IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムアースEVエナジー株式会社の特許一覧

特開2023-132411二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法
<>
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図1
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図2
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図3
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図4
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図5
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図6
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図7
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図8
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図9
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図10
  • 特開-二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132411
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20230914BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230914BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230914BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20230914BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20230914BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20230914BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/36 D
H01M4/1391
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037712
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】柴 貴子
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA04
5H050DA10
5H050DA18
5H050FA15
5H050FA17
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA28
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】高いエネルギー密度と高い入出力特性とを両立する二次電池が得られる二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用正極は、正極集電体10と、正極集電体10上に形成され、導電材及び正極活物質30を含む正極合材層20と、を有し、正極活物質30は、それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される大粒径活物質粒子40及び大粒径活物質粒子40より小径な小粒径活物質粒子50を含み、大粒径活物質粒子40は、略球形状又は略楕円球形状に形成され、小粒径活物質粒子50は、略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部と、一方向に突出する略球冠状の凸曲面と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
前記正極集電体上に形成され、導電材及び正極活物質を含む正極合材層と、を有し、
前記正極活物質は、
それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される大粒径活物質粒子及び前記大粒径活物質粒子より小径な小粒径活物質粒子を含み、
前記大粒径活物質粒子は、
略球形状又は略楕円球形状に形成され、
前記小粒径活物質粒子は、
略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部と、
一方向に突出する略球冠状の凸曲面と、
前記一方向側の反対側に存在するとともに前記一方向に窪む略球冠状の凹曲面と、
を有する二次電池用正極。
【請求項2】
前記球冠殻部の厚さが0.5μm以上1.5μm以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項3】
前記凸曲面の平均直径が2.5μm以上であり、
前記大粒径活物質粒子の平均直径に対する前記凸曲面の平均直径の比が0.8以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極合材層中に占める前記大粒径活物質粒子の体積に対する前記小粒径活物質粒子の体積の比が0.2以上0.9以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項5】
前記小粒径活物質粒子には、前記球冠殻部を貫通するとともに0.1μm以上の孔径を有する貫通孔が設けられ、
前記球冠殻部及び前記貫通孔の合計体積に対する前記球冠殻部の体積の比が0.5以上0.8以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項6】
前記凸曲面の曲率中心から前記凸曲面における前記切断面側の先端に向かう方向と、前記凸曲面の曲率中心を通る前記凸曲面の長軸と、のなす角度が±15°以内である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項7】
前記凸曲面の平均直径が4μm以上6μm以下である請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項8】
前記中空活物質粒子の外面の曲率中心を通る短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.0以上1.5未満であり、
前記凸曲面は、前記外面の長軸に沿う前記切断面により切り取られた略球冠状に形成される請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項9】
前記中空活物質粒子の内面の曲率中心を通る短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.0以上1.8未満であり、
前記凹曲面は、前記内面の長軸に沿う前記切断面により切り取られた略球冠状に形成される請求項1に記載の二次電池用正極。
【請求項10】
それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される大粒径活物質粒子及び前記大粒径活物質粒子より小径な小粒径活物質粒子を含む正極活物質を形成するステップと、
正極集電体上に前記大粒径活物質粒子、前記小粒径活物質粒子、及び導電材を含む正極合材層を形成するステップと、
を有し、
前記正極活物質を形成するステップは、
略球形状又は略楕円球形状の前記大粒径活物質粒子を形成するステップと、
略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子を形成するステップと、
前記中空活物質粒子を粉砕して、前記中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状の球冠殻部を有する小粒径活物質粒子を形成するステップと、
を有する二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
前記正極活物質を形成するステップでは、
前記小粒径活物質粒子の吸油量とBET比表面積との少なくとも一方を測定した結果が、前記中空活物質粒子について測定した結果と比べて大きい場合に、前記正極合材層を形成するステップに進む請求項10に記載の二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
