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特開2023-132433マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金、その製造方法およびマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132433
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金、その製造方法およびマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/00 20060101AFI20230914BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20230914BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20230914BHJP
   B22D 21/04 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
C22C23/00
C22C1/02 503L
C22C23/02
B22D21/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037759
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅
(72)【発明者】
【氏名】川邊 主税
(57)【要約】
【課題】機械的特性に優れた軽量なマグネシウム合金を、工業的に安定したプロセスで提供可能とする。
【解決手段】マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金。所定の元素を含有する2種類の原料チップを用意し、これを混合することで、上記マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法、および該製造方法により得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形する成形品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金:
マグネシウム、
2~6.0質量%のリチウム、および
5~10質量%のアルミニウム。
【請求項2】
請求項1記載のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金において、
さらに、0.35~1質量%の亜鉛、および0.15~0.8質量%のマンガンを含む、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金。
【請求項3】
請求項1記載のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金において、
前記リチウムの含有量と前記アルミニウムとの含有量の比(Li/Al)が0.5~0.9である、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金。
【請求項4】
請求項2記載のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金において、
前記リチウムが、4.8~6.0質量%のリチウムである、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金。
【請求項5】
請求項1記載のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金において、
前記マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金は、その金属組織として、Liが固溶したα-MgとAl-Li金属間化合物で形成されており、β相(Mg17Al12)およびβ相(Li)を有していない、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金。
【請求項6】
以下を含む、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法:
(a1)マグネシウム、5~10質量%のアルミニウム、および0~1質量%の亜鉛、を含むマグネシウム-アルミニウム系合金からなる第1の原料チップと、マグネシウムおよびリチウムを含むマグネシウム-リチウム系合金からなる第2の原料チップとを用意する工程、ならびに
(b1)前記第1の原料チップと前記第2の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る工程。
【請求項7】
以下を含む、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法:
(a2)マグネシウムと、リチウムと、アルミニウムとを含み、前記リチウムの含有量とアルミニウムの含有量の比(Li/Al)が8より小であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる第3の原料チップと、リチウムを含まないマグネシウム合金からなる第4の原料チップとを用意する工程、および
(b2)前記第3の原料チップと前記第4の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る工程。
