(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132458
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電力系統管理装置および電力系統情報表示方法
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20230914BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H02J13/00 301J
H02J3/24
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037796
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 厚
(72)【発明者】
【氏名】北島 正貴
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC09
5G064BA02
5G064BA07
5G064CB08
5G064CB16
5G064DA03
5G066AA09
(57)【要約】
【課題】ユーザに、電力系統の状態をより明確に把握させることができる、電力系統管理装置および電力系統情報表示方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの発電機を含む電力系統の定態安定度を算出する安定度算出手段と、電力系統の構成を示す電力系統図を表示する系統図表示部300と、発電機の定態安定度を表示する安定度表示部500と、を有する管理画面100を表示装置15に表示させる表示手段と、を有し、安定度算出手段は、発電機の電力相差角曲線と、発電機の相差角とを算出し、表示手段は、表示装置15に系統図表示部300および安定度表示部500を一画面で表示させるとともに、安定度表示部500において電力相差角曲線に発電機の相差角を重畳して表示させる、電力系統管理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの発電機を含む電力系統の定態安定度を算出する安定度算出手段と、
前記電力系統の構成を示す電力系統図を表示する系統図表示部と、前記発電機の定態安定度を表示する安定度表示部と、を有する管理画面を表示装置に表示させる表示手段と、を有し、
前記安定度算出手段は、前記発電機の電力相差角曲線と、前記発電機の相差角とを算出し、
前記表示手段は、前記表示装置に前記系統図表示部および前記安定度表示部を一画面で表示させるとともに、前記安定度表示部において前記電力相差角曲線に前記発電機の相差角を重畳して表示させる、電力系統管理装置。
【請求項2】
前記表示手段は、前記発電機の相差角が所定の閾値以上である警報対象発電機である場合に、前記系統図表示部に表示される電力系統図における前記警報対象発電機の色を強調色に変えて表示させるとともに、前記安定度表示部に表示される前記警報対象発電機の定態安定度指標として、前記電力相差角曲線の内側の領域であって前記警報対象発電機の相差角以下の領域を強調色で着色した警報領域を表示させる、請求項1に記載の電力系統管理装置。
【請求項3】
前記閾値は、現在の電力系統の構成においてユーザが設定した相差角、および/または、前記ユーザが設定した相差角を、前記電力系統の電力系統の構成が変更された場合に応じて変換した相差角である、請求項2に記載の電力系統管理装置。
【請求項4】
前記系統図表示部および前記安定度表示部に加え、前記電力系統を構成する発電機の相差角の時間変化を表示する相差角推移表示部、および/または、前記電力系統を構成する発電機の相差角の計測時刻を表示する基本情報表示部を、前記表示装置に一画面で表示させる、請求項1ないし3のいずれかに記載の電力系統管理装置。
【請求項5】
前記相差角推移表示部は、前記発電機の相差角の時間変化と、母線電圧、有効電力および/または無効電力の時間変化とを組み合わせて表示する、請求項4に記載の電力系統管理装置。
【請求項6】
前記安定度表示部に表示される前記発電機の相差角は、当該発電機の最新の相差角と、当該発電機の所定時間前の相差角とを含み、
前記発電機の最新の相差角が、前記発電機の所定時間前の相差角よりも濃い色で表示される、請求項1ないし5のいずれかに記載の電力系統管理装置。
【請求項7】
前記表示手段は、前記安定度表示部に表示される前記電力相差角曲線として、前記電力系統の現在の構成における電力相差角曲線と、前記電力系統の構成を変化させた場合の電力相差角曲線とを重畳して表示させる、請求項1ないし6のいずれかに記載の電力系統管理装置。
【請求項8】
ユーザが指示を入力する入力手段をさらに有し、
前記表示手段は、ユーザが前記入力手段を介して前記表示装置に表示させた前記系統図表示部の電力系統図の構成要素を指定した場合に、前記指定された構成要素を、前記系統図表示部に表示された電力系統の構成から除外または追加することで電力系統の構成を変更するとともに、前記安定度表示部において、変更後の前記電力系統の電力系統の構成に応じた前記電力相差角曲線を表示させる、請求項1ないし7のいずれかに記載の電力系統管理装置。
【請求項9】
前記電力系統は複数の発電機を含み、
ユーザが指示を入力する入力手段をさらに有し、
前記安定度算出手段は、ユーザが前記入力手段を介して選択した前記発電機に対応する電力相差角曲線および相差角を算出する、請求項1ないし7のいずれかに記載の電力系統管理装置。
【請求項10】
少なくとも1つの発電機を含む電力系統における前記発電機の電力相差角曲線および前記発電機の相差角を算出する安定度算出ステップと、
前記電力系統の構成を示す電力系統図を表示する系統図表示部と、前記発電機の定態安定度を表示する安定度表示部と、を有する管理画面を表示装置に表示させる表示ステップと、を有し、
前記安定度算出ステップにおいて、前記発電機の電力相差角曲線と、前記発電機の相差角とを算出し、
前記表示ステップにおいて、前記系統図表示部および前記安定度表示部を一画面で表示させるとともに、前記安定度表示部において前記電力相差角曲線に前記発電機の相差角を重畳して表示させる、電力系統情報表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統を監視・運用するための電力系統管理装置および電力系統情報表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統の状態を可視化する技術の開発が行われている。たとえば、特許文献1では、電力系統の系統図や潮流の運用許容値の算出結果をそれぞれ別のタブで表示することで、電力系統の状態を可視化する技術が開示されている。また、特許文献2では、監視対象の現在および過去の状態を表示するリアルタイムモニタと、過去の重要な類似事例と、運用者が監視対象に対する操作を行う操作パネルとを一画面で表示する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/90021号
