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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132438
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】杭基礎の洗掘防止工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/12 20060101AFI20230914BHJP
   E02D 27/32 20060101ALI20230914BHJP
   E02D 27/52 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D27/32 Z
E02D27/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037766
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】青木 健太
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA01
(57)【要約】
【課題】水底に打設された杭基礎の底部周囲において大量の捨石やブロックや袋詰体を使用せずに低コストかつ短い工期で洗掘対策工を設置可能な杭基礎の洗掘防止工法を提供する。
【解決手段】この杭基礎の洗掘防止工法は、水底に打設された杭10に杭を包囲するように杭の外径よりも大きい内径を有しかつ可撓性のあるシート材20からなる円筒状体11を設置し、円筒状体を水中沈降させ、円筒状体の上端部が全周に渡って杭に接するように円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径し、水底面においてシート材を杭の周囲で少なくとも円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に打設された杭に前記杭を包囲するように前記杭の外径よりも大きい内径を有しかつ可撓性のあるシート材からなる円筒状体を設置し、
前記円筒状体を水中沈降させ、
前記円筒状体の上端部が全周に渡って前記杭に接するように前記円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径し、
水底面において前記シート材を前記杭の周囲で少なくとも前記円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設する杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項2】
前記円筒状体の下端部の周方向に所定の間隔で複数の錘を設け、前記円筒状体が水中を沈降する間に、または、前記複数の錘が水底に到達した後に、前記円筒状体の上端部を縮径する請求項1に記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項3】
矩形状の前記シート材を水上から水中に垂らし、水上機械により前記杭を包囲するようにして円筒状に変形させることで前記円筒状体を設置する請求項1または2に記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項4】
水底に打設された杭に前記杭を包囲するように前記杭の外径よりも大きい内径を有しかつ可撓性のあるシート材からなる円筒状体を設置し、
前記円筒状体の下端部の周方向に所定の間隔で複数の水中排水ポンプを排水口が前記杭の外周面に向くように設けておき、
前記円筒状体を水中沈降させ、
前記円筒状体の沈降の間に、前記複数の水中排水ポンプを作動させて前記杭の外周面に向けて水を噴射させることによる反力により前記複数の水中排水ポンプが前記杭から離れるように移動することで前記円筒状体が下端で拡径し、
前記円筒状体の上端部が全周に渡って前記杭に接するように前記円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径し、
水底面において前記シート材を前記杭の周囲で少なくとも前記円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設する杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項5】
前記複数の水中排水ポンプの作動前に前記円筒状体の縦方向の上端部が全周に渡って前記杭に接近するように前記円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径する請求項4に記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項6】