【請求項8】
以下を含む、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法:
(a1)マグネシウム、5~10質量%のアルミニウム、および0~1質量%の亜鉛、を含むマグネシウム-アルミニウム系合金からなる第1の原料チップと、マグネシウムおよびリチウムを含むマグネシウム-リチウム系合金からなる第2の原料チップとを用意する工程、
(b1)前記第1の原料チップと前記第2の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る工程、ならびに
(c1)前記(b1)工程で得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形する工程。
【請求項9】
以下を含む、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法:
(a2)マグネシウムと、リチウムと、アルミニウムとを含み、前記リチウムの含有量とアルミニウムの含有量の比(Li/Al)が8より小であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる第3の原料チップと、リチウムを含まないマグネシウム合金からなる第4の原料チップとを用意する工程、
(b2)前記第3の原料チップと前記第4の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る工程、ならびに
(c2)前記(b2)工程で得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金、その製造方法およびマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、実用される金属中で最も軽い材料の1つであり、さらに軽量化しようと、比重の軽いリチウムを添加したリチウム含有マグネシウム合金が種々検討され開発されてきている。
【0003】
このようなリチウム含有マグネシウム合金としては、例えば、リチウムを10.5質量%以上含んだ、リチウム含有量の高いマグネシウム合金や、リチウムに加え、アルミニウムおよび亜鉛を含んだMg-Li-Al-Zn系合金(例えば、特許文献1参照)、などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6408037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような軽量マグネシウム-リチウム系合金(Mg-Li系合金)、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金(Mg-Li-Al系合金)では、比重の軽いリチウムを多く含有することによる低比重化とともに、最密六方晶(hcp)であるマグネシウムの塑性加工性の悪さを改善する観点からも、リチウムを多く含み、体心立方晶(bcc)を晶出させた合金が開発されてきた。
【0006】
すなわち、Mg-Li系合金は単純な共晶型の状態図を作り、マグネシウムにリチウムを約5.7質量%以上添加するとマグネシウムの固溶体α相と共にリチウムの固溶体β相が晶出し、リチウムを約8.5質量%以上添加するとβ相単相となる。マグネシウムはhcp構造を有するため一般に冷間加工性に幾分劣っているが、リチウムはbcc構造であるためその晶出により塑性加工能の向上が期待できる。
【0007】
しかしながら、リチウム含有量が増えるにしたがって、ヤング率が低下する傾向がある。金属製品において剛性設計がなされる場合、ヤング率が低ければその分だけ肉厚にする必要があり、リチウムを添加したことで比重が軽くなったとしても、肉厚の増加により金属製品の軽量化効果が相殺される可能性がある。
【0008】
本発明は、上記のようなマグネシウム合金が有する課題を解決し、機械的特性に優れた軽量なマグネシウム合金を、工業的に安定したプロセスで提供可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の一実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金は、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含む。
【0010】
本願の一実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法は、マグネシウム、5~10質量%のアルミニウム、および0~1質量%の亜鉛、を含むマグネシウム-アルミニウム系合金からなる第1の原料チップと、マグネシウム、およびリチウムを含むマグネシウム-リチウム系合金からなる第2の原料チップとを用意し、これら原料チップを混合して、上記マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る。
【0011】
本願の他の実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法は、マグネシウムと、リチウムと、アルミニウムとを含み、リチウムの含有量とアルミニウムの含有量の比(Li/Al)が8より小であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる第3の原料チップと、リチウムを含まないマグネシウム合金からなる第4の原料チップとを用意し、これら原料チップを混合して、上記マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る。
