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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132317
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】集電体及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20230914BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20230914BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230914BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/40
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037551
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】森田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】松永 朋也
(72)【発明者】
【氏名】児玉 昌士
(72)【発明者】
【氏名】矢▲崎▼ 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】古澤 智
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AA04
5H017AS10
5H017EE07
5H017EE08
5H017HH00
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ07
5H029EJ12
5H029HJ00
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA04
5H050HA00
(57)【要約】
【課題】析出型のリチウム負極を有する二次電池のサイクル特性を改善する。
【解決手段】本開示の集電体は、リチウム析出型電極に用いられる集電体であって、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有する。また、本開示の二次電池は、正極、電解質層、負極集電体、及び、充電によって前記電解質層と前記負極集電体との間に析出する負極活物質としての金属リチウム、を備え、前記負極集電体が、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム析出型負極に用いられる集電体であって、
樹脂と導電材料とを含み、且つ、
17MPa以上60MPa以下のヤング率を有する、
集電体。
【請求項2】
二次電池であって、正極、電解質層、負極集電体、及び、充電によって前記電解質層と前記負極集電体との間に析出する負極活物質としての金属リチウム、を備え、
前記負極集電体が、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有する、
二次電池。
【請求項3】
前記電解質層が、固体電解質を含む、
請求項2に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は集電体及び二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リチウム析出型電極を備える二次電池において、集電体の表面形状を工夫することで、集電体上に金属リチウムが析出した際に生じる電極の膨張を抑制する技術が開示されている。特許文献2には、リチウムイオン二次電池用樹脂集電体であって、導電性無孔質樹脂層とその上に積層された導電性樹脂層からなるものが開示されている。特許文献3には、双極型二次電池用集電体であって、エラストマー及びポリオレフィン樹脂を含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-212604号公報
【特許文献2】特開2018-098204号公報
【特許文献3】特開2011-054492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の知見によると、特許文献1に開示されているようなリチウム析出型負極を備える二次電池においては、電解質層と負極集電体との間に金属リチウムが不均一に析出し、電池のサイクル特性が低下する虞がある。この点、リチウム析出型負極を備える二次電池について、そのサイクル特性を改善するための新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
リチウム析出型負極に用いられる集電体であって、
樹脂と導電材料とを含み、且つ、
17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するもの
を開示する。
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
二次電池であって、正極、電解質層、負極集電体、及び、充電によって前記電解質層と前記負極集電体との間に析出する負極活物質としての金属リチウム、を備え、
前記負極集電体が、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するもの
を開示する。
【0007】
本開示の二次電池において、前記電解質層が、固体電解質を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、リチウム析出型負極を有する二次電池のサイクル特性が改善され易い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】二次電池100について、充電後及び放電後の各々の構成を概略的に示している。