前記正極合材層を形成するステップは、
前記大粒径活物質粒子、前記小粒径活物質粒子、前記導電材、及び溶媒を所定の割合で含む合材層形成用ペーストを作製するステップを有し、
前記合材層形成用ペーストの粘度を測定した結果が、前記大粒径活物質粒子、前記中空活物質粒子、前記導電材、及び前記溶媒を前記所定の割合で含む基準ペーストの粘度を測定した結果と比べて小さい場合に、前記正極集電体上に前記合材層形成用ペーストを塗工して前記正極合材層を形成する請求項10に記載の二次電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の中でも、特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好適に用いられている。リチウムイオン二次電池は、正極及び負極の間を、電解質中のリチウムイオン(電荷担体)が移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
二次電池を構成する正極の正極合材層には、電荷担体を吸蔵及び放出可能な正極活物質が含まれている。このような二次電池の高性能化のため、正極活物質には様々な工夫が施されている。
【0004】
特許文献1には、粒子の中心から表面の方向に放射状に配向された柱状の一次粒子が凝集した単層構造の二次粒子を含み、前記二次粒子は、シェルの形状を有しており、前記一次粒子は、下記化学式1のNi‐Co‐Mnの複合金属水酸化物を含む、二次電池用正極活物質の前駆体およびこれを用いて製造した正極活物質が開示されている。
[化学式1]
Ni1-(x+y+z)CoMyMn(OH)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-536972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、二次電池の高エネルギー密度化を目的として、粒度を調整した正極活物質を用いることにより正極活物質の充填率を高め、正極の電極密度を向上させる技術が知られている。そこで、粒径の異なる大小の活物質粒子を混合した正極活物質を用いて正極を製造することが考えられる。
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1に開示される正極活物質を小粒径側の活物質粒子として用いた場合、活物質粒子の小径化によって正極に含まれる正極活物質の充填率の向上が期待できる一方で、単に粒径の小さい活物質粒子にすると、小粒径側の活物質粒子が正極内の空隙を占有してしまう可能性がある。そして、このような正極により構成される二次電池では、小径化された活物質粒子に起因して、リチウムイオンの移動経路の曲路率(屈曲度)が大きくなったり、活物質粒子の粒子間の接点が増加することに伴って電気化学反応に寄与し得る反応場の減少や正極内の導電パスの減少が生じたりして、結果的に十分な入出力特性が得られないという問題があった。
【0008】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、高いエネルギー密度と高い入出力特性とを両立する二次電池が得られる二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態にかかる二次電池用正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成され、導電材及び正極活物質を含む正極合材層と、を有し、正極活物質は、それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される大粒径活物質粒子及び大粒径活物質粒子より小径な小粒径活物質粒子を含み、大粒径活物質粒子は、略球形状又は略楕円球形状に形成され、小粒径活物質粒子は、略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部と、一方向に突出する略球冠状の凸曲面と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面と、を有する。
【0010】
一実施の形態にかかる二次電池用正極の製造方法は、それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される大粒径活物質粒子及び大粒径活物質粒子より小径な小粒径活物質粒子を含む正極活物質を形成するステップと、正極集電体上に大粒径活物質粒子、小粒径活物質粒子、及び導電材を含む正極合材層を形成するステップと、を有し、正極活物質を形成するステップは、略球形状又は略楕円球形状の大粒径活物質粒子を形成するステップと、略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子を形成するステップと、中空活物質粒子を粉砕して、中空活物質粒子の一部が切断面により切り取られた略球冠状の小粒径活物質粒子を形成するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、高いエネルギー密度と高い入出力特性とを両立する二次電池が得られる二次電池用正極、及び二次電池用正極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる正極を示す図である。
図2図1に示す正極に含まれる大粒径活物質粒子を示す断面図である。
図3図1に示す正極に含まれる小粒径活物質粒子を示す断面図である。
図4】実施の形態1にかかる正極の製造方法を示すフローチャートである。
図5図3に示す小粒径活物質粒子の材料となる中空活物質粒子を示す断面図である。
図6】小粒径活物質粒子の一例を示す図である。
図7】小粒径活物質粒子の他の例を示す図である。
図8】小粒径活物質粒子の他の例を示す図である。
図9】実施例、参考例、及び比較例を説明する表である。
図10】各種評価用電池セルの電圧降下量を示すグラフである。
図11】参考例の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。以下の説明において同一又は同等の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
ここで、本実施形態における「短軸の長さ」及び「長軸の長さ」は、特に断りがない場合、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析から、任意に選ばれる複数の活物質粒子の外側に配置される面又は内側に配置される面を用いて計測されるものである。活物質粒子の外側の面又は内側の面において、活物質粒子の曲率中心を通る最も短い径の平均値を「短軸の長さ」として求めることができる。また、活物質粒子の外側の面又は内側の面において、活物質粒子の曲率中心を通る最も長い径の平均値を「長軸の長さ」として求めることができる。さらに、活物質粒子の「平均直径(平均粒径)」は、活物質粒子の外側の面における「長軸の長さ」と「短軸の長さ」との平均値である。
【0015】
また、本実施形態における「厚さ」は、特に断りがない場合、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析から、任意に選ばれる活物質粒子の断面において、活物質粒子の内側に配置される面の複数の位置から外側に配置される面への最短距離が計測されるものである。活物質粒子の内側の面の複数の位置で計測された当該最短距離の平均値を「厚さ」として求めることができる。
【0016】
例えば、活物質粒子が小粒径活物質粒子50である場合、外側に配置される面が凸曲面53であり、内側に配置される面が凹曲面54である。活物質粒子が中空活物質粒子150である場合、外側に配置される面が外面153であり、内側に配置される面が内面154である。
【0017】
また、本実施形態における「孔径」は、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析から、任意に選ばれる複数の貫通孔56について、最も狭い部分の直径の平均値として求めることができる。
【0018】
なお、FIB-SEMとは、集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)にて試料を加工し、当該試料の露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて観察することを意味する。試料を加工する方法としては、例えば、適当な樹脂で固めた試料を、所望の断面で切断し、その断面を少しずつ削りながらSEM観察を行うとよい。
