(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132418
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】構成部品及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/20 20060101AFI20230914BHJP
F16J 15/3292 20160101ALN20230914BHJP
【FI】
F16J15/20
F16J15/3292
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037724
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】村越 温子
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 斗喜也
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043BA07
3J043CA01
3J043CA02
3J043CA08
3J043CB13
3J043CB30
3J043DA03
3J043DA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】各種の構成部品の摺動の影響の抑制を図る。
【解決手段】動力伝達装置の構成部品43であって、構成部品の少なくとも摺動部434は、ポアソン比が負の材料434bとポアソン比が正の材料434aで構成されている。摺動部は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とにより構成されている部分が、全体としてポアソン比が0以上としても良いし、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている部分は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料との積層構造としてもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達装置の構成部品であって、
前記構成部品の少なくとも摺動部は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている構成部品。
【請求項2】
前記摺動部は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とにより構成されている部分が、全体としてポアソン比が0以上である
請求項1に記載の構成部品。
【請求項3】
前記構成部品は、オイルシールであって、
心金と前記摺動部としてのリップ部との間の腰部が、ポアソン比が正の材料により構成されている
請求項1又は2に記載の構成部品。
【請求項4】
前記構成部品の、当該構成部品が配置されている部材に対して相対運動を行わずに接する部分も、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている
請求項1から3のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項5】
前記構成部品の、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている部分は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とが積層されている
請求項1から4のいずれか一項に記載の構成部品。
【請求項6】
前記構成部品の、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている部分は、前記構成部品の荷重方向に層状となってポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とが重なって配置される
請求項5に記載の構成部品。
【請求項7】
前記構成部品は、転動体であって、
前記摺動部となる前記転動体は、ポアソン比が正の材料とポアソン比が負の材料で構成されている
請求項1に記載の構成部品。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の構成部品を有する動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成部品及び動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としての減速装置には、相対的に回転を行う外筒とキャリアとの間に構成部品としてのシール部材が設けられ、内部の潤滑剤の漏出を防止していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シール部材は、弾性を有するシール材料から形成されており、例えば、減速装置の駆動により内圧が上昇して軸方向の加圧力を受けると、シール部材は径方向の歪みが生じてキャリアと摺動するリップ部の接触圧が上昇し、摩耗が生じやすくなるという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、シール部材を含む各種の構成部品の摺動の影響の抑制を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
