営PHSシステムが制御不能となる恐れがあるために制定されたものである。
【0011】
一方、第1キャリアグループの電波については、基本的な考え方では自営PHSシステムと空きチャネル検出で共有するが、自営PHSシステムの空きチャネル検出の時間間隔は300us程度のものが多いのに対し、ダミーベアラの時間長は、
図16(詳細は後述)に示すように、83.3usであり、空きチャネル検出をすり抜けて自営PHS側で見えない干渉が発生する可能性があるため、ダミーベアラについては、空きチャネル検出での自営PHSシステムとの共有は困難である。
【0012】
そこで、自営PHS製品の多くは市場障害を回避するためF1, F5チャネルの帯域を使用しないように対策しているが、F2, F6チャネルの帯域は使用しており、この帯域でJ-DECT基地局がダミーベアラを送信すると市場障害が発生する恐れがあるという事情があり、後者の規定が制定され、J-DECT基地局のダミーベアラの送信をF1またはF5に制限している。
【0013】
図16は、DECTフレームのフレームフォーマットを示しており、(a)は短いフレームを示し、(b)は長いフレームを示している。
図16に示すように、DECTではダミーベアラと呼ばれる時間長83.3usの短いフレームとトラフィックベアラと呼ばれる時間長368.1usの長いフレームが使用される。
【0014】
前者は、アイドル(非通信)状態の基地局がビーコンとして送信する下り(基地局→子機)のみの伝送フレームであり、基地局識別子情報、システム情報、ページング情報などを子機に対して報知するために使用される。後者は、基地局と子機間での1対1通信時に使用される双方向(基地局⇔子機)フレームであり、B-Fieldに格納された320ビットの情報を基地局と子機間で双方向に伝送できる。
【0015】
このように、自営PHSシステムの周辺のJ-DECT方式の基地局のビーコン送信では、F1またはF5で、干渉レベルが第1レベル以下のチャネルが優先的に使用されるが、第1レベル以下のチャネルが存在しない場合には第2レベル以下のチャネルも使用される。
【0016】
非特許文献2には、無線LANにおいて、隣接AP間で異なる周波数チャネルを使用することにより干渉距離を大きくすることによる同一チャネル干渉の軽減の効果をスループットにて評価することが記載されている。
【0017】
また、自動車電話システムにおいては、同一周波数チャネルを空間的に再利用するため、4セル繰り返し配置、7セル繰り返し配置等が使用されている。このように、小ゾーン構成をとる無線システムにおいて、隣接基地局間で異なる無線周波数を利用することにより、干渉距離を大きくし、同一チャネル干渉を軽減する技術は、一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】時分割多元接続方式広帯域デジタルコードレス電話の無線局の無線設備 標準規格 (ARIB STD-T101)
【非特許文献2】無線LANシステムにおける動的チャネル割り当てに関する検討 電子情報通信学会技術研究報告. RCS, 無線通信システム 97(266), 27-32, 1997-09-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、非特許文献1に記載のキャリアセンス規定によれば、基地局数が少ないシステムあるいはトラフィックが少ないシステムでは同一チャネル干渉を軽減できるが、基地局数が多いシステムあるいは最繁時トラフィックが多いシステムでは、第1レベル以下のチャネルだけではチャネルが不足し、第2レベル以下のチャネルも使用せざるをえないので、同一チャネル干渉が発生する場合があるという課題がある。以下、その課題について説明する。
【0021】
図17は、屋内電波伝搬モデルとして一般に使用されるITU-R P.1238-6屋内伝搬モデルに基づいて計算したDECT無線信号の通信距離と受信レベルの関係を示す図である。
【0022】
一般に、屋内電波伝搬では、受信レベルはマルチパスフェージングの影響を受けて、10~15dB程度時間変動している。
図17では、平均受信レベル、フェージングによる落ち込み時の受信レベルをキャリアセンス第1レベル、キャリアセンス第2レベルと共に示している。なお、フェージングの深さは、見通し外伝搬を想定して15dBとしている。
【0023】
DECT送受信機の最小受信感度 (所定の伝送品質、例えば、ビット誤り率10
-3以下を実現するために必要な受信レベル)を-86dBm、人体等による遮蔽効果に対するマージンを20dBとし、基地局ゾーン内においてフェージングによる落ち込み時にも通信可能であるようにするためには、
図17より、基地局ゾーン半径を30m以下とする必要があることが分かる。また、基地局ゾーン半径の4倍となる通信距離120mにおいても受信レベルはほぼ第1レベル以上となることが分かる。
【0024】
図18は、正六角形ゾーンによる基地局ゾーンの面展開の場合の同一チャネル干渉の影響の説明図である。この図には、中央に配置された基地局に対する6個の隣接基地局および12個の次隣接基地局が示されている。また、基地局のゾーン半径をrとした場合に、中央に配置された基地局と隣接基地局間の距離は2r、中央に配置された基地局と次隣接基地局間の距離は4rとなることが分かる。この例の基地局の面展開では、次隣接基地局まで含めた基地局ゾーン半径の4倍のエリアに約20台の基地局が存在するので、第1レベルでキャリアセンスするものとすると、約20台の基地局でチャネルを共有することになる。
【0025】
また、隣接ゾーンの基地局間の距離を60mとすると、
図17より、隣接基地局からの電波の受信レベルの変動範囲は-60dBm~-75dBmであり、確率的に第2レベル(-62dBm)を下回るため、第1レベル以下のチャネルが不足する場合には、隣接基地局同士が同時に送信を行い、同一チャネル干渉が発生する事象が起こりえる。
【0026】
ところで、J-DECTを使用したデジタルコードレス電話システムにおいては、各基地局は1個または2個の ビーコンを10ms周期で送信する。ここで、10ms周期で2個のビーコンを送信するのは、同一チャネル干渉により、一方のビーコンが受信できなくなった場合には、もう一方のビーコンを受信できるようにするためであり、2つのビーコンでは同一情報が報知される。
【0027】
また、10ms周期で2個のビーコンを送信するもう1つの理由としては、通話中の子機が基地局ゾーン間を移動しハンドオーバする際に実施する基地局探索において、移動先の基地局のビーコンの一方が、当該子機が通話で使用しているスロットと同一スロットで送信されている場合でも、これとは別スロットで送信されているもう一方の当該基地局のビーコンを受信できるため、隣接基地局のビーコンを、その送信スロットによらず必ず受信することができるようにすることがある。
【0028】
このように、ハンドオーバが可能なデジタルコードレス電話システムにおいては、10ms周期で2個のビーコンを送信することが望ましいが、上述したように、無線チャネルは、隣基地局間で共有されるため、設置基地局数が多い場合には、ビーコンによる使用チャネル数の増大により、同一チャネル干渉が発生する確率が大きくなるという課題がある。以下、デジタルコードレス電話システムにおける課題について説明する。
【0029】
デジタルコードレス電話システムにおける基地局総数をM (Mは1以上の自然数)、システム全体の最大同時通話数をK (Kは1以上の自然数)とすると、最大では (M + K)ないし(2M + K)の下りチャネルが同時に使用されることになる。
【0030】
また、上述したように、DECTを使用したデジタルコードレス電話システムの周辺に自営PHSシステムが存在する場合には、ARIB規格(ARIB STD-T101)の自営PHS保護規定により、ビーコン送信では極力F1, F5の2つの周波数チャネルを使用する必要があり、実質的には使用可能チャネルは24チャネルに制限される。
【0031】
このため、例えば、各基地局が2個のビーコンを10ms周期で送信するデジタルコードレス電話システムにおいて、基地局数が12台の場合にはビーコンのみで24チャネルを占有するため、さらに通話を行う場合には、第2レベル以下のチャネルも使用せざるを得ず、同一チャネル干渉が発生する場合がある。また、基地局数が12台を超える場合には、第2レベル以下のチャネルを使用して送信するビーコンが生じるため、ビーコン同士での同一チャネル干渉が発生する。また、基地局数が12台よりも少ない場合でも、最繁時の同時通話数が多いときには、第2レベル以下のチャネルも使用せざるを得なくなり、同一チャネル干渉が発生する場合がある。