【特許文献2】特許第6360977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、再生可能エネルギー電源や蓄電池が多く利用されてきているが、再生可能エネルギー電源比率の増加によって系統全体の同期化力や慣性力が低下してしまうことが懸念されている。しかしながら、従来技術では、電力系統の定態安定度を可視化する技術が実用化されておらず、電力系統の定態安定度をリアルタイムで監視できるシステムが求められていた。特に、電力系統の定態安定度を電力系統の構成と合わせて一元的に監視することができるシステムが希求されていた。
【0005】
本発明は、ユーザに、電力系統の状態をより明確に把握させることができる、電力系統管理装置および電力系統情報表示方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電力系統管理装置は、少なくとも1つの発電機を含む電力系統の定態安定度を算出する安定度算出手段と、前記電力系統の構成を示す電力系統図を表示する系統図表示部と、前記発電機の定態安定度を表示する安定度表示部と、を有する管理画面を表示装置に表示させる表示手段と、を有し、前記安定度算出手段は、前記発電機の電力相差角曲線と、前記発電機の相差角とを算出し、前記表示手段は、前記表示装置に前記系統図表示部および前記安定度表示部を一画面で表示させるとともに、前記安定度表示部において前記電力相差角曲線に前記発電機の相差角を重畳して表示させる。
上記電力系統管理装置において、前記表示手段は、前記発電機の相差角が所定の閾値以上である警報対象発電機である場合に、前記系統図表示部に表示される電力系統図における前記警報対象発電機の色を強調色に変えて表示させるとともに、前記安定度表示部に表示される前記警報対象発電機の定態安定度指標として、前記電力相差角曲線の内側の領域であって前記警報対象発電機の相差角以下の領域を強調色で着色した警報領域を表示させる構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、前記閾値は、現在の電力系統の構成においてユーザが設定した相差角、および/または、前記ユーザが設定した相差角を、前記電力系統の電力系統の構成が変更された場合に応じて変換した相差角である構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、前記系統図表示部および前記安定度表示部に加え、前記電力系統を構成する発電機の相差角の時間変化を表示する相差角推移表示部、および/または、前記電力系統を構成する発電機の相差角の計測時刻を表示する基本情報表示部を、前記表示装置に一画面で表示させる構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、前記相差角推移表示部は、前記発電機の相差角の時間変化と、母線電圧、有効電力および/または無効電力の時間変化とを組み合わせて表示する構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、前記安定度表示部に表示される前記発電機の相差角は、当該発電機の最新の相差角と、当該発電機の所定時間前の相差角とを含み、
前記発電機の最新の相差角が、前記発電機の所定時間前の相差角よりも濃い色で表示される構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、前記表示手段は、前記安定度表示部に表示される前記電力相差角曲線として、前記電力系統の現在の構成における電力相差角曲線と、前記電力系統の構成を変化させた場合の電力相差角曲線とを重畳して表示させる構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、前記表示手段は、ユーザが前記入力手段を介して前記表示装置に表示させた前記系統図表示部の電力系統図の構成要素を指定した場合に、前記指定された構成要素を、前記系統図表示部に表示された電力系統の構成から除外または追加することで電力系統の構成を変更するとともに、前記安定度表示部において、変更後の前記電力系統の電力系統の構成に応じた前記電力相差角曲線を表示させる構成とすることができる。
上記電力系統管理装置において、ユーザが指示を入力する入力手段をさらに有し、前記安定度算出手段は、ユーザが前記入力手段を介して選択した前記発電機に対応する電力相差角曲線および相差角を算出する構成とすることができる。
本発明に係る電力系統情報表示方法は、少なくとも1つの発電機を含む電力系統における前記発電機の電力相差角曲線および前記発電機の相差角を算出する安定度算出ステップと、前記電力系統の構成を示す電力系統図を表示する系統図表示部と、前記発電機の定態安定度を表示する安定度表示部と、を有する管理画面を表示装置に表示させる表示ステップと、を有し、前記安定度算出ステップにおいて、前記発電機の電力相差角曲線と、前記発電機の相差角とを算出し、前記表示ステップにおいて、前記系統図表示部および前記安定度表示部を一画面で表示させるとともに、前記安定度表示部において前記電力相差角曲線に前記発電機の相差角を重畳して表示させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力系統の構成を示す電力系統図と、電力系統を構成する発電機の定態安定度を示す定態安定度指標とが一画面で表示されるため、ユーザに、電力系統の状態をより明確に把握させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る電力系統管理装置の構成図である。
【
図2】本実施形態に係る電力系統の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図2に示す電力系統の構成を変更させた例を示す図である。
【
図4】本実施形態で表示される管理画面の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態で表示される管理画面を説明するための図である。
【
図8】相差角推移表示部を説明するための図である。
【
図10】安定度表示部の一例を示す部分拡大図である。
【
図11】表示装置に表示される画面の他の例を示す図である。
【
図12】表示装置に表示される画面の他の例を示す図である。
【
図13】表示装置に表示される画面の他の例を示す図である。
【
図14】表示装置に表示される画面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下においては、電力系統を管理するユーザに、電力系統の定態安定度を含めた電力系統の状態を把握させるための電力系統管理装置を例示して説明する。また、以下においては、原子力発電、火力発電または水力発電などの同期発電機を単に「発電機」と称し、太陽光発電および風力発電などの再生可能エネルギー電源ならびに蓄電池などインバータを介して電力系統と接続する機器を包括して「再生可能エネルギー電源」と称す。さらに、電力系統に接続する発電機、再生可能エネルギー電源、電気所および負荷をまとめて、単に「構成要素」とも称す。加えて、発電機内部の相差角を取り扱う場合に、内部相差角と称して使い分ける場合もあるが、本実施形態では、「相差角」と称することとする。また、本実施形態では、電力系統を管理・運用する管理者または運用者が、本実施形態に係る電力系統管理装置を利用するが、以下においては、このような管理者または運用者を「ユーザ」と称することとする。