動力伝達装置の構成部品であって、
前記構成部品の少なくとも摺動部は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、構成部品の摺動の影響の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る動力伝達装置としての撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
【
図3】ポアソン比が正の材料とポアソン比が負の材料とを格子状に配置した例を示す軸方向断面図である。
【
図5】
図5(A)は動力伝達装置としてのピストン-シリンダ機構の一部を切り欠いた斜視図、
図5(B)はピストンの往復動作方向に沿ったOリングの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[撓み噛合い式歯車装置の構成]
図1は動力伝達装置として例示する撓み噛合い式歯車装置1を示す軸方向断面図である。なお、この断面図は、上半分が後述する起振体10Aの短軸方向に沿った断面を図示し、下半分が起振体10Aの長軸方向に沿った断面を図示している。
【0010】
図1に示すように、撓み噛合い式歯車装置1は、筒型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体軸10、外歯歯車11、内歯歯車としての第1内歯歯車31G及び第2内歯歯車32G、起振体軸受12、ケーシング33、第1カバー34、第2カバー35を備える。
【0011】
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられた軸部10B、10Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。軸部10B、10Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結されて減速された運動を当該被駆動部材に出力する側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0012】
外歯歯車11は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状の部材であり、外周に歯が設けられている。
【0013】
第1内歯歯車31Gと第2内歯歯車32Gは、回転軸O1を中心として起振体軸10の周囲で回転を行う。これら第1内歯歯車31Gと第2内歯歯車32Gは、軸方向に並んで設けられ、外歯歯車11と噛合している。具体的には、第1内歯歯車31G及び第2内歯歯車32Gの一方が、外歯歯車11の軸方向の中央より片側の歯部に噛合し、他方が、外歯歯車11の軸方向の中央よりもう一方の片側の歯部に噛合する。
このうち、第1内歯歯車31Gは、第1内歯歯車部材31の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。一方、第2内歯歯車32Gは、第2内歯歯車部材32の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。
【0014】
起振体軸受12は、例えばコロ軸受であり、起振体10Aと外歯歯車11との間に配置される。起振体10Aと外歯歯車11とは、起振体軸受12を介して相対回転可能となっている。
起振体軸受12は、外歯歯車11の内側に嵌入される外輪12aと、複数の転動体(コロ)12bと、複数の転動体12bを保持する保持器12cとを有する。
複数の転動体12bは、第1内歯歯車31Gの径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第1群の転動体12bと、第2内歯歯車32Gの径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第2群の転動体12bとを有する。これらの転動体12bは、起振体10Aの外周面と外輪12aの内周面とを転走面として転動する。外輪12aは、複数の転動体12bの配列に対応して同形状のものが軸方向に二つ並んで設けられている。なお、起振体軸受12は、起振体10Aとは別体の内輪を有してもよい。
【0015】
起振体軸受12及び外歯歯車11の軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング41、42が設けられている。
【0016】
ケーシング33は、ボルト51により第1内歯歯車部材31と連結され、第2内歯歯車32Gの外径側を覆う。ケーシング33は、内周部に形成された主軸受38(例えばクロスローラ軸受)の外輪部を有しており、当該主軸受38を介して第2内歯歯車部材32を回転自在に支持している。撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、ケーシング33と第1内歯歯車部材31は相手装置に共締めにより連結される。