【0019】
FIB-SEMを用いた手法では、試料に対して、FIBによる断続的な加工とSEMによる観察とを繰り返し、得られたSEM像を3次元的に構築した3次元モデルを得ることによって、内部構造を含めた物質の構造を可視化することができる。
【0020】
以下、本実施形態にかかる二次電池用正極の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池用の正極1に具体化して説明する。リチウムイオン二次電池は、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正極1(正極板)と負極(負極板)との間における電荷の移動により充放電が実現される二次電池である。リチウムイオン二次電池は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両の駆動用電源として用いられる。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態にかかる正極1の構成について説明する。図1は、実施の形態1にかかる正極を示す図である。図1には、正極1の3次元モデルを示している。図1に示すように、正極1は、正極集電体10と、正極集電体10上に形成される正極合材層20と、を有する。なお、図1に示す3次元モデルは、正極集電体10、大粒径活物質粒子40、及び小粒径活物質粒子50以外の構成要素について図示を省略している。
【0022】
正極集電体10は、板状又は箔状に形成され、導電性の良好な金属により構成される。正極1に用いられる正極集電体10には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を用いることができる。
【0023】
正極合材層20は、正極活物質30及び導電材を少なくとも含んでいる。正極合材層20は、その他に、分散剤及びバインダ等の添加剤を含んでもよい。
【0024】
導電材は、正極合材層20中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層20に適量の導電材を混合することにより、正極1内の電子伝導性を高めて、電池の充放電効率及び入出力特性を向上させることができる。導電材としては、例えば、各種カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック)、炭素繊維(例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ)を初めとする炭素材料等を用いることができる。
【0025】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。バインダには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0026】
正極活物質30は、電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能である。正極活物質30は、大粒径活物質粒子40及び大粒径活物質粒子40より小径な小粒径活物質粒子50を含む。大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50は、それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される。リチウム遷移金属酸化物は、Li(リチウム)以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、Co及びMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0027】
大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50のそれぞれは、遷移金属元素(すなわち、Ni、Co及びMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)及び17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0028】
好ましい一態様において、大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50のそれぞれは、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
LiNiCoMn(1-y-z)MAαMBβ…(1)
【0029】
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、Cr及びMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、B及びFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0030】
正極1に含まれる正極活物質30の充填率は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。これにより、高い放電容量の二次電池を得ることができる。なお、図1には、正極活物質30の充填率が75%である正極1を示している。
【0031】
正極活物質30は、その粒度分布が少なくとも2つのピークを持つ。本実施形態の正極活物質30は、その粒度分布が2つのピークを持つように、大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50の2種類の活物質粒子を含んでいる。大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50は、同一の組成を有する化合物であってもよいし、互いに異なる組成を有する化合物であってもよい。
【0032】
ここで、図2及び図3を参照して、大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50の詳細を説明する。図2は、図1に示す正極に含まれる大粒径活物質粒子の一例を示す断面図である。図3は、図1に示す正極に含まれる小粒径活物質粒子の一例を示す断面図である。
【0033】
まず、図2に示すように、正極活物質30の粒度分布において大粒径側のピークに対応する大粒径活物質粒子40は、略球形状又は略楕円球形状に形成される。また、個々の大粒径活物質粒子40は、粒子形態をなしている。大粒径活物質粒子40の構造は、特に限定されないが、高いエネルギー密度を実現する観点から中実構造であることが好ましい。大粒径活物質粒子40は、一次粒子であってもよく、一次粒子が集合した二次粒子であってもよい。好ましい一態様では、大粒径活物質粒子40は一次粒子である。
【0034】
ここで、一次粒子は、外見上の幾何学的形態から判断して単位粒子(ultimateparticle)と考えられる粒子を指す。大粒径活物質粒子40において、一次粒子は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。大粒径活物質粒子40の形状観察はSEM観察で取得される画像により行うことができる。
【0035】
大粒径活物質粒子40の平均直径R1は、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上である。大粒径活物質粒子40の平均直径R1が小さすぎると、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙が小さくなるため、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が入り込みにくい。その結果、正極活物質30の充填率が低下して、正極1の電極密度が低下する虞がある。また、大粒径活物質粒子40の平均直径R1は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。大粒径活物質粒子40の平均直径R1が大きすぎると、大粒径活物質粒子40内におけるリチウムイオンの拡散抵抗が増加するため、正極1を含む二次電池の入出力特性が低下する虞がある。
【0036】
続いて、図3に示すように、正極活物質30の粒度分布において小粒径側のピークに対応する小粒径活物質粒子50は、略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子150の一部が切断面51により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部52を有している。この小粒径活物質粒子50は、一方向に突出する略球冠状の凸曲面53と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面54と、を有する。また、小粒径活物質粒子50には、凸曲面53に向かって端面の中央付近が略球冠状に窪んだ凹部55が形成される。