【0032】
以下では、
図18に示すような正六角形の基地局ゾーンを面展開してサービスエリア全体をカバーする場合を例として、さらに詳細に説明する。
【0033】
図18に示すように、正六角形の基地局ゾーンを面展開してサービスエリア全体をカバーする場合は、最大で6個の隣接ゾーンおよび12個の次隣接ゾーンが発生する。このため、この基地局ゾーンの面展開では、例えば、隣接ゾーンからの干渉のみを考慮した場合でも、中央の基地局ゾーンでは、10ms周期で最大14個のビーコンが受信される。
【0034】
このため、例えば、自基地局ゾーンまたは隣接基地局ゾーンで合わせて10通話を超える同時通話が行われる場合には、既に送信及び受信が行われるスロットとは時間的に重ならないスロットを選択することができなくなる。このような場合には、特許文献1に記載の技術を適用することはできず、自基地局ゾーンにおいてビーコン送信で使用している周波数チャネルおよびスロットを隣接基地局ゾーンの基地局が通話で使用する場合があり、同一チャネル干渉によりビーコンを受信できない子機が発生する恐れがある。
【0035】
ところで、基地局と子機間での1対1通信時に使用されるトラフィックベアラが同一チャネル干渉を受けた場合には、通信品質の劣化をトリガとして、干渉回避処理、例えば、周波数チャネル切替、スロット切替またはハンドオーバ等を実施することができる。
【0036】
一方、アイドル状態の基地局がビーコンとして送信するダミーベアラは、基地局が送信する報知チャネルであり、干渉回避処理は行われないため、特に、基地局ゾーン境界付近で同一チャネル干渉を受けた子機がビーコンを受信できなくなることが課題となる。
【0037】
以下では、基地局が送信するビーコンに対する同一チャネル干渉について、さらに詳細に説明する。
【0038】
DECTを使用したデジタルコードレス電話システムにおいては、通信容量を確保するために、通常、基地局間での10msフレーム同期が行われる。このようなフレーム同期のためのタイミング信号を、主装置において生成し、基地局伝送路を介して、各基地局に分配することができ、各基地局が起動時に周辺基地局から報知されるビーコンを受信して、順次無線同期するようにすることもできる。
【0039】
この場合、10msフレームの前半の下り(基地局→子機)伝送期間と後半の上り伝送期間(子機→基地局)は基地局間で同期しており、この場合に基地局が送信するビーコンに干渉するのは他隣接基地局からのビーコンのみとなる。
【0040】
正六角形の基地局ゾーンを用いた面展開では、当該基地局と隣接基地局間の距離は、ゾーン半径をrとすると、2rとなる。
図17によれば、2rに相当する通信距離60mにおけるフェージング変動の中での最小受信レベルは-75dBmであり、キャリアセンス第2レベルである-62dBmを下回っているため、キャリアセンス第1レベル以下となる空きチャネルがない場合には、ビーコンを受信している周波数およびスロットを使用して、隣接基地局のビーコンもしくは通話用のトラフィックベアラを送信する可能性がある。
【0041】
また、隣接基地局からの同一チャネル干渉の影響については、子機が当該隣接基地局とのゾーン境界付近にある場合には、最悪では当該基地局から子機までの距離と当該隣接基地局から子機までの距離がほぼ等しくなり、この結果、当該基地局からのビーコンの平均受信レベルと干渉波の平均受信レベルがほぼ等しくなり、高い確率でビーコンを受信できなくなる可能性がある。
【0042】
一方、次隣接基地局からの同一チャネル干渉については、正六角形の基地局ゾーンを用いた面展開では、当該基地局と次隣接基地局間の距離は、ゾーン半径をrとすると、4rとなる。
【0043】
図17によれば、4rに相当する通信距離120mにおけるフェージング変動の中での平均受信レベルは-68dBmであり、キャリアセンス第2レベルである-62dBmを下回っているため、次隣接基地局では当該基地局からのビーコンを検出できず、ビーコンと同一周波数および同一スロットを使用して、次隣接基地局のビーコンもしくは通話用のトラフィックベアラを送信する可能性がある。
【0044】
しかし、
図18に示す正六角形の基地局ゾーンを用いた面展開の例では、
図19に示すように、次隣接基地局からの同一チャネル干渉の影響については、子機が当該隣接基地局とのゾーン境界付近にある場合においても、最悪でも当該次隣接基地局から子機までの距離はゾーン半径の3倍であり、
図17によれば、3rに相当する通信距離90mにおけるフェージング変動の平均受信レベルは-66dBmであり、ゾーン境界付近における平均信号受信レベル-52dBmと比較すると、14dB小さいため、当該基地局からのビーコンが次隣接基地局からの同一チャネル干渉の影響を受けることはほとんどないと言える。
【0045】
以上、説明したように、DECTを使用したデジタルコードレス電話システムにおいて、面展開を行う場合には、トラフィック輻輳時にキャリアセンス第1レベル以下のチャネルが不足し、隣接基地局からの同一チャネル干渉が発生し、この結果、ビーコンを受信できなくなる子機が発生する恐れがある。
【0046】
非特許文献2には、無線LANにおいて、隣接AP間で異なる周波数チャネルを使用することにより、干渉距離を大きくすることによる同一チャネル干渉の軽減の効果をスループットにて評価することが記載され、また、自動車電話システムにおいては、同一周波数チャネルを空間的に再利用するため、4セル繰り返し配置、7セル繰り返し配置等が使用されており、このように、小ゾーン構成をとる無線システムにおいては、隣接基地局間で異なる無線周波数を利用することにより、干渉距離を大きくし、同一チャネル干渉を軽減する技術は、一般的に知られている。
【0047】
しかしながら、DECTを使用したデジタルコードレス電話システムにおいては、上述したように、自営PHSシステムの周辺に設置された場合に使用可能となる無線チャネルは、実質的にはF1とF5の2波のみであり、周波数チャネル配置による面展開では、干渉距離を小さくすることはできない。
【0048】
本発明は、上記課題を解決し、DECT無線通信方式を利用するコードレス電話装置の基地局、コードレス電話装置の基地局および子機、およびコードレス電話システムの電話制御装置および基地局において、隣接基地局同士の同一チャネル干渉の発生を回避し、干渉距離を大きくすることで同一チャネル干渉の影響を軽減して、制御信号であるビーコンを干渉の影響なしに受信できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上記課題を解決するため、本発明は、広域ネットワークに接続される電話制御装置に対して、複数の子機を接続可能な1以上の基地局が接続されて構成されるTDMA-TDD方式のコードレス電話装置の基地局であって、無線伝送において使用される複数スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別したものの中から当該基地局において使用する1つ、または複数のスロット群を特定するための情報であるところのスロット群情報を記憶するためのスロット群情報記憶手段と、前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局において使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段と、前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づいて選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部を備えることを特徴としている。
【0050】
ここで、当該基地局で使用する前記スロット群の情報を、DECT規格のショートページフレームのMAC情報に埋め込んで報知するようにすることができる。
【0051】
あるいは、当該基地局で使用する前記スロット群の情報を、DECT規格のシステム情報フレームの独自情報に埋め込んで報知するようにすることもできる。
【0052】