【0010】
電力系統とは、(1)太陽光、風力などの再生可能エネルギー電源や蓄電池、(2)原子力発電所、火力発電所、水力発電所、揚水発電所、地熱発電所などが接続されている電気所、変電所、発電所、および/または、(3)工場、ビルなどの需要消費個所とそれらを電気的に接続する送電線、配電線などが結合され、電気エネルギーの輸送/流通が行われている形態であり、6kV、22kV、66kV~500kVなど、様々な電圧階級により構成されており、その組み合わせは、既知の形態、形式に依拠しない。電力系統では、エネルギーを供給する設備とエネルギーを消費する設備とが接続されており、電力系統全体で捉えると、少なくとも1つの発電機と1つの需要への電気エネルギーの輸送/流通のように俯瞰/縮約することができる。また、電力系統の一部分に着眼すると、その一部領域においても、少なくとも1つの発電機と1つの需要への電気エネルギーの輸送/流通が行われている。ここで、発電機には、発電設備、蓄電設備、インバータ電源など、前述した様々な発電形態がある。
このような発電機と需要の関係で構成される部分領域が複数存在し、これらが相互に電気的に接続されて、集合体を構成したものを俯瞰すると、多数の発電機/発電設備が縮約されて、1つ以上の発電機と需要のように考えることができる。
電力系統の定態安定度をリアルタイムで可視化する/電力系統の定態安定度を電力系統の構成と合わせて一元的に監視するとは、1つの発電機を指す場合もあれば、複数の発電機の場合、あるいは、多数の発電機を縮約して、1つの発電機のように視認することにより、管理者が直感的に、電力系統の安定性を把握させるものである。
したがって、1つの発電機とは、1台の発電機を指す場合に加えて、多数の発電機が電気的に合成されて縮約されているものを指す場合もある。
【0011】
図1は、本実施形態に係る電力系統管理装置10の構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電力系統管理装置10は、通信装置11と、演算装置12と、記憶装置13と、データベース14と、表示装置15、報知装置16と、入力装置17と、を有する。本実施形態に係る電力系統管理装置10では、ユーザが、表示装置15に表示された電力系統の状態を監視しており、マウスやキーボードなどの入力装置17を操作することで、ユーザの指示を電力系統管理装置10に入力することが可能となっている。以下に、電力系統管理装置10の各構成について説明する。
【0012】
演算装置12は、記憶装置13に記憶されているプログラムを実施することで、電力系統における系統定数や対象電力系統の各構成要素の出力値を取得する取得機能と、電力系統の各構成要素の出力値に基づいて電力系統の定態安定度を算出する安定度算出機能と、電力系統の電力系統図および発電機の定態安定度を表示装置15に表示させる表示機能と、報知を行う報知機能と、を有する。以下に、演算装置12が有する各機能について説明する。
【0013】
演算装置12の取得機能は、電力系統における系統定数を取得する。本実施形態では、データベース14に、送電線や変圧器のインピーダンス、発電機の内部定数などの系統定数が予め格納されており、取得機能は、これら電力系統の系統定数をデータベース14から取得することができる。また、本実施形態では、電力系統の各構成要素(発電機、再生可能エネルギー電源、電気所、負荷など)の電圧値、電流値、発電電力値(以下、電力値)などの出力値が、電力系統に接続された計測装置(不図示)により計測されており、計測装置により計測された出力値が、電力系統管理装置10に送信されている。これにより、取得機能は、通信装置11を介して、電力系統の各構成要素の出力値を取得することができる。また、本実施形態において、取得機能は、電力系統に接続された各計測装置から、電力系統の各構成要素の出力値に加えて、出力時刻情報を含むGPS情報を取得することで、各構成要素の出力値が出力された時刻の情報も得ることができる。なお、電力系統に接続された各計測装置からの情報は、直接、通信される場合に加えて、制御所/給電指令所などの集中監視制御システムを経由して、情報連係してもよい。
【0014】
ここで、
図2は、本実施形態に係る電力系統の構成の一例を示す図である。
図2に示す電力系統では、発電機G、再生可能エネルギー電源Pおよび無限大母線IBが、送電線L1,L2を介して接続されている。この場合、取得機能は、電力系統の系統定数として、送電線L1の複素インピーダンスr
1+jx
1および送電線L2の複素インピーダンスr
2+jx
2を、データベース14から取得することができる。また、取得機能は、通信装置11を介して、発電機Gの電圧値V
Gおよび電流値I
G、再生可能エネルギー電源Pの発電電力P
P、無限大母線IBの電圧値V
IBを、電力系統に接続する計測装置(不図示)から取得することができる。
【0015】
演算装置12の安定度算出機能は、電力系統の定態安定度を算出する。具体的に、安定度算出機能は、まず、監視の対象とする発電機の電圧値Vおよび電流値Iに基づいて、発電機の有効電力値Pを算出する。たとえば、
図2に示す例において、監視の対象とする発電機が発電機Gである場合、安定度算出機能は、同一のサンプリング周期で計測された発電機Gの電圧値V
G、電流値I
G、および、これらの位相角に基づいて、発電機Gの現在の有効電力値P
Gを算出するとともに、指定する遠方電気所(無限大母線に相当する電気所)の計測値θ基準との差から、発電機の相差角である計測値θ
Gを取得する。
【0016】
また、安定度算出機能は、電力系統に接続される各構成要素の出力値を用いて、電力系統を構成する各発電機の定態安定度を算出する。具体的には、安定度算出機能は、まず、電力系統の現在の構成における発電機の発電電力値Pと、指定する遠方電気所(たとえば無限大母線)を基準とする相差角θとの関係を示す電力相差角曲線と、当該電力相差角曲線のピーク値である定態安定度限界を、発電機の定態安定度を示す定態安定度指標として算出する。
【0017】
たとえば、
図2に示す例において、安定度算出機能は、発電機Gの有効電力値P
Gと、発電機Gの相差角θ
Gとの関係を示す電力相差角曲線を算出する。ここで、
図2に示す電力系統の現在の構成では、発電機G、再生可能エネルギー電源Pおよび無限大母線IBが送電線L1,L2と接続しているため、発電機Gの有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gは、論理上、下記式(1)に示す関係を有する。なお、下記式(1)において、P
G+jQ
Gは発電機Gの複素電力、r
1+jx
1は送電線L1の複素インピーダンス、r
2+jx
2は送電線L2の複素インピーダンス、V
Gは発電機Gの電圧値、V