【0037】
ここで、球冠とは、球又は楕円球の一部を任意の面(本実施形態では切断面51)で切り取った球欠の側面部分である。小粒径活物質粒子50の形状は、略椀状とも言える。このように、凸曲面53及び凹曲面54が湾曲した形状であると、嵩高い小粒径活物質粒子50が形成されるため、正極合材層20中における小粒径活物質粒子50同士の重なり、及び大粒径活物質粒子40と小粒径活物質粒子50との重なりを抑制することができる。
【0038】
これにより、小粒径側の活物質粒子として小粒径活物質粒子50を用いた正極1では、活物質粒子の粒子間(大粒径活物質粒子40及び小粒径活物質粒子50の粒子間、小粒径活物質粒子50の粒子間)における接点の増加に起因する反応場及び導電パスのそれぞれの減少が抑制される。活物質粒子の反応場が確保されることにより固液界面におけるリチウムイオンの移動抵抗を低減することができる。また、導電パスの増加に伴って正極1内の電子伝導性を向上することができる。そして、正極1を高密度化した場合であっても、活物質粒子の粒子間に電解液の浸透経路となる空隙を十分に確保することができる。その結果、正極1を含む二次電池の入出力特性が向上する。
【0039】
個々の小粒径活物質粒子50は、粒子形態をなしている。小粒径活物質粒子50を構成する球冠殻部52は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が連なって略球冠状に形成された二次粒子である。小粒径活物質粒子50において、一次粒子は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。小粒径活物質粒子50の形状観察はSEM観察で取得される画像により行うことができる。
【0040】
小粒径活物質粒子50の凸曲面53の平均直径R2は、好ましくは2.5μm以上、より好ましくは3μm以上である。凸曲面53の平均直径R2が小さくなるにしたがって、小粒径活物質粒子50の比表面積が増加する一方、正極活物質30の充填率が高い正極1である場合、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙が小粒径活物質粒子50に占有されてしまう。このような状態では、活物質粒子の粒子間における接点が必要以上に増加して導電パスが形成されにくい。したがって、凸曲面53の平均直径R2が比較的小さい場合に正極合材層20中の電子伝導性を十分に確保するためには、凸曲面53の平均直径R2が比較的大きい場合と比べて導電材の必要量が多くなる傾向がある。また、活物質粒子の粒子間における接点が必要以上に増加した場合、正極活物質30の電気化学反応に寄与し得る反応場が減少する虞がある。
【0041】
凸曲面53の平均直径R2は、10μm未満であって、好ましくは8μm以下、より好ましくは5μm以下である。凸曲面53の平均直径R2が大きすぎると、小粒径活物質粒子50が大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に入り込みにくくなる。その結果、正極活物質30の充填率が低下して、正極1の電極密度が低下する虞がある。生産性の観点から、好ましい一態様では、凸曲面53の平均直径R2は、4μm以上6μm以下である。
【0042】
そして、凸曲面53の平均直径R2が2.5μm以上であるとき、大粒径活物質粒子40の平均直径R1に対する凸曲面53の平均直径R2の比である直径比が0.8以下であることが好ましい。このような直径比であると、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が入り込みやすくなる。その結果、正極活物質30の充填率が高められ、正極1の電極密度が向上する。
【0043】
また、正極合材層20中に占める大粒径活物質粒子40の体積に対する小粒径活物質粒子50の体積の比である体積比が0.2以上0.9以下であることが好ましい。当該体積比がこのような範囲で構成されることにより、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が効率良く入り込む。その結果、正極活物質30の充填率が高められて正極1の電極密度が向上する。大粒径活物質粒子40と小粒径活物質粒子50とのいずれか一方の割合が必要以上に高いと、正極活物質30の充填率が低下するため好ましくない。
【0044】
球冠殻部52の厚さTは、2.0μm未満であって、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。球冠殻部52の厚さTが薄いほど、リチウムイオンの拡散抵抗が低減され、二次電池の充電時には球冠殻部52の内部(厚さTの中央部)からもリチウムイオンが放出されやすく、二次電池の放電時にはリチウムイオンが球冠殻部52の内部まで吸収されやすくなる。球冠殻部52の厚さTの下限値は、耐久性の観点から0.5μm以上であることが好ましい。球冠殻部52の厚さTが0.5μm未満であると、製造時又は使用時に加わり得る応力等に対する耐久性が低下する。内部抵抗低減効果と耐久性とを両立させる観点から、好ましい一態様では、球冠殻部52の厚さTは、0.5μm以上1.0μm未満である。
【0045】
球冠殻部52の厚さ方向において、一次粒子は単層であってもよく、多層であってもよい。好ましい一態様にかかる小粒径活物質粒子50は、球冠殻部52の全体に亘って、一次粒子が実質的に単層で連なった形態に構成されている。
【0046】
さらに、小粒径活物質粒子50には、外部から凹部55まで球冠殻部52を貫通する複数の貫通孔56が設けられていることが好ましい。貫通孔56は、球冠殻部52を構成する複数の一次粒子の間に隙間として形成される。貫通孔56の孔径Dは、0.1μm以上であることが好ましい。小粒径活物質粒子50にこのような孔径Dの貫通孔56が設けられることにより、貫通孔56を通して外部と凹部55との間で電解液がスムーズに流通し得る。
【0047】
また、貫通孔56が設けられた小粒径活物質粒子50は、球冠殻部52及び貫通孔56の合計体積に対する球冠殻部52の体積の比である体積比が、0.5以上0.8以下であることが好ましく、0.7以上0.8以下であることがより好ましい。ここで、球冠殻部52及び貫通孔56の合計体積は、1粒子の小粒径活物質粒子50を構成する全ての一次粒子の体積と全ての貫通孔56の体積とを合計した体積である。一方、球冠殻部52の体積は、1粒子の小粒径活物質粒子50を構成する全ての一次粒子の体積である。当該体積比がこのような範囲で構成されることにより、適度な空孔率を有する多孔質な小粒径活物質粒子50となるため、高密度化された正極1であっても電解液の浸透が促進される。また、活物質粒子の粒子間に十分な導電パスが形成される。
【0048】
当該体積比が上記範囲を外れて必要以上に小さいと、活物質粒子の粒子間に導電パスが形成されにくくなる場合がある。また、当該体積比が上記範囲を外れて必要以上に大きいと、電解液のスムーズな流通に必要な貫通孔56が形成されにくくなるため、正極1内での電解液の浸透性が低下する虞がある。
【0049】
各体積比等の特性値は、FIB-SEM測定により得られた3次元モデルに対する画像解析を用いて、それぞれ任意に選ばれる複数の活物質粒子のそれぞれについての計測値に基づいて算出することができる。例えば、正極1の3次元モデルのデータからWatershed等のアルゴリズムにより単一の粒子に分割された活物質粒子の3次元モデルのデータを取得して各粒子の体積等を算出するとよい。また、小粒径活物質粒子50の場合、その3次元モデルのデータに基づき、各粒子について球冠殻部52及び貫通孔56の合計体積等を算出することができる。さらに、小粒径活物質粒子50の3次元モデルのデータから小粒径活物質粒子50内の連結空孔を抽出し、抽出されたデータに基づいて、貫通孔56の体積等を算出することができる。そして、抽出された連結空孔を除去した小粒径活物質粒子50の3次元モデルのデータに基づいて、球冠殻部52の体積等を算出することができる。
【0050】
次に、図4を参照して、上記した正極1の製造方法について一例を説明する。図4は、実施の形態1にかかる正極の製造方法を示すフローチャートである。図4に示すように、本実施形態にかかる正極1の製造方法は、ステップS1~S7の工程を有する。なお、ステップS4及びステップS6の各工程は、製造される正極1の品質が確保される場合には省略することができ、その他の手法によっても代替可能である。
【0051】