【0017】
第1カバー34は、ボルト52により第1内歯歯車部材31と連結され、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合い箇所を軸方向の反出力側から覆う。第1カバー34と起振体軸10の軸部10Bとの間には軸受36(例えば玉軸受)が配置されており、第1カバー34は、当該軸受36を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
【0018】
第2カバー35は、ボルト53により第2内歯歯車部材32と連結され、外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとの噛合い箇所を軸方向の出力側から覆う。第2カバー35と起振体軸10の軸部10Cとの間には軸受37(例えば玉軸受)が配置されており、第2カバー35は、当該軸受37を介して起振体軸10を回転自在に支持している。撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、第2カバー35と第2内歯歯車部材32は、相手装置の被駆動部材に共締めにより連結され、減速された回転を当該被駆動部材に出力する。
【0019】
さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、構成部品としてのシール用のオイルシール43,44,45及びOリング46,47,48を備える。
オイルシール43は、軸方向の反出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Bと第1カバー34との間に配置され、反出力側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール44は、軸方向の出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Cと第2カバー35との間に配置され、出力側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール45は、ケーシング33と第2内歯歯車部材32との間に配置され、この部分からの潤滑剤の流出を抑制する。
Oリング46,47,48は、第1内歯歯車部材31と第1カバー34との間、第1内歯歯車部材31とケーシング33との間、第2内歯歯車部材32と第2カバー35との間にそれぞれ設けられ、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。
【0020】
[オイルシールの特徴的な構造]
撓み噛合い式歯車装置1が有するオイルシール43,44,45の特徴的な構造について詳細に説明する。
オイルシール43,44,45は、その構造が共通するので、ここではオイルシール43について詳細に説明する。
図2はオイルシール43の軸方向断面図である。なお、
図2における左右方向が軸方向、
図2における上下方向が径方向を示している。
オイルシール43は、回転軸O1を中心とする全周に渡って、その断面が
図2に示す断面と同一となる回転体からなる。
【0021】
オイルシール43は、径方向の外側に位置するケーシング33と径方向(
図2における上下方向)の内側に位置する第2内歯歯車部材32からなる二部材の間に配置されている。
オイルシール43は、ケーシング33の内周にはめ込まれる円筒状の嵌め合い部431と、潤滑剤の封入空間Sと外部空間とを仕切る仕切り部432と、仕切り部432の径方向内側の端縁部から封入空間S側に延出された腰部433と、腰部433の先端部において径方向内側に突出した摺動部としてのシールリップ部434と、嵌め合い部431及び仕切り部432に内蔵された断面略L字状の金属環からなる心金435と、シールリップ部434を径方向内側に加圧するスプリング436とを備えている。
なお、「摺動部」とは、摺動面から連続して形成される部分、より好ましくは、摺動面に対して垂直な方向を含んで連続して形成される部分をいう。また、換言すると、外圧によって外圧に沿った方向とその直交方向とに歪みを生じ、当該直交方向の歪みが摺動面に直接的に伝わる部分をいう。
【0022】
嵌め合い部431は、前述したように円筒状であって、その外周面がケーシング33の内周面に密接している。
仕切り部432は、嵌め合い部431における封入空間Sの外側寄りの端部を閉塞するように嵌め合い部431と一体的に形成されている。嵌め合い部431の径方向内側は、封入空間Sの一部となっており、仕切り部432は、シールリップ部434と一体となって嵌め合い部431を閉塞して、封入空間Sと外部空間とを仕切っている。
【0023】
心金435は、嵌め合い部431の内側端部近傍から仕切り部432のほぼ全域に渡って内蔵されており、嵌め合い部431や仕切り部432を構成する材料よりも高い剛性を有する。心金435は、嵌め合い部431や仕切り部432の構成材料により被覆されている。