前記円筒状体が水底面に着底した後に前記複数の水中排水ポンプを回収する請求項4または5に記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項7】
前記円筒状体は、その上端に可撓性のあるリング状部材を備え、
前記リング状部材を前記水中施工機械により略水平方向に引っ張ることで前記円筒状体の上端部を縮径する請求項1乃至6のいずれかに記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項8】
水底面において前記シート材の外周を水中施工機械により位置調整する請求項1乃至7のいずれかに記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項9】
前記シート材を前記杭の周囲に敷設した後に前記シート材の外周近傍に押さえ部材を設置する請求項1乃至8のいずれかに記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項10】
前記円筒状体は、円筒形状または円錐台形状である請求項1乃至9のいずれかに記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【請求項11】
前記シート材は、ジオテキスタイル材料またはゴム材料からなる請求項1乃至10のいずれかに記載の杭基礎の洗掘防止工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎の洗掘防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水の流れや波の影響により海底の土砂が洗い流される洗掘が海中構造物の基部で発生すると基部が弛んでしまうおそれが生じるため、洗掘防止対策が必要とされている。かかる洗掘防止対策として、たとえば、捨石やブロックや袋詰体等を海底面に設置すること(ラブルネット工法、袋型根固め工法等)が一般に知られている。
【0003】
上述のような袋詰体として、特許文献1は、蓋用シートを付けた袋状体の内部に割石等の中詰材を投入し蓋用シートの開口を閉じて製造する袋状体を開示する(図8)。また、特許文献2は、パラ型アラミド繊維等の芯糸を、酸化鉄微粒粉等の高比重成分を含む樹脂にて被覆した見かけ密度1.4~2.0の樹脂被覆繊維糸条を経糸・緯糸として製織され、見かけ密度が1.4~1.8である透水性の多重織物からなり、土砂の洗掘防止等のため海底に敷設される土木用マットを開示する(要約)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-241325号公報
【特許文献2】特開2007-239330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の捨石やブロックや袋詰体の海底面への設置は、洋上風力発電施設の杭基礎のように外洋で施工水深が大きい条件では、施工の負荷が大きく施工コストが増大する。また、洋上風力発電施設の杭基礎は、港湾工事で使用される一般的な杭の仕様に比べ杭径が大きくなることで、洗堀対策を行う範囲も広くなり、石材数量が多くなりコストも増大する。また、捨石やブロックの設置では底質の吸出が懸念され、別途、砕石による吸い出し防止工が必要になる場合があり、施工コストの増大につながる。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、水底に打設された杭基礎の底部周囲において大量の石材やブロックや袋詰体を使用せずに低コストかつ短い工期で洗掘対策工を設置可能な杭基礎の洗掘防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1の杭基礎の洗掘防止工法は、水底に打設された杭に前記杭を包囲するように前記杭の外径よりも大きい内径を有しかつ可撓性のあるシート材からなる円筒状体を設置し、前記円筒状体を水中沈降させ、前記円筒状体の上端部が全周に渡って前記杭に接するように前記円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径し、水底面において前記シート材を前記杭の周囲で少なくとも前記円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設する。
【0008】
この杭基礎の洗掘防止工法によれば、杭の周囲に配置され杭の外径よりも大きい内径のシート材からなる円筒状体を水中沈降させ、円筒状体の上端部を縮径し、水底面においてシート材を杭の周囲で少なくとも円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設することで、シート材敷設による洗掘対策工を短工期で設置でき、また、従来のような大量の捨石やブロックや袋詰体の使用が不要となり、低コストで洗掘対策を実現できる。