また、前記スロット群情報を、当該基地局が使用する前記スロット群を識別する情報とすることができる。あるいは、前記スロット群情報は、当該コードレス電話装置における、当該基地局の識別情報から予め定められた規則に従って算出されるスロット群の情報とし、前記ブラインドスロット情報生成手段が、前記スロット群の情報からブラインド情報を生成するようにしてもよい。
【0053】
また、基地局の識別情報から前記スロット群の情報を算出するために、基地局の識別情報をL (Lは3以上の自然数)で除した剰余を参照するようにすることができる。
【0054】
また、本発明は、広域ネットワークに接続される電話制御装置に対して接続される1以上の基地局と該基地局に接続可能な複数の子機とから構成されるコードレス電話装置の基地局および子機であって、前記基地局は、無線伝送において使用される複数スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別したものの中から当該基地局において使用する1つ、または複数のスロット群を特定するための情報であるところのスロット群情報を記憶するためのスロット群情報記憶手段と、前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局において使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段と、前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づき選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部を備え、前記ブラインドスロット情報をビーコンで子機に報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づいて選択したスロットで無線伝送の送受信を行い、前記子機は、基地局探索時に取得される基地局探索情報およびブラインドスロット情報に基づいて基地局毎スロット群テーブルを生成し、これを記憶する基地局毎スロット群テーブル記憶手段と、子機状態および状態遷移を管理し、前記基地局毎スロット群テーブルを参照して無線リンクの確立先の基地局で使用するスロット群の情報を取得し、前記スロット群の情報に基づいて選択したスロットを使用して、無線リンク確立および前記無線リンク上での通信を行うよう制御する子機制御手段を備えることを特徴としている。
【0055】
さらに、本発明は、広域ネットワークに接続される電話制御装置に対して、複数の子機を接続可能な1以上の基地局が接続されて構成されるコードレス電話システムの電話制御装置および基地局であって、無線伝送において使用される複数スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別し、前記電話制御装置は、隣接基地局に異なるスロット群を割りてるようにして、各基地局が使用する1つ、または複数のスロット群を割り当てたスロット群を記憶する基地局毎スロット群情報記憶手段を備え、前記基地局は、基地局起動時に基地局伝送路を介して取得した、前記基地局毎スロット群情報記憶手段に格納された当該基地局のスロット群情報を記憶するためのスロット群情報記憶手段と、前記スロット群情報に基づき、TDMA-TDD方式で規定される全スロットの中から当該基地局が使用するスロットを特定し、スロット毎の使用可否の情報であるブラインドスロット情報を生成するブラインドスロット情報生成手段と、前記ブラインドスロット情報をビーコンで報知し、かつ前記ブラインドスロット情報に基づき選択したスロットで無線伝送の送受信を行うDECT送受信制御部を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、DECT無線通信方式を利用したデジタルコードレス電話システムにおいて、スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別し、隣接する基地局では互いに異なるスロット群を割り当てるようにすることで、隣接基地局の下り信号(基地局→子機)同士の同一チャネル干渉の発生を回避することができ、同一チャネル干渉は次隣接基地局からの干渉のみとすることができ、基地局からの下り制御信号であるビーコンを干渉の影響をほとんど受けることなしに子機が受信できるようになる。
【0057】
また、本発明によれば、使用可能スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別し、隣接する基地局では互いに異なるスロット群を使用し、各基地局において使用可能なスロットをビーコンで子機に報知するようにし、子機では受信した基地局毎の使用可能スロットの情報を記憶し、基地局に対してリンクを確立する場合には、当該基地局の使用可能スロットでアクセス要求を送信するようにすることで、トラフィックベアラも含め隣接基地局同士の同一チャネル干渉の発生を回避し、干渉距離を大きくすることで同一チャネル干渉の影響を軽減して、下り制御信号であるビーコンを干渉の影響なしに受信できるようになる。
【0058】
さらに、本発明によれば、隣接基地局で互いに異なるスロット群を使用するため、ハンドオーバ時に隣接基地局のビーコンは当該子機が通話で使用しているスロットとは必ず異なるスロットで送信されることになり、基地局において10ms毎に送信されるビーコン数を1つとすることができるようになるため、同一チャネル干渉を大きく減少させることができ、デジタルコードレス電話機(子機)のトラフィックが輻輳し、同時に通話を行う子機の数が増大した場合においても、電話回線に空きがない場合を除けば、いつでも確実に発着信できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】本発明におけるスロット群の類別(L=3の場合)の例を示す図である。
【
図2】
図1のスロット群に対する基地局ゾーンの面展開(L=3の場合)の一例を示す図である。
【
図3】本発明におけるスロット群の類別の他の例(L=4の場合)を示す図である。
【
図4】
図3のスロット群に対する基地局ゾーンの面展開(L=4の場合)の一例を示す図である。
【
図5】本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムの一実施形態の基本構成を概略的に示すブロック図である。
【
図6】本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムの主装置の一実施形態の基本構成を示すブロック図である。
【
図7】基地局伝送路上のTDD (ピンポン伝送)方式の信号伝送のフレームフォーマットの一例を示す図である。
【
図8】マルチフレーム構成の共通制御データの伝送の一例を示す図である。
【
図9】本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムにおける基地局の実施形態の基本構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムにおける基地局の他の実施形態の基本構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムにおける子機の一実施形態の基本構成を示すブロック図である。
【
図12】子機状態および状態遷移の一例を示す図である。
【
図13】基地局毎スロット群テーブルの一例を示す図である。
【
図14】子機の主装置に対する位置登録シーケンスの一例を示す図である。
【
図15】子機において発信のためのキー操作があった場合の発呼シーケンスの一例を示す図である。
【
図16】DECTフレームのフレームフォーマットを示す図であり、(a)は短いフレームを示し、(b)は長いフレームを示す。
【
図17】屋内電波伝搬モデルとして一般に使用されるITU-R P.1238-6屋内伝搬モデルに基づいて計算したDECT無線信号の通信距離と受信レベルの関係を示す図である。
【
図18】正六角形ゾーンによる基地局ゾーンの面展開の場合の同一チャネル干渉の影響の説明図である。
【
図19】正六角形ゾーンによる基地局ゾーンの面展開の場合の同一チャネル干渉の影響の説明図である。
【
図20】J-DECTにおける無線リソースの配置を示す図である。
【
図21】DECTマルチフレームのフレームフォーマットの一例を示す図である。