図2】リチウム析出型負極においてヤング率が過度に大きい集電体を採用した二次電池について、充電後の構成を概略的に示している。
図3】リチウム析出型負極においてヤング率が過度に小さい集電体を採用した二次電池について、充電後の構成を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.集電体
本開示の集電体は、リチウム析出型負極に用いられる集電体であって、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有する。「リチウム析出型負極」とは、充電時に金属リチウムの析出を伴う負極をいう。
【0011】
1.1 樹脂
本開示の集電体は、樹脂を含む。樹脂の種類によって、集電体のヤング率が任意に調整され得る。本開示の集電体を構成する樹脂の具体例としては、例えば、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリシクロオレフィン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、アクリル系樹脂(ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等)、これらの共重合体等の各種の熱可塑性樹脂が挙げられる。或いは、合成ゴム(スチレンブタジエンゴム及びポリアクリロニトリル等)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びポリエーテルニトリル等のエンジニアリングプラスチックを用いることもできる。樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。本発明者の確認した限りでは、少なくともビニル系樹脂(ビニル樹脂)を含む集電体、中でも、少なくともフッ素系樹脂と官能基含有ビニル系樹脂とを含む集電体が、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するものになり易い。
【0012】
上記樹脂(特に官能基含有ビニル系樹脂)は、導電材料の分散性を向上させる観点から、官能基として、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基、ピロリドン基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を有していてもよく、また、樹脂中の官能基濃度が1~23mmol/gであってもよい。樹脂中の官能基濃度は、5~23mmol/gが好ましく、10~23mmol/gがより好ましい。
【0013】
上記樹脂の重量平均分子量としては、1,000~200,000であることが好ましく、2,000~100,000、7,000~50,000であることがより好ましい。また、樹脂がビニル系樹脂である場合、その重合度としては、100~4,000であることが好ましく、100~3,000、特に、150~700であることがより好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した重量平均分子量を、標準ポリスチレンの分子量を基準にして換算した値である。具体的には、ゲルパーミュエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」「TSKgel G-3000HXL」「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0014】
集電体における樹脂の含有量は、集電体として必要な導電性が確保され、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率が達成される限り、特に限定されるものではない。例えば、集電体の全体の質量を基準(100質量%)として、樹脂が40質量%以上99質量%以下含まれていてもよい。樹脂の含有量は、45質量%以上又は50質量%以上であってもよく、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。
【0015】
1.2 導電材料
本開示の集電体は、上記の樹脂とともに導電材料を含む。樹脂及び導電材料の種類によって、集電体のヤング率が任意に調整され得る。導電材料は、集電体に所望の導電性を付与可能なものであればよい。本開示の集電体を構成する導電材料の具体例としては、炭素材料(気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、グラフェン等)や金属材料(ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等)等が挙げられる。導電材料は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。導電材料は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。
【0016】
中でも、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)から選ばれる少なくとも1種の繊維状導電材料が好ましく、単層又は多層の繊維状導電材料が好適に使用できる。
【0017】
上記繊維状導電材料の平均外径としては、特に限定されないが、例えば1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上であり、例えば300nm以下、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均外径は透過型電子顕微鏡によって、例えば100本の形態観察を行い、短軸の長さを計測し、その数平均値により測定することができる。