【0009】
上記第1の杭基礎の洗掘防止工法において、前記円筒状体の下端部の周方向に所定の間隔で複数の錘を設け、前記円筒状体が水中を沈降する間に、または、前記複数の錘が水底に到達した後に、前記円筒状体の上端部を縮径することが好ましい。
【0010】
また、矩形状の前記シート材を水上から水中に垂らし、水上機械により前記杭を包囲するようにして円筒状に変形させることで前記円筒状体を設置することで前記円筒状体を設置することができる。
【0011】
上記目的を達成するための第2の杭基礎の洗掘防止工法は、水底に打設された杭に前記杭を包囲するように前記杭の外径よりも大きい内径を有しかつ可撓性のあるシート材からなる円筒状体を設置し、前記円筒状体の下端部の周方向に所定の間隔で複数の水中排水ポンプを排水口が前記杭の外周面に向くように設けておき、前記円筒状体を水中沈降させ、前記円筒状体の沈降の間に、前記複数の水中排水ポンプを作動させて前記杭の外周面に向けて水を噴射させることによる反力により前記複数の水中排水ポンプが前記杭から離れるように移動することで前記円筒状体が下端で拡径し、前記円筒状体の上端部が全周に渡って前記杭に接するように前記円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径し、水底面において前記シート材を前記杭の周囲で少なくとも前記円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設する。
【0012】
この杭基礎の洗掘防止工法によれば、杭の周囲に配置され杭の外径よりも大きい内径のシート材からなる円筒状体を水中沈降させ、円筒状体の下端部に設けた複数の水中排水ポンプを作動させて杭の外周面に向けた水噴射による反力により各水中排水ポンプが杭から離れて移動することで円筒状体が下端で拡径し、円筒状体の上端部を縮径し、水底面においてシート材を杭の周囲で少なくとも円筒状体の内径に相当する範囲内に敷設することで、シート材敷設による洗掘対策工を短工期で設置でき、また、従来のような大量の捨石やブロックや袋詰体の使用が不要となり、低コストで洗掘対策を実現できる。
【0013】
上記第2の杭基礎の洗掘防止工法において、前記複数の水中排水ポンプの作動前に前記円筒状体の縦方向の上端部が全周に渡って前記杭に接近するように前記円筒状体の上端部を水中施工機械により縮径することが好ましい。
【0014】
また、前記円筒状体が水底面に着底した後に前記複数の水中排水ポンプを切り離し回収することが好ましい。
【0015】
上記第1および第2の杭基礎の洗掘防止工法において、前記円筒状体は、その上端に可撓性のあるリング状部材を備え、前記リング状部材を前記水中施工機械により略水平方向に引っ張ることで前記円筒状体の上端部を縮径することが好ましい。
【0016】
また、水底面において前記シート材の外周を水中施工機械により位置調整することが好ましい。
【0017】
また、前記シート材を前記杭の周囲に敷設した後に前記シート材の外周近傍に押さえ部材を設置することが好ましい。
【0018】
また、前記円筒状体は、円筒形状または円錐台形状であることが好ましい。
【0019】
また、前記シート材は、ジオテキスタイル材料またはゴム材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水底に打設された杭基礎の底部周囲において大量の石材やブロックや袋詰体を使用せずに低コストかつ短い工期で洗掘対策工を設置可能な杭基礎の洗掘防止工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態による杭基礎の洗掘防止工法の各工程を説明するためのフローチャートである。
図2図1の各工程のうち主要な工程(a)~(c)を概略的に示す図である。
図3図2(a)の円筒状体を上方から見た上面図である。
図4図2(c)の杭の周囲に敷設されたシート材の外周近傍に押さえ部材を設置した状態を概略的に示す上面図である。
図5図2(a)の円筒状体を施工水域で作製し設置する方法を説明するための概略図である
図6】第2実施形態による杭基礎の洗掘防止工法の各工程を説明するためのフローチャートである。
図7図6の各工程のうち主要な工程(a)(b)を概略的に示す図である。
図8図7(a)の水中排水ポンプ、ポンプ取り付け治具、自動フック、および、電源ケーブル・ワイヤーを示す正面図(a)および側面図(b)である。