【0012】
本願の一実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法は、マグネシウム、5~10質量%のアルミニウム、および0~1質量%の亜鉛、を含むマグネシウム-アルミニウム系合金の第1の原料チップと、マグネシウム、およびリチウムを含むマグネシウム-リチウム系合金の第2の原料チップとを用意し、これら原料チップを混合して、上記マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金とする。さらに、得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形することにより成形品とする。
【0013】
本願の他の実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法は、マグネシウムと、リチウムと、アルミニウムとを含み、リチウムの含有量とアルミニウムの含有量の比(Li/Al)が8より小であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の第3の原料チップと、リチウムを含まないマグネシウム合金の第4の原料チップとを用意し、これら原料チップを混合して、上記マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る。さらに、得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形することにより成形品とする。
【発明の効果】
【0014】
本願の一実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金およびその製造方法によれば、機械的特性に優れた軽量なマグネシウム合金を提供できる。
【0015】
また、本願の一実施の形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金から成る成形品の製造方法によれば、機械的特性に優れた軽量なマグネシウム合金からなる成形品を、工業的に安定したプロセスで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例および比較例における引張強さのデータを示したグラフである。
図2】実施例および比較例における破断伸びのデータを示したグラフである。
図3】実施例および比較例における耐力のデータを示したグラフである。
図4】実施例および比較例におけるヤング率のデータを示したグラフである。
図5】実施例および比較例における耐食性のデータを示したグラフである。
図6】実施例および比較例におけるXRDによる回折パターンを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金、その製造方法およびマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法について、一実施の形態を参照しながら説明する。
【0018】
[マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金]
本発明の一実施形態であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金は、マグネシウム(Mg)を主成分として含有し、さらに、リチウム(Li)およびアルミニウム(Al)を所定量含有するマグネシウム合金である。
【0019】
(リチウム)
リチウム(Li)は、公知のように、マグネシウム合金の軽量化を図り、その塑性加工性を改善する作用を有する成分である。本実施の形態においては、上記作用を確保しつつ、射出成形時の成形性等も考慮し、そのマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金中における含有量を、質量%(以下、単に「%」とも表す。本明細書において、特に説明をしていない場合、「%」は質量%を表す。)で、2~6.0%とする点に特徴を有する。このリチウムの含有量は、その下限値を4.8%以上とすることが好ましい。また、その上限値を5.8%以下とすることが好ましい。
【0020】
リチウムの含有量が、6.0%を超えるとβ相(Li)が晶出しやすくなると考えられる。マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金に対し、圧延、押出などの塑性加工を行うにあたっては、加工性を向上させるためにβ相の存在が好ましいものである。なお、単純なMg-Li合金の平衡状態図ではリチウムの含有量が5.7%を超えるとβ相が晶出するとされているが、Al、Znなどの他の合金成分が含まれることで状態図は変化しえるし、射出成形のような冷却速度の速い鋳造方法では、完全な平衡状態にならない。そのため、本実施形態の組成では、5.7%を超えてもβ相が晶出しにくくなっており、この点は実際に確認できている。
【0021】
一方、鋳造法による加工に適用することを想定した場合、その加工時に、マグネシウム-リチウムのβ相は必要ないばかりか、射出成形の場合にはスクリュにこびりつき易くなってしまい、金型に抱き付いて型残りしやすくなるなど生産性を悪化させる要因ともなるおそれがある。
【0022】
また、リチウムが2%よりも少ないと、マグネシウム合金に対する軽量化の効果がほとんど得られない。十分に軽量化を図るために、リチウムは4%以上含有させることが好ましい。