Pは再生可能エネルギー電源Pの電圧値であり、θ
Pは下記式(2)により求めることができる再生可能エネルギー電源Pの相差角である。また、下記式(2)において、P
Pは再生可能エネルギー電源Pの有効電力値である。
【数1】
【数2】
【0018】
安定度算出機能は、上記式(1)に、発電機Gの電圧値VG、再生可能エネルギー電源Pの電圧値VP、無限大母線IBの電圧値VIB、送電線L1の複素インピーダンスr1+jx1、送電線L2の複素インピーダンスr2+jx2を代入することで、発電機Gの有効電力値PGと相差角θGとの関係を示す電力相差角曲線を算出することができる。また、安定度算出機能は、算出した発電機Gの電力相差角曲線において、有効電力値PGがピークとなる相差角を、定態安定度限界として算出することができる。
【0019】
さらに、本実施形態において、安定度算出機能は、電力系統の現在の構成を変化させた場合の、電力相差角曲線と定態安定度限界も算出する。ここで、
図3は、電力系統の構成を変更させた例を示す図である。
図3(A)は、
図2に示す電力系統の現在の構成から再生可能エネルギー電源Pを外した構成であり、
図3(B)は、
図2に示す電力系統の現在の構成に再生可能エネルギー電源P2を追加した構成である。また、
図3(C)は、
図2に示す電力系統の現在の構成に再生可能エネルギー電源P2および負荷Bを追加した構成であり、
図3(D)は、
図2に示す電力系統の現在の構成から再生可能エネルギー電源Pを外して負荷Bを追加した構成である。本実施形態において、安定度算出機能は、
図2に示す電力系統の現在の構成における電力相差角曲線および定態安定度限界だけではなく、
図3(A)~(D)に示すように、電力系統の現在の構成を変化させた場合の、電力相差角曲線と定態安定度限界も算出する。
【0020】
なお、
図3(A)~(D)に示す構成での電力相差角曲線は、公知の方法で算出することができるため、説明は割愛する。また、電力系統の構成を変化させた場合の、変化後の電力系統の構成は、特に限定されないが、たとえば、ユーザが、キーボードやマウスなどの入力装置17を用いて、表示装置15に表示される電力系統図の各構成をクリックすることで指示する構成とすることができる。さらに、電力系統において計測できない構成要素の出力値については、計測された他の構成要素の出力値や既知の送電線インピーダンスを用いることで、再生可能エネルギー電源などに起因する潮流の影響を補正し求めることもできる。また、本実施形態において、安定度算出機能は、計測装置から送信されるGPS情報(出力時刻情報を含む)を用いて、同じ時刻で出力された出力値に基づいて電力相差角曲線を算出する構成としているが、系統制御所向けのテレメータなど、計測したサンプリング時刻の異なる計測値を単独で、あるいは、複合的に用いて、電力相差角曲線を算出する構成とすることもできる。たとえば、再生可能エネルギー電源などの事業者設備においては、電力系統のユーザが管理する他の電気所の計測器と同期して計測を行う機器を設置できない場合がある。このような場合、サンプリング時刻を同期せずに、再生可能エネルギー電源の発電量や需要負荷に大きな変動がないものとして演算を行い、結果を表示する構成とすることができる。また、送電線による損失は小さいため、非計測電気所の有効電力値を、他の電気所の有効電力の総和によって代替する構成とすることもできる。
【0021】
演算装置12の表示機能は、電力系統に関する複数の情報を一元的に表示装置15のディスプレイに表示させる。
図4は、表示装置15のディスプレイに表示される管理画面100の一例を示す図である。また、
図5は、表示装置15のディスプレイに表示される管理画面100を説明するための図である。
図5に示すように、本実施形態に係る電力系統管理装置10では、基本情報表示部200と、系統図表示部300と、相差角推移表示部400と、安定度表示部500とを有する管理画面100が、表示機能により、表示装置15のディスプレイに表示される。以下に、管理画面100を構成する各表示部について説明する。
【0022】
基本情報表示部200には、電力系統に接続された各計測装置(不図示)で計測値が取得された時刻が表示される。この時刻は、計測装置において、計測値とともにGPS(GPS:Global Positioning System)との同期により取得された時刻、あるいは、計測機器と同期している通信装置11で記録された計測値取得時の時刻である。表示機能は、通信装置11を介して最新の時刻を受信した場合、基本情報表示部200に表示している時刻を最新の時刻に更新する。また、表示機能は、基本情報表示部200において、更新時刻を秒まで表示させる。これにより、ユーザに、相差角の更新がリアルタイムで行われていることを把握させることができる。
【0023】
また、本実施形態において、基本情報表示部200には、「警報停止」、「警報情報」、「表示復帰」および「整定」のボタンが設けられている。ここで、
図6は、基本情報表示部200を説明するための図であり、(A)は、平常時の状態(電力系統が安定しており、かつ、電力系統が不安定となることが予想されていない状態)を示す図であり、(B)は、電力系統は安定しているが、予め想定されている事象(たとえば、送電線1回線を停止、再生可能エネルギー電源の発電増加、需要の減少など)の発生により電力系統が不安定となることが予想される状態を示す図であり、(C)は、現在の電力系統が不安定な状態を示す図である。なお、「電力系統が安定」している状態とは、すべての発電機の相差角θが所定の閾値δ1,δ2未満である状態であり、「電力系統が不安定」である状態とは、緩やかな負荷変化などの擾乱によっても安定に送電できない状態であって、電力系統に接続される1つ以上の発電機の相差角θが所定の閾値δ1またはδ2以上となると、この不安定領域に近付いている状態をいう。なお、所定の閾値δ1,δ2については、安定度表示部500において説明する。
【0024】
図6(A)に示すように、電力系統の状態が安定している場合には、「警報停止」、「警報情報」および「表示復帰」のボタンはグレーなどの平常状態を示す色で表示されるとともに、ボタンは押下できない状態に設定される。
一方、現在の電力系統は安定しているが、予め設定された事象(たとえば、送電線1回線を停止、再生可能エネルギー電源の発電増加、需要の減少など)の発生により電力系統が不安定となると予想されており、その状態において、1つ以上の発電機の相差角θが第2閾値δ2以上となる場合には、「警報情報」および「表示復帰」のボタンは赤色などの異常状態であることを示す強調色で表示され、また「警報情報」ボタンが押下可能な状態とされる。この状態において、ユーザは入力装置17を介して「警報状態」ボタンを押下することで、表示機能に、異常の詳細を示す画面を表示装置15のディスプレイに表示させることができる。また、1つ以上の発電機の相差角θが第2閾値δ2以上となった後、電力系統状態の変化により、すべての発電機の相差角θが第2閾値δ2を下回ると、「表示復帰」ボタンが押下可能な状態となり、ユーザは入力装置17を介して「表示復帰」ボタンを押下することで、表示機能に、基本情報表示部200、系統図表示部300および安定度表示部500において赤色で表示している「警報情報」や「表示復帰」などのボタン、電力系統図の発電機の図形、および警報領域A2(詳細は後述する)の表示を平常時の状態(グレーなどの色表示)に戻すことができる。一方、すべての発電機の相差角θが第2閾値δ2以上である状態が継続している場合は、平常時の状態(グレーなどの色表示)に戻すことができない。ただし、