図9】第1および第2実施形態における円筒状体の円筒形状を示す側面図(a)および円錐台形状を示す側面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は第1実施形態による杭基礎の洗掘防止工法の各工程を説明するためのフローチャートである。図2は、図1の工程のうち主要な工程(a)~(c)を概略的に示す図である。図3は、図2(a)の円筒状体を上方から見た上面図である。図4は、図2(c)の杭の周囲に敷設されたシート材の外周近傍に押さえ部材を設置した状態を概略的に示す上面図である。図5は、図2(a)の円筒状体を施工水域で作製し設置する方法を説明するための概略図である。
【0023】
〈第1実施形態〉
図1図4を参照して第1実施形態による杭基礎の洗掘防止工法の工程S01~S07を説明する。まず、図2(a)のように、水底に打設された杭10の上部から円筒状体11を、杭10を包囲するように設置する(S01)。円筒状体11には、上端部11aに複数のフロート12が円周方向に等間隔に設けられ、下端部11bに複数の錘13が円周方向に等間隔に設けられている。
【0024】
図3のように、円筒状体11の上端部11aには、シート材料から構成され円周方向に細長い筒状枠体になった袋体14が設けられ、袋体14内に可撓性のあるワイヤー15(図2の破線で示す)がリング状に収容されており、リング状のワイヤー15により円筒状体11の上端部11aが円状に保持されている。ワイヤー15は、円周方向180度反対位置で袋体14内から突き出した環状の引張部15a、15bを有している。環状の引張部15a、15bにROVや水中ドローンからなる水中施工機械30A,30Bのフック部やマニュピレータ30A1,30B1を係合し、水中施工機械30A,30Bが引張部15a、15bを引っ張ることで、ワイヤー15の径を縮め、円筒状体11を上端部11aで絞るようにして杭10の外周面に接するまで縮径することができる。
【0025】
なお、円筒状体11の下端部11bに、たとえば鋼線や細い木材等からなる線状等の弾性部材をリング状にして設けてもよい。円筒状体11の下端部11bの外周部に上記線状の弾性部材をリング状にして設けることで、シート材20を水底面上に敷設したときに当該弾性部材が出来る範囲内で伸びようとすることによりシート材20を拡張することができる。このため、当該効果をもたらせる材料であれば、円筒状体11の下端部11bに用いる材料は鋼線や細い木材でなくともよい。
【0026】
円筒状体11は、不織布や織布の繊維材料またはプラスチックシート材料からなるジオテキスタイルのシート材20から円筒形状に形成されている。円筒状体11の内径Dは、杭10の外径dよりも大きい。円筒状体11の縦方向長さは、対象とする杭周辺の水底面近くの底質、流体力の大きさおよび杭径を考慮し、洗掘を防止したい範囲に基づき設定し、少なくとも円筒状体11の内径Dに相当する長さとする。なお、円筒状体11は、陸上で略円筒状に作製され、施工水域に搬送されて図2(a)のように設置することができる。
【0027】
次に、杭10の周囲に配置された円筒状体11は、図2(a)のように、複数のフロート12による浮力に抗して複数の錘13の自重により水中を下方向Vに水底に向けて沈降する(S02)。
【0028】
次に、水中を沈降した円筒状体11が図2(b)のように、水底に着底してから(S03)、図3のように、ワイヤー15の引張部15a、15bを水中施工機械30A,30Bにより水平方向H,H’に引っ張ることでワイヤー15の径を縮め、円筒状体11の上端部11aを縮径する(S04)。これにより、図2(c)のように、円筒状体11は上端部11aで杭10の下部の外周面に密着する。なお、引張部15a、15bに発信機を設け、水中施工機械30A,30Bが引張部15a、15bの位置を容易に検知できるようにすることが望ましい。
【0029】
また、図2(c)のように円筒状体11の縮径後の上端部11aの水深位置は水底に対しより近いことが望ましいので、筒状体11の下端部11bが水底に着底し、上端部11aに設けた水深計により上端部11aが所定の水深位置に達したことを確認してから、水中施工機械30A,30Bにより円筒状体11の上端部11aの縮径動作を開始することが好ましい。なお、円筒状体11の上端部11aの縮径動作を円筒状体11の着底前に開始してもよいが、この場合は、円筒状体11の上端部11aが所定の水深位置に達したことを確認後に縮径が完了するようにする。
【0030】
また、図2(c)のようにワイヤー15を縮径した後に、引張部15a、15bでワイヤー15が弛まないように固定されることが好ましく、たとえば、水中施工機械により引張部15a,15bを杭10の外周に設けたフック(図示省略)に引っ掛けて固定する。または、杭10の水底近くの外周に周方向に間隔を設けて下向きにフックを複数設置しておき、当該フックより下方で縮径を行えば、仮にワイヤー15が緩んでも当該フックにワイヤー15が補足される。