【0023】
(アルミニウム)
アルミニウム(Al)は、マグネシウム母相にはほとんど固溶せず、マグネシウム初晶の凝固前面に濃縮される結果、マグネシウムあるいはカルシウム(Ca)との共晶化合物が形成されるまで、合金材料の良好な流動性を得られるように作用する成分である。
【0024】
アルミニウムの含有量は、合金中に5~10%であることが好ましい。アルミニウムは合金材料の融点を下げる作用もあるが、5%未満では融点が十分に下がらないため、合金溶製時や鋳造時の合金材料の溶解温度を高くする必要があり、作業性が低下するおそれがある。また、アルミニウムの含有量が10%超となると、金属間化合物が増加するため、鋳造割れ感受性が増加し、かつ耐食性が劣化する傾向がある。したがって、鋳造時などに不具合が生じにくく、耐食性も問題が生じないようにする観点から、アルミニウムを5%以上含有させることが好ましい。
【0025】
(亜鉛)
亜鉛(Zn)は、強度を向上させる成分であり任意成分である。亜鉛は、合金の鋳造性を改善させることができるが、クリープ抵抗性を低下させる上、鋳造割れ感受性が高くなってしまう。亜鉛の含有量は、合金中に1%以下とし、含んでいなくても構わない。亜鉛を含有させる場合には、その含有量は0.35~1%が好ましい。
【0026】
(マンガン)
マンガン(Mn)は、アルミニウムと化合して金属間化合物を形成し、不純物元素である鉄(Fe)を固溶することにより、耐食性の劣化を抑制する成分である。マンガンは任意成分である。マンガンを含有させる場合、その含有量は、0.15~0.8%が好ましい。0.15%未満では上記作用が充分に得られず、0.8%超では溶解歩留まりが劣化してしまうおそれがある。
【0027】
(その他)
本実施の形態におけるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金は、マグネシウムが主成分であり、上記説明した成分の残部は基本的にマグネシウムであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分を含有させることができる。このような成分としては、例えば、合金の製造にあたって、不可避的に含有する不可避不純物が例示できる。
【0028】
このような不可避不純物としては、具体的には、鉄、銅、ニッケル等が挙げられる。この不可避的不純物は、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金中に実質的に含有しないことが好ましく、ここで「実質的に含有しない」とは、合金中の含有量がそれぞれ鉄で0.03%以下、銅で0.25%以下、ニッケルで0.01%以下であることを意味する。
【0029】
(リチウムとアルミニウムの含有量比)
また、本実施の形態におけるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金は、各配合量が上記範囲を満たすことを特徴としているが、さらに、リチウムの含有量とアルミニウムの含有量を所定の比となるように調整することが好ましい。
【0030】
これまで公知のマグネシウム-リチウム-アルミニウム合金は、質量%で、アルミニウムがリチウムと同等か、それ以上の合金であることが多いが、本実施の形態においてはリチウム由来のβ相を晶出させないように、リチウムの含有量を減らしつつ、かつ、機械的特性や耐食性を向上させるため必要量のアルミニウムを含有させることが好ましい。すなわち、リチウムの含有量とアルミニウムの含有量とを、所定の関係にすることで、軽量化を図りつつ、成形性を改善し、さらに、機械的特性や耐食性をも確保した合金とできる。
【0031】
上記所定の比としては、具体的には、リチウムの含有量とアルミニウムとの含有量の比(Li/Al)が0.5~0.9の範囲が好ましく、0.5~0.85がより好ましい。
【0032】
なお、リチウムは原子量が小さいため、質量%でLi/Alが0.5~0.9は、原子%でLi/Alが2程度になる。例えば、4質量%Li-8質量%Al-88質量%Mgの合金は、12.83原子%Li-6.6原子%Al-80.58原子%Mgとなる(ここで、合金組成の表記について、元素の前の数値が合金中におけるその元素の含有量を表し、マグネシウムの含有量が省略されている場合は、記載されている元素含有量の残部がマグネシウムである)。この3成分を含む材料について、公知文献の三元状態図によれば、マグネシウム100%のところからアルミニウムに対しリチウムを多く含んだ合金範囲に、マグネシウムのα相が広がっている。すなわち、このα相が広がっている範囲で、リチウムやアルミニウムを多く含有させ、射出成形で急冷させることで、アルミニウムやリチウムをできるだけ固溶させて、β相を晶出させない方向に合金組成を調整することができ、機械的性質や耐食性を向上させる手段の1つである。
【0033】
具体的には、実施の形態においては、合金中の金属組織として、Liが固溶したα-MgとAl-Li金属間化合物で形成されている。その一方、β相(Mg17Al12)およびβ相(Li)を低減し、ほぼ有していないものとできる。このようにβ相を低減することで、求める特性への影響(特に、射出成形における成形型へのこびりつき)を排除することができる。
【0034】
[マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法]
本実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の製造方法は、上記説明した配合となるように、マグネシウム、リチウム、アルミニウムおよびその他の成分となる原料を用意し、これら原料を公知の手法により混合することにより実施できる。