図6(B)に示すように、現在の電力系統は安定しているが、予め設定された事象の発生により電力系統が不安定となる場合には、警報音は出力されない。
また、1つ以上の発電機の相差角θが第1閾値δ1以上となり、現在の電力系統が不安定な状態に近付いた場合には、
図6(C)に示すように、「警報停止」、「警報情報」および「表示復帰」のボタンは赤色などの強調色で表示され、「表示復帰」を除くボタンが押下可能な状態に設定される。この場合、報知装置16から警報音が出力され、ユーザは、「警報停止」ボタンを押下することで、この警報音を停止することができる。また、
図6(B)の場合と同様に、
図6(C)に示す場合でも、「警報情報」ボタンを押下することで、異常の詳細を示す画面を表示することができる。
【0025】
また、
図6(A)~(C)に示すように、本実施形態では、基本情報表示部200に「整定」ボタンが設けられている。ユーザは入力装置17を介して「整定」ボタンを押下することで、
図6(D)に示す画面を表示することができる。なお、
図6(D)は、各発電機の機器定数、同発電機用の変圧器の三相結線方式の整定のための画面の一例を示す。この画面を介して、ユーザは、たとえば発電機について機器定数(たとえば内部インピーダンス)を整定することができ、変圧器について機器定数、結線(たとえば角変位)を整定することができる。
【0026】
系統図表示部300には、ユーザが電力系統の構成を俯瞰するための電力系統図が表示される。
図7は、系統図表示部300を説明するための図である。
図7において、「ss」の表記は変電所、「ps」の表記は発電所であり、これら設備は送電線を介して接続されている。
図7の右側に示す発電所psにおいては、2つの発電機G1およびG2が表示されており、選択した発電機あるいは予め選択設定した発電機に対応する電力相差角曲線が安定度表示部500に表示される。本実施形態において、表示機能は、系統図表示部300に表示される電力系統図において、送電線および変圧器を示す図形を、リアクタンスに比例する長さで描画し、表示装置15に表示させる。これにより、管理者に、送電線および変圧器のリアクタンスを直感的に把握させることができる。また、公知の電気理論では、発電機の定態安定度は、送電線、変圧器の物理定数であるリアクタンスの逆数となり、送電線および変圧器を、物理定数であるリアクタンスに比例した長さで表示することで、発電機のおおよその定態安定度をユーザに把握させることもできる。
【0027】
また、表示機能は、
図7に示すように、系統図表示部300に表示される電力系統図の各発電機を示す図形の傍に、それぞれの発電機の相差角δを数字で表示させる。これにより、ユーザに、各発電機の相差角を俯瞰的に把握させることができる。なお、発電機の相差角は、計測値から算出される発電機内部の値であり、発電機が電力を供給する電力系統の遠方にある電気所を相差角の基準とし、基準とした電気所の位相を0度とした相対値である。このように、発電機の相差角は、遠方の電気所の位相を基準(0°)とした場合の基準とのずれを示すものであり、発電機の相差角を俯瞰的に示すことで、ユーザに、電力系統の捻じれを把握させることができる。また、表示機能は、
図7に示すように、電力系統図において、各発電所での電圧値や発電機の複素電力(P+jQ)も数値で表示することもできる。
【0028】
さらに、表示機能は、ユーザが入力装置17を操作することで、系統図表示部300に表示される電力系統図の構成を変更する機能を有している。具体的には、ユーザが入力装置17を操作して、系統図表示部300に表示される電力系統図を構成する送電線や変圧器などの構成要素を指定することで、指定した送電線や変圧器を構成から除外または構成に追加することができる。たとえば、
図7に示す例において、ユーザが入力装置17を用いて、管理画面100上のポインターを、1号線と2号線が併用されて二重化されている送電線のうち1つの送電線L3の位置まで移動させて、送電線L3を指定(たとえばマウスのクリックなどにより指定)することで、送電線L3がグレーなどに表示され、送電線L3が停止した状態を示す電力系統図へと変化する。この場合、安定度算出機能により、送電線L3が停止した状態の電力系統の構成で、各発電機の定態安定度が算出し直され、後述する安定度表示部500において、変更後の構成における電力相差角曲線として、送電線L3が停止した電力系統の構成での電力相差角曲線が表示されることとなる。このように、本実施形態では、電力系統の構成を系統図表示部300に表示される電力系統図の構成を指定するだけで変更することができるため、系統事故や作業等による設備停止を考慮した場合など、電力系統の構成の一部を変更した場合の影響を迅速かつ容易に、ユーザに把握させることが可能となる。なお、ユーザは、日々、電力系統の状態を把握しており、その経験に基づいて、あるいは、仮説的に、送電線、変圧器の停止などの条件を指定して、電力系統の構成を変更することができる。
【0029】
また、表示機能は、系統図表示部300に表示される電力系統図において、発電機の相差角θ
Gが予め設定した閾値δ1,δ2以上となった場合に、当該発電機の図形を赤色で着色して強調表示する機能も有する。たとえば、
図7に示す例においては、発電機G2が、発電機G2の相差角θ
G2が予め設定した閾値δ1および閾値δ2未満であるため、電力系統図においてグレーで表示され、発電機G1は、発電機G1の相差角θ
G1が閾値δ1または閾値δ2以上であるため、電力系統図において赤色で表示される。これにより、管理者に、相差角θが大きく定態安定度が不安定領域に近付いている発電機を俯瞰して明確に把握させることができる。なお、上記閾値δ1,δ2の詳細については、安定度表示部500において説明する。
【0030】
相差角推移表示部400には、各発電機の相差角の時間変化を表すグラフが表示される。ここで、
図8は、相差角推移表示部400を説明するための図である。なお、本実施形態において、相差角推移表示部400に表示されるグラフは、横軸が時間を示し、縦軸が各発電機の相差角を示す。
図8(A)に示すように、相差角推移表示部400では、電力系統に接続されるすべての発電機の相差角の時間変化を表示することができ、また、ユーザが入力装置17を操作することで、ユーザが所望する発電機の相差角の時間変化のみを表示することもできる。たとえば、表示機能は、
図8(B)に示すように、相差角推移表示部400に表示する発電機を選択するための画面を表示装置15に表示させることができ、ユーザが入力装置17を介して、相差角推移表示部400に表示させたい発電機を選択した場合に、表示機能は、
