(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132376
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】運動支援装置、運動支援システム、運動支援方法、及び運動支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A63B 24/00 20060101AFI20230914BHJP
A61B 5/083 20060101ALI20230914BHJP
A61B 5/053 20210101ALI20230914BHJP
A63B 22/06 20060101ALI20230914BHJP
A63B 71/06 20060101ALI20230914BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20230914BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230914BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A63B24/00
A61B5/083
A61B5/053
A63B22/06 J
A63B71/06 J
G06N3/02
G06N20/00
A61B5/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037641
(22)【出願日】2022-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「フロンティア有機システムイノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願 令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する自助と共助の社会創生拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100196209
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 義邦
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】松井 弘之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大亮
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038SU18
4C038SU19
4C038SV03
4C127AA06
4C127DD07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易的な設備で実施でき、専門家の立ち合いが不要であり、費用の負担が少なく、個人差を考慮した(影響が少ない)最適な運動強度での運動が可能となる運動支援装置を提供する。
【解決手段】ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援装置であって、ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを取得する取得部、取得された生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する変換部、生成された周波数スペクトルが入力されると、運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する演算部、及び算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力する出力部を備え、演算部は、周波数スペクトルが入力された際に、運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを有する運動支援装置。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援装置であって、
前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを取得する取得部、
前記取得された生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する変換部、
前記生成された周波数スペクトルが入力されると、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する演算部、及び
前記算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力する出力部
を備え、
前記演算部は、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを有する
運動支援装置。
【請求項2】
前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差は、前記運動中のユーザーの無酸素性作業閾値における心拍数と、前記運動中のユーザーの現在の心拍数との差である、請求項1に記載の運動支援装置。
【請求項3】
前記出力部から出力された前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差を表示する表示部を備える、請求項1または2に記載の運動支援装置。
【請求項4】
前記学習済み算出モデルは、
運動中の被験者について測定した生体電気インピーダンスを時系列データごとにフーリエ変換して生成された周波数スペクトルを入力データとすること、及び
前記被験者の生体電気インピーダンスの測定と同時に実施された呼気ガス分析心肺運動負荷試験により測定された無酸素性作業閾値における運動強度に対する前記運動中の被験者の運動強度の差を出力ラベルとすること
により学習が施された、請求項1~3のいずれか一項に記載の運動支援装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の運動支援装置と、
前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と
を備える、運動支援システム。
【請求項6】
前記測定装置が4端子プローブ測定部を備える、請求項5に記載の運動支援システム。
【請求項7】
前記4端子プローブ測定部が、フィットネスバイクの左右のハンドルに2個ずつ配置された電極を備える、請求項6に記載の運動支援システム。
【請求項8】
前記出力部から送信された前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差を受信する受信部、及び
前記受信部で受信した前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差に基づいて、前記運動中のユーザーの現在の運動強度が前記ユーザーの最適運動強度に対して高い、同じ、または低いことを表示する表示部
を備える、請求項5~7のいずれか一項に記載の運動支援システム。
【請求項9】
ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援方法であって、
前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを取得すること、
前記取得した生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成すること、及び
前記生成した周波数スペクトルを入力して前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出すること、