【0031】
また、引張部15a,15bは、一方を省略し、1箇所で引っ張るようにしてもよいが、図2のように、杭10の中心に対して点対称的に水中施工機械30A,30Bを配置し、巾着を絞るように逆向きに均等に引っ張ることで、円筒状体11の上端部11aの形を整え易い。なお、図3において引張部15a,15bはワイヤー15の周方向の2箇所に設けたが、これに限定されず、引張部を円筒状体11の径等に応じて周方向に均等に3箇所または4箇所設け、水中施工機械を3台または4台用いるようにしてもよい。
【0032】
次に、図2(c)のように、水底面において円筒状体11を構成するシート材20の外周を水中施工機械30A,30Bによりシート材20の位置調整をする(S05)。このようにして、シート材20を杭10の周囲で少なくとも円筒状体11の内径に相当する範囲内に敷設する(S06)。なお、水中施工機械30Aは把持部(図示省略)を有し、シート材20の外周を把持部が挟んで掴んで位置調整を行うことができる。
【0033】
なお、図2(c)には水中施工機械30A,30Bが示されているが、さらに水中施工機械を追加して位置調整してもよい。また、本実施形態において使用可能な水中施工機械は、水面・水中を自在に移動し水中カメラを備え水中作業機能を有する公知の水中ロボットであるROV(Remotely Operated Vehicle)または水中ドローンからなり、遠隔操作により水中カメラの画像で視認しながら各種の水中作業を行うことができる。
【0034】
次に、図4のように、水底面においてシート材20の外周20a近傍に砕石やブロックや袋詰体等の押さえ部材31を投入し設置する(S07)。これにより、杭10の周囲に敷設したシート材20を外周20aおよびその近傍で押さえ部材31により押さえ、シート材20が水流により浮き上がらないようにする。また、押さえ部材31の設置量は、シート材20の全面に押さえ部材を設置しないので、従来よりも少量で済む。
【0035】
図1図4の第1実施形態によれば、杭10の周囲に配置され杭10の外径dよりも大きい内径のシート材20からなる円筒状体11を水中沈降させ、円筒状体11の上端部11aを縮径し、水底面において円筒状体11の外周部を位置調整しシート材20を杭の周囲で少なくとも円筒状体11の内径Dに相当する範囲内に敷設することで、シート材敷設による洗掘対策工を短工期で設置でき、また、従来のような大量の捨石やブロックや袋詰体の使用が不要となり、低コストで洗掘防止対策を実現できる。また、シート材20を外周20a近傍の押さえ部材31で押さえることで、シート材20の安定性を確保でき、杭10の周囲で水底面をシート材20により確実に被覆できる。上述のようにして、シート材20の敷設により、水の流れや波の影響により水底面に作用する水の流速を低減でき、水底面の土砂等の流出をシート材20で妨げることができ、杭基礎の洗掘防止工を施すことができる。
【0036】
また、シート材20の敷設後に、押さえ部材31が天候等によりすぐに設置できない場合でも、シート材20が水底面を被覆していることで水底面に作用する流速の低減効果があるため、押さえ部材31を設置するまでの間の洗掘緩和対策の効果が期待できる。
【0037】
図5を参照して杭の上部で図2(a)の円筒状体を作製し設置する方法について説明する。図5のように、水面S近傍において矩形状のシート材20の一端21aを杭10の外周面に潜水士の作業により仮留め部22で仮留めする。次に、作業船SP(または水中施工機械)がシート材20の他端21bを掴んで杭10の周囲を大回り気味に1周すると、シート材20は水の抵抗を受け、円筒状に拡がる。1周後に仮留め部22の一端21aと他端21bとを接続するようにして深度方向の複数箇所で端部同士を潜水士の作業により接続し、円筒形状を完成させる。次に、シート材20を杭10の外周面の仮留め部22からゆっくり切り離すことで、図2(a)のように、円筒状体11の設置工程S01が完了し、引き続いて、水底設置工程S02~S07を行う。なお、シート材20の下端部に線状等の弾性部材を取り付けておくことで、シート材20を円筒状にして端部同士を接続した際にその弾性部材の弾性特性により円筒状体11の下端部11bにおけるリング状の拡張状態を保つことができる。また、仮留め部22の代わりに円筒状体11の内周面と杭10の外周面間の距離と略等しい間隔保持部材を水中内で浮遊させた状態で杭10の外周面に対し突設させてシート材20を杭10の周囲を大回り気味に1周させて円筒状体11を設置するようにしてもよい。
【0038】
〈第2実施形態〉
図6は第2実施形態による杭基礎の洗掘防止工法の各工程を説明するためのフローチャートである。図7は、図6の工程のうち主要な工程(a)(b)を概略的に示す図である。図8は、図7(a)の水中排水ポンプ、ポンプ取り付け治具、自動フック、および、電源ケーブル・ワイヤーを示す正面図(a)および側面図(b)である。