心金435は、その高い剛性により、嵌め合い部431や仕切り部432の撓みを抑制している。
【0024】
腰部433は、仕切り部432と一体的に形成されており、嵌め合い部431の径方向内側に位置している。腰部433は、可撓性を有し、シールリップ部434を弾性的に支持している。
【0025】
シールリップ部434は、径方向内側に凸となる断面形状であり、全周に渡ってその先端部が第2内歯歯車部材32の外周面に接することで潤滑剤のシールを図っている。
スプリング436は、シールリップ部434の外周側を一周する、例えば、無端環状のコイルスプリングからなり、周方向に収縮することにより、シールリップ部434を径方向内側に加圧する。
【0026】
オイルシール43のシールリップ部434の先端部は、第2内歯歯車部材32の外周面との摺動により、凝着摩耗が発生する。凝着摩耗とは、摺動面にある微小な凹凸同士が高い圧力によって結合し、これらが摩擦によって破壊するとき、結合部の周辺が脱落して摩耗粉になることである。
このような凝着摩耗時の摩耗量を見積もる基本式として、以下のホルムの摩耗式(1)が知られている。
W=zARl …(1)
(W:摩耗量、AR:真実接触面積、l:摩擦距離、z:摩擦係数)
【0027】
この摩耗式は、真実接触部で真に付着する現状を基とした凝着摩耗が起きることを示しており、正のポアソン比を有する材料が接触するときの荷重をP、材料の流動圧力をpmとすると、真実接触面積ARは次式(2)となる。
AR =P/pm …(2)
【0028】
ここでポアソン比とは、物体に単軸応力が働くときに、応力方向に直交する方向に発生する横ひずみを応力方向に発生する縦ひずみで除して-1を乗じた数値のことをいう。
従って、ポアソン比が正の数値となる物体の場合、例えば、応力を受けて圧縮される縦ひずみが生じると、応力方向に直交する方向には、膨張する横ひずみが発生する。
従来のオイルシールは、心金435やスプリング436を除いて、シールリップ部を含む全体が、主に、ポアソン比が正となる材料のみから形成されていた。
【0029】
そして、前述の式(2)は正のポアソン比を有する材料が荷重を受けると真実接触面積(以下、接触面積とする)が増え、摩耗量が増えることを示す。
例えば、従来のオイルシールは、シールリップ部が正のポアソン材料からなる樹脂であるために、温度上昇に伴う内圧上昇により、シールリップ部が軸方向に圧力(圧縮応力:
図2の黒矢印参照)を受けると、径方向に膨張する横ひずみが発生して、シールリップ部の緊縛力が上昇し、シールリップ部の接触面積が大きくなって凝着摩耗が顕著に発生していた。
【0030】
このような従来のオイルシールに生じる凝着摩耗を抑制するために、本実施形態に示すオイルシール43は、シールリップ部434が、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とにより構成されている。
ポアソン比が正の材料としては、鋼、アルミ、樹脂など様々な材料を利用することができる。
ポアソン比が負の材料としては、例えば、ペンタグラフェン等のメタマテリアル材料、3D造形技術を用いて形成された3次元単位格子構造の集合体等の特殊構造材料、紙(特殊構造に折りたたまれたものを含む)など構造によってポアソン比が負の材料や素材自体のポアソン比が負の材料を利用することができる。
【0031】
具体的には、
図2に示すように、オイルシール43のシールリップ部434は、ポアソン比が正の材料の層434aとポアソン比が負の材料の層434bとが径方向に交互に積層されるように形成されている。ポアソン比が正の材料の各層434aとポアソン比が負の材料の各層434bは、いずれも、回転軸O1を中心とする略円筒状である。なお、第2内歯歯車部材32の外周面に直接的に摺接するシールリップ部434の最内周層は、ポアソン比が正の材料の層434aからなることが好ましいが、ポアソン比が負の材料とすることもできる。
【0032】
また、ポアソン比が正の材料の層434aとポアソン比が負の材料の層434bとから形成されたシールリップ部434について、軸方向を縦ひずみ、径方向を横ひずみとした場合の全体的なポアソン比は、0以上であって、ポアソン比が正の材料のみからなる場合よりも小さく、その半分以下であることが好ましく、0に近いポアソン比であることがより好ましい。
【0033】
なお、ポアソン比が正の材料の各層434aとポアソン比が負の材料の各層434bは、いずれも、層面が回転軸O1に完全に平行とならずに、幾分傾斜を生じていてもよい。
即ち、ポアソン比が正の材料の各層434aとポアソン比が負の材料の各層434bは、シールリップ部434の全体的なポアソン比が上記の数値範囲の条件を満たす範囲で各層434a,434bの層面が軸方向に対して傾斜を生じてもよい。
なお、各層434a,434bの層面の向きは、オイルシール43が、撓み噛合い式歯車装置1に装着されていない状態ではなく、ケーシング33と第2内歯歯車部材32の間に配置されている状態での向きを示すものとする。
【0034】