前記算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力すること
を含み、
前記算出することが、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを用いる、
運動支援方法。
【請求項10】
ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援プログラムであって、
前記ユーザーの運動中に測定された生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する変換機能、及び
前記生成された周波数スペクトルが入力されると、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する算出機能
を含み、
前記算出機能が、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを有する、
運動支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援装置、運動支援システム、運動支援方法、及び運動支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
健康維持には適度な運動が有効である。軽すぎる運動では十分な効果が得られず、過度な運動は健康を害す要因になり得る。ところが、適度な運動強度を正確に知ることは簡単ではない。
【0003】
リハビリテーションの現場においては、呼気ガス分析心肺運動負荷試験(CPX)によって決定される無酸素性作業閾値(AT)の近傍が、最適な運動強度として考えられている(特許文献1)。
【0004】
運動強度の簡易的な指標として、年齢と安静時心拍数を基に算出するカルボーネン法や、自覚症状に基づくボルグ指数(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-130640号公報
【特許文献2】特開2015-186542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、呼気ガス分析心肺運動負荷試験(CPX)には高価な専用器具とAT値を判断できる専門の医療スタッフ等の専門家の立ち合いが必要であり、高額な検査費用がかかる等のユーザーの負担が大きい。
【0007】
カルボーネン法及び自覚症状に基づくボルグ指数は、個人差が十分に考慮されておらず、客観的、定量的な指標ではない等の問題がある。
【0008】
したがって、簡易的な設備で実施でき、ATの判定を専門家の立ち合いが不要とすることで費用負担が少なく、個人差が考慮された最適運動強度での運動が可能となる運動支援装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援装置であって、
前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを取得する取得部、
前記取得された生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する変換部、
前記生成された周波数スペクトルが入力されると、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する演算部、及び
前記算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力する出力部
を備え、
前記演算部は、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを有する
運動支援装置。
(2)前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差は、前記運動中のユーザーのATにおける心拍数と、前記運動中のユーザーの現在の心拍数との差である、上記(1)に記載の運動支援装置。
(3)前記出力部から出力された前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差を表示する表示部を備える、上記(1)または(2)に記載の運動支援装置。
(4)前記学習済み算出モデルは、
運動中の被験者について測定した生体電気インピーダンスを時系列データごとにフーリエ変換して生成された周波数スペクトルを入力データとすること、及び
前記被験者の生体電気インピーダンスの測定と同時に実施された呼気ガス分析心肺運動負荷試験により測定されたATにおける運動強度に対する前記運動中の被験者の運動強度の差を出力ラベルとすること
により学習が施された、上記(1)~(3)のいずれかに記載の運動支援装置。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の運動支援装置と、
前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と
を備える、運動支援システム。
(6)前記測定装置が4端子プローブ測定部を備える、上記(5)に記載の運動支援システム。
(7)前記4端子プローブ測定部が、フィットネスバイクの左右のハンドルに2個ずつ配置された電極を備える、上記(6)に記載の運動支援システム。
(8)前記出力部から送信された前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差を受信する受信部、及び
前記受信部で受信した前記最適運動強度に対する現在の運動強度の差に基づいて、前記運動中のユーザーの現在の運動強度が前記ユーザーの最適運動強度に対して高い、同じ、または低いことを表示する表示部
を備える、上記(5)~(7)のいずれかに記載の運動支援システム。
(9)ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援方法であって、
前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを取得すること、
前記取得した生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成すること、及び
前記生成した周波数スペクトルを入力して前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出すること、
前記算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力すること
を含み、
前記算出することが、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを用いる、
運動支援方法。
(10)ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援プログラムであって、
前記ユーザーの運動中に測定された生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する変換機能、及び
前記生成された周波数スペクトルが入力されると、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する算出機能
を含み、
前記算出機能が、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを有する、