【0018】
上記繊維状導電材料の平均長さとしては、特に限定されないが、例えば0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上である。平均長さの上限としては、特に限定されないが、例えば100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下である。平均長さはSEMによって、例えば100本の形態観察を行い、繊維長の長さを計測し、その数平均値により測定することができる。
【0019】
集電体における導電材料の含有量は、集電体として必要な導電性が確保され、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率が達成される限り、特に限定されるものではない。例えば、集電体の全体の質量を基準(100質量%)として、導電材料が1質量%以上60質量%以下含まれていてもよい。導電材料の含有量は、5質量%以上又は10質量%以上であってもよく、55質量%以下又は50質量%以下であってもよい。
【0020】
1.3 その他の材料
本開示の集電体は、集電体として必要な導電性が確保され、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率が達成される限り、上記の樹脂及び導電材料とともにその他の材料を含んでいてもよい。その他の材料は、特に限定されるものではない。
【0021】
1.4 ヤング率
本開示の集電体は、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有する。集電体のヤング率が高過ぎると、リチウム析出型負極に適用した場合に、充電時に、面圧ムラが生じ易く、金属リチウムが不均一に析出し易くなる(図2参照)。集電体のヤング率が低過ぎると、リチウム析出型負極に適用した場合に、金属リチウムの析出に伴って集電体が過剰に塑性変形し、局所的に面圧抜けが生じて、反応ムラが生じ易くなり、金属リチウムが不均一に析出し易くなる(図3参照)。金属リチウムが不均一に析出した場合、二次電池のサイクル特性が低下し易い。一方で、本開示の集電体のように、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するものであれば、リチウム析出型負極に適用した場合にリチウムが均一に析出し易く、二次電池のサイクル特性が向上し易い。本開示の集電体のヤング率は、20MPa以上、25MPa以上又は30MPa以上であってもよく、55MPa以下、50MPa以下又は45MPa以下であってもよい。
【0022】
尚、集電体の「ヤング率」は、25℃におけるヤング率をいい、一般的な測定方法によって求めることができる。本願において、ヤング率は、ビッカース硬度計を用いて、JIS Z 2244に準拠して負荷除荷試験を行い、除荷時の応力-歪曲線の傾きを求めることによって測定されるものである。
【0023】
1.5 その他
本開示の集電体は、リチウム析出型負極に適用可能な形状や大きさを有するものであればよい。本開示の集電体の厚みは、例えば、100μm以下、80μm以下、60μm以下、40μm以下、又は、20μm以下であってもよい。本開示の集電体の平面形状は、電極の面形状に応じて適宜決定され得る。本開示の集電体は、例えば、基材(例えば、剥離フィルム)の表面に、樹脂と導電材料とを含む導電ペーストを塗工し、乾燥させることで、基材と集電体との積層体を得て、その後、当該積層体から基材を剥がすことにより得られたものであってもよい。
【0024】
導電ペーストとしては、ペーストの流動性及び集電体の仕上がり性の観点から、樹脂及び導電材料と共に、少なくとも1種の溶媒を含有していることが好ましい。溶媒としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、アミド系溶剤等を挙げることができる。これらの溶剤は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも、アミド系溶剤が好ましい。
【0025】
上記導電ペーストの固形分量としては、流動性及び集電体の仕上がり性の観点から、1~90質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、20~70質量%がさらに好ましい。
【0026】
上記導電ペーストは、以上に述べた各成分を、例えば、ディスパー、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、ペブルミル、LMZミル、DCPパールミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、二軸混練機、薄膜旋回型高速ミキサー(商品名:クレアミックス、フィルミックス等)等の従来公知の分散機を用いて均一に混合、分散させることにより調製することができる。
【0027】
2.二次電池
本開示の二次電池は、正極、電解質層、負極集電体、及び、充電によって前記電解質層と前記負極集電体との間に析出する負極活物質としての金属リチウム、を備え、前記負極集電体が、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するものである。
【0028】
図1に、一実施形態に係る二次電池100の構成を概略的に示す。図1に示されるように、一実施形態に係る二次電池100は、正極10、電解質層20、負極集電体31、及び、充電によって電解質層20と負極集電体31との間に析出する負極活物質としての金属リチウム32、を備える。ここで、負極集電体31が上述の本開示の集電体である。