【
図22】基地局ID情報を報知する基地局ID情報Ntのフレームフォーマットを示す図である。
【
図23】システム情報を報知するシステム情報Qtのフレームフォーマットを示す図である。
【
図24】Qtヘッダとシステム情報の対応関係の一例を示す図である。
【
図25】MAC制御情報を報知するマック制御情報Mtのフレームフォーマットを示す図である。
【
図26】Mtヘッダとメッセージ種別の対応関係の一例を示す図である。
【
図27】MtコマンドとMAC制御メッセージの対応関係の一例を示す図である。
【
図28】ページング情報を報知するページング情報Ptのフレームフォーマットを示す図である。
【
図29】PtヘッダとBsチャネル情報の対応関係の一例を示す図である。
【
図30】PtショートページのMAC情報種別とMAC情報の対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は、DECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムの制御動作に関するものであるので、まず、本発明に関連する制御動作についてのDECT規格について簡単に説明する。
【0061】
DECT規格は、TDMA-TDD方式を採用している。
図20は、J-DECTにおける無線リソースの配置を示しており、時間軸上では10ms周期のフレーム構成をとり、下り(基地局→子機)12スロットおよび上り(子機→基地局)12スロットを有する。
【0062】
周波数軸上では、6波(F1~F6)が規定されている。第二世代コードレス電話(PHS)自営システムと同一周波数帯を共有するが、PHSの制御チャネルは固定周波数であり、これに干渉を与えると、PHS子機が制御不能になる可能性があるため、J-DECTの基地局は、電源投入後、電波送信前にPHS制御チャネルの電波の有無を確認し、電波ありと判断した場合には、F3, F4チャネルを使用しないことがARIB STD-T101の自営PHS保護規定において定められている。
【0063】
PHS制御チャネルと周波数帯域が重なるチャネルF3, F4チャネル以外のチャネルについては、PHSと空きチャネル検出で帯域を共有するが、PHSシステムの空きチャネル検出の時間間隔は、300us程度のものが多く、ダミーベアラはこれをすり抜けてPHS側で見えない干渉が発生する可能性がある。そのため、J-DECT基地局では、電源投入後、電波送信前にPHS制御チャネルの電波の有無を確認して、電波ありと判断した場合には極力F2, F6チャネルではダミーベアラを送信しないことがARIB STD-T101のPHS保護規定において定められている。これは、PHS製品 の多くは 市場障害を回避するためにF1, F5チャネルの帯域 を使用しないように既に対策しているが、F2, F6チャネルの帯域は使用しており、この帯域でJ-DECT基地局がダミーベアラを送信すると市場障害が発生する恐れがあるためである。
【0064】
DECTでの無線送信時には、子機および基地局において空きチャネル検出を行い、受信(干渉)レベルの小さいチャネル(周波数チャネルとスロットの組み合わせ)を選択して使用している。
【0065】
アイドル状態の基地局がビーコンとして送信するダミーベアラは、下りのみの片方向報知チャネルであり、基地局ごとに1つまたは2つの下り無線リソース(チャネル)を使用して、送信される。
【0066】
基地局と子機間での1対1通信時に使用されるトラフィックベアラは、双方向チャネルであり、5ms間隔のペアスロット(例えば、スロット1とスロット13)が使用される。
【0067】
なお、通信状態の基地局は、ビーコン用のダミーベアラとトラフィックベアラの両方を送信することも可能であり、トラフィックベアラの中のA-Fieldを使用して、ビーコン情報を送信することも可能である。
【0068】
DECTを使用するデジタルコードレス電話システムでは、基地局と子機間の1対1通信の数分のトラフィックベアラおよび最大で基地局数またはその2倍の数のダミーベアラが送信される。
【0069】
ダミーベアラおよびトラフィックベアラの送信権は、どちらも空きチャネル検出により同様に獲得される。周波数の有効利用の観点から、空きチャネル検出レベルは周辺基地局およびその子機の使用チャネルを再利用して使用可能となるように設定されており、トラフィック輻輳時にはダミーベアラが周辺基地局からのトラフィックベアラによる同一チャネル干渉を受けて受信できなくなる子機が発生する可能性がある。このため、トラフィックベアラの使用は必要最小限度とすることが望ましい。
【0070】
図21は、DECTマルチフレームのフレームフォーマットの一例を示している。
【0071】
DECTにおけるビーコンを用いたテールデータ (40ビット)の報知は、このマルチフレーム構成を用いて行われる。1マルチフレームは、時間長が160msであり、16フレーム (フレーム0~フレーム15)で構成される。
【0072】
ビーコンで報知されるテールデータは、その種類により、基地局ID情報Nt,システム情報Qt, マック制御情報Mt, ページング情報Ptおよび上位層制御情報Ctに分類される。このようなビーコン種別の情報は、ダミーベアラA-Fieldのヘッダ情報に格納される。
【0073】
図22は、基地局ID情報を報知する基地局ID情報Ntのフレームフォーマットを示している。
【0074】
基地局ID情報Ntには、"0001"固定のアクセス権コード、機器製造社ID(EIC)、システムID(FPN)、基地局ID(RPN)が含まれる。各ユーザには異なるシステムIDが割り振られ、ユーザのシステム内の基地局の識別は基地局IDで行われる。
【0075】
図23は、システム情報を報知するシステム情報Qtのフレームフォーマットを示し、
図24は、Qtヘッダとシステム情報の対応関係の一例を示している。
【0076】
システム情報Qtには、該Qtフレームのキャリア番号情報、スロット番号情報等の基本情報に加え、使用可能なキャリア数の情報、マルチフレーム番号の情報や該基地局の送信電力情報、独自のシステム情報等が含まれる。
【0077】
図25は、MAC制御情報を報知するMAC制御情報Mtのフレームフォーマットを示し、
図26は、Mtヘッダとメッセージ種別の対応関係の一例を示している。また、
図27は、MtコマンドとMAC制御メッセージの対応関係の一例を示している。
【0078】
図28は、ページング情報を報知するページング情報Ptのフレームフォーマットを示し、
図29は、PtヘッダとBsチャネル情報の対応関係の一例を示している。また、
図30は、Ptショートページの情報種別とMAC情報の対応関係の一例を示している。
【0079】
ページング情報Ptでは、Bsチャネル(低速報知チャネル)のデータおよびMAC情報が報知される。Bsチャネルでは、特定の子機宛ての下りデータがあることを通知するためのページング情報および独自情報を報知できる。MAC情報には、ブラインドスロット (当該基地局の使用不可スロット)情報、基地局状態(BUSY等)情報、使用可能な周波数チャネル情報等があり、当該フレームで報知するMAC情報の種別の情報は、ダミーベアラA-Fieldの情報種別に格納される。
【0080】
ページング情報Ptのフレームには、20ビット分のBsチャネルデータとMAC情報を報知するショートページと36ビット分のBsチャネルデータのみを報知するフルページがある。また、複数のフルページを連結して36×Nビット分のBsチャネルデータを報知するロングページも使用できる。ページング情報Ptのフレームタイプ情報はPtヘッダで伝送される。
【0081】
なお、DECT規格では、フレーム番号は28ビットで規定されており、1フレーム毎に1インクリメントされ、約1ヵ月で一巡するようになっている。また、その上位24ビットはマルチフレーム番号と呼ばれる。
【0082】
DECT方式を利用したデジタルコードレス電話システムにおいては、一般に、基地局間において、フレーム番号およびマルチフレーム番号の同期も取られている。
【0083】
ページング情報Ptは、フレーム0で伝送され、バッテリー動作する省電力タイプの子機は、フレーム0のみを160ms周期で間欠受信することができる。DECT規格では、さらに640ms周期での間欠受信を可能とするために、基地局が同一ビーコン情報を4マルチフレーム連続で送信することが定められている。すなわち、省電力子機は、フレーム0のみを640ms周期で間欠受信することができる。