運動支援プログラム。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、簡易的な設備で実施でき、専門家の立ち合いが不要であり、費用の負担が少なく、個人差が考慮された最適運動強度での運動が可能となる運動支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本運動支援装置10を含む運動支援システム100の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、運動支援装置10の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、被験者について測定した生体電気インピーダンスをフーリエ変換した周波数スペクトルの一例である。
【
図4】
図4は、機械学習で用いる教師データを収集するときの教師データ収集システムの一例の構成図である。
【
図5】
図5は、機械学習を行うときの機械学習システムの一例の構成図である。
【
図6】
図6は、機械学習のアルゴリズムの一例を表した模式図である。
【
図7】
図7は、算出モデルM1の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、算出モデルM1の他の例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、ユーザーが運動支援装置10を使用するときの支援システムの一例の構成図である。
【
図10】
図10は、変換処理部152、算出処理部154及び出力処理部155による算出処理の動作フローの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、学習済みの算出モデルとしてニューラルネットワークを用いて運動支援装置10により、ユーザー15人についてAT時心拍数と現在の心拍数の差を推定した測定例である。
【
図12】
図12は、算出モデルとしてニューラルネットワークを用いて運動支援装置10により推定したデータの10分割交差検証結果である。
【
図13】
図13は、学習モデルとしてランダムフォレストを用いて運動支援装置10により推定したデータの10分割交差検証結果である。
【
図14】
図14は、略丸棒の表面に4端子法の構成を備えた電極パッドが配置された測定部の外観模式図である。
【
図15】
図15は、出力ラベルを、CPXで測定したHR(心拍数)として生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人についての現在のHR(心拍数)を推定したグラフである。
【
図16】
図16は、出力ラベルを、CPXで測定したVO
2(酸素摂取量)として生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人について推定した現在のVO
2(酸素摂取量)を推定したグラフである。
【
図17】
図17は、出力ラベルを、CPXで測定したVE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)として生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人について推定した現在のVE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)を推定したグラフである。
【
図18】
図18は、出力ラベルを、CPXで測定したVE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)として生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人についての現在のVE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)を推定したグラフである。
【
図19】
図19は、出力ラベルを、CPXで測定したR(ガス交換比)として生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人について推定した現在のR(ガス交換比)を推定したグラフである。
【
図20】
図20は、出力ラベルを、CPXで測定したAT(0、1判定)として生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人について推定した現在のAT(0、1判定)を推定したグラフである。
【
図21】
図21は、略丸棒の表面に4端子法の構成を備えた電極パッドが配置された測定部の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0013】
本開示は、ユーザーが最適運動強度で運動を行うことを支援する運動支援装置であって、前記ユーザーの運動中の生体電気インピーダンスを取得する取得部、前記取得された生体電気インピーダンスをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する変換部、前記生成された周波数スペクトルが入力されると、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する演算部、及び前記算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力する出力部を備え、前記演算部は、前記周波数スペクトルが入力された際に、前記運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済み算出モデルを有する運動支援装置を対象とする。
【0014】
本装置によれば、従来よりも手軽に個々人の無酸素性作業閾値(以下、ATともいう)を把握した運動が可能になる。より具体的には、本装置によれば、ユーザーにとって、簡易的な設備で実施でき専門家の立ち合いが不要であり費用負担が少なく、個人差が考慮された最適運動強度での運動が可能となる。本装置によれば特に、ユーザーの最適運動強度と運動中の現在の運動強度との相対関係をリアルタイムで測定することができ、ユーザーの最適運動強度での連続運動が可能となる。
【0015】
本願において、最適運動強度とは、呼気ガス分析心肺運動負荷試験(以下、CPXともいう)で測定されたAT近傍の運動強度である。AT近傍の運動強度は、例えば、実質的にATそのもの、AT±1%、AT±3%、AT±5%、AT±10%等のAT前後の所定の範囲である。AT近傍の運動強度はまた、AT以下若しくはAT未満の所定の範囲、またはAT以上若しくはATより大きい所定の範囲でもよい。AT以下若しくはAT未満の所定の範囲は、例えば、AT以下若しくはAT未満且つAT-5%、AT-10%、AT-15%、またはAT-20%の範囲内である。AT以上若しくはATより大きい所定の範囲は、例えば、AT以上若しくはATより大きく且つAT+5%、AT+10%、AT+15%、またはAT+20%の範囲内である。
【0016】
CPXにおいては、被験者がフィットネスバイク等の運動器具で運動しながら徐々にペダル等の運動負荷を上げたときの呼吸量、酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排泄量(VCO2)を呼気ガス分析装置で測定し、測定結果に基づいて、専門家が被験者毎のATを決定することができる。ATの指標としては、心拍数(HR)、脈拍数、VO2(酸素摂取量)、VE/VO2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO2(肺換気量/CO2排出量)、R(ガス交換比)、または運動器具の負荷を用いることができ、好ましくは、心拍数(HR)を用いることができる。運動器具の負荷は、例えばフィットネスバイクのペダル負荷である。フィットネスバイクは、例えばエアロバイク(登録商標)等であることができる。
【0017】