【0029】
2.1 正極
正極10は少なくとも正極活物質を含む。二次電池100の充電時には、リチウムイオンが、当該正極活物質から電解質層20を介して電解質層20と負極集電体31との間へと到達し、電子を受け取って金属リチウム32として析出する。また、電池の放電時には、電解質層20と負極集電体31との間の金属リチウム32が溶解(イオン化)して、正極10へと戻される。正極10の形態は、二次電池の正極として公知の形態のいずれであってもよい。例えば、図1に示されるように、正極10は、正極集電体11と正極活物質層12とを備えるものであってもよい。
【0030】
2.1.1 正極集電体
正極集電体11は、二次電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。正極集電体11は、金属箔又は金属メッシュであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体11は、複数枚の金属箔からなっていてもよい。正極集電体11を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点から、正極集電体11がAlを含むものであってもよい。正極集電体11は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体11が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体11の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0031】
2.1.2 正極活物質層
正極活物質層12は、正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層12はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層12における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層12全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層12の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層12の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0032】
正極活物質は、二次電池の正極活物質として公知のものであってよく、充電時に負極側にリチウムを供給可能なものであればよい。例えば、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、マンガン酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等の各種のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。正極活物質の粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。正極活物質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0033】
正極活物質の表面は、リチウムイオン伝導性酸化物を含有する保護層によって被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質層12には、上記の正極活物質と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極物活物質と硫化物(例えば、後述の硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。リチウムイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiBO、LiBO、LiCO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiNbO、LiMoO、LiWOが挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0034】
正極活物質層12に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。特に、正極活物質層12が固体電解質を含むものである場合に、本開示の技術による効果が一層高まり易い。
【0035】
固体電解質は、二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質;LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等の硫化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0036】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってもよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸塩等が挙げられる。
【0037】
正極活物質層12に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0038】
正極活物質層12に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、ポリアクリル酸系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0039】