【0084】
複数のページング情報Ptがある場合には、1マルチフレーム内で最大6個のページング情報Ptを送信することができる。同一マルチフレーム内における後続ページング情報Ptの有無は、Ptヘッダの先頭ビットで通知されており、省電力子機は、すべてのページング情報Ptを受信した後にスリープ状態に移行する。
【0085】
また、特にページング情報がない場合は、基地局は、ページング情報Ptの代わりに基地局ID情報Ntを送信することができる。基地局ID情報Ntは、子機が基地局探索する際に利用する。また、フレーム8ではシステム情報Qt、フレーム14では基地局ID情報Ntが必ず伝送される。
【0086】
また、基地局と子機での1対1通信時には、偶数番目のフレーム(フレーム1、フレーム3、・・・フレーム11)を上位層制御情報Ctとし、上位層制御情報Ct上において基地局と子機間のデータリンクを確立し、データリンク上での双方向低速制御チャネルCsを用いて双方向に低速の制御情報を伝送することができる。なお、上位層制御情報Ctは、双方向チャネルであり、上りトラフィックベアラについても、A-Fieldを使用して上位層制御情報Ctを伝送している。
【0087】
基地局と子機間の1対1通信時にはトラフィックベアラが使用されており、CsチャネルはトラフィックベアラのA-Fieldのテール(40ビット)を用いた低速チャネルであるが、トラフィックベアラのB-Field(320ビット)を用いた高速のCfチャネルを使用することもできる。例えば、通話時には、B-Fieldで音声データが伝送されるため、A-FieldのCsチャネルで制御データを伝送し、非通話時には、B-FieldのCfチャネルを用いて高速に制御データを伝送することができる。
【0088】
なお、偶数番目のフレーム(フレーム1、フレーム3等)は、MACアクセス制御のためのMAC制御情報Mtの双方向伝送にも使用される。基地局と子機間で1対1通信を行う際には、まず、MAC制御情報Mtを使用して、ベアラ(双方向データリンク)を確立する必要がある。MAC制御情報Mtは、暗号化手順やハンドオーバにおいても使用される。
【0089】
ダミーベアラにおいて、特にMAC制御情報Mtがない場合には、偶数番目のフレーム(フレーム1、フレーム3等)で、基地局ID情報Ntを送信することができる。基地局ID情報Ntは、子機が基地局探索する際に利用する。
【0090】
以上のDECT規格を考慮し、本発明は、DECT無線通信方式を利用したデジタルコードレス電話システムにおいて、使用可能スロットをL個 (Lは3以上の自然数)のスロット群に類別し、隣接する基地局では互いに異なるスロット群を使用し、各基地局において使用可能なスロットをビーコンで子機に報知するようにし、子機では受信した基地局毎の使用可能スロットの情報を記憶し、基地局に対してリンクを確立する場合には、当該基地局の使用可能スロットでアクセス要求を送信するようにして、隣接基地局同士の同一チャネル干渉の発生を回避し、干渉距離を大きくすることで同一チャネル干渉の影響を軽減して、制御信号であるビーコンを干渉の影響なしに受信できるようにするものである。
【0091】
以下、図面を参照して、本発明について説明する。
【0092】
図1は、本発明におけるスロット群の類別(L=3の場合)の例を示す図であり、ここでは、DECTにおける無線リソースにおける下りスロット (SL0~SL11)と上りスロット (SL12~SL23)の各々を、3つのスロット群 (SL0~SL3, SL12~SL15のスロット群、SL4~SL7, SL16~SL19のスロット群、SL8~SL11, SL20~SL23のスロット群)に類別している。
【0093】
なお、
図1では各スロット群に連続するスロットを割り当てているが、例えば2スロットおきとなるスロットを同一スロット群に割り当ててもよく、重複なく割り当てるようにすれば、任意のスロット群の割り当てが可能である。また、各スロット群に割り当てるスロット数は必ずしも同一である必要はなく、各基地局で想定されるトラフィックを考慮して、例えば、高トラフィックが見込まれる基地局のスロット群には5スロット以上を割り当ててもよい。なお、ここに示すように、上り下りのペアスロットは、同じスロット群に属するようにする。
【0094】
図2は、
図1のスロット群に対する基地局ゾーンの面展開の一例を示す図であり、ここでは、各基地局が使用するスロット群を、
図1に対応させて同じグレースケールで示している。ここに示すように、
図1のようにスロットを類別することにより、隣接する基地局で使用するスロット群を互いに異ならせることができる。これにより、中央の白色ゾーンでは、隣接する基地局ゾーン(淡灰色または濃灰色)からの干渉は受けず、次隣接する白色ゾーンからの干渉のみを受けるようにすることができ、干渉距離を大きくすることで同一チャネル干渉の影響を軽減することができる。
【0095】
また、中央の白色ゾーンにいる通話中の子機が移動してハンドオーバする場合、移動先となる隣接する基地局ゾーンは淡灰色または濃灰色ゾーンであり、移動元の基地局とは使用するスロット群が異なるため、通話での使用スロットと移動先基地局のビーコンの送信スロットは異なるので、ハンドオーバ時の通話中基地局探索において移動先基地局のビーコンが発見できることが保証される。これにより、10ms周期で2個のビーコンを送信する必要がなくなり、10ms周期で1個のビーコンを送信するようにできるため、アイドル状態の基地局の使用チャネルを半分とすることができ、同一チャネル干渉の影響を軽減することができる。
【0096】
図3は、本発明におけるスロット群の類別の他の例(L=4の場合)を示す図であり、ここでは、DECTにおける無線リソースにおける下りスロット (SL0~SL11)と上りスロット (SL12~SL23)の各々を、4つのスロット群(SL0~SL2, SL12~SL14のスロット群、SL3~SL5, SL15~SL17のスロット群、SL6~SL8, SL18~SL20のスロット群、SL9~SL11, SL21~SL23のスロット群)に類別している。
【0097】
なお、
図3では各スロット群に連続するスロットを割り当てているが、例えば3スロットおきとなるスロットを同一スロット群に割り当ててもよく、重複なく割り当てるようにすれば、任意のスロット群の割り当てが可能である。また、各スロット群に割り当てるスロット数は必ずしも同一である必要はなく、各基地局で想定されるトラフィックを考慮して、例えば、高トラフィックが見込まれる基地局のスロット群には4スロット以上を割り当ててもよい。
【0098】
図4は、
図3のスロット群に対する基地局ゾーンの面展開の一例を示す図であり、ここでは、各基地局が使用するスロット群を
図3に対応させて同じグレースケールで示している。ここに示すように、
図3のようにスロットを類別することにより、隣接する基地局で使用するスロット群を互いに異ならせることができる。また、スロット群の類別数L
は、3以上であればよく、任意であるが、Lをより大きくすることで、干渉距離をより大きくし、同一チャネル干渉の影響をさらに小さくすることができる。
【0099】
図5は、本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムの一実施形態の基本構成を概略的に示すブロック図である。
【0100】
本実施形態のデジタルコードレス電話システムは、電話制御装置(以下、主装置と称する)10、M台 (Mは1以上の自然数)の基地局20およびN台 (Nは1以上の自然数)の子機30を備える。M台の基地局20とN台の子機30のうちから1台の基地局20と1台の子機30が適宜選択的に使用されてデジタルコードレス電話システムを構成する。
【0101】
主装置10にはP個 (Pは1以上の自然数)の電話回線 (局線)が接続されており、これにより最大P回線までの局線発信、局線着信が同時に可能である。また、主装置10には、M台 (Mは1以上の自然数)の基地局20が接続されており、これらを介してN台 (Nは1以上の自然数)の子機30が発着信可能である。
【0102】
各子機30は、電源投入後、いずれかの1つの基地局20に位置登録を行い、この基地局20を介して発着信可能となる。これを子機30が基地局20に接続すると表現する。すなわち、各子機30は、接続した基地局20を介して発着信可能となる。