図1は、本運動支援装置10を含む運動支援システム100の構成の一例を示す模式図である。運動支援装置10は、運動中のユーザーについて測定された生体電気インピーダンスに基づいて、運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する。現在の運動強度とは、リアルタイムに運動中のユーザーの運動強度である。
【0018】
運動支援装置10は、ユーザーまたは被験者の運動中の生体電気インピーダンスを測定するインピーダンス測定装置と接続され得る。インピーダンス測定装置は、運動支援装置10に接続されたインピーダンス計20と、インピーダンス計20に接続されユーザーまたは被験者に接触される測定部30とを含む。ユーザーとは運動支援装置10を利用して最適運動強度で運動しようとする者であり、被験者とは運動支援装置10における教師データを取得される者をいう。運動支援装置10、インピーダンス計20、及び測定部30の接続は測定データを送受信可能な有線接続または無線接続であることができる。
【0019】
運動支援装置10は、測定部30及びインピーダンス計20を含むインピーダンス測定装置で測定された運動中のユーザーの生体電気インピーダンスに基づいて、運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出し、算出された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を出力する。ユーザーは、出力された最適運動強度に対する現在の運動強度の差に基づいて、現在の運動強度を高くする、低くする、または維持することができる。より具体的には、ユーザーは、表示された最適運動強度に対する現在の運動強度の差を視認して、自らの運動強度を調節若しくは運動器具の負荷を調節することができ、または運動器具が現在の運動強度を最適運動強度に近づけるように負荷を自動的に調節することができる。運動支援装置10によれば、このようにして、ユーザーは、最適運動強度近傍の運動強度での連続運動を行うことができる。
【0020】
(インピーダンス測定装置)
ユーザーまたは被験者には、インピーダンス計20に接続された測定部30が装着または接触される。測定部30は、ユーザーまたは被験者に取り付けられてもよく、フィットネスバイク等の運動器具に備えられてもよい。測定部30とインピーダンス計20とで測定された運動中のユーザーまたは被験者の生体電気インピーダンスを運動支援装置10の取得部が取得することができる。
【0021】
測定部30は電極を含み、運動中のユーザーまたは被験者の生体電気インピーダンスを測定できる限り、ユーザーへの電極の装着形態または接触形態は限定されず、例えば、ユーザーまたは被験者に電極を取り付けてもよく、ユーザーまたは被験者が電極を握る、触る等で接触してもよい。簡易で且つ精度の高い測定を行う観点では、好ましくは、運動器具のハンドルに取り付けた電極をユーザーまたは被験者が握ることにより、ユーザーまたは被験者に電極が接触される。測定部30と接触するユーザーの体の部位は、好ましくは電流がユーザーの胸部を経由する2箇所以上であり、さらに好ましくは握ることで容易に接触状態を維持でき皮膚が薄い両掌である。胸部を経由する2箇所以上に測定部30を接触させることにより、肺や心臓の動きをより感度よく検出することができ、より高精度な生体電気インピーダンスの測定ができる。
【0022】
測定部30は、2端子法、4端子法、5端子法等の従来用いられる抵抗測定機能を備えることができる。測定部30は、好ましくは、4端子プローブを備える。4端子プローブを備えた4端子法の測定部30は、定電流を供給する電流源端子と電圧降下を検出する電圧検出端子とを備える。電圧検出端子側のリード線には、電圧計の入力インピーダンスが高く、ほとんど電流が流れないので、4端子法は測定リードの導体抵抗や接触抵抗の影響を受けずに、ユーザーまたは被験者の生体電気インピーダンスを精度良く測定することができる。定電流は、好ましくは、振幅が100uA以下且つ周波数が0.1Hz以上の交流電流または10uA以下の直流電流であり、より好ましくは、振幅が100uA以下且つ周波数が0.1Hz以上の交流電流である。上記好ましい定電流を用いることにより、生体電気インピーダンスをより高精度に測定することができる。
【0023】
測定部30は、好ましくは、表面に電極パッドが配置された略丸棒形状を有する。2本の略丸棒の表面に電極パッドが配置された測定部を、ユーザーまたは被験者が両手にそれぞれ握ることにより、運動中のユーザーまたは被験者の生体電気インピーダンスの測定を簡便に行うことができる。
【0024】
測定部30は、より好ましくは、表面に4端子法の構成を備えた電極パッドが配置された略丸棒形状を有する。
図14に、略丸棒の表面に4端子法の構成を備えた電極パッドが配置された測定部の外観模式図を示す。
図21は、略丸棒33の表面に4端子法の構成を備えた電極パッド31、32が配置された測定部30の断面模式図である。両手に一つずつ測定部を握ったときに、互いに離れて配置される2つの電極パッド31、32に手の皮膚が接触するように、2つの電極パッドが略丸棒の表面に配置される。電極パッド31は定電流を供給する電流印加用電極(電流源端子)であり、電極パッド32は電圧降下を検出する電圧計測用電極(電圧検出端子)である。
【0025】
電極パッドは、好ましくは、金属がメッキされた不織布である。金属がメッキされた不織布は導電性を有し且つ柔軟性を有するので、任意の形状の略丸棒の表面に容易に配置することができ、また運動するユーザーまたは被験者がかく汗を吸収することができるので、ユーザーまたは被験者の不快感を軽減することができる。メッキは、例えば、銅、ニッケル、またはそれらの組合せであることができる。電極パッドは、より好ましくは、金属がメッキされ且つ接着性を有する不織布である。電極パッドが接着性を有することにより、電極パッドを、略丸棒等の表面に容易に配置することができる。電極パッドとして、例えば、竹内工業株式会社製のTR-35NHを用いることができる。
【0026】
運動中のユーザーまたは被験者の生体電気インピーダンスの測定データにはノイズが含まれやすいが、測定部30が、ユーザーまたは被験者が握りやすい形状の4端子法の測定回路を備えることにより、精度良く且つ簡便に生体電気インピーダンスの測定をおこなうことができる。
【0027】
測定部30は、好ましくは、フィットネスバイクのハンドル部分に備えられる。フィットネスバイクの左右のハンドルに2つずつ合計4つの電極を備えた4端子プローブを備えた測定部30をユーザーまたは被験者が握りながらフィットネスバイクを漕ぐことにより、ユーザーまたは被験者が運動しながらでも正確な生体電気インピーダンスの測定ができる。インピーダンス計20は、従来一般的に用いられているものであることができる。
【0028】
(運動支援装置)
運動支援装置10は、コンピュータ、サーバ等の情報処理装置である。運動支援装置10は、取得部で取得されたユーザーの運動中の生体電気インピーダンスに基づいて、ユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度を算出する算出機能を有する。
【0029】
運動支援装置10は、1台の情報処理装置で構成されてもよく、複数の物理的に別体の情報処理装置の集合であってもよい。この場合、複数の情報処理装置のそれぞれは、同一の機能を有するものでもよく、1台の運動支援装置10の機能を分散して有するものでもよい。
【0030】
図2は、運動支援装置10の構成の一例を示す図である。運動支援装置10は、インピーダンス測定装置で測定されたユーザーの運動中の生体電気インピーダンスのデータを取得する受信機能、及び生体電気インピーダンスのデータを周波数スペクトルに変換する変換機能を有する。また、運動支援装置10は、算出モデルを学習させる学習機能、学習済みの算出モデルを用いて運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する算出機能、算出機能による算出結果を出力する出力機能等を有する。そのために、運動支援装置10は、通信部11と、記憶部12と、表示部13と、操作部14と、処理部15とを備える。