2.1.3 その他
正極10は、上記構成に加えて、二次電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層12を容易に形成可能である。正極活物質層12は、正極集電体11とともに成形されてもよいし、正極集電体11とは別に成形されてもよい。
【0040】
2.2 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。電解質層20は、固体電解質を含んでいてもよく、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。この場合、電解質層20における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。また、電解質層20は、各種の添加剤を含むものであってもよい。また、電解質層20は、固体電解質とともに液体成分を含むものであってもよい。或いは、電解質層20は、電解液を含むものであってもよく、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極と負極との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0041】
電解質層20に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。特に、電解質層20が固体電解質を含む場合、中でも無機固体電解質を含む場合、電解質層20の剛性が高まり、金属リチウム32が固体電解質層を貫通し難く、また、電解質層20と負極集電体31とによって金属リチウム32に対して圧力を付与し易い。また、電解質層20が固体電解質を含む場合に上述の金属リチウムの不均一析出に係る課題が発生し易いところ、本開示の集電体を採用することで当該課題が解決され得る。電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。電解質層20は、例えば、上述の電解質及びバインダー等を含む電解質合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって容易に形成可能である。
【0042】
一方で、電解質層20が電解液やセパレータを有するものである場合、セパレータは、二次電池において通常用いられるセパレータであればよい。セパレータは、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるものであってもよい。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0043】
2.3 負極集電体
負極集電体31は、上述の本開示の集電体である。ここでは詳細な説明を省略する。
【0044】
2.4 負極活物質としての金属リチウム
二次電池100においては、充電によって、電解質層20と負極集電体31との間に負極活物質としての金属リチウム32が析出する。また、図1に示されるように、電解質層20と負極集電体31との間に析出した金属リチウム32は、放電に伴って溶解(イオン化)し、正極10へと戻される。このように、二次電池100の充電及び放電が繰り返されると、負極側において金属リチウム32の析出及び溶解が繰り返される。
【0045】
仮に、負極集電体のヤング率が高過ぎる場合、図2に示されるように、充電時に金属リチウムが不均一に析出し、面圧ムラが生じ易くなる。具体的には、リチウム析出型電極において剛直な集電体を用いた場合、集電体と電解質層との接触にムラが生じ易い。また、電解質層の表面のごくわずかな凹凸により、物理的な面圧ムラが生じ易い。このような状態で電解質層と集電体との間に金属リチウムを析出させると、面圧ムラによって金属リチウムが高面圧部に優先的に析出するものと考えられる。金属リチウムが優先析出した箇所においては、金属リチウムの析出寸法分だけ膨張が生じ、さらに面圧が上昇し易い。そうすると、さらに金属リチウムの優先析出が生じ易くなり、反応ムラが助長される。一方で、負極集電体のヤング率が低いほど、集電体の弾性変形量が大きく、初期のリチウム析出変位を吸収し易くなる。しかしながら、負極集電体のヤング率が低過ぎる場合、図3に示されるように、充電時に金属リチウムの析出に伴って集電体が過剰に塑性変形し、局所的に面圧抜けが生じて、むしろ反応ムラが生じ易くなる。このように、負極集電体のヤング率が低過ぎても高過ぎても、二次電池のサイクル特性に悪影響を及ぼし易い。
【0046】
これに対し、本開示の二次電池100のように、負極集電体31として17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するものが採用されることで、充電時に電解質層20と負極集電体31との間に金属リチウム32が析出した場合に、図1に示されるように、金属リチウム32が均一に析出し易く、二次電池100のサイクル特性が向上し易い。
【0047】
電解質層20と負極集電体31との間における金属リチウム32の析出量は特に限定されるものではない。目的とする電池性能に応じて適宜調整されればよい。例えば、SOCが高くなるほど、析出する金属リチウム32の量が多くなり、電解質層20と負極集電体31との間において金属リチウム32を均一化することによる効果が一層高まるものと考えられる。金属リチウム32の析出量は、二次電池100の充電容量が、例えば、1mAh/cm以上3mAh/cm以下となるような量であってもよい。
【0048】
2.5 その他の部材
二次電池100は、液体電解質を実質的に含まない全固体電池であってもよいし、固体電解質とともに一部に液体成分を含むものであってもよいし、電解液電池であってもよい。特に、上述したように、二次電池100が電解質として固体電解質を含むものである場合に一層高い効果が期待できる。二次電池100は、少なくとも上記の各構成を有するものであればよく、これ以外にその他の部材を有していてもよい。以下に説明される部材は、二次電池100が有し得るその他の部材の一例である。