【0039】
本実施形態では、図7(a)のように、円筒状体11の下端部11bに錘に代えて複数の水中排水ポンプ16を各排水口16a(図7(b))が杭10の外周面に向くように円周方向に等間隔に設けている。また、円筒状体11の上端部11aは、図3と同様の構成になっており、ワイヤー15を引張部15a、15bで水中施工機械30A,30Bにより引っ張ることで、円筒状体11を縮径することができる。なお、フロートは省略しているが、上端部11aに配置してもよい。
【0040】
図8(a)(b)のように、円筒状体11の下端部11bにポンプ取り付け治具17を設け、ポンプ取り付け治具17に公知の自動フック23を介して水中排水ポンプ16を取り付けて固定する。また、ポンプ取り付け治具17には一体化された電源ケーブル・ワイヤー18が取り付けられている。円筒状体11が着底したとき自動フック23が作動し自動的に水中排水ポンプ16がポンプ取り付け治具17から切り離されるようになっており、その後に電源ケーブル・ワイヤー18により水中排水ポンプ16を回収できる。なお、電源ケーブル・ワイヤー18は、図7(b)のように、杭10の上部外周に設けられた保持リング部材19により保持されることで施工中に安定するようになっている。
【0041】
図7(a)のように、杭10の周囲に円筒状体11を設置する(S11)。次に、円筒状体11は、複数の水中排水ポンプ16を含む自重(ポンプ取り付け治具17や自動フック23の自重を含む)により水中を下方向Vに水底に向けて沈降する(S12)。複数の水中排水ポンプ16等は錘としても機能するため、図2(a)の錘13を省略できるが、必要に応じて錘を追加してもよい。
【0042】
次に、円筒状体11の沈降の途中で、図3のように、ワイヤー15の引張部15a、15bを水中施工機械30A,30Bにより水平方向H,H’に引っ張ることで、円筒状体11の上端部11aを縮径し(S13)、図7(b)のように、円筒状体11の上端部11aを杭10の外周面に接近させる。この場合、円筒状体11の上端部11aと杭10の外周面との間の距離wを、たとえば、25cm程度とし、円筒状体11をスムーズに沈降させるため杭10の外周面に接するまでには絞らない。なお、上述の縮径工程S13は、円筒状体11の配置工程S11において行うようにしてもよい。
【0043】
次に、複数の水中排水ポンプ16を作動させ(S14)、図7(b)のように、複数の水中排水ポンプ16の各排水口16aから半径方向u,u’に杭10の外周面に向けて水を均等に噴射させることで生じる反力と杭10の外周面から戻る水流の力とにより各水中排水ポンプ16が杭10から離れるように水平外方h,h’に移動することで、円筒状体11が、縮径した上端部11aに対し、下端部11bで拡径する。
【0044】
なお、水中排水ポンプ16の作動工程S14は、次工程S15の着底前の水底面近くで行うことが好ましい。このため、ポンプ取り付け治具17等に水圧計を取り付けておくことで、水中排水ポンプ16の深度を把握することができる。
【0045】
次に、図7(b)のように円筒状体11が下端部11bで拡径した状態のままで水底面に着底すると(S15)、複数の水中排水ポンプ16の作動を停止し、各水中排水ポンプ16が自動フック23の解除によりポンプ取り付け治具17から切り離される(S16)。
【0046】
次に、上端部11aを杭10の外周面にさらに密着させる必要がある場合、図3と同様にワイヤー15の引張部15a、15bを水中施工機械30A,30Bにより水平方向H,H’にさらに引っ張ることで、図6の破線で示すように円筒状体11の上端部11aを縮径する(S17)ようにしてもよい。
【0047】
上述のようにポンプ取り付け治具17から切り離された複数の水中排水ポンプ16を、図8(a)(b)の電源ケーブル・ワイヤー18を引っ張り上げることで回収する(S18)。なお、水中ポンプ16の電源ケーブル・ワイヤー18は、杭10の外周面で水面近辺に設置した保持リング部材19により保持されているので、容易に回収することができる。
【0048】
次に、シート材20の外周を水中施工機械30Aによりシート材20の位置調整をし(S19)、シート材20を杭10の周囲で少なくとも円筒状体11の内径に相当する範囲内に敷設する(S20)。
【0049】
次に、図4と同様に、水底面においてシート材20の外周20a近傍に砕石やブロックや袋詰体等の押さえ部材31を投入し設置する(S21)。これにより、杭10の周囲に敷設したシート材20を外周20aおよびその近傍で押さえ部材31により押さえることができる。
【0050】