【0031】
通信部11は、ハードウェア、ファームウェア、TCP/IPドライバやPPPドライバ等の通信用ソフトウェア、またはこれらの組み合わせとして実装される。通信部11は無線通信または有線通信であることができる。運動支援装置10は、通信部11を介して、インピーダンス測定装置から生体電気インピーダンスのデータを取得することができる。通信部11は、USBケーブルによるシリアル通信によって、インピーダンス測定装置からの生体電気インピーダンスのデータを受信してもよい。また、通信部11は、Bluetooth(登録商標)等の通信方式に従った近距離無線通信を行うためのインターフェース回路を有し、インピーダンス測定装置からの電波を受信してもよい。また、通信部11は、生体電気インピーダンスのデータに対応する各種信号を赤外線通信等によって受信するための受信回路を有してもよい。また、通信部11は、有線LANの通信インターフェース回路を備えてもよい。これにより、運動支援装置10は、通信部11を介してインピーダンス測定装置から生体電気インピーダンスを取得することができる。
【0032】
運動支援装置10は、通信部11に代えてまたは通信部11とともに、可搬型記憶媒体を着脱可能に保持する入出力装置を備えてもよい。この場合、入出力装置は、可搬型記憶媒体に記憶された生体電気インピーダンスのデータを取得し、取得した生体電気インピーダンスのデータを処理部15に供給する。これにより、運動支援装置10は、可搬型記憶媒体を介してインピーダンス測定装置から生体電気インピーダンスを取得することができる。
【0033】
記憶部12は、例えば、ROM、RAM等の半導体メモリ装置である。記憶部12は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、またはデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置でもよい。記憶部12は、処理部15における処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム及びデータ等を記憶する。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部12にインストールされてもよい。
【0034】
記憶部12に記憶されるデータは、後述する算出モデルM1、教師データTD等である。また、記憶部12は、インピーダンス測定装置から取得した生体電気インピーダンスのデータを記憶する。記憶部12は、所定の処理に係るデータを一時的に記憶してもよい。
【0035】
表示部13はディスプレイである。表示部13は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等でもよい。表示部13は、処理部15から供給される生体電気インピーダンスのデータに基づく周波数スペクトル、ユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出処理した結果情報等を表示する。
【0036】
操作部14は、キーボード、マウス、及び/またはタッチパネル等のポインティングデバイスであることができる。ユーザーは、操作部14を用いて、文字や数字、記号、若しくは、表示部13の表示画面上の位置等を入力することができる。操作部14は、ユーザーにより操作されると、その操作に対応する信号を発生する。そして、発生した信号は、ユーザーの指示として処理部15に供給される。
【0037】
処理部15は、記憶部12に記憶されているオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム及びアプリケーションプログラムをメモリにロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する処理装置である。処理部15は、例えば、CPU、MPU、DSP等の電子回路、または各種電子回路の組み合わせである。
図2においては、処理部15が単一の構成要素として図示されているが、処理部15は複数の物理的に別体のプロセッサの集合であってもよい。
【0038】
処理部15は、記憶部12に記憶されたアプリケーションプログラム(制御プログラム)に含まれる各種命令を実行することにより、受信処理部151、変換処理部152、学習処理部153、算出処理部154、及び出力処理部155として機能する。以下、受信処理部151、変換処理部152、学習処理部153、算出処理部154、及び出力処理部155の機能の一例を、
図3~
図9を参照して説明する。
【0039】
受信処理部151は、インピーダンス測定装置から送信された生体電気インピーダンスのデータを、通信部11を介して受信し、受信した生体電気インピーダンスのデータを記憶部12に記憶する。
【0040】
変換処理部152は、記憶部12に記憶された生体電気インピーダンスのデータをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成し、記憶部12に記憶する。生体電気インピーダンスのデータのフーリエ変換は時系列データごとに行うことができる。
【0041】
時系列データごとのフーリエ変換は、第1の所定時間ずらしながら第2の所定時間毎のデータをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成することを含む。第1の所定時間は例えば1~10秒であることができる。第2の所定時間は例えば15~60秒であることができる。例えば、5秒ずらして(15秒重ねて)20秒毎のデータをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成することができる。精度の良い入力データを得る観点では、第2の所定時間に対する第1の所定時間の割合(重なりの割合)は、好ましくは50~90%である。
【0042】
教師データTDの入力データである周波数スペクトルは、変換処理部152によって生成される。変換処理部152は、生成された周波数スペクトルのデータを入力データとし、被験者の生体電気インピーダンスの測定と同時に実施されたCPXにより測定されたATにおける運動強度に対する運動中の当該被験者の運動強度の差を正解ラベルとする教師データTDを生成し、記憶部12に記憶する。
【0043】
すなわち、教師データTDは、運動中の被験者について測定した生体電気インピーダンスを時系列データごとにフーリエ変換することにより生成された周波数スペクトルを入力データとし、周波数スペクトルに対応する当該被験者の運動強度と、当該被験者の生体電気インピーダンスの測定と同時に実施されたCPXにより測定されたAT時の運動強度との差を正解ラベルとする教師データである。周波数スペクトルを周波数ごとに2乗振幅したものを入力データとしてもよい。
【0044】
ATにおける運動強度は、ATにおける心拍数(HR)、脈拍数、VO2(酸素摂取量)、VE/VO2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO2(肺換気量/CO2排出量)、R(ガス交換比)、または運動器具の負荷の指標で示され、好ましくは、心拍数(HR)で示される。運動器具の負荷は、例えばフィットネスバイクのペダル負荷である。
【0045】