【0035】
ここで用いる原料としては、粉末状の原料チップを用いることが好ましい。原料チップとしては、その製造方法に応じて適した大きさの原料チップとすればよく、原料チップを加熱溶融して、混合することを簡便に行うことができるものが好ましい。原料チップとしては、例えば、平均粒子径が0.5~2.5mmの原料チップが好ましく、1.0~2.0mmの原料チップがより好ましい。
【0036】
この合金の製造方法の一例としては、例えば、(a1)マグネシウム、5~10質量%のアルミニウム、および0~1質量%の亜鉛、を含むマグネシウム-アルミニウム系合金からなる第1の原料チップと、マグネシウムおよびリチウムを含むマグネシウム-リチウム系合金からなる第2の原料チップとを用意し、次いで、(b1)第1の原料チップと第2の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る方法が挙げられる。
【0037】
また、この合金の製造方法の他の例としては、例えば、(a2)マグネシウムと、リチウムと、アルミニウムとを含み、前記リチウムの含有量とアルミニウムの含有量の比(Li/Al)が8より小であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる第3の原料チップと、リチウムを含まないマグネシウム合金からなる第4の原料チップとを用意し、次いで、(b2)第3の原料チップと第4の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得る方法が挙げられる。
【0038】
上記した第1~第4の原料チップは、市販の原料チップを入手したり、特定の配合成分となるように調製したり、すればよい。
【0039】
[マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる成形品の製造方法]
この成形品の製造方法は、上記の合金の製造方法により得られる合金材料を、鋳造法等により成形型を用いて成形品とする方法である。ここで行う鋳造方法としては、一般に知られている各種方法を採用することができ、射出成形、ダイカスト、スクイーズキャスト、金属射出成形法などの高圧鋳造法が挙げられ、上記合金材料は高圧鋳造法に好適な材料である。これら鋳造法での条件は特に限定されるものではないが、発火性のあるリチウムを含有するマグネシウム合金であるため大気中で合金を溶解する必要のない、射出成形がより望ましい。射出成形では、完全溶融以外に半溶融状態での成形も可能である。
【0040】
上記の高圧鋳造法では、溶解した合金(半溶融の場合も含む)が高い流動性を有するので、薄肉の製品に成形する際にも湯流れよく鋳造でき、圧延や押出では成形できない複雑形状の製品をニアネットシェイプにて成形することができ、高い製品歩留りが得られる。また得られた部材は、優れた特性が確保される。
【0041】
以下、射出成形を用いた場合を例に、詳細に説明する。
この成形品の製造方法の一例としては、例えば、(a1)マグネシウム、5~10質量%のアルミニウム、および0~1質量%の亜鉛、を含むマグネシウム-アルミニウム系合金からなる第1の原料チップと、マグネシウムおよびリチウムを含むマグネシウム-リチウム系合金からなる第2の原料チップとを用意し、(b1)第1の原料チップと第2の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得て、さらに、(c1)上記(b1)工程で得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形する方法が挙げられる。
【0042】
また、この成形品の製造方法の他の例としては、例えば、(a2)マグネシウムと、リチウムと、アルミニウムとを含み、前記リチウムの含有量とアルミニウムの含有量の比(Li/Al)が8より小であるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる第3の原料チップと、リチウムを含まないマグネシウム合金からなる第4の原料チップとを用意し、(b2)第3の原料チップと第4の原料チップとを混合し、マグネシウム、2~6.0質量%のリチウム、および5~10質量%のアルミニウムを含むマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を得て、(c2)上記(b2)工程で得られたマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を、射出成形する方法が挙げられる。
【0043】
これら例示した成形品の製造方法は、それぞれ、上記した合金の製造方法において、(c1)工程、(c2)工程が追加されたものであり、いずれも射出成形により成形品とするものである。ここで、射出成形は公知の手法により実施でき、この成形品の製造方法においては、2種類の原料チップを混合している点に特徴を有する。2種類の原料チップを用いる場合、予め2種類の原料チップを目的とする質量比で取り分けて、一つの容器内で混合しておくか、原料チップを投入するホッパーを、原料チップごとに2つ用意し、各ホッパーから所定の配合となるように、所定量の原料チップを供給するようにすればよい。なお,一つあるいは複数のホッパーを使用して2種類の原料チップを投入する場合には、それぞれの原料チップを供給するフィーダーを用意し、目的とする混合質量割合になるよう、それぞれの原料チップを供給するようにする。