また、オイルシール43における、当該オイルシール43が配置されているケーシング33に対して相対運動を行わずに接する部分、即ち、前述した嵌め合い部431も、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とにより構成されている。
なお、「相対運動を行わずに接する部分」とは、相互間が接着や溶着等が行われていないために、相手側の部材に対して微細な摺動を生じ得るが、回転や直動などの相対運動をしない部分をいう。
【0035】
具体的には、
図2に示すように、嵌め合い部431は、ポアソン比が正の材料の層431aとポアソン比が負の材料の層431bとが径方向に交互に繰り返し並ぶように形成されている。この場合も、ポアソン比が正の材料の各層431aとポアソン比が負の材料の各層431bは、いずれも、回転軸O1を中心とする略円筒状である。また、ケーシング33の内周面に直接的に密接する嵌め合い部431の最外周層は、ポアソン比が正の材料の層431aからなる。
【0036】
この嵌め合い部431の場合も、軸方向を縦ひずみ、径方向を横ひずみとした場合のポアソン比は0以上であって、ポアソン比が正の材料のみからなる場合よりも小さく、その半分以下であることが好ましく、0に近いポアソン比であることがより好ましい。
また、各層431a,431bも、層面は回転軸O1に完全に平行とならずに、全体的なポアソン比が上記の条件を満たす範囲で傾斜を生じていてもよい。
【0037】
一方、仕切り部432と腰部433は、例えば樹脂等のポアソン比が正の材料のみから形成されている。
【0038】
なお、オイルシール43のシールリップ部434及び嵌め合い部431におけるポアソン比が正の材料の層とポアソン比が負の材料の層からなる部分は、層状構造に限定されない。例えば、ポアソン比が正の材料に対して、ポアソン比が負の材料からなる粉体、粒状体、セル、小片等を混成させてもよい。
【0039】
また、オイルシール43の嵌め合い部431及びシールリップ部434におけるポアソン比が正の材料からなる部分431c,434cとポアソン比が負の材料からなる部分431d,434dは、
図3に示すように、軸方向断面から見て互い違いに並んだ格子状となるように軸回りに配置してもよい。なお、
図3に示す格子数は例示であり、格子の単位を微細として、格子数をより多くしてもよい。
【0040】
[発明の実施形態における技術的効果]
以上のように、撓み噛合い式歯車装置1が有するオイルシール43は、摺動部としてのシールリップ部434が、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されているので、潤滑剤の封入空間Sの内部圧力の上昇によって軸方向の圧力(圧縮応力)を受けた場合であっても、径方向に膨張する歪みを抑制することができる。これにより、シールリップ部434の先端部における接触面積の増加を抑えることができ、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0041】
また、オイルシール43は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とにより構成されているシールリップ部434が全体としてポアソン比が0以上となるように構成されている。
このため、軸方向の圧力(圧縮応力)を受けた場合に、径方向に収縮するように歪みが発生せず、面圧を一定以上に維持することができる。従って、オイルシール43のシール性を損なうことなく、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0042】
また、オイルシール43の腰部433は、ポアソン比が正の材料により構成されているので、潤滑剤の封入空間Sの内部圧力の上昇時における軸方向の圧力(圧縮応力)を受けた場合に、径方向に膨張するように歪みが発生して、その先端部で支持するシールリップ部434の面圧を良好に維持することが可能となる。
【0043】
また、オイルシール43における、ケーシング33に対して相対運動を行わずに接する嵌め合い部431も、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている。
嵌め合い部431は、ケーシング33に対してシールリップ部434のような相対運動は生じないが、撓み噛合い式歯車装置1の作動時に微細な摺動が生じる可能性がある。従って、嵌め合い部431もポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されることにより、潤滑剤の封入空間Sの内部圧力の上昇時における接触面積の増加を抑えることができ、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
また、嵌め合い部431も、全体としてポアソン比が0以上となるように構成されているので、シール性を損なうことなく、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0044】