図8(C)に示すように、ユーザにより選択された発電機の相差角の時間変化のみを、相差角推移表示部400に、拡大表示させることができる。
【0031】
本実施形態においては、安定度算出機能により、各発電機の相差角が数秒から数分単位で繰り返し算出されており、表示機能は、安定度算出機能により算出された各発電機の相差角を時系列に沿ってグラフに描画することで、各発電機における相差角の時間変化を、相差角推移表示部400に表示させることができる。たとえば、表示機能は、直近の(たとえば直近10秒間における)相差角の時間変化を、相差角推移表示部400に表示させることができる。これにより、ユーザは、発電機の相差角の時間変化から、発電機の状況を直感的に把握することができる。
【0032】
また、
図8(A),(C)に示すように、本実施形態では、各発電機の相差角の時間変化を示す表示範囲が、縦方向(図の上下方向)に並んで設定されており、この表示範囲内において各発電機の相差角の時間変化が表示される。なお、表示機能は、相差角推移表示部400に表示させる発電機の相差角の表示範囲のスケールを自動で調整する機能を有してもよい。たとえば、また、発電機の出力は、停止時のゼロから定格出力まで変化可能であるため、表示機能は、発電機の出力がゼロから定格出力(最大値)となるまでの相差角の範囲を相差角の表示範囲として初期設定するとともに、直近10秒間における発電機の相差角の最大値と最小値とを抽出し、発電機の相差角の時間変化の表示範囲の上限値を最大値×1.2となる値とし、下限値を最小値×0.8となる値とし、上限値と下限値との中央値を中心軸として、相差角推移表示部400に表示させる発電機の相差角の表示範囲を適宜変更することができる。また、表示機能は、直近の相差角の時間変化と、所定時間前の相差角の時間変化とを重畳して、表示装置15に表示させる構成としてもよい。たとえば、表示機能は、直近10秒間における直近の相差角の時間変化と、1分前または2分前、あるいは、30分前あるいは1時間前などの過去の相差角の時間変化とを、表示装置15に重畳して表示させる構成とすることができる。また、この場合、過去の相差角の時間変化に対して、直近の相差角の時間変化を濃い色で表示することが好ましい。これにより、ユーザに、発電機の相差角の直近の変化を、過去の相差角の変化と比較して直感的に把握させることができる。さらに、表示機能は、各発電機の相差角の時間変化に加えて、あるいは、各発電機の相差角の時間変化に代えて、母線電圧または発電機出力(有効電力Pや無効電力Q)などの時間変化を相差角推移表示部400に表示させる構成とすることもできる。
【0033】
安定度表示部500には、発電機の安定性指標とされる電力相差角曲線(発電電力と相差角で表す図表)が表示される。電力相差角曲線は、安定度算出機能により、現在の電力系統の構成および電力系統の状態から計算される曲線(計算値) であって、再生可能エネルギー電源の発電増減や需要増減、送電線停止などの電気的な変化を考慮し、電気理論に基づいて算出される(たとえば、縮約モデルによる電気回路計算や、電圧潮流計算など公知の手法により算出される)。表示機能は、安定度算出機能により算出された電力相差角曲線を、表示装置15に出力することで、表示装置15に、電力相差角曲線を表示させることができる。
【0034】
図9は、本実施形態に係る安定度表示部500を説明するための図であり、安定度表示部500の一例を示す図である。また、
図10は、本実施形態に係る安定度表示部500の一例を示す部分拡大図である。表示機能は、
図9および
図10に示すにように、各発電機の定態安定度を示す定態安定度指標を表示する。具体的には、表示機能は、定態安定度指標として、安定度算出機能により算出された電力系統の現在の構成での電力相差角曲線C1、および、対象電力系統の構成を変更させた場合の電力相差角曲線C2を重畳してグラフ上に描画し、表示装置15のディスプレイに表示させる。また、表示機能は、定態安定度指標として、
図9に示すように、発電機Gの現在の有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gを示すプロットP1をグラフ上に描画し、表示装置15のディスプレイに表示させる。また、本実施形態において、表示機能は、定態安定度指標として、
図9(B)、
図9(C)および
図10(A)~(C)に示すように、発電機Gの所定時間前(たとえば1分前)の有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gを示すプロットP2や、さらに前の時刻(たとえば2分前)の有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gを示すプロットP3もグラフ上に描画し、表示装置15のディスプレイに表示させる。この場合、表示機能は、たとえば、現在の有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gを示すプロットP1を濃い色で表示し、所定時間前の有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gを示すプロットP2をP1よりも薄い色で表示し、さらに前の時刻での有効電力値P
Gおよび相差角θ
Gを示すプロットP3をP1およびP2よりもさらに薄い色で表示する構成とすることができる。これにより、ユーザに、発電機の有効電力値Pおよび相差角θがどのように時間変化しているかを直感的に把握させることができる。
【0035】
また、安定度表示部500では、
図9(A)~(C)に示すように、閾値設定領域A1において、発電機の相差角が所定値以上となった場合に、ユーザに報知するための閾値が設定できるようになっている。具体的には、閾値設定領域A1において、ユーザは、入力装置17を介して、現在の電力系統の構成において発報すべき発電機の相差角を示す第1閾値δ1を設定することができる。なお、第1閾値δ1は、予め想定されている事象に基づいて予め自動で設定される構成とすることもでき、この場合も、ユーザが予め設定された第1閾値δ1を適宜変更可能な構成とすることもできる。また、本実施形態において、表示機能は、第1閾値δ1が設定されると、設定された第1閾値δ1に基づいて、第2閾値δ2を自動で設定する。具体的には、表示機能は、まず、電力系統の構成を変更した場合の電力相差角曲線C2上における第1閾値δ1での有効電力値P
δ1を算出する。そして、表示機能は、現在の電力系統の構成における電力相差角曲線C1上での、算出した有効電力値P
δ1における相差角θを、第2閾値δ2として算出し、設定することで、安定度表示部500に第2閾値δ2を表示させる。
【0036】
そして、表示機能は、定態安定度指標として、発電機の相差角が第1閾値δ1または第2閾値δ2を超えた場合に、
図9(B),(C)および
図10(B),(C)に示すように、安定度表示部500に、たとえば赤色などの強調色に着色した警報領域A2を重畳して表示させる。たとえば、
図9(A)および
図10(A)に示す例では、現在の電力系統の構成における発電機の相差角が第1閾値δ1および第2閾値δ2を超えていないため、表示機能は、警報領域A2の表示を行わない。これに対して、