【0103】
なお、子機30の移動に伴い、より良好に無線通信が可能な基地局20に接続し直す場合がある。これはローミングと呼ばれている。また、通話中においても、子機30の移動に伴い、より良好に無線通信が可能な基地局20に接続し直す場合がある。これはハンドオーバと呼ばれている。
【0104】
以下、主装置、基地局および子機の具体的構成について説明する。
【0105】
図6は、本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムの主装置の一実施形態の基本構成を示すブロック図である。ここでは、説明を簡単にするために、必要な構成要素だけを示している。以下の図においても同様である。
【0106】
本実施形態の主装置10は、局線インタフェース部 (局線I/F部)11、内線インタフェース部 (内線I/F部)12、クロック生成部13、回線交換部14、制御部15および基地局毎スロット群情報記憶部16を備える。
【0107】
局線I/F部11には、P個 (Pは1以上の自然数)の電話回線 (局線)が接続されており、最大P回線までの局線発信、局線着信が同時に可能である。内線I/F部12には、M個 (Mは1以上の自然数)の基地局伝送路が接続されており、これらを介して最大M台 (Mは1以上の自然数)の基地局を収容可能である。
【0108】
主装置10内部の音声データは、例えば、PCMコーデック等の音声符号化信号である。PCMコーデック信号は、音声信号を8kHz(125us間隔)で14ビット量子化したものを非線形圧縮して8ビットとした64kbpsの音声データである。
【0109】
クロック生成部13は、電話回線および内線の音声信号を回線交換するために、十分に高速な音声多重用クロックおよび125us周期の音声コーデックフレームパルスを生成して局線I/F部11および内線I/F部12に各々供給し、これを用いて生成された多重音声信号は、回線交換部14に印加される。回線交換部14は、制御部15から与えられる外線および内線発着信の回線交換制御信号に基づいて1サンプル単位での回線交換を行う。
【0110】
さらに、クロック生成部13は、DECT基地局間同期のための基地局間同期タイミングパルスを生成する。この基地局間同期タイミングパルスは、基地局伝送路を介して各基地局に供給され、基地局間同期が行われる。
【0111】
なお、DECT無線通信方式を利用したデジタルコードレス電話システムでは、基地局間でマルチフレーム同期のみならず空きチャネル検出を行う周波数チャネルの同期も必要となるため、160ms×(周波数チャネル数)周期のタイミング同期が必要であり、周波数チャネル数が6の場合には960ms周期のタイミング情報が供給される。
【0112】
基地局伝送路上では、当該基地局に接続して通話を行う子機との双方向音声データおよび当該基地局に接続したすべての子機に対する双方向の制御データおよびDECT基地局間同期のための基地局間同期タイミングパルスが伝送される。
【0113】
図7は、基地局伝送路上のTDD (ピンポン伝送)方式の信号伝送のフレームフォーマットの一例を示す図である。
【0114】
ここでは、下り伝送と上り伝送とが設けられ、上り伝送と下り伝送の間には、基地局伝送路上の伝送遅延時間を考慮したガード期間が設けられている。
【0115】
TDD方式の周期 (フレーム時間長)は、音声データの区切りに合わせて125usの整数倍に設定される。下り伝送データは、フレーム同期ビット、マルチフレーム同期ビット、共通制御データおよび1または複数チャネル分の音声データ(図示省略)から構成される。上り伝送データについても同様である。
【0116】
子機の制御データは、通常、数バイト~数十バイト程度であり、数100ms程度の伝送遅延は許容されるので、複数のTDDフレームを連結してマルチフレーム構成とし、マルチフレーム単位で制御データを伝送してもよく、この場合にはマルチフレーム同期用ビットを使用することができる。マルチフレームの時間長は、例えば、数10ms程度に設定される。
【0117】
図8は、マルチフレーム構成の共通制御データの伝送の一例を示す図である。
【0118】
ここでは、1マルチフレームの制御データを50バイトとしてマルチフレームを構成している。
【0119】
フレーム同期は、125usの整数倍、マルチフレーム同期は、数10ms程度、DECT基地局間同期は、例えば960msの周期をもつ。フレーム同期ビットパターンを用いてDECT基地局間同期タイミング情報を伝送してもよい。
【0120】
制御データは、制御部15において生成される。双方向の制御データには、主装置10と基地局間の各制御シーケンスの制御コマンドが格納されている。なお、制御データに、制御対象の子機を識別するためのID情報を含ませることができ、発着信時に割り振られる呼番号などの情報を含ませることもできる。
【0121】
制御部15は、システム内のすべての子機の接続基地局情報、呼状態、鳴音指定の有無、局線キー割り当ておよび割り当てられた局線キーのランプ状態を管理し、それらを、逐次、更新する。子機の局線キーのランプ状態が変化した場合には、当該子機あての回線ランプ表示コマンドが発行される。
【0122】
基地局毎スロット群情報記憶部16は、基地局毎にスロット群情報を記憶する。基地局毎スロット群情報は、例えば、基地局識別情報毎に、当該基地局で使用可のスロット群を指定するものである。
【0123】
基地局識別情報は、例えば、
図22に示すDECT規格で規定された基地局ID情報の基地局ID (RPN)、あるいはシステム(主装置)側で定義した基地局識別情報、例えば、基地局番号とすることができる。また、当該基地局のスロット群情報としては、L個 (Lは3以上の自然数)のスロット群を識別するための任意のL通りの数値、あるいは基地局IDを利用してそれをLで除した剰余の数値を用いることができる。
【0124】
基地局IDを利用して当該基地局のスロット群情報を導出することにより、主装置に基地局毎スロット群情報を格納する必要がなくなり、後述する基地局の他の実施形態 (
図10)のように、基地局において当該基地局のスロット群情報を直接的に取得できるというメリットがある。例えば、当該基地局の裏面に表示された基地局IDの情報から当該基地局のスロット群情報を算出でき、工事事業者がコードレス電話システムの基地局を設置する際に、隣接基地局の基地局IDを適切に設定することで、容易に隣接基地局のスロット群が互いに異なるように配置できる。
【0125】
図9は、本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムにおける基地局の実施形態の基本構成を示すブロック図である。ここでは、基地局1 (20)の基本構成だけを図示しているが、他の基地局も同様の基本構成を備えている。
【0126】
本実施形態の基地局20は、基地局伝送路終端部21、DECT送受信制御部22、スロット群情報記憶部23およびブラインドスロット情報生成部24を備える。
【0127】
基地局伝送路終端部21は、基地局伝送路上を伝送されるTDDフレームの分解および合成を行う。基地局伝送路上では、K個 (Kは1以上の自然数)の双方向音声データが伝送されるが、この双方向音声データは、例えば、コーデックインタフェースを介して、DECT送受信制御部22にシリアル伝送される。
【0128】
コーデックインタフェースのために、多重音声コーデック用クロックおよび音声コーデックフレームパルスも基地局伝送路終端部21において生成され、DECT送受信制御部22に印加される。
【0129】
また、DECT基地局間同期のための所定の、例えば960ms周期のタイミング情報 (基地局間同期タイミングパルス)も基地局伝送路終端部21から出力され、DECT送受信制御部22に印加される。
【0130】
また、基地局伝送路終端部21は、双方向の制御データを、基地局伝送路のマルチフレーム単位で、子機制御コマンドとして合成または分解し、例えば、双方向シリアルインタフェースを介して、DECT送受信制御部22に印加する。
【0131】
また、逆に、DECT送受信制御部22は、無線伝送路を介して子機から受け取った制御情報を子機制御コマンドとして基地局伝送路終端部21に印加し、当該子機制御コマンドは、基地局伝送路を介して、主装置10に通知される。