【0044】
射出成形により成形品を得る場合、ダイカストのような溶解炉を使用しないため、燃えやすいリチウム含有マグネシウム合金が燃える危険性を極めて小さくできる。
【0045】
また、例えば、Mg-14%Li-1%Al(LA141)など高リチウム含有マグネシウム合金は、半溶融温度範囲が狭く、射出成形により成形する場合には、スクリュで輸送する途中で急激に溶融してしまい、成形が安定しないことがある。これに対して、リチウム量を抑えることで、半溶融温度範囲が広くなり、成形の安定性を向上できること、さらに、例えば、成形安定性が悪いリチウム含有マグネシウム合金であるMg-7%Li-7%Al-1%Zn(LAZ771)を原料とする場合でも、一般的に使用されており成形が安定するAZ91D(Mg-9%Al-1%Zn)のチップと混合して射出成形することで、成形安定性が改善し、かつ、混合比の調整が容易で、簡易な操作で所望の合金成分からなる成形品を得られる。
【0046】
本実施の形態の成形品の製造方法により得られる成形品は、各種用途において軽量、高強度で、耐食性に優れた部材として使用することができる。したがって、これら特性が要求される自動車用部品や各種ポータブル機器への使用量の拡大が期待できる。しかも、これらのマグネシウム合金製品は、プラスチック製品に比べてリサイクル可能であり、地球環境の保全にも貢献できる。
【0047】
以上、本実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金、その製造方法および成形品の製造方法について説明したが、このように得られるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金には次のような利点もある。
【0048】
(1)リチウムは非常に価格が高く、マグネシウムやアルミニウムの原料が200~300円/kg程度なのに対し6,000~10,000円/kgと10倍以上の値段がする。そのため、リチウムを多く含むほど合金価格は高くなるが、上記実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金によれば、リチウム量を抑えることができ、製造コストを抑制できる。
【0049】
(2)マグネシウムは自然電位が非常に卑であり、鉄やアルミニウムに比べて耐食性が悪い。リチウムはマグネシウムよりもさらに電位が卑であり、活性な金属であるため、リチウムの添加を増やすことにより、マグネシウム合金の耐食性は更に悪化する。上記実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金によれば、リチウム量を抑えることができ、耐食性を改善できる。
【0050】
(3)マグネシウムは活性な金属であるため、大気中で溶解すると激しい閃光とともに燃焼する。また、機械加工などで発生した微粉を適正に処理せず、大気中で着火すると粉塵爆発の可能性もある。リチウムはマグネシウムよりも更に活性な金属であり、マグネシウムに多量のリチウムを添加することで、更に燃焼しやすくなり危険性が高まる。上記実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金によれば、リチウム量を抑えることができ、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金の燃焼性を改善できる。
【0051】
(4)Mg-Li系合金は、状態図における固相線と液相線の温度差が非常に小さく、固液共存温度範囲が非常に狭いため、加熱していくと狭い温度幅で一気に溶ける。そのため、スクリュで輸送しながら溶融させる射出成形では溶融挙動が安定せず射出成形しにくい。またリチウムを約5.7質量%以上含んだマグネシウム合金チップはbcc構造のβ相を有するため塑性流動しやすく、回転するスクリュで輸送するとスクリュにこびりつくなどして成形しにくい。固液共存温度範囲が狭いため、鋳造法では凝固割れも発生しやすい。この点、上記実施の形態によれば、固液共存温度範囲を広くでき、射出成型性が改善できる。
【実施例0052】
以下に、本実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金、その製造方法およびその合金からなる成形品の製造方法を、実施例および比較例を用いて詳細に説明する。
【0053】
(実施例1~5、比較例1~2)
原料チップとして、LAZ771(Mg-7%Li-7%Al-1%Zn;安立材料科技股▲ふん▼有限公司(台湾)製)と、AZ91D(Mg-9%Al-0.7%Zn;中央工産株式会社製)を用意した。
【0054】
株式会社日本製鋼所製のマグネシウム合金用射出成形機(商品名:JLM280MGIIe、型締め力:2740kN、シリンダ内径:51mm)を用い、シリンダ温度設定を、チップが供給されるホッパーを723K、先端の溶融部を873Kとした。
【0055】
原料チップである、LAZ771とAZ91Dを、表1に記載した所定の混合割合となるようにホッパーに供給して、金型に射出成形を行い(金型温度設定:473K)、成形体として、マグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金からなる幅100mm、長さ200mm、厚さ2mmの平板を得た。得られた成形体の合金中の元素含有量について表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
[特性]