ステップS1は、大粒径活物質粒子40を形成する工程である。ステップS2は、中空活物質粒子150を形成する工程である。ステップS3は、中空活物質粒子150を粉砕して小粒径活物質粒子50を形成する工程である。ステップS4は、ステップS3で得られた小粒径活物質粒子50の物性が所定値と比べて適切な値であるか否かを確認する工程である。ステップS5は、正極合材層20を形成するための合材層形成用ペーストを作製する工程である。ステップS6は、ステップS5で作製した合材層形成用ペーストの粘度が所定値と比べて適切な値であるか否かを確認する工程である。ステップS7は、正極集電体10上に合材層形成用ペーストを塗工して正極合材層20を形成する工程である。
【0052】
上記の各工程について詳細に説明する。まず、ステップS1において、大粒径活物質粒子40を形成する方法は、所要の平均直径R1及び所要の組成を有する略球形状又は略楕円状の大粒径活物質粒子40を形成できる方法であればよい。例えば、大粒径活物質粒子40は、ジェットミル等の粉砕機を用いて所要の組成を有する原料を粉砕して得られる。また、粉砕時の粉砕条件を制御することによって、所望の平均直径R1を有する大粒径活物質粒子40を形成することができる。
【0053】
ステップS2では、小粒径活物質粒子50の材料となる中空活物質粒子150を形成する。そこで、図5は、図3に示す小粒径活物質粒子の材料となる中空活物質粒子の一例を示す断面図である。
【0054】
図5に示すように、中空活物質粒子150は、球殻部152と、球殻部152の内部に形成される中空部155と、を有する中空構造の粒子形態をなし、略球殻状又は略楕円球殻状に形成される。すなわち、中空活物質粒子150の外形は、概ね球形状、又は楕円球形状(やや歪んだ球形状等)を呈している。また、中空活物質粒子150は、ともに球面状又は楕円球面状に形成される外面153と内面154とを有する。
【0055】
球殻部152は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が連なって略球殻状又は略楕円球殻状に形成された二次粒子である。球殻部152の内部には、中空部155が形成される。球殻部152の厚さ方向において、一次粒子は単層であってもよく、多層であってもよい。好ましい一態様にかかる中空活物質粒子150は、球殻部152の全体に亘って、一次粒子が実質的に単層で連なった形態に構成されている。中空活物質粒子150において、一次粒子は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。中空活物質粒子150の形状観察はSEM観察で取得される画像により行うことができる。
【0056】
中空活物質粒子150の外面153の平均直径R2は、凸曲面53の平均直径R2と略一致する。なお、外面153は、中空活物質粒子150の輪郭にあたる面である。また、球殻部152の厚さTは、球冠殻部52の厚さTと略一致する。
【0057】
中空活物質粒子150の内面154の径は、外面153の平均直径R2から球殻部152の厚さTを減算することにより求めることができる。内面154の径は、凹曲面54の径と略一致する。なお、内面154は、中空部155の輪郭にあたる面である。
【0058】
さらに、中空活物質粒子150には、外部から中空部155まで球殻部152を貫通する貫通孔56が設けられていることが好ましい。この貫通孔56は、上記した通り、小粒径活物質粒子50における電解液の浸透経路となる。
【0059】
上記の中空活物質粒子150を形成する方法は、例えば、原料水酸化物生成工程と、混合工程と、焼成工程と、を含む。これらの各工程について詳述する。ただし、中空活物質粒子150を形成する方法はこれに限られるものではない。
【0060】
原料水酸化物生成工程は、遷移金属化合物の水溶液にアンモニウムイオン(NH )を供給して、遷移金属水酸化物の粒子を水溶液から析出させる工程である。ここで、水溶液は、リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素の少なくとも1種を含む。
【0061】
原料水酸化物生成工程は、水溶液から遷移金属水酸化物を析出させる核生成段階と、核生成段階よりも水溶液のpHを減少させた状態で遷移金属水酸化物の粒子を成長させる粒子成長段階とを含むことが好ましい。粒子成長段階では、pH及びアンモニウムイオン濃度を変更することにより、遷移金属水酸化物の析出速度を調整することで、中空活物質粒子150の構造(一次粒子同士の配置間隔、粒子空孔率等)を変化させることができる。
【0062】
混合工程では、原料水酸化物生成工程で生成した遷移金属水酸化物粒子を反応液から分離し、洗浄、濾過、乾燥させる。このようにして得られた遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して混合物を調製する。当該遷移金属水酸化物とリチウム化合物とは、所定の割合でできるだけ均一に混合すると良い。混合工程では、典型的には、目的物である中空活物質粒子150の組成に対応する量比で、リチウム化合物と遷移金属水酸化物粒子とを混合する。
【0063】
焼成工程は、混合物を焼成して中空活物質粒子150を得る工程である。焼成工程は、例えば酸化性雰囲気中(例えば大気雰囲気中)で行われる。焼成温度は、例えば700℃以上1100℃以下である。また、焼成工程は、異なる温度範囲で焼成する複数の工程を含んでいてもよい。焼成後には、必要に応じて、焼成物を解砕したものを分級して粒径を調整することが好ましい。
【0064】
この工程では、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子の焼結反応を進行させる。これにより、一次粒子同士が焼結されて連なった略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子150が形成されるとともに、中空活物質粒子150の内部には中空部155が形成される。このようにして形成された中空活物質粒子150は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物により構成されるものである。
【0065】
図4に戻り、ステップS3では、ステップS2で得られた中空活物質粒子150を粉砕機に投入し、中空活物質粒子150に対して剪断力を与えることにより、中空活物質粒子150の一部が切断面51により切り取られた小粒径活物質粒子50を形成する。中空活物質粒子150の粉砕に用いる粉砕機としては、ジェットミルを用いることが好ましい。粉砕の方式は、乾式であっても良く、湿式であっても良い。
【0066】
ここで、図6~8を参照して、本実施形態において望ましい小粒径活物質粒子50の構造について詳細を説明する。図6は、小粒径活物質粒子の一例を示す図である。図7は、小粒径活物質粒子の他の例を示す図である。図8は、小粒径活物質粒子の他の例を示す図である。
【0067】
なお、図6図8に示す実線は、小粒径活物質粒子50の凸曲面53を模式的に表したものとする。また、図6図8に示す破線は、小粒径活物質粒子50の材料となる中空活物質粒子150の外面153を模式的に表したものとする。図6図8では、小粒径活物質粒子50の全部が中空活物質粒子150の一部と一致するように小粒径活物質粒子50と中空活物質粒子150とを重ねて配置した場合を示している。そして、凸曲面53及び外面153の長軸は水平方向に延在し、凸曲面53及び外面153の短軸は鉛直方向に延在するように配置されている。
【0068】
なお、中空活物質粒子150の曲率中心Oは、小粒径活物質粒子50の曲率中心Oと一致する。また、中空活物質粒子150の曲率中心Oは、外面153の曲率中心Oと内面154の曲率中心Oと同一であるものとし、小粒径活物質粒子50の曲率中心Oは、凸曲面53の曲率中心Oと凹曲面54の曲率中心Oと同一であるものとする。
【0069】
図6図8に示すように、中空活物質粒子150を分割する切断面51は、曲率中心Oを通る面であっても良く、曲率中心Oから隔てた位置にある面であっても良い。切断面51が形成される位置は、曲率中心Oから凸曲面53における切断面51側の先端に向かう方向と、凸曲面53における長軸と、のなす角が角度θとなる位置に形成される。そして、本実施形態では、角度θが±15°以内であることが好ましい。すなわち、小粒径活物質粒子50は、中心角が150°以上210°以下の略球冠状であることが好ましい。
【0070】
具体的には、θ=0°である場合、切断面51は曲率中心Oを通る面であり、小粒径活物質粒子50は半球状に形成される。θ=15°である場合、切断面51は曲率中心Oから上側に間隔を隔てた位置にある面であり、小粒径活物質粒子50は、曲率中心Oを含む相対的に大きな体積の方の立体である。θ=-15°である場合、切断面51は曲率中心Oから下側に間隔を隔てた位置にある面であり、小粒径活物質粒子50は、曲率中心Oを含まない相対的に小さな体積の方の立体である。