【0132】
スロット群情報記憶部23は、基地局起動時の主装置との制御データ交換シーケンスにおいて、主装置10の基地局毎スロット群情報記憶部16に保持されている当該基地局のスロット群情報を取得して、スロット群情報記憶部23に保持する。
【0133】
ブラインドスロット情報生成部24は、スロット群情報とブラインドスロット情報との関係に基づいて、当該基地局20における各スロットの使用可・不可の情報であるブラインドスロット情報を生成し、DECT送受信制御部22に印加する。ブラインドスロット情報としては、例えば、第1スロットから第4スロットは使用可、第5スロットから第12スロットは使用不可の場合、例えば、{ 1, 1, 1, 1, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0 }が生成される。
【0134】
DECT送受信制御部22は、ブラインドスロット情報を受け取ると、該ブラインドスロット情報を、ビーコンを使用して当該基地局20に接続しているすべての子機に対して報知する。
【0135】
ビーコンによるブラインドスロット情報の報知は、ショートページPtのMAC情報に格納して報知することができ、また、システム情報Qtの独自情報として報知することもできる。
【0136】
図10は、本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムにおける基地局20の他の実施形態の基本構成を示すブロック図である。
【0137】
本実施形態の基地局20は、基地局伝送路終端部21、DECT送受信制御部22、基地局番号情報記憶部25、スロット群情報生成部26およびブラインドスロット情報生成部24を備える。
図9の基地局20との違いは、主装置からスロット群情報を取得することなく、基地局20において個別に設定し保持される基地局番号情報からスロット群情報を算出する点である。したがって、本実施形態の基地局20の場合、主装置は、基地局毎スロット群情報記憶部を備える必要はない。
【0138】
基地局番号情報記憶部25は、例えば、基地局IDとして、当該基地局番号を保持し、スロット群情報生成部26は、所定の処理、例えば、基地局番号をL(Lは3以上の自然数)で除した剰余の数値を算出するなどして、当該基地局番号からスロット群情報を算出し、さらに、ブラインドスロット情報生成部24は、スロット群情報とブラインドスロット情報との関係から、当該基地局における各スロットの使用可・不可の情報であるブラインドスロット情報を生成して、DECT送受信制御部22に印加し、ブラインドスロット情報をビーコンとして報知する。
【0139】
図11は、本発明に係るDECT無線通信方式を利用するデジタルコードレス電話システムにおける子機の一実施形態の基本構成を示すブロック図である。
【0140】
本実施形態の子機30は、DECT送受信制御部31、子機制御部32、音声コーデック33、局線キー34、リンガ35、LCD表示部36、マイク37、スピーカ38、テンキー39および基地局毎スロット群テーブル記憶部40を備える。
【0141】
DECT送受信制御部31は、DECT無線信号の送受信、GFSKまたは差動PSK変復調、TDMAフレーム合成、TDMAフレーム分解、基地局探索時の探索処理および無線状態管理等を行う。
【0142】
音声コーデック33は、DECT送受信制御部31との間で音声コーデック信号を送受信し、また、DECT送受信制御部31から音声コーデック用クロックおよび音声コーデックフレームを受信し、音声をコーデック/デコーデックする。音声コーデック33には、マイク37およびスピーカ38が接続されており、子機30側で発話された音声信号は、マイク37で電気信号に変換され、音声コーデック33が具備するAD変換器で所定レート、例えば、8kHzでサンプリングされ、さらに音声コーデック33にて伝送帯域を圧縮される。例えば、14ビットでAD変換されたリニアPCM信号をu-law PCMもしくはA-law PCMで8ビットに圧縮し、さらにADPCMで4ビットに圧縮してもよい。
【0143】
DECT規格上では、狭帯域音声として32kbps ADPCM、広帯域音声として64kbps u-law PCMおよび64kbps G.722等の音声コーデックに対応している。狭帯域音声では上りおよび下りで各1スロットを使用するが、広帯域音声では上りおよび下りで各2スロットを使用する。子機30では、狭帯域音声を使用してもよいし、広帯域音声を使用してもよい。
【0144】
通話の相手側で発話された音声信号は、音声コーデック33に具備されたDA変換器にてアナログ信号に変換されてスピーカ38から出力される。音声コーデック33には、DECT送受信制御部31から音声コーデック用クロックおよび1サンプリング分のデータの起点を示す音声コーデックフレームパルスが印加されており、また、双方向の音声コーデック信号がDECT送受信制御部31との間で伝送される。
【0145】
子機制御部32には、局線キー34、リンガ35、LCD表示部36およびテンキー39等が接続されており、子機制御信号に応じて局線キーランプ表示を行ったり、リンガを鳴音させたり、LCD表示を行ったりする。また、局線キー34、あるいはテンキー39の押下の情報は、子機制御信号としてDECT送受信制御部31に印加され、制御シーケンスの中で処理される。
【0146】
基地局毎スロット群テーブル記憶部40は、基地局探索時に取得される基地局探索情報およびブラインドスロット情報に基づいて作成される基地局毎スロット群テーブルを記憶する。この基地局毎スロット群テーブルは、逐次、更新される。
【0147】
図12は、子機状態および状態遷移の一例を示す図である。以下では、
図12および
図11を適宜参照して、子機の動作を説明する。
【0148】
各子機は、電源投入されると、初期状態から基地局探索状態となり、一定時間間隔で基地局探索動作を行い、基地局探索情報およびブラインドスロット情報を取得する。
【0149】
具体的には、各基地局がダミーベアラを用いて報知する基地局ID情報Ntを受信して、基地局ID情報および当該基地局からのビーコン受信レベル情報からなる基地局探索情報を取得し、さらに、各基地局がダミーベアラを用いて報知するシステム情報Qtを受信して、当該基地局のブラインドスロット情報を取得する。基地局側からシステム情報Qtとして報知されるブラインドスロット情報を、基地局探索時に受信し、ブラインドスロット情報および受信レベル情報を取得するようにすることもできる。子機が基地局探索する場合、位置登録子機数が上限値に達していない基地局を選択し、位置登録するようにしてもよい。
【0150】
取得した基地局探索情報およびブラインドスロット情報を基に、基地局毎スロット群テーブルを作成し、この情報を基地局毎スロット群テーブル記憶部40に保持する。
【0151】
図13は、基地局毎スロット群テーブルの一例を示す図である。この基地局毎スロット群テーブルは、基地局探索時に発見された基地局ID情報のリスト、各基地局からのビーコンの受信レベル情報および各基地局のブラインドスロット情報で構成される。
【0152】
基地局ID情報のリストには、基地局ID情報Ntに含まれる基地局識別情報のすべて、またはその一部を使用することができる。例えば、基地局ID情報Ntに含まれるシステムID情報 (FPN)が自システムのシステムIDに一致した場合に、基地局ID (RPN)および受信レベル情報を保持するようにすることができる。
【0153】
また、基地局ID (RPN)の代わりに、システム(主装置)側で定義した基地局識別情報、例えば、基地局番号を使用することもでき、また、これと基地局ID (RPN)とを併用してもよい。また、システム(主装置)側で定義した基地局識別情報を、システム情報Qtとして報知するようにして、基地局探索時にこれを受信し、基地局識別情報および受信レベル情報を取得するようにすることもできる。
【0154】
なお、
図21を用いて説明したように、基地局ID情報Nt、システム情報Qtおよびページング情報Ptは、1つのマルチフレームの中で、同一周波数チャネルかつ同一スロットを用いて各々報知されている。
【0155】
システム情報Qtには、
図23および