【0049】
2.5.1 外装体
二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。より具体的には、二次電池100から外部へと電力を取り出すためのタブ又は端子等を除いた部分が、外装体の内部に収容されていてもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。例えば、外装体としてラミネートフィルムを用いてもよい。また、複数の二次電池100が、電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。
【0050】
2.5.2 封止樹脂
二次電池100においては、上記の各構成が樹脂によって封止されていてもよい。例えば、正極、電解質層及び負極の少なくとも側面(各層の積層方向に沿った面)が樹脂によって封止されてもよい。これにより、各層の内部への水分の混入等が抑制され易くなる。封止樹脂としては、公知の硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が採用され得る。
【0051】
2.5.3 拘束部材
二次電池100は、上記の各構成を厚み方向(各層の積層方向に沿った方向)に拘束するための拘束部材を有していてもよいし、有していなくてもよい。拘束部材によって拘束圧が付与されることで、電池の内部抵抗が低減され易い。また、電解質層と負極集電体との間に析出した金属リチウムに対して一定の面圧が付与され易くなる。
【0052】
2.6.二次電池の製造方法
上記の二次電池100は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、二次電池100の製造方法は、
正極10、電解質層20及び前記負極集電体31をこの順に有する積層体を得ること、並びに、
前記積層体に対して充電を行い、前記電解質層20と前記負極集電体31との間に金属リチウム32を析出させること、
を含むものであってよい。正極10、電解質層20及び負極集電体31の各々の作製方法については上述した通りである。これらを重ね合わせることで上記の積層体が得られる。上記の積層体を得た後は、当該積層体に対して、厚み方向(積層方向)に圧力を加えてもよい。例えば、積層体を構成する各層をプレスして一体化してもよいし、積層体を構成する各層の隙間を解消して界面抵抗を低下させてもよい。積層体は公知の手段にて加圧され得る。例えば、CIP、HIP、ロールプレス、一軸プレス、金型プレス等の種々の加圧方法によって積層体を積層方向に加圧することができる。特にCIPやHIPのような方圧プレスにて積層体を加圧した場合、積層体の積層面をより均一に加圧し易いものと考えられる。積層体に印加される積層方向への圧力の大きさは、目的とする電池の性能に応じて適宜決定され得る。例えば、当該圧力は10MPa以上、50MPa以上、100MPa以上、150MPa以上、200MPa以上、250MPa以上、300MPa以上又は350MPa以上であってもよい。積層体の加圧時間や加圧温度は特に限定されるものではない。積層体は一般的な電池の充電方法と同様の方法によって充電されればよい。すなわち、積層体の正極集電体11及び負極集電体31に外部電源を接続して充電を行えばよい。積層体を充電することで、正極活物質層12に含まれる正極活物質から電解質層20を介して負極集電体31側へとリチウムイオンが伝導し、電解質層20と負極集電体31との間において、当該リチウムイオンが電子を受け取り、金属リチウム32となって析出する。本実施形態に係る製造方法は、上述した各工程に加えて、二次電池を製造するための一般的な工程を含んでいてもよい。例えば、積層体をラミネートフィルム等の外装体の内部に収容する工程や、積層体に集電タブを接続する工程等である。具体的には、例えば、積層体の集電体11、31に集電タブを接続(集電体11、31の一部を突出させて、これをタブとしても用いてもよい)したうえで、当該積層体を外装体としてのラミネートフィルム内に収容する一方で、ラミネートフィルムの外部にタブを引き出した状態で、ラミネートフィルムを封止し、その後、ラミネートフィルム外のタブを介して積層体の充電を行ってもよい。
【実施例0053】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
1.負極集電体の用意
1.1 比較例1
負極集電体として、SUS304箔(厚さ10μm)を用意した。また、ビッカース硬度計を用いて、SUS304箔のヤング率を測定したところ、197000MPaであった。
【0055】
1.2 比較例2
負極集電体として、以下の樹脂集電箔1を用意した。すなわち、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:重量平均分子量約100万)とVGCF(VGCF-H:商品名、昭和電工社製、気相成長炭素繊維、マルチウォールタイプ、繊維長10~20μm、繊維径:150nm、比表面積:13m/g)とを80質量%:20質量%で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、gapが200μmのブレードで剥離フィルム(東レ社製セラピール、WZ)上に塗工した。その後、100℃で1時間乾燥することで、導電膜と剥離フィルムとの積層体を得た。積層体の界面をピンセットで剥離し、導電膜を得た。この導電膜を樹脂集電箔1として使用した。ビッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔1のヤング率を測定したところ、95.6MPaであった。