図9(B)および
図10(B)に示す例では、現在の電力系統の構成における発電機の相差角が第2閾値δ2を超えている。また、
図9(C)および
図10(C)に示す例では、現在の電力系統の構成における発電機の相差角が第2閾値δ2および第1閾値δ1を超えている。この場合、表示機能は、
図9(B),(C)および
図10(B),(C)に示すように、電力相差角曲線の内側であって、発電機の現在の相差角θ以下となる領域を警報領域A2として赤色などで着色する。これにより、発電機の相差角が大きく電力系統が不安定になっていることを、ユーザに直感的に把握させることができる。また、本実施形態では、
図9(B)および
図10(B)に示すように、現在の電力系統の構成における発電機の相差角が、電力系統の構成が変更された場合の閾値である第2閾値δ2を超えている場合には、警報領域A2を表示するが警報までは出力せず、現在の構成での閾値である第1閾値δ1を超えた場合に警報まで出力させることで、第2閾値δ2を超えている場合にはユーザに注意喚起を行わせ、第1閾値δ1を超えた場合にはユーザに迅速な処置を行わせることができる。
【0037】
また、本実施形態では、ユーザが入力装置17を介して、表示装置15に表示された電力系統図の各構成を指定することで、系統図表示部300に表示される電力系統図の構成を変更することができ、電力系統図の構成が変更された場合に、表示装置15は、安定度表示部500において、変更された電力系統図の構成に合わせて、各発電機の変更後の電力相差角曲線が新たに算出される。表示装置15は、変更後の電力相差角曲線が新たに算出された場合、構成変更後の電力相差角曲線に基づいて第2閾値δ2も新たに算出される。そして、表示装置15は、新たに算出された第2閾値δ2を安定度表示部500に表示するとともに、現在の発電機の相差角が、新たに算出された第2閾値δ2以上である場合には、基本情報表示部200に表示される「警報情報」や「表示復帰」などのボタンを赤色に着色して表示し、系統図表示部300に表示される電力系統図の発電機の図形を赤色に着色して表示し、さらに安定度表示部500において赤色に着色した警報領域A2を表示する。これにより、ユーザに、電力系統の構成と各発電機の定態安定度などを連動した形で、電力系統の構成を変更した場合に、各発電機の定態安定度がどのように変化するかをより明確に把握させることができる。
【0038】
また、本実施形態において、安定度算出機能は、一定時間ごと(たとえば数秒ごと)に、各発電機の有効電力値Pおよび相差角θを算出しており、表示機能は、安定度算出機能により算出された最新の有効電力値Pおよび相差角θを示すプロットP1を、安定度表示部500に表示する。この場合、表示機能は、新たに算出された有効電力値Pおよび相差角θの算出時刻に対して、所定時間前の時刻の有効電力値Pおよび相差角θを、プロットP2,P3として安定度表示部500に表示する。すなわち、表示機能は、最新の有効電力値Pおよび相差角θを示すプロットP1を安定度表示部500に表示するとともに、たとえば、最新の有効電力値Pおよび相差角θを算出した算出時刻から1分前に算出した有効電力値Pおよび相差角θを新たなプロットP2として安定度表示部500に表示し、最新の有効電力値Pおよび相差角θを算出した算出時刻から2分前に算出した有効電力値Pおよび相差角θを新たなプロットP3として安定度表示部500に表示する。
【0039】
なお、本実施形態において、安定度算出機能は、数秒単位で有効電力値Pおよび相差角θを繰り返し算出するが、
図9および
図10に示すように、表示機能は、最新の有効電力値Pおよび相差角θを算出した算出時刻から1分前および2分前などのように、繰り返し算出している有効電力値Pおよび相差角θのうち、予め定めた所定時間前の有効電力値Pおよび相差角θのみを抽出しプロットしている。これは、直近の有効電力値Pおよび相差角θ(たとえば、2秒ごとに有効電力値Pおよび相差角θを算出している場合には、最新の有効電力値Pおよび相差角θと、2秒前および4秒前の有効電力値Pおよび相差角θ)をプロットしてしまうと、発電機の相差角の変化が小さくなり、相差角の変化についての視認性が低下してしまうおそれがあるためである。また、本実施形態において、安定度算出機能は、一定時間ごと(たとえば10分ごと)に、各発電機の電力相差角曲線および定態安定度限界を計算しており、表示機能は、安定度算出機能により算出された最新の電力相差角曲線および定態安定度限界を、安定度表示部500に表示する。これにより、ユーザに、刻々と変化する電力系統の状態を、リアルタイムで把握させることができる。
【0040】
なお、表示機能は、滑らかな電力相差角曲線を表示するために、以下のように、電力相差角曲線を描画することができる。すなわち、表示機能は、電力系統の構成に変化がある場合には、発電機の出力をゼロの状態から定格出力値までを一定数で分割(たとえば10分割)し、分割値の最大値(定格出力値)で出力した場合の相差角が予め設定した値(たとえば90°)を超える場合には、最大値の1つ前の分割値(9番目の分割値)までを一定数(たとえば10分割)で再度分割し、電力系統の構成に変化があった場合の電力相差角曲線を描画する。なお、1つ前の分割値でも相差角が予め設定した値を超える場合には、上記分割のやり直しを繰り返す。このように、電力相差角曲線を描画することで、滑らかな曲線の電力相差角曲線を描画することができる。
【0041】
また、表示機能は、電力系統を構成する送電線や変圧器の一部を停止した場合など、電力系統の構成を変化させた場合には、公知の予測などに基づき需要を変化させた場合の閾値、および、電力系統の構成を元に戻した場合の閾値の両方を用いて、警報を報知するか否かを判定する構成とすることもできる。
【0042】
このように、本実施形態においては、表示装置15のディスプレイに、基本情報表示部200と、系統図表示部300と、相差角推移表示部400と、安定度表示部500とが一画面で視認できる管理画面100が表示される。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る電力系統管理装置10では、表示装置15のディスプレイに、電力系統の電力系統図および当該電力系統を構成する発電機の定態安定度が一画面で表示されるため、電力系統の管理者/運用者は、電力系統を構成する発電機の定態安定度を、電力系統の電力系統図と合わせて把握することができる。また、本実施形態では、電力系統の電力系統図および発電機の定態安定度に加えて、電力系統を構成する発電機の相差角の時間変化、および/または、電力系統を構成する発電機の相差角の計測時刻(発電機の相差角の更新時刻)を一画面で表示するため、ユーザは、電力系統を構成する発電機の相差角の時間変化、および、電力系統を構成する発電機の相差角の計測時刻も統一的に把握することができ、電力系統の状態をより直感的かつ明確に把握することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る電力系統管理装置10では、安定度表示部500において、発電機の現在の相差角が、第1閾値δ1または第2閾値δ2を超えた場合に、電力相差角曲線の内側であって発電機の相差角θ以下となる領域を、警報領域A2として、赤色などの強調色で着色して表示することで、ユーザに、発電機の相差角が大きくなり定態安定度が不安定領域に近付いていることを直感的に把握させることができる。また、本実施形態では、発電機の相差角が第1閾値δ1または第2閾値δ2を超えたことを示す警報領域A2を、電力相差角曲線を用いて視覚的にsinθの軌跡の内側の領域として可視化することで、発電機の相差角が第1閾値δ1または第2閾値δ2を超えて大きくなるほど、警報領域A2の面積は加速度的に大きくなるため、ユーザの危機意識を効果的に刺激することができる。