図24に示すように、システム基本情報以外にもRFキャリア情報、マルチフレーム番号情報、独自システム情報等があり、該Qtフレームで送信されるシステム情報の種別はQtヘッダに格納されている。このようないくつかの異なるシステム情報は複数のマルチフレームを用いて報知されており、子機は、複数のマルチフレームを受信することで、これらのいくつかの異なるシステム情報を取得することができる。基地局側から、独自のシステム情報、例えば、システム(主装置)側で定義した基地局識別情報あるいはブラインドスロット情報をシステム情報Qtに追加して報知するようにし、子機側で、複数のマルチフレームを受信して、基地局識別情報あるいはブラインドスロット情報を取得するようにすることもできる。
【0156】
ページング情報Ptには、
図28に示すように、ブラインドスロット情報等のMAC情報を含むショートページとMAC情報を含まないフルページやロングページがある。また、ショートページにおいても、
図30に示すように、いくつかの異なるMAC情報が複数のマルチフレームを用いて報知されている。子機側で、複数のマルチフレームを受信して、ショートページを用いて報知されるブラインドスロット情報を取得するようにすることもできる。上述したように、同一周波数チャネルかつ同一スロットにおいて、複数のマルチフレームを受信することにより、基地局探索情報およびブラインドスロット情報を取得することができる。
【0157】
各基地局のブラインドスロット情報は、基地局側からページング情報Ptを用いて間欠的に報知されるMAC情報の1つであるブラインドスロット情報から取得することができる。
【0158】
次に、位置登録シーケンスにおける子機の動作をより詳細に説明する。
【0159】
図14は、子機30の主装置に対する位置登録シーケンスの一例を示す図である。
【0160】
位置登録シーケンスにおいては、子機は、最初に、データリンク層のリンクを確立するベアラ(MAC層)を用意するためのアクセス要求を位置登録しようとする基地局宛てに送信する。
【0161】
基地局探索状態の子機の子機制御部32は、基地局毎スロット群テーブル記憶部40に保持されている基地局毎スロット群テーブルを参照して、例えば、受信レベルが最も高い基地局を選択し、さらに、基地局毎スロット群テーブルから、当該基地局のブラインドスロット情報を取得する。あるいは、当該基地局のページング情報Ptを複数マルチフレームにわたり間欠受信して、ブラインドスロット情報を取得してもよい。
【0162】
基地局探索状態の子機の子機制御部32は、位置登録先の基地局を選択し、当該基地局のブラインドスロット情報を取得すると、該ブラインドスロット情報に基づいて、当該基地局において使用可のスロットを使用して、MACアクセス要求を送信するための子機制御信号を生成し、これをDECT送受信制御部31に印加する。これを受けたDECT送受信制御部31からは、当該基地局において使用可のスロットを使用して、MACアクセス要求が送信される。
【0163】
MACアクセス要求を受信した基地局は、ペアスロットを使用して、MACベアラ確認メッセージを当該子機に送信する。ここで、ペアスロットとは、同一周波数チャネルで時間的に5ms間隔となる上りスロットと下りスロットのことであり、ペアスロットはどちらも同一スロット群に属する。すなわち、MACベアラ確認メッセージは、当該基地局で使用可のスロット群に属するスロットを使用して送信される。
【0164】
以降、同一ペアスロットを使用して、すなわち、当該基地局で使用可のスロット群に属するスロットを使用してデータリンク層のリンク確立手順および位置登録手順にしたがった無線伝送が行われ、位置登録が行われる。
【0165】
子機は、いずれかの基地局に位置登録すると、アイドルロック状態となる。アイドルロック状態とは、いずれかの基地局に接続しているが、ビーコンを受信するのみで、基地局と双方向の通信を行っていない状態である。
【0166】
アイドルロック状態の子機が、基地局との間で通信を行う場合には、リンクを確立し、通信ロック状態に移行する必要がある。通信ロック状態では、トラフィックベアラを用いた基地局との間での双方向通信が行われる。
【0167】
図15は、子機において発信のためのキー操作があった場合の発呼シーケンスの一例を示す図である。
【0168】
アイドルロック状態の子機において発信のためのキー操作があると、子機制御部32は、それを検出し、位置登録を実施した接続中の基地局に対して、当該基地局のブラインドスロット情報に基づいて、当該基地局で使用可とされているスロット群に属するスロットを使用して、MACアクセス要求を送信するための子機制御信号を生成し、DECT送受信制御部31に印加する。これを受けたDECT送受信制御部31からは、当該基地局で使用可とされているスロット群に属するスロットを使用して、MACアクセス要求が送信される。
【0169】
MACアクセス要求を受信した基地局は、ペアスロットを使用して、MACベアラ確認メッセージを当該子機に送信する。ペアスロットはどちらも当該基地局で使用可とされている同一スロット群に属するスロットであるため、MACベアラ確認メッセージは、該スロットを使用して送信される。
【0170】
以降、同一スロット群に属するペアスロットを使用して、すなわち、当該基地局で使用可とされているスロット群に属するスロットを使用してデータリンク層のリンク確立手順、発呼手順および通話手順の無線伝送が行われる。
【0171】
通信ロック状態においても、通信品質劣化時もしくは所定時間間隔で通信前基地局探索を行うことができ、より良好に無線通信が可能な新しい基地局が発見された場合は、新しい基地局に対してリンク確立して、新しい基地局との通信ロック状態に移行できる。すなわち、ハンドオーバを実施することができる。
【0172】
なお、通信ロック状態において、ハンドオーバを実施する場合には、接続中の基地局との通信を継続しながら、同時に、通信中基地局探索を行う必要がある。通信中基地局探索においては、通信で使用中のスロット以外のスロットで基地局探索が行われる。
【0173】
子機が通信中に2つの基地局ゾーン間を移動してハンドオーバが実施される場合、従来技術では、移動先の基地局のビーコンの送信スロットが、通信で使用中のスロットと一致する場合は、移動先の基地局のビーコンを通信中基地局探索では発見できず、移動先の基地局以外の基地局で、当該基地局のビーコンが通信で使用中のスロットに一致しない基地局の中からハンドオーバ先の基地局を選択することになる。
【0174】
移動先の基地局以外で適当なハンドオーバ先の基地局が発見できた場合はよいが、適当な基地局が発見できなかった場合は、実際には移動先には基地局があるにもかかわらず、この基地局が発見できなくてハンドオーバを実施できず、通信品質が劣化し、最悪では、通信が切断される可能性もある。
【0175】
このような事態を回避するため、各基地局から10ms周期で2個のビーコンを送信して同一情報を送信することも行われているが、基地局数の2倍のスロットがビーコンにより占有されるため、輻輳が発生しやすくなり、同一チャネル干渉が発生しやすくなる問題がある。一方、各基地局から10ms周期で1個のビーコンを送信する場合には、上述のように、ハンドオーバ時に、移動先の基地局のビーコンが受信できなくなる場合がある。
【0176】
これに対して、本発明によれば、隣接する基地局に対して異なるスロット群を割り当てるので、各基地局から10ms周期で1個のビーコンを送信する場合でも、通信で使用中のスロットと移動先の基地局が使用するスロットのスロット群が異なるので、ハンドオーバ時に移動先の基地局のビーコンが受信できないことはなくなる。そのため、同一チャネル干渉の観点で有利な10ms周期で1個のビーコンを使用するだけで済ませることができる。
【符号の説明】
【0177】
10・・・主装置
11・・・局線I/F部
12・・・内線I/F部
13・・・クロック生成部
14・・・回線交換部
15・・・制御部
16・・・基地局毎スロット群情報記憶部
20・・・基地局
21・・・基地局伝送路終端部
22・・・DECT送受信制御部
23・・・スロット群情報記憶部
24・・・ブラインドスロット情報生成部
25・・・基地局番号情報記憶部
26・・・スロット群情報生成部
30・・・子機
31・・・DECT送受信制御部
32・・・子機制御部
33・・・音声コーデック
34・・・局線キー
35・・・リンガ
36・・・LCD表示部
37・・・マイク
38・・・スピーカ
39・・・テンキー
40・・・基地局毎スロット群テーブル記憶部