【0056】
1.3 比較例3
樹脂集電箔におけるPVDF(ポリフッ化ビニリデン:重量平均分子量約100万)とVGCF(VGCF-H:商品名、昭和電工社製、気相成長炭素繊維、マルチウォールタイプ、繊維長10~20μm、繊維径:150nm、比表面積:13m/g)との比率を90質量%:10質量%としたこと以外は、比較例2と同様にして、負極集電体としての樹脂集電箔2を得た。具体的には、比較例2で使用した導電ペーストを、PVDF:VGCF=90質量%:10質量%となるように調整したうえで、N-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、比較例2と同様の手順で樹脂集電箔2を作製した。ビッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔2のヤング率を測定したところ、75.4MPaであった。
【0057】
1.4 実施例1
樹脂集電箔を構成する樹脂としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン:重量平均分子量約100万)とビニル樹脂(ポリビニルブチラール:重量平均分子量32,000、水酸基21mol%、ブチラール化度77mol%)との混合樹脂を用い、導電材料としてCNT(カーボンナノチューブ:繊維長約8μm、繊維径約40nm、比表面積約90m/g)を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、負極集電体としての樹脂集電箔3を得た。具体的には、混合樹脂とCNTとを80質量%:20質量%で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、gapが200μmのブレードで剥離フィルム(東レ社製セラピール、WZ)上に塗工した。その後、100℃で1時間乾燥することで、導電膜と剥離フィルムとの積層体を得た。積層体の界面をピンセットで剥離し、導電膜を得た。この導電膜を樹脂集電箔3として使用した。ビッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔3のヤング率を測定したところ、59.1MPaであった。
【0058】
1.5 実施例2
樹脂集電箔における混合樹脂とCNT(カーボンナノチューブ:繊維長約8μm、繊維径約40nm、比表面積約90m/g)との比率を90質量%:10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、負極集電体としての樹脂集電箔4を得た。具体的には、混合樹脂:CNT=90質量%:10質量%で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、実施例1と同様の手順で樹脂集電箔4を作製した。ビッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔4のヤング率を測定したところ、41.7MPaであった。
【0059】
1.6 実施例3
樹脂集電箔を構成する樹脂としてビニル樹脂(ポリビニルブチラール:重量平均分子量32,000、水酸基21mol%、ブチラール化度77mol%)を単独で用いたこと以外は、比較例2と同様にして、負極集電体としての樹脂集電箔5を得た。具体的には、ビニル樹脂とVGCF(VGCF-H:商品名、昭和電工社製、気相成長炭素繊維、マルチウォールタイプ、繊維長10~20μm、繊維径:150nm、比表面積:13m/g)とを80質量%:20質量%で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、gapが200μmのブレードで剥離フィルム(東レ社製セラピール、WZ)上に塗工した。その後、100℃で1時間乾燥することで、導電膜と剥離フィルムとの積層体を得た。積層体の界面をピンセットで剥離し、導電膜を得た。この導電膜を樹脂集電箔5として使用した。ビッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔5のヤング率を測定したところ、17.0MPaであった。
【0060】
1.7 比較例4
樹脂集電箔におけるビニル樹脂(ポリビニルブチラール:重量平均分子量32,000、水酸基21mol%、ブチラール化度77mol%)とVGCF(VGCF-H:商品名、昭和電工社製、気相成長炭素繊維、マルチウォールタイプ、繊維長10~20μm、繊維径:150nm、比表面積:13m/g)との比率を90質量%:10質量%としたこと以外は、実施例3と同様にして、負極集電体としての樹脂集電箔6を得た。具体的には、ビニル樹脂:VGCF=90質量%:10質量%で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、実施例3と同様の手順で樹脂集電箔6を作製した。ピッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔6のヤング率を測定したところ、6.88MPaであった。
【0061】
1.8 比較例5
樹脂集電箔を構成する樹脂としてポリエチレン樹脂(PE)を用い、且つ、PEとVGCF(VGCF-H:商品名、昭和電工社製、気相成長炭素繊維、マルチウォールタイプ、繊維長10~20μm、繊維径:150nm、比表面積:13m/g)との比率を50質量%:50質量%として、樹脂集電箔7を得た。具体的には、PEとVGCFとを50質量%:50質量%で混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで固形分30%に希釈して、ディスパーで十分に攪拌したのち超音波で分散し、導電ペーストを作成した。次いで、gapが200μmのブレードで剥離フィルム(東レ社製セラピール、WZ)上に塗工した。その後、70℃で1時間乾燥することで、導電膜と剥離フィルムとの積層体を得た。積層体の界面をピンセットで剥離し、導電膜を得た。この導電膜を樹脂集電箔7として使用した。ビッカース硬度計を用いて、樹脂集電箔7のヤング率を測定したところ、2.14MPaであった。