また、オイルシール43のシールリップ部434及び嵌め合い部431は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とが積層されている。特に、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されている部分は、構成部品の圧縮荷重方向に層状となってポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とが重なって配置されている。
このため、各層の層面に対向する方向に生じる歪み量について、層面に沿ってより均一化が図られ、面圧のバラつきが抑制され、よりシール性を維持しつつ摩耗量のさらなる低減を図ることが可能となる。
【0045】
なお、上記オイルシール43に関する技術的効果は、オイルシール44,45についても同様のことがいえる。
そして、上記各オイルシール43~45を備える撓み噛合い式歯車装置1は、各オイルシール43~45がシール性を維持しつつ摩耗量の低減を図ることができるので、メンテナンス頻度を低減すると共に、長期間に渡って安定的に動作を行うことが可能となる。
【0046】
[軸受の転動体への適用]
例えば、撓み噛合い式歯車装置1に設けられた軸受36,37の転動体(構成部品)についても、ポアソン比が負となる材料を適用することが可能である。軸受36と軸受37とは同一構造なので、軸受36への適用について説明する。
【0047】
図4は軸受36及びその転動体361の軸方向断面図を示す。なお、
図4における左右方向が軸方向、
図4における上下方向が径方向を示している。
軸受36は、主に、径方向の外側に位置する外輪362と、径方向の内側に位置する内輪363と、外輪362と内輪363からなる二部材の間に配置された転動体361とを有する。軸受36は、転がり玉軸受けであり、転動体361は、球体である。転動体361は、球体表面全体が外輪362の転走面及び内輪363の転走面に摺接し得るので、転動体361の全体が摺動部となる。
【0048】
具体的には、
図4に示すように、転動体361は、その中心から球殻状のポアソン比が正の材料の層361aと球殻状のポアソン比が負の材料の層361bとが径方向に交互に繰り返し並ぶように積層されている。この場合、ポアソン比が正の材料の各層361aとポアソン比が負の材料の各層361bは、いずれも、同一の点を中心とする球殻状である。
また、外輪362の転走面及び内輪363の転走面に直接的に摺接する転動体361の最外層は、ポアソン比が正の材料の層361aとすることが好ましいが、ポアソン比が負の材料の層とすることもできる。なお、転動体361の中心部は、球殻ではなく球体となるが、当該球体は、ポアソン比が正の材料とポアソン比が負の材料のいずれで形成してもよい。
【0049】
転動体361の場合、いずれかの直径方向を縦ひずみとし、これに直交する他の直径方向を横ひずみとした場合の全体的なポアソン比は0以上であって、ポアソン比が正の材料のみからなる場合よりも小さく、その半分以下であることが好ましく、0に近いポアソン比であることがより好ましい。
【0050】
上記軸受36は、摺動部としての転動体361が、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されているので、潤滑剤の封入空間Sの内部圧力の上昇によって軸方向の圧力(圧縮応力)を受けた場合であっても、径方向に膨張する歪みを抑制することができる。これにより、転動体361の外輪362の転走面及び内輪363の転走面に対する接触面積の増加を抑えることができ、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0051】
また、転動体361は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料とにより構成され、直径方向について全体としてポアソン比が0以上となるように構成されている。
このため、いずれかの直径方向(軸受36における軸方向)の圧力(圧縮応力)を受けた場合に、これに直交する直径方向(軸受36における径方向)に収縮するように歪みが発生せず、すき間の発生を抑制することができる。従って、軸受36に支持された起振体軸10の安定的な回転を維持しつつ、転動体361の摩耗量の低減を図ることが可能となる。
また、軸受37も軸受36と同一の技術的効果を奏する。
【0052】
また、撓み噛合い式歯車装置1の主軸受38や起振体軸受12の転動体についても、ポアソン比が負の材料を適用することが可能である。
主軸受38や起振体軸受12の転動体は、円柱体であるため、転動体は、ポアソン比が正の材料の層とポアソン比が負の材料の層とが転動体の径方向に交互に繰り返し並ぶように形成される。即ち、ポアソン比が正の材料の各層とポアソン比が負の材料の各層が、いずれも略円筒状となる。また、転走面との摺接面となる転動体の最外周層は、ポアソン比が正の材料の層からなる。
また、転動体の場合も、軸方向を縦ひずみ、径方向を横ひずみとした場合の全体的なポアソン比は0以上であって、ポアソン比が正の材料のみからなる場合よりも小さく、その半分以下であることが好ましく、0に近いポアソン比であることがより好ましい。