【0045】
さらに、本実施形態に係る電力系統管理装置10では、ユーザが入力装置17を介して、表示装置15に表示された電力系統図の各構成を指定することで、系統図表示部300に表示される電力系統図の構成を変更することができ、電力系統図の構成が変更された場合に、表示装置15は、安定度表示部500において、変更された電力系統図の構成に合わせて各発電機の定態安定度を表示する。また、系統図表示部300に表示される電力系統図の構成が変更されると、構成変更後の電力相差角曲線が新たに算出され、新たに算出された構成変更後の電力相差角曲線に基づいて第2閾値δ2も新たに算出される。そして、表示装置15は、新たに算出された第2閾値δ2を安定度表示部500に表示するとともに、現在の発電機の相差角が、新たに算出された第2閾値δ2以上である場合には、系統図表示部300に表示される電力系統図の発電機の図形を赤色に着色して表示し、さらに安定度表示部500において赤色に着色した警報領域A2を表示する。これにより、ユーザに、電力系統の構成と各発電機の定態安定度を連動した形で、電力系統の構成の変更前後の状態を比較させることができるため、電力系統の構成の変化により各発電機の定態安定度がどのように変化するかをより明確に把握させることができる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0047】
たとえば、上述した実施形態では、
図4および
図5に示す管理画面100の構成を例示して説明したが、たとえば、ユーザが入力装置17を操作することで、
図11~14に示すように、基本情報表示部200、系統図表示部300、相差角推移表示部400および安定度表示部500の位置を適宜変更可能な構成とすることができる。また、本発明は、少なくとも、系統図表示部300および安定度表示部500を一画面で表示できれば、上記画面構成に限定されず、たとえば、ユーザが入力装置17を操作することで、
図12および
図13に示すように、基本情報表示部200、系統図表示部300、および安定度表示部500のみを表示する構成とすることもできる。さらに、
図11に示す例では、
図4に示す例と同様に、安定度表示部500に4つの発電機の定態安定度指標を表示する構成を例示しているが、たとえば、ユーザが入力装置17を操作することで、1つの発電機の定態安定度指標のみを拡大表示すること、あるいは、1ないし3、または5以上の発電機の定態安定度指標を表示する構成とすることもできる。なお、
図12では、5つの発電機の定態安定度指標を表示する構成としており、
図13および
図14では、2つの発電機の定態安定度指標を表示する構成としている。加えて、表示機能は、系統図表示部300に表示されたすべての発電機の定態安定度指標を安定度表示部500に表示させる構成とすることもできるし、あるいは、ユーザが入力装置17を介して系統図表示部300で指定した発電機の定態安定度指標だけを安定度表示部500に表示させる構成とすることもできる。
【0048】
また、上述した実施形態では、管理画面100に、基本情報表示部200、系統図表示部300、相差角推移表示部400および安定度表示部500を表示する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、管理画面100に、電力系統における振動性の兆候を示す表示部も表示する構成とすることができる。電力系統の特性として、振動性の兆候が現れることは公知であり、たとえば、このような兆候(あるいは未知の兆候)を抽出し、クラスタ分類などの統計処理を行って兆候を検出し、兆候が検出された場合に発報を行うとともに、兆候の検出に用いたデータ(相差角、電圧変動など)を管理画面100に表示する構成とすることもできる。たとえば、電力系統管理装置10は、安定度算出機能により、発電機の相差角や電圧変動などのデータを、1時間、1日間、1カ月間あるいは1年間などの期間で統計処理し偏差値を求めておき、直近のデータと求めた偏差値との逸脱量が所定の閾値以上となった場合に、表示機能により、発電機の相差角や電圧変動などのデータを、振動性の兆候を示す指標として管理画面100に表示することができる。なお、兆候の検出には、関数を利用してもよいし、AI(人工知能)を利用してもよい。また、管理画面100に表示するデータは、その目的に応じて適宜設定することができ、たとえば、発電機の相差角および電圧変動の一方または双方を表示する構成としてもよし、複数の項目の中から優先順位を設定して表示してもよし、あるいは、複数の項目の中から変化の大きいものを優先して表示する構成としてもよい。
【0049】
さらに、上述した実施形態では、発電機の相差角θが予め設定した閾値δ1,δ2以上となった場合に、基本情報表示部200に表示される「警報情報」や「表示復帰」などのボタンを赤色に着色して表示し、系統図表示部300に表示される電力系統図の発電機の図形を赤色に着色して表示し、また、安定度表示部500において赤色に着色した警報領域A2を表示する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、発電機の相差角θが当該発電機の定態安定余裕度以上となった場合に、基本情報表示部200に表示される「警報情報」や「表示復帰」などのボタンを赤色に着色して表示し、系統図表示部300に表示される電力系統図の発電機の図形を赤色に着色して表示し、また、安定度表示部500に赤色に着色した警報領域A2を表示する構成としてもよい。なお、定態安定余裕度は、定態安定度限界に所定の余裕係数を乗じることで算出できる。余裕係数とは、発電機の相差角θが、電力系統の定態安定度限界に到達しなくても、発電機の定態安定度限界に近付いた場合に、電力系統の管理者/運用者に報知を行い、処置を促すためのマージンであり、余裕係数は0.9など0よりも大きく1未満の数が設定される。たとえば、定態安定度限界が80°であり、余裕係数が0.9である場合、定態安定余裕度を80×0.9=72°として算出することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…電力系統管理装置
11…通信装置
12…演算装置
13…記憶装置
14…データベース
15…表示装置
100…管理画面
200…基本情報表示部
300…系統図表示部
400…相差角推移表示部
500…安定度表示部
16…報知装置
17…入力装置