図6図8の第2実施形態によれば、杭10の周囲に配置され杭の外径よりも大きい内径のシート材20からなる円筒状体11を水中沈降させ、円筒状体11の下端部11bに設けた複数の水中排水ポンプ16を作動させて杭10の外周面に向けた水噴射による反力により各水中排水ポンプ16が杭10から離れて移動することで円筒状体11が下端部11bで拡径し、円筒状体11の上端部11aを縮径し、水底面においてシート材20を杭10の周囲で少なくとも円筒状体11の内径に相当する範囲内に敷設することで、シート材敷設による洗掘対策工を短工期で設置でき、また、従来のような大量の捨石やブロックや袋詰体の使用が不要となり、低コストで洗掘防止対策を実現できる。また、シート材20を外周20a近傍の押さえ部材31で押さえることで、シート材20の安定性を確保でき、杭10の周囲で水底面をシート材20により確実に被覆できる。上述のようにして、シート材20の敷設により、水の流れや波の影響により水底面に作用する水の流速を低減でき、水底面の土砂等の流出をシート材20で妨げることができ、杭基礎の洗掘防止工を施すことができる。
【0051】
図9を参照して円筒状体11の形状について説明する。第1および第2実施形態では、円筒状体11は、図9(a)のように、上端部11aと下端部11bの各内径がほぼ等しい円筒形状であるが、図9(b)のように、上端部11cの内径が下端部11dの内径よりも小さい円錐台形状であってもよい。円筒状体11が図9(b)の円錐台形状であると、上端部11cの径を杭10の外径により近づけて円筒状体11を作製でき、円筒状体11の縮径が容易になる。また、下端部11dの内径D1を調整することで、杭10の周囲におけるシート材20の敷設範囲nを調整できる。たとえば、図9(b)の下端部11dの内径D1を図9(a)の下端部11bの内径Dよりも大きくすることで、図9(b)のシート材20の敷設範囲nを図9(a)の敷設範囲mよりも大きくできる。
【0052】
なお、図1図6の円筒状体11の上端部11aの縮径工程S04,S13,S17による絞り込み状態は、水中施工機械に搭載された水中カメラの画像で視認し確認できる。また、工程S05,S19におけるシート材20の外周位置も水中施工機械の水中カメラの画像で視認し確認できる。深度によっては、水中施工機械に設けられたライトを併用して確認することが望ましい。
【0053】
また、上述の杭基礎の洗掘防止工法を施工する際には、施工現場周辺の波浪予報の確認や波浪予測を行い、作業限界波高以下となる日が十分に継続する期間で施工を行うことが望ましい。仮に予期せぬ高波浪が来襲しそうな場合は、シート材を水底面に仮設置した状態で船は退避し、後日施工を再開するようにする。また、水底面におけるシート材20の外周の位置調整は、シート材が潮流の影響を受け易く、水中施工機械による位置調整作業も容易でないため、潮流の比較的弱い日(小潮)や時間帯(満潮時・干潮時)を選んで施工することが好ましい。
【0054】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では、円筒状体11のシート材20をジオテキスタイルとしたが、この場合、織布のような目の細かいものを選定することで確実に洗掘防止効果を得ることができる。また、シート材20を展伸性のあるゴム材料としてもよく、この場合、たとえば、水底面においてシート材20が敷設される範囲内で凹凸や岩礁などの不陸に対応することができる。
【0055】
また、図8(a)(b)において、自動フック23の代わりに、水中排水ポンプ16をポンプ取り付け治具17に直接取り付け、ポンプ取り付け治具17が所定の力でシート材20から自動的に外れる解除機構を設けてもよく、水中排水ポンプ16による水噴射時の反力と杭外周面から戻る水流の力との合力が最大になって円筒状体11の下端部11bが最も拡径したときに、水中排水ポンプ16がポンプ取り付け治具17とともにシート材20から外れるにようにする。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の杭基礎の洗掘防止工法によれば、杭基礎が大水深にあっても容易にシート材を杭の周囲に敷設できるので、たとえば、大水深位置に設置される洋上風力発電設備のモノパイル基礎が水底において洗掘されることを防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 杭
11 円筒状体
11a 上端部
11b 下端部
12 フロート
13 錘
15 ワイヤー
15a,15b 引張部
16 水中排水ポンプ
16a 排水口
17 ポンプ取り付け治具
18 電源ケーブル・ワイヤー
20 シート材
20a 外周
23 自動フック
30A,30B 水中施工機械
31 押さえ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9