運動中の被験者の運動強度は、ATにおける運動強度の指標と同じであり、心拍数(HR)、脈拍数、VO2(酸素摂取量)、VE/VO2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO2(肺換気量/CO2排出量)、R(ガス交換比)、または運動器具の負荷の指標で示され、好ましくは、心拍数(HR)で示される。教師データTDで用いるATにおける運動強度及び運動中の被験者の運動強度の指標に応じて、算出モデル(学習モデル)をそれぞれ生成することができる。
【0046】
周波数スペクトルに対応する被験者の運動強度と、被験者の生体電気インピーダンスの測定と同時に実施されたCPXにより測定されたAT時の運動強度との差は、AT時の運動強度に対する被験者の運動強度の定量的な差でもよく、または被験者の運動強度がAT時の運動強度に対して高いまたは低いの二値でもよいが、好ましくはAT時の運動強度に対する被験者の運動強度の定量的な差である。例えば、ATにおける運動強度がATにおける心拍数(HR)で示され、運動中の被験者の運動強度が運動中の心拍数(HR)で示される場合、AT時の運動強度に対する被験者の運動強度の定量的な差は、ATにおける心拍数(HR)と運動中の心拍数(HR)との差ΔHRで示される。
【0047】
運動支援装置10においては、入力データは周波数スペクトルのデータのみであることができるが、その他のデータを入力データとして含んでもよい。その他の入力データとしては、被験者の年齢、性別、身長、体重、体表面積(BSA)、BMI(Body Mass Index)、測定時の気温、湿度、気圧、経過時間、運動器具の運動中の負荷、例えばフィットネスバイクのペダル負荷等である。
【0048】
図3に、被験者について測定した生体電気インピーダンスをフーリエ変換した周波数スペクトルの一例を示す。周波数スペクトルは、横軸の時間軸及び縦軸の周波数軸で表される生体電気インピーダンスの2次元強度分布である。
【0049】
図3に示される周波数スペクトルは、フィットネスバイクのハンドル部にインピーダンス測定装置の測定部30を配置し、被験者が測定部30を握りながら安静にしたとき、フィットネスバイクのペダルを漕いだとき、及びペダル漕ぎを終了したときに測定した被験者の生体電気インピーダンスを、5秒ずつずらして20秒間のセグメント毎に分割したデータをフーリエ変換して得られた周波数スペクトルである。
【0050】
図3に示す周波数スペクトルにおいては、開始から2分間の安静状態、2~12分におけるフィットネスバイクを50回/分で漕いだとき、及び10分の経過時点でハンドルから手を離したときの心拍数と一致する信号(周波数:100~200/分)、ペダルを漕ぐ周期と一致する信号(周波数:50/分及び100/分)、並びに呼吸(周波数:~40/分)に由来する信号が見られる。
【0051】
図4に、機械学習で用いる教師データTDを収集するときの教師データ収集システムの一例の構成図を示す。被験者が、生体電気インピーダンスを測定するためのインピーダンス測定装置、被験者の心拍数または脈拍数を測定するための心拍計または脈拍計40、及び被験者の呼気ガスを分析するための呼気ガス分析装置50を装着しながら、フィットネスバイク等の運動器具で運動する。被験者が運動する運動器具は、好ましくは、ユーザーが使用する運動器具と実質的に同じ運動機構を備える運動器具である。これにより、最適運動強度に対する現在の運動強度の差の予測精度が向上する。例えば、ユーザーが使用する運動器具がフィットネスバイクである場合、被験者が運動する運動器具もフィットネスバイクが好ましい。インピーダンス測定装置の被験者への取付は、上述した測定部30及びインピーダンス計20を介して行うことができる。心拍計または脈拍計40は、耳に取り付けるものなど、従来用いられている一般的な測定器であることができる。呼気ガス分析装置50は、従来、CPXで用いられる酸素濃度、二酸化炭素濃度等の呼気ガスの分析に従来用いられている分析装置であることができる。
【0052】
被験者が運動器具で運動しながら測定した生体電気インピーダンスのデータ121、心拍数または脈拍数のデータ122、及び酸素濃度、二酸化炭素濃度等の呼気ガスのデータ123を、記憶部12に記憶することができる。記憶された各データは、表示部13に表示することができる。心拍数または脈拍数のデータ122と呼気ガスのデータ123とから、ATに達したときの心拍数または脈拍数、ATに達した時刻、フィットネスバイクのペダルの重さ等の運動器具の負荷等に基づいて専門家がAT実測値124を決定することができる。AT実測値124は、操作部14を介して記憶部12に記憶され得る。本願においては、上記方法で専門家が決定したAT実測値124は、CPXで測定されたATおける運動強度と定義され、ATにおける心拍数(HR)、脈拍数、VO2(酸素摂取量)、VE/VO2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO2(肺換気量/CO2排出量)、R(ガス交換比)、または運動器具の負荷で示され、好ましくは、心拍数(HR)で示される。
【0053】
AT実測値124を測定するときに同時に測定する被験者の各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度(運動中の被験者の運動強度)は、短時間の時系列データに分割される各時間セグメントの任意の時間における運動強度または第2の所定時間毎の平均運動強度であることができるが、好ましくは第2の所定時間毎の平均運動強度である。被験者の各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度は記憶部12に記憶され得る。
【0054】
記憶部12に記憶されたAT実測値124及び被験者の各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度に基づいて、処理部15で運動強度の差125が算出される。
【0055】
上記のようにして、生体電気インピーダンスのデータと、ATにおける運動強度(AT実測値124)に対する各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度の差125とが教師データTDとして収集される。運動強度の差125は、ATにおける運動強度に対する各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度の定量的な差、または被験者の運動強度がAT時の運動強度に対して高いまたは低いの二値であり、例えば、ATにおける心拍数(HR)と運動中の心拍数(HR)との差ΔHR等の定量的な値、または被験者の運動強度がATにおける運動強度未満の場合を0としATにおける運動強度以上の場合を1とする二値である。運動強度の定量的な差は規格化されて、教師データTDとして用いられる。規格化は、例えば、全被験者の全時刻に対する運動強度の定量的な差の平均値と標準偏差がともに1となるように線形変換によって規格化を行うことができる。
【0056】
(機械学習)
学習処理部153による学習処理について説明する。学習処理部153は、記憶部12に記憶された教師データTDを用いて学習させた学習済み算出モデルM1を生成し、生成した学習済み算出モデルM1を記憶部12に記憶する。
【0057】
図5に、機械学習を行うときの機械学習システムの一例の構成図を示す。機械学習時には、記憶部12に記憶した測定された生体電気インピーダンスのデータ121及び運動強度の差125を教師データTDとして用いて機械学習を行う。
【0058】