【0071】
角度θが±15°以内であると、活物質粒子における有効な反応場を確保しつつ、電解液の電気伝導度と活物質粒子の電気伝導度とを高いレベルで両立した、良好な性能を有する正極1を得ることができる。
【0072】
さらに、角度θが±15°以内において、切断面51の形状は、平面であっても良く、凹凸状等の非平面であっても良い。このように、切断面51の位置及び形状に応じて小粒径活物質粒子50の形状が決定される。
【0073】
また、本実施形態では、正極合材層20が含有する小粒径活物質粒子50のうち、角度θが±15°以内で形成される活物質粒子が占める割合は、好ましくは30質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上100質量%以下である。このような割合で構成されることにより、正極1を含む二次電池の入出力特性を向上する効果が一層高められる。なお、正極合材層20は、上述した角度θが±15°以内で形成される小粒径活物質粒子50の他に別の活物質粒子を含んでも良い。別の活物質粒子とは、例えば中実構造の活物質粒子、中空構造の活物質粒子、角度θが±15°の範囲外で形成される活物質粒子等である。
【0074】
そして、中空活物質粒子150の外面153について、短軸の長さL2に対する長軸の長さL1の比(長軸の長さ/短軸の長さ、L1/L2)は、1.0以上1.5未満であることが好ましい。また、中空活物質粒子150の内面154について、短軸の長さに対する長軸の長さの比(長軸の長さ/短軸の長さ)は、1.0以上1.8未満であることが好ましい。このような比率で構成される中空活物質粒子150を用いて小粒径活物質粒子50を形成すると、小粒径活物質粒子50の表裏面(凸曲面53及び凹曲面54)が湾曲した形状となって粒子が嵩高くなる。
【0075】
ステップS3におけるジェットミルによる粉砕では、粉砕ガス圧力、中空活物質粒子150の供給速度、粉砕回数等の粉砕条件を適宜設定して粉砕の度合いを調整する。粉砕条件は、中空活物質粒子150の曲率中心Oを通る最も長い径である長軸に沿った切断面51で中空活物質粒子150を切り取ることができるように設定されることが好ましい。すなわち、粉砕条件を制御することによって、所望の小粒径活物質粒子50を形成することができる。
【0076】
粉砕条件は、特に限定されるものではなく、用いる粉砕機や中空活物質粒子150によって異なる。粉砕後には、粉砕物を分級して微粉末の除去を行ない、所望の平均直径R2を有する小粒径活物質粒子50を得ることができる。粉砕物の分級は、分級機能を備えたジェットミルにより実施しても良く、ジェットミルとは別の分級機を用いて実施しても良い。
【0077】
このように、中空活物質粒子150を粉砕することにより、小粒径活物質粒子50を得ることができる。小粒径活物質粒子50の球冠殻部52は、中空活物質粒子150の球殻部152に対応し、球殻部152の一部が切断面51により切り取られたものである。小粒径活物質粒子50の凸曲面53は、中空活物質粒子150の外面153に対応し、外面153の一部が切断面51により切り取られたものである。小粒径活物質粒子50の凹曲面54は、中空活物質粒子150の内面154に対応し、内面154の一部が切断面51により切り取られたものである。
【0078】
凹曲面54は、凸曲面53の突出方向側の反対側に存在し、凹曲面54と凸曲面53とは、互いに対向している。また、凹部55は、中空活物質粒子150の中空部155に対応し、凹曲面54により画成される。切断面51は、凸曲面53の先端縁と凹曲面54の先端縁とを繋ぐ部分である。切断面51は、凹部55の開口を囲む略円環状を有する。
【0079】
図4に戻り、ステップS4では、ステップS3で得られた小粒径活物質粒子50の物性を測定し、小粒径活物質粒子50の物性の測定値が所定値より大きい値であるか否かを確認する。小粒径活物質粒子50の物性としては、例えば、吸油量及びBET比表面積を用いることができる。また、ステップS4における所定値としては、小粒径活物質粒子50の材料となる中空活物質粒子150の吸油量及びBET比表面積を用いることができる。
【0080】
この工程では、小粒径活物質粒子50について、吸油量とBET比表面積との少なくとも一方を測定する。そして、小粒径活物質粒子50の物性について測定した結果(測定値)が、中空活物質粒子150の同じ物性について測定した結果(所定値)と比べて大きい場合(ステップS4;YES)に、次のステップS5に進む。一方、小粒径活物質粒子50の物性について測定した結果(測定値)が、所定値以下である場合(ステップS4;NO)は、粉砕が不十分である等の理由により所望の小粒径活物質粒子50が得られていないと考えられるため、ステップS3に戻る。
【0081】
続いて、ステップS5では、大粒径活物質粒子40と物性が確認された小粒径活物質粒子50とを用いて正極合材層20を形成するための合材層形成用ペーストを作製する。ここで作製される合材層形成用ペーストは、少なくとも正極活物質30(大粒径活物質粒子40、小粒径活物質粒子50)、導電材、及び溶媒(水系溶媒、非水系溶媒又はこれらの混合溶媒)を所定の割合で混練することにより得られる。本実施形態の合材層形成用ペーストは、正極活物質30(大粒径活物質粒子40、小粒径活物質粒子50)、導電材、バインダ、及び溶媒を所定の割合で混練することにより得られる。
【0082】
ステップS6では、ステップS5で得られた合材層形成用ペーストの粘度を測定することにより、合材層形成用ペーストの粘度の測定値が所定値より小さい値であるか否かを確認する。ステップS6における所定値としては、小粒径活物質粒子50の代わりに中空活物質粒子150を合材層形成用ペーストに含有させることにより作製した基準ペーストの粘度を用いることができる。基準ペーストは、少なくとも大粒径活物質粒子40、中空活物質粒子150、導電材、及び溶媒を、活物質粒子の種類を除いて合材層形成用ペーストと同じ材料及び同じ割合と認定される所定の割合で混練することにより得られる。なお、同じ割合とは、製造ばらつき程度の範囲ずれを許容するものである。本実施形態の基準ペーストは、大粒径活物質粒子40、中空活物質粒子150、導電材、バインダ、及び溶媒を所定の割合で混錬することにより得られる。
【0083】
この工程では、合材層形成用ペーストの粘度を測定する。そして、合材層形成用ペーストの粘度を測定した結果(測定値)が、基準ペーストの粘度を測定した結果(所定値)と比べて小さい場合(ステップS6;YES)に、次のステップS7に進む。一方、合材層形成用ペーストの粘度を測定した結果(測定値)が、所定値以上である場合(ステップS6;NO)は、粉砕が不十分である等の理由により所望の小粒径活物質粒子50が得られていないと考えられるため、ステップS3に戻る。
【0084】
ステップS7では、合材層形成用ペーストを正極集電体10の表面に塗工し、これを乾燥することにより溶媒を揮発させ、乾燥したものを必要に応じてプレスする。これにより、正極集電体10上に、正極合材層20を形成することができる。
【0085】
正極集電体10上への正極合材層20の単位面積当たりの塗布量は、特に限定されるものではないが、十分な導電パスを確保する観点から、正極集電体10の片面当たり3mg/cm以上が好ましく、5mg/cm以上がより好ましく、特に6mg/cm以上であるとよい。なお、塗布量は、ペーストの固形分換算の塗付量である。
【0086】
また、正極集電体10の片面当たりの塗布量は、45mg/cm以下が好ましく、28mg/cm以下がより好ましく、特に15mg/cm以下が好ましい。正極合材層20の密度も、特に限定されないが、1.0g/cm以上3.8g/cm以下であることが好ましく、1.5g/cm以上3.0g/cm以下がより好ましく、特に1.8g/cm以上2.4g/cm以下とすることが好ましい。
【0087】
以上の製造方法により、本実施形態にかかる正極を製造することができる。なお、ステップS1~S4の工程は、正極活物質30を形成する工程の一例である。
【0088】
次に、図9を参照して、実施例1~9、参考例1~2、及び比較例1~11について説明する。なお、実施例は本開示を限定するものではない。図9は、実施例、参考例、及び比較例を説明する表である。
【0089】
まず、図9に示す構成を備える活物質粒子を含む22種類の正極を製造した。実施例1~9、参考例1~2、及び比較例1~11において、各正極に含まれる活物質粒子は、全てLiNi(1-X-Y)CoMn、0≦X≦0.35、0≦Y≦0.35で表される平均組成を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)を用いた。各正極に含まれる活物質粒子のうち、大粒径側の活物質粒子(以下、大粒子と呼ぶ場合がある)は全て中実構造を有する一次粒子により構成される平均直径R1:10μmの大粒径活物質粒子40であり、小粒径側の活物質粒子(以下、小粒子と呼ぶ場合がある)はそれぞれ異なるものである。