上記得られた合金について、引張試験(引張強さ、破断伸び、耐力、ヤング率)、XRD測定を以下の通り行った。
【0058】
(引張試験)
各例で得られた板状の成形品において、JISに準拠したダンベル形状の13B号試験片を切出し、サンプルとした。
【0059】
得られたサンプルに対し、INSTRON5982型引張試験機を用い、試験速度:10MPa/sとして引張試験を行った(耐力以降の試験速度は、11.4mm/minとした)。この試験において、サンプルの操作側、中央部、反操作側の3カ所について、それぞれ値を測定し、引張強さ、破断伸び、耐力およびヤング率について、各測定箇所およびその平均値の値を算出した。それらの結果を表および図にまとめて示した。なお、引張強さは表2および図1、破断伸びは表3および図2、耐力は表4および図3、ヤング率は表5および図4にそれぞれ示している。
【0060】
(耐食性)
5%の塩水を用意し、これを上記サンプルに噴霧して、35℃で24時間放置した。試験前後の質量をそれぞれ測定し、その質量変化の割合(%)を算出した。その試験結果を表6および図5に示した。通常、耐食性は腐食減量が少ないほど良いとされるが、本実施例では安全上の問題からフッ酸を使用した腐食生成物の除去は実施しておらず、腐食生成物が多いほど、すなわち腐食増量が大きいほど耐食性が悪く、腐食増量が少ないほど耐食性が良いことを示している。
【0061】
(XRD)
各例で得られた成形品が含有する結晶について、X線回折法によって測定した。X線回折装置としては、多目的X線回折装置Empyrean(スペクトリス株式会社製、商品名)を用い、ターゲット:Co、管電圧:45kV、管電流:40mAにて測定を行った。得られた回折パターンを、図6に示した。
【0062】
なお、図6において、実施例1~5、比較例1~2の結果をまとめて示した。また、各ピークに対応する結晶については、ピークの上方に記号を付し、各記号が示す結晶についてはグラフの右上にまとめて示している。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
上記結果から、本実施の形態のマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金は、AZ91D単独(0%LAZ771)の合金に対して、40%LAZ771(Mg-2.9%Li-8.1%Al-0.8%Zn)とすることで大きく強度が改善され、50%LAZ771、60%LAZ771、70%LAZ771、80%LAZ771とほぼ同じ強度を維持したものであった。しかし、LAZ771単独(100%LAZ771)で若干強度が低下する傾向があり、リチウム含有量が多いLA141(Mg-14%Li-1%Al)とAZ91Dを混合して成形した公知の結果を考慮すると、リチウム含有量が2から6%程度で強度が高くなる傾向が分かった。これは0.2%耐力でも同じ傾向であった。
【0069】
さらに剛性設計する場合に重要となるヤング率は、AZ91D単独(0%LAZ771)の合金から40%LAZ771で増加し、80%LAZ771まで徐々に増加することが分かった。また、それ以上LAZ771を増やしてもヤング率は増加しない傾向があった。通常、金属のヤング率は合金成分によってあまり変化せず、剛性を上げる場合には、無機粒子や繊維などを混合させた金属基複合材料を作製するしかないが、複合材料は製造が難しく、コストも高く、品質も安定しない。一方、LAZ771を所定量添加することでヤング率が増加することは新たな知見であり、本発明者らはこの知見に基づいて、本実施の形態により、安定した剛性の得られるマグネシウム-リチウム-アルミニウム系合金を見出すことができた。
【0070】
また、成形品のXRD分析結果から、本実施の形態における成形品ではα相(Mg)と金属間化合物相であるAlLiが存在することが分かった。このことからAlLiがヤング率の向上に大きく寄与していることが明らかとなり、α相とAlLi相を有する点に特徴を有すると言うこともできる。
【0071】
なお、特許文献1に記載されている100%LAZ771の場合には、XRD分析でα相以外にβ相が検出されている。Al量が少なく、5.7%以上のリチウム添加された合金においては、リチウム量を増やすことでAlLiではなくβ相(Li)を生成させる結果となり、ヤング率がそれ以上改善されないと考えられる。そのため、β相を生成させずにAlLiを生成させるような成分調整が機械的性質の向上に重要であることが分かった。
【0072】
また、通常、リチウム含有マグネシウム合金は耐食性が悪いと言われているが、得られた成形品に対し塩水噴霧試験を実施したところ、100%LAZ771の耐食性はやはり悪かったが、60~80%LAZ771を混合した場合には、AZ91D(0%LAZ771)よりも耐食性が良くなった。この原因は不明だが、β相(Li)を晶出させないことと、AlLi相を晶出させることが耐食性の改善にも効果的であると考えられる。
【0073】
以上のように、β相が晶出するほどリチウムを添加した場合には、比重が軽くなるものの、耐食性が悪化したり、機械的性質の向上が期待できなかったりする。これに対し、適量のリチウム量に抑え、β相が存在せず、代わりにAlLi相を有するリチウム含有マグネシウム合金は、リチウムを含有しないマグネシウム合金と比べ、比重が軽く、機械的性質と耐食性が改善されることが明らかとなり、部品の軽量化用途に最適な材料であると考えられる。
【0074】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6