【0053】
これらの主軸受38や起振体軸受12に支持された各部材の安定的な回転を維持しつつ、転動体の摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0054】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、動力伝達装置として撓み噛合い式歯車装置を例示したが、本発明は、オイルシールや軸受の転動体等の、他の構成部品と摺動する摺動部を有する構成部品を備えるものであれば、種別を問わず、あらゆる動力伝達装置に適用可能である。
例えば、本発明は、撓み噛合い式歯車装置に限らず、偏心揺動型減速装置、平行軸歯車減速機、その他の歯車装置、トラクションドライブ機構、トランスミッション、湿式ブレーキ、ポンプ、カム機構等のあらゆる動力伝達装置で使用されるオイルシールや軸受等の構成部品について、ポアソン比が負の材料の適用を図ることができる。
【0055】
また、ポアソン比が負となる材料を適用する構成部品については、オイルシールや軸受の転動体に限定されない。
例えば、動力伝達装置がカム機構である場合、主節に摺接する従節についてコロ等の転動体を利用する場合があるが、この転動体についても、前述した軸受の転動体と同様の構造を適用することが可能である。
【0056】
また、動力伝達装置において利用される構成部品として、Oリングへの適用も可能である。
図5(A)は動力伝達装置としてのピストン-シリンダ機構60の一部を切り欠いた斜視図、
図5(B)はピストンの往復動作方向に沿ったOリングの断面図である。
【0057】
ピストン-シリンダ機構60は、シリンダ61とピストン62とを有し、これらの間にOリング63が装備されている。
図5(B)に示すように、Oリング63は、環状体であって、当該Oリング63の外周部は、シリンダ61の内周面に摺接するので、「摺動部」に相当する。一方、Oリング63の内周部は、ピストン62の外周面に対して殆ど摺動しないので、前述したオイルシール43の嵌め合い部431と同様に、「相対運動を行わずに接する部分」に相当する。
また、
図5(B)における左右方向が軸方向、
図5(B)における上下方向が径方向を示している。
【0058】
具体的には、Oリング63は、ポアソン比が正の材料の層631とポアソン比が負の材料の層632とが径方向に交互に繰り返し並ぶように形成されている。この場合も、ポアソン比が正の材料の各層631とポアソン比が負の材料の各層632は、いずれも、略円筒状である。また、シリンダ61の内周面に直接的に摺接するOリング63の最外周層と、ピストン62の外周面に直接的に摺接するOリング63の最内周層とは、ポアソン比が正の材料の層631とすることが好ましいが、ポアソン比が負の材料の層とすることもできる。
【0059】
また、Oリング63の場合も、軸方向を縦ひずみ、径方向を横ひずみとした場合の全体的なポアソン比は0以上であって、ポアソン比が正の材料のみからなる場合よりも小さく、その半分以下であることが好ましく、0に近いポアソン比であることがより好ましい。
また、各層631,632の場合も、ピストン62の往復動作方向(軸方向)に完全に平行とならずに、全体的なポアソン比が上記の条件を満たす範囲で傾斜を生じていてもよい。
【0060】
上記Oリング63は、ポアソン比が負の材料とポアソン比が正の材料で構成されているので、シリンダ61の内部圧力の上昇によってピストン62の往復動作方向の圧力(圧縮応力)を受けた場合であっても、径方向に膨張する歪みを抑制することができる。これにより、Oリング63の外周部と内周部の接触面積の増加を抑えることができ、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0061】
また、Oリング63について、軸方向を縦ひずみ、径方向を横ひずみとした場合の全体的なポアソン比を0以上とすることにより、ピストン62の往復動作方向の圧力を受けた場合に、径方向に収縮するように歪みが発生せず、面圧を一定以上に維持することができる。従って、Oリング63のシール性を損なうことなく、摩耗量の低減を図ることが可能となる。
【0062】
なお、
図5では断面略矩形となるOリング63を例示したが、断面形状に限定はなく、例えば、断面円形であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 撓み噛合い式歯車装置(動力伝達装置)
12 起振体軸受
12b 転動体(構成部品)
33 ケーシング
36,37 軸受
361 転動体(構成部品)
38 主軸受
43,44,45 オイルシール(構成部品)
46,47,48,63 Oリング
60 ピストン-シリンダ機構
61 シリンダ
62 ピストン
361a,361b,431a,431b,434a,434b,631,632 層
362 外輪
363 内輪
431 嵌め合い部
432 仕切り部
433 腰部
434 シールリップ部(摺動部)
O1 回転軸
S 封入空間