【0090】
なお、図9の表に示す直径比Aは、大粒子の平均直径に対する小粒子の外側に配置される面の平均直径の比である。図9の表に示す体積比Bは、正極合材層中に占める大粒子の体積に対する小粒子の体積の比である。図9の表に示す体積比Cは、小粒子を構成する球冠状の殻部及び貫通孔56の合計体積に対する殻部の体積の比である。
【0091】
各種正極は以下のように製造した。まず、大粒子(大粒径活物質粒子40)と小粒子(小粒径活物質粒子50、中実活物質粒子140、又は球冠状活物質粒子)とを図9に示す体積比Bで混合して正極活物質を得た。得られた正極活物質と導電材としてのABとバインダとしてのPVdFとを、90:5:5の質量比で混合し、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを添加して混練することによりペーストを作製した。作製したペーストを正極集電体10であるアルミニウム箔の片面に、一定の厚み・塗工量となるように塗工し、乾燥後、プレスすることにより22種類のシート状の正極を製造した。
【0092】
そして、製造した正極のそれぞれについて、正極の正極合材層側とリチウム金属箔(リチウム金属対極)とを対向させるとともにセパレータを介在させた電極体をアルミラミネート製の外装材の内側に収納し、電解液を加えて密封することにより、ラミネート型の評価用電池セル(ハーフセル)を構築した。
【0093】
各評価用電池セルのセパレータには、ポリオレフィン多孔フィルムを用いた。また、各評価用電池セルの電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:1の割合で混合した混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いた。
【0094】
各正極に含まれる活物質粒子について説明する。
【0095】
(参考例1~2)
図11を参照して、参考例1~2の評価用電池セルをそれぞれ構成する正極について説明する。図11は、参考例の構成を説明する図である。図11の上側に示す3次元モデルは、参考例1の評価用電池セルを構成する正極を示している。なお、図11の上側に示す3次元モデルは、正極集電体10、大粒径活物質粒子40、及び中実活物質粒子140以外の構成要素について図示を省略している。図11の下側に示す3次元モデルは、参考例2の評価用電池セルを構成する正極を示している。なお、図11の下側に示す3次元モデルは、大粒径活物質粒子40及び中実活物質粒子140以外の構成要素について図示を省略している。
【0096】
図11に示すように、参考例1~2では、大粒子として大粒径活物質粒子40を用いるとともに小粒子として中実活物質粒子140を用いた。参考例1~2で用いられる中実活物質粒子140のそれぞれは、中実構造を有する略球形状の一次粒子である。具体的には、参考例1では、平均直径:5μmの中実活物質粒子140を用いた。参考例2では、平均直径:1μmの中実活物質粒子140を用いた。参考例1及び参考例2は、中実活物質粒子140の平均直径が互いに異なる点を除いて同様の構成である。
【0097】
(実施例1~9)
実施例1~9は、図4に示すフローにしたがって製造した正極1により構成される評価用電池セルである。実施例1~9では、大粒子として大粒径活物質粒子40を用いるとともに小粒子として小粒径活物質粒子50を用いた。実施例1~9の各評価用電池セルを構成する正極1のそれぞれは、図9の最適条件の欄に示す下記の条件1~4に適合するものである。
(条件1)殻厚さ:0.5μm以上1.5μm以下、
(条件2)小粒子の平均直径:2.5μm以上(直径比A≦0.8)、
(条件3)体積比B:0.2以上0.9以下、
(条件4)体積比C:0.5以上0.8以下
【0098】
(比較例1~11)
比較例1~11では、大粒子として大粒径活物質粒子40を用いるとともに小粒子として球冠状活物質粒子を用いた。比較例1~11の各評価用電池セルを構成する正極のそれぞれは、上記した条件1~4に適合しないものである。比較例1~11で用いられる球冠状活物質粒子のそれぞれは、一次粒子が集まって形成された略球冠状の二次粒子である。各球冠状活物質粒子は、図4に示すフローで説明した中空活物質粒子150を形成する際の製造条件や小粒径活物質粒子50を形成する際の製造条件を適宜調整することにより得られる。
【0099】
以上の22種類の評価用電池セルについて、充放電を行った際の電池の電圧変化量として大電流放電時の電圧降下量を測定して評価した。電圧降下量を測定するにあたっては、22種類の評価用電池セルを25℃の環境下において、SOC(State Of Charge)60%の充電状態から100Cの電流値で放電を行った時の放電開始から1秒間後のそれぞれの電圧降下量を測定した。その結果を図9の結果欄に示す。また、図10は、各種評価用電池セルの電圧降下量を示すグラフである。図10は、図9の結果欄に対応するグラフである。ここでは、0.01V以上を有意差として評価した。電圧降下量が低いほど内部抵抗が低減されていることを表しており、電池特性に優れているといえる。
【0100】
図9及び図10に示す結果より、実施例1~9と参考例1~2とを比べると、単に平均直径の小さい略球形状の中実活物質粒子140を用いるよりも、略球冠状の小粒径活物質粒子50を用いた方が放電に伴う電圧降下量を低減できることが判った。
【0101】
このような結果が得られた理由としては、参考例1では、中実活物質粒子140の平均直径が大きすぎるため、中実活物質粒子140内におけるリチウムイオンの拡散抵抗が増加したものと考えられる。また、参考例2では、中実活物質粒子140の平均直径が小さすぎるため、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙が中実活物質粒子140により占有された状態である。このような状態では、活物質粒子の粒子間における接点が必要以上に増加して導電パスが形成されにくくなるため、これにより正極合材層中の導電パスが減少して直流抵抗が増加したものと考えられる。また、活物質粒子の粒子間に形成される空隙において、電解質中のリチウムイオンが移動する移動経路の曲路率(屈曲度)が大きくなるため、リチウムイオンの移動抵抗が増加したものと考えられる。
【0102】
続いて、条件1~4に適合する実施例1~9では、条件1~4に適合しない比較例1~11と比べて放電に伴う電圧降下量を低減できることが判った。そこで、比較例1~11に関して考察すると、まず比較例1では、球冠状活物質粒子の殻厚さが厚すぎるため、球冠状活物質粒子内におけるリチウムイオンの拡散抵抗が増加したものと考えられる。
【0103】
比較例2では、球冠状活物質粒子の殻厚さが薄すぎて、製造時の焼成工程において焼成物が消失し、球冠状活物質粒子が得られなかったため、所望の正極を製造することができなかった。
【0104】
比較例3では、球冠状活物質粒子の平均直径が小さすぎるため、参考例2の場合と同様に、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙が球冠状活物質粒子により占有された状態である。
【0105】
比較例4では、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に配置された球冠状活物質粒子が製造時のプレスにより粉砕されたため、所望の正極を製造することができなかった。
【0106】
比較例5~8では、大粒径活物質粒子40と球冠状活物質粒子とのいずれか一方の割合が高すぎたために、正極活物質の充填率が低下したと考えられる。
【0107】
比較例9では、球冠状活物質粒子に貫通孔が設けられていないため、正極内での電解液の浸透性が低下したと考えられる。
【0108】
比較例10では、体積比Cが小さすぎるために球冠状活物質粒子の空孔率が必要以上に高くなり、活物質粒子の粒子間において導電材が導電パスを十分に形成することができなかったと考えられる。
【0109】
比較例11では、貫通孔の孔径が小さすぎて、貫通孔を通した電解液の流通が滞ったと考えられる。
【0110】
そして、実施例1~9に関する考察は以下の通りである。実施例1~3の結果から、小粒径活物質粒子50内におけるリチウムイオンの拡散抵抗が低減されるため、条件1の範囲においては、球冠殻部52の厚さTが薄いほど好ましい。
【0111】
実施例1及び実施例4の結果から、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が入り込みやすくなるため、条件2の範囲においては、直径比Aが小さいほど好ましい。