変換処理部152及び学習処理部153で構成される学習器では、生体電気インピーダンスのデータ121を前処理し、前処理した生体電気インピーダンスのデータを入力データとし、運動強度の差125を出力ラベルとする教師データTDを用いて算出モデルを学習させる。前処理とは、生体電気インピーダンスデータのフーリエ変換処理である。出力ラベルである運動強度の差125に対して、入力される生体電気インピーダンスのデータに基づいて演算(推定)されるATに対する運動強度の差の誤差が少なくなるように、または一致するように、学習モデルの重み付け変数を更新して、算出モデルM1を生成することができる。機械学習による算出モデルM1の生成には、例えば、誤差逆伝播法、Feedback Alignment法、Direct Feedback Alignment法、Synthetic Gradient法、Target Prop法、Difference Target Prop法、Boot Strap法等の学習方法を用いることができる。
【0059】
運動強度の差125が、ATにおける運動強度に対する各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度の定量的な差である場合、定量的な差の値である出力ラベルに対して、入力される生体電気インピーダンスのデータに基づいて演算(推定)されるATに対する運動強度の誤差が少なくなるように、学習モデルの重み付け変数を更新して、算出モデルM1を生成することができる。例えば、運動強度の差125が、実測されたATにおける心拍数(HR)と運動中の心拍数(HR)との差ΔHRである場合、ΔHR(実測)に対して、入力される生体電気インピーダンスのデータに基づいて推定されたATにおける心拍数(HR)と運動中の心拍数(HR)との差ΔHR(推定)の誤差が少なくなるように、学習モデルの重み付け変数を更新して、算出モデルM1を生成することができる。
【0060】
運動強度の差125が、ATにおける運動強度に対して各生体電気インピーダンスのデータに対応する運動強度が低いまたは高いの二値である場合、低い場合を0とし、高い場合を1とする出力ラベルに対して、入力される生体電気インピーダンスのデータに基づいて演算(推定)されるATに対する運動強度が出力ラベルに一致するように、学習モデルの重み付け変数を更新して、算出モデルM1を生成することができる。
【0061】
図6に、機械学習のアルゴリズムの一例を表した模式図を示す。被験者の生体電気インピーダンスは、時系列の一次元データとして、例えば128回/秒で、時刻毎のデータとして取得される。被験者の生体電気インピーダンスは、被験者の人数分だけ測定される。
【0062】
測定した時系列の生体電気インピーダンスのデータを、短い時間毎、例えば20秒間毎にセグメント分割する。セグメント分割は、例えば、最初のセグメントを0~20秒間、次のセグメントを5~25秒間、次のセグメントを10~30秒間のように、所定時間、例えば5秒間ずらしながら(15秒間を重複させながら)、複数の20秒間のセグメントに分割することができる。
【0063】
セグメント分割した生体電気インピーダンスのデータをフーリエ変換して、周波数スペクトルに変換する。フーリエ変換された周波数スペクトルを規格化して規格化周波数スペクトルを得ることができる。規格化は、例えば、被験者全員の周波数スペクトルの平均値を求め、各周波数における平均値でその周波数における各個人の周波数スペクトルを除することにより行うことができる。周波数スペクトル以外の上述したその他の入力データを含む場合、当該その他の入力データの種類ごとに規格化する。例えば、全被験者の全時刻の入力データの平均値と標準偏差がともに1となるよう線形変換によって規格化を行うことができる。
【0064】
規格化周波数スペクトルと運動強度の差125とを教師データTDとして学習モデルに入力して、出力ラベルである運動強度の差125に対して、出力(推定)されるATに対する運動強度の差(以下、AT運動強度差(推定)ともいう)の誤差が少なくなるように、または一致するように、学習モデルの重み付け変数を更新して、算出モデルM1を生成することができる。
【0065】
図7は、算出モデルM1の一例を示す模式図である。
図7に示される算出モデルM1は、入力層M1-1、隠れ層M1-2及び出力層M1-3を有するニューラルネットワークモデルである。入力層M1-1の所謂「ニューロン」のそれぞれに、教師データTDの周波数スペクトルが入力される。隠れ層M1-2のニューロンの数は、入力層M1-1のニューロンの数よりも多くても少なくてもよい。
【0066】
図8は、算出モデルM1の他の例を示す模式図である。
図8に示される算出モデルM1は、入力層M1-1、畳み込み層M1-2、プーリング層M1-3及び出力層M1-4を有する畳み込みニューラルネットワークなどを含む深層ニューラルネットワークモデルである。畳み込み層M1-2及びプーリング層M1-3は、それぞれ2以上であってもよい。入力層M1-1のニューロンのそれぞれに、教師データTDの周波数スペクトルが入力される。
【0067】
学習処理部153は、教師データTDを用いて公知のマシンラーニング学習を実行することにより、ニューラルネットワークにおける各ニューロンの重みが学習された算出モデルを生成または更新する。学習処理部153は、教師データTDを用いて公知のディープラーニング学習を実行することにより、多層構造のニューラルネットワークにおける各ニューロンの重みが学習された算出モデルを生成または更新してもよい。
【0068】
図9に、ユーザーが運動支援装置10を使用するときの支援システムの一例の構成図を示す。変換処理部152、学習処理部153、及び出力処理部155で構成される予測器では、インピーダンス測定装置で測定した生体電気インピーダンスのデータを前処理し、前処理した生体電気インピーダンスのデータを入力データとして、学習済の算出モデルM1で運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する。
【0069】
変換処理部152は、取得された生体電気インピーダンスのデータをフーリエ変換することにより、算出処理で用いられる周波数スペクトルを生成する前処理を行う。変換処理部152は、取得された生体電気インピーダンスを時系列データごとにデータをフーリエ変換することにより、算出処理で用いられる周波数スペクトルを生成してもよい。
【0070】
算出処理部154は算出処理を実行する。算出処理部154は、生成した周波数スペクトルのデータを入力データとして学習済の算出モデルM1を用いて、運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差を算出する。運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差は、最適運動強度に対する現在の運動強度の割合または最適運動強度に対する現在の運動強度の定性的な差であることができる。
【0071】
最適運動強度に対する現在の運動強度の割合とは、運動中のユーザーの現在の運動強度が最適運動強度に対してどの程度低いか、高いか、同等であるか最適運動強度に対する現在の運動強度の割合(%)である。最適運動強度に対する現在の運動強度の割合は、例えば、運動中のユーザーの現在の運動強度が最適運動強度の80%、115%等の割合、または最適運動強度より20%低い、15%高い等の割合で示される。
【0072】
最適運動強度に対する現在の運動強度の定性的な差とは、運動中のユーザーの現在の運動強度が最適運動強度である、最適運動強度より低い、または最適運動強度より高いという定性的な差である。
【0073】
運動中のユーザーの最適運動強度は、例えば、AT±10%等のAT前後の所定の範囲、AT-10%以上AT以下等のAT以下若しくはAT未満の所定の範囲、またはAT以上AT+10%等のAT以上若しくはATより大きい所定の範囲等、被験者の運動目的に応じて任意に設定することができる。運動中のユーザーの最適運動強度は、好ましくはAT以下若しくはAT未満の所定の範囲である。AT以下若しくはAT未満の所定の範囲としては、好ましくはAT以下若しくはAT未満且つAT-5%、AT-10%、AT-15%、またはAT-20%の範囲内である。ユーザーのATとは、運動支援装置10で推定されるユーザーのATである。