【0062】
2.評価用の電池の作製
Li、P及びSを含有する硫化物ガラス固体電解質を100mg秤量し、φ11.28mmの円筒シリンダーに投入し、6tonで加圧成形して、電解質ペレットを作製した。ペレットの上面にLi箔(厚さ150μm)、下面に上述の負極集電体を配置し、1tonでプレスし、1MPaで拘束して、評価用の電池を得た。
【0063】
3.サイクル特性の評価
得られた電池を充放電試験機へ接続し、25℃に保った状態で、充放電サイクル試験を行った。充電(析出)をカットオフ電圧-1V、0.435mA/cm、10時間とし、続く放電(溶解)をカットオフ電圧+1V、0.435mA/cm、20時間として、充放電を10サイクル繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する、10サイクル目の放電容量の比を容量維持率として算出した。また、ロードセルを電池に挿入し、充放電中の内圧変化を測定した。
【0064】
4.初期析出Liの析出面積の算出
上記のサイクル特性の評価とは別に電池を作製し、充電(析出)をカットオフ電圧-1V、0.3mA/cm、1時間だけ行い、電池を解体した。電解質ペレットと負極集電体との界面を剥離し、負極集電体上に析出した金属リチウムの面積率を表面SEM観察によって特定した。具体的には、得られたSEM像を負極集電体と金属リチウム部分とで2値化し、負極集電体の全体の面積に対する金属リチウムの析出がみられた面積の比を析出面積率として算出した。
【0065】
5.塑性変形の有無の評価
測定されたヤング率、及び、金属リチウム析出中の内圧変化から、負極集電体の圧縮ひずみを計算した。ひずみが一般的な樹脂の弾性ひずみ5%に収まるかどうかで負極集電体が塑性変形したどうかを判定した。
【0066】
6.評価結果
結果を下記表1に示す。尚、表1においては、比較例1の容量維持率を100として、その他の例の容量維持率を相対化して示している。また、比較例1の析出面積率を100として、その他の例の析出面積率を相対化して示している。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示される結果から以下のことが分かる。まず、比較例1のように、金属箔からなる負極集電体を採用した場合、樹脂集電箔からなる負極集電体を採用した場合よりも、初期に析出するリチウムの面積率が小さくなり、容量維持率も悪化し易い。これは以下のメカニズムによるものと考えられる。すなわち、リチウム析出型負極において金属箔のような剛直な負極集電体を用いた場合、集電体と電解質層との接触にムラが生じ易い。また、電解質層の表面のごくわずかな凹凸により、物理的な面圧ムラが生じ易い。このような状態で電解質層と集電体との間に金属リチウムを析出させると、面圧ムラによって金属リチウムが高面圧部に優先的に析出し、結果として、金属リチウムの析出面積率が小さくなるものと考えられる(図2参照)。金属リチウムが優先析出した箇所においては、金属リチウムの析出寸法分だけ膨張が生じ、さらに面圧が上昇し易い。そうすると、さらに金属リチウムの優先析出が生じ易くなり、反応ムラが助長される。結果として、二次電池のサイクル特性(容量維持率)が大きく低下したものと考えられる。
【0069】
一方、負極集電体として樹脂集電箔を採用した場合、負極集電体のヤング率が低下するにつれて、初期に析出するリチウムの面積率が増加する。しかしながら、負極集電体のヤング率が17.0MPaを下回ると、析出面積率がむしろ減少する。負極集電体のヤング率が低い場合、負極集電体の弾性変形量が大きく、初期のリチウム析出変位を吸収できるものの、負極集電体のヤング率が低過ぎると、負極集電体が塑性変形してしまうために面圧抜けが起こり、むしろ反応ムラを助長するためと考えられる(図3参照)。
【0070】
これに対し、表1に示されるように、二次電池の容量維持率は、負極集電体のヤング率が17MPa以上60MPa以下の範囲内で極大値を示しており、金属リチウムの析出が均一化された効果が表れたものと考えることができる。以上の結果から、以下の集電体(1)及び二次電池(2)によれば、サイクル特性に優れた二次電池が得られるものといえる。
【0071】
(1)リチウム析出型負極に用いられる集電体であって、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するもの。
(2)二次電池であって、正極、電解質層、負極集電体、及び、充電によって前記電解質層と前記負極集電体との間に析出する負極活物質としての金属リチウム、を備え、前記負極集電体が、樹脂と導電材料とを含み、且つ、17MPa以上60MPa以下のヤング率を有するもの。
【0072】
7.補足
尚、上記の実施例では、リチウム析出型負極における負極集電体による効果を確認するため、金属リチウム/電解質層/負極集電体からなる評価用の電池を作製したが、本開示の技術は、リチウム析出型負極を有する種々の二次電池に適用可能である。二次電池を構成する正極や電解質層の構成は、上記実施例に示された構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0073】
10 正極
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 電解質層
31 負極集電体
32 金属リチウム
100 二次電池
図1
図2
図3