【0112】
実施例5及び実施例6の結果から、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が効率良く入り込むため、条件3の範囲においては、体積比Bが大きいほど好ましい。
【0113】
実施例7及び実施例8の結果から、貫通孔56により電解液の浸透が促進されるとともに活物質粒子の粒子間の導電パスが形成されやすいため、条件4の範囲において貫通孔56の孔径Dが一定の場合は、体積比Cが大きいほど好ましい。
【0114】
実施例1及び実施例9の結果から、貫通孔56により電解液の浸透がより一層促進されるため、少なくとも0.1μm以上0.3μm以下の範囲においては、孔径Dが大きいほど好ましい。
【0115】
以上説明したように、本実施形態にかかる二次電池用正極は、正極集電体10と、正極集電体10上に形成され、導電材及び正極活物質30を含む正極合材層20と、を有する。正極活物質30は、それぞれリチウム遷移金属酸化物で構成される大粒径活物質粒子40及び大粒径活物質粒子40より小径な小粒径活物質粒子50を含んでいる。大粒径活物質粒子40は、略球形状又は略楕円球形状に形成される。小粒径活物質粒子50は、略球殻状又は略楕円球殻状の中空活物質粒子150の一部が切断面51により切り取られた略球冠状に形成される球冠殻部52と、一方向に突出する略球冠状の凸曲面53と、一方向側の反対側に存在するとともに一方向に窪む略球冠状の凹曲面54と、を有する。
【0116】
このような構成によれば、正極活物質30の粒度分布が少なくとも2つのピークを持つため、正極活物質30の充填率を高めて正極1の電極密度を向上することができる。したがって、正極1を含む二次電池における高いエネルギー密度を実現することができる。
【0117】
これとともに、小粒径活物質粒子50は湾曲した形状で嵩高いため、小粒径活物質粒子50を正極活物質30として用いれば、単に小径化した球形状等の粒子を小粒径側の活物質粒子として用いた場合と比べて、活物質粒子の粒子間における接点の増加に起因する反応場及び導電パスのそれぞれの減少を抑制することができる。そして、高密度化した正極1であっても、小粒径活物質が嵩高いことにより活物質粒子の粒子間に電解液の浸透経路となる空隙を十分に確保することができるとともに、リチウムイオンの移動経路の曲路率を低減できる。これらのことから、本実施形態によれば、正極1を含む二次電池の入出力特性を向上することができる。
【0118】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、球冠殻部52の厚さTが0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましい。このような構成により、内部抵抗の低減と耐久性とを両立した二次電池を得ることができる。
【0119】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、凸曲面53の平均直径R2が2.5μm以上であり、大粒径活物質粒子40の平均直径R1に対する凸曲面53の平均直径R2の比が0.8以下であることが好ましい。このような構成により、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が入り込みやすくなるため、正極活物質30の充填率を高めて正極1の電極密度を向上することができる。
【0120】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、正極合材層20中に占める大粒径活物質粒子40の体積に対する小粒径活物質粒子50の体積の比が0.2以上0.9以下であることが好ましい。このような構成により、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が効率良く入り込むため、正極活物質30の充填率をより一層高めることができる。
【0121】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、小粒径活物質粒子50には、球冠殻部52を貫通するとともに0.1μm以上の孔径Dを有する貫通孔56が設けられ、球冠殻部52及び貫通孔56の合計体積に対する球冠殻部52の体積の比が0.5以上0.8以下であることが好ましい。このような構成により、高密度化した正極1であっても、正極1内における電解液の浸透が促進される。また、正極1内における導電パスの減少を抑制することができる。その結果、正極1を含む二次電池の入出力特性を向上することができる。
【0122】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、小粒径活物質粒子50は、凸曲面53の曲率中心Oから凸曲面53の先端に向かう方向と、凸曲面53の長軸と、のなす角度θが±15°以内であることが好ましい。このような構成によれば、小粒径活物質粒子50の嵩高さにより、電子伝導性が良好、且つ正極活物質30の反応場が確保された性能のバランスに優れた正極1を得ることができる。
【0123】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極において、凸曲面53の平均直径R2が4μm以上6μm以下であることが好ましい。このような構成により、高品質な小粒径活物質粒子50を確実に得ることができる。また、大粒径活物質粒子40の粒子間の空隙に小粒径活物質粒子50が効率良く入り込むため、正極活物質30の充填率をより一層高めることができる。
【0124】
さらに、中空活物質粒子150の外面153について、長軸の長さ/短軸の長さ(L1/L2)は、1.0以上1.5未満であることが好ましい。また、中空活物質粒子150の内面154について、長軸の長さ/短軸の長さは、1.0以上1.8未満であることが好ましい。このように構成される中空活物質粒子150を用いて小粒径活物質粒子50を形成すると、小粒径活物質粒子50の凸曲面53及び凹曲面54がそれぞれ適度に湾曲した形状となって粒子が嵩高くなる。これにより、正極1内に電解液の浸透経路が確保されるとともに、活物質粒子の粒子間における接点の増加に起因する反応場及び導電パスのそれぞれの減少が抑制される。
【0125】
以上より、本実施形態によれば、高いエネルギー密度と高い入出力特性とを両立する二次電池が得られる二次電池用正極を提供することができる。
【0126】
さらに、本実施形態にかかる二次電池用正極の製造方法によれば、上記の効果を奏する正極1を製造することができる。
【0127】
また、中空活物質粒子150を粉砕して得られた小粒径活物質粒子50の物性について適宜測定を行うことにより、中空活物質粒子150が適切に粉砕されているか確認しながら、粉砕条件を調整することができる。さらに、小粒径活物質粒子50を含む合材層形成用ペーストの粘度について適宜測定を行うことにより、中空活物質粒子150が適切に粉砕されているか確認しながら、粉砕条件を調整することができる。このような構成によれば、所望の小粒径活物質粒子50を確実に得ることができ、小粒径活物質粒子50を用いて製造された正極1の品質が向上する。
【0128】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、ジェットミルを用いて中空活物質粒子150の粉砕を行ったが、これに限らず、他の粉砕方式を用いても良い。他の粉砕方式としては、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル等を用いることができる。
【0129】
また、例えば小粒径活物質粒子50の物性を確認するにあたっては、小粒径活物質粒子50の物性との関係性が明らかな他の物質について同じ物性を測定した結果を所定値として用いてもよい。同様に、合材層形成用ペーストの粘度を確認するにあたっては、合材層形成用ペーストの粘度との関係性が明らかな他の物質について粘度を測定した結果を所定値として用いてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1 正極
10 正極集電体
20 正極合材層
30 正極活物質
40 大粒径活物質粒子
50 小粒径活物質粒子
51 切断面
52 球冠殻部
53 凸曲面
54 凹曲面
55 凹部
56 貫通孔
140 中実活物質粒子
150 中空活物質粒子
152 球殻部
153 外面
154 内面
155 中空部
D 孔径
L1 長軸の長さ
L2 短軸の長さ
O 曲率中心
R1、R2 平均直径
T 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11