【0074】
算出処理部154は、算出結果を出力処理部155に送信する。出力処理部155は、算出結果の情報を出力する。情報の出力は、表示部13への表示、及び/または、他装置への送信等である。
【0075】
図10は、変換処理部152、算出処理部154及び出力処理部155による算出処理の動作フローの一例を示す図である。算出処理は、変換処理部152、算出処理部154及び出力処理部155によって実行される。算出処理では、インピーダンス測定装置からユーザーの生体電気インピーダンスのデータが取得された場合、取得された生体電気インピーダンスに対応する「運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差」を算出する。
【0076】
変換処理部152は、生体電気インピーダンスのデータがインピーダンス測定装置から取得された場合、取得された生体電気インピーダンスのデータをフーリエ変換することにより、周波数スペクトルを生成する(ステップS101)。
【0077】
次に、算出処理部154は、得された生体電気インピーダンスに対応する「運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差」の算出処理を実行する(ステップS102)。
【0078】
出力処理部155は、「運動中のユーザーの最適運動強度に対する現在の運動強度の差」という情報を出力する(ステップS103)。
【0079】
(ΔHR:AT時心拍数と現在の心拍数の差の推定)
図11に、学習済みの算出モデルとしてニューラルネットワークを用いて運動支援装置10により、ユーザー15人についてAT時心拍数と現在の心拍数の差を推定した測定例を示す。白抜き四角プロットは、フィットネスバイクに搭載した運動支援装置10を用いて生体電気インピーダンスから推定して得られた、AT時心拍数に対する運動時心拍数の差を示すデータである。黒丸プロットは、生体電気インピーダンスを測定するのと同時に測定したCPXの測定値に基づいて専門家が判断したAT時心拍数と運動時心拍数との差を示すデータである。
【0080】
学習済みの算出モデルを生成する機械学習においては、被験者15人についてフィットネスバイクを漕ぎながら測定した生体電気インピーダンスの短時間フーリエ変換の結果(0~180/分)を入力値とし、同時に測定したCPXで決定されたATに対する運動強度の相対的な差を出力ラベルとして機械学習を行った。
【0081】
図11にグラフにおいて、中央の0bpmの線より下側は最適運動強度よりも運動強度が低いことを意味し、中央の0bpmの線より上側は最適運動強度よりも運動強度が高いことを意味する。時間の経過とともにフィットネスバイクのペダルの負荷を徐々に重くするので、前半は運動強度が低いが、中盤で最適運動強度になり、後半で最適運動強度よりも大きくなる。
図11のデータから、運動支援装置10により推定された最適運動強度に対する現在の運動強度が、CPXと専門家の判断により得られたものに非常に近いことが分かる。
【0082】
運動支援装置10における算出モデルは、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン(Support Vector Machine,SVM)等であることができる。
【0083】
(予測精度の検証)
図12に、運動支援装置10により推定したデータの10分割交差検証結果を示す。教師データTDの出力ラベルを、被験者の運動強度がATにおける運動強度未満の場合を0としATにおける運動強度以上の場合を1とする二値として、ニューラルネットワークの算出モデルを機械学習させた。
【0084】
図12の実線は教師データ(CPX及び専門家によるAT判定結果)であり、破線は教師データに対する予測であり、一点鎖線はテストデータに対する予測を表している。例えば、ケース1では、被験者2~10のデータを訓練データとして、被験者1のATを予測した。ケース2では、被験者1及び3~10のデータを訓練データとして、被験者2のATを予測する。10名中の6名(被験者1、2、3、4、5、9)について推定したデータが、CPX及び専門家によるAT判定結果とおおよそ一致する結果が得られた。
【0085】
図13に、学習モデルとしてランダムフォレストを用いて運動支援装置10により推定したデータの10分割交差検証結果を示す。10名中の3名(被験者3、4、8)について推定したデータが、CPX及び専門家によるAT判定結果とおおよそ一致する結果が得られた。
【0086】
図11では、運動支援装置10で推定したΔHR(AT時心拍数と現在の心拍数の差の推定)のグラフを示したが、教師データの入力データを
図11の場合と同じ生体電気インピーダンスのデータとし、出力ラベルをCPXで測定したHR(心拍数)、VO
2(酸素摂取量)、VE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO
2(肺換気量/CO
2排出量)、R(ガス交換比)、またはAT(0、1判定)の他の指標にして算出モデルを学習させることで、これらの他の指標について同様に推定することが可能である。
【0087】
図15~
図20にそれぞれ、出力ラベルを、CPXで測定したHR(心拍数)、VO
2(酸素摂取量)、VE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO
2(肺換気量/CO
2排出量)、及びR(ガス交換比)としてそれぞれ生成した学習済みの算出モデルを用いて、ユーザー15人についての現在のHR(心拍数)、VO
2(酸素摂取量)、VE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO
2(肺換気量/CO
2排出量)、R(ガス交換比)、及びAT(0、1判定)を推定したグラフを示す。入力データは、
図11の場合と同じ生体電気インピーダンスのデータである。
【0088】
白抜き四角プロットは、生体電気インピーダンスから推定して得られた、現在のHR(心拍数)、VO2(酸素摂取量)、VE/VO2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO2(肺換気量/CO2排出量)、R(ガス交換比)、及びAT(0、1判定)を示すデータである。
【0089】
黒丸プロットは、生体電気インピーダンスを測定するのと同時に測定したCPXの測定及び心拍数の測定に基づくHR(心拍数)、VO2(酸素摂取量)、VE/VO2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO2(肺換気量/CO2排出量)、R(ガス交換比)、及びAT(0、1判定)を示すデータである。
【0090】
図15~20に示す白抜き四角プロットと黒丸プロットは、おおよそ一致しており、精度良くHR(心拍数)、VO
2(酸素摂取量)、VE/VO
2(肺換気量/酸素摂取量)、VE/VCO
2(肺換気量/CO
2排出量)、R(ガス交換比)、及びAT(0、1判定)を推定できることが分かる。
【符号の説明】
【0091】
10 運動支援装置
11 通信部
12 記憶部
121 生体電気インピーダンスのデータ
122 心拍数または脈拍数のデータ
123 呼気ガスのデータ
124 AT実測値
125 最適運動強度に対する現在の運動強度の差
13 表示部
14 操作部
15 処理部
151 受信処理部
152 変換処理部
153 学習処理部
154 判別処理部
155 出力処理部
20 インピーダンス計
30 測定部
31 電流印加用電極
32 電圧計測用電極
33 丸棒
40 心拍計または脈拍計
50 呼気ガス分析装置
M1 算出モデル
